説明

外壁用建材

【課題】セルフクリーニング性が良好であり、しかも基材上に保護層を設けることなく直接形成しても基材の劣化を招かない光触媒塗膜を備えた外壁用建材を提供すること。
【解決手段】住宅等の外壁用建材基体の表面に、光触媒粒子(A)とバインダー(B)を含有する塗膜を備え、前記塗膜が光触媒の光励起によって水との接触角に換算して10°〜40°の親水性を呈し、また、JIS R 1703−2に基づくセルフクリーニング性試験による活性指数が3〜15の光触媒活性を有することを特徴とする、外壁用建材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁用建材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅等外壁は、空気中に含まれる塵埃や排気ガスなどの燃焼生成物や、シーリング材から溶出する汚れや、建物の排出口から排出される汚染物質などにより汚染される。これらの汚れはうす黒く、建物や屋外構造物の美観を著しく損ねる。その清掃は、高所作業であり、重労働である。
そのため、特許文献1で光触媒を含有する表層部を備え、降雨により自己浄化(セルフクリーニング)される表面を有する外壁用建材が提案されている。光触媒を含有する表層部を備えることにより、光触媒の光励起に応じて表層部の表面は親水性を呈するので、外壁用建材の表面が降雨にさらされたときに付着堆積物および汚染物が雨滴により洗い流されることが可能となる。しかしながら、この方法は、表層部に含まれる光触媒が有機物分解性を持つため、有機塗膜などの有機基材である場合は、基材が劣化し耐候性が良好でなく、外観が悪くなるという場合があった。この問題を解消するため、光触媒塗料を塗装する前に、光触媒によって分解されない成分で構成される保護層を基材に形成し、その上に光触媒塗料を塗装する方法が知られている。
【0003】
保護層を使用する方法においては、保護層及び光触媒塗膜が透明であるため、基材の意匠を損なうことなく光触媒機能を基材に付与できる利点が挙げられるが、この方法は保護層形成作業及びその材料に多くのコストと時間を必要とする。また、保護層の硬化の程度によって、光触媒層の性能(密着性、分解性等)が大きく左右されてしまうことがあり、塗装が難しいという問題点もある。特に、既存の建築物に現場で塗装しようとする場合においては、保護層を塗装した後に、光触媒塗料を塗装するまでに必要とする時間間隔が気温や湿度によって影響を受け易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3414365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、セルフクリーニング性が良好であり、しかも基材上に保護層を設ける
ことなく直接形成しても基材の劣化を招かない光触媒塗膜を備えた外壁用建材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させた。すなわち
、本発明は下記のとおりである。
(1)住宅等の外壁用建材基体の表面に、光触媒粒子(A)とバインダー(B)を含有する塗膜を備え、前記塗膜が光触媒の光励起によって水との接触角に換算して10°〜40°の親水性を呈し、また、JIS R 1703−2に基づくセルフクリーニング性試験による活性指数が3〜15の光触媒活性を有することを特徴とする、外壁用建材。
(2)前記バインダー(B)が、重合体粒子(B1)と光触媒活性を示さない金属酸化物粒子(B2)とからなる、(1)に記載の外壁用建材、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、セルフクリーニング性が良好であり、しかも基材上に保護層を設けることなく直接形成しても基材の劣化を招かない光触媒塗膜を備えた外壁用建材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に「本実施形態」という。)につ
いて、主として光触媒塗膜の点から詳細に記述する。
本実施形態の光触媒塗膜は光触媒粒子(A)とバインダー(B)から構成される。
光触媒粒子(A)は、その結晶の伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップよりも大きなエネルギー(すなわち短い波長)の光(励起光)を照射したときに、価電子帯中の電子の励起(光励起)が生じて、伝導電子と正孔とを生成し得る物質である。そのなかでも、光照射により他の物質の酸化、還元反応を進行させる能力と、正孔と電子とを生成させるのに必要な光のエネルギーとのバランスから、バンドギャップエネルギーが1.2〜5.0eVの半導体化合物が好ましく、1.5〜4.1eVの半導体化合物がより好ましい。
【0009】
光触媒粒子(A)としては、例えば、TiO、ZnO、SrTiO、CdS、GaP、InP、GaAs、BaTiO、BaTiO、BaTi、KNbO、Nb、Fe、Ta、KTaSi、WO、SnO、Bi、BiVO、NiO、CuO、SiC、MoS、InPb、RuO、及びCeOが挙げられる。また、光触媒粒子(A)として、例えば、Ti、Nb、Ta、及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素を有する層状酸化物が挙げられる。かかる層状酸化物は、特開昭62−74452号公報、特開平2−172535号公報、特開平7−24329号公報、特開平8−89799号公報、特開平8−89800号公報、特開平8−89804号公報、特開平8−198061号公報、特開平9−248465号公報、特開平10−99694号公報、特開平10−244165号公報に記載されている。また、これらの光触媒にPt、Rh、Ru、Nb、Cu、Sn、Ni、Fe、Si、Alに代表される金属及び/又はその金属の酸化物を添加又は固定化したものや、多孔質リン酸カルシウム等で被覆された光触媒(例えば、特開平11−267519号公報に記載のもの)も、本実施形態に係る光触媒粒子(A)として用いてもよい。
【0010】
また、本実施形態に係る光触媒粒子(A)として、例えば約400〜800nmの波長を有する可視光の照射により、光触媒活性及び/又は親水性を発現することができる可視光応答型光触媒粒子を用いてもよい。上記可視光応答型光触媒粒子は、可視光で光触媒活性及び/又は親水性を発現するものであればよい。そのような可視光応答型光触媒粒子としては、例えば、TaON、LaTiON、CaNbON、LaTaON、CaTaONに代表されるオキシニトリド化合物(例えば、特開2002−66333号公報を参照)、SmTiに代表されるオキシスルフィド化合物(例えば、特開2002−233770号公報を参照)、CaIn、SrIn、ZnGa、NaSbに代表されるd10電子状態の金属イオンを含む酸化物(例えば、特開2002−59008号公報を参照)が挙げられる。
【0011】
また、アンモニアや尿素に代表される窒素含有化合物存在下で、例えばオキシ硫酸チタン、塩化チタン、アルコキシチタンに代表されるチタン酸化物前駆体や高表面積酸化チタンを焼成して得られる窒素ドープ酸化チタン(例えば、特開2002−29750号公報、特開2002−7818号公報、特開2002−154823号公報、特開2001−207082号公報を参照)も、可視光応答型光触媒粒子として用いられる。さらには、チオ尿素等の硫黄化合物存在下で、オキシ硫酸チタン、塩化チタン、アルコキシチタンに代表されるチタン酸化物前駆体を焼成して得られる硫黄ドープ酸化チタンも、可視光応答型光触媒粒子として用いられる。また、酸化チタンを水素プラズマ処理したり真空下で加熱処理したりすることによって得られる酸素欠陥型の酸化チタン(例えば、特開2001−98219号公報を参照)、さらには光触媒粒子をハロゲン化白金化合物で処理したもの(例えば、特開2002−239353号公報を参照)、光触媒粒子をタングステンアルコキシドで処理したもの(特開2001−286755号公報参照)に代表される表面処理光触媒粒子も、可視光応答型光触媒粒子として好適に用いられる。
【0012】
光触媒活性を向上させるなどの観点から、光触媒粒子の表面にPt(白金)、Au(金
)、Ag(銀)、Cu(銅)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウ
ム)に代表される金属、その金属の酸化物を密着したものを、本実施形態に係る光触媒粒
子として用いてもよい。
或いは分散性向上や耐候性向上の観点から、光触媒粒子表面にシリカ、アルミナなどに
代表される金属酸化物を被着させたものを光触媒粒子(A)として用いてもよい。
本発明における光触媒粒子(A)としては安全性及びコストの観点から酸化チタンが好ましい。酸化チタンにはアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の結晶構造があるが、いずれも使用できる。
本実施形態に係る光触媒粒子は、光触媒としての性能を向上させる観点及び良好な分散
性を示す観点から、その一次粒子径が1〜400nmの範囲にあることが好ましく、1〜
100nmの範囲にあることがより好ましく、5〜50nmの範囲であることが更に好ま
しい。
【0013】
本実施形態の光触媒塗膜は、バインダー(B)を用いて造膜される。ここで、「バインダー」とは、実質的に溶媒を分散媒とするバインダー樹脂溶液又はバインダー樹脂の分散体に含まれる固形成分のことをいう。バインダーに含まれるバインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールに代表されるポリビニルアルコール誘導体;ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド類、デンプン及びデンプン誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースに代表されるセルロース誘導体;カゼイン;ゼラチン;溶媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などによって得られる従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、シリコーン系、フッ素系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系等の共重合体;シリコーン変性アクリル系、フッ素−アクリル系、アクリルシリコン系、エポキシ−アクリル系等の変性共重合体;が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレート及びそれに対応するアクリレートを意味する。
【0014】
バインダー(B)は、光触媒塗膜の全質量に対して、30質量%〜99.9質量%含まれることが好ましく、50質量%〜99質量%含まれることがより好ましい。当該範囲でバインダーを含むことで、光触媒塗膜は、造膜性に一層優れると共に、その造膜性と光触媒の活性とを更にバランス良く両立させることができる。
本実施形態の光触媒塗膜におけるバインダー(B)は、重合体粒子(B1)と光触媒活性を示さない金属酸化物粒子(B2)とから形成されることが好ましい。
【0015】
本実施形態に係る重合体粒子(B1)を構成するポリマーとしては、媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などによって得られる従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、シリコーン系、フッ素系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系に代表される単重合体又は共重合体、シリコーン変性アクリル系、フッ素−アクリル系、アクリルシリコン系、エポキシ−アクリル系に代表される変性共重合体が挙げられる。これらを1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
本実施形態に係る重合体粒子は、乳化重合等の方法で得られた重合体エマルジョン粒子を用いることが出来る。その好ましい例としては、乳化重合等の方法で得られたアクリルエマルジョン粒子、アクリルシリコンエマルジョン粒子が上げられる。なかでも、水及び乳化剤の存在下に加水分解性珪素化合物及び、ビニル単量体を重合して得られる粒子径が10〜800nmである重合体エマルジョン粒子を用いると、得られる光触媒塗膜は、耐候性に優れ好ましい。
【0016】
本実施形態の重合体エマルジョン粒子を製造するのに用いる上記加水分解性珪素化合物としては、下記式(1)で表される化合物やその縮合生成物、シランカップリング剤を例示することができる。
SiWxRy (1)
(式中、Wは炭素数1〜20のアルコキシ基、水酸基、炭素数1〜20のアセトキシ基、ハロゲン原子、水素原子、炭素数1〜20のオキシム基、エノキシ基、アミノキシ基、アミド基から選ばれた少なくとも1種の基を表す。Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30個のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、及び置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数1〜20のアルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基から選ばれる少なくとも1種の炭化水素基を表す。xは1以上4以下の整数であり、yは0以上3以下の整数である。また、x+y=4である。)
ここでシランカップリング剤とは、ビニル重合性基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基等の有機物と反応性を有する官能基が分子内に存在する、加水分解性珪素化合物を表す。
【0017】
上記珪素アルコキシド及びシランカップリング剤の具体例としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン類等を挙げることができる。また、これらの珪素アルコキシドやシランカップリング剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0018】
上記珪素アルコキシドやシランカップリング剤が縮合生成物として使用されるとき、該縮合生成物のポリスチレン換算重量平均分子量は、好ましくは200〜5000、さらに好ましくは300〜1000である。
上記珪素アルコキシドの中では、フェニル基を有する珪素アルコキシド、例えばフェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等が、水及び乳化剤の存在下における重合安定性に優れるため非常に好ましい。
【0019】
本実施形態に用いることができる加水分解性珪素化合物の中で、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテル等のビニル重合性基を有するシランカップリング剤や、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤は、ビニル単量体との共重合又は連鎖移動反応により化学結合を生成することが可能である。このため、ビニル重合性基やチオール基を有するシランカップリング剤を、単独で又は上述した珪素アルコキシド、シランカップリング剤、及びそれらの縮合生成物と混合若しくは複合化させて用いた場合、本発明の重合体エマルジョン粒子を構成する加水分解性珪素化合物の重合生成物とビニル単量体の重合生成物は、化学結合により複合化できる。この様な重合体エマルジョン粒子を含有する光触媒塗膜は、耐候性、強度等に優れているため、非常に好ましい。
【0020】
ビニル単量体としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル類の他、カルボキシル基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル系単量体、グリシジル基含有ビニル単量体、カルボニル基含有ビニル単量体、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体、アニオン型ビニル単量体等を挙げることができる。
上記(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アルキル部の炭素数が1〜50の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。
なお、本明細書中で、(メタ)アクリルとはメタアクリル又はアクリルを簡便に表記したものである。
【0021】
上記カルボキシル基含有ビニル単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、無水マレイン酸、又はイタコン酸、マレイン酸、フマール酸などの2塩基酸のハーフエステル等である。カルボン酸基含有のビニル単量体を用いることによって、重合体エマルジョン粒子にカルボキシル基を導入することができ、エマルジョンとしての安定性を向上させ、外部からの分散破壊作用に抵抗力を持たせることが可能となる。この際、導入したカルボキシル基は、一部又は全部を、アンモニアやトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類やNaOH、KOH等の塩基で中和することもできる。
カルボキシル基含有ビニル単量体の使用量は、1種又は2種以上の混合物として、全ビニル単量体中において0〜50質量%である事が耐水性の面から好ましい。
【0022】
また、上記水酸基含有ビニル単量体としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピリ(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピリ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルや、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、モノ−2−ヒドロキシエチルモノブチルフマレート、アリルアルコールやエチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、さらには、「プラクセルFM、FAモノマー」(ダイセル化学(株)製の、カプロラクトン付加モノマーの商品名)や、その他のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類などを挙げることができる。上記(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。また、(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール等が挙げられる。
【0023】
上述した水酸基含有ビニル単量体の使用量は、1種又は2種以上の混合物として、全ビニル単量体中において好ましくは0〜80質量%、より好ましくは0.1〜50質量%である。
また、上記グリシジル基含有ビニル単量体としては、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルジメチルグリシジルエーテル等を挙げることができる。グリシジル基含有ビニル単量体の全ビニル単量体中において好ましくは0〜50質量%である。
【0024】
上記2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の例としては、N-アルキル又はN-アルキレン置換(メタ)アクリルアミドを例示することができ、具体的には、例えばN-メチルアクリルアミド、N-メチルメタアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-エチルメタアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルメタアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタアクリルアミド、N-n-プロピルメタアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N-アクリロイルピロリジン、N-メタクリロイルピロリジン、N-アクリロイルピペリジン、N-メタクリロイルピペリジン、N-アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N-アクリロイルモルホリン、N-メタクリロイルモルホリン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド、N-ビニルアセトアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタアクリルアミド等を挙げることができる。
【0025】
上記以外のビニル単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリルアミド、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類、ブタジエン等のジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデンフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン等のハロオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル等のカルボン酸イソプロペニルエステル類、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物、酢酸アリル、安息香酸アリル等のアリルエステル類、アリルエチルエーテル、アリルフェニルエーテル等のアリルエーテル類、さらに4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6,−ペンタメチルピペリジン、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピロメチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル等やそれらの併用が挙げられる。
【0026】
水酸基含有ビニル単量体、グリシジル基含有ビニル単量体や、カルボニル基含有ビニル単量体を使用すると、重合体エマルジョン粒子が反応性を有し、ヒドラジン誘導体やカルボン酸誘導体、イソシアネート誘導体等により架橋させて耐溶剤性等の優れた塗膜形成が可能となる。
本実施形態においては、ビニル単量体の重合生成物の分子量を制御する目的で、連鎖移動剤を使用してもよい。
かかる連鎖移動剤の一例としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンのようなアルキルメルカプタン類;ベンジルメルカプタン、ドデシルベンジルメルカプタンのような芳香族メルカプタン類;チオリンゴ酸のようなチオカルボン酸又はそれらの塩若しくはそれらのアルキルエステル類、又はポリチオール類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジ(メチレントリメチロールプロパン)キサントゲンジスルフィド及びチオグリコール、さらにはα−メチルスチレンのダイマー等のアリル化合物等を挙げることができる。
これら連鎖移動剤の使用量は、全ビニル単量体に対して好ましくは0.001〜30質量%、さらに好ましくは0.05〜10質量%の範囲で用いることができる。
加水分解性珪素化合物に対するビニル単量体の質量比は、5/95〜95/5、好ましくは10/90〜90/10である。
【0027】
本実施形態において、加水分解性珪素化合物としてビニル重合性基を有するシランカップリング剤を用いることが耐候性の面から特に好ましく、その配合量は重合体エマルジョン粒子100質量部に対して0.01以上20質量部以下であることが重合安定性の面から好ましい。さらに好ましくは、0.1以上10質量部以下である。
また、ビニル重合性基を有するシランカップリング剤の配合量は、ビニル単量体100質量部に対して0.1以上100質量部以下であることが重合安定性の面から好ましい。
【0028】
本実施形態においては、上述した加水分解性珪素化合物に環状シロキサンオリゴマーを併用して用いる事が可能である。環状シロキサンオリゴマーの併用により、柔軟性等に優れた光触媒塗膜を形成することができる。
上記環状シロキサンオリゴマーとしては、下記式(2)で表される化合物を例示することができる。
(R’SiO)m (2)
(式中、R’は、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30個のアルキル基、炭
素数5〜20のシクロアルキル基、及び置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数1〜20のアルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基から選ばれる少なくとも1種を表す。mは整数であり、2≦m≦20である。)
【0029】
上記環状シロキサンオリゴマーの中で、反応性等の点からオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状ジメチルシロキサンオリゴマーが好ましい。
また、本実施形態において、上述した加水分解性珪素化合物にチタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、及びそれらの縮合生成物、または、それらのキレート化物を併用して用いる事もできる。これらの化合物の併用により、耐水性、硬度等に優れた光触媒塗膜を形成することができる。
上記チタンアルコキシドの具体例としては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタン等が挙げられる。
上記チタンアルコキシドが縮合生成物として使用されるとき、該縮合生成物のポリスチレン換算重量平均分子量は、好ましくは200〜5000、さらに好ましくは300〜1000である。
【0030】
また、上記ジルコニウムアルコキシドの具体例としては、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−i−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−sec−ブトキシジルコニウム、テトラ−tert−ブトキシジルコニウム等が挙げられる。
上記ジルコニウムアルコキシドが縮合生成物として使用されるとき、該縮合生成物のポリスチレン換算重量平均分子量は、好ましくは200〜5000、さらに好ましくは300〜1000である。
また、遊離の金属化合物に配位させてキレート化物を形成するのに好ましいキレート化剤としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;アセチルアセトン;アセト酢酸エチルなどであって分子量1万以下のものを例示することができる。これらのキレート化剤を用いることにより、加水分解性金属化合物の重合速度を制御することができ、水及び乳化剤の存在下における重合安定性を優れたものにするため非常に好ましい。この際、キレート化剤は、これを配位させる遊離の金属化合物の金属原子1モル当たり、0.1モル〜2モルの割合で用いると効果が大きく好ましい。
【0031】
本実施形態において、重合体エマルジョン粒子の合成に用いることができる乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤、酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤や、例えばアルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレート等の四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型のカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル等のノニオン型界面活性剤やラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤等を例示することができる。
【0032】
これらの乳化剤の中で、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤を選択すると、重合体エマルジョン粒子の水分散安定性が非常に良好になると共に、該重合体エマルジョン粒子を含有する光触媒塗膜は、耐候性、耐水性等に優れるため、非常に好ましい。
上記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、例えばスルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体やそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、ポリオキシエチレン等のノニオン基を有するビニル単量体、4級アンモニウム塩を有するビニル単量体等を挙げることができる。
【0033】
上記反応性乳化剤の具体例として、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体の塩を例にとると、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、炭素数6又は10のアリール基及びコハク酸基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物であるか、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物である。硫酸エステル基を有するビニル単量体は、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつ硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基及び炭素数6又は10のアリール基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物である。
【0034】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換されたコハク酸基を有する化合物の具体例としては、アリルスルホコハク酸塩が挙げられる。これらの具体例として、例えば、エレミノールJS−2(商品名)(三洋化成(株)製)、ラテムルS−120、S−180A又はS−180(商品名)(花王(株)製)等を挙げることができる。
また、上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物の具体例として、例えばアクアロンHS−10又はKH−1025(商品名)(第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープSE−1025N又はSR−1025(商品名)(旭電化工業(株)製)等を挙げることができる。
その他、スルホネート基により一部が置換されたアリール基を有する化合物の具体例として、p−スチレンスルホン酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等が挙げられる。
【0035】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物として例えば、2−スルホエチルアクリレート等のアルキルスルホン酸(メタ)アクリレートやメチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、アリルスルホン酸等のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
また、上記の硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩により一部が置換された炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキエーテル基を有する化合物としては、例えばスルホネート基により一部が置換されたアルキルエーテル基を有する化合物等がある。
また、ノニオン基を有するビニル単量体の具体例としては、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等、旭電化工業(株)製)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(商品名:アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等、第一製薬工業(株)製)等を挙げることができる。
【0036】
上記乳化剤の使用量としては、重合体エマルジョン粒子100質量部に対して、10質量部以下となる範囲内が適切であり、なかでも、0.001〜5質量部となる範囲内が好ましい。
また、上記乳化剤以外に、重合体エマルジョン粒子の水分散安定性を向上させる目的で分散安定剤を使用することもできる。該分散安定剤としては、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群から選ばれる各種の水溶性オリゴマー類や、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性又は水分散性アクリル樹脂などの合成又は天然の水溶性又は水分散性の各種の水溶性高分子物質が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。
これらの分散安定剤を使用する場合、その使用量としては、重合体エマルジョン粒子100質量部に対して、10質量部以下となる範囲内が適切であり、なかでも、0.001〜5質量部となる範囲内が好ましい。
【0037】
本実施形態において、加水分解性珪素化合物及びビニル単量体の重合は、重合触媒存在下で実施するのが好ましい。
ここで、加水分解性珪素化合物の重合触媒としては、塩酸、フッ酸等のハロゲン化水素類、酢酸、トリクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸等のカルボン酸類、硫酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤類、酸性又は弱酸性の無機塩、フタル酸、リン酸、硝酸のような酸性化合物類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、酢酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン類、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシランのような塩基性化合物類;ジブチル錫オクチレート、ジブチル錫ジラウレートのような錫化合物等を挙げることができる。
これらの中で、加水分解性珪素化合物の重合触媒としては、重合触媒のみならず乳化剤としての作用を有する酸性乳化剤類、特に炭素数が5〜30のアルキルベンゼンスルホン酸(ドデシルベンゼンスルホン酸等)が非常に好ましい。
【0038】
一方、ビニル単量体の重合触媒としては、熱又は還元性物質などによってラジカル分解してビニル単量体の付加重合を起こさせるラジカル重合触媒が好適であり、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等が使用される。その例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等があり、その量としては全ビニル単量体100質量部に対して、0.001〜5質量部の配合が好ましい。なお、重合速度の促進、及び70℃以下での低温の重合を望むときには、例えば重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
加水分解性珪素化合物及びビニル単量体の重合は、別々に実施することも可能であるが、同時に実施することにより有機・無機複合化が達成できるので好ましい。
【0039】
本実施形態において、重合体エマルジョン粒子の粒子径が10〜800nmであることが好ましい。この様な粒子径の範囲に調整し、粒子径が100nm以下のコロイダルシリカと組み合わせた光触媒塗膜は、耐候性、防汚性等に特に優れていて好ましい。また、重合体エマルジョン粒子の粒子径は30〜300nmであると、得られる塗膜の透明性が向上しより好ましい。
このような粒子径の重合体エマルジョン粒子を得る方法として、乳化剤がミセルを形成するのに十分な量の水の存在下に加水分解性金属化合物及びビニル単量体を重合する、いわゆる乳化重合が最も適した方法である。
【0040】
乳化重合のやり方としては、例えば、加水分解性珪素化合物及びビニル単量体は、そのまま、又は乳化した状態で、一括若しくは分割で、又は連続的に反応容器中に滴下し、前記重合触媒の存在下、好ましくは大気圧から必要により10MPaの圧力下で、約30〜150℃の反応温度で重合させればよい。場合によっては、これ以上の圧力で、又はこれ以下の温度条件で重合を行っても差し支えない。加水分解性珪素化合物及び全ビニル単量体量の総量と水との比率は最終固形分量が0.1〜70質量%、好ましくは1〜55質量%の範囲になるように設定するのが好ましい。また、乳化重合をするにあたり粒子径を成長又は制御させるために、予め水相中にエマルジョン粒子を存在させて重合させるシード重合法によってもよい。重合反応は、系中のpHが好ましくは1.0〜10.0、より好ましくは1.0〜6.0の範囲で進行させればよい。pHは、燐酸二ナトリウムやボラックス、又は、炭酸水素ナトリウム、アンモニアなどのpH緩衝剤を用いて調節することが可能である。
【0041】
本実施形態において、重合体エマルジョン粒子が2層以上の層から形成されるコア/シェル構造であると、該重合体エマルジョン粒子を含有する光触媒塗膜は機械的物性(強度と柔軟性のバランス等)に優れて好ましい。
上記コア/シェル構造の重合体エマルジョン粒子を製造する方法として、多段乳化重合が非常に有用である。
ここで、多段乳化重合とは、2種類以上の異なった組成の加水分解性珪素化合物やビニル単量体を調整し、これらを別々の段階に分けて重合することを意味する。
以下に、多段乳化重合の中で最も単純で有用な2段乳化重合による重合体エマルジョン粒子の合成を例に、本発明の多段乳化重合による重合体エマルジョン粒子の合成について説明する。
【0042】
本実施形態において、2段乳化重合による重合体エマルジョン粒子の合成として、例えば水及び乳化剤の存在下にビニル単量体及び/又は加水分解性珪素化合物を重合して得られるシード粒子の存在下に、加水分解性珪素化合物ビニル単量体を重合する方法を例示できる。
上記2段乳化重合による重合体エマルジョン粒子の合成は、第1系列(ビニル単量体及び/又は加水分解性金属化合物)を供給して乳化重合する第1段の重合と、第1段に引き続き、第2系列(ビニル単量体及び/又は加水分解性金属化合物)を供給し、水性媒体中において乳化重合する第2段の重合からなる2段階の重合行程により行われる。この際、第1系列中の固形分質量(M1)と第2系列中の固形分質量(M2)の質量比は、好ましくは(M1)/(M2)=9/1〜1/9、より好ましくは8/2〜2/8である。
【0043】
本実施形態において、好ましいコア/シェル構造の重合体の特徴は、第1段の重合で得られたシード粒子の粒子径が、粒径分布(体積平均粒子径/数平均粒子径)の大きな変化なしに(好ましくは単分散の状態で)、第2段の重合によって大きくなる(粒子径の増大)ことを挙げることができる。
また、コア/シェル構造の確認は、例えば、透過型電子顕微鏡等による形態観察や粘弾性測定による解析等により実施することが可能である。
本実施形態において、3段以上の多段乳化重合を実施する場合は、上述した2段重合による重合体エマルジョン粒子の合成例を参考に、重合する系列の数を増加させれば良い。
重合体エマルジョン粒子の配合量は、光触媒塗膜全体に対する質量%として0超〜70%である事が好ましい。より好ましくは、1〜60%であり、よりさらに好ましくは5〜50%である。
【0044】
本実施形態に係る光触媒能を有しない金属酸化物粒子(B2)としては、例えば、二酸
化ケイ素(シリカ)粒子、酸化アルミニウム(アルミナ)粒子、珪酸カルシウム粒子、酸化
マグネシウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化ジルコニウム粒子及びそれらの複合酸化物
粒子が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。それ
らの中でも、表面水酸基が多く、金属酸化物粒子の表面積が大きくなり、金属酸化物粒子
同士の結合、又は金属酸化物と重合体粒子との結合を強固にするという観点から、二酸化ケイ素粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化アンチモン粒子及びそれらの複合酸化物粒子が好ましく、二酸化ケイ素を基本単位とするシリカの溶媒中の分散体であるコロイダルシリカ粒子がより好ましい。
【0045】
コロイダルシリカは、ゾル−ゲル法で調製して使用することもでき、市販品を利用する
こともできる。ゾル−ゲル法で調製する場合には、Werner Stober eta
l;J.Colloid and Interface Sci.,26,62−69(
1968)、Rickey D.Badley et al;Lang muir 6,
792−801(1990)、色材協会誌,61[9]488−493(1988)など
を参照することができる。水を分散媒体とする酸性のコロイダルシリカとしては、例えば、市販品として日産化学工業(株)製スノーテックス(商標)−O、スノーテックス−OS、旭電化工業(株)製アデライト(商標)AT−20Q、クラリアントジャパン(株)製クレボゾール(商標)20H12、クレボゾール30CAL25などが利用できる。
【0046】
塩基性のコロイダルシリカとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アミ
ンの添加で安定化したシリカがあり、例えば、日産化学工業(株)製スノーテックス−2
0、スノーテックス−30、スノーテックス−C、スノーテックス−C30、スノーテッ
クス−CM40、スノーテックス−N、スノーテックス−N30、スノーテックス−K、
スノーテックス−XL、スノーテックス−YL、スノーテックス−ZL、スノーテックス
PS−M、スノーテックスPS−Lなど;旭電化工業(株)製アデライトAT−20、ア
デライトAT−30、アデライトAT−20N、アデライトAT−30N、アデライトA
T−20A、アデライトAT−30A、アデライトAT−40、アデライトAT−50な
ど;クラリアントジャパン(株)製クレボゾール30R9、クレボゾール30R50、ク
レボゾール50R50など、デュポン社製ルドックス(商標)HS−40、ルドックスH
S−30、ルドックスLS、ルドックスSM−30などを挙げることができる。
【0047】
また、水溶性溶媒を分散媒体とするコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学工業
(株)製MA−ST−M(粒子径が20〜25nmのメタノール分散タイプ)、IPA−ST(粒子径が10〜15nmのイソプロピルアルコール分散タイプ)、EG−ST(粒
子径が10〜15nmのエチレングリコール分散タイプ)、EG−ST−ZL(粒子径が
70〜100nmのエチレングリコール分散タイプ)、NPC−ST(粒子径が10〜1
5nmのエチレングリコールモノプロピルエーテール分散タイプ)などを挙げることがで
きる。
【0048】
また、これらコロイダルシリカは一種又は二種類以上組み合わせてもよい。少量成分と
して、アルミナ、アルミン酸ナトリウムなどを含んでいてもよい。また、コロイダルシリ
カは、安定剤として無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ア
ンモニアなど)や有機塩基(テトラメチルアンモニウムなど)を含んでいてもよい。光触媒能を有しない金属酸化物粒子(B2)の粒子径は、100nm以下である事が好ましい。さらに好ましくは、50nm以下であり、よりさらに好ましくは20nmである。
10nm以下の光触媒能を有しない金属酸化物粒子(B2)を用いると、得られる光触媒塗膜の透明性が非常に高く、最も好ましい。
【0049】
本実施形態の光触媒塗膜では光触媒の光励起によって水との接触角が10°から40°の値を示す。好ましくは15°から35°の水接触角であり、さらに好ましくは15°から30°の水接触角である。一般的に、高い防汚性や防曇性を目指した光触媒塗膜では水との接触角が低いほど好ましいと考えられており、10°以下の超親水性を求める例も多い(例えば第2943768号、第3087682号、第3414365)。
ここで、光触媒塗膜が防曇目的である場合には接触角が低いほど効果が高いために10
°以下が好ましい。一方、光触媒塗膜が防汚目的である場合には水との接触角が40°以
下であれば実用性能上は遜色なく、高い防汚性が発現するため必ずしも10°以下の超親
水性膜にする必要はない。一方、水接触角が10°以上であれば、耐水性に優れる膜とな
るため、耐水性低下が原因となる白化や剥離が発生しにくいという長所がある。
また、水との接触角が10°以上の塗膜では高い耐水性となり、長期の耐候性が認めら
れる。
【0050】
本実施形態の光触媒塗膜では、JIS R 1703−2に基づくセルフクリーニング性試験による活性指数が3以上15以下となる光触媒の分解活性、即ち光触媒活性を示し、5以上15以下の活性指数を示すことが好ましい。一般に防汚性の指標として色差を用いる場合、ΔEが3以下であれば目視で汚れが判断できずに防汚性に優れると言える。実用環境下でΔEを3以下に抑えるのに必要な光触媒の活性は活性指数で3以上である(例えば、社団法人日本ファインセラミックス協会著 基準認証研究開発事業光触媒試験方法の標準化(平成18年3月) ファインセラミックス―光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法―第2部:湿式分解性能 解説 5.4.5 セルフクリーニング性能と分解活性指数との相関 図4(b)から判断できる。)。
活性指数が15以下の光触媒塗膜であれば、光触媒塗膜のヘイズ値が2未満となり、透明性に優れる。好ましいヘイズ値は、1以下である。また、その活性によってバインダー成分や被塗布基材を劣化させる悪影響を抑えることができる。そのため、バインダーの種類や基材の制限なく塗布できるという効果がある。
【0051】
本実施形態の光触媒塗膜の膜厚は特に限定されないが、0.05〜100μmであるこ
とが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましく、1.0〜2.5μmである
ことが更に好ましい。この厚みが100μm以下であることにより、良好な透明性を確保
することができ、0.05μm以上であることにより、防汚性、光触媒活性等の機能をよ
り有効に発現することができる。
更に本実施形態の光触媒塗膜には、各粒子の分散安定性の観点から、分散安定剤が含まれていてもよい。分散安定剤としては、例えば、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群から選ばれる各種の水溶性オリゴマー類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、アクリル樹脂に代表される合成若しくは天然の高分子物質が挙げられる。
【0052】
また、本実施形態の光触媒塗膜には、その用途及び使用方法などに応じて、通常の塗料や成型用樹脂に添加配合される成分、例えば、溶剤、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調製剤等を、含まれていてもよい。
本発明形態の外壁用建材基体には、施釉タイル、無釉タイル、レンガ、結晶化ガラス、ガラスブロック、コンクリート、石材、木材;軽量気泡コンクリート板、石綿セメントケイ酸カルシウム板、プレキャスト鉄筋コンクリート板、石綿スレート板、パルプセメント板、石膏ボード板などの無機基材の表層に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル、シリコーン、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂などの樹脂塗料を塗装した化粧無機建材;アルミニウム、ステンレス、鉄鋼等の金属基材の表層に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル、シリコーン、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂などの樹脂塗料を塗装した塗装鋼板;アクリル板、ポリカーボネート板等のプラスチック板又はその塗装物等が好適に利用できる。
【0053】
本実施形態の光触媒塗膜は、コーティング剤をその用途等に応じて、任意の方法で塗布され得られる。塗布方法としては、例えばスプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法が挙げられる。
本実施形態の光触媒塗膜は、コーティング剤を塗布した後、乾燥して揮発分を除去することにより得られる。この際、例えば、20℃〜80℃の低温で乾燥した後、所望により、好ましくは20℃〜500℃、より好ましくは40℃〜250℃の熱処理を行ってもよく、紫外線照射等を行ってもよい。
【0054】
以下の実施例、参考例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明
の範囲を限定するものではない。
実施例、製造例及び比較例中において、各種の物性は以下に示す方法で測定した。
1.固形分濃度
調製した試料約2gをアルミ皿にとり、150℃で1時間加熱した。加熱前後の試料の
質量を測定し、その差から固形分濃度を計算した。
2.数平均粒子径
試料中の固形分含有量が1〜20質量%となるよう適宜溶媒を加えて希釈し、湿式粒度
分析計(日本国日機装製マイクロトラックUPA−9230)を用いて測定した。
3.膜厚
アクリル板(商品名「デラグラスK」、旭化成ケミカルズ(株)製、厚み2mm)に、
コーティング剤をスプレー塗装し、塗膜を形成した試験板を用いて評価を行った。大塚電子製反射分光膜厚計FE−3000を用いて、塗膜の膜厚を求めた。
【0055】
4.透明性
アクリル板(商品名「デラグラスK」、旭化成ケミカルズ(株)製、厚み2mm)に、
コーティング剤をスプレー塗装し、塗膜を形成した試験板を用いて評価を行った
。日本国日本電色工業製濁度計NDH2000を用いて、JIS−K7105に準じて複
合体のヘイズ値を測定した。
5.水接触角
トップコートとしてアクリル塗料を使用した黒色の窯業系建材ボード基材に、コーティング剤をスプレー塗装し、塗膜を形成した試験板を用いて評価を行った。塗膜の表面に脱イオン水の滴を乗せ、20℃で10秒間放置した後、日本国協和界面科学製CA−X150型接触角計を用いてその接触角を測定した。
【0056】
6.耐候性
トップコートとしてアクリル塗料を使用した黒色の窯業系建材ボード基材に、コーティング剤をスプレー塗装し、塗膜を形成した試験板を用いて評価を行った。スガ試験器製サンシャインウェザーメーターを使用して複合体の曝露試験(ブラックパネル温度63℃、降雨18分/2時間)を行った。曝露1000時間後の色差変化ΔEをBYK Gardrer製カラーガイドを用いて測定した。基材のみで評価した結果は、曝露1000時間後ΔE=1.2であり、この値よりもΔEが小さい場合、耐候性は良好であることを示す。
7.耐候性試験後の水接触角
トップコートとしてアクリル塗料を使用した黒色の窯業系建材ボード基材に、コーティング剤をスプレー塗装し、膜状の複合体を形成した試験板を用いて評価を行った。スガ試験器製サンシャインウェザーメーターを使用して曝露試験(ブラックパネル温度63℃、降雨18分/2時間)を行った。曝露1000時間後の水接触角を4.と同様にして測定した。
【0057】
8.防汚染性
トップコートとしてアクリル塗料を使用した白色の窯業系建材ボード基材に、コーティング剤をスプレー塗装し、塗幕を形成した試験板を用いて評価を行った。試験板を一般道路(トラック通行量500〜1000台/日程度)に面したフェンスに6ケ月間貼りつけた後、汚染の度合いを目視にて評価した。なお、塗膜を形成せず、基材のみで評価した結果は、×の判定であった。
◎:汚れなし。
○:全体的に少し汚れている。、
△:やや雨スジ汚れ有り。、
×:著しい雨スジ汚れあり。
9.光触媒活性(分解指数)
アクリル板(商品名「デラグラスK」、旭化成ケミカルズ(株)製、厚み2mm)に、
コーティング剤をスプレー塗装し、塗膜を形成した試験板を用いて評価を行った。JIS R 1703−2 ファインセラミックス−光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法−第2部:湿式分解性能に準拠して試験を行い、塗膜の光触媒活性(分解指数)を求めた。
【0058】
[参考例1]
重合体エマルジョン粒子(B1−1)水分散体の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水500g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)8.0g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。この反応器中に、メタクリル酸メチル400g、メタクリル酸シクロヘキシル250g、アクリル酸n−ブチル300g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20g、メタクリル酸30g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)40g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液50g、イオン交換水700gからなる混合液を、反応器中の温度を80℃に保った状態で約4時間かけて滴下した。その後、反応器中の温度を80℃に維持して2時間撹拌を続けた。室温まで冷却後、反応器中の液の水素イオン濃度を測定したところ、pH2.1であった。25%アンモニア水溶液を反応器中に添加して液のpHを8に調整した後、100メッシュの金網で濾過した。イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、重合体粒子として数平均粒子径130nmの重合体エマルジョン粒子(B1−1)の水分散体を得た。
【0059】
[参考例2]
重合体エマルジョン粒子(B1−2)の水分散体の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水609g、反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH−1025」、第一工業製薬(株)製、固形分25%水溶液)10g、メタクリル酸シクロヘキシル26g、メタクリル酸n−ブチル8g、メタクリル酸メチル14g、アクリル酸n−ブチル2.5g、メタクリル酸0.8g、アクリル酸0.8g、アクリルアミド0.4gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。この反応器中に、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液5g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1g、メチルトリメトキシシラン68g、ジメチルジメトキシシラン27gを投入した。その後、重合開始による発熱が確認されてから、反応器中の温度を85℃に加温して30分間保持した。次に、反応器中の温度を80℃まで降温して、その温度に保持した状態で、イオン交換水45g、反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH−1025」、第一工業製薬(株)製、固形分25%水溶液)10g、メタクリル酸シクロヘキシル26g、メタクリル酸n−ブチル8g、メタクリル酸メチル14g、アクリル酸n−ブチル2.5g、メタクリル酸0.8g、アクリル酸0.8g、アクリルアミド0.4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液5gからなる混合液と、メチルトリメトキシシラン46g、ジメチルジメトキシシラン18gからなる混合液とを、その反応器中へ別々の滴下槽から30分かけて注入し、さらに80℃で2時間保持した。次に、反応器中の温度を80℃に保持した状態で、イオン交換水130g、反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH−1025」、第一工業製薬(株)製、固形分25%水溶液)50g、メタクリル酸シクロヘキシル123g、メタクリル酸n−ブチル37g、メタクリル酸メチル4g、アクリル酸n−ブチル79g、メタクリル酸4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液12gからなる混合液と、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2g、メチルトリメトキシシラン170g、ジメチルジメトキシシラン68gからなる混合液とを反応器中へ別々の滴下槽より2時間かけて注入し、さらに80℃で1.5時間保持した。次いで、室温まで冷却後、反応器中の液の水素イオン濃度を測定したところ、pH2.8であった。次に、25%アンモニア水溶液を反応器中に添加して液のpHを8に調整した後、100メッシュの金網で濾過した。イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、重合体粒子として数平均粒子径140nmの重合体エマルジョン粒子(B1−2)の水分散体を得た。
【0060】
[参考例3]
重合体エマルジョン粒子(B1−3)水分散体の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水400g、10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液2.6gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。この反応器中に、ジメチルジメトキシシラン54.5g、フェニルトリメトキシシラン34.4g、メチルトリメトキシシラン1.0gからなる混合液と、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.0gとを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。その後、反応器中の温度を80℃に維持して約1時間撹拌を続けた。次に、アクリル酸n−ブチル12.3g、フェニルトリメトキシシラン13.5g、テトラエトキシシラン31.4g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.2gからなる混合液と、ジエチルアクリルアミド24.6g、アクリル酸1g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)1.2g、反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH−1025」、第一工業製薬(株)製、固形分25%水溶液)0.7g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液8.5g、イオン交換水255gからなる混合液とを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。さらに、反応器中の温度を80℃に維持して約2時間撹拌を続けた後、室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過した。イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、重合体粒子として数平均粒子径170nmの重合体エマルジョン粒子(B1−3)の水分散体を得た。
【0061】
[参考例4]
重合体エマルジョン粒子(B1−4)水分散体の合成
反応器に投入する10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を2.6gから4.5gに、ジエチルアクリルアミド24.6gをメタクリル酸メチル24.6gに変更する以外は製造例3と同様に合成を行い、重合体粒子として、固形分10.0質量%に調整した数平均粒子径105nmの重合体エマルジョン粒子(B1−4)の水分散体を得た。
【0062】
[参考例5]
重合体エマルジョン粒子(B1−5)水分散体の合成
反応器に始めに投入するイオン交換水を400gから385gに、10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を4.5gから15.0gに変更する以外は製造例4と同様に合成を行い、重合体粒子として、固形分10.0質量%に調整した数平均粒子径55nmの重合体エマルジョン粒子(B1−5)の水分散体を得た。
【0063】
[実施例1]
表1に示した配合比で、水、エタノール、バインダー(B)として、参考例4で製造した重合体エマルジョン粒子(B1−4)水分散体、光触媒粒子(A)の分散液として、シリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル(A−1)(酸化チタン100質量部に対するシリカ被覆量12質量部、固形分30%、ロッド状一次粒子、粒子長(l)の相加平均値:35nm、粒子直径(d)の相加平均値:6nm)を順じ攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた塗膜について上記3〜9の物性を評価した。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2〜9]
光触媒(A)粒子の分散液として、(A−1)を用いた。バインダー(B)の重合体エマルジョン粒子(B1)水分散体として、参考例1〜5で製造した重合体エマルジョン粒子(B1−1)、(B1−2)、(B1−3)、(B1−4)、(B1−5)水分散体を用いた。また、光触媒活性を示さない金属酸化物粒子(B2)の水分散体として、日産化学(株)製コロイダルシリカ(商品名「スノーテックス−O」、平均粒子径13nm、固形分20%)を用いた。
表1に示した配合比で、水、エタノール、重合体エマルジョン粒子(B1)水分散体、光触媒活性を示さない金属酸化物粒子(B2)の水分散体、光触媒(A)の分散液(A−1)を順じ攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた塗膜について上記3〜9の物性を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例1]
表1に示した配合比で、水、エタノール、バインダー(B)として、重合体エマルジョン粒子(B1−4)水分散体、光触媒(A)粒子の分散液として、石原産業(株)製シリカ被覆アナターゼ型酸化チタン水分散体(A−2)(商品名「MPT−422」、一次粒子の粒子直径(d)の相加平均値:30nm、酸化チタン100質量部に対するシリカ被覆量15質量部、固形分20%)を順じ攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた塗膜について上記3〜9の物性を評価した。結果を表1に示す。水との接触角が条件を満たさないため、耐候性が劣る結果となった。
【0066】
[比較例2]
表1に示した配合比で、水、エタノール、重合体エマルジョン粒子(B1−3)水分散体、光触媒活性を示さない金属酸化物粒子(B2)の水分散体、光触媒粒子(A)の分散液として、(A−2)を順じ攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた塗膜について上記3〜9の物性を評価した。結果を表1に示す。水との接触角が条件を満たさないため、耐候性が劣る結果となった。
【0067】
[比較例3]
表1に示した配合比で、水、エタノール、重合体エマルジョン粒子(B1−4)水分散体として、光触媒活性を示さない金属酸化物粒子(B2)の水分散体、光触媒(A)の分散液として、(A−2)を順じ攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた塗膜について上記3〜9の物性を評価した。結果を表1に示す。水との接触角が条件を満たさないため、耐候性が劣る結果となった。
【0068】
[比較例4]
表1に示した配合比で、水、エタノール、重合体エマルジョン粒子(B1−4)水分散体、光触媒活性を示さない金属酸化物粒子(B2)の水分散体を順じ攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた塗膜について上記3〜9の物性を評価した。結果を表1に示す。光触媒活性が条件を満たさないため、防汚染性が劣る結果となった。
【0069】
[比較例5]
表1に示した配合比で、水、エタノール、重合体エマルジョン粒子(B1−4)水分散体、光触媒活性を示さない金属酸化物粒子(B2)の水分散体を順じ攪拌しながら混合し、コーティング剤を調製した。得られたコーティング剤を上記各種基材に塗装し、70℃で30分間乾燥した。得られた塗膜について上記3〜9の物性を評価した。結果を表1に示す。光触媒活性が条件を満たさないため、透明性に劣る結果となった。
【0070】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の外壁用建材は、セルフクリーニング性に優れ、住宅等の外壁用建材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅等の外壁用建材基体の表面に、光触媒粒子(A)とバインダー(B)を含有する塗膜を備え、前記塗膜が光触媒の光励起によって水との接触角に換算して10°〜40°の親水性を呈し、また、JIS R 1703−2に基づくセルフクリーニング性試験による活性指数が3〜15の光触媒活性を有することを特徴とする、外壁用建材。
【請求項2】
前記バインダー(B)が、重合体粒子(B1)と光触媒活性を示さない金属酸化物粒子(B2)からなる、請求項1に記載の外壁用建材。

【公開番号】特開2011−94404(P2011−94404A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250220(P2009−250220)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】