説明

外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法

【課題】
外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造工程を簡素化することを解決課題とする。
【解決手段】
発泡プラスチックボード1bが積層されるセメント系ボード1cに、複数のアンカー部材を発泡プラスチックボードの厚み以上突出するように取り付けて、セメント系ボードと発泡プラスチックボードとを積層状態で仮固定し、これら仮固定したセメント系ボードと発泡プラスチックボードとを、型枠内にセメント系ボードを下方にして設置した後に配筋を行ない、ついで、型枠内にコンクリートを打設硬化させてプレキャストコンクリートパネル1a中にアンカー部材を埋め込むことにより、プレキャストコンクリートパネルとセメント系ボードとの間に発泡プラスチックボードを挟み込むように一体化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリートパネルの表面に断熱構造を容易に形成し得る外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンクリート建築物の外壁では、冷暖房効率を高めるために断熱処理が施されており、この段熱処理として、外壁の内面に断熱材設置し、この断熱材を覆うように内装材を施工する方法が採られている。
しかしながら、このような内断熱工法にあっては、コンクリート壁が外気によって冷やされて室内との間に大きな温度差を生じる。
このようにコンクリート壁の温度が低下すると、このコンクリート壁と断熱材との間の水蒸気や、断熱材自体の隙間内の水蒸気、あるいは、断熱材の切れ目等から前記コンクリート壁と断熱材との間に透過した水蒸気が冷やされて、前記コンクリート壁の内面側に結露が生じることがある。
【0003】
そして、コンクリート壁の内面側に生じる結露は、カビが発生する原因となり、また、このカビは前記断熱材や内装材に広がり、室内環境を悪化させてしまうことがある。
【0004】
従来では、このような不具合を解消するために、前記コンクリート壁に断熱性を付与して、このコンクリート壁の内面温度の低下を防止することが提案されている。
この技術は、特許文献1に示されるように、コンクリート壁をプレキャストコンクリートパネルとし、このプレキャストコンクリートパネルの内部に発泡スチロール等の断熱材を埋め込み、外気側のプレキャストコンクリートパネルの外面と室内側の内面との熱伝達を前記断熱材によって抑えることにより、プレキャストコンクリートパネル内面の温度低下を抑制して結露を防止するようにしている。
【0005】
【特許文献1】実公昭50−27138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来の技術にあっては、プレキャストコンクリートパネル内に断熱材を埋め込むために、つぎのような工程を採っている。
【0007】
まず、定盤上に組み上げられた型枠内に、所定のかぶり厚となるようにコンクリートを打設する。
ついで、前記コンクリート上に断熱材や鉄筋を配設した後に、これらの側部や上部を覆うように再度コンクリートを打設して、先行打設されたコンクリートと一体化することにより、前記断熱材や鉄筋をコンクリート中に封じ込める。
【0008】
ところで、このような断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルにあっては、つぎのような改善すべき課題が残されている。
【0009】
すなわち、前述した従来の技術においては、先行打設されたコンクリート上に断熱材や鉄筋を配設した後に、再度コンクリートを打設するようにしているが、1枚のプレキャストコンクリートを成形するために、コンクリートの打設作業を2回に分けて行なわなければならず、その作業が繁雑なものとなっている。
【0010】
また、最初のコンクリートを打設してその上に断熱材や鉄筋を設置する間、打設を行なうポンプ車やミキサー車を待機させておかなければならず、これらの機器の稼働率を低下させるとともに経費の高騰を招くといった課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述した従来において残されている課題を解決せんとしてなされたもので、請求項1に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、プレキャストコンクリートパネルの表面に、発泡プラスチックボードとセメント系ボードとを順次積層して形成される外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法であって、前記セメント系ボードに、このセメント系ボードを貫通する複数のアンカー部材を、前記発泡プラスチックボードの厚み以上突出するように取り付けるとともに、前記セメント系ボードに前記発泡プラスチックボードを積層して仮固定した後に、これら仮固定したセメント系ボードと発泡プラスチックボードとを、定盤上に組み上げられた型枠内に前記セメント系ボードを下方にして設置し、ついで、前記発泡プラスチックボード上に配筋を行なった後に、前記型枠内にコンクリートを打設硬化させて前記プレキャストコンクリートパネルを成形してこのプレキャストコンクリートパネル中に前記アンカー部材を埋め込むことにより、前記プレキャストコンクリートパネルと前記セメント系ボードとを連結して、これらのプレキャストコンクリートパネルとセメント系ボードとの間に前記発泡プラスチックボードを挟み込むように一体化することを特徴とするものである。
本発明の請求項2に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、請求項1に記載の前記セメント系ボードが、木片とセメントとを練り混んで形成された木毛セメントボードであることを特徴とするものである。
本発明の請求項3に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、請求項1に記載の前記セメント系ボードが、軽量コンクリートボードであることを特徴とするものである。
本発明の請求項4に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、請求項1に記載の前記発泡プラスチックボードとセメント系ボードとの間に空洞部を形成することを特徴とするものである。
本発明の請求項5に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、請求項4に記載の前記空洞部を、前記発泡プラスチックボードの面方向に間隔をおいて複数形成することを特徴とするものである。
本発明の請求項6に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、請求項4または請求項5の何れかに記載の前記空洞部を、前記発泡プラスチックボードの、前記セメント系ボード側の面に複数の凸条を略平行に設けるとともに、これらの凸条に前記セメント系ボードを当接させるように設置して前記凸条間を覆うことによって形成し、これらの凸条部分および前記発泡プラスチックボードを貫通するように前記アンカー部材を設置することにより、前記発泡プラスチックボードとセメント系ボードとを仮固定することを特徴とするものである。
本発明の請求項7に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、請求項4または請求項5の何れかに記載の前記空洞部を、前記セメント系ボードの、前記発泡プラスチックボード側の面に複数の凸条を略平行に設けるとともに、これらの凸条の側部に、前記セメント系ボードと略平行な段部をそれぞれ形成しておき、これらの段部間に前記発泡プラスチックボードを嵌合させて、この発泡プラスチックボードを前記凸条間において前記セメント系ボードとの間に間隔をおいて仮固定することによって形成するとともに、前記各凸条部分を貫通するように前記アンカー部材を設置することを特徴とするものである。
本発明の請求項8に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、請求項4ないし請求項7の何れかに記載の前記空洞部を密閉構造としたことを特徴とする。
本発明の請求項9に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法は、請求項4ないし請求項7の何れかに記載の前記空洞部を、その両端部において外気に連通させたことを特徴とする。
本発明の請求項10に記載の建築物は、請求項1ないし請求項9の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルを外壁に用いて構築したことを特徴とするものである。
本発明の請求項11に記載の建築物は、請求項1ないし請求項9の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルを屋上スラブに用いて構築したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、セメント系ボードに、このセメント系ボードを貫通する複数のアンカー部材を、前記発泡プラスチックボードの厚み以上突出するように取り付けるとともに、前記セメント系ボードに前記発泡プラスチックボードを積層して仮固定した後に、これら仮固定したセメント系ボードと発泡プラスチックボードとを、定盤上に組み上げられた型枠内に前記セメント系ボードを下方にして設置し、ついで、前記発泡プラスチックボード上に配筋を行なった後に、前記型枠内にコンクリートを打設硬化させて前記プレキャストコンクリートパネルを成形してこのプレキャストコンクリートパネル中に前記アンカー部材を埋め込むことにより、前記プレキャストコンクリートパネルと前記セメント系ボードとを連結して、これらのプレキャストコンクリートパネルとセメント系ボードとの間に前記発泡プラスチックボードを挟み込むように一体化するようにしたから、コンクリートは、前記発泡プラスチックボード上に、この発泡プラスチックボード上の鉄筋を埋め込むように打設すればすむ。
したがって、1回の打設によって外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルを成形することができる。
この結果、コンクリートの打設作業が簡素化されるとともに、ポンプ車やミキサー車の待ち時間を無くして、生産性を高めることができるとともに、コストの低減を図ることができる。
また、セメント系ボードと発泡プラスチックボードとは、成形用型枠内へ設置する作業に先立って予め組み立てておくことができ、この組み立て作業をコンクリートの打設作業と並行して行なうことができるので、各作業工程をオーバーラップさせて外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの生産性を高めることができる。
さらに、前記アンカー部材を取り付けるに際して、このアンカー部材が貫通される前記セメント系ボードが比較的柔らかい材質であることから、その取り付けが容易であり、作業性を損なうことがない。
そして、打設したコンクリートの硬化後において、成形されたプレキャストコンクリートパネルとその下方に位置させられている発泡プラスチックボードとは、打設されるコンクリートの打設圧や重量によって圧接状態となり、この圧接状態が維持された状態で、打設されたコンクリートの硬化により、成形されたプレキャストコンクリートパネルとアンカー部材とが結合されることから、前記発泡プラスチックボードが、前記プレキャストコンクリートパネルとセメント系ボードとの間に強固に挟持される。
したがって、これらの相乗作用により、プレキャストコンクリートパネルの外面に、堅牢な断熱熱構造を形成することができる。
一方、前述したようにして成形されるプレキャストコンクリートパネルは、前記セメント系ボードを外側にして建て付けられるのであるが、その材質がセメントベースであることから、モルタルやセメントとの密着性が良好である。
したがって、モルタル仕上げやタイル仕上げといった種々の外装作業を容易に行なうことができ、建物の意匠性を容易に高めることができる。
本発明の請求項2に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、請求項1に記載の前記セメント系ボードとして、木片とセメントとを練り混んで形成された木毛セメントボードを用いることにより、前述したアンカー部材の取り付けを容易にするとともに、セメント系のもつ外装作業の容易性と、木質系のもつ断熱性の高さを利用した高断熱性を同時に確保することができる。
本発明の請求項3に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、請求項1に記載の前記セメント系ボードとして、軽量コンクリートボードを用いることにより、外断熱性を確保しつつ、軽量コンクリートボードの軽量性により、全体重量を軽減することができる。
本発明の請求項4に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、請求項1に記載の前記発泡プラスチックボードとセメント系ボードとの間に空洞部を形成することにより、前記外断熱構造を、前記発泡プラスチックボードによる断熱機能と、セメント系ボードによる断熱機能とに、空洞部の空気による断熱機能を付加した構造とすることができ、外断熱構造における断熱効果を向上させることができる。
本発明の請求項5に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、請求項4に記載の前記空洞部を、前記発泡プラスチックボードの面方向に間隔をおいて複数形成することにより、複数の空洞部間において、前記発泡プラスチックボードとセメント系ボードとの当接、あるいは、セメント系ボードとプレキャストコンクリートパネルとの当接部を確保して、前記発泡プラスチックボードの支持点を確保することにより、前述した空気層を確保しつつ、コンクリート打設時における発泡プラスチックボードの変形を防止することができる。
そして、本発明の請求項6に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、請求項4または請求項5の何れかに記載の前記空洞部を、前記発泡プラスチックボードの、前記セメント系ボード側の面に複数の凸条を略平行に設けるとともに、これらの凸条に前記セメント系ボードを当接させるように設置して前記凸条間を覆うことによって形成することにより、前記凸条を、前記発泡プラスチックボードの良好な成形性を利用して一体成形することができるので、前記空洞部を容易に形成することができる。
また、これらの凸条部分および前記発泡プラスチックボードを貫通するように前記アンカー部材を設置して、前記発泡プラスチックボードとセメント系ボードとを仮固定することにより、前記空洞部を形成した状態においても、前記アンカー部材を、セメント系ボード、発泡プラスチックボード、および、プレキャストコンクリートパネルとに貫通させて設置することができ、これらのセメント系ボード、発泡プラスチックボード、および、プレキャストコンクリートパネルを相互に当接させた状態において接合して、その接合強度を確保することができる。
本発明の請求項7に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、請求項4または請求項5の何れかに記載の前記空洞部を、前記セメント系ボードの、前記発泡プラスチックボード側の面に複数の凸条を略平行に設けるとともに、これらの凸条の側部に、前記セメント系ボードと略平行な段部をそれぞれ形成しておき、これらの段部間に前記発泡プラスチックボードを嵌合させて、この発泡プラスチックボードを前記凸条間において前記セメント系ボードとの間に間隔をおいて仮固定することによって形成することにより、前記発泡プラスチックボードの設置位置を前記凸条によって規制してその設置精度を高めることができる。
また、前記凸条によって前記発泡プラスチックボードの両側部をほぼ全長にわたって支持することができるので、コンクリート打設時における前記発泡プラスチックボードの変形を抑制して、この発泡プラスチックボードと前記セメント系ボードとの間に形成される前記空洞部の寸法精度を確保することができる。
さらに、前記発泡プラスチックボードを覆うようにして打設されるコンクリートが、前記凸条部分において前記セメント系ボードへ直接当接させられるが、両者がセメント系の素材であることからその密着性が高く、したがって、成形されるプレキャストコンクリートパネルとセメント系ボードとの接合強度を高めることができる。
しかも、前記各凸条部分を貫通するように前記アンカー部材を設置することで、前述したプレキャストコンクリートパネルとセメント系ボードとの接合強度をさらに高めることができる。
本発明の請求項8に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、請求項4ないし請求項7の何れかに記載の前記空洞部を密閉構造とすることにより、空気による断熱機能を効果的に確保することができる。
本発明の請求項9に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法によれば、請求項4ないし請求項7の何れかに記載の前記空洞部を、その両端部において外気に連通させることにより、前記空洞部に通気性を与えて、前記発泡プラスチックボードを乾燥させることができる。
これによって、前記発泡プラスチックボード内に水蒸気が存在したとしても、この水蒸気を外気へ放出させて結露を防止することができる。
本発明の請求項10に記載の建築物によれば、前記請求項1ないし請求項9の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルを外壁に用いることにより、断熱性に優れ、かつ、内部結露が抑制された建築物とすることができる。
本発明の請求項11に記載の建築物によれば、前記請求項1ないし請求項9の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルを屋上スラブに用いることにより、特に、直射日光が当たる屋上スラブの温度上昇、ひいては、室内温度の上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態によって製造された外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネル(以下、外断熱PCa板と称す)1を一部に用いて構築された家屋等の建築物Hの側面図である。
【0014】
前記外断熱PCa板1は、図1においては、建築物Hの妻側の外壁を構成した例を示しており、外表面側に、後述する外断熱構造を備えている。
ここで、ベランダ側や手摺り側の外壁も同様の外断熱PCa板が用いられているが、主要な構成が同一のため説明を省略する。
【0015】
前記1階部分に用いられている外断熱PCa板1には、図2(a)に示すように、窓用開口2と掃き出し3・3とが形成され、2階部分に用いられている外断熱PCa板1には、2箇所に窓用開口2が形成されている。
【0016】
そして、図示例では、建築物Hの壁面に、長方形状のタイルからなる化粧部材4が、先付けないしは後貼りにて一体化されている。
【0017】
本実施形態における前記外断熱PCa板1は、図3に示すように、建築物Hの駆体となるプレキャストコンクリートパネル(以下、PCa板と称す)1aと、このPCa板1aに積層される発泡プラスチックボード1bと、この発泡プラスチックボード1bに積層されるセメント系ボード1cとによって構成されており、これらが、前記セメント系ボード1側から挿入されて前記PCa板1a内に埋め込まれたアンカー部材5によって一体化されているとともに、前記発泡プラスチックボード1b単体、若しくは、この発泡プラスチックボード1bと前記セメント系ボード1cとによって前述した外断熱構造が構成されている。
【0018】
詳述すれば、前記発泡プラスチックボード1bは、図4に示すように、平板状に形成されており、その前記セメント系ボード1c側の面には、複数の凸条6が面方向に間隔をおいて略平行に複数設けられており、この発泡プラスチックボード1bが前記セメント系ボード1cと積層させられた際に、前記凸条6の間の凹部が前記セメント系ボード1cによって覆われることによって、複数の空洞部7(図5参照)が形成されるようになっている。
また、前記各凸条5はその長さ方向の両端部において相互に連結されており、これによって前記空洞部7が、外部と遮断された密閉空間となされている。
【0019】
前記セメント系ボード1cとして、本実施形態においては、木片とセメントとを混練して硬化させた木毛セメントボードが用いられており、前記発泡プラスチックボード1bと略同一な平板状に形成されている。
【0020】
前述したアンカー部材5は、図4に示すように、本実施形態においてはビスが用いられており、積層状態にある前記セメント系ボード1cと前記発泡プラスチックボード1bとを、前記発泡プラスチックボード1bの凸条6部分において前記セメント系ボード1cの外面側から貫通させられることにより、前記セメント系ボード1cと発泡プラスチックボード1bとを当接状態で仮固定するようになっている。
【0021】
さらに、前記アンカー部材5は、前述したように、前記セメント系ボード1cと前記発泡プラスチックボード1bとを貫通して取り付けられるようになっているとともに、図5に示すように、その一端部が、前記発泡プラスチックボード1bからの突出長さが、この発泡プラスチックボード1bが積層される前記PCa板1aの厚み以下となるように、その長さが設定されている。
【0022】
ついで、このような構成を有する外断熱PCa板1の製造方法の第1の実施形態について説明する。
まず、前記発泡プラスチックボード1bとセメント系ボード1cとを、前記凸条6において当接するように積層したのちに、複数の前記アンカー部材5を、セメント系ボード1cと前記発泡プラスチックボード1bとを貫通させて装着することにより、これらを仮固定する。
この状態において、前記セメント系ボード1cと前記発泡プラスチックボード1bとが密着した状態に保持されるとともに、各アンカー部材5が前記発泡プラスチックボード1bから所定長さ突出した状態となされる。
【0023】
このような発泡プラスチックボード1bとセメント系ボード1cとの仮固定作業は、前記PCa板1aの打設作業と独立しており、これらの作業を併行して行なうことが可能となり、これによって、製作工程の短縮化を図ることができる。
【0024】
ついで、前述したように仮固定された前記セメント系ボード1cと前記発泡プラスチックボード1bとを、図5に示すように、定盤8上に組み上げられている型枠9内に、前記セメント系ボード1cを下方にして設置した後に、上方に位置する前記発泡プラスチックボード1b上に、所定の鉄筋10を配筋する。
【0025】
これより、前記発泡プラスチックボード1b上にコンクリートを打設・硬化させて、前記発泡プラスチックボード1b上にPCa板1aを成形する。
ついで、前記打設されたコンクリートに必要強度が発現した後において脱型することにより、図3および図6に示す外断熱PCa板1が得られる。
【0026】
このような手順により、前記PCa板1a内に前記アンカー部材5の端部が所定長さ埋め込まれて固定され、前記セメント系ボード1cと前記PCa板1aとが前記アンカー部材5を介して連結される。
【0027】
ここで、前記コンクリートの打設時において、打設圧やコンクリートの自重によって、前記PCa板1aと発泡プラスチックボード1bとの密着性が高められ、前記アンカー部材5による連結作用と相俟って、前記PCa板1aの表面に、前記発泡プラスチックボード1bとセメント系ボード1cとが強固に装着される。
【0028】
また、前述したように取り付けられた前記発泡プラスチックボード1bと前記セメント系ボード1cとの間には、複数の密閉された空洞部7が形成されているから、脱型後において、前記セメント系ボード1cによる断熱層と、前記空洞部7による断熱層と、前記発泡プラスチックボード1bによる断熱層とからなる3層の断熱層を備えた外断熱構造が形成される。
【0029】
このように、本実施形態に係わる外断熱PCa板の製造方法によれば、仮固定した前記発泡プラスチックボード1bとセメント系ボード1cとを型枠9内に設置してコンクリートを打設することにより、外断熱PCa板1を製造することができるので、1回のコンクリート打設作業ですませることができる。
したがって、従来のようなミキサー車やポンプ車の待機時間を無くして製作工程の簡素化ならびに生産コストの低減が可能となる。
しかも、前述したように、前記発泡プラスチックボード1bとセメント系ボード1cとの仮固定作業を、前記PCa板1aの打設作業と独立させることができるので、この点からも製作工程の短縮化が可能となるとともに、
【0030】
さらに、前述したようにして得られた外断熱PCa板1は、その最外層にセメント系ボード1cが位置させられているから、モルタルとの接着性がよくタイル貼り付け時の接着性も高い。
したがって、前記外断熱PCa板1を建築物Hに用いた場合に、この建築物Hの意匠設計の自由度が高められる。
【0031】
図7は、本発明の第2の実施形態を示すものである。
本実施形態においては、前記第1の実施形態における前記空洞部7をその両端部において外気へ開放した構成としたものである。
【0032】
このような構成とすることにより、前記空洞部7内に外気が入り込む。
これによって、前記セメント系ボード1cによる断熱効果はなくなるものの、前記空洞部7内において気流が発生することにより、前記PCa板1aを透過して前記発泡プラスチックボード1b内に浸透した蒸気を外気へ放出する機能が得られる。
したがって、前記PCa板1aや発泡プラスチックボード1b内に滞留する蒸気量を大幅に軽減して、結露やカビの発生を抑制することができる。
【0033】
図8は、本発明の第3の実施形態を示すものである。
本実施形態においては、前記セメント系ボード1cに、前記空洞部7の両端部に連通する通気孔11を設けることによって、前記空洞部7を外気へ開放するようにしたものである。
このような構成とすることにより、前記第2の実施形態と同様の作用を得ることができるとともに、外断熱PCa板1の最外部に位置するセメント系ボード1cに前記通気孔11を形成することによって前記空洞部7を外気へ連通させるものであるから、その加工が容易である。
【0034】
また、図9は本発明の第4の実施形態を示すものである。
本実施形態においては、前記セメント系ボード1cに凸条12を設けることによって、空洞部7を形成するようにしたものである。
このような構成とすることによっても、前述した第2の実施形態と同様の作用を得ることができる。
【0035】
さらに、図10は本発明の第5の実施形態を示すものである。
本実施形態においては、前述した第4の実施形態において形成した複数の凸条12の側部に、前記セメント系ボード1cの面と略平行な段部12aを形成しておき、これらの段部12a間に前記発泡プラスチックボード1bを嵌め込んで仮固定するとともに、前述した空洞部7を形成するようにしたものである。
このような構成とすることにより、前記セメント系ボード1cを、前記凸条12を介してPCa板1aへ当接させることができる。
【0036】
そして、前記セメント系ボード1cは、前記発泡プラスチックボード1bに比して硬度が高いことから、前記PCa板1aの硬化後において、このPCa板1aと前記セメント系ボード1cとの間隔が一定に保持され、これによって、前記空洞部7の形状が一定に保持される。
【0037】
また、直接接触する前記セメント系ボード1cとPCa板1aとが、何れもセメント質であることから、両者の接着性が高く、さらに、これら両者を、前記凸条12を貫通させたアンカー部材5によって一体化することにより、両者の結合強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施形態によって製造された外断熱PCa板を一部に用いて構築された家屋の側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態によって製造された外断熱PCa板を示す正面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態によって成形された外断熱PCa板の外観斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に用いられるセメント系ボードと発泡プラスチックボードとの仮固定前の外観斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態を示すもので、仮固定したセメント系ボードと発泡プラスチックボードとを型枠内にセットした状態を示す要部の縦断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態によって製造された外断熱PCa板を示す縦断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態を示す外断熱PCa板の外観斜視図である。
【図8】本発明の第3の実施形態を示す外断熱PCa板の縦断面図である。
【図9】本発明の第4の実施形態を示す外断熱PCa板の縦断面図である。
【図10】本発明の第5の実施形態を示す外断熱PCa板の縦断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 外断熱PCa板(プレキャストコンクリートパネル
1a PCa板
1b 発泡プラスチックボード
1c セメント系ボード
2 窓用開口
3 掃き出し
4 化粧部材(タイル)
5 アンカー部材
6 凸条
7 空洞部
8 定盤
9 型枠
10 鉄筋
11 通気孔
12 凸条
12a 段部
H 建築物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリートパネルの表面に、発泡プラスチックボードとセメント系ボードとを順次積層して形成される外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法であって、前記セメント系ボードに、このセメント系ボードを貫通する複数のアンカー部材を、前記発泡プラスチックボードの厚み以上突出するように取り付けるとともに、前記セメント系ボードに前記発泡プラスチックボードを積層して仮固定した後に、これら仮固定したセメント系ボードと発泡プラスチックボードとを、定盤上に組み上げられた型枠内に前記セメント系ボードを下方にして設置し、ついで、前記発泡プラスチックボード上に配筋を行なった後に、前記型枠内にコンクリートを打設硬化させて前記プレキャストコンクリートパネルを成形してこのプレキャストコンクリート中に前記アンカー部材を埋め込むことにより、前記プレキャストコンクリートパネルと前記セメント系ボードとを連結して、これらのプレキャストコンクリートパネルとセメント系ボードとの間に前記発泡プラスチックボードを挟み込むように一体化することを特徴とする外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項2】
前記セメント系ボードが、木片とセメントとを練り混んで形成された木毛セメントボードであることを特徴とする請求項1に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項3】
前記セメント系ボードが、軽量コンクリートボードであることを特徴とする請求項1に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項4】
前記発泡プラスチックボードとセメント系ボードとの間に空洞部を形成することを特徴とする請求項1に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項5】
前記空洞部を、前記発泡プラスチックボードの面方向に間隔をおいて複数形成することを特徴とする請求項4に記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項6】
前記空洞部を、前記発泡プラスチックボードの、前記セメント系ボード側の面に複数の凸条を略平行に設けるとともに、これらの凸条に前記セメント系ボードを当接させるように設置して前記凸条間を覆うことによって形成し、これらの凸条部分および前記発泡プラスチックボードを貫通するように前記アンカー部材を設置することにより、前記発泡プラスチックボードとセメント系ボードとを仮固定することを特徴とする請求項4または請求項5の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項7】
前記空洞部を、前記セメント系ボードの、前記発泡プラスチックボード側の面に複数の凸条を略平行に設けるとともに、これらの凸条の側部に、前記セメント系ボードと略平行な段部をそれぞれ形成しておき、これらの段部間に前記発泡プラスチックボードを嵌合させて、この発泡プラスチックボードを前記凸条間において前記セメント系ボードとの間に間隔をおいて仮固定することによって形成するとともに、前記各凸条部分を貫通するように前記アンカー部材を設置することを特徴とする請求項4または請求項5の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項8】
前記空洞部を密閉構造としたことを特徴とする請求項4ないし請求項7の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項9】
前記空洞部を、その両端部において外気に連通させたことを特徴とする請求項4ないし請求項7の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルの製造方法。
【請求項10】
前記請求項1ないし請求項9の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルを外壁に用いて構築したことを特徴とする建築物。
【請求項11】
前記請求項1ないし請求項9の何れかに記載の外断熱構造を備えたプレキャストコンクリートパネルを屋上スラブに用いて構築したことを特徴とする建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−315318(P2006−315318A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140814(P2005−140814)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(597070068)株式会社沖創建設 (12)
【Fターム(参考)】