説明

外来魚採捕装置

【課題】水位変動や水辺の地形によらず設置が容易で、従来の技術では採捕が困難であった仔稚魚や、外来魚をも採捕可能な魚類採捕装置を提供する。
【解決手段】枠状のイカダ1,2と、該イカダにより画成される水域内に配設された水草4と、前記水域底部に引き上げ可能に敷設された敷き網5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、仔稚魚から成魚に至る各成長段階の魚類を採捕することのできる魚類採捕装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の魚類特に外来魚の採捕は、刺し網、定置網等の設置型漁具や釣りにより行われてきた。
【非特許文献1】大谷杉郎・小島 昭著「炭素 微生物と水環境をめぐって」 東海大学出版会2004年
【非特許文献2】全国内水面漁業協同組合連合会編「ブラックバスとブルーギルのす べて〜外来魚対策検討委託事業報告書〜」全国内水面漁業協同組合 連合会1992年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の技術によれば、水辺の急峻なダム等では漁具の設置自体が困難であったり、ダムの運用による水位変動の激しさから、設置型漁具が干出あるいは水没し、充分に機能しなかったり、採捕できる外来魚等の成長段階が若魚から成魚のみに限られ、仔稚魚が採捕出来ない等の諸問題があった。
特に従来の手法では、漁具の規格や漁法自体の特性から、仔稚魚段階の個体を採捕することは殆ど不可能であった。一方で、オオクチバス、ブルーギル等は殆どの日本在来の淡水魚よりも桁違いに大量の卵を産み、しかも親魚が卵や孵化直後の仔魚を一定期間保護する習性から、在来魚種の仔稚魚に比べ初期生残率が高いことが知られている。このことが、国内の内水面における両種の爆発的増加の一要因と考えられている。これら2種の駆除に際し、仔稚魚期の個体を効率よく採捕可能な手法の開発は急務であった。
【0004】
この発明は、かかる従来方法の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、水位変動や水辺の地形によらず設置が容易で、従来の技術では採捕が困難であった仔稚魚や、オオクチバス、ブルーギル等の外来魚をも採捕可能な魚類採捕装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明による魚類採捕装置は、枠状のイカダと、該イカダにより画成される水域内に配設された水草と、前記水域底部に引き上げ可能に敷設された敷き網とを備えている。
【0006】
本発明によれば、前記水草は、好ましくは、炭素繊維から成っている。
【0007】
また、本発明によれば、好ましくは、前記敷き網は箱形をなしている。
【0008】
また、本発明によれば、好ましくは、前記敷き網の目合は2.5〜3.5mmである。
【0009】
また、本発明によれば、仔稚魚から成魚に至る各成長段階の魚類を採捕することのできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水位変動や地形の影響を受け難く、地形が急峻で水位変動の大きなダム湖等への設置が容易に行える魚類採捕装置を提供することができる。また、本発明によれば、炭素繊維の人工水草による高い集魚効果により、仔稚魚期を中心とした外来魚を一箇所に効率的に集めることが出来るため、場所を移動しながら採捕する網や釣り等の手法に比べ、採捕にかかる労力が少なくて済む。また、本発明によれば、若魚以上のサイズは勿論、通常漁具の目合いでは採捕不可能な仔稚魚を採捕でき、しかも混獲される目的以外の魚類を選別して放流出来るため無駄に目的以外の魚類を殺すことを防ぐことが出来るという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図示した一実施例に基づき説明する。
図1は使用状態にある本発明に係る魚類採捕装置の一実施例の平面図、図2は図1のII-II線断面図、図3は敷き網引上げ時の状態を示す断面図である。図中、1は木製またはプラスチック製等の梁材を方形に組立てて成る枠体、2は好ましくは発泡スチロール等で形成されていて枠体1の各辺の下部に取付けられた複数個のフロートで、枠体1と共にイカダを構成する。3は枠体1の対向辺間に好ましくは等間隔に張られたロープ、4は好ましくは炭素繊維等から成り各ロープ3に好ましくは等間隔に取付けられて水面付近から所定の水深位置まで吊り下げられた人工水草、5は枠体1の四隅に設けられた係留体6に取り外し可能に係留されたロープ5aにより水草4の水域下部に敷設された敷き網である。
【0012】
敷き網5は、実質上枠体1により画成される面積と等しい開口面積を有する箱形をなしていて、網の目合(網目の一辺の長さの2倍の寸法)は2.5〜3.5mmに選定される。網の目合が2.5mmを下回ると浮遊物やゴミにより敷き網5が目詰まりを起し、3.5mmを上回ると仔魚が網目を抜けるため採集ができない。水草4は、枠体1により画成される水域のほぼ全面に配置される。
【0013】
本発明による魚類採捕装置は上記のように構成さているから、装置の設置に際しては、予め敷き網5と水草4を枠体1に取り付けて、所望のポイントまで運搬し、周知の方法でフロートを係留することにより、設置を完了することができる。そして、所定期間係留しておき、採捕時には、係留体6に係留しておいたロープ5aを解き、人力またはウインチ等を用いてロープ5aを引き上げ、引き網5を水面まで引き揚げて、水草4の周辺に集まった魚を採捕する(図3参照)。
【0014】
かくして、本発明の魚類採捕装置によれば、大型の外来魚等から仔魚に至るまで敷き網5内に確実に納めることができ、効率よく各種の魚を採捕することができる。
【0015】
以下、本発明の魚類採捕装置を用いた試験結果を従来方法と比較しながら説明する。
採捕試験は、四国西部、愛媛県西予市を流れる肱川中流域に位置する多目的ダム、野村ダムにおいて実施した。なお、同ダム湖には全国的にも珍しいダム湖陸封のアユ個体群が20年以上に渡って維持され続けているが、平成15年及び16年に本件出願人らが行った調査によれば、特に春季を中心にオオクチバス、ブルーギルによる深刻なアユの食害が生じていることが明らかになっている。
【0016】
同ダムで行った2005年5月30日〜6月24日までの計4回の採捕試験によれば、表1に示すように、2目3科7種の魚類が採捕された。この内、オオクチバスは195個体、ブルーギルは763個体、1回調査あたりの平均採捕尾数はオオクチバス48.8個体、ブルーギル190.8個体であった。

【0017】
これに対し、同時期に同じ場所で行った、従来の方法である刺し網による採捕結果は表2に示すとおりであった。

【0018】
表2から明らかなように、従来の手法では、1回あたりの平均採捕個体数はオオクチバス22.4個体、ブルーギル7.2個体であった。採捕効率(1回あたりの個体数比)は、本発明装置による場合、従来方法に較べて、オオクチバスで約2.2倍、ブルーギルで約26.5倍と、顕著な有効性が示された。さらに、本発明により採捕されたオオクチバスの内訳は、標準体長12mm〜30mmまでの仔稚魚が193個体(99%)、標準体長130mm以上の若魚および成魚が2個体、一方のブルーギルは標準体長9mm〜25mmまでの仔稚魚が763個体(97.9%)、成魚16個体と、双方とも仔稚魚が圧倒的に高い割合を占めた。一方、従来手法による採捕実験での最小個体は、オオクチバスで標準体長120mm、ブルーギルで標準体長70mmといずれも採捕された個体は若魚以上の個体ばかりであり、仔稚魚は全く採捕されなかった。
【0019】
以上実験例に示されたように、本発明装置によれば、従来、効率的な採捕が困難であったオオクチバス、ブルーギルの仔稚魚に対し、極めて高い採捕効率を発揮することができる。
【0020】
以上、実施例では、イカダを正方形のものとして構成したが、これは設置する場所の状況に応じて長方形や円形としてもよいし、敷き網の形状を枠体の形状に合わせたものとしても良い。また、イカダや水草の材質は、実施例のものに限定されることなく、本発明の範囲内で種々の変形及び修正が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】使用状態にある本発明に係る魚類採捕装置の一実施例の平面図である。
【図2】図1のII-II線断面図である。
【図3】敷き網引上げ時の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 枠体
2 フロート
3 ロープ
4 水草
5 敷き網
5a ロープ
6 係留体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状のイカダと、該イカダにより画成される水域内に配設された水草と、前記水域底部に引き上げ可能に敷設された敷き網とを備えた魚類採捕装置。
【請求項2】
前記水草は炭素繊維から成っている請求項1に記載の魚類採捕装置。
【請求項3】
前記敷き網は箱形をなしている請求項1または2に記載の魚類採捕装置。
【請求項4】
前記敷き網の目合は2.5〜3.5mmである請求項1乃至3の何れかに記載の魚類採捕装置。
【請求項5】
仔稚魚から成魚に至る各成長段階の魚類を採捕することのできる請求項1乃至4の何れかに記載の魚類採捕装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−105002(P2007−105002A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301326(P2005−301326)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(500240357)住鉱テクノリサーチ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】