説明

外殻鋼管付きコンクリート杭および同外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物

【課題】従来の円筒形の鋼管が有する、形状保持、生産性、および荷扱い性の問題を解消することは勿論、板厚が異なる分割鋼板を組み合わせた構成で鋼管を形成することにより、外力が一方向のみに作用する堰堤、護岸等の土木構造物の外力抵抗部材として好適に用いることができる、至極合理的で、柔軟性、経済性に非常に優れた外殻鋼管付きコンクリート杭および同外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物を提供する。
【解決手段】コンクリート杭の外殻を形成する鋼管10は、周方向に複数に分割された分割鋼板1を周方向に連結して円筒形状に形成され、前記分割鋼板1のうち1枚または複数枚の分割鋼板1aは、残りの分割鋼板1bより板厚が厚い構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外殻鋼管付きコンクリート杭および同外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物の技術分野に属し、更に言えば、コンクリート杭の外殻を形成する鋼管を、厚さが異なる複数の分割鋼板で形成した外殻鋼管付きコンクリート杭および同外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
既製コンクリート杭の1つに、鋼管の内側にコンクリートをライニングした外殻鋼管付きコンクリート杭(SC杭)がある(例えば、特許文献1、2参照)。このSC杭には、一般に、高炉メーカーが製造、販売する均等肉厚の円筒形状の鋼管が用いられる。市販の鋼管厚さ(t)は、通常、板厚(t)が4.5mm以上、或いは板厚径比(t/D)が1%以上とされている。
板厚(t)が4.5mm未満の鋼管が市販されない理由として、鋼管の形状的特性により、鋼管厚さを4.5mmより薄くするとその分膨らみやすくなるため円筒形の形状保持が難しく、生産性、荷扱い性に問題があり、市販されていないという理由に基づく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−220842号公報
【特許文献2】特開平11−280062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
市販品では、板厚が4.5mm以上の均等肉厚の円筒形状の鋼管しかなく、杭に要求される曲げ耐力に応じた適正な厚さの鋼管は、現状では入手できない。
よって、構造設計上、板厚が4.5mm未満の鋼管を用いても十分に曲げ耐力を有するSC杭が使用可能であったとしても、板厚が4.5mm以上の均等肉厚の鋼管を用いるほかなく、不合理、かつ不経済であった。
また、SC杭を、外力が一方向のみに作用する部位に外力抵抗部材として設置してなる堰堤、護岸等の土木構造物を構築する場合、SC杭の外殻を形成する鋼管について、外力が作用する管周面(表面)と外力が作用しない管周面(裏面)との間で、要求される耐力強度が異なることがある。このような場合、従来は、均等肉厚の一体物の円筒形状の鋼管しか存在しない故に、構造設計上、使用する鋼管の板厚を、もっとも耐力強度が要求される部位の板厚に合わせる必要があり、非常に不合理、かつ不経済であった。
【0005】
本発明の目的は、外殻鋼管付きコンクリート杭の鋼管を複数の分割鋼板からなる構成で実施することにより、従来の円筒形の鋼管が有する、形状保持、生産性、および荷扱い性の問題を解消することは勿論、板厚が異なる分割鋼板を組み合わせた構成で鋼管を形成することにより、外力が一方向のみに作用する堰堤、護岸等の土木構造物の外力抵抗部材として好適に用いることができる、至極合理的で、柔軟性、経済性に非常に優れた外殻鋼管付きコンクリート杭および同外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る外殻鋼管付きコンクリート杭は、コンクリート杭の外殻を形成する鋼管は、周方向に複数に分割された分割鋼板を周方向に連結して円筒形状に形成されてなること、
前記分割鋼板のうち1枚または複数枚の分割鋼板は、残りの分割鋼板より板厚が厚いことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭において、 前記分割鋼板は、その両側縁に継手部が形成された杭軸方向に一定の長さを有する分割円弧鋼板であり、前記外殻を形成する鋼管は、当該分割円弧鋼板を前記継手部を介し周方向に連結して円筒形状に形成されていること、
前記円筒形状に形成された鋼管の杭軸方向の両端部にコンクリート注入用の開口部を有する端板が接合され、当該鋼管の内側面にコンクリートがライニングされてなることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭において、 前記コンクリート杭は既製コンクリート杭であること、
前記分割鋼板は、その両端縁に継手部が形成された杭軸方向に前記既製コンクリート杭と同等長さを有する分割円弧鋼板であり、前記外殻を形成する鋼管は、当該分割円弧鋼板を前記継手部を介し周方向に連結して円筒形状に形成されていること、
前記円筒形状に形成された鋼管の内側には、前記既製コンクリート杭が充填材を充填する隙間を確保してほぼ同心の配置に設けられ、当該鋼管と既製コンクリート杭とが形成する隙間に充填材が充填されてなることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭において、前記分割円弧鋼板の両側縁に形成した継手部のうち、一側縁の継手部はU字状の雄型継手とされ、他側縁の継手部はU字状の雌型継手とされ、隣接する分割円弧鋼板の対応するU字状の雌型継手又はU字状の雄型継手と互いに連結されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭において、
前記分割鋼板は、杭軸方向の全長にわたって周方向にコルゲート加工が施された分割コルゲート鋼板であり、前記外殻を形成する鋼管は、当該分割コルゲート鋼板を周方向の端部同士を重ね合わせ接合により連結して円筒形状に形成された合成コルゲート鋼管からなり、
前記合成コルゲート鋼管の杭軸方向の両端部にコンクリート注入用の開口部を有する端板が接合され、当該合成コルゲート鋼管の内側面にコンクリートがライニングされてなることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭において、
前記コンクリート杭は既製コンクリート杭であること、
前記分割鋼板は、杭軸方向の全長にわたって周方向にコルゲート加工が施された分割コルゲート鋼板であり、前記外殻を形成する鋼管は、当該分割コルゲート鋼板を周方向の端部同士を重ね合わせ接合により連結して円筒形状に形成された合成コルゲート鋼管からなり、
前記合成コルゲート鋼管の内側には、前記既製コンクリート杭がほぼ同心の配置に設けられ、当該合成コルゲート鋼管と既製コンクリート杭とが形成する隙間に充填材が充填されてなることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭において、前記複数の分割コルゲート鋼板の周方向の端部同士は、ドリルねじで重ね合わせ接合されることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭において、前記分割鋼板の板厚は、2.3mm〜9.0mm、或いは板厚径比が1%未満であることを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載した発明に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物は、前記請求項1〜8のいずれかに記載の外殻鋼管付きコンクリート杭を、外力が一方向のみに作用する部位に外力抵抗部材として設置してなる堰堤、護岸等の土木構造物であって、
前記外殻鋼管付きコンクリート杭は、円筒形状に形成された鋼管を形成する分割鋼板のうち、板厚が厚い1枚または複数枚の分割鋼板を、外力が作用する側に向けて設置されていることを特徴とする
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物において、前記板厚が厚い1枚または複数枚の分割鋼板は、前記円筒形状に形成された鋼管をほぼ半割りしたに等しい半円筒状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1〜8に係る外殻鋼管付きコンクリート杭によれば、外殻を形成する円筒形状の鋼管を、複数の分割鋼板を周方向に連結した構成で実施できるので、以下の効果を奏する。
(1)請求項2の外殻鋼管付きコンクリートについて(実施例1参照)
平板状に近い湾曲した分割円弧鋼板を多数積み重ねて(積層して)搬送できるので、搬送に伴う費用削減に大きく寄与すると共に、荷扱いも容易となる。
分割円弧鋼板を単にスライドさせるだけで円筒形状の鋼管を形成できるので、溶接、カシメも無用で施工性(生産性)に非常に優れている。
SC杭に要求される曲げ耐力に応じた構造設計によって求められる適正な鋼管厚さ(例えば3.2mm、6.0mm)の分割円弧鋼板を用いて鋼管を形成できるので、合理的、且つ非常に経済的である。
(2)請求項3の外殻鋼管付きコンクリートについて(実施例2参照)
上記(1)の効果に加え、既製コンクリート杭は従来通りの製法、品質管理、および輸送方法のまま、鋼管(分割円弧鋼板)の厚さを2.3mm〜9.0mmの範囲内で変化させるだけで、所望の(曲げ)強度を有する外殻鋼管付きコンクリート杭を実現できる。即ち、同一径(単一種類)の既製コンクリート杭から多様な曲げ強度を有するバリエーションに富む外殻鋼管付きコンクリート杭を実現できるので、柔軟性に優れ、経済的、且つ合理的である。
鋼管と既製コンクリート杭との付着力を確認でき、且つ鋼管と既製コンクリート杭とを確実に同心配置にして生産できるので、品質性に優れた外殻鋼管付きコンクリート杭を提供することができる。
(3)請求項5の外殻鋼管付きコンクリートについて(実施例3参照)
分割コルゲート鋼板は、コルゲーションのない前記分割円弧鋼板と比し、鋼板自体の剛性が高いので、薄厚(例えば3.2mm)にも拘わらず、成形した鋼管の強度および剛性をさらに高めることができる。
分割コルゲート鋼板は、多数積み重ねて(積層して)搬送できるので、搬送に伴う費用削減に大きく寄与すると共に、荷扱いも容易となる。
隣接する分割コルゲート鋼板の端部同士をドリルねじで重ね合わせ接合するだけで円筒形状の合成コルゲート鋼管を形成できるので、溶接、カシメも無用で施工性(生産性)に非常に優れている。
SC杭に要求される曲げ耐力に応じた構造設計によって求められる適正な鋼管厚さ(例えば3.2mm、6.0mm)の分割コルゲート鋼板を用いて鋼管を形成できるので、合理的、且つ非常に経済的である。
(4)請求項6の外殻鋼管付きコンクリートについて(実施例4参照)
上記(3)の効果に加え、上記(2)と同様の効果を有する。
【0017】
さらに、請求項9、10に記載した発明に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物によれば、前記分割鋼板のうち1枚または複数枚の分割鋼板を、残りの分割鋼板より板厚を厚くした外殻鋼管付きコンクリート杭を用いて実施できるので、以下の効果を奏する(実施例1〜実施例4参照)。
外殻鋼管付きコンクリート杭を、外力が一方向のみに作用する堰堤、護岸等の土木構造物の外力抵抗部材として用いる場合、板厚が厚いコルゲート鋼板を外力が作用する側に向けて設置することができる。
具体的に、外殻鋼管付きコンクリート杭を、外力が一方向のみに作用する部位に外力抵抗部材として設置してなる堰堤、護岸等の土木構造物を構築する場合、外殻鋼管付きコンクリート杭の外殻を形成する鋼管について、外力が作用する管周面(表面)と外力が作用しない管周面(裏面)との間で、要求される耐力強度が異なることがある。
このような場合、従来は、均等肉厚の一体物の円筒形状の鋼管しか存在しない故に、構造設計上、使用する鋼管の板厚を、もっとも耐力強度が要求される部位の板厚に合わせる必要があり、非常に不合理、かつ不経済であった。
しかし、本発明によれば、鋼管に要求される耐力強度に応じて、外力が作用する管周面には板厚が厚い分割鋼板を配置し、外力が作用しない管周面には板厚が薄い分割鋼板を配置して実施できるので、至極合理的な設計が可能となり、柔軟性に優れていることに加え、鋼管、ひいては外殻鋼管付きコンクリート杭全体の軽量化を図ることができ、非常に経済的な土木構造物を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を示した斜視図である。
【図2】図1の外殻鋼管付きコンクリート杭を正面方向からみた拡大図である。
【図3】図1の外殻鋼管付きコンクリート杭の鋼管を形成する1枚の分割円弧鋼板を示した正面図である。
【図4】A〜Dは、円筒形状の鋼管を形成する工程を段階的に示した正面図である。
【図5】本発明の実施例1に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の製造方法を説明するための概略図である。
【図6】Aは、本発明に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物(堰堤)について、下流側からみた全体構造を示した概略図であり、Bは、同平面図である。ちなみに図6B中の符号Uは上流側、符号Dは下流側、矢印Fは外力が作用する方向を示す。
【図7】図6Aの側面図である。
【図8】Aは、本発明に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物(護岸)の全体構造を示した立面図であり、Bは、Aを左方向からみた立面図であり、Cは、Bの平面図である。ちなみに、図8A、C中の符号Kは河道側を示す。
【図9】本発明の実施例2に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を示した斜視図である。
【図10】図9の外殻鋼管付きコンクリート杭を正面方向からみた拡大図である。
【図11】Aは、組立台の上に既製コンクリート杭を載置した段階を示した正面図であり、Bは、AのB−B線矢視図であり、Cは、AのC−C線矢視図である。なお、B、Cについて、ナイロンスリング19の図示は省略した。
【図12】Aは、図11の既製コンクリート杭の頂部に1枚目の分割円弧鋼板を設置した段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視図である。
【図13】Aは、図12の既製コンクリート杭の両側面部に2枚目及び3枚目の分割円弧鋼板を連結した段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視図である。
【図14】A、Bは、既製コンクリート杭を半回転させる工程を示した図である。
【図15】Aは、図14Bの既製コンクリート杭に4枚目の分割円弧鋼板を連結して円筒形状の鋼管を構成する段階を示した正面図であり、Bは、AのB−B線矢視図であり、Cは、AのC−C線矢視断面図である。
【図16】Aは、図15の鋼管を被覆した既製コンクリート杭にスチールバンドを巻いた段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視断面図である。
【図17】Aは、図16の鋼管を被覆した既製コンクリート杭を傾斜させて組立台に設置した段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視図である。
【図18】Aは、鋼管を被覆した既製コンクリート杭を水平状態に戻して養生させた段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視断面図である。
【図19】Aは、本発明の実施例3に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を示した正面図であり、Bは、同側面図である。
【図20】図19Aの拡大図である。
【図21】Aは、図19BのX−X線矢視を拡大して示した断面図であり、Bは、AのY部の拡大図である。
【図22】A〜Dは、隣接する分割コルゲート鋼板の端部同士を重ね合わせ接合して合成コルゲート鋼管を形成する工程を段階的に示した正面図である。
【図23】本発明の実施例3に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の製造方法を説明するための概略図である。
【図24】Aは、本発明の実施例4に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を示した正面図であり、Bは、同側面図である。なお、Aでは図示の便宜上、リング材35を省略した。
【図25】図24Bを正面方向から見た拡大図である。
【図26】Aは、図24BのX−X線矢視を拡大して示した断面図であり、Bは、AのY部の拡大図である。
【図27】Aは、組立台の上に既製コンクリート杭を載置した段階を示した正面図であり、Bは、AのB−B線矢視図であり、Cは、AのC−C線矢視図である。なお、B、Cについては、Aのナイロンスリング19の図示は省略した。
【図28】Aは、図27の既製コンクリート杭の頂部に1枚目の分割コルゲート鋼板を設置した段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視図である。
【図29】Aは、図28の既製コンクリート杭の両側面部に2枚目及び3枚目の分割コルゲート鋼板を連結した段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視図である。
【図30】A、Bは、既製コンクリート杭を半回転させる工程を示した図である。
【図31】Aは、図30Bの既製コンクリート杭に4枚目の分割コルゲート鋼板を連結して円筒形状の合成コルゲート鋼管を構成する段階を示した正面図であり、Bは、AのB−B線矢視図であり、Cは、AのC−C線矢視断面図である。
【図32】Aは、図31の合成コルゲート鋼管を被覆した既製コンクリート杭にスチールバンドを巻いた段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視断面図である。
【図33】Aは、図32の合成コルゲート鋼管を被覆した既製コンクリート杭を傾斜させて組立台に設置した段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視断面図である。
【図34】Aは、合成コルゲート鋼管を被覆した既製コンクリート杭を水平状態に戻して養生させた段階を示す正面図であり、Bは、AのB−B線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る外殻鋼管付きコンクリート杭および同外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の請求項2に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の斜視図を示している。 図2は、図1の外殻鋼管付きコンクリート杭を正面方向からみた拡大図を示している。
この外殻鋼管付きコンクリート杭は、コンクリート杭の外殻を形成する鋼管10が、周方向に複数に分割された分割鋼板1を周方向に連結して円筒形状に形成されてなり、前記分割鋼板1のうち1枚または複数枚の分割鋼板1aは、残りの分割鋼板1bより板厚が厚いことを特徴とする。
【0021】
前記外殻鋼管付きコンクリート杭は、鋼管10を外殻に有し、その内側にコンクリート11をライニングしてなる。
前記分割鋼板1は、その両側縁に継手部1c、1dが形成された杭軸方向に一定の長さを有する分割円弧鋼板1であり、前記外殻を形成する鋼管10は、当該分割円弧鋼板1を前記継手部1c、1dを介し周方向に連結して円筒形状に形成されている。
前記円筒形状に形成された鋼管10の杭軸方向の両端部に、コンクリート11注入用の開口部7aを有する端板7(図5参照)が溶接接合され、当該鋼管10の内側面にコンクリート11がライニングされてなる。
ちなみに図1、2では図示の便宜上、前記端板7は省略した。
【0022】
具体的に、前記分割円弧鋼板1は、鋼管10を周方向に複数(図示例では4つ)に分割され、該分割円弧鋼板1のうち1枚または複数枚(図示例では隣接する2枚)の分割円弧鋼板1aは、残り(図示例では隣接する2枚)の分割円弧鋼板1bより板厚を厚く形成して実施している。ちなみに本実施例では、一例として、前記分割円弧鋼板1aの板厚を6.0mm、残りの分割円弧鋼板1bの板厚を3.2mmで実施している。
【0023】
前記外殻鋼管付きコンクリート杭(鋼管10)は、通常、外径が40cm〜120cm程度、杭軸方向長さが500cm〜700cm程度の大きさで実施されるが、大きさは勿論これに限定されない。
ちなみに、本実施例に係る円筒形状に形成された鋼管10は、外径が56cm程度、杭軸方向長さが520cm程度で実施されている。当該鋼管厚さは、SC杭に要求される曲げ耐力に応じた構造設計によって求められるが、通常2.3mm〜9.0mmの範囲内、或いは板厚径比が1%未満で実施される。鋼管10の内側面にライニングされたコンクリート11の厚さは8cm程度で実施されているが勿論これに限定されず、SC杭に要求される曲げ耐力に応じて適宜設計変更される。
【0024】
前記鋼管10は、本実施例では、周方向に略4等分割した分割円弧鋼板1、すなわち断面が略1/4円弧状で、杭軸方向長さが520cm程度の4枚の分割円弧鋼板1を、前記継手部1c、1dを介して周方向に連結して円筒形状に形成されている。
略4等分割した場合の各分割円弧鋼板1のサイズについては、その一例を図3に示す。図3は、板厚が薄い分割円弧鋼板1bを示しており、符号W=3.2mm、X=438.46mm、Y=30.2mm、Z=40.2mm、および曲率半径=279.68mmである。板厚が厚い分割円弧鋼板1aは、前記板厚が薄い分割円弧鋼板1bと比し、板厚(符号W)が6.0mmであること以外は、ほぼ同様である。
前記分割円弧鋼板1は、ロール成形加工法、好ましくは冷間ロール成形加工法で適正な曲率に成形される。
【0025】
前記分割円弧鋼板1の継手部1c、1dの形状について説明すると、分割円弧鋼板1の一側縁(図示例では右側)の継手部1cは、円筒形状に形成する鋼管10の外側へ相当する向きに屈曲させて折り返したU字状の雄型継手に形成し、他側縁(図示例では左側)の継手部1dは、隣接する分割円弧鋼板1の継手部(雄型継手)1cの先端部を巻き込むように鉤状に屈曲させたU字状の雌型継手に形成して実施されている。隣接する分割円弧鋼板1の対応する継手部1c、1dを互いに連結する(掛け留める)ことにより、隣接する分割円弧鋼板1が周方向に連結されて円筒形状の鋼管10が形成される(図2参照)。
【0026】
なお、本実施例では、周方向に略4等分割したに等しい形状の分割円弧鋼板1を用いて鋼管10を形成しているがこれに限定されず、周方向に略3等分割、略2等分割(半割り)、或いは5等分割以上に等分割した形状の分割円弧鋼板を用いても同様に実施できる。
また、本実施例では、製造コスト、荷扱い性、取扱性(作業性)の観点から板厚が異なる2種の分割円弧鋼板1(1a、1b)を用いて実施しているがこれに限定されず、杭軸方向長さが一致していれば、周方向長さは異なっていても、周方向に連結した場合に円筒形状の鋼管10を形成できればよい。
さらに、本実施例では、前記U字状の継手部1c、1dに形成して実施しているがこれに限定されず、互いに連結した継手部1c、1d同士が離脱しない形態であればよい。要するに、分割円弧鋼板1に設けた継手部1c、1dは、後述する遠心成形の際に、当該継手部1c、1d同士の連結状態を十分に保持できる形状、剛性を条件に、種々のバリエーションで実施可能である。
【0027】
次に、上記した外殻鋼管付きコンクリート杭の製造方法の実施例について説明する。
先ず、複数(4枚)の分割円弧鋼板1を周方向に連結して円筒形状の鋼管10を形成する。当該円筒形状の鋼管10を形成する手法については種々のバリエーションが考えられる。また、分割円弧鋼板1の数量、大きさによっても適宜設計される。よって、本実施例では、その一例を図4と図5に段階的に示した。
【0028】
図4Aに示したように、本実施例では先ず、1枚目の分割円弧鋼板1(1a)を、形成する鋼管10の外周面に相当する側を下向きにして作業場等に載置する。その両脇には、当該分割円弧鋼板1(1a)の揺動防止用の台木(組立台)9を載置する。この台木9は、前記分割円弧鋼板1(1a)の軸方向両端部にそれぞれ2個ずつ設けておくことが作業上好ましい。
次に、図4Bに示したように、2枚目の分割円弧鋼板1(1a)を、その継手部(雌型継手)1dと、前記1枚目の分割円弧鋼板1(1a)の継手部(雄型継手)1cとを嵌合させつつ軸方向へスライドさせる。このスライド作業は、分割円弧鋼板1の軸方向の長さが揃うまで、2人程度の作業員の手動操作により行う。
次に、図4Cに示したように、3枚目の分割円弧鋼板1(1b)を、その継手部(雄型継手)1cと、前記1枚目の分割円弧鋼板1(1a)の継手部(雌型継手)1dとを嵌合させつつ軸方向へスライドさせる。このスライド作業もまた、分割円弧鋼板1の軸方向の長さが揃うまで、2人程度の作業員の手動操作により行う。なお、前記2枚目と3枚目の分割円弧鋼板1のスライド作業はほぼ同時に行ってもよい。
次に、図4Dに示したように、4枚目の分割円弧鋼板1(1b)を、その両側縁に設けた継手部1c、1dと、それぞれ対応する継手部1d、1cとを嵌合させつつ軸方向へスライドさせる。このスライド作業もまた、分割円弧鋼板1の軸方向の長さが揃うまで、2人程度の作業員の手動操作により行う。
かくして、4枚の分割円弧鋼板1(1a、1b)を周方向に連結してなる円筒形状の薄厚の鋼管10を形成することができる。
【0029】
ちなみに、図4D中の符号8は、外周に山部と谷部を交互に有する歯車状の形状保持部材を示している。この形状保持部材8は、金属製であり、少なくとも鋼管10の管軸方向両端部に1枚ずつ設け、円筒形状に形成した薄厚の鋼管10の形状を安定した状態で保持する役割を果たす。ただし、形状保持部材8の使用はあくまでも念のため(任意)であり、むしろ、円筒形状に形成した後の鋼管10を作業場等で複数段積み重ねる場合に好適に用いられる。
すなわち、前記形状保持部材8は、鋼管10を円筒形状に形成した後に設けてもよいし、その前段階の分割円弧鋼板1のスライド作業中に設けておいてもよい。この形状保持部材8は、遠心成形する前にはもちろん取り外される。なお、前記形状保持部材8の形態はもちろん図示例に限定されない。
【0030】
次に、図5に示したように、円筒形状に形成した鋼管10の管軸方向(杭軸方向)の両端部に金属製の端板7、7を設け、当該鋼管10を上型枠12と下型枠13とで挟み込んで収容し、両型枠12、13をボルトで固定する。
本実施例に用いる端板7は、一例として外径が60cm程度、内径が44cm程度、厚みが2cm程度の開口部7aを有するリング状に形成され、前記鋼管10とほぼ同心円配置となるように溶接(全周隅肉溶接)で固定されている。
【0031】
続いて、両型枠12、13内に収容された鋼管10の端板7の開口部7aからコンクリート11を鋼管10内に注入し、遠心成形用回転駆動機(図示省略)により所定の回転速度で所要時間回転させる等、汎用の遠心成形法を実施して外殻鋼管付きコンクリート杭を製造する。
【0032】
したがって、実施例1に係る外殻鋼管付きコンクリート杭によれば、外殻を形成する鋼管10を、複数の分割円弧鋼板1(1a、1b)を継手部1c、1dを介して周方向に連結し円筒形状に形成して実施することができるので、以下の効果を奏する。
平板状に近い湾曲した分割円弧鋼板1を多数積み重ねて搬送できるので、搬送に伴う費用削減に大きく寄与すると共に、荷扱いも容易となる。
分割円弧鋼板1を単にスライドさせるだけで円筒形状の鋼管10を形成できるので、溶接、カシメも無用で施工性(生産性)に非常に優れている。
SC杭に要求される曲げ耐力に応じた構造設計によって求められる鋼管厚さ(例えば3.2mm、6.0mm)の分割円弧鋼板1を用いて鋼管10を形成できるので、合理的、且つ非常に経済的である。
【0033】
図6と図7は、上述した外殻鋼管付きコンクリート杭(SC杭)を外力抵抗部材(支持杭)として設置してなる堰堤(土木構造物)の実施例を示している。
図示例に係る堰堤2は、縦横3列ずつにバランス良く整列させた計9本のSC杭で安定した状態で支持されている。
前記SC杭は、すべて、板厚が厚い方の隣接する分割円弧鋼板1a、1aを前記上流側Uへ向けて設置し、残りの分割円弧鋼板1b、1bは、下流側Dへ向けて設置している。
SC杭に作用する主な外力(洪水流、土石流等の外力)Fは、上流側Uから下流側Dへの流水方向となり、よってSC杭には、上流側Uから下流側Dへの曲げモーメントが作用する。つまり、SC杭の上流側Uには引張力が作用し、下流側Dには圧縮力が作用する。SC杭は、圧縮力はコンクリートが負担し、引張力、曲げ応力は鋼管が負担する構成なので、SC杭を合理的な構造設計で実施するには、引張側となる上流側Uの鋼管10の板厚を厚くし、下流側Dの鋼管10は、コンクリートが負担するので、板厚を特に厚くする必要はない。
そうすると、図示例に係る堰堤2を支持するSC杭は、前記合理的な構造設計に合致する構成で実施しているといえ、構造設計上、要求される耐力強度に合致した実施を行うことができる。
よって、図6と図7に示した本発明に係るSC杭、ひいては堰堤2は、至極合理的な設計で実施することができ、柔軟性に優れていることに加え、鋼管、ひいてはSC杭全体の軽量化を図ることができ、非常に経済的である。
【0034】
また、図8は、上述した外殻鋼管付きコンクリート杭(SC杭)を外力抵抗部材(護岸構成部材)として設置してなる河川護岸(土木構造物)を示している。
図示例に係る河川護岸3は、本発明に係るSC杭を一列に多数(図8B、Cでは図示の便宜上、10本)設置した構成で実施されている。具体的に、前記SC杭は、すべて、板厚が厚い方の隣接する分割円弧鋼板1a、1aを前記河道側Kへ向けて設置し、残りの分割円弧鋼板1b、1bは、堤防側4へ向けて設置している。
SC杭を河川護岸3に用いる場合、腐食や砂等の流下に伴う摩耗を考慮し、腐食代として板厚を厚くする必要があるが、図示例に係るSC杭によれば、当該摩耗の影響が大きい河道側Kのみ、板厚を厚くした構成で実施できる。
よって、図8に示した本発明に係るSC杭を構成部材とする河川護岸は、上述した堰堤の実施例と同様に、至極合理的な設計で実施することができ、柔軟性に優れていることに加え、鋼管、ひいてはSC杭全体の軽量化を図ることができ、非常に経済的である。
【実施例2】
【0035】
図9は、本発明の請求項3に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の斜視図を示している。 図10は、図9の外殻鋼管付きコンクリート杭を正面方向からみた拡大図を示している。
この外殻鋼管付きコンクリート杭は、上記実施例1と同様に、コンクリート杭の外殻を形成する鋼管10が、周方向に複数に分割された分割鋼板1を周方向に連結して円筒形状に形成されてなり、前記分割鋼板1のうち1枚または複数枚の分割鋼板1aは、残りの分割鋼板1bより板厚が厚いことを特徴とする。
【0036】
前記コンクリート杭は、既製コンクリート杭14である。
前記分割鋼板1は、上記実施例1と同様に、その両端縁に継手部1c、1dが形成された杭軸方向に前記既製コンクリート杭14と同等長さを有する分割円弧鋼板1であり、前記外殻を形成する鋼管10は、当該分割円弧鋼板1を前記継手部1c、1dを介し周方向に連結して円筒形状に形成されている。
前記円筒形状に形成された鋼管10の内側には、前記既製コンクリート杭14が充填材15を充填する隙間を確保してほぼ同心の配置に設けられ、当該鋼管10と既製コンクリート杭14とが形成する隙間に充填材15が充填されている。
【0037】
具体的に、前記分割円弧鋼板1は、鋼管10を周方向に複数(図示例では4つ)に分割され、該分割円弧鋼板1のうち1枚または複数枚(図示例では隣接する2枚)の分割円弧鋼板1aは、残り(図示例では隣接する2枚)の分割円弧鋼板1bより板厚を厚く形成して実施している。ちなみに本実施例では、一例として、前記分割円弧鋼板1aの板厚を6.0mm、残りの分割円弧鋼板1bの板厚を3.2mmで実施している。
【0038】
前記鋼管10は、本実施例では、周方向に略4等分割した前記分割円弧鋼板1、すなわち上記実施例1と同様の構成とした分割円弧鋼板1が用いられる。よって、該分割円弧鋼板1(1a、1b)及び、その両端部に設けた継手部1c、1dの形態等の説明は割愛する(段落[0024]〜[0026]参照)。
【0039】
前記外殻鋼管付きコンクリート杭(鋼管10)は、通常、外径が40cm〜120cm程度、杭軸方向長さが500cm〜700cm程度の大きさで実施されるが、大きさは勿論これに限定されない。
ちなみに、本実施例に係る円筒形状に形成された鋼管10は、外径が56cm程度、杭軸方向長さが520cm程度で実施されている。当該鋼管厚さは、SC杭に要求される曲げ耐力に応じた構造設計によって求められるが、通常2.3mm〜9.0mmの範囲内、或いは板厚径比が1%未満で実施される。
【0040】
本実施例に係る既製コンクリート杭14は、外径が55cm程度、内径が45cm程度、杭軸方向長さが520cm程度、設計基準強度80N/mm以上の高強度コンクリート杭(本実施例ではPHC杭)で実施されているが勿論これに限定されず、SC杭に要求される曲げ耐力に応じて適宜設計変更される。
なお、本実施例では、PC鋼材と、らせん状鉄筋を内蔵したPHC杭14で実施しているが、杭軸方向にPC鋼線、PC鋼棒が埋設されているタイプ、或いは無筋タイプの既製コンクリート杭でも同様に実施できる。また、本実施例は中空の既製コンクリート杭を用いるが、中実タイプでも同様に実施できる。
【0041】
本実施例に係る充填材15は、膨張コンクリート、モルタルが好適に用いられ、同心の配置とされた外側の鋼管10と内側の既製コンクリート杭14との隙間(本実施例では25mm程度)に密実に充填され、当該鋼管10と既製コンクリート杭14とを一体化している。なお、前記充填材15は、前記膨張コンクリート等に限定されず、杭本体のコンクリート強度と同等以上の強度のものであれば使用可能である。
【0042】
次に、実施例2に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の製造方法の実施例について説明する。当該製造方法については種々のバリエーションが考えられる。また、分割円弧鋼板1の数量、大きさによっても適宜設計される。よって実施例2では、その一例を図11〜図18に段階的に示した。
【0043】
先ず、図11Aに示したように、既製コンクリート杭14の両端部の内寄り近傍位置に組立台(H形鋼)17、17を設置し、その上にナイロンスリング19を利用して吊り上げた中空の既製コンクリート杭14をバランス良く載置する。その両脇には、当該コンクリート杭14の揺動防止用のずれ止め材(角材)18を載置する。前記ナイロンスリング19は適時に取り外す(図11B、C参照)。
次に、既製コンクリート杭14の杭軸方向の両端縁部にリング材16を嵌め込み、当該リング材16の内面側に、充填材15の漏れ防止用のシーリング剤(図示略)を塗布する。
前記リング材16は、当該既製コンクリート杭14と、後に形成する円筒形状の鋼管10とが形成する隙間(25mm程度)を閉塞する寸法(外径550mm程度、内径500mm程度、厚さ6mm程度)で実施される。また、充填材15を注入する側(本実施例では左側)のリング材16には、その底部に切欠部(注入孔)16aが設けられる(図11B参照)。一方、充填材15を排出する側(本実施例では右側)のリング材16には、その頂部に切欠部(排出孔)16bが設けられている(図11C参照)。ちなみに、このリング材16は予め、既製コンクリート杭14を吊り上げた状態のときに当該コンクリート杭14に取り付けておいてもよい。
【0044】
続いて、図12A、Bに示したように、円筒形状の鋼管10を形成する4枚の分割円弧鋼板1のうち、1枚目の分割円弧鋼板1(1a)を、既製コンクリート杭14の上面部に設置する。具体的には、既製コンクリート杭14の両端縁部に位置決めしたリング材16、16の頂部形状に沿うように載置し、当該リング材16、16との当接部を仮溶接して固定する。この段階で、底部に注入孔16aを設けた側のリング材16の頂部に充填確認用の孔16cを穿設する。
ちなみに図中の符号20は、間隔調整ボルトであり、前記分割円弧鋼板1(1a)の中央の長手方向にバランス良く複数本(本実施例では4本)設けている。この間隔調整ボルト20は、分割円弧鋼板1(1a)に穿設した孔部に設けた溶接ナットにねじ込み、所要の隙間(本実施例25mm程度)を確保するのに供される。
【0045】
続いて、図13A、Bに示したように、2枚目の分割円弧鋼板1(1a、本実施例では図13Bの右側)を、その継手部(雌型継手)1dと、前記1枚目の分割円弧鋼板1(1a)の継手部(雄型継手)1cとを嵌合させつつ軸方向へスライドさせる。このスライド作業は、分割円弧鋼板1の軸方向の長さが揃うまで、2人程度の作業員の手動操作により行う。
次に、3枚目の分割円弧鋼板1(1b、本実施例では図13Bの左側)を、その継手部(雄型継手)1cと、前記1枚目の分割円弧鋼板1(1a)の継手部(雌型継手)1dとを嵌合させつつ軸方向へスライドさせる。このスライド作業もまた、分割円弧鋼板1の軸方向の長さが揃うまで、2人程度の作業員の手動操作により行う。
なお、前記2枚目と3枚目の分割円弧鋼板1、1のスライド作業はほぼ同時に行ってもよい。ちなみに当該分割円弧鋼板1、1にも、前記した間隔調整ボルト20が同様の配置に設けられている。
【0046】
続いて、4枚目の分割円弧鋼板1(1b)の取付け作業を行うにあたり、図14A、Bに示したように、3枚の分割円弧鋼板1を取り付けた既製コンクリート杭14をナイロンスリング(図示略)でバランス良く2箇所ほど縛って拘束し、前記ずれ止め材(角材)18を撤去して組立台17の上を半回転させる。事後、前記ずれ止め材18は、移動した既製コンクリート杭14の両脇に戻す。
次に、図15A〜Cに示したように、4枚目の分割円弧鋼板1(1b)を、その両側縁に設けた継手部1c、1dと、それぞれ対応する継手部1d、1cとを嵌合させつつ軸方向へスライドさせる。このスライド作業もまた、分割円弧鋼板1の軸方向の長さが揃うまで、2人程度の作業員の手動操作により行う。ちなみに4枚目の分割円弧鋼板1(1b)にも、前記した間隔調整ボルト20が同様の配置に設けられている。
しかる後、軸方向の長さを揃えて円筒形状に連結した4枚の分割円弧鋼板1と、前記既製コンクリート杭14の両端部に設けたリング材16とを全周隅肉溶接にて一体化する。
【0047】
続いて、充填材15の注入作業を行うにあたり、前記間隔調整ボルト20のすべての長さを調整し、その内側の既製コンクリート14の外周面との間隔を確実に25mmに揃える。次に、図16A、Bに示したように、充填材15の注入による鋼管10(分割円弧鋼板1)のはらみ防止のため、当該鋼管10の外周に所要の間隔をあけてスチールバンド21をバランス良く(本実施例では5箇所)巻いて締め付ける。
【0048】
続いて、図17A、Bに示したように、鋼管10と既製コンクリート杭14との隙間Hに前記充填材15を密実に充填するべく、高さの異なる組立台17a、17b(段差50〜60cm程度)を用意し、その上に鋼管10を取り付けた既製コンクリート杭14を傾斜させて載置する。その際、当該既製コンクリート杭14の左側に設けたリング材16の注入孔16aを下向きに位置決めする。
充填材15の注入作業を安定した状態で行うべく、前記既製コンクリート杭14(鋼管10)と組立台17a、17b及びずれ止め材18には、ずり動きを防止する固定手段を施す。ちなみに本実施例では、前記組立台17a、17bと作業場の支持床とをボルト止めしている。
固定手段を施した後、左側のリング材16の注入孔16aから、充填材15(本実施例では膨張コンクリート)を注入する。この注入作業は、当該充填材15が右側のリング材16の頂部の排出孔16bから排出されるまで行う。そして、充填材15が前記隙間Hに密実に充填されたことを目視で確認し、24時間程度経過した後、図18A、Bに示したように、水平状態に戻し、さらに一週間程度気中養生する。
【0049】
かくして、既製コンクリート杭14の外周面に充填材15を介して薄厚の鋼管10を被覆してなる高品質の外殻鋼管付きコンクリート杭を製造することができる。
なお、本実施例に係るリング材16は、充填材2の漏れ防止のために用いるものであり、速硬性の充填材を用いる場合は特に必要としない。
【0050】
したがって、実施例2に係る外殻鋼管付きコンクリート杭によれば、上記実施例1と同様に、外殻を形成する鋼管10を、複数の分割円弧鋼板1(1a、1b)を継手部1c、1dを介して周方向に連結し円筒形状に形成して実施することができるので、上記実施例1と同様の効果を奏する(段落[0032]参照)。
加えて、既製コンクリート杭14は従来通りの製法、品質管理、および輸送方法のまま、鋼管10(分割円弧鋼板1)の厚さを2.3mm〜9.0mmの範囲内で変化させるだけで、所望の(曲げ)強度を有する外殻鋼管付きコンクリート杭を実現できる。即ち、同一径(単一種類)の既製コンクリート杭14から多様な曲げ強度を有するバリエーションに富む外殻鋼管付きコンクリート杭を実現できるので、柔軟性に優れ、経済的、且つ合理的である。
鋼管10と既製コンクリート杭14との付着力を確認でき、且つ鋼管10と既製コンクリート杭14とを確実に同心配置にして生産できるので、品質性に優れた外殻鋼管付きコンクリート杭を提供することができる。
【0051】
また、実施例2に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を外力抵抗部材(支持杭、護岸構成部材等)として設置してなる土木構造物(堰堤、護岸等)を実施する場合は、上記実施例1と同様に、板厚が厚い方の隣接する分割円弧鋼板1a、1aを外力が作用する向き、或いは摩耗の影響が大きい向きに配置して設置できるので、やはり上記実施例1と同様の効果を奏する(図6〜図8を援用して参照、及び段落[0033]、[0034]参照)。
【実施例3】
【0052】
図19〜図21は、本発明の請求項5に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を示している。
この外殻鋼管付きコンクリート杭は、上記実施例1と同様に、コンクリート杭の外殻を形成する鋼管40が、周方向に複数に分割された分割鋼板31を周方向に連結して円筒形状に形成されてなり、前記分割鋼板31のうち1枚または複数枚の分割鋼板31aは、残りの分割鋼板31bより板厚が厚いことを特徴とする。
【0053】
前記外殻鋼管付きコンクリート杭は、鋼管40を外殻に有し、その内側にコンクリート11をライニングしてなる。
前記分割鋼板31は、杭軸方向の全長にわたって周方向に山部と谷部が交互に連続するコルゲート加工が施された分割コルゲート鋼板31であり、前記外殻を形成する鋼管40は、当該分割コルゲート鋼板31を周方向の端部同士を重ね合わせ接合により連結して円筒形状に形成された合成コルゲート鋼管40からなる。
前記合成コルゲート鋼管40の杭軸方向の両端部にコンクリート11注入用の開口部33aを有する端板33が溶接接合され、当該合成コルゲート鋼管40の内側面にコンクリート11がライニングされてなる。
ちなみに図19Aでは図示の便宜上、前記端板33は省略した。
【0054】
具体的に、前記分割コルゲート鋼板31は、鋼管40を周方向に複数(図示例では4つ)に分割され、該分割コルゲート鋼板31のうち1枚または複数枚(図示例では隣接する2枚)の分割コルゲート鋼板31aは、残り(図示例では隣接する2枚)の分割コルゲート鋼板31bより板厚を厚く形成して実施している。ちなみに本実施例では、一例として、前記分割コルゲート鋼板31aの板厚を6.0mm、残りの分割コルゲート鋼板31bの板厚を3.2mmで実施している。
【0055】
前記外殻鋼管付きコンクリート杭は、通常、外径が40cm〜120cm程度、杭軸方向長さが500cm〜700cm程度の大きさで実施されるが、大きさは勿論これに限定されない。
前記分割コルゲート鋼板31(31a、31b)は、波のピッチ150mm程度、波の深さ40mm程度で実施されているが、形態は勿論これに限定されず、SC杭に要求される曲げ耐力に応じた構造設計によって求められる。
前記合成コルゲート鋼管40は、外径(対向配置の谷部同士の距離)が56cm程度、杭軸方向長さが520cm程度で実施されている。該鋼管厚さは、SC杭に要求される曲げ耐力に応じた構造設計によって求められるが、通常2.3mm〜9.0mmの範囲内、或いは板厚径比が1%未満で実施される。
前記端板33は、金属製であり、一例として外径が58cm程度、内径が42cm程度、厚みが2cm程度の開口部33aを有するリング状に形成され、外周面が前記分割コルゲート鋼板31の山部を覆い、前記合成コルゲート鋼管40とほぼ同心円配置となるように溶接(全周隅肉溶接)で固定されている。
前記合成コルゲート鋼管40の内側面にライニングされたコンクリート11の厚さは、谷部で7〜8cm程度で実施されているが勿論これに限定されず、SC杭に要求される曲げ耐力に応じて適宜設計変更される。
【0056】
前記合成コルゲート鋼管40は、本実施例では、周方向に略4等分割し(厳密には必要な重ね代を確保する分だけ若干長い)、杭軸方向長さが520cm程度の4枚の分割コルゲート鋼板31(31a、31b)を、端部同士をドリルねじ32で重ね合わせ接合され、周方向に連結して円筒形状に形成されている。該ドリルねじ32は、杭軸方向に沿って、重ね合わせ接合に適正な間隔をあけて複数打ち込まれている(図19B参照)。
【0057】
なお、本実施例では、周方向に略4等分割したに等しい形状の分割コルゲート鋼板31(31a、31b)を用いて合成コルゲート鋼管40を形成しているがこれに限定されない。周方向に略3等分割、略2等分割(半割り)、或いは略5等分割以上に等分割した形状の分割コルゲート鋼板を用いても同様に実施できる。
また、本実施例では、製造コスト、荷扱い性、取扱性(作業性)の観点から板厚が異なる2種の分割コルゲート鋼板31(31a、31b)を用いて実施しているがこれに限定されず、杭軸方向長さが一致していれば、周方向長さは異なっていても、周方向に連結した場合に円筒形状の合成コルゲート鋼管40を形成できればよい。
【0058】
次に、上記した外殻鋼管付きコンクリート杭の製造方法の実施例について説明する。当該製造方法については種々のバリエーションが考えられる。また、分割コルゲート鋼板31の数量、形態によっても適宜設計される。よって、本実施例では、その一例を図22と図23に段階的に示した。
【0059】
先ず、複数(図示例では4枚)の前記分割コルゲート鋼板31(31a、31b)を、端部同士をドリルねじ32で重ね合わせ接合することにより、周方向に連結して円筒形状の合成コルゲート鋼管40を形成する。
【0060】
具体的には、図22Aに示したように、1枚目の分割コルゲート鋼板31(31a)を、形成する合成コルゲート鋼管40の外周面に相当する側を下向きにして作業場等に載置する。その両脇には、当該分割コルゲート鋼板31(31a)の揺動防止用の台木(組立台)9を載置する。この台木9は、前記分割コルゲート鋼板31の軸方向両端部にそれぞれ2個ずつ設けておくことが作業上好ましい。
次に、図22Bに示したように、2枚目の分割コルゲート鋼板31(31a)を、その周方向の一端部を、前記1枚目の分割コルゲート鋼板31(31a)の対応する周方向の端部へ重ね合わせ、ドリルねじ32より重ね合わせ接合して取り付ける。同様に、図22Cに示したように、3枚目の分割コルゲート鋼板31(31b)を、その周方向の一端部を、前記1枚目の分割コルゲート鋼板31(31a)の対応する周方向の端部へ重ね合わせ、ドリルねじ32より重ね合わせ接合して取り付ける。なお、前記2枚目と3枚目の分割コルゲート鋼板31、31の接合作業はほぼ同時に行ってもよい。
次に、図22Dに示したように、4枚目の分割コルゲート鋼板31(31b)を、その周方向の両端部を、2枚目と3枚目の分割コルゲート鋼板31、31の対応する周方向の端部へ重ね合わせ、ドリルねじ32により重ね合わせ接合して取り付ける。
かくして、4枚の分割コルゲート鋼板31(31a、31b)を周方向に連結してなる円筒形状の合成コルゲート鋼管40を形成する。
【0061】
ちなみに、図22D中の符号34は、略歯車状の形状保持部材を示している。この形状保持部材34は、上記実施例1に係る形状保持部材8と同様の作用を奏するので、その説明は割愛する(段落[0029]参照)。
【0062】
次に、図23に示したように、円筒形状に形成した合成コルゲート鋼管40の管軸方向の両端部に前記端板33、33を全周隅肉溶接により取り付け、当該鋼管40を上型枠12と下型枠13とで挟み込んで収容し、両型枠12、13をボルトで固定する。
続いて、両型枠12、13内に収容された合成コルゲート鋼管40の端板33の開口部33aからコンクリート11を該鋼管40内に注入し、遠心成形用回転駆動機(図示省略)により所定の回転速度で所要時間回転させる等、汎用の遠心成形法を実施して外殻鋼管付きコンクリート杭を製造する。
【0063】
したがって、実施例3に係る外殻鋼管付きコンクリート杭によれば、外殻を形成する合成コルゲート鋼管40を、複数の分割コルゲート鋼板31(31a、31b)を周方向に連結して形成できるので、以下の効果を奏する。
分割コルゲート鋼板31は、コルゲーションのない前記分割円弧鋼板1と比し、鋼板自体の剛性が高いので、薄厚(例えば3.2mm)にも拘わらず、成形した鋼管の強度および剛性をさらに高めることができる。
分割コルゲート鋼板31は、多数積み重ねて(積層して)搬送できるので、搬送に伴う費用削減に大きく寄与すると共に、荷扱いも容易となる。
隣接する分割コルゲート鋼板31の端部同士をドリルねじ32で重ね合わせ接合するだけで円筒形状の合成コルゲート鋼管40を形成できるので、溶接、カシメも無用で施工性(生産性)に非常に優れている。
SC杭に要求される曲げ耐力に応じた構造設計によって求められる適正な鋼管厚さ(例えば3.2mm、6.0mm)の分割コルゲート鋼板31を用いて鋼管を形成できるので、合理的、且つ非常に経済的である。
【0064】
また、実施例3に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を外力抵抗部材(支持杭、護岸構成部材等)として設置してなる土木構造物(堰堤、護岸等)を実施する場合は、上記実施例1に倣い、板厚が厚い方の隣接する分割コルゲート鋼板31a、31aを外力が作用する向き、或いは摩耗の影響が大きい向きに配置して設置できるので、やはり上記実施例1と同様の効果を奏する(図6〜図8を援用して参照、及び段落[0033]、[0034]参照)。
【実施例4】
【0065】
図24〜図26は、本発明の請求項6に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を示している。
この外殻鋼管付きコンクリート杭は、上記実施例1と同様に、コンクリート杭の外殻を形成する鋼管40が、周方向に複数に分割された分割鋼板31を周方向に連結して円筒形状に形成されてなり、前記分割鋼板31のうち1枚または複数枚の分割鋼板31aは、残りの分割鋼板31bより板厚が厚いことを特徴とする。
【0066】
前記コンクリート杭は、既製コンクリート杭14である。
前記分割鋼板31は、上記実施例3と同様に、杭軸方向の全長にわたって周方向にコルゲート加工が施された分割コルゲート鋼板31であり、前記外殻を形成する鋼管40は、当該分割コルゲート鋼板31を周方向の端部同士を重ね合わせ接合により連結して円筒形状に形成された合成コルゲート鋼管40からなる。
前記合成コルゲート鋼管40の内側には、前記既製コンクリート杭14がほぼ同心の配置に設けられ、当該合成コルゲート鋼管40と既製コンクリート杭14とが形成する隙間に充填材15が充填されている。
ちなみに、図26A中の符号37は、スペーサーを示している。このスペーサー37は、前記既製コンクリート14の外周面と一致する曲率で、例えば、幅150mm程度、長さ150mm程度、厚さ10mm程度の寸法で実際され、前記分割コルゲート鋼板31の谷部と既製コンクリート14の外周面との間に適宜の間隔で点在させることにより、充填材15の流路を確保する役割を果たす。
【0067】
具体的に、前記分割コルゲート鋼板31は、上記実施例3と同様に、合成コルゲート鋼管40を周方向に複数(図示例では4つ)に分割され、該分割コルゲート鋼板31のうち1枚または複数枚(図示例では隣接する2枚)の分割コルゲート鋼板31aは、残り(図示例では隣接する2枚)の分割コルゲート鋼板31bより板厚を厚く形成して実施している。ちなみに本実施例では、一例として、前記分割コルゲート鋼板31aの板厚を6.0mm、残りの分割コルゲート鋼板31bの板厚を3.2mmで実施している。
【0068】
前記合成コルゲート鋼管40は、本実施例では、周方向に略4等分割した前記分割コルゲート鋼板31、すなわち上記実施例3と同様の構成とした分割コルゲート鋼板31が用いられる。よって、該分割コルゲート鋼板31(31a、31b)の形態等の説明は割愛する(段落[0056]、[0057]参照)。
【0069】
前記外殻鋼管付きコンクリート杭は、通常、外径が40cm〜120cm程度、杭軸方向長さが500cm〜700cm程度の大きさで実施されるが、大きさは勿論これに限定されない。
前記合成コルゲート鋼管40は、外径(対向配置の谷部同士の距離)が56cm程度、杭軸方向長さが520cm程度で実施されている。該鋼管厚さは、SC杭に要求される曲げ耐力に応じた構造設計によって求められるが、通常2.3mm〜9.0mmの範囲内、或いは板厚径比が1%未満で実施される。
前記リング材35は、金属製であり、一例として外径が58cm程度、内径が40cm程度、厚みが2cm程度の開口部35aを有するリング状に形成され、外周面が前記分割コルゲート鋼板31の山部を覆い、前記合成コルゲート鋼管40とほぼ同心円配置となるように溶接(全周隅肉溶接)で固定されている。
【0070】
本実施例に係る既製コンクリート杭14、及び充填材15は、上記実施例2と同様なので、同一の符号を付してその説明を割愛する(段落[0040]、[0041]参照)。
【0071】
次に、実施例4に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の製造方法の実施例について説明する。当該製造方法については種々のバリエーションが考えられる。また、分割コルゲート鋼板31の数量、形態によっても適宜設計される。よって、本実施例では、その一例を図27〜図34に段階的に示した。
【0072】
先ず、図27Aに示したように、既製コンクリート杭14の両端部の内寄り近傍位置に組立台(H形鋼)17、17を設置し、その上にナイロンスリング19を利用して吊り上げた中空の既製コンクリート杭14をバランス良く載置する。その両脇には、当該コンクリート杭14の揺動防止用のずれ止め材(角材)18を載置する。前記ナイロンスリング19は適時に取り外す(図27B、C参照)。
次に、既製コンクリート杭14の杭軸方向の両端縁部にリング材35を嵌め込み、当該リング材35の内面側に、充填材15の漏れ防止用のシーリング剤(図示略)を塗布する。
前記リング材35は、既製コンクリート杭14と、後に形成する円筒形状の合成コルゲート鋼管40とが形成する隙間を十分に閉塞する寸法(外径550mm程度、内径400mm程度、厚さ6mm程度)で実施される。また、充填材15を注入する側(本実施例では左側)のリング材35には、その底部に切欠部(注入孔)35aが設けられる(図27B参照)。一方、充填材15を排出する側(本実施例では右側)のリング材35には、その頂部に切欠部(排出孔)35bが設けられている(図27C参照)。ちなみに、このリング材35は予め、既製コンクリート杭14を吊り上げた状態のときに当該コンクリート杭14に取り付けておいてもよい。
【0073】
続いて、図28A、Bに示したように、合成コルゲート鋼管40を形成する4枚の分割コルゲート鋼板31のうち、1枚目の分割コルゲート鋼板31(31a)を、該鋼板31に点付け溶接された前記スペーサー37を介して既製コンクリート杭14の上面部に設置する。具体的に、前記分割コルゲート鋼板31(31a)は、その軸方向両端部と、既製コンクリート杭14の両端縁部に嵌め込んだリング材35、35との当接部を仮溶接して固定する。この段階で、底部に注入孔35aを設けた側のリング材35の頂部に充填確認用の孔35cを穿設する。
【0074】
続いて、図29A、Bに示したように、2枚目の分割コルゲート鋼板31(31a、本実施例では図29Bの右側)を、その周方向の一端部を、前記1枚目の分割コルゲート鋼板31(31a)の対応する周方向の端部へ重ね合わせ、ドリルねじ32により重ね合わせ接合して取り付ける。次に、3枚目の分割コルゲート鋼板31(31b、本実施例では図29Bの左側)を、その周方向の一端部を、前記1枚目の分割コルゲート鋼板31の対応する周方向の端部へ重ね合わせ、ドリルねじ32により重ね合わせ接合して取り付ける。なお、前記2枚目と3枚目の分割コルゲート鋼板31、31の接合作業はほぼ同時に行ってもよい。ちなみに、2枚目と3枚目の分割コルゲート鋼板31、31にも、前記スペーサー37が設けられている。
【0075】
続いて4枚目の分割コルゲート鋼板31(31b)の取付け作業を行うにあたり、図30A、Bに示したように、3枚の分割コルゲート鋼板31を取り付けた既製コンクリート杭14をナイロンスリング(図示略)でバランス良く2箇所ほど縛って拘束し、前記ずれ止め材(角材)18を撤去して組立台17の上を半回転させる。事後、前記ずれ止め材18は、移動した既製コンクリート杭14の両脇に戻す。
次に、図31A〜Cに示したように、4枚目の分割コルゲート鋼板31(31b)を、その周方向両端部を、2枚目と3枚目の分割コルゲート鋼板31の対応する周方向の端部へ重ね合わせ、ドリルねじ32により重ね合わせ接合して取り付ける。
しかる後、円筒形状に連結した4枚の分割コルゲート鋼板31と、前記既製コンクリート杭14の両端部に設けたリング材3とを全周隅肉溶接にて一体化する。
【0076】
続いて、充填材15の注入作業を行うにあたり、図32A、Bに示したように、充填材5の注入による合成コルゲート鋼管40(分割コルゲート鋼板31)のはらみ防止のため、当該鋼管40の外周に所要の間隔をあけてスチールバンド21をバランス良く(本実施例では5箇所)巻いて締め付ける。なお、図32Bは、スチールバンド21の図示を省略した。
【0077】
続いて、図33A、Bに示したように、合成コルゲート鋼管40と既製コンクリート杭14との隙間に前記充填材15を密実に充填するべく、高さの異なる組立台17a、17b(段差50〜60cm程度)を用意し、その上に前記鋼管40を取り付けた既製コンクリート杭14を傾斜させて載置する。その際、当該既製コンクリート杭14の左側に設けたリング材35の注入孔35aを下向きに位置決めする。
充填材15の注入作業を安定した状態で行うべく、前記既製コンクリート杭14(合成コルゲート鋼管40)と組立台17a、17b及びずれ止め材18には、ずり動きを防止する固定手段を施す。ちなみに本実施例では、前記組立台17a、17bと作業場の支持床とをボルト止めしている。
固定手段を施した後、左側のリング材35の注入孔35aから、充填材15(本実施例では膨張コンクリート)を注入する。この注入作業は、当該充填材15が右側のリング材35の頂部の排出孔35bから排出されるまで行う。そして、充填材15が前記隙間に密実に充填されたことを目視で確認し、24時間程度経過した後、図34A、Bに示したように、水平状態に戻し、さらに一週間程度気中養生する。
かくして、既製コンクリート杭14の外周面に充填材15を介して薄厚の合成コルゲート鋼管40を被覆してなる高品質の外殻鋼管付きコンクリート杭を製造することができる。
【0078】
したがって、実施例4に係る外殻鋼管付きコンクリート杭によれば、上記実施例3と同様に、外殻を形成する合成コルゲート鋼管40を、複数の分割コルゲート鋼板31(31a、31b)を周方向に連結して形成できるので、上記実施例3と同様の効果を奏する(段落[0063]参照)。
加えて、既製コンクリート杭14は従来通りの製法、品質管理、および輸送方法のまま、鋼管40(分割コルゲート鋼板31)の厚さを2.3mm〜9.0mmの範囲内で変化させるだけで、所望の(曲げ)強度を有する外殻鋼管付きコンクリート杭を実現できる。即ち、同一径(単一種類)の既製コンクリート杭14から多様な曲げ強度を有するバリエーションに富む外殻鋼管付きコンクリート杭を実現できるので、柔軟性に優れ、経済的、且つ合理的である。
合成コルゲート鋼管40と既製コンクリート杭14との付着力を確認でき、且つ該鋼管40と既製コンクリート杭14とを確実に同心配置にして生産できるので、品質性に優れた外殻鋼管付きコンクリート杭を提供することができる。
【0079】
また、実施例4に係る外殻鋼管付きコンクリート杭を外力抵抗部材(支持杭、護岸構成部材等)として設置してなる土木構造物(堰堤、護岸等)を実施する場合は、上記実施例1に倣い、板厚が厚い方の隣接する分割コルゲート鋼板31a、31aを外力が作用する向き、或いは摩耗の影響が大きい向きに配置して設置できるので、やはり上記実施例1と同様の効果を奏する(図6〜図8を援用して参照、及び段落[0033]、[0034]参照)。
【0080】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【符号の説明】
【0081】
1 分割円弧鋼板
1a 板厚が厚い分割円弧鋼板
1b 板厚が薄い分割円弧鋼板
1c 継手部(雄型継手)
1d 継手部(雌型継手)
7 端板
7 開口部
8 形状保持部材
9 台木
10 鋼管
11 コンクリート
12 上型枠
13 下型枠
2 堰堤
3 河川護岸
4 堤防
14 既製コンクリート杭
15 充填材
16 リング材
16a 注入孔
16b 排出孔
16c 充填確認用の孔
17、17a、17b 組立台(H形鋼)
18 ずれ止め材(角材)
19 ナイロンスリング
20 間隔調整ボルト
21 スチールバンド
31 分割コルゲート鋼板
31a 板厚が厚い分割コルゲート鋼板
31b 板厚が薄い分割コルゲート鋼板
32 ドリルねじ
33 端板
33a 開口部
34 形状保持部材
35 リング材
35a 注入孔
35b 排出孔
35c 充填確認用の孔
37 スペーサー
40 鋼管(合成コルゲート鋼管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート杭の外殻を形成する鋼管は、周方向に複数に分割された分割鋼板を周方向に連結して円筒形状に形成されてなること、
前記分割鋼板のうち1枚または複数枚の分割鋼板は、残りの分割鋼板より板厚が厚いことを特徴とする、外殻鋼管付きコンクリート杭。
【請求項2】
前記分割鋼板は、その両側縁に継手部が形成された杭軸方向に一定の長さを有する分割円弧鋼板であり、前記外殻を形成する鋼管は、当該分割円弧鋼板を前記継手部を介し周方向に連結して円筒形状に形成されていること、
前記円筒形状に形成された鋼管の杭軸方向の両端部にコンクリート注入用の開口部を有する端板が接合され、当該鋼管の内側面にコンクリートがライニングされてなることを特徴とする、請求項1に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭。
【請求項3】
前記コンクリート杭は既製コンクリート杭であること、
前記分割鋼板は、その両端縁に継手部が形成された杭軸方向に前記既製コンクリート杭と同等長さを有する分割円弧鋼板であり、前記外殻を形成する鋼管は、当該分割円弧鋼板を前記継手部を介し周方向に連結して円筒形状に形成されていること、
前記円筒形状に形成された鋼管の内側には、前記既製コンクリート杭が充填材を充填する隙間を確保してほぼ同心の配置に設けられ、当該鋼管と既製コンクリート杭とが形成する隙間に充填材が充填されてなることを特徴とする、請求項1に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭。
【請求項4】
前記分割円弧鋼板の両側縁に形成した継手部のうち、一側縁の継手部はU字状の雄型継手とされ、他側縁の継手部はU字状の雌型継手とされ、隣接する分割円弧鋼板の対応するU字状の雌型継手又はU字状の雄型継手と互いに連結されていることを特徴とする、請求項2又は3に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭。
【請求項5】
前記分割鋼板は、杭軸方向の全長にわたって周方向にコルゲート加工が施された分割コルゲート鋼板であり、前記外殻を形成する鋼管は、当該分割コルゲート鋼板を周方向の端部同士を重ね合わせ接合により連結して円筒形状に形成された合成コルゲート鋼管からなり、
前記合成コルゲート鋼管の杭軸方向の両端部にコンクリート注入用の開口部を有する端板が接合され、当該合成コルゲート鋼管の内側面にコンクリートがライニングされてなることを特徴とする、請求項1に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭。
【請求項6】
前記コンクリート杭は既製コンクリート杭であること、
前記分割鋼板は、杭軸方向の全長にわたって周方向にコルゲート加工が施された分割コルゲート鋼板であり、前記外殻を形成する鋼管は、当該分割コルゲート鋼板を周方向の端部同士を重ね合わせ接合により連結して円筒形状に形成された合成コルゲート鋼管からなり、
前記合成コルゲート鋼管の内側には、前記既製コンクリート杭がほぼ同心の配置に設けられ、当該合成コルゲート鋼管と既製コンクリート杭とが形成する隙間に充填材が充填されてなることを特徴とする、請求項1に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭。
【請求項7】
前記複数の分割コルゲート鋼板の周方向の端部同士は、ドリルねじで重ね合わせ接合されることを特徴とする、請求項5又は6に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭。
【請求項8】
前記分割鋼板の板厚は、2.3mm〜9.0mm、或いは板厚径比が1%未満であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれかに記載の外殻鋼管付きコンクリート杭を、外力が一方向のみに作用する部位に外力抵抗部材として設置してなる堰堤、護岸等の土木構造物であって、
前記外殻鋼管付きコンクリート杭は、円筒形状に形成された鋼管を形成する分割鋼板のうち、板厚が厚い1枚または複数枚の分割鋼板を、外力が作用する側に向けて設置されていることを特徴とする、外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物。
【請求項10】
前記板厚が厚い1枚または複数枚の分割鋼板は、前記円筒形状に形成された鋼管をほぼ半割りしたに等しい半円筒状に形成されていることを特徴とする、請求項9に記載した外殻鋼管付きコンクリート杭を用いた土木構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2013−2147(P2013−2147A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134491(P2011−134491)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】