説明

外用剤、育毛剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤

【課題】新規な外用剤、育毛剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤、NFATシグナル阻害方法及びカルシニューリン活性阻害方法を提供する。
【解決手段】外用剤、育毛剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤は、アメリカンアンジェリカ植物又は当該植物の根をエタノール水溶液を用いて前洗浄を1〜9回行った後、25〜45Vol%エタノール水溶液を用いて抽出した、抽出物を有効成分としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物又は植物抽出物を有効成分とする、外用剤、育毛剤、NFAT(nuclear factor of activated T cells)シグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Nuclear factor of activated T cells (以下、NFATと略称する)は、T細胞活性化に重要なInterleukin-2(IL-2)の転写を活性化する因子として発見され、免疫抑制剤であるサイクロスポリンA(以下、CsAと略称する)やタクロリムス(以下、FK506と略称する)の標的であるセリン/スレオニン脱リン酸化酵素カルシニューリンによりその転写活性調節が行われていることが報告されている(図2参照)。すなわちCsAやFK506はNFATシグナルを阻害することによりT細胞活性化を抑制する。CsAやFK506は移植免疫抑制剤としてのみならず、免疫系の関与することが知られている関節リウマチ、乾癬、アトピー性皮膚炎の治療薬としても認可されている。このようなNFATがNFAT結合配列(図2においては“NFAT site”)に結合することによって、当該NFAT結合配列より下流の遺伝子の転写が促進される系を『NFATシグナル』と称する。
【0003】
一方、NFATシグナルを阻害することによって育毛(発毛を含む)効果を期待できると報告されている(非特許文献1)。また、NFATシグナルを阻害するCsAの誘導体が育毛剤として使用可能であることも報告されている(特許文献1及び2)。
【0004】
また、NFATは、育毛作用や免疫系への作用に留まらず、心筋・骨格筋の分化調節による筋組織形成、脳における神経ネットワークの形成、骨芽細胞分化調節による骨代謝など、多くの臓器で発現し、重要な役割を果たす"多機能転写因子"として捉えられるようになってきた。
【0005】
NFATシグナルが生体において及ぼす役割としては上述したとおりであるが、NFATシグナルを阻害することで、免疫抑制作用(非特許文献2)、乾癬治療(非特許文献3)、アトピー性皮膚炎治療(非特許文献4)、(心)筋肥大抑制(非特許文献5)、抗リウマチ薬としての可能性(非特許文献6)及び破骨細胞分化抑制作用(非特許文献7)などが期待できると報告されている。また、前述のようにNFATは免疫性サイトカインIL-2を産生する経路を介していることから、NFATシグナル阻害剤は自己免疫疾患を含む免疫性サイトカインが関与していると考えられる疾患の治療または予防に有用である。かかる対象疾患としては、例えば各種のガン、各種白血病、各種肝炎、各種感染症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、消化性潰瘍、敗血症ショック、結核、不妊症、動脈硬化、ベーチェット病、喘息、腎炎、急性バクテリア髄膜炎、急性心筋梗塞、急性膵炎、急性ウイルス脳炎、成人呼吸促迫症候群、バクテリア肺炎、慢性膵炎、末梢血管疾患、敗血症、間質性肝疾患、時局性回腸炎、多発性硬化症などが挙げられる。したがって、新規にNFATシグナル阻害剤が同定されれば、免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、(心)筋肥大抑制剤、抗リウマチ薬、骨代謝疾患治療剤及び、上記に列記したような新規な医薬用途が期待される。また、新規にNFATシグナル阻害剤が同定されれば、育毛剤、発毛促進剤としての医薬部外品や化粧品用途が期待される。
【0006】
一方、アンジェリカ属に属する植物については、その抽出物に育毛、発毛或いは養毛効果が認められるという報告もある(特許文献3〜6)。具体的に特許文献3には、カラトウキ(Angelica sinensis)抽出物を含む養毛・育毛剤が開示されている。特許文献4には、Angelica glaucaの精油を含有する養毛剤が開示されている。特許文献5には、ビャクシ(Angelica dahurica Benth. Et Hook.)の抽出物を含有する発毛・育毛促進料が開示されている。特許文献6にはアシタバ(Angelica Keiskei Koidz)の抽出物を含む育毛養毛等美髪料が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらアンジェリカ属に属する植物又はその抽出物について、NFATシグナルとの関連について示唆するものはない。さらに、これら育毛、発毛或いは養毛効果について満足できるものではないといった問題があった。
【0008】
【特許文献1】WO 01/035914(特表2003-514000号公報)
【特許文献2】WO 2004/041221(特表2006-508103号公報)
【特許文献3】特許3527584号
【特許文献4】特開2005-89392号公報
【特許文献5】特開平1-38013号公報
【特許文献6】特開昭63-145216号公報
【非特許文献1】Gafter-Gvili A, Sredni B, Gal R, Gafter U, and Kalechman Y、"Cyclosporin A-induced hair growth in mice is associated with inhibition of calcineurin-dependent activation of NFAT in follicular keratinocytes" Am J Physiol Cell Physiol, 284: C1593-C603, 2003
【非特許文献2】Lee M and Park J、"Regulation of NFAT activation: a potential therapeutic target for immunosuppression" Mol Cells, 22: 1-7, 2006
【非特許文献3】Feldman S、"Advances in psoriasis treatment" Dermatol Online J, 6: 4, 2000
【非特許文献4】Hultsch T、"Immunomodulation and safety of topical calcineurin inhibitors for the treatment of atopic dermatitis" Dermatology, 211: 2, 2005
【非特許文献5】Molkentin JD, Lu JR, Antos CL, Markham B, Richardson J, Robbins J, Grant SR, and Olson EN、"A calcineurin-dependent transcriptional pathway for cardiac hypertrophy" Cell, 93: 215-228, 1998
【非特許文献6】Urushibara M, Takayanagi H, Koga T, Kim S, Isobe M, Morishita Y, Nakagawa T, Loeffler M, Kodama T, Kurosawa H, and Taniguchi T、" Antirheumatic drug, leflunomide, inhibits osteoclastgenesis by interfering with RANKL-stimulated induction of NFATc1" Arthritis and Rheumatism, 50: 794-804, 2004
【非特許文献7】Takayanagi H, Kim S, Koga T, Nishina H, Isshiki M, Yoshida H, Saiura A, Isobe M, Yokochi T, Inoue J, Wagner EF, Mak TW, Kodama T, and Taniguchi T、" Induction and activation of the transcription factor NFATc1 (NFAT2) integrate RANKL signaling in termial differentiation of osteoclasts" Developmental Cell, 3: 889-901, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、新規な外用剤、育毛剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤、NFATシグナル阻害方法及びカルシニューリン活性阻害方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、NFATシグナル伝達に対する作用を評価する系を新規に構築し、当該系を用いて種々の植物についてNFATシグナル阻害作用を網羅的に解析した結果、NFATシグナル阻害作用を有するとともに、育毛剤としての奏功、外用剤としての奏功及びカルシニューリン阻害作用を有する植物を同定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る外用剤、育毛剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤は、アメリカンアンジェリカ植物又は当該植物の抽出物を有効成分としている。
【0012】
特に、本発明に係る外用剤、育毛剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤としては、アメリカンアンジェリカの根の抽出物を含有することが好ましい。ここで抽出物としては、アルコール抽出物であることが好ましく、特にエタノール抽出物であることがより好ましい。また、アメリカンアンジェリカのエタノール抽出物としては、アメリカンアンジェリカ植物をエタノール水溶液を用いて前洗浄を行った後、エタノールを用いて抽出したものであることが更に好ましい。前洗浄の回数としては、1回でも良いし複数回でもよい。特に複数回の前洗浄を行うことが好ましい。なお、前洗浄の回数について特に上限はないが、例えば9回以下のとすることができる。また、前洗浄の際に使用するエタノール水溶液としては、特に限定されないが、25〜45Vol%エタノール水溶液を使用することが好ましい。
【0013】
上述したNFATシグナル阻害剤を対象の細胞又は組織に接触させることによって、当該細胞又は組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。また、上述したカルシニューリン阻害剤を対象の細胞又は組織に接触させることによって、当該細胞又は組織におけるカルシニューリン活性を阻害することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有効性が実証された新規な外用剤、育毛剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤を提供することができる。また、本発明にかかるNFATシグナル阻害剤によれば、NFATによって正に制御される転写を抑制することができる。さらに、本発明にかかるカルシニューリン阻害剤によれば、NAFTを活性化するカルシニューリン活性を抑制することができる。また、本発明に係る育毛剤、外用剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤は、有効成分として天然物質に由来するものを含有することから安全に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る外用剤、育毛剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤は、アメリカンアンジェリカ植物又は当該植物の抽出物を有効成分としている。ここで、アメリカンアンジェリカとは、学名をAngelica atropurpureaと称し、セリ科に分類される植物である。なおアメリカンアンジェリカは、NFATシグナル阻害作用、カルシニューリン阻害作用及び育毛作用を有することが後述の実施例で新規に明らかとなった植物である。NFATシグナル阻害作用は、NFATシグナル阻害率を指標として評価することができる。アメリカンアンジェリカ抽出物においては、NFATシグナル阻害率が101.3%である。ここで、NFATシグナル阻害率とは、要するに、抽出物を作用させないときのNFATによる転写活性に対して、抽出物を作用させたときの当該転写活性の低下率を意味している。
【0016】
NFATシグナル阻害とは、NFATに対して直接的又は間接的に作用してNFATによる転写促進活性を低減させることを意味する。NFATシグナル阻害作用を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば公知のNFAT結合配列と当該NFAT結合配列の下流にレポーター遺伝子と有するプラスミドを導入した宿主を用いるレポーターアッセイを挙げることができる(図1参照)。なお、NFATの活性はカルシウムイオンに依存するため、レポーターアッセイはカルシウムイオンを宿主に流入させる条件下で行う。レポーター遺伝子としては、特に限定されず、従来、生化学実験の分野で使用されている如何なるレポーター遺伝子も使用することができる。例えばレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子(GUS遺伝子)及びグリーンフルオレセントプロテイン遺伝子(GFP遺伝子)等を挙げることができる。
【0017】
NFAT結合配列とは、NFATが結合する配列からなるオリゴヌクレオチド、例えば、GGAGGAAAAACTGTTTCATACAGAAGGCGT(pNFAT-Luc、Stratagene、配列番号1)といった塩基配列を例示することができる。なお、上述したプラスミドにおいては、このようなNFAT結合配列を1セットとして複数セットを連結して導入してもよい。複数のNFAT結合配列を連結して使用することによって、NFATによる転写促進活性をより高感度に測定することができる。なお、上述したNFATシグナル阻害率は、上述したレポーターアッセイから算出した値である。
【0018】
また、カルシニューリン阻害作用は、カルシニューリンによる脱リン酸化活性の阻害率を指標として評価することができる。アメリカンアンジェリカ抽出物においては、カルシニューリン活性阻害率が43.5%である。ここで、カルシニューリン活性阻害率とは、要するに、抽出物を作用させないときのカルシニューリンによるリン酸化ペプチド(基質)の脱リン酸化活性に対して、抽出物を作用させたときの当該脱リン酸化活性の低下率を意味している。
【0019】
カルシニューリン(Ca2+/calmodulin-regulated Ser/Thr phosphatase)は、Ca2+が介在するシグナル伝達系に関わっており、NFATを含む特定のリン酸化蛋白質の特定のリン酸基を遊離させる。カルシニューリン阻害作用を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば公知のカルシニューリンの基質となるリン酸化蛋白質又はペプチドを基質として用い、基質からのリン酸基の遊離を検出する方法を挙げることができる。カルシニューリンの基質となるリン酸化ペプチドとしては、例えば、RIIリン酸化ペプチド(DLDVPIPGRFDRV[pS]VAAE)を挙げることができる。したがって、カルシニューリン阻害活性は、カルシニューリン及び基質の存在下に抽出物を作用させ、このとき遊離したリン酸を測定することにより測定できる。遊離したリン酸は、特に限定されないが、例えばマラカイトグリーン試薬を用いて定量することができる。
【0020】
また、育毛作用は、毛伸長速度を指標として評価することができる。アメリカンアンジェリカ抽出物においては、毛伸長促進率が113.1%である。ここで、毛伸長促進率とは、要するに、抽出物を作用させないときの毛伸長率に対して、抽出物を作用させたときの当該毛伸長率の促進率を意味している。
【0021】
育毛作用とは、毛包に作用し、毛の伸長の促進、太さの増大、毛周期の休止期から成長期への移行促進、成長期から退行期への移行阻害を行なうことにより毛の量を増加させることを意味する。従って、育毛には、発毛、養毛及び脱毛予防の概念が包含されるものとする。育毛作用を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば単離毛包を器官培養し、培養期間中の毛の伸長量を測定する方法が挙げられる。
【0022】
特に、本発明に係る育毛剤、外用剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤は、アメリカンアンジェリカ植物における全草、葉、茎、花、果実、種子、根茎又は根等をそのまま含むものとすることができる。あるいは本発明に係る育毛剤、外用剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤は、当該植物の全草、葉、茎、果実、種子、根茎又は根等を粉砕して用いたものを含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る育毛剤、外用剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤は、アメリカンアンジェリカの根を使用することが好ましい。本発明に係る育毛剤、外用剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤として植物抽出物を有効成分とする場合、植物抽出物は、植物を常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる。本発明において、植物の抽出物とは、上記抽出方法で得られた各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味する。
【0024】
植物の抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤又は非極性溶剤のいずれをも使用することができる。抽出溶剤としては、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び二酸化炭素等が挙げられる。あるいは、上記溶剤の2種以上を組み合わせた混合物、例えば20〜80%エタノール水溶液、ベンゼン:酢酸エチル(4:1)混合液、1,3−ブチレングリコール水溶液として利用することもできる。
【0025】
本発明に係る育毛剤、外用剤、NFATシグナル阻害剤及びカルシニューリン阻害剤として植物抽出物を有効成分とする場合、抽出溶剤としては、無水アルコールが好ましく、特に無水エタノールを使用することが特に好ましい。本発明に係るNFATシグナル阻害剤としては、上記植物の抽出物を、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、上記植物等の抽出物をクロマトグラフィー液々分配等の分離技術に供し、当該抽出物から不活性な夾雑物を除去したものを用いることもできる。
【0026】
特に、上述した植物抽出物を調製する際には、アメリカンアンジェリカ植物をエタノール水溶液を用いて前洗浄を行った後、エタノールを用いて抽出することが好ましい。エタノール水溶液を用いた前洗浄を行うことによって、光感作性物質を有意に除去することができる。ここで光感作性物質としては、例えば8−メトキシソラレン(8−MOP)や5−メトキシソラレン(5−MOP)を挙げることができる。なお、前洗浄の際に使用するエタノール水溶液としては、特に限定されないが、例えば10〜60Vol%エタノール水溶液を使用することができる。また、抽出に用いるエタノールは、前洗浄に使用するものよりエタノール含量が高い方が好ましく、無水エタノールがより好ましい。
【0027】
さらに、光感作性物質を検出限界以下といった水準まで低減させるには、25〜45Vol%エタノール水溶液を用いた前洗浄を複数回、例えば3回以上行うことが好ましい。なお、前洗浄の回数としては特に限定されないが、有効成分による育毛活性、NFATシグナル阻害活性、カルシニューリン阻害活性を高く維持するためには、9回以内とすることが好ましい。すなわち、25〜45%エタノールを用いた前洗浄を2〜9回行うことで、光感作物質を大幅に低減するとともに、育毛活性、NFATシグナル阻害活性、カルシニューリン阻害活性を高く維持することができる。
【0028】
上述した有効成分は、NFATによる転写促進活性を低減させることから、細胞や組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。具体的には、上述した有効成分を、対象とする細胞や組織に接触させることによって、当該細胞や組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。これにより、当該細胞や組織においては、NFATシグナルによって生ずる種々の遺伝子発現を転写レベルで抑制することができる。
【0029】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、NFATによる転写促進活性を低減させることから、育毛剤又は発毛促進剤として使用できる。また、NFATによる転写促進活性の亢進に起因する症状や疾患に対する治療剤、又は予防剤として使用することができる。NFATによる転写促進活性の亢進に起因する症状や疾患としては、免疫系疾患、乾癬、アトピー性皮膚炎、心筋を含む筋肥大症、リウマチ、骨代謝疾患、各種のガン、各種白血病、各種肝炎、各種感染症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、消化性潰瘍、敗血症ショック、結核、不妊症、動脈硬化、ベーチェット病、喘息、腎炎、急性バクテリア髄膜炎、急性心筋梗塞、急性膵炎、急性ウイルス脳炎、成人呼吸促迫症候群、バクテリア肺炎、慢性膵炎、末梢血管疾患、敗血症、間質性肝疾患、時局性回腸炎、多発性硬化症等を挙げることができる。したがって、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、免疫抑制剤、乾癬治療剤、(心)筋肥大抑制剤、抗リウマチ薬及び骨代謝疾患治療剤等として使用することができる。
【0030】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬用途として使用する場合、剤形として、特に限定されないが、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、軟膏剤等が挙げられる。本発明に係るNFATシグナル阻害剤を経口投与の医薬用組成物として使用する場合、上記NFATシグナル阻害剤の他、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加し、常法に従って製造することができる。経口投与用医薬組成物としては、免疫抑制剤、乾癬治療剤、(心)筋肥大抑制剤及び抗リウマチ薬等が挙げられる。本発明に係るNFATシグナル阻害剤を経皮投与の医薬用組成物として使用する場合、上記NFATシグナル阻害剤の他、経皮投与剤の形態に応じて一般に用いられる、植物油、動物油、合成油、脂肪酸、及び天然、合成のグリセライド等の油性基剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、増粘剤等を添加し、常法に従って製造することができる。経皮投与用医薬組成物としては、免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、発毛促進剤等が挙げられる。
【0031】
一方、上述した有効成分は、カルシニューリンの活性を低減させることから、細胞や組織におけるカルシニューリンが関与するシグナル伝達を阻害することができる。具体的には、上述した有効成分を、対象とする細胞や組織に接触させることによって、当該細胞や組織におけるカルシニューリンが関与するシグナル伝達を阻害することができる。これにより、当該細胞や組織においては、カルシニューリンが関与するシグナル伝達によって生ずる種々のイベントを抑制することができる。
【0032】
本発明に係るカルシニューリン活性阻害剤は、カルシニューリンが関与するシグナル伝達を抑制することから、カルシニューリンが関与するシグナル伝達の亢進に起因する症状や疾患に対する治療剤、又は予防剤として使用することができる。カルシニューリンが関与するシグナル伝達の亢進に起因する症状や疾患としては、上記で例示したNFATによる転写促進活性の亢進に起因する症状や疾患の他に、各種のアレルギー性疾患、統合失調症などの精神疾患等を挙げることができる。
【0033】
本発明に係るカルシニューリン活性阻害剤を医薬用途として使用する場合、剤形として、特に限定されないが、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等が挙げられる。本発明に係るカルシニューリン活性阻害剤を経口投与の医薬用組成物として使用する場合、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加し、常法に従って製造することができる。経口投与用医薬組成物としては、免疫抑制剤、乾癬治療剤、(心)筋肥大抑制剤及び抗リウマチ薬等が挙げられる。本発明に係るカルシニューリン活性阻害剤を経皮投与の医薬用組成物として使用する場合、上記NFATシグナル阻害剤の他、経皮投与剤の形態に応じて一般に用いられる、植物油、動物油、合成油、脂肪酸、及び天然、合成のグリセライド等の油性基剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、増粘剤等を添加し、常法に従って製造することができる。経皮投与用医薬組成物としては、免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、発毛促進剤等が挙げられる。
【0034】
また、本発明に係る外用剤及び育毛剤は、例えば皮膚用の医薬部外品として使用するものであり、使用形態に適した剤形として提供される。具体的に剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、軟膏、水剤、エキス剤、ローション剤、トニック剤、スプレー剤及び乳剤等が挙げられる。当該医薬部外品には、植物の抽出物の他に、助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、吸収促進剤及び界面活性剤等の薬学的に許容される担体を任意に組合せて配合することができる。また、育毛剤においては、上述した有効成分の他に、通常用いられる養毛薬効剤、例えば、毛包賦活剤、血行促進剤、抗菌剤、抗炎症剤、保湿剤、抗脂漏剤、局所刺激剤、抗男性ホルモン剤、カリウムチャンネルオープナー、抗酸化剤等を必要に応じて適宜配合し、育毛効果の向上を図ることができる。毛包賦活剤としては、フラバノノール類、N -アセチル- L -メチオニン、パントテン酸及びその誘導体、アデノシン及びその誘導体、アスパラギン酸カリウム、ペンタデカン酸グリセリド、6 -ベンジアルアミノプリン、モノニトログアヤコールナトリウム等が挙げられる。血行促進剤としては、二酸化炭素、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジル、センブリエキス、ニンジンエキス、塩化カルプロニウム、ビタミンE及びその誘導体等が挙げられる。抗菌剤としては、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、オクトピロックス、ジンクピリチオン、ヒノキチオール等が挙げられる。抗炎症剤としては、甘草エキス、グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、アズレン、グアイアズレン、オウゴンエキス、カミツレエキス、クマザサエキス、シラカバエキス、ゼニアオイエキス、桃葉エキス、セイヨウノコギリソウエキス等が挙げられる。保湿剤としては、オトギリソウエキス、オーツ麦エキス、グリセリン、チューベロースポリサッカライド、冬虫夏草エキス、延命草エキス、オオムギエキス、ブドウエキス、プロピレングリコール、桔梗エキス、ヨクイニンエキス等が挙げられる。抗脂漏剤としては、イオウ、レシチン、カシュウエキス、チオキソロン等が挙げられる局所刺激剤としては、カンファー、トウガラシチンキ等が挙げられる。抗男性ホルモン剤としては、サイプロテロンアセテート、1 1α -ハイドロキシプロゲステロン、フルタマイド、3 -デオキシアデノシン、酢酸クロルマジノン、エチニルエストラジオール、スピロノラクトン、エピテステロン、フィナステライド、アロエ、サンショウ、チョウジエキス、クアチャララーテエキス、オタネニンジン等が挙げられる。カリウムチャンネルオープナーとしては、ミノキシジル、クロマカリム、ジアゾキシド及びその誘導体、ピナシジル等が挙げられる。抗酸化剤としては、紅茶エキス、茶エキス、エイジツエキス、黄杞エキス、ビタミンC及びその誘導体、エリソルビン酸、没食子酸プロピル、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0035】
一方、上述した有効成分は化粧料として使用することもできる。この場合には、剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、ローション、ジェル、フォーム、エッセンス、ファンデーション、パック、スティック及びパウダー等が挙げられる。当該化粧料には、植物の抽出物の他に、化粧料成分として一般に使用されている油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料及び各種皮膚栄養剤等を任意に組合せて配合することができる。具体的には、皮膚化粧料に配合される薬効成分、例えば微粒子酸化亜鉛、酸化チタン、パーソールMCX、パーソール1789等の紫外線吸収剤、アスコルビン酸等のビタミン類、ヒアルロン酸ナトリウム、ワセリン、グリセリン、尿素等の保湿剤、ホルモン剤、及びコウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス、ルシノール等の他の美白成分、ステロイド剤、アラキドン酸代謝物やヒスタミン等に代表される化学伝達物質産生・放出抑制剤(インドメタシン、イブプロフェン)、レセプター拮抗剤等の抗炎症剤、抗男性ホルモン剤、ビタミンA酸、ローヤルゼリーエキス、ローヤルゼリー酸等の皮脂分泌抑制剤、ニコチン酸トコフェロール、アルプロスタジル、塩酸イソクスプリン、塩酸トラゾリン等の抹消血管拡張剤及び末梢血管拡張作用のある炭酸ガス等、ミノキシジル、塩化カルプロニウム、トウガラシチンキ、ビタミンE誘導体、イチョウエキス、センブリエキス等の血行促進剤、ペンタデカン酸グリセリド、ニコチン酸アミド等の細胞賦活化剤、ヒノキチオール、L-メントール、イソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、セラミド及びセラミド類似化合物等を添加配合することができる。
【0036】
上述した有効成分を医薬、医薬部外品又は化粧料として使用する場合、植物の抽出物の配合量は、乾燥物として計算して、通常、医薬、医薬部外品又は化粧料の全組成の0.00001〜5重量%、特に0.0001〜0.1重量%とすることが好ましい。また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬として用いる場合、植物の抽出物の塗布量は、通常の成人で固形分残量にして0.01mg〜1g/1日とすることが望ましい。なお、本発明に係る皮膚外用剤は、有効成分の含有量により異なるが、例えばクリーム状、軟膏状の場合には皮膚面1cm2当たり1〜20mg、液状製剤の場合には同じく1〜20mg使用するのが好ましい。
【0037】
また、上述した有効成分を化粧品、医薬又は医薬部外品として使用する場合、例えばチョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム、コロイドシリカナトリウムポリアクリレート等の粉体;例えば鉱油、植物油、シリコーン油等の油又は油状物質;例えばソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノオレエート、高分子シリコーン界面活性剤等の乳化剤;パラ−ヒドロキシベンゾエートエステル等の防腐剤;ブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤;グリセロール、ソルビトール、2−ピロリドン−5−カルボキシレート、ジブチルフタレート、ゼラチン、ポリエチレングリコール等の湿潤剤;トリエタノールアミン又は水酸化ナトリウムのような塩基を伴う乳酸等の緩衝剤;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の界面活性剤;密ろう、オゾケライトワックス、パラフィンワックス等のワックス類;増粘剤;活性増強剤;着色料;香料等、を必要に応じ適宜組合せて用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕 植物抽出物の製造
本実施例では、アメリカンアンジェリカの抽出物を製造した。アメリカンアンジェリカの根(アメリカ合衆国産)を10gとり、100mLの95%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液80mLを得た。蒸発残分0.7w/v%であった。
【0040】
〔実施例2〕 NFATシグナル阻害効果
本例では、NFATシグナル阻害効果を検証するための評価システムを構築し、当該評価システムを用いて実施例1で製造した植物抽出物についてのNFATシグナル阻害効果を検証した。
【0041】
(1)評価システムのための材料及び方法
細胞培養
上記評価システムには、ヒト腎(HEK293)細胞をATCC(American Type Culture Collection)より購入し、使用した。HEK293細胞は、DMEM(High glucose、10% heat-inactivated FBS)中37℃、5% CO2条件下で培養した。
【0042】
プラスミド、トランスフェクション
上記評価システムには、NFAT結合配列の下流にホタルルシフェラーゼが導入されたプラスミドpNFAT-Luc(Stratagene)をHEK293細胞にトランスフェクションしたものを使用した。詳細には、NFAT転写活性の評価用に4連のNFAT結合配列の下流にホタルルシフェラーゼ遺伝子が導入されたpNFAT-luc(STRATAGENE)をHEK293細胞にトランスフェクションした。また、トランスフェクション効率によるばらつきをなくすことを目的として、ホタルルシフェラーゼに由来するシグナルを補正するためにCMV promoterの下流にウミシイタケルシフェラーゼが導入されたpRL-CMV(Promega)を同時にトランスフェクションした。
【0043】
トランスフェクションは、LipofectAMINE 2000 reagent(Invitrogen)を用いて使用説明書に従って行った。トランスフェクションの8時間後に培地を交換し、一晩インキュベートした。その後、実施例1で製造した植物抽出物を添加(0.5 vol%)し、その1時間後に1μM Ionomycinを添加した。8時間後、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。Ionomycinは、カルシウムイオンに特異的なイオノフォアであり、細胞内にカルシウムイオンを流入させる薬剤として知られている。Ionomycin添加により、カルシウムイオン依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンが活性化し、それに伴ってNFATの転写活性が上昇することから、本システムはNFATシグナル活性化阻害剤を探索するのに適していると考えられる。
【0044】
ルシフェラーゼレポーターアッセイ
ルシフェラーゼレポーターアッセイは、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega)を用い、使用説明書に従って行った。すなわち、培地を除去後、PBSにより2倍希釈したDual-Glo luciferase reagentを加え、攪拌した後、20分後にホタルルシフェラーゼ活性を測定した。その後、等量のDual-Glo Stop&Glo reagentを加え、攪拌した後にウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性測定はMiniLumat LB 9506(EG&G BERTHOLD)を用いて行い、ルシフェラーゼによる発光量を定量的に検出した。双方ともルシフェラーゼ活性の測定時間は2秒とした。
【0045】
NFATシグナル阻害率の算出
全てのNFAT転写活性(ホタルルシフェラーゼ活性)はトランスフェクション効率補正のために導入されたウミシイタケルシフェラーゼ活性にて除することで補正した。その後、NFATシグナル阻害率を以下の式にて算出した。
NFATシグナル阻害率(%)=100−(試験サンプル及びIonomycin添加群−無刺激群)/(Ionomycinのみ添加群−無刺激群)×100
上記計算により、Ionomycin刺激によるNFATシグナル活性化をテストサンプルが何%阻害したかについて算出することができる。
【0046】
結果
実施例1で製造したアメリカンアンジェリカ抽出物によるNFATシグナル阻害率は101.3%であった。この結果からアメリカンアンジェリカ抽出物がNFATシグナルを阻害することが明らかとなった。すなわち、アメリカンアンジェリカ抽出物は、NFATにより正に制御される転写を抑制することができる。したがって、実施例1で製造したアメリカンアンジェリカ抽出物は優れたNFATシグナル阻害剤であり、例えば免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、育毛剤、発毛促進剤、(心)筋肥大抑制剤及び抗リウマチ薬等の候補物質として同定されたこととなる。
【0047】
〔実施例3〕 アンジェリカ属植物におけるNFATシグナル阻害率の比較
本例では、種々のアンジェリカ属に属する植物の抽出物を調製し、NFATシグナル阻害作用について比較検討した。本例では以下のように抽出物を調製した。
【0048】
<アメリカンアンジェリカ>
アメリカンアンジェリカ(Angelica atropurpurea)の乾燥根(アメリカ産)を8gとり、80mLの95vol%エタノールを加え、室温7日間静置抽出後、ろ過して抽出液(蒸発残分1.0w/v%)を得た。
【0049】
<トウキ>
トウキ(Angelica acutiloba)の乾燥根茎(日本産)を8gとり、80mLの95vol%エタノールを加え、室温7日間静置抽出後、ろ過して抽出液(蒸発残分0.6w/v%)を得た。
【0050】
<アシタバ>
アシタバ(Angelica keiskei)の乾燥葉(日本産)を8gとり、80mLの95vol%エタノールを加え、室温7日間静置抽出後、ろ過して抽出液(蒸発残分1.9w/v%)を得た。
【0051】
<ビャクシ>
ビャクシ(Angelica dahurica)の乾燥根茎(中国産)を8gとり、80mLの95vol%エタノールを加え、室温7日間静置抽出後、ろ過して抽出液(蒸発残分0.5w/v%)を得た。
【0052】
<カラトウキ>
カラトウキ(Angelica sinensis)の乾燥根茎(中国産)を8gとり、80mLの95vol%エタノールを加え、室温7日間静置抽出後、ろ過して抽出液(蒸発残分0.7w/v%)を得た。
【0053】
<ヨーロッパトウキ>
ヨーロッパトウキ(Angelica archangelica)(フランス産)を8gとり、80mLの95vol%エタノールを加え、室温7日間静置抽出後、ろ過して抽出液(蒸発残分1.0w/v%)を得た。
【0054】
以上のように調製した6種類のアンジェリカ属植物抽出物を用いて、実施例2と同様にしてNFATシグナル阻害率を算出した。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から解るように、アンジェリカ属植物のなかでもアメリカンアンジェリカ抽出物は、他のアンジェリカ属植物抽出物と比較してNFATシグナル阻害率が顕著に高い値を示した。この結果から、アメリカンアンジェリカ抽出物は、他のアンジェリカ属植物抽出物と比較して優れたNFATシグナル阻害剤であり、例えば免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、育毛剤、発毛促進剤、(心)筋肥大抑制剤及び抗リウマチ薬等の有力な候補物質として同定されたこととなる。
【0057】
〔実施例4〕
本例では、対象物質の育毛効果を検証できるin vitroの実験系を用いて実施例1で製造した植物抽出物の育毛効果を検証した。
【0058】
ブタ毛包器官培養による毛伸長評価
食肉用豚種の臀部皮膚を適当な大きさに切り分け、余分な脂肪組織を除いた。豚皮は無菌下でヒビテン液(5%ヒビテン液(住友製薬)を水で5〜20倍に希釈)に5分〜10分浸することにより消毒を行った後にD-PBSで数回洗浄した。その後、実体顕微鏡下にて洗浄した豚皮から毛包を単離してWilliam's Medium E培地(Invitrogen)培地中に集めた。
【0059】
単離した毛包は、1ウェルあたり400μlのWilliam's Medium E培地(1% Penicillin-Streptomycin 溶液(Invitrogen)添加)が入った24ウェル培養プレートに1本ずつ入れた。毛包は37℃、5% CO2条件下にて8日間培養し、その間、1日または2日おきに培地の交換を行った。
【0060】
上記の培地に実施例1で製造したアメリカンアンジェリカ抽出物を添加(固形分濃度0.0001重量%)し、溶媒コントロールであるエタノール添加群とともに8日間培養した。培養を開始日(0日目)および8日目の実体顕微鏡画像をCCDカメラ(pixera model.No.PVC 100C)で撮影し、その画像から毛球部基底部から毛幹先端までの長さを測定した。その後、溶媒コントロール群の培養前後における毛伸長量を100%として実施例1で製造したアメリカンアンジェリカ抽出物添加群の毛伸長率を算出した。
【0061】
その結果、アメリカンアンジェリカ抽出物添加群においては、溶媒コントロール群と比較して113.1%の毛伸長率が認められた。この結果から、アメリカンアンジェリカ抽出物は育毛効果を有することが明らかとなった。すなわち、アメリカンアンジェリカ抽出物は、優れた育毛剤、育毛効果を有する外用剤として使用できることが明らかとなった。
【0062】
〔実施例5〕
本例では、対象物質のカルシニューリン阻害効果を検証できる市販のキットを実施例1で製造した植物抽出物のカルシニューリン阻害効果を検証した。
【0063】
カルシニューリン活性測定
カルシニューリン酵素活性は、リコンビナントヒトカルシニューリンを酵素とし、カルシニューリンの基質ペプチドとしてRIIリン酸化ペプチド(DLDVPIPGRFDRV[pS]VAAE)を基質として用いたCalcineurin assay kit(BIOMOL)を用い、キットに添付されたプロトコール通りに測定した。なお、実施例1で製造したアメリカンアンジェリカ抽出物は1 vol%にて使用した。実施例1で製造したアメリカンアンジェリカ抽出物のカルシニューリン活性阻害効果は、溶媒コントロールのカルシニューリン活性を100%とした時の阻害率として算出した。
【0064】
その結果、アメリカンアンジェリカ抽出物添加群においては、溶媒コントロール群と比較して43.5%であった。この結果から、アメリカンアンジェリカ抽出物はカルシニューリンの活性を阻害することが明らかとなった。すなわち、アメリカンアンジェリカ抽出物は、カルシニューリンが関与するシグナル伝達系を抑制することができる。したがって、実施例1で製造したアメリカンアンジェリカ抽出物は、優れたカルシニューリン活性阻害剤として使用できることが明らかとなった。
【0065】
〔実施例6〕
本例では、アメリカンアンジェリカを各種濃度のエタノール水溶液で前洗浄した後、植物抽出物を調製した。先ず、本例では、10〜60vol%エタノールを用いて単回前洗浄し、その後、植物抽出物(サンプル1〜6)を調製した。具体的には、5mm角に刻んだアンジェリカ根8gを(10〜60vol%)エタノール160mLに1昼夜攪拌浸漬した後、抽出液(洗浄液)を廃棄した。その後、無水エタノール80mLで3日間抽出することで抽出物を得た(下記、表2)。
【0066】
【表2】

【0067】
次に、本例では、30vol%エタノールを用いて単回或いは複数回前洗浄し、その後、植物抽出物(サンプル7〜17)を調製した。具体的には、5mm角に刻んだアンジェリカ根8gを30vol%エタノール80、160又は320mLに1昼夜攪拌浸漬し、抽出液(洗浄液)を廃棄する操作を計1〜9回繰り返し行った。その後、無水エタノール80mLで3日間抽出することで抽出物を得た(下記、表3)。
【0068】
【表3】

【0069】
なお、本例では、比較のために上述した前洗浄を行わずに植物抽出物を調製した(サンプル18)。すなわち、5mm角に刻んだアンジェリカ根8gを無水エタノール80mLで3日間抽出することで、サンプル18の抽出物を得た。
【0070】
以上のようにして準備したサンプル1〜18について、上述した実施例2と同様にしてNFATシグナル阻害活性を測定した。また、サンプル1〜18に含まれる光感作物質(5−MOP及び8−MOP)量をHPLC分析によ以下のように測定した。先ず、5−MOP或いは8−MOPをメタノールに所定量溶解し、それぞれについて1、5、10、100及び1000ppm溶液を調製した。続いて各溶液につき5μlをHPLC分析に供し、UV吸収面積より検量線を作成した。同一条件にて、サンプル1〜18を5μlずつHPLC分析に供し、UV吸収面積より検量線を用いて濃度を求めた。なお、いずれのサンプルも3回ずつ測定を行い、その平均値を用いた。HPLC分析には、Agilent 1100 Seriesを使用し、C18逆相カラム(Inertsil ODS−3 :4μM Φ2.1×150mm)にて、流速0.2mL/min、溶離液(アセトニトリル/0.1%ぎ酸=0/100(0min)→100/0(30min)→100/0(40min))、温度40℃、検出UV254nmの条件で測定した。なお、5−MOP及び8−MOPの保持時間は、それぞれ14.7min及び13.6minであった。
【0071】
サンプル1〜18について測定したNFATシグナル阻害活性並びに5−MOP濃度及び8−MOP濃度を表4に示した。
【0072】
【表4】

【0073】
表4から分かるように、エタノール水溶液を使用した前洗浄を行うことによって、光感作物質量を低減できることが明らかになった。特に、前洗浄としては、30〜40Vol%エタノールを用いることでNFATシグナル阻害活性を保持したまま、光感作性物質である8-MOP及び5-MOPの量を大幅に低減できることがわかった。さらに、表4からは、30〜40Vol%エタノールを用いた場合、複数回の前洗浄行うことによって、光感作物質を検出限界以下の水準まで低減できることがわかった。以上のように、本実施例によって、25〜45Vol%エタノール水溶液を用いた前洗浄を実施することにより、NFATシグナル阻害活性を高く維持しつつ、殆ど光感作性物質を有しない植物抽出物を調製できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】NFATシグナル阻害作用を測定する方法の一例として挙げたレポーターアッセイの概略構成図である。
【図2】NFATとNFAT結合部位との結合及びその下流の遺伝子転写促進を示す、NFATシグナルの概略構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アメリカンアンジェリカ植物又は当該植物の抽出物を有効成分とする外用剤。
【請求項2】
上記抽出物は、アメリカンアンジェリカの根の抽出物であることを特徴とする請求項1記載の外用剤。
【請求項3】
上記抽出物は、アメリカンアンジェリカ植物をエタノール水溶液を用いて前洗浄を行った後、エタノールを用いて抽出されたものであることを特徴とする請求項1記載の外用剤。
【請求項4】
上記前洗浄を1〜9回行ったものであることを特徴とする請求項3記載の外用剤。
【請求項5】
上記エタノール水溶液は、25〜45Vol%エタノール水溶液であることを特徴とする請求項3記載の外用剤。
【請求項6】
育毛用途であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項記載の外用剤。
【請求項7】
アメリカンアンジェリカ植物又は当該植物の抽出物を有効成分とする育毛剤。
【請求項8】
上記抽出物は、アメリカンアンジェリカの根の抽出物であることを特徴とする請求項7記載の育毛剤。
【請求項9】
上記抽出物は、アメリカンアンジェリカ植物をエタノール水溶液を用いて前洗浄を行った後、エタノールを用いて抽出されたものであることを特徴とする請求項7記載の育毛剤。
【請求項10】
上記前洗浄を1〜9回行ったものであることを特徴とする請求項9記載の育毛剤。
【請求項11】
上記エタノール水溶液は、25〜45Vol%エタノール水溶液であることを特徴とする請求項9記載の育毛剤。
【請求項12】
アメリカンアンジェリカ植物又は当該植物の抽出物を有効成分とするNFATシグナル阻害剤。
【請求項13】
上記抽出物は、アメリカンアンジェリカの根の抽出物であることを特徴とする請求項12記載のNFATシグナル阻害剤。
【請求項14】
上記抽出物は、アメリカンアンジェリカ植物をエタノール水溶液を用いて前洗浄を行った後、エタノールを用いて抽出されたものであることを特徴とする請求項12記載のNFATシグナル阻害剤。
【請求項15】
上記前洗浄を1〜9回行ったものであることを特徴とする請求項14記載のNFATシグナル阻害剤。
【請求項16】
上記エタノール水溶液は、25〜45Vol%エタノール水溶液であることを特徴とする請求項14記載のNFATシグナル阻害剤。
【請求項17】
アメリカンアンジェリカ植物又は当該植物の抽出物を有効成分とするカルシニューリン阻害剤。
【請求項18】
上記抽出物は、アメリカンアンジェリカの根の抽出物であることを特徴とする請求項17記載のカルシニューリン阻害剤。
【請求項19】
上記抽出物は、アメリカンアンジェリカ植物をエタノール水溶液を用いて前洗浄を行った後、エタノールを用いて抽出されたものであることを特徴とする請求項17記載のカルシニューリン阻害剤。
【請求項20】
上記前洗浄を1〜9回行ったものであることを特徴とする請求項19記載のカルシニューリン阻害剤。
【請求項21】
上記エタノール水溶液は、25〜45Vol%エタノール水溶液であることを特徴とする請求項19記載のカルシニューリン阻害剤。
【請求項22】
対象の細胞又は組織に対して、請求項12乃至16いずれか一項記載のNFATシグナル阻害剤を接触させる、NFAT活性阻害方法。
【請求項23】
対象の細胞又は組織に対して、請求項17乃至21いずれか一項記載のカルシニューリン阻害剤を接触させる、カルシニューリン活性阻害方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−167160(P2009−167160A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185813(P2008−185813)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】