外用剤の製造方法及び外用剤
【課題】治療上有効な薬効を発揮することができ、かつ伸縮性に富み、体の各部にフィットして脱落しにくく、さらに有効成分の経皮吸収面積を大きくすることができ、しかも粘着剤による患部への化学的刺激を低減することができ、通気性を高めることができるため蒸れ等による皮膚刺激を低減できる外用剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】薬学的に有効な化学成分を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該化学成分を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該化学成分を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含むことを特徴とする外用剤の製造方法。
【解決手段】薬学的に有効な化学成分を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該化学成分を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該化学成分を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含むことを特徴とする外用剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収製剤等の外用剤の製造方法及び該方法により製造される外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる湿布薬と呼ばれる、パップ剤又は貼付剤は、変形性関節症、肩関節周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、腱・腱鞘炎、腱周囲炎、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛等の治療に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、これらの湿布薬は、皮膚に密着して有効成分を放出する特性から、通気性が悪く、蒸れによる皮膚刺激があるという問題点があった。また、湿布薬等の貼付剤には、皮膚から貼付剤が脱落しないように粘着剤が使用されているが、粘着剤により患部に化学的な皮膚刺激があり、より刺激が少ない貼付剤が望まれていた。さらに、湿布薬は、膏体中に薬物を保持するという制限上、著しい伸縮が困難であり、そのために、激しい運動等によって、粘着剤により固定された貼付剤の脱落が発生するという問題点があった。
【0004】
これらの問題点に関して、通気性のよい湿布薬として、膏体をロータリスクリーン印刷方式で、網目状又は網目で構成されるパターン状に間隙を有して施すことによって得られる、通気性の優れた貼付剤が開示されている(特許文献1)。また、支持体と、該支持体に塗布した膏薬、及び膏薬面に貼り合わしたフィルムから成る貼付剤において、縦方向及び横方向に複数の線状切れ目を形成したことを特徴とする通気性貼付剤などが提案されている(特許文献2)。
【0005】
脱落については、含水型のテープ剤であり、厚さを100〜800μmと薄くしたことによって、皮膚刺激が軽減されると共に、脱落し難さを有する、含水性皮膚外用貼付剤(特許文献3)、脱落防止のための粘着テープをパップ剤に設けた粘着テープつきの新型パップ剤(特許文献4)などが提案されている。
しかしながら、これらの貼付剤も、皮膚粘着部位を局所的にみれば、通気性を欠き、また、粘着剤による化学的皮膚刺激があった。また、脱落に関しても、それを完全に防止できるものとは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−057991号公報
【特許文献2】特開2005−154394号公報
【特許文献3】特許第2887548号
【特許文献4】特許第4344429号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、治療上有効な薬効を発揮することができ、かつ伸縮性に富み、体の各部にフィットして脱落しにくく、さらに有効成分の経皮吸収面積を大きくすることができ、しかも粘着剤による患部への化学的刺激を低減することができ、通気性を高めることができるため蒸れ等による皮膚刺激を低減できる外用剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討し、薬学的に有効な化学成分(以下、単に「薬物」ということもある)を超臨界流体に溶解させ、該薬物を溶解した超臨界流体を担体に接触させることにより、該薬物を該超臨界流体と共に担体に注入することができること、このような方法により製造される薬物が注入された担体が、経皮吸収製剤等の外用剤として治療上充分な薬効を発揮することを見出した。このような製造方法を用いると、薬物(有効成分)が注入された担体自体を外用剤とすることができるため、担体を適宜選択することにより様々な用途に好適な外用剤を製造することができる。例えば、担体に連続した空隙を設けると、通気性が良好な外用剤を製造できるため、蒸れ等の皮膚刺激を低減することができる。特に担体が繊維で形成されたものである場合には、極めて通気性がよい外用剤となる。例えば通気性がない又は低いフィルム等を担体として用いると、通気性がない又は低い外用剤が得られるため、密封療法(ODT療法、密封包帯法ともいう)等に好適に用いることができる。また、このような製造方法によれば、繊維等の担体自体をそのまま外用剤とすることができるため、伸縮性に富む(従来の湿布剤のように膏体の伸縮性に制限されない)外用剤を製造できる。さらに、担体を円筒状等にして体の各部にフィットするように成形したり、手袋状、靴下状等の形状としたりすれば、脱落の心配がなく、さらに、薬物を注入した担体を服地、生地等として、各種被服等に使用すれば、湿布薬等に比べ、大幅に有効成分と皮膚との接触面積(すなわち経皮吸収面積)を増やすことができる。加えて、経皮吸収部位又は有効成分との接触部位に粘着剤を用いないため、既存の貼付剤よりも患部への皮膚刺激を低減できる。本発明者らはさらに研究を重ね、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(12)に関する。
(1)薬学的に有効な化学成分を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該化学成分を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該化学成分を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含むことを特徴とする外用剤の製造方法。
(2)超臨界流体又は亜臨界流体が、二酸化炭素、水、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール、及びアセトンからなる群より選択される少なくとも1種である前記(1)に記載の製造方法。
(3)超臨界流体又は亜臨界流体が、実質的に二酸化炭素のみからなる流体である前記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)薬学的に有効な化学成分が、非ステロイド系抗炎症薬、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬、ステロイド剤、及び抗アレルギー剤からなる群より選択される少なくとも1種である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)非ステロイド系抗炎症薬が、インドメタシン又はその塩、フェルビナク、ジクロフェナク又はその塩、ロキソプロフェン又はその塩、ケトプロフェン又はその塩、フルルビプロフェン又はその塩、ピロキシカム、及びメロキシカムからなる群より選択される少なくとも1種であり;抗ヒスタミン薬が、ジフェンヒドラミン又はその塩、クロルフェニラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩、ヒドロキシジン又はその塩、及びジメンヒドリナートからなる群より選択される少なくとも1種であり;局所麻酔薬が、リドカイン又はその塩、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩、及びメピバカイン又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり;ステロイド剤が、デキサメタゾン又はその塩、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、及びトリアムシノロンからなる群より選択される少なくとも1種であり;抗アレルギー剤が、ジフェンヒドラミン又はその塩、及びプロメタジン又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種である前記(4)に記載の製造方法。
(6)担体が、通気性のある素材から形成されるものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)担体が、繊維状物質から形成されるものである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)担体が、繊維状物質から形成される織布又は不織布である前記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)繊維状物質が、レーヨン、キュプラ、アセテート繊維、プロミックス、ナイロン、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、羊毛、獣毛、及び絹からなる群より選択される少なくとも1種の繊維である前記(7)又は(8)に記載の製造方法。
(10)担体が、円筒状、手袋状、又は靴下状である前記(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11)注入工程が、温度100℃以下、かつ圧力10〜25MPaの条件下で行われる前記(3)に記載の製造方法。
(12)前記(1)〜(11)のいずれかに記載の製造方法により製造される外用剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、治療上有効な薬効を発揮することができ、かつ伸縮性に富むため使用感に優れ、体の各部にフィットして脱落しにくく、さらに有効成分の経皮吸収面積又は皮膚への接触面積を大きくすることができるため体のあらゆる部位に適用でき、しかも粘着剤による患部への化学的刺激を低減することができ、通気性を高めることができるため蒸れ等による皮膚刺激を低減できる外用剤を製造できる。このような方法により製造される外用剤は、炎症又は疼痛等の治療、創傷治療、褥瘡治療等に好適に用いられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の外用剤の一態様の使用方法の一例を示す図である。
【図2】図2は、各温度及び圧力下における、超臨界二酸化炭素によるポリエチレンテレフタレート不織布へのインドメタシンの注入量を示す図である。
【図3】図3は、各温度及び圧力下における、超臨界二酸化炭素によるポリエチレンテレフタレート不織布へのフェルビナクの注入量を示す図である。
【図4】図4は、各温度及び圧力下における、超臨界二酸化炭素によるポリエチレンテレフタレート不織布へのジクロフェナクの注入量を示す図である。
【図5】図5は、カラゲニン誘発足浮腫抑制試験の結果の一例を示す図である。
【図6】図6は、カラゲニン誘発足浮腫抑制試験の結果の一例を示す図である。
【図7】図7は、カラゲニン誘発足浮腫抑制試験の結果の一例を示す図である。
【図8】図8は、コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデルを用いた薬効薬理試験の結果の一例を示す図である。
【図9】図9は、カラゲニン誘発足浮腫抑制試験の結果の一例を示す図である。
【図10】図10は、ホルマリン投与による疼痛反応を説明するための写真である。
【図11】図11は、ホルマリン誘発マウス疼痛モデルによる薬効薬理試験の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の外用剤の製造方法は、薬学的に有効な化学成分(薬物)を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該化学成分を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該化学成分を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含む。
化学成分(薬物)が担体に注入されるとは、薬物が担体内部又は表面に支持、保持、又は担持されることを意味する。
本発明の方法は、本発明の効果を奏することになる限り、上記注入工程以外に、担体を所望の大きさ又は形状に切断又は成形する工程、担体を乾燥させる工程、担体を貼り合わせる工程等を含んでもよい。担体を所望の大きさ又は形状に切断又は成形する工程、及び担体を乾燥させる工程等は、薬物注入前に行ってもよく、注入後に行ってもよい。担体を乾燥させる工程は、好ましくは、薬物注入後に行なう。
【0013】
本発明の外用剤の製造方法は、例えば、外用皮膚剤の製造方法として好適である。特に、経皮吸収製剤の製造方法として好適である。
【0014】
薬学的に有効な化学成分は、通常外用剤に使用されるものが好ましく、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、経皮吸収性を有するものがより好ましい。中でも好ましくは、炎症性疾患、打撲、捻挫、腰痛、創傷、褥瘡、疼痛、掻痒等の治療に用いられる薬物である。このような薬物として、例えば、非ステロイド系抗炎症薬(NASID)、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬、ステロイド剤、及び抗アレルギー剤からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。薬物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、本発明における薬物として、非ステロイド系抗炎症薬、局所麻酔薬、ステロイド剤、抗アレルギー剤等が好ましく、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド剤、抗アレルギー剤等がより好ましい。
【0015】
非ステロイド系抗炎症薬は、ステロイド骨格をもたない薬物で、抗炎症作用を示す薬剤である。非ステロイド系抗炎症薬として、インドメタシン又はその塩、フェルビナク、ジクロフェナク又はその塩、ロキソプロフェン又はその塩、ケトプロフェン又はその塩、フルルビプロフェン又はその塩、ピロキシカム、メロキシカム等が好適である。中でも、インドメタシン又はその塩、フェルビナク、ジクロフェナク又はその塩等がより好ましい。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0016】
抗ヒスタミン薬として、ジフェンヒドラミン又はその塩、クロルフェニラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩、ヒドロキシジン又はその塩、ジメンヒドリナート等が好適である。中でも、ジフェンヒドラミン又はその塩、クロルフェニラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩等がより好ましい。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0017】
局所麻酔薬は、リドカイン又はその塩、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩、メピバカイン又はその塩等が好適である。中でも、リドカイン又はその塩、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩等がより好ましい。さらに好ましくは、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩等である。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0018】
ステロイド剤は、プレドニゾロン及びその誘導体、デキサメタゾン及びその誘導体、ベタメタゾン及びその誘導体、トリアムシノロン及びその誘導体、ヒドロコルチゾン及びその誘導体が好適であり、より詳細には、デキサメタゾン又はその塩、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン及びその誘導体、エストラジオールが好適である。トリアムシノロンの誘導体としては、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンジアセタート等が好適である。中でも、デキサメタゾン又はその塩、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド等がより好ましい。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0019】
抗アレルギー剤は、ジフェンヒドラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩等が好適である。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0020】
超臨界流体とは、臨界点以上の温度及び圧力下においた物質の状態のことであり、温度と圧力を共に臨界点以上にすると、物質は液体とも気体とも異なる特殊な状態をとる。臨界点とは、物質の気相−液相間の相転移が起こりうる温度及び圧力の範囲の限界を示す相図上の点である。
本発明の特徴に鑑み、超臨界流体に準じる亜臨界流体や、その温度が100℃を超える液体状態の水を担体に薬物を注入するための媒体として用いても、超臨界流体を媒体とした場合と同様の効果を得ることができることは、容易に予測される。
本発明においては、担体に薬物を注入するための媒体として超臨界流体、亜臨界流体、またはその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかを用いることができるが、好ましくは、超臨界流体を用いる。
【0021】
本発明における超臨界流体及び亜臨界流体は、二酸化炭素、水、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール、アセトン等であることが好ましい。超臨界流体及び亜臨界流体は、これらの1種のみからなるものであってもよく、2種以上の混合物であってもよい。中でも、注入処理後の乾燥が楽であるため、常温で気体であるもの、例えば二酸化炭素等が好ましい。特に好ましくは、超臨界流体が、実質的に二酸化炭素のみからなる流体である。二酸化炭素の超臨界流体(超臨界二酸化炭素)は、非可燃性である、常温で気体のため注入処理後の乾燥が楽であり、安価である、臨界点の温度及び圧力が比較的低い(二酸化炭素の臨界点:31.1℃、7.4MPa)、被注入担体(薬物が注入される担体)との反応性が小さい等の利点があるため好ましい。
【0022】
本発明における担体は、薬学的に有効な化学成分を、その内部又は表面に支持、保持、又は担持することができる物体である。
本発明における担体は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、フィルム状物質、繊維状物質、繊維状物質から形成される織布、不織布等が挙げられる。また、2種以上の担体を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0023】
フィルム状物質として、例えば、レーヨン、キュプラ、アセチルセルロース、プロミックス、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ乳酸、又はフィブロイン製のフィルム等が挙げられる。中でも、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等のフィルムが好ましい。例えば、通気性がない又は低いナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等のフィルムを担体として用いた外用剤は、密閉療法等に好適なものである。
【0024】
本発明においては、担体が、通気性のある素材から形成されるものであることが好ましい。通気性のある素材として、例えば、繊維状物質等が好適である。すなわち本発明における担体は、繊維状物質から形成されるものであることが好ましい。
その通気度は、使用時に、皮膚から蒸散される水分を充分に透過させることができれば、その程度は特に限定されないが、通常、JIS L-1096一般織物試験法の通気度測定(フラジール法)による測定値が、0.1cc/cm2/sec以上であり、好ましくは1cc/cm2/sec以上、より好ましくは、10cc/cm2/sec以上である。
また、担体が、繊維状であることは、薬物の放出面積の大きさの面からも有利である。
【0025】
繊維状物質は、しなやかで、凝集性のあるものが好適であり、例えば、繊維が好適に用いられる。繊維は、化学繊維及び天然繊維のいずれであってもよい。化学繊維として、レーヨン、キュプラ、アセテート繊維、プロミックス、ナイロン、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維(アセタール化ポリビニルアルコール)、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維等が挙げられる。天然繊維として、綿、麻(ラミー、リネン等)、羊毛(ウール)、獣毛(モヘア、カシミア、キャメル等)、絹(シルク)等が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、化学繊維が好ましく、ナイロン、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維等がより好ましく、ナイロン、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等がさらに好ましく、ポリエステル繊維が特に好ましい。ポリエステルは、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)との重縮合体である。中でも耐薬品性、強度、価格等の面から、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維が好適に用いられる。
【0026】
本発明における担体として、繊維状物質から形成される織布又は不織布が好適である。不織布は、繊維を織ったり、編んだりしないで、適当な方法で、ウェブ状(薄綿状)又はマット状に配列し、次いで、接着剤や熱処理、又は繊維間の摩擦力によって、繊維相互を接合、製織させて、シート状としたものである。本発明における不織布として、ニードルパンチ不織布、ウォータージェットパンチ(スパンレース、水流絡合)不織布、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、ステッチボンド不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、湿式不織布等が好適に用いられる。中でも、ニードルパンチ不織布、ウォータージャットパンチ(水流絡合)不織布等が好ましい。
【0027】
担体の大きさ及び形状は特に限定されず、患部の大きさ等に応じて適宜選択することができる。例えば、シート状、リボン状等が挙げられる。また、本発明においては、担体が、体の各部にフィットするような形状に形成されていることが好ましい。これにより、経皮吸収剤が体の各部から脱落しにくくなる。このような担体として、例えば、円筒状、手袋状、又は靴下状のものが好適である。例えば、このような形状に形成された織布又は不織布は、本発明における担体の好ましい態様の1つである。円筒状等とする場合、一部に関節の曲げ対応のために開口部があってもよい。
【0028】
注入工程において、薬物を媒体である超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水に溶解させ、該薬物を溶解した媒体を担体に接触させる方法は特に限定されない。例えば媒体が超臨界流体であれば、通常、使用する流体の臨界点以上の温度及び圧力下で、薬物、担体及び流体(超臨界流体)を共存させればよい。例えば、超臨界流体を例に挙げて説明すると、通常、薬物及び担体を耐圧反応管等の耐圧反応容器に入れ、これに流体を加圧しながら注入することにより流体を超臨界状態にし、超臨界流体を所定の温度に保持することにより注入工程を行なうことができる。また、耐圧反応管等の耐圧反応容器を有する装置として、超臨界流体抽出装置(例えば、ISCO社製、型番 SFE System 2200、JASCO社製、型番SCF−Sro)等を好適に用いることができ、例えば、薬物及び担体を超臨界流体抽出装置内に入れ、装置内の温度及び圧力を所定の範囲まで上昇させ、次いで装置内に流体を導入して装置内を所定温度及び圧力に保持することにより、薬物を超臨界流体に溶解させ、該薬物を溶解した超臨界流体を担体に接触させることができる。薬物を溶解した超臨界流体が担体と接触することにより、該薬物が、該超臨界流体と共に担体に注入される。
【0029】
注入工程における温度及び圧力は、使用される媒体の種類に応じて適宜選択すればよいが、担体及び薬物が安定な温度及び圧力範囲を選択することが好ましい。例えば、媒体として超臨界流体である二酸化炭素(好ましくは実質的に二酸化炭素のみからなる流体)を用いる場合、注入工程の温度は、好ましくは約120℃以下であり、より好ましくは約100℃以下である。注入工程の温度の下限は、好ましくは約40℃である。注入工程の温度は、さらに好ましくは約40〜100℃である。圧力は、約5〜25MPaの条件が好ましく、約10〜25MPaの条件がより好ましく、約15〜25MPaがさらに好ましく、約20〜25MPaが特に好ましい。すなわちこのような温度及び圧力条件下で、薬物、担体及び二酸化炭素を共存させて、該薬物を二酸化炭素に溶解させ、該薬物を溶解した二酸化炭素を担体に接触させることが好ましい。
【0030】
例えば、薬物が非ステロイド剤であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、注入工程における特に好ましい注入条件は、温度約60〜100℃であり、より好ましくは約80〜100℃である。圧力は、約10〜25MPaの条件が好ましく、約15〜25MPaがより好ましく、約20〜25MPaが特に好ましい。また、薬物が非ステロイド剤であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、温度約60〜100℃であり、圧力約10〜25MPaの条件が好ましく、温度約80〜100℃であり、圧力約15〜25MPaの条件がより好ましい。
【0031】
例えば、薬物がステロイド剤又は抗アレルギー剤であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合には、注入工程における好ましい温度は、約40〜120℃であり、より好ましくは約40〜100℃であり、さらに好ましくは約40〜80℃である。また、薬物がステロイド剤又は抗アレルギー剤であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合には、注入工程における条件は、温度約40〜120℃(より好ましくは約40〜100℃)であり、圧力約5〜25MPaの条件が好ましく、温度約40〜80℃であり、圧力約5〜20MPaの条件がより好ましい。
【0032】
例えば、薬物が局所麻酔薬であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、注入工程における特に好ましい注入条件は、温度約40〜80℃であり、より好ましくは約40〜60℃である。圧力は、約10〜25MPaの条件が好ましく、約10〜20MPaがより好ましく、約10〜15MPaが特に好ましい。また、薬物が局所麻酔薬であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、温度約40〜80℃であり、圧力約10〜25MPaの条件が好ましく、温度約40〜60℃であり、圧力約10〜15MPaの条件がより好ましい。
【0033】
例えば、媒体である超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いて、ポリエステル製の不織布に対して注入を行う場合、温度約40〜120℃、かつ圧力5〜25MPaの条件下で行われることが好ましく、温度60〜120℃、かつ圧力10〜25MPaの条件下で行われることがより好ましい。温度は、さらに好ましくは約60〜100℃である。超臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、注入工程におけるさらに好ましい注入条件は、温度約80〜100℃である。圧力は、約15〜25MPaがより好ましく、約20〜25MPaがさらに好ましい。
【0034】
注入工程において媒体として温度が100℃を超える液体状態の水を用いる場合、水の温度は、例えば、約100℃を超える温度〜150℃とすることが好ましく、110℃〜130℃がより好ましい。また、注入工程における圧力は、約0.1MPaとすることが好ましい。
【0035】
注入工程を行なう時間は特に限定されないが、約0.25〜2時間が好ましく、約30分〜1時間がより好ましい。注入工程の時間がこのような範囲であると、担体に負荷を与えず、充分な注入量が得られるため好ましい。
【0036】
注入工程における薬物の使用量は、通常担体質量に対して約0.1〜50質量%とすることが好ましく、約0.3〜20質量%とすることがより好ましい。このような範囲であると、充分な注入量が得られ、かつ、薬物のロスも少なく抑えることができるため好ましい。
【0037】
注入工程では、所望に応じて、薬物、及び媒体(超臨界流体、亜臨界流体又は温度が100℃を超える液体状態の水)以外の成分を担体に注入してもよい。このような成分は、薬学的に許容される成分であればよく、例えば、経皮吸収促進剤、芳香剤、色素等が挙げられる。薬物と共に他の成分を担体に注入する場合には、注入工程において、薬物、その他の成分、担体及び媒体を共存させて、該薬物及びその他の成分を媒体に溶解させ、該媒体を担体に接触させればよい。
【0038】
注入工程を行なった後は、得られる担体の表面を洗浄しないことが好ましい。
注入工程において薬物と共に担体に注入された媒体(超臨界流体、亜臨界流体又はその温度が100℃を超える液体状態の水)は、例えば、二酸化炭素等の常温で気体の流体を使用した場合には、該担体を常温下に置くことにより、担体から放出されて除去される。
【0039】
本発明においては、必要に応じて、上記工程により薬物が注入された担体を、乾燥させる工程を行なうことができる。乾燥工程を行なうことにより、媒体として用いられた超臨界流体、亜臨界流体、又は水を効率よく除去することができ、また、媒体として用いられた成分の残留を最小限に留めることができる。乾燥は、通常約0〜40℃、好ましくは約10〜20℃で行う。乾燥の時間は、通常約0.5〜4時間、好ましくは約1〜3時間である。薬物と担体の種類にもよるが、一般に、薬物注入後の加温による乾燥は、薬物が担体から流出してしまうため好ましくない。従って、乾燥は、減圧下で行われることが好ましく、その圧力は、通例約10−3mmHg以下、好ましくは約10−4mmHg以下、より好ましくは約10−5mmHg以下である。
【0040】
担体に注入された薬物の量(薬物注入量)の測定は、例えば、以下の手順により行うことができる。
(1)担体を適当な大きさに切断又は所望の形状に成形する。必要に応じて、該担体を真空デシケーターで乾燥させる。乾燥後の担体の質量(Wi)を測定する。
(2)超臨界流体抽出装置(例えば、ISCO社製 型番 SFE System 2200、JASCO社製、型番SCF−Sro等)のセル内に、担体及び薬物を加える。
(3)セル内を所定の圧力及び温度に所定時間保つことにより、注入処理を行う。
(4)注入処理後、担体を真空デシケーター(約10−5mmHg)中で約1〜3時間乾燥させる。乾燥後、薬物注入後の担体の質量(Wsc)を測定する。担体の表面は、洗浄せずに、保管する場合には常温、暗所にて保管することが好ましい。
【0041】
担体に注入された薬物の量(薬物注入量)は、簡易的には、Wsc−Wiの計算式により、増加質量を求めることにより間接的に確認される。ただし、使用した担体及び媒体の組合せによっては、担体の構成成分(例えば、担体がポリマーである場合には、残存モノマー、可塑剤等)が注入工程で用いられた媒体に溶解し、質量が減少する可能性があるので、予め確認が必要である。より正確な薬物注入量は、例えば、イソプロパノール等の溶媒によって抽出した液中の薬物濃度を、HPLC、吸光度測定等により定量することにより容易に測定可能である。
【0042】
上記製造方法により製造される外用剤は、皮膚に適用されると担体に注入された薬物が放出されるため、治療上有効な薬効を発揮することができるものであり、しかも有効成分の経皮吸収面積又は皮膚への接触面積を大きくすることができる。また、上記製造方法により得られる外用剤は、伸縮性に富むため使用感に優れ、かつ体の各部にフィットして脱落しにくいため体のあらゆる部位に適用できるものである。上記製造方法により得られる外用剤はまた、有効成分の経皮吸収部位又は有効成分と皮膚との接触部位において剥離時に皮膚の角質層を損傷させない安全性にも優れるものであり、同時に、貼付時の冷たさを感じることがなく、使用性に優れるものである。
さらに、上記製造方法において、例えば繊維状物質から形成される織布、不織布等を担体として用いると、得られる外用剤は高い通気性を有するものであるため皮膚に適用した際のムレ等が軽減されたものである。また、例えば通気性がない又は少ないフィルム等を担体として用いると、得られる外用剤は通気性がない又は少ないものであるため、皮膚に適用すると密閉療法の効果が得られるものである。
このような、上記製造方法により製造される外用剤も本発明に包含される。外用剤は、好ましくは、外用皮膚剤であり、中でも、経皮吸収製剤が好ましい。
【0043】
本発明の外用剤の形状は特に限定されず、シート状、リボン状、円筒状、手袋状、靴下状等あらゆる形状とすることができる。また、外用剤を服地、生地等として、各種被服、シーツ等として用いることもできる。外用剤を成形する方法は特に限定されず、上述した製造方法において、注入工程に用いる担体を予め所望の大きさ又は形状に切断又は成形しておいてもよく、注入工程後、薬物(薬剤)が注入された担体(外用剤)を所望の大きさ又は形状に切断又は成形してもよい。
【0044】
本発明の外用剤は、有効成分によりその適切な含有量は異なるが、一般に、有効成分である薬物の含有量が製剤(外用剤)に対して約0.01〜10質量%であることが好ましく、約0.03〜5質量%であることがより好ましい。このような範囲であると、治療上必要な有効成分を患部又は全身に効果的に投与できるため好ましい。本発明の製造方法を用いると、上記量の薬物を含有する外用剤を製造することができる。
【0045】
例えば、本発明の外用剤に用いられる薬物が非ステロイド剤の場合には、薬物の含有量が、製剤に対して約0.1〜10質量%であることが好ましく、約0.3〜3質量%であることがより好ましい。
また、本発明の外用剤に用いられる薬物がステロイド剤又は抗アレルギー剤の場合には、薬物の含有量が、製剤に対して約0.01〜10質量%であることが好ましく、約0.03〜5質量%であることがより好ましく、約0.05〜3質量%であることがさらに好ましい。
例えば、本発明の外用剤に用いられる薬物が局所麻酔薬の場合には、薬物の含有量が、製剤に対して約0.01〜10質量%であることが好ましく、約0.05〜5質量%であることがより好ましく、約0.1〜3質量%であることがさらに好ましい。
このような範囲であると、治療上必要な有効成分を患部又は全身に効果的に投与できるため好ましい。
【0046】
本発明の外用剤は、皮膚(好ましくは患部)に好適に適用され、通例、本発明の外用剤を投与部位に接触させることにより、有効成分を患部又は全身に投与することができる。本発明の外用剤を体の各部に適用する方法としては特に限定されず、例えば、担体自体が粘着性を有さない場合には、別途、粘着性を有する部材で、外用剤の一部又は全部を覆って投与部位に固定しても良く、包帯等を巻きつけて又はネット包帯等を用いて外用剤を固定することもできる。また担体が伸縮性を有する素材の場合には、例えば外用剤を円筒状等とすると、図1に例を示すように、サポーターのように用いて患部を覆う又は患部と接触させることもできる。手袋状、靴下状等とした場合には、手袋、靴下のように着用して患部を覆う又は患部と接触させることができる。外用剤をシーツ等の形状として、患部と接触させることもできる。
【0047】
本発明の外用剤は、例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節症、術後・抜歯後疼痛などの炎症性疾患、打撲、捻挫、腰痛、創傷、褥瘡、疼痛、掻痒、火傷、しもやけ、あかぎれ、冷え性、白癬等の予防又は治療に好適に用いられるものである。従って、本発明の外用剤は、上記疾患の予防又は治療剤等として好適なものである。中でも、有効成分(薬物)として非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を用いた場合には、慢性関節リウマチ、変形性関節症、術後・抜歯後疼痛などの炎症性疾患、打撲、捻挫、腰痛、創傷、褥瘡、疼痛の予防又は治療に好適である。有効成分(薬物)としてステロイド剤を用いた場合には、苔癬化型湿疹、皮膚炎、痒疹群(固定蕁麻疹を含む)、尋常性乾癬、掌蹠膿疱症、瘢痕・ケロイド等の予防又は治療に好適である。有効成分(薬物)として抗アレルギー剤を用いた場合には、アレルギー性接触皮膚炎、湿疹、かぶれ、蕁麻疹等の予防又は治療に好適である。有効成分(薬物)として局所麻酔薬を用いた場合には、打撲、捻挫、腰痛、創傷、褥瘡、疼痛等の予防又は治療に加え、手術前の局所麻酔や、帯状疱疹に伴う各種疼痛緩和の目的に好適である。
また、例えば、通気性がない又は低い担体を用いて製造された外用剤を患部に固定すると、密閉療法としての効果が得られる。
【0048】
本発明の経皮吸収製剤が適用される対象は特に限定されず、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(イヌ、ネコ、サル、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ等)、その他有用動物等が挙げられる。好ましくは、ヒトであり、より好ましくは上記疾患の患者等である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0050】
試験例1:注入条件の検討
次の手順にて、担体に薬物を注入した。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)製不織布(バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで5cm×5cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させ、その質量(Wi)を電子天秤で測定した。
(2)超臨界流体抽出装置(ISCO社製、型番 SFE System 2200)のセル内に、担体及び薬物(インドメタシン(八代製薬社)、フェルビナク(Kolon Life Science Inc.)又はジクロフェナク(Henan Dongtai Pharm Co., Ltd.))を入れた。薬物質量は、およそ担体質量の10質量%とした。
(3)セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を所定の温度及び圧力まで上げた後、二酸化炭素を送り込み、30分間注入処理を行った。
(4)注入処理後、担体を真空デシケーター中で2時間乾燥させ、薬物注入後の担体の質量(Wsc)を電子天秤で測定した。担体の表面は、洗浄せずに常温、暗所にて保管した。
【0051】
薬物の注入量は、Wsc−Wiの計算式により、増加質量を求めることにより確認した。質量変化率(%)は、100×(Wsc−Wi)/Wiの計算式により求めた。各薬物をポリエステル不織布に注入する際の温度及び圧力を各々、60〜120℃及び10〜25MPaまで変化させた場合の薬物注入量を、図2〜4に示す。図2は、薬物としてインドメタシンを使用したときの各処理条件における担体への薬物注入量である。図3は、薬物としてフェルビナクを使用したときの各処理条件における担体への薬物注入量である。図4は、薬物としてジクロフェナクを使用したときの各処理条件における担体への薬物注入量である。
ポリエステル不織布では、100℃以上の条件で不織布素材の脆化が認められたため、100℃未満、15〜25MPaの条件が好ましいことが分かった。
【0052】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで2cm×2cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させた。次いで、超臨界流体抽出装置(ISCO社製、型番 SFE System 2200)のセル内に、担体及びインドメタシンを入れた。薬物質量は、担体質量の10質量%とした。セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を80℃及び20MPaまで上げた後、二酸化炭素を送り込み、30分間担体に注入処理を行った。注入処理後、担体を真空デシケーター中で2時間乾燥させた。注入後の注入変化率は約0.25%であり、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。なお、コントロールとして、上記処理を行なわないポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布を用いた。
【0053】
実施例2
薬物としてフェルビナク、担体としてポリエチレンテレフタレート製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)、超臨界流体として二酸化炭素を用い、80℃及び25MPaの条件で、30分間、実施例1と同様にして担体に薬物を注入した。注入後の注入変化率は約1.25%であり、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0054】
実施例3
薬物としてジクロフェナク、担体としてポリエチレンテレフタレート製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)、超臨界流体として二酸化炭素を用い、80℃及び20MPaの条件で、30分間、実施例1と同様にして担体に薬物を注入した。注入後の注入変化率は約1.3%であり、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0055】
実施例1〜3で製造した各製剤につき、次の試験方法にて、薬効の評価を行った。
カラゲニン誘発足浮腫抑制試験
使用動物:ラット(Wistar系、雄性、搬入時6週齢、日本エスエルシー株式会社製)
検体:第I群 無処置(コントロール);第II群 市販パップ剤(商品名「バンテリンコーワパップS」、興和社製);第III群 実施例1で製造したインドメタシン注入不織布;第IV群 実施例2で製造したフェルビナク注入不織布;第V群 実施例3で製造したジクロフェナク注入不織布(いずれもn=8)
検体サイズ:2cm×2cm
起炎剤:1%カラゲニン/生理食塩水
【0056】
試験手順:予め、実験日前日に人用の除毛クリームを使用して、ラットの足の毛を除毛した。ラット右後肢の足容積を足容積測定装置で測定し、同後肢足蹠皮下に起炎剤である1%カラゲニン溶液0.1mLを投与した後、各検体を貼付した。
貼付4時間後、検体を除去し、右後肢足容積を測定した。
【0057】
評価方法:起炎剤投与前と投与4時間後の足容積より、以下の式を用いて浮腫率を算出し、抗炎症効果の指標とした。
浮腫率(%)=[(起炎剤投与4時間後の足容積−起炎剤投与前の足容積)/起炎剤投与前の足容積]×100
【0058】
検定
第I群(コントロール)に対する有意差は、dunnett法により求めた(*:P<0.05、**:P<0.01)。
【0059】
試験結果
試験結果を、表1及び図5〜7に示す。表1及び図5〜7の結果は、平均±標準誤差(SE)で表わされる。図5は、第III群(実施例1のインドメタシン注入不織布)と、第I群(無処置:コントロール)及び第II群(市販パップ剤)との比較である。図6は、IV群(実施例2のフェルビナク注入不織布)と、第I群(無処置:コントロール)及び第II群(市販パップ剤)との比較である。図7は、V群(実施例3のジクロフェナク注入不織布)と、第I群(無処置:コントロール)及び第II群(市販パップ剤)との比較である。
【0060】
【表1】
【0061】
第I群(コントロール)、第II群(市販パップ剤)及び第III群(実施例1)の浮腫率を比較した結果、第I群(コントロール)に対して第II群(市販パップ剤)及び第III群(実施例1)では、有意な抑制効果が確認された(Dunnett、*:P<0.05、**:P<0.01)。
また、第II群(市販パップ剤)と第III群(実施例1)を比較した結果、有意な差は見られなかった(t検定及びTukey-kramer)。
【0062】
第I群(コントロール)、第II群(市販パップ剤)及び第IV群(実施例2)の浮腫率を比較した結果、第I群(コントロール)に対して第II群(市販パップ剤)及び第IV群(実施例2)では、有意な抑制効果が確認された(Dunnett、*:P<0.05、**:P<0.01)。
また、第II群(市販パップ剤)と第IV群(実施例2)を比較した結果、有意な差は見られなかった(t検定及びTukey-kramer)。
【0063】
第I群(コントロール)、第II群(市販パップ剤)及び第V群(実施例3)の浮腫率を比較した結果、第I群(コントロール)に対して第II群(市販パップ剤)及び第V群(実施例3)では、有意な抑制効果が確認された(Dunnett、*:P<0.05、**:P<0.01)。
また、第II群(市販パップ剤)と第V群(実施例3)を比較した結果、有意な差は見られなかった(t検定及びTukey-kramer)。
【0064】
実施例1〜3で製造した製剤を用いると、無処置の第一群(コントロール)と比較して、有意に浮腫が抑制された。さらに、実施例1〜3で製造した製剤は、不織布で構成されるため、市販のパップ剤と比較して、極めて通気性に富むものであった。
【0065】
実施例4
次の手順にて、担体(不織布)に薬物(薬剤)を注入し、薬物が不織布に注入された検体を作製した。薬物として、ジフェンヒドラミン塩酸塩(和光純薬工業社製)を使用した。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで5cm×30cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させ、その質量(Wi)を電子天秤で測定した。
(2)ガラス濾紙を超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセルのサイズに合わせて切断し、質量測定を行った(この質量を、Wiiとした)。使用した超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル(カラム)容積は、50mLであった。
(3)蒸留水を溶媒に使用して、ジフェンヒドラミン塩酸塩を50g/Lに希釈した薬物溶液を調製した。
(4)(2)で切断したガラス濾紙に、担体であるPET製水流絡合不織布に対して薬物が5質量%(5%owf)になる量の(3)で調製した薬物溶液を滴下して担持させ、質量測定を行った(この質量をWiiiとした)。
(5)超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル内に、担体(PET製水流絡合不織布)、(4)の薬物(ジフェンヒドラミン塩酸塩)を担持させたガラス濾紙を入れた。セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を40℃及び10MPaまで上げた後、二酸化炭素(液化炭酸ガス、純度99.5%以上、宇野酸素社製)を送り込み、30分間担体に注入処理を行った。この注入処理後、担体、及び薬物(ジフェンヒドラミン塩酸塩)を担持させたガラス濾紙を真空デシケーター中で2時間乾燥させた。薬物注入後の担体の質量(Wsc)、及び薬物(ジフェンヒドラミン塩酸塩)を担持させたガラス濾紙の質量(Wiv)を電子天秤で測定した。担体の表面は、洗浄せずに常温、暗所にて保管した。
前記手順により、2回検体の調製を行ない、検体(a)及び検体(b)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0066】
下記式により、溶解率及び質量変化率を算出した。
溶解率(濾紙に担持された試薬のうち超臨界二酸化炭素に溶解した割合)は、100×(Wiii−Wiv)/(Wiii−Wii)の計算式により求めた。
薬物の注入量は、Wsc−Wiの計算式により、増加質量を求めることにより確認した。質量変化率(%)(処理後のPET不織布の質量変化の割合)は、100×(Wsc−Wi)/Wiの計算式により求めた。
PET水流絡合不織布にジフェンヒドラミン塩酸塩を注入した結果を、表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例5
実施例4の(5)において、薬物としてプロメタジン塩酸塩(和光純薬工業社製)を用いて、60℃及び10MPaの条件で、30分間注入処理を行なった以外は、実施例4と同様にして担体に薬物(プロメタジン塩酸塩)を注入した。実施例4と同様に、2回検体の調製を行ない、検体(c)及び検体(d)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
PET水流絡合不織布にプロメタジン塩酸塩を注入した結果を、表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例4及び5で得られた前記(a)〜(d)の検体において、質量変化率が大きい各検体(ジフェンヒドラミン塩酸塩は検体(a)、及びプロメタジン塩酸塩は検体(c))を用いて、後述する実施例6において、コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデルによる薬効薬理試験を実施した。
【0071】
実施例6
(コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデルによる薬効薬理試験)
ジフェンヒドラミン塩酸塩投与群には、実施例4で作製したジフェンヒドラミン塩酸塩を含有する検体(a)を貼付した。プロメタジン塩酸塩投与群には、実施例5で作製したプロメタジン塩酸塩を含有する検体(c)を投与した。
コントロールとして、実施例4及び5の処理を行なわない(無処理)ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布を用いた。
【0072】
実験手法
モデル: コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデル
使用動物: マウス(ICR系、雄性、搬入時5週齢、日本エスエルシー社より購入)
例数及び群構成:
第I群:対照群(無処理の不織布)(n=8)
第II群:ジフェンヒドラミン塩酸塩投与群(n=8)
第III群:プロメタジン塩酸塩投与群(n=7)
第IV群:陽性対照群(ムヒ(登録商標)パッチA、池田模範堂社製)(n=8)
検体サイズ: 約2.5cm×2.5cm
惹起物質: コンパウンド48/80
【0073】
試験方法 : Kuraishiらの方法(Maekawa T, Nojima H, Kuraishi., Jpn. J. Pharmacol. 84, 462-466 (2000))を参考に行った。すなわち、試験開始前にアクリルケージ内で約60分間馴化したマウスの背部をバリカンで除毛し、検体を貼付後、不織布粘着性包帯(メッシュポア(登録商標)テープ)にて保定した。60分後、検体を除去し、検体貼付部位にコンパウンド48/80を皮内投与(100μg/site)した。その直後からマウスを同ケージ内に戻して動画撮影を行った。
【0074】
評価方法:撮影した動画の再生から、コンパウンド48/80投与から15分間の投与部位に対する一連の後肢での引っ掻き行動の回数スクラッチ回数)を計測し、鎮痒効果の指標とした。
【0075】
投与量
1匹当たりの各薬物の投与量を、表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
検定
第I群(対照群)に対する各薬物投与群の有意差は、dunnett法(Dunnett の多重比較検定)により求めた(**:P<0.01)。
【0078】
結果
コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデルを用いた実験結果を、図8及び表5に示す。なお、データは平均値±標準誤差(SE)を示す。図8及び表5中、**:p<0.01(Dunnett の多重比較検定)。
【表5】
【0079】
対照群と比較した結果、ジフェンヒドラミン塩酸塩投与群とプロメタジン塩酸塩投与群間ではスクラッチ回数の減少が認められた。
【0080】
実施例7
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで5cm×30cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させ、その質量(Wi)を電子天秤で測定した。
(2)ガラス濾紙を超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル(カラム)のサイズに合わせて切断し、質量測定を行った(この質量を、Wiiとした)。使用した超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル(カラム)容積は、50mLであった。
(3)エタノール(99.5%、和光純薬工業社製)に、デキサメタゾン(和光純薬工業社製)を12.5g/Lの濃度になるように溶解させた薬物溶液を調製した。
(4)(2)で切断したガラス濾紙に、担体であるPET製水流絡合不織布に対して薬物が5質量%(5%owf)になる量の(3)で調製した薬物溶液を滴下して担持させ、風乾させた。
(5)超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル内に、担体(PET製水流絡合不織布)、(4)の薬物(デキサメタゾン)を担持させたガラス濾紙を入れた。セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を60℃及び10MPaまで上げた後、二酸化炭素(液化炭酸ガス、純度99.5%以上、宇野酸素社製)を送り込み、30分間担体に注入処理を行った。この注入処理後、担体、及び薬物(デキサメタゾン)を担持させたガラス濾紙を真空デシケーター中で2時間乾燥させた。薬物注入後の担体の質量(Wsc)を電子天秤で測定した。担体の表面は、洗浄せずに常温、暗所にて保管した。
前記手順により、2回検体の調製を行ない、検体(a)及び検体(b)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0081】
実施例4と同様に、以下の式により質量変化率を算出した。
質量変化率(%)(処理後のPET不織布の質量変化の割合)=100×(Wsc−Wi)/Wi
PET水流絡合不織布にデキサメタゾンを注入した結果を、表6に示す。
【0082】
【表6】
実施例8
実施例7の(5)において、薬物としてトリアムシノロンアセトニド(和光純薬工業社製)を用いて、40℃及び10MPaの条件で、30分間注入処理を行なった以外は、実施例4と同様にして担体に薬物(トリアムシノロンアセトニド)を注入した。実施例7と同様に、2回検体の調製を行ない、検体(c)及び検体(d)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0083】
PET水流絡合不織布にトリアムシノロンアセトニドを注入した結果を、表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
実施例7及び8で得られた前記(a)〜(d)の検体において、質量変化率が大きい各検体(デキサメタゾンは検体(b)、及びトリアムシノロンアセトニドは検体(d))を用いて、後述する実施例9において、カラゲニン誘発足浮腫モデルによる薬効薬理試験を実施した。
【0086】
実施例9
実施例7及び実施例8で製造した検体につき、次の試験方法にて、薬効の評価を行った。
カラゲニン誘発足浮腫抑制試験
使用動物:ラット(Wistar系、雄性、搬入時6週齢、日本エスエルシー株式会社製)
例数及び群構成
第I群 無処置(コントロール)群(n=8)
第II群 フルベアンコーワ(商品名「フルベアンコーワ」、興和社製)投与群(対照群)(n=8)
第III群 実施例7で製造した検体(b)(デキサメタゾン注入不織布)投与群(n=8)
第IV群 実施例8で製造した検体(d)(トリアムシノロンアセトニド注入不織布)投与群(n=8)
検体サイズ:2.5cm×2.5cm
起炎剤:1%カラゲニン/生理食塩水
【0087】
試験手順:予め、実験日前日に人用の除毛クリームを使用して、ラットの足の毛を除毛した。ラット右後肢の足容積を足容積測定装置で測定し、同後肢足蹠皮下に起炎剤である1%カラゲニン溶液0.1mLを投与し、その直後に各検体を貼付した。
起炎剤投与(検体貼付)4時間後、検体を除去し、右後肢足容積を測定した。
【0088】
評価方法:起炎剤投与前と投与4時間後の足容積より、以下の式を用いて浮腫率を算出し、抗炎症効果の指標とした。
【0089】
【数1】
【0090】
投与量
1匹当たりの投与量を、表8に示す。
【0091】
【表8】
【0092】
検定
第I群(無処置(コントロール)群)に対する各薬物投与群の有意差は、dunnett法(Dunnett の多重比較検定)により求めた(**:P<0.01)。
【0093】
結果
試験結果を、表9及び図9に示す。表9及び図9の結果は、平均±標準誤差(SE)で表わされる。**:p<0.01(Dunnett の多重比較検定)
【0094】
【表9】
【0095】
無処置群(第I群)と対照群及び各検体群を比較すると、対照群(第II群)及び両検体群(第III群及び第IV群)に有意な薬効が認められた(Dunnet の多重検定)。
実施例7〜8で製造した検体(製剤)を用いると、無処置の第一群(コントロール)と比較して、有意に浮腫が抑制された。
【0096】
実施例10
次の手順にて、担体(不織布)に薬物を注入し、薬物が不織布に注入された検体を作製した。薬物として、ジブカイン塩酸塩(和光純薬工業社製)を使用した。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで5cm×30cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させ、その質量(Wi)を電子天秤で測定した。
(2)ガラス濾紙を超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセルのサイズに合わせて切断し、質量測定を行った。使用した超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル(カラム)容積は、50mLであった。
(3)蒸留水を溶媒に使用して、ジブカイン塩酸塩を50g/Lに希釈した薬物溶液を調製した。
(4)(2)で切断したガラス濾紙に、担体であるPET製水流絡合不織布に対して薬物が5質量%(5%owf)になる量の(3)で調製した薬物溶液を滴下して担持させ、質量測定を行った。
(5)超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル内に、担体(PET製水流絡合不織布)、(4)の薬物(ジブカイン塩酸塩)を担持させたガラス濾紙を入れた。セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を40℃及び15MPaまで上げた後、二酸化炭素(液化炭酸ガス、純度99.5%以上、宇野酸素社製)を送り込み、30分間担体に注入処理を行った。この注入処理後、薬物(ジブカイン塩酸塩)を注入した担体(PET製水流絡合不織布)を真空デシケーター中で2時間乾燥させた。乾燥後、薬物注入後の担体の質量を電子天秤で測定した(この質量を、Wiiとした)。担体の表面は、洗浄せずに常温、暗所にて保管した。
前記手順により、2回検体の調製を行ない、検体(a)及び検体(b)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0097】
下記式により、質量変化率を算出した。
薬物の注入量は、Wii−Wiの計算式により、増加質量を求めることにより確認した。質量変化率(%)(処理後のPET不織布の質量変化の割合)は、100×(Wii−Wi)/Wiの計算式により求めた。
実施例10において、PET水流絡合不織布にジブカイン塩酸塩を注入した結果を、表10に示す。
【0098】
【表10】
【0099】
実施例11
実施例10において、ジブカイン塩酸塩の代わりにプロカイン塩酸塩(和光純薬工業社製)を用いたこと以外は、同様の操作を行い、担体に薬物(プロカイン塩酸塩)を注入した。実施例10と同様に、2回検体の調製を行ない、検体(c)及び検体(d)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
実施例11において、PET水流絡合不織布にプロカイン塩酸塩を注入した結果を、表11に示す。
【0100】
【表11】
【0101】
実施例12
実施例10及び11で得られた前記(a)〜(d)の検体において、質量変化率が大きい各検体(ジブカイン塩酸塩は検体(b)、及びプロカイン塩酸塩は検体(c))を用いて、以下の方法によりホルマリン誘発マウス疼痛モデルによる薬効薬理試験を実施した。
【0102】
実験手法
モデル:ホルマリン誘発マウス疼痛モデル
使用動物:マウス(ICR系、雄性、搬入時4週齢、日本エスエルシー社より購入)、体重(16.9g〜20.6g)
例数及び群構成:
対照群(ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400))(n=6)
プロカイン塩酸塩投与群(検体(c)を所定のサイズに切断したものを貼付した群)(n=6)
ジブカイン塩酸塩投与群(検体(b)を所定のサイズに切断したものを貼付した群)(n=6)
陽性対照群(リドカイン(商品名:キシロカイン(登録商標)ゼリー2%、アストラゼネカ社製)を塗布した。)(n=6)、キシロカイン(登録商標)ゼリー2%の塗布量は0.1mL
検体サイズ:約2cm×3cm
惹起物質:ホルマリン
試験方法:Cowan1)らの方法を参考に行った。すなわち、試験開始前にアクリルケージ内で約60分間馴化したマウスの側腹部を電気バリカン及び電気シェーバーで除毛し、検体を貼付後、不織布粘着性包帯(メッシュポア(登録商標)テープ)にて保定した。検体貼付から60分後、検体を除去した。検体を貼付していた部位を清拭し、該検体貼付部位に2%ホルマリンを皮内投与(50μL/site)した。その直後からマウスを同ケージ内に戻して動画撮影を行った。
陽性対照群への薬物(リドカイン(商品名:キシロカイン(登録商標)ゼリー2%、アストラゼネカ社製))の投与は、以下のように行った。マウスの側腹部の除毛部に、シリンジ(テルモシリンジ(登録商標))を用いて上記薬物0.1mLを滴下し、約2cm×3cmのサイズに塗布後、無処理の不織布(PET製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400))で覆い、これを不織布粘着性包帯(メッシュポア(登録商標)テープ)にて保定した。
1)Inan S, Dun NJ, Cowan A.,Eur J Pharmacol.616,141-146(2009)
【0103】
評価方法:撮影した動画の再生から、ホルマリン投与後30分間の投与部位に対する疼痛反応(biting[噛む]やlicking[舐める]等の行動、図10)を示した総時間(疼痛反応時間)をストップウォッチで計測し、局所麻酔効果の指標とした。
【0104】
ホルマリン誘発マウス疼痛モデルによる薬効薬理試験における、1匹あたりの薬物の投与量は、表12に示す通りである。
【0105】
【表12】
【0106】
※モデルマウス1匹あたりの投与量は、以下の式より算出した。
・不織布1枚(5×30cm)あたりの薬物注入量(g)
薬物注入量(g) = 注入後質量(g) − 注入前質量(g)
・不織布の面積は150cm2であるため、
不織布1cm2あたりの薬物量(mg/cm2) = 薬物注入量(g) ÷ 150 × 1000
・1匹あたりの貼付面積は約6cm2であるため、
1匹あたりの投与量(mg) = 1cm2あたりの薬物量(mg/cm2) × 6
【0107】
一例として、検体(b)について、薬物注入量、不織布1cm2あたりの薬物量及び検体(b)を貼付した場合の1匹あたりの投与量を上記式により計算した結果を示す。注入前質量及び注入後質量は、上記表10の通りである。
薬物注入量(g) = 1.55684 − 1.55279
= 0.00405
1cm2あたりの薬物量(mg/cm2) = 0.00405 ÷ 150 × 1000
= 0.027
1匹あたりの投与量(mg) = 0.027 × 6
= 0.162
【0108】
結果
結果を、図11に示す。図11に示される結果は、平均値である。図11中、「対照」は対照群であり、「プロカイン」はプロカイン塩酸塩投与群であり、「ジブカイン」はジブカイン塩酸塩投与群であり、「陽性対照」は陽性対照群である。
ジブカイン塩酸塩群及びプロカイン塩酸塩群の両検体群において、対照群と比較して疼痛反応時間の減少が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、医療分野等において有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収製剤等の外用剤の製造方法及び該方法により製造される外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる湿布薬と呼ばれる、パップ剤又は貼付剤は、変形性関節症、肩関節周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、腱・腱鞘炎、腱周囲炎、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛等の治療に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、これらの湿布薬は、皮膚に密着して有効成分を放出する特性から、通気性が悪く、蒸れによる皮膚刺激があるという問題点があった。また、湿布薬等の貼付剤には、皮膚から貼付剤が脱落しないように粘着剤が使用されているが、粘着剤により患部に化学的な皮膚刺激があり、より刺激が少ない貼付剤が望まれていた。さらに、湿布薬は、膏体中に薬物を保持するという制限上、著しい伸縮が困難であり、そのために、激しい運動等によって、粘着剤により固定された貼付剤の脱落が発生するという問題点があった。
【0004】
これらの問題点に関して、通気性のよい湿布薬として、膏体をロータリスクリーン印刷方式で、網目状又は網目で構成されるパターン状に間隙を有して施すことによって得られる、通気性の優れた貼付剤が開示されている(特許文献1)。また、支持体と、該支持体に塗布した膏薬、及び膏薬面に貼り合わしたフィルムから成る貼付剤において、縦方向及び横方向に複数の線状切れ目を形成したことを特徴とする通気性貼付剤などが提案されている(特許文献2)。
【0005】
脱落については、含水型のテープ剤であり、厚さを100〜800μmと薄くしたことによって、皮膚刺激が軽減されると共に、脱落し難さを有する、含水性皮膚外用貼付剤(特許文献3)、脱落防止のための粘着テープをパップ剤に設けた粘着テープつきの新型パップ剤(特許文献4)などが提案されている。
しかしながら、これらの貼付剤も、皮膚粘着部位を局所的にみれば、通気性を欠き、また、粘着剤による化学的皮膚刺激があった。また、脱落に関しても、それを完全に防止できるものとは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−057991号公報
【特許文献2】特開2005−154394号公報
【特許文献3】特許第2887548号
【特許文献4】特許第4344429号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、治療上有効な薬効を発揮することができ、かつ伸縮性に富み、体の各部にフィットして脱落しにくく、さらに有効成分の経皮吸収面積を大きくすることができ、しかも粘着剤による患部への化学的刺激を低減することができ、通気性を高めることができるため蒸れ等による皮膚刺激を低減できる外用剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討し、薬学的に有効な化学成分(以下、単に「薬物」ということもある)を超臨界流体に溶解させ、該薬物を溶解した超臨界流体を担体に接触させることにより、該薬物を該超臨界流体と共に担体に注入することができること、このような方法により製造される薬物が注入された担体が、経皮吸収製剤等の外用剤として治療上充分な薬効を発揮することを見出した。このような製造方法を用いると、薬物(有効成分)が注入された担体自体を外用剤とすることができるため、担体を適宜選択することにより様々な用途に好適な外用剤を製造することができる。例えば、担体に連続した空隙を設けると、通気性が良好な外用剤を製造できるため、蒸れ等の皮膚刺激を低減することができる。特に担体が繊維で形成されたものである場合には、極めて通気性がよい外用剤となる。例えば通気性がない又は低いフィルム等を担体として用いると、通気性がない又は低い外用剤が得られるため、密封療法(ODT療法、密封包帯法ともいう)等に好適に用いることができる。また、このような製造方法によれば、繊維等の担体自体をそのまま外用剤とすることができるため、伸縮性に富む(従来の湿布剤のように膏体の伸縮性に制限されない)外用剤を製造できる。さらに、担体を円筒状等にして体の各部にフィットするように成形したり、手袋状、靴下状等の形状としたりすれば、脱落の心配がなく、さらに、薬物を注入した担体を服地、生地等として、各種被服等に使用すれば、湿布薬等に比べ、大幅に有効成分と皮膚との接触面積(すなわち経皮吸収面積)を増やすことができる。加えて、経皮吸収部位又は有効成分との接触部位に粘着剤を用いないため、既存の貼付剤よりも患部への皮膚刺激を低減できる。本発明者らはさらに研究を重ね、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(12)に関する。
(1)薬学的に有効な化学成分を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該化学成分を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該化学成分を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含むことを特徴とする外用剤の製造方法。
(2)超臨界流体又は亜臨界流体が、二酸化炭素、水、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール、及びアセトンからなる群より選択される少なくとも1種である前記(1)に記載の製造方法。
(3)超臨界流体又は亜臨界流体が、実質的に二酸化炭素のみからなる流体である前記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)薬学的に有効な化学成分が、非ステロイド系抗炎症薬、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬、ステロイド剤、及び抗アレルギー剤からなる群より選択される少なくとも1種である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)非ステロイド系抗炎症薬が、インドメタシン又はその塩、フェルビナク、ジクロフェナク又はその塩、ロキソプロフェン又はその塩、ケトプロフェン又はその塩、フルルビプロフェン又はその塩、ピロキシカム、及びメロキシカムからなる群より選択される少なくとも1種であり;抗ヒスタミン薬が、ジフェンヒドラミン又はその塩、クロルフェニラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩、ヒドロキシジン又はその塩、及びジメンヒドリナートからなる群より選択される少なくとも1種であり;局所麻酔薬が、リドカイン又はその塩、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩、及びメピバカイン又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり;ステロイド剤が、デキサメタゾン又はその塩、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、及びトリアムシノロンからなる群より選択される少なくとも1種であり;抗アレルギー剤が、ジフェンヒドラミン又はその塩、及びプロメタジン又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種である前記(4)に記載の製造方法。
(6)担体が、通気性のある素材から形成されるものである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)担体が、繊維状物質から形成されるものである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)担体が、繊維状物質から形成される織布又は不織布である前記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)繊維状物質が、レーヨン、キュプラ、アセテート繊維、プロミックス、ナイロン、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、羊毛、獣毛、及び絹からなる群より選択される少なくとも1種の繊維である前記(7)又は(8)に記載の製造方法。
(10)担体が、円筒状、手袋状、又は靴下状である前記(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11)注入工程が、温度100℃以下、かつ圧力10〜25MPaの条件下で行われる前記(3)に記載の製造方法。
(12)前記(1)〜(11)のいずれかに記載の製造方法により製造される外用剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、治療上有効な薬効を発揮することができ、かつ伸縮性に富むため使用感に優れ、体の各部にフィットして脱落しにくく、さらに有効成分の経皮吸収面積又は皮膚への接触面積を大きくすることができるため体のあらゆる部位に適用でき、しかも粘着剤による患部への化学的刺激を低減することができ、通気性を高めることができるため蒸れ等による皮膚刺激を低減できる外用剤を製造できる。このような方法により製造される外用剤は、炎症又は疼痛等の治療、創傷治療、褥瘡治療等に好適に用いられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の外用剤の一態様の使用方法の一例を示す図である。
【図2】図2は、各温度及び圧力下における、超臨界二酸化炭素によるポリエチレンテレフタレート不織布へのインドメタシンの注入量を示す図である。
【図3】図3は、各温度及び圧力下における、超臨界二酸化炭素によるポリエチレンテレフタレート不織布へのフェルビナクの注入量を示す図である。
【図4】図4は、各温度及び圧力下における、超臨界二酸化炭素によるポリエチレンテレフタレート不織布へのジクロフェナクの注入量を示す図である。
【図5】図5は、カラゲニン誘発足浮腫抑制試験の結果の一例を示す図である。
【図6】図6は、カラゲニン誘発足浮腫抑制試験の結果の一例を示す図である。
【図7】図7は、カラゲニン誘発足浮腫抑制試験の結果の一例を示す図である。
【図8】図8は、コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデルを用いた薬効薬理試験の結果の一例を示す図である。
【図9】図9は、カラゲニン誘発足浮腫抑制試験の結果の一例を示す図である。
【図10】図10は、ホルマリン投与による疼痛反応を説明するための写真である。
【図11】図11は、ホルマリン誘発マウス疼痛モデルによる薬効薬理試験の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の外用剤の製造方法は、薬学的に有効な化学成分(薬物)を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該化学成分を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該化学成分を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含む。
化学成分(薬物)が担体に注入されるとは、薬物が担体内部又は表面に支持、保持、又は担持されることを意味する。
本発明の方法は、本発明の効果を奏することになる限り、上記注入工程以外に、担体を所望の大きさ又は形状に切断又は成形する工程、担体を乾燥させる工程、担体を貼り合わせる工程等を含んでもよい。担体を所望の大きさ又は形状に切断又は成形する工程、及び担体を乾燥させる工程等は、薬物注入前に行ってもよく、注入後に行ってもよい。担体を乾燥させる工程は、好ましくは、薬物注入後に行なう。
【0013】
本発明の外用剤の製造方法は、例えば、外用皮膚剤の製造方法として好適である。特に、経皮吸収製剤の製造方法として好適である。
【0014】
薬学的に有効な化学成分は、通常外用剤に使用されるものが好ましく、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、経皮吸収性を有するものがより好ましい。中でも好ましくは、炎症性疾患、打撲、捻挫、腰痛、創傷、褥瘡、疼痛、掻痒等の治療に用いられる薬物である。このような薬物として、例えば、非ステロイド系抗炎症薬(NASID)、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬、ステロイド剤、及び抗アレルギー剤からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。薬物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、本発明における薬物として、非ステロイド系抗炎症薬、局所麻酔薬、ステロイド剤、抗アレルギー剤等が好ましく、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド剤、抗アレルギー剤等がより好ましい。
【0015】
非ステロイド系抗炎症薬は、ステロイド骨格をもたない薬物で、抗炎症作用を示す薬剤である。非ステロイド系抗炎症薬として、インドメタシン又はその塩、フェルビナク、ジクロフェナク又はその塩、ロキソプロフェン又はその塩、ケトプロフェン又はその塩、フルルビプロフェン又はその塩、ピロキシカム、メロキシカム等が好適である。中でも、インドメタシン又はその塩、フェルビナク、ジクロフェナク又はその塩等がより好ましい。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0016】
抗ヒスタミン薬として、ジフェンヒドラミン又はその塩、クロルフェニラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩、ヒドロキシジン又はその塩、ジメンヒドリナート等が好適である。中でも、ジフェンヒドラミン又はその塩、クロルフェニラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩等がより好ましい。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0017】
局所麻酔薬は、リドカイン又はその塩、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩、メピバカイン又はその塩等が好適である。中でも、リドカイン又はその塩、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩等がより好ましい。さらに好ましくは、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩等である。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0018】
ステロイド剤は、プレドニゾロン及びその誘導体、デキサメタゾン及びその誘導体、ベタメタゾン及びその誘導体、トリアムシノロン及びその誘導体、ヒドロコルチゾン及びその誘導体が好適であり、より詳細には、デキサメタゾン又はその塩、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン及びその誘導体、エストラジオールが好適である。トリアムシノロンの誘導体としては、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンジアセタート等が好適である。中でも、デキサメタゾン又はその塩、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド等がより好ましい。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0019】
抗アレルギー剤は、ジフェンヒドラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩等が好適である。前記塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。
【0020】
超臨界流体とは、臨界点以上の温度及び圧力下においた物質の状態のことであり、温度と圧力を共に臨界点以上にすると、物質は液体とも気体とも異なる特殊な状態をとる。臨界点とは、物質の気相−液相間の相転移が起こりうる温度及び圧力の範囲の限界を示す相図上の点である。
本発明の特徴に鑑み、超臨界流体に準じる亜臨界流体や、その温度が100℃を超える液体状態の水を担体に薬物を注入するための媒体として用いても、超臨界流体を媒体とした場合と同様の効果を得ることができることは、容易に予測される。
本発明においては、担体に薬物を注入するための媒体として超臨界流体、亜臨界流体、またはその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかを用いることができるが、好ましくは、超臨界流体を用いる。
【0021】
本発明における超臨界流体及び亜臨界流体は、二酸化炭素、水、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール、アセトン等であることが好ましい。超臨界流体及び亜臨界流体は、これらの1種のみからなるものであってもよく、2種以上の混合物であってもよい。中でも、注入処理後の乾燥が楽であるため、常温で気体であるもの、例えば二酸化炭素等が好ましい。特に好ましくは、超臨界流体が、実質的に二酸化炭素のみからなる流体である。二酸化炭素の超臨界流体(超臨界二酸化炭素)は、非可燃性である、常温で気体のため注入処理後の乾燥が楽であり、安価である、臨界点の温度及び圧力が比較的低い(二酸化炭素の臨界点:31.1℃、7.4MPa)、被注入担体(薬物が注入される担体)との反応性が小さい等の利点があるため好ましい。
【0022】
本発明における担体は、薬学的に有効な化学成分を、その内部又は表面に支持、保持、又は担持することができる物体である。
本発明における担体は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、フィルム状物質、繊維状物質、繊維状物質から形成される織布、不織布等が挙げられる。また、2種以上の担体を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0023】
フィルム状物質として、例えば、レーヨン、キュプラ、アセチルセルロース、プロミックス、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ乳酸、又はフィブロイン製のフィルム等が挙げられる。中でも、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等のフィルムが好ましい。例えば、通気性がない又は低いナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等のフィルムを担体として用いた外用剤は、密閉療法等に好適なものである。
【0024】
本発明においては、担体が、通気性のある素材から形成されるものであることが好ましい。通気性のある素材として、例えば、繊維状物質等が好適である。すなわち本発明における担体は、繊維状物質から形成されるものであることが好ましい。
その通気度は、使用時に、皮膚から蒸散される水分を充分に透過させることができれば、その程度は特に限定されないが、通常、JIS L-1096一般織物試験法の通気度測定(フラジール法)による測定値が、0.1cc/cm2/sec以上であり、好ましくは1cc/cm2/sec以上、より好ましくは、10cc/cm2/sec以上である。
また、担体が、繊維状であることは、薬物の放出面積の大きさの面からも有利である。
【0025】
繊維状物質は、しなやかで、凝集性のあるものが好適であり、例えば、繊維が好適に用いられる。繊維は、化学繊維及び天然繊維のいずれであってもよい。化学繊維として、レーヨン、キュプラ、アセテート繊維、プロミックス、ナイロン、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維(アセタール化ポリビニルアルコール)、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維等が挙げられる。天然繊維として、綿、麻(ラミー、リネン等)、羊毛(ウール)、獣毛(モヘア、カシミア、キャメル等)、絹(シルク)等が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、化学繊維が好ましく、ナイロン、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維等がより好ましく、ナイロン、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等がさらに好ましく、ポリエステル繊維が特に好ましい。ポリエステルは、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)との重縮合体である。中でも耐薬品性、強度、価格等の面から、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維が好適に用いられる。
【0026】
本発明における担体として、繊維状物質から形成される織布又は不織布が好適である。不織布は、繊維を織ったり、編んだりしないで、適当な方法で、ウェブ状(薄綿状)又はマット状に配列し、次いで、接着剤や熱処理、又は繊維間の摩擦力によって、繊維相互を接合、製織させて、シート状としたものである。本発明における不織布として、ニードルパンチ不織布、ウォータージェットパンチ(スパンレース、水流絡合)不織布、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、ステッチボンド不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、湿式不織布等が好適に用いられる。中でも、ニードルパンチ不織布、ウォータージャットパンチ(水流絡合)不織布等が好ましい。
【0027】
担体の大きさ及び形状は特に限定されず、患部の大きさ等に応じて適宜選択することができる。例えば、シート状、リボン状等が挙げられる。また、本発明においては、担体が、体の各部にフィットするような形状に形成されていることが好ましい。これにより、経皮吸収剤が体の各部から脱落しにくくなる。このような担体として、例えば、円筒状、手袋状、又は靴下状のものが好適である。例えば、このような形状に形成された織布又は不織布は、本発明における担体の好ましい態様の1つである。円筒状等とする場合、一部に関節の曲げ対応のために開口部があってもよい。
【0028】
注入工程において、薬物を媒体である超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水に溶解させ、該薬物を溶解した媒体を担体に接触させる方法は特に限定されない。例えば媒体が超臨界流体であれば、通常、使用する流体の臨界点以上の温度及び圧力下で、薬物、担体及び流体(超臨界流体)を共存させればよい。例えば、超臨界流体を例に挙げて説明すると、通常、薬物及び担体を耐圧反応管等の耐圧反応容器に入れ、これに流体を加圧しながら注入することにより流体を超臨界状態にし、超臨界流体を所定の温度に保持することにより注入工程を行なうことができる。また、耐圧反応管等の耐圧反応容器を有する装置として、超臨界流体抽出装置(例えば、ISCO社製、型番 SFE System 2200、JASCO社製、型番SCF−Sro)等を好適に用いることができ、例えば、薬物及び担体を超臨界流体抽出装置内に入れ、装置内の温度及び圧力を所定の範囲まで上昇させ、次いで装置内に流体を導入して装置内を所定温度及び圧力に保持することにより、薬物を超臨界流体に溶解させ、該薬物を溶解した超臨界流体を担体に接触させることができる。薬物を溶解した超臨界流体が担体と接触することにより、該薬物が、該超臨界流体と共に担体に注入される。
【0029】
注入工程における温度及び圧力は、使用される媒体の種類に応じて適宜選択すればよいが、担体及び薬物が安定な温度及び圧力範囲を選択することが好ましい。例えば、媒体として超臨界流体である二酸化炭素(好ましくは実質的に二酸化炭素のみからなる流体)を用いる場合、注入工程の温度は、好ましくは約120℃以下であり、より好ましくは約100℃以下である。注入工程の温度の下限は、好ましくは約40℃である。注入工程の温度は、さらに好ましくは約40〜100℃である。圧力は、約5〜25MPaの条件が好ましく、約10〜25MPaの条件がより好ましく、約15〜25MPaがさらに好ましく、約20〜25MPaが特に好ましい。すなわちこのような温度及び圧力条件下で、薬物、担体及び二酸化炭素を共存させて、該薬物を二酸化炭素に溶解させ、該薬物を溶解した二酸化炭素を担体に接触させることが好ましい。
【0030】
例えば、薬物が非ステロイド剤であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、注入工程における特に好ましい注入条件は、温度約60〜100℃であり、より好ましくは約80〜100℃である。圧力は、約10〜25MPaの条件が好ましく、約15〜25MPaがより好ましく、約20〜25MPaが特に好ましい。また、薬物が非ステロイド剤であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、温度約60〜100℃であり、圧力約10〜25MPaの条件が好ましく、温度約80〜100℃であり、圧力約15〜25MPaの条件がより好ましい。
【0031】
例えば、薬物がステロイド剤又は抗アレルギー剤であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合には、注入工程における好ましい温度は、約40〜120℃であり、より好ましくは約40〜100℃であり、さらに好ましくは約40〜80℃である。また、薬物がステロイド剤又は抗アレルギー剤であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合には、注入工程における条件は、温度約40〜120℃(より好ましくは約40〜100℃)であり、圧力約5〜25MPaの条件が好ましく、温度約40〜80℃であり、圧力約5〜20MPaの条件がより好ましい。
【0032】
例えば、薬物が局所麻酔薬であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、注入工程における特に好ましい注入条件は、温度約40〜80℃であり、より好ましくは約40〜60℃である。圧力は、約10〜25MPaの条件が好ましく、約10〜20MPaがより好ましく、約10〜15MPaが特に好ましい。また、薬物が局所麻酔薬であり、超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、温度約40〜80℃であり、圧力約10〜25MPaの条件が好ましく、温度約40〜60℃であり、圧力約10〜15MPaの条件がより好ましい。
【0033】
例えば、媒体である超臨界流体又は亜臨界流体として二酸化炭素を用いて、ポリエステル製の不織布に対して注入を行う場合、温度約40〜120℃、かつ圧力5〜25MPaの条件下で行われることが好ましく、温度60〜120℃、かつ圧力10〜25MPaの条件下で行われることがより好ましい。温度は、さらに好ましくは約60〜100℃である。超臨界流体として二酸化炭素を用いる場合、注入工程におけるさらに好ましい注入条件は、温度約80〜100℃である。圧力は、約15〜25MPaがより好ましく、約20〜25MPaがさらに好ましい。
【0034】
注入工程において媒体として温度が100℃を超える液体状態の水を用いる場合、水の温度は、例えば、約100℃を超える温度〜150℃とすることが好ましく、110℃〜130℃がより好ましい。また、注入工程における圧力は、約0.1MPaとすることが好ましい。
【0035】
注入工程を行なう時間は特に限定されないが、約0.25〜2時間が好ましく、約30分〜1時間がより好ましい。注入工程の時間がこのような範囲であると、担体に負荷を与えず、充分な注入量が得られるため好ましい。
【0036】
注入工程における薬物の使用量は、通常担体質量に対して約0.1〜50質量%とすることが好ましく、約0.3〜20質量%とすることがより好ましい。このような範囲であると、充分な注入量が得られ、かつ、薬物のロスも少なく抑えることができるため好ましい。
【0037】
注入工程では、所望に応じて、薬物、及び媒体(超臨界流体、亜臨界流体又は温度が100℃を超える液体状態の水)以外の成分を担体に注入してもよい。このような成分は、薬学的に許容される成分であればよく、例えば、経皮吸収促進剤、芳香剤、色素等が挙げられる。薬物と共に他の成分を担体に注入する場合には、注入工程において、薬物、その他の成分、担体及び媒体を共存させて、該薬物及びその他の成分を媒体に溶解させ、該媒体を担体に接触させればよい。
【0038】
注入工程を行なった後は、得られる担体の表面を洗浄しないことが好ましい。
注入工程において薬物と共に担体に注入された媒体(超臨界流体、亜臨界流体又はその温度が100℃を超える液体状態の水)は、例えば、二酸化炭素等の常温で気体の流体を使用した場合には、該担体を常温下に置くことにより、担体から放出されて除去される。
【0039】
本発明においては、必要に応じて、上記工程により薬物が注入された担体を、乾燥させる工程を行なうことができる。乾燥工程を行なうことにより、媒体として用いられた超臨界流体、亜臨界流体、又は水を効率よく除去することができ、また、媒体として用いられた成分の残留を最小限に留めることができる。乾燥は、通常約0〜40℃、好ましくは約10〜20℃で行う。乾燥の時間は、通常約0.5〜4時間、好ましくは約1〜3時間である。薬物と担体の種類にもよるが、一般に、薬物注入後の加温による乾燥は、薬物が担体から流出してしまうため好ましくない。従って、乾燥は、減圧下で行われることが好ましく、その圧力は、通例約10−3mmHg以下、好ましくは約10−4mmHg以下、より好ましくは約10−5mmHg以下である。
【0040】
担体に注入された薬物の量(薬物注入量)の測定は、例えば、以下の手順により行うことができる。
(1)担体を適当な大きさに切断又は所望の形状に成形する。必要に応じて、該担体を真空デシケーターで乾燥させる。乾燥後の担体の質量(Wi)を測定する。
(2)超臨界流体抽出装置(例えば、ISCO社製 型番 SFE System 2200、JASCO社製、型番SCF−Sro等)のセル内に、担体及び薬物を加える。
(3)セル内を所定の圧力及び温度に所定時間保つことにより、注入処理を行う。
(4)注入処理後、担体を真空デシケーター(約10−5mmHg)中で約1〜3時間乾燥させる。乾燥後、薬物注入後の担体の質量(Wsc)を測定する。担体の表面は、洗浄せずに、保管する場合には常温、暗所にて保管することが好ましい。
【0041】
担体に注入された薬物の量(薬物注入量)は、簡易的には、Wsc−Wiの計算式により、増加質量を求めることにより間接的に確認される。ただし、使用した担体及び媒体の組合せによっては、担体の構成成分(例えば、担体がポリマーである場合には、残存モノマー、可塑剤等)が注入工程で用いられた媒体に溶解し、質量が減少する可能性があるので、予め確認が必要である。より正確な薬物注入量は、例えば、イソプロパノール等の溶媒によって抽出した液中の薬物濃度を、HPLC、吸光度測定等により定量することにより容易に測定可能である。
【0042】
上記製造方法により製造される外用剤は、皮膚に適用されると担体に注入された薬物が放出されるため、治療上有効な薬効を発揮することができるものであり、しかも有効成分の経皮吸収面積又は皮膚への接触面積を大きくすることができる。また、上記製造方法により得られる外用剤は、伸縮性に富むため使用感に優れ、かつ体の各部にフィットして脱落しにくいため体のあらゆる部位に適用できるものである。上記製造方法により得られる外用剤はまた、有効成分の経皮吸収部位又は有効成分と皮膚との接触部位において剥離時に皮膚の角質層を損傷させない安全性にも優れるものであり、同時に、貼付時の冷たさを感じることがなく、使用性に優れるものである。
さらに、上記製造方法において、例えば繊維状物質から形成される織布、不織布等を担体として用いると、得られる外用剤は高い通気性を有するものであるため皮膚に適用した際のムレ等が軽減されたものである。また、例えば通気性がない又は少ないフィルム等を担体として用いると、得られる外用剤は通気性がない又は少ないものであるため、皮膚に適用すると密閉療法の効果が得られるものである。
このような、上記製造方法により製造される外用剤も本発明に包含される。外用剤は、好ましくは、外用皮膚剤であり、中でも、経皮吸収製剤が好ましい。
【0043】
本発明の外用剤の形状は特に限定されず、シート状、リボン状、円筒状、手袋状、靴下状等あらゆる形状とすることができる。また、外用剤を服地、生地等として、各種被服、シーツ等として用いることもできる。外用剤を成形する方法は特に限定されず、上述した製造方法において、注入工程に用いる担体を予め所望の大きさ又は形状に切断又は成形しておいてもよく、注入工程後、薬物(薬剤)が注入された担体(外用剤)を所望の大きさ又は形状に切断又は成形してもよい。
【0044】
本発明の外用剤は、有効成分によりその適切な含有量は異なるが、一般に、有効成分である薬物の含有量が製剤(外用剤)に対して約0.01〜10質量%であることが好ましく、約0.03〜5質量%であることがより好ましい。このような範囲であると、治療上必要な有効成分を患部又は全身に効果的に投与できるため好ましい。本発明の製造方法を用いると、上記量の薬物を含有する外用剤を製造することができる。
【0045】
例えば、本発明の外用剤に用いられる薬物が非ステロイド剤の場合には、薬物の含有量が、製剤に対して約0.1〜10質量%であることが好ましく、約0.3〜3質量%であることがより好ましい。
また、本発明の外用剤に用いられる薬物がステロイド剤又は抗アレルギー剤の場合には、薬物の含有量が、製剤に対して約0.01〜10質量%であることが好ましく、約0.03〜5質量%であることがより好ましく、約0.05〜3質量%であることがさらに好ましい。
例えば、本発明の外用剤に用いられる薬物が局所麻酔薬の場合には、薬物の含有量が、製剤に対して約0.01〜10質量%であることが好ましく、約0.05〜5質量%であることがより好ましく、約0.1〜3質量%であることがさらに好ましい。
このような範囲であると、治療上必要な有効成分を患部又は全身に効果的に投与できるため好ましい。
【0046】
本発明の外用剤は、皮膚(好ましくは患部)に好適に適用され、通例、本発明の外用剤を投与部位に接触させることにより、有効成分を患部又は全身に投与することができる。本発明の外用剤を体の各部に適用する方法としては特に限定されず、例えば、担体自体が粘着性を有さない場合には、別途、粘着性を有する部材で、外用剤の一部又は全部を覆って投与部位に固定しても良く、包帯等を巻きつけて又はネット包帯等を用いて外用剤を固定することもできる。また担体が伸縮性を有する素材の場合には、例えば外用剤を円筒状等とすると、図1に例を示すように、サポーターのように用いて患部を覆う又は患部と接触させることもできる。手袋状、靴下状等とした場合には、手袋、靴下のように着用して患部を覆う又は患部と接触させることができる。外用剤をシーツ等の形状として、患部と接触させることもできる。
【0047】
本発明の外用剤は、例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節症、術後・抜歯後疼痛などの炎症性疾患、打撲、捻挫、腰痛、創傷、褥瘡、疼痛、掻痒、火傷、しもやけ、あかぎれ、冷え性、白癬等の予防又は治療に好適に用いられるものである。従って、本発明の外用剤は、上記疾患の予防又は治療剤等として好適なものである。中でも、有効成分(薬物)として非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を用いた場合には、慢性関節リウマチ、変形性関節症、術後・抜歯後疼痛などの炎症性疾患、打撲、捻挫、腰痛、創傷、褥瘡、疼痛の予防又は治療に好適である。有効成分(薬物)としてステロイド剤を用いた場合には、苔癬化型湿疹、皮膚炎、痒疹群(固定蕁麻疹を含む)、尋常性乾癬、掌蹠膿疱症、瘢痕・ケロイド等の予防又は治療に好適である。有効成分(薬物)として抗アレルギー剤を用いた場合には、アレルギー性接触皮膚炎、湿疹、かぶれ、蕁麻疹等の予防又は治療に好適である。有効成分(薬物)として局所麻酔薬を用いた場合には、打撲、捻挫、腰痛、創傷、褥瘡、疼痛等の予防又は治療に加え、手術前の局所麻酔や、帯状疱疹に伴う各種疼痛緩和の目的に好適である。
また、例えば、通気性がない又は低い担体を用いて製造された外用剤を患部に固定すると、密閉療法としての効果が得られる。
【0048】
本発明の経皮吸収製剤が適用される対象は特に限定されず、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(イヌ、ネコ、サル、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ等)、その他有用動物等が挙げられる。好ましくは、ヒトであり、より好ましくは上記疾患の患者等である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0050】
試験例1:注入条件の検討
次の手順にて、担体に薬物を注入した。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)製不織布(バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで5cm×5cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させ、その質量(Wi)を電子天秤で測定した。
(2)超臨界流体抽出装置(ISCO社製、型番 SFE System 2200)のセル内に、担体及び薬物(インドメタシン(八代製薬社)、フェルビナク(Kolon Life Science Inc.)又はジクロフェナク(Henan Dongtai Pharm Co., Ltd.))を入れた。薬物質量は、およそ担体質量の10質量%とした。
(3)セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を所定の温度及び圧力まで上げた後、二酸化炭素を送り込み、30分間注入処理を行った。
(4)注入処理後、担体を真空デシケーター中で2時間乾燥させ、薬物注入後の担体の質量(Wsc)を電子天秤で測定した。担体の表面は、洗浄せずに常温、暗所にて保管した。
【0051】
薬物の注入量は、Wsc−Wiの計算式により、増加質量を求めることにより確認した。質量変化率(%)は、100×(Wsc−Wi)/Wiの計算式により求めた。各薬物をポリエステル不織布に注入する際の温度及び圧力を各々、60〜120℃及び10〜25MPaまで変化させた場合の薬物注入量を、図2〜4に示す。図2は、薬物としてインドメタシンを使用したときの各処理条件における担体への薬物注入量である。図3は、薬物としてフェルビナクを使用したときの各処理条件における担体への薬物注入量である。図4は、薬物としてジクロフェナクを使用したときの各処理条件における担体への薬物注入量である。
ポリエステル不織布では、100℃以上の条件で不織布素材の脆化が認められたため、100℃未満、15〜25MPaの条件が好ましいことが分かった。
【0052】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで2cm×2cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させた。次いで、超臨界流体抽出装置(ISCO社製、型番 SFE System 2200)のセル内に、担体及びインドメタシンを入れた。薬物質量は、担体質量の10質量%とした。セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を80℃及び20MPaまで上げた後、二酸化炭素を送り込み、30分間担体に注入処理を行った。注入処理後、担体を真空デシケーター中で2時間乾燥させた。注入後の注入変化率は約0.25%であり、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。なお、コントロールとして、上記処理を行なわないポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布を用いた。
【0053】
実施例2
薬物としてフェルビナク、担体としてポリエチレンテレフタレート製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)、超臨界流体として二酸化炭素を用い、80℃及び25MPaの条件で、30分間、実施例1と同様にして担体に薬物を注入した。注入後の注入変化率は約1.25%であり、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0054】
実施例3
薬物としてジクロフェナク、担体としてポリエチレンテレフタレート製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)、超臨界流体として二酸化炭素を用い、80℃及び20MPaの条件で、30分間、実施例1と同様にして担体に薬物を注入した。注入後の注入変化率は約1.3%であり、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0055】
実施例1〜3で製造した各製剤につき、次の試験方法にて、薬効の評価を行った。
カラゲニン誘発足浮腫抑制試験
使用動物:ラット(Wistar系、雄性、搬入時6週齢、日本エスエルシー株式会社製)
検体:第I群 無処置(コントロール);第II群 市販パップ剤(商品名「バンテリンコーワパップS」、興和社製);第III群 実施例1で製造したインドメタシン注入不織布;第IV群 実施例2で製造したフェルビナク注入不織布;第V群 実施例3で製造したジクロフェナク注入不織布(いずれもn=8)
検体サイズ:2cm×2cm
起炎剤:1%カラゲニン/生理食塩水
【0056】
試験手順:予め、実験日前日に人用の除毛クリームを使用して、ラットの足の毛を除毛した。ラット右後肢の足容積を足容積測定装置で測定し、同後肢足蹠皮下に起炎剤である1%カラゲニン溶液0.1mLを投与した後、各検体を貼付した。
貼付4時間後、検体を除去し、右後肢足容積を測定した。
【0057】
評価方法:起炎剤投与前と投与4時間後の足容積より、以下の式を用いて浮腫率を算出し、抗炎症効果の指標とした。
浮腫率(%)=[(起炎剤投与4時間後の足容積−起炎剤投与前の足容積)/起炎剤投与前の足容積]×100
【0058】
検定
第I群(コントロール)に対する有意差は、dunnett法により求めた(*:P<0.05、**:P<0.01)。
【0059】
試験結果
試験結果を、表1及び図5〜7に示す。表1及び図5〜7の結果は、平均±標準誤差(SE)で表わされる。図5は、第III群(実施例1のインドメタシン注入不織布)と、第I群(無処置:コントロール)及び第II群(市販パップ剤)との比較である。図6は、IV群(実施例2のフェルビナク注入不織布)と、第I群(無処置:コントロール)及び第II群(市販パップ剤)との比較である。図7は、V群(実施例3のジクロフェナク注入不織布)と、第I群(無処置:コントロール)及び第II群(市販パップ剤)との比較である。
【0060】
【表1】
【0061】
第I群(コントロール)、第II群(市販パップ剤)及び第III群(実施例1)の浮腫率を比較した結果、第I群(コントロール)に対して第II群(市販パップ剤)及び第III群(実施例1)では、有意な抑制効果が確認された(Dunnett、*:P<0.05、**:P<0.01)。
また、第II群(市販パップ剤)と第III群(実施例1)を比較した結果、有意な差は見られなかった(t検定及びTukey-kramer)。
【0062】
第I群(コントロール)、第II群(市販パップ剤)及び第IV群(実施例2)の浮腫率を比較した結果、第I群(コントロール)に対して第II群(市販パップ剤)及び第IV群(実施例2)では、有意な抑制効果が確認された(Dunnett、*:P<0.05、**:P<0.01)。
また、第II群(市販パップ剤)と第IV群(実施例2)を比較した結果、有意な差は見られなかった(t検定及びTukey-kramer)。
【0063】
第I群(コントロール)、第II群(市販パップ剤)及び第V群(実施例3)の浮腫率を比較した結果、第I群(コントロール)に対して第II群(市販パップ剤)及び第V群(実施例3)では、有意な抑制効果が確認された(Dunnett、*:P<0.05、**:P<0.01)。
また、第II群(市販パップ剤)と第V群(実施例3)を比較した結果、有意な差は見られなかった(t検定及びTukey-kramer)。
【0064】
実施例1〜3で製造した製剤を用いると、無処置の第一群(コントロール)と比較して、有意に浮腫が抑制された。さらに、実施例1〜3で製造した製剤は、不織布で構成されるため、市販のパップ剤と比較して、極めて通気性に富むものであった。
【0065】
実施例4
次の手順にて、担体(不織布)に薬物(薬剤)を注入し、薬物が不織布に注入された検体を作製した。薬物として、ジフェンヒドラミン塩酸塩(和光純薬工業社製)を使用した。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで5cm×30cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させ、その質量(Wi)を電子天秤で測定した。
(2)ガラス濾紙を超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセルのサイズに合わせて切断し、質量測定を行った(この質量を、Wiiとした)。使用した超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル(カラム)容積は、50mLであった。
(3)蒸留水を溶媒に使用して、ジフェンヒドラミン塩酸塩を50g/Lに希釈した薬物溶液を調製した。
(4)(2)で切断したガラス濾紙に、担体であるPET製水流絡合不織布に対して薬物が5質量%(5%owf)になる量の(3)で調製した薬物溶液を滴下して担持させ、質量測定を行った(この質量をWiiiとした)。
(5)超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル内に、担体(PET製水流絡合不織布)、(4)の薬物(ジフェンヒドラミン塩酸塩)を担持させたガラス濾紙を入れた。セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を40℃及び10MPaまで上げた後、二酸化炭素(液化炭酸ガス、純度99.5%以上、宇野酸素社製)を送り込み、30分間担体に注入処理を行った。この注入処理後、担体、及び薬物(ジフェンヒドラミン塩酸塩)を担持させたガラス濾紙を真空デシケーター中で2時間乾燥させた。薬物注入後の担体の質量(Wsc)、及び薬物(ジフェンヒドラミン塩酸塩)を担持させたガラス濾紙の質量(Wiv)を電子天秤で測定した。担体の表面は、洗浄せずに常温、暗所にて保管した。
前記手順により、2回検体の調製を行ない、検体(a)及び検体(b)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0066】
下記式により、溶解率及び質量変化率を算出した。
溶解率(濾紙に担持された試薬のうち超臨界二酸化炭素に溶解した割合)は、100×(Wiii−Wiv)/(Wiii−Wii)の計算式により求めた。
薬物の注入量は、Wsc−Wiの計算式により、増加質量を求めることにより確認した。質量変化率(%)(処理後のPET不織布の質量変化の割合)は、100×(Wsc−Wi)/Wiの計算式により求めた。
PET水流絡合不織布にジフェンヒドラミン塩酸塩を注入した結果を、表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例5
実施例4の(5)において、薬物としてプロメタジン塩酸塩(和光純薬工業社製)を用いて、60℃及び10MPaの条件で、30分間注入処理を行なった以外は、実施例4と同様にして担体に薬物(プロメタジン塩酸塩)を注入した。実施例4と同様に、2回検体の調製を行ない、検体(c)及び検体(d)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
PET水流絡合不織布にプロメタジン塩酸塩を注入した結果を、表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例4及び5で得られた前記(a)〜(d)の検体において、質量変化率が大きい各検体(ジフェンヒドラミン塩酸塩は検体(a)、及びプロメタジン塩酸塩は検体(c))を用いて、後述する実施例6において、コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデルによる薬効薬理試験を実施した。
【0071】
実施例6
(コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデルによる薬効薬理試験)
ジフェンヒドラミン塩酸塩投与群には、実施例4で作製したジフェンヒドラミン塩酸塩を含有する検体(a)を貼付した。プロメタジン塩酸塩投与群には、実施例5で作製したプロメタジン塩酸塩を含有する検体(c)を投与した。
コントロールとして、実施例4及び5の処理を行なわない(無処理)ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布を用いた。
【0072】
実験手法
モデル: コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデル
使用動物: マウス(ICR系、雄性、搬入時5週齢、日本エスエルシー社より購入)
例数及び群構成:
第I群:対照群(無処理の不織布)(n=8)
第II群:ジフェンヒドラミン塩酸塩投与群(n=8)
第III群:プロメタジン塩酸塩投与群(n=7)
第IV群:陽性対照群(ムヒ(登録商標)パッチA、池田模範堂社製)(n=8)
検体サイズ: 約2.5cm×2.5cm
惹起物質: コンパウンド48/80
【0073】
試験方法 : Kuraishiらの方法(Maekawa T, Nojima H, Kuraishi., Jpn. J. Pharmacol. 84, 462-466 (2000))を参考に行った。すなわち、試験開始前にアクリルケージ内で約60分間馴化したマウスの背部をバリカンで除毛し、検体を貼付後、不織布粘着性包帯(メッシュポア(登録商標)テープ)にて保定した。60分後、検体を除去し、検体貼付部位にコンパウンド48/80を皮内投与(100μg/site)した。その直後からマウスを同ケージ内に戻して動画撮影を行った。
【0074】
評価方法:撮影した動画の再生から、コンパウンド48/80投与から15分間の投与部位に対する一連の後肢での引っ掻き行動の回数スクラッチ回数)を計測し、鎮痒効果の指標とした。
【0075】
投与量
1匹当たりの各薬物の投与量を、表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
検定
第I群(対照群)に対する各薬物投与群の有意差は、dunnett法(Dunnett の多重比較検定)により求めた(**:P<0.01)。
【0078】
結果
コンパウンド48/80誘発マウス掻痒モデルを用いた実験結果を、図8及び表5に示す。なお、データは平均値±標準誤差(SE)を示す。図8及び表5中、**:p<0.01(Dunnett の多重比較検定)。
【表5】
【0079】
対照群と比較した結果、ジフェンヒドラミン塩酸塩投与群とプロメタジン塩酸塩投与群間ではスクラッチ回数の減少が認められた。
【0080】
実施例7
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで5cm×30cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させ、その質量(Wi)を電子天秤で測定した。
(2)ガラス濾紙を超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル(カラム)のサイズに合わせて切断し、質量測定を行った(この質量を、Wiiとした)。使用した超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル(カラム)容積は、50mLであった。
(3)エタノール(99.5%、和光純薬工業社製)に、デキサメタゾン(和光純薬工業社製)を12.5g/Lの濃度になるように溶解させた薬物溶液を調製した。
(4)(2)で切断したガラス濾紙に、担体であるPET製水流絡合不織布に対して薬物が5質量%(5%owf)になる量の(3)で調製した薬物溶液を滴下して担持させ、風乾させた。
(5)超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル内に、担体(PET製水流絡合不織布)、(4)の薬物(デキサメタゾン)を担持させたガラス濾紙を入れた。セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を60℃及び10MPaまで上げた後、二酸化炭素(液化炭酸ガス、純度99.5%以上、宇野酸素社製)を送り込み、30分間担体に注入処理を行った。この注入処理後、担体、及び薬物(デキサメタゾン)を担持させたガラス濾紙を真空デシケーター中で2時間乾燥させた。薬物注入後の担体の質量(Wsc)を電子天秤で測定した。担体の表面は、洗浄せずに常温、暗所にて保管した。
前記手順により、2回検体の調製を行ない、検体(a)及び検体(b)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0081】
実施例4と同様に、以下の式により質量変化率を算出した。
質量変化率(%)(処理後のPET不織布の質量変化の割合)=100×(Wsc−Wi)/Wi
PET水流絡合不織布にデキサメタゾンを注入した結果を、表6に示す。
【0082】
【表6】
実施例8
実施例7の(5)において、薬物としてトリアムシノロンアセトニド(和光純薬工業社製)を用いて、40℃及び10MPaの条件で、30分間注入処理を行なった以外は、実施例4と同様にして担体に薬物(トリアムシノロンアセトニド)を注入した。実施例7と同様に、2回検体の調製を行ない、検体(c)及び検体(d)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0083】
PET水流絡合不織布にトリアムシノロンアセトニドを注入した結果を、表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
実施例7及び8で得られた前記(a)〜(d)の検体において、質量変化率が大きい各検体(デキサメタゾンは検体(b)、及びトリアムシノロンアセトニドは検体(d))を用いて、後述する実施例9において、カラゲニン誘発足浮腫モデルによる薬効薬理試験を実施した。
【0086】
実施例9
実施例7及び実施例8で製造した検体につき、次の試験方法にて、薬効の評価を行った。
カラゲニン誘発足浮腫抑制試験
使用動物:ラット(Wistar系、雄性、搬入時6週齢、日本エスエルシー株式会社製)
例数及び群構成
第I群 無処置(コントロール)群(n=8)
第II群 フルベアンコーワ(商品名「フルベアンコーワ」、興和社製)投与群(対照群)(n=8)
第III群 実施例7で製造した検体(b)(デキサメタゾン注入不織布)投与群(n=8)
第IV群 実施例8で製造した検体(d)(トリアムシノロンアセトニド注入不織布)投与群(n=8)
検体サイズ:2.5cm×2.5cm
起炎剤:1%カラゲニン/生理食塩水
【0087】
試験手順:予め、実験日前日に人用の除毛クリームを使用して、ラットの足の毛を除毛した。ラット右後肢の足容積を足容積測定装置で測定し、同後肢足蹠皮下に起炎剤である1%カラゲニン溶液0.1mLを投与し、その直後に各検体を貼付した。
起炎剤投与(検体貼付)4時間後、検体を除去し、右後肢足容積を測定した。
【0088】
評価方法:起炎剤投与前と投与4時間後の足容積より、以下の式を用いて浮腫率を算出し、抗炎症効果の指標とした。
【0089】
【数1】
【0090】
投与量
1匹当たりの投与量を、表8に示す。
【0091】
【表8】
【0092】
検定
第I群(無処置(コントロール)群)に対する各薬物投与群の有意差は、dunnett法(Dunnett の多重比較検定)により求めた(**:P<0.01)。
【0093】
結果
試験結果を、表9及び図9に示す。表9及び図9の結果は、平均±標準誤差(SE)で表わされる。**:p<0.01(Dunnett の多重比較検定)
【0094】
【表9】
【0095】
無処置群(第I群)と対照群及び各検体群を比較すると、対照群(第II群)及び両検体群(第III群及び第IV群)に有意な薬効が認められた(Dunnet の多重検定)。
実施例7〜8で製造した検体(製剤)を用いると、無処置の第一群(コントロール)と比較して、有意に浮腫が抑制された。
【0096】
実施例10
次の手順にて、担体(不織布)に薬物を注入し、薬物が不織布に注入された検体を作製した。薬物として、ジブカイン塩酸塩(和光純薬工業社製)を使用した。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400)をヒートカッターで5cm×30cmに切断した後、切断した担体を真空デシケーターで乾燥させ、その質量(Wi)を電子天秤で測定した。
(2)ガラス濾紙を超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセルのサイズに合わせて切断し、質量測定を行った。使用した超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル(カラム)容積は、50mLであった。
(3)蒸留水を溶媒に使用して、ジブカイン塩酸塩を50g/Lに希釈した薬物溶液を調製した。
(4)(2)で切断したガラス濾紙に、担体であるPET製水流絡合不織布に対して薬物が5質量%(5%owf)になる量の(3)で調製した薬物溶液を滴下して担持させ、質量測定を行った。
(5)超臨界流体抽出装置(JASCO社製、型番SCF−Sro)のセル内に、担体(PET製水流絡合不織布)、(4)の薬物(ジブカイン塩酸塩)を担持させたガラス濾紙を入れた。セルを装置に入れ、セル内の温度及び圧力を40℃及び15MPaまで上げた後、二酸化炭素(液化炭酸ガス、純度99.5%以上、宇野酸素社製)を送り込み、30分間担体に注入処理を行った。この注入処理後、薬物(ジブカイン塩酸塩)を注入した担体(PET製水流絡合不織布)を真空デシケーター中で2時間乾燥させた。乾燥後、薬物注入後の担体の質量を電子天秤で測定した(この質量を、Wiiとした)。担体の表面は、洗浄せずに常温、暗所にて保管した。
前記手順により、2回検体の調製を行ない、検体(a)及び検体(b)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
【0097】
下記式により、質量変化率を算出した。
薬物の注入量は、Wii−Wiの計算式により、増加質量を求めることにより確認した。質量変化率(%)(処理後のPET不織布の質量変化の割合)は、100×(Wii−Wi)/Wiの計算式により求めた。
実施例10において、PET水流絡合不織布にジブカイン塩酸塩を注入した結果を、表10に示す。
【0098】
【表10】
【0099】
実施例11
実施例10において、ジブカイン塩酸塩の代わりにプロカイン塩酸塩(和光純薬工業社製)を用いたこと以外は、同様の操作を行い、担体に薬物(プロカイン塩酸塩)を注入した。実施例10と同様に、2回検体の調製を行ない、検体(c)及び検体(d)を得た。各検体について、担体の外観、特性に大きな変化は認められず、その通気性は極めて高いものであった。
実施例11において、PET水流絡合不織布にプロカイン塩酸塩を注入した結果を、表11に示す。
【0100】
【表11】
【0101】
実施例12
実施例10及び11で得られた前記(a)〜(d)の検体において、質量変化率が大きい各検体(ジブカイン塩酸塩は検体(b)、及びプロカイン塩酸塩は検体(c))を用いて、以下の方法によりホルマリン誘発マウス疼痛モデルによる薬効薬理試験を実施した。
【0102】
実験手法
モデル:ホルマリン誘発マウス疼痛モデル
使用動物:マウス(ICR系、雄性、搬入時4週齢、日本エスエルシー社より購入)、体重(16.9g〜20.6g)
例数及び群構成:
対照群(ポリエチレンテレフタレート(PET)製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400))(n=6)
プロカイン塩酸塩投与群(検体(c)を所定のサイズに切断したものを貼付した群)(n=6)
ジブカイン塩酸塩投与群(検体(b)を所定のサイズに切断したものを貼付した群)(n=6)
陽性対照群(リドカイン(商品名:キシロカイン(登録商標)ゼリー2%、アストラゼネカ社製)を塗布した。)(n=6)、キシロカイン(登録商標)ゼリー2%の塗布量は0.1mL
検体サイズ:約2cm×3cm
惹起物質:ホルマリン
試験方法:Cowan1)らの方法を参考に行った。すなわち、試験開始前にアクリルケージ内で約60分間馴化したマウスの側腹部を電気バリカン及び電気シェーバーで除毛し、検体を貼付後、不織布粘着性包帯(メッシュポア(登録商標)テープ)にて保定した。検体貼付から60分後、検体を除去した。検体を貼付していた部位を清拭し、該検体貼付部位に2%ホルマリンを皮内投与(50μL/site)した。その直後からマウスを同ケージ内に戻して動画撮影を行った。
陽性対照群への薬物(リドカイン(商品名:キシロカイン(登録商標)ゼリー2%、アストラゼネカ社製))の投与は、以下のように行った。マウスの側腹部の除毛部に、シリンジ(テルモシリンジ(登録商標))を用いて上記薬物0.1mLを滴下し、約2cm×3cmのサイズに塗布後、無処理の不織布(PET製水流絡合不織布(日本バイリーン社製、商品名EW−9400))で覆い、これを不織布粘着性包帯(メッシュポア(登録商標)テープ)にて保定した。
1)Inan S, Dun NJ, Cowan A.,Eur J Pharmacol.616,141-146(2009)
【0103】
評価方法:撮影した動画の再生から、ホルマリン投与後30分間の投与部位に対する疼痛反応(biting[噛む]やlicking[舐める]等の行動、図10)を示した総時間(疼痛反応時間)をストップウォッチで計測し、局所麻酔効果の指標とした。
【0104】
ホルマリン誘発マウス疼痛モデルによる薬効薬理試験における、1匹あたりの薬物の投与量は、表12に示す通りである。
【0105】
【表12】
【0106】
※モデルマウス1匹あたりの投与量は、以下の式より算出した。
・不織布1枚(5×30cm)あたりの薬物注入量(g)
薬物注入量(g) = 注入後質量(g) − 注入前質量(g)
・不織布の面積は150cm2であるため、
不織布1cm2あたりの薬物量(mg/cm2) = 薬物注入量(g) ÷ 150 × 1000
・1匹あたりの貼付面積は約6cm2であるため、
1匹あたりの投与量(mg) = 1cm2あたりの薬物量(mg/cm2) × 6
【0107】
一例として、検体(b)について、薬物注入量、不織布1cm2あたりの薬物量及び検体(b)を貼付した場合の1匹あたりの投与量を上記式により計算した結果を示す。注入前質量及び注入後質量は、上記表10の通りである。
薬物注入量(g) = 1.55684 − 1.55279
= 0.00405
1cm2あたりの薬物量(mg/cm2) = 0.00405 ÷ 150 × 1000
= 0.027
1匹あたりの投与量(mg) = 0.027 × 6
= 0.162
【0108】
結果
結果を、図11に示す。図11に示される結果は、平均値である。図11中、「対照」は対照群であり、「プロカイン」はプロカイン塩酸塩投与群であり、「ジブカイン」はジブカイン塩酸塩投与群であり、「陽性対照」は陽性対照群である。
ジブカイン塩酸塩群及びプロカイン塩酸塩群の両検体群において、対照群と比較して疼痛反応時間の減少が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、医療分野等において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に有効な化学成分を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該化学成分を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該化学成分を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含むことを特徴とする外用剤の製造方法。
【請求項2】
超臨界流体又は亜臨界流体が、二酸化炭素、水、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール、及びアセトンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
超臨界流体又は亜臨界流体が、実質的に二酸化炭素のみからなる流体である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
薬学的に有効な化学成分が、非ステロイド系抗炎症薬、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬、ステロイド剤、及び抗アレルギー剤からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
非ステロイド系抗炎症薬が、インドメタシン又はその塩、フェルビナク、ジクロフェナク又はその塩、ロキソプロフェン又はその塩、ケトプロフェン又はその塩、フルルビプロフェン又はその塩、ピロキシカム、及びメロキシカムからなる群より選択される少なくとも1種であり;抗ヒスタミン薬が、ジフェンヒドラミン又はその塩、クロルフェニラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩、ヒドロキシジン又はその塩、及びジメンヒドリナートからなる群より選択される少なくとも1種であり;局所麻酔薬が、リドカイン又はその塩、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩、及びメピバカイン又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり;ステロイド剤が、デキサメタゾン又はその塩、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、及びトリアムシノロンからなる群より選択される少なくとも1種であり;抗アレルギー剤が、ジフェンヒドラミン又はその塩、及びプロメタジン又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
担体が、通気性のある素材から形成されるものである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
担体が、繊維状物質から形成されるものである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
担体が、繊維状物質から形成される織布又は不織布である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
繊維状物質が、レーヨン、キュプラ、アセテート繊維、プロミックス、ナイロン、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、羊毛、獣毛、及び絹からなる群より選択される少なくとも1種の繊維である請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
担体が、円筒状、手袋状、又は靴下状である請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
注入工程が、温度100℃以下、かつ圧力10〜25MPaの条件下で行われる請求項3に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法により製造される外用剤。
【請求項1】
薬学的に有効な化学成分を、超臨界流体、亜臨界流体、又はその温度が100℃を超える液体状態の水のいずれかより選択される媒体に溶解させ、該化学成分を溶解した該媒体を担体に接触させることにより、該化学成分を該媒体と共に、担体に注入する注入工程を含むことを特徴とする外用剤の製造方法。
【請求項2】
超臨界流体又は亜臨界流体が、二酸化炭素、水、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール、及びアセトンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
超臨界流体又は亜臨界流体が、実質的に二酸化炭素のみからなる流体である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
薬学的に有効な化学成分が、非ステロイド系抗炎症薬、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬、ステロイド剤、及び抗アレルギー剤からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
非ステロイド系抗炎症薬が、インドメタシン又はその塩、フェルビナク、ジクロフェナク又はその塩、ロキソプロフェン又はその塩、ケトプロフェン又はその塩、フルルビプロフェン又はその塩、ピロキシカム、及びメロキシカムからなる群より選択される少なくとも1種であり;抗ヒスタミン薬が、ジフェンヒドラミン又はその塩、クロルフェニラミン又はその塩、プロメタジン又はその塩、ヒドロキシジン又はその塩、及びジメンヒドリナートからなる群より選択される少なくとも1種であり;局所麻酔薬が、リドカイン又はその塩、ジブカイン又はその塩、プロカイン又はその塩、及びメピバカイン又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり;ステロイド剤が、デキサメタゾン又はその塩、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、及びトリアムシノロンからなる群より選択される少なくとも1種であり;抗アレルギー剤が、ジフェンヒドラミン又はその塩、及びプロメタジン又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
担体が、通気性のある素材から形成されるものである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
担体が、繊維状物質から形成されるものである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
担体が、繊維状物質から形成される織布又は不織布である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
繊維状物質が、レーヨン、キュプラ、アセテート繊維、プロミックス、ナイロン、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、羊毛、獣毛、及び絹からなる群より選択される少なくとも1種の繊維である請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
担体が、円筒状、手袋状、又は靴下状である請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
注入工程が、温度100℃以下、かつ圧力10〜25MPaの条件下で行われる請求項3に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法により製造される外用剤。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−97070(P2012−97070A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138628(P2011−138628)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(390031093)テイカ製薬株式会社 (38)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(390031093)テイカ製薬株式会社 (38)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
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