説明

外用抗炎症剤の製造方法

【課題】 薬理活性が高く副作用がなく、安全性の高い抗炎症剤を天然物を原料として得る方法を提供する。
【解決手段】 化学パルプ由来のリグノセルロース材料をヘミセルラーゼによって加水分解処理してキシロオリゴ糖−リグニン複合体を含有する加水分解処理液を得る工程、該加水分解処理液から低重合度のオリゴ糖及び低分子夾雑物を除去してキシロオリゴ糖−リグニン複合体濃縮液を得る工程、該キシロオリゴ糖−リグニン複合体濃縮液を希酸処理してリグニン様物質を遊離させ、縮合沈殿させて除き、酸性キシロオリゴ糖及び中性キシロオリゴ糖を含有する希酸処理液を得る工程、該希酸処理液を濾過・脱色処理することにより酸性キシロオリゴ糖及び中性キシロオリゴ糖の混合物を含有する精製キシロオリゴ糖濃縮液を得る工程、該精製キシロオリゴ糖濃縮液から弱陰イオン交換樹脂を用いた吸着処理により平均重合度が2.0〜11.0である酸性キシロオリゴ糖組成物を得る工程、該平均重合度が2.0〜11.0である酸性キシロオリゴ糖組成物を抗炎症剤基剤に含有させる工程、よりなる外用抗炎症剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、医薬部外品、化粧品分野に属する新規な抗炎症剤に関する。より詳細には、優れた薬理活性を有し、しかも安全性の高い抗炎症性の酸性キシロオリゴ糖組成物を有効成分とする外用抗炎症剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本来、炎症は生体防御反応の一つであるが、それが過度となると痛み、かゆみ、発熱を伴う為、古くから抗炎症剤には高い需要があった。ヤナギの樹皮には抗炎症作用があることが知られていたが、この活性本体はサリシンという配糖体であり、体内でサリチル酸に変化して活性を発揮する。現在では合成品であるインドメタシンが代表的な抗炎症剤として使用されている。
サリチル酸やインドメタシンは非ステロイド系抗炎症剤と呼ばれており、それらのメカニズムはプロスタグランジン類の合成阻害である為、低濃度で高い活性を示す。
しかしながら、プロスタグランジン類には胃酸分泌抑制、胃粘膜保護作用等もある為、胃潰瘍や長期服用による腎障害等の副作用が懸念されている。
【0003】
ステロイド系抗炎症剤としては、副腎皮質ホルモンであるヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン等があるが、これらの薬剤もアラキドン酸カスケードの上流部分を阻害するのみで、非ステロイド剤と同様の副作用を持つばかりか、副腎皮質機能障害や免疫抑制作用による感染症の恐れもある。
【0004】
一方、天然物からの抗炎症作用を有する物質の探索も行われており、キク科ヨモギ属の多糖類(特許文献1)、キトサンの誘導体(特許文献2)、2〜6糖のオリゴ糖に脂質が結合したもの(特許文献3)、ヒャクジツセイ等の抽出物(特許文献4)が提案されている。しかしながら、効果と経済性に問題があり、現在の薬剤に取って代わるだけの薬剤は見出されていないのが現状である。
【0005】
なお、酸性キシロオリゴ糖の生理効果に関しては、水耕栽培に於けるスギ挿穂の発根促進効果の記載(非特許文献1)がある。
特許文献1:特開平6−211679号公報
特許文献2:特開平5−178876号公報
特許文献3:特開平8−283285号公報
特許文献4:特開2001−226273号公報
非特許文献1:セルラーゼ研究会報、第16巻(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明に於いては、薬理活性が高く、天然物を原料とし、副作用が無く、安全性の高い抗炎症剤を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する為、マウス耳浮腫抑制を指標として抗炎症剤のスクリーニングを行った。その結果、ウロン酸残基が付加した酸性キシロオリゴ糖組成物が優れた抗炎症効果を有することを見出し、安全性も優れることより、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、「キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とする外用抗炎症剤を製造する方法。」である。
【0009】
本発明において、該酸性キシロオリゴ糖は、キシロースの重合度が異なる酸性キシロオリゴ糖の混合物であり、平均重合度が2.0〜11.0である。
【0010】
本発明において、前記酸性キシロオリゴ糖は、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離して得たもの」である。
【0011】
本発明おいて、ウロン酸はグルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸である。
【発明の効果】
【0012】
本発明で得られる酸性キシロオリゴ糖のみからなるキシロオリゴ糖組成物は、強い炎症阻害作用を有していることから、抗炎症、抗かゆみなどの効果があり、また、アトピー性皮膚炎によるかぶれやかゆみの予防・改善にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成について詳述する。キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、或いは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体を言う。
本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖とは、キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有するものを言う。また、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であっても良い。一般的には、天然物から製造するために、このような組成物として得られることが多く、以下、主として酸性キシロオリゴ糖組成物について説明する。該組成物は、平均重合度で示す数値は正規分布をとる酸性キシロオリゴ糖のキシロース鎖長の平均値で、2.0〜15.0が好ましく、2.0〜11.0がより好ましい。キシロース鎖長の上限と下限との差は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。ウロン酸は天然では、ペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。本発明におけるウロン酸としては特に限定されないが、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸が好ましい。
【0014】
上記のような酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることが出来れば、その製法は特に限定されないが、リグノセルロース材料を酵素的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離する方法が挙げられる。特に、(2)の方法が5〜10量体のように比較的高い重合度のものを大量に安価に製造することが可能である点で好ましく、以下にその概要を示す。
【0015】
酸性オリゴ糖組成物は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のオリゴ糖や低分子の爽雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙などを用いたろ過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0016】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去され、着色物質等の來雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析などでも可能である。こうして得られた糖液中には酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖が溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から酸性キシロオリゴ糖のみを取り出すことができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。ついで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行っている。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させる。
【0017】
樹脂に吸着した酸性オリゴ糖を、低濃度の塩(NaCl、CaCl、KCl、MgClなど)によって溶出させることにより、來雑物を含まない酸性キシロオリゴ糖溶液を得ることができる。この溶液を、例えば、スプレードライや凍結乾燥処理により、白色の酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0018】
化学パルプ由来のリグノセルロースを原料とし、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体とした酸性キシロオリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性とキシロースの平均重合度の高い酸性キシロオリゴ糖組成物が容易に得られる点にある。平均重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって変えることが可能である。また、弱陰イオン交換樹脂溶出時に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子当たりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0019】
このようにして得られた酸性キシロオリゴ糖または、酸性キシロオリゴ糖組成物は、エタノール、プロパノール及びイソプロパノール等の低級アルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール及びグリセリン等の多価アルコール、希酸、希アルカリの水溶液等に溶解して抗炎症剤基剤に含有させる。或いは、アルコール、エステル等を含有する基剤成分に直接添加、溶解して含有させることもできる。また、マイクロカプセル化やリボソームに内含させて添加してもよい。抗炎症剤に於ける酸性キシロオリゴ糖または、酸性キシロオリゴ糖組成物の含有量としては、0.001〜20.0%(以下全て質量%)の範囲で使用することができるが、0.01〜10.0%がより好ましい。
【0020】
本発明の抗炎症剤の用途としては、一般的な炎症による痛みやかゆみの改善を目的とした医薬品、医薬部外品及び化粧品等の薬用化粧品の他に、アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症に伴うかゆみや炎症及び花粉症に伴う炎症の軽減を目的とした医薬品、医薬部外品、化粧品及び機能性食品としても使用することが出来る。また、汎用化粧品成分による炎症予防を目的とした成分としても用いることが出来る。更に、紙おむつを構成するセンターシートや吸収体等の吸収性物品、お尻ふきやウエットティッシュ等のシート状製品に適当な方法で含浸させることにより、おむつかぶれの予防・改善等の抗炎症機能を付加した製品を得ることも出来る。
【0021】
本発明に係わる抗炎症剤には、本発明の効果を損なわない範囲内で、医薬品、医薬部外品、化粧品、機能性食品、吸収性物品及びシート状製品等に配合し得る油脂類、界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子類、顔料、色素、防腐剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等を含有させることができる。また、例えば、オキシベンゾン、トラネキサム酸、感光素301号、401号、塩酸ジフェンヒドラジン、アデノシン酸、カラミン、水溶性アズレン、紫根エキス、当帰エキス、ワレモコウエキス、アミノカプロン酸、サリチル酸、ビサボロール等を配合して、抗炎症作用を相乗的に強化することも出来る。
【0022】
本発明の抗炎症剤の剤型は任意であり、水性液剤、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム、軟膏、エアゾール剤、カプセル剤等の基剤形態で医薬品、医薬部外品、化粧品、機能性食品等とすることが出来る。また、本発明の酸性キシロオリゴ糖を抗炎症剤として、紙、フィルム、成形体、吸収性物品等の物品に含有させることも可能である。この際にも、前記抗炎症剤基剤への配合と同様に、全物品質量中、0.001〜20.0%の範囲で使用することができるが、0.01〜10.0%がより好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について実施例により詳説する。本発明はこれにより限定されるものではない。まず、各測定法の概要、本発明で有効成分として含有させた酸性キシロオリゴ糖組成物(UX10、UX5、UX2)の調製例1〜調製例3を示す。
【0024】
<測定法の概要>
(1)全糖量の定量:全糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(2)還元糖量の定量:還元糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、ソモジーネルソン法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(3)ウロン酸量の定量:ウロン酸は検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、カルバゾール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(4)平均重合度の決定法:サンプル糖液を50℃に保ち15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
(5)酸性キシロオリゴ糖の分析方法:オリゴ糖鎖の分布はイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、分析用カラム:CarboPacPA−10)を用いて分析した。分離溶媒には100mMのNaOH溶液を用い、溶出溶媒には前述の分離溶媒に酢酸ナトリウムを500mMとなるように添加し、溶液比で、分離溶媒:溶出溶媒=4:6となるような直線勾配を組み分離した。得られたクロマトグラムより、キシロース鎖長の上限と下限との差を求めた。
(6)オリゴ糖1分子当たりのウロン酸残基数の決定法サンプル糖液を50℃に保ち15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液のウロン酸量(D−グルクロン酸換算)を還元糖量(キシロース換算)で割ってオリゴ糖1分子当たりのウロン酸残基数を求めた。
(7)酵素力価の定義:酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0025】
<酸性キシロオリゴ糖組成物の調製例>
<調製例1>
混合広葉樹チップ(国内産広葉樹70%、ユーカリ30%)を原料として、クラフト蒸解及び酸素脱リグニン工程により、酸素脱リグニンパルプスラリー(カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cps)を得た。スラリーからパルプをろ別、洗浄した後、パルプ濃度10%、pH8に調製したパルプスラリーを用いて以下のキシラナーゼによる酵素処理を行った。
【0026】
バチルスsp.2113株(独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター、寄託菌株FERM BP−5264)の生産するキシラナーゼを1単位/パルプgとなるように添加した後、60℃で120分間処理した。その後、ろ過によりパルプ残渣を除去し、酵素処理液1050Lを得た。
【0027】
次に、得られた酵素処理液を濃縮工程、希酸処理工程、精製工程の順に供した。濃縮工程では、逆浸透膜(日東電工(株)製、RO NTR−7410)を用いて濃縮液(40倍濃縮)を調製した。希酸処理工程では、得られた濃縮液のpHを3.5に調整した後、121℃で60分間加熱処理し、リグニンなどの高分子夾雑物の沈殿を形成させた。さらに、この沈殿をセラミックフィルターろ過で取り除くことにより、希酸処理溶液を得た。
【0028】
精製工程では、限外濾過・脱色工程、吸着工程の順に供した。限外濾過・脱色工程では、希酸処理溶液を限外ろ過膜(オスニクス社製、分画分子量8000)を通過させた後、活性炭(和光純薬(株)製)770gの添加及びセラミックフィルター濾過により脱色処理液を得た。吸着工程では、脱色処理液を強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)、強陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PA408)、強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)各100kgを充填したカラムに順次通過させた後、弱陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製WA30)100kgを充填したカラムに供した。この弱陰イオン交換樹脂充填カラムから75mMのNaCl溶液によって溶出した溶液をスプレードライ処理することによって、酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末(全糖量353g、回収率13.1%)を得た。以下、この酸性キシロオリゴ糖組成物をUX10とする。前述の測定方法により、UX10は平均重合度10.3、キシロース鎖長の上限と下限との差は10、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。
【0029】
<調製例2>
調製例1と同様にして得られた希酸処理液1160m1に、スミチームX28mgを添加し、40℃で20時間反応させた。活性炭9.8gの添加及び加熱処理(70℃、1時間)により酵素を失活させた後、セラミックフィルターで活性炭を除去した。スミチームX処理液を調整例1と同様の精製工程を経て、酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末(全糖量21.3g、回収率22.2%)を得た。以下、この酸性キシロオリゴ糖組成物をUX5とする。前述の測定方法により、UX5は平均重合度4.8、キシロース鎖長の上限と下限との差は9、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。
【0030】
<調製例3>
調製例1より得られたUX10の10%水溶液100mlに、スミチームX50mgを添加し、60℃、20時間反応後、弱アニオン交換樹脂(WA30)10gを充填したカラムに供した。カラムを水洗した後、75mMのNaCl溶液によって溶出した溶液を凍結乾燥することによって、酸性キシロオリゴ糖組成物粉末(全糖量2.1g、回収率21%)を得た。以下、この酸性キシロオリゴ糖組成物をUX2とする。前述の測定方法により、UX2は平均重合度2.3、キシロース鎖長の上限と下限との差は2、酸性キシロオリゴ糖1分子当たりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。
【0031】
次に、得られた酸性キシロオリゴ糖組成物を用いて行ったマウスの耳浮腫抑制試験の概要及び結果を実施例1に示す。また、酸性キシロオリゴ糖組成物を含有する薬用化粧品(クリーム及び乳液)の処方と製造法を、実施例2及び実施例3に示す。
【0032】
<実施例1>
<マウス耳浮腫抑制活性試験の概要>
接触皮膚炎のモデルとして、ICR系マウス(雄、4週齢、日本チャールズリバー(株)製、購入後1週間予備飼育)を用いた。炎症性浮腫惹起物質であるTPA(12−0−テトラデカノイルホルボール−3−アセテート)0.05%のエタノール溶液50μlをマウスの右耳だけに塗布した後、5時間後に、右耳に形成された浮腫の厚さにより炎症の程度を測定した。すなわち、Mitutoyo Series 293 microcaliperで左右の耳の厚さを測定し、その差を求めた。酸性キシロオリゴ糖組成物及びインドメタシン(陽性対照)のエタノール溶液は、TPAを塗布する30分前に両耳に予め塗布後、上記処理を行い、TPAだけを塗った場合に対する浮腫抑制率を算出し、抗炎症効果とした。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1より明らかなように、酸性キシロオリゴ糖組成物には顕著な抗炎症効果が認められた。特に、UX5、5%はインドメタシン1%以上の効果があった。
【0035】
また、酸性キシロオリゴ糖組成物5%(50%エタノール溶液)100μ1をC3Hマウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)の背皮に約1ヶ月間連日塗布した結果、背皮の炎症等の副作用は観察されなかった。このことは酸性キシロオリゴ糖組成物の高い安全性を示唆している。
【0036】
<実施例2>
酸性キシロオリゴ糖組成物UX10を用いて、抗炎症作用を付与した下記組成のクリームを常法にて製造した。
処方:
(1)UX10、1.0% (2)ステアリン酸、2.0% (3)ステアリルアルコール、7.0% (4)ラノリン、2.0% (5)スクワラン、5.0% (6)グリセリンモノステアリン酸エステル、2.0% (7)ポリオキシエチレンセチルアルコール、3.0% (8)2−オクチルドデシルアルコール、6.0% (9)プロピレングリコール1500、3.0% (10)トリエタノールアミン、1.0% (11)エチルパラベン、0.3% (12)精製水、残部
製造法:先ず(1)と(12)を混合し、完全に溶解した後、(2)から(11)を順次に加えて完全に均一になるまで混合した。
【0037】
<実施例3>
酸性キシロオリゴ糖組成物UX5を用いて、抗炎症作用を付与した下記組成の乳液を常法にて製造した。
処方:(1)UX5、3.0%(2)ステアリン酸、2.0% (3)セチルアルコール、1.5% (4)ワセリン、5.0% (5)流動パラフィン、10.0% (6)ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、2.0% (7)ポリエチレングリコール、3.0% (8)トリエタノールアミン、1.0%(9)エチルパラベン、0.3% (10)香料、適量 (11)精製水、残部
製造法:先ず(1)と(11)を混合し、完全に溶解した後、(2)から(10)を順次加えて完全に均一となるまで混合した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の酸性キシロオリゴ糖組成物を有効成分とする外用抗炎症剤は、アトピー性皮膚炎によるかぶれやかゆみの予防・改善等に有用である。




















【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学パルプ由来のリグノセルロース材料をヘミセルラーゼによって加水分解処理してキシロオリゴ糖−リグニン複合体を含有する加水分解処理液を得る工程、
該加水分解処理液から低重合度のオリゴ糖及び低分子夾雑物を除去してキシロオリゴ糖−リグニン複合体濃縮液を得る工程、
該キシロオリゴ糖−リグニン複合体濃縮液を希酸処理してリグニン様物質を遊離させ、縮合沈殿させて除き、酸性キシロオリゴ糖及び中性キシロオリゴ糖を含有する希酸処理液を得る工程、
該希酸処理液を濾過・脱色処理することにより酸性キシロオリゴ糖及び中性キシロオリゴ糖の混合物を含有する精製キシロオリゴ糖濃縮液を得る工程、
該精製キシロオリゴ糖濃縮液から弱陰イオン交換樹脂を用いた吸着処理、及び引き続く溶出処理により平均重合度が2.0〜11.0である酸性キシロオリゴ糖組成物を得る工程、
該平均重合度が2.0〜11.0である酸性キシロオリゴ糖組成物を外用抗炎症剤基剤に含有させる工程、
を有することを特徴とする、
キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖のみからなる、平均重合度2.0〜11.0であるキシロオリゴ糖組成物を有効成分とする外用抗炎症剤の製造方法。
【請求項2】
前記、精製キシロオリゴ糖濃縮液を得る工程が、前記希酸処理液から限外濾過処理と活性炭吸着処理を組合わせて残存するリグニン様物質及び他の夾雑物を除いて精製キシロオリゴ糖濃縮液を得る工程であることを特徴とする、請求項1記載の外用抗炎症剤の製造方法。
【請求項3】
前記、希酸処理液を得る工程に引き続いて、該希酸処理を得る工程から得られる希酸処理液中のキシロオリゴ糖を再度ヘミセルラーゼ処理してキシロオリゴ糖の平均重合度を変える工程を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の外用抗炎症剤の製造方法。












【公開番号】特開2009−57387(P2009−57387A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261686(P2008−261686)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【分割の表示】特願2002−19378(P2002−19378)の分割
【原出願日】平成14年1月29日(2002.1.29)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】