説明

外耳炎の迅速な治療のための方法および組成物

わずか一回の投与からなる治療過程を用いて外耳炎を治療および防止するための方法を提供する。該方法は、リポソームおよび非小胞脂質などの脂質担体を有する組成物の外耳道への局所的投与によって実施される。そのような組成物は、粘度を増強するセルロースまたは粘着物を欠いており、かつ好ましくはゲルの形態でない。外耳における痛み、炎症、真菌または寄生虫のインフェステーションおよび/または感染を治療するのに有用な活性剤を、該組成物の中にまたは該組成物とともに同時投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、セルロース粘度増強構成要素、ゲル、または粘着物ベースの製剤の使用なしで、外耳炎(外耳(outer ear)の感染またはインフェステーションおよび炎症)を治療するための非侵襲性の方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
何百万もの動物および人間、特に子どもが、外耳炎、すなわち罹患組織の有痛性の炎症をしばしば伴う外耳の感染および/またはインフェステーションに毎年罹患している。多くの品種の犬など、耳の垂れた動物が特に感染しやすい。その覆われた外耳道は、微生物が繁殖し、かつ炎症が生じるのに魅力的な環境を提供し、それにもかかわらず世話をする人は、耳の持ち上がった動物においてほど容易には病状に気づかない可能性がある。
【0003】
多様な細菌、ウイルス、および真菌が、外耳炎を引き起こす原因であり得る。しばしば、第一線治療は経口のまたは局所的な抗生物質に限定される。経口投与される医薬の使用は、薬物の全身性の分散によって希釈される可能性があり、患者を全身送達に関連する副作用(例えば、女性におけるイースト菌感染症)の危険にさらし得る。しかも、細菌感染に対して局所的な抗生物質のみで治療された患者の耳道における真菌の異常増殖の危険性は、外耳炎およびその続発症に関連するすべての原因物質についての慎重な診断および治療の必要性を強調する(Schraeder and Issacson, Pediatrics, 111 (5): 1123, 2003(非特許文献1))。そのため、長期の経口投薬計画のコンプライアンスを得るのが困難であり得る特に子どもおよび動物において、複数の作用物質による外耳炎の局所的治療に対する優先が生じている。
【0004】
1種または複数種の活性剤を局所的に適用して外耳炎を治療する場合、特に真菌または寄生虫のインフェステーション(例えば、ミミダニ)が存在する場合、しばしば有効性は医薬がどれくらいの期間罹患組織と接触して維持され得るかに依存する。従来の点耳薬は、それらが接触する組織が患者頭部の姿勢によって直接影響を受けるために問題があり、滴剤は動作とともに耳から容易に流出し得る。外耳道における局所的医薬の滞留時間を増加させるためのアプローチには、セルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ゲルプラグ、ムース、泡、または粘着特性を備えた他の製剤を用いてより粘着性に作られた流動性のあるゲルの使用が含まれている。
【0005】
それにもかかわらず、耳におけるそれらのドロドロしたおよび/またはベタベタした感触は、特に動物および幼い子どもにとって不満の源となり得るため、そのような製剤を用いる投薬計画のコンプライアンスは再び課題である。保留可能な局所的製剤の承諾が不可能な場合、残りの選択肢は、多くの場合より高頻度かつより不便な、従来の点耳薬等のより粘度の低い溶液を用いた投薬である。したがって、ゲル、セルロースベースのまたは粘着性の組成物の使用に依存せず、かつ低頻度に(すなわち、治療の全過程として一回か二回)適用して病状を改善する(大幅に症状を軽減する)または解決することができる、外耳炎の局所的治療のためのアプローチの必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Schraeder and Issacson, Pediatrics, 111 (5): 1123, 2003
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ゲル、セルロース、または他の粘着性製剤の使用なしで、耳に入りかつ外耳炎を治療するのに十分な長さの時間保留され得る、抗生物質または寄生虫による感染、真菌のインフェステーション、および炎症を治療するための複数の作用物質による組成物を提供する。驚いたことに、本発明の製剤は、任意の補足的投薬とともに一回ほどの低頻度で適用して、治療される病状を完全に解決することができることが分かっている。
【0008】
本発明によれば、送達のための好ましい医薬は、外耳炎およびその続発症(掻痒症など)の治療または防止に有用なものである。本発明は、抗生物質もしくは抗ウイルス剤(存在する感染源に応じた)、抗真菌剤、および抗炎症剤、または他の痛み止めなどの医薬の送達にとりわけよく適している。慢性的に再発する外耳感染の防止のために、本発明の方法を活動性感染症の間に利用して、外耳道へ予防剤を送達してもよい。
【0009】
上記の本発明の概要は限定的なものではなく、本発明の他の特徴および利点は、以下の好ましい態様の詳細な説明から、ならびに特許請求の範囲から明白であろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
A.外耳炎の局所的治療のための方法
本発明は、外耳の感染、インフェステーション、および炎症の予防または治療に有用である複数種の活性剤、好ましくは少なくとも2種、最も好ましくは少なくとも3種の活性剤の投与によって外耳炎を局所的に治療および防止するための方法を提供する。「局所的投与」は、本発明の組成物を外耳道、すなわち鼓膜(tympanic membrane)(鼓膜(eardrum))の外耳側に適用することを意味する。本発明の組成物は、ゲル化剤、メチルセルロース、または他の粘着性要素を含有しないが、単回投与の治療過程を通して外耳炎を改善または解決するのに十分強力である。
【0011】
外耳道への局所的投与は、例えば本発明の組成物を任意の医学的に許容される手段により外耳道へ導入することにより、例えば無針注射器、点滴器、または綿棒を耳道内へ挿入することによって膜へ担体組成物を適用することによって達成される。必要に応じて投与を繰り返して、与えられる抗生物質化合物に対して治療上有効な投薬レベルを達成する。しかしながら、本発明によってもたらされる特別な利点は、それが、わずか1回投与からなる治療過程を用いて外耳炎の改善(症状の実質的な軽減)または解決(症状の消失)を可能にすることである。
【0012】
外耳炎が治療に対して異常に屈曲性であるが、最初の用量が投与された後に病状の臨床症状が改善されていることが判明した場合、医学的に適切な期間の後、フォローアップ用量を送達することができる。例えば、実施例1において立証されているように、10〜20滴の局所用担体組成物を一回送達し、患者の病状の臨床観察により、投与された最初の用量が病状を完全には解決しなかったことが示された場合、治療後の14日目または重度の症状の事象の7日目にフォローアップ用量を送達することができる。当業者であれば、特定の感染症を治療することに続く適切な投薬計画を熟知しており、かつ容易に選択することができるであろう。
【0013】
B.本発明における使用のための脂質ベースの担体
本発明に従って適用される活性物質のための現在のところ好ましい局所用担体は、脂質エマルション(マイクロエマルションおよび水中油型エマルションを含む)などの脂質ベースの担体、ならびにリポソーム、リオソーム、ミセル、およびトランスファーソーム(transfersome)(超柔軟性の脂質小胞)などの脂質小胞の担体である。リン脂質ベースの製剤は、特に本発明において有用な非小胞性製剤に対して現在のところ好ましい。
【0014】
最も好ましくは、本発明に従って送達される医薬は、好ましくは水相中(例えば、リポソームの中心部)よりもむしろ脂質相中(例えば、リポソームの脂質二重層中)に保持される。したがって、脂質可溶性の医薬(一般に、水相中に分散された水溶性医薬が提供されるよりもより高濃度で小胞の脂質層中に提供されることができる)は、必要ではないが、本発明における使用に好ましい。
【0015】
脂質エマルションおよび小胞を調製するための方法は当技術分野において周知であり、それゆえ、本発明における使用のための局所用担体組成物である、立体安定剤なしで、かつ粘度増強剤、ゲル化剤、および/または粘着剤なしで調製されるリポソームの現在のところ最も好ましい態様に関しては、本明細書においてごく簡潔に概説する。
【0016】
「リポソーム」は、秩序立った脂質二重層に囲まれ、かつ水相を封入している球状の脂質小胞を意味する。リポソームの脂質二重層は、通常、天然または合成のリン脂質から作られているが、非リン脂質からも作られ得る。リポソームの脂質二重層は、脂質の分子的な「頭部」および「尾部」構造が互いに隣接して並んでいることを意味する秩序立った二重層である。
【0017】
本発明において利用されるリポソームは、単層(1つの脂質二重層を有する)であってよく、またはより好ましくは多層状である。「多層状」であるリポソームは、複数の層または膜を有する。このタイプのリポソームは、脂質二重層間に位置する水性流体を備えた脂質二重層の複数の層を有する。多層状リポソームは、少なくとも2層の脂質を有する。
【0018】
好ましいリポソームは本明細書において記載されているものであり、かつこの参照によりその開示内容が全体として本明細書に組み入れられる2003年2月12日に提出された米国特許出願第10/366,584号に一般に所有されているものである。しかしながら、当業者であれば、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミンなどのホスファチジル化合物、スフィンゴ脂質、セレブロシド、およびガングリオシドを含む他のリポソームの製剤を利用してよいことを認識するであろう。とりわけ有用なのは、脂質部分が14〜18個の炭素原子、とりわけ16〜18個の炭素原子を含有し、かつ飽和しているジアシルホスファチジルグリセロールである。例示的なリン脂質には、卵ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、およびジステアロイルホスファチジルコリンが含まれる。そのような脂質は、本発明の非小胞性局所用担体組成物においても有用であると考えられる。
【0019】
本発明において利用されるリポソームおよび脂質小胞のサイズは、もしある場合には可変であってよいが、そのような小胞は、好ましくはそれぞれのバッチ調製において均一なサイズである。リポソームは、最大20μm、25μm、またはさらに30μmまでであってよい。しかしながら、好ましい態様において、リポソームの約95%は、直径約0.5μm〜約10μmである。一態様において、本明細書において記載されている方法に従って製造された好ましい組成物中のリポソームの少なくとも80%は、約0.5μm〜約5μmである。この点において、「約」という用語は、明記された値から5%の上方または下方の範囲を包含する。リポソームの実際の直径は、リポソームの製造にそのプロセスを用いる場合には、後に続く冷却曲線と撹拌またはボルテックスによる水和の長さおよび勢いとの関数である。さらに他の態様において、リポソームは、1個のより大きなリポソームが1個または複数個のより小さなリポソームを内部に封入している多層状リポソームであってよい。
【0020】
当技術分野において周知の手段に従って製造された従来のリポソームを本発明において用いてもよいが、本発明の好ましいリポソームは、先行技術(例えば、両方ともMezeiに対する米国特許第4,761,288号および第4,897,269号を参照されたい。両方とも参照により全体として本明細書に組み入れられる)のリポソームに見られる脂質可溶性の防腐剤を含有しない。実際には、保存条件に必要である場合、安息香酸もしくはベンゼトニウム塩(例えば、塩化ベンゼトニウム)などの水溶性の防腐剤を利用してもよく、または最も好ましくはDOWCIL(商標)200(油不溶性の96%のシス1-(3-クロロアリル)-3,5,7-トリアザ-1-アゾニアアダマンタン・クロリド、Dow Biocides)などの油不溶性の製品、もしくは他のDOWCIL(商標)ブランドの製品を含む当技術分野において公知の類似製品を利用してもよいが、本発明の組成物は好ましくは防腐剤を含んでいない。
【0021】
どのように調製されようとも、本発明の組成物は、いかなるメチルセルロースまたはいかなる他の粘度増強剤もしくはゲル化剤も含まない。「粘度増強剤もしくはゲル化剤」は、粘度を増大させるために組成物に添加される作用物質を意味する。粘度増強剤は、組成物の粘度を25℃で少なくとも10,000センチポイズ増大させる。粘度増強剤には、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、アルギン酸、ゼラチン、アカシア(アラビアゴム) カルボマー、およびセトステアリルアルコールが含まれるが、これらに限定されない。リン脂質は、この定義の範囲内では粘度増強剤と見なされない。
【0022】
リポソームがリン脂質ベースの小胞である場合、好ましい脂質は、大豆レシチンから得られて精製され、かつ1,2-ジアシル-5N-グリセロ-3-ホスファチジルコリンという化学名を有するホスホリポン90Hである。それは最少90%がホスファチジルコリンであり、完全に水素化されている。しかしながら、当業者であれば、本発明において他の脂質を用いてもよいことを理解するであろう。例えば、ホスファチジルコリンは、より純度が低くてもよく、または例えばプロピレングリコール/エタノール、中鎖トリグリセリド、油/エタノール、ホスファチジン酸、コレステロール、およびホスファチジルイノシトールなどの他の脂質もしくは担体原料を含有していてもよい。リン脂質は、任意の天然または合成のリン脂質、例えばホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾリン脂質、卵もしくは大豆のリン脂質、またはそれらの組み合わせであってよい。リン脂質は、塩付加または脱塩されていても、水素化または部分的に水素化されていても、天然であっても、合成であっても、または半合成であってもよい。市販されているリン脂質の例には、卵リン脂質P123(Pfanstiehl, Waukegen, Ill.)、リポイドE80(Lipoid, Ludwigshafen, Germany)、ならびに水素化大豆リン脂質ホスホリポン80H(登録商標)、80G(登録商標)、90H(登録商標)、および100H(登録商標)(Nattermann, Munich, Germany)、ならびに99%純度の大豆ホスファチジルコリン(Avanti Polar Lipids, Alabaster, Ala.)が含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
任意で、無水アルコールおよびプロピレングリコールを脂質相の共溶媒として用いてよく、かつビタミンEアセテートを抗酸化物質として含んでもよい。いくつかの態様において、セラミド、レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、カルジオリピン、トリリノレイン、および同様の化合物などの他の脂質または脂質様物質が本発明において用いられる。非リン脂質も本発明において用いられてよい。例えば、有用であり得る非リン脂質原料には、ポリオキシエチレン脂肪エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル、ジエタノールアミン、長鎖アシルアミド、長鎖アシルアミノ酸アミド、長鎖アシルアミド、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレングリセロールモノステアレート、グリセロールモノステアレート、ならびにそれらの混合物、類似物、および誘導体を形成する脂質小胞が含まれる。小胞には、ステロイド、および電荷生成剤も含まれてよい。好ましいステロイドには、コレステロール、ヒドロコルチゾン、ならびにそれらの類似物、誘導体、および混合物が含まれる。好ましい負電荷生成原料は、オレイン酸、リン酸ジセチル、パルミチン酸、セチルサルフェート、レチノイン酸、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、およびそれらの混合物である。所望の場合に小胞に正味の正電荷を提供するために、脂質小胞が十分な量の水相を保持し得る限り、長鎖アミン、例えばステアリルアミンもしくはオレイルアミン、長鎖ピリジニウム化合物、例えばセチルピリジニウムクロリド、第4級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0024】
非リン脂質リポソームを含む他のリポソーム製剤を本発明において利用してよい。一般参照のために、1988年8月2日にMezeiに対して発行された米国特許第4,761,288号(容易に参照できるように、その開示内容は本明細書に組み入れられる)に開示されている多層リポソーム薬物送達システムは、本発明において利用され得るリポソーム組成物の例示的な代表例である。局所用担体としての使用について、小胞を立体的に安定化するための、またはターゲティングに備えるための、または小胞(もしくは利用される他の脂質ベースの担体)に徐放特性を提供するためのリポソーム(もしくは本発明において利用される他の脂質小胞)の改変は、組成物の局所活性を妨げる可能性があり、ゆえに好ましくない。
【0025】
本発明における使用のための脂質ベースの担体内に組み入れられ得る化合物の数に理論的な限界はない。しかしながら、当業者であれば承知しているように、カプセル化効率は、水に対して比較的高い脂質含有量を有するリポソーム組成物で一般により優れており、脂質相中に保持される脂質可溶性の薬物は、概して、水相中に保持される水溶性の薬物よりも高濃度で提供され得る。
【0026】
例えば、2種もしくはそれ以上の成分を同じ小胞内にカプセル化することができ、または活性化合物が混合できないものである場合には、化合物を別々にカプセル化することができ、かつ局所用担体組成物を組み合わせて、2つもしくはそれ以上の適応症を有する、または複数の活性化合物を用いて1つの適応症を治療する組成物を提供することができる。
【0027】
小胞内にカプセル化された、外耳道の治療のための1種または複数種の活性化合物、および周囲の水相中にカプセル化されていない形態で分散された、耳道(auditory canal)を治療するための1種または複数種の活性化合物の第2のセットを含む局所用担体組成物を投与することによって、外耳道を同時期に治療することも可能である。またあるいは、非小胞脂質が存在してもよく、すべての活性物質がカプセル化されていなくてもよい。
【0028】
好ましくは、本発明の組成物は、分解に抵抗するように製造されたリポソームの状態などの徐放形態で提供される。当業者であれば、脂質相へのコレステロールの添加(例えば、この目的のためにリポソーム内にコレステロールを組み入れるための方法の実例として、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,352,716号を参照されたい)を含むがこれに限定されない、この目標を達成する製造の方法を熟知しているであろう。
【0029】
そのような比較的不溶性の脂質小胞は、送達された場所にとどまり、1種または複数種の活性剤をゆっくりと放出することが期待され得る。そのような小胞は、外耳における感染を治療するまたはその割合を制御するのに役立つ殺菌剤または他の特性を有してもよく、例えば強力な殺菌剤であるヘキサデシル・トリメチルアンモニウム・ブロミドが小胞内の正電荷生成原料として利用される場合、二次的利点を提供する。そのような態様において、小胞は、それらはそれぞれ減衰するため、持続放出性製剤として作用する。
【0030】
C.外耳炎の治療および予防のために有用な活性剤
「活性剤」は、外耳炎およびその続発症、ならびに関連する痛みおよび炎症の治療および/または防止に有用な任意の生物学的に活性な化合物を意味する。したがって、この点において、とりわけ好ましい医薬は、哺乳動物、特にヒトにおける外耳炎の治療または防止に有用な抗生物質である。病状の重症度およびその原因に応じて、そのような抗生物質には、アモキシシリン(および他のペニシリン系)、シプロフロキサシン(およびオフロキサシンなどの他のキノロン系抗生物質)、クラブラン酸(および他のβ−ラクタマーゼ阻害剤)、セファクロル(およびセフィキシムなどの他のセファロスポリン系)、アジスロマイシン(およびクラリスロマイシンなどの他のマクロライド系抗生物質)、ならびにスルフィソキサゾール(およびスルファメトキサゾールなどの他のサルファ薬)が含まれるが、これらに限定されない。本発明において有用な抗生物質のうち、高脂溶性であり、水に不溶性であり得るものが好ましく、チアンフェニコールおよびその類似物(例えば、クロラムフェニコール)は特に好ましい。
【0031】
好ましくは、本発明の組成物は、抗真菌化合物および抗炎症化合物を含むが、これらに限定されない外耳炎を治療するのに有用な複数の作用物質を含有する。同時投与または抗生物質療法から独立した使用のための有用な抗炎症化合物には、ときには有効性が低いかまたは経口投与で耐容性が良好であるもの;例えば、ジクロフェナク、ナプロキセン、ケトプロフェン、セレコキシブ、インドメタシン、およびそれらの薬学的に許容される誘導体などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が含まれる。臨床的に示唆される場合には(例えば、掻痒症を有する外耳炎の慢性例では)、NSAIDの代替物または添加物としてステロイド性化合物を投与してもよいが、本発明における使用には必要としない。有りの場合、ステロイドは、ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、フルオシノニド、フルオシノリンアセトニド、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、クロベタゾール、ベクロメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、トリアムシノロン、およびそれらの薬学的に許容される誘導体であってよい。
【0032】
好ましい態様において、提供される薬学的な活性剤には、抗真菌剤が含まれる。適切な抗真菌剤には、臨床的に示唆される場合には他のもの(例えば、細胞内で作用する剤)も適切であり得るが、真菌の細胞壁または細胞膜に作用するものが主に含まれる。一般に、細胞壁/膜に活性のある抗真菌薬には、アリルアミン、アゾール、ポリエン系抗真菌薬、およびエキノカンジンが含まれる。限定されない具体例には、テルビナフィン、ミコナゾール、ケトコナゾール、アムホテリシン、フルコナゾール、フルシトシン、ナタマイシン、アムホテリシンB、ナイスタチン、クロモリン、ロドキサミド、レボカバスチン、ナファゾリン、アンタゾリン、フェニラミン、およびそれらの薬学的に許容される誘導体が含まれる。その使用が禁忌でない限り(例えば、特定のループス患者に対して)、テルビナフィンは、本発明における使用に現在のところ好ましい抗真菌剤である。
【0033】
いくつかの態様において、薬学的な活性剤には、局所麻酔剤または鎮痛剤も含まれ得る。適切な剤の例には、ベンゾカイン、安息香酸ベンジル、ブピバカイン、カラミン、クロロプロカイン、クロロキシレノール、シンコカイン、コカイン、デキシバカイン、ジアモカイン、ジブカイン、ジクロニン、エチドカイン、ヘキシルカイン、ケタミン、レボブピバカイン、リドカイン、メントール、メピバカイン、オキセサゼイン、フェノール、プラモキシン、プリロカイン、アメトカイン、テトラカイン、プロパラカイン、プロポキシカイン、ピロカイン、レゾルシノール、リソカイン、ロドカイン、ロピバカイン、テトラカイン、およびそれらの薬学的に許容される誘導体が含まれる。治療される外耳炎を解決することにおける本発明の組成物の迅速な作用により、そのような麻酔薬または鎮痛薬の使用は不要であり得る。
【0034】
特に動物において、外耳炎は、しばしば寄生虫のインフェステーションに、もっとも頻繁には耳ダニ症、すなわちミミヒゼンダニ(otodectes cynotis)(ミミダニ)のインフェステーションに関係している。ミミダニに関する局所的治療は、しばしば、例えばピレトリン含有組成物を用いた比較的長期の局所的殺虫剤療法を用いて成し遂げられている。しかしながら、つい最近では、注射によってまたは皮膚上に局所的に投与されるメクチンおよびマイシン化合物、例えばアベルメクチン(イベルメクチンおよびセラメクチンなど)およびミルベマイシンを用いてより短期の療法が行なわれている。臨床的に示唆される場合には、そのような抗寄生虫駆除化合物を、本発明の組成物の中にまたは別個に付加するものとして同時投与してよい。さらに、臨床的に示唆される場合には、アシクロビルなどの抗ウイルス化合物を、抗生物質化合物の代わりにまたは付加するものとして投与してよい。
【0035】
以下の実施例は、イヌにおける外耳炎を治療するための、本発明の好ましい組成物の調製および使用を例証するものである。実証されているように、病状は、ほとんどの動物において単回投与の治療過程で解決した。治療後14日目に病状の兆候を示し続ける動物にはもう1用量を与え、病状は解決した。
【0036】
本発明を任意の哺乳動物における外耳炎を治療するために利用してよいことは当然理解されるものであり、そこでは、薬学的に許容される、セルロースを含まない、ゲル化していない本発明の組成物を、治療される病状を臨床的に改善する(大幅に症状を軽減して、再治療、好ましくは単回投与の再治療で解決されやすくする)または解決するのに十分な用量で外耳道へ局所的に適用する。医師および獣医師は、個々の活性剤を用いた投薬に適した濃度を当然熟知していると考えられるが、ほとんどの臨床状況および種において有効であると期待される濃度および用量範囲は、最高約1mlsまでの単位投薬量で送達される0.1〜2.0%活性重量/重量であり、または、適当な治療過程および送達される投薬量の強度についての臨床医の判断に応じて10〜20滴である。
【0037】
本発明は十分に記載されており、以下の実施例は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を例証することを意図するものであって、限定するものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1
抗生物質、抗真菌薬、NSAIDを含有する本発明の組成物
以下のように、ホスホリポン90Hを用いて脂質担体を調製し、それとともに、一覧表に載っている活性/不活性成分を、100gの量まで混和した。
【0039】
水相の調製のために、ステンレス鋼で被覆されたボルテックス水和チャンバー混合容器に水を加えた。容器のチャンバーを覆って水の蒸発を防ぎ、底部開口部およびバルブを装備して容器からの原料の流れを調節した。製剤1Bについて、DOWCIL(商標)200を添加し、水中に溶解させた。両製剤について、チアンフェニコールの半分を添加して水に溶解し、50℃±2℃で混合物に熱を加えた。泡の形成を避けるために低速で混合を行った。混合物を加熱しながら、ジクロフェナクを添加し、溶解するまで混合した。混合物が50℃±2℃の温度に到達したら、すべての成分が溶解するまでまたは(ガムについては)完全に水和するまで混合を続けながら、キサンタンガムをゆっくりとボルテックスに添加した。温度を上昇させ、混合物が55℃〜60℃の温度に到達した時点で混合を完了した。
【0040】
脂質相の調製のために、ステンレス鋼で被覆された第二の混合容器を、第一のものに極めて近接して利用した。この第二の容器において、プロピレングリコール、アルコール、コレステロール、ビタミンE酢酸塩、テルビナフィン、およびチアンフェニコールの残りの半分とホスホリポン90Hとの混合を初めはゆっくりと行って、泡または表面の気泡の形成を回避した。オーバーヘッドミキサーを始動させ、すべてのものが溶解するまで熱を加えて混合物の温度を55℃〜60℃に上昇させた。手順を通して、チャンバー上に覆いを用いてアルコールの蒸発を防いだ。
【0041】
中程度の混合速度で脂質相を水相にすぐに添加した。具体的には、バルブをチャンバーの底部開口部で開き、両方の容器からの流れを調節した。水相および油相が流れてインライン調節ティーで合流し、分散ポンプにより2つの相が集められた。混合物を60メッシュの分散スクリーン中に循環させて、脂質相の水和を最適化した。その後、混合物をチャンバーの最上部へ向かわせ、10分間チャンバー内に戻して全プロセスをポンプ中で循環させた。
【0042】
循環の後、生成物の温度が40℃になるまでゆっくりとした混合を続けてチャンバーの被覆を冷却し、プロセスを完了した。原料の組み合わせは、好ましくは、表面の泡または気泡の形成を生じさせることなく、徹底的に混合するのに十分に高速である。冷却プロセスは、底部開口部およびティーを用いて前者を後者の中に注ぐまたは急速にポンプ注入してそれらを混合することによって、好ましくはゆっくりと、最も好ましくは1時間あたり約6℃の冷却である。混合物には熱をかけなかった。調製された製剤は、以下のとおりであった。
【0043】
製剤1A

【0044】
防腐剤およびより低濃度のテルビナフィンを含む以下の組成物はわずかに有効性が低く、より低濃度の抗真菌剤を利用してよいこと、治療される耳の単回投与による解決がそれでも可能であることを示唆している。
【0045】
製剤1B

【0046】
実施例2
イヌにおける外耳炎の治療
細菌感染、真菌のインフェステーション、および炎症を含む確認された外耳炎を有する、26匹の様々な品種のイヌを、片耳あたり20滴の点滴器様式の投与によって、単回用量の実施例1の組成物で治療した。イヌ1〜16には製剤1Bを与え、一方でイヌ17〜26には製剤1Aを与えた。治療された耳を、投薬後の7日目および14日目に外耳炎の兆候について評価した。
【0047】
片耳あたり少なくとも6の提示スコアが動物の調査への加入のための条件であり、有効性のエンドポイントは、両耳における2またはそれ未満への臨床スコアの好転であった。臨床スコアは、外耳炎の以下の兆候:痛み、紅斑、滲出液、腫れ、悪臭、および潰瘍のそれぞれに対する標準的採点システムに基づき、臨床医によって客観的に割り当てられかつ評価された。スコアは、次のように割り当てることができた。痛み:0=なし、1=軽度/中程度−動悸の際に痛みを伴う、2=重度−耳介を持ち上げる際に痛みを伴う。紅斑:0=なし、1=軽度/中程度−耳鏡評価で明らかな赤みにかろうじて気づくことができる、2=重度−検査で真っ赤もしくは鮮やかに赤い、および/または紅斑が耳介組織へ広がる。滲出液:0=なし、1=軽度/中程度−耳道において少量が目に見える、2=重度−耳道外に広がり、痂皮が形成される可能性がある。腫れ:0=なし、1=軽度/中程度−耳道のいくらかの閉塞、2=重度−耳道が完全に閉塞する。悪臭:0=なし、1=軽度/中程度−耳介を持ち上げた際に不快な臭いを検出できる、2=重度−耳介を持ち上げることなく不快な臭いを検出できる。潰瘍:0=なし、1=軽度/中程度−軽度の剥離が目に見える、2=重度−広範な剥離および/または出血している可能性がある。
【0048】
製剤1Bで治療した1匹の動物は、とりわけ顕著な感染の兆候を示し、7日目に再治療を受けた。製剤1Bで治療した2匹の動物において、14日目にイースト菌の異常増殖が認められたため、それらも再治療を受けた。1匹の動物においては治療が失敗したと見なされたが(顕著な改善または完全な回復なし)、製剤1Aを受けた動物の再治療は必要とされなかった。
【0049】
全体として、治療に対する応答は、14日目までに4匹の動物において統計的に有意ではなかった。治療の失敗に対する考えられる理由には、関与した活性剤に感受性のない細菌もしくは真菌の存在、または他の要因が含まれる。4匹すべての動物において、外耳炎は12の尺度のうち12という非常に重度として示された。
【0050】
しかしながら、19匹の動物において、単回用量投与後の14日目までに、外耳炎は完全に解決された。示している病状が12ポイントの尺度で12と採点された動物を含む、それらの動物のすべてが、7日目までに治療された病状の顕著な好転の兆候を示した。
【0051】

【0052】
本明細書において例示的に説明されている本発明は、本明細書において具体的に開示されていない任意の一つまたは複数の要素、限定なしで実施され得る。使われている用語および表現は、説明の用語として用いられており、限定する用語として用いられているのではなく、かつそのような用語および表現の使用において、示されているかつ記載されている特徴またはその一部の任意の同等物を排除する意図はなく、しかしながら特許請求される本発明の範囲内で種々の改変が可能であると認識される。したがって、本発明は好ましい態様および任意の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書において開示されている概念の改変および変化が当業者によって採用され得ること、ならびにそのような改変および変化は添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあると見なされることを理解すべきである。
【0053】
本明細書において言及または引用されている記事、特許、および特許出願、ならびに他のすべての文献および電子的に入手可能な情報の内容は、それぞれ個々の刊行物が、参照により組み入れられることを具体的かつ個々に明記されているのと同程度に、参照によりそれらの全体として本明細書に組み入れられる。出願人は、任意のそのような記事、特許、特許出願、または他の文献からの任意およびすべての題材および情報を本出願に物理的に組み入れる権利を有する。
【0054】
本明細書において例示的に説明されている本発明は、本明細書において具体的に開示されていない任意のいずれかまたは複数の要素、限定なしで適切に実施され得る。したがって、例えば「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する」等の用語は、包括的にかつ限定することなく読まれるべきである。さらに、本明細書において使われている用語および表現は、説明の用語として用いられており、限定する用語として用いられているのではなく、かつそのような用語および表現の使用において、示されているかつ記載されている特徴またはその一部の任意の同等物を排除する意図はなく、しかしながら特許請求される本発明の範囲内で種々の改変が可能であると認識される。したがって、本発明は好ましい態様および任意の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書において開示されているその中で具体化されている本発明の改変および変化が当業者によって採用され得ること、ならびにそのような改変および変化は本発明の範囲内にあると見なされることを理解すべきである。
【0055】
本発明は、本明細書において幅広くかつ総称的に記載されている。総称的な記載内容の範囲内に入るより狭い種および亜属集団のそれぞれもまた、本発明の一部を形成するものである。これには、除かれた題材が本明細書において具体的に挙げられているかどうかにかかわらず、任意の主題を属から除外する条件付きのまたは負の限定を用いた本発明の総称的記載も含まれる。他の態様は、以下の特許請求の範囲の中で明記されている。
【0056】
さらに、本発明の特徴または局面がマーカッシュ群の観点から記載されている場合、当業者であれば、本発明は、それによってマーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたは亜集団のメンバーの観点からも記載されていることを認識するであろう。
【0057】
本発明者らの発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療される病状を臨床的に改善または解決するのに十分な単回用量で薬学的に許容される組成物を外耳道へ適用する工程を含む、該組成物の外耳道への局所的投与によって外耳炎感染およびその続発症を治療または防止するための方法であって、該組成物が、粘度を増強するセルロースまたは粘着性の構成要素を含まず、かつゲルの形態でなく、かつ、該組成物が、脂質担体と、抗生物質、抗真菌薬、抗寄生虫薬、抗ウイルス薬、非ステロイド性抗炎症薬、鎮痛薬、麻酔薬、およびステロイドからなる群より選択される少なくとも2種の活性剤とを含む、前記方法。
【請求項2】
脂質担体が脂質小胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記組成物中の1種の活性剤が抗生物質である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記組成物中の1種の活性剤が抗真菌薬である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記組成物中の1種の活性剤が非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
抗生物質が、キノロン系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、サルファ系抗生物質、およびβ−ラクタマーゼ阻害剤からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記抗生物質がチアンフェニコールを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記抗真菌薬がアリルアミン抗真菌剤である、請求項4記載の方法。
【請求項9】
アリルアミンがテルビナフィンである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
NSAIDがジクロフェナクである、請求項5記載の方法。
【請求項11】
活性剤が抗生物質、抗真菌薬、およびNSAIDである、請求項1記載の方法。
【請求項12】
抗生物質がチアンフェニコールであり、抗真菌薬がテルビナフィンであり、かつNSAIDがジクロフェナクである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
テルビナフィンが組成物の1〜1.5%重量/重量の濃度で提供される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ジクロフェナクが組成物の0.5%重量/重量の濃度で提供される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が油不溶性の防腐剤をさらに含む、請求項12記載の方法。

【公表番号】特表2013−510861(P2013−510861A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538954(P2012−538954)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/056255
【国際公開番号】WO2011/060083
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(511083813)
【Fターム(参考)】