説明

外観良否判別基準の設定システム及び設定方法

【課題】部品の外観良否判別を行うにあたり、信頼性の高い基準値を得る。
【解決手段】優良サンプルS1の格付け評価結果のデータと、優良サンプルS1よりも不良部の程度の大きいサンプルS2、S3・・・の格付け評価結果のデータとの間で分散分析を行い、分散分析により優良サンプルS1に対して有意差無しとされたサンプルS5の不良部の程度(凹部の大きさ)以上、有意差有りとされたサンプルS6の不良部の程度以下の範囲内で、良否判別の基準値を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品の外観良否判別基準を設定するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の製造ラインでは、車両完成後、各部品の外観検査が行われる。この外観検査は、部品毎に表面の不良部(設計上予定されていない異常部、例えば凹部、キズ、汚れなど)の程度(大きさ、深さなど)が基準値を超えているか否かを判別することにより行われる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−249547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、各部品の外観良否判別を行うための不良部の程度の基準値を定量的に設定する手法は無く、検査担当者の判断に委ねられているのが実情である。検査担当者は、不良部の程度が大きい部品を有する自動車が出荷されるリスクを回避するために、良否判別の基準値を厳しくする傾向があるため、要求品質が過剰となり、不良品と判別される部品の数が増えたり、製造方法を見直す必要が生じたりして、部品のコストアップを招いていた。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、部品の外観良否判別を行うにあたり、適正な基準値を設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず、本発明者らは、複数のパネラーの目視による部品の評価結果データを用いて、良否判別の基準値を設定することを試みた。具体的には、まず図4に示すように、不良部の程度(例えば凹部の大きさ)が異なる複数のサンプルを用意する。そして、各パネラーは、各サンプルの外観を目視で評価し、良品と不良品との境界と思われる凹部の大きさを選択する。図示例では、直径1.3mmを境界値として選択したパネラーが1人、直径1.8mmを境界値として選択したパネラーが2人、直径2.0mmを境界値として選択したパネラーが4人、直径2.3mmを境界値として選択したパネラーが3人という結果となった。そして、各パネラーが選択した境界値の平均値(図示例では直径2.0mm)を、良否判定の基準値として設定する。しかし、上記のような基準値の設定手法は、各パネラーが選択した境界値以外の要素は全く反映されないため、設定した基準値の信頼性がそれ程高くないことが分かった。
【0007】
次に、本発明者らは、官能評価の一種である格付け法を良否判別の基準値の設定に適用することを試みた。一般的な格付け法では、複数のサンプルの格付けデータを分散分析することにより、これらのサンプルの間で官能的な差(有意差)の有無を判別するものである。しかし、この手法では、仮に複数のサンプルの間で有意差有りと判別された場合でも、複数のサンプルのうち、どのサンプルとどのサンプルとの間に有意差が有るのかを決定することはできないため、この手法を単純に適用するだけでは良否判別の基準値を設定することはできない。
【0008】
そこで、本発明者らは、格付け法を工夫して適用することにより、良否判別の基準値の設定に応用した。すなわち、本発明が評価しようとする対象は、味や臭いのように定量的な計測が困難なものではなく、凹部やキズのように程度(大きさや深さ)を定量的に計測可能なものである。従って、良品に分類できる優良サンプル(1個あるいは複数個)を予め選定し、この優良サンプルと他のサンプルとの間で分散分析を行うと、分散分析の結果が有意差無しであれば当該他のサンプルは良品であり、分散分析の結果が有意差有りであれば、当該他のサンプルは不良品である、と判別できる。そして、良品と判別されたサンプルの不良部の程度以上、不良品と判別されたサンプルの不良部の程度以下の範囲内で良否判別の基準値を設定すれば、各パネラーが良否判別の境界値として選択したサンプルだけでなく、他のサンプルに対する評価結果も基準値の設定に反映させることができるため、信頼性の高い基準値を得ることができる。
【0009】
以上より、本発明は、部品の外観良否判別基準を設定するためのシステムであって、不良部の程度が異なる複数のサンプルに対して複数のパネラーが格付け評価を行い、その格付け評価結果が入力される入力部と、入力部に入力された格付け評価結果に基づいて、複数のサンプルから格付け評価結果が優良な優良サンプルを選択する選択部と、優良サンプルの格付け評価結果のデータと優良サンプルよりも不良部の程度の大きいサンプルの格付け評価結果のデータとの間で分散分析を行う分析部と、分散分析により優良サンプルに対して有意差無しとされたサンプルの不良部の程度以上、有意差有りとされたサンプルの不良部の程度以下の範囲内で、良否判別の基準値を設定する設定部とを備えた外観良否判別基準の設定システムとして特徴づけることができる。
【0010】
同様に、本発明は、部品の外観の良否判別基準を設定するための方法であって、不良部の程度が異なる複数のサンプルに対して複数のパネラーが格付け評価を行い、その格付け評価結果を入力するステップと、入力された格付け評価結果に基づいて、複数のサンプルから格付け評価結果が優良な優良サンプルを選択するステップと、優良サンプルの格付け評価結果のデータと優良サンプルよりも不良部の程度の大きいサンプルの格付け評価結果のデータとの間で分散分析を行うステップと、分散分析により優良サンプルに対して有意差無しとされたサンプルの不良部の程度以上、有意差有りとされたサンプルの不良部の程度以下の範囲内で、良否判別の基準値を設定するステップとを経て行う外観良否判別基準の設定方法として特徴づけることができる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、本発明では、格付け法を良否判別の基準値の設定に応用することにより、各パネラーによる格付け評価結果を統計的に分析することが可能となるため、信頼性の高い基準値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】外観良否判別システムのブロック図である。
【図2】入力部に入力される各サンプルの格付け評価データを示す表である。
【図3】本発明の実施形態に係る外観良否判別システムによる分散分析の手法を概念的に示す図である。
【図4】複数のパネラーによる基準値の設定方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に、部品の外観の良否判別を行う外観良否判別システム100を示す。この外観良否判別システム100は、本発明の一実施形態に係る外観良否判別基準設定システム200と、これに接続された良否判別実行システム300とを備える。外観良否判別基準設定システム200は、入力部1、選択部2、分析部3、及び設定部4を有する。良否判別実行システム300は、判別部5及び出力部6を有する。本実施形態では、外観良否判別基準設定システム200は基準設定用コンピュータ(図示省略)に組み込まれ、良否判別実行システム300は判別実行用コンピュータ(図示省略)に組み込まれる。良否判別実行システム300の判別部5は、測定部7と接続される。
【0015】
上記の外観良否判別システム100を用いた良否判別方法、特に、外観良否判別基準設定システム200による良否判別基準の設定方法を説明する。尚、本発明に係る外観良否判別基準設定システム200は、定量的に計測可能な不良部の程度を評価する場合に適用可能であり、例えば、凹部、キズ、シワ、汚れなどの大きさや深さ(高さ)を評価する場合に適用可能である。本実施形態では、凹部の大きさ(最大直径)による良否判定の基準値を設定する場合を示す。
【0016】
まず、凹部の大きさの異なる複数のサンプルを用意し(図4参照)、各サンプルに対して複数(例えば10人)のパネラーが格付け評価を行う。本実施形態では、パネラーは各サンプルに対して3段階で格付け評価(A:気にならない、B:少し気になる、C:気になる)を行う。尚、格付け評価を何段階で行うかはサンプルや不良部の性質や要求される品質等に応じて、2段階で評価したり、4段階以上で評価したりすることもできる。全てのパネラーによる全てのサンプルに対する格付け評価結果は、図2に示すようなデータとして入力部1に入力される。
【0017】
次に、選択部2が、入力部1に入力された格付け評価のデータに基づいて、全サンプルの中から格付け評価結果が優良なサンプルを優良サンプルとして選択する。例えば、格付け評価が最も優良なサンプルを優良サンプルとして選択する場合、通常は最も凹部が小さいサンプル(本実施形態では、凹部の直径が0.5mmのサンプルS1)が選択される。これに限らず、例えば、パネラーによる格付け評価のほぼ全て(例えば90%以上)がAであるサンプルのうち、最も凹部が大きいサンプル(例えばサンプルS2)を選択してもよい。
【0018】
次に、分析部3により、選択部2で選択された優良サンプルS1の格付け評価データと、優良サンプルS1よりも凹部が大きいサンプルの格付け評価データとの間で分散分析を行う。本実施形態では、図3に示すように、優良サンプルS1の格付け評価データと、各サンプルS2、S3・・・のデータとの間で分散分析を行う。尚、各サンプルのデータは、当該サンプルに対する全パネラーの格付け評価結果のデータからなり、例えば図3には優良サンプルS1のデータの内容の一部を示している。分析部3による分析手法を具体的に説明すると、まず、優良サンプルとして選択したφ0.5mmのサンプルS1の格付け評価データと、φ0.8mmのサンプルS2の格付け評価データとの間で、分散分析を行う。その結果、「有意差無し」との結果が出れば、φ0.8mmのサンプルS2は優良サンプルS1と外観の違いが無い、すなわち良品であると判断できる。次に、優良サンプルS1の格付け評価データとサンプルS3の格付け評価データとの間で分散分析を行い、これらの間の有意差の有無を調べる。その後、上記と同様に、優良サンプルS1の格付け評価データと、サンプルS4以降の格付け評価データとの間で順番に格付け評価を行い、「有意差有り」との結果が得られた時点で分析を終了する。この結果、図示例では、サンプルS2〜S5は優良サンプルS1に対して「有意差無し」との結果が得られ、サンプルS6は優良サンプルS1に対して「有意差有り」との結果が得られた。この場合、設定部4により、サンプルS5の凹部の直径(1.5mm)以上、サンプルS6の凹部の直径(1.8mm)以下の範囲内で、良否判別の基準値が設定される。例えば、上記範囲の最小値(1.5mm)が、良品として判別できる上限の基準値として設定される。この他、上記範囲の最大値(1.8mm)や中央値(1.65mm)を基準値として設定してもよく、部品の種類によって異なる要求品質に応じて基準値が設定される。以上により、外観良否判別の基準値の設定が完了し、設定部4で設定された基準値が、判別部5に伝達される。
【0019】
その後、判別部5により、実際の部品に対する外観良否判別工程が行われる。具体的には、測定部7により部品の凹部の大きさを測定し、その情報が判別部5に伝達される。測定部7は、部品の不良部の程度を測定するものであり、例えば、部品の表面を撮影した画像を処理することで、表面に生じた凹部の大きさ(最大直径)を測定するものである。判別部5は、設定部4から伝達された基準値(本実施形態では直径1.5mm)と測定部7から伝達された部品の凹部の最大直径とを比較し、部品の凹部の大きさが基準値以下であれば良品と判別し、部品の凹部の大きさが基準値を超えていれば不良品と判別する。この判別部5による判別結果が出力部6に伝達され、例えば出力部6に設けられたモニタに表示される。
【0020】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では、分析部3による分散分析が、一対一のデータ間、具体的には、優良サンプルS1の格付け評価データと、他のサンプルの格付け評価データとの間で行う場合を示したが、これに限られない。例えば、最初は一つの優良サンプルS1の格付け評価データと、それよりも不良部の程度が一段階大きいサンプルS2の格付け評価データとの間で分散分析を行い、両データの間の有意差の有無を調べる。そして、両データの間に有意差が無ければ、これら二つのサンプルS1、S2を優良サンプルとし、これらの優良サンプルS1、S2のデータと、さらに不良部の程度が一段階大きいサンプルS3との間で分散分析を行う。このように、優良サンプルの数を一つずつ増やしながら分散分析を行い、「有意差有り」との結果が出た時点で分析を終了する。そして、優良サンプルの最大の凹部の大きさ以上、優良サンプルに対して有意差有りとされたサンプルの凹部の大きさ以下の範囲内で、良否判別の基準値を設定する。
【符号の説明】
【0021】
1 入力部
2 選択部
3 分析部
4 設定部
5 判別部
6 出力部
7 測定部
100 外観良否判別システム
200 外観良否判別基準設定システム
300 良否判別実行システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品の外観良否判別基準を設定するためのシステムであって、
不良部の程度が異なる複数のサンプルに対して複数のパネラーが格付け評価を行い、その格付け評価結果が入力される入力部と、
前記入力部に入力された格付け評価結果に基づいて、前記複数のサンプルから格付け評価結果が優良な優良サンプルを選択する選択部と、
前記優良サンプルの格付け評価結果のデータと前記優良サンプルよりも不良部の程度の大きいサンプルの格付け評価結果のデータとの間で分散分析を行う分析部と、
前記分散分析により優良サンプルに対して有意差無しとされたサンプルの不良部の程度以上、有意差有りとされたサンプルの不良部の程度以下の範囲内で、良否判別の基準値を設定する設定部とを備えた外観良否判別基準の設定システム。
【請求項2】
部品の外観の良否判別基準を設定するための方法であって、
不良部の程度が異なる複数のサンプルに対して複数のパネラーが格付け評価を行い、その格付け評価結果を入力するステップと、
入力された格付け評価結果に基づいて、複数のサンプルから格付け評価結果が優良な優良サンプルを選択するステップと、
前記優良サンプルの格付け評価結果のデータと、前記優良サンプルよりも不良部の程度の大きいサンプルの格付け評価結果のデータとの間で分散分析を行うステップと、
前記分散分析により優良サンプルに対して有意差無しとされたサンプルの不良部の程度以上、有意差有りとされたサンプルとの不良部の程度以下の範囲内で、良否判別の基準値を設定するステップとを経て行う外観良否判別基準の設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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