説明

外部熱源によるハロゲンランプのバルブ内でのハロゲン化炭化水素の熱分解

本発明は、ハロゲン化された炭化水素ガス(G)を封じ込めるガラス製バルブ(2)内に、足(3,3’)によって支持されているフィラメント(4)を有するハロゲンランプ(1)の処理方法について記載している。当該方法は、当該ランプ(1)の初期操作前に、当該ランプ(1)の外部にある熱源(S1,S2)から、当該ランプ(1)へ、熱及び/又は放射線を与える工程を有する。前記工程により、ハロゲン化された炭化水素充填ガス(G)は熱分解され、かつ原則的には当該ランプ(1)の領域であってフィラメント(4)の足(3,3’)以外の領域である特定領域(R1,R2)に、炭素が堆積される。本発明はまた、ハロゲンランプ(1)の製造方法、及び熱分解されたハロゲン化炭化水素充填ガス(G)を封じ込めているガラス製バルブ(2)を有するハロゲンランプ(1)についても記載している。熱分解されたハロゲン化炭化水素充填ガス(G)の炭素は、原則的には当該ランプ(1)の領域であってフィラメント(4)の足(3,3’)以外の領域である特定領域(R1,R2)に堆積される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンランプの処理方法及びハロゲンランプの製造方法に関する。本発明はまたハロゲンランプにも関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲンランプすなわち高圧ハロゲンランプは、フィラメント又はコイルを有する白熱ランプである。フィラメント又はコイルは一般的にはタングステンで作られ、たとえばアルゴン、キセノン、クリプトン等の1種類以上の不活性ガスと、たとえばヨウ素、臭素、又は塩素のようなハロゲンを含む化合物の混合気体と共に数atmの圧力でガラス製バルブ内に封止されている。フィラメントの2つの端部すなわち足の各々は、極すなわちリードワイヤの一端に取り付けられている。リードワイヤの他端は、バルブのピンチシールから飛び出ていて、かつ電極に接続される。単一の端部を有するバルブでは、両リードは、ランプの一端で挟み込まれている。動作電圧が電極端部にわたって印加されることで、フィラメントに電流が流れることで、フィラメントが強く輝く。不活性ガスは、フィラメントからタングステン蒸気が輸送されるのをある程度抑制する。他方ハロゲンの存在により、タングステンフィラメントは、より高温かつ高効率での動作が可能となる。その理由は、ハロゲンがタングステン輸送サイクルに関与して、タングステンを白熱フィラメントに戻し、バルブが黒くなるのを避けることで、ランプの寿命を延ばすためである。
【0003】
ハロゲンを係るランプへ導入するには多数の方法で行うことが可能である。たとえばハロゲンは、たとえば純粋なヨウ素若しくは臭素、又はたとえば臭化水素(HBr)のような水素ハライドのような分子の状態でランプへ導入されて良い。しかし純粋なハロゲン又はハロゲンハライドは、反応しやすいので、製造プロセス中での処理が難しい。通常は、たとえばジブロモメタン(CH2Br2)、臭化メチル(CH3Br)、ジクロロメタン(CH2Cl2)等のハロゲン化炭化水素が用いられる。その理由は、これらの化合物は、ハライドに比べて毒性及び反応性が低く、そして照射がはるかに容易だからである。
【0004】
ランプの全動作に必要なタングステン-ハロゲン輸送サイクルにとって必要なハロゲンを解放するため、ハロゲン化された炭化水素は最初に“熱分解”されなければならない。多数の異なる熱分解プロセスが知られている。たとえばそのうちの一方法として知られている“コイルのフラッシング”では、比較的高い電圧がランプ電極にわたって印加されることで、電流がタングステンフィラメントを流れ、フィラメント及び封止された充填ガスを、ハロゲン化炭化水素が加熱分解される温度にまで加熱することが可能となる。よってハロゲンが解放されて、タングステン-ハロゲンサイクルを開始させることができる。
【0005】
しかし現状の製造プロセスで用いられる熱分解プロセスは複数の課題を有している。たとえば炭素が熱分解中にバルブ壁に堆積されることで、ランプの壁が黒くなり、ランプのルーメン出力が減少する恐れがある。またコイル上に堆積した炭素がそのコイルを劣化させることで、そのコイルの隣接する巻線上の点同士の間で短絡が生じる恐れが高まることで、ランプの性能及び寿命が低下する恐れがある。
【0006】
さらに係るランプは、衝撃によって生じる破壊、具体的にはゼロ時間故障として知られる種類の故障で電源を入れてすぐにランプが故障する減少、を受けやすいことが分かっている。この種類の故障は、係るランプの購入者にとっては受容できるものではない。さらにコイルの足が脆くなることで、直接的には熱分解の結果引き起こされる衝撃の結果生じる破壊を起こしやすくなるので、係るランプは、消費者への輸送にさえ耐えられないかもしれない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、係るハロゲンランプ、具体的にはフィラメントの足、が破壊する傾向を緩和することでランプの寿命を延ばすことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため、本発明は、ハロゲン化炭化水素充填ガスを封止するガラス製バルブ内に、足によって支持されているフィラメントを有するハロゲンランプの処理方法を供する。当該方法は、ランプの初期動作前に、そのランプの外側にある熱源又は放射線源から、熱、及び/又は、たとえば光放射線、電磁波放射線等の放射線をランプに与える工程を有する。それによりハロゲン化炭化水素充填ガスは熱分解し、炭素は原則として、ランプのフィラメントの足以外であるランプの特定領域に堆積する。
【0009】
一般的には、フィラメントを支える足は、フィラメントの部品の1つであり、かつ大抵の場合はやや厚いリードワイヤと接続している。そのやや厚いリードワイヤは、一般的にはモリブデンで作られる。ランプの動作中には、そのリードワイヤにわたって電圧が印加される。試験結果により、たとえばランプのリードにわたって動作電圧を印加するような、上述した現状の技術による熱分解プロセスで解放される炭素は、白熱フィラメントから蒸発したタングステン原子と自由に結合することで、タングステンカーバイドを与える。タングステンカーバイドは、タングステンフィラメントの足に堆積されがちである。その理由は、タングステンフィラメントの足は、フィラメント自体よりもわずかに温度が低いからである。その結果、タングステンフィラメントの足は脆くなり、熱分解直後でさえ、フィラメントの足が破壊する危険性は増大する。
【0010】
本発明による方法の明白な利点は、従ってランプのフィラメントの足にタングステンカーバイドが堆積することによって生じるコイルの破壊が有効に避けられることである。本発明による方法とは、具体的には炭化水素が初期動作前、つまりランプのリードに動作電圧の範囲にある電圧が最初に印加される前に、熱分解されるような方法である。このようにして処理されるランプの衝撃に対する耐性は顕著に増大する。その一方で、本発明による方法を用いることで、フィラメントの足以外の特定領域に炭素を堆積させるように処理されるランプについては、脆くなったフィラメントの足に起因するゼロ時間故障の危険性が、大幅に除去される。一般的にはコイルとも呼ばれるフィラメントは、ほとんどの場合タングステンで作られ、ランプ用に特別にドーピングされる。従って以降では、“フィラメント”と“コイル”は同義である。そして以降では“タングステン”の語を用いて参照することにするが、本発明による方法は、タングステンフィラメントを実装するハロゲンランプにのみ限定されるわけではなく、フィラメントを形成するのにタングステン以外の元素が用いられるハロゲンランプにも適用可能であることに留意して欲しい。
【0011】
熱源及び/又は放射線源は、ランプのすぐ近くに設けられても良いし、又はランプからある程度距離をおいて設けられても良い。ランプに与えられようとしている熱及び/又は放射線は、ランプのガラス製壁を介して進行し、又は輸送されることによって、ランプの充填ガスに到達する。この点では、本発明による方法を用いてハロゲン化炭化水素を熱分解するのに、ランプ電極にわたって電圧を印加することをもはや必要としないことは強調されるべきことである。このことはつまり、コイルのフラッシングによるハロゲン化炭化水素の熱分解の際には必要とされる、タングステンコイルを流れる電流が必要ないことを意味する。当該方法は、最初にランプの動作を開始させる前の如何なる段階で実行されても良い。従ってコイルが熱分解プロセス中に白熱しないので、このプロセス中に、タングステン原子がコイルから蒸発する機会はないので、タングステンカーバイドの生成は有効に抑制される。
【0012】
従属請求項及び以降の記載は、本発明の特に有利な実施例及び特徴について開示する。
【0013】
ランプに与えられる熱及び/又は放射線が与えられることでランプの領域が顕著に加熱されることにより、ハロゲン化炭化水素は加熱されて熱分解される。熱分解されることで、ハロゲン及び炭素が解放されて、ランプ内の複数の地点に自由に堆積する。一般的にはランプの如何なる部分にも炭素が堆積することは望ましいことではない。たとえばバルブ内側表面周辺の炭素堆積物は、ランプのルーメン出力を減少させる恐れがある。同様に、ランプのコイル上に炭素が堆積することも望ましいことではない。なぜならこのことにより、結果としてコイルの劣化又は他の有害な効果が生じてランプの寿命が短くなる恐れがあるからである。ランプの他の領域は、炭素の堆積により適している。
【0014】
従って本発明の特に好ましい実施例では、炭素は原則として加熱された領域に堆積しようとすることが分かっているので、炭素が堆積することが望ましいランプの特定領域に、熱及び/又は放射線は与えられる。熱及び/又は放射線はランプの外部にある熱源及び/又は放射線源によって生成される。ランプの特定領域は、所定の期間、所定の温度にまで加熱される。所定の温度とは、好適には約500℃よりも高温で、最も好適には約700℃よりも高温である。
【0015】
本発明の一の好適実施例では、ランプの特定領域は、たとえばメタン-酸素バーナー又は他の適切な種類のバーナーによって生成されるバーナーの炎を用いることによって加熱される。そのような炎は、ランプのある特定領域に、十分な精度で導くことができる。5-15barの範囲にある圧力で充填された石英ランプは、バルブの変形又は破壊を伴わずに、そのような高温に局所加熱することが可能である。バーナーの炎は、ランプの先端部に導かれることが好ましいと考えられる。ランプの先端部は、肩又は肩-先端部領域(単一端部ランプにおけるピンチ端部とは反対側に位置するランプの領域)としても知られている。たとえば具体的に、たとえば20秒のように所定期間、たとえば1000℃のような特定温度にこの領域を加熱することによって、充填ガスのハロゲン化炭化水素は熱分解され、かつ熱分解プロセスで解放された炭素は、原則的にはランプの肩-先端領域の加熱された内側表面上に、主としてグラファイトの状態で留まる。この方法は、ハロゲンランプの肩-先端部が黒くなるか、又はたとえば自動車用途のように、ハロゲンランプの肩-先端部がキャップによって覆われるような用途にとって特に適していると考えられる。自動車用途では、先端部領域は大抵の場合黒のキャップによって外側から覆われるので、輝きが減少する。
【0016】
本発明の他の好適実施例では、放射線は、ランプのある特定方向に導かれるレーザービームを有する。レーザービームを用いることで、さらに優れた精度でランプの特定領域が加熱される。たとえばレーザービームは、ランプのリードワイヤの1本に導かれて良い。係るハロゲンランプのリードワイヤは一般的に、モリブデンで作られる。モリブデンで作られることで、融解させることなく高温に加熱することが可能となる。本発明の一の好適実施例による方法では、レーザービームは、モリブデンリードワイヤに導かれることで、そのリードワイヤを、約20秒間、好適には1200-2000℃の範囲の温度に加熱する。これにより充填ガスは加熱されてハロゲン化炭化水素が熱分解され、かつモリブデンカーバイド(Mo2C及びMoC)である熱いリードワイヤ上に、プロセスで解放された炭素が堆積する。リードワイヤの変形を防ぐため、温度は、リードワイヤ材料の融点より低い温度となるように選ばれなければならない。レーザービームはまた、同時又は後で、他のリードワイヤの1点にも導かれて良い。それによりモリブデンカーバイドは、両方のリードワイヤ上に堆積される。
【0017】
明らかに、適切なレーザービームは、ガラス製バルブの内側表面上の1点にも導かれて良い。上述した手順のように、このようにして発生した熱は、充填ガスをも加熱し、その結果解放された炭素は熱いガラス表面上に堆積する。ランプのルーメン出力を不必要に減少させないようにするため、このような加熱に適したバルブ内の領域は、バーナーの炎の場合と同様に、ランプの肩-先端部中の領域である。
【0018】
ランプ内のある特定領域に熱及び/又は放射線を与えるのは、単一工程で実行されても良いし、又は間隔を開けて、すなわち複数回にわたって実行されても良い。たとえばある特定領域の材料の熱特性のため、特定期間加熱し、熱源及び/又は放射線源の動作を停止して材料を回復させ、かつ熱分解プロセスが満足行く程度に完了するまで何度もその手順を繰り返すことによって実行する必要があると思われる。
【0019】
ランプの特定領域を加熱した際の、迅速かつ完全な熱分解を保証するため、充填ガスの内部対流が必要となる。従ってランプは、外部の熱源及び/又は放射線源の熱及び/又は放射線に曝されながら、ある特定の配置に保持されていることが好ましい。たとえば本発明の好適実施例では、当該方法が用いられることで、ランプの肩-先端部領域を黒くなるとき、そのランプは、処理されている間、トップダウンの位置に保持される。ここで肩-先端部のある端部は“下側”で電極端部は“上側”である。加熱及び熱分解された充填ガスは、上方へ進行し、ランプの上側領域から、冷たい充填ガスによって入れ換えられるが、熱分解はされない。このようにして、充填ガスのハロゲン化炭化水素の原則全ての熱分解が完了し、かつランプの中で最も高温領域である肩-先端部領域以外のいずれでの場所での炭素の散乱も大幅に防止される。同様にリードワイヤが、たとえばレーザービームのような、外部放射線源からの放射線によって加熱される場合、そのランプは、加熱される領域-たとえばランプのピンチ端部に近いリードワイヤの一部-が“下側”となるように保持される。それにより隣接する充填ガスが加熱されるときに生じる対流は、充填ガスを有効に循環させることで、充填ガス中のハロゲン化炭化水素の熱分解を完了させることを可能にする。
【0020】
当然のこととして、上述の方法-バーナーの炎を用いた処理及びレーザービームを用いた処理-は、互いに連動して用いられて良い。たとえばバーナーの炎は、ランプの肩-先端部領域に導かれて良く、かつレーザービームは、同一ランプのリードワイヤに導かれて良い。これらの手順は、同時に行われても良いし、又は別個に行われても良い。また複数のレーザービームを併用することによって熱分解を行うランプも考えられ得る。複数のレーザービームの併用とは、1本のリードワイヤに各レーザービームを導くこと、又は1本のリードワイヤに一のレーザービームを導き、かつガラス製バルブ壁内部の適当な1点に他のレーザービームを導くことである。それによりハロゲン化炭化水素は熱分解され、炭素は原則としてこれらの適当な領域のいずれにも堆積する。
【0021】
放射線が充填ガスのハロゲン化炭化水素を熱分解することができる限り、如何なる他の種類の放射線が実装されても良いことは予想できる。たとえばガラス製バルブが、紫外放射線に相当する周波数で、紫外放射線を完全に吸収しない限りにおいて、紫外放射線源を用いることも可能であろう。他の可能性は、テスラコイルともときどき呼ばれる電磁コイルを用いて、電磁放射線を発生させる方法である。その電磁放射線は、ランプの特定領域が、充填ガスのハロゲン化炭化水素を熱分解するのに必要な温度に加熱されるように、アーク放電を起こす。この場合では、炭素は、バルブの内側表面のほとんどにわたり均等に分布するので、炭素の有害な効果は“希釈”される。
【0022】
係るハロゲンランプを製造する適切な方法は、ガラス製バルブを作製する工程、足によって支持されたフィラメントをこのバルブに挿入する工程、1以上のハロゲン化炭化水素が与えられた適当な充填ガスをバルブに導入し、それに続いて、ランプを最初に起動する前に、上述の方法によってそのランプを処理することで、充填ガスのハロゲン化炭化水素を熱分解し、かつ炭素を原則的にランプ内の特定領域へ堆積させる工程、を有する。熱分解を行うためのハロゲンランプの処理方法は、ガラス製バルブの実際の作製及び充填とは独立しているので、処理工程は、便利なように、様々な位置及び/又は後で行われて良い。
【0023】
本発明による対応したハロゲンランプは、熱分解したハロゲン化炭化水素充填ガスを封止するガラス製バルブを有する。熱分解したハロゲン化炭化水素充填ガスの炭素は、足を除く1以上のランプの領域上に堆積される。
【0024】
本発明の他の目的及び特徴は、添付の図と共に以降の詳細な説明から明らかとなる。しかし図は例示のみを目的としており、本発明を限定するものと解してはならない。
【0025】
全図中、同様の参照番号は、同様の対象を指すものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1はハロゲンランプの断面を図示している。かなり単純化された断面を示すこの図は、以降に記載される方法の説明に必要なランプ1の部品のみを図示している。係るランプ1の基本構成要素は、一般的にはたとえば石英ガラス又はハードガラスで作られているガラス製バルブ2である。ガラス製バルブ2の底部は一般的に、1対のリードワイヤ6,6’の端部周辺で締め付けられている、すなわち密閉されている。ほとんど場合モリブデンで作られるリードワイヤ6,6’の他端は、一般的にはタングステンで作られるコイル4すなわちフィラメントの足3,3’に取り付けられる。ガラス製バルブ2は充填ガスGを封止する。このガラス製バルブ2は、ランプの初期動作前には、圧力が5-15barである、希ガス及びCH2Br2のようなハロゲン化炭化水素を含む混合物を有する。図示されたランプ1は、たとえばH7,H11型ランプのような自動車に用いられる種類のランプを表しているが、それに限定されるわけではない。図中の破線より右側の領域5で示されたランプの上部領域は、一般的にはランプの肩-先端部領域5と呼ばれている。
【0027】
図2aは、本発明の実施例による、外部熱源からの熱に曝露される前のハロゲンランプを図示している。ここでまだ一度も電源が入れられていないランプ1はトップダウンの位置で保持されている。バーナーS1は、ランプ1から適当な距離を置いて設けられている。バーナーS1から出るバーナーの炎7は、ランプの肩-先端部領域5へ導かれる。バーナーの炎7は、ランプ1の充填ガスGを加熱することで、ハロゲン化炭化水素を熱分解してハロゲンと炭素を解放する。
【0028】
熱分解するように加熱されるとき、炭化水素は分解する。そのときの主要な反応は、HBrの生成と固体炭素の沈殿である。さらにその炭素は、残りの酸素及び水と反応することで一酸化炭素を生成し、かつ残りの水と反応することでメタンを生成することができる。これらの反応は次式で表される。
CH2Br2→C(s)+2HBr(g)
C+O2/H2O→CO、C+2H2⇔CH4
FT-IR(フーリエ変換赤外)分光は、ランプが室温まで冷却された後の、HBr、CO、及びCH4の圧力を非破壊的に測定するのに用いられて良い。
【0029】
下の表は、15barのKr又はXeと300ppmのCH2Br2で充填されたH11型(単一端部)車用ヘッドライトランプの、FT-IR分光を用いて測定された室温での圧力を与えている。ランプの肩-先端部領域が、上述したメタン-酸素からなる炎によって加熱された。表は、4つの係るランプについて測定された平均結果を示している。
【0030】
【表1】

3×10秒の炎による加熱後、HBrのレベルは最大である約6.1mbarに到達する。これは、コイルのフラッシングによる熱分解プロセスのHBrのレベルにも相当する。10秒の期間には加熱が含まれる。よって熱分解は、連続的に加熱されることで速く完了するだろう。最大のHBrレベルに基づいて、約3mbarの炭素が、ある状態でランプ内に存在する。その一部は残りの酸素と反応することでCOを生成し、かつ残りの水素と反応することでCH4を生成する。両方のレベルは1mbarよりもはるかに低い。COはかなり安定である。かつコイルが明るくなるときには、COはさらに増大する。他方CH4は、十分な電圧で燃焼されるときには、コイル(の付近)で熱分解される。
【0031】
従ってほとんどの炭素が、肩-先端部領域に堆積される、と結論づけることができる。この堆積物は、炎が燃えている間、局所的な輝きとして観測できる。その理由は、固体炭素は可視スペクトルで発光する一方で、裸の石英は発光しないからである。冷却後、グラファイトの堆積の結果として肩-先端部の壁が黒くなるのが観測できる。
【0032】
図2bは、図2aのところで説明したように処理された後の図2aと同一ハロゲンランプを図示している。熱分解された充填ガスG’から解放された炭素のほとんどは、ランプ1の肩-先端部5の内側表面上のある領域R1にグラファイトとして留まる。このようにして一旦堆積した炭素は、もはやタングステン蒸気とは結合しない。よってタングステンカーバイドの生成は大きく抑制される。従ってこのようにして処理されたハロゲンランプ1のフィラメント4の足3,3’は、タングステンカーバイドによって覆われにくくなるので、ゼロ時間故障又は輸送中でのコイルの足の破壊は、原則として起こらなくなる。グラファイトが堆積するランプ1の肩-先端部5内の領域R1は、ランプ1が自動車用である場合では、輝きを減少させるキャップで全体が覆われる領域である。従って、領域R1はランプ1の機能に全く悪影響を及ぼさない。
【実施例1】
【0033】
他の処理方法が図3aに図示されている。ここでレーザービーム8は、まだ一度も電源が入れられていないランプ1中の特定領域へ向けられる。レーザービーム8は、適切なレーザー光源S2から発せられる。このレーザー光源S2は、必要な強度及び波長でビームを発生させ、かつ必要な精度でビームを向けることができる。ここでレーザービーム8は、ランプ1のリードワイヤ6上のある領域に向けられる。リードワイヤ6は、その地点で、約20秒間、1200℃-2000℃の範囲の温度に加熱される。それにより、充填ガスG中のハロゲン化炭化水素もまた、熱分解が生じることでハロゲン及び炭素が解放される温度にまで加熱される。
【0034】
図3bは、図3aのところで述べた処理後のランプ1を図示している。ハロゲン化炭化水素から解放された炭素は、レーザービームが向けられた領域R2内で、主としてモリブデンカーバイドの状態で留まる。繰り返しになるが、図2bのところで述べたように、このようにして堆積した炭素は、ここで熱分解された充填ガスG’からはほとんど除去される。よってランプ1の動作中での有害なタングステンカーバイドの後での生成は、有効に防止される。
【0035】
図4は、上述した両方の処理を受けたランプ1を図示している。ランプ1の肩-先端部領域5へバーナーの炎を向け、かつレーザービームをリードワイヤ6へ向けることにより、充填ガスのハロゲン化炭化水素は熱分解して、炭素は、両領域R1及びR2上に堆積する。
【0036】
たとえ本発明が、好適実施例及びその変化型の形態で開示されているとしても、本発明の技術的範囲から逸脱することなく、様々な他の修正型及び変化型が可能であることに留意して欲しい。たとえばハロゲンランプの処理方法は、上述したような単一端部ではなく、各端部にリードワイヤ又は電極を有するランプへも適用可能である。係るランプでは、ガラス製バルブの如何なる部分も黒くすることが許されない場合には、レーザーによる処理が好ましいだろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】高圧ハロゲンランプの断面を図示している。
【図2a】第1実施例による、外部熱源からの熱に曝露される前のハロゲンランプを図示している。
【図2b】第1実施例による、外部熱源からの熱に曝露された後のハロゲンランプを図示している。
【図3a】第2実施例による、外部放射線源からの放射線に曝露される前のハロゲンランプを図示している。
【図3b】第2実施例による、外部放射線源からの放射線に曝露された後のハロゲンランプを図示している。
【図4】本発明の実施例による処理方法を用いてハロゲン化炭化水素を熱分解した後のハロゲンランプの断面を図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化炭化水素充填ガスを封止するガラス製バルブ内に、足によって支持されているフィラメントを有するハロゲンランプを処理する方法であって、
前記ランプの初期動作前に、前記ランプの外側にある熱源又は放射線源から、熱及び/又は放射線をランプに与えることで、前記ハロゲン化炭化水素充填ガスは熱分解し、炭素は原則として、前記のランプのフィラメントの足以外である前記ランプの特定領域に堆積する、工程を有する方法。
【請求項2】
前記熱及び/又は放射線が前記のランプの特定領域に与えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記のランプの特定領域が、所定期間に、所定温度まで加熱されることで、炭素は原則として前記特定領域に堆積する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記特定領域がバーナーの炎を用いて加熱される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記のランプの特定領域に与えられた前記放射線が、前記ランプの外側にある放射線源から発生するレーザービームを有し、かつ
前記レーザービームが向けられる前記のランプの特定領域は、所定期間に、所定温度まで加熱されることで、炭素は原則として前記特定領域に堆積する、
請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記のランプの特定領域が、前記ランプの肩-先端部の内側表面を有する、上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記のランプの特定領域がリードワイヤを有し、かつ
前記リードワイヤは、前記の支持用の足を介して前記フィラメントを接続する、
請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記のランプの特定領域への熱及び/又は放射線の付与が所定回数繰り返される、上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記ランプが、外部源からの熱及び/又は放射線に曝露されながら、ある特定位置で保持されている、上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ランプの配置は、前記特定領域が前記ランプの下側領域に位置するようなものである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ハロゲン化炭化水素充填ガスを封止するガラス製バルブを有するハロゲンランプを製造する方法であって:
前記ガラス製バルブを作製する工程;
足によって支持されたフィラメントを挿入する工程;
1以上のハロゲン化炭化水素が与えられた適当な前記充填ガスをバルブに導入して、前記ガラス製バルブを密閉する工程;
続いて、前記ランプを最初に起動する前に、請求項1-10に記載の方法によって前記ランプを処理することで、前記充填ガスのハロゲン化炭化水素を熱分解し、かつ炭素を原則的に前記ランプ内の特定領域へ堆積させる工程;
を有する方法。
【請求項12】
熱分解したハロゲン化炭化水素充填ガスを封止し、かつガラス製バルブとフィラメントを有するハロゲンランプであって、
前記熱分解したハロゲン化炭化水素充填ガスの炭素は、前記足を除く1以上の前記ランプの領域上に堆積される、
ハロゲンランプ。
【請求項13】
前記の熱分解したハロゲン化炭化水素充填ガスの炭素が上に堆積した前記のランプの特定領域が、前記ランプの肩-先端部内の領域を有する、請求項12に記載のハロゲンランプ。
【請求項14】
前記の熱分解したハロゲン化炭化水素充填ガスの炭素が上に堆積した前記のランプの特定領域がリードワイヤ上の領域を有し、
該リードワイヤは、前記の支持用の足のうちの1本を介して前記フィラメントと接続する、
請求項12又は13に記載のハロゲンランプ。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−512129(P2009−512129A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534116(P2008−534116)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【国際出願番号】PCT/IB2006/053471
【国際公開番号】WO2007/039848
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)