説明

外面にグラデーション模様を有する成形品の製造方法及びその成形品の製造に使用するマスターの製造方法

【課題】 鏡面とぼかし領域との境界が連続した外観上好ましいグラデーション模様を有する成形品の製造方法、およびその成形品の製造に用いるマスターの製造方法を提供すること。
【解決手段】 鏡面を有するマスター基材1をブラスト加工する工程、ブラスト加工されたマスター基材1を電鋳メッキ加工してマスター10を形成する工程、マスター10を金型6に取り付けて、マスター10の外面と金型6の内面との間にキャビティ7を形成する工程、およびキャビティ7内に樹脂を射出成形する工程と、を包含する外面にグラデーション模様を有する成形品の製造方法である。ブラスト加工が、鏡面を有するマスター基材1の外面の一部に、第1の噴射材を噴射して第1のぼかし領域3を形成する工程、および第1のぼかし領域3と鏡面4との境界部に第2の噴射材を噴射して第2のぼかし領域5を形成する工程、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビデオデジタルムービーカメラ等の映像機器のハウジングの外表面に、グラデーション模様を付与する成形品の製造方法、及びその成形品の製造のためのマスターの製造方法に関し、詳しくは、鏡面加工された成形品の表面粗さを変化させ、光沢むらの発生しない光拡散面を形成できる、外面にグラデーション模様を有する成形品の製造方法及び外面にグラデーション模様を有するマスターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビデオデジタルムービーカメラ等の映像機器のハウジングの外表面に、グラデーション模様を付与しようとする場合、通常は以下のようにして行われる。
【0003】
マスター基材を所定形状にマシニング加工すると共に、マスター基材の外表面に鏡面を形成する。次いで、梨地(ぼかし領域)を形成しようとする領域以外の部分をマスキングする。
【0004】
次に、この鏡面を有するマスター基材を噴射材を使用してブラスト加工してぼかし領域を形成する。このブラスト加工においては、マスター基材の表面の鏡面の一部に噴射材を噴射して多数の微小な凹部を分散して形成することにより行っていた。
【0005】
このブラスト加工されたマスター基材を電鋳メッキ加工してマスターを形成する。得られたマスターを金型に取り付けて、マスター外面と金型内面との間に形成されるキャビティ内に樹脂を射出成形することにより、マスター表面のグラデーション模様を成形品に転写して成形品を得る。
【0006】
しかし、このようにして得られた成形品においては、鏡面とぼかし領域との境界が明瞭で段差となり外観上好ましいグラデーション模様とはいえない。
【0007】
マスター基材表面にグラデーション模様を形成する方法として、以下のような方法が提案されている。
【0008】
例えば、特開平2003−89061号公報には、ノズル又はワークの走査ピッチ、走査速度、噴射圧力、ノズルとワークの間の噴射距離のうちの少なくとも一つを変化させつつ、サンドブラスト加工することによって、グラデーション模様を形成する方法が開示されている。
【0009】
しかし、本出願人らは、マスター基材表面に対して、ノズルからの噴射圧力、噴射領域、ノズルとマスター基材間の噴射距離、噴射材、およびこれらの組み合わせを変化させて実施したが、グラデーション模様における表面粗さの変化を連続的に滑らかに変化させることはできず、鏡面とぼかし領域との境界が発生して良好な外観を有するグラデーション模様を形成することはできなかった。
【特許文献1】特開平2003−89061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、鏡面とぼかし領域との境界が連続した外観上好ましいグラデーション模様を有する成形品の製造方法、およびその製造に用いるマスターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の外面にグラデーション模様を有する成形品の製造方法は、鏡面を有するマスター基材をブラスト加工する工程、該ブラスト加工されたマスター基材を電鋳メッキ加工してマスターを形成する工程、該マスターを金型に取り付けて、マスターの外面と金型の内面との間にキャビティを形成する工程、および該キャビティ内で樹脂を射出成形する工程と、を包含する外面にグラデーション模様を有する成形品の製造方法であって、該ブラスト加工する工程が、鏡面を有するマスター基材の外面の一部に、第1の噴射材を噴射して第1のぼかし領域を形成する工程、および該第1のぼかし領域と鏡面との境界部に第2の噴射材を噴射して第2のぼかし領域を形成する工程、を包含し、そのことにより上記目的が達成される。
【0012】
一つの実施形態では、前記第1の噴射材が80番手〜200番手の珪砂であり、前記第2の噴射材が200番手〜600番手のビーズである。
【0013】
一つの実施形態では、前記第1のぼかし領域に形成される凹凸部の粗さに比べて第2のぼかし領域に形成される凹凸部の粗さが小さい。
【0014】
一つの実施形態では、前記マスター基材をブラスト加工する工程の前に、さらに、マスター基材をマシニング加工する工程、および該マスター基材をマスキングする工程、を包含する。
【0015】
一つの実施形態では、前記電鋳メッキ加工が、ニッケル電鋳メッキ加工である。
【0016】
本発明の外面にグラデーション模様を有するマスターの製造方法は、鏡面を有するマスター基材をブラスト加工する工程、および該ブラスト加工されたマスター基材を電鋳メッキ加工する工程、を包含する外面にグラデーション模様を有するマスターの製造方法であって、該ブラスト加工する工程が、鏡面を有するマスター基材の外面の一部に、第1の噴射材を噴射して第1のぼかし領域を形成する工程、および該第1のぼかし領域と鏡面との境界部に第2の噴射材を噴射して第2のぼかし領域を形成する工程、を包含し、そのことにより上記目的が達成される。
【0017】
一つの実施形態では、前記第1の噴射材が80番手〜200番手の珪砂であり、前記第2の噴射材が200番手〜600番手のビーズである。
【0018】
一つの実施形態では、前記第1のぼかし領域に形成される凹凸部の粗さに比べて第2のぼかし領域に形成される凹凸部の粗さが小さい。
【0019】
一つの実施形態では、前記マスター基材をブラスト加工する工程の前に、さらに、マスター基材をマシニング加工する工程、および該マスター基材をマスキングする工程、を包含する。
【0020】
一つの実施形態では、前記電鋳メッキ加工が、ニッケル電鋳メッキ加工である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、マスター基材の外面の一部に、第1の噴射材を噴射して第1のぼかし領域を形成し、その第1のぼかし領域と鏡面との境界部に第2の噴射材を噴射して第2のぼかし領域を形成するので、第1のぼかし領域と鏡面との境界部に形成された光沢の段差を第2のぼかし領域によってなくし、その結果鏡面から表面の凹凸が順次変化したグラデーション模様を形成することができる。
【0022】
特に、第1の噴射材として80番手〜200番手の珪砂を使用し、第2の噴射材として200番手〜600番手のビーズを使用すると、鏡面から光沢を残しながらぼかし面を形成できる上に、傷が付き難いという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明で使用するマスター基材は、通常は真鍮にて形成された円柱状のものであるが、ステンレス製など他の材質も用いることができ、またその形状も任意である。
【0025】
このマスター基材をマシニング加工する。この場合、マスター基材の表面に鏡面を形成する。
【0026】
次いで、該マスター基材をマスキングする。マスキングする領域は、凹凸面を形成しない箇所であり、例えば、マスター基材の端部にテープ等を貼り付け、あるいは被膜を形成してマスキングする。
【0027】
次に、この鏡面を有するマスター基材を以下のようにしてブラスト加工する。
【0028】
図1〜図3に示すように、マスター基材1の外面の一部に、ノズル2より第1の噴射材を噴射して第1のぼかし領域3を形成する。この第1のぼかし部3は鏡面4との間に移行部3aを含む。
【0029】
次に、第1のぼかし領域3と鏡面4との境界部(移行部3a)に向けて第2の噴射材を噴射して第2のぼかし領域5を形成する。
【0030】
噴射材をマスター基材1上に噴射するには、ノズル2をマスター基材1の軸方向へ移動させながら、マスター基材1に向けてノズル2先端から噴射材を噴射するようにしてもよい。
【0031】
第1および第2の噴射材としては、ガラスビーズ、アルミナ、珪砂(サンド)等を用いることができるが、第1の噴射材は80番手〜200番手の珪砂であるのが好ましく、第2の噴射材は200番手〜600番手のガラスビーズ等のビーズであるのが好ましい。
【0032】
特に好ましくは、第1の噴射材は150番手の珪砂であり、第2の噴射材が200番手〜400番手のガラスビーズである。
【0033】
第1の噴射材の番手が、80番手未満の場合には凹凸部が粗すぎるため好ましくなく、200番手を超える場合には、凹凸部が緻密すぎるため好ましくない。また、第2の噴射材の番手が上記範囲を外れる場合には、例えば、200番手未満の場合には第1のぼかし領域と鏡面との境界部をぼかすことが難しくなり、600番手を超える場合には、その境界部に与える影響が少ないので長時間の噴射が必要となる。
【0034】
また、第2噴射材としてビーズを使用することにより、光沢を残しながら凹凸を形成するため鏡面との境界が無くなる傾向にある。
【0035】
高圧気体としては、圧縮空気のほかに窒素ガスなども用いることができる。
【0036】
また、ノズルの移動速度、噴射圧力、ノズルとマスター基材間の噴射距離、噴射範囲、噴射材の供給量および噴射材の番手等は任意に調整でき、特に制御装置によって制御することができる。
【0037】
噴射圧力は1〜5kg/m、噴射距離は50〜200mmが望ましく、特に望ましいのは、噴射圧力が2〜4kg/mで噴射距離は100〜150mmである。
【0038】
第1のぼかし領域3に形成される凹凸部の粗さに比べて第2のぼかし領域5に形成される凹凸部の粗さは小さいものであり、以上のようなブラスト処理を、鏡面加工されたマスター基材1表面に施すことによって、光沢むらの発生しないグラデーション模様をマスター基材1表面に形成できる。
【0039】
次に、該ブラスト加工されたマスター基材を電鋳メッキ加工してマスターを形成する。ここで、電鋳メッキ加工はニッケル電鋳メッキ加工であるのが好ましい。
【0040】
得られたマスター10を図4に示すように、金型6に取り付けて、マスター10の外面と金型6の内面との間にキャビティ7を形成する。そして、キャビティ7内に樹脂を射出成形して、外面にグラデーション模様を有する成形品が得られる。
【0041】
成形品は、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、メタクリル樹脂、ポリスルホン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、AS等を使用できるが、特に望ましいのはABS樹脂である。
【0042】
マスター10の外面に形成されたグラデーション模様が、成形品外面に転写されるため、多数の微小な凹凸による表面粗さが順次変化した、光沢むらの発生しない光拡散面を形成できるグラデーション模様が得られる。
【実施例】
【0043】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明の例示であり、本発明を制限するものではない。
(実施例1)
真鍮にて形成された円柱状のマスター基材をマシニング加工して鏡面を形成した後、マスター基材の片側端部をマスキングした(このマスキングした部分は鏡面が維持される。)。
【0044】
次に、このマスター基材を以下のようにしてブラスト加工した。
【0045】
マスター基材に対して、150番手の珪砂を用いて、噴出圧力3kg/m、距離120mmで噴射し、幅約5mmの第1のぼかし領域を形成した。次に、400番手のガラスビーズを用いて、第1のぼかし領域と鏡面との境界部に向けて、噴出圧力3kg/m、距離120mmで噴射し、幅約10mmの第1のぼかし領域を形成した。
【0046】
次いで、ブラスト加工されたマスター基材をニッケル電鋳メッキ加工してマスターを得た。
【0047】
このマスターを金型に取り付けて、マスターの外面と金型の内面との間に形成されるキャビティ内にABS樹脂を射出成形して成形品を得た。
【0048】
得られた成形品の外面には、幅10mmにわたって連続した凹凸模様(グラデーション模様)が形成されていた。
(比較例1)
真鍮にて形成された円柱状のマスター基材をマシニング加工して鏡面を形成した後、マスター基材の片側端部をマスキングした(このマスキングした部分は鏡面が維持される。)。
【0049】
次に、このマスター基材に対して、吹きつけ圧力、吹き付け範囲、吹き付け距離、研磨材の番手の各条件において、以下の条件で実施した。
【0050】
吹きつけ圧力(強、中、弱)、吹き付け範囲(広、中、狭)、吹き付け距離(遠、中、近)、研磨材(3種類の番手)
得られた核マスター基材を用い実施例1と同様にしてマスターを得た後、成形品を射出成形した。
【0051】
得られた成形品はいずれも鏡面と梨地面との境界部が目立ったものとなっていた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】マスター基材にノズルから噴射材を噴射している状態を示す概略図。
【図2】第1の噴射材を噴射した後の、マスター基材の梨地度(凹凸)を示す説明図。
【図3】第2の噴射材を噴射した後の、マスター基材の梨地度(凹凸)を示す説明図。
【図4】マスターを金型に取り付けた状態を示す概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡面を有するマスター基材をブラスト加工する工程、
該ブラスト加工されたマスター基材を電鋳メッキ加工してマスターを形成する工程、
該マスターを金型に取り付けて、マスターの外面と金型の内面との間にキャビティを形成する工程、および
該キャビティ内に樹脂を射出成形する工程、
を包含する、外面にグラデーション模様を有する成形品の製造方法であって、
該ブラスト加工する工程が、鏡面を有するマスター基材の外面の一部に、第1の噴射材を噴射して第1のぼかし領域を形成する工程、および該第1のぼかし領域と鏡面との境界部に第2の噴射材を噴射して第2のぼかし領域を形成する工程、を包含する、外面にグラデーション模様を有する成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第1の噴射材が80番手〜200番手の珪砂であり、前記第2の噴射材が200番手〜600番手のビーズである請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記第1のぼかし領域に形成される凹凸部の粗さに比べて第2のぼかし領域に形成される凹凸部の粗さが小さい請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記マスター基材をブラスト加工する工程の前に、さらに、マスター基材をマシニング加工する工程、および
該マスター基材をマスキングする工程、を包含する請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
前記電鋳メッキ加工が、ニッケル電鋳メッキ加工である請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
鏡面を有するマスター基材をブラスト加工する工程、および
該ブラスト加工されたマスター基材を電鋳メッキ加工する工程、
を包含する外面にグラデーション模様を有するマスターの製造方法であって、
該ブラスト加工する工程が、鏡面を有するマスター基材の外面の一部に、第1の噴射材を噴射して第1のぼかし領域を形成する工程、および該第1のぼかし領域と鏡面との境界部に第2の噴射材を噴射して第2のぼかし領域を形成する工程、を包含する、外面にグラデーション模様を有するマスターの製造方法。
【請求項7】
前記第1の噴射材が80番手〜200番手の珪砂であり、前記第2の噴射材が200番手〜600番手のビーズである請求項6に記載のマスターの製造方法。
【請求項8】
前記第1のぼかし領域に形成される凹凸部の粗さに比べて第2のぼかし領域に形成される凹凸部の粗さが小さい請求項1に記載のマスターの製造方法。
【請求項9】
前記マスター基材をブラスト加工する工程の前に、さらに、マスター基材をマシニング加工する工程、および
該マスター基材をマスキングする工程、を包含する請求項1に記載のマスターの製造方法。
【請求項10】
前記電鋳メッキ加工が、ニッケル電鋳メッキ加工である請求項6に記載のマスターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−159712(P2006−159712A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356087(P2004−356087)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(591005394)株式会社太洋工作所 (7)
【Fターム(参考)】