説明

外鼠径ヘルニア抑止用パンツ

【課題】 使用時の装着感や窮屈感がなく、また衣服の着用の邪魔にもならず、しかも腸の下垂を有効に抑えることができるようにする。
【解決手段】 パンツのようにはくことができる外鼠径ヘルニア抑止用パンツ1であって、リング状のウエスト部2と、ウエスト部2の前側下縁から下方に伸びる前身頃3と、ウエスト部2の後側下縁から下方に伸び、その下端が前身頃3の下端と連なる後身頃4とを有しており、前身頃3はウエスト部2の前側における幅中央位置2aから左右いずれか一方へ寄った位置に設けられ、前身頃3の裏面には上縁が開口したポケット部5が設けられ、ポケット部5内には円板状等とされた脱腸突起押圧部材6が収容されており、使用時においては、前身頃3よりも短く且つ狭い幅とした後身頃4の引張作用により前身頃3が引き上げられると共に脱腸突起押圧部材6が患部に押し上げるようになされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外鼠径ヘルニアの症状を抑える外鼠径ヘルニア抑止用パンツに関する。
【背景技術】
【0002】
外鼠径ヘルニアは先天的な要因で乳幼児に発症することが多いが、中年以降で発症する場合も増加している。これは足の付け根にある腹壁の筋膜が加齢とともに弱くなることが原因である。病院で外鼠径ヘルニアの治療や手術を受ける人は年間約25万人であるが、これは腹部の痛み等の症状が出て日常生活に支障をきたした患者数であり、目だった症状が出ず、日常生活にさほど支障を伴わない程度の患者は恥ずかしがって病院に行かず、放置しているのが実情であり、そのため実際の潜在的な患者数はかなり多いと言われている。
【0003】
病院で治療や手術を受けない患者が日常生活の中で外鼠径ヘルニアの軽減を図るために用いるものとして所謂「脱腸帯」と呼ばれる帯状のものが知られている。
【特許文献1】特開2003−265509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した脱腸帯は、基本的な構造として、腰に装着するための帯状体と、該帯状体の下縁から下方に形成された股帯と、股帯の内側に取り付けられるパッドを有するものであって、股帯におけるパッドを下腹部の患部に当てることで症状の抑止が図られていた。
【0005】
しかしながら、従来の脱腸帯は、前述したように、帯状体を腰に装着した上、下腹部にも股帯を装着するという構造であるため、使用者が日常生活を行う上で常に器具の装着感を伴うと共に歩行等の日常の動きが制限されて窮屈を感ずると共に、スラックスやスカート等の衣服の着用にも支障をきたす上、腸の十分な下垂抑止効果を得がたいのが実情であった。
【0006】
本発明の目的は、使用時の装着感や窮屈感がなく、また衣服の着用の邪魔にもならず、しかも腸の下垂を有効に抑えることができる外鼠径ヘルニア抑止用パンツを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明は、略リング状のウエスト部と、ウエスト部の前側下縁における幅中央位置から左右いずれか一方へ寄った位置に設けられた前身頃と、ウエスト部の後側下縁における幅中央位置に設けられ、下端部が前身頃の下端部に連なる後身頃とを有し、後身頃は前身頃よりも伸縮性の高い生地で構成され、且つ前身頃よりも短い長さとなされており、前身頃の裏面にはポケット部が形成され、ポケット部内には脱腸突起押圧用部材が収容されている外鼠径ヘルニア抑止用パンツである。
【0008】
伸縮性の高い生地および伸縮性の低い生地の種類は特に限定されず、市販されている種々のものを用いることができる。具体的には、ナイロン、ポリウレタン等の合成繊維や綿等の混紡による交編、交織並びに天然素材とポリウレタンによる交編、交織のもの等が挙げられる。また、前身頃や後身頃およびウエスト部についても、生地は一枚でなく、複層生地としても良い。これらの点は後述するパンツについても同様である。
【0009】
脱腸突起押圧用部材は、患部の抑止効果を有する材質および形状のものであれば良く、後述するコルクのような天然素材のものが好ましいが、合成樹脂等の人工的な素材を用いても良く、また一種の素材だけでなく、複数の素材を組み合わせても良い。形状としては、板状であって、円形、楕円形およびハート形等が挙げられる。
【0010】
請求項2記載の本発明は、略リング状のウエスト部と、ウエスト部の前側下縁に左右対称に設けられた一対の前身頃と、ウエスト部の後側下縁における幅中央位置に設けられ、下端部が両前身頃の下端部に連なる後身頃とを有し、後身頃は前身頃よりも伸縮性の高い生地で構成され、且つ前身頃よりも短い長さとなされており、前身頃の裏面にはポケット部が形成され、ポケット部には脱腸突起押圧用部材が収容されている外鼠径ヘルニア抑止用パンツである。
【0011】
請求項3記載の本発明は、略リング状のウエスト部と、ウエスト部の前側下縁に左右対称に設けられた一対の前身頃と、ウエスト部の後側下縁に左右対称に設けられた一対の後身頃とを有し、左右の前身頃と左右の後身頃の対応する下端部同士が連なっており、後身頃は前身頃よりも伸縮性の高い生地で構成され、且つ前身頃よりも短い長さとなされており、前身頃の裏面にはポケット部が形成され、ポケット部内には脱腸突起押圧用部材が収容されている外鼠径ヘルニア抑止用パンツである。
【0012】
請求項4記載の本発明は、前記請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項記載の外鼠径ヘルニア抑止用パンツについて、脱腸突起押圧用部材は、コルク製の板状部材であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るいずれの外鼠径ヘルニア抑止用パンツについても、通常の下着感覚で着用することができ、従来の脱腸帯のような器具を装着しているといった違和感がなく、日常生活において下半身の動きを制限することなく使用できる。
【0014】
そして、本発明の外鼠径ヘルニア抑止用パンツは、後身頃の長さ(丈)が前身頃の長さ(丈)よりも短くなっているため、使用者の臀部の引っ張り効果によって後身頃から前身頃にかけて股下が持ち上げられると共に、前身頃のポケット部に収容された脱腸突起押圧用部材が使用者の患部に押し当てられることから、使用者は股下の持ち上げ効果と患部への脱腸突起押圧用部材の当接による複合的なヘルニア抑止効果を得ることができる。また、この場合、後身頃が高い伸縮性生地で構成されているため、使用者が股ずれを起こすことも少ない。
【0015】
また、脱腸突起押圧用部材として、コルク製板状部材を用いた場合、使用者の患部に対して適度の硬さでの押圧がなされ、且つ患部の形状に対応して湾曲し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を図面にしたがって説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0017】
(実施形態1)
【0018】
図1〜図3に示すように、外鼠径ヘルニア抑止用パンツ1は、男女兼用であって、略リング状のウエスト部2と、ウエスト部2の前側下縁から下方に伸びる前身頃3と、ウエスト部2の後側下縁から下方に伸び、その下端が前身頃3の下端に連なる後身頃4とを有しており、前身頃3はウエスト部2の前側における幅中央位置2aから、患部に対応して左右いずれか一方へ寄った位置に設けられるものであって、本実施形態では左側へ寄った位置に設けられており、より詳細にはウエスト2の幅Wを三分割した場合に、その左側約三分の一の幅位置W1に形成されている。後身頃4はウエスト部2の後側中央位置に形成されている。
なお、図中(3c)は前身頃3の幅中央部を示す。
【0019】
本実施形態では、ウエスト部2における前半部2b、前身頃3の全体および後身頃4下端の前側寄り部分がそれぞれ高伸縮性生地(表側)と低伸縮性生地(裏側)の二重構造となされ、更に図2〜図4に示すように、前身頃3の低伸縮性生地(裏側)面には高伸縮性生地からなる上縁が開口したポケット部5が設けられ、ポケット部5内にはハート形のコルク製脱腸突起押圧部材6が収容されている。そして、本実施形態では前身頃3におけるポケット部5が形成されている長さ中央部分の両側部3a・3bが凸弧状となされている。
【0020】
ウエスト部2の後半部2c並びに後身頃4の前側寄り部分を除く全体は高伸縮性生地で構成されており、そして、後身頃4は前身頃3に比べて長さが短いTバック形となされている。
【0021】
なお、図中7は、当該パンツ1全体について縁取り状に縫着された帯紐ゴムである。また、本実施形態のパンツ1を女性用として使用する場合には、前身頃3裏面と後身頃4裏面における股下が当たる部分を柔軟な肌触りとするために、綿生地を縫着する場合もある。
【0022】
本実施形態の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ1は、通常の下着パンツの代わりに使用しても良いし、通常の下着パンツの上から着用しても良い。この点は、後述する実施形態においても同様である。いずれにしても本実施形態の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ1を着用した場合、使用者は通常の下着をつけたのと同様に、違和感や窮屈感を感ずることなく、後述するヘルニア抑止作用が得られる。
【0023】
すなわち、使用者が本実施形態の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ1をはく前に、前身頃3のポケット部5内にコルク製脱腸突起押圧部材6を入れ、該部材6の位置を使用者の患部に対応してポケット5内で若干移動調整するだけで当該パンツ1の着用が行える。そして、このパンツ1の着用後においては、後身頃4は前身頃3よりも長さが短く、且つ高伸縮性生地で構成されていることから、該後身頃4が、使用者の臀部の割れ目に食い込んで臀部により引き上げられる結果、使用者の股下部分が後身頃4および前身頃3によって持ち上げられると共に、前身頃3のポケット5内のコルク製脱腸突起押圧部材6が患部に押し当てられることとなる。
【0024】
(実施形態2)
【0025】
図5〜図7に示すように、本実施形態の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ21は、左右外鼠径ヘルニア用で、主に男性用であって、略リング状のウエスト部22と、ウエスト部22の前側下縁から下方に伸びる左右対称な一対の前身頃23A・23Bと、ウエスト部22の後側中央下縁から下方に伸び、その下端が両前身頃23A・23Bの下端に連なる後身頃24とを有している。
【0026】
本実施形態では、ウエスト部22は平ゴムからなり、前身頃23A・23Bは高伸縮性生地(表側)と低伸縮性生地(裏側)の二重構造となされ、低伸縮性生地(裏側)の表面には高伸縮性生地からなる上縁が開口したポケット部25A・25Bが設けられ、ポケット部25A・25Bには円形のコルク製脱腸突起押圧部材26が収容されている。
【0027】
また、図5に示すように、前身頃23A・23Bは、その上部から下部に向かって幅が狭くなり、且つ内縁部23aがほぼ直線状であるのに対し、外縁部23bが略凸弧状となされている。
【0028】
後身頃24は、前記実施形態1と同様、高伸縮性生地により構成され、前身頃23A・23Bよりも短い長さのTバック形とされている。また、本実施形態の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ21は、前身頃23A・23Bおよび後身頃24の両側部において、縁取り状に帯紐ゴム27が縫着されている。
【0029】
本実施形態の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ21の着用にあたっては、左側の前身頃23Aと後身頃24の間(S1)に左足をいれ、右側の前身頃23Bと後身頃24の間(S2)に右足を入れれば良い。そして、本実施形態のパンツ21においても、後身頃24によって、前記実施形態1における後身頃4と同様の作用効果が得られ、そして、本実施形態では、左右対称な一対の前身頃23A・23Bにおける左右のポケット25A・25Bに、使用者の患部に対応してコルク製脱腸突起押圧部材26を入れ、その位置を適宜調整すれば良い。
【0030】
(実施形態3)
【0031】
図8および図9に示すように、本実施形態の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ31は、左右外鼠径ヘルニア用で、主に女性用であって、ウエスト部32と、ウエスト部32の前側下縁から下方に伸びる左右対称な一対の前身頃33A・33Bと、ウエスト部32の後側下縁から下方に伸びる左右対称な一対の後身頃34A・34Bとを有しており、左側の前身頃33Aと同側の後身頃34Aの下端部同士が連なり、右側の前身頃33Bと同側の後身頃34Bの下端部同士が連なっている。
【0032】
本実施形態では、ウエスト部32は平ゴムからなり、前身頃33A・33Bは高伸縮性生地(表側)と低伸縮性生地(裏側)の二重構造となされ、低伸縮性生地(裏側)の表面には高伸縮性生地からなる上縁が開口したポケット部(図示せず)が設けられ、ポケット部には前記実施形態2と同様のコルク製脱腸突起押圧部材が収容される。
【0033】
後身頃34A・34Bは高伸縮性生地により構成されており、前身頃33A・33Bよりも短い長さとされている。
【0034】
前身頃33A・33Bおよび後身頃34A・34Bは、いずれも上部から下部に向かって幅が狭い形状となされ、また、前身頃33A・33Bおよび後身頃34A・34Bの両側部には、縁取り状に帯紐ゴム37が縫着されている。
【0035】
本実施形態の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ31の着用にあたっては、左側の前身頃33Aと後身頃34A間(S1)に左足を入れ、右側の前身頃33Bと後身頃34B間(S2)に右足を入れれば良い。そして、左右の前身頃33A・33Bにおけるポケット部に、使用者の患部に対応してコルク製脱腸突起押圧部材を入れ、その位置を適宜調整すれば良い。
【0036】
本実施形態の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ31においても、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0037】
前述した各実施形態における前身頃3・23A・23B・33A・33Bはいずれも伸縮性の高い生地の裏側に伸縮性の低い生地を重ね合わせることにより、複層生地として伸縮性の低いものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る外鼠径ヘルニア抑止用パンツは、通常の下着感覚で使用することができるため、幼児から老人まで性別を問わず、幅広く利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施形態1に係るパンツの斜視図である。
【図2】同実施形態のパンツ内部の前側を図示した正面図である。
【図3】同実施形態のパンツ前側におけるポケット縫着部分の断面図である。
【図4】脱腸突起押圧部材の斜視図である。
【図5】実施形態2に係るパンツを前側から見た斜視図である。
【図6】同実施形態に係るパンツを後側から見た斜視図である。
【図7】同実施形態のパンツ内部の前側を図示した一部切欠正面図である。
【図8】実施形態3に係るパンツを前側から見た斜視図である。
【図9】同実施形態に係るパンツを後側から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0040】
1 外鼠径ヘルニア抑止用パンツ
2 ウエスト部
3 前身頃
4 後身頃
5 ポケット部
6 コルク製脱腸突起押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略リング状のウエスト部と、ウエスト部の前側下縁における幅中央位置から左右いずれか一方へ寄った位置に設けられた前身頃と、ウエスト部の後側下縁における幅中央位置に設けられ、下端部が前身頃の下端部に連なる後身頃とを有し、後身頃は前身頃よりも伸縮性の高い生地で構成され、且つ前身頃よりも短い長さとなされており、前身頃の裏面にはポケット部が形成され、ポケット部内には脱腸突起押圧用部材が収容されている、外鼠径ヘルニア抑止用パンツ。
【請求項2】
略リング状のウエスト部と、ウエスト部の前側下縁に左右対称に設けられた一対の前身頃と、ウエスト部の後側下縁における幅中央位置に設けられ、下端部が両前身頃の下端部に連なる後身頃とを有し、後身頃は前身頃よりも伸縮性の高い生地で構成され、且つ前身頃よりも短い長さとなされており、前身頃の裏面にはポケット部が形成され、ポケット部には脱腸突起押圧用部材が収容されている、外鼠径ヘルニア抑止用パンツ。
【請求項3】
略リング状のウエスト部と、ウエスト部の前側下縁に左右対称に設けられた一対の前身頃と、ウエスト部の後側下縁に左右対称に設けられた一対の後身頃とを有し、左右の前身頃と左右の後身頃の対応する下端部同士が連なっており、後身頃は前身頃よりも伸縮性の高い生地で構成され、且つ前身頃よりも短い長さとなされており、前身頃の裏面にはポケット部が形成され、ポケット部内には脱腸突起押圧用部材が収容されている、外鼠径ヘルニア抑止用パンツ。
【請求項4】
脱腸突起押圧用部材は、コルク製の板状部材である請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項記載の外鼠径ヘルニア抑止用パンツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−12082(P2008−12082A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186287(P2006−186287)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(506233069)株式会社ニッコ (1)
【Fターム(参考)】