説明

多チャンネル熱レンズ分光分析システム及び多チャンネル熱レンズ分光分析方法

【課題】装置全体の小型化を図り、コスト面でも有利な多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットを提供する。
【解決手段】多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットは光源ユニット10と、多チャンネルの測定ユニット20と、受光処理ユニット30とからなる。光源ユニット10は励起光光源1、検出光光源2、励起光と検出光を合波する波長合波器3を備える。測定ユニット20は光源ユニット10からの励起光と検出光を照射レンズ14を介して試料17に照射し、試料17中に形成された熱レンズを透過した検出光を受光ファイバ16で受光する多チャンネルの光路を有する。光源ユニット10と測定ユニット20との接続部に光スイッチ11が配置されており、光スイッチ11は各光路を順次切り換える。受光処理ユニット30は各光路の受光ファイバ16で受光した検出光を、PD21で光電変換し、処理して各試料の濃度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多チャンネル熱レンズ分光分析システム及び多チャンネル熱レンズ分光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化学反応の高速化や微少量での反応、オンサイト分析等の観点から、化学反応を微小空間で行うための集積化技術が注目されており、そのための研究が進められている。このような集積化技術の1つとして、マイクロチップ内部の微細流路で液体試料の混合、反応、分離、抽出、検出等を行うマイクロ化学システムがある。
【0003】
マイクロ化学システムで用いられるマイクロチップは、例えば溝が形成されたガラス基板上に、試料注入及び排出用の小孔が溝の対応位置に配置された他のガラス基板を接合したものであり、接合後、溝部分が微細流路を形成するものである。
【0004】
マイクロ化学システムにおいては、試料の量が微量であるので、試料の高感度な検出方法が必須となる。高感度な検出方法としては、例えば、熱レンズ効果を利用した光熱変換分光分析法を利用する熱レンズ分光分析法が挙げられる。
【0005】
熱レンズ分光分析法は、マイクロチップ内部の微細な流路を流れる試料に集光するようにマイクロチップ表面に光を照射し、照射された光を試料中の溶質が吸収して熱エネルギを放出し、この熱エネルギによって溶媒が局所的に温度上昇することによって屈折率が変化するという光熱変換効果、即ち、熱レンズ効果を利用するものである。
【0006】
具体的には、マイクロチップを顕微鏡の対物レンズの下方に配置し、励起光光源から出射され、例えば変調器によって所定の周波数で変調された所定波長の励起光を顕微鏡に入射させる。この励起光を顕微鏡の対物レンズを介してマイクロチップ内部の微細な流路内の試料溶液に集光照射する。このとき、集光照射された励起光の焦点位置は溶液試料中にあり、この焦点位置を中心として熱レンズが形成される。
【0007】
一方、検出光光源から出射された波長が励起光と異なる検出光を顕微鏡に入射させ、この検出光を励起光と同様に顕微鏡の対物レンズによって集光する。
【0008】
これによって、熱レンズが凹レンズの効果を有するときには、検出光は試料溶液を透過して発散し、熱レンズが凸レンズの効果を有するときには、検出光は試料溶液を透過して集光する。この発散又は集光した検出光が、例えば集光レンズとフィルタを介して検出器に受光され、検出器は、受光した光を測定信号として検出する。この測定信号の強度は、試料溶液において形成された熱レンズに対応したものとなる。
【0009】
検出器によって検出された測定信号は、微小信号検出装置によって、試料溶液に対応する周波数成分が抽出され、抽出された周波数成分の強度を、PC等の情報処理装置によって分析し、試料溶液の濃度が求められる。なお、検出光は励起光と同じ波長のものでもよく、また、励起光が検出光を兼ねることもできる。
【0010】
図2は、従来の熱レンズ分光分析システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【0011】
図2において、この熱レンズ分光分析システムは、光源ユニットと、測定ユニットと、受光処理ユニットに大別される。
【0012】
光源ユニットは、励起光を出射する励起光光源31、検出光を出射する検出光光源32、及び励起光と検出光を合波する波長合波器33を備える。
【0013】
測定ユニットは、波長合波器33にて合波された励起光及び検出光をマイクロチップ35の試料に照射するプローブ36を備えている。波長合波器33とプローブ36とは光ファイバ34によって接続されている。
【0014】
受光処理ユニットは、試料を透過した検出光を受光し、光電変換してその強度に応じた信号を出力する光電変換器(フォトダイオード)38、フォトダイオード38の後流に順次接続されたIVアンプ39、ロックインアンプ41及び情報処理装置(PC)42を備えている。
【0015】
励起光光源31から出射された励起光は、波長合波器33に入射し、該波長合波器33の干渉フィルタ膜で反射して光ファイバ34に入射する。一方、検出光光源32から出射された検出光は、波長合波器33に入射し、干渉フィルタ膜を透過して光ファイバ34に入射し、励起光と合波する。
【0016】
光ファイバ34により伝搬された励起光及び検出光はプローブ36を介してマイクロチップ35の内部の微細流路に注入された試料に照射され、励起光により、試料内に熱レンズが形成されて熱レンズ効果が生じる。一方、試料に照射された検出光は、形成された熱レンズによって屈折する。熱レンズによって屈折した検出光は、波長フィルタ37を介してフォトダイオード38に入射し、ここで光電変換され、試料の濃度に対応する強度を有す周波数成分を有する電気信号となる。
【0017】
得られた電気信号は、後流のIVアンプ39に送られる。I V アンプ39は電気信号を電流−電圧変換すると共に増幅し、測定信号として後流のロックインアンプ41に出力する。ロックインアンプ41は、例えば励起光光源31から導電線40を介して送られてくる一定周波数の参照信号を使って、複数の周波数やノイズが混在した測定信号から、参照信号に対応する周波数成分を抽出し、熱レンズ信号として後流のPC42に出力する。PC42は、熱レンズ信号を処理して検出光に対応する試料の濃度を求める。
【0018】
このような熱レンズ分光分析ユニットに関する従来技術が開示された文献として、例えば特許文献1が挙げられる。
【0019】
ところで、このような1チャンネル用の熱レンズ分光分析ユニットは、複数のサンプルについて連続的に分析操作を行う連続分析には適しておらず、連続分析操作を行うためには、光源ユニット、測定ユニット及び受光処理ユニットを複数セットしたユニットを構築する必要がある。
【0020】
図3は、図2の1チャンネル用熱レンズ分光分析ユニットを、複数、例えば3個並列に組み合わせた多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットの概略構成を示す図である。
【0021】
図3において、この熱レンズ分光分析ユニットは、励起光光源31、検出光光源32及び波長合波器33からなる光源ユニットと、プローブ36を有する測定ユニットと、フォトダイオード38、IVアンプ39、ロックインアンプ41及び情報処理装置(PC)42を有する受光処理ユニットが、それぞれ符号a〜cを付した3組として並設されている。
【特許文献1】特開平10−232210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、図3に示した多チャンネルの熱レンズ分光分析ユニットは、チャンネル数分の光学系及び電気系が必要となり、部品点数が多くなって装置が大掛かりになり、コストも嵩むという問題がある。
【0023】
本発明の目的は、必要最小限の部品点数によって装置全体の小型化を図り、しかもコスト面でも有利な多チャンネル熱レンズ分光分析ユニット及び多チャンネル熱レンズ分光分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、請求項1記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットは、励起光の光源と、検出光の光源と、前記励起光と前記検出光を合波する合波器とを備えた光源ユニットと、前記光源ユニットから出射された前記励起光と検出光を照射レンズを介して試料に照射し、前記励起光によって前記試料中に形成された熱レンズで発散又は集光した前記検出光を受光する測定ユニットと、前記測定ユニットから伝搬された前記検出光を光電変換して処理する受光処理ユニット、とを有し、前記測定ユニットを、それぞれ照射レンズを備えた複数の光路が並列に設けられた多チャンネル測定ユニットとし、前記光源ユニットと前記多チャンネル測定ユニットとの接続部に光スイッチを配置し、該光スイッチは、合波された前記励起光及び前記検出光を前記並列に設けられた複数の光路に切り替えて順次各光路に配置された照射レンズを介して各試料に照射することを特徴とする。
【0025】
請求項2記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットは、請求項1に記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットにおいて、前記光源ユニットの前記合波器と前記光スイッチとの間、及び前記光スイッチと前記多チャンネル測定ユニットの各照射レンズとの間を、シングルモードの光ファイバで接続したことを特徴とする。
【0026】
請求項3記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットは、請求項1又は2記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットにおいて、前記各照射レンズは、それぞれ屈折率分布型レンズであることを特徴とする。
【0027】
請求項4記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットは、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットにおいて、前記各照射レンズに対応して、それぞれマルチモードの光ファイバからなる受光ファイバを設けたことを特徴とする。
【0028】
請求項5記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットは、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットにおいて、前記合波器は、光の波長によって光を反射し、又は透過させる多層膜を備えていることを特徴とする。
【0029】
請求項6記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットは、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットにおいて、前記受光処理ユニットは、参照信号を使用して測定信号から特定の周波数成分を抽出するロックインアンプ及び高速フーリエ変換手段のいずれか一方を備えていることを特徴とする。
【0030】
上記目的を達成するために、請求項7記載の多チャンネル熱レンズ分光分析方法は、励起光光源から励起光を出射する励起光出射工程と、検出光光源から検出光を出射する検出光出射工程と、前記励起光と前記検出光を合波する合波工程と、合波された前記励起光及び前記検出光を並列接続された複数の光路に切り替えて順次各光路に配置された照射レンズを介して各試料に照射する照射工程と、前記励起光が照射された前記試料中に形成された熱レンズを透過した前記検出光をそれぞれ受光する受光工程と、前記各受光工程で受光した前記検出光を順次光電変換して処理し、前記各試料の濃度を検出する受光処理工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
請求項1に係る多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットによれば、光源ユニットと、測定ユニットと、受光処理ユニットとを有し、前記測定ユニットを複数の光路が並列に設けられた多チャンネル測定ユニットとし、前記光源ユニットと前記多チャンネル測定ユニットとの接続部に光スイッチを配置し、該光スイッチは、合波された前記励起光及び前記検出光を前記並列に設けられた複数の光路に切り替えて順次各光路に配置された照射レンズを介して各試料に照射するものとしたので、検出感度を低下することなく、光スイッチの位置情報を参照しながら、多チャンネルの各試料を効率よく、順次連続的に分析することができる。
【0032】
請求項2に係る多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットによれば、光源ユニットの合波器と光スイッチとの間、及び光スイッチと多チャンネル測定ユニットの各照射レンズとの間を、シングルモードの光ファイバで接続したので、励起光と検出光を常に同軸とし、励起光をできるだけ絞って収差の少ない熱レンズを形成し、透過検出光の光量を多くして正確な測定が可能となる。
【0033】
請求項3に係る多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットによれば、各照射レンズとして、それぞれ屈折率分布型レンズを用いたので、照射レンズを小型化することができ、これによって、多チャンネル熱レンズ分光分析ユニット全体の小型化を図ることができる。
【0034】
請求項4に係る多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットによれば、各照射レンズに対応してマルチモードの光ファイバからなる受光ファイバを設けたので、各試料を透過した検出光を受光し易くなる。
【0035】
請求項5に係る多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットによれば、合波器を、光の波長によって光を反射し、又は透過させる多層膜を備えているものとしたので、合波における損失が少なく、構成が簡単で、装置全体の小型化が容易となる。
【0036】
請求項6に係る多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットによれば、受光処理ユニットが、参照信号を使用して測定信号から特定の周波数成分を抽出するロックインアンプ及び高速フーリエ変換手段のいずれか一方を備えているので、検出光に対応した試料の濃度を効率よく検出することができる。
【0037】
請求項7に係る多チャンネル熱レンズ分光分析方法によれば、合波した励起光と検出光を並列接続された複数の光路に切り替えて順次各光路に配置された照射レンズを介して各試料に照射し、試料を透過した検出光をそれぞれ受光し、光電変換して処理するようにしたので、検出感度を低下することなく、多チャンネルの試料を効率よく連続的に分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳述する。
【0039】
図1は、本発明の実施の形態に係る多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットの概略構成を示す図である。
【0040】
図1において、この多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットは、1系統の光源ユニット10と、多チャンネル、例えば8チャンネルの測定ユニット20と、1系統の受光処理ユニット30とから主として構成されている。
【0041】
光源ユニット10は、励起光光源1と、検出光光源2と、波長合波器3とを備える。波長合波器3は、2つの屈折率分布型ロッドレンズ、例えばセルフォックマイクロレンズ(SML、日本板硝子社の登録商標)が誘電体多層膜フィルタ(干渉フィルタ膜)を介して接合されたものであり、励起光光源1が光ファイバ4を介して一の屈折率分布型ロッドレンズに接続されており、検出光光源2が光ファイバ5を介して他の屈折率分布型ロッドレンズに接続されている。
【0042】
測定ユニット20における各光路は、それぞれ並列に接続されており、シングルモードの導光ファイバ15a〜15hと、これら導光ファイバ15a〜15hの一端にそれぞれ接続された屈折率分布型ロッドレンズからなるプローブ14a〜14hと、このプローブ14a〜14hにそれぞれ対向するようにマイクロチップ12を介して配置された、例えばコア径200μmφマルチモードの受光ファイバ16a〜16hを備えている。各光路における各導光ファイバ15a〜15hの他端は、それぞれ光スイッチ11に接続されており、光スイッチ11は、例えばシングルモードの光ファイバ6によって導光ユニット10の波長合波器3と接続されている。
【0043】
各光路の各受光ファイバ16a〜16hは、それぞれ信号処理ユニット30の光電変換器としてのフォトダイオード(PD)21に接続されている。信号処理ユニット30のフォトダイオード21には、導電線22を介して順次IVアンプ23、ロックインアンプ24及び情報処理装置としてのPC25が接続されている。
【0044】
光源ユニット10の励起光光源1と信号処理ユニット30のロックインアンプ24とは、導電線26によって接続されており、励起光光源1のドライバから必要な信号がロックインアンプ24に送られる。
【0045】
以下、このような構成の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットの動作について説明する。
【0046】
励起光光源1から出射された励起光は光ファイバ4内を伝搬して波長合波器3の一の屈折率分布型ロッドレンズに入射し、この屈折率分布型ロッドレンズ内を蛇行しながらビーム光が拡大する光ビームとなって他の一の屈折率分布型ロッドレンズとの接合面に配置された干渉フィルタ膜に入射し、ここで反射して光ビームとなって光ファイバ6に入射する。
【0047】
一方、検出光光源2から出射された検出光は、光ファイバ5内を伝搬して波長合波器3の他の一の屈折率分布型ロッドレンズに入射し、この他の一の屈折率分布型ロッドレンズ内を蛇行しながらビーム径が拡大する光ビームとなって一の屈折率分布型ロッドレンズとの間に配置された干渉フィルタ膜に入射し、この干渉フィルタ膜を透過した後、光ビームとなって光ファイバ6に入射する。
【0048】
波長合波器3で合波された励起光と検出光は、光ファイバ6内を伝搬して光スイッチ11に入射し、光スイッチ11の切り換えによって、例えば第1光路の光ファイバ15aに入射し、プローブ14aを経てマイクロチップ12の例えば第1の試料17aに照射される。照射された励起光の焦点位置は溶液試料中にあり、この焦点位置を中心として試料内に熱レンズが形成されて熱レンズ効果が生じる。一方、試料内に照射された検出光は、励起光によって形成された熱レンズによって屈折し、試料濃度に対応する強度で、受光ファイバ16aによって受光され、フォトダイオード21に入射する。
【0049】
フォトダイオード21に入射した検出光は、ここで、光電変換され、試料の濃度に対応する強度を有する周波数成分を含む電気信号としてIVアンプ23に送られる。IVアンプ23に送られた検出光に対応する信号は、ここで、電流−電圧変換されると共に増幅され、測定信号として後流のロックインアンプ24に送られる。
【0050】
ロックインアンプ24は、導電線26を経て励起光光源1のドライバから送信される一定周波数の参照信号を参照して、複数の周波数成分やノイズが混在した測定信号から参照信号に対応する周波数成分の信号を抽出する。得られた周波数成分信号は、後流のPC25に送信され、ここで、信号処理されて、例えば第1の試料17aの濃度が求められる。
【0051】
このようにして、マイクロチップ12の第1の試料17aについての分析が終了した後、光スイッチ11を切り替えて、光源ユニット10から出射した励起光及び検出光を第2の光路の導光ファイバ15bに入射させ、同様に第2の試料17bを透過した検出光を受光、処理して第2の試料についての分析を行う。
【0052】
以下、光スイッチ11を切り替えて順次マイクロチップ12の第3以降の試料17c〜17hに励起光および検出光を照射し、試料内に形成された熱レンズを透過する検出光を受光し、検出光に基づく信号を時分割で処理して各チャンネルの試料濃度を測定する。
【0053】
本実施の形態によれば、1つの光源ユニット10を、光スイッチ11を介して多チャンネルの測定ユニット20に接続し、且つ、測定ユニット20における各チャンネルに対応する受光ファイバ16a〜16hを信号処理ユニット30のフォトダイオード(PD)21に接続する構成としたので、装置全体を大型化させることなく、低コストで、多チャンネルの試料濃度を順次、連続的に測定することができる。
【0054】
本実施の形態において、全チャンネルの測定に要する1周期分の測定時間は、光スイッチ11のチャンネル切り替え時間およびロックインアンプ24の信号処理速度が律速となる。光チャンネル11としては、例えばIOTech社の「eol1×8」が用いられ、この光スイッチにおける各チャンネル切り替え時間は、例えば20ミリ秒である。従って、これに信号処理時間を加えた時間が各チャンネルにおける必要最低測定時間となり、必要最低測定時間にチャンネル数を乗じて得られた時間が1周期分の最低測定時間となる。
【0055】
本実施の形態において、波長合波器3と光スイッチ11とを接続する光ファイバ6及び測定ユニット20の各光路における導光ファイバ15a〜15hとしてシングルモードの光ファイバを用いたことにより、励起光と検出光を常に同軸とし、励起光をできるだけ絞って収差の少ない熱レンズを形成し、これによって透過検出光の光量を多くして感度を向上することができる。
【0056】
本実施の形態において、照射レンズ14a〜14hとして、屈折率分布型レンズを用いたことにより、照射レンズを小型化することができ、多チャンネル熱レンズ分光分析ユニット全体の小型化を図ることができる。
【0057】
本実施の形態において、受光ファイバ16a〜16hとして、例えばコア径200μmφのマルチモードファイバを用いたことにより、試料を透過した検出光が受光し易くなる。なお、コア径の大きいマルチモードファイバをチャンネル数に対応する数だけPD21に並列接続するためには、相当のスペースを要するので、スペースとの兼ね合いで受光ファイバ径が決定される。なお、受光ファイバで検出光を受光することにより、光ファイバのコア径がピンホールの役割を果たすので、PD21の前段にピンホールを配置する必要がなくなる。
【0058】
本実施の形態において、波長合波器3が干渉フィルタ膜を有するものとしたので、合波における損失が少なく、構成が簡単で、装置全体の小型化が容易となる。
【0059】
本実施の形態においては、光スイッチを切り替えることによって、1チャンネルごとに時系列的に検出光に対応する信号が得られるので、例えば高速フーリエ変換手段(FFT)を用いて周波数分解する必要はないが、ロックインアンプ24に代えてFFTを設けることもできる。FFTは、例えばPC25のソフトウエアの一部として組み込まれる。FFTを用いる場合は、励起光の光源1から信号を取り出す必要がない。FFTは、参照信号を要することなく、周波数分解によって目的の信号を取り出すことができる。
【0060】
本実施の形態は、光源ユニット10と多チャンネルの測定ユニット20との接続部に光スイッチ11を配置したことにより、光スイッチを切り替えるだけで、光源から出射され合波された励起光及び検出光をそのままの光量で測定ユニットの各光路のプローブ14a〜14hまで伝搬することができるので、感度の高い測定が可能となる。なお、光源ユニット10と多チャンネルの測定ユニット20とを分配器を介して接続することもできるが、分配器を用いると、光源から出射された励起光及び検出光が分配器によって各光路に分配されてしまうので、本実施の形態に比べて検出感度が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施の形態に係る多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットの概略構成を示す図である。
【図2】従来の熱レンズ分光分析システムの構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】図2の1チャンネル用熱レンズ分光分析ユニットを、複数、例えば3個並列に組み合わせた多チャンネル熱レンズ分光分析ユニットの概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 励起光光源
2 検出光光源
3 波長合波器
4、5、6 光ファイバ
10 光源ユニット
11 光スイッチ
12 マイクロチップ
14a〜14h プローブ
15a〜15h 導光ファイバ
16a〜16h 受光ファイバ
17a〜17h 試料
20 測定ユニット
21 フォトダイオード
22 導電線
23 IVアンプ
24 ロックインアンプ
25 情報処理装置(PC)
26 導電線
30 受光処理ユニット
31 励起光光源
32 検出光光源
33 波長合波器
34 光ファイバ
35 マイクロチップ
36 プローブ
37 波長フィルタ
38 フォトダイオード
39 IVアンプ
40 導電線
41 ロックインアンプ
42 情報処理装置(PC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光の光源と、検出光の光源と、前記励起光と前記検出光を合波する合波器とを備えた光源ユニットと、
前記光源ユニットから出射された前記励起光と検出光を照射レンズを介して試料に照射し、前記励起光によって前記試料中に形成された熱レンズで発散又は集光した前記検出光を受光する測定ユニットと、
前記測定ユニットから伝搬された前記検出光を光電変換して処理する受光処理ユニット、とを有し、
前記測定ユニットを、それぞれ照射レンズを備えた複数の光路が並列に設けられた多チャンネル測定ユニットとし、
前記光源ユニットと前記多チャンネル測定ユニットとの接続部に光スイッチを配置し、該光スイッチは、合波された前記励起光及び前記検出光を前記並列に設けられた複数の光路に切り替えて順次各光路に配置された照射レンズを介して各試料に照射することを特徴とする多チャンネル熱レンズ分光分析ユニット。
【請求項2】
前記光源ユニットの前記合波器と前記光スイッチとの間、及び前記光スイッチと前記多チャンネル測定ユニットの各照射レンズとの間を、シングルモードの光ファイバで接続したことを特徴とする請求項1記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニット。
【請求項3】
前記各照射レンズは、それぞれ屈折率分布型レンズであることを特徴とする請求項1又は2記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニット。
【請求項4】
前記各照射レンズに対応して、それぞれマルチモードの光ファイバからなる受光ファイバを設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニット。
【請求項5】
前記合波器は、光の波長によって光を反射し、又は透過させる多層膜を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニット。
【請求項6】
前記受光処理ユニットは、参照信号を使用して測定信号から特定の周波数成分を抽出するロックインアンプ及び高速フーリエ変換手段のいずれか一方を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多チャンネル熱レンズ分光分析ユニット。
【請求項7】
励起光光源から励起光を出射する励起光出射工程と、
検出光光源から検出光を出射する検出光出射工程と、
前記励起光と前記検出光を合波する合波工程と、
合波された前記励起光及び前記検出光を並列接続された複数の光路に切り替えて順次各光路に配置された照射レンズを介して各試料に照射する照射工程と、
前記励起光が照射された前記試料中に形成された熱レンズを透過した前記検出光をそれぞれ受光する受光工程と、
前記各受光工程で受光した前記検出光を順次光電変換して処理し、前記各試料の濃度を検出する受光処理工程と、
を有することを特徴とする多チャンネル熱レンズ分光分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−210323(P2009−210323A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52004(P2008−52004)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(502100415)マイクロ化学技研株式会社 (8)
【Fターム(参考)】