説明

多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法

【課題】多元系合金からなる接点材料の絶縁破壊電圧特性の組成依存性を短時間で測定する。
【解決手段】接点材料に用いられるCu、Cr、Agなどの複数の金属系物質を加熱して蒸気化し、それを基板5に蒸着させ、成分が順次変化した薄膜6を形成し、この薄膜6を平板電極として接地し、薄膜6と所定のギャップを持って針電極11を対向配置し、薄膜6を針電極11の軸方向と直交する方向に所定間隔で移動させながら、針電極11と薄膜6間の絶縁破壊電圧を測定する。変化した成分量と絶縁破壊電圧の関係を求める評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空バルブなど開閉器の接点に用いられる多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料開発のためには、目標とする特性を満たす組成系を系統的に調査する必要があるため、多くの時間と労力を要する。真空バルブの接点に用いる金属材料開発では、成分量を変化させた試料をそれぞれ試作、評価する一連の作業を繰り返すことによって、組成の最適化が達成される。しかしながら、この方法では、考慮する成分数が多くなるほど試作、評価の回数が増大し、材料開発が遅延する要因となっている。一方、無機材料分野では、コンビナトリアルケミストリーを適用し、蒸着などの方法で形成した薄膜を利用し、材料合成、評価方法が試みられている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3752534号公報
【特許文献2】特許第4263964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、真空バルブの接点などに用いられる複数の金属材料を同時に合成して絶縁破壊電圧を連続的に測定し、絶縁破壊電圧の組成依存性を短時間で評価できる多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法を提供することにある。即ち、無機材料分野に適用されている手法を金属材料に適用しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、実施形態の多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法は、複数の金属系物質の成分を順次変化させた薄膜を準備し、前記薄膜を平板電極として接地し、前記薄膜と所定のギャップを持って針電極を対向配置し、前記薄膜を前記針電極の軸方向と直交する方向に所定間隔で移動させながら、前記針電極と前記薄膜間の絶縁破壊電圧を測定することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の実施例に係る多元系合金の薄膜を作る蒸着装置の概要説明図。
【図2】本発明の実施例に係る多元系合金の成分分布を示す特性図。
【図3】本発明の実施例に係る多元系合金の絶縁破壊電圧を測定する回路図。
【図4】本発明の実施例に係る多元系合金の絶縁破壊電圧特性図。
【図5】本発明の実施例に係る多元系合金から一成分を抽出した絶縁破壊電圧特性図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0008】
本発明の実施例に係る多元系合金の絶縁破壊電圧の測定方法を図1〜図5を参照して説明する。なお、多元系合金をCrとCuを用いて説明する。
【0009】
先ず、CrとCuの蒸着方法を説明する。図1に示すように、蒸着装置は、加熱によりCrの蒸気を発生させる第1の蒸発源1と、加熱によりCuの蒸気を発生させる第2の蒸発源2と、これらの図示上方向に設けられ、所定の大きさの蒸気通過孔3を有して蒸気の拡散角度を制御する制御板4と、制御板4の図示上方向に設けられ、蒸気通過孔3を通過した蒸気を蒸着させる基板5とで構成されている。基板5には、ガラス、石英、アルミナなどを用い、厚さμmオーダーで直径数10mmの薄膜6を形成させる。
【0010】
薄膜6には、CrとCuの蒸気が図示点線で示すように拡散して蒸着し、図2に示すように、成分量が順次変化した組成となる。成分量は、薄膜6の中心部を通る所定の直線上をX線マイクロアナライザで測定した。測定する位置が大きくなるにつれて、規則的かつ連続的に変化し、Crの成分量が増加してCuの成分量が低下し、これらは略中央位置でクロスする。
【0011】
次に、絶縁破壊電圧の測定方法を説明する。図3に示すように、真空容器10内に薄膜6を平板電極として接地し、針電極11の先端を対向配置させて絶縁破壊電圧を測定した。針電極11は、所定の曲率を有するステンレス、タングステンのような高溶融点材料を用い、保護抵抗12を介して直流電圧13を印加した。薄膜6を形成させた基板5は、針電極11の軸方向と直交する方向の水平方向に移動する移動装置14に固定されている。ギャップ長gは、0.1mmとした。なお、g=0.01〜1mmの範囲で設定できる。
【0012】
真空容器10には、排気弁15を介して真空ポンプ16が接続され、10−3Pa以下の真空に保たれる。また、絶縁破壊時の成分を測定する質量分析計17が接続されている。絶縁破壊電圧は、分圧器18で測定する。
【0013】
CrとCuの成分が図2のように分布した薄膜6の絶縁破壊電圧特性を図4に示す。絶縁破壊電圧は、数10回の平均値であり、全長に対して10%間隔の位置で求めた。その結果、60%の位置にピークがあることが分かる。このデータを、Cr成分をベースに整理して図5に示す。なお、Cr成分0質量%は平板電極がCu板、Cr成分100質量%は平板電極がCr板である。Crが60質量%(Cu:40質量%)のとき最も絶縁破壊電圧が高く、最適な混合比であることが分かる。
【0014】
質量分析計17では、絶縁破壊電圧の測定と同時に、放電によって蒸発、放出される成分を分析し、絶縁破壊の要因などを調査する。これにより、絶縁破壊の評価を迅速に行うことができる。
【0015】
上記実施例の多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法によれば、CrとCuの成分量が順次変化する薄膜6を基板5上に蒸着させ、これを平板電極として接地し、成分が変化している所定の直線上の絶縁破壊電圧を測定しているので、CrとCuの混合比による絶縁破壊電圧特性を短時間で得ることができ、真空バルブの接点材料の最適化を図ることができる。
【0016】
上記実施例では、接点材料をCr、Cuを用いて説明したが、Ag、W、Mo、Biなどを含めた複数の金属系の物質に用いることができる。
【0017】
また、絶縁破壊電圧の測定を真空中で行ったが、絶縁ガス中、空気中で行うことができ、それぞれに対応した開閉器に用いることができる。
【0018】
以上述べたような実施形態によれば、多元系合金で構成される接点材料の材料開発を迅速に行うことができる。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0020】
1 第1の蒸発源
2 第2の蒸発源
3 蒸気通過孔
4 制御板
5 基板
6 薄膜
10 真空容器
11 針電極
14 移動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属系物質の成分を順次変化させた薄膜を準備し、
前記薄膜を平板電極として接地し、
前記薄膜と所定のギャップを持って針電極を対向配置し、
前記薄膜を前記針電極の軸方向と直交する方向に所定間隔で移動させながら、
前記針電極と前記薄膜間の絶縁破壊電圧を測定することを特徴とする多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法。
【請求項2】
前記薄膜は、金属系物質の蒸気を発生させる複数の蒸発源と、
前記金属系物質の蒸気の拡散角度を制御する制御板と、
前記制御板を通過した蒸気を蒸着させる基板とで構成される蒸着装置で形成されることを特徴とする請求項1に記載の多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法。
【請求項3】
前記金属系物質は、CrとCuとであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法。
【請求項4】
前記絶縁破壊電圧を真空中で測定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法。
【請求項5】
前記絶縁破壊電圧の測定時に、放電によって蒸発、放出される成分を分析することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の多元系合金の絶縁破壊電圧の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−44023(P2013−44023A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182834(P2011−182834)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】