説明

多入力多出力光偏波コントローラ

【目的】 可動部が不要で小型化が容易であり、入力光の偏波状態の変化に追従できる高速動作が可能な多入力多出力光偏波コントローラを実現する。
【構成】 印加電圧に応じて入力光の所定方向の電界の位相を個別に可変させる光素子を複数個集合させたアレイ光素子を形成し、交互に45度異なる方向の電界の位相を可変させるアレイ光素子を少なくとも3段に配列し、その両側に各光素子に対応する位置に複数組の光入出力端子を配置する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、入力光の偏波を制御する、例えば任意の偏波状態で入力される光を垂直偏光に制御する多入力多出力光偏波コントローラに関する。
【0002】
【従来の技術】コヒーレント光通信で使用される単一モード光ファイバは、外乱の影響を受けて偏波状態が時間とともに不規則に変化する。したがって、入力光の偏波状態に応じて損失特性やクロストーク特性などが変化する偏波依存性のある光部品を使用する場合には、入力光の偏波状態を所定の偏波に制御する光偏波コントローラが必要になる。
【0003】従来の光偏波コントローラとしては、入力光の特定方向の電界の位相を1/4波長遅らせる1/4波長板と、特定方向の電界の位相を1/2波長遅らせる1/2波長板置とを組み合わせ、それらを回転させることにより偏波を回転させるものがある。また、印加電界によって電気光学結晶の複屈折性を制御し、結晶を伝搬する光の偏波を回転させるものがある。また、光ファイバ内の応力によって生ずる複屈折を利用したり、光ファイバの磁気光学効果を利用して伝搬光の偏波を回転させるものがある。
【0004】このような光偏波コントローラは、入力光の偏波状態を検出する検出器と組み合わせ、その出力に応じて1/4波長板および1/2波長板の回転角や電気光学結晶の印加電圧を制御することにより、入力光の偏波を自動補償するシステムが構成できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】複数組の入出力端子をもつ多入力多出力光偏波コントローラとして、従来の光偏波コントローラを単純に集合させた構成では、装置規模が大きくなってしまう問題点があった。また、ステップモータなどの機械的な可動部を必要とするものでは、入力光の偏波状態の変化に追従させることが困難であった。
【0006】本発明は、可動部が不要で小型化が容易であり、入力光の偏波状態の変化に追従できる高速動作が可能な多入力多出力光偏波コントローラを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の多入力多出力光偏波コントローラは、印加電圧に応じて入力光の所定方向の電界の位相を個別に可変させる光素子を複数個集合させたアレイ光素子を形成し、交互に45度異なる方向の電界の位相を可変させるアレイ光素子を少なくとも3段に配列し、その両側に各光素子に対応する位置に複数組の光入出力端子を配置する。
【0008】また、光素子として、入力光の所定方向に対応する屈折率が変化する液晶を用いる。
【0009】
【作用】交互に45度異なる方向の電界の位相を可変させるアレイ光素子を少なくとも3段に配列することにより、それぞれに印加する電圧に応じて、例えば任意の偏波状態の入力光を所定の偏波に変換することができる。また、アレイ光素子を構成する各光素子を独立に制御することにより、複数組の入力光の偏波状態を独立して制御することができる。
【0010】
【実施例】図1は、本発明の多入力多出力光偏波コントローラの実施例構成を示す。図において、1a,1b,1cは、それぞれ入力光の水平方向に対する45度方向,0度方向,45度方向の電界の位相を個別に可変できる光素子を複数個集合させたアレイ光素子である。なお、一般的には交互に45度異なる電界の位相を可変できるアレイ光素子が3枚以上あればよい。2は複数個の光入力端子、3は複数個の光出力端子である。
【0011】このような光素子は、印加電界に応じて入力光の特定方向の屈折率を変化させ、その方向の電界の位相を可変できる液晶によって実現される。また、アレイ光素子は、複数の液晶および電極をアレイ化することにより実現される。液晶の応答速度は数十ミリ秒から数百マイクロ秒程度であり、極めて高速動作が可能である。また、1組の入出力光に対応する大きさは、1組の光ビームが占める面積と3枚の液晶を重ねた厚さで決まるので、多数の入出力光に対応する構成でも大幅に小型化することができる。
【0012】以下、本実施例の構成により入力光の偏波状態を制御できる原理について説明する。任意の偏波をもつ光は、ストークスパラメータs=(s11,s12,s13)を用いて、 s11=cos(2φ1)・cos(2φ2) …(1) s12=cos(2φ1)・sin(2φ2) …(2) s13=sin(2φ1) …(3) のように記述される。φ1 は偏波状態を記述する楕円の回転方向(楕円率)を決める角(−π/4≦φ1 ≦π/4)、φ2 は楕円の軸の方向を決める角(0≦φ2 <π)である(辻内、「光学概論II」、朝倉書店)。
【0013】一方、本実施例の光偏波コントローラに垂直偏波の光(s11=−1,s12=0,s13=0)を入力したときに出力される光の偏波状態は、ストークスパラメータsout =(s(out)11 ,s(out)12 ,s(out)13 )を用いて、 s(out)11=cos(θ1)・cos(θ3)+sin(θ1)・cos(θ2)・sin(θ3) …(4) s(out)12=sin(θ1)・sin(θ2) …(5) s(out)13=cos(θ1)・sin(θ3)+sin(θ1)・cos(θ2)・cos(θ3) …(6)のように記述される。θ1 ,θ2 ,θ3 は、アレイ光素子1a,1b,1cにおける水平方向に対して45度方向,0度方向,45度方向の光の電界の位相遅れ角を示す。
【0014】ここで例えば、 sin(θ1)・cos(θ3)=0 …(7) および cos(θ1)=sin(2φ1) …(8) sin(θ1)=cos(2φ2) …(9) を仮定すると、 θ1 =(π/2)−2φ1 …(10) θ2 =2φ2 …(11) θ3 =π/2 …(12)が解となる。このとき、s=sout が成立する。
【0015】すなわち、アレイ光素子1a,1b,1cに対して、式(10), (11),(12)に示すθ1 ,θ2 ,θ3 を設定する電圧を印加することにより、垂直偏波の光を任意の偏波状態の光に変換することができる。また、このことは、sout のような任意の偏波状態の光を逆方向から入力することにより、垂直偏波の光に変換できることを示している。
【0016】したがって、入力光の偏波状態からφ1 ,φ2 を検出し、式(10), (11),(12)に基づいてθ1 ,θ2 ,θ3 を算出し、そのθ1 ,θ2 ,θ3 を設定する電圧をアレイ光素子1a,1b,1cに印加することにより、任意の偏波状態の光を垂直偏波の光に変換することができる。また、同様にして任意の偏波状態から任意の偏波状態への変換も可能である。
【0017】図2は、本発明による偏波制御システムの構成例を示す。なお、ここでは1チャネル分の偏波制御システムについて示す。(a) は、偏波制御システムの全体構成の一例を示す。光ファイバ等で偏波状態が変化した入力光は、ビームスプリッタ11でその一部が分岐されて制御部12に入力され、残りが本発明による光偏波コントローラ10に入力される。制御部12は、入力光の偏波状態(φ1 ,φ2 )を検出し、光偏波コントローラ10の各光素子に印加する電圧に変換し、各光素子における入力光の電界の位相遅れ角θ1 ,θ2 ,θ3 を設定する。これにより、入力光を垂直偏波その他に変換して出力することができる。
【0018】(b) は、制御部12の構成例を示す。入力光はビームスプリッタ13で2分岐され、一方は偏光プリズム(+45°,−45°)14−1に入力され、他方は1/4波長板15を介して偏光プリズム(0°,90°)14−2に入力される。偏光プリズム14−1の出力光は光検出器15−1,15−2で検出され、それぞれ受信器16−1,16−2に入力される。偏光プリズム14−2の出力光は光検出器15−3,15−4で検出され、それぞれ受信器16−3,16−4に入力される。演算部17は、受信器16−1,16−2の出力Pa ,Pb からs11(=Pa+Pb)およびs12(=Pa−Pb)を算出し、受信器16−3,16−4の出力Pc ,Pd からs13/s11(=(Pc−Pd)/(Pc+Pd))を算出する。さらに、演算部17は、s11,s12,s13/s11から式(1)〜(3)に基づいてφ1 ,φ2 を算出し、さらに例えば式(10)〜(12)に基づくθ1 ,θ2 ,θ3 を算出する。光素子駆動部18は、光偏波コントローラ10の各光素子に設定される電圧値とθ1 ,θ2 ,θ3 との関係をテーブルとしてもち、テーブルから読みだした電圧値に応じた電圧を各光素子に印加する。
【0019】このような構成により、入力光の偏波状態が高速に変化しても追従できる偏波制御システムが実現される。なお、制御部12の構成は、文献(“Polarizationfluctuation in optical fibers based on probability ", T. Imai, et al.,Optics Letters, vol.12, no.9, p.723 )に記載されている。光偏波コントローラ10の部分がアレイ光素子1a,1b,1cとなる多チャネル対応の偏波制御システムでは、制御部12は各チャネルに対応して設けられる。ただし、ビームスプリッタ11は1つで対応可能である。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の多入力多出力光偏波コントローラは、光素子に印加する電圧の制御により入力光の偏波状態を可変させることができるので、多入力多出力構成であっても小型化することができる。しかも、入力光の偏波状態の変化に追従できる高速動作が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多入力多出力光偏波コントローラの実施例構成を示す図。
【図2】本発明による偏波制御システムの構成例を示す図。
【符号の説明】
1a,1b,1c アレイ光素子
10 光偏波コントローラ
11 ビームスプリッタ
12 制御部
13 ビームスプリッタ
14 偏光プリズム
15 光検出器
16 受信器
17 演算部
18 光素子駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 印加電圧に応じて入力光の所定方向の電界の位相を個別に可変させる光素子を複数個集合させたアレイ光素子を形成し、交互に45度異なる方向の電界の位相を可変させるアレイ光素子を少なくとも3段に配列し、その両側に各光素子に対応する位置に複数組の光入出力端子を配置した構成であることを特徴とする多入力多出力光偏波コントローラ。
【請求項2】 請求項1に記載の光素子は、入力光の所定方向に対応する屈折率が変化する液晶で構成したことを特徴とする多入力多出力光偏波コントローラ。

【図1】
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【図2】
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