説明

多分化能幹細胞の培養

本発明は、羊水培地(AFM)のような適切な培地を用いたヒト皮膚線維芽細胞サンプルから多分化能幹細胞を増殖させる方法、および、それに続く該細胞の3種の胚葉のいずれかの細胞へ分化させる方法を提供する。本発明はまた、インビトロで分化することができ、さらに得られた細胞がインビボでの遺伝子および/または自己細胞治療の供給源として有用な、皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞からの様々な組織の分化および製造方法を提供する。また、本明細書において開示された方法により得られた多分化能幹細胞単離物、多分化能幹細胞培養物、および、多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した細胞もが提供される。このようにして提供された方法、細胞、培養物、培地、バンク、バッチおよびコレクションは、様々な医療、研究、診断および治療用途に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年5月12日付けで出願された米国仮出願第61/052,478号、および、2008年年5月12日付けで出願された米国仮出願第61/071,682号(これらの全体は、参照により本発明に包含させる)の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、適切な培養培地、例えば羊水培地のような培養培地を用いてヒト皮膚線維芽細胞サンプルから多分化能幹細胞を増殖させ、それにより得られた多分化能幹細胞を3種の胚葉のいずれかに分化させる方法に関し、加えて、要求に応じて、多分化能幹細胞培養物およびバンク、多分化能幹細胞、および、上記のもの全ての使用に関し、それらを提供するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、ヒト皮膚線維芽細胞は、4種のウイルス遺伝子の形質導入によって誘導多能性幹(iPS)細胞への再プログラムが可能であることが研究により示されている(Takahashi,et al.(2007).Cell.131:861−872;Yu,et al.Science.318(5858):1917−1920;Park,et al.Nature.451:141−146)。これらのiPS細胞は幹細胞の特徴を有しており、3種全ての胚葉由来の細胞に分化することができるが、このような特性は多分化能として知られている。しかしながら、多分化能の概念は、これらの細胞の能力と可能性の程度に関して疑問が持たれていた。従って、レトロウイルス導入による遺伝子変化を調査しなければならないため、患者に特異的なiPS細胞の治療的な使用は注意を要するものと予想される。
【0004】
近年、MedPage Todayで、成体マウス細胞から遺伝子移入を行わないで多分化能性幹細胞が作製されたことが報告されている(John Gever編,出版:2009年4月24日。http://www.medpagetoday.com/PublicHealthPolicy/StemCellResearch/13892を参照)。Zhou H等の調査に基づく報告によれば、成体マウス細胞は、遺伝子の代わりに組換え転写因子タンパク質を用いて多分化能性幹細胞に再プログラムできることが実証されている(Zhou H,et al.“Generation of induced pluripotent stem cells using recombinant proteins” Cell Stem Cell 2009;DOI:10.1016/j.stem.2009.04.005を参照)。このような形質転換細胞は胚様体を形成することができ、3つの一次胚葉:内胚葉、中胚葉および外胚葉に特徴的な細胞に分化することができた。
【0005】
De Coppi等(Nat Biotechnol.25(1):100−106(2007))による研究では、マウスにおいて、羊水の培養物が非腫瘍形成性の多分化能幹細胞の棲家となることを示している。またこの研究者は、羊水の培養物は、初期において幹細胞マーカーである多分化能性細胞(CD117細胞)を低いレベル(1%)で示すことも見出している。このような細胞をマイクロビーズで単離した後、それらを3種の胚葉のいずれかの細胞に分化させることが可能になった。
【0006】
De Coppi等は、ヒト羊水穿刺標本から磁気マイクロスフェアを用いて免疫選択を行うことによって、幹細胞マーカーを発現するヒトおよびげっ歯類の羊水由来幹(AFS)細胞を単離した。AFS細胞を、15%ES−FBS、1%グルタミン、および、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(ギブコ(Gibco))を含み、18%のチャング(Chang)Bおよび2%のチャングC培地(アーバイン・サイエンティフィック(Irvine Scientific))を補充したα−最小必須培地(α−MEM)中で37℃で5%COを添加しながら成長させた。AFS細胞培養中に補充されたようなチャング培地は、羊水の細胞培養中における血清への要求が少ないことで知られている。ChangおよびJonesは、10種の増殖促進因子を添加することによって、培地における血清への要求が少なくなり、さらに、補充された培地は細胞を保存したことを報告した(Prenat Diagn.1985 Sep−Oct;5(5):305−12)。しかしながら、補充された増殖因子が、何世代にもわたり細胞を保存したかどうかは不明である。
【0007】
初期の出版物でも、Chang等(Proc Natl Acad Sci USA,1982 Aug;79(15):4795−9)は、ホルモン添加培地中で成長させたヒト羊水細胞の安定性を報告している。Chang等は、ヒト羊水細胞増殖を改善し、外部から添加された血清に対する依存性を減少させるための新しい添加培地の開発について述べている。チャング培地は、Hepes、抗生物質および10種の成長促進因子が補充されたハム(Ham)F12培地とダルベッコ改変イーグル培地との混合物(4%ウシ胎児血清)を含む(Chang等,表1を参照)。チャング培地の組成(チャング培地(CHANG MEDIUM(R))、アーバイン・サイエンティフィック)には、チャングC培地の処方が示されており、所定量のステロイドホルモンが含まれている。しかしながら、チャング培地(R)中の増殖因子は、羊水培地中での多分化能性細胞の増殖において何らかの役割を果たしているのかどうかは不明である。
【0008】
Kim等(Cell Prolif.40:75−90(2007))は、ヒト羊水(HAF)からの線維芽細胞型の細胞の単離、加えて、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン(ギブコ)、3.7mg/ml炭酸水素ナトリウム、10ng/ml上皮増殖因子(EGF)(ペプロテック(Peprotech),ニュージャージー州プリンストン)、10%ウシ胎児血清(FBS)(ギブコ)が添加されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ギブコ,ニューヨーク州グランドアイランド)を含む培地での継代培養を報告している。培養開始から7日後に、培地を新しい培地で交換し、その後は2回/週で交換した。8回継代したHAF由来線維芽細胞型の細胞には幹細胞が含まれており、これを分化実験に用いた。
【0009】
Crigler等(FASEB J.21(9):2050−2063(2007))は、マウス真皮に少数の多分化能性細胞(CD117細胞)が存在することを示し、さらにこれらの細胞は、新生児マウスの真皮から分画遠心分離でのシークエンスによって繰り返し単離することができ、表皮への分化に利用することができることを示唆した。
【0010】
近年、Motohashi等は、マウスの皮膚から単離したメラニン芽細胞は多分化能と自己再生能力を有していることを報告している。マウスの皮膚から単離したメラニン芽細胞は、ニューロン、グリア細胞、平滑筋細胞およびメラニン細胞に分化した。このような細胞の分化は、アンタゴニストACK2によって阻害された(Stem Cells.April 2009,27(4):888−97)。
【0011】
女性の骨髄から収集された幹細胞は、ドナーから得た気管から剥ぎ取った断片を女性の体に住み着かせ、うまく女性の体に移植させるために用いられてきた(Andy Coghlan,NewScientist,“Woman receives windpipe built from her stem cells”,November 19,2008を参照、また、以下のリンクも参照:http://www.newscientist.com/article/dn16072-woman-receives-windpipe-built-from-her-stem-cells.html)。
【0012】
ヒトの月経血から誘導された幹細胞は、マウスにおいて血流が制限された手足の衰えを防ぐことが報告されている(Alison Motluk,NewScientist,“Stem cells from menstrual blood save limbs”,August 19,2008を参照、また、以下のリンクも参照:http://www.newscientist.com/article/dn14559-stem-cells-from-menstrual-blood-save-limbs.html)。また研究者等は、月経血から得られた細胞は再生能があるとも考えている(Murphy et al.,Journal of Translational Medicine,6:45,August 19,2008を参照)。
【0013】
Stevens等(Stevens et al.Lab Invest.Dec;84(12):1603−9,2004を参照)は、妊娠中に発達した胎児細胞は母親の血液および組織中で数十年生存し続けることが可能であることを報告している。血中を循環する幹細胞は、ドナー由来の肝細胞と共に肝再生を起こすことができることが研究により見出された。より具体的に言えば、雄の乳児を有する母親の肝臓中に雄の細胞が見出され、これらの細胞は、肝細胞の抗原を発現した。この研究によって、幹細胞からの臓器再生に関する自然状態での基準が示された。しかしながら、Stevens等は、ヒト皮膚線維芽細胞サンプル中の多分化能幹細胞を増殖させ、分化させることが可能かどうか、および、望ましい臓器の再生に利用可能かどうかについては検討していない。どちらかといえば、Stevensはただ自然現象を立証したに過ぎない。
【0014】
臍帯血は幹細胞を含むことがわかっており、臍帯血バンクが開設されている。
【0015】
しかしながら、自己移植による治療を可能にするために、組換え遺伝子またはタンパク質転移を必要とすることなく男女両方の幹細胞を得るためのアプローチを提供する必要が未だある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Takahashi,et al.(2007).Cell.131: 861-872; Yu,et al.Science.318(5858): 1917-1920; Park,et al.Nature.451: 141-146
【非特許文献2】MedPage Today(John Gever編, 出版:2009年4月24日)
【非特許文献3】Zhou H, et al. “Generation of induced pluripotent stem cells using recombinant proteins” Cell Stem Cell 2009; DOI: 10.1016/j.stem.2009.04.005
【非特許文献4】De Coppi et al.Nat Biotechnol. 25(1):100-106 (2007)
【非特許文献5】Prenat Diagn. 1985 Sep-Oct;5(5):305-12
【非特許文献6】Chang et al.Proc Natl Acad Sci USA, 1982 Aug;79(15):4795-9
【非特許文献7】Kim et al.Cell Prolif. 40: 75-90 (2007)
【非特許文献8】Crigler et al.FASEB J. 21(9): 2050-2063 (2007)
【非特許文献9】Stem Cells. April 2009, 27(4):888-97
【非特許文献10】Andy Coghlan,NewScientist, “Woman receives windpipe built from her stem cells”, November 19, 2008
【非特許文献11】Alison Motluk,NewScientist, “Stem cells from menstrual blood save limbs”, August 19, 2008
【非特許文献12】Murphy et al., Journal of Translational Medicine, 6:45, August 19, 2008
【非特許文献13】Stevens et al. Lab Invest. Dec;84(12):1603-9, 2004
【発明の概要】
【0017】
本発明は、適切な培地、例えば羊水培地(AFM)およびその他の培地、および、本明細書において開示された様々な増殖因子、および、それに続く3種の胚葉のいずれかの細胞への分化を用いて、最初の単離を必要とすることなく、あらゆる人種(例えば、アフリカ系アメリカ人およびコーカソイドの、女性および男性のソース)の男女両方のヒト皮膚線維芽細胞サンプルから多分化能幹細胞を増殖させる最初の方法を提供する。多分化能性細胞のような希少な細胞型を、最初に単離することなく成長させることができたことは驚くべきことであり、かつ予想外であったが、これはなぜなら、培養中に、特に複数回継代させる際に能力を有さない線維芽細胞などの他の細胞型がこのような希少な細胞型を壊滅させてしまう可能性があると考えられていたためである。また本明細書において開示された方法は、細胞への遺伝子またはウイルス形質導入を必要としない、このような多分化能幹細胞生産の強化も可能にする。開示された方法の効率のために、各個体由来の幹細胞を得て増殖させることができ、それにより、組織および臓器の移植と補充、組織および臓器の再生、ならびに、組織および臓器の交換などを含む、自己の幹細胞またはそれ以外の型の適合した幹細胞による治療を可能にする。本発明より以前は、治療現場において、一般の人々にとってこのようなものは決して実用的なものではなかった。本発明はまた、インビトロでの遺伝子経路と、細胞分化における、およびその最中のそれらの影響とを評価するためのモデル系も提供する。
【0018】
本発明は、一般的に、適切な培地を用いて、例えば様々な増殖因子を含む羊水培地(AFM)およびその他の培地を用いてヒト皮膚線維芽細胞サンプルから多分化能幹細胞を増殖させる方法に関し、多分化能幹細胞の3種の胚葉のいずれかの細胞への分化を可能にする。
【0019】
本発明はまた、本明細書において開示された方法により得られた多分化能幹細胞単離物、多分化能幹細胞培養物、および、多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した細胞を提供する。
【0020】
一実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能幹細胞を増殖させる方法を提供するものであり、ここで該方法は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水培地(AFM))を用いてヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;c)培養物中のCD117幹細胞の数を決定する工程;および、d)CD117幹細胞の数が多く増えるまでAFM中で継代を続けることによって、ヒト皮膚線維芽細胞培養物を維持する工程を含む。
【0021】
その他の実施態様において、本発明は、上記で説明した方法を提供するものであり、ここで該方法は、増殖させたCD117多分化能幹細胞を3種の胚葉のいずれかの細胞に分化させることをさらに含む。このようなCD117多分化能幹細胞は、要求に応じて、脂肪組織、肝臓組織、筋肉組織および神経組織に分化させることができる。
【0022】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルから得られた多分化能幹細胞単離物を提供するものであり、ここで該培養物は、以下の工程を含む方法によって増殖させる:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;c)培養物中のCD117多分化能幹細胞の数を決定する工程;および、d)CD117多分化能幹細胞が多く増えるまでAFM中で継代を続けることによって、ヒト皮膚線維芽細胞培養物を維持する工程。
【0023】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞サンプル中の多分化能幹細胞を増殖させる方法を提供するものであり、ここで該方法は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;および、b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程を含む。培養物中のCD117多分化能幹細胞の数は、各継代を行った後に決定することができる。その他の実施態様において、ヒト皮膚線維芽細胞培養物は、CD117幹細胞の数が多く増えるまでAFM中で継代を続けることによって維持される。
【0024】
その他の実施態様において、増殖させたCD117多分化能幹細胞は、3種の胚葉のいずれかの細胞に分化させることができる。このようなCD117多分化能幹細胞は、例えば脂肪組織、肝臓組織、筋肉組織および神経組織に分化させることができる。
【0025】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物から得た多分化能幹細胞単離物を提供するものであり、ここで該培養物は、以下の工程を含む方法によって増殖させる:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;および、b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程。培養物中のCD117多分化能幹細胞の数は、必要に応じて、各継代を行った後に決定することができる。ヒト皮膚線維芽細胞培養物は、CD117幹細胞の数が多く増えるまでAFM中で継代を続けることによって維持することができる。
【0026】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物から得られた多分化能幹細胞単離物を提供するものであり、ここで該培養物は、以下の工程を含む方法によって増殖させる:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;および、b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程。このような増殖させたCD117多分化能幹細胞は、3種の胚葉のいずれかの細胞に分化させることができる。このようなCD117多分化能幹細胞は、脂肪組織、肝臓組織、筋肉組織および神経組織に分化させることができ、それにより自己移植、再生および交換が可能になる。
【0027】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物から多分化能性細胞を胚葉の細胞に分化させる方法を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここで該方法は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を望ましい胚葉の細胞に適切な条件下で分化させる工程を含む。
【0028】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から脂肪組識を作製する方法を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここで該方法は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を所定胚葉の細胞に分化させる工程;を含み、ここで該方法により適切な条件下で脂肪組識が提供される。
【0029】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から肝組織を作製する方法を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここで該方法は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を所定胚葉の細胞に分化させる工程;を含み、ここで該方法により適切な条件下で肝組織が提供される。
【0030】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から筋肉組織を作製する方法を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここで該方法は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を所定胚葉の細胞に分化させる工程;を含み、ここで該方法により適切な条件下で筋肉組織が提供される。
【0031】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から神経組織を作製する方法を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここで該方法は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を所定胚葉の細胞に分化させる工程;を含み、ここで該方法により適切な条件下で神経組織が提供される。
【0032】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物から得られた多分化能幹細胞培養物を提供するものであり、ここで該培養物は、以下の工程を含む方法によって増殖させる:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;および、b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程。
【0033】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した細胞の収集物(collection、コレクション)を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここで該分化した細胞は、a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を望ましい胚葉の細胞に適切な条件下で分化させる工程により得られる。
【0034】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した脂肪細胞の収集物を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここでこの分化した細胞は、a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させること;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させること;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を脂肪細胞に適切な条件下で分化させることにより得られる。
【0035】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された分化肝細胞の収集物を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここでこの分化した細胞は、a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させること;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させること;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を肝細胞に適切な条件下で分化させることにより得られる。
【0036】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した筋肉細胞の収集物を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここでこの分化した細胞は、a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させること;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させること;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を筋肉細胞に適切な条件下で分化させることにより得られる。
【0037】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した神経組織の収集物を提供し、自己移植、再生および交換を可能にするものであり、ここでこの分化した細胞は、a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させること;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させること;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を神経組織に適切な条件下で分化させることにより得られる。
【0038】
その他の実施態様において、本発明は、必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて肝臓を再建する方法を提供するものであり、ここで該方法は:(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって肝組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程を含む方法によって生産され;ここで該方法により適切な条件下で肝組織が提供され;および、(II)(I)から得られた肝組織で患者を治療すること、を含む。その他の実施態様によれば、工程(b)における細胞は、工程(c)の前に凍結保存される。
【0039】
その他の実施態様において、本発明は、必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて肺を再建する方法を提供するものであり、ここで該方法は:(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって肺組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程を含む方法によって生産され;ここで該方法により適切な条件下で肺組織が提供され;および、(II)(I)から得られた肺組織で患者を治療すること、を含む。その他の実施態様によれば、工程(b)における細胞は、工程(c)の前に凍結保存される。
【0040】
その他の実施態様において、本発明は、必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて腎臓を再建する方法を提供するものであり、ここで該方法は:(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって腎臓組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程を含む方法によって生産され;ここで該方法により適切な条件下で腎臓組織が提供され;および、(II)(I)から得られた腎臓組織で患者を治療すること、を含む。その他の実施態様によれば、工程(b)における細胞は、工程(c)の前に凍結保存される。
【0041】
その他の実施態様において、本発明は、必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて膵臓を再建する方法を提供するものであり、ここで該方法は:(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって膵臓組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程を含む方法によって生産され;ここで該方法により適切な条件下で膵臓組織が提供され;および、(II)(I)から得られた膵臓組織で患者を治療すること、を含む。その他の実施態様によれば、工程(b)における細胞は、工程(c)の前に凍結保存される。
【0042】
その他の実施態様において、本発明は、必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて心臓を再建する方法を提供するものであり、ここで該方法は:(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって心臓組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程を含む方法によって生産され;ここで該方法により適切な条件下で心臓組織が提供され;および、(II)(I)から得られた心臓組織で患者を治療すること、を含む。その他の実施態様によれば、工程(b)における細胞は、工程(c)の前に凍結保存される。
【0043】
その他の実施態様において、本発明は、必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて皮膚を再建または交換する方法を提供するものであり、ここで該方法は:(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって皮膚組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程を含む方法によって生産され;ここで該方法により適切な条件下で皮膚組織が提供され;および、(II)(I)から得られた皮膚組織で患者を治療すること、を含む。その他の実施態様によれば、工程(b)における細胞は、工程(c)の前に凍結保存される。
【0044】
その他の実施態様において、本発明は、以下の工程:a)容器中で、羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの接種材料の細胞を増殖させる工程;b)AFM中で適切な条件下で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させた適切な密度を有する多分化能幹細胞を収集する工程を含む方法によって得られた多分化能幹細胞の収集物を提供するものであり、それにより該多分化能幹細胞は、インビトロで脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞または神経細胞に分化することができる。
【0045】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した細胞の収集物を提供するものであり、ここで該分化した細胞は:a)容器(フラスコ)中で、羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの接種材料の細胞を増殖させる工程;b)CD117多分化能幹細胞を、AFM中で、適切な条件下で、複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって増殖させること;c)増殖させたCD117多分化能幹細胞をいずれかの胚葉の細胞に適切な条件下で分化させること;および、d)増殖させた適切な密度を有する分化した細胞を収集することにより得られ、ここで該細胞は、脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞または神経細胞に分化する。
【0046】
その他の実施態様において、本発明は、羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で適切なサイズにしたヒト皮膚線維芽細胞サンプルの接種材料を増殖させることによって得られた適切な細胞密度を有する多分化能幹細胞の収集物を提供するものであり、ここで該多分化能幹細胞は、インビトロで脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞または神経細胞に分化することができる。
【0047】
その他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した細胞の適切な細胞密度を有する収集物を提供するものであり、ここで該分化した細胞は、羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で適切なサイズにしたヒト皮膚線維芽細胞サンプルの接種材料を増殖させること、および、増殖させたCD117多分化能幹細胞をいずれかの胚葉の細胞に分化させることによって得られ、ここで該細胞は、脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞または神経細胞に分化する。
【0048】
本発明の一形態によれば、適切なサイズの接種材料は、約3,000〜約5,000細胞/cmの細胞密度を有し、さらに、増殖させた多分化能幹細胞または分化した細胞の適切な密度または最終的な密度は、約50,000〜10,000,000細胞/cm個であるか、またはそれより大きい。
【0049】
本発明のその他の形態によれば、適切なサイズの接種材料は、約3,500、4,000、または、4,500細胞/cmの細胞密度を有し、さらに、増殖させた多分化能幹細胞または分化した細胞の適切な密度または最終的な密度は、約75,000〜約100,000、約125,000、約150,000、約200,000、約300,000、約400,000、約500,000、約6,00,000、約700,000、約800,000、約900,000、約1,000,000、約2,000,000、約3,000,000、約4,000,000、約5,000,000、約6,000,000、約7,000,000、約8,000,000、約9,000,000、または、約10,000,000細胞/cm個であるか、またはそれより大きい。
【0050】
その他の実施態様によれば、羊水細胞は、AFM中で約2ヶ月またはそれより長く継代される。
【0051】
その他の実施態様によれば、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞は、AFM中で複数回の継代を受け、例えば少なくとも3、4、5、6、7、8回またはそれより多くの継代を受ける。
【0052】
その他の実施態様によれば、CD117細胞の数が望ましい数に達したら、例えば少なくとも約85%に達したら、増殖させたCD117+多分化能幹細胞を分化させる。
【0053】
その他の実施態様によれば、上記移植は、心臓、膵臓、肝臓、肺、腎臓、皮膚またはその他の体の部分から選択される臓器の移植である。
【0054】
その他の実施態様によれば、CD117多分化能幹細胞は、患者にとって自己由来である。
【0055】
その他の実施態様によれば、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルは、再建または交換から1年以内に患者から採取したものである。
【0056】
その他の実施態様によれば、羊水増殖培地(AFM)は、様々な増殖因子を含む。
【0057】
このようにして提供された方法、細胞、培地、培養物、バッチ、バンク、収集物および様々な増殖因子は、様々な医療、研究、診断および治療用途に用いることができる。
【0058】
また本発明に係る方法は、細胞分化における、および、その最中のインビトロでの遺伝子経路およびそれらの影響を評価するためのモデル系としても使用できる。
【0059】
特に他の定義がない限り、本明細書において文法上様々な形態で用いられる全ての専門用語や科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同様の意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書において説明された方法および材料と同様の方法および材料を用いることができるが、以下で好ましい方法および材料を説明する。対立が生じた場合、本発明の明細事項(定義を含む)を優先することとする。加えて、これらの材料、方法および実施例は単に説明のためであって、限定するものではない。
【0060】
本発明のさらなる特徴、目的、利点および形態は、以下に記載された請求項および詳細な説明で容易に確認できる。しかし当然のことながら、詳細な説明および特定の実施例は本発明の好ましい形態を示しているが、単に一例として示されただけであり、本発明の本質および範囲内の様々な変更および改変は、当業者であればこの詳細な説明から明らかになると予想される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、バックアップ用羊水サンプルの脂肪生成および神経の分化の結果を示す代表的な図である。a:480倍における代表的な脂肪細胞の位相コントラストを示す図;b:480倍におけるネスチンで染色したピラミッド型の神経細胞の代表的な図;c:480倍におけるネスチンで染色した双極神経細胞の代表的な図;c:480倍におけるネスチンで染色した多極神経細胞の代表的な図である。
【図2】図2は、初期の線維芽細胞培養物の特徴を示す図である。a,b:分化試験直前のCD117細胞の位相コントラストおよび蛍光を示す代表的な図(1000倍);(全てのCD117細胞を示す)c,d:これも分化試験直前の、NANOGで核染色した場合の代表的な蛍光を示す図である(c:200倍、d:400倍)。
【図3】図3は、羊水由来の分化した細胞、および、様々な年齢群に属する個体から得られた皮膚線維芽細胞である。400倍で撮影された代表的なDIC図である。
【図4】図4は、96歳のヒトの皮膚線維芽細胞サンプル由来の分化した細胞である。a:オイルレッド(Oil red)Oで染色した脂肪細胞の代表的な図(200倍);b,c:FITC結合レプチンで染色した脂肪細胞のDICおよび蛍光を示す図(400倍);d:ヘマトキシリン&エオシン(H&E)で染色した肝組織(480倍)の代表的な図;e,f:FITC結合CK18で染色した肝細胞の位相コントラストおよび蛍光を示す図(200倍);g:H&Eで染色した筋肉組織の代表的な図(480倍);h,i:FITC結合デスミンで染色した筋肉細胞の位相コントラストおよび蛍光を示す図(200倍);j,k:FITC結合NFMで染色した神経細胞の位相コントラストおよび蛍光を示す図(200倍);l,m:FITC結合ネスチンで染色した神経細胞の位相コントラストおよび蛍光を示す図である(200倍)。
【図5】図5は、AFM中で成長させた未分化した細胞(5a)、または、BHA、N2、ES−FCS−Pen/Strep、L−グルタミン、NGFおよびbFGFを補充したニューロジェニック培地(Neurogenic−Medium)2DMEM/F−12中で成長させた分化した細胞(5bおよび5c)、または、BHAを含まないニューロジェニック培地2中で成長させた分化した細胞(5d)を示す。全ての顕微鏡写真機による写真は、10倍の位相コントラストで撮影された。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明は、ここで、単離、ウイルス形質導入、組換え遺伝子またはタンパク質転移を行う必要のない、洗練されかつ効率的な、多分化能幹細胞を得る方法を提供する。この方法では、細胞培養および/または組織サンプルからの幹細胞を得て、それらを増殖させるための培養条件が用いられる。様々な年齢群からの線維芽細胞サンプルの公共的に利用可能なサンプルを、コーリエル・セル・レポジトリー(Coriell Cell Repository,ニュージャージー州キャムデン)から得た。本明細書において開示された適切な培養条件下で、これら全ての凍結サンプルから、3種の生殖細胞系のいずれか、具体的には脂肪生成細胞、肝細胞、筋原細胞および神経細胞いずれかに由来する細胞の形態学的な外観を有する細胞に分化することが可能な膨大な数の多分化能性細胞が得られた。本発明はまた、インビトロで分化することができる皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞からの様々な組織への分化および製造方法、本明細書において開示された方法により得られた多分化能幹細胞単離物、多分化能幹細胞培養物、および、多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した細胞を提供する。
【0063】
本発明はまた、あらゆる人種の男女両方のヒト皮膚線維芽細胞サンプル中の多分化能幹細胞を提供し、ここでこのような多分化能幹細胞は、増殖させ、分化させることができ、さらに、望ましい組織および臓器の再生、再発生(recreation)、再増殖および/または再構築に使用することができる。例えば、一実施態様において、本発明は、組織/臓器の移植、交換または補充として使用するための、組織再生のために増殖させた多分化能幹細胞に基づく自己移植による治療を提供する。
【0064】
その他の実施態様において、本発明は、自己免疫疾患において、組織再生に関する障害の治療において、および、宿主に長期にわたる免疫抑制作用を与えて宿主の免疫系による移植片拒絶反応を防ぐために、移植片として使用するための自己幹細胞を作製する方法およびそれらの治療用途を提供する。
【0065】
その他の実施態様は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から移植のための自己幹細胞を作製する方法を提供するものであり、ここで該方法は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させた多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させること;を含み、ここで該方法により適切な条件下で移植片が提供される。
【0066】
さらにその他の実施態様において、本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から移植片を自己再生させる方法を提供するものであり、ここで該方法は、以下の工程:a)適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;b)AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、c)増殖させた多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させること;を含み、ここで該方法により適切な条件下で移植片が提供される。このような移植片は、心臓、膵臓、肝臓、肺、腎臓、皮膚またはその他の体の部分から選択される臓器の移植片の細胞であってもよい。また移植は、中枢神経および末梢神経を含む神経系の再生にも使用できる。
【0067】
一実施態様によれば、3人の患者サンプルから得られた2ヶ月より長い期間継代させた羊水細胞から、多数のCD117細胞が得られた。これらの細胞は、神経および脂肪組識に分化することができた。さらに、適切な培地(例えば羊水増殖培地(AFM))中でのヒト皮膚線維芽細胞の培養の長期培養もまた、多数のCD117細胞が得られた。その他の適切な培地も本明細書に記載された教示に従って使用できる可能性がある。その他の培地の例としては、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640、F−12、IMDM、アルファ培地、および、マッコイ培地が挙げられ、これらは、本明細書に記載の教示に従って当業者によって改変することができる。
【0068】
羊水由来のヒト幹細胞は、3種の胚葉のいずれかの細胞に分化する。結果がすぐわかる試験で、様々な年齢群の凍結ヒト皮膚線維芽細胞中の細胞を含む多分化能性細胞を用い、これを、適切な培養条件(例えば本明細書において説明されているような条件)下で成長させた。羊水(7回継代)、出生前の細胞(10回継代)、3日齢(9回継代)、11歳(9回継代)、37歳(10回継代)および96歳(8回継代)のヒトから採取した正常な細胞を、市販の供給源(例えば、コーリエル・セル・レポジトリー、ニュージャージー州キャムデン)から得た。増殖させたこれらの細胞系は、少なくとも1回の継代培養の後に線維芽細胞様の形態を示した。線維芽細胞系は、生検から得られた未分化の外胚葉細胞を生長させることによって確立してもよいし、または、提出者が線維芽細胞系と同定してもよい。線維芽細胞系の細胞形態学的特長は、培養条件や培養物の年齢または細胞系の年齢によってある程度異なると予想されるが、一般的には、線維芽細胞の形態学的特長は、紡錘状(双極)または星状(多極)であり;通常は、接触が制限された培養物中において、密集した状態で平行に並んで配置されている。これらの細胞は移動性を有しており、核の直径の3倍を超える、またはそれより長く進むことができる。
【0069】
初期の実験によれば、8回またはそれより多く継代させた羊水細胞は造血幹細胞マーカーCD117に対して高い陽性を示し、神経および脂肪に分化することが示されたことから、羊水中での線維芽細胞培養物の継代の回数を上記で示したように選択した。貯蔵用培養物を15%FBSを含むイーグル最小必須培地(MEM)中に受け取り、それを、α−MEM、チャングBおよびC、ならびに15%ES−FBSを含む羊水増殖培地(AFM)に移した(De Coppi等(2007)を参照)。初期のCD117数は、以下の通りであった:羊水(81%)、出生前の細胞(79%)、3日齢(46%)、11歳(47%)、37歳(23%)、および、96歳(0.5%)。AFM中で3回継代した後、全ての培養物は85%を超えるCD117を含んでいた。続いて全ての培養物が、脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞および神経細胞の形態および染色の特徴を有する細胞に分化した。また貯蔵所からの未分化した細胞も、核の幹細胞マーカーNANOGに対して85%を超える陽性を示した。上記のデータから、線維芽細胞培養物には、インビトロで分化可能な多数の細胞が含まれていることが示される。従って、これらの多分化能性細胞は、インビボでの遺伝子および/または自己由来細胞を用いた治療の供給源として有用であり、さらに、細胞分化を研究するためのモデル系にも使用でき、例えば、本発明(本明細書において開示されたような方法、培地、細胞、培養物、バッチ、バンク、収集物および様々な増殖因子を含む)は、細胞分化における、および、その最中のインビトロでの遺伝子経路およびそれらの影響を評価するためのモデル系として使用できる。
【0070】
本発明は、例えば分化のプロセス、分化した細胞の分子レベルの特徴付け、分化中の分子レベルの変化、多分化能性細胞の増殖を強化する培地/因子、線維芽細胞サンプルの細胞の多分化能の程度、および、移植または移植における分化した細胞の挙動などの幹細胞実験において、ツールおよび/または材料として用いることができる、多分化能幹細胞に関する方法およびバンクを提供する。本発明はまた、インビトロでの分化した線維芽細胞の培養を研究するためのモデル系におけるツールおよび/または材料として用いることができる多分化能幹細胞の方法およびバンク、ならびに、免疫学的に適合する多分化能性細胞としてのそれらの治療のための使用を提供する。しかしながらこのような調査および研究は、本発明の実施に必須ではない。
【0071】
定義およびその他の実施態様
用語「幹細胞」は、一般的に、インビボまたはエクスビボのいずれかで大規模な増殖が可能なあり、さらにその他の細胞型に分化することができる未分化した細胞を意味する。
【0072】
哺乳動物の胚以外の源から単離した幹細胞である非胚性幹細胞が単離されており、これらの細胞うちいくつかが多分化能を有することが見出されている。非胚細胞は、例えば骨髄、臍帯血(乳児が生まれたときにその臍帯から誘導された)および羊水中で見出されている。様々な報告において、非胚細胞は「成人」の幹細胞として言及されることが多いが、そのうちいくつかの報告は、出生後の幹細胞のなかでも、子供から誘導された細胞と、発生上より成熟した成人から誘導された細胞との間に差がある可能性があることを示唆している。例えば、2〜5ミリリットルの羊水に、1ミリリットルあたりおよそ1〜2×10個の生きた細胞が含まれることが報告されている。
【0073】
本明細書で述べられている「線維芽細胞サンプル」は、線維芽細胞およびその他の細胞型を含み、このようなものとしては、幹細胞およびその他の細胞、および/または、多分化能を有する、または、多分化能を有するようになるそれらの後代が挙げられる。サンプルは、例えば中空の針を用いることによって得ることができる。
【0074】
「多分化能」細胞は、一般的に、内胚葉、外胚葉または中胚葉由来の細胞型のうち少なくとも1種が形成されるように分化できる細胞である。用語「多能性細胞」は、一般的に、実質的に全ての細胞型に分化できる細胞を意味する。
【0075】
本明細書で用いられる用語「多分化能幹細胞」は、それ自身が最後まで分化していない(すなわち、分化経路の最後まで分化していない;無制限に、または、少なくとも細胞の寿命中に分裂することができる)細胞を意味し、このような細胞が分裂すると、それぞれの娘細胞はそのまま多分化能幹細胞として存在する可能性もあるし、または、3種の胚葉のいずれかの細胞への最終的な分化に不可逆的に導く経路に進む可能性もある。本明細書で用いられる「多分化能幹細胞」は胚性幹細胞を意味するのではなく、本明細書で考察されるような非胚性幹細胞を意味する。
【0076】
用語「収集物(コレクション)」は、一つにグループ化された、または全体で一つとみなされる複数のものを意味する。本明細書で述べられる細胞の収集物は、当業界で認識されている通り、培養物、細胞の懸濁液、分化した細胞、多分化能幹細胞、多能性細胞、上記胚葉のいずれかの細胞の収集物、分化した細胞単離物または未分化した細胞収集物などを意味する。
【0077】
本発明の実施態様によれば、ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞は、羊水増殖培地(AFM)中で、またはその他のあらゆる適切な培養培地中で繰り返し継代する間に、適切な条件下での増殖が可能である。ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の増殖させた多分化能幹細胞は、望ましい胚葉の様々な細胞に分化できる。
【0078】
本明細書で用いられる用語「継代」は、細胞培養に関して、1つの培養物から複数の細胞を分取し別の容器に入れ、新しい細胞培養を始めることを意味する。典型的には、継代は、例えば、所定数の細胞を、1つの容器中の1つの培養物から分取し別の容器中の新しい培地に入れることを含む。また用語「継代」は、1つの培養物の容器から他方への細胞の移動または継代培養も意味する。ただし一般的に、この用語は、細胞系の増殖が可能な細胞群を量産したものをさらに分割するという意味を含むとは限らない。従って、「継代数」は、培養物を継代培養した回数である。細胞培養の「継代」は、適切なサイズの培養容器および植え付け密度を選択することによってその実験室の都合に合わせることができ、例えば、当分野でよく知られているように1回/週または2回/週であってもよい。特定の細胞系が受けた操作数のトラックを維持するために、継代数は、継代培養が行われるごとに1つ増える。継代数を増やすことにおいて、一般的に、集団中に存在する具体的な細胞数は考慮されない。このような状況において、例えばヒト皮膚線維芽細胞培養物は、CD117細胞を増殖させるために羊水増殖培地(AFM)中で繰り返して継代される。
【0079】
その他のアプローチは集団倍加レベル(PDL)であり、これは、特定の細胞系の培養物の年齢を示す固有の尺度である。培養物中の非形質転換細胞系の寿命は限りがあり、この寿命は、達成可能な累積集団倍加数で示される。集団倍加レベルは、インビトロで細胞を最初に単離してから、集団中で細胞が倍加する回数の合計を意味する。PDLの計算式は、PDL=3.32(log(収集時の生存可能な細胞数の合計/植え付け時の生存可能な細胞数の合計))である。細胞系の「寿命」は、培養中の時間に対する累積PDLとしてプロットされる。継代培養は、細胞系が老化するまで行われる:すなわち、1回の継代培養から次の継代培養に移行する際にPDLの変化はない。
【0080】
本明細書で用いられる用語「可塑性」は、3種の異なる胚葉のいずれかの成熟細胞に分化できる前駆細胞として行動する多分化能幹細胞の能力を示す特徴を意味する。例えば、皮膚線維芽細胞サンプルにおける多分化能性細胞の「可塑性」は、増殖させて望ましいタイプの胚葉の細胞に分化する能力、例えば脂肪組織、肝臓組織、筋肉組織または神経組織に分化する細胞の能力を意味する。
【0081】
本明細書で用いられる用語「移植片」は、体の一部、臓器、組織または細胞を意味する。臓器としては、肝臓、腎臓、膵臓、心臓、皮膚および肺が挙げられる。また、その他の体の部分、例えば骨または骨格のマトリックス、組織、例えば皮膚、腸および内分泌腺も挙げられる。様々なタイプの先駆的な多分化能幹細胞または幹細胞前駆体は、全て移植に使用可能な細胞の例である。細胞および移植片は組織および臓器の再生、再構築、再増殖および交換に用いることができ、さらに、レシピエントにとって自己由来であってもよいし、または、レシピエントに適合する型のものであってもよい。
【0082】
例えば、生涯にわたり血液系全ての生産をまかなう造血幹細胞の能力は、幹細胞の可塑性、すなわち特定の血液系を生成する関連する先駆細胞の生産と、未分化状態での幹細胞の複製(自己再生)とのバランスをとることによって達成される。インビボで細胞の可塑性とそれらの自己再生とを調節するメカニズムを明らかにすることは困難であった。しかしながら、主な要因の一つは、細胞固有の作用と環境の作用との組み合わせである(Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92:10302−10306(1995))。
【0083】
数値および範囲に関する用語「約」または「およそ」は、本発明が目的通りに実施できる、例えば望ましいCD117細胞数もしくはパーセンテージ、または、AFM中で許容される持続時間もしくは継代数が達成されるように実施できるような、列挙された値または範囲に類似した、または近い値または範囲を意味し、これは当業者であれば本明細書に記載された教示から明白である。これは、少なくとも部分的には、培養条件が変動すること、および、生物系が変化しやすいことによるものである。従って、これらの用語は、系統的誤差から生じた値から逸脱した値を包含する。これらの用語は、包含されている値を明確に示すものである。
【0084】
本明細書において本発明の要約および説明中に記載された全ての範囲は、その範囲の数値の周辺またはそれらの間の全ての数または値を含む。本発明の範囲は、明確に単位名が付く数値であり、範囲に含まれる全ての整数、小数および分数の値を明確に示すものである。用語「約」は、範囲を説明するために用いることができる。
【0085】
上記で説明した各組成物とそれに付随する形態、および、各方法とそれに付随する形態は、本明細書に記載された教示と一致するように他のものと組み合わせることができる。本発明の実施態様によれば、各方法における全ての方法および工程は、どのような順番で適用してもよく、本明細書に記載された教示と一致するように何度も繰り返してもよい。
【0086】
以下の実施例で本発明をさらに説明するが、これは、どのような形でも本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0087】
バックアップ用培養物での羊水の試験:3人の患者からのバックアップ用羊水培養物を、UMDNJ−ニュージャージー・メディカルスクール(New Jersey Medial School)から入手した。3人の患者は全て、正常なGバンド核型を有する胎児を有していた。これらのサンプルを、1%Pen/Strep、15%FBSおよびチャング培地(R)AおよびB(アーバイン・サイエンティフィック)を含むα−MEM中に受け入れた。受け入れた後、細胞を、18%チャング培地(R)B(アーバイン・サイエンティフィック)、および、2%チャング培地(R)C(アーバイン・サイエンティフィック)が補充された、α−MEM(インビトロジェン(Invitrogen))、15%ES−FBS(インビトロジェン)、1%L−グルタミン、および、1%Pen/Strepを含む羊水増殖培地(AFM)中に入れた(De Coppi等(2007)で説明された通り)。培養物を、37℃、5%CO雰囲気下で維持した。細胞が半密集状態に達したら、それらを毎週少なくとも1回継代した。合計で75日間培養した後、CD117細胞のパーセンテージを、CD117に対するフィコエリトリン(PE)標識モノクローナル抗体(ミルテニーバイオテク(Miltenyi Biotec),カリフォルニア州オーバーン)を用いて試験した。幹細胞を標的の細胞型に分化させるための様々な技術および培地は、当業界でよく知られている(例えば、De Coppi et al.(2007);Crigler et al.(FASEB J.21(9):2050-2063(2007);Chen,et al.J Cell Sci.120:2875−2883,(2007);および、Lysy,et al.Hepatology.46(5):1574−1585,(2007)を参照)。続いてこれらのCD117細胞を、以下で説明する方法に従って脂肪生成および神経組織に分化させた:
皮膚由来の線維芽細胞の試験:様々な年齢群の羊水および皮膚から誘導されたヒト線維芽細胞の培養を、コーリエル・セル・レポジトリー(ニュージャージー州キャムデン)から得た。皮膚由来線維芽細胞培養物を、最初にイーグルBSSおよび15〜20%FBSを含むイーグルMEM中で成長させた。入手時に、各サンプル中のCD117細胞のパーセンテージを記録した。続いて全てのサンプルをAFMに移した。各サンプルでCD117数が>85%を超えたら、それらを以下の分化のための培養条件下に置いた。表1に、入手時および分化開始時の年齢群および継代数を示す。
【0088】
【表1】

【0089】
脂肪生成細胞:細胞を、チャンバースライド(ヌンク(Nunc))上に3,000細胞/cmの密度で植え付けた。これらを、10%FBS(インビトロジェン)、1%Pen/Strep、および、以下の脂肪生成補充物質:1μMデキサメタゾン(シグマ−アルドリッチ)、1mMの3−イソブチル−1−メチルキサンチン(シグマ−アルドリッチ)、10μg/mlインスリン(シグマ・アルドリッチ)、および、60μMインドメタシン(シグマ−アルドリッチ)を含むDMEM低グルコース培地(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))中で培養した。細胞を、脂肪生成分化培地中で20日間まで維持した。
【0090】
肝細胞:細胞を、マトリゲル(Matrigel)(シグマ−アルドリッチ)で被覆したチャンバースライド上に5,000細胞/cmの密度で植え付けた。まず細胞をAFM中で3日間増殖させ、続いて15%FBS、300μMモノチオグリセロール(シグマ−アルドリッチ)、20ng/ml肝細胞増殖因子(シグマ−アルドリッチ)、10ng/mlオンコスタチンM(シグマ−アルドリッチ)、10−7Mデキサメタゾン(シグマ−アルドリッチ)、100ng/mlFGF4(ペプロテック)、1×ITS(インビトロジェン)、および、1%Pen/Strepを含むDMEM低グルコース培地を含む肝細胞分化培地中に置いた。細胞をこの分化培地中で17日維持し、その間培地を3日毎に交換した。
【0091】
筋原細胞:細胞を、マトリゲルで被覆したチャンバースライド上に3,000細胞/cmの密度で植え付け、10%ウマ血清(インビトロジェン)、0.5%ニワトリ胚抽出物、および、1%Pen/Strepを含むDMEM低グルコース培地中で成長させた。植え付けてから12時間後、3μM5−アザ−2’−デオキシシトジン(5−アザC;シグマ−アルドリッチ)を培地に添加して24時間経過させた。5−アザCを含まない完全培地中でインキュベートを続け、その間、培地を3日毎に交換した。細胞を、筋原細胞の分化培地中で20日間まで維持した。
【0092】
神経細胞−方法1:チャンバースライド上に3,000細胞/cmの濃度で細胞を植え付け、2%DMSO、200μMBHA(シグマ−アルドリッチ)、25ng/mlNGF(インビトロジェン)、および、1%Pen/Strepを含むDMEM低グルコース培地中で培養した。2日後に、DMSOおよびBHAを含まないが、NGFを含むAFMに細胞を戻した。2日毎に新しいNGFを添加して、6日間で最終培地濃度を25ng/mlにした。続いて細胞をトリプシン処理し、1μg/mlフィブロネクチンで被覆したチャンバースライドに移し、25ng/mlNGFを含むAFM中で一晩成長させた。一晩インキュベートした後、培地をN2(インビトロジェン)、および、10ng/mlbのFGF(インビトロジェン)が補充されたDMEM/F12(インビトロジェン)に8日間変更した。一日おきに新しいbFGFを添加した。
【0093】
神経細胞−方法2:チャンバースライドまたはマイクロアレイ試験用のヌンク製6ウェルペトリ皿のいずれかの上に3,000細胞/cmの濃度で細胞を植え付けた。これらの細胞を、200μMのBHA(シグマ−アルドリッチ)、N2(インビトロジェン)、25ng/mlNGF(インビトロジェン)、10ng/mlbのFGF(インビトロジェン)15%ES−FBS、1%Pen/Strep、および、1%L−グルタミンが補充されたDMEM/F12培地(インビトロジェン)中で培養した。培養物に、追加の25ng/mlのNGF、および、10ng/mlのbFGFを2日毎に添加した。6または7日後、培養物を試験し、神経の形態に関して撮影するか、または、マイクロアレイ解析のために収集した。この神経細胞−方法2で用いられた培地を神経細胞−2と称するが、これはDMSOを含まない。実験の第二群を上記の培地(ただしBHAを含まない)を用いて構築した。
【0094】
CD117免疫蛍光染色:単層培養から培地を除去し、細胞をHBSSで洗浄した。続いて細胞をトリプシン処理し、血球計算器を用いて数えた。10個以下の細胞を含むアリコートを採取し、ミルテニーバイオテク(カリフォルニア州オーバーン)から提供されたキットを用いたCD117染色に使用した。製造元によって提供されたプロトコールに従って免疫蛍光染色を行った。簡単に言えば、10個の細胞を、提供された緩衝液(PBS、0.5%BSAおよび2mMのEDTA)80μlに再懸濁した。20μlのFcRブロック試薬を添加し、続いて10μlのフィコエリトリン(PE)結合CD117mAbを添加し、4℃、暗所で10分間インキュベートした。続いて細胞を1mlの緩衝液で洗浄し、300×gで10分間遠心分離した。細胞ペレットを1ml緩衝液に再懸濁し、続いて細胞の計数を、位相差および蛍光顕微鏡(励起フィルター450〜490nm、FT510二色鏡、バリアフィルターLP530)が備えられたツァイス(Zeiss)製の顕微鏡を用いて行った。まず40倍の対物レンズを用いて位相コントラスト下に細胞を置き、フィールド内の細胞を計数し、続いて蛍光顕微鏡切り換えて蛍光を発したフィールド内の番号を記録することによって細胞の計数を行った。各継代ごとに少なくとも1サンプルあたり200個の細胞について記録し、低い強度と高い強度両方の蛍光細胞を陽性として記録した。同様に、1サンプルあたり400個またはそれより多くの細胞を計数することによって核の幹細胞マーカーNANOGをスコア付けした。
【0095】
組織染色:細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒド中で固定した。脂肪生成細胞は、オイルレッドO(シグマ−アルドリッチ)で染色し、筋肉細胞および肝細胞は、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)で染色した。
【0096】
免疫蛍光法:細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒド中で固定した、PBS中の0.25%トリトン(Triton)X−100(PBST)で10分間処理して浸透性にし、PBST中の1%BSAで4℃で30分間ブロックした。続いて細胞を、PBSTの1%BSA溶液で希釈した一次抗体(1μg/ml)で4℃で一晩インキュベートし、洗浄し、続いて相補的な二次抗体(10μg/ml)と共に室温で1時間インキュベートした。続いて細胞を洗浄し、ベクタシールド(Vectashield)(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories))を用いてマウントした。抗ヒトレプチンをペプロテックから得て、ネスチン、ニューロフィラメント−M(NFM)、CK18、デスミンおよびNANOGを、アブカム(Abcam)から得た。ベクター・ラボラトリーズとアブカムから、いずれも抗IgGFITC結合型の二次抗体を得た。
【0097】
バックアップ用羊水培養物:バックアップ用羊水培養物由来のCD117細胞のパーセンテージは、AFM中で2ヶ月にわたり継代した後に大幅に増加した。脂肪細胞および神経細胞へ分化する際に、CD117細胞のパーセンテージは50%より大きかく、患者Aは90%を超えるCD117細胞を有していた。注目すべきことに、3人の患者由来の細胞全てが、脂肪組織または神経組織のいずれかに分化することができた。3人の患者サンプルから分化した脂肪細胞では形態学的な差は観察されなかったが(図1,aを参照)、成熟神経細胞型ではいくつかの異なる形態が記録された(図1,b〜dを参照)。患者AおよびCは、多くのピラミッド型、単極、双極および多極の細胞を示したが、一方で、患者Bは、双極および単極の成熟細胞を低い割合でしか生じず、ネスチン陽性だが成熟した神経細胞様の形態を示さない細胞の大集団を生じた(表2を参照)。
【0098】
【表2】

【0099】
ヒト皮膚由来の線維芽細胞の分化した細胞培養到着の1日後、各サンプルからのアリコートを免疫蛍光顕微鏡法用に加工して、CD117細胞数を記録した(図2a,bを参照)。初期のCD117細胞の計数は以下の通りである:羊水(81%)、出生前の細胞(79%)、3日齢(46%)、11歳(47%)、37歳(23%)、および、96歳(0.5%)。AFM中で3回継代した後、全てのサンプルにおいてCD117細胞は増加して85%を超えた。また初期の線維芽細胞も核の幹細胞マーカーNANOGで染色したところ(図2c,dを参照)、このマーカーに関して各サンプルからの細胞の85%より多くが陽性であった。この時点で、脂肪組織、肝臓組織、筋肉組織および神経組織への分化を試験した。
【0100】
図3は、これらの患者の細胞の分化に関する評価項目を説明しており、各患者からの微分干渉コントラスト(DIC)の図、ならびに分化した脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞および神経細胞の外観を示す。各年齢サンプルから得られた各組織型の分化した細胞がかなり均一であることが観察された。全ての脂肪のサンプルで顆粒状の小胞の外観が記録された。肝細胞は多角形であり、さらに各細胞内に多数の顆粒状の小胞も含んでいた。分化した筋肉細胞は線維状の構造を含んでおり、多核細胞の外観も記録された。
【0101】
図4は、96歳のコーカソイド男性由来の細胞に行われた様々な染色方法を用いた結果を示す。この年齢サンプルで見られる染色パターンは実質的にその他の年齢群で見られるパターンと同じであった。神経細胞は、ネスチンおよびNFMに関して陽性であった。脂肪細胞は、オイルレッドOを用いたところ脂質の蓄積を示し、レプチンに関して顆粒状の構造が陽性であった。肝細胞は、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色を用いたところ典型的な形態を示し、肝臓のマーカーCK18に関しても陽性であった。また筋肉細胞も典型的なH&E染色の外観を有しており、筋肉マーカーのデスミンに関しても陽性であった。
【0102】
図5は、神経様の細胞形態を有する細胞に分化している線維芽細胞に神経細胞−方法2を用いた結果を示す。この方法において、DMSOは体内の細胞骨格成分を崩壊させることから、神経細胞様の形態を有する細胞の形成に関与しているために、DMSOは用いなかった。この図において、同じ患者サンプル由来の線維芽細胞を同じ細胞密度で6ウェルペトリ皿に植え付け、培養6日後に観察した。1つのウェルで、細胞をAFM中で成長させ、隣接するウェルで、これらを神経細胞−方法2で配合された、BHA、N2、ES−FCS−Pen/Strep、L−グルタミン、NGFおよびbFGFが補充されたDMEM/F−12培地を含む培地中で成長させた。その他の隣接するウェルで、細胞を、この神経細胞−2培地(ただしBHAを含まない)中で成長させた。図5で見られるように、AMF中で成長させた細胞は6日後に最大の密集度に達し、全く増殖因子が添加されていない未分化線維芽細胞培養物に予想されていた通りの様相を呈した(図5a)。上記全ての補充物質を含む神経細胞−2培地中で成長させた細胞は、培養6日後に異なる形態を示し、すなわち神経細胞様の外観を有していた(図5b、および、5c)。これらの培養物は、細胞質内の伸長部分が極めて長い細胞を示し、そのうちいくつかにおいてその長さが数百マイクロメーターにも達しており、これは、軸索および神経の樹状突起の伸長で観察されるような形態学的な構造である。BHAを含まない神経細胞−2培地中で成長させた細胞は、6日目で極めて異なる形態を示し、すなわち星状細胞と類似した細胞、すなわちその他の神経様の細胞型(ただしニューロンではない)が見られた。
【0103】
星状細胞(また、まとめてアストログリア細胞としても知られている)は、脳および脊髄に特徴的な星形のグリア細胞である。これらは、例えば血液−脳関門を形成する内皮細胞の生化学的な支持体、神経組織への栄養素の供給などの多くの機能、加えて、外傷性の傷害後の脳および脊髄における再建および瘢痕化プロセスでの主要な役割を果たす。星状細胞は、刺激に応答して長い距離にわたる細胞間Ca2+波を伝播させる細胞と現在広く認識されており、ニューロンと同様に、Ca2+に依存して伝達物質(グリア伝達物質と呼ばれる)を放出する。
【0104】
マイクロアレイ試験および遺伝子発現プロファイリング
遺伝子発現プロファイリングを、アフィメトリックス(Affymetrix)製のジーンチップ(GENECHIP(R))(アフィメトリックス・ジーンチップ(Affymetrix GENECHIP(R))マイクロアレイテクノロジー)・ヒューマンジーン1.0STアレイ(Human Gene1.0ST Array)を用いて行った。このアレイは、764,885種の別個のプローブで28,869ウェルのアノテーションが付けられた転写物を調査する。キアゲン(Qiagen)製のRNイージー(RNeasy)ミニキットを用いて3回の独立した実験からRNAを単離した。アフィメトリックスの発現解析用全転写物(WT)のセンス鎖標的の標識付けプロトコール(Affymetrix Expression Analysis Whole Transcript(WT)Sense Target Labeling Protocol)を行った後に、RNAをcDNAに変換した。簡単に言えば、トータルRNA(300ng)を用いて第一鎖および第二鎖のcDNA合成を行った。インビトロでの転写反応によりcRNAを得て、続いてこれを第一鎖cDNAを生成するためのテンプレートとして用いた。cDNAを断片化し、末端をビオチンで標識した。ジーンチップ(R)ハイブリダイゼーションオーブン640を用いて、ビオチンで標識されたcDNAをヒューマンジーン1.0STアレイに対して45℃で16時間ハイブリダイズした。洗浄およびストレプトアビジン−フィコエリトリンでの染色を、ジーンチップ(R)フルイディクスステーション(Fluidics Station)450を用いて行った。アフィメトリックス・スキャナー30007Gプラス(Affymetrix Scanner 3000 7G Plus)を用いて画像を得た。
【0105】
パーテック・ゲノミック・スイート(Partek Genomic Suite)ソフトウェア(パーテック社(Partek Inc.),ミズーリ州セントルイス)を用いてアレイデータを解析した。このソフトウェアは、マイクロアレイデータの正規化および解析に関して最も一般的に使用される方法をサポートするものである。このソフトウェアは、高度に最適化された統計的手法、および、インタラクティブな2次元および3次元グラフィックスを提供し、さらに、広範囲のパラメトリックおよびノンパラメトリックな統計的手法、同様に、分類および予想のためのデータマイニングアルゴリズムを提供する。重要なことに、全ての結果のアノテーションは、例えばUCSCゲノム・ブラウザ(UCSC Genome Browser)、ジェンバンク(GenBank(R))、NCBI GEO、および、NetAffxTMのような公共のゲノムリソースへのリンクを用いれば可能である。
【0106】
まず、これらのデータを、遺伝子レベルの強度のためのRMAアルゴリズム(25,26l)を用いた分位数による正規化を用いて正規化した。明白なチップの異常値があるかどうかを決定するために、主要な要素の解析を行い実験の整合性をチェックした。サンプルと類似の発現パターンを有する遺伝子をグループ分けするために、サポートツリー(support tree)、階層的クラスタ分析、および、転写物のK平均によるサポートクラスター形成を行った。各タイムポイントで、それらの初期の開始時のプロファイルと比較してアップまたはダウンレギュレーションされた有意な遺伝子を見出すために、対応のあるt検定を行った。そのデータを、適切な場合、ベンジャミニ−ホックバーグ(Benjamini−Hochberg)の方法を用いて、複数回の試験および誤りの発見率に関して補正した。ファンクショナルアノテーション、経路および相互作用を、インジェヌイティー・パスウェイ・アナリシス(Ingenuity Pathway Analysis)(IPA)を用いて試験した。インジェヌイティー・パスウェイ・ナレッジ・ベース(Ingenuity Pathways Knowledge Base)を利用することによって、ファンクショナルアノテーション、キュレートしたパスウェイおよび相互作用を試験することができ、同様に、文献からの関連を同定し、パスウェイモデルを構築して分化をもたらす現象の順序を試験することができる。
【0107】
マイクロアレイの結果
脂肪細胞(表3)、筋肉細胞(表3)、肝細胞(表4)および神経細胞(表4)に関するマイクロアレイ実験の結果を表形式で示す。基本的には、これらの表はそれぞれ、ある種の27,000種の遺伝子に関するマイクロアレイを用いて解析された組織中でアップまたはダウンレギュレーションのいずれかがなされた遺伝子を含むスプレッドシートを示す。表示されたデータは、未分化のコントロール細胞とは異なる遺伝子群だけを示す(表3および4を参照)。少なくとも2倍のアップまたはダウンレギュレーション(2倍の差)の応答を示した遺伝子を同定した。これらの結果を3種の組織に関して示す:
1)異なる遺伝子が、異なる形態学的なタイプでアップまたはダウンレギュレーションされることが見出されている。これらの遺伝子セットはそれぞれはっきり識別することができ、未分化した細胞とは異なっている。
【0108】
2)各年齢群からの細胞は、分化する際に、サンプル供給源、胎芽由来かまたは年配のヒト由来かどうかに関係なく同じような挙動を示し、さらに、これらが分化経路に進んだ際に、これらは同じように反応し、同じ遺伝子の発現をオンまたはオフしたようであった。細胞を本明細書において説明した条件下で成長させた。細胞を成長させるのに用いた条件および工程は、医薬開発および/または将来的な分化研究のためのこれらの様々な遺伝子経路の研究に有用なモデル系として用いることができる。
【0109】
3)表3および4に記録したような、各遺伝子が何に関与しているかについての各遺伝子に関する情報は、表の最後に表示された公共のドメインデータベースを参照することにより得ることができる。
【0110】
4)生物学的に言えば、構造と機能とは関連している。遺伝子発現の変化により形態学的な変化が生じることが観察されている。組織型の官能性を得ることにおいて重要なその他の遺伝子経路が存在する可能性があり、恐らくそのようなものが存在すると思われる。
【0111】
5)神経細胞分化のためのDMSOを含むDiCopi培地(神経細胞−1)を用いたところ、顕微鏡観察では神経様の細胞を示したが、マイクロアレイ解析では、未分化した細胞と分化した細胞との比較において遺伝子発現の差を大して示さなかった。しかしながら、DMSOを含まず、フィブロネクチンで被覆したスライドを用いない神経細胞−2培地を使用したところ、神経細胞の形態を有する細胞への分化を示し(図5bおよび5cを参照)、同様に、相当数のアップおよびダウンレギュレーションされた遺伝子を示し、その発現レベルは、分化した細胞と未分化した細胞とを比較して2倍またはそれ以上異なっていた(表4を参照)。
【0112】
多分化能幹細胞バンク
本発明は、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルを用いた培養物を提供するものであり、このような培養物は、数回継代させるのに適した培地中で、例えば羊水培地(AFM)中で多分化能幹細胞を増殖させることによって増殖させると、大量のCD117細胞を生じる。これらの細胞はさらに3種の胚葉のいずれかの細胞に分化することができ、例えばこの細胞は、脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞および神経細胞型に分化した細胞であり得る。このような分化した細胞は、望ましい組織および臓器の再生に用いることができる。例えば、細胞は、組織再生のため、さらには組織/臓器の移植、交換または補充として使用するために、増殖させた多分化能幹細胞に基づく自己細胞による治療に用いることができる。望ましい組織または臓器への再生に多分化能幹細胞を利用しやすくするために、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルから誘導された多分化能幹細胞から多分化能幹細胞バンクを作製することができる。細胞バンクのためのヒト皮膚線維芽細胞サンプル由来の多分化能幹細胞は、ヒト皮膚組織生検から線維芽細胞サンプルを収集する様々な方法により得ることができる。
【0113】
皮膚組織生検サンプルは、あらゆるヒトの皮膚層から得ることができ、例えば内胚葉、外胚葉または中胚葉から得ることができる。例えば、皮膚サンプルは、皮膚層に中空の軸状のものを通すことによってヒト皮膚のより深い層から収集することができ、それにより所定量の皮膚線維芽細胞およびその他の細胞を含むサンプルを得ることができる(例えば、左上腕の中央の面の3mmのパンチ生検から得られた線維芽細胞サンプル、米国特許公報第20040071749号を参照)。
【0114】
組織の生検サンプルを収集した後、組織生検中に存在する組織特異的な先駆的な多分化能幹細胞の単離、増殖および/または選択的な増殖における初期の工程は、組織生検を培養することを含む。このような組織生検は、組織サンプル中の細胞の層を解離させることができる物理的および/または化学的な解離手段で処理することができる。組織内の細胞の層を解離させる方法は当分野においてよく知られている。例えば、解離手段は、物理的に壊す手段、および/または、化学的に壊す手段のいずれかであり得る。物理的な解離手段は、例えば、メスで組織生検を剥がすこと、組織を細かく切り刻むこと、層を物理的に切り離すこと、または、組織を酵素で覆うことを含んでいてもよい。化学的な解離手段は、例えば、トリプシン、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン−EDTA、サーモリシン、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、パパイン、および、パンクレアチンのような酵素で消化することを含んでいてもよい。また、組織を解離させるための酵素を含まない溶液を用いてもよい。
【0115】
組織生検の解離は、組織生検中で細胞の層を解離させるのに十分な量のトリプシンを含む予め温めた酵素溶液中に組織生検を置くことによって達成できる。この方法で用いられる酵素溶液は、好ましくは、カルシウムおよびマグネシウムを含まないものである。ヒト皮膚(上皮および皮膚細胞を含む)から誘導された組織生検は、一般的に、トリプシンを溶液の体積当たり好ましくは約5〜0.1%の量で含む溶液で5〜60分間処理される。より好ましくは、溶液のトリプシン濃度は、15〜20分間の場合は約2.5〜0.25%である。
【0116】
組織をトリプシン溶液に適度な時間浸漬した後、解離した細胞を取り出し、適切な培地に懸濁した。動物由来の組織を培養するためにある培養培地が多数ある。培地の例としては、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640、F−12、IMDM、アルファ培地、および、マッコイ培地が挙げられる。例えば、サンプルを初代培養用に処理するためには、サンプルは、コラゲナーゼで処理される。線維芽細胞サンプルを含むコラゲナーゼ処理サンプルはさらに、遠心分離機で300gで15分間精製され、得られたペレットをイーグル最小必須培地(MEM)で少なくとも2回洗浄し、血液と死細胞片を除去する。
【0117】
細胞を、37℃で、5%CO/95%空気の環境で、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリン、および、100mg/mlストレプトマイシンが補充されたイーグルMEM中で成長させた。密集状態に達した後、細胞を、Ca2+またはMg2+が添加されていないMEM中の0.25%トリプシンと共に二次培養した。
【0118】
単離した線維芽細胞の培養を、18%チャング培地(R)B(アーバイン・サイエンティフィック)、および、2%チャング培地(R)C(アーバイン・サイエンティフィック)が補充されたα−MEM(インビトロジェン)、15%ES−FBS(インビトロジェン)、1%L−グルタミン、および、1%Pen/Strepを含むヒト羊水培地(AFM)中で成長させた。培養物を、37℃、5%CO雰囲気下で維持した。細胞が半密集状態に達したら、それらを毎週少なくとも1回継代した。合計で75日間培養した後、CD117細胞のパーセンテージを、CD117に対するPE標識モノクローナル抗体(ミルテニーバイオテク,カリフォルニア州オーバーン)を用いて試験した。この段階で、ヒト多分化能幹細胞の形態学的に均一な集団を得ることができた。これらの多分化能幹細胞を、加湿した雰囲気中で、インキュベーター中で、5%CO下、37℃で維持し、その後これをヒト多分化能幹細胞のバンク中で保存し、適切な条件下で、例えば凍結保存で保存した。
【0119】
これらのバンクからのCD117ヒト多分化能幹細胞は、本明細書において開示された培地および技術に従って、または、幹細胞を標的の細胞型に分化させるための当業界でよく知られている方法のいずれかによって、さらに望ましい細胞型のいずれかの細胞に分化させることができる。従って、本発明によって、自己移植および型が適合した移植、再生、ならびに再増殖が広範囲で可能になる。
【0120】
多くの報告によれば、成熟した動物の哺乳動物の皮膚は、様々な成熟した細胞型に分化する能力を有する細胞を少数しか含まないことが示されている。これらの多分化能性細胞は、毛包および/または皮膚の真皮中に存在している可能性が高い。その他の報告によれば、羊水は、多分化能幹細胞源であることが示されているが、一方でさらにその他の報告によれば、レトロウイルスを用いて線維芽細胞に特異的な遺伝子を導入することによって、このような細胞を多分化能性幹細胞に再プログラムできることが示されている。本発明は、幹細胞を単離するための用途が異なる選択手法を提供し、さらに本発明は、細胞を再プログラムすることことなく分化を可能にするために、様々な方法でそれらを操作する方法を提供する。例えば、DeCoppi等(2007)では、バックアップ用羊水培養物からCD117細胞を単離するために抗CD117で被覆したマイクロビーズが用いられており、さらに、分化試験のためにこのような細胞が用いられている。
【0121】
本発明の一実施態様によれば、バックアップ用羊水穿刺サンプルからCD117細胞を選択するためにマイクロビーズを直に用いる代わりに、細胞を、長期間、好ましくは2ヶ月より長く培養した。この期間の最後に、本発明に従って、各患者サンプル中のCD117細胞の数は大きく増加した。本発明によれば、適切な分化培地中に置かれた場合、継代した羊水細胞は、神経および脂肪組識に分化できることが見出された。
【0122】
開示された様々な実施態様において、数回継代するための培養においてヒト線維芽細胞培養物が適切に補充がなされた増殖培地中に留まることができる場合、このようなヒト線維芽細胞培養物は、幹細胞関連の表面マーカーおよび核マーカー(それぞれCD117およびNANOG)を有する細胞を膨大な数で含むことが示される。これらの細胞はさらに、このような分化した細胞型に形態学的に類似した脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞および神経細胞に分化することができる。
【0123】
本発明によれば、免疫学的なマイクロビーズまたはフローサイトメトリー方法を用いた初期の選択は必須ではないため、これらの細胞は、どのようなレトロウイルスにも晒されることはない。
【0124】
また本発明の方法には、これらの細胞を外因性遺伝子またはウイルス(例えば、レトロウイルス、ヒト遺伝子または同種のものを含むレトロウイルスのコンストラクト)を用いて再プログラムすることも含まれず、その代わりに、本方法は、一般的に、2工程を含む。そのうち第一の工程は、培養物中のCD117細胞の数を増やす工程であり、第二の工程は、適切な培養条件下で様々な細胞型に分化することができる細胞を選択する工程である。
【0125】
一実施態様によれば、観察された多末端形の細胞は、成長のための特殊な供給層をまったく必要としなかった。このような細胞は単分子層として成長したため、分化試験に用いられる標準培地に簡単に移すことができた。多分化能性細胞は、様々な年齢に由来する凍結線維芽細胞培養物から容易に得られた。異なる年齢サンプル間でいくつかの細胞の異なる形態が観察されたが、分化した細胞は、形態学的な外観、ならびに脂肪組織、肝臓組織、筋肉組織および神経組織の染色特徴に一致する4種の明確に異なる細胞型を示した。
【0126】
これまで、試験時に記録された継代数で線維芽細胞サンプル中にCD117細胞が存在することは観察されなかったことである。MiettinenおよびLasota(Appl Immunohistochem Mol Morphol.13(3):205−220,2005を参照)によれば、線維芽細胞サンプルは、CD117染色法のための優れたネガティブコントロールであることが報告されている。また、特にポリクローナル抗血清を用いた場合に広く一般的に認識されている問題は、染色の変化しやすさと低い再現性であるが、それにより有意なデータの不均質性がもたらされることも報告されている。本発明によれば、CD117の染色および計数の手順は、同じPE標識モノクローナルCD117抗体、同じ希釈剤、および同じ蛍光顕微鏡を用いた場合と一致することが確認された。全ての初期の培養物中の多様な陽性CD117細胞において、より高い年齢のサンプルで観察されるCD117よりも、羊水および出生前の細胞の培養中のCD117がかなり多いことが観察された。また、AFM中で複数回(1回より多く、好ましくは少なくとも3回)継代させた後、全ての年齢のサンプルは、85%を超えるCD117陽性細胞を有していたことも観察された。この発見は、MiettenおよびLasota(2005)によって述べられた要因に加えて、その他の要因、例えば試料の年齢、培養物の継代数、細胞を成長させる培養条件、さらに場合によっては最初に患者から得て凍結させたアンプルの細胞の構成でさえも、線維芽細胞の培養で観察されたCD117細胞の数に影響を与える可能性があるとの結論を裏付けるものであった。
【0127】
注目すべきことに、この試験で用いられた蛍光顕微鏡は、励起に関して広い範囲(450〜490nm)を有し、530nmまたはそれより大きい波長の放出を落射蛍光として観察することが可能である。これらのパラメーターにより、PE結合CD117細胞の測定値(典型的な488nmでのピーク励起、および、575nmでの発光)を得ることができるが、一方で、CD117の作用によって引き起こされる細胞の活性化のために、または、密集度のような、線維芽細胞の培養中に自発的に蛍光する可能性があるその他の要因のために、自ら蛍光を発する可能性があるPEで染色されていない分子を非特異的に励起させる可能性もある。
【0128】
7回目の継代で、貯蔵所から入手した羊水サンプル中に81%のCD117細胞が存在するという発見により、この継代数で羊水培養物中に多数のCD117細胞を見出すことができるという本発明の発見がさらに確認された。
【0129】
また、全ての時間経過したサンプルに関して、85%を超えるCD117陽性細胞を得るのに、貯蔵所から到着した後にAFM中でほんの数回の継代しか要しなかったことも特に興味深い。この迅速な変化のために、CD117細胞の大幅な増加が観察される第一の工程は、CD117表面マーカーに関する遺伝子が活性化される工程のように見える。CD117遺伝子をアップレギュレートしてCD117マーカーの表面発現を増加させるように作用し、それらの増殖および分化能力を高めるAFM中のある因子または複数の因子が存在するものと考えられる。
【0130】
線維芽細胞は、CD117のリガンドである幹細胞因子(SCF)を生産することがわかっている。CD117は、膜透過性III受容体チロシンキナーゼである。SCFがCD117受容体と結合したら、リン酸化カスケードが活性化され、それから順に異なる細胞で、アポトーシス、細胞分化、増殖、走化性および細胞接着などの細胞活性を調節する(Miettinen,M.,Lasota,J.(2005))。従って、進行中の培養物の継代、または、AFMの使用、または、これら2種のある種の組み合わせにより、CD117遺伝子の遺伝学的な活性化をもたらすことが可能であり、それによりCD117タンパク質受容体を生産することができる。線維芽細胞がSCFを生産したら、続いて、培養物中で、細胞が、適切な培地中に置いた場合に異なる細胞型に分化する能力をもたらすリン酸化カスケードを開始させるような条件を構築する。
【0131】
3種の異なる胚葉の成熟細胞への「分化転換」が可能な前駆細胞として作用する成熟幹細胞の能力は、活発な調査がなされており、造血幹細胞(HSC)の研究は注目すべきものである。いくつかの報告では、HSCは、インビボでの適切な再構築条件下で、血液細胞だけでなく、筋肉細胞(骨格筋細胞と心筋細胞との両方)、脳細胞、肝細胞、皮膚細胞、肺細胞、腎細胞、腸細胞、および、膵臓細胞にも転換させることが可能であると主張されている(Regenerative Medicine.保健社会福祉省(Department of Health and Human Services).2006年8月.http://stemcells.nih.gov/info/scireport/2006reportを参照)。上記の研究について論争がないわけではないが、彼等は、成熟幹細胞で可能と思われる様々な細胞に対する広い「可塑性」があり、さらに、成熟幹細胞が置かれている条件および/または環境的な場が、観察される分化にとって重要であるという概念を支持している。しかしながら、本発明の調査より以前は、線維芽細胞由来の多分化能性細胞の「可塑性」は扱われていないか、または、評価されていなかった。
【0132】
本発明の調査から、培養した線維芽細胞サンプル由来の多分化能性細胞も、大きな「可塑性」を有している可能性があるという興味深い可能性が見出された。本発明の実験で用いられる継代数で存在する(および様々な年齢のドナー由来の)細胞は、適切な培養環境に置かれた場合、種々の細胞に分化することができる。これは、細胞が成長する環境条件、および、可能性のある分化した細胞が運命の変更に応じて有する可能性がある環境条件の重要性を説明している。
【0133】
この調査から得られた結果は、基本的には形態学的な結果であり、このような結果は、組織培養中に見られる細胞の変化、および、分化した細胞の染色特徴の顕微鏡観察に基づいている。4種の明らかに異なる細胞型が、様々な培養手順を行った後に観察される。しかしながら、これらの培養細胞は、脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞および神経細胞に関してインビボで観察される分子プロファイルと正確に同じ分子プロファイルを有さない可能性がある。
【0134】
本明細書において説明される方法は、一般的に細胞分化中に改変される様々な遺伝子経路を研究するための簡単なインビトロのモデル系として用いることができる。このような方法は、正常細胞と異常細胞との両方における多くの遺伝子経路に対する様々な物質の作用を試験する方法を提供することができる。デュシェンヌ型筋ジストロフィーに関するX連鎖遺伝子を有する患者および患者の母親(キャリアー)由来の線維芽細胞を用いた実験から、これらの個体由来の線維芽細胞は、分化手順を用いると筋肉様の外観を示す可能性があることが示される。
【0135】
本発明の実施態様は、ヒト皮膚線維芽細胞サンプル、および、ヒトから得られた組織生検由来の多分化能幹細胞を作製する方法に関する実施例を提供する。しかしながら本発明はヒトでの用途に限定されない。生検組織サンプルは、ヒトを含むあらゆる動物から得ることができる。好ましくは、このような動物は、哺乳類目のうちのいずれか1種に属する哺乳動物である。哺乳類目としては、単孔類、後獣類、オポッサム目、パウキツベルクラータ目、ミクロビオテリウム目、フクロネコ目、バンディクート目、フクロモグラ目、カンガルー目、食虫目、ハネジネズミ目、ツパイ目、皮翼目、翼手目、霊長類、異節亜目、有鱗目、ウサギ目、げっ歯目、クジラ目、食肉目、管歯目、長鼻目、イワダヌキ目、カイギュウ目、蹄目、および、偶蹄目が挙げられる。ヒト以外の哺乳動物としては、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、および、ヒト以外の霊長類が挙げられる。
【0136】
一実施態様において、組織生検は、様々な組織または臓器から得ることができ、例えば、皮膚、肺、膵臓、肝臓、胃、腸、心臓、生殖器、膀胱、腎臓、尿道およびその他の泌尿器などが挙げられる。
【0137】
その他の実施態様において、異なる動物および/または臓器から増殖させた多分化能幹細胞は、さらに、例えば骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、骨格筋、平滑筋、心筋、目、内皮、上皮、肝臓、膵臓、造血細胞、グリア、ニューロンまたは希突起膠細胞の細胞型などの様々な細胞型に最後まで分化する能力を有する。
【0138】
【表3−1】

【0139】
【表3−2】

【0140】
【表3−3】

【0141】
【表3−4】

【0142】
【表3−5】

【0143】
【表3−6】

【0144】
【表3−7】

【0145】
【表4−1】

【0146】
【表4−2】

【0147】
【表4−3】

【0148】
【表4−4】

【0149】
【表4−5】

【0150】
【表4−6】

【0151】
【表4−7】

【0152】
【表4−8】

【0153】
【表4−9】

【0154】
【表4−10】

【0155】
当然のことながら、説明、具体的な実施例およびデータは典型的な実施態様を示しているが、例証として示されたものであり、本発明を限定することは目的としない。当業者であれば、本発明の範囲内の様々な変化および改変は本明細書に記載された考察、開示およびデータから明白であると予想され、従ってそれらは本発明の一部とみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能幹細胞を増殖させる方法であって、ここで該方法は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;および、
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程、
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記培養物中のCD117多分化能幹細胞の数を、各継代を行った後に決定することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト皮膚線維芽細胞培養物が、CD117幹細胞の数が多く増えるまでAFM中で継代を続けることによって維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、AFM中で少なくとも3、4、5、6、7または8回の継代を受ける、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖させた多分化能幹細胞が、さらに3種の胚葉のいずれかの細胞に分化する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記CD117多分化能幹細胞が、脂肪組織、肝臓組織、筋肉組織および神経組織に分化する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記増殖させたCD117多分化能幹細胞は、CD117細胞の数が少なくとも約85%に達したら分化を受ける、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物から得られた単離された多分化能幹細胞であって、ここで該培養物は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;および、
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程、
を含む方法によって増殖させる、上記細胞。
【請求項9】
前記培養物中のCD117多分化能幹細胞の数は、各継代を行った後に決定することができる、請求項8に記載の単離された多分化能幹細胞。
【請求項10】
前記ヒト皮膚線維芽細胞培養物が、CD117幹細胞の数が多く増えるまでAFM中で継代を続けることによって維持される、請求項8に記載の単離された多分化能幹細胞。
【請求項11】
前記増殖させた多分化能幹細胞はさらに、3種の胚葉のいずれかの細胞に分化する、請求項8に記載の単離された多分化能幹細胞。
【請求項12】
前記多分化能幹細胞が、脂肪組織、肝臓組織、筋肉組織および神経組織に分化する、請求項11に記載の単離された多分化能幹細胞。
【請求項13】
前記ヒト皮膚線維芽細胞サンプル由来の細胞が、AFM中で少なくとも3、4、5、6、7または8回の継代を受ける、請求項8に記載の単離された多分化能幹細胞。
【請求項14】
前記増殖させた多分化能幹細胞が、CD117細胞の数が少なくとも約85%に達したら分化を受ける、請求項8に記載の単離された多分化能幹細胞。
【請求項15】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物から多分化能性細胞を胚葉に分化させる方法であって、ここで該方法は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に適切な条件下で分化させる工程、
を含む、上記方法。
【請求項16】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から脂肪細胞を作製する方法であって、ここで該方法は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含み、ここで該方法により適切な条件下で脂肪細胞が提供される、上記方法。
【請求項17】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から肝細胞を作製する方法であって、ここで該方法は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含み、ここで該方法により適切な条件下で肝細胞が提供される、上記方法。
【請求項18】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から筋肉細胞を作製する方法であって、ここで該方法は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含み、ここで該方法により適切な条件下で筋肉細胞が提供される、上記方法。
【請求項19】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から神経組織を作製する方法であって、ここで該方法は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含み、ここで該方法により適切な条件下で神経組織が提供される、上記方法。
【請求項20】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物から得られた多分化能幹細胞培養物であって、ここで該培養物は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;および、
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程、
を含む方法によって増殖させる、上記培養物。
【請求項21】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した細胞のコレクションであって、ここで該分化した細胞は:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞をいずれかの胚葉の細胞に適切な条件下で分化させること、
により得られる、上記コレクション。
【請求項22】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から移植片のための自己幹細胞を作製する方法であって、ここで該方法は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させた多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させること;
を含み、ここで該方法により適切な条件下で移植片が提供される、上記方法。
【請求項23】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物中の多分化能性細胞から移植片を自己再生させる方法であって、ここで該方法は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させた多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させること;
を含み、ここで該方法により適切な条件下で移植片が提供される、上記方法。
【請求項24】
前記移植片が、心臓、膵臓、肝臓、肺、腎臓、皮膚またはその他の体の部分から選択される臓器の移植である、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて肝臓を再建する方法であって、ここで該方法は、
(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって肝組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含む方法によって生産され、ここで該方法により適切な条件下で肝組織が提供され;および、
(II)(I)から得られた肝組織で患者を治療すること、
を含む、上記方法。
【請求項26】
必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて肺を再建する方法であって、ここで該方法は、
(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって肺組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含む方法によって生産され、ここで該方法により適切な条件下で肺組織が提供され;および、
(II)(I)から得られた肺組織で患者を治療すること、
を含む、上記方法。
【請求項27】
必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて腎臓を再建する方法であって、ここで該方法は、
(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって腎臓組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含む方法によって生産され、ここで該方法により適切な条件下で腎臓組織が提供され;および、
(II)(I)から得られた腎臓組織で患者を治療すること、
を含む、上記方法。
【請求項28】
必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて膵臓を再建する方法であって、ここで該方法は、
(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって膵臓組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含む方法によって生産され、ここで該方法により適切な条件下で膵臓組織が提供され;および、
(II)(I)から得られた膵臓組織で患者を治療すること、
を含む、上記方法。
【請求項29】
必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて心臓を再建する方法であって、ここで該方法は、
(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって心臓組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含む方法によって生産され、ここで該方法により適切な条件下で心臓組織が提供され;および、
(II)(I)から得られた心臓組織で患者を治療すること、
を含む、上記方法。
【請求項30】
必要としている患者に、CD117多分化能幹細胞を用いて皮膚を再建または交換する方法であって、ここで該方法は、
(I)CD117多分化能性細胞を分化させることによって皮膚組織を作製すること、ここで該CD117細胞は、以下の工程:
a)羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの細胞を増殖させる工程;
b)AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞を胚葉の細胞に分化させる工程;
を含む方法によって生産され、ここで該方法により適切な条件下で皮膚組織が提供され;および、
(II)(I)から得られた皮膚組織で患者を治療すること、
を含む、上記方法。
【請求項31】
前記CD117多分化能幹細胞が、患者にとって自己由来である、請求項25〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒト皮膚線維芽細胞サンプルが、再建または交換から1年以内に患者から採取したものである、請求項25〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
工程(b)における細胞が、工程(c)の前に凍結保存される、請求項25〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
多分化能幹細胞のコレクションであって、該細胞は、以下の工程:
a)容器中で、羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの接種材料の細胞を増殖させる工程;
b)適切な条件下で、AFM中で複数回継代させることによって該細胞を増殖させる工程;および、
c)増殖させた適切な密度を有する多分化能幹細胞を収集する工程、
を含む方法によって得られ、それにより該多分化能幹細胞は、インビトロで脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞または神経細胞に分化することができる、上記コレクション。
【請求項35】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された分化した細胞のコレクションであって、ここで該分化した細胞は:
a)容器(フラスコ)中で、羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で、ヒト皮膚線維芽細胞サンプルの接種材料の細胞を増殖させること;
b)適切な条件下で、CD117多分化能幹細胞をAFM中で複数回継代させることによって増殖させること;
c)増殖させたCD117多分化能幹細胞をいずれかの胚葉の細胞に適切な条件下で分化させること;および、
d)増殖させた適切な密度を有する分化した細胞を収集すること
により得られ、該細胞は、脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞または神経細胞に分化する。
【請求項36】
適切な細胞密度を有する多分化能幹細胞のコレクションであって、ここで該多分化能幹細胞は、羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で適切なサイズにしたヒト皮膚線維芽細胞サンプルの接種材料を増殖させることによって得られ、ここで該多分化能幹細胞は、インビトロで脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞または神経細胞に分化することができる、上記コレクション。
【請求項37】
ヒト皮膚線維芽細胞培養物由来の多分化能幹細胞培養物から誘導された適切な細胞密度を有する分化した細胞のコレクションであって、ここで該分化した細胞は、羊水増殖培地(AFM)を含む培養物中で適切なサイズにしたヒト皮膚線維芽細胞サンプルの接種材料を増殖させること、および、増殖させたCD117多分化能幹細胞をいずれかの胚葉の細胞に分化させることによって得られ、ここで該細胞は、脂肪細胞、肝細胞、筋肉細胞または神経細胞に分化する、上記コレクション。
【請求項38】
前記適切なサイズの接種材料が、約3,000〜5,000細胞/cmの細胞密度を有し、さらに、増殖させた多分化能幹細胞または分化した細胞の適切密度が、約50,000〜10,000,000細胞/cmである、請求項34〜37のいずれか一項に記載の多分化能幹細胞または分化した細胞のコレクション。
【請求項39】
前記適切なサイズの接種材料が、約3,000〜5,000細胞/cmの細胞密度を有し、さらに、増殖させた多分化能幹細胞または分化した細胞の適切密度が、約75,000〜125,000細胞/cmである、請求項34〜37のいずれか一項に記載の多分化能幹細胞または分化した細胞のコレクション。
【請求項40】
前記適切なサイズの接種材料が、約3,000〜5,000細胞/cmの細胞密度を有し、増殖させた多分化能幹細胞または分化した細胞の適切密度が、約600,000〜1,000,000細胞/cmである、請求項34〜37のいずれか一項に記載の多分化能幹細胞または分化した細胞のコレクション。
【請求項41】
前記羊水増殖培地(AFM)が、様々な増殖因子を含む、請求項1〜40のいずれか一項に記載の方法またはコレクション。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2011−519580(P2011−519580A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509585(P2011−509585)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/043426
【国際公開番号】WO2009/151844
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(510300728)セント・ピーターズ・カレッジ (1)
【Fターム(参考)】