説明

多分岐ポリマーのプロドラッグ

【課題】水溶性プロドラッグを提供する。
【解決手段】本発明のプロドラッグは、3つ以上の分岐を有する水溶性ポリマーを含み、これらのうち少なくとも3つが活性物質(例えば小分子)に共有結合している。本発明の複合体によって、向上した薬物負荷を達成するのに最適なバランスのポリマーサイズ及び構造が実現されるが、これは、本発明の複合体が、多分岐の水溶性ポリマーに対して放出可能に結合した3つ以上の活性物質を有するためである。本発明のプロドラッグは、治療上有効であり、そして未修飾の親薬物と比較した場合、in vivoで向上した特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多分岐(multi-arm)で水溶性のポリマーの薬物複合体に関連し、特に、ポリマーベースのプロドラッグと、当該プロドラッグを含んで成る組成物の調製と製剤および投与の方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
長年にわたって、生理活性物質の生体内送達を改良しようとする様々な方法が提案されてきた。医薬物質の製剤化と送達が直面する困難な問題点としては、そのうちのいくつかを挙げるだけでも、医薬物質の水溶性の乏しさ、毒性、生物学的利用率の低さ、不安定性や生体内での分解の速さなどがある。医薬物質の送達を改善するために多くの試みががなされてきたが、必ず何らかの欠点がある。例えば、これらの問題の一つ或いはそれ以上を解決または改善しようとするためにしばしば用いられる方法には例えば、リポソームやポリマーマトリックスあるいは単分子ミセルに埋め込むようなカプセル包埋や、ポリエチレングリコールのような水溶性のポリマーに共有結合させたり、遺伝子ターゲット用の薬剤を利用したり、さらにそのほかの類似な方法がある。
【0003】
これらの方法のいくつかをさらに詳しく検討してみると、リポソームに包埋する方法はしばしば薬物の負荷の効率が低く、非効率で費用のかかる過程となる。さらに、リポソーム製剤からの活性物質の放出速度は、リポソームの溶解性や分解性または活性物質がリポソーム膜を通して拡散する速度によるために、活性物質の生体系での実際的な有効率が制限される。さらに、リポソーム製剤は一般的に脂溶性の薬物に限られる。ポリマーマトリックスベースの製剤もまた、特に架橋構造を有するものについては、薬物送達を明確に説明できないことや、加水分解によって分解されるポリマーマトリックスからの活性物質の拡散の速度に依存する、可変的な放出率などの同様な欠点がある。それと比較して活性物質のポリエチレングリコールのようなポリマーとの複合体の形成は、複合体自体、特に活性物質への部位特異的なポリマーの結合による場合には、しばしば、必ずしもその必要はないが、よく解明されているので、より良く理解された代替法を提供する。しかしながら、特定のタンパク質に数と連結部の両方が異なるポリマーを結合した位置異性体の混合物から成るタンパク質ベースの組成物は珍しくない。そのような組成物の再現性のある調製には問題が生じるであろう。
【0004】
医薬としての有用性を改善する目的で、薬効のあるタンパク質の修飾は最もよく使われるPEG化の適用であるが、PEG化はまた、水溶性の乏しい小分子薬物の生体利用率の改善と製剤を容易にするために、限られてはいるが適用されてきた。例えば、PEGのような水溶性のポリマーが水溶性の改善のためにアーテリン酸(artelinic acid)に共有結合によって結合された(ベントレイ等、米国特許番号6,461,603)。同様に、水溶性の改良と化学的安定性を強化するためにPEGはトリメラモルのようなトリアジンベースの化合物に共有結合で結合された(ベントレイ等、WO 02/043772)。また水溶性が低いことによる生体利用率を改善するためにビスインドリルマレイミドにPEGの共有結合が使われた(ベントレイ等、WO 03/037384)。同様に、直鎖状のポリエチレングリコールに共有結合した一つまたは二つのカンプトテシン分子から成るカンプトテシンのプロドラッグが調製された(グリーンワルド等、米国特許番号5,880,131)。
【0005】
カンプトテシン(しばしば“CPT”と略される)は植物毒素のアルカロイドで最初はジャワミズキ科の植物であるカンプトテカ アキュミナタ(Camptotheca acuminata)の木材や樹皮から単離され、抗腫瘍作用のあることが示された。この化合物は立体配座20Sを有するラクトン環、Eに非対称な中心のある五環系の構造をとる。五環系の構造はピロール[3,4−b]キノリン(A ,BおよびC環)と共役されたピリドン(D環)および20位に水酸基を有する6員環のラクトン(E 環)からなる。水に不溶性であるために、カンプトテシンは最初、ナトリウム塩を形成するためにラクトン環が開いた水溶性のカルボン酸塩として臨床的な評価が行われた。カンプトテシン自体と比較して、かなり水溶性が改善されたが、ナトリウム塩は深刻な毒性をもたらし、生体における抗癌作用はほとんど認められなかったことからこの方法は望ましくないことが示された。
【0006】
その後、カンプトテシンおよびその誘導体の多くは、複製や転写のような分子現象中にDNAの回転や緩和に必要な酵素であるトポイソメラーゼの活性を阻害することが見出された。カンプトテシンは酵素−カンプトテシン−DNAの三元複合体を形成、安定化する。分解可能な複合体の形成はトポイソメラーゼの分解/構成の再構成を特異的に阻害する。トポイソメラーゼI阻害剤はまたHIVによる疾患の治療にも有効であることが知られている。
【0007】
カンプトテシンおよびその誘導体の多くにみられる水溶性の乏しさを解決するべく、細胞障害性活性を保持したままで水溶性を高めるためにA環および/またはB環の誘導体化、あるいは20-水酸基のエステル化のための数多くの試みがなされた。例えば、トポテカン(9−ジメチルアミノメチル−10−ハイドロキシCPT)や別名CPT-11と呼ばれるイリノテカン(7−エチル−10[4−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジノ]カルボニルオキシCPT)は臨床的に有益な活性が示された二つの水溶性CPT誘導体である。水溶性のプロドラッグをつくる目的で、10−ヒドロキシカンプトテシンおよび11−ヒドロキシカンプトテシンのようなある種のカンプトテシン誘導体を直鎖状のポリ(エチレングリコール)にエステルによる共役結合させる試みが報告されている(グリーンワルド等、米国特許番号6,011,042)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多くの小分子医薬組成物、特に腫瘍溶解性物質、の臨床効果はいくつかの要因によって制限される。例えば、イリノテカンや他のカンプトテシン誘導体はアルカリ性の条件下で、望ましくないE環のラクトン加水分解を受ける。さらに、イリノテカンの投与は、白血球減少症や下痢を含むやっかいな副作用を生じる。その深刻な下痢の副作用のために、イリノテカンを通常の修飾されていない分子型で投与できる量は非常に限られるために、この薬品およびその他のこのようなタイプの薬品の効果が妨害される。
【0009】
このような付随される副作用がひどい場合には、それだけで、そのような薬品を見込みのある治療薬としての更なる開発が中止されるのに十分である。さらに小分子が直面する問題点には、クリアランスが速い事、そして抗癌剤の場合には、腫瘍への浸透および滞留時間が非常に限られていることなどがある。ポリマーを付加することを含めてそのような試みは治療効果のある投与量が許容されるように活性物質の分子量に対するポリマーの分子量のバランスをとる必要がある。最後に、修飾されたあるいは薬物送達が強化された医薬組成物の合成は、そのような試みが経済的に魅力のあるものであるために収量が手頃である必要がある。このように、特に小分子薬物、なかでもとりわけ腫瘍溶解性物質においての薬効と製剤の容易さを同時に改良でき、その有害でしばしば毒性のある副作用を軽減できる薬物の効果的な送達のための新しい方法が開発される必要がある。特に、軽減された副作用に合わせて、クリアランス時間の縮小による生体利用率と生物活性および薬効の最適なバランスをもった薬物送達のための新しい方法が必要とされる。本発明はこれらの必要性を充たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一側面において、本発明は水溶性のプロドラッグを提供する。本発明のプロドラッグは、3つ以上の分枝であって、少なくともそのうちの3つが活性物質、例えば小分子に共有結合しているものを有する水溶性のポリマーを含んで成る。本発明の複合体は、3つ以上の活性物質であって、好ましくは放出可能なように水溶性ポリマーに付着したものを有するため、薬物負荷の改善を達成するのに最適なポリマーサイズと構造のバランスを提供するものである。一態様において、水溶性のポリマーの各分岐は、それと共有結合した活性物質を有しており、好ましくは当該結合は加水分解可能な連結による。
【0011】
一態様において、プロドラッグの複合体は多分岐のポリマーを含んで成り、例えば3つ以上の分岐を有し、ここで、当該複合体は下記の一般構造:
【化1】

を含んで成る。
【0012】
構造I中、Rは約3〜約150の炭素原子、好ましくは約3から約50の炭素原子、さらに好ましくは約3から約10の炭素原子をもった有機ラジカルであって、任意に1又は複数のヘテロ原子(例えばO, S, またはN)を含むものである。一態様において、Rは3、4、5、6、7、8、9そして10からなる群から選択された炭素原子数を有する。Rは直鎖状または環状でもよく、典型的には、そこから、各々に少なくとも活性物質部分が共有結合している少なくとも3つの独立したポリマー分枝が広がっている。上記の構造において、“q”は“R”から広がっているポリマー分岐の数に相当する。
【0013】
構造I中、Qはリンカーであり、好ましくは加水分解に対して安定なものである。典型的には、Qは少なくともひとつのO, S, またはNHのようなヘテロ原子を含み、ここで、QにおけるRと隣接する原子は、Rと一緒の場合、核有機ラジカルR残基を表す。非限定的な例を以下に示す。通常、Qは1から約10原子または1から約5原子を含む。さらにとりわけ、Q は典型的には次の数のうちのひとつの原子数を有する:1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10。特定の態様において、QはO、S、または-NH-C(O)-である。
【0014】
構造I中、POLY1は水溶性で非ペプチドのポリマーを表す。代表的なポリマーはポリ(アルキレングリコール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリル酸)、多糖、ポリ(α-キドロキシ酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)、またはそれらの共重合体あるいは三元重合体である。構造Iの特定の態様において、POLY1はポリエチレングリコール、好ましくは直鎖状のポリエチレングリコール、である(例えば、全体的な多分岐構造の各分岐において)。さらに別の態様において、POLY1は化学構造が-(CH2CH2O)n-に相当しここで、nは約10から約400、好ましくは約50から約350である。
【0015】
構造Iにおいて、Xは加水分解可能な連結部を含んで成るスペーサーであり、加水分解可能な連結部は直接、活性物質Dに結合している。典型的には、加水分解可能な連結部の少なくとも一つの原子は、X内の加水分解可能な連結部の加水分解の際に活性物質Dが放出されるように未修飾の形態の活性物質Dに含まれる。一般的にいって、スペーサーであるXは原子の長さが約4から約50原子、好ましくは約5から約25原子、さらに好ましくは約5から約20原子を有する。代表的なスペーサーは約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または約20の原子の長さをもつ。
【0016】
さらに別の特定の態様において、XはY-Zで表される構造を持ち、ここでYは加水分解によって分解可能な連結部であるZに共有結合したスペーサーの部分である。ある態様において、Z自体は加水分解によって分解可能な連結部を構成しないが、Y、または少なくともYの一部と一緒に、加水分解可能な連結部を形成する。
【0017】
さらにより特定なスペーサーの態様において、XとYは次のような構造を有する:-(CRxRy)a-K-(CRxRy)b-(CH2CH2O)c-、ここでRxとRyはそれぞれについて、独立してHまたはアルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリールからなる群から選択された有機ラジカルであり、aは0から12(例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12でありうる)の範囲にあり、bは0から12(例えば0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12でありうる)の範囲にあり、Kは-C(O)-、-C(O)NH-、-NH-C(O)-、-O-、-S-、O-C(O)-、C(O)-O-、O-C(O)-O-、O-C(O)-NH-、NH-C(O)-O-から選択されるものであり、cは0から25の範囲にあり、ZはC(O)-O-, O-C(O)-O-, -O-C(O)-NH-, およびNH-C(O)-O-から選択されるものである。KおよびZの特定の構造はa, bおよびcの数に依存し、スペーサーXの構造が-O-O-, NH-O-, NH-NH-とならないようなものである。
【0018】
好ましくは、Yは(CH2)a-C(O)NH-(CH2)0,1-(CH2CH 2O)0-10からなる。
【0019】
さらに別のスペーサーXの態様では、Yは次の構造を有する: -(CRXRy)a-K-(CRxRy)b-(CH2CH2NH)c-, ここで可変数は前期の数値である。ある場合には、スペーサーXに、短いエチレン酸化物またはエチルアミノ断片があることは、リンカーの存在は、多分岐反応性ポリマーや活性物質の構造あるいはその両方に起因する立体障害に伴う問題を回避するのを手助けすることができるので、、プロドラッグ複合体の調製にあたって、良好な収量を得るために有益である。好ましくは、cは0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、および10から成る群から選択されるものである。
【0020】
好ましくは、RxとRyはそれぞれにおいて、独立してHまたは低級アルキルである。態様の一例において、RxとRyはそれぞれにおいてHである。またさらに別の態様では、aは0から5の範囲である。さらに別の態様では、bは0から5の範囲にある。さらに別の態様では、cは0から10の範囲にある。さらに別の態様では、Kは-C(O)-NHである。ここで述べる態様のいずれにおいても一般式構造Iに適用するだけでなく、態様の特定な組み合わせにも及ぶことを意味する。
【0021】
さらに別の態様において、RxとRyは各々の存在につきHであり、aは1であり、KはC(O)-NHであり、bは0または1である。
【0022】
Xの代表的な例には、−CH2-C(O)-NH-CH2-C(O)O- (ここでYは-CH2-C(O)-NH-CH2-であり、Zは-C(O)-O-と-CH2-C(O)-NH-(CH2CH2O)2-C(O)-O-である(ここでYは-CH2-C(O)-NH-(CH2CH2O)2-であり、Zは-C(O)-O-である)。
【0023】
ここで構造Iにもどり、Dは活性物質部分であり、q(独立したポリマー分岐数)は約3から約50の範囲にある。好ましくは、qは約3から約25の範囲にあるものである。さらに好ましくは、qは3から約10の範囲にあり、3、4、5、6、7、8、9または10の数値をとるものである。
【0024】
本発明の一態様によると、本発明の複合体は3から25の活性物質が共有結合したポリマーからなる。更に具体的には、本発明の複合体は3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25の活性物質が結合したものである。さらにつぎの態様において、本発明の複合体は約3から8の活性物質が共有結合で結合した水溶性のポリマーを有する。典型的には、必ずしも必要ではないが、ポリマー分岐の数は水溶性のポリマーに共有結合された活性物質の数に相当する。
【0025】
活性物質部分Dは、加水分解によって活性物質が未修飾の形態で放出されるような加水分解可能な連結を形成するための、本明細書に記載の多分岐ポリマーに共有結合するのに適した官能基をもった活性物質である。
【0026】
好ましい活性物質部分には抗癌性物質が含まれる。
【0027】
一態様において、活性物質は小分子である。特定の態様において、活性物質部分は分子量が1000未満である小分子である。さらに別の態様では、小分子薬物の分子量は約800未満、または約750未満である。さらに別の態様では、小分子薬物は、約500未満あるいは。場合によっては約300未満の分子量を有する。
【0028】
さらに別の態様において、小分子は少なくとも一つのヒドロキシル基を有する腫瘍溶解性物質である。
【0029】
さらに次の態様において、Dは下記の構造:
【化2】

[ここで、R1-R5はそれぞれ独立して、水素、ハロ、アシル、アルキル(例えば、C1-C6アルキル)、置換アルキル、アルコキシ(例えば、C1-C6アルコキシ)、置換アルコキシ、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、アジド、アミド、ヒドラジン、アミノ、置換アミノ(例えば、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノ)、ヒドロキシカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、カルバモイルオキシ、アリールスルホニルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、-C(R7)=N-(O)i-R8(ここで、R7はH、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、またはアリールであり、iは0または1であり、R8はH, アルキル、アルケニル、シクロアルキルまたはヘテロ環である)、及びR9C(O)O-(ここで、R9はハロゲン、アミノ、置換アミノ、ヘテロ環、置換ヘテロ環である)、又はR10-O-(CH2)m-(ここで、mは1から10までの整数であり、R10はアルキル、フェニル、置換フェニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロ環または置換ヘテロ環である)から成る群から選択され、
あるいは、R2とR3が共に、又はR3とR4が共に置換型あるいは非置換型のメチレンジオキシ、エチレンジオキシ、又はエチレンオキシであり、R6はH またはOR’(ここで、R'はアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ハロアルキルまたはヒドロキシアルキルである)、L はXへの連結部である]を有するカンプトテシンである。
【0030】
さらに別の態様において、Dはイリノテカンである。
【化3】

【0031】
あるいは、Dはプラチン、オキシモフォン類似体、ステロイド、キノロンおよびヌクレオシドから成る群から選択される小分子である。
【0032】
一態様において、Dはプラチン、例えばシスプラチン、ヒドロキシプラチン、カルボプラチンあるいはオキサリプラチンである。
【0033】
さらに別の態様において、Dはオキシモルフォン類似体、例えばナロキソン、メチルナルトレキソン、オキシモルフォン、コデイン、オキシコドンまたはモルフォンである。
【0034】
さらに別の態様において、Dはステロイド、例えばブデソノイド、トリアムシノロンまたはフルチカソンである。
【0035】
さらに別の態様において、Dはキノロン、イソキノロン、またはフルオロキノロン、例えばシプロフロキサシン、モキシフロキサシン又はパロノセトロンである。
【0036】
さらに別の態様において、Dはヌクレオシドまたはヌクレオチド、例えばジェムシタビン、クラドリビンあるいはスルダラビンである。
【0037】
本発明の多分岐ポリマープロドラッグは多くのユニークな特色を有しており、特に小分子が抗癌剤である場合にはそうである。例えば、一態様において、多分岐ポリマープロドラッグは、固型腫瘍型の癌の適切な動物モデルで評価し、そして治療上の有効量を投与すると、30日の時間経過後に評価した場合、未修飾の抗癌剤で観察されるものの少なくとも1.5倍、場合によっては2倍まで腫瘍成長を抑制する効果が認められた。さらに別の態様において、プロドラッグは、60日の時間経過後には上記のような、あるいはさらに高い腫瘍成長の抑制効果が認められた。用いられた小分子は抗癌作用を有する化合物として知られているが、ここで述べるような多分岐ポリマーとの複合体の長所により、小分子、例えば抗癌剤自体と比較して、有効性と薬物動態に有意な改善がみられた。適切な固型腫瘍のタイプには乳房、卵巣、結腸、腎臓、胆管、肺および脳の悪性肉腫、上皮癌および悪性リンパ腫が含まれる。
【0038】
別の側面において、本発明は上記のようなプロドラッグ複合体の調製に適した反応性の多分岐ポリマーを含む。
【0039】
さらに別の面において、本発明は、上記のような多分岐ポリマープロドラッグ複合体を含んで成る医薬組成物と、製薬上に許容される担体との組み合わせを包含する。
【0040】
本発明の別の側面は、哺乳類の対象の種々の医学的症状を治療する方法を提供する。更に具体的には、本発明はそれを必要としている哺乳類の対象に本発明の多分岐ポリマープロドラッグ複合体の、治療上の有効量を投与する方法を含む。一態様において、薬物部分、Dはカンプトテシン(例えばイリノテカン)のような抗癌剤であり、腫瘍成長の抑制に有効である。特に好ましい態様において、本発明の多分岐ポリマープロドラッグ複合体、特にDが抗癌剤であるものは、次のような特徴の一つあるいはそれ以上を呈する:(i)未修飾のDよりもある程度腫瘍成長を抑制する、(ii)未修飾のDよりも長い腫瘍滞留時間を示す、(iii)未修飾のDと比較して遅いクリアランスの速度を示す、そして/あるいは(iv)未修飾のDと比較して低い副作用をもたらす。
【0041】
さらに別の面において、本発明はここで述べたような多分岐ポリマーの複合体を投与することにより、癌やウイルス感染を処置する方法を提供する。
【0042】
さらに別の面において、本発明は小分子がカンプトテシンのタイプの分子である多分岐ポリマーのプロドラッグを、それを必要とする哺乳類の対象に、治療上の有効量を投与することにより、トポイソメラーゼI阻害剤関連疾患を処置する方法を提供する。
【0043】
さらに別の面において、本発明が提供するのは哺乳類の対象の固形腫瘍の処置を行う方法である。本発明の方法は1又は複数の固形腫瘍があると診断された患者の治療に有効であるとされる、抗癌剤の多分岐ポリマー複合体の治療上の有効量を投与するステップを含む。上記の投与の結果として、本発明のプロドラッグは抗癌剤単独の投与の結果でみられた腫瘍成長の抑制よりも大きい抑制を生むのに有効である。
【0044】
さらに別の面において、本発明の多分岐ポリマープロドラッグの調製法を提供する。本発明の方法において、加水分解により分解可能な結合Zを形成するのに適した官能基Fを含んで成る小分子Dが提供される。小分子を、第一および第二官能基としてF1およびF2を含んで成る二官能性のスペーサーY’に反応させる。官能基F2はFと反応するのに適していて、F1は任意で保護されていてもよい(F1-Y’-F2)。加水分解可能な連結部Zを含んで成る部分的に修飾された活性物質を形成するために効果的な条件下で反応がすすめられ、FとF2の反応の結果、D-Z-Y’-F1の構造を生じる。必要であれば、部分的に修飾された活性物質に含まれるF1を脱保護する任意のステップを方法に含めても良い。そこで、本発明の方法は部分的に修飾された活性物質D-Z-Y’-F1と、R(-Q-POLY1-F3)qの構造(ここで、R、Q、POLY1とqについては前述したとおりであり、F3はF1と反応する官能基である)を含んで成る水溶性の多分岐ポリマーとを反応させるステップを含む。この反応はY'をYに変換させるためにF3とF1の間の反応を促進する条件下で行われ、それによって構造R-(-Q-POLY1-Y-Z-D)q(ここで、Yはスペーサー部分であり、Zは、加水分解時にDを放出する加水分解可能な連結部である)を有するポリマープロドラッグを形成する。
【0045】
本発明の方法の態様の一例において、反応の完了を推進するために、すなわち活性物質を反応性の各ポリマー分岐に共有結合させるために、部分的に修飾された活性物質D-Z-Y’-F1の“q”モルを超す化学量論的に過剰量を、水溶性の多分岐ポリマー、R(-Q-POLY1-F3)qと反応させる。
【0046】
さらに別の態様において、小分子DがF2と反応する追加の官能基を有している場合、前記方法は二官能性のスペーサーとの反応の前に適切な保護基による追加の官能基を保護するステップを含む。これらの保護基は次に小分子のプロドラッグ産物R-(-Q-POLY1-Y-Z-D)qから取り除かれる。
【0047】
本発明のさらに別の面においては、本発明の多分岐ポリマープロドラッグの調製のための別の方法が提供される。この方法はR(-Q-POLY1-F3)q(R、Q 、POLY1およびqについては前述されたものと同じであり、F3は反応性の官能基である)の構造を有する反応性の多分岐ポリマーを提供するステップを含む。多分岐ポリマーは次に、第一および第二官能基であるF1とF2を含んで成る二官能性スペーサーY’と反応し、ここでF1はF3との反応に適していて、またF1は任意に保護された形(F1-Y’-F2)でもありうる。反応は、F3とF1の反応の結果として生じるR(-Q-POLY1-Y-F2)qの化学構造を有する多分岐ポリマーの中間体を効果的に形成する条件下で行われる。この方法はさらに多分岐ポリマーの中間体であるR(-Q-POLY1-Y-F2)qにおいて、F2が保護された形であれば、保護を除去する任意のステップを含む。多分岐ポリマーの中間体であるR(-Q-POLY1-Y-F2)qを次に、加水分解可能な連結部Zを形成するのに適した官能基Fをもった小分子Dと、R(-Q-POLY1-Y-Z-D)q(ここでZは加水分解可能な連結部であり、加水分解によりD を放出する)の構造を有するプロドラッグを形成するのに効果的な条件下で反応させる。
【0048】
F1、F2、およびF3として前述されたような反応性の官能基は数多くあり、たとえば、ヒドロキシル、活性エステル(例えば、N-ヒドロキシサクシニミジルエステルや1-ベンゾトリアゾイルエステル)、活性炭酸エステル(例えば、N-ヒドロキシサクシニミジル炭酸エステル、1-ベンゾトリアゾリル炭酸エステル、p-ニトロフェニル炭酸エステル)、酸ハロゲン化物、アセタール、1から25の炭素鎖をもったアルデヒド(たとえば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドやブチルアルデヒド)、アルデヒド水化物、アルケニル、アクリル酸、メタクリレート、アクリルアミド、活性スルホン、アミン、ヒドラジド、チオール、1から25の炭素原子(カルボニル炭素を含めて)をもったアルカン酸(例えば、カルボキシル酸、カルボキシメチル、プロパン酸、ブタン酸)、イソシアネート、イソチオシアネート、マレイミド、ビニルスルホン、ジチオピリジン、ビニルピリジン、ヨードアセトアミド、エポキシド、グリオキサルおよびジオンなどから選択できる。
【0049】
一態様において、二官能性のスペーサーY’はアミノ酸またはアミノ酸の誘導体である。代表的なアミノ酸は構造H0-C(0)-CH(R”)-NH-Gp(ここで、R”はH、C1-C6アルキルまたは置換C1-C6アルキルであり、Gpはアミノ保護基である)である。別の態様において、二官能性のスペーサー、Y’は構造-C(O)-(OCH2CH2)1-10-NH-Gpを有する。
【0050】
本発明のプロドラッグを調製する上記の方法は、例えば、精製されるべき化合物が1又は複数の、カルボキシル基またはアミノ基のようにイオン化可能な基を有する場合には、サイズ排除クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィーのように、中間体および/またはプロドラッグの最終産物を精製するための追加のステップを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、実施例2で詳細に説明したような、無胸腺ヌードマウスに移植されたヒト結腸腫瘍HT29の成長に対する例示的な多分岐PEG-イリノテカン複合体の効果を、無処置の対照群およびイリノテカンによる処置群との比較において示したグラフである。
【図2】図2は、実施例6で詳細に説明したような、無胸腺ヌードマウスに移植されたヒト肺腫瘍NCI-H460の成長に及ぼす、例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体の投与量(90 mg/kg、 60 mg/kg、 40 mg/kg)の効果を、無処置の対照群およびイリノテカンによる処置群との比較において示したグラフである。
【図3】図3は、実施例6で詳細に説明したような、無胸腺ヌードマウスに移植されたヒト肺腫瘍NCI-H460の成長に及ぼす、例示的な40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体の投与量(90 mg/kg、 60 mg/kg、 40 mg/kg)の効果を、無処置の対照群およびイリノテカンによる処置群との比較において示したグラフである。
【図4】図4は、実施例6で詳細に説明したような、無胸腺ヌードマウスに移植されたヒト結腸腫瘍HT29の成長に及ぼす、例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体の投与量(90 mg/kg、 60 mg/kg、 40 mg/kg)の効果を、無処置の対照群およびイリノテカンによる処置群との比較において示したグラフである。
【図5】図5は、実施例6に詳細を述べたような、無胸腺ヌードマウスに移植されたヒト結腸腫瘍HT29の成長に及ぼす、例示的な40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体の投与量(90 mg/kg、 60 mg/kg、 40 mg/kg)の効果を、無処置の対照群およびイリノテカンによる処置群との比較において示したグラフである。
【図6】図6は、実施例7で説明したような、ヒト結腸腫瘍HT29またはヒト肺腫瘍NCI- H460を移植された無胸腺ヌードマウスにおいて、(i)例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体または(ii)40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体を、静注により単回投与した後に測定した静脈血漿中の濃度の時間経過を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例7で説明したような、ヒト結腸腫瘍HT29またはヒト肺腫瘍NCI-H460を移植された無胸腺ヌードマウスにおいて、(i)例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体または(ii)40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体を、静注により単回投与した後に測定した腫瘍組織中の濃度の時間経過を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例7で説明したような、ヒト結腸腫瘍HT29またはヒト肺腫瘍NCI- H460を移植された無胸腺ヌードマウスにおいて、(i)例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体または(ii)40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体を、静注により単回投与した後に測定した静脈血漿中のPEG-SN-38の濃度の時間経過を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例7で説明したような、ヒト結腸腫瘍HT29またはヒト肺腫瘍NCI-H460を移植された無胸腺ヌードマウスにおいて、(i)例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体または(ii)40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体を、静注により単回投与した後に測定した腫瘍組織中のPEG-SN-38の濃度の時間経過を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例7で説明したような、ヒト結腸腫瘍HT29またはヒト肺腫瘍NCI-H460を移植された無胸腺ヌードマウスにおいて、(i)例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体、(ii)40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体、または(iii)イリノテカン自体を、静注により単回投与した後に測定した静脈血漿中のイリノテカンの濃度の時間経過を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例7で説明したような、ヒト結腸腫瘍HT29またはヒト肺腫瘍NCI- H460を移植された無胸腺ヌードマウスにおいて、(i)例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体、(ii)40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体、または(iii)イリノテカン自体を、静注により単回投与した後に測定した腫瘍組織中のイリノテカンの濃度の時間経過を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例7で説明したような、ヒト結腸腫瘍HT29またはヒト肺腫瘍NCI- H460を移植された無胸腺ヌードマウスにおいて、(i)例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体、(ii)40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体、または(iii)イリノテカン自体を、静注により単回投与した後に測定した血漿中のSN-38の濃度の時間経過を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例7で説明したような、ヒト結腸腫瘍HT29またはヒト肺腫瘍NCI- H460を移植された無胸腺ヌードマウスにおいて、(i)例示的な20キロダルトン(20K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体、(ii)40キロダルトン(40K)の多分岐PEG-イリノテカン複合体、または(iii)イリノテカン自体を、静注により単回投与した後に測定した腫瘍組織中のSN-38の濃度の時間経過を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の目的や特徴は以下の明細書を合わせて読むことでさらに明瞭になるであろう。
【0053】
以下本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は多くの異なる態様をとることがあり、本明細書に記載の態様に限定されると解釈するべきでなく、むしろ、これらの態様はこの開示内容が、十分にまた完全であるように提供されたものであり、当業者に本発明の範囲が十分に伝えることを目的としている。
【0054】
定義
この明細書においては、単数形(a又はan)あるいは“当該”という表現には、特に明確に述べていない限り、複数のものも含めまれる。従って、例えば、“ポリマー”と言及している場合、単一のポリマーのみでなく二つ以上の同じあるいは異なるポリマーをも含み、“複合体”と言及している場合、単一の複合体のみでなく、二つ以上の同じまたは異なる複合体を含み、“賦形剤”と言及している亜場合、単一の賦形剤のみでなく二つ以上の同じまたは異なる賦形剤やその類似物質を含む。
【0055】
本発明の説明や請求項においては、以下の用語は、下記の定義に従って用いられる。
【0056】
“官能基”は有機合成の通常の条件下で、典型的にはさらに別の官能基を有する別の化合物とそれに結合される化合物との間に共有結合を形成するために用いられる基である。官能基は一般的に、複数の結合および/またはヘテロ原子を含む。本発明のポリマーに用いられる、好ましい官能基は以下に述べる通りである。
【0057】
“反応性の”という用語は有機合成の常用の条件下で容易に、実用的な反応速度で反応する官能基について用いられる。この用語は反応しないか、または反応するために強力な触媒あるいは非実用的な反応条件を必要とする基(例えば、“非反応性の”または“不活性の”基)に対して対照的に用いられる。
【0058】
反応混合液中の分子上の官能基について、“容易に反応しない”という用語は、反応混合液中において望ましい反応のために効果的な条件下で、その基がほとんど完全に保持されていることを意味する。
【0059】
カルボキシル酸の“活性化誘導体”とは、一般的に誘導体化されていないカルボキシル酸と比較して容易に、通常非常に容易に求核剤と反応するカルボキシル酸誘導体を意味する。活性カルボキシル酸には例えば、酸ハロゲン化物(例えば酸塩化物)、無水物、カルボン酸、及びエステルが含まれる。そのようなエステルには、例えば、イミダゾイルエステル、ベンゾトリアゾールエステル、あるいはN-ヒドロキシサクシニミジル(NHS)エステルのようなイミドエステルが含まれる。活性誘導体は、カルボキシル酸と、例えば、ベンゾトリアゾー-1-ロキシトリピロィジノフォスフォニウムヘキサフルオロリン酸(PyBOP)のような多くの試薬の一つと、好ましくは1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)または1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAT)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N、N、N’、N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸(HATU)あるいは、塩化ビス (2-オキソ-3-オキサゾリニジル)ホスフィン酸(BOP-Cl)との組み合わせによって起こる反応の場で形成される。
【0060】
“保護基”とは、ある種の反応条件下で、分子上で、特定の化学的に反応性の官能基の反応を防ぎ、又は阻止する部分をいう。保護基は保護される化学的に反応性のある基、および用いられる反応条件や分子上のその他の反応性の基、または保護基の存在によって多様である。保護される官能基には、例を挙げるなら、カルボン酸基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、カルボニル基やそれに類似する基が含まれる。カルボキシル酸の代表的な保護基には、エステル(p-メトキシベンジルエステルのような)、アミド、ヒドラジドが含まれ、アミノ基の保護基には、カルバミン酸エステル(tert-ブトキシカルボニルのような)やアミドが含まれ、ヒドロキシル基の保護基には、エーテルやエステルが含まれ、チオール基の保護基には、チオエーテルやチオエステルが含まれ、カルボニル基の保護基にはアセタール、ケタールやその類似体が含まれる。このような保護基は当業者には周知であり、例えばティー、ダブリュー、グリーン(T. W. Greene)とジィー、エム、ウッツ(T.W. Wuts)著の『有機合成における保護基』第3版、ウィレイ、ニューヨーク、1999年に説明があり、文献も載っている。
【0061】
“保護された形態”の官能基とは、保護基をもった官能基を意味する。本明細書で使用する場合、“官能基”という用語あるいはその同意語は、その保護された形態を含む。
【0062】
本明細書で用いられる“PEG”あるいは“ポリ(エチレングリコール)”には水溶性のポリ(エチレンオキシド)の全てが含まれる。典型的には、本発明に使われるPEGは次の二種類の構造:“-(CH2CH2O)n-”または“-(CH2CH2O)n-1-CH2CH2-”のうちの一方を含んで成り、これは、例えば合成上の変化によって末端の酸素が置換されるかどうかにより左右される。変数(n)は3から3000の間の数で、末端基や全体的なPEG の構造は多様である。PEGがさらに前述の構造Iを有するスペーサー(さらに詳細は以下に説明する)を含んで成る際には、スペーサー(X)を構成する原子は、PEGの一部に共有結合している場合には、(i)酸素間結合(-O-O-、過酸化結合)、あるいは(ii)窒素と酸素間の結合(N-O、O-N)は形成されない。“PEG”とは大部分の、つまり50%以上のサブユニットが-CH2CH2O-であるポリマーを意味する。本発明に用いられるPEGには、以下に詳細に説明される多様な分子量、化学構造および幾何学配置をもったPEGが含まれる。
【0063】
本発明のポリマーに関して、“水溶性”または“水溶性ポリマーセグメント”とは室温で水溶性のあらゆるセグメント又はポリマーを意味する。典型的には水溶性のポリマー又はセグメントは、ろ過後のおなじ溶液に透過する光の少なくとも75%、好ましくは95%を透過する。重量でみると、水溶性のポリマーあるいはその部分は、少なくとも約35%(重量で)が、さらに好ましくは約50%(重量で)が、さらにより好ましくは約70%(重量で)が、さらにより好ましくは約85%(重量で)が水に溶ける。しかしながら、最も好ましくは、水溶性のポリマーまたはセグメントが、約95%(重量で)水に溶けるかあるいは、完全に水に溶けるものである。
【0064】
“エンドキャッピング”の、あるいは“エンドキャッピングされた”基とは、PEGのようなポリマーの末端にある不活性基である。エンドキャッピングされた基は典型的な合成反応条件下では容易に化学的変化を起こさない基である。エンドキャッピングの基は一般的にアルコキシ基、-OR、であり、Rは1から20の炭素原子を含んで成る有機ラジカルで好ましくは低級のアルキル(例えば、メチルやエチル)またはベンジルである。“R”は飽和されていたり、不飽和であったりし、アリール、ヘテロアリール、シクロ、ヘテロシクロ、あるいはこれらの置換体を含む。例えば、エンドキャップされたPEGは典型的に“RO-(CH2CH2O)n-”の構造を含んで成る、Rは前述の定義に従う。あるいは、エンドキャッピング基は、有利な、検出可能な標識を含んで成ることが可能である。ポリマーが検出可能な標識をもったエンドキャッピング基を有する場合には、ポリマーおよび/またはポリマーが結合している部分(例えば、活性物質)の量と場所を適切な検出器を用いて決定することができる。そのような標識は、限定しないが、蛍光分子、化学発光分子、酵素標識の分子、比色分子(例えば、染料)、金属イオン、放射性分子あるいはその類似体などが含まれる。
【0065】
本発明のポリマーに関して、“天然に存在しない”とは、そのままの形でのポリマーが天然には存在しないことを意味する。本発明の天然に存在しないポリマーは、しかしながら、ポリマーの全構造は天然に存在しないが、天然に存在する1又は複数のサブユニット又はサブユニットのセグメントを含んでもよい。
【0066】
PEGのような本発明の水溶性のポリマーに関する“分子量”とは、典型的にはサイズ排除クロマトグラフィー、光散乱測定法あるいは1、2、4-トリクロロベンゼン中での固有粘度の測定などにより決定される公称平均分子量を意味する。本発明のポリマーは典型的には多分散性で1.20以下の低い多分散性の値を有する。
【0067】
“リンカー”という用語は本明細書では、有機ラジカル核とポリマーセグメントであるPOLY1のように、相互に結合する分子をつなぐ原子あるいは一連の原子を意味する。リンカー分子は加水分解に安定であっても良いし、生理学的加水分解を受けたり、酵素分解によって分解する連結部を含んでいても良い。ここでQ と表されたリンカーは加水分解に安定である。
【0068】
ここで使われる“スペーサー”という用語は、POLY1と活性物質Dのような相互に結合した分子を連結するために使われる一連の原子を意味する。スペーサー分子は加水分解に安定であっても良いし、生理学的加水分解を受けたり酵素分解によって分解する連結部であっても良い。ここでXと表されたスペーサーは加水分解によって分解を受ける連結部を含んでいて、その連結部は直接、活性物質Dに結びついているので、加水分解時に、活性物質が親の分子の形で放出される。
【0069】
“加水分解可能な”結合とは生理学的な条件下で、水と反応する(例えば、加水分解される)比較的弱い結合である。結合の水中で加水分解する傾向は二つの中心の原子を結ぶ結合の一般的タイプのみでなく、これらの中心の原子に結合した置換基にも依存する。例示的な加水分解的に不安定な結合としては、カルボン酸エステル、燐酸エステル、酸無水物、アセタール、ケタール、アシルオキシアルキルエーテル、イミン、オルトエステル、ペプチドあるいはオリゴヌクレオチドなどが含まれる。
【0070】
“酵素分解可能な連結”とは1又は複数の酵素によって分解を受ける連結又は結合を意味する。そのような連結は分解作用のために1又は複数の酵素を必要とする。
【0071】
“加水分解的に安定な”連結あるいは結合とは、典型的には共有結合であって、水中でか実質的に安定であり、つまり、生理学的条件下では、長時間においても、検出できるほどの加水分解を受けない化学結合を意味する。加水分解的に安定な結合の例には、限定しないが、以下のものが含まれ、それらは、炭素間の結合(例えば、脂肪鎖)、エーテル、アミド、ウレタンやそれらの類似物である。一般的に、加水分解的に安定な結合は生理学的条件下では、一日当たり1-2%以下の加水分解率を示すものである。代表的な化学結合の加水分解率はほとんどの標準的な化学の教科書に記載されている。
【0072】
ポリマーの幾何配置や全体的な構造に関しての“多分岐”という用語は、3つ以上のポリマーを含む“分岐”を有するポリマーを意味する。従って、多分岐ポリマーは、その立体配置と核構造によって、3個のポリマー分岐、4個のポリマー分岐、5個のポリマー分岐、6個のポリマー分岐、7個のポリマー分岐、8個のポリマー分岐あるいはそれ以上のポリマー分岐を有してもよい。高度に分岐したポリマーの一特例は樹枝状ポリマーあるいはデンドリマーと呼ばれるもので、本発明の目的からは、多分岐ポリマーとは区別される構造を有していると考えられる。
【0073】
“分岐点”とはポリマーが直鎖構造から1又は複数の追加のポリマー分岐に分裂または枝分かれする、1又は複数の原子を含んで成るポイントを意味する。多分岐ポリマーは単一の、または複数の分岐点を有してもよい。
【0074】
“デンドリマー”は、規則的な枝分かれのパターンと、それぞれが“分岐点”に貢献する繰り返しのユニットを持ち、全ての結合が中央の焦点あるいは核芯から放射状に張り出した球状のサイズが単分散なポリマーである。デンドリマーは核芯の包埋のような樹枝状の特性を示し、他のタイプのポリマーに比べてユニークである。
【0075】
“実質的に”あるいは“本質的に”という用語は、ほとんど完全に、または完全にという意味で、例えば、ある特定の量の95%またはそれ以上という意味である。
【0076】
“アルキル”とは、典型的には1から20原子の長さを持つ炭化水素鎖を意味する。このような炭化水素鎖は、必ずしもではないが、好ましくは飽和されていて、典型的には直鎖が好ましく、しかしながら、分枝していたり直鎖状であったりしてもよい。典型的なアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、1-メチルブチル、1-エチルプロピル、3-メチルペンチルおよびその類似体が含まれる。本明細書で用いられるように、“アルキル”は3個あるいはそれ以上の炭素原子が言及される場合にはシクロアルキルを含める。
【0077】
“低級アルキル”とは、1から6個の炭素原子を含むアルキル基で、メチル、エチル、n-ブチル、i-ブチルおよびt-ブチルに例をみるように直鎖状であったり、分枝状であってもよい。
【0078】
“シクロアルキル”とは、架橋されたり、融合したり、あるいはスピロ型の環状化合物で、好ましくは3から約12個の、さらに好ましくは3から約8個の炭素原子から成る、飽和あるいは不飽和の環状の炭化水素鎖を意味する。
【0079】
“非干渉置換基”とは分子上にあって、同じ分子に含まれる他の官能基に対して、反応性を示さない基のことである。
【0080】
“置換アルキル”などに使われる“置換”という用語は, 限定しないが、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、あるいはその類似体のようなC3-C8シクロアルキルや、例えばフルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードのようなハロや、シアノ、アルコキシ、低級フェニル、あるいは置換フェニルやそれらの類似体のような非干渉置換基で置換された分子部分(例えばアルキル基)を言う。フェニル環上の置換については、置換基はどのような配向でもよい(例えば、オルト、メタ、あるいはパラ)。
【0081】
“アルコキシ”とは、-O-R基を意味し、Rはアルキルまたは置換アルキルで、好ましくはC1-C20アルキル(例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ等)であり、さらに好ましくはC1-C7アルキルである。
【0082】
本明細書で使用する場合、“アルケニル”とは、エテニル、n-プロペニル、イソプロペニル、n-ブテニル、イソブテニル、オクテニル、デセニル、テトラデセニルやそれらの類似体のような、少なくとも一つの二重結合を含む、1から15原子から成る分枝状あるいは非分枝状の炭化水素基を意味する。
【0083】
ここで使われる“アルキニル”とは、エチニル、n-プロピニル、イソプロピニル、n-ブチニル、イソブチニル、オクチニル、デシニルなどの少なくとも一つの三重結合を含む2から15個の原子を含んで成る、分枝状あるいは非分枝状の炭化水素基である。
【0084】
“アリール”とは1又は複数の芳香族環を意味し、それぞれが5または6個の核炭素原子のものである。アリールには、ナフチルのように縮合によったり、ビフェニルのように縮合にはよらない複数のアリール環が含まれる。アリール環はまた、1又は複数の環状炭化水素、ヘテロアリール、またはヘテロ環式化合物が縮合して、あるいは縮合によらないで構成する環状化合物であってもよい。本明細書で使用する場合、“アリール”にはヘテロアリールも含まれる。
【0085】
“ヘテロアリール”とは、好ましくはN、O、S、またはそれらの組み合わせを含む一つから四つのヘテロ原子を含むアリール基である。ヘテロアリール環は1又は複数の、環状炭化水素、ヘテロ環、アリールまたはヘテロアリール環と縮合していてもよい。
【0086】
“ヘテロ環”あるいは“ヘテロ環式”とは、5から12原子、好ましくは5から7原子から成る1又は複数の環からなり、少なくとも一つの、環上の原子が炭素でなく、飽和あるいは不飽和の、また芳香族性であったり無かったりする化合物を意味する。好ましいヘテロ原子としては、硫黄、酸素および窒素である。
【0087】
“置換へテロアリール”とは、置換基として、1又は複数の非干渉基を有するヘテロアリールである。
【0088】
“置換へテロ環”とは、1又は複数の、非干渉置換基から形成された側鎖を有するヘテロ環式化合物である。
【0089】
“求電子試薬”とは、イオン性であるか、求電子性の中心、すなわち求核試薬と反応し得る、求電子性の中心を有するイオン、原子あるいは原子の集合である。
【0090】
“求核試薬”とは、イオン性であるか、求核中心、すなわち求電子試薬と反応し得る、求電子試薬を求める中心を有するイオン、原子あるいは原子の集合である。
【0091】
“活性物質”には、本明細書では生体内で、または試験管内で何らかの、しばしば有益な、薬理学的効果を提供する問題の全ての物質、薬物、化合物、組成物あるいはそれらの混合物が含まれる。これには、食物、食物補足剤、栄養素、保健食品、薬物、ワクチン、抗体、ビタミンおよびその他の有益な物質が含まれる。本明細書で使用する場合、これらの用語はさらに、患者に全身的または局所的な薬効を呈する全ての生理学的あるいは薬理学的活性物質を含む。
【0092】
“医薬として許容される賦形剤”または“医薬として許容される担体”とは、本発明の組成物に含められ、患者に有意な毒性の副作用を及ぼさない賦形剤を意味する。
【0093】
“薬理学的有効量”、“生理学的有効量”および“治療上の有効量”は、交換可能に用いられ、本明細書では血流やターゲットとなる組織に、望ましいレベルの活性物質および/または複合体を提供する薬剤中のPEG-活性物質の複合体の量を意味する。正確な量は、特定の活性物質、製薬剤の成分や物理的特徴、投与治療する患者層、患者に対する考慮やその他の類似事項などに依存し、関連文献やここで提供された情報に基づいて、当業者によって、容易に決定されうる。
【0094】
本発明のポリマーに関する“多官能性”とは、3つ以上の官能基を有するポリマーで、この場合の官能基は同一であったり、異なるものであったりしてもよく、典型的にはポリマーの末端に存在する。本発明の多官能性ポリマーは、典型的には、約3から100個の、または3から50個の、また3から25個の、または3から15個の、または3から10個の、例えば3、4、5、6、7、8、9、あるいは10個の官能基を有する。典型的には、本発明のポリマープロドラッグを調製するために使われるポリマー前駆体に関しては、各分岐の末端に加水分解可能な連結によって活性物質部分と結合するために適した官能基を3つ以上有するポリマーである。“二方向官能性(difunctional)”あるいは“二官能性(bifunctional)”という用語は、本明細書で交換可能に使用する場合、典型的にはその末端に二つの官能基を含んだポリマーのことを言う。官能基が同一である場合、化合物はホモ二方向官能性、またはホモ二官能性と呼ばれる。官能基が異なる場合には、ポリマーはヘテロ二方向官能性、またはヘテロ二官能性と呼ばれる。
【0095】
ここで述べる塩基性の、または酸性の反応物質は、それらの、中性の、荷電された、あるいはすべての相当する塩類を含む。
【0096】
“ポリオレフィンアルコール”とは、ポリエチレンのようなオレフィンポリマーの骨格を含んで成るポリマーで、ポリマー骨格に複数のペンダントヒドロキシル基が結合したものを意味する。代表的なポリオレフィンアルコールはポリビニルアルコールである。
【0097】
本明細書で使用する場合、“非ペプチドの”とはポリマーの骨格に実質的にペプチド結合を持たないポリマーを意味する。しかしながら、ポリマーが、例えば、約50個のモノマー単位当たり約1個を越えない、微少数ペプチド結合を繰り返しのモノマー単位に含むことがあってもよい。
【0098】
“患者”という用語は、本発明のポリマー、必ずしもそうでなくてもよいが典型的には、ポリマー−活性物質の複合体の投与によって、予防あるいは処置され得る病状に罹患しているかまたはそのような病状に罹りやすい生体を意味し、ヒトと動物の両方を含む。
【0099】
“任意の”あるいは“任意に”とは、引き続いて説明される状況が起こるかも知れないし、起こらないかも知れないことを意味し、その結果、その記載にはその状況が起こる場合の例と起こらない場合の例を含む。
【0100】
“小分子”とは広く、有機の、無機の、あるいは有機金属の化合物で典型的には分子量が1000未満の分子を指す。本発明の小分子には、分子量が1000未満のオリゴペプチドおよびその他の生物由来分子を含まれる。
【0101】
本発明のプロドラッグ複合体に関して“活性物質部分”とは、修飾されていない、親活性物質の一部あるいは残基でその薬物(またはそれらが活性化された、または化学的修飾を受けた化合物)を本発明のポリマーに共有結合的に連結する共有連結部のところまでを意味する。“活性物質部分”と多分岐ポリマーの間の加水分解可能な連結の加水分解時に、活性物質それ自体が放出される。
【0102】
多分枝ポリマープロドラッグ複合体−概説
上文で広く説明したように、本発明のポリマー複合体は多分岐で水溶性の、少なくとも三つの活性物質化合物に共有結合した非ペプチド性のポリマーである。本発明の複合体は典型的にはプロドラッグであり、それは加水分解によって分解されうる結合を介してポリマーに結合した活性物質が、被験者への複合体の投与に続いて、ある時間にわたって放出されることを意味する。さらに、本発明の複合体は、例えば、薬物分子を包埋した分解性のポリマーマトリックスと比較して、十分に特徴付けされ、単離可能で、精製のできる組成物である。本発明の複合体は、直鎖状のポリマーベースの対応物と比較して、より高い薬物負荷を示し、そのために、特定の症状を治療するために必要な全投与量重量が軽減される。つまり、本発明のポリマー骨格は、複数の活性物質分子を共有結合によって効果的に連結させ、それによって、約同じ分子量で一つか二つの活性物質分子しか結合していない直鎖状の一官能性のあるいは二官能性のポリマーと比較して、ポリマーの所定の重量当たりの投与される治療薬剤(すなわち、活性物質)を大幅に増加できる。本発明に使われるポリマーはその本質が親水性であり、それによって、結果としての複合体に親水性をもたらし、それは、水に不溶性の活性物質の場合には特に、有用な医薬組成物へと製剤化するのを容易にする。
【0103】
典型的には、本発明のポリマー複合体の全体的な多分岐ポリマー部分の平均分子量は約1,000ダルトン(Da)から約100,000 Da、さらに好ましくは、約10,000 Daから約60,000 Da,最も好ましくは、約15,000 Daから約60,000 Daである。平均分子量が約5,000 Da、約 8,000 Da、約10,000 Da、約12,000 Da、約15,000 Da、約20,000 Da 、約25,000 Da、約30,000 Da、約35,000 Da、約40,000 Da、約45,000 Da、約50,000 Da、および約60,000 Daの多分岐ポリマーが特に好ましい。約20,000 Da以上の分子量を持つ多分岐ポリマー、例えば、分子量が約20,000 Da、または25,000 Da、または30,000 Da、または40,000 Da、または50,000 Da、または60,000 Daのものは腫瘍の治療を標的とする利用にとって特に好ましい。実際の多分岐ポリマーの分子量はもちろん、ポリマー分岐の数と多分岐ポリマー全体の各ポリマー分岐の分子量に依存する。
【0104】
多分岐ポリマー部分と活性物質の間の連結部は、親薬物分子を一定の期間にわたって生体内で放出するために、加水分解的に分解可能であることが好ましい。構造IにおいてXに相当する加水分解的に分解可能な連結部を代表するものには、カルボン酸エステル、炭酸エステル、燐酸エステル、酸無水物、アセタール、ケタール、アシルオキシアルキルエーテル、イミン、オルトエステルおよびオリゴヌクレオチドが含まれる。カルボン酸や炭酸のエステルは特に好ましい連結部となる。特定の連結結合やそれに使われた化学については、特定の活性物質、活性物質内の追加の官能基の存在、およびその類似物などに依存し、ここで提供される手引きに基づいて、当業者によって容易に決定されることが出来る。
【0105】
本発明の多分岐プロドラッグ複合体に関しては、親薬物分子が加水分解時に放出されるので、ポリマー複合体自体が生物活性を示す必要はない。しかしながら、態様によっては、ポリマー複合体が少なくとも測定可能な程度の活性を示す。つまり、ある例では、多分岐ポリマー複合体は、親化合物の1%から100%の間のいずれかの割合の比活性を示す。つまり、場合によって、本発明の多分岐ポリマープロドラッグは、修飾されない親活性物質の複合体形成以前の生物活性と比較して、約1%から100%の生物活性を有する。そのような生物活性は、特定の親化合物の既知の活性によって、適切な生体内あるいは試験管内モデルを使って決定できる。抗癌剤に関しては、典型的には、よく知られている動物モデル(実施例を参照、実施例2および6)を用いて、無胸腺マウスの薬物投与群と対照群においての、移植腫瘍の成長速度を比較することで評価される。抗癌活性は対照群と比較して、薬物投与群における腫瘍成長の遅れによって示される(ジェイ、ダブリュー、シンガー(J.W. Singer)等、Ann. N.Y. Acad. Sci.、922、136-150、2000)。一般的には、本発明のある種のポリマー複合体は、適切なモデルにおいて測定されるならば、修飾されない、親薬物と比較して、少なくとも約2%、5%、10%、15%、25%、30%、40%、50%、60%、80%、90%、またはそれ以上の比活性を有する。
【0106】
実施例2、6および7に示されるように、本発明の好ましいポリマープロドラッグ複合体は、対応する修飾を受けない親薬物対応物と比較して、その特性が増強される。本発明のポリマー複合体は、生体内での希望する部位を標的とする送達を提供するために、受動的に組織に蓄積することで、ターゲット組織においての増強された浸透と滞留(EPR)がみられる(松村、ワイ.、前田、エイチ.(Matsumura Y., Maeda, H.)「癌治療における高分子についての新しい概念。タンパク質と抗癌剤スマンクス(SMANCS)。向腫瘍性の蓄積機構。」、Cancer Res、1986、46、6387−92)。
【0107】
さらに、本発明のポリマー複合体の投与に伴う副作用の重症度は、親化合物の投与に伴う副作用と比較して、好ましくは同程度であり、さらに好ましくはそれ以下である。特に、好ましい複合体、特に3分子以上の抗癌剤、例えばイリノテカンを含んで成るものは、修飾されない親薬物分子と比較して、より軽減された白血球減少と下痢をもたらす。カンプトテシンやカンプトテシン類似の化合物のような抗癌剤の副作用の重症度は、容易に評価することができる(例えば、カド(Kado)等、『癌の化学療法と薬理学』、2003年8月6日)。本発明のポリマー複合体は、それがターゲット組織に蓄積され、副作用を起こしがちなその他の部位には達しないことが、複合体化されない親薬物と比較して、複合体が軽減された副作用をもたらす理由の一部である。本発明のプロドラッグのこれらの特徴のそれぞれについて、以下にさらに詳しく説明する。
【0108】
ポリマープロドラッグの構造的特徴
前述のように、本発明のプロドラッグは多分岐ポリマー、すなわち3つ以上の分岐を有するものを含んで成り、ここで、その複合体は以下の一般式構造:
【化4】

を含んで成る。
【0109】
多分岐プロドラッグの各分岐は他の分岐からは独立している。つまり、プロドラッグの各“q”分岐は異なるQ、POLY1、X、Dなどから構成されることもある。そのような態様の典型的なものは、一般構造が、R[(-Q1-POLY1A-X1-D1)(Q3-POLY1B-X2-D2)(Q3-POLY1C-X3-D3)]などから成り、各分岐が中心の有機核から広がっている。しかしながら、一般的に多分岐プロドラッグの各分岐は同じである。
【0110】
構造Iの可変成分についてその詳細を説明する。
【0111】
有機核“R”
構造Iにおいて、Rは約3から150個の炭素原子を持った有機核ラジカルである。好ましくは、Rは約3から50個の炭素原子を、さらに好ましくはRは約3から10個の炭素原子を含む。すなわち、Rは3、4、5、6、7、8、9あるいは10個の数からなる群のいずれかの原子数をもっても良い。有機核は、特定の核分子を用いる過程によって、任意に1又は複数のヘテロ原子(例えば、O、S、N)を持ってもよい。Rは直鎖状であっても、環状であってもよく、典型的には、そこから少なくとも三つの独立したポリマー分岐が広がっていて、そのうちの3つ以上が、共有結合した少なくとも一つの活性物質を有する。構造Iにおいて、“q”は“R”から広がるポリマー分岐の数である。ある場合には、1又は複数のポリマー分岐が共有結合した活性物質を持たず、むしろその末端に、合成が完了しなかったために、比較的不活性な、または未反応の官能基を持っていることもある。このような場合には、Dは存在しないで、少なくとも一つのポリマー分岐の個々の化学構造が前駆体(またはその誘導体)のものであり、すなわち、その末端に活性物質Dを持たないでむしろ未反応の官能基を持っている。
【0112】
中心の有機核ラジカルRは、水溶性で非ペプチド性のポリマー分岐の望ましい数にほぼ等しい数のポリマーの連結部を提供する分子から由来する。好ましくは、多分岐ポリマー構造の中心の核分子は、ポリマーが結合できる少なくとも三つのヒドロキシル、チオール、またはアミノ基を持ったポリオール、ポリチオール、またはポリアミン残基である。”ポリオール”は複数の(2個以上の)結合可能なヒドロキシル基を含んで成る。“ポリチオール”複数の(2個以上の)チオール基を有する。“ポリアミン”は複数の(2個以上の)結合可能なアミノ基を含んで成る。所望するポリマー分岐の数により、前駆体ポリオール、ポリアミンまたはポリチオールは(POLY1の共有結合に先立って)、典型的には、POLY1の共有結合に適した、それぞれ約3から25個のヒドロキシル、またはアミノ、またはチオール基を、好ましくは、約3から10個のヒドロキシル、またはアミノ、またはチオール基(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10)を、もっとも好ましくは、約3から8個のヒドロキシル、またはアミノ、またはチオール基(例えば、3、4、5、6、7、8)を持っている。ポリオール、ポリアミン、またはポリチオールは、保護された、あるいは保護されていないその他の官能基を持っていても良い。ポリオールまたはポリアミンに由来する有機核に焦点をあてると、それぞれのヒドロキシルまたはアミノ基間に介在する原子の数は多様であるが、好ましい核は、各ヒドロキシルまたはアミノ基の間に約1から20個の、好ましくは約1から約5個の長さの介在核原子、例えば炭素原子を持ったものである。介在する核原子とその長さに関して言えば、例えば、メチレン基自体は全部で3原子を含むが、Hは炭素上の置換基であるので-CH2-はある長さの介在原子を有すると考えられ、また、例えば、-CH2-CH2-は2個の長さの炭素原子を持つと考えられる。特定のポリオールまたはポリアミンの前駆体は最終的な複合体における望ましいポリマー分岐の数による。例えば、4個の官能基、Qを持ったポリオールまたはポリアミン核分子は活性物質に共有結合した4個のポリマー分岐が核から広がる構造Iによるプロドラッグを調製するのに適している。
【0113】
ポリマーによる官能基化の前に、前駆体ポリオールまたはポリアミン核は典型的にはR-(OH)pまたはR-(NH2)pの構造を持つ。典型的にはOHまた-NH2であるが、各官能基は、親核有機分子においても立体的に近接可能で反応性があれば、ポリマー分岐、POLY1に共有結合しているので、pの値は構造Iのqの値に相当する。構造Iにおいて、Rと一緒の場合、可変性の“Q”は典型的にはここで説明するように核有機ラジカルを表す。つまり、特に名前によって好ましい有機核分子を説明する場合には、核分子は例えばプロトンが除去された後のラジカル型としてよりも前駆体型として説明される。そこで、例えば有機核ラジカルがペンタエリトリトールに由来する場合は、前駆体ポリオールはC(CH2OH)4を有し、有機核ラジカルはQと一緒にC(CH2O-)4(ここで、QはOである)に相当する。
【0114】
ポリマー核として使用される好ましい例示的なポリオールには、例えばエチレングリコール、アルカンジオール、アルキルグリコール、アルキリデンアルキルジオール、アルキルシクロアルカンディオール、1、5−デカリンジオール、4、8‐ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロデカン、シクロアルキリデンジオール、ジヒドロキシアルカン、トリヒドロキシアルカンやその類似体を含む1から10個の炭素原子と1から10個のヒドロキシル基を有する脂肪族ポリオールである。シクロ脂肪族ポリオールには、直鎖状あるいは閉鎖環状の糖と糖のアルコールであって、例えば、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、キシリトール、クエブラキトール、トレイトール、アラビトール、エリトリトール、アドニトール、ズルシトール、ファコース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、ラムノース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、ソルボース、マンノース、ピラノース、アルトロース、タロース、タギトース、ピラノシド、スクロース、ラクトース、マルトースあるいはその他の類似体が含まれる。脂肪族ポリオールの追加例としては、グリセルアルデヒド、グルコース、リボース、マンノース、ガラクトースおよび関連した立体異性体が含まれる。また、例えば、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、(1,3−アダマンタンジイル)ジフェノール、2,6‐ビス(ヒドロキシアルキル)クレゾール、2,2’アルキレン‐ビス‐(6‐t‐ブチル‐4‐アルキルフェノール)、2,2’‐アルキレン‐ビス(t‐ブチルフェノール)、カテコール、アルキルカテコール、ピロガロール、フルオログリシノール、1,2,4‐ベンゼントリオール、レソルシノール、アルキルレソルシノール、ジアルキルレソルシノール、オルシノール一水和物、オリベトール、ヒドロキノン、アルキルヒドロキノン、1,1‐ビス‐2‐ナフロール、フェニルヒドロキノン、ジヒドロキシナフタレン、4,4’‐(9‐フルオレニリデン)‐ジフェノール、アントラトビン、ジトラノール、ビス(ヒドロキシフェニル)メタンビフェノール、ジアルキルスチルベステロール、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビフェノール-Aおよびそれらの誘導体、メソ‐ヘキステロール、ノルジヒドログアイアレト酸、カリックスアレーンやそれらの誘導体、タンニン酸やその類似体のような1,1,1‐トリス(4’ヒドロキシフェニル)アルカンのような芳香族ポリオールが使われても良い。その他の使用できる核ポリオールには、クラウンエーテル、シクロデキストリン、デキストリンやその他の炭水化物(例えば、単糖、オリゴ糖、多糖、デンプンやアミラーゼ)などが含まれる。
【0115】
好ましいポリオールにはグリセロール、トリメチロールプロパン、ソルビトールやペンタエリトリトールのような還元糖およびヘキサグリセロールのようなグリセロールのオリゴマーが含まれる。21分岐のポリマーは反応可能な21のヒドロキシル基を有するヒドロキシプロピル‐β‐シクロデキストリンを用いて合成される。
【0116】
代表的なポリアミンには、脂肪族ポリアミン、ジエチレントリアミン、N, N’, N”- トリメチルジエチレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、ビス-(3-アミノプロピル)-アミン、ビス-(3-アミノプロピル)-メチルアミン、およびN,N-ジメチル-ジプロピレン-トリアミンが含まれる。本発明に使用できる天然のポリアミンにはプトレシン、スペルミジンおよびスペルミンが含まれる。本発明のための使用に適した多数のペンタアミン、テトラアミン、オリゴアミンおよびペンタミジン類似体について、バッキ(Bacchi)等、「抗生物質と化学療法」、2002年1月、55-61頁、46巻、1号に記載されていて、これは引用により本明細書に組み入れられる。
【0117】
以下に示すのは、複合体の有機ラジカル部分Rと、親ポリオールの各水酸基がポリマー分岐に変換されたと仮定した場合の相当の複合体の構造図である。注意すべきは、以下に示すポリオールに由来する有機ラジカルは酸素原子を含み、これが、構造Iに関連して、ポリマー分岐である分枝について、Qの一部としてみなされることである。例えば、ポリオール由来の有機ラジカルにおける全ての水酸基がポリマー分岐の一部を形成する必要はない。以下に図示する実施例において、QはOとして示されるが、同様にS、-NH-、または-NH-C(O)-に相当するとみなすことができる。
【化5】

【化6】

【0118】
連結部QおよびX
有機ラジカルRとポリマーセグメントPOLY1の間の、またはPOLY1と活性物質Dとの間の連結は、R、POLY1、およびDに含まれる多様な反応基による反応の結果として生じる。用いられる特定の結合の化学は、活性物質の構造、活性分子内の複数の官能基の存在、保護/脱保護のステップの必要性、活性物質の化学的安定性やその他の条件に依存し、ここで提供する手引きによって当業者には容易に決定できる。本発明のポリマー複合体の調製に有用な例示的結合化学については、例えば、ウォン、エス.エイチ.(Wong,S.H.)、(1991年)、『タンパク質の共役結合と架橋』、CRCプレス、フロリダ州ボカラトン市、およびブリンクレイ、エム.、(1992年)、「染料、ハプテンおよび架橋試薬とのタンパク質複合体の調製法の簡単な概論」、Bioconjug.Chem.、3、2013にみられる。上述したように、活性物質が多分岐ポリマー核から時間をかけて放出されるように、多分岐ポリマー核と各薬物分子の全体的な連結はエステル結合のように加水分解によって分解可能な結合であることが好ましい。
【0119】
ここで提供する多分岐ポリマー複合体(並びに相当の反応性ポリマー前駆体分子など)は、リンカーセグメントQとスペーサーセグメントXを有する。代表的なスペーサーまたはリンカーは、-O-、-S-、-NH-、-C(O)-、-O-C(O)-、-C(O)-NH-、-NH-C(O)-NH-、-O-C(O)-NH-、-C(S)-、-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-、-O-CH2-、-CH2-O-、-O-CH2-CH2-O-、-O-CH2-CH2-、-CH2-O-CH2-、-CH2-CH2-O-、-O-CH2-CH2-CH2-、-CH2-O-CH2-CH2-、-CH2-CH2-O-CH2-、-CH2-CH2-CH2-O-、-O-CH2-CH2-CH2-CH2-、-CH2-O-CH2-CH2-CH2-、-CH2-CH2-O-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-O-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-O-、-C(O)-NH-CH2-、-C(O)-NH-CH2-CH2-、-CH2-C(O)-NH-CH2-、-CH2-CH2-C(O)-NH-、-C(O)-NH-CH2-CH2-CH2-、-CH2-C(O)-NH-CH2-CH2-、-CH2-CH2-C(O)-NH-CH2-、-CH2-CH2-CH2-C(O)-NH-、-C(O)-NH-CH2--CH2--CH2--CH2-、-CH2-C(O)-NH-CH2--CH2--CH2-、-CH2-CH2-C(O)-NH-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-C(O)-NH-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-C(O)-NH-、-C(O)-O-CH2-、-CH2-C(O)-O-CH2-、-CH2-CH2-C(O)-O-CH2-、-C(O)-O-CH2-CH2-、-NH-C(O)-CH2-、-CH2-NH-C(O)-CH2-、-CH2-CH2-NH-C(O)-CH2-、-NH-C(O)-CH2-CH2-、-CH2-NH-C(O)-CH2-CH2-、-CH2-CH2-NH-C(O)-CH2-CH2-、-C(O)-NH-CH2-、-C(O)-NH-CH2-CH2-、-O-C(O)-NH-CH2-、-O-C(O)-NH-CH2-CH2-、-O-C(O)-NH-CH2-CH2-CH2-、-NH-CH2-、-NH-CH2-CH2-、-CH2-NH-CH2-、-CH2-CH2-NH-CH2-、-C(O)-CH2-CH2-、-CH2-C(O)-CH2-、-CH2-CH2-C(O)-CH2-、-CH2-CH2-C(O)-CH2--CH2-、-CH2-CH2-C(O)-、-CH2-CH2-CH2-C(O)-NH-CH2-CH2-NH-、-CH2-CH2-CH2-C(O)-NH-CH2-CH2-NH-C(O)-、-CH2-CH2-CH2-C(O)-NH-CH2-CH2-NH-C(O)-CH2-、-CH2-CH2-CH2-C(O)-NH-CH2-CH2-NH-C(O)-CH2-CH2-、-O-C(O)-NH-[CH2]0-6-(OCH2-CH2)0-2-、-C(O)-NH-(CH2)1-6-NH-C(O)-、-NH-C(O)-NH-(CH2)1-6-NH-C(O)-、-O-C(O)-CH2-、-O-C(O)-CH2-CH2-および-O-C(O)-CH2-CH2-CH2-から成る群から独立に選択されるセグメントを含んでもよい。
【0120】
上記の例のいずれにおいても、単純なシクロアルキレン基、例えば1,3-または1,4-シクロヘキシレンは、任意の2、3または4炭素アルキレン基を置換してもよい。しかしながら、本開示の目的としては、一連の原子が水溶性のポリマーセグメントに直接隣接している場合には、それらの一連の原子はスペーサー部分ではなくて、提案したスペーサー部分がポリマー鎖の単なる伸長を表すような別のモノマーにすぎない。ここで説明したようなスペーサーまたはリンカーは、いずれの配向においても上記の残基のうちの二つまたはそれ以上の組み合わせを含んで成ることもある。
【0121】
構造Iについて言えば、Qはリンカーであり、好ましくは加水分解に安定なものである。典型的には、Qは少なくとも1つのヘテロ原子、例えばO、S、またはNHを含み、ここで、Q中のRに隣接した原子は、Rと一緒に、典型的には核の有機ラジカルRの残基を表す。一般的に、Qは1から約10個の原子を、または1から約5個の原子を含む。典型的には、Qは1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の原子を含む。例示的なQはO、S、または-NH-C(O)-を含む。
【0122】
再び構造Iについて言えば、Xは加水分解可能な連結部から成るスペーサーであり、ここで、その加水分解可能な連結部は直接活性物質、Dに結合している。典型的には、加水分解可能な連結部の少なくとも一つの原子は、修飾される前の活性物質中に含まれるもので、X内の加水分解可能な連結部の加水分解時に、活性物質、Dが放出される。一般的にいえば、スペーサーは約4から約50原子の、さらに好ましくは約5から約25原子の、さらにより好ましくは約5から約20原子の原子長を有する。典型的には、スペーサーは4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および20個のうちから選択された数の原子長を有する。原子鎖長を考慮する場合、全体的な長さに寄与する原子のみが考慮される。例えば、-CH2-C(O)-NH-CH2-CH2O-CH2-CH2-CH2O-C(O)-O-の構造を持つスペーサーは、置換基はスペーサーの長さに有意に寄与をしないとみなされるので、11原子の鎖長を持つ。
【0123】
さらに特定の態様において、XはY-Zの構造を有し、Yは加水分解により分解可能な連結部であるZ に共有結合したスペーサーフラグメントである。態様によっては、Z自体は加水分解によって分解可能な連結部を構成しないこともあるが、Y又は少なくともYの一部と一緒の場合、加水分解可能な連結部を構成する。
【0124】
スペーサーXのさらに特定の態様において、Yは-(CRx Ry)a-K-(CRx Ry)b-(CH2-CH2O)c-の構造を持ち、ここで、R1とR2のそれぞれが、各々の存在につき独立してHまたはアルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリールおよび置換アリールからなる群から選択された有機ラジカルで、aは0から12の範囲にあり(例えば0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12のうちのいずれかであり)、bは0から12の範囲にあり(例えば0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12のうちのいずれかであり)、Kは-C(O)-、-C(O)NH-、-NH-C(O)-、-O-、-S-、O-C(O)-、C(O)-O-、O-C(O)-O-、O-C(O)-NH-、NH-C(O)-O-、から選択できるものであり、cは0から25の範囲にあり、ZはC(O)-O-、O-C(O)-O-、-O-C(O)-NH_およびNH-C(O)-O-のいずれかである。KとZの特定の構造は、-O-O-、NH-O-、NH-NH-の連結部のいずれもスペーサーXの全体的な構造とならないように各a、b、およびcの数値に依存する。
【0125】
好ましくは、Yは(-CH2)a-C(O)NH-(CH2)0,1-(CH2CH2O)0-10を含んで成る。
【0126】
さらに別のスペーサーX の態様では、Yは-(CRx Ry)a-K-(CRx Ry)b-(CH2CH2NH)c- の構造を持ち、可変値は前述したものに従う。場合によって、スペーサーXにおける短いエチレンオキシド又はエチルアミノフラグメントの存在は、リンカーの存在が、多分枝反応性ポリマー、活性物質の構造、又はその両方の組み合わせに起因する立体障害に伴う問題を回避する手助けとなりうるため、プロドラッグ複合体の調製の間に良好な収率を得るのに有用なことがある。
【0127】
好ましくは、RxとRyはそれぞれの場合に、独立して、Hまたは低級のアルキルである。態様の一つにおいては、RxとRyはそれぞれの場合にHである。さらに別の態様において“a”は0から5の範囲にあり、例えば0、1、2、3、4、または5のうちから選ばれる数である。さらに別の態様において、cは0から10の範囲にある数である。またさらに別の態様において、Kは-C(O)-NHである。ここで述べるいずれの態様も一般構造Iに適用されるばかりでなく、態様の特定の組み合わせにも適用できることを意図している。
【0128】
さらに別の態様において、RxとRyはそれぞれの場合にHであり、aは1であり、Kは-C(O)-NHであり、bは0または1である。
【0129】
X の特定の実施例は、-CH2-C(O)-NH-CH2-C(O)O- (ここで、Yは-CH2-C(O)-NH-CH2-に、Zは-C(O)-O-に相当する)および-CH2-C(O)-NH-(CH2CH2O)2-C(O)-O- (ここで、Yは -CH2-C(O)-NH-(CH2CH2O)2-に、Zは-C(O)-O-に相当する)。
【0130】
ポリマーPOLY1
構造Iにおいて、POLY1は水溶性で非ペプチド性のポリマーを表す。好ましくは各ポリマー分岐が同一のポリマーを含んで成るものであるが、構造Iの各ポリマー分岐のPOLY1は独立して選択されるものである。構造Iの各分岐が(すなわち、各-Q-POLY1-X-D は)同一であることが好ましい。本発明によって、非ペプチド性で水溶性の多種のポリマーが、複合体の形成に使用できる。これらに限定されるものではないが、適切なポリマーには、引用によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許番号5,629,384に記載のようなポリ(アルキレングリコール)、エチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマー(共重合体)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、多糖、ポリ(α-ヒドロキシ酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)、並びに上記のうちのいずれかの1又は複数の共重合体、三元重合体及び混合物が含まれる。
【0131】
好ましくは、POLY1はポリエチレングリコールまたはPEGである。POLY1は、直鎖状(例えば、多分岐構造の全体の各分岐において)またはフォーク状であることが好ましいが、直鎖、分枝鎖あるいはフォーク状を含めた多数の幾何配置や形態のうちのいずれであっても良い。“フォーク状”のポリマー立体配置を持った多分岐ポリマープロドラッグの好ましい構造は以下のとおりである:
【化7】

【0132】
Fは、フォーク状の基で、そのほかの可変部分については前述の通りである。フォーク基のフォーク点であるFは、窒素原子(N)であってもよいが、(−CH)であるかそれを含んで成ることが好ましい。それによって、各ポリマーの分岐はフォーク状となって、放出可能なように共有結合した一つよりも二つの活性物質分子を有する。
【0133】
図XIIに示された多分岐ポリマーの調製に有用な例示的フォーク状のポリマーについては、米国特許番号6,362,254に説明がある。
【0134】
POLY1がPEGである場合は、その構造は典型的には-(CH2CH2O)n-から成り、ここでnは約5から約400の範囲にあり、好ましくは約10から約350の範囲にあるか、または約20から約300の範囲にあるものである。
【0135】
本発明の多分岐ポリマーにおいては、各ポリマー分岐、POLY1は典型的にはその分子量が、200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、3000、4000、5000、6000、7000、7500、8000、9000、10,000、12,000、15,000、17,500、18,000、19,000、20,000ダルトンのいずれか、またはそれ以上のものである。本発明に述べる多分岐ポリマー複合体の全体的な分子量は(例えば、多分岐ポリマー全体としての分子量)、一般的に、800、1000、1200、1600、2000、2400、2800、3200、3600、4000、6000、8000、12,000、16,000、20,000、24,000、28,000、30,000、32,000、36,000、40,000、48,000、60,000ダルトン以上である。本発明の多分来ポリマーの全体的な分子量は、典型的には約800から約60,000ダルトンの範囲にある。
【0136】
活性物質D
構造Iにもどり、Dは活性物質部分でq(独立したポリマー分岐の数)は約3から約50の範囲にある。好ましくは、qは約3から約25の範囲にある数である。さらに好ましくは、qは約3から約10の範囲にある数で、3、4、5、6、7、8、9、または10のいずれかである。活性物質部分、Dは、ここで述べたような加水分解可能で、加水分解時に、修飾を受けていない型の活性物質を放出できるような、多分岐ポリマーへの共有結合に適した官能基を少なくとも一つは有する。
【0137】
本発明の態様の一つによると、プロドラッグの複合体は、約3から約25個の活性物質分子が共有結合したポリマーとして特徴付けられる。さらに特定的には、本発明の複合体は、水溶性のポリマーで、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25個の共有結合した活性物質分子を有する。さらに別の態様において、本発明の複合体は、水溶性のポリマーに共有結合した約3から約8の活性物質分子を有する。典型的には、ポリマー分岐の数は、限定しないが、水溶性のポリマーに共有結合した活性物質の数に相当する。
【0138】
さらに別の態様において、中心の有機ラジカル核から広がる多数のポリマー分岐を有する代わりに、本発明の複合体は、好ましくはそれぞれが分解可能な共有結合で結合されたペンダントな活性物質部分を有する水溶性のポリマーとして特徴付けられる。そのような態様において、ポリマープロドラッグ複合体の構造は一般的にPOLY1(X-D)qとして表され、ここで、POLY1、X、Dとqは上記に定められたとおりであり、ポリマーは、典型的には直鎖状のポリマーであるが、加水分解可能なスペーサーXを介して、ポリマー鎖に沿った、区別できる長さの共有結合した“q”個の活性物質分子を有する。
【0139】
特定の態様において、活性物質部分は分子量が約1000未満の小分子である。さらに追加された態様において、小分子薬物は約800未満、または場合によっては約750未満の分子量である。さらに別の態様において、小分子薬物は約500未満、またはある場合には、約300未満の分子量である。
【0140】
好ましい活性物質部分には抗癌剤が含まれる。特に好ましくは、少なくとも一つの水酸基を持った腫瘍溶解性物質である。
【0141】
活性物質の好ましい部類はカンプトテシンである。態様の一つでは、本発明に使われるカンプトテシンは次の構造を有する。
【化8】

[ここで、R1-R5は、それぞれ独立に、水素、ハロ、アシル、アルキル(例えば、C1-C6アルキル)、置換アルキル、アルコキシ(例えば、C1-C6 アルコキシル)、置換アルコキシ、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、アジド、 アミド、ヒドラジン、アミノ、置換アミノ(例えば、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノ)、ヒドロキシカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、カルバモイルオキシ、アリールスルホニルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、-C(R7)=N-(O)i R8 (ここで、R7はH 、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、またはアリールで、iは0または1で、R8はH、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、またはヘテロ環である)、およびR9C(O)O-(ここで、R9はハロゲン、アミノ、置換アミノ、ヘテロ環、置換ヘテロ環である)、又はR10-O-(CH2)m- (ここで、mは1-10の整数であり、R10はアルキル、フェニル、置換フェニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロ環または置換ヘテロ環である)、あるいは
R2とR3またはR3とR4は、置換型または未置換型のメチレンジオキシ、エチレンジオキシ、またはエチレンオキシを形成し、
R6はHまたはOR’であり、ここで、R’はアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ハロアルキルまたはヒドロキシアルキルであり、
LはXに対する付着部位である]。
【0142】
特定の態様において、Dはイリノテカンであり、最終的な多分岐プロドラッグ複合体のHは20位にあり、水酸基は存在しない。
【化9】

【0143】
本発明に使用される活性物質には、催眠剤、鎮静剤、精神賦活剤、トランキライザー、呼吸器系薬物、抗痙攣薬、筋弛緩薬、抗パーキンソン薬(ドーパミン拮抗剤)、鎮痛薬、抗炎症剤、抗不安薬(アンキシオリクス)、食欲抑制剤、抗片頭痛薬、筋収縮薬、抗感染薬(抗生物質、抗ウィルス薬、抗カビ剤、ワクチン)、抗関節炎薬、抗マラリア薬、抗嘔吐薬、抗癲癇薬、気管支拡張剤、サイトカイン、成長因子、抗癌剤、抗血栓薬、血圧下降薬、心臓血管薬、抗不整脈薬、抗酸化剤、抗喘息薬、避妊薬を含めたホルモン剤、交感神経作用薬、利尿剤、脂肪調節薬、抗アンドロゲン薬、抗寄生虫薬、抗血液凝固剤、新生形成薬、抗新生形成薬、血糖降下薬、栄養剤や食物補充剤、成長補助薬、腸炎治療薬、ワクチン、抗生物質、診断用試薬あるいは造影剤などが含まれる。
【0144】
さらに具体的には、活性物質は、限定しないが、多数の構造的クラス、例えば小分子、オリゴペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質ミメティクス、フラグメント、またはアナログ、ステロイド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、電解質等のうちの一つの部類に分類されることもある。本発明に使用される活性物質は、ポリマーへの共有結合に適した放出の、ヒドロキシル、カルボキシル、チオ、やアミノ基またはその類似の基を(すなわち“ハンドル”として)持つことが好ましい。さらに、活性物質は、本発明のプロドラッグを形成するために適した、多分岐ポリマー前駆体と加水分解可能な結合をするために少なくとも一つの官能基を持っていることが好ましい。
【0145】
あるいは、活性物質は、適切な“ハンドル”を導入することで、好ましくは既存の官能基の一つを、活性物質と多分岐ポリマーの間の加水分解可能な共有結合を形成するために適した官能基に変換させることで修飾される。理想的には、そのような修飾は活性物質の治療効果や活性に有意なまでに、不利な影響を与えないべきである。つまり、本発明の多分岐ポリマーとの結合促進のための活性物質の修飾は、修飾前の親活性物質の生物活性の約30%超の減少をもたらすべきではない。さらに好ましくは、本発明の多分岐ポリマーとの結合促進のための活性物質の修飾は、修飾前の親活性物質の生物活性の約25%、20%、15%, 10%、または5%以上の減少をもたらすべきではない。
【0146】
活性物質の具体例には、タンパク質、その小分子ミメティクス、および、アスパラギナーゼ、アムドキソビル(DAPD)、アンチド(antide)、ベカプレルミン、カルシトニン、シアノビリン、デニロイキンジフチトックス、エリスロポエチン(EPO)、EPO作用薬(例えば、10-40個のアミノ酸からなり、WO 96/40749 に記載された特定の核となる配列を持つペプチド)、ドルナーゼアルファ、赤血球生成促進タンパク質(NESP)、第V因子、第VII因子、第VIIa因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XII因子、第XIII 因子、フォンウィルブランド因子などの血液凝固因子、セレダーゼ、セレチーム、アルファグルコシダーゼ、コラーゲン、シクロスポリン、アルファディフェンシン、エキセジン‐4、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、トロンボポエチン(TPO)、アルファ‐1プロテイナーゼ阻害剤、エルカトニン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、フィブリノゲン、フィルグラスティム、ヒト成長ホルモン(hGH)、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、GRO-ベータ、抗GRO-ベータ抗体、骨形成タンパク質-2、骨形成タンパク質-6、OP-1 などの骨形成因子、酸性繊維芽細胞増殖因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子、CD-40 リガンド、ヘパリン、ヒト血清アルブミン、低分子量ヘパリン(LMWH)、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、インターフェロンオメガ、インターフェロンタウ、コンセンサスインターフェロンなどのインターフェロン、インターロイキン-1受容体、インターロイキン-2、インターロイキン‐2融合タンパク質、インターロイキン‐1受容体拮抗剤、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン-4受容体、インターロイキン-6、インターロイキン-8、インターロイキン-12、インターロイキン-13受容体、インターロイキン-17受容体、ラクトフェリンおよびラクトフェリンの部分、黄体ホルモン放出ホルモン(LHRH)、インスリン、プロインスリン、インスリン類似物質(例えば、米国特許番号5,922,675に記載されるモノアシル化インスリン)、アミリン、C-ペプチド、ソマトスタチン、オクトレオチドを含むソマトスタチンの類似物質、バソプレッシン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、インフルエンザワクチン、インスリン様増殖因子(IGF)、インスリントロピン、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、アルテプラーゼ、ウロキナーゼ、レテプラーゼ、ストレプトキナーゼ、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼおよびテネテプラーゼのようなプラズミノーゲン活性化因子、神経増殖因子(NGF)、オステオプロテジェリン、血小板由来増殖因子、組織増殖因子、トランスフォーミング増殖因子-1、血管上皮増殖因子、白血病阻害因子、角質化細胞増殖因子(KGF)、グリア増殖因子(GGF)、T細胞受容体、CD分子/抗原、腫瘍壊死因子(TNF)、単球化学走行性タンパク質-1、内皮細胞増殖因子、副甲状腺ホルモン(PTH)、グルカゴン様ペプチド、ソマトトロピン、サインアルファ1、サインアルファ1IIb/IIIa 阻害因子、サインベータ10、サインベータ9、サインベータ4、アルファ-1抗トリプシン、フォスフォジエステラーゼ(PDE)化合物、VLA-4 (very late antigen-4)、VLA-4阻害因子、ビスフォスフォネイト、抗呼吸器多核体ウィルス抗体、嚢胞性線維症膜透過調節遺伝子(CFTR)、デオキシリボヌクレアーゼ(Dnase)、殺菌性/透過性増加タンパク質(BPI),および抗CMV抗体、の活性フラグメント(変異体を含む)が含まれる。代表的なモノクローナル抗体には、エタネルセプト(etanercept)(IgG1のFc部分と連結した、ヒトの75kDのTNF受容体の細胞外リガンド連結部分から成る二量体の融合タンパク質)、アブシキシマブ(abciximab)、アフェリオモマブ(afeliomomab)、バシィキシマブ( basiliximab)、ダクリズマブ(daclizumab)、インフリィシマブ(infliximab)、イブルモマブチルエクセタン(ibritumomab tiuexetan)、ミツモマブ(mitumomab)、ムロモナブ-CD3(muromonab-CD3)、ヨウ素131トシツモマブ複合体(iodine 131 tositumomab conjugate)、オリズマブ(olizumab)、リツキシマブ(rituximab)、およびトラスツズマブ(trastizumab)[ヘルセプチン(herceptin)]などが含まれる。
【0147】
適当な追加の物質には、限定しないが、アミノフォスチン、アミオダロン、アミノカプロン酸、アミノ馬尿酸ナトリウム、アミノグルテチミド、アミノレブリン酸、アミノサリチル酸、アムサクリン、アナグレリド、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、アントラサイクリン、ベキサロテン、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、カバゴリン、カパシタニン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシン、シラスタチンナトリウム、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネイト、シクロフォスファミド、シプロテロン、シタラビン、カンプトテシン、13-cisレチノイン酸、全transレチノイン酸、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウロルビシン、デフェロキサミン、デキサメタゾン、ディクロフェナク、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エストラムスチン、エトポシド、エクセメスタン、フェキソフェナジン、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオリウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ジェムシタビン、エピネフリン、L-ドーパ、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イフォスファミド、イマチニブ、イリノテカン、イトラコナゾル、ゴセレリン、レトロゾル、ロイコヴォリン、レバミソル、リシノプリル、ロヴァオサイロキシンナトリウム、ロムスチン、メクロレタミン、メdロキシプロジェルテロン、メゲスレロール、メルファラン、メルカプトプリン、メタラミノール二酒石酸塩、メトトレキセート、メトクロプラミド、メキシレチン、マイトマイシン、マイトタン、マイトキサントロン、ナロキソン、ニコチン、ニルタミド、オクトレオチド、オキサリプラチン、パミドロネート、ペントスタチン、ピルカマイシン、ポルフィマー、プレドニソン、プロカルバジン、プロクロロペラジン、オンダンセトロン、ラルチトレキセド、シロリムス、ストレプトゾシン、タクロリムス、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストステロン、テトラヒドロカンナビノール、サリドマイド、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、トレチノイン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ドラセトロン、グラニセトロン、フォルモステロール、フルチカゾン、ロイプロリド、ミダゾラン、アルプラゾラム、アムフォテリシンB,ポドフィロトキシン、ヌクレオシド抗ウィルス剤、アロイルヒドラゾン、スマトリプタン、さらにマクロライドとしてのエリスロマイシン、オレアンドマイシン、トロレアンドマイシン、ロキシトロマイシン、クラリトロマイシン、ダベルシン、アジスロマイシン、フルリトトマイシン、ジリトロマイシン、ジョサマイシン、スピロマイシン、ミデカマイシン、ロイコマイシン、ミオカマイシン、ロキタマイシン、アンダジトロマイシンおよびスウィノリドA, さらにフルオロキノロンであるシプロフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、トロバフロキサシン、アラトロフロキサシン、モキシフロキシシン、ノルフロキサシン、エノキサシン、グレパフロキサシン、ガチフロキサシン、ロメフロキサシン、スパルフロキサシン、テマツロキサシン、ペフロキサシン、アミフロキサシン、フレロキサシン、トスフロキサシン、プルリフロキサシン、イルロキサシン、パズフロキサシン、クリナフロキサシン、およびシタフロキサシン、さらにアミノグリコシドとしてのジェンタマイシン、ネチルマイシン、パラマイシン、トブラマイシン、アミカシン、カナマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、バンコマイシン、タイコプラニン、ランポラニン、ミデプラニン、コリスチン、ダプトマイシン、グラミシジン、コリスチメテイト、さらにポリミキシンとしてのポリミキシンB、カプレオマイシン、バシトラシン、ペネム、さらにペニシリンGやペニシリンVのようなペニシリナーゼ感受性薬剤を含むペニシリン、またペニシリナーゼ抵抗性の薬剤としてのメチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フロキサシリン、ナフシリン、さらにグラム陰性微生物に活性のあるアムピシリン、アモキシリン、ヘタシリン、シリンおよびガラムピシリン、さらに抗シュードモナスペニシリンとしてカルベニシリン、チカルシリン、アゾシリン、メズロシリンおよびピペラシリン、またセファロスポリンとしてセフポドキシム、セフプロジル、セフトブテン、セフティゾキシム、セフトリアキソン、セファロシン、セファピリン、セファレキシン、セフラドリン、セフォキチン、セファマンドール、セファゾリン、セファロリジン、セファクロール、セファドロキシル、セファログリシン、セフロキシム、セフォラニド、セフォタキシム、セファトリジン、セファセトリル、セフェピム、セフィキシム、セフォニシド、セフォペラゾン、セフォテタン、セフメタゾル、セフタジディム、ロラカルベフおよびモキサラクタム、さらにアズトレオナムのようなモノバクタム、さらにカルバペネムとしてのイミペネム、メロペネム、ペンタミジンイソチオウエイト、硫酸アルブテロール、リドカイン、硫酸メタプロテレノール、ベクロメタソンジプレピオネート、トリアムシノロンアセトアミド、ブデソニドアセトニド、フルチカソン、臭化イプラトロピウム、フルニソリド、クロモリンナトリウム、酒石酸エルゴタミン、またパクリタキセルのようなタキサン、さらにSN-38 やティルフォスチンが含まれる。
【0148】
上記のような例示的な薬物には、適用可能な場合には、それらの類似体、作用薬、拮抗薬、阻害薬、異性体、多形およびそれらの医薬として許容される塩が含まれる。
【0149】
前述したように、活性物質の一つの好ましい部類はカンプトテシンである。“カンプトテシン化合物”という用語は本発明においては、医薬組成物として活性のある誘導体、類似体、およびそれらに代謝産物と同様に、植物アルカロイドである20(S)-カンプトテシンも含まれる。カンプトテシン誘導体の例には、限定しないが、9-ニトロ-20(S)-カンプトテシン、9-アミノ-20(S)-カンプトテシン、9-メチル-カンプトテシン、9-クロロ-カンプトテシン、9-フルオロ-カンプトテシン、7-エチル-カンプトテシン、10-メチル-カンプトテシン、10-クロロ-カンプトテシン、10-ブロモ-カンプトテシン、10-フルオロ-カンプトテシン、9-メトキシ-カンプトテシン、11-フルオロ-カンプトテシン、7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン(SN38)、10,11-メチレンジオキシカンプトテシンと10,11-エチレンジオキシカンプトテシンと7-(4-メチルピペラジノメチレン)-10,11-メチレンジキシカンプトテシン、7-エチル-10-(4-(1-ピペラジノ)-1-ピペラジノ)-カルノニロキシ-カンプトテシン、9-キドロキシ-カンプトテシン、及び11-ヒドロキシ-カンプトテシンが含まれる。特に好ましいカンプトテシン化合物にはカンプトテシン、イリノテカンおよびトポテカンが含まれる。
【0150】
天然の置換されていない植物アルカロイドのカンプトテシンは、自然からの抽出物の精製によって、または癌研究ステーリン財団(ヒューストン、テキサス)から入手できる。置換型のカンプトテシンは文献上に知られる方法で、あるいは商品として発売元から入手できる。例えば、9-ニトロ-カンプトテシンはスーパージェン(SuperGen, Inc.)(サンラマン、カリフォルニア)から、9-アミノ-カンプトテシンはアイデック製薬(Idec Pharmaceuticals)(サンディエゴ、カリフォルニア)から購入できる。カンプトテシンと多様な類似物質や誘導体はシグマ化学(Sigma Chemicals)のような標準的な化学薬品の供給元からもまた入手できる。
【0151】
好ましいカンプトテシン化合物は以下の構造XIで例示される。
【化10】

[ここで、R1-R5は、それぞれ独立して水素、ハロ、アシル、アルキル(例えば、C1-C6アルキル)、置換アルキル、アルコキシ(例えば、C1-C6アルコキシ)、置換アルコキシ、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、アジド、アミド、ヒドラジン、アミノ、置換アミノ(例えば、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノ)、ヒドロキシカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、カルバモイルオキシ、アリールスルホニルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、-C(R7)=N-(O)i-R8(ここで、R7はH、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、またはアリールであり、iは0または1であり、R8はH、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、またはヘテロ環である)、又はR9C(O)O- (ここで、R9はハロゲン、アミノ、置換アミノ、ヘテロ環、置換ヘテロ環である)、又はR10-O-(CH2)m- (ここで、m は1-10の整数であり、R10 はアルキル、フェニル、置換フェニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロ環または置換ヘテロ環である)から成る群から選択され;あるいは
R2とR3又はR3とR4は、置換型又は未置換型のメチレンジオキシ、エチレンジオキシ、又はエチレンオキシを形成し;そして
R6はH またはOR’であり、ここで、R’はアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ハロアルキル、またはヒドロキシアルキルである]。
【0152】
代表的な置換基としては、ヒドロキシル、アミノ、置換アミノ、ハロ、アルコキシ、アルキル、シアノ、ニトロ、ヒドロキシカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、アリール(例えば、フェニル)、ヘテロ環、およびグリコシル基が含まれる。
【0153】
本発明の一態様において、小分子はタキソールではなく、またはタキサンベースではない。
【0154】
本明細書に記載の多分岐ポリマープロドラッグ複合体を調製するための、その他の好ましい活性物質としては、プラチン、オキシモルフォン類似物、ステロイド、キノロン、イソキノロンとフルオロキノロンとヌクレオシドおよびヌクレオチドがある。上記の構造的クラスのいずれかに属する例示的な化合物の構造を以下に示す。
【化11】

【化12】

【化13】

【0155】
多分岐ポリマープロドラッグ複合体の合成法
本発明のプロドラッグの調製に用いられるような、多分岐の反応性ポリマーは、本明細書で述べる手引きを参考にし、化学合成技術分野で知られている知識をあわせることで、販売されている出発物質から容易に調製できる。
【0156】
末端にヒドロキシル基を持ち、ペンタエリスリトールまたはグリセロールの核を有する多分岐PEGは、ネクター(Nektar)社、(ハンツビル、アラバマ)から入手できる。そのような多分岐のPEGは、カップリング、例えば加水分解可能なカルボキシルエステル結合を持ったプロドラッグを提供するためのカップリングに適した位置で、活性物質、例えばカルボキシル基を有するものに直接カップリングするのに使用することができる。あるいは、多分岐ポリマー前駆体の末端のヒドロキシル基は、酸化されることで末端のカルボキシル基に変換させ、例えば、活性物質上のヒドロキシル基と結合できる。
【0157】
あるいは、本発明のプロドラッグを調製するために、多分岐の反応性ポリマーは合成によって準備しても良い。例えば、適切な数のポリオール核の材料化合物のいずれもをアルドリッチ(Aldrich)社(セントルイス、ミズーリ)のような化学薬品の供給会社から購入できる。ポリオールの末端のヒドロキシル基がまず、例えば強塩基を用いて、陰イオン型に変えられ、重合が始められるために適した反応部位を提供し、続いて、例えばエチレンオキサイドのようなモノマーのサブユニットが、ポリマー核に直接重合される。鎖の構築は、所望の長さのポリマー鎖が各分枝で達成されるまで続けられ、その後反応を例えばクエンチングで終結させる。
【0158】
別のアプローチにおいて、本発明のプロドラッグに対する活性化ポリマー前駆体は、まず、望ましいポリオール核材料を準備し、そして当該ポリオールを、適当な条件下で所望の長さのヘテロ二官能性PEGメシラートと反応させることにより合成で調製することができ、ここで、非メシラート末端はポリオールとの反応を防ぐために任意に保護される。結果として得られる多分岐ポリマー前駆体は、その結果、追加の変換又は活性物質に対する直接的なカップリング、必要な場合、脱保護、に適している。
【0159】
ポリアミノ核ベースの多分岐ポリマー前駆体は、例えば、NHSエステル、コハク酸イミド炭酸エステル、BTCエステルや類似化合物のようなアシル化剤で活性化されたポリマー試薬と直接カップリングさせて、アミド連結部、Qを持った多分岐ポリマー前駆体として提供することで調製することができる。あるいは、複数のアミノ基を持った核分子は、PEG のような末端にアルデヒド基をもったポリマーと、還元性アミノ化(例えば、水素化シアノホウ素ナトリウムのような還元剤を用いて)によって分子内アミン連結部、Qを持った多分岐ポリマー前駆体を提供することにより調製することができる。
【0160】
PEGポリマーが上記の合成法の説明のために、代表的なポリマーとして述べられたが、このような方法はその他の本明細書に記載の水溶性のポリマーにも同様に適用される。
【0161】
本発明のプロドラッグは、活性化されたPEGのような活性化されたポリマーの、生物活性物質への共有結合のための既知の化学的カップリング技術を用いて形成することができる(例えば、『ポリ(エチレングリコール)の化学と生物学的応用』、米国化学会、ワシントン、ディーシー(1997年)を参照)。本発明の説明によって、多分岐ポリマープロドラッグを合成するための適切な官能基、連結部、保護基やその他の選択は、ある程度、活性物質と多分岐ポリマー出発物質の官能基に左右され、そして本開示に基づくことで当業者には自明であろう。
【0162】
活性物質や誘導化した活性物質とのカップリングに適した本発明の多分岐ポリマーは、典型的には以下の末端官能基を有する:N-コハク酸イミド炭酸エステル(例えば、米国特許番号5,281,698、5,468,478を参照)、アミン(例えば、バックマン(Buckmann)等、Macromol. Chem.、182、1379、1981年、ザリプスキー(Zalipsky)等、Eur. Polym. J.、19、1177、1983年、を参照)、ヒドラジド(例えば、アンドレ(Andresz)等、Makromol. Chem.、179、301、1978年、を参照)、コハク酸イミドプロピオン酸エステルやコハク酸イミドブタン酸エステル(例えば、オルソン(Olson)等、ポリ(エチレングリコール)の化学と生物学的応用、170-181頁、ハリスとザリプスキー(Harris & Zalipsky)編、エイシーエス、ワシントン、ディーシー、1997年、および米国特許番号5,672,662を参照)、コハク酸イミドコハク酸エステル(例えば、アブコウスキ(Abuchowski)等、Cancer Biochem, Biophys.、7、175、1984年、およびジョピッキ(Joppich)等、Makromol. Chem.、180、1381、1979年、を参照)、コハク酸イミドエステル(例えば、米国特許番号4,670,417を参照)、ベンゾトリアゾール炭酸エステル(米国特許番号5,650,234を参照)、グリシディルエーテル(例えば、ピタ(Pitha)等、Eur. J. Biochem.、94、11、1979年、およびエリング(Elling)等、Biotech. Appl. Biochem.、13、354、1991年、を参照)、オキシカルボニルイミダゾール(ビーチャンプ(Beauchamp)等、Anal. Biochem. 、131、25、1983年、およびトンデリ(Tondelli)等、J.Controlled Release、1、251、1985年、を参照)、p-ニトロフェニル炭酸エステル(例えば、ベロネーゼ(Veronese)等、Appl. Biochem. Biotech.、11、141、1985年、およびサルトレ(Sartore)等、Appl. Biochem. Biotech.、27、45、1991年、を参照)、アルデヒド(例えば、ハリス(Harris)等、J.Polym. Sci. Chem. Ed.、22、341、1984年、および米国特許番号5,824,784や米国特許番号5,252,714を参照)、マレイミド(例えば、グッドソン(Goodson) 等、Bio/Technology、8、343、1990年、およびロマニ(Romani)等、『ペプチドとタンパク質の化学』、2、29、1984年、やコガン(Kogan)、Synthetic Comm. 、22、2417、1992年、を参照)、オルトピリジル-ジスルフィド(例えば、ウォイレン(Woghiren)等、Bioconj. Chem.、4、314、1993年、を参照)、アクリロール(例えば、ソウニイ(Sawhney) 等、Macromolecules、26、581、1993年、を参照)、ビニルスルホン(例えば、米国特許番号5,900,461を参照)などである。
【0163】
活性物質のうちでも好ましいクラスの一つであるカンプトテシンについて言えば、カンプトテシン化合物の20位のヒドロキシル基が立体障害を受けるので、一段階の複合反応では有意な収率を得ることが難しい。その結果として、好ましい方法は、20位のヒドロキシル基を、多分岐ポリマーとの反応に適した官能基を持った短いリンカーあるいはスペーサー部分と反応させる方法がより好ましい。そのような方法は多くの小分子に、特に結合するべき反応性のポリマーに近接できない共有結合部位を持った小分子に適用可能である。好ましいリンカーには、t-BOC-グリシンまたは保護されたアミノ基と反応できるカルボキシル基をもったその他のアミノ酸が含まれる(ザリプスキー(Zalipsky)等、「薬物のポリエチレングリコールへの結合」、Eur.Polym. J.、19巻、12号、1177-1183頁、1983年を参照)。カルボン酸基は、カップリング試薬(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC))や塩基触媒(例えば、ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下に容易に20位のヒドロキシル基と反応する。その後で、t-BOC(N-tert- ブトキシカルボニル)のようなアミノ保護基が適切な脱保護剤(例えば、t-BOCの場合はトリフルオロ酢酸(TFA))を用いて、除去される。放出のアミノ基は次に、カップリング剤(例えば、ヒドロキシベンジルトリアゾール(HOBT) )と塩基(例えば、DMAP)の存在下にカルボン酸基を持った多分岐あるいはフォーク状のポリマーと反応させられる。
【0164】
好ましい態様の一つにおいて、スペーサー部分はアミノ酸に由来し、そしてアミノ酸を含んで成り、HO-C(O)-CH(R”)-NH-Gp(ここで、R”はH、C1-C6アルキル、または置換C1-C6アルキルであり、Gpはアミノ酸のアルファアミノ基の保護基である)構造を持つ。典型的な不活性保護基には、t-BOCやFMOC(9-フルオレニルメトキシカルボニル)が含まれる。t-BOCは室温で安定であり、希釈されたTFA やジクロロメタンの溶液で容易に除去される。FMOCは塩基に不活性な保護基で、濃縮されたアミン(通常ピペリジンの20-25% N-メチルピロリドン溶液)の溶液で容易に除去される。好ましいアミノ酸には、アラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニンやバリンが含まれる。
【0165】
ヒドロキシル基と反応できるカルボン酸基または他の官能基、および保護されたアミノ基を持ったその他のスペーサー部分が上記のアミノ酸の代わりに使用できる。例えば、HOOC-アルキレン-NH-Gp(ここで、Gpは前述のとおりであり、アルキレン鎖は、例えば約1から約20の炭素原子の長さを有する)構造のスペーサー部分を用いることが出来る。短い−(CH2CH2O)c−基または(CH2CH2NH)c 基もまた好ましく、ここで、cは0から25の間の数である。更に具体的には、cは0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12から選択される値を持つ。
【0166】
実施例1で例証する特定の態様において、複合体の形成はまず、カンプトテシン化合物をt-BOC-グリシンと反応させ、次にグリシンのアミノ基を脱保護し、グリシンで修飾されたカンプトテシンを、ペンタエリスリトール核を含んで成る4分岐PEG分子にカップリングさせて行う。
【0167】
実施例8で例証する別の方法では、多数の-(CH2CH2O)- のサブユニットを含んで成る二官能性のスペーサーが提供される。スペーサーの一つの末端官能基は、活性物質のヒドロキシル基と反応してカルボン酸エステル(例えば、加水分解可能な結合)を形成するために適した酸塩化物(-O-C(O)-Cl)の構造をもち、他の末端官能基は保護されたアミンである。二官能性のスペーサーは、DMAP のようなカップリング試薬の存在下で、その20位のヒドロキシル基でイリノテカンと結合し、部分的に修飾された活性物質を提供する。部分的に修飾された活性物質において、加水分解可能な結合、Zが導入され、末端が保護され、脱保護によって活性化された多分岐ポリマーと官能するのに適したスペーサー、Y‘に結合される。部分的に修飾された活性物質は次に、アミンと結合するのに適した反応性の末端を有する多分岐ポリマー前駆体と反応し、全体的な連結部X の一部として安定なアミド結合を提供する。
【0168】
プロドラッグ製品はさらに精製されてもよい。精製と単離の方法には、析出とそれに続く濾過と乾燥だけでなく、クロマトグラフィーが含まれる。適切なクロマトグラフィーの方法は、サイズ排除クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィーを含む。
【0169】
医薬組成物
本発明は、動物およびヒトの医療用の、本発明の1又は複数のポリマープロドラッグまたは医薬組成物として許容されるそれらの塩と、医薬組成物として許容される担体および、任意にその他の治療成分、安定剤等を含んで成る医薬製剤又は組成物を提供する。担体は、製剤のその他の成分との適合性という意味で医薬として許容されるものでなければならず、そして、レシピエントにとって不当に有害でないものである必要がある。本発明の組成物はまた、例えば、ポリビニルピロリドン、またヒドロキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロースの誘導体、フィコール(糖重合体)、ヒドロキシエチルスターチ(HES)、デキストレート(例えば、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンやスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンのようなシクロデキストリン)、ポリエチレングリコールおよびペクチンを含む。当該組成物はまたさらに、希釈剤、緩衝剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤、潤滑剤、防腐剤(抗酸化剤を含む)、風味剤、味隠し剤、無機塩(例えば、塩化ナトリウム)、抗微生物薬(例えば、塩化ベンゾアルコニウム)、甘味料、帯電防止剤、界面活性剤(例えば、“トゥイーン20”や“トゥイーン80”のようなポリソルベートやビーエイエスエフ(BASF)から入手できるF68やF88のようなプルロニックス)、ソルビタンエステル、脂肪(例えば、レシチンやその他のホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミン、脂肪酸や脂肪酸エステル、ステロイド(例えば、コレステロール)、およびキレート試薬(例えば、EDTA、亜鉛のような適切な陽イオン)などを含む。本発明による組成物において使用するのに適したその他の賦形剤および/または賦形剤は『レミントン、薬局処方の科学と実践』、第19版、ウィリアムスとウィリアムス、1995年、および『医師の参考書』、第52版、メディカルエコノミクス、モントヴェール、ニュージャージィ、1998年や『賦形剤のハンドブック』、第3版、エド.エイ.エイチ.キッベ(Ed.A.H. Kibbe)、ファーマシューティカルプレス、2000年に記載がある。
【0170】
本発明のプロドラッグは、経口、直腸、外用、点鼻、点眼、または非経口(例えば、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内投与)投与に適したものを含んで成る組成で製剤化してもよい。この組成物は、便宜上、単位剤形で提供してもも良いし、薬局技術上のよく知られたいずれかの方法で調製されても良い。すべての方法には、活性物質あるいは化合物(例えばプロドラッグ)を、1又は複数の付属の成分を構成する担体と組み合わせるステップも含まれる。一般的に、組成物は活性化合物を液体の担体と合わせることで溶液または懸濁液を形成するように調製され、あるいは活性物質を固型の、任意に微粒子状の製品を形成し、必要に応じ当該製品を所望の送達系に成型するのに適した製剤成分と組み合わせて調製される。本発明の固型製剤は、微粒子状であるなら、典型的には、そのサイズが約1ナノメーターから約500ミクロンの範囲にあるサイズの粒子を含んで成る。一般的には、静脈内投与のための固型製剤としては、典型的には、直径約1nmから約10ミクロンの範囲にある粒子である。特に好ましいのは、注入前に水溶性の媒体で再構成される、無菌で凍結乾燥された組成物である。
【0171】
好ましい製剤は、活性物質、Dがイリノテカンである多分岐ポリマープロドラッグを含んで成る固型製剤である。その固型製剤はソルビトールと乳酸からなり、典型的には、静脈内注入前に5%デキストロースまたは0.9%塩化ナトリウムで希釈される。
【0172】
製剤中のポリマー複合体の量は、用いられる特定のオピオイド拮抗薬、その複合体としての活性、複合体の分子量、および他の因子、例えば剤型、標的の患者群やその他の考慮事項などにより異なるが、通常当業者は容易に決定できる。製剤中の複合体の量は、カンプトテシン化合物の治療効果の少なくとも一つ、例えば抗癌作用を達成するために、それを必要としている患者に、治療上効果のある量のカンプトテシン化合物を送達するために必要な量である。実際上は、その量は特定の複合体、その活性、治療を受ける症状の重篤度、患者のタイプ、製剤の安定性などによって大幅に異なる。組成物は一般的に、重量で約1%から99%の間のいずれかのプロドラッグを、典型的には、約2%から約95%、またさらに典型的には約5%から85%を含み、また、組成中の賦形剤/添加物の相対量にもよる。更に具体的には、組成物は少なくとも、重量にして2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%以上のうちのいずれかのパーセントのプロドラッグを含む。
【0173】
経口投与に適した本発明の組成物は、別個の単位、例えばカプセル剤、サシェ、錠剤、ロゼンジ等として提供してもよく、これらはそれぞれ既定量の活性物質を粉末又は顆粒として、水溶液又は非水溶液の懸濁液、例えばシロップ、エリキシル、乳濁液、水溶液や、シロップ、エリキシル剤、乳濁剤、ドラフト等として含む。
【0174】
錠剤は、任意に1又は複数の付加成分を加えて、打錠成型または鋳型成型によって調製される。打錠成型による錠剤は、活性化合物の粉末や顆粒のように流動性のある剤型のものに、任意に結合剤、崩壊剤、潤滑剤、不活性希釈剤、表面活性剤または分散剤などを加えて、適切な機械で調製される。鋳型成型による錠剤は、適切な担体を加えて、適切な機械で鋳型を使って調製される。
【0175】
シロップ剤は活性化合物を、その他の付加成分を加えても良いが、例えば、ショ糖のような糖の濃縮水溶液に加えて調製される。そのような付加成分には、風味料、適切な防腐剤、糖の結晶化を遅らせるための試薬や例えば、グリセロールやソルビトールのように、多価アルコールのようなその他の成分の溶解度を増加させる試薬が含まれる。
【0176】
非経口投与に適した製剤は、便宜上、投与対象の血液と等張となるように調整できるプロドラッグ複合体の無菌水溶液から成る。
【0177】
点鼻スプレー剤は精製された活性物質の水溶液と防腐剤および等張化剤とを含んで成る。このような製剤は、pHと等張性が鼻の粘膜にあわせて調節されることが好ましい。
【0178】
直腸投与のための製剤は、ココアバターまたは、水素化された脂肪または水素化された脂肪カルボン酸などの適切な担体を加えて、座薬として調製される。
【0179】
点眼剤は、pHと等張性が、好ましくは目に適合するものである以外は点鼻スプレーと同じような方法で調製される。
【0180】
外用製剤はミネラルオイル、ペトロレウム、ポリヒドロキシアルコールまたは外用剤に使用されるその他の基剤の1又は複数の媒体に溶解あるいは懸濁させた活性化合物から成る。上記のような他の付加成分を加えることが望ましいかも知れない。
【0181】
医薬製剤はまた、吸入による噴霧剤に適したものも提供される。これらの製剤は望ましいポリマー複合体やその塩の溶液または懸濁液を含んで成る。望ましい製剤を小さな容器に入れ、噴霧する。噴霧は、複合体またはその塩を含んで成る多数の液滴または固体粒子を形成するために、圧縮空気や超音波エネルギーを用いて達成される。
【0182】
使用方法
本発明の多分岐ポリマープロドラッグは、如何なる動物にも、特にヒトを含めた哺乳動物において、修飾されない活性物質に反応する症状の全てを治療しまたは予防するために使用できる。
【0183】
本発明のプロドラッグは、特に抗癌剤として有用であり、例えば、生体を用いた試験である種の代表的な肺および結腸の癌の成長の有意な減少に効果があることが示された。特に、本発明のプロドラッグは、30日から80日の例証された期間において、同等の投与量を投与された場合に、対応する抗癌剤自体と比較して、ヒトの肺癌および結腸癌の成長の阻止に5倍近くより効果的であることが示された。
【0184】
本発明の他分岐ポリマープロドラッグは、特に、小分子薬物がここで述べたカンプトテシン化合物やその他の腫瘍溶解剤のような抗癌剤であるものは、乳癌、子宮癌、結腸癌、胃癌、悪性黒色腫、小細胞肺癌、甲状腺癌、腎臓癌、胆管癌、悪性脳腫瘍、リンパ腫、白血病、横紋筋肉腫、および神経芽腫などの治療に有用である。本発明のプロドラッグは、特に固型腫瘍を標的とし、そこに蓄積することに効果的である。本発明のプロドラッグはまた、HIVやその他のウィルス感染の治療に有用である。
【0185】
処置方法は、治療の必要な哺乳動物に本発明のポリマープロドラッグを含む医薬組成物あるいは製剤の治療上の有効量を投与することを含んで成る。
【0186】
どの特定のプロドラッグもその治療上の有効量は、複合体間、患者間で異なり、また患者の病状、使用された特定の活性物質の活性、および薬物送達のルートに左右される。
【0187】
カンプトテシンのタイプの活性物質については、約0.5から約100mgのカンプトテシン/kg体重、好ましくは、約10.0から約60mg/kgの投与量が良いとされる。他の医薬としての活性物質が併用される場合には、それ以下のプロドラッグでも治療上有効であるかも知れない。
【0188】
治療法はまた、ここで述べるカンプトテシン化合物の多分岐ポリマープロドラッグを含んだ医薬組成物または製剤の有効量を二義的な抗癌剤と併用することも含める。好ましくは、そのようなカンプトテシンのタイプのプロドラッグは米国特許番号6,403,569に記載されるように5-フルオロウラシルや葉酸との併用が望ましい。
【0189】
本発明のプロドラッグは、一日に一回または複数回、好ましくは一日に一回またはそれ以下の回数で投与されても良い。治療期間は、一日一回で2から3週間の期間としてもよいし数ヶ月から数年にわたって続けても良い。一日量は、個別の投与単位の形であるいは数個のより少量の単位で、単回投与してもよいし、ある間隔をおいて、分割した量を複数回投与しても良い。
【実施例】
【0190】
本発明はある種の好ましい特定の態様について説明してきたが、以下の実施例と同様に前述の説明は例示のためであって、本発明の適用領域を限定する意図ではないことが理解されるべきである。本発明の適用領域内のその他の局面、利点や修正については、本発明の当業者には自明であろう。
【0191】
添付された実施例において言及されるPEG試薬は全て、ネクターテラピューティクス(Nektar Therapeutics)、ハンツビル、アラバマから入手できる。全ての1HNMRのデータはブルカー(Bruker)社で製造された300または400 MHzのNMRスペクトロメーターによって得られた。
【0192】
省略語
DCM ジククロロメタン
DCC ジシクロへキシルカルボジイミド
DMAP ジメチルアミノピリジン
HCl 塩酸
MeOH メタノール
CM カルボキシメチレン
HOBT ヒドロキシベンジルトリアゾール
TFA トリフルオロ酢酸
RT 室温
SCM スクシニミジル
【0193】
実施例1:ペンタエリスリトリル-4-アーム-(PEG-1-メチレン-2オキソビニルアミノ酢酸結合-イリノテカン)-20K
A.t-Boc-グリシン-イリノテカンの合成
【化14】

【0194】
フラスコに、0.1gイリノテカン(0.1704 mmoles)、0.059g t-Boc-グリシン(0.3408 mmoles)、と0.021gDMAP(0.1704 mmoles)をとって13 mL の無水ジクロロメタン(DCM)に溶解させた。その溶液に、0.070gのDCC(0.3408 mmoles)を2 mLの無水DCMに溶かしたものを加えて、室温で一夜、攪拌した。固体を粗いフリットを通して除き、溶液を分離漏斗を使って10 mLの0.1NのHClで洗浄した。有機層をさらに10 mLの脱イオン水で、分離漏斗を使って洗い、Na2SO4で乾燥させた。溶媒をロータリーエヴァポレーションでとばし、産物をさらに真空下で乾燥させた。1HNMR(DMSO):δ0.919(t、CH2CH3)、1.34(s、C(CH3)3、3.83(m、CH2)、7.66(d、芳香族性H)。
【0195】
B.t-Boc-グリシン-イリノテカンの脱保護基
【化15】

【0196】
0.1gのt-Boc-グリシン-イリノテカン(0.137 mmoles)を7 mLの無水DCMに溶解させた。その溶液に0.53 mLのトリフルオロ酢酸(6.85 mmoles)を加えた。その溶液を室温で一時間攪拌した。溶媒をロータリーエヴァポレーションでとばした。疎生成物を0.1mLのメタノールに溶解させ、25 mLのエーテルで沈殿させた。懸濁液を氷槽中で30分間攪拌した。生成物をろ過して集め、真空下で乾燥させた。1HNMR(DMSO):δ0.92(t、CH2CH3)、1.29(t、CH2CH3)、5.55(s、2H)、7.25(s、芳香族性H)。
C.活性化多分岐ポリマーのグリシンイリノテカンとの共有結合
【化16】

【0197】
0.516gのグリシン-イリノテカン(0.976 mmoles)、3.904gの4分岐-PEG(20K)-CM(0.1952 mmoles)、0.0596gの4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP、0.488 mmoles)、および0.0658gの2-ヒドロキシベンジルトリアゾール(HOBT、0.488mmoles)を60 mLの無水塩化メチレンに溶解させた。その溶液に0.282gの1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、1.3664 mmoles)を加えた。反応混合物を室温で一夜、攪拌した。その混合物を粗いフリットでろ過し、溶媒はロータリーエヴァポレーションでとばした。シロップを氷槽上で、200 mLの冷イソプロパノールを使って沈殿させた。固型物はろ過して収穫し真空下で乾燥させた。収量:4.08g
1HNMR(DMSO):δ0.909(t、CH2CH3)、1.28(m、CH2CH3)、3.5(br m、PEG)、3.92(s、CH2)、5.50(s、2H)。
【0198】
実施例2:ペンタエリスリトール-4-分岐-(PEG-1-メチレン-2オキソ-ビニルアミノ酢酸塩連結型イリノテカン)-20K,“4-分岐‐PEG-GLY-IRINO-20K”のマウスの異種移植モデルにおける抗腫瘍活性
人のHT29結腸癌を無胸腺ヌードマウスの皮下に異種移植した。十分な腫瘍の成長(100から250 mg)が見られた約2週間後に、これらの動物を10匹づつの群に分けた。一つの群は生理食塩水(対照群)、二番目の群は60 mg/kgのイリノテカン、3番目の群は60 mg/kgの4-分岐‐PEG-GLY-Irino-20K(投与量はイリノテカン含量あたりで計算)を投与した。投与は静注により、4日毎に一回の投与で合計3回投与を行った。マウスは毎日観察し、腫瘍は、ノギスを用いて、週二回計測した。図1に、無胸腺ヌードマウスにおけるHT29結腸癌に対するイリノテカンとPEG-イリノテカンの効果を示す。
【0199】
図1に示した結果から明らかなように、イリノテカンと4-分岐-PEG-GLY-Irino-20Kの両方を投与されたマウスは、対照群と比較して有意に増強された腫瘍成長の遅れ(抗腫瘍活性)を示した。さらに、複合体化さていないイリノテカンを投与されたマウスと比較して、4-分岐‐PEG-GLY-Irino-20Kを投与された群は、腫瘍成長の遅れが有意に延長された。
【0200】
実施例3:ペンタエリスリトリル‐4-分岐-(PEG-1-メチレン-2-オキソ-ビニルアミノ酢酸塩連結型イリノテカン)-40K、“4-分岐-PEG-GLY-IRINO-40K”の合成
4-分岐-PEG-GLY-IRINO-40Kは、実施例1で説明した20K化合物と全く同じ要領で調製されたが、例外として、ステップCにおいて、使用された活性化された多分岐PEG
試薬は4-分岐-PEG(40K)-CMであって、20K化合物ではない。
【0201】
実施例4:ペンタエリスリトリル-4-分岐-(PEG-1-メチレン-2オキソビニルアミノ酢酸塩連結型SN-38)-20K、“4-分岐-PEG-GLY-SN-38-20K”の合成
4-分岐-PEG-GLY-SN-38-20Kは実施例1に説明した、これに対応するイリノテカンの場合と同様に調製したが、但し、用いた活性物質はイリノテカンではなく、活性のあるカンプトテシン代謝産物のSN-38であり、SN-38のフェノール-OHは化学変換中はMEMC1(塩化2-メトキシエトキシメチル)で保護され、次に望ましい多分岐複合体を提供するためにTFAで脱保護された。
【0202】
実施例5:ペンタエリスリトリル-4-分岐-(PEG-1-メチレン2-オキソビニルアミノ酢酸塩連結型SN-38)-40K、“4-分岐-PEG-GLY-SN-38-40K”の合成
4-分岐-PEG-GLY-SN-38-40Kは上記の20K化合物と同様に調製したが、但し、用いた活性化多分岐PEG試薬は、20K化合物ではなくて、4-分岐-PEG(40K)-CMであった。
【0203】
実施例6:追加の異種移植試験
本発明の例示的な多分岐ポリマー複合体の薬効を試すために、さらに追加のマウスを使った異種移植試験を実施した。
【0204】
無胸腺マウスに、ヒトの癌細胞株(肺癌細胞株NCI-H460および結腸癌細胞株HT-29)を皮下移植し、腫瘍が約150 mgのサイズになるまで成長させた。動物は10匹づつの群に分けた。
【0205】
以下のように多種類の化合物と投与量について評価を行った。それらは、イリノテカン(40、60および90 mg/kg)、4-分岐‐PEG-GLY-Irino-20K(40、60および90 mg/kg)、4-分岐‐PEG-GLY-Irino-40K (40、60および90 mg/kg)、4-分岐-PEG-GLY-SN-38-20K(7.5,15,30 mg/kg)、4-分岐-PEG-GLY-SN-38-40K(7.5,15,30 mg/kg)である。投与は静脈内投与により、4日毎に一回の投与で合計3回の投与を行った。
【0206】
腫瘍塊の大きさの計測は、60-80日間にわたって行われ、腫瘍の大きさは腫瘍の重量に換算された。体重減少の徴候を示すために、体重も同一の期間中測定された。その結果を図2-5にグラフで示す。
【0207】
実施例7:PK試験−マウスにおける結腸腫瘍異種移植
多分岐PEG-イリノテカンと修飾をうけていないイリノテカンの単回投与による薬物動態比較試験を、親薬物と代謝物の腫瘍内分布を調べるためにヌードマウスを用いて実施した。
【0208】
この試験は108匹のヌードマウスを用いて、各群あたり36匹のマウスとし、各サンプル条件あたり4匹のマウスを割り当てた。薬物は静脈内注入による、単回投与とした。薬物と投与量を以下に示す。例えば、イリノテカン(40 mg/kg)、4-分岐‐PEG-GLY-Irino-20K(40 mg/kgに相当する量)、4-分岐‐PEG-GLY-Irino-40K (40 mg/kgに相当する量)であった。静脈血漿と腫瘍組織サンプルを、20分、40分および1、2、4、12、24,48と72時間後に採取し、4-分岐‐PEG-GLY-Irino-20K、4-分岐‐PEG-GLY-Irino-40K 、イリノテカンおよびSN-38の濃度を測定した。結果のプロットは、図6から13に示す。
【0209】
図6-13にみられるように、血漿に比較した腫瘍組織における多分岐PEG化された化合物の減少率に基づき、PEG化された化合物は、その修飾を受けていない親化合物に比べて、腫瘍での滞留時間が明らかに延長されていることが示された。
【0210】
代謝産物の結果をみると、PEG化された化合物に由来するSN-38の濃度は、72時間の期間の終わりには増加しているようであるが、イリノテカンに由来するSN-38は本質的に12時間以内に消失している。概略すると、同じ72時間のサンプル採取時間内において、PEG化された化合物のいずれの投与の後SN38に対する腫瘍の曝露は、イリノテカンの場合のほぼ5倍である。さらに概略すると、PEG化された化合物は両者とも、修飾されていない薬物と比較して、生体内腫瘍モデルの両方において腫瘍成長(結腸および肺)の阻害の増強を提供する。更に具体的には、PEG化された化合物は両者とも、修飾されていない薬物と比較して、マウス異種移植モデルにおいて腫瘍成長の著しく抑制することが示され、このことはこのような化合物の抗癌剤としての薬効を示唆する。最後に、ここで説明した多分岐PEG化イリノテカン化合物は、イリノテカン自体に比べて、ラットにおいて下痢を起こさせる作用が弱いようである。
【0211】
実施例8:ペンタエリスリトリル-4-分岐-(PEG-2-{2-[2-1-ヒドロキシ-2-オキソ-ビニルオキシ]-エトキシ]-エチルアミノ}-プロペン-1-オン連結型イリノテカン)-20Kおよび -40Kの合成
【化17】

【0212】
A.2-(2-t-Boc-アミノエトキシ)エタノール(1)
2-(2-アミノエトキシ)エタノール(10.5 g、0.1 mol)とNaHCO3(12.6 g、0.15 mol)を100 mLのCH2Cl2と100 mLのH2Oに加えた。その溶液を室温で10分間攪拌し、ジ-tert-ブチル-ジカルボン酸塩(21.8 g、0.1 mol)を加えた。その結果、得られた溶液を室温で一夜、攪拌しCH2Cl2(3x100 mL)で抽出した。有機層を合わせて、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、真空下で残りの溶媒を蒸発させた。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:CH3OH=50:1〜10:1)にかけて2-(2-t-Boc-アミノエトキシ)エタノール(1)(16.0 g、78 mmol、収率78%)を得た。
【0213】
B.2-(2-t-Boc-アミノエトキシ)エトキシカルボニル-イリノテカン(2)
2-(2-t-Boc-アミノエトキシ)エタノール(1)(12.3 g、60 mmol)と4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(14.6 g、120 mmol)を200 mlの無水CH2Cl2に溶解させた。トリホスゲン(5.91 g、20 mmol)を、室温で攪拌しながらその溶液に加えた。20分後に、その溶液を、イリノテカン(6.0 g、10.2 mmol)とDMAP(12.2 g、100 mmol)を無水CH2Cl2に溶かした液に加えた。それを室温で2時間攪拌して反応させ、DMAPを除くためにHCl溶液(pH=3、2 L)で洗った。有機層を合わせて、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。乾燥させた溶液を真空下で溶媒を蒸発させ、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:CH3OH=40:1〜10:1)にかけて2-(2-t-Boc-アミノエトキシ)エトキシカルボニル-イリノテカン(2)(4.9 g、6.0 mmol、収率59%)を得た。
【0214】
C.2-(2-アミノエトキシ)エトキシカルボニル-イリノテカン トリフルオロ酢酸塩 (3)
2-(2-t-Boc-アミノエトキシ)エトキシカルボニル-イリノテカン(2)(4.7 g、5.75 mmol)を60 mLのCH2Cl2に溶解させ、トリフルオロ酢酸(TFA)(20 mL)を室温で加えた。
反応溶液を二時間攪拌した。溶媒は真空下で除き、残渣はエチルエーテルを加えてろ過し黄色い固型の生成物3を得た(4.3 g、収率90%)。
【0215】
D.4-分岐-PEG20Kカルボン酸-イリノテカン(4)
4-分岐-PEG20KSCM(16.0 g)を200 mLのCH2Cl2に溶解させた。2-(2-アミノエトキシ)エトキシカルボニル-イリノテカン TFA塩(3)(2.85 g、3.44 mmol)を12 mLのDMFに溶解させ、0.6 mLのTEAで処理し、4-分岐-PEG20KSCMの溶液に加えた。室温で12時間攪拌して反応させ、エタノールを用いて沈殿させ、固型の生成物を得て、それを50℃で500 mLのIPAに溶解させた。その溶液を室温まで冷まして、生じた沈渣をろ過して採取し、4-分岐-PEG20Kグリシン-イリノテカン(4)(16.2 g、HPLC分析に基づく薬物含量は7.5%)を得た。収率は60%であった。
【0216】
E.4-分岐-PEG40K-カルボン酸-イリノテカン(5)
4-分岐-PEG40K-SCM(32.0 g)を400 mLのCH2Cl2に溶解させた。2-(2-アミノエトキシ)エトキシカルボニル-イリノテカン TFA塩(3)(2.85 g、3.44 mmol)を12 mLのDMFに溶解させ、0.6 mLのTEAで処理し、4-分岐-PEG20KSCMの溶液に加えた。室温で12時間攪拌して反応させ、エタノールを用いて沈殿させ、固型の生成物を得て、それを50℃で1000 mLのイソプロピルアルコール(IPA)に溶解させた。その溶液を室温まで冷まして、生じた沈渣をろ過して採取し、4-分岐-PEG20Kグリシン-イリノテカン(4)( g、HPLC分析に基づく薬物含量は3.7%)を得た。収率は59%であった。
【0217】
本発明の多くの修正や他の態様が、前述の説明によって教示されたことにより、本発明に関係する当業者によって考えられるであろう。従って、本発明は開示された特定の態様に限定されることなく、修正や他の態様も、添付された請求項の適用領域に含まれるということを理解するべきである。本明細書では、特定の用語が用いられたが、それらは包括的で説明的であるという意味でのみ使われたもので、制限をもたらすことが目的ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造:R(−Q−POLY1−X−D)q
[ここで、
Rは約3〜約150の炭素原子を持った有機ラジカルであり、
Qはリンカーであり、
POLY1は水溶性で非ペプチド性のポリマーであり、
Xは、加水分解時にDが放出されるような加水分解可能な連結部を含んで成るスペーサーであり、
Dは小分子であり、
qは3以上である。]
を有する多分岐ポリマープロドラッグ。
【請求項2】
Rが、約3〜約50の炭素原子、約3〜約25の炭素原子および約3〜10の炭素原子から成る群から選択される炭素原子の数を有する、請求項1に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項3】
Rが3,4,5,6,7,8,9および10から成る群から選択される炭素原子数を有する、請求項2に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項4】
Rが直鎖状あるいは環状である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項5】
RがQと一緒になってポリオール、ポリチオールまたはポリアミンの残基である、請求項4に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項6】
RがQと一緒になって、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールまたはグリセロールオリゴマーの残基である、請求項5に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項7】
Qが加水分解に安定である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項8】
Qがヘテロ原子を含んで成る、請求項7に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項9】
Qが約1〜約10の原子を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項10】
QがO,Sおよび−NH-C(O)から成る群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項11】
POLY1が、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、多糖、ポリ(α-ヒドロキシ酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N-アクリロイルモルホリン)またはそれらの共重合体もしくは三元重合体から成る群から選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項12】
POLY1がポリエチレングリコールである、請求項11に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項13】
POLY1が直鎖状である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項14】
POLY1の公称平均分子量が約200〜約30,000ダルトンまたは約500〜約20,000ダルトンの範囲にある、請求項1〜13のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項15】
プロドラッグの公称平均分子量が約20,000ダルトンを超える、請求項1〜14のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項16】
Xが約4原子〜約50原子または約5原子〜約25原子の原子長を有する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項17】
XがY-Zの構造を持ち、Yが、加水分解によって分解可能な連結部であるZに共有結合したスペーサーフラグメントである、請求項16に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項18】
Yが−(CRxy)a−K−(CRxy)b−(CH2CH2O)c−の構造を持ち、
xとRyがそれぞれ、各々の存在につき、独立してH、またはアルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリールおよび置換アリールから成る群から選択される有機ラジカルであり、
aが0〜12の範囲にあり、
bが0〜12の範囲にあり、
Kが、-C(O)-、-C(O)NH-、-NH-C(O)-、-O-、-S-、O-C(O)-、C(O)-O-、O-C(O)-O-、O-C(O)-NH-、-NH-C(O)-O-から成る群から選択され、
cが0〜25の範囲にある、請求項17に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項19】
ZがC(O)-O-、O-C(O)-O-、-O-C(O)-NH-およびNH-C(O)-O-から成る群から選択される、請求項17または18に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項20】
Yが-(CH2)a-C(O)NH-(CH2)0,1-(CH2CH2O)0-10-の構造を有する、請求項17〜19のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項21】
Yが-(CRxy)a-K-(CRxy)b-(CH2CH2NH)c-の構造を有し、
xとRyがそれぞれ、各々の存在につき、独立してH、またはアルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリールおよび置換アリールから成る群から選択される有機ラジカルであり、
aが0〜12の範囲にあり、
bが0〜12の範囲にあり、
Kが、-C(O)-、-C(O)NH-、-NH-C(O)-、-O-、-S-、O-C(O)-、C(O)-O-、O-C(O)-O-、O-C(O)-NH-、NH-C(O)-O-から成る群から選択され、
cが0〜25の範囲にある、請求項17に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項22】
xとRyがそれぞれ、各々の存在につき、独立してHまたは低級アルキルである、請求項18または21に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項23】
Xが-CH2-C(O)-NH-CH2-C(O)O-または-CH2-C(O)-NH-(CH2CH2O)2-C(O)-O-である、請求項16に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項24】
qが約3〜約50、約3〜25および約3〜10から成る群から選択される値を有する、請求項1〜23のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項25】
qの値が3、4、5、6、7、8、9および10から成る群から選択される、請求項24に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項26】
前記“q”個のポリマー分岐(−Q−POLY1−X−D)のそれぞれが同一である、請求項1〜25のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項27】
Dが約800未満の分子量を持つ小分子である、請求項1〜26のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項28】
Dが抗癌剤である、請求項1〜27のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項29】
Dが、カンプトテシン、プラチン、オキシモルフォン類似体、ステロイド、キノロンおよびヌクレオシドから成る群から選択される小分子である、請求項1〜27のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項30】
Dが、シスプラチン、ヒドロキシプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ナロキソン、メチルナルトレキソン、オキシモルフォン、コデイン、オキシコドン、モルフォン、ブデソニド、トリアムシノロン、フルチカソン、シプロフロキサシン、モキシフロキサシン、パロノセトロン、ジェミシタビン、クラドリビンおよびリン酸フルダラビンから成る群から選択される、請求項29に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項31】
Dが、構造:
【化1】

[ここで、
1-R5は、それぞれ独立して、水素、ハロ、アシル、アルキル(例えば、C1−C6アルキル)、置換アルキル、アルコキシ(例えば、C1−C6アルコキシ)、置換アルコキシ、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、アジド、アミド、ヒドラジン、アミノ、置換アミノ(例えば、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノ)、ヒドロキシカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、カルバモイルオキシ、アリールスルホニルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、−C(R7)=N−(O)i−R8(ここで、R7はH、アルキル、アルケニル、シクロアルキルまたはアリールであり、iは0または1であり、R8はH、アルキル、アルケニル、シクロアルキルまたはヘテロ環である)、およびR9C(O)O−(ここで、R9はハロゲン、アミノ、置換アミノ、ヘテロ環、置換ヘテロ環である)、またはR10−O−(CH2)m−(ここで、mは1〜10の整数であり、R10はアルキル、フェニル、置換フェニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロ環または置換ヘテロ環である)から成る群から選択され;あるいは
2とR3またはR3とR4が置換型または未置換型のメチレンジオキシ、エチレンジオキシまたはエチレンオキシを形成し、
6はHまたはOR’(ここで、R’はアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ハロアルキルまたはヒドロキシアルキルである)であり、
LはXの連結部である]
を有するカンプトテシン化合物である、請求項28に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項32】
Dが、構造:
【化2】

を有する、請求項31に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項33】
構造:
【化3】

[ここで、nは40〜500の範囲にある。]
を有する、請求項31に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項34】
プロドラッグの公称平均総分子量が約20,000〜約80,000の範囲にある、請求項33に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項35】
構造:
【化4】

[ここで、nは40〜500の範囲にある。]
を有する、請求項31に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項36】
構造:
【化5】

を有する、請求項35に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項37】
プロドラッグの公称平均総分子量が約20,000〜約80,000の範囲にある、請求項35または36に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項38】
請求項1〜37のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグを含んで成る医薬組成物。
【請求項39】
固形腫瘍型の癌にとって適切な動物モデルにおいて評価し、且つ治療上の有効量を投与した場合に、未修飾の抗癌剤について30日間かけて評価した場合に観察されるものの少なくとも1.5倍程度にまで腫瘍の増殖を抑制するのに有効である、請求項28および31〜37のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項40】
固形腫瘍型の癌にとって適切な動物モデルにおいて評価し、且つ治療上の有効量を投与した場合に、未修飾の抗癌剤について同様に30日間投与した場合に観察されるものの少なくとも2倍程度にまで腫瘍の増殖を抑制するのに有効である、請求項39に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項41】
固形腫瘍型の癌にとって適切な動物モデルにおいて評価し、且つ治療上の有効量を投与した場合に、未修飾の抗癌剤について60日間投与した場合に観察されるものの少なくとも1.5倍程度にまで腫瘍の増殖を抑制するのに有効である、請求項28および31〜37のいずれか1項に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項42】
固形腫瘍型の癌にとって適切な動物モデルにおいて評価し、且つ治療上の有効量を投与した場合に、未修飾の抗癌剤について同様に60日間投与した場合に観察されるものの少なくとも2倍程度にまで腫瘍の増殖を抑制するのに有効である、請求項41に記載の多分枝ポリマープロドラッグ。
【請求項43】
プロドラッグを哺乳類の対象に送達する方法であって、
(i)請求項1〜42のいずれか1項に記載の多分岐ポリマープロドラッグを準備し、そして
(ii)前記プロドラッグを必要とする哺乳類の対象に対し治療上有効量投与すること、
を含んで成る方法。
【請求項44】
哺乳類の対象のトポイソメラーゼI阻害剤関連疾患を処置する方法であって、治療上有効量の請求項31に記載の多分枝ポリマープロドラッグを、必要とされる哺乳類の対象に投与することを含んで成る方法。
【請求項45】
前記投与段階が、前記プロドラッグを非経口的に投与することを含んで成る請求項44に記載の方法。
【請求項46】
哺乳類の対象の固形腫瘍を標的とする方法であって、(i)治療上有効量の請求項28に記載の多分岐ポリマープロドラッグを1または複数の癌性固形腫瘍を有すると診断された対象に対し投与することを含み、投与の結果、前記プロドラッグが、前記抗癌剤を単独で投与して生じる固形腫瘍の阻害を上回って増大している前記対象の固形腫瘍の成長の阻害をもたらすのに有効である方法。
【請求項47】
Dが下記構造:
【化6】

[ここで、
1−R5は、それぞれ独立して水素、ハロ、アシル、アルキル(例えば、C1−C6アルキル)、置換アルキル、アルコキシ(例えば、C1−C6アルコキシ)、置換アルコキシ、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、アジド、アミド、ヒドラジン、アミノ、置換アミノ(例えば、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノ)、ヒドロキシカルボニル、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、カルバモイルオキシ、アリールスルホニルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、−C(R7)=N−(O)i−R8(ここで、R7はH、アルキル、アルケニル、シクロアルキルまたはアリールであり、iは0または1であり、R8はH、アルキル、アルケニル、シクロアルキルまたはヘテロ環である)、およびR9C(O)O−(ここで、R9はハロゲン、アミノ、置換アミノ、ヘテロ環、置換ヘテロ環である)、またはR10−O−(CH2)m−(ここで、mは1〜10の整数であり、R10はアルキル、フェニル、置換フェニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロ環または置換ヘテロ環である)から成る群から選択され;あるいは、
2とR3またはR3とR4が置換型または未置換型のメチレンジオキシ、エチレンジオキシまたはエチレンオキシを形成し、
6はHまたはOR’(ここで、R’はアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ハロアルキルまたはヒドロキシアルキルである)であり、
LはXに対する結合部位である]
を有するカンプトテシン化合物であり、
多分岐ポリマープロドラッグの公称平均分子量が約15,000を超える、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
Dがイリノテカンである化合物である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
請求項1〜37のいずれか1項に記載の多分岐ポリマープロドラッグを調製する方法であって、
(i)加水分解可能な連結部Zを形成するのに適切な官能基Fを含んで成る小分子Dを準備し、
(ii)前記小分子を、第一および第二官能基としてそれぞれF1およびF2を含んで成る二官能性のスペーサーY’(ここで、F2はFとの反応に適しており、F1は任意に保護された形態(F1−Y’−F2)である)と、FおよびF2(D−Z−Y’−F1)の反応から生じる加水分解可能な連結部Zを含んで成る部分的に修飾された活性物質を形成するのに有効な条件下で反応させ、
(iii)保護された形態にある場合に必要であれば、(ii)由来の部分的に修飾された活性物質に含まれるF1を脱保護し、そして
(iv)部分的に修飾された活性物質D−Z−Y’−F1を、
構造:R(−Q−POLY1-F3)q
[ここで、
Rは約3〜約150の炭素原子を持つ有機ラジカルであり、
Qはリンカーであり、
POLY1が水溶性で非ペプチド性のポリマーであり、
qは3以上であり、そして
F3はF1と反応する官能基である。]
を有する多分岐水溶性ポリマーと、
Y’をYに変換させるためのF3およびF1間の反応を促進するのに有効な反応条件下で反応させ、それにより、構造:R(−Q−POLY1−Y−Z−D)q[ここで、Yはスぺーサーフラグメントであり、Zは加水分解によってDを放出する加水分解可能な連結部である。]を有するポリマープロドラッグを形成することを含んで成る方法。
【請求項50】
ステップ(iii)において、“q”モルを超える化学量論的に過剰量の部分的に修飾された活性物質D−Z−Y’−F1を、多分岐で水溶性のR(−Q−POLY1−F3)qと反応させる、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記小分子DがF2と反応する追加の官能基を含んで成り、前記追加の官能基を、前記二官能性のスペーサーと反応させる前に適当な保護基で保護することを更に含んで成る、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
(iv)前記プロドラッグR(−Q−POLY1−Y−Z−D)qの小分子から前記保護基を除くことをさらに含んで成る、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
請求項1〜37のいずれか1項に記載の多分岐ポリマープロドラッグを調製する方法であって、
(i)構造:R(−Q−POLY1−F3)q
[ここで、
Rは約3〜約150の炭素原子を持つ有機ラジカルであり、
Qはリンカーであり、
POLY1は水溶性で非ペプチド性のポリマーであり、
qは3以上であり、
F3は反応性官能基である。]
を有する反応性多分岐ポリマーを準備し、
(ii)前記多分岐ポリマーを、第一および第二官能基としてそれぞれF1およびF2を含んで成る二官能性のスペーサーY’(ここで、F1はF3との反応に適しており、F1は任意に保護形態(F1−Y’−F2)である)と、F3およびF1の反応から生じる多分枝ポリマーの中間体R(−Q−POLY1−Y−F2)qを形成するのに有効な条件下で反応させ、そして
(iii)保護された構造である場合に必要であれば、多分岐ポリマーの中間体R(−Q−POLY1−Y−F2)q内のF2を脱保護し、そして
(iv)多分岐ポリマーの中間体R(−Q−POLY1−Y−F2)qを、FおよびF2の反応によって加水分解可能な連結部Zを形成するのに適した官能基Fを含んで成る小分子Dと、構造:R(−Q−POLY1−Y−Z−D)q[ここで、Zは加水分解時にDを放出する加水分解可能な連結部である]を有するプロドラッグの形成に有効な条件下で反応させることを含んで成る方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−213727(P2011−213727A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−137790(P2011−137790)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【分割の表示】特願2006−527105(P2006−527105)の分割
【原出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(597148884)ネクター セラピューティクス (30)
【Fターム(参考)】