説明

多分岐ポリマー及びその製造方法

【課題】フラノース環を有するアンヒドロフラノース及びその類縁体の重合による多分岐ポリマー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(式中、R1、R2、及びR3は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基である。)で示される少なくとも1種の化合物の重合体、または一般式(1)で示される化合物と一般式(2)〜(10)で示される群から選ばれる少なくとも1種の化合物(一般式(2)〜(10)は明細書に記載のとおり。)との共重合体からなる多分岐ポリマー及びそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性のハイドロゲル等の医用基盤材料など種々の機能性材料として有用な糖またはその類縁体由来の多分岐ポリマー、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機合成的手法による糖及びその誘導体を用いる多分岐ポリマーの合成は、アンヒドロピラノース及びその誘導体の開環重合により行なわれている(特開2003-252904号公報;特許文献1)。また、エポキシ環を有するアンヒドロ糖アルコール及びその誘導体(特開2004-256804号公報;特許文献2)、あるいは、テトラヒドロフラン環を有するアンヒドロ糖アルコール及びその誘導体の開環重合により行なわれている(特開2005-248120号公報;特許文献3)。
しかしながら、これらの方法では、ピラノース環を有するアンヒドロピラノース及びその誘導体の重合、エポキシ環を有するアンヒドロ糖アルコール及びその誘導体の重合、テトラヒドロフラン環を有するアンヒドロ糖アルコール及びその誘導体の重合に限定され、フラノース環を有するアンヒドロフラノース及びその類縁体の重合による多分岐ポリマーの合成が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−252904号公報
【特許文献2】特開2004−256804号公報
【特許文献3】特開2005−248120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、フラノース環を有するアンヒドロフラノース及びその類縁体の重合による多分岐ポリマー及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、完成されたものであり、下記のフラノース環を有するアンヒドロフラノース及びその類縁体を重合して得られる多分岐ポリマー及びその製造方法を提供する。
【0006】
[1] 一般式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、及びR3は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基である。)
で示される少なくとも1種の化合物の重合体からなる多分岐ポリマー。
[2] 一般式(1)
【化2】

(式中、R1、R2、及びR3は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基である。)
で示される少なくとも1種の化合物と、一般式(2)〜(7)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基である。)
で示される群、または一般式(8)
【化9】

(式中、R5、R6、R7及びR8は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基であり;a、b、c及びdは同一または異なっていてもよく、0または1〜10の整数である。)
で示される群、または一般式(9)
【化10】

(式中、n個のRは同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基であり;nは1から10の整数である。)
で示される群、または一般式(10)
【化11】

(式中、m個のR9、n個のR10、R11、及びR12は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基であり;m及びnは同一または異なっていてもよく、0または1〜20の整数である。)
で示される群から選ばれる少なくとも1種の化合物との共重合体からなる多分岐ポリマー。
[3] 前記炭化水素基が、アルキル基、アリール基またはアリールアルキル基である前記[1]または[2]に記載の多分岐ポリマー。
[4] 前記炭化水素−O−基が、アルコキシ基である前記[1]または[2]に記載の多分岐ポリマー。
[5] 分岐度が、0.05〜1.00である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の多分岐ポリマー。
[6] 一般式(1)
【化12】

(式中の記号は前記[1]と同じ意味を表す。)
で示される少なくとも1種の化合物を、カチオン重合開始剤の存在下で重合させることを特徴とする多分岐ポリマーの製造方法。
[7] 一般式(1)
【化13】

(式中の記号は前記[2]の記載と同じ意味を表す。)
で示される少なくとも1種の化合物と、一般式(2)〜(7)
【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

(式中の記号は前記[2]の記載と同じ意味を表す。)
で示される群、または一般式(8)
【化20】

(式中の記号は前記[2]の記載と同じ意味を表す。)
で示される群、または一般式(9)
【化21】

(式中の記号は前記[2]の記載と同じ意味を表す。)
で示される群、または一般式(10)
【化22】

(式中の記号は前記[2]の記載と同じ意味を表す。)
で示される群の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を、カチオン重合開始剤の存在下で共重合させることを特徴とする多分岐ポリマーの製造方法。
[8] 前記炭化水素基が、アルキル基、アリール基またはアリールアルキル基である前記[6]または[7]に記載の多分岐ポリマーの製造方法。
[9] 前記炭化水素−O−基が、アルコキシ基である前記[6]または[7]に記載の多分岐ポリマーの製造方法。
[10] 前記多分岐ポリマーの分岐度が、0.05〜1.00である前記[6]〜[9]のいずれかに記載の多分岐ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水溶性の多分岐ポリマーを再現性よく、かつ大量に合成することができ、これにより多分岐ポリマーを工業的規模で機能材料として使用することができる。また、フラノース環を有するアンヒドロフラノース及びその類縁体の重合により得られる発明の多分岐ポリマーは、生分解性バイオプラスチック、バイオ接着剤などの化学原料、抗癌剤や抗HIV剤の原料、光学異性体分割剤などの機能性高分子材料として有用である。さらに、本発明により得られる多分岐ポリマーは、高い水溶性、低粘性、保水性、糖クラスター効果による分子認識性など多くの優れた機能性を有し、医用基盤材料や化粧品材料などへも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例2で作製した多分岐ポリマーの400MHz、1HNMR(溶媒:重水、25℃)の測定スペクトルを示す図である。
【図2】実施例2で作製した多分岐ポリマーの400MHz、13CNMR(溶媒:重水、25℃)の測定スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
前記一般式(1)〜(10)中、R及びR1〜R12が表す炭素数1〜30の炭化水素基の具体例としては、C1-30−アルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基、トリアコンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基;C2-30−アルケニル基、例えばビニル基、1−プロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基;C2-30−アルキニル基、例えばエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル(プロパルギル)基、3−ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基;C6-30−アリール基、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基;C7-30−アリールアルキル基、例えばベンジル基、フェネチル基が挙げられる。これらの中でも、C1-30−アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基)、C5-7−シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基)、C2-7−アルケニル基(例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基)、C5-7−シクロアルケニル基(例えば、シクロヘキセニル基)、C6-12−アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基)、C7-10−アリールアルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基)が好ましく、C1-4−アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基)、C6-12−アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基)、C7-10−アリールアルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基)が好ましい。
【0010】
R及びR1〜R12が表す炭素数1〜30の炭化水素−O−基とは、水酸基が前記の炭素数1〜30の炭化水素基で置換された置換基を意味し、具体例としては、C1-30−アルコキシ基、C2-30−アルケニルオキシ基、C2-30−アルキニルオキシ基、C6-30−アリールオキシ基、C7-30−アリールアルコキシ基が挙げらる。これらの中でも、C1-4−アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基)、C6-12−アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基)、C7-10−アリールアルコキシ基(例えば、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基)が好ましい。
【0011】
前記一般式(8)において、a、b、c及びdは同一または異なっていてもよく、0または1〜10の整数であるが、好ましくは0または1〜4の整数である。
【0012】
前記一般式(9)において、nは1〜10の整数であるが、好ましくは1〜4の整数である。
【0013】
前記一般式(10)において、m及びnは同一または異なっていてもよく、0または1〜20の整数であり、好ましくは0または1〜4の整数である。
【0014】
前記一般式(1)で示される化合物の具体例として、1,6−アンヒドロヘキソフラノース、少なくとも一つは水酸基を有するそのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体が挙げられる。中でも1,6−アンヒドロヘキソフラノースである1,6−アンヒドロアロフラノース、1,6−アンヒドロアルトフラノース、1,6−アンヒドログルコフラノース、1,6−アンヒドロマンノフラノース、1,6−アンヒドログロフラノース、1,6−アンヒドロイドフラノース、1,6−アンヒドロガラクトフラノース、1,6−アンヒドログルコフラノースが好ましい。
【0015】
前記一般式(2)で示される化合物の具体例として、1,6−アンヒドロヘキソピラノース、少なくとも一つは水酸基を有するそのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体が挙げられる。中でも1,6−アンヒドロヘキソピラノースである1,6−アンヒドロアロピラノース、1,6−アンヒドロアルトピラノース、1,6−アンヒドログルコピラノース、1,6−アンヒドロマンノピラノース、1,6−アンヒドログロピラノース、1,6−アンヒドロイドピラノース、1,6−アンヒドロガラクトピラノース、1,6−アンヒドログルコピラノースが好ましい。
【0016】
前記一般式(3)で示される化合物の具体例として、1,4−アンヒドロペントピラノース、少なくとも一つは水酸基を有するそのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体が挙げられる。中でも1,4−アンヒドロペントピラノースである1,4−アンヒドロリボピラノース、1,4−アンヒドロキシロピラノース、1,4−アンヒドロアラビノピラノース、1,4−アンヒドロリキソピラノースが好ましい。
【0017】
前記一般式(4)で示される化合物の具体例として、1,3−アンヒドロヘキソピラノース、少なくとも一つは水酸基を有するそのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体が挙げられる。中でも1,3−アンヒドログルコピラノース、1,3−アンヒドロマンノピラノースが好ましい。
【0018】
前記一般式(5)で示される化合物の具体例として、1,2−アンヒドロヘキソピラノース、少なくとも一つは水酸基を有するそのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体が挙げられる。中でも1,2−アンヒドログルコピラノース、1,2−アンヒドロマンノピラノースが好ましい。
【0019】
前記一般式(6)で示される化合物の具体例として、5,6−アンヒドロヘキソフラノース、少なくとも一つは水酸基を有するそのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体が挙げられる。中でも5,6−アンヒドログルコフラノース、5,6−アンヒドロアロフラノースが好ましい。
【0020】
前記一般式(7)で示される化合物の具体例として、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−グルシトール、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−マンニトール、及び少なくとも一つは水酸基を有するそれらのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体が挙げられる。中でも1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−グルシトール及び1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−マンニトールが好ましい。
【0021】
前記一般式(8)で示される化合物の具体例として、1,4−アンヒドロ−メソ−エリスリトール、1,4−アンヒドロ−L−トレイトール、2,5−アンヒドロ−D−マンニトール、2,5−アンヒドロ−ガラクチトール、2,5−アンヒドロ−グルシトール、及び少なくとも一つは水酸基を有するそれらのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体、3−ヒドロキシテトラヒドロフラン、テトラヒドロフルフリルアルコール等が挙げられる。中でも1,4−アンヒドロ−メソ−エリスリトール、1,4−アンヒドロ−L−トレイトール、2,5−アンヒドロ−D−マンニトール、2,5−アンヒドロ−ガラクチトール、2,5−アンヒドロ−グルシトールが好ましい。
【0022】
前記一般式(9)で示される化合物の具体例として、1,2:5,6−ジアンヒドロ−D−マンニトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−L−イジトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−アリトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−ガラクチトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−グルシトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−キシリトール、及び少なくとも一つは水酸基を有するそれらのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体が挙げられる。中でも1,2:5,6−ジアンヒドロ−D−マンニトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−L−イジトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−アリトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−ガラクチトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−グルシトール、1,2:5,6−ジアンヒドロ−キシリトールが好ましい。
【0023】
前記一般式(10)で示される化合物の具体例として、1,2−アンヒドロ−D−マンニトール、1,2−アンヒドロ−L−イジトール、1,2−アンヒドロ−アリトール、1,2−アンヒドロ−ガラクチトール、1,2−アンヒドロ−グリシトール、1,2−アンヒドロ−キシリトール、1,2−アンヒドロ−スレイトール、及び少なくとも一つは水酸基を有するそれらのメチルエーテル体、エチルエーテル体、アリルエーテル体、ベンジルエーテル体が挙げられる。中でも1,2−アンヒドロ−D−マンニトール、1,2−アンヒドロ−L−イジトール、1,2−アンヒドロ−アリトール、1,2−アンヒドロ−ガラクチトール、1,2−アンヒドロ−グリシトール、1,2−アンヒドロ−キシリトール、1,2−アンヒドロ−スレイトールが好ましい。
【0024】
本発明の多分岐ポリマーは、前記一般式(1)で示される少なくとも1種の化合物を、カチオン重合開始剤を用いて重合させることによって製造することができる。
【0025】
カチオン重合開始剤としては、従来公知のもの、例えば、スルフォニウムアンチモネートなどの熱カチオン開始剤や光カチオン開始剤、三フッ化ホウ素エーテラート、四塩化スズ、五塩化アンチモン、五フッ化リンなどのルイス酸、トリフルオロメタンスルホン酸やフルオロスルホン酸などのブレンステッド酸等を用いることができる。
重合開始剤の使用量は、原料化合物に対して、10質量%以下であり、好ましくは2質量%以下である。
【0026】
重合反応は、溶媒を用いない塊状重合及び有機溶媒を用いる溶液重合により行うことができる。有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルイミダゾリジン、1,4−ジオキサンなどの非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
重合反応の温度は、通常60〜220℃、好ましくは100〜160℃であり、重合時間は、通常1〜600分、好ましくは5〜120分である。
【0027】
本発明における重合反応は、原料である1,6位のエーテル結合が開環し、他の原料のエーテル結合へ求電子攻撃することで重合、さらに他の原料の水酸基と結合して進行し、その結果、分岐を繰り返した多分岐ポリマーが形成される。本発明による多分岐ポリマーは、樹枝状に近い形をしており、分岐鎖からもさらに分岐ができていると考えられる。
【0028】
前記一般式(1)において、R1、R2の2個が水酸基である化合物の重合体からなる多分岐ポリマーは、下記一般式(11)で示される形態をしているものと推定される。
【0029】
【化23】


(式中、R3は水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表す。)
【0030】
本発明の多分岐ポリマーにおいて、その分岐度は、好ましくは0.05〜1.00、より好ましくは0.35〜1.0である。この場合の多分岐度は、Frechetの式:[分岐度=(分岐ユニット数+ポリマー末端数)/(分岐ユニット数+ポリマー末端数+直鎖ユニット数)]によって算出される。このFrechtの式によると、直鎖状ポリマーの分岐度は0で、デンドリマーの分岐度は1となる。
【0031】
本発明による一般式(1)の化合物の重合体において、その分子量は(多角度光散乱法(MALS))は、5千以上、好ましくは1万以上である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により例証するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1:1,6−アンヒドロ−β−D−マンノフラノースのカチオン重合
窒素雰囲気下、シュレンク管内に1,6−アンヒドロ−β−D−マンノフラノース(1.0g、メチルマンノフラノシドより合成した。)及び乾燥プロピレンカーボネート(1.5mL、アルドリッチ、モノマー濃度4.0mol・L-1)を入れ、130℃に加熱して均一溶液とした後、重合開始剤として2−ブテニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(4.4μL、66wt%プロピレンカーボネート溶液、旭電化工業)を滴下し、重合を開始した。20分後、重合溶液をメタノール中に注ぎ重合を停止した。溶媒を留去後、残渣を水、メタノールで再沈殿することにより精製した。生成物(多分岐ポリマー)の収量610mg、重量平均分子量7.4×103(サイズ排除クロマトグラフィー(SEC),0.2mol・L-1硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分散度2.47。絶対分子量18.8×103(多角度光散乱法(MALS),0.2mol・L-1硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分岐度0.42(メチル化分析)。
【0034】
実施例2:1,6−アンヒドロ−α−D−ガラクトフラノースのカチオン重合
窒素雰囲気下、シュレンク管内に1,6−アンヒドロ−α−D−ガラクトフラノース(1.0g、ガラクトースより合成した。)及び乾燥プロピレンカーボネート(1.5mL、アルドリッチ、モノマー濃度4.0mol・L-1)を入れ、150℃に加熱して均一溶液とした後、重合開始剤として2−ブテニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(4.4μL、66wt%プロピレンカーボネート溶液、旭電化工業)を滴下し、重合を開始した。20分後、重合溶液をメタノール中に注ぎ重合を停止した。溶媒を留去後、残渣を水、メタノールで再沈殿することにより精製した。生成物(多分岐ポリマー)の収量550mg、重量平均分子量6.6×103(サイズ排除クロマトグラフィー(SEC),0.2mol・L-1硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分散度2.06。絶対分子量22.7×103(多角度光散乱法(MALS),0.2mol・L-1硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分岐度0.46(メチル化分析)。
【0035】
生成物の1HNMRスペクトル及び13CNMRスペクトルをそれぞれ図1及び図2に示す。図2の13CNMRスペクトルにおいて、1,6位のエーテル結合のみが開環して重合した直鎖のポリマー鎖では、60〜85ppm領域にC1からC5炭素に由来する5本の鋭いピーク及び100〜110ppm領域にC6炭素に由来する1本の鋭いピークが想定されるが、図2では100〜110ppm領域にC6炭素に由来するピークが、いくつにも分裂し、幅広くなっている。さらに他の炭素に由来するピークもいくつにも分裂し、幅広くなっていることから、多分岐状になっていることがわかる。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で測定した重量平均分子量が多角度光散乱法(MALS)で測定した絶対分子量よりも小さく出る。この傾向はポリマーの有効体積のちがいによるもので、多分岐ポリマーにはよく観察される現象である。
【0036】
実施例3:1,6−アンヒドロ−β−D−グルコフラノースのカチオン重合
窒素雰囲気下、シュレンク管内に1,6−アンヒドロ−β−D−マンノフラノース(1.0g、メチルグルコフラノシドより合成した。)及び乾燥プロピレンカーボネート(1.5mL、アルドリッチ、モノマー濃度4.0mol・L-1)を入れ、150℃に加熱して均一溶液とした後、重合開始剤として2−ブテニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(4.4μL、66wt%プロピレンカーボネート溶液、旭電化工業)を滴下し、重合を開始した。20分後、重合溶液をメタノール中に注ぎ重合を停止した。溶媒を留去後、残渣を水、メタノールで再沈殿することにより精製した。生成物(多分岐ポリマー)の収量600mg、重量平均分子量8.0×103(サイズ排除クロマトグラフィー(SEC),0.2mol・L-1硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分散度2.15。絶対分子量34.7×103(多角度光散乱法(MALS),0.2mol・L-1硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分岐度0.40(メチル化分析)。
【0037】
実施例4:1,6−アンヒドロ−α−D−ガラクトフラノースと1,6−アンヒドロ−β−D−ガラクトピラノースのカチオン共重合
窒素雰囲気下、シュレンク管内に1,6−アンヒドロ−α−D−ガラクトフラノースと1,6−アンヒドロ−β−D−ガラクトピラノース(それぞれ0.5g)及び乾燥プロピレンカーボネート(1.5mL、アルドリッチ、モノマー濃度4.0mol・L-1)を入れ、150℃に加熱して均一溶液とした後、重合開始剤として2−ブテニルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(4.4μL、66wt%プロピレンカーボネート溶液、旭電化工業)を滴下し、重合を開始した。20分後、重合溶液をメタノール中に注ぎ重合を停止した。溶媒を留去後、残渣を水、メタノールで再沈殿することにより精製した。生成物(多分岐ポリマー)の収量520mg、重量平均分子量6.9×103(サイズ排除クロマトグラフィー(SEC),0.2mol・L-1硝酸ナトリウム水溶液、40℃)、分散度2.47。絶対分子量17.3×103(多角度光散乱法(MALS),0.2mol・L-1硝酸ナトリウム水溶液、40℃)。
【0038】
生成物(多分岐ポリマー)の各種溶媒に対する溶解度(濃度:30mg/mL、溶解時間1時間)を表1に示す。表中、○は室温で可溶、△は50℃で可溶、×は不溶を表す。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、及びR3は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基である。)
で示される少なくとも1種の化合物の重合体からなる多分岐ポリマー。
【請求項2】
一般式(1)
【化2】

(式中、R1、R2、及びR3は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基である。)
で示される少なくとも1種の化合物と、一般式(2)〜(7)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基である。)
で示される群、または一般式(8)
【化9】

(式中、R5、R6、R7及びR8は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基であり;a、b、c及びdは同一または異なっていてもよく、0または1〜10の整数である。)
で示される群、または一般式(9)
【化10】

(式中、n個のRは同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基であり;nは1から10の整数である。)
で示される群、または一般式(10)
【化11】

(式中、m個のR9、n個のR10、R11、及びR12は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基または炭素数1〜30の炭化水素基あるいは炭化水素−O−基を表すが、そのうち少なくとも1つは水酸基であり;m及びnは同一または異なっていてもよく、0または1〜20の整数である。)
で示される群から選ばれる少なくとも1種の化合物との共重合体からなる多分岐ポリマー。
【請求項3】
前記炭化水素基が、アルキル基、アリール基またはアリールアルキル基である請求項1または2に記載の多分岐ポリマー。
【請求項4】
前記炭化水素−O−基が、アルコキシ基である請求項1または2に記載の多分岐ポリマー。
【請求項5】
分岐度が、0.05〜1.00である請求項1〜4のいずれかに記載の多分岐ポリマー。
【請求項6】
一般式(1)
【化12】

(式中の記号は請求項1と同じ意味を表す。)
で示される少なくとも1種の化合物を、カチオン重合開始剤の存在下で重合させることを特徴とする多分岐ポリマーの製造方法。
【請求項7】
一般式(1)
【化13】

(式中の記号は請求項2の記載と同じ意味を表す。)
で示される少なくとも1種の化合物と、一般式(2)〜(7)
【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

(式中の記号は請求項2の記載と同じ意味を表す。)
で示される群、または一般式(8)
【化20】

(式中の記号は請求項2の記載と同じ意味を表す。)
で示される群、または一般式(9)
【化21】

(式中の記号は請求項2の記載と同じ意味を表す。)
で示される群、または一般式(10)
【化22】

(式中の記号は請求項2の記載と同じ意味を表す。)
で示される群の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を、カチオン重合開始剤の存在下で共重合させることを特徴とする多分岐ポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記炭化水素基が、アルキル基、アリール基またはアリールアルキル基である請求項6または7に記載の多分岐ポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記炭化水素−O−基が、アルコキシ基である請求項6または7に記載の多分岐ポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記多分岐ポリマーの分岐度が、0.05〜1.00である請求項6〜9のいずれかに記載の多分岐ポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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