説明

多剤型半導体基板用洗浄剤、それを用いた洗浄方法及び半導体素子の製造方法

【課題】ゲート絶縁膜や基板などの損傷を抑制ないし防止し、半導体基板表面に付着した不純物、特に、イオン注入されたレジストなどの付着物を効率よく剥離でき、安全性に優れた多剤型半導体基板用洗浄剤、これを用いた洗浄方法及び半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体基板の洗浄時に少なくとも発泡剤と発泡助剤とを混合して使用する多剤型洗浄剤であって、前記発泡剤が炭酸アルキレンと炭酸塩とを含有し、前記発泡助剤が酸性化合物を含有し、さらに酸化剤を組み合わせて用いる半導体基板用洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多剤型半導体基板用洗浄剤、それを用いた洗浄方法及び半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子(半導体デバイス)の製造工程には、リソグラフィ工程、エッチング工程、イオン注入工程などの様々な工程が含まれている。各工程の終了後、次の工程に移る前に、基板表面に残存したレジスト残渣やその他の不純物などの付着物を剥離・除去して、基板表面を清浄にするための洗浄処理が実施されている。
【0003】
従来の洗浄処理方法として、濃硫酸と過酸化水素の混合溶液(以後、適宜SPMと称する)を用いて、レジスト残渣、微粒子、金属および自然酸化膜などを剥離洗浄するプロセスが多用されていた。該方法では付着物の剥離性には優れるものの、処理液の酸化力が強すぎるために処理時に高誘電率(high−k)材料などによって構成されるゲート絶縁膜や基板自体に損傷を与えることがあった。半導体デバイスの小型化が進んでいる昨今の実情を考慮すれば、このような破損が一部に生じたとしても、電気特性劣化を引き起こす原因となる。また、SPMを用いた方法では、薬品自体の危険性や、急激な温度上昇などが起こるといったことがあるため、作業安全の観点からは必ずしも満足できる方法ではなかった。
そのため、ゲート絶縁膜や基板などへの影響が少なく、より安全性に優れた洗浄技術が求められており、その一つとして、例えば、炭酸ガス雰囲気下で、炭酸アンモニウムを含有し、pHが7以上8.6未満である水溶液を用いる、アッシング残渣の洗浄方法が提案されていた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4017402号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、近年、半導体素子の製造プロセスの一つであるイオン注入工程(イオンインプランテーション)において、イオン注入量が増加の傾向にある。その際、イオン注入されたレジストは、炭化、架橋し、最表面が変質してしまうため、薬品などによってはその完全な剥離が困難となることが知られている。半導体デバイスに対する高信頼性化の要望が高まる中、基板表面の清浄化への要望はますます厳しいものになっており、上記のようなイオン注入されたレジストを含めた不純物のより効率的な除去のための洗浄液の開発が望まれている。
【0006】
本発明者らが、特許文献1に記載の洗浄方法で使用される洗浄液を用いて、上記のようなイオン注入されたレジストなどの剥離性について検討を行ったところ、必ずしも十分満足できる結果は得られず、さらなる改良が必要であった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、ゲート絶縁膜や基板などの損傷を抑制ないし防止し、半導体基板表面に付着した不純物、特に、イオン注入されたレジストなどの付着物を効率よく剥離でき、安全性に優れた多剤型半導体基板用洗浄剤、これを用いた洗浄方法及び半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は下記の手段により解決された。
【0009】
(1)半導体基板の洗浄時に少なくとも発泡剤と発泡助剤とを混合して使用する多剤型洗浄剤であって、前記発泡剤が炭酸アルキレンと炭酸塩とを含有し、前記発泡助剤が酸性化合物を含有し、さらに酸化剤を組み合わせて用いることを特徴とする半導体基板用洗浄剤。
(2)前記発泡剤と発泡助剤との混合により発泡剤の炭酸アルキレンないし炭酸塩と発泡助剤の酸性化合物を反応させて炭酸発泡させることを特徴とする(1)に記載の半導体基板用洗浄剤。
(3)さらに界面活性剤を組み合わせて用いることを特徴とする(1)又は(2)に記載の半導体基板用洗浄剤。
(4)前記炭酸アルキレンとして炭酸エチレン又は炭酸プロピレンを用いることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
(5)前記界面活性剤がノニオン性界面活性剤であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
(6)前記炭酸塩が、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸セシウム、炭酸ランタン、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン、炭酸ニッケル、炭酸ストロンチウム、アミノグアニジン炭酸塩、およびグアニジン炭酸塩からなる群から選ばれる炭酸塩であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
(7)混合後の半導体基板用洗浄剤全量に対して、前記炭酸塩の濃度が、0.1〜30質量%であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
(8)前記酸性化合物が、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アミノメタンスルホン酸、タウリン、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、およびスルファミン酸からなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
(9)前記酸化剤が、過酸化水素、硝酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、及び過マンガン酸塩からなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
(10)半導体基板の洗浄時に少なくとも発泡剤と発泡助剤とを混合して使用する多剤型洗浄剤による洗浄方法であって、前記発泡剤が炭酸アルキレンと炭酸塩とを含有し、前記発泡助剤が酸性化合物を含有し、さらに酸化剤を前記発泡剤及び発泡助剤の少なくとも一方に含有させ、あるいは酸化剤を前記発泡剤及び発泡助剤とともに混合して半導体基板を洗浄することを特徴とする半導体基板の洗浄方法。
(11)(10)に記載された洗浄方法を介して半導体素子を製造することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多剤型半導体基板用洗浄剤は、ゲート絶縁膜や基板などの損傷を抑制ないし防止し、半導体基板表面に付着した不純物、特に、イオン注入されたレジストなどの付着物を効率よく剥離することができ、しかも安全性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の半導体基板用洗浄剤は、半導体基板の洗浄時に少なくとも発泡剤と発泡助剤とを混合して使用する多剤型洗浄剤であって、前記発泡剤が炭酸アルキレンと炭酸塩とを含有し、前記発泡助剤が酸性化合物を含有し、さらに酸化剤を組み合わせて用いるものである。このとき酸化剤は、前記発泡剤及び/又は発泡助剤に含有させても、発泡剤及び発泡助剤とともに混合してもよい。かかる発明の構成を採用することにより、発泡剤の炭酸発泡成分が発泡助剤の酸性化合物と反応し炭酸ガス(CO)が生じ発泡する。この発泡が物理的に作用して好ましくは基板表面に付着する不純物(付着物)を破壊しながら剥離・除去し、従来のSPMとは異なる特有の洗浄作用を発揮する。以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0012】
<発泡剤:第1剤>
(炭酸塩)
本発明の半導体基板用洗浄剤を構成する発泡剤は、炭酸塩を含有する。該炭酸塩は、後述する酸性化合物の作用により、炭酸ガスを生じる化合物であって、いわゆる分解性発泡剤として作用する。
使用される炭酸塩は、炭酸を生じる塩化合物であれば特に限定されないが、主に、正塩、酸性塩(炭酸水素塩)、塩基性塩(炭酸水酸化物塩)などが挙げられる。例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩や炭酸水素塩、または炭酸アンモニウム塩などが挙げられる。より具体的に、炭酸塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸セシウム、炭酸ランタン、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン、炭酸ニッケル、炭酸ストロンチウム、アミノグアニジン炭酸塩、または、グアニジン炭酸塩などが挙げられる。また、無水塩、水和塩、またはこれらの混合物などを用いることもできる。なかでも、付着物の剥離性に優れ、かつ、取扱い性が容易である点から、炭酸水素アンモニウムまたは炭酸アンモニウムが好ましく、炭酸アンモニウムがより好ましい。なお、炭酸塩は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
発泡剤中における炭酸塩の含有量は特に限定されないが、付着物の剥離性がより優れる点より、発泡剤全量に対して、0.1〜80質量%が好ましく、0.5〜50質量%がより好ましい。なお、後述する発泡剤と発泡助剤の混合物中の炭酸塩の含有量は、付着物の剥離性がより優れる点より、混合液全量に対して、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましい。
【0014】
(溶媒)
本発明の半導体基板用洗浄剤において、その発泡剤(第1剤)の溶媒としては、炭酸アルキレンを用いる。炭酸アルキレンとしては、炭酸エチレン、炭酸プロピレンが挙げられ、なかでも炭酸エチレンを用いることが好ましい。炭酸アルキレンが保存温度において固化している場合には、これを暖めて融解させることにより好適な溶媒として用いることができる。この炭酸アルキレンは、炭酸塩を溶解する溶媒としての機能だけではなく、発泡剤中でそれ自体が発泡成分として機能しうる。すなわち後記発泡助剤中の酸性化合物と反応して炭酸を発泡し、炭酸塩からの発泡と相俟って付着物等を破壊し、一層高い洗浄作用を発揮しうる。溶媒には水を含有させてもよく、水を含む場合には、前記炭酸アルキレン100質量部に対して水が0.05〜50質量部の範囲であることが好ましく、1〜 30質量部の範囲であることがより好ましい。これらの追加の水は炭酸アルキレン単独では、炭酸塩の溶解が不十分な場合に、その塩を溶解させるのに十分な量を添加することが好ましい。その他の溶媒として、有機溶媒(例えば、極性溶媒であるDMSO、DMF、NMP等)を含有していてもよい。
溶媒の含有量は特に限定されないが、通常、発泡剤全量に対して、1〜99.5質量%が好ましく、10〜99.0質量%がより好ましい。
発泡剤(第1剤)が水を含みpHで評価しうる場合には、特に限定されないものの、そのpHにおいて7.5以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましい。上限値は特に限定されないが、12.0以下であることが好ましく、11.0以下であることがより好ましい。
【0015】
<発泡助剤:第2剤>
(酸性化合物)
本実施形態の多剤型半導体基板用洗浄剤を構成する発泡助剤は、酸性化合物を含有する。酸性化合物とは、そのままで、またはその水溶液が酸性を示す化合物を意味する。該化合物が上述した炭酸塩に作用して、炭酸ガスを生じさせると共に、酸性化合物自体が洗浄作用を発揮し付着物の剥離性にも寄与する。なお、この酸性化合物に限らず、本明細書において化合物というときには、当該化合物そのものに加え、その塩、そのイオンを含む意味に用い、典型的には、当該化合物及び/又はその塩を意味する。
使用される酸性化合物は特に制限はされないが、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アミノメタンスルホン酸、タウリン、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、またはスルファミン酸などが挙げられる。なお、酸性化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
なかでも、安価で取扱いが容易である点から、水溶性有機酸が好ましい。より好ましい態様としては、カルボン酸基を有する水溶性カルボン酸が挙げられる。水溶性カルボン酸の好ましい例として、例えば、水溶性脂肪族カルボン酸が挙げられる。さらに好ましくは、炭素数1〜6の水溶性脂肪族カルボン酸が挙げられる。特に好ましくは、1〜5個の水酸基を有していてもよい炭素数2〜6の脂肪族モノ、ジおよびトリカルボン酸である。
該水溶性カルボン酸の具体例としては、例えば、プロピオン酸、アスコルビン酸、乳酸、グルコン酸、グルクロン酸などのモノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フタル酸、マレイン酸などのジカルボン酸、クエン酸等のトリカルボン酸が挙げられる。
【0017】
発泡助剤中における酸性化合物の含有量は特に限定されないが、付着物の剥離性がより優れる点より、発泡助剤全量に対して、0.01〜50質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、1〜25質量%が特に好ましい。なお、後述する発泡剤と発泡助剤との混合物中の酸性化合物の含有量は、付着物の剥離性がより優れる点より、混合液全量に対して、0.01〜30質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。
【0018】
(溶媒)
発泡助剤は必要に応じて溶媒を含んでいてもよい。使用される溶媒は酸性化合物が溶解すれば特に制限されないが、通常、水が使用される。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、有機溶媒(例えば、極性溶媒であるDMSO、DMF、NMP等)を含有していてもよい。発泡助剤中における溶媒の含有量は特に限定されないが、通常、発泡助剤全量に対して、1〜99.5質量%が好ましく、10〜99.0質量がより好ましい。
【0019】
発泡助剤のpHは特に制限されないが、安定性がより優れ、付着物の剥離性がより優れる点で、7.5未満が好ましく、5.0以下がより好ましい。なお、下限は特に限定されないが、0以上が好ましい。
【0020】
<酸化剤>
発泡剤および/または発泡助剤は、酸化剤を含有していてもよい。酸化剤が含まれることにより、付着物の剥離性がより向上する。特に、本発明においては、酸化剤がもつ洗浄作用により、上記発泡剤からの発泡による付着物の剥離と相俟って、高い洗浄効果を得ることができる。使用される酸化剤は特に制限されないが、例えば、過酸化物(例えば、過酸化水素)、硝酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、過マンガン酸塩などが挙げられる。なかでも、付着物の剥離性に優れ、かつ、取扱いが容易である点から、過酸化水素が好ましい。
【0021】
発泡剤または発泡助剤中に含まれる酸化剤の含有量は特に限定されないが、付着物の剥離性がより優れる点から、各成分全量に対して、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜20質量%がより好ましい。また、発泡剤と発泡助剤との混合液中における酸化剤の含有量は特に制限されないが、付着物の剥離性がより優れる点から、混合液全量に対して、0.005〜10質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましい。
なお、本発明において酸化剤は上記発泡剤ないし発泡助剤に含有させて使用する態様に限らず、酸化剤ないしこれを含有する剤を上記発泡剤及び発泡助剤と組み合わせて洗浄時に混合してもよい。このことは、後述する任意成分についても同様である。
【0022】
<pH>
本実施形態においては発泡剤に炭酸発泡成分を含有させ、発泡助剤の酸性化合物と反応させて発泡を促すことができる。このときの反応を、発泡剤(第1剤)も水媒体で構成されていると想定しpHにより整理してみると、その反応系を以下のように説明することができる。炭酸塩のpKaは6.3〜6.5(pKa1)、10.2〜10.4(pKa2)であり、それぞれ以下の式で表される。
CO2− + H+ → HCO ・・・ (1) pKa2
HCO + H+ → HCO ・・・ (2) pKa1
更に、(2)より、HCO→HO+CO(g)↑といった反応を経て炭酸ガスが発生する。一般にpKaとは、化学反応式における両辺の化学種が1:1で存在するpHを示している。また、pHがpKaより1ずれることは、右辺と左辺の化学種の存在比が10倍異なることを意味する事が知られている。上記の(2)で言えば、pH=6.3〜6.5ではHCOとHCOは等量で存在し、pH=5.3〜5.5(pKa1−1)ではHCOとHCOは1:10の割合で存在し、pH=7.3〜7.5(pKa1+1)ではHCOとHCOは10:1の割合で存在する事を意味している。発泡に寄与する炭酸塩の存在を加味すると、pHが7.5以上では期待する発泡反応が効果的に起こりにくいことがある。
【0023】
以下に、本発明の多剤型半導体基板用洗浄剤を構成する任意成分について詳述する。なお、以下で詳述される材料は、市販品を使用してもよいし、公知の方法で合成してもよい。
<界面活性剤>
上記発泡剤および/または発泡助剤には、界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤が含まれることにより、後述する発泡剤と発泡助剤との混合液中で発生する炭酸ガスによって生じる気泡の大きさがより制御され、結果としてレジストなどの付着物の剥離性能が向上する。
使用される界面活性剤は特に限定されないが、例えば、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが例示される。特に、付着物の剥離性能がより優れ、かつ、基板表面から剥離した不純物の基板表面への再付着などが抑制される点で、ノニオン性界面活性剤またはアニオン性界面活性剤がより好ましく、効果がより優れる点でノニオン性界面活性剤が特に好ましい。なお、界面活性剤は、直鎖状、分岐状のいずれも使用できる。
【0024】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩などが挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体などが挙げられる。
【0025】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのポリオキシエチレン付加物などが挙げられる。または、上記例示化合物中のオキシエチレン構造が、オキシプロピレン構造である、ポリオキシプロピレン系化合物も例示される。
なかでも、付着物の剥離性能がより優れる点で、ポリオキシアルキレン型ノニオン性界面活性剤が好ましい。具体例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸モノアルカノールアミド、ポリオキシアルキレン脂肪酸ジアルカノールアミドなどが挙げられる。より具体的には、アルキレン部が、エチレンまたはプロピレンである、界面活性剤が挙げられる。
【0026】
さらに、ポリオキシアルキレン型ノニオン性界面活性剤の好ましい態様としては、以下の一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン型ノニオン性界面活性剤が好ましい。
(RO)p−H 一般式(1)
一般式(1)中、Rは、エチレン基、またはプロピレン基を表し、pは2以上の整数を表す(なお、好ましくは30以下、より好ましくは10以下の整数である)。複数のRは、同一であっても異なっていてもよい。
は、水素原子、アルキル基(好ましくは、炭素数1〜20)を表し、本発明の効果がより優れる点で、水素原子が好ましい。なお、アルキル基は、アミノ基などの置換基を有していてもよいが、フェニル基を置換基として含まないことが好ましい。
【0027】
一般式(1)で表される界面活性剤の好ましい態様としては、以下の一般式(2)または一般式(3)で表されるポリオキシアルキレン型ノニオン性界面活性剤が挙げられる。
HO−(EO)−(PO)−(EO)−H 一般式(2)
HO−(PO)−(EO)−(PO)−H 一般式(3)
一般式(2)および一般式(3)中、EOはオキシエチレン基を、POはオキシプロピレン基を表す。x、y、zは、それぞれ独立して、1以上の整数を表す(なお、好ましくは10以下の整数である)。
【0028】
発泡剤または発泡助剤中に含まれる界面活性剤の含有量は特に限定されないが、付着物の剥離性がより優れる点から、各剤全量に対して、0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜1質量%がより好ましい。なお、発泡剤と発泡助剤との混合液中における界面活性剤の含有量は特に制限されないが、付着物の剥離性がより優れる点から、混合液全量に対して、0.00005〜5質量%が好ましく、0.0005〜0.5質量%がより好ましい。
【0029】
<アルカリ性化合物>
発泡剤は、アルカリ性化合物を含有していてもよい。アルカリ性化合物が含まれることにより、pHの調整が容易となり、混合液中の安定した発泡が達成され、不純物の剥離性がより向上する。
使用されるアルカリ性化合物は特に限定されないが、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどが挙げられる。発泡剤中におけるアルカリ性化合物の含有量は特に制限されず、上記のpHとなるように使用されることが好ましい。具体的には、該含有量は、発泡剤全量に対して、0.0001〜10質量%が好ましく、0.0001〜5質量%がより好ましい。
【0030】
<多剤型半導体基板用洗浄剤>
本発明の多剤型半導体基板用洗浄剤は、少なくとも発泡剤と発泡助剤とから構成され、半導体基板の洗浄時に両者を混合して使用する。混合液のpHは、7.5未満となるように調整されることが好ましい。混合液のpHが7.5未満であると、炭酸ガスの発泡が十分に進行し、付着物の剥離性が十分に高まり好ましい。混合液のpHは、付着物の剥離性がより優れる点で、7.0未満が好ましく、6.5以下がより好ましく、2.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。なお、混合液のpHは発泡に伴って変化する場合があるが、処理中にわたって上記範囲内にpHを保つことが好ましい。なお、本明細書においてpHは、特に測定温度等を断らない限り、室温(23℃)において、HORIBA社製、F−51(商品名)で測定した値をいう。
【0031】
発泡剤と発泡助剤との混合質量比(発泡剤/発泡助剤)は、混合液のpHが上記範囲内であれば特に制限されないが、取扱い性などの観点から0.01〜100の範囲であることが好ましい。
【0032】
<洗浄方法>
本発明の多剤型半導体基板用洗浄剤を用いて半導体基板を洗浄する方法は特に限定されないが、少なくとも発泡剤および発泡助剤を半導体基板に供給して、pH7.5未満を示す、発泡剤と発泡助剤との混合液中で半導体基板を洗浄する方法が好ましい。一般的に、イオン注入後のレジスト(フォトレジスト)は炭化するため、薬品では剥離・除去しづらくなるが、上記洗浄剤を使用することにより、炭化したレジスト残渣を半導体基板から容易に剥離・除去することが可能となる。
【0033】
一般的な半導体素子の製造方法としては、まず、シリコン基板(例えば、イオン注入されたn型またはp型のシリコン基板)上にスパッタリング等の技術を用いて、高誘電率材料(例えば、HfSiO、ZiO、ZiSiO、Al、HfO、LaO)などで構成されるゲート絶縁膜や、ポリシリコンなどで構成されるゲート電極層などを形成する(被エッチング層形成工程)。次に、形成されたゲート絶縁膜や、ゲート電極層上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィーにより、所定のパターンを形成する。パターン形成後に不要な部分のレジストを現像除去して(レジスト現像工程)、このレジストパターンをマスクとして非マスク領域をドライエッチングまたはウェットエッチングすることにより(エッチング工程)、ゲート絶縁膜やゲート電極層などを除去する。その後、イオン注入処理(イオン注入工程)において、イオン化したp型またはn型の不純物元素をシリコン基板に注入して、シリコン基板上にp型またはn型不純物注入領域(いわゆるソース/ドレイン領域)を形成する。その後、必要に応じて、アッシング処理(アッシング工程)が実施された後、基板上に残存したレジスト膜を剥離する処理が実施される。
【0034】
本発明の半導体基板用洗浄剤を用いた洗浄方法は、半導体素子の製造時に実施される方法であり、いずれの工程の後で実施してもよい。具体的には、例えば、レジスト現像後、ドライエッチング後、ウェットエッチング後、アッシング後、イオン注入後などに実施することができる。特に、イオン注入によって炭化したレジストの剥離性が良好である点から、イオン注入工程(イオンインプランテーション)後に実施されることが好ましい。
より具体的には、表面上に被エッチング層(ゲート絶縁膜および/またはゲート電極層)が形成された半導体基板(例えば、p型またはn型シリコン基板)を準備する工程(被エッチング層形成工程)と、該被エッチング層の上部にフォトレジストパターンを形成する工程(レジスト形成工程)と、フォトレジストパターンをエッチングマスクに用いて被エッチング層を選択的にエッチングする工程(エッチング工程)と、イオン注入を行う工程(イオン注入工程)を経て得られる半導体基板に、本発明の洗浄剤を適用することが好ましい。
なお、イオン注入工程は公知の方法で実施することができ、アルゴン、炭素、ネオン、砒素などのイオンを利用して、1015〜1018atoms/cmのドーズ量で行うことができる。
【0035】
本発明の洗浄方法の他の好適な態様として、上記のようにイオン注入工程を実施した後、さらに、基板に対してアッシング処理、または、汎用の洗浄液によって基板上の大きなゴミの除去やバルク層の除去を行った後、除去され難いゴミや各種層に対して本発明の浄剤を用いた洗浄方法を実施する方法が挙げられる。
上記のようにアッシング処理を行った後、本発明の洗浄剤を使用する洗浄方法を実施する場合は、発泡剤および発泡助剤中に酸化剤を含まなくとも、十分な洗浄効果を生じる。洗浄方法において、酸化剤を使用しない場合、基板上での酸化膜の発生がより抑制される結果となり好ましい。アッシング処理は周知の手法で行うことができ、例えば、プラズマガスを用いる手法などが挙げられる。
また、上記の洗浄方法は、同一基板に対して繰り返し実施してもよい。例えば、洗浄回数を2回以上行う(例えば、2回、3回)などの処理によって、1度での洗浄以上の効果が得られる。
【0036】
本発明の洗浄剤を用いた洗浄方法においては、発泡剤および発泡助剤を半導体基板に供給する態様が好ましい。その供給方法は特に限定されないが、半導体基板に発泡剤と発泡助剤とを同時に供給してもよい(態様A)。また、半導体基板に発泡剤を供給した後、所定時間経過後に発泡助剤を供給してもよい(態様B)。さらに、半導体基板に発泡助剤を供給した後、所定時間経過後に発泡剤を供給してもよい(態様C)。このときに他の機能性の剤を同時にあるいは逐次に供給することが妨げられるものではない。上記のような使用態様に鑑み、本発明の洗浄剤を発泡剤、発泡助剤、必要によりその他の剤を組み合わせた、多剤型の洗浄剤キットとしてもよい。
【0037】
付着物の剥離性により優れる点から、半導体基板を発泡剤または発泡助剤のいずれか一方に所定時間浸漬して、他方を添加すること(態様BまたはC)が好ましい。特に、付着物の剥離性により優れ、基板やゲート絶縁膜などへのダメージがより軽減される点から、半導体基板を発泡剤に浸漬した後、発泡助剤を加えること(態様C)が好ましい。発泡剤中に半導体基板を所定時間浸漬することにより、炭酸塩が付着物近傍に付着するため、生じる炭酸ガスが効率よく付着物の剥離・除去に寄与する。
発泡剤または発泡助剤への半導体基板の浸漬時間は特に制限されないが、浸漬時間が長いほど含まれる成分が、半導体基板上のレジスト残渣などの付着物の周りに付着して、付着物の除去効率が向上する。付着物の剥離性の向上の観点から、10秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。なお、生産性および効果が飽和する点から、30分以内が好ましい。
浸漬時の発泡剤または発泡助剤の温度は特に限定されないが、付着物の剥離性がより優れ、安定した発泡が達成される点から、25〜80℃が好ましい。
【0038】
半導体基板が浸漬された、発泡剤または発泡助剤のいずれか一方に、選択されなかった発泡剤または発泡助剤の他方を添加して、混合液を製造する場合、成分(発泡剤または発泡助剤)を加える方法としては、一括で添加してもよいし、分割して添加してもよい。
なお、上記洗浄方法においては、発明の効果を損なわない範囲で、発泡剤および発泡助剤以外の成分(例えば、純水)を合わせて添加してもよい。
【0039】
発泡剤と発泡助剤との混合液の温度(処理温度)は特に制限されないが、付着物の剥離性がより優れ、基板やゲート絶縁膜などへのダメージがより軽減される点から、25〜80℃となるように温度制御することが好ましく、30〜75℃がより好ましい。混合液の温度が高すぎると炭酸ガスの発泡が瞬間的に起こってしまい、付着物の剥離性および取扱い性が損なわれる場合があり、混合液の温度が低すぎると付着物の除去の時間がかかる場合がある。
なお、上述したように半導体基板が浸漬された発泡剤(または発泡助剤)に、発泡助剤(または発泡剤)を加える際、混合液の温度が上記範囲内にとどまるように添加速度を制御することがより好ましい。
【0040】
発泡剤と発泡助剤とを混合後、必要に応じて、混合液中に半導体基板を所定時間浸漬してもよい。浸漬時間は特に制限されないが、生産性などの点から、10秒〜5分が好ましく、30秒〜3分がより好ましい。半導体基板を混合液に浸漬中、必要に応じて混合液を攪拌してもよい。
【0041】
上記処理終了後、半導体基板を混合液から取り出し、必要に応じて、水などを用いてその表面を洗浄する処理(洗浄工程)を行ってもよい。
【0042】
<半導体基板>
上記洗浄処理の洗浄対象物である半導体基板(半導体素子用基板)としては、上記製造工程におけるいずれの段階の半導体基板も用いることができる。洗浄対象物として好適には、その表面上にレジスト(特に、イオンインプランテーション(イオン注入)が施されたレジスト)を備える半導体基板が挙げられる。なお、本発明の洗浄剤を使用することにより、上記レジスト(またはパターンレジスト)以外にも、アッシング時に生じる残渣(アッシング残渣)や、エッチング時に生じる残渣(エッチング残渣)、その他不純物を表面に有する基板から、これらを剥離・除去することができる。
本発明で使用される半導体基板は、レジスト以外にも、シリコン酸化膜、シリコン窒化
膜等の絶縁膜や、窒化タンタル層(TaN)、窒化チタン層(TiN)、酸化ハフニウム層(HfO)、酸化ランタン層(La)、酸化アルミニウム層(Al)ポリシリコン、ドープ(アルゴン、炭素、ネオン、砒素等)シリコンなどをその表面の一部または全面に有していてもよい。
なお、本明細書において半導体基板とは半導体素子を製造する中間体(前駆体)の総称として用い、シリコンウエハのみならず、そこに絶縁膜や電極等が付された実装前の中間製品を含む意味である。
【0043】
使用される半導体基板上に堆積されるレジストとしては、公知のレジスト材料が使用され、ポジ型、ネガ型、およびポジ−ネガ兼用型のフォトレジストが挙げられる。ポジ型レジストの具体例は、ケイ皮酸ビニール系、環化ポリイソブチレン系、アゾ−ノボラック樹脂系、ジアゾケトン−ノボラック樹脂系などが挙げられる。また、ネガ型レジストの具体例は、アジド−環化ポリイソプレン系、アジド−フェノール樹脂系、クロロメチルポリスチレン系などが挙げられる。更に、ポジ−ネガ兼用型レジストの具体例は、ポリ(p−ブトキシカルボニルオキシスチレン)系などが挙げられる。
【0044】
本発明の半導体基板用洗浄剤を用いた洗浄方法を経ることにより、従来の薬品などによっては剥離・除去が困難であったイオンインプランテーションされたレジストなどの付着物を半導体基板の表面から剥離・除去することができる。つまり、本発明の半導体基板用洗浄剤は、半導体基板上に残存したレジストを剥離・除去するためのレジスト剥離用処理剤として好適に用いることができる。
また、本発明の洗浄方法によれば、従来の洗浄薬品であるSPM溶液を使用した場合と異なり、半導体基板自体(例えば、シリコン基板)や、半導体基板の表面上に堆積されるアルミニウムなどの金属配線や、窒化チタン層(TiN)、酸化ハフニウム層(HfO)、酸化ランタン層(La)などのゲート絶縁膜に対する腐食などの影響を抑えることができる。
【0045】
また、上述した本発明の洗浄剤を用いた洗浄方法で実施された洗浄工程は、半導体素子の製造方法に含まれることが好ましい。具体的には、上述した発泡剤および発泡助剤を使用した洗浄工程を備える半導体素子の製造方法である。この洗浄方法は、従来の洗浄剤では適用できなかった配線幅が非常に微細な半導体基板の洗浄にも使用でき、かつHigh−k膜などへのダメージも小さいため、より小型で高性能なLCD、メモリ、CPU等の電子部品の製造に好適に使用できる。さらには、次世代の絶縁膜として開発が進められているUltra―low−k等のダメージを受けやすいポーラス材料を用いた半導体基板の製造にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、これらの実施例に本発明が限定されるものではない。
【0047】
(半導体基板試料の作製)
Al層、TiN層、HfO層、SiGe40%を、シリコンウェハ上に厚さ100Åになるように成膜して、4種類のウエハを用意した。
【0048】
(実施例・比較例)
下記表1に示す洗浄剤成分を用いて、レジスト剥離性、基板への影響について評価した。まず、上記で用意した半導体基板試料または未処理のシリコンウェハを、洗浄剤中に所定時間(5分間)浸漬させた。その後、基板を取り出し、下記の評価を実施した。なお、表1中の処理温度は、洗浄剤(混合液)中の温度を意味する。
【0049】
<レジストの剥離性>
以下の基準に沿って評価した。実用上Cを超えることが必要である。
顕微鏡で観察した基板表面上(面積:3.0×3.0μm)中での:
AAA:レジストが残存している部分が5%未満である場合
AA: レジストが残存している部分が5%以上10%未満である場合
A: レジストが残存している部分が10%以上30%未満である場合
B: レジストが残存している部分が30%以上50%未満である場合
B’: レジストが残存している部分が50%以上80%未満である場合
C: レジストが残存している部分が80%以上である場合
【0050】
「バルク層除去」はKrFレジストにAsを
5keV 1e15の条件下で0度のインプラ処理をしたレジスト(硬化層や変質層がほとんど生成していないレジスト)を意味する。
「硬化層除去」はKrFレジストにAsを
5keV 1e15の条件下で45度のインプラ処理をしたレジスト(硬化層や変質層が大量に生成しているレジスト)を意味する。
【0051】
[エッチング速度(ER)]
各洗浄液を用いて、処理前後の膜厚差から各膜へのエッチング速度(EtchingRate:ER)を算出した。実用上、上記エッチング速度が、50Å/min未満であることが好ましく、10Å/min未満であることが更に好ましい。
【0052】
[Doped Si−loss]
実施例で未処理のシリコンウェハを使用した場合のウエハ表面上の損失厚み(洗浄によって削れた厚み)を、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置、SHIMADZU社製)にて測定した後、膜厚に換算した値(Å)である。実用上、該値が10Å未満であることが好ましい。
【0053】
[Ox growth]
実施例で未処理のシリコンウェハを使用した場合のウエハ表面上に形成される酸化ケイ素層の厚みを、エリプソメトリー(J.A.Woollam社製、VASE)にて測定した値(nm)である。実用上、該値が10Å未満であることが好ましい。
【0054】
下記表中に示された水溶液の濃度は下記のとおりである。
硫酸の濃度 98質量%
過酸化水素水の濃度 30質量%
有機酸水溶液の濃度 20質量%
また、各剤の混合形態は、表中2列目の第1剤と3列目の第2剤とに分けて準備しておき、第1剤と第2剤とを混合して洗浄剤(2剤型)を調製した。具体的に実施例1でいうと、炭酸アンモニウム、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、界面活性剤W1[H(CH2CH2O)a(CH2CH2CH2O)b(CH2CH2O)c-H・・・a=3、b=5、c=3]、及び過酸化水素水を含有する第1剤と、クエン酸及び純水を含有する第2剤とを準備し、洗浄時に混合して使用したことを意味する。
【0055】
下表では試験No.101を基準に以下のように整理して結果を示している。表1は酸性化合物の種類を変更したもの、表2は炭酸塩の種類を変更したもの、表3は炭酸塩の量を変更したもの、表4は炭酸エチレンの量を変更したもの、表5は酸性化合物の量を変更したもの、表6は酸化剤の量を変更したもの、表7,8は界面活性剤等の任意の添加剤を適用したものを示している。
【0056】
【表1A】

【表1B】

【表2】

【表3−4】

【表5−6】

【表7】

【表8】

【0057】
上記の結果より分かるとおり、従来のSPM洗浄では硬化層除去では良い結果を示しているが、バルク層除去では左程に際立った優位さはなかった。また、特に基板へのダメージが極めて大きく、近時の高い要求レベルを考慮すると実用性にも問題がありうる程度であった。これに対し本発明の半導体基板用洗浄剤(実施例)は、実用上十分にニーズに応える洗浄力を発揮し、かつ、SPM洗浄剤による半導体基板の損傷を様々な構成材料において大幅に改善していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の洗浄時に少なくとも発泡剤と発泡助剤とを混合して使用する多剤型洗浄剤であって、前記発泡剤が炭酸アルキレンと炭酸塩とを含有し、前記発泡助剤が酸性化合物を含有し、さらに酸化剤を組み合わせて用いることを特徴とする半導体基板用洗浄剤。
【請求項2】
前記発泡剤と発泡助剤との混合により発泡剤の炭酸アルキレンないし炭酸塩と発泡助剤の酸性化合物を反応させて炭酸発泡させることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項3】
さらに界面活性剤を組み合わせて用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項4】
前記炭酸アルキレンとして炭酸エチレン又は炭酸プロピレンを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項5】
前記界面活性剤がノニオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項6】
前記炭酸塩が、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸セシウム、炭酸ランタン、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン、炭酸ニッケル、炭酸ストロンチウム、アミノグアニジン炭酸塩、およびグアニジン炭酸塩からなる群から選ばれる炭酸塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項7】
混合後の半導体基板用洗浄剤全量に対して、前記炭酸塩の濃度が、0.1〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項8】
前記酸性化合物が、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アミノメタンスルホン酸、タウリン、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、およびスルファミン酸からなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項9】
前記酸化剤が、過酸化水素、硝酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、及び過マンガン酸塩からなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項10】
半導体基板の洗浄時に少なくとも発泡剤と発泡助剤とを混合して使用する多剤型洗浄剤による洗浄方法であって、前記発泡剤が炭酸アルキレンと炭酸塩とを含有し、前記発泡助剤が酸性化合物を含有し、さらに酸化剤を前記発泡剤及び発泡助剤の少なくとも一方に含有させ、あるいは酸化剤を前記発泡剤及び発泡助剤とともに混合して半導体基板を洗浄することを特徴とする半導体基板の洗浄方法。
【請求項11】
請求項10に記載された洗浄方法を介して半導体素子を製造することを特徴とする半導体素子の製造方法。

【公開番号】特開2012−94702(P2012−94702A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241082(P2010−241082)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】