説明

多剤式ヘアトリートメント組成物

【課題】毛髪に良好な褪色防止効果と指通り向上効果を与えると共にそれらの効果の持続性を高める多剤式ヘアトリートメント組成物を提供する。
【解決手段】微粒子化したロウ類を含有する第1組成物からなるA剤と、室温で液状で、かつ、下記(イ)に示す親水部と下記(ロ)に示す親油部とが、いずれも1ずつ、エステル結合又はエーテル結合を形成して結合したエステル、エーテルから選ばれる1種以上を含有する第2組成物からなるB剤とを含んで構成される多剤式組成物であって、毛髪に対してA剤を塗布した後にB剤を重ねて塗布するという順序に従って適用するものである多剤式ヘアトリートメント組成物。(イ)炭素原子数/酸素原子数=1〜4である多価アルコール、当該多価アルコールの縮合物であるポリ多価アルコール、又は糖(ロ)不飽和肪酸又は不飽和高級アルコール

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘアトリートメントを構成する各剤を毛髪へ順次に重ねて塗布するための多剤式ヘアトリートメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、染毛処理やパーマネントウェーブ処理その他の原因による毛髪のダメージを修復するため、ヘアトリートメント組成物が広く使用されている。ヘアトリートメントには、通常、油分を補い毛髪に柔らかさを付与するための動植物油脂や合成エステル油類、指通りを良くし艶を与えるためのシリコーン類といった成分が配合されており、これらの成分を種々に組み合わせてヘアトリートメント組成物が構成されている。
【0003】
ところで、多種の成分が単独組成物に配合されている場合には、それらの成分間の相乗的な作用を期待できる一方で、組成物中の各成分の濃度が相対的に低くなったり、特定の成分が持つ優れた効果が成分間の負の相互作用により十分に発揮されなかったりする場合も多い。
【0004】
そこで、成分を多剤に分けて別々に毛髪に適用するようにした多剤式ヘアトリートメント組成物も多数提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3148365号公報
【特許文献2】特許第3221533号公報
【特許文献3】特許第3726119号公報 例えば、特許文献1に開示されたケラチン質繊維改質剤キットは、特定の金属イオンの水溶性塩(A)を含有する第1剤と、特定の酸イオン(B−1)及び有機酸(B−2)を含有する第2剤とを組み合わせたものである。そして、ケラチン質繊維を第1剤で処理した後、中間すすぎを行い又は行わずに数十分経過後に第2剤で処理することにより、(A)と(B−1)との反応で毛髪内部に、(A)と(B−2)との反応で毛髪表面に、それぞれ複合体を形成してケラチン質繊維を改質する、としている。
【0006】
特許文献2に開示された毛髪処理剤は、水中で解離するアニオン性基を有する多糖類を含有する第1剤と、水中で解離するカチオン性基を有する界面活性剤を含有する第2剤とからなる。そして、第1剤と第2剤を順序を問わずに逐次毛髪に処理することにより、前記多糖類と界面活性剤との反応で毛髪上にコンプレックスを形成して優れたトリートメント効果を得る、としている。
【0007】
特許文献3に開示された毛髪コンディショニング剤は、アミノ変性シリコーンを含有する第1剤と、メチル水素ポリシロキサンを含有する第2剤からなる。そして、毛髪を第1剤で処理した後、中間水洗を行い又は行わずに第2剤で処理することにより、アミノ変性シリコーンとメチル水素ポリシロキサンの反応で複合体を形成して持続性のあるコンディショニング効果を得る、としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来の多剤式ヘアトリートメント組成物は、何らかの化学的変化により有効成分を新たに生じさせることで毛髪をコンディショニングするものである。このような多剤式の場合、複数回塗布する手間が生じることから、消費者は手間をかけた分だけ、単剤式と比べてより高い効果を求めるのは必然である。
【0009】
この点に関し、本願発明者の研究により、次のような知見が得られた。即ち、上記の従来技術においては、ヘアトリートメント処理が化学的変化を伴うため効果の現れ方が極端である一方で、その効果の持続性に欠ける。具体的には、ヘアトリートメント処理後の毛髪が水に濡れた場合、より具体的には、処理後の毛髪を複数回シャンプーするだけで、ヘアトリートメントの効果が急激に失われてしまう。とりわけ、ダメージヘアに対して上記従来技術に係るヘアトリートメント処理を行った場合に、効果の持続性が顕著に欠ける。
【0010】
本願発明者は、このようなヘアトリートメント効果の持続性の欠如が、水と接触した際の毛髪の膨潤と密接に関係していることを見出した。即ち、毛髪のダメージ度が増せば、それと比例して毛髪膨潤度が増加する。従って、ダメージヘアは水に濡れたときに過度に膨潤して柔らかくなってしまう。そのため、上記従来技術のヘアトリートメント処理に係る有効成分が毛髪の表面にコーティングされていても、シャンプー等の際に毛髪が過度に膨潤すれば、有効成分が容易に流出して毛髪の感触(指通り)が悪化するだけでなく、コーティング層の流出のために毛髪の染料まで流出して褪色し易くなる。逆に言えば、ヘアトリートメントにより毛髪の膨潤度が低下すればダメージ低減効果があると判断できるし、毛髪の良好な感触や褪色防止効果を持続させることができると考えられる。
【0011】
そこで本発明は、毛髪が水に濡れた際の膨潤の抑制というユニークな課題への対応を通じてトリートメント成分の毛髪への定着を促進し、それによって毛髪に良好な褪色防止効果と指通り向上効果を与えると共にそれらの効果の持続性を高めるという使用者満足度の高い効果を実現することを、解決すべき課題とする。
【0012】
本願発明者は、多剤式ヘアトリートメントの各剤を毛髪へ順次に重ねて塗布することを前提として、先に塗布する剤と後に塗布する剤に役割の異なるトリートメント成分を適正に組合わせて配合すれば、上記の課題を解決できるのではないかと考えた。そして、そのようなトリートメント成分の組合わせを探究した結果、本発明を完成した。本願発明者の理解によれば、単剤式のヘアトリートメント組成物や、多剤式であっても各剤を毛髪への適用前に混合するヘアトリートメント組成物では、全成分が同時に毛髪に適用されるため、本発明の課題を解決することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、微粒子化したロウ類を含有する第1組成物からなるA剤と、
室温で液状で、かつ、下記(イ)に示す親水部と下記(ロ)に示す親油部とが、いずれも1ずつ、エステル結合又はエーテル結合を形成して結合したエステル、エーテルから選ばれる1種以上を含有する第2組成物からなるB剤とを含んで構成される多剤式組成物であって、
毛髪に対してA剤を塗布した後にB剤を重ねて塗布するという順序に従って適用するものである、多剤式ヘアトリートメント組成物である。
(イ)炭素原子数/酸素原子数=1〜4である多価アルコール、当該多価アルコールの縮合物であるポリ多価アルコール、又は糖
(ロ)不飽和脂肪酸又は不飽和高級アルコール
上記の第1発明において「重ねて塗布する」とは、中間にすすぎ、シャンプー、リンス等の水洗処理を介在させることなく重ね塗りすることを意味する。但し、多剤式ヘアトリートメント組成物を構成する他の剤をA剤とB剤の中間に重ね塗りすることを妨げない。
【0014】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、第1組成物が水を60質量%以上含有し、微粒子化したロウ類が水中油型のエマルションの形態で含有されている。
【0015】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、微粒子化したロウ類がコレステロール、フィトステロール及びラノリンから選ばれる1種以上である。
【0016】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明〜第3発明に係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、前記親水部と親油部とをいずれも1ずつエステル結合又はエーテル結合を形成して結合したエステル、エーテルが、不飽和脂肪酸多価アルコールエステル、不飽和脂肪酸ポリ多価アルコールエステル、ポリオキシアルキレン不飽和脂肪酸糖アルコールエステル、グリセリン不飽和高級アルコールグリセリルエーテル、又はポリオキシアルキレン不飽和高級アルコールエーテルである。
【0017】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第1発明〜第4発明に係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、前記親油部が下記(ハ)に示すものである。
(ハ)炭素数が10〜20であり、かつ、不飽和度が1価〜3価の不飽和脂肪酸又は不飽和高級アルコール
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第1発明〜第5発明に係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、前記第2組成物が、更に融点50℃〜55℃の植物油脂を含有する。
【発明の効果】
【0018】
第1発明の多剤式ヘアトリートメント組成物で毛髪を処理すれば、毛髪の良好な感触(指通り)が得られ、かつ、シャンプー時等における毛髪の膨潤が抑制されてトリートメント成分の流出が防止されるため、指通りの良好さが持続する。これらの効果は特にダメージヘアに対して顕著である。更に、染毛処理を受けている毛髪においては、毛髪に良好に定着しているトリートメント成分により、シャンプー等の水洗処理による染料の流出を防止して、毛髪の褪色を持続的に防止することができる。
【0019】
このような効果が得られる理由は、推定ではあるが、次のように考えられる。即ち、毛髪に塗布される第1組成物中の微粒子化したロウ類がまず毛髪に浸透してダメージ部分を修復し、これによって毛髪の膨潤が抑制される。更に、その上に累積的に塗布される第2組成物中のエステル、エーテルがダメージ部分に蓋をする。親油部が不飽和であること、1の親水部と1の親油部を備える室温で液状のエステル、エーテルであることが上記効果を発揮することに重要な役割を果たしていることが推測される。上記のように、シャンプー時等において毛髪の膨潤が抑制されるため、毛髪の良好な感触や毛髪の褪色防止効果が持続的に得られる。なお、第2組成物中に更に融点50℃〜55℃の植物油脂を含有すると更に有効に本発明の効果を発揮する。
【0020】
第1組成物の内容は、微粒子化したロウ類を含有する限りにおいて特段に限定されないが、第2発明に規定するように、水を60質量%以上含有し、微粒子化したロウ類が水中油型のエマルションの形態で含有されているものが、ロウ類微粒子の凝集防止や、ロウ類微粒子の毛髪への浸透促進等の点から、特に好ましい。
【0021】
更に、第3発明に規定するように、微粒子化したロウ類としては、コレステロール、フィトステロール及びラノリンから選ばれる1種以上が特に好ましく、とりわけ、本来の毛髪脂質であるコレステロールが好ましい。
【0022】
第2組成物中に含有される前記エステル、エーテルにおいては、親水部が炭素原子数/酸素原子数=1〜4、とりわけ1〜2である多価アルコール、当該多価アルコールの縮合物であるポリ多価アルコール、又は糖であることが好ましく、親油部が炭素数が10〜20であり、かつ、不飽和度が1価〜3価の不飽和脂肪酸又は不飽和高級アルコールであることが好ましい。第2組成物が更に融点50℃〜55℃の植物油脂を含有することが好ましい。
【0023】
以上を要するに、本発明の多剤式ヘアトリートメント組成物によれば、毛髪に良好な褪色防止効果と指通り向上効果を与えると共に、それらの効果の持続性を高めることができる。
【0024】
なお、末尾の実施例欄における一部の比較例、即ち比較例7、9、及び10(親油部に対応する部分が不飽和ではないケース)は毛髪の膨潤抑制効果が低いのに、褪色防止効果や指通り、あるいはそれらの効果の持続性が比較的良好である場合が見られる。しかしこれらの場合、褪色防止効果や指通り、又はそれらの効果の持続性が十分に良好であるとは言えない点に加えて、毛髪の膨潤抑制効果が低いため毛髪ダメージの低減につながらず、「毛髪の弾力感の低下」という使用者満足度を低下させる不具合が実感されることが分かっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0026】
〔多剤式ヘアトリートメント組成物〕
本発明に係る多剤式ヘアトリートメント組成物は、後述する第1組成物からなるA剤と、第2組成物からなるB剤とを含んで構成される。即ち、多剤式ヘアトリートメント組成物は、A剤とB剤を含んで構成される限りにおいて、A剤とB剤のみから構成される2剤式であり得るし、更に他の1つ以上の剤を含んで構成される3剤式以上の多剤式、例えば5剤式等であり得る。多剤式ヘアトリートメント組成物が3剤式以上の多剤式である場合に、A剤及びB剤以外の各剤の内容は、発明の目的を阻害しない限りにおいて特段に限定されない。
【0027】
(多剤式ヘアトリートメント組成物の使用方法)
多剤式ヘアトリートメント組成物は、毛髪に対してA剤を塗布した後にB剤を重ねて塗布するという順序に従って適用するものである。毛髪に対してA剤とB剤はそれぞれ適量を塗布すれば良く、A剤とB剤の毛髪に対する適用量の比は特段に限定されない。
【0028】
「重ねて塗布する」の意味は第1発明の構成に関して前記した通りである。従って、多剤式ヘアトリートメント組成物が3剤式以上である場合、A剤の塗布とB剤の塗布との間にすすぎ、シャンプー、リンス等の水洗処理を介在させない限りにおいて、A剤とB剤以外の剤を、(1)A剤に先だって毛髪に塗布する、(2)A剤とB剤の中間で毛髪に塗布する、(3)B剤の後に毛髪に塗布する、のいずれもが可能である。
【0029】
以上の使用条件に従う限り、A剤とB剤を含む3剤式以上の多剤式ヘアトリートメント組成物の使用方法は制約されず、例えば、最初に塗布する他剤(A剤とB剤以外の剤)と次に塗布するA剤との間に水洗処理を介在させたり、B剤の塗布と次の他剤の塗布との間に水洗処理を介在させたり、2つ以上の他剤を混合してから毛髪に塗布したりすることも可能である。
【0030】
好ましくは、本発明の多剤式ヘアトリートメント組成物を構成する各剤を、それぞれの塗布の中間に水洗処理を介在させることなく所定の順序に従って重ね塗りすること、更には、ヘアトリートメント組成物の各剤を毛髪に適用した後、例えば3〜10分程度放置することが好ましい。その放置の間、例えば40℃前後の温度に加温することが更に好ましい。
【0031】
以上のような本発明の多剤式ヘアトリートメント組成物の使用方法は、多剤式ヘアトリートメント組成物を使用する非治療的な美容方法でもある。
【0032】
〔第1組成物〕
A剤である第1組成物は微粒子化したロウ類を含有する。第1組成物は、限定はされないが、水を60質量%以上、より好ましくは65質量%以上含有する水性の組成物であることが好ましく、このような水性の組成物において、微粒子化したロウ類を界面活性剤の使用によって水中油型のエマルションの形態として含有していることが好ましい。界面活性剤の種類は限定されないが、例えばカチオン性界面活性剤が好ましい。界面活性剤の使用量は、限定されない。
【0033】
ロウ類の種類は限定されないが、コレステロール、フィトステロール及びラノリンから選ばれる1種以上であることが好ましく、とりわけコレステロールが好ましい。その他にも、ロウ類として、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、ホホバ油、鯨ロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ、パームロウ、モンタンロウ、綿ロウ、ベイベリーロウ、イボタロウ、カポックロウ、セラックロウ等を例示できる。
【0034】
第1組成物に含有されるロウ類の微粒子の大きさは0.05〜2μm程度の範囲内であることが好ましい。微粒子が上記の範囲より過小であると毛髪へ定着しづらくなり効果が低下し易くなり、過大であると毛髪へ浸透しづらくなり、同じく効果が低下し易くなる。又、第1組成物における微粒子化したロウ類の含有量は限定されないが、第1組成物中の0.01〜1質量%程度であることが好ましい。その含有量が上記の範囲より過少であると第1発明に関して前記したロウ類微粒子の効果が不足し易くなり、過剰であると毛髪の感触がごわつくといった不具合が生じる。
【0035】
第1組成物には、上記の成分以外にも、ヘアトリートメント組成物に配合されることがある各種の成分を、本発明の目的を阻害しない範囲の含有量において任意に選択して配合することができる。このような成分として、ロウ類以外の油性成分、炭化水素、ポリペプタイド、タンパク質加水分解物、高分子化合物、カチオン性化合物、防腐剤、キレート剤、香料、セラミド類、ビタミン類等を例示することができる。
【0036】
ロウ類以外の油性成分としては多価アルコール、高級アルコール、高級脂肪酸、シリコーン類等を挙げることができる。炭化水素としては、α−オレフィンオリゴマー、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン等を挙げることができる。高分子化合物としては、カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物、両性性高分子化合物、水溶性高分子化合物を挙げることができる。
【0037】
〔第2組成物〕
B剤である第2組成物は、室温で液状で、かつ、下記(イ)に示す親水部と下記(ロ)に示す親油部とが、いずれも1ずつ、エステル結合又はエーテル結合を形成して結合したエステル、エーテルから選ばれる1種以上を含有する。
(イ)炭素原子数/酸素原子数=1〜4である多価アルコール、当該多価アルコールの縮合物であるポリ多価アルコール、又は糖
(ロ)不飽和脂肪酸又は不飽和高級アルコール
上記エステル、エーテルは、親水部と親油部がエステル結合、エーテル結合で連結された分子である。よって本発明の効果を阻害しないことを条件に、親水部内、親油部内に他にもエステル結合、エーテル結合があっても良い。
【0038】
上記エステル、エーテルの由来は特に限定されず、合成品を用いても良いし、粗精製物から精製したものを用いても良い。但し、当該エステル、エーテルは室温で液状であることが必要である。1の親水部と1の親油部がエステル結合又はエーテル結合を形成しているので、分子の化学構造は両者の脱水縮合物の構造をとる。よって、例えば、1の親水部に対して2の親油部が脱水縮合した構造の分子は、上記のエステル、エーテルには該当しない。エステル結合はカルボキシル基と水酸基の脱水縮合により形成可能であり、エーテル結合は2つの水酸基の脱水縮合により形成可能である。脱水縮合により本発明のエステルを得る場合、親水部と親油部のいずれがカルボキシル基を備えていても良いが、親油部がカルボキシル基を有することが好ましい。
【0039】
第2組成物における上記エステル、エーテルの含有量は特に限定されないが、1〜5質量%が好ましい。
【0040】
上記多価アルコールにおける多価とは、2以上の水酸基を有することを意味する。多価アルコールの炭素数は特に限定されず、炭素原子1〜4個に対して、好ましくは1〜2個に対して、酸素原子が1個の割合で存在する多価アルコールである。当該多価アルコールは、エチレングリコールやプロピレングリコール、グリセロールの他、ソルビトール等の糖アルコール、を含む概念である。
【0041】
上記ポリ多価アルコールとは、上記した多価アルコールの重合物である。また、ポリ多価アルコールは1種又は2種以上の上記した多価アルコールの重合物であってよい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセロール、グリセロールとポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールとの縮合物、ポリオキシエチレンソルビタン、等を例示することができる。
【0042】
上記糖はアルドース又はケトースを指す。炭素数は特に限定されないが、3〜6が好ましく、6が特に好ましい。
【0043】
上記した親水部は、本発明の効果を阻害しないことを条件に、ヘテロ原子を含有してもよく、置換基を有していても良い。
【0044】
上記親油部は不飽和であることに特徴がある。不飽和脂肪酸、不飽和高級アルコールの炭素数は特に限定されないが、10〜20であることが好ましく、16〜20であることがより好ましく、18であることが特に好ましい。親油部の不飽和度は特に限定されないが、1価〜3価であることが好ましく、1価であることが特に好ましい。二重結合の形成においてシス、トランスの別も特に限定されない。特に好ましい親油部は、オレイン酸又はオレイルアルコールである。
【0045】
上記した親油部は、本発明の効果を阻害しないことを条件に、ヘテロ原子を含有してもよく、置換基を有していても良い。親油部が酸素原子を有する場合は、疎水性を維持することが必要である。即ち、上記多価アルコールに該当するような多数の酸素原子を備えるものは親油部には該当しない。
【0046】
これらに該当する成分の例としては、オレイン酸とプロピレングリコールのエステル(オレイン酸PG)などの、不飽和脂肪酸多価アルコールエステル、オレイン酸ポリグリセリル−10やオレイン酸PEG−10などの不飽和脂肪酸ポリ多価アルコールエステル、オレイン酸ソルビタンやポリソルベート−80などの(ポリオキシアルキレン)不飽和脂肪酸糖アルコールエステル、セラキルアルコールなどのグリセリン不飽和高級アルコールグリセリルエーテル、オレス−2などのポリオキシアルキレン不飽和高級アルコールエーテル等が挙げられる。
【0047】
融点50℃〜55℃の植物油脂は限定されないが、例えば、水添パーム油がある。また、硬化植物油脂も好ましく例示できる。
【0048】
第2組成物には、上記の成分以外にも、ヘアトリートメント組成物に配合されることがある各種の成分を、本発明の目的を阻害しない範囲の含有量において任意に選択して配合することができる。このような成分として、第1組成物に関して前記した多価アルコール、高級アルコール、高級脂肪酸、油脂類を含む油性成分、炭化水素、界面活性剤、ポリペプタイド、タンパク質加水分解物、高分子化合物、カチオン性化合物、シリコーン類、防腐剤、キレート剤、香料、セラミド類、ビタミン類、色素類、アミノ酸類、水等を例示することができる。
【0049】
第2組成物の剤型はクリーム、乳液、液体、フォーム、ペースト、ジェル状、霧状が好ましく、クリーム又は乳液が特に好ましい。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例及び比較例を説明する。本発明の技術的範囲は、以下の実施例及び比較例によって限定されない。
【0051】
〔多剤式ヘアトリートメント組成物の調製〕
末尾の表1に示す実施例1〜実施例9、表2に示す比較例1〜比較例11に係る多剤式ヘアトリートメント組成物の第1剤(本発明のA剤に相当する)及び第2剤(本発明のB剤に相当する)を常法に従って調製した。なお、比較例1では第1剤のみを、比較例2では第2剤のみを、それぞれ調製した。各実施例、比較例に係る第1剤はカチオン性界面活性剤であるベヘントリモニウムクロリドを用いて水中油型のエマルションの形態とした。第2剤もエマルションの形態とした。表1及び表2の「第1剤」及び「第2剤」の欄において、成分の含有量を示す数値は、第1剤中又は第2剤中における当該成分の質量%の表記である。
【0052】
オレイン酸PG、オレイン酸ポリグリセリル−10、オレイン酸PEG−5グリセリル、オレイン酸PEG−10、ポリソルベート−80、オレイン酸ソルビタン、セラキルアルコール、オレス−2及びオレス−10はいずれも室温にて液状である。
【0053】
ステアリン酸PG、ポリソルベート−60及びステアレス−2は親油部に対応する部分が不飽和ではない。ジオレイン酸ポリグリセリル−10は親油部を2つ備える。オレス−20は室温で液状でない。
【0054】
〔評価用毛髪〕
パーマやヘアカラー等の化学処理を行っていない毛髪に対して、市販のブリーチ剤〔ホーユー(株)製の「プロマスターEX LT」〕で処理し、その後パーマ剤〔ホーユー(株)製の「ルテアTG」〕で常法によりパーマ処理した後に、乾燥させた。続いて、その毛束を酸化染毛剤〔ホーユー(株)製の「プロマスターEX B 7/6」〕を用いて茶色に染色することで、試験用の毛束サンプルを作製した。
【0055】
〔評価方法〕
評価用毛髪を水で濡らした後、各実施例、比較例に係る多剤式ヘアトリートメント組成物の第1剤と第2剤の適量をそれぞれ塗布した。なお、比較例1では第1剤のみを、比較例2では第2剤のみを、それぞれ塗布した。比較例1、2を除いて、第1剤と第2剤の塗布の手順を各実施例、比較例ごとに表1及び表2の「使用方法」の欄に示す。この欄において、「A/B」の表記はA剤を塗布した後にB剤を重ねて塗布したことを示す。「AWB」の表記はA剤を塗布した後、水で洗い流してからB剤を塗布したことを示す。「AB」の表記はA剤とB剤を等量ずつ混合したものを一度に塗布したことを示す。これらの塗布を終えた後、いずれの実施例、比較例の場合も、評価用毛髪を40℃の恒温槽に15分間放置し、次いでしっかりと水洗してから、ドライヤーで乾燥させた。
【0056】
〔評価項目と評価基準〕
上記の「評価方法」に示す手順に従って処理した各実施例、比較例に係る評価用毛髪について、褪色防止効果、指通りの良さ、褪色防止効果の持続性、指通りの良さの持続性及び膨潤抑制効果を以下の評価基準に従って評価した。
【0057】
(褪色防止効果、指通りの良さ)
褪色防止効果、指通りの良さに関しては、「評価方法」に示す手順に従って処理した評価用毛髪について、20名のパネラーに「良い」、「良いとは言えない」の二者択一で評価させ、20名中、「良い」と回答したパネラーが20〜17名である場合が評価点5、16〜13名である場合が評価点4、12〜9名である場合が評価点3、8〜5名である場合が評価点2、4名以下である場合が評価点1とした。その評価結果を表1及び表2の「評価」の欄における「褪色防止効果」、「指通りの良さ」の項に示す。
【0058】
(褪色防止効果の持続性、指通りの良さの持続性)
褪色防止効果の持続性、指通りの良さの持続性に関しては、「評価方法」に示す手順に従って処理した評価用毛髪に対して、更に約3週間のシャンプー繰り返しに相当する50℃のラウリル硫酸ナトリウム1%水溶液への6分間浸漬を行い、次いでしっかりと水洗してからドライヤーで乾燥させた評価用毛髪について、上記の「褪色防止効果」、「指通りの良さ」の場合と同様に評価を行った。その評価結果を表1及び表2の「評価」の欄における「持続性(褪色防止効果)」、「持続性(指通りの良さ)」の項に示す。従って、これらの持続性の評価は、その評価点と、同一の実施例、比較例における「褪色防止効果」又は「指通りの良さ」の評価点との対比で判断することができる。比較例1、2において評価点を記入していないのは、褪色防止効果や指通りの良さについての元々の評価が低いため、これらの持続性の評価に値しないと判断したためである。
【0059】
(膨潤抑制効果)
ダメージ毛やヘアトリートメント効果に関連し、毛髪の膨潤度を評価するという試みは極めて珍しいが、毛髪の膨潤度が低下すればダメージ低減効果があると考えることができるので、毛髪膨潤度によってダメージ度を評価した。毛髪の膨潤抑制効果の具体的な評価方法として、以下のような方法を創案した。この方法は、毛髪の断面が真円状であると仮定したもとで、毛髪膨潤度の低下率を体積率に基づいて算出するものである。
【0060】
即ち、まず「評価方法」に示す処理を受ける前の評価用毛髪を乾燥状態で光学顕微鏡にて観察し、直径(R1)を計測する。次に、直径(R1)を計測した毛髪を水で膨潤させた状態にして光学顕微鏡にて観察し、直径(R2)を計測する。更に、「評価方法」に示す手順に従って処理した後の評価用毛髪を乾燥状態で光学顕微鏡にて観察し、直径(R3)を計測する。次に、直径(R3)を計測した毛髪を水で膨潤させた状態にして光学顕微鏡にて観察し、直径(R4)を計測する。このようにして得られた計測値R1〜R4を、下記の式に導入して、毛髪膨潤度の低下率を算出する。
【0061】
毛髪膨潤度の低下率=100−100×〔(R4/R3)/(R2/R1)
こうして算出された毛髪膨潤度の低下率が15%以上である場合に膨潤抑制効果の評価点を5とし、同様に、11%以上で15%未満である場合が評価点4、7%以上で11%未満である場合が評価点3、3%以上で7%未満である場合が評価点2、3%未満である場合が評価点1とした。その評価結果を表1及び表2の「評価」の欄における「膨潤抑制」効果の項に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によって、毛髪に良好な褪色防止効果と指通り向上効果を与えると共にそれらの効果の持続性を高める多剤式ヘアトリートメント組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子化したロウ類を含有する第1組成物からなるA剤と、
室温で液状で、かつ、下記(イ)に示す親水部と下記(ロ)に示す親油部とが、いずれも1ずつ、エステル結合又はエーテル結合を形成して結合したエステル、エーテルから選ばれる1種以上を含有する第2組成物からなるB剤とを含んで構成される多剤式組成物であって、
毛髪に対してA剤を塗布した後にB剤を重ねて塗布するという順序に従って適用するものであることを特徴とする多剤式ヘアトリートメント組成物。
(イ)炭素原子数/酸素原子数=1〜4である多価アルコール、当該多価アルコールの縮合物であるポリ多価アルコール、又は糖
(ロ)不飽和脂肪酸又は不飽和高級アルコール
【請求項2】
前記第1組成物が水を60質量%以上含有し、微粒子化したロウ類が水中油型のエマルションの形態で含有されていることを特徴とする請求項1に記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。
【請求項3】
前記微粒子化したロウ類がコレステロール、フィトステロール及びラノリンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。
【請求項4】
前記親水部と親油部とをいずれも1ずつエステル結合又はエーテル結合を形成して結合したエステル、エーテルが、不飽和脂肪酸多価アルコールエステル、不飽和脂肪酸ポリ多価アルコールエステル、ポリオキシアルキレン不飽和脂肪酸糖アルコールエステル、グリセリン不飽和高級アルコールグリセリルエーテル、又はポリオキシアルキレン不飽和高級アルコールエーテルであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。
【請求項5】
前記親油部が下記(ハ)に示すものであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。
(ハ)炭素数が10〜20であり、かつ、不飽和度が1価〜3価の不飽和脂肪酸又は不飽和高級アルコール
【請求項6】
前記第2組成物が、更に融点50℃〜55℃の植物油脂を含有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。

【公開番号】特開2012−56929(P2012−56929A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204816(P2010−204816)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000113274)ホーユー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】