説明

多剤式ヘアトリートメント組成物

【課題】各剤の塗布中に香調のバランスが崩れず、塗布プロセスの進行に伴って香りの変化性が感知され、ヘアトリートメントの処理後は香気が良好に持続する多剤式ヘアトリートメント組成物を提供する。
【解決手段】香料成分全体の60質量%以上を沸点280℃以下の香料成分が占める第1香料組成物を含有するA剤と、香料成分全体の35質量%以上を沸点300℃以上の香料成分が占める第2香料組成物を含有するB剤を含んで構成され、毛髪に対してA剤を塗布した後にB剤を重ねて塗布するという順序に従って適用する多剤式ヘアトリートメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘアトリートメントを構成する各剤を毛髪へ順次に重ねて塗布するための多剤式ヘアトリートメント組成物に関し、更に詳しくは、このような塗布方式の多剤式ヘアトリートメント組成物において、新たな香調コンセプトに基づく香料組成物の配合を行った多剤式ヘアトリートメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりヘアトリートメント組成物が広く使用されている。多くのヘアトリートメントには、染毛処理やパーマネントウェーブ処理等の原因による毛髪ダメージを修復するため、油分を補い毛髪に柔らかさを付与するための動植物油脂や合成エステル油類、指通りを良くし艶を与えるためのシリコーン類といった原料成分が種々に組み合わせて配合されている。
【0003】
更に、これらの原料成分の原料臭をマスキングし、ヘアトリートメントの使用感を向上させるため、通常は香料組成物も配合されている。香料組成物は、それぞれの香料成分における香り立ちの良さ、香気の持続性といった特性を考慮し、更に香調のバランスも考慮して、各種の香料成分を適宜に組み合わせたものである。
【0004】
香調のバランスとは、香料組成物として組み合わされた各香料成分の香りが、全体として、例えば「フローラル調」、「フローラルムスク調」等と呼ばれる官能的に優れた統一的な香調を感じさせるように調整されていることをいう。香調のバランスが崩れると、例えばフローラルグリーン調という香りを意図している場合でも、実際には「青臭い」香りになってしまう等といった不具合を生じる。
【0005】
ところで、単剤式のヘアトリートメント組成物の場合、前記した動植物油脂、合成エステル油類、シリコーン類といった多種の成分が単独の組成物に配合されているため、それらの成分間の相乗的な作用を期待できる一方で、組成物中の各成分の濃度が相対的に低くなったり、特定の成分が持つ優れた効果が成分間の負の相互作用により十分に発揮されなかったりする場合も多い。
【0006】
そこで、成分を多剤に分けて別々に毛髪に適用するようにした多剤式ヘアトリートメント組成物も、下記特許文献1〜3に例示するように種々に提案されている。
【0007】
特許文献1は、金属イオンの水溶性塩(A)を含有する第1剤と酸イオン(B−1)及び有機酸(B−2)を含有する第2剤で逐次毛髪を処理して、毛髪内部には(A)と(B−1)の複合体を、毛髪表面には(A)と(B−2)の複合体を形成する多剤式ヘアトリートメントを開示する。特許文献2は、アニオン性多糖類を含有する第1剤とカチオン性界面活性剤を含有する第2剤で逐次毛髪を処理して、アニオン性多糖類とカチオン性界面活性剤の複合体を毛髪上に形成する多剤式ヘアトリートメントを開示する。特許文献3は、アミノ変性シリコーンを含有する第1剤とメチル水素ポリシロキサンを含有する第2剤で逐次毛髪を処理して、アミノ変性シリコーンとメチル水素ポリシロキサンの複合体を毛髪上に形成する多剤式ヘアトリートメントを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3148365号公報。
【特許文献2】特許第3221533号公報。
【特許文献3】特許第3726119号公報。
【特許文献4】特開2009−242298号公報。
【特許文献5】特開2010−77080号公報。
【特許文献6】特開2009−179624号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の特許文献1〜3に係る多剤式ヘアトリートメント組成物は化学的変化によって有効成分を新たに生じさせ、毛髪をコンディショニングするものである。この種のヘアトリートメントでは、化学的変化を伴うため効果の現れ方が極端である一方、その効果の持続性に欠ける傾向がある。例えば、ヘアトリートメント処理後の毛髪を複数回シャンプーするだけで、化学的変化によって生じた有効成分が流失し、ヘアトリートメントの効果が急激に失われてしまう。このような問題は、例えばパーマネントウェーブ処理や染毛処理等を受けたダメージ毛において特に顕著である。
【0010】
本願発明者は、この問題への対策として、以下の1)、2)の2点が有効であることを突き止めた。
【0011】
1)多剤式ヘアトリートメント組成物の各剤を、中間にシャンプー、リンス等の水洗処理を介在させることなく順次に重ねて塗布する方式とすること。
【0012】
2)各剤に含有させるヘアトリートメント成分として、相互に化学反応を起こさず、かつ毛髪に累積的に塗布することで特にダメージ毛に対して持続性のあるヘアトリートメント効果を確保できる成分の組み合わせを好適に選択すること。
【0013】
ところで、このように重ねて塗布する方式の多剤式ヘアトリートメント組成物における香料成分の配合については、各剤が同一の香りとなることを意図して、各剤に対して同一の香料組成物を配合することが常識的である。
【0014】
しかし、本願発明者の研究により、多剤式ヘアトリートメント組成物の各剤に同一の香料組成物を配合して重ね塗りした場合においては、香料組成物中の特定の香料成分の香気が強くなり過ぎて、その香気だけを感じ易くなり、結果的に香調のバランスが崩れて単純かつ変化性のない香調になってしまうという問題のあることが判明した。
【0015】
前記の特許文献4〜6には、ヘアトリートメント組成物等の毛髪化粧料における香料組成物の配合に関連する発明が開示されている。しかしこれらの文献には、重ね塗り方式の多剤式ヘアトリートメント組成物における香料組成物の配合に関する上記の問題や、そのような問題を解決するための手段は開示・示唆されていない。
【0016】
即ち、特許文献4は、カチオン性界面活性剤、飽和一価高級脂肪酸、特定のアミノ変性シリコーン及び25℃で固形状である香料成分の1種以上を含有する単剤式の組成物を毛髪用のシャンプー、ヘアコンディショナー等として用いる方法を開示し、この方法により毛髪への残香性を高め、香気の持続性を向上できるとしている。
【0017】
特許文献5は、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、シリコーン油、非イオン界面活性剤および香料を含有してなる単剤式のヘアトリートメント用組成物を開示し、この組成物は製剤安定性に優れ、滑らかな指通り感としっとり感を付与することができ、香りの残香性が優れるとしている。
【0018】
特許文献6は、油層及び水層を含み、水層のpH(20質量倍希釈,25℃)が2〜5.5であり、油層が特定のエステル、アセタール、大環状エーテルラクトン、大環状ジエステル等から選ばれる香料成分を含有する多層型毛髪化粧料を開示し、この毛髪化粧料は、においの安定性に優れた、洗い流さないタイプの酸性の毛髪化粧料であるとしている。
【0019】
そこで本発明は、香料組成物を配合した重ね塗り方式の多剤式ヘアトリートメント組成物であって、各剤の塗布中に香調のバランスが崩れず、塗布プロセスの進行に伴って香りの変化性が感知され、ヘアトリートメントの処理後は香気が良好に持続する多剤式ヘアトリートメント組成物を提供することを、解決すべき課題とする。
【0020】
本願発明者は、各種の香料成分をその沸点に基づいてカテゴリー分類し、重ね塗り方式の多剤式ヘアトリートメント組成物の各剤に対して、異なるカテゴリー分類に係る香料成分を主体とする香料組成物をそれぞれ含有させることにより、このような課題を解決可能であることを見出した。なお、別段の記載がない限りにおいて、本明細書中における「沸点」とは、1気圧下での標準沸点を意味するものと定義する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、下記(1)の第1香料組成物を含有する組成物からなるA剤と、下記(2)の第2香料組成物を含有する組成物からなるB剤とを含んで構成され、毛髪に対してA剤を塗布した後にB剤を重ねて塗布するという順序に従って適用するものである、多剤式ヘアトリートメント組成物である。
【0022】
(1)香料成分全体の60質量%以上を沸点280℃以下の香料成分(香料成分X)が占める第1香料組成物。
【0023】
(2)香料成分全体の35質量%以上を沸点300℃以上の香料成分(香料成分Y)が占める第2香料組成物。
【0024】
上記の第1発明において、「重ねて塗布する」とは、中間にすすぎ、シャンプー、リンス等の水洗処理を介在させることなく重ね塗りすることを意味する。但し、多剤式ヘアトリートメント組成物を構成する他の剤をA剤とB剤の中間に重ね塗りすることを妨げない。
【0025】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、第1香料組成物における香料成分全体の30質量%未満を沸点300℃以上の香料成分(香料成分Y)が占める、多剤式ヘアトリートメント組成物である。
【0026】
上記の第2発明において、「香料成分全体の30質量%未満」との記載は「0質量%」を包含せず、その下限値は、香料成分全体の1×10−6質量%、より好ましくは香料成分全体の1×10−5質量%である。
【0027】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、香料成分が下記(1)、(2)の一方又は双方に該当する、多剤式ヘアトリートメント組成物である。
【0028】
(1)香料成分Xが、リナロール、リナリルアセテート、ターピネオール、ゲラニオール、シトロネロール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアセテート、アニスアルデヒド、イソ・イー・スーパー、エチルアセテート、シトラール、ヘリオトロピン、ベンジルアルコール、エチルブチレート、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、エチルイソバレレート、メントール、オクタナール、デカナール、アネトール、シトロネリルアセテート、シトロネリルイソブチレート、シトロネリルニトリル、シトロネリルプロピオネート、ジヒドロミルセノール、シトロネラール、リリアール、トリプラール、γ−ノナラクトン、ゲラニルアセテート、ゲラニルホーメート、ゲラニルイソブチレート、ゲラニルニトリル、ジメチルベンジルカルビノール、シス−3−ヘキセノール、ネロール、シネオール、アリルヘプタノエート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、α−イオノン、β−イオノン、γ−イオノン、リモネン、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、α−ピネン、ベンズアルデヒド、リナロールオキサイド、スチラリルアセテート、テトラヒドロゲラニオール、テトラヒドロリナロール、メチルアンスラニレート、β−ダマスコン、ネロリドール、リラール、ヘリオナール、イソアミルサリシレート、ヘキシルアセテート及びエチル−2−メチルブチレートから選ばれる1種以上である。
【0029】
(2)香料成分Yが、メチルジヒドロジャスモネート、ガラクソライド、ヘキシルシンナミックアルデヒド、イソカンフィルシクロヘキサノール、エチレンブラシエート、アンブロキサン、クマリン、ベンジルベンゾエート、ベンジルフェニルアセテート、シンナミルイソバレレート、シクロペンタデカノン、エチルオレエート、ゲラニルベンゾエート、リナリルシンナメート、ゲラニルチグレート、ベンジルサリシレート及びオーランチオールから選ばれる1種以上である。
【0030】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明〜第3発明のいずれかに係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、B剤が、更に、カチオン性界面活性剤を含有する、多剤式ヘアトリートメント組成物である。
【0031】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第1発明〜第4発明のいずれかに係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、B剤が、更に、下記(イ)に示す親水部と下記(ロ)に示す親油部がいずれも1ずつエステル結合又はエーテル結合により結合してなる、室温で液状のエステル、エーテルから選ばれる1種以上を含有する、多剤式ヘアトリートメント組成物である。
【0032】
(イ)炭素原子数/酸素原子数=1〜4である多価アルコール、当該多価アルコールの縮合物であるポリ多価アルコール、又は糖。
【0033】
(ロ)不飽和脂肪酸又は不飽和高級アルコール。
【0034】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第1発明〜第5発明のいずれかに係る多剤式ヘアトリートメント組成物において、A剤が、更に、それぞれ液状油である植物油、パラフィン類、飽和脂肪酸エステル及びトリグリセリドから選ばれる1種以上を合計で50質量%以上含有する、多剤式ヘアトリートメント組成物である。
【発明の効果】
【0035】
本発明の多剤式ヘアトリートメント組成物は多剤式ヘアトリートメント組成物の各剤を毛髪に重ね塗りする方式であるため、ヘアトリートメント処理後の毛髪を複数回シャンプーしても、ヘアトリートメント効果の持続性が優れている。
【0036】
次に、第1発明においては、毛髪に対して先に塗布されるA剤は沸点280℃以下の(即ち、香り立ちの早い)香料成分Xが香料成分全体の60質量%以上を占める第1香料組成物を含有しており、後に塗布されるB剤は沸点300℃以上の(即ち、香り立ちが遅いが持続性の良い)香料成分Yが香料成分全体の35質量%以上を占める第2香料組成物を含有している。
【0037】
従って第1に、A剤の塗布時には香料成分Xを主体とする香調が感じられ、これに対してB剤の塗布時には香料成分Yの香調が加味されるため、香りの変化性が感知される。第2に、B剤の塗布時において、香り立ちの早い香料成分Xは先に下層側に塗布されており、香り立ちの遅い香料成分Yは後から上層側に塗布されるので、香料成分Xの香気は幾分弱めに感知され、香料成分Yの香気は幾分強めに感知される。そのため、香り立ちの早い香料成分Xの香気だけを強く感じて香調のバランスが崩れるという不具合が回避されて、香料成分Xの香気と香料成分Yの香気とがバランス良く複合される。第3に、上層側に塗布される第2香料組成物の香料成分Yは、香り立ちは遅いが持続性が良いので、ヘアトリートメントの処理後もその香気が良好に持続する。
【0038】
なお、第1香料組成物において香料成分Xが香料成分全体の60質量%未満である場合には、B剤塗布後に香り立ちをよく感じ取ることが困難である。
又、第2香料組成物において香料成分Yが香料成分全体の35質量%未満である場合には、乾燥後に残香をよく感じ取ることができないという不具合がある。
【0039】
第2発明においては、第1香料組成物自体に30質量%未満の香料成分Yが含まれるので、A剤の塗布時において既に、香料成分Xの香気に対して比較的控えめに香料成分Yの香気が複合されている。従って、香料成分Yの香調が優勢なB剤の塗布時において、前記した香りの変化性が、よりマイルドに感知される。
【0040】
なお、第1香料組成物中の香料成分Yが香料成分全体の30質量%以上である場合には、B剤の塗布時における香りの変化性を感知し難く、あるいは感知できないという不具合がある。
【0041】
香料成分Xや香料成分Yの具体的な香料種は限定されないが、香料成分Xとしては第3発明の(1)に列挙する香料成分から選ばれる1種以上が好ましく例示され、香料成分Yとしては第3発明の(2)に列挙する香料成分から選ばれる1種以上が好ましく例示される。
【0042】
第4発明によれば、B剤が更にカチオン性界面活性剤を含有するので、毛髪に指通りのよさを与えることができる。
【0043】
第5発明によれば、後で塗布するB剤が、前記した特定のエステル、エーテルから選ばれる1種以上を含有するので、これらのエステル、エーテル成分がA剤塗布後の毛髪表面をコーティング状に蓋をするような保護作用を果たす。そのため、特にダメージ毛に対して、多剤式ヘアトリートメント組成物で処理した後のヘアトリートメント効果の持続性が優れる。このような効果については、これらの成分の親油部が不飽和であること、1の親水部と1の親油部を備える室温で液状のエステル、エーテルであること等が関連していると考えられる。
【0044】
第6発明によれば、先に塗布するA剤が、それぞれ液状油である植物油、パラフィン類、飽和脂肪酸エステル及びトリグリセリドから選ばれる1種以上を合計で50質量%以上含有するので、これらの液状油成分が、特にダメージ毛のダメージ部分を修復し、後に塗布するB剤と相まってヘアトリートメント効果の持続性を向上させる。この効果は、B剤が第5発明に規定する特定のエステルやエーテルを含有するとき、とりわけ顕著に発現する。但し、A剤に含有させる液状油が50質量%未満であると、以上の効果は十分には確保され難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0046】
〔多剤式ヘアトリートメント組成物〕
(多剤式ヘアトリートメント組成物の構成)
本発明に係る多剤式ヘアトリートメント組成物は、後述する第1組成物からなるA剤と、第2組成物からなるB剤とを含んで構成される。即ち、多剤式ヘアトリートメント組成物は、A剤とB剤を含んで構成される限りにおいて、A剤とB剤のみから構成される2剤式であり得るし、更に他の1つ以上の剤を含んで構成される3剤式以上の多剤式、例えば5剤式等であり得る。多剤式ヘアトリートメント組成物が3剤式以上の多剤式である場合に、A剤及びB剤以外の各剤の内容は、発明の目的を阻害しない限りにおいて特段に限定されない。
【0047】
多剤式ヘアトリートメント組成物がA剤とB剤以外の剤(以下「他剤」ともいう)を含む場合において、他剤には香料成分を含有させないという選択も可能であるし、前記した本発明の香調コンセプトを阻害しない限りにおいて、他剤にも本発明品を含む、適宜な香料成分を含有させるという選択も可能である。例えば、A剤、B剤をそれぞれ2つまたはそれ以上に分割した形態とし、各剤はいずれも本願発明のA剤,B剤の要件を満たす、同一または異なった香料成分を含有させ、A剤に相当する各剤を重ねて塗布したのち、B剤に相当する各剤を重ねて塗布するといったことも可能である。
【0048】
(多剤式ヘアトリートメント組成物の使用方法)
多剤式ヘアトリートメント組成物は、毛髪に対してA剤を塗布した後にB剤を重ねて塗布するという順序に従って適用するものである。毛髪に対してA剤とB剤はそれぞれ適量を塗布すれば良く、A剤とB剤の毛髪に対する適用量の比は特段に限定されない。
【0049】
「重ねて塗布する」の意味は第1発明の構成に関して前記した通りである。従って、多剤式ヘアトリートメント組成物が3剤式以上である場合、A剤の塗布とB剤の塗布との間にすすぎ、シャンプー、リンス等の水洗処理を介在させない限りにおいて、A剤とB剤以外の剤を、(1)A剤に先だって毛髪に塗布する、(2)A剤とB剤の中間で毛髪に塗布する、(3)B剤の後に毛髪に塗布する、のいずれもが可能である。
【0050】
以上の使用条件に従う限り、A剤とB剤を含む3剤式以上の多剤式ヘアトリートメント組成物の使用方法は制約されず、例えば、最初に塗布する他剤と次に塗布するA剤との間に水洗処理を介在させたり、B剤の塗布と次の他剤の塗布との間に水洗処理を介在させたり、2つ以上の他剤を混合してから毛髪に塗布したりすることも可能である。
【0051】
好ましくは、多剤式ヘアトリートメント組成物を構成する各剤を、それぞれの塗布の中間に水洗処理を介在させることなく所定の順序に従って重ね塗りすること、更には、ヘアトリートメント組成物の各剤を毛髪に適用した後、例えば3〜10分程度放置することが好ましい。放置の間、40℃前後の温度に加温することが更に好ましい。
【0052】
〔A剤〕
(第1香料組成物)
A剤は、少なくとも、香料成分全体の60質量%以上を沸点280℃以下の香料成分Xが占める第1香料組成物を含有する。第1香料組成物は、通常、その香料成分の溶剤であるプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート等を含む。溶剤に対する香料成分の溶解濃度は、適宜に設定すれば良く、限定されない。A剤中の第1香料組成物の含有量は特に限定されず、香料としての特質上、僅かな含有量でも十分である。
【0053】
第1香料組成物の香料成分は、換言すれば、香料成分Xのみからなるか、あるいは、香料成分Xと沸点300℃以上の香料成分Y及び/又は沸点280℃超〜300℃未満の香料成分(以下、この香料成分を「香料成分Z」ともいう)からなり、香料成分Yと香料成分Zの合計量は、香料成分全体の40質量%以下である。又、第1香料組成物に含まれる香料成分Yは、香料成分全体の30質量%未満であることが望ましい。第1香料組成物は、上記の定義の範囲内において各種の香料成分を組み合わせ、それらの各香料成分の香りが全体として官能的に優れた統一的な香調を感じさせるように調整されたものである。香調としては、限定はされないが、例えば、フローラル調、グリーンフローラル調、フローラルムスク調、フルーティフローラル調、シトラスフローラル調等が例示される。
【0054】
香料成分X、Y、Zの具体的な種類は、それらの沸点の定義に該当する限りにおいて限定されないが、以下のもの(沸点を併記)を好ましく例示することができる。
【0055】
(香料成分X)
リナロール(沸点198℃)、リナリルアセテート(沸点220℃)、ターピネオール(沸点218℃)、ゲラニオール(沸点230℃)、シトロネロール(沸点224℃)、フェニルエチルアルコール(沸点222℃)、ベンジルアセテート(沸点216℃)、アニスアルデヒド(沸点248℃)、イソ・イー・スーパー(沸点280℃)、エチルアセテート(沸点77℃)、シトラール(沸点228℃)、ヘリオトロピン(沸点263℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)、エチルブチレート(沸点121℃)、シンナミックアルデヒド(沸点130℃)、オイゲノール(沸点255℃)、エチルイソバレレート(沸点135℃)、メントール(沸点212℃)、オクタナール(沸点172℃)、デカナール(沸点208℃)、アネトール(沸点236℃)、シトロネリルアセテート(沸点229℃)、シトロネリルイソブチレート(沸点249℃)、シトロネリルニトリル(沸点225℃)、シトロネリルプロピオネート(沸点242℃)、ジヒドロミルセノール(沸点208℃)、シトロネラール(沸点204℃)、リリアール(沸点258℃)、トリプラール(沸点215℃)、γ−ノナラクトン(沸点243℃)、ゲラニルアセテート(沸点245℃)、ゲラニルホーメート(沸点216℃)、ゲラニルイソブチレート(沸点245℃)、ゲラニルニトリル(沸点222℃)、ジメチルベンジルカルビノール(沸点215℃)、シス−3−ヘキセノール(沸点157℃)、ネロール(沸点227℃)、シネオール(沸点175℃)、アリルヘプタノエート(沸点210℃)、シンナミルアセテート(沸点262℃)、ジメチルベンジルカルビニルアセテート(沸点250℃)、α−イオノン(沸点237℃)、β−イオノン(沸点239℃)、γ−イオノン(沸点240℃)、リモネン(沸点176℃)、アリルヘプタノエート(沸点210℃)、アリルオクタノエート(沸点222℃)、α−ピネン(沸点156℃)、ベンズアルデヒド(沸点179℃)、リナロールオキサイド(沸点188℃)、スチラリルアセテート(沸点212℃)、テトラヒドロゲラニオール(沸点212℃)、テトラヒドロリナロール(沸点197℃)、メチルアンスラニレート(沸点237℃)、β−ダマスコン(沸点278℃)、ネロリドール(沸点276℃)、リラール(沸点280℃)、ヘリオナール(沸点260℃)、イソアミルサリシレート(沸点273℃)、ヘキシルアセテート(沸点172℃)、エチル−2−メチルブチレート(沸点132−133℃)。
【0056】
(香料成分Y)
メチルジヒドロジャスモネート(沸点300℃)、ガラクソライド(沸点305℃)、ヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点305℃)、イソカンフィルシクロヘキサノール(沸点307℃)、エチレンブラシエート(沸点332℃)、アンブロキサン(沸点300℃)、クマリン(沸点301℃)、ベンジルベンゾエート(沸点320℃)、ベンジルフェニルアセテート(沸点320℃)、シンナミルイソバレレート(沸点313℃)、シクロペンタデカノン(沸点306℃)、エチルオレエート(沸点320℃)、ゲラニルベンゾエート(沸点305℃)、リナリルシンナメート(沸点353℃)、ゲラニルチグレート(沸点300℃)、ベンジルサリシレート(沸点300℃)、オーランチオール(沸点は300℃以上であるが、具体的数値は未確定)。
【0057】
(香料成分Z)
シクロペンタデカノリド(沸点295℃)、α−ダマスコン(沸点290℃)、γ−ダマスコン(沸点292℃)、ダマセノン(沸点287℃)、アセチルイソオイゲノール(沸点282℃)、ヘキシルサリシレート(沸点290℃)、ベチベリルアセテート(沸点285℃)、エチルミリステート(沸点295℃)、アミルシンナミックアルデヒド(沸点285℃)、γ−デカラクトン(沸点281℃)、δ−ウンデカラクトン(沸点290℃)、γ−ウンデカラクトン(沸点286℃)、バニリン(沸点285℃)。
【0058】
(液状油)
A剤は、上記の第1香料組成物に加え、更に、それぞれ液状油である植物油、パラフィン類、飽和脂肪酸エステル及びトリグリセリドから選ばれる1種以上を合計で50質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有することが好ましい。
【0059】
液状油である植物油としては、マカデミアナッツ油、オリーブ油、アボカド油、ローズヒップ油、ツバキ油、液状シア脂、アーモンド油、茶実油、サザンカ油、サフラワー油、ヒマワリ油、大豆油、綿実油、ゴマ油、トウモロコシ油、落花生油、ナタネ油、コメヌカ油、コメ胚芽油、小麦胚芽油、ハトムギ油、ブドウ種子油、カロット油、ヒマシ油、アマニ油、ヤシ油等が例示される。
【0060】
液状油であるパラフィン類としては、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動イソパラフィン、流動パラフィン等が挙げられる。
【0061】
液状油である飽和脂肪酸エステル、トリグリセリドとしては、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソステアリル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸2−エチルへキシル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、トリカプリル酸グリセリル等が挙げられる。
【0062】
(A剤のその他の成分)
A剤には、上記の成分以外にも、ヘアトリートメント組成物に配合されることがある各種の成分を、本発明の目的を阻害しない範囲の含有量において任意に選択して配合することができる。このような成分として、上記液状油以外の油性成分の他、炭化水素、ポリペプタイド、タンパク質加水分解物、高分子化合物、カチオン性化合物、防腐剤、キレート剤、香料、セラミド類、ビタミン類等を例示することができる。
【0063】
上記の液状油である植物油、パラフィン類、飽和脂肪酸エステル及びトリグリセリド以外の油性成分としては、それぞれ液状ではない、多価アルコール、高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルグリセリルエーテル、シリコーン類等を挙げることができる。
【0064】
又、A剤は、限定はされないが、水を実質的に含まないか、あるいは含むとしても含有量が10質量%以下の油性組成物であってもよい。更に、A剤はそのまま、あるいは、耐圧容器にLPG,DME、圧縮ガス等の噴射剤とともに充填してスプレー状、フォーム状等の適宜な剤型にして用いることができる。
【0065】
〔B剤〕
(第2香料組成物)
B剤は、少なくとも、香料成分全体の35質量%以上を沸点300℃以上の香料成分Yが占める第2香料組成物を含有する。第2香料組成物が通常、その香料成分の溶剤を含む点は第1香料組成物の場合と同様である。B剤中の第2香料組成物の含有量については、第1香料組成物の場合と同じ理由から、特に限定されない。
【0066】
第2香料組成物の香料成分は、換言すれば、香料成分Yのみからなるか、あるいは、香料成分Yと香料成分X及び/又は香料成分Zからなり、香料成分Xと香料成分Zの合計量は、香料成分全体の65質量%以下である。香料成分X、Y、Zの具体的な種類は、前記した通りである。第2香料組成物は、上記の定義の範囲内において各種の香料成分を組み合わせ、それらの各香料成分の香りが全体として官能的に優れた統一的な香調を感じさせるように調整されたものである。香調としては第1香料組成物の場合と同様のものを例示することができる。
【0067】
(カチオン性界面活性剤)
B剤は、上記の第1香料組成物に加え、更に、カチオン性界面活性剤を含有することが好ましい。
【0068】
カチオン性界面活性剤の種類は限定されないが、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(ステアルトリモニウムクロリド)、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン、メチル硫酸ベヘニルトリメチルアンモニウム等を例示できる。
【0069】
B剤中におけるカチオン性界面活性剤の含有量は限定されないが、好ましくは、B剤中の1〜5質量%程度とすることができる。
【0070】
(エステル、エーテル)
B剤は、更に、下記(イ)に示す親水部と下記(ロ)に示す親油部がいずれも1ずつエステル結合又はエーテル結合により結合してなる、室温で液状のエステル、エーテルから選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0071】
(イ)炭素原子数/酸素原子数=1〜4である多価アルコール、当該多価アルコールの縮合物であるポリ多価アルコール、又は糖。
【0072】
(ロ)不飽和脂肪酸又は不飽和高級アルコール。
【0073】
上記のエステル、エーテルは、親水部と親油部がエステル結合、エーテル結合で連結された分子である。よって、本発明の効果を阻害しないことを条件に、親水部内、親油部内に他にもエステル結合、エーテル結合があっても良い。
【0074】
上記のエステル、エーテルの由来は特に限定されず、合成品を用いても良いし、粗精製物から精製したものを用いても良い。但し、当該エステル、エーテルは室温で液状であることが必要である。1の親水部と1の親油部がエステル結合又はエーテル結合を形成しているので、分子の化学構造は両者の脱水縮合物の構造をとる。よって、例えば、1の親水部に対して2の親油部が脱水縮合した構造の分子は、上記のエステル、エーテルには該当しない。エステル結合はカルボキシル基と水酸基の脱水縮合により形成可能であり、エーテル結合は2つの水酸基の脱水縮合により形成可能である。脱水縮合により本発明のエステルを得る場合、親水部と親油部のいずれがカルボキシル基を備えていても良いが、親油部がカルボキシル基を有することが好ましい。
【0075】
上記のエステル、エーテルについて、室温で液状とは、具体的には当該物質が、一定の体積を有するもとで、室温において特定の形状を保持することが出来ない状態であれば液状であると判断することができる。
【0076】
B剤における上記エステル、エーテルの含有量は特に限定されないが、1〜5質量%が好ましい。
【0077】
上記の多価アルコールとは、2以上の水酸基を有するアルコールを意味する。多価アルコールの炭素数は特に限定されず、炭素原子1〜4個に対して、好ましくは1〜2個に対して、酸素原子が1個の割合で存在する多価アルコールである。当該多価アルコールは、エチレングリコールやプロピレングリコール、グリセロールの他、ソルビトール等の糖アルコール、を含む概念である。
【0078】
上記のポリ多価アルコールとは、上記した多価アルコールの重合物である。又、ポリ多価アルコールは1種又は2種以上の上記した多価アルコールの重合物であってよい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセロール、グリセロールとポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールとの縮合物、ポリオキシエチレンソルビタン、等を例示することができる。
【0079】
上記の糖はアルドース又はケトースを指す。炭素数は特に限定されないが、3〜6が好ましく、6が特に好ましい。
【0080】
上記の親水部は、本発明の効果を阻害しないことを条件に、ヘテロ原子を含有してもよく、置換基を有していても良い。上記の親油部は、不飽和であることに特徴がある。不飽和脂肪酸、不飽和高級アルコールの炭素数は特に限定されないが、10〜20であることが好ましく、16〜20であることがより好ましく、18であることが特に好ましい。親油部の不飽和度は特に限定されないが、1価〜3価であることが好ましく、1価であることが特に好ましい。二重結合の形成においてシス、トランスの別も特に限定されない。特に好ましい親油部は、オレイン酸又はオレイルアルコールである。
【0081】
上記の親油部は、本発明の効果を阻害しないことを条件に、ヘテロ原子を含有してもよく、置換基を有していても良い。親油部が酸素原子を有する場合は、疎水性を維持することが必要である。即ち、上記多価アルコールに該当するような多数の酸素原子を備えるものは親油部には該当しない。
【0082】
以上のエステル、エーテルに該当する成分の例としては、オレイン酸とプロピレングリコールのエステル(オレイン酸PG)などの、不飽和脂肪酸多価アルコールエステル、オレイン酸ポリグリセリル−10やオレイン酸PEG−10などの不飽和脂肪酸ポリ多価アルコールエステル、オレイン酸ソルビタンやポリソルベート−80などの(ポリオキシアルキレン)不飽和脂肪酸糖アルコールエステル、セラキルアルコールなどのグリセリン不飽和高級アルコールグリセリルエーテル、オレス−2等のポリオキシアルキレン不飽和高級アルコールエーテル等が挙げられる。
【0083】
(B剤のその他の成分)
B剤には、上記の成分以外にも、ヘアトリートメント組成物に配合されることがある各種の成分を、本発明の目的を阻害しない範囲の含有量において任意に選択して配合することができる。このような成分として「(A剤のその他の成分)」の項で示した各種の成分であって、上記のカチオン性界面活性剤や特定のエステル、エーテル以外のものを例示することができる。
【0084】
B剤はそのまま、あるいは、耐圧容器にLPG,DME、圧縮ガス等の噴射剤とともに充填してスプレー状、フォーム状等の適宜な剤型にして用いることができる。
【実施例】
【0085】
以下に本発明の実施例及び比較例を説明する。本発明の技術的範囲は、以下の実施例及び比較例によって限定されない。
【0086】
(多剤式ヘアトリートメント処理)
未処理の人毛黒髪毛束を評価用毛髪として、実施例1〜7、比較例1〜10に係る多剤式ヘアトリートメント処理を行った。これらの実施例及び比較例は、末尾の表1に示すように、ヘアトリートメント処理剤としては末尾の表2に毛髪処理剤αとして示すA剤及びB剤を用いて、あるいは末尾の表3に毛髪処理剤βとして示すA剤及びB剤を用いて、ヘアトリートメント処理を行い、その効果を評価したものである。
【0087】
表1において、各例に係る「A剤香料」、「B剤香料」の欄に表記した「A1」は、表4に「A剤用香料 処方1」として組成を示す本発明の第1香料組成物の第1の処方例を意味し、同様に、「A2」は表5に「A剤用香料 処方2」として組成を示す本発明の第1香料組成物の第2の処方例を、「B1」は表6に「B剤用香料 処方1」として組成を示す本発明の第2香料組成物の第1の処方例を、「B2」は表7に「B剤用香料 処方2」として組成を示す本発明の第2香料組成物の第2の処方例を、「B3」は表8に「B剤用香料 処方3」として組成を示す本発明の第2香料組成物の第3の処方例を、「B4」は表9に「B剤用香料 処方4」として組成を示す本発明の第2香料組成物の第4の処方例を、それぞれ示している。
【0088】
そして、例えば表1の実施例1では毛髪処理剤の欄に「α」、A剤香料の欄に「A1」、B剤香料の欄に「B1」と表記しているので、実施例1においては、多剤式ヘアトリートメント処理剤として末尾の表2にA剤及びB剤を用い、かつ表2のA剤中「A剤用香料」と表記された香料が表4の「A剤用香料 処方1」に係る第1香料組成物であり、表2のB剤中「B剤用香料」と表記された香料が表6の「B剤用香料 処方1」に係る第2香料組成物であることを示している。
【0089】
このことから分かるように、表1の比較例1〜6は、それぞれ対応する実施例1〜6と比較して、香料組成物以外の毛髪処理剤組成は同一であるが、A剤に配合すべき第1香料組成物をB剤に配合し、B剤に配合すべき第2香料組成物をA剤に配合している点が異なる。又、比較例7〜9は、A剤、B剤に同一の香料成分組成に係る香料組成物を配合している。そして、比較例10において香料の欄を「A1+B1」としているのは、前記A1に係る第1香料組成物とB1に係る第2香料組成物をそれぞれ毛髪処理剤中に0.1質量%ずつ配合していることを示す。
【0090】
ヘアトリートメント処理及び評価に当たっては、各実施例、比較例とも、最初に評価用毛髪を水でぬらし、タオルドライの後に各例に該当する処理剤のA剤を塗布し、香り立ちを官能評価した。次いで、各例に該当する処理剤のB剤を塗布し、香り立ちを官能評価した後、40℃の恒温槽に15分放置し、次いでしっかりと水洗してからドライヤーで乾燥させた後、香り立ちを官能評価した。これらの評価は、香りに関する専門教育を受けたパネラー1名と、一般のユーザーを想定した、専門教育を受けていないパネラー10名が実施した。評価に当たり、専門教育を受けたパネラーが、自らの評価を中心とし、専門教育を受けていないパネラーの多数意見も考慮に入れて判定した。
【0091】
(多剤式ヘアトリートメント処理の評価結果)
評価の結果、実施例1〜7は、A剤、B剤それぞれの塗布後、及び最後のドライヤー乾燥後のいずれの段階においても、フローラル調をベースにした香調の良好な香りが感じられた。又、A剤塗布後とB剤塗布後では、同様なフローラル調の香調であるが微妙な香りの変化性が感知された。
【0092】
一方、比較例1〜7については、A剤塗布後の香り立ちが弱く、B剤塗布後は良好な香りが感じられた。しかし、ドライヤー乾燥後は、各実施例と比べると香り立ちがかなり弱かった。比較例8については、A剤塗布後の香り立ちは良好なものの、B剤塗布後は香り立ちが強すぎ、A剤塗布後と比べ香調のバランスが崩れてしまったように感じられた。更に、ドライヤー乾燥後は香りをほとんど感じられなかった。比較例9については、各剤塗布後の香り立ちがいずれも弱かった。ただしドライヤー乾燥後は香りが各実施例と同程度残っていた。比較例10については、A剤塗布後の香り立ちは良好なものの、B剤塗布後は香り立ちが強すぎ、A剤塗布後と比べ香調のバランスが崩れてしまったように感じられた。ドライヤー乾燥後は実施例1と比べると香りの残り方が少なく感じられた。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
【表7】

【0100】
【表8】

【0101】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によって、各剤の塗布中に香調のバランスが崩れず、塗布プロセスの進行に伴って香りの変化性が感知され、ヘアトリートメントの処理後は香気が良好に持続する多剤式ヘアトリートメント組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)の第1香料組成物を含有する組成物からなるA剤と、下記(2)の第2香料組成物を含有する組成物からなるB剤とを含んで構成され、毛髪に対してA剤を塗布した後にB剤を重ねて塗布するという順序に従って適用するものであることを特徴とする多剤式ヘアトリートメント組成物。
(1)香料成分全体の60質量%以上を沸点280℃以下の香料成分(香料成分X)が占める第1香料組成物。
(2)香料成分全体の35質量%以上を沸点300℃以上の香料成分(香料成分Y)が占める第2香料組成物。
【請求項2】
前記第1香料組成物における香料成分全体の30質量%未満を沸点300℃以上の香料成分(香料成分Y)が占めることを特徴とする請求項1に記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。
【請求項3】
前記香料成分が下記(1)、(2)の一方又は双方に該当することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。
(1)香料成分Xが、リナロール、リナリルアセテート、ターピネオール、ゲラニオール、シトロネロール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアセテート、アニスアルデヒド、イソ・イー・スーパー、エチルアセテート、シトラール、ヘリオトロピン、ベンジルアルコール、エチルブチレート、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、エチルイソバレレート、メントール、オクタナール、デカナール、アネトール、シトロネリルアセテート、シトロネリルイソブチレート、シトロネリルニトリル、シトロネリルプロピオネート、ジヒドロミルセノール、シトロネラール、リリアール、トリプラール、γ−ノナラクトン、ゲラニルアセテート、ゲラニルホーメート、ゲラニルイソブチレート、ゲラニルニトリル、ジメチルベンジルカルビノール、シス−3−ヘキセノール、ネロール、シネオール、アリルヘプタノエート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、α−イオノン、β−イオノン、γ−イオノン、リモネン、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、α−ピネン、ベンズアルデヒド、リナロールオキサイド、スチラリルアセテート、テトラヒドロゲラニオール、テトラヒドロリナロール、メチルアンスラニレート、β−ダマスコン、ネロリドール、リラール、ヘリオナール、イソアミルサリシレート、ヘキシルアセテート及びエチル−2−メチルブチレートから選ばれる1種以上である。
(2)香料成分Yが、メチルジヒドロジャスモネート、ガラクソライド、ヘキシルシンナミックアルデヒド、イソカンフィルシクロヘキサノール、エチレンブラシエート、アンブロキサン、クマリン、ベンジルベンゾエート、ベンジルフェニルアセテート、シンナミルイソバレレート、シクロペンタデカノン、エチルオレエート、ゲラニルベンゾエート、リナリルシンナメート、ゲラニルチグレート、ベンジルサリシレート及びオーランチオールから選ばれる1種以上である。
【請求項4】
前記B剤が、更に、カチオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。
【請求項5】
前記B剤が、更に、下記(イ)に示す親水部と下記(ロ)に示す親油部がいずれも1ずつエステル結合又はエーテル結合により結合してなる、室温で液状のエステル、エーテルから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。
(イ)炭素原子数/酸素原子数=1〜4である多価アルコール、当該多価アルコールの縮合物であるポリ多価アルコール、又は糖。
(ロ)不飽和脂肪酸又は不飽和高級アルコール。
【請求項6】
前記A剤が、更に、それぞれ液状油である植物油、パラフィン類、飽和脂肪酸エステル及びトリグリセリドから選ばれる1種以上を合計で50質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の多剤式ヘアトリートメント組成物。

【公開番号】特開2012−56932(P2012−56932A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204819(P2010−204819)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000113274)ホーユー株式会社 (278)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】