説明

多区画配送システム

【課題】複数の生物学的存在を効果的に配送するように設計されたデバイス、特に、移植の目的のために、ランゲルハンス島等の細胞または細胞群を血管成長因子等の治療用化合物と組み合わせて配送することのできるデバイスを提供する。
【解決手段】本発明のデバイスは、生物学的存在の相異なる要件に応えるように独立に設計され、別々に処理された少なくとも二つの区画から構成される。本デバイスの区画は、移植の前または移植の時点で結合され、一つの区画から放出された治療薬が、もう一つの区画に受け入れられた細胞に何らかの利益を与えて、その増殖、分化、生存または機能を促進または改善するようにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、一般的には、薬剤および細胞の配送のための生体適合性を有するデバイスに関し、特に、治療用化合物を、器官、組織または細胞と組み合わせて配送するのに適した移植可能で生体適合性を有するマトリックスに関する。
【0002】
〔発明の背景〕
組織工学戦略により、生体材料を細胞および/または成長因子と共に使用し、最終的に組織機能を回復しまたは改善することができる生物学的代用品の開発が探索されてきた。組織の修復に役立つ組織テンプレート、導管、バリアおよびレザバーとしてのスカフォールド材料が広く研究された。特に、発泡体、スポンジ、ゲル、ヒドロゲル、繊維製品および不織布の形態の合成材料および天然材料は、生物組織を再建しまたは再生させるためならびに組織の成長を誘導するための走化性物質を配送するために、インビボおよびインビトロで使用されてきた。たとえば、米国特許第5,770,417、6,022,743、5,567,612、5,759,830、6,626,950、6,534,084、6,306,424、6,365,149、6,599,323、6,656,488および6,333,029を参照されたい。
【0003】
スカフォールドは、生体適合性を有し、手術中に経験する負荷に抵抗するために十分な機械強度を持ち、柔軟で、細胞の侵入または成長を許容できるように高度に多孔質であり、スカフォールド中に維持される細胞の増大を許容でき、容易に殺菌され、侵入する組織によるリモデリングに敏感であり、新組織が形成されるときに分解可能である等のいくつかの基本的な特徴を備えていることが好ましい。スカフォールドは、たとえば移植部位の炎症を軽減し、侵入する免疫細胞を下方制御し、移植した細胞の増殖を促進し、または移植した細胞の機能組織中への分化を誘導するための特異的な活性と好ましい放出動力学とを有するある種の治療薬を配送する能力を有するものであることも望ましい。その他の場合には、スカフォールドが一以上の生物学的存在(たとえば、細胞、細胞群または細胞小器官)を配送し得る。その場合、スカフォールドは、それぞれの存在を受け入れるための可変特性を所有していなければならない。罹患組織または傷害を受けた組織の代用品としてのスカフォールドの製造には、種々の生物学的機能に関連する複雑さおよび高度な特異性に対応できるように柔軟なデザインが要求されることは明白である。
【0004】
組織工学は、糖尿病の治療に有望な代替的アプローチを与え得る。移植用の膵島細胞をインビボで播種し培養するために、分解性または非分解性のマトリックスが使用されてきた。膵島の生存が、酸素および栄養分の拡散に依存するので、安定した血管新生の確立が膵島の生存にとってきわめて重大である。安定した血管新生の確立には、永続的な移植構造の発達を可能とする血管由来の信号の持効的放出が要求されることが見出されてきた。非分解性材料を用いて、ゼラチンヒドロゲル等のマトリックス材料中に懸濁した膵島細胞および血管由来因子の両方をカプセル化する努力が払われてきた。膵島細胞をインビボで種々の身体構造上の位置に配送するために生分解性の材料から造られたスカフォールド構造体も使用されてきた。たとえば、不織布スカフォールドは、膵島がその繊維内で絡み合うために十分なサポートを与え、脈管構造が確立するまでの移植プロセスの予備的段階にとって特に重要である、酸素と栄養分とが拡散するのに十分な空隙率を与えることができる能力を有するので、膵島を受け入れる理想的なマトリックスである。他方、不織布スカフォールドの90%近くが何もない空気であり得るため、不織布スカフォールド中への治療用化合物の組み込みはかなり非効率である。この問題に対処するため、スカフォールド全体の空隙率を低減させる発泡体成分を組み込むように、複合スカフォールドが設計されてきたが、これには、膵島を受け入れるスカフォールドの能力を損なう可能性がある。
【0005】
膵島細胞および治療用化合物等の複数の相異なる生物学的存在の効率的な配送を許容するスカフォールド構造体へのニーズが明らかに存在する。
【0006】
〔発明の概要〕
本発明は、生体適合性を有し、移植可能で、部分的にまたは完全に生分解性の配送デバイスであって、少なくとも二つの区画から構成されるデバイスに関する。これらの区画は、二つ以上の生物学的に関連した存在を収納し効果的に配送するために、独立に設計され、別々に処理される。
【0007】
一実施形態では、一つのデバイスの少なくとも二つの区画に、それぞれ治療用化合物および細胞が別々に充填されており、一つの区画から放出された治療用化合物が、もう一つの区画に受け入れられた細胞に有益な活動を与える。
【0008】
他の一実施形態では、一つのデバイスの少なくとも二つの区画に、二つのタイプの細胞が別々に充填され、一つの区画中の細胞が、もう一つの区画に受け入れられた細胞に有益な効果を与える。たとえば、一つのデバイスの一つの区画中に、破壊的な免疫反応からもう一つの区画中の細胞を防護する細胞を充填することができる。あるいは、一つのデバイスの一つの区画中に、もう一つの区画中の細胞の生存と機能とを改善する分子を産生および分泌する細胞を充填することができる。
【0009】
デバイスの区画は、移植の前または移植の時点で結合することができる。細胞を充填した区画は、細胞の増殖と分化または細胞からの細胞外マトリックスの産生が可能なように、もう一つの区画と結合する前に、適切な培養条件下に維持することができる。
【0010】
本発明は、本発明の配送デバイスを利用した、哺乳類の疾病、特に糖尿病、を治療する方法にも関する。
【0011】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、複数の生物学的存在を受け入れる二つ以上の別々に作製された区画を利用するために独自に設計された、生体適合性を有する配送デバイスを提供するものである。本発明のデバイスの主要な特徴は、区画の別々の設計、別々の製造および区画に別々に充填することの柔軟性にある。区画中に受け入れる生物学的存在の特定のニーズに対応する区画を設計し作製することができる。本発明のデバイスのもう一つの好ましい特徴は、別々の区画中の生物学的存在間での相互作用が可能なように、移植時に区画を結合する能力にある。
【0012】
図1は本発明の特徴を例示するためのもので、3−区画デバイスであって、それぞれの区画が外部隣接区画の内部にぴったり固定される本発明のデバイスの例を示している。各区画は、特定の生物学的存在を特異的に受け入れるよう、設計し作製することができる。たとえば、図1の区画(A)が細胞を受け入れるように作製され、区画(B)が治療用化合物を取り込むように作製されている。あるいは、区画(A)が治療用化合物を収納するように作製され、区画(B)が細胞を収納するように作製されている。
【0013】
用語「生物学的存在」は、ここでは一般的用語として使用されており、移植における使用に適した生物学的に活性な任意の材料を意味し、化合物や、単独細胞懸濁物または細胞群状態の細胞を含むがこれらに限られるわけではない。
【0014】
本発明のデバイスの一つ以上の区画は、細胞を受け入れることができる(「細胞区画」)。細胞区画は、移植片中の細胞の生残と機能とを最適化するように設計されている。細胞区画の重要な特徴はその空隙率にある。用語「空隙率」は、ある区画内の全孔隙体積の当該区画の全体積に対する割合を意味する。適切な空隙率により、細胞の生残、特に移植後の初期段階における細胞の生残に必要な栄養分および酸素の拡散が可能となる。適切な空隙率と孔隙サイズによって、恒久的な脈管構造ネットワークを確立させるための組織侵入も可能となる。細胞区画の空隙率と孔隙サイズは、移植される細胞のタイプおよびその構成要素の寸法により変わり得る。一般的に、細胞を受け入れるのに適した区画は、約50〜約1,000μmの範囲、好ましくは約50〜約500μmの範囲の平均孔直径を有し、70〜95%の範囲、好ましくは約 %の空隙率を有する。
【0015】
本発明のデバイスの細胞成分には哺乳類の細胞を受け入れ得る。これには、骨髄細胞、平滑筋細胞、間質細胞、部分的にまたは完全に分化したグルコース応答性のインスリン分泌細胞、幹細胞、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells)、滑膜由来の幹細胞、胚幹細胞、血管細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪組織に由来する前駆細胞、骨髄由来前駆細胞、腎臓細胞、腸細胞、膵島、β細胞、セルトリ細胞、末しょう血液前駆細胞、導管細胞、腺房細胞、線維芽細胞、グロムス細胞、ケラチン生成細胞、髄核細胞、線維輪細胞、線維軟骨細胞、胎盤由来の幹細胞、羊膜上皮、羊水、臍帯、絨毛膜、絨毛、臍帯または臍帯血、成体組織から分離した幹細胞、卵形細胞、神経幹細胞、グリア細胞、マクロファージならびに遺伝学的形質転換細胞またはこれらの組合せが含まれるが、これらに限られるわけではない。
【0016】
一実施形態では、細胞区画中に充填された細胞が、同じデバイスのもう一つの区画に充填された相異なるタイプの細胞に有益な因子または一群の因子を産生して、このような他の区画のこのような細胞の生存、増殖、分化または機能を改善する。
【0017】
細胞は、当業者に公知の方法を使用して細胞区画に充填される。たとえば を参照されたい。二、三の引用例を提供してください。細胞は、移植前に区画内に短期間(1日未満)維持でき、または、移植前にこの区画内における細胞増殖および細胞外マトリックスの合成を可能とするためにより長い期間(1日を超える)培養できる。
【0018】
一実施形態では、細胞区画が、細胞の播種を促進し、細胞の付着を増進する因子、たとえばフィブロネクチン、コラーゲン、ラミニンおよびその他の細胞外マトリックス、で処理される。
【0019】
他の一実施形態では、移植前に、細胞が、固定され、増殖しまたは分化して機能細胞になるのに十分な時間を細胞に与えるために、しかるべき培養技術を用いて細胞を充填した区画がインビトロに維持される。
【0020】
細胞区画は主として細胞を受け入れるように設計され作製されるが、このような区画には、生物活性化合物を含めることも(この化合物を中に含めることにより、細胞の付着、生存および機能を妨げない限り)できる。しかしながら、この化合物は、その最適な取り込みと放出動力学とを達成するように独立に設計した別の区画に取り込むことが好ましい。
【0021】
したがって、本発明のデバイスの一つ以上の区画は、主に、化合物の最適の組み込みと放出動力学とを達成するために、一つの化合物区画として設計、作製される。一つの化合物区画の特徴および化合物を充填するための技術は、化合物の物理的性質、その作用機構および所望の放出動力学によって異なり得る。
【0022】
用語「生物活性化合物」は、小分子、ペプチド、タンパク質、成長因子、分化因子またはこれらの組合せを意味する。生物活性化合物には、目標細胞タイプの付着、増殖、分化および細胞外マトリックスの合成を促進する任意の生物学的因子または合成因子が含まれる。拒絶反応抑制剤、鎮痛剤、酸化防止剤、エリスロポエチン等の抗アポトーシス剤、抗腫瘍壊死因子α等の抗炎症剤、抗CD44、抗CD3、抗CD154、p38キナーゼインヒビター、JAK−STATインヒビター、抗CD28、アセトアミノフェン、ラパマイシン等の細胞増殖抑制剤、抗IL2剤およびそれらの組合せも含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
一実施形態では、本化合物が、化合物区画の作製プロセス中に充填することのできる小分子である。他の一実施形態では、本化合物が、製造プロセスによる影響を受けやすく、後の段階で、吸着、コーティングまたは当業者に公知の他の各種充填技術により充填することのできる大きな生物学的因子である。
【0024】
化合物区画に充填することができる大きな生物学的因子の例には、成長因子、細胞外マトリックスタンパク質および生物学的に関連するペプチドフラグメントが含まれる。これらには、たとえば、TGF−β1,2,3等のTGF−βファミリー(family)の構成要素、骨形成タンパク質(BMP−2,−4,−6,−12,13)、線維芽細胞成長因子−1および−2、血小板由来成長因子−AAおよびBB、多血小板血漿、インスリン成長因子(IGF−I,II)、成長分化因子(GDF−5,−6,−8,−10)、血管内皮細胞由来の成長因子(VEGF)、エキセンディン4(Exendin 4)、(単球走化性タンパク質−1(monocyte chemoattractant protein-1))(MCP1)、プレイオトロフィン、エンドセリン、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド−IおよびII、副甲状腺ホルモン、テネイシン−C、トロポエラスチン、トロンビン由来のペプチド、ラミニン、フィブロネクチンやビトロネクチン等の粘着性の細胞外のマトリックスタンパク質の細胞結合領域およびヘパリン結合領域を有する生物ペプチドならびにこれらの組み合わせがあるが、これらに限られるわけではない。
【0025】
本デバイスの区画は生体適合性を有する材料から造られる。「生体適合性を有する」とは、本発明のデバイスが、デバイス内に播種されまたは組み込まれる生物学的存在または、デバイスが移植される生体対象の領域内あるいは生体対象の任意の他の領域の細胞または組織の所望の特徴に対し実質的に悪影響を与えないことを意味する。
【0026】
「生体対象」は、任意のほ乳類を含む対象を意味する。これらには、霊長類の対象、ブタ類の対象、イヌ類の対象、ネズミ類の対象、とりわけヒトの対象が含まれる。
【0027】
区画は、完全にまたは部分的に生分解性であり得、用途に応じて、デバイスの一つまたは全ての区画を生分解性または非生分解性にすることができる。「生分解性」または「生体吸収性」とは、デバイスが生体対象の体内に配送された後、デバイスが徐々に分解しもしくは身体により吸収され、または、身体から排出されることを意味する。
【0028】
当業者ならば、本発明のデバイスの特定の区画を形成するのに適した材料の選択がいくつかの因子に依存することを認識するであろう。しかるべき材料の選択におけるより適切な因子には、生体吸収性(または生分解性)動力学、インビボの機械的性能、細胞付着、増殖、移動、分化および生体適合性の観点からの材料に対する細胞の応答反応が含まれる。ある程度材料のインビトロまたはインビボの挙動を支配するその他の関連因子には、化学組成、構成要素の空間分布、分子量、結晶化度およびポリマー材料の場合のモノマー量が含まれる。
【0029】
本デバイスの区画を作製するのに適した材料には、ステンレス鋼、コバルトクロム、チタンおよびチタン合金等の生体適合性を有する金属;または、アルミナ、ジルコニアおよび硫酸カルシウム等の生体不活性のセラミックス;リン酸カルシウムを含む生分解性のガラスまたはセラミックスが含まれる。
【0030】
区画を作製するのに適した他の材料には非生分解性の合成ポリマーが含まれる。これには、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シリコーン、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリウレタンがあるが、これらに限られるわけではない。
【0031】
本デバイスの区画は、脂肪族ポリエステル、ポリアルキレンオキサレート(polyalkylene oxalates)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル(polyoxaesters)、ポリアミドエステル、ポリ無水物およびポリホスファゼン等があるがこれらに限られるわけではない生分解性の合成ポリマーから作製することもできる。脂肪族ポリエステルは、線状または枝分れまたはスター構造のホモポリマーまたはコポリマー(ランダム、ブロック、セグメント化、テーパードブロック、グラフト、トリブロック等)であり得る。脂肪族ホモポリマーおよびコポリマーを作製するのに適したモノマーは、乳酸、ラクチド(L−、D−、メソおよびL,D混合物等)、グリコール酸、グリコリド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、2,5−ジケトモルホリン(2,5−diketomorpholine)、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン(α,α−diethylpropiolactone)、エチレンカーボネート、エチレンオキサレート(ethylene oxalate)、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−ジオキセパン−2−オンおよび6,8−ジオキサビシクロオクタン−7−オン(6,8−dioxabicycloctane−7−one)からなる群から選ばれ得るがこれらに限られるわけではない。
【0032】
好ましいポリマーには、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリジオキサノン(PDO)、トリメチレンカーボネート(TMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、これらのコポリマーまたは混合物が含まれる。
【0033】
生分解性と生体適合性とを有するエラストマーも、本発明のデバイスを作製するのに特に有用な材料である。適切なエラストマーポリマーには、ε−カプロラクトンとグリコリドのモル比が約35/65〜約65/35、より好ましくは35/65〜45/55の、ε−カプロラクトンとグリコリドのエラストマーコポリマー(elastomeric copolymer);ε−カプロラクトンとラクチドのモル比が約35/65〜約65/35、より好ましくは35/65〜45/55の、ε−カプロラクトンとラクチドのエラストマーコポリマー;ラクチドとグリコリドのモル比が約95/5〜約85/15のラクチドとグリコリドのエラストマーコポリマー;p−ジオキサノンとラクチドのモル比が約40/60〜約60/40のp−ジオキサノンとラクチドのエラストマーコポリマー;ε−カプロラクトンとp−ジオキサノンのモル比が約30/70〜約70/30のε−カプロラクトンとp−ジオキサノンのエラストマーコポリマー;p−ジオキサノンとトリメチレンカーボネートのモル比が約30/70〜約70/30のp−ジオキサノンとトリメチレンカーボネートのエラストマーコポリマー;トリメチレンカーボネートとグリコリドのモル比が約30/70〜約70/30のトリメチレンカーボネートとグリコリドのエラストマーコポリマー;トリメチレンカーボネートとラクチドのモル比が約30/70〜約70/30のトリメチレンカーボネートとラクチドのエラストマーコポリマーまたはこれらの混合物が含まれるが、これらに限られるわけではない。
【0034】
本デバイスの区画は、天然にある生体物質またはその誘導体である生分解性のバイオポリマーから作製することもできる。そのようなバイオポリマーには、たとえば、小腸粘膜下組織(SIS)、ヒアルロン酸、コラーゲン、アルジネート、コンドロイチン硫酸、キトサンおよびそれらの混合物が含まれる。
【0035】
一実施形態によれば、デバイスの一つ以上の区画が、生体適合性を有する金属、生分解性を有するガラスまたはセラミックス、上記の非生分解性あるいは生分解性のポリマーまたはそれらの組合せから作製される繊維スカフォールドから造られる。この繊維スカフォールドは、織り、編み、ワープニット(warped knitting)(すなわち、レース様)、乾式集積(dry laying)、湿式集積(wet laying)または組み紐編みによって作製することができ、より糸、ヤーン、ネット、レース、フェルトまたは不織マットから選ばれた形態で組織化することができる。
【0036】
他の一実施形態によれば、デバイスの一つ以上の区画が、押し出し、注型、射出成形およびブロー成形等の従来からあるポリマー加工技術によって作製された多孔質のポリマーマトリックスから造られる。特定の実施形態では、多孔質マトリックスが、たとえば、抽出可能材料(たとえば、塩類、砂糖またはこれらに類似した適切な材料)を用いた、凍結乾燥、超臨界溶剤発泡、ガス圧入法押し出し、ガス射出成形または注型等の各種の技術により作製することのできるポリマー発泡体の形態を取る。
【0037】
さらに他の一形態によれば、デバイスの一つ以上の区画が、ポリマーマトリックスと繊維状スカフォールドの複合体の形態で作製される。この複合体では、ポリマーマトリックスのパーセンテージにより複合体の全体的な空隙率が決まる。
【0038】
本発明によれば、このような区画によって配送される一または複数の特定の生物学的存在を収納する区画を作製できるように材料および作製技術が選択され、特別誂えされる。
【0039】
たとえば、細胞区画は、区画の孔隙サイズと空隙率が、この区画中における細胞の一様な分布、栄養分および酸素の拡散および、安定した脈管系を確立するための細胞の内殖にとって最適であるように作製されなければならない。空隙率と孔隙サイズは、区画を形成するのに使用される繊維成分中の繊維密度、ポリマー溶液の濃度または量を操作することを含む種々の手段でコントロールすることができる。更に、スカフォールドの製造後、細胞の播種を促進し、細胞の付着を高める因子、たとえば、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニンおよびその他の細胞外マトリックスで区画(たとえば繊維スカフォールド)を処理することができる。
【0040】
これに対し、化合物区画は、化合物の所望の放出動力学を持つように作製しなければならない。化合物を多孔質のポリマーデバイスに取り込むための種々の技術が開発されてきた。化合物は、米国特許番号5,770,417に開示された注入技術によって、全デバイス内に含浸させることができる。化合物を含む溶液にデバイスを浸漬して、化合物がデバイス内の隙間を充満するようにすることもできる。あるいは、米国特許第5,980,551および5,876,452に開示されているように、化合物を含む溶液にスカフォールドデバイスを浸漬し、溶媒を蒸発させ、これにより、化合物をスカフォールドの表面に析出させることができる。さらに、プラズマ照射等の技術を使用して達成されるスカフォールドの表面改質により、化合物をスカフォールドに付着させ、よりよい付着ができるようにすることも可能である(Kwok等、J. Controlled Release、62:301−311,1999)。もう一つの一般的な技術としては、化合物または化合物を含む溶液をポリマー溶液に加え、溶媒を昇華させ、後に化合物が内部に分散したポリマースカフォールドを残す、凍結乾燥法がある。スカフォールドの多孔質マトリックス中への可溶性化合物の侵入を促進するために、比較的高い融点を持つアルコールまたはエーテル等の有機溶媒を使用することができる。
【0041】
細胞区画および化合物区画は典型的には別々に設計され作製されるが、ある種の区画(たとえば複合デバイス)は、細胞と一つ以上の生物活性化合物との両方を充填するのに適し得る。
【0042】
特定の一実施形態では、本発明により、少なくとも二つの区画から構成されるデバイスが提供される。これら二つの区画は、任意の幾何学的形状で作製でき、互いにぴったりと隣接し得、一つの区画の生物学的存在が他の区画の生物学的存在に有益な効果を与え得るようになっている。
【0043】
特定の一実施形態では、本デバイスの一つの区画が細胞区画であり、もう一つの区画が化合物区画であって、これら二つの区画が互いにぴったりと隣接し得、化合物区画から放出された化合物と細胞区画中の細胞との間に相互作用が生じ得るようになっている。
【0044】
好ましい一実施形態では、本デバイスが、ディスク様の形状を持つ内部区画と、リング様の形状を持つ外部区画とから成っている。特に好ましいデバイスが図2に示されている。この場合には、内部区画が、ポリマーPGA/PCL(65/35)で強化された不織繊維Vicryl(登録商標)で造られており、外部区画が不織繊維Vicryl(登録商標)で造られている。
【0045】
特定の一実施形態(図3)では、内部区画に未分化のまたは部分的に分化した細胞、たとえばインスリン産生グルコース応答性細胞またはその前駆体が充填される。外部区画には、インスリン産生機能を有する細胞への移植の後細胞の分化をガイドするであろう因子が充填される。
【0046】
もう一つの特定実施形態(図4)では、内部区画に、血管新生因子が充填され、外部区画には、ランゲルハンス島が充填される。これら二つの区画は、ついで、結合され、移植される。血管新生因子の放出により化学勾配が生じ、これが内皮細胞や血管新生に関与する他の細胞を外部区画中に引きつけ、ランゲルハンス島を囲む血管の細かなネットワークを構築させる。
【0047】
さらにもう一つの特定実施形態(図5)では、外部区画に充填されたインスリン産生細胞の生存および増殖を支持するために、単一の存在またはGLP−1およびエキセンディン4等の複数の化合物の組合せが内部区画に充填される。
【0048】
さらに他の一実施形態では、本デバイスに、二つの相異なるタイプの細胞の充填のために別々に作製された少なくとも二つの細胞区画が含まれ、一つの区画の細胞が、他の区画の細胞に有益な効果を与えるように、これら二つの区画を互いにぴったりと連結させることができる。
【0049】
特定の一実施形態では、本デバイスがディスク様の形状を持つ内部区画と、リング様の形状を持つ外部区画とから成っており、内部区画にはランゲルハンス島が充填され、外部区画にはセルトリ細胞が充填されている。セルトリ細胞は、ランゲルハンス島の生存を改善し、移植の際の免疫応答を防止または減少させることができる。
【0050】
もう一つの特定実施形態では、デバイスの一つの区画に、もう一つの区画の細胞の生残および機能を改善させる分子を産生および分泌する細胞が充填される。
【0051】
デバイスの区画は、移植の前に結合し、移植前のしばらくの間適切な条件下に維持することができる。あるいは、区画を結合し、その後まもなく移植する。更に、一つ以上の区画を最初に移植し、残りの区画を後で移植することができる。
【0052】
本発明の更なる態様では、上記のデバイスを糖尿病の治療のために利用する。
【0053】
当業者ならば、本発明の主な特長が配送される生物学的存在の特定の要件に対処するために作製された複数の区画を持つデバイスを組み立てる能力に存することを理解するであろう。本発明のデバイスにより、移植された細胞の生存および機能にとって必要な空隙率を損なうことなく、それぞれ相異なる放出プロフィールを有する種々の治療用化合物の組み込みが可能となる。
【0054】
以下の実施例は本発明の原理および実行を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の範囲および精神の範囲内に多くの更なる実施形態があることは当業者にとって明らかであろう。
【0055】
〔実施例〕
これらの実施例では、ポリマーおよびモノマーは、化学組成および純度(NMR、FTIR)、熱分析(DSC)および分子量について、従来の解析手法によって特徴づけられた。
【0056】
ポリマーおよびコポリマーの固有粘度(I.V.,dL/g)の測定は、溶媒としてクロロホルムまたはヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、0.1g/dLの濃度で、30℃に自動温度制御した水浴中に、50口径のCannon−Ubbelhode希釈粘度計を浸漬使用して行った。
【0057】
ある種の略号が使用されている。これらには、ε−カプロラクトン重合物を意味するPCL、グリコリド重合物を意味するPGAおよびラクチド(L)の重合物を意味するPLAが含まれている。更に、コポリマーの表示の前にある比率は、それぞれの構成要素のモル分率をそれぞれ示している。
【0058】
〔実施例1:ポリマー発泡体外部区画の作製〕
発泡体区画を製造するために使用したポリマーは、Birmingham Polymers Inc.(バーミンガム、アラバマ州)によって製造された、I.V.が1.45dL/gの35/65PCL/PGAコポリマーであった。35/65PCL/PGAを1,4−ジオキサン溶媒に対し5/95の重量割合で秤量した。このポリマーと溶媒とをフラスコに入れ、このフラスコを水浴中に置き、70℃で5時間撹拌して溶液を形成した。次いで、この溶液を、円筒ろ過器{特に目の粗い空隙率、タイプASTM 170−220(EC)}を使用してろ過し、室温下、フラスコに保存した。
【0059】
区画を形成するために、実験室規模の凍結乾燥器またはフリーズドライヤ(モデルDuradry、FTS Kinetics社、Stone Ridge、ニューヨーク州)を使用した。ポリマー溶液を、10.2cm×10.2cm(4インチ×4インチ)のアルミニウム金型中に2mmの高さまで入れた。次いで、この金型組立体を凍結乾燥器の棚に置き、凍結乾燥のシーケンスを開始した。この例で使用した凍結乾燥のシーケンスは、1)−17℃で60分間、2)約13.3Pa(100mT)の減圧下、−5℃で60分間、3)約2.67Pa(20mT)の減圧下、5℃で60分間および4)約2.67Pa(20mT)の減圧下、20℃で60分間であった。
【0060】
このサイクルの完了後、金型組立体をフリーズドライヤから取り出し、真空フード中で2〜3時間掛けて脱ガスした。次いで、発泡体シートを金型から取り出し、8mmの皮膚生検パンチ(Miltex Inc.、ニューヨーク、ニューヨーク州)を使用して、この発泡体シートから、ディスクを切り出した。直径が5mmのもう一つの皮膚生検パンチを使用して、前に切り出した8mmのディスク中、中心となる5mmのディスクを切り出し、後に、内径が5mmで外径が8mmのリングを残した。
【0061】
〔実施例2:内部繊維区画の作製〕
90/10PGA/PLA(Vicryl(登録商標) Ethicon Inc.)繊維から構成されたニードルパンチ不織マット(厚さ2mm)を下記のようにして作製した。PGA/PLA(90/10)のコポリマーを溶融押出しし、ヤーンを造る従来法で連続マルチフィラメントヤーンにし、次いで、強度、伸度および破裂に要するエネルギーを向上させるために配向した。このヤーンには、直径が約20μmの長繊維が含まれていた。次いで、これらのヤーンを切断し、捲縮して、一様に50.8mm(2インチ)長にし、50.8mm(2インチ)の短繊維を形成した。
【0062】
次いで、90/10PGA/PLAコポリマー短繊維を使用して、乾式集積したニードルパンチ不織マットを作製した。この短繊維を、標準的な不織装置で開繊し、梳綿した。得られたマットは、クモの巣状の短繊維の形態を取っていた。このクモの巣状の短繊維をニードルパンチし、乾式集積ニードルパンチ繊維不織マットを形成した。
【0063】
このマットをイソプロパノールで60分間こすり洗いし、次いで、真空下で乾燥した。5mmの生検パンチを使用して、この繊維マットからディスクを切り出した。
【0064】
〔実施例3:発泡体/繊維複合体内部区画の作製〕
発泡体成分の製造に使用されたポリマーは、Birmingham Polymers Inc.(バーミンガム、アラバマ州)によって生産された、I.V.が1.45dL/gの35/65PCL/PGAコポリマーであった。35/65 PCL/PGAを1,4−ジオキサン溶媒に対し0.5/99.5の重量割合で秤量した。このポリマーおよび溶媒をフラスコに入れ、このフラスコを水浴中に入れ、70℃で5時間撹拌して溶液を形成した。次いで、この溶液を円筒ろ過器{特に目の粗い空隙率、タイプASTM 170−220(EC)}を用いてろ過し、フラスコ中に保存した。
【0065】
実験室規模の凍結乾燥器またはフリーズドライヤ(モデルDuradry、FTS Kinetics社、Stone Ridge、ニューヨーク州)を使用して複合シートを形成した。10.2cm×10.2cm(4インチ×4インチ)のアルミニウム金型中に、約10mLのポリマー溶液を、金型表面を均一に覆うように入れた。残りの溶液を収納するビーカー中に実施例2で作製されたニードルパンチ繊維マットを完全に濡れるまで浸漬し、次いでアルミニウム金型中に置いた。残りのポリマー溶液を金型中に入れ、溶液がこの不織マットを覆い、金型中2mmの高さに達するようにした。次いで、この金型組立体を凍結乾燥器の棚に置き、凍結乾燥のシーケンスを開始した。この例で使用した凍結乾燥のシーケンスは、1)−17℃で60分間、2)約13.3Pa(100mT)の減圧下、−5℃で60分間、3)約2.67Pa(20mT)の減圧下、5℃で60分間および4)約2.67Pa(20mT)の減圧下、20℃で60分間であった。
【0066】
このサイクルの完了後、金型組立体をフリーズドライヤから取り出し、真空フード中2〜3時間掛けて脱ガスした。次いで、この複合体シートを金型から取り出し、皮膚生検パンチを使用して、このシートから5mmディスクを切り出した。
【0067】
〔実施例4:複合体内部区画へのVEGF−121の組み込みと、内皮細胞への化学遊走性効果(chemoattractive effect)〕
実施例3に示したようにしていくつかの複合体内部区画を作製した。次いで、これらの区画をEtO殺菌法で殺菌した。第三級ブタノール対PBSの比率が6%である、PBSと第三級ブタノールとの共溶媒系中VEGF−121を0.5mg/mL含む溶液を作製した。三つの複合体内部区画のそれぞれに対し、この溶液の20mLの試料をピペットで加えた。10秒以内に、VEGF溶液は完全にこれらのスカフォールドに浸透した。次いで、これらのスカフォールドを凍結し溶媒を昇華させた。対照として、他の三つの空のビヒクルを持つ内部区画について、同様の手続きを使用して充填を行った。
【0068】
タイプIラットテールコラーゲン(3.69mg/mL、BD Biosciences社)および初代(primary)ラットの胸大動脈内皮細胞(0.5×106/mL)を使用して収縮性コラーゲンゲル(contracting collagen gel)を作製した。培地(Endothelial Growth Medium−2、Cambrex社)、コラーゲン、中和培地(0.1N NaOHを含む培地)および細胞を、それぞれ4:2:1:1の比率で混合した。6mLのコラーゲン/細胞混合物を、ピペットで、6−ウェルの低クラスタープレート(Costar社)のそれぞれのウェルに入れ、37℃、5%CO2で2〜4時間放置して固化させ、次いで3mLの培地を加えた。二日後、これらのゲルは約4mm収縮した。
【0069】
8mmの生検パンチを使用して、全てのサンプルからゲルの中心部を取り出した。それぞれの内部区画(d=5mm)(VEGF−121を充填しているかまたは空のビヒクル)を、基本的に実施例2の記載された方法で作製された外部繊維区画(d=8mm)と結合した。最後に、それぞれの2−区画デバイスをコラーゲンゲルで作製されたスペースに挿入した(図6)。切り出したコラーゲンの最初の片をこのデバイス上に置き、この複合体にウェルインサートで重しを掛けた。VEGFを除いた培地をゲルに与えた。培地を約3日ごとに替え、後でVEGF量について分析した。15日目に、組織分析のために若干のサンプルをホルマリンで固定し、その他については、ゲルおよびスカフォールドを通して細胞を視覚化するための蛍光核染色液である4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール、ジヒドロクロリド(DAPI、Molecular Probes社)で染色した。図7には、コラーゲンゲル中の内皮細胞がデバイスを囲んでいる円の形状に並んでいる様子が示されている。VEGF−121を組み込んだデバイス(図8〜図9)では、細胞が一様な円の形状を捨て、外部区画の方へ向かって顕著に移動した。この観察から、内部区画から放出されたVEGF−121が、細胞を外部区画の方へ誘引する化学的勾配を生じさせたとの結論が導き出せる。
【0070】
〔実施例5:外部区画中のp38インヒビターの機能活性の評価〕
外部区画を実施例3で作製されたものと同様の複合体マトリックスから作製した。複数の区画に三つの相異なる量(10.99ng、109.9ngまたは1,099ng)のp38キナーゼインヒビター(JNJ3026582、別名RWJ67657)を充填した。この化合物(4−[4−(4−フルオロフェニル)−1−(3−フェニルプロピル)−5−(4−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]−3−ブチン−1−オール)の化学構造については以前文書で発表されている(Wadsworth等、J. Pharm. Exp. Ther.、291:680−687,1999)。
【0071】
実施例2に記載されたように作製された不織Vicryl(登録商標)繊維マトリックスから内部区画を作製した。ヒトの末梢血液から新たに単離した単核細胞について、その数を数え、1%のウシ胎児血清(FBS、HyClone、Logan、ユタ州)を含むRPMI−1640(Invitrogen Life Technologies社、Carlsbad、カリフォルニア州)中、最終的な細胞数になるように調整した。最終的な50μL量中合計1x106個の細胞を内部区画中に播種した。
【0072】
これら二つの区画を結合し、24−ウエルプレート中、0.5mLの培地で1時間予備培養した。LPS(10ng/mL;Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)の刺激剤をそれぞれのウエルに加え、37℃、5%CO2で一晩培養した。それぞれのウエルの上澄液を集め、標準的な市販のELISAキット(R&D Systems社、ミネアポリス、ミネソタ州)を使用して、TNF−α濃度について分析した。評価用のコントロールウエルに、デバイスを存在させずに、同一の数の細胞と滴定量の薬剤とを含む溶液を播種した(図10)。可溶性薬剤の当量と同様の抑制範囲内で、p38インヒビターを含浸させた区画からの用量に依存してTNF−αの分泌が抑制された(図11)。
【0073】
〔実施の態様〕
本発明の好ましい実施態様は以下の通りである。
(1) 生体適合性を有し、移植可能で、部分的にまたは完全に生分解性の配送デバイスにおいて、
少なくとも二つの相異なる生物学的存在を配送するために別々に作製された少なくとも二つの区画を含む、
デバイス。
(2) 実施態様1に記載のデバイスにおいて、
一つの区画に充填される生物学的存在がもう一つの区画に充填される生物学的存在から恩恵を受けることができるように、前記二つの区画が互いに物理的に結合され得る、デバイス。
(3) 実施態様2に記載のデバイスにおいて、
前記二つの区画のうちの一つが細胞区画であり、もう一つが化合物区画であり、当該化合物区画に充填される化合物が、当該細胞区画に充填される細胞の増殖、分化、生存または機能に恩恵を与えることができるように前記二つの区画が結合され得る、デバイス。
(4) 実施態様2に記載のデバイスにおいて、
前記二つの区画が共に細胞区画であり、一つの区画に充填される細胞が、もう一つの区画に充填される細胞の増殖、分化、生存または機能に恩恵を与えることができるように前記二つの区画が結合され得る、デバイス。
(5) 実施態様3に記載のデバイスにおいて、
前記化合物区画に化合物が充填されている、デバイス。
(6) 実施態様5に記載のデバイスにおいて、
前記化合物が、隣接する細胞区画に充填された細胞の付着、増殖または分化を促進し、または細胞外マトリックスの合成を促進するものである、デバイス。
(7) 実施態様5に記載のデバイスにおいて、
前記化合物が、拒絶反応抑制剤、鎮痛剤、酸化防止剤、抗アポトーシス剤または抗炎症剤から選ばれたものである、デバイス。
(8) 実施態様5に記載のデバイスにおいて、
前記化合物が、TGF−βファミリーの構成要素、骨形成タンパク質、線維芽細胞成長因子−1および−2、血小板由来成長因子−AAおよびBB、多血小板血漿、インスリン成長因子、成長分化因子、血管内皮細胞由来の成長因子(VEGF)、エキセンディン4、単球走化性タンパク質−1(MCP1)、プレイオトロフィン、エンドセリン、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド−IおよびII、副甲状腺ホルモン、テネイシン−C、トロポエラスチン、トロンビン由来のペプチド、ラミニン、粘着性細胞外マトリックスタンパク質の細胞結合領域およびヘパリン結合領域を含む生物ペプチドならびにこれらの組み合わせからなる群から選ばれたものである、デバイス。
(9) 実施態様3または4に記載のデバイスにおいて、
前記一つまたは複数の細胞区画に細胞が充填されている、デバイス。
(10) 実施態様9に記載のデバイスにおいて、
前記細胞が、部分的にまたは完全に分化したグルコース応答性のインスリン分泌細胞、骨髄細胞、平滑筋細胞、間質細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、滑膜由来の幹細胞、胚幹細胞、血管細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪組織に由来する前駆細胞、骨髄由来前駆細胞、腎臓細胞、腸細胞、膵島、β細胞、セルトリ細胞、末しょう血液前駆細胞、線維芽細胞、グロムス細胞、ケラチン生成細胞、髄核細胞、線維輪細胞、線維軟骨細胞、胎盤由来の幹細胞、羊膜上皮、羊水、臍帯または臍帯血、成体組織から分離した幹細胞、卵形細胞、神経幹細胞、グリア細胞、マクロファージならびにこれらの組合せからなる群から選ばれたものである、デバイス。
(11) 実施態様2に記載のデバイスにおいて、
前記二つの区画が移植時に結合される、デバイス。
(12) 実施態様3または4に記載のデバイスにおいて、
前記一つまたは複数の細胞区画に細胞が播種されており、移植前に適切な培養条件下、ある期間、インビトロで維持される、デバイス。
(13) 哺乳類の疾病の治療方法において、
生体適合性を有し、部分的にまたは完全に生分解性の配送デバイスを移植する段階、
を含み、
前記デバイスは、別々に作製され、前記治療に寄与する相異なる生物学的存在を別々に充填した少なくとも二つの区画を含具備する、
方法。
(14) 実施態様(13)に記載の方法において、
前記疾病がインスリン依存性糖尿病である、方法。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】3−区画デバイスであって、それぞれの区画が、外部隣接区画の内側にぴったり嵌合するデバイスの模式図を表す。
【図2】2−区画デバイスであって、内部区画にポリマーPGA/PCL(65/35)で強化した不織繊維Vicryl(登録商標)が含まれ、外部区画に不織繊維Vicryl(登録商標)が含まれるデバイスの写真である。
【図3】2−区画デバイスであって、内部区画に分化因子を充填した5%PGA/PCL発泡体が含まれ、外部区画に非分化細胞または部分的に分化した細胞を充填した不織繊維Vicryl(登録商標)が含まれるデバイスの図である。
【図4】2−区画デバイスであって、内部区画に血管新生因子VEGF−121が充填され、外部区画にランゲルハンス島が充填されているデバイスの図である。内部区画からのVEGF−121の放出制御により化学勾配が生じ、デバイス中に内皮細胞を引きつけて脈管構造形成を開始させる。
【図5】2−区画デバイスであって、内部区画にGLP−1またはエキセンディン4が充填され、外部区画にインスリン産生細胞が充填されているデバイスの図である。
【図6】2−区画デバイスであって、内部区画にVEGF−121が充填されているデバイスの写真である。このデバイスは、ラットの大動脈内皮細胞を含むコラーゲンゲルの層で囲まれている。
【図7】空のビヒクルが充填され、内皮細胞を充填したコラーゲンゲルの層で囲まれている2−区画デバイスを含む複合体の40Xの顕微鏡写真である。この複合体は、ゲルおよび関連区画を通して細胞の位置を特定するために蛍光核染色液で染色されている。VEGF−121がないので、細胞はコラーゲンゲル中にリング状のパターンで組織化される。
【図8】VEGF−12が充填され、内皮細胞を充填したコラーゲンゲルの層で囲まれている2−区画デバイスを含む複合体の40Xの顕微鏡写真である。この複合体は、ゲルおよび関連区画を通して細胞の位置を特定するために蛍光核染色液で染色されている。VEGF−121が存在するので、内皮細胞はリング状の形状を止め、(矢印で示される)外部区画の方へ移動する。
【図9】VEGF−12が充填され、内皮細胞を充填したコラーゲンゲルの層で囲まれている2−区画デバイスを含む複合体の40Xの顕微鏡写真である。この複合体は、ゲルおよび関連区画を通して細胞を特定するために蛍光核染色液で染色されている。VEGF−121が存在するので、内皮細胞はリング状の形状を止め、(矢印で示される)外部区画の方へ移動する。
【図10】LPSで刺激されたPBMCからのTNF−α分泌の変化を可溶性p38インヒビター(RWJ67657)中の変化と比較して示す較正曲線である。
【図11】p38インヒビター(RWJ67657)を充填した区画の存在下、LPSで刺激されたPBMCからのTNF−α分泌の服用量に依存した抑制を示すグラフである。PBMCは内部区画に充填され、インヒビター化合物は外部区画に充填された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性を有し、移植可能で、部分的にまたは完全に生分解性の配送デバイスにおいて、
少なくとも二つの相異なる生物学的存在を配送するために別々に作製された少なくとも二つの区画を含む、
デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
一つの区画に充填される生物学的存在がもう一つの区画に充填される生物学的存在から恩恵を受けることができるように、前記二つの区画が互いに物理的に結合され得る、デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載のデバイスにおいて、
前記二つの区画のうちの一つが細胞区画であり、もう一つが化合物区画であり、当該化合物区画に充填される化合物が、当該細胞区画に充填される細胞の増殖、分化、生存または機能に恩恵を与えることができるように前記二つの区画が結合され得る、デバイス。
【請求項4】
請求項2に記載のデバイスにおいて、
前記二つの区画が共に細胞区画であり、一つの区画に充填される細胞が、もう一つの区画に充填される細胞の増殖、分化、生存または機能に恩恵を与えることができるように前記二つの区画が結合され得る、デバイス。
【請求項5】
請求項3に記載のデバイスにおいて、
前記化合物区画に化合物が充填されている、デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載のデバイスにおいて、
前記化合物が、隣接する細胞区画に充填された細胞の付着、増殖または分化を促進し、または細胞外マトリックスの合成を促進するものである、デバイス。
【請求項7】
請求項5に記載のデバイスにおいて、
前記化合物が、拒絶反応抑制剤、鎮痛剤、酸化防止剤、抗アポトーシス剤または抗炎症剤から選ばれたものである、デバイス。
【請求項8】
請求項5に記載のデバイスにおいて、
前記化合物が、TGF−βファミリーの構成要素、骨形成タンパク質、線維芽細胞成長因子−1および−2、血小板由来成長因子−AAおよびBB、多血小板血漿、インスリン成長因子、成長分化因子、血管内皮細胞由来の成長因子(VEGF)、エキセンディン4、単球走化性タンパク質−1(MCP1)、プレイオトロフィン、エンドセリン、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド−IおよびII、副甲状腺ホルモン、テネイシン−C、トロポエラスチン、トロンビン由来のペプチド、ラミニン、粘着性細胞外マトリックスタンパク質の細胞結合領域およびヘパリン結合領域を含む生物ペプチドならびにこれらの組み合わせからなる群から選ばれたものである、デバイス。
【請求項9】
請求項3または4に記載のデバイスにおいて、
前記一つまたは複数の細胞区画に細胞が充填されている、デバイス。
【請求項10】
請求項9に記載のデバイスにおいて、
前記細胞が、部分的にまたは完全に分化したグルコース応答性のインスリン分泌細胞、骨髄細胞、平滑筋細胞、間質細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、滑膜由来の幹細胞、胚幹細胞、血管細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪組織に由来する前駆細胞、骨髄由来前駆細胞、腎臓細胞、腸細胞、膵島、β細胞、セルトリ細胞、末しょう血液前駆細胞、線維芽細胞、グロムス細胞、ケラチン生成細胞、髄核細胞、線維輪細胞、線維軟骨細胞、胎盤由来の幹細胞、羊膜上皮、羊水、臍帯または臍帯血、成体組織から分離した幹細胞、卵形細胞、神経幹細胞、グリア細胞、マクロファージならびにこれらの組合せからなる群から選ばれたものである、デバイス。
【請求項11】
請求項2に記載のデバイスにおいて、
前記二つの区画が移植時に結合される、デバイス。
【請求項12】
請求項3または4に記載のデバイスにおいて、
前記一つまたは複数の細胞区画に細胞が播種されており、移植前に適切な培養条件下、ある期間、インビトロで維持される、デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−7414(P2007−7414A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−178656(P2006−178656)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(596159500)ライフスキャン・インコーポレイテッド (100)
【氏名又は名称原語表記】Lifescan,Inc.
【住所又は居所原語表記】1000 Gibraltar Drive,Milpitas,California 95035,United States of America
【Fターム(参考)】