説明

多型検出用プローブ、多型検出方法、薬効判定方法及び多型検出用キット

【課題】MDR1遺伝子のエクソン12におけるC1236T変異型を、高い感度で、簡便に検出することを可能にする多型検出用プローブを提供する。
【解決手段】P1及びP1’からなる群より選択される一種の蛍光標識オリゴヌクレオチドであるMDR1遺伝子の多型を検出するための多型検出用プローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多型検出用プローブ、多型検出方法、薬効判定方法及び多型検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
MDR1遺伝子は、P−糖タンパクをコードする遺伝子である。P−糖タンパクは、がん細胞、肝臓、小腸及び脳血管内皮細胞等様々な細胞に発現し、薬剤の輸送に関与する。
また、MDR1遺伝子のエクソン26の3435番目のCがTに置換する変異型(C3435T変異型)、MDR1遺伝子のエクソン21の2677番目のGがAまたはTに置換する変異型(G2677A/T変異型)及びMDR1遺伝子のエクソン12の1236番目のCがTに置換する変異型(C1236T変異型)は、大腸がんの予後を推測するための因子として有用であることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
遺伝子の多型を測定する方法としては、測定対象となる塩基を含む部分を増幅するように設計されたプライマーを用いてPCRを行い、当該塩基における変異型の有無で切断の有無が分かれるような制限酵素を用いて切断し、その後、電気泳動で切断されたかどうかを検出するという方法(PCR−RFLP法)が知られている。
別の方法としては、変異型を含む領域をPCR法で増幅した後、蛍光色素で標識された核酸プローブを、標的核酸にハイブリダイゼーションさせ、蛍光色素の発光の減少量を測定し、融解曲線分析の結果に基づいて塩基配列の変異型を解析する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、特定の核酸プローブを用いることにより、MDR1遺伝子のC3435T変異型の有無を、高い感度で、簡便に、検出できることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3963422号公報
【特許文献2】特許第4454366号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Int.J.Colorectal.Dis.、2010年、第25巻、p1167−1176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1では、MDR1遺伝子のC3435T変異型を検出する方法として、PCR−RFLP法が用いられている。PCR−RFLP法は、PCR反応後に増幅産物を取り出して制限酵素処理を行う必要がある。そのため、増幅産物が次の反応系に混入する恐れがあり、これに起因して偽陽性、偽陰性の結果が得られてしまう場合がある。さらに、PCR終了後、制限酵素で処理を行い、その後電気泳動を行うため、検出までに必要な時間も非常に長くなってしまう場合がある。また、操作が複雑なため、自動化が困難である。
また、非特許文献1では、MDR1遺伝子のG2677A/T変異型及びC1236T変異型を検出する方法として、シークエンス解析法が用いられている。シークエンス解析法を用いた検出方法では、PCRを行った後、シークエンス反応を行い、シークエンサーで電気泳動を行わなければならないなど、手間やコストを要する。また、増幅産物を処理する必要があるため、増幅産物が次の反応系に混入する恐れがある。
【0008】
特許文献1では、核酸プローブを用いる方法により、多型を検出している。しかし、特許文献1には、核酸プローブの設計に関し、末端部が蛍光色素により標識された消光プローブが標的配列にハイブリダイゼーションしたとき、末端部分において形成される核酸プローブと標的配列とのハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのGとCのペアを形成するように設計するという教示があるのみである。そのため、特許文献1に記載の方法では、変異型毎に適正なる配列を有する核酸プローブを使用する必要がある。
また、本発明者の検討により、核酸プローブの配列において、GCの含量が高すぎると消光プローブが十分に機能しないことも明らかになった。
【0009】
特許文献2には、MDR1遺伝子のエクソン26におけるC3435T変異型を検出する方法は記載されているものの、特許文献2に記載の核酸プローブを利用してMDR1遺伝子のG2677A/T変異型やC1236T変異型を検出することはできない。
これらの現状を踏まえ、MDR1遺伝子におけるC3435T変異型以外の塩基における多型検出のためのさらなる技術開発が待ち望まれていた。
【0010】
本発明は、MDR1遺伝子のエクソン12におけるC1236T変異型を、高い感度で、簡便に検出することを可能にする多型検出用プローブ、これを用いた多型検出方法および薬効判定方法、ならびに多型検出用キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、MDR1遺伝子のエクソン12におけるC1236T変異型を含む特定の領域に基づいて消光プローブを設計することにより、消光プローブを用いる融解曲線分析によりC1236T変異を検出できるとの知見を得た。本発明は、かかる知見に基づいて達成されたものである。
本発明は以下のとおりである。
<1> 下記P1及びP1’からなる群より選択される一種の蛍光標識オリゴヌクレオチドであるMDR1遺伝子の多型を検出するための多型検出用プローブ;
(P1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、及び
(P1’)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
<2> 下記P1−1及びP1’−1からなる群より選択される少なくとも一種の蛍光標識オリゴヌクレオチドである<1>に記載の多型検出用プローブ;
(P1−1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されており、且つ配列番号1における401番目の多型を認識するオリゴヌクレオチド、及び
(P1’−1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されており、且つ配列番号1における401番目の多型を認識するオリゴヌクレオチド。
<3> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが、蛍光色素で標識された395番目の塩基に対応する塩基を3’末端から数えて1番目〜3番目の位置のいずれかに有する<1>又は<2>に記載の多型検出用プローブ。
<4> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが、蛍光色素で標識された395番目の塩基に対応する塩基を3’末端に有する<1>〜<3>のいずれか1つに記載の多型検出用プローブ。
<5> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときの蛍光強度が、ハイブリダイズしないときの蛍光強度に比べて、減少するか又は増加する、<1>〜<4>のいずれか1つに記載の多型検出用プローブ。
<6> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、標的配列にハイブリダイズしたときの蛍光強度が、ハイブリダイズしないときの蛍光強度に比べて、減少する<5>に記載の多型検出用プローブ。
<7> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が7〜28である<1>〜<6>のいずれか1つに記載の多型検出用プローブ。
<8> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が7〜18である<1>〜<7>のいずれか1つに記載の多型検出用プローブ。
<9> 融解曲線分析用のプローブである<1>〜<8>のいずれか1つに記載の多型検出用プローブ。
<10> <1>〜<9>のいずれか1つに記載のプローブを用いることによりMDR1遺伝子の多型を検出する多型検出方法。
<11> (I)<1>〜<9>のいずれか1つに記載のプローブ及び試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチド及び前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッドを得ることと、
(II)前記ハイブリッドを含む試料の温度を変化させることにより、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定することと、
(III)前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を測定することと、
(IV)前記Tm値に基づいて、前記試料中の一本鎖核酸における、MDR1遺伝子の多型の存在を検出することと、
を含む、<10>に記載の多型検出方法。
<12> さらに、前記(I)のハイブリッドを得る前又は前記(I)のハイブリッドを得ることと同時に、核酸を増幅することを含む<11>に記載の多型検出方法。
<13> さらに、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型、及び配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型の少なくとも一方の多型を同一の系で検出することを含む<10>〜<12>のいずれか1つに記載の多型検出方法。
<14> 配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基に対応する多型と、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型と、配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型とを同一の系で検出することを含む、<10>〜<13>のいずれか1つに記載の多型検出方法。
<15> <10>〜<14>のいずれか1つに記載の多型検出方法により、MDR1遺伝子における多型を検出すること、及び検出された多型の有無に基づいて薬剤に対する耐性又は薬剤の薬効を判定することを含む薬剤の薬効判定方法。
<16> <1>〜<9>のいずれか1つに記載のプローブを含む、MDR1遺伝子における多型を検出する多型検出用試薬キット。
<17> さらに、前記プローブがハイブリダイズする領域を含む塩基配列を増幅するためのプライマーを含む<16>に記載の多型検出用試薬キット。
<18> さらに、配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型を検出するための多型検出用プローブと、配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型を検出するための多型検出用プローブとを含む<16>又は<17>に記載の多型検出用試薬キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、MDR1遺伝子のエクソン12におけるC1236T変異型を、高い感度で、簡便に検出することを可能にする多型検出用プローブ、これを用いた多型検出方法および薬効判定方法、ならびに多型検出用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は、核酸混合物の融解曲線の一例であり、(B)は微分融解曲線の一例である。
【図2】本発明の実施例1にかかる試料の微分融解曲線である。
【図3】(A)〜(F)は、本発明の実施例2にかかる試料の微分融解曲線である。
【図4】本発明の比較例1にかかる試料の微分融解曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にかかるMDR1遺伝子の多型検出用プローブ(以下、単に「多型検出用プローブ」ということがある)は、下記P1及びP1’からなる群より選択される一種の蛍光標識オリゴヌクレオチドであるMDR1遺伝子の多型を検出するための多型検出用プローブである:
(P1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、及び
(P1’)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
本発明にかかるMDR1遺伝子の多型検出方法は、前記MDR1遺伝子の多型を検出するための多型検出用プローブを少なくとも1種用いてMDR1遺伝子の多型を検出することを含む方法である。
本発明にかかる薬剤の薬効判定方法は、前記MDR1遺伝子多型検出方法によりMDR1遺伝子の多型を検出すること、及び検出された多型の有無に基づいて、薬剤に対する耐性または薬剤の薬効を判定することを含む方法である。
本発明にかかる多型検出用試薬キットは、MDR1遺伝子の多型を検出するための多型検出用プローブを含むものである。
【0015】
本発明における「MDR1遺伝子」は、既に公知であり、その塩基配列は、Gene ID:5243、NCBIのアクセッションNo.NG_011513のうち4926番目の塩基〜214386番目の塩基の配列に相当する。なお、本明細書においては、特に断らない限り「MDR1遺伝子」は、配列番号1に示すMDR1遺伝子のエクソン12に相当する塩基配列を意味するものとする。
配列番号1の塩基配列は、NCBIのdbSNPのアクセッションNo.rs1128503の1〜801の配列である。
【0016】
本発明において、検出対象となる試料中の試料核酸、多型検出用プローブ又はプライマーの個々の配列に関して、これら互いの相補的な関係に基づいて記述された事項は、特に断らない限り、それぞれの配列と、各配列に対して相補的な配列とについても適用される。各配列に対して相補的な当該配列について本発明の事項を適用する際には、当該相補的な配列が認識する配列は、当業者にとっての技術常識の範囲内で、対応する本明細書に記載された配列に相補的な配列に、明細書全体を読み替えるものとする。
【0017】
本発明において、「Tm値」とは、二本鎖核酸が解離する温度(解離温度:Tm)であって、一般に、260nmにおける吸光度が、吸光度全上昇分の50%に達した時の温度と定義される。即ち、二本鎖核酸、例えば、二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。そして、全ての二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになると、その吸光度は加熱開始時の吸光度(二本鎖DNAのみの吸光度)の約1.5倍程度を示し、これによって融解が完了したと判断できる。Tm値は、この現象に基づき設定される。本発明におけるTm値は、特に断らない限り、吸光度が、吸光度全上昇分の50%に達した時の温度をいう。
本発明において、オリゴヌクレオチドの配列に関して「3’末端から数えて1〜3番目」という場合は、オリゴヌクレオチド鎖の3’末端を1番目として数える。同様に「5’末端から数えて1〜3番目」という場合は、オリゴヌクレオチド鎖の5’末端を1番目として数える。
【0018】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本発明において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において変異とは、野生型の塩基配列の一部の塩基が置換、欠失、重複又は挿入されることによって生じる新たな塩基配列を意味する。また、多型とは、変異によって生じる塩基配列の多型を意味する。
以下、本発明について説明する。
【0019】
<MDR1遺伝子多型検出用プローブ>
本発明のMDR1遺伝子の多型検出用プローブ(以下、単に「多型検出用プローブ」ともいう)は、下記P1及びP1’からなる群より選択される一種の蛍光標識オリゴヌクレオチドであるMDR1遺伝子の多型を検出するための多型検出用プローブである:
(P1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、及び
(P1’)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
【0020】
本発明における前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列の401番目の塩基における多型を検出することができるプローブである。
【0021】
MDR1遺伝子の野生型では、配列番号1に示される配列のうち401番目に対応する塩基は、C(シトシン)であるが、変異型においてはT(チミン)に変異しており(以下、「C1236T変異型」ともいう)、当該塩基は、MDR1遺伝子の87133179番目〜87342639番目の塩基のうち、87296217番目の塩基に該当する。
【0022】
本発明における前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号1における395番目〜401番目の塩基を含む塩基配列に対して相補的な塩基配列である。
【0023】
具体的には、本発明において相同性が認められる蛍光標識オリゴヌクレオチドとは、配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有する。なお、395番目の塩基に対応する塩基は、シトシンであることを要する。
また、P1の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、検出感度の観点より、配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列に対して、85%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、96%以上の同一性、97%以上の同一性、98%以上の同一性又は99%以上の同一性を示してもよい。
本発明の前記P1の蛍光標識オリゴヌクレオチドと、配列番号1における217番目の塩基に対応する塩基がC(シトシン)である以外は配列番号1と同一の塩基を有する塩基配列とを比較した際の同一性が80%未満である場合には、変異型のMDR1遺伝子を含む試料核酸に対する検出感度が低くなる。
【0024】
本発明における前記P1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。なお、395番目の塩基に対応する塩基はシトシンであることを要する。
【0025】
ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning 3rd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001) に記載の方法等に従って行うことができる。この文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。典型的なストリンジェントな条件とは、例えば、カリウム濃度は約25mM〜約50mM、及びマグネシウム濃度は約1.0mM〜約5.0mM中において、ハイブリダイゼーションを行う条件があげられる。本発明の条件の1例としてTris−HCl(pH8.6)、25mMのKCl、及び1.5mMのMgCl中においてハイブリダイゼーションを行う条件が、挙げられるが、これに限定されるものではない。その他、ストリンジェントな条件としては、Molecular Cloning 3rd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)に記載されている。この文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。当業者は、ハイブリダイゼーション反応や、ハイブリダイゼーション反応液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。
【0026】
さらに、本発明における前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドとしては、前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドに塩基が挿入、欠失又は置換した蛍光標識オリゴヌクレオチドも本発明における蛍光標識オリゴヌクレオチドに包含される。
当該塩基が挿入、欠失又は置換した蛍光標識オリゴヌクレオチドは、前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドと同等程度の作用を示せばよく、塩基が挿入、欠失又は置換されている場合、その挿入、欠失又は置換の位置は、特に限定されない。挿入、欠失又は置換した塩基の数としては1塩基又は2塩基以上が挙げられ、蛍光標識オリゴヌクレオチド全体の長さによって異なるが、例えば1塩基〜10塩基、好ましくは1塩基〜5塩基が挙げられる。
【0027】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドにおける、オリゴヌクレオチドとしては、オリゴヌクレオチドの他、修飾されたオリゴヌクレオチドも含まれる。
前記オリゴヌクレオチドの構成単位としては、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、人工核酸等が挙げられる。前記人工核酸としては、DNA、RNA、RNAアナログであるLNA(Locked Nucleic Acid);ペプチド核酸であるPNA(Peptide Nucleic Acid);架橋化核酸であるBNA(Bridged Nucleic Acid)等が挙げられる。
前記オリゴヌクレオチドは、前記構成単位のうち、一種類から構成されてもよいし、複数種類から構成されてもよい。
【0028】
本発明の前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの長さとしては、7mer〜38merであることを要する。前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの長さが7mer未満や、38merより長い場合には、MDR1遺伝子多型の検出感度が低下してしまい好ましくない。
また、本発明の前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの長さとしては、7mer〜28merにすることができ、7mer〜18merにすることもできる。7mer〜28merという範囲にすることにより、例えば検出感度がさらに高くなる等の傾向がある。
前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長を変化させることで、蛍光標識オリゴヌクレオチドがその相補鎖(標的配列)と形成するハイブリッドの解離温度であるTm値を、所望の値に調整することができる。
【0029】
以下に本発明における前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおける塩基配列の一例を表1に示すが、本発明はこれらに限定されない。
なお、表1では、配列番号1の401番目の塩基に対応する塩基を大文字で表記した。また、配列番号1の401番目に対応する塩基がT又はCの場合である試料核酸と、それぞれのP1蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリッドのTm値を併せて示した。Tm値は、Meltcalc 99 free(http://www.meltcalc.com/)を用い、設定条件:Oligoconc[μM]0.2、Na eq.[mM]50の条件で算出した(以下、同様)。
【0030】
【表1】

【0031】
本発明において、配列番号1の401番目に対応する塩基がTに該当する試料核酸とハイブリダイズした場合のTm値と、配列番号1の401番目に対応する塩基がCに該当する試料核酸とハイブリダイズした場合のTm値との差は、1.5℃以上、2.0℃、5℃以上、9℃以上にすることができる。前記Tm値の差が1.5℃以上であることで、例えば、配列番号1における401番目の塩基の変異型をより高感度に検出することができる。
【0032】
前記Tm値の差を大きくする方法としては、例えばプローブがハイブリダイズする領域に対応する塩基配列に対して、ミスマッチとなる塩基を該プローブに含める方法などが挙げられる。具体的には、NatureBiotech(1997)vol15 p.331−335等に記載の方法が挙げられる。
【0033】
また、本発明の前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、395番目の塩基(シトシン)が蛍光色素で標識されていることを要する。
【0034】
前記P1及びP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおいては、この蛍光標識された395番目の塩基が、3’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に存在することができる。また、3’末端に存在することができる。これにより、例えば、多型検出感度がより向上する。また、P1又は前記P1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドを生産性よく得ることができる。
【0035】
本発明の前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)するかまたは増加する蛍光標識オリゴヌクレオチドであることができる。その中でも標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少する蛍光標識オリゴヌクレオチドであることができる。
【0036】
このような蛍光消光現象(Quenching phenomenon)を利用したプローブは、一般的に、グアニン消光プローブと呼ばれており、いわゆるQProbe(登録商標)として知られている。中でも、オリゴヌクレオチドを3'末端もしくは5'末端がシトシン(C)となるように設計し、その末端のCが、グアニン(G)に近づくと発光が弱くなるように蛍光色素で標識化されたオリゴヌクレオチドであることが挙げられる。
このようなプローブを使用すれば、シグナルの変動により、ハイブリダイズと解離とを容易に確認することができる。
【0037】
なお、Q Probeを用いた検出方法以外にも、公知の検出様式を適用してもよい。このような検出様式としては、Taq−man Probe法、Hybridization Probe法、Moleculer Beacon法又はMGB Probe法などを挙げることができる。
【0038】
前記蛍光色素としては、特に制限されないが、例えば、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、ポリメチン色素誘導体等があげられる。これらの蛍光色素の市販品としては、例えば、Pacific Blue、BODIPY FL、FluorePrime、Fluoredite、FAM、Cy3およびCy5、TAMRA等が挙げられる。
蛍光標識オリゴヌクレオチドの検出条件は特に制限されず、使用する蛍光色素により適宜決定できる。例えば、Pacific Blueは、検出波長445nm〜480nm、TAMRAは、検出波長585nm〜700nm、BODIPY FLは、検出波長520nm〜555nmで検出できる。
このような蛍光色素を有するプローブを使用すれば、それぞれの蛍光シグナルの変動により、ハイブリダイズと解離とを容易に確認することができる。蛍光色素のオリゴヌクレオチドへの結合は、通常の方法、例えば特開2002−119291号公報等に記載の方法に従って行うことができる。
【0039】
また前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、例えば、3'末端にリン酸基が付加されてもよい。蛍光標識オリゴヌクレオチドの3'末端にリン酸基を付加させておくことにより、プローブ自体が遺伝子増幅反応によって伸長することを十分に抑制できる。後述するように、変異の有無を検出するDNA(標的DNA)は、PCR等の遺伝子増幅法によって調製することができる。その際、3'末端にリン酸基が付加された蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いることで、これを増幅反応の反応液中に共存させることができる。
また、3'末端に前述のような標識化物質(蛍光色素)を付加することによっても、同様の効果が得られる。
【0040】
前記P1及びP1’蛍光標識オリゴヌクレオチドはMDR1遺伝子における多型、特にMDR1遺伝子のC1236T変異型を検出するMDR1遺伝子多型検出用プローブとして使用することができる。
また、MDR1遺伝子多型検出用プローブは、融解曲線分析用のプローブとして使用することができる。
なお、本発明に係る前記P1及びP1’蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列において、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、395番目の塩基に対応するシトシンが蛍光色素で標識された塩基を用いる以外は、オリゴヌクレオチドの合成方法として知られている公知の方法、例えば特開2002−119291号公報等に記載の方法に従って作製することができる。
【0041】
前記P1及びP1’蛍光標識オリゴヌクレオチドのより好ましい態様としては、以下のP1−1及びP1’−1蛍光標識オリゴヌクレオチドが挙げられる。
(P1−1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されており、且つ配列番号1における401番目の多型を認識するオリゴヌクレオチド、及び
(P1’−1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されており、且つ配列番号1における401番目の多型を認識するオリゴヌクレオチド。
なお、「配列番号1における401番目の多型を認識する」とは、「配列番号1における401番目の多型を示す塩基に結合する」と同義である。
【0042】
<プライマー>
後述するMDR1遺伝子多型検出方法では、検出対象となるMDR1遺伝子多型を含む配列をPCR法により増幅する場合には、プライマーが用いられる。
本発明において使用しうるプライマーは、目的とする検出対象となるMDR1遺伝子の多型の部位である、配列番号1で示される配列のうち401番目の塩基に対応する塩基を含む核酸を増幅可能であれば特に制限されない。
【0043】
PCR法に適用するプライマーは、本発明の多型検出用プローブがハイブリダイズする領域を含む塩基配列を増幅できるものであれば特に制限されず、配列番号1〜配列番号6で示される塩基配列から、当業者であれば適宜設計することができる。プライマーの長さ及びTm値は、12mer〜40mer及び40℃〜70℃、又は16mer〜30mer及び55℃〜60℃にすることができる。
また、プライマーセットの各プライマーの長さは同一でなくてもよいが、両プライマーのTm値はほぼ同一(又は、Tm値の両プライマーでの差が5℃以内)であることが挙げられる。
【0044】
以下に本発明の多型検出方法における本発明の多型検出用プローブがハイブリダイズする領域を含む塩基配列の増幅に使用できるプライマーの例を示す。なお、これらは例示であって、本発明を制限するものではない。
【0045】
【表2】

【0046】
本発明の多型検出用プローブがハイブリダイズする領域を含む塩基配列を増幅する際には、感度及び効率の観点より、表2に示す各オリゴヌクレオチドを、一対のプライマーセットとして用いることが挙げられる。
【0047】
多型の検出方法は前記蛍光標識ヌクレオチドをプローブとして利用する方法であれば、特に制限されない。前記蛍光標識ヌクレオチドをプローブとして用いる多型検出方法の一例として、Tm解析を利用した多型検出方法について、以下に説明する。
【0048】
<多型検出方法>
本発明にかかるMDR1遺伝子多型検出方法は、前記MDR1遺伝子多型検出用プローブを少なくとも1種用いて、MDR1遺伝子の多型を検出することを含むMDR1遺伝子多型検出方法である。
本発明にかかる多型検出方法によれば、前記多型検出用プローブを少なくとも1種含むことにより、MDR1遺伝子の多型を簡便に、感度よく検出可能にする。
また、本発明の多型検出方法は、MDR1遺伝子における多型の検出方法であって、下記工程(I)〜工程(IV)を含むことができ、下記工程(V)を含んでいてもよい。なお、本発明の多型検出方法は、前記多型検出用プローブを使用することが特徴であって、その他の構成や条件等は、以下の記載に制限されない。
【0049】
(I)前記多型検出用プローブ及び試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチド及び前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッドを得ること。
(II)前記ハイブリッドを含む試料の温度を変化させることにより、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定すること。
(III)前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を測定すること。
(IV)前記Tm値に基づいて、MDR1遺伝子における多型の存在を検出すること。
(V)前記多型の存在に基づいて、前記試料中の一本鎖核酸における、多型を有する一本鎖核酸の存在比を検出すること。
【0050】
また、本発明においては、上記工程(I)〜(IV)又は上記工程(I)〜(V)に加えて、さらに、工程(I)のハイブリッドを得る前又は工程(I)のハイブリッドを得ることと同時に、核酸を増幅することを含んでいてもよい。
なお、(III)でTm値を測定することには、ハイブリッドの解離温度を測定することだけでなく、ハイブリット形成体の融解時に温度に応じて変動する蛍光シグナルの微分値の大きさを測定することを含んでもよい。
【0051】
本発明において、試料中の核酸は、一本鎖核酸でもよいし二本鎖核酸であってもよい。前記核酸が二本鎖核酸の場合は、例えば、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとハイブリダイズすることに先立って、加熱により前記試料中の二本鎖核酸を融解(解離)させて一本鎖核酸とすることを含むことが挙げられる。二本鎖核酸を一本鎖核酸に解離することによって、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリダイズが可能となる。
【0052】
本発明において、検出対象である試料に含まれる核酸は、例えば、生体試料に元来含まれる核酸でもよいが、検出精度が向上できることから、生体試料に元来含まれている核酸を鋳型としてPCR等によりMDR1遺伝子の変異した部位を含む領域を増幅させた増幅産物であることが挙げられる。増幅産物の長さは、特に制限されないが、例えば、50mer〜1000mer、又は80mer〜200merにすることができる。また、試料中の核酸は、例えば、生体試料由来のRNA(トータルRNA、mRNA等)からRT−PCR(Reverse Transcription PCR)により合成したcDNAであってもよい。
【0053】
本発明において、前記試料中の核酸に対する、本発明の多型検出用プローブの添加割合(モル比)は特に制限されない。試料中のDNAに対して例えば1倍以下が挙げられる。また、十分な検出シグナル確保の観点より、前記試料中の核酸に対する、本発明の多型検出用プローブの添加割合(モル比)は、0.1倍以下としうる。
ここで、試料中の核酸とは、例えば、検出目的の多型が発生している検出対象核酸と前記多型が発生していない非検出対象核酸との合計でもよいし、検出目的の多型が発生している検出対象配列を含む増幅産物と前記多型が発生していない非検出対象配列を含む増幅産物との合計でもよい。なお、試料中の核酸における前記検出対象核酸の割合は、通常、不明であるが、結果的に、前記多型検出用プローブの添加割合(モル比)は、検出対象核酸(検出対象配列を含む増幅産物)に対して10倍以下としうる。また、前記多型検出用プローブの添加割合(モル比)は、検出対象核酸(検出対象配列を含む増幅産物)に対して、5倍以下、又は3倍以下としうる。また、その下限は特に制限されないが、例えば、0.001倍以上、0.01倍以上、又は0.1倍以上としうる。
【0054】
前記DNAに対する本発明の多型検出用プローブの添加割合は、例えば、二本鎖核酸に対するモル比でもよいし、一本鎖核酸に対するモル比でもよい。
【0055】
本発明において、Tm値を決定するための温度変化に伴うシグナル変動の測定は、前述のような原理から260nmの吸光度測定により行うこともできるが、前記多型検出用プローブに付加した標識のシグナルに基づくシグナルであって、一本鎖DNAと前記多型検出用プローブとのハイブリッド形成の状態に応じて変動するシグナルを測定することが挙げられる。このため、前記多型検出用プローブとして、蛍光標識オリゴヌクレオチドを使用することが挙げられる。前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとしては、例えば、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)する蛍光標識オリゴヌクレオチド、または標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が増加する蛍光標識オリゴヌクレオチドが挙げられる。
前者のようなプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成している際には蛍光シグナルを示さないか、蛍光シグナルが弱いが、加熱によりプローブが解離すると蛍光シグナルを示すようになるか、蛍光シグナルが増加する。
また、後者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成することによって蛍光シグナルを示し、加熱によりプローブが解離すると蛍光シグナルが減少(消失)する。したがって、この蛍光標識に基づく蛍光シグナルの変化を蛍光標識特有の条件(蛍光波長等)で検出することによって、前記260nmの吸光度測定と同様に、融解の進行ならびにTm値の決定を行うことができる。
【0056】
次に、本発明の多型検出方法について、蛍光色素に基づくシグナルの変化を検出する方法について具体例を挙げて説明する。なお、本発明の多型検出方法は、前記多型検出用プローブを使用すること自体が特徴であり、その他の工程や条件については何ら制限されない。
【0057】
核酸増幅を行う際の鋳型となる核酸を含む試料としては、核酸、特にMDR1遺伝子を含んでいればよく、特に制限されない。例えば、大腸や肺等の組織、白血球細胞等の血球、全血、血漿、喀痰、口腔粘膜懸濁液、爪や毛髪等の体細胞、生殖細胞、乳、腹水液、パラフィン包埋組織、胃液、胃洗浄液、尿、腹膜液、羊水、細胞培養などの任意の生物学的起源に由来する又は由来しうるものを挙げられる。なお、試料の採取方法、核酸を含む試料の調製方法等は、制限されず、いずれも従来公知の方法が採用できる。また、鋳型となる核酸は、該起源から得られたままで直接的に、あるいは該サンプルの特性を改変するために前処理した後で使用することができる。
例えば、全血を試料とする場合、全血からのゲノムDNAの単離は、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、市販のゲノムDNA単離キット(商品名GFX Genomic Blood DNA Purification kit;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等が使用できる。
【0058】
次に、単離したゲノムDNAを含む試料に、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む多型検出用プローブを添加する。
前記多型検出用プローブは、単離したゲノムDNAを含む液体試料に添加してもよいし、適当な溶媒中でゲノムDNAと混合してもよい。前記溶媒としては、特に制限されず、例えば、Tris−HCl等の緩衝液、KCl、MgCl、MgSO、グリセロール等を含む溶媒、PCR反応液等、従来公知のものが挙げられる。
【0059】
前記多型検出用プローブの添加のタイミングは、特に制限されず、例えば、後述するPCR等の増幅処理を行う場合、増幅処理の後に、PCR増幅産物に対して添加してもよいし、増幅処理前に添加してもよい。
このようにPCR等による増幅処理前に前記検出用プローブを添加する場合は、例えば、前述のように、その3'末端に、蛍光色素を付加したり、リン酸基を付加したりすることができる。
【0060】
核酸増幅の方法としては、例えばポリメラーゼを用いる方法等が挙げられる。その例としては、PCR法、ICAN法、LAMP法、NASBA法等が挙げられる。ポリメラーゼを用いる方法により増幅する場合は、本発明プローブの存在下で増幅を行うことが挙げられる。用いるプローブ及びポリメラーゼに応じて、増幅の反応条件等を調整することは当業者であれば容易である。これにより、核酸の増幅後にプローブのTm値を解析するだけで多型の有無を判定できるので、反応終了後増幅産物を取り扱う必要がない。よって、増幅産物による汚染の心配がない。また、増幅に必要な機器と同じ機器で検出することが可能なので、容器を移動する必要がなく、自動化も容易である。
【0061】
またPCR法に用いるDNAポリメラーゼとしては、通常用いられるDNAポリメラーゼを特に制限なく用いることができる。例えば、GeneTaq(ニッポンジーン社製)、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)、Taq ポリメラーゼ等を挙げることができる。
ポリメラーゼの使用量としては、通常用いられている濃度であれば特に制限はない。例えば、Taqポリメラーゼを用いる場合、例えば、反応溶液量50μlに対して0.01U〜100Uの濃度とすることができる。これにより、MDR1遺伝子多型の検出感度が高まるなどの傾向がある。
【0062】
またPCR法は、通常用いられる条件を適宜選択することで行うことができる。
なお、増幅の際、リアルタイムPCRによって増幅をモニタリングし、試料に含まれるDNA(検出対象配列)のコピー数を調べることもできる。すなわち、PCRによるDNA(検出対象配列)の増幅に従ってハイブリッドを形成するプローブの割合が増えるので蛍光強度が変動する。これをモニタリングすることで、試料に含まれる検出対象配列(正常DNAまたは変異型DNA)のコピー数や存在比を検出することができる。
【0063】
本発明の多型検出方法においては、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドと、試料中の一本鎖核酸とを接触させて、両者をハイブリダイズさせる。試料中の一本鎖核酸は、例えば、上記のようにして得られたPCR増幅産物を解離することで調製することができる。
【0064】
前記PCR増幅産物の解離(解離工程)における加熱温度は、前記増幅産物が解離できる温度であれば特に制限されない。例えば、85℃〜95℃である。加熱時間も特に制限されない。加熱時間は、例えば1秒〜10分、又は1秒〜5分としうる。
【0065】
また、解離した一本鎖DNAと前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリダイズは、例えば、前記解離工程の後、前記解離工程における加熱温度を降下させることによって行うことができる。温度条件としては、例えば、40℃〜50℃である。
【0066】
ハイブリダイズ工程の反応液における各組成の体積や濃度は、特に制限されない。具体例としては、前記反応液におけるDNAの濃度は、例えば、0.01μM〜1μM、又は0.1μM〜0.5μMとしうる。前記蛍光標識オリゴヌクレオチドの濃度は、例えば、前記DNAに対する添加割合を満たす範囲であり、例えば、0.001μM〜10μM、又は0.001μM〜1μMとしうる。
【0067】
そして、得られた前記一本鎖DNAと前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光シグナルの変動を測定する。例えば、QProbeを使用した場合、一本鎖DNAとハイブリダイズした状態では、解離した状態に比べて蛍光強度が減少(または消光)する。したがって、例えば、蛍光が減少(または消光)しているハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0068】
蛍光強度の変動を測定する際の温度範囲は、特に制限されないが、例えば、開始温度が室温〜85℃、又は25℃〜70℃としうる。終了温度は、例えば、40℃〜105℃としうる。また、温度の上昇速度は、特に制限されないが、例えば、0.1℃/秒〜20℃/秒、又は0.3℃/秒〜5℃/秒としうる。
【0069】
次に、前記シグナルの変動を解析してTm値として決定する。具体的には、得られた蛍光強度から各温度における微分値(−d蛍光強度/dt)を算出し、最も低い値を示す温度をTm値として決定できる。また、単位時間当たりの蛍光強度増加量(蛍光強度増加量/t)が最も高い点をTm値として決定することもできる。なお、標識化プローブとして、消光プローブではなく、ハイブリッド形成によりシグナル強度が増加するプローブを使用した場合には、反対に、蛍光強度の減少量を測定すればよい。
【0070】
また、本発明においては、前述のように、ハイブリッドを加熱して、温度上昇に伴う蛍光シグナル変動(好ましくは蛍光強度の増加)を測定するが、この方法に代えて、例えば、ハイブリッド形成時におけるシグナル変動の測定を行ってもよい。すなわち、前記プローブを添加した試料の温度を降下させてハイブリッドを形成する際の前記温度降下に伴う蛍光シグナル変動を測定してもよい。
【0071】
具体例として、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)する蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブ(例えば、QProbe)を使用した場合、前記プローブを試料に添加した際には、前記プローブは解離状態にあるため蛍光強度が大きいが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、前記蛍光が減少(または消光)する。したがって、例えば、前記加熱した試料の温度を徐々に降下して、温度下降に伴う蛍光強度の減少を測定すればよい。
他方、ハイブリッド形成によりシグナルが増加する標識化プローブを使用した場合、前記プローブを試料に添加した際には、前記プローブは解離状態にあるため蛍光強度が小さい(または消光)が、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光強度が増加するようになる。したがって、例えば、前記試料の温度を徐々に降下して、温度下降に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0072】
なお、本発明の多型検出方法においては、MDR1遺伝子のエクソン12の1236番目の塩基(配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基)の変異型に加えて、MDR1遺伝子のエクソン26の3435番目の塩基(配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基)の変異型及びMDR1遺伝子のエクソン21の2677番目塩基(配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基)の変異型の少なくとも一方の変異型を検出することを含む。
【0073】
これにより、配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基の変異型に加えて、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基及び配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基の変異型の少なくとも一方の変異型をさらに検出することができる。
【0074】
検出のための具体的な手段は特に限定されるものではないが、例えば、本発明の配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基の多型を検出するプローブに加えて、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型を検出するプローブ及び配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型を検出するプローブの少なくとも一方のプローブを併用することなどが挙げられる。
【0075】
前記配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型を検出するプローブとしては、特に限定はされないが、例えば特開2005−287335号公報に記載のプローブに記載のプローブや、配列番号9に示す塩基配列からなるプローブ等が挙げられる。
【0076】
前記配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型を検出するプローブとしては、特に制限はされないが、例えば、配列番号10に示す塩基配列からなるプローブ等が挙げられる。
【0077】
また、本発明の多型検出方法においては、配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基の多型に加えて、同一の系で、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基の多型、及び配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基の多型の少なくとも一方の多型を検出することを含む。
【0078】
これにより、配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基の多型に加えて、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基及び配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基の多型の少なくとも一方の多型を同一の系で、検出することができ、利便性の観点より好ましい。
【0079】
異なるエクソンに存在する複数の多型を、同一の系で検出する方法としては、特に制限されるものではない。例えば、各多型を検出できる各プローブを予め混合し、試料に添加してもよいし、一本鎖核酸を含む試料に各多型を検出できる各プローブを連続的に添加してもよい。
ここで、「系」とは、蛍光標識オリゴヌクレオチド及び一本鎖核酸がハイブリダイズしたハイブリッドを含む試料で形成される1個の独立した反応系を意味する。
【0080】
本発明の多型検出方法においては、同一の系において、配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基に対応する多型と、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型と、配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型とを検出することを含むことができる。
【0081】
これにより3種の遺伝子多型を1つの系で簡便に検出できるだけではなく、これら3種の多型に関連する後述の薬剤に対する耐性及び有効性をより正確に予測することができる。
【0082】
検出のための具体的な手段は特に限定されるものではないが、例えば、本発明の配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基の多型を検出するプローブに加えて、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型を検出するプローブ及び配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型を検出するプローブの3種のプローブを併用することなどが挙げられる。
なお、各プローブの好ましい態様や配列については、上述の各プローブに関する説明を適用することができる。
【0083】
<薬効判定方法>
本発明の薬効判定方法は、上述した多型検出方法によりMDR1遺伝子の多型を検出すること、及び前記検出結果に基づいて薬剤に対する耐性又は薬剤の薬効を判定することを含む。
上述した多型検出方法では、本発明における多型検出用プローブを用いて、感度よく且つ簡便にMDR1遺伝子の多型を検出するので、MDR1遺伝子におけるこの多型に基づいて薬剤の判定を感度よく且つ簡便に行うことができる。
【0084】
また、多型の有無に基づいて薬剤に対する耐性や薬剤の薬効を判定することができる。そして、本発明の薬効判定方法は、変異型の有無に基づいて、薬剤の投与量の増加、他の治療薬への変更等への切り替え等の疾病の治療方針を決定するのに有用である。
また、判定対象となる薬剤としては、具体的には、抗がん剤、高血圧治療薬、免疫抑制剤、中枢作用薬等が挙げられ、特に抗がん剤が挙げられる。
【0085】
<多型検出用試薬キット>
本発明の多型検出用試薬キットは上述した多型検出用プローブを含む。
この多型検出用試薬キットには、上述の多型検出用プローブの少なくとも1種を含むので、例えばMDR1遺伝子の多型の検出をより簡便に行うことができるなどの傾向がある。
【0086】
多型検出用試薬キットは、上述のプローブがハイブリダイズする領域を含む塩基配列を増幅するためのプライマーをさらに含むことができる。
これにより、本発明における多型検出用試薬キットは、精度よくMDR1遺伝子の多型の検出を行うことができる。
多型検出用試薬キットに含まれ得るプローブ及びプライマーについては、前述した事項をそのまま適用することができる。
【0087】
また、本発明における多型検出用試薬キットは、好ましくは、MDR1遺伝子の多型検出用プローブに加えて、上述した配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型を検出するプローブ及び配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型を検出するプローブからなる群より選択される少なくとも1種のプローブをさらに含むことができる。
本発明における多型検出用試薬キットが、MDR1遺伝子の多型検出用プローブに加えて、さらに上述した別のプローブを含むことにより、複数のエクソンに存在する複数の多型を簡便に検出することができる。
【0088】
多型検出用プローブとして2種以上の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む場合、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドは混合された状態で含まれていても、別個に含まれていてもよい。
2種以上の前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは発光波長が互いに異なる蛍光色素で標識化されていてもよい。
このように蛍光色素の種類を変えることで、同じ反応系であっても、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドについての検出を同時に行うことも可能になる。
【0089】
また、本発明における検出用試薬キットは、前記プローブ及び前記プライマーの他に、本発明の検出方法における核酸増幅を行うのに必要とされる試薬類をさらに含んでいてもよい。また、プローブ、プライマー及びその他の試薬類は、別個に収容されていてもよいし、それらの一部が混合物とされていてもよい。
なお、「別個に収容」とは、各試薬が非接触状態を維持できるように区分けされたものであればよく、必ずしも独立して取り扱い可能な個別の容器に収容される必要はない。
多型部位を含む配列(プローブがハイブリダイズする領域)を増幅するためのプライマーセットを含むことで、例えば、より高感度に多型を検出することができる。
【0090】
さらに本発明の多型検出用試薬キットは、前記多型検出用プローブを使用して、検出対象である核酸を含む試料について微分融解曲線を作成し、そのTm値解析を行って、MDR1遺伝子における多型を検出することが記載された取扱い説明書、又は検出用試薬キットに含まれる若しくは追加的に含むことが可能な各種の試薬について記載された使用説明書を含むことができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
【0092】
[実施例1]
全自動SNPs検査装置(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)と、下記表3に記載した処方の検査用試薬を用いてTm解析を行い、蛍光標識オリゴヌクレオチド(配列番号2)のMDR1(1236)プローブの性能を確認した。なお、鋳型としては、配列番号18及び配列番号19の人工オリゴ配列を使用した。
【0093】
【表3】

【0094】
上記表3で使用したプローブ及び鋳型の詳細を以下に示す。なお、プローブ中の3’末端の括弧内は蛍光色素の種類を示す。表4に示す塩基配列中、大文字は、多型の位置を示す。以下同様である。
【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
Tm解析は、95℃で1秒、40℃で60秒処理し、続けて温度の上昇速度1℃/3秒で、40℃〜75℃まで温度を上昇させ、その間の経時的な蛍光強度の変化を測定した。なお、励起波長を520nm〜555nmとし、検出波長を585nm〜700nmとして蛍光標識プローブに由来する蛍光強度の変化をそれぞれ測定した。
【0098】
Tm解析によって、プローブの蛍光値の変化量を示す図2を得た。図中、縦軸は単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)を表し、横軸は温度(℃)をそれぞれ表す。図中、菱形で表すパターンは、鋳型として、配列番号1に示す塩基配列において401番目の塩基(Y)がCである、配列番号19に示す人工オリゴ配列を用いた場合の結果を示す。図中、四角で表すパターンは、鋳型として、配列番号1に示す塩基配列において401番目の塩基(Y)がTである、配列番号18に示す人工オリゴ配列を用いた場合の結果を示す。図中、三角で表すパターンは、鋳型として、配列番号18に示す人工オリゴ配列と、配列番号20に示す人工オリゴ配列とを、1:1混合して用いた場合の結果を示す。
【0099】
図2の結果より、配列番号1に示す塩基配列において401番目の塩基(Y)がCである場合と、Tである場合とが混在しても、本発明に係る蛍光標識オリゴヌクレオチドをプローブとして用いることにより、配列番号1に示す塩基配列において401番目の塩基の多型を検出できることが明らかとなった。また、鋳型として、配列番号19に示す人工オリゴ配列を用いた場合には、Tm値が63℃であり、鋳型として、配列番号18に示す人工オリゴ配列を用いた場合には、Tm値が56℃であった。
【0100】
[実施例2]
全自動SNPs検査装置(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)と、下記表6又は表7に記載した処方の反応液を用いて、PCR及びTm解析を行った。
【0101】
【表6】

【0102】
【表7】

【0103】
PCRは、95℃で60秒処理した後、95℃で1秒及び57℃で30秒を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
Tm解析は、PCRの後、95℃で1秒、40℃で60秒処理し、続けて温度の上昇速度1℃/3秒で、40℃〜75℃まで温度を上昇させ、その間の経時的な蛍光強度の変化を測定した。
【0104】
多型検出用プローブには、配列番号2で示される配列のうち3’末端が蛍光色素(TAMRA)で標識されている蛍光標識オリゴヌクレオチド(MDR1(1236)probe)、配列番号9で示される配列のうち5’末端が蛍光色素(Pacific Blue)で標識されている蛍光標識オリゴヌクレオチド(MDR1 exon26 probe)及び配列番号10で示される配列のうち5’末端が蛍光色素(BoDIPY FL)で標識されている蛍光標識オリゴヌクレオチド(MDR1 exon21 probe2)を用いた。
MDR1 exon26 probe及びMDR1 exon21 probe2について、詳細を以下に示す。
【0105】
【表8】

【0106】
なお、蛍光色素Pacific Blueの励起波長は365nm〜415nmであり、検出波長は445nm〜480nmである。蛍光色素BODIPY FLの励起波長は420nm〜485nmであり、検出波長は520〜555nmである。蛍光色素TAMRAの励起波長は520nm〜555nmであり、検出波長は585nm〜700nmである(以下、同様)。それぞれの波長により、蛍光標識プローブに由来する蛍光強度の変化をそれぞれ測定した。
【0107】
使用したプライマーのうち、配列番号7で示されるMDR1(1236)F及び配列番号8で示されるMDR1(1236)R以外のプライマーについて、詳細を以下に示す。
【0108】
【表9】

【0109】
鋳型としては、全血と、全血から常法に従い精製した精製ヒトゲノムとを、それぞれ用いた。
全血は、以下のように調製した。
全血10μlを70μlの希釈液1に加え、よく混合した後、この混合液10μlを70μlの希釈液2に加える。この混合液17μlを95℃10分で加熱すると4μlの前処理済全血が得られる。これを1testあたりの鋳型として使用した。
【0110】
【表10】

【0111】
Tm解析によって、プローブの蛍光値の変化量を示す図3を得た。
図3の(A)〜(C)は試料として精製ヒトゲノムを用いた場合の結果を示す。
図3の(D)〜(F)は試料として全血を用いた場合の結果を示す。
また、図3(A)及び(D)は配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基に対応する多型の有無を示し、図3(B)及び(E)は配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型の有無を示し、及び図3(C)及び(F)は配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型の有無を示す。
図中、縦軸は単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)を表し、横軸は温度(℃)をそれぞれ表す。
【0112】
その結果、本発明に係る蛍光標識オリゴヌクレオチドをプローブとして用いることにより、配列番号1に示す塩基配列において401番目の塩基の多型を検出できると同時に、同一の系において、簡便に、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型の有無、及び配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型の有無を検出できることが明らかとなった。
【0113】
[比較例1]
全自動SNPs検査装置(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)と、下記表11に記載した処方の検査用試薬を用いてTm解析を行った。プローブとして、配列番号17に示す蛍光標識オリゴヌクレオチドを用い、鋳型として、配列番号20及び配列番号21の人工オリゴ配列を使用した。
【0114】
【表11】

【0115】
なお、上記表11で使用したプローブ及び鋳型の詳細を以下に示す。プローブ中の3’末端の括弧内は蛍光色素の種類を示す。
【0116】
【表12】

【0117】
【表13】

【0118】
Tm解析は、95℃で1秒、40℃で60秒処理し、続けて温度の上昇速度1℃/3秒で、40℃〜75℃まで温度を上昇させ、その間の経時的な蛍光強度の変化を測定した。蛍光色素としてTAMRAを用いた。
【0119】
Tm解析によって、プローブの蛍光値の変化量を示す図4を得た。図中、縦軸は単位時間当たりの蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)を表し、横軸は温度(℃)をそれぞれ表す。図中、菱形で表すパターンは、鋳型として、配列番号1に示す塩基配列において401番目の塩基(Y)がCである、配列番号21に示す人工オリゴ配列を用いた場合の結果を示す。図中、四角で表すパターンは、鋳型として、配列番号1に示す塩基配列において401番目の塩基(Y)がTである、配列番号20に示す人工オリゴ配列を用いた場合の結果を示す。図中、三角で表すパターンは、鋳型として、配列番号20に示す人工オリゴ配列と、配列願号22に示す人工オリゴ配列とを、1:1混合して用いた場合の結果を示す。
【0120】
図4の結果より、配列番号1に示す塩基配列において401番目の塩基(Y)がCである場合と、Tである場合とが混在した場合には、検出ピークが1つしか得られず、多型を検出することはできなかった。
なお、比較例1で用いた配列番号17に示す蛍光標識オリゴヌクレオチドは、数多く存在する検出不可能なプローブの代表例を示したものにすぎない。
【0121】
以上の通りであるので、本発明によれば、高い感度で、簡便にMDR1遺伝子における多型を検出することができることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記P1及びP1’からなる群より選択される一種の蛍光標識オリゴヌクレオチドであるMDR1遺伝子の多型を検出するための多型検出用プローブ;
(P1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、及び
(P1’)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
下記P1−1及びP1’−1からなる群より選択される少なくとも一種の蛍光標識オリゴヌクレオチドである請求項1に記載の多型検出用プローブ;
(P1−1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されており、且つ配列番号1における401番目の多型を認識するオリゴヌクレオチド、及び
(P1’−1)配列番号1に示す塩基配列において、395番目〜401番目の塩基を含む塩基長7〜38の塩基配列に相補的な配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、395番目の塩基に対応する塩基がシトシンであり、該シトシンが蛍光色素で標識されており、且つ配列番号1における401番目の多型を認識するオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが、蛍光色素で標識された395番目の塩基に対応する塩基を3’末端から数えて1番目〜3番目の位置のいずれかに有する請求項1又は請求項2に記載の多型検出用プローブ。
【請求項4】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが、蛍光色素で標識された395番目の塩基に対応する塩基を3’末端に有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項5】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときの蛍光強度が、ハイブリダイズしないときの蛍光強度に比べて、減少するか又は増加する、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項6】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、標的配列にハイブリダイズしたときの蛍光強度が、ハイブリダイズしないときの蛍光強度に比べて、減少する請求項5に記載の多型検出用プローブ。
【請求項7】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が7〜28である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項8】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が7〜18である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項9】
融解曲線分析用のプローブである請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のプローブを用いることによりMDR1遺伝子の多型を検出する多型検出方法。
【請求項11】
(I)請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のプローブ及び試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチド及び前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッドを得ることと、
(II)前記ハイブリッドを含む試料の温度を変化させることにより、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定することと、
(III)前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を測定することと、
(IV)前記Tm値に基づいて、前記試料中の一本鎖核酸における、MDR1遺伝子の多型の存在を検出することと、
を含む、請求項10に記載の多型検出方法。
【請求項12】
さらに、前記(I)のハイブリッドを得る前又は前記(I)のハイブリッドを得ることと同時に、核酸を増幅することを含む請求項11に記載の多型検出方法。
【請求項13】
さらに、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型、及び配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型の少なくとも一方の多型を同一の系で検出することを含む請求項10〜請求項12のいずれか1項に記載の多型検出方法。
【請求項14】
配列番号1に示す塩基配列における401番目の塩基に対応する多型と、配列番号15に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型と、配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型とを同一の系で検出することを含む、請求項10〜請求項13のいずれか1項に記載の多型検出方法。
【請求項15】
請求項10〜請求項14のいずれか1項に記載の多型検出方法により、MDR1遺伝子における多型を検出すること、及び検出された多型の有無に基づいて薬剤に対する耐性又は薬剤の薬効を判定することを含む薬剤の薬効判定方法。
【請求項16】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のプローブを含む、MDR1遺伝子における多型を検出する多型検出用試薬キット。
【請求項17】
さらに、前記プローブがハイブリダイズする領域を含む塩基配列を増幅するためのプライマーを含む請求項16に記載の多型検出用試薬キット。
【請求項18】
さらに、配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基に対応する多型を検出するための多型検出用プローブと、配列番号16に示す塩基配列における300番目の塩基に対応する多型を検出するための多型検出用プローブとを含む請求項16又は請求項17に記載の多型検出用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−90622(P2013−90622A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−190186(P2012−190186)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】