説明

多型検出用プローブ、多型検出方法、薬効評価方法、および多型検出用キット

【課題】MDR1遺伝子のエクソン21におけるG2677A/T変異を、高い感度で、簡便に検出することを可能にする多型検出用プローブ、これを用いる多型検出方法、および薬効評価方法、ならびに多型検出用キットを提供する。
【解決手段】MDR1遺伝子のエクソン21における多型検出用プローブを、特定の塩基配列において、288〜300番目の塩基を含む塩基長13〜68の塩基配列に相補的な配列又は該相補配列に相同な配列を有し、288番目の塩基に相補的な塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、および、特定の塩基配列において、300〜305番目の塩基を含む塩基長6〜93の塩基配列に相補的な配列又は該相補配列に相同な配列を有し、305番目の塩基に相補的な塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチドから選ばれる少なくとも1種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多型検出用プローブ、多型検出方法、薬効評価方法、および多型検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
多剤耐性遺伝子MDR1(ABCB1)は、さまざまな薬剤のトランスポーターであり、ジゴキシンをはじめとする様々な薬剤の体内動態を規定している。
エクソン26の3435番目のCがTに置換する変異(C3435T変異)が存在すると、MDR1遺伝子に由来するP糖タンパク質の発現量が変動し、様々な薬剤の体内動態が変化すると言われている(例えば、非特許文献1参照)
【0003】
またMDR1遺伝子に由来するP糖タンパク質の発現量は、MDR1遺伝子のエクソン21の2677番目のGがAまたはTに置換する変異(G2677A/T変異)によっても影響を受けることが知られている。さらに上記C3435T変異とG2677A/T変異は高率で同時に起こることが知られている。
【0004】
C3435T変異の検出方法として、MDR1遺伝子のエクソン26の3435番目の塩基を含む部分を増幅するよう設計されたプライマーを用いてPCRを行い、3435番目の塩基における変異の有無で切断の有無が分かれるような制限酵素で切断し、その後電気泳動で切断されたかどうかを検出するという方法(PCR−RFLP法)が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
またC3435変異およびG2677A/T変異を検出する方法として、C3435変異をPCR−RFLP法によって検出し、G2677A/T変異をシークエンス解析法によって検出する方法が知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
一方、変異を含む領域をPCR法で増幅した後、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて塩基配列の変異を解析する方法が知られている(例えば、非特許文献4、特許文献1参照)。
さらに上記と同様の核酸プローブを用いたMDR1遺伝子のエクソン26におけるC3435T変異の検出方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−119291号公報
【特許文献2】特許4454366号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、2000年、第97巻、第7号、p.3473−3478
【非特許文献2】Genet.Mol.Res.、2010年、第9巻、第1号、p.34−40
【非特許文献3】Br.J.Clin.Pharmcol.、2005年、第59巻、第3号、p.365−370
【非特許文献4】Clin.Chem.、2000年、第46巻、第5号、p.631−635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献2、3に記載されたPCR−RFLP法では、PCR反応後に増幅産物を取り出して制限酵素処理を行う必要がある。そのため、増幅産物が次の反応系に混入する恐れがあり、これに起因して偽陽性、偽陰性の結果が得られてしまう場合がある。さらに、PCR終了後、制限酵素で処理を行い、その後電気泳動を行うため、検出までに必要な時間も非常に長くなってしまう場合がある。また、操作が複雑なため、自動化が困難である。
【0010】
また特許文献2に記載された技術では、MDR1遺伝子のエクソン26におけるC3435T変異を検出することはできても、MDR1遺伝子のエクソン21におけるG2677A/T変異を検出することはできなかった。
【0011】
本発明は、MDR1遺伝子のエクソン21におけるG2677A/T変異を、高い感度で、簡便に検出することを可能にする多型検出用プローブ、これを用いた多型検出方法および薬効評価方法、ならびに多型検出用キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 下記P1およびP2からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む、MDR1遺伝子の多型検出用プローブ:
(P1)配列番号2に示す塩基配列において、288〜300番目の塩基を含む塩基長13〜68の塩基配列に相補的な配列又は該相補配列に相同な配列を有し、288番目の塩基に相補的な塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、および、
(P2)配列番号2に示す塩基配列において、300〜305番目の塩基を含む塩基長6〜93の塩基配列に相補的な配列又は該相補配列に相同な配列を有し、305番目の塩基に相補的な塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
【0013】
<2> 前記P1のオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基を3’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に有し、前記P2のオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基を5’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に有する、前記<1>に記載の多型検出用プローブ。
【0014】
<3> 前記P1のオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基を3’末端に有し、前記P2のオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基を5’末端に有する、前記<1>または<2>に記載の多型検出用プローブ。
【0015】
<4> 前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、相補配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、相補配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少または増加する、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【0016】
<5> 前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、相補配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、相補配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少する、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【0017】
<6> 前記P1のオリゴヌクレオチドの塩基長が13〜56であり、前記P2のオリゴヌクレオチドの塩基長が6〜29である、前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【0018】
<7> 前記P1のオリゴヌクレオチドの塩基長が13〜26であり、前記P2のオリゴヌクレオチドの塩基長が6〜23である、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【0019】
<8> 前記P1のオリゴヌクレオチドの塩基長が13〜21であり、前記P2のオリゴヌクレオチドの塩基長が6〜18である、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【0020】
<9> 融解曲線分析用のプローブである、前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【0021】
<10> 配列番号2に示す塩基配列における300番目の塩基に相補的な塩基が互いに異なり、前記相補的な塩基がC、TまたはAである、少なくとも2種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む、前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【0022】
<11> 前記<1>〜<10>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを用いるMDR1遺伝子の多型検出方法。
【0023】
<12> (I)前記<1>〜<10>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブおよび試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドおよび前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッドを得ることと、(II)前記ハイブリッドを含む試料の温度を変化させることで、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定することと、(III)前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を評価することと、(IV)前記Tm値に基づいて、MDR1遺伝子における多型の存在を評価することと、を含む、前記<11>に記載の多型検出方法。
【0024】
<13> さらに、前記(I)の前または(I)と同時に核酸を増幅することを含む、前記<11>または<12>に記載の多型検出方法。
【0025】
<14> 配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基の変異を検出可能な多型検出用プローブと、前記試料中の一本鎖核酸とを接触させることをさらに含む、前記<11>〜<13>のいずれか1項に記載の多型検出方法。
【0026】
<15> 前記配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基の変異を検出可能な多型検出用プローブは、配列番号1に示す塩基配列において、248番目の塩基から始まる9〜50塩基長の塩基配列に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチドである、前記<14>に記載の多型検出方法。
【0027】
<16> 前記<11>〜<15>のいずれか1項に記載の多型検出方法により、MDR1遺伝子における多型の検出結果を得ることと、前記多型の検出結果に基づいて、薬剤に対する耐性または薬剤の薬効を評価することと、を含む、薬剤の薬効評価方法。
【0028】
<17> 前記<1>〜<10>のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを含む、多型検出用キット。
【0029】
<18> 配列番号2に示す塩基配列において、前記P1またはP2のオリゴヌクレオチドがハイブリダイズする塩基配列を含む領域を鋳型として増幅可能なプライマーをさらに含む、前記<17>に記載の多型検出用キット。
【0030】
<19> 配列番号1に示す塩基配列において248番目の塩基から始まる9〜50塩基長の塩基配列に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチドをさらに含む、前記<17>〜<18>のいずれか1項に記載の多型検出用キット。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、MDR1遺伝子のエクソン21におけるG2677A/T変異を、高い感度で、簡便に検出することを可能にする多型検出用プローブ、これを用いる多型検出方法、および薬効評価方法、ならびに多型検出用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(A)核酸混合物の融解曲線、及び(B)微分融解曲線の一例を示す図である。
【図2】(A)本発明の多型検出用プローブとこれと非相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である。(B)本発明の多型検出用プローブとこれと相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である。
【図3】(A)本発明の多型検出用プローブとこれと非相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である。(B)本発明の多型検出用プローブとこれと非相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である
【図4】(A)本発明の多型検出用プローブとこれと相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である。(B)本発明の多型検出用プローブとこれと非相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である
【図5】(A)本発明の多型検出用プローブとこれと非相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である。(B)本発明の多型検出用プローブと、これと非相補的な核酸および相補的な核酸を含む核酸混合物との微分融解曲線の一例を示す図である
【図6】(A)本発明の多型検出用プローブと、これと非相補的な核酸および相補的な核酸を含む核酸混合物との微分融解曲線の一例を示す図である。(B)本発明の多型検出用プローブと、これと非相補的な核酸および相補的な核酸を含む核酸混合物との微分融解曲線の一例を示す図である
【図7】(A)本発明の多型検出用プローブと、これと非相補的な核酸および相補的な核酸を含む核酸混合物との微分融解曲線の一例を示す図である。(B)本発明の多型検出用プローブと、これと非相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である
【図8】本発明の多型検出用プローブと、これと非相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である。
【図9】本発明の多型検出用プローブと、これと相補的な核酸との微分融解曲線の一例を示す図である。
【図10】本発明の多型検出用プローブと、これと非相補的な核酸および相補的な核酸を含む核酸混合物との微分融解曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<多型検出用プローブ>
本発明の多型検出用プローブ(以下、単に「プローブ」ともいう)は、下記P1およびP2からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光標識オリゴヌクレオチド(以下、「第1の蛍光標識オリゴヌクレオチド」ともいう)を含んで構成される。
【0034】
(P1)配列番号2に示す塩基配列において、288〜300番目の塩基を含む塩基長13〜68の塩基配列に相補的な配列又は該相補配列に相同な配列を有し、288番目の塩基に相補的な塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
(P2)配列番号2に示す塩基配列において、300〜305番目の塩基を含む塩基長6〜93の塩基配列に相補的な配列又は該相補配列に相同な配列を有し、305番目の塩基に相補的な塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
【0035】
かかる特定の蛍光標識オリゴヌクレオチドの少なくとも1種を含むことで、MDR1遺伝子のエクソン21におけるG2677A/T変異を、高い感度で、簡便に検出することができる。なお、ある塩基配列に対して「相同な配列」とは、当該塩基配列との類似性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である塩基配列をさす。
【0036】
配列番号2に示す塩基配列は、MDR1遺伝子におけるエクソン21の部分塩基配列であって、MDR1遺伝子におけるエクソン21の2677番目の塩基が、配列番号2に示す塩基配列の300番目の塩基に対応するものである。
配列番号2に示す塩基配列の300番目の塩基は、野生型(ワイルドタイプ)ではG(グアニン)であるが、変異型においてはA(アデニン)またはT(チミン)に変異している。
【0037】
また前記P1のオリゴヌクレオチドにおいて、「288番目の塩基に相補的な塩基」とは、配列番号2に示す塩基配列における288番目の塩基G(グアニン)に対する相補的な塩基C(シトシン)である。
前記P1のオリゴヌクレオチドにおいては、この蛍光標識された相補的な塩基Cが3’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に存在することが好ましく、3’末端に存在することがより好ましい。
【0038】
前記P1のオリゴヌクレオチドは、配列番号2に示す塩基配列の300番目の塩基における多型を検出することができるプローブである。この塩基は、MDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基に該当し、野生型であればG、変異型ではTまたはAである。従って当該塩基に相補的なP1のオリゴヌクレオチドにおける塩基は、C、AまたはTであることが好ましい。
すなわち、P1のオリゴヌクレオチドは野生型に相補的な配列を有するもの、および、変異型に相補的な配列を有するものの少なくとも1種であることが好ましい。
【0039】
また前記P1のオリゴヌクレオチドの塩基長は、13〜68であるが、13〜56であることが好ましく、13〜26であることがより好ましく、13〜21であることがさらに好ましい。この範囲の塩基長により、例えば、多型検出感度がより向上する。
また前記P1のオリゴヌクレオチドの塩基長を変化させることで、P1のオリゴヌクレオチドがその相補配列と形成するハイブリッドの解離温度であるTm値を所望の値とすることができる。
【0040】
以下に本発明におけるP1のオリゴヌクレオチドにおける塩基配列の一例を表1に示すが、本発明はこれらに限定されない。
尚、表1には、配列番号2の300番目の塩基がG、TおよびAの場合であるオリゴヌクレオチドと、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリッドのTm値を合わせて示した。ここでTm値は、Meltcalc 99 free(http://www.meltcalc.com/)を用い、設定条件:Oligoconc[μM]0.2、Na eq.[mM]50の条件で算出した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1には、配列番号2における300番目の塩基がG(野生型)である場合に対応するオリゴヌクレオチドのみを例示したが、当該塩基がTまたはAである場合に対応するオリゴヌクレオチド、すなわち、表1における「C」がAまたはTであるオリゴヌクレオチドも同様に例示することができる。
【0043】
本発明において、P1のオリゴヌクレオチドが相補的な塩基配列を有するDNAとハイブリダイズした場合のTm値と、配列番号2における300番目の塩基のみが非相補的なDNAとハイブリダイズした場合のTm値の差は、3.0℃以上であることが好ましく、7.0℃以上であることがより好ましく、9.0℃以上であることがさらに好ましい。前記Tm値の差が3.0℃以上であることで、例えば、配列番号2における300番目の塩基の変異をより高感度に検出することができる。
【0044】
また前記P2のオリゴヌクレオチドにおいて、「305番目の塩基に相補的な塩基」とは、配列番号2に示す塩基配列における305番目の塩基G(グアニン)に対する相補的な塩基C(シトシン)である。
前記P2のオリゴヌクレオチドにおいては、この蛍光標識された相補的な塩基Cが5’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に存在することが好ましく、5’末端に存在することがより好ましい。これにより、例えば、多型検出感度がより向上する。またP2の蛍光標識オリゴヌクレオチドを生産性よく得ることができる。
【0045】
前記P2のオリゴヌクレオチドは、配列番号2に示す塩基配列の300番目の塩基における多型を検出することができるプローブである。この塩基は、MDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基に該当し、野生型であればG、変異型ではTまたはAである。従って当該塩基に相補的なP2のオリゴヌクレオチドにおける塩基は、C、AまたはTであることが好ましい。
すなわち、P2のオリゴヌクレオチドは野生型に相補的な配列を有するもの、および、変異型に相補的な配列を有するものの少なくとも1種であることが好ましい。
【0046】
また前記P2のオリゴヌクレオチドの塩基長は、6〜93であるが、6〜29であることが好ましく、6〜23であることがより好ましく、6〜18であることがさらに好ましい。この範囲の塩基長により、例えば、多型検出感度がより向上する。
また前記P2のオリゴヌクレオチドの塩基長を変化させることで、P2のオリゴヌクレオチドがその相補配列と形成するハイブリッドの解離温度であるTm値を所望の値とすることができる。
【0047】
以下に本発明におけるP2のオリゴヌクレオチドにおける塩基配列の一例を表2に示すが、本発明はこれらに限定されない。
尚、表2には、配列番号2の300番目の塩基がT、GおよびAの場合であるオリゴヌクレオチドと、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリッドのTm値を合わせて示した。Tm値は上記と同様にして算出した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2には、配列番号2における300番目の塩基がT(変異型)である場合に対応するオリゴヌクレオチドのみを例示したが、当該塩基がGまたはAである場合に対応するオリゴヌクレオチド、すなわち、表2における「A」がCまたはTであるオリゴヌクレオチドも同様に例示することができる。
【0050】
本発明において、P2のオリゴヌクレオチドが相補的な塩基配列を有するDNAとハイブリダイズした場合のTm値と、配列番号2における300番目の塩基のみが非相補的なDNAとハイブリダイズした場合のTm値の差は、2.8℃以上であることが好ましく、4.0℃以上であることがより好ましく、6.0℃以上であることがさらに好ましい。前記Tm値の差が2.8℃以上であることで、例えば、配列番号2における300番目の塩基の変異をより高感度に検出することができる。
【0051】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、本発明のプローブは、相補配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、相補配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)するかまたは増加する蛍光標識オリゴヌクレオチドであることが好ましい。その中でも相補配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、相補配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少する蛍光標識オリゴヌクレオチドであることがより好ましい。このような蛍光消光現象(Quenching phenomenon)を利用したプローブは、一般的に、グアニン消光プローブと呼ばれており、いわゆるQProbe(登録商標)として知られている。中でも、オリゴヌクレオチドを3'末端もしくは5'末端がCとなるように設計し、その末端のCが、Gに近づくと発光が弱くなるように蛍光色素で標識化されたオリゴヌクレオチドであることが、特に好ましい。
【0052】
前記蛍光色素は特に制限されない。例えば、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、ポリメチン色素誘導体等が挙げられる。これらの蛍光色素の市販品としては、例えば、Pacific Blue、BODIPY FL(商標名、モレキュラー・プローブ社製)、FluorePrime(商品名、アマシャムファルマシア社製)、Fluoredite(商品名、ミリポア社製)、FAM(ABI社製)、Cy3およびCy5(アマシャムファルマシア社製)、TAMRA(モレキュラープローブ社製)等が挙げられる。
蛍光標識オリゴヌクレオチドの検出条件は特に制限されず、使用する蛍光色素により適宜決定できる。例えば、Pacific Blueは、検出波長445〜480nm、TAMRAは、検出波長585〜700nm、BODIPY FLは、検出波長520〜555nmで検出できる。このような蛍光色素を有するプローブを使用すれば、それぞれの蛍光シグナルの変動により、ハイブリダイズと解離とを容易に確認することができる。
【0053】
また前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、例えば、3'末端にリン酸基が付加されてもよい。後述するように、変異の有無を検出するDNA(標的DNA)は、PCR等の遺伝子増幅法によって調製することができる。その際、3'末端にリン酸基が付加された蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いることで、これを増幅反応の反応液中に共存させることができる。
すなわち、蛍光標識オリゴヌクレオチドの3'末端にリン酸基を付加させておくことで、プローブ自体が遺伝子増幅反応によって伸長することを十分に抑制できる。また、3'末端に前述のような標識化物質(蛍光色素)を付加することによっても、同様の効果が得られる。
【0054】
上記塩基配列を有し、5’末端または3’末端のCが蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの具体例を以下に示す(大文字の塩基は変異点を示し、Pはリン酸基を示す)。ただし、本発明における蛍光標識オリゴヌクレオチドは以下のものに限定されない。
【0055】
【表3】

【0056】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドはMDR1遺伝子における多型、特にエクソン21の多型を検出する多型検出用プローブとして使用することができる。
また多型検出用プローブとして、配列番号2における300番目の塩基に相補的な塩基が互いに異なり、該相補的な塩基がC、TまたはAである、少なくとも2種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いることで、MDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基が、G、AおよびTのいずれであるかを識別することができる。
【0057】
さらに前記少なくとも2種の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、互いに異なる蛍光色素を含んでいることが好ましい。これにより、多型をより高感度にまた簡便に識別することができる。
【0058】
多型の検出方法は前記蛍光標識ヌクレオチドと検出対象配列とのハイブリダイズを利用する方法であれば、特に制限されない。前記蛍光標識ヌクレオチド用いる多型検出方法の一例として、Tm解析を利用した多型検出方法について、以下に説明する。
【0059】
<多型検出方法>
本発明の多型検出方法は、MDR1遺伝子における多型の検出方法であって、下記工程(I)〜(IV)を含むことを特徴とする。なお、本発明の多型検出方法は、前記蛍光検出用プローブを使用することが特徴であって、その他の構成や条件等は、以下の記載に制限されない。
(I)前記多型検出用プローブおよび試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドおよび前記一本鎖核酸をハイブリダイズしてハイブリッドを得ること。
(II)前記ハイブリッド形成体を含む試料の温度を変化させることで、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定すること。
(III)前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を評価すること。
(IV)前記Tm値に基づいて、MDR1遺伝子における多型の存在を評価すること。
【0060】
なお、(III)でTm値を評価することには、ハイブリッドの解離温度を評価することだけでなく、ハイブリットの融解時に温度に応じて変動する蛍光シグナルの微分値の大きさを評価することを含む。
【0061】
まず、野生型の核酸(Wt)と変異型の核酸(Mt)との2種類の核酸の存在比が各々異なるように調製した複数の核酸混合物を作製する。得られた複数の核酸混合物の各々について、融解曲線解析装置等を用いて融解曲線を得る。
図1(A)に、ある1つの核酸混合物の温度(横軸)と蛍光強度(縦軸)との関係で表された融解曲線、及び図1(B)に温度(横軸)と蛍光強度の微分値(縦軸)との関係で表された融解曲線(微分融解曲線ともいう)を示す。この微分融解曲線からピークを検出することにより、核酸Wtの融解温度Tm及び核酸Mtの融解温度Tmを評価して、Tm及びTmを含む温度範囲の各々を設定する。Tmを含む温度範囲ΔTとしては、例えば、TmとTmとの間で蛍光強度の微分値が最小となる温度を下限、蛍光強度のピークの裾野に対応する温度を上限とする温度範囲を設定することができる。また、Tmを含む温度範囲ΔTとしては、例えば、TmとTmとの間で蛍光強度の微分値が最小となる温度を上限、蛍光強度のピークの裾野に対応する温度を下限とする温度範囲を設定することができる。なお、温度範囲ΔT及び温度範囲ΔTは、同一の幅(例えば、10℃)または異なる幅(例えば、温度範囲ΔTが10℃、温度範囲ΔTが7℃)となるように設定することができる。
また、温度範囲ΔT及び温度範囲ΔTは、それぞれの融解温度TmからプラスX℃、マイナスX℃の幅(X℃は、例えば15℃以下、望ましくは10℃以以下)というように設定することもできる。
【0062】
次に、温度範囲ΔT及び温度範囲ΔTの各々について、微分融解曲線の温度範囲の下限に対応する点と上限に対応する点とを通る直線と微分融解曲線とで囲まれた面積(図1(B)の斜線部分)を求める。面積の求め方の一例として、具体的に以下のように求めることができる。温度Tにおける蛍光強度の微分値をf(T)とし、温度Tにおけるベース値をB(T)として、下記(1)式により求める。
面積S={f(Ts+1)−B(Ts+1)}+{f(Ts+2)−B(Ts+2)}
+・・・+{f(Te-1)−B(Te-1)} ・・・(1)
ただし、Tは各温度範囲における下限値、Teは上限値である。また、各温度Tにおけるベース値B(T)は、下記(2)式により求まる値であり、蛍光強度の検出信号に含まれるバックグラウンドレベルを表すものである。このベース値を蛍光強度の微分値から減算することにより、蛍光強度の検出信号に含まれるバックグラウンドの影響を除去する。
B(T)=a×(T−Ts)+f(Ts) ・・・(2)
ただし、a={f(Te)−f(Ts)}/(Te−Ts) である。
【0063】
本発明において、試料中の核酸は、一本鎖核酸でもよいし二本鎖核酸であってもよい。前記核酸が二本鎖核酸の場合は、例えば、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとハイブリダイズすることに先立って、加熱により前記試料中の二本鎖核酸を融解(解離)させて一本鎖核酸とすることを含むことが好ましい。二本鎖核酸を一本鎖核酸に解離することによって、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリダイズが可能となる。
【0064】
本発明において、試料に含まれる核酸は、例えば、生体試料に元来含まれる核酸でもよいが、検出精度が向上できることから、生体試料に元来含まれている核酸を鋳型としてPCR等によりMDR1遺伝子の変異部位を含む領域を増幅させた増幅産物であることが好ましい。増幅産物の長さは、特に制限されないが、例えば、50〜1000merであり、好ましくは80〜200merである。また、試料中の核酸は、例えば、生体試料由来のRNA(トータルRNA、mRNA等)からRT−PCR(Reverse Transcription PCR)により合成したcDNAであってもよい。
【0065】
本発明の多型検出方法を適用する試料は、MDR1遺伝子が存在する試料であれば特に制限されない。具体例としては、白血球細胞等の血球試料、全血試料等が挙げられる。なお、本発明において、試料の採取方法、核酸を含む試料の調製方法等は、制限されず、従来公知の方法が採用できる。
【0066】
本発明において、前記試料中の核酸に対する、本発明のプローブの添加割合(モル比)は特に制限されない。試料中のDNAに対して1倍以下が好ましく、0.1倍以下がより好ましい。これにより、例えば検出シグナルを十分に確保できる。
ここで、試料中の核酸とは、例えば、検出目的の多型が発生している検出対象核酸と前記多型が発生していない非検出対象核酸との合計でもよいし、検出目的の多型が発生している検出対象配列を含む増幅産物と前記多型が発生していない非検出対象配列を含む増幅産物との合計でもよい。なお、試料中の核酸における前記検出対象核酸の割合は、通常、不明であるが、結果的に、前記プローブの添加割合(モル比)は、検出対象核酸(検出対象配列を含む増幅産物)に対して10倍以下となることが好ましく、より好ましくは5倍以下、さらに、好ましくは3倍以下である。また、その下限は特に制限されないが、例えば、0.001倍以上であり、好ましくは0.01倍以上であり、より好ましくは0.1倍以上である。
【0067】
前記DNAに対する本発明のプローブの添加割合は、例えば、二本鎖核酸に対するモル比でもよいし、一本鎖核酸に対するモル比でもよい。
【0068】
次にTm値について説明する。一般に、二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。そして、全ての二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになると、その吸光度は加熱開始時の吸光度(二本鎖DNAのみの吸光度)の約1.5倍程度を示し、これによって融解が完了したと判断できる。この現象に基づき、融解温度Tmとは、一般に、吸光度が、吸光度全上昇分の50%に達した時の温度と定義される。
【0069】
本発明において、Tm値を決定するための温度変化に伴うシグナル変動の測定は、前述のような原理から260nmの吸光度測定により行うこともできるが、前記多型検出用プローブに付加した標識のシグナルに基づくシグナルであって、一本鎖DNAと前記多型検出用プローブとのハイブリッド形成の状態に応じて変動するシグナルを測定することが好ましい。このため、前記多型検出用プローブとして、前述の蛍光標識オリゴヌクレオチドを使用することが好ましい。前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとしては、例えば、相補配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、相補配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)する蛍光標識オリゴヌクレオチド、または相補配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、相補配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が増加する蛍光標識オリゴヌクレオチドが挙げられる。
前者のようなプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成している際には蛍光シグナルを示さないか、蛍光シグナルが弱いが、加熱によりプローブが解離すると蛍光シグナルを示すようになるか、蛍光シグナルが増加する。
また、後者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成することによって蛍光シグナルを示し、加熱によりプローブが解離すると蛍光シグナルが減少(消失)する。したがって、この蛍光標識に基づく蛍光シグナルの変化を蛍光標識特有の条件(蛍光波長等)で検出することによって、前記260nmの吸光度測定と同様に、融解の進行ならびにTm値の決定を行うことができる。
【0070】
次に、本発明の多型検出方法について、蛍光色素に基づくシグナルの変化を検出する方法について具体的例を挙げて説明する。なお、本発明の多型検出方法は、前記多型検出用プローブを使用すること自体が特徴であり、その他の工程や条件については何ら制限されない。
【0071】
核酸増幅を行う際の鋳型となる核酸を含む試料としては、核酸を含んでいればよく、特に制限されない。例えば、血液、口腔粘膜懸濁液、爪や毛髪等の体細胞、生殖細胞、乳、腹水液、パラフィン包埋組織、胃液、胃洗浄液、腹膜液、羊水、細胞培養などの任意の生物学的起源に由来する又は由来しうるものを挙げられる。鋳型となる核酸は、該起源から得られたままで直接的に、あるいは該サンプルの特性を改変するために前処理した後で使用することができる。
例えば、全血を試料とする場合、全血からのゲノムDNAの単離は、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、市販のゲノムDNA単離キット(商品名GFX Genomic Blood DNA Purification kit;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等が使用できる。
【0072】
次に、単離したゲノムDNAを含む試料に、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む多型検出用プローブを添加する。
前記多型検出用プローブは、単離したゲノムDNAを含む液体試料に添加してもよいし、適当な溶媒中でゲノムDNAと混合してもよい。前記溶媒としては、特に制限されず、例えば、Tris−HCl等の緩衝液、KCl、MgCl、MgSO、グリセロール等を含む溶媒、PCR反応液等、従来公知のものが挙げられる。
【0073】
前記多型検出用プローブの添加のタイミングは、特に制限されず、例えば、後述するPCR等の増幅処理を行う場合、増幅処理の後に、PCR増幅産物に対して添加してもよいし、増幅処理前に添加してもよい。
このようにPCR等による増幅処理前に前記検出用プローブを添加する場合は、例えば、前述のように、その3'末端に、蛍光色素を付加したり、リン酸基を付加したりすることが好ましい。
【0074】
核酸増幅の方法としては、ポリメラーゼを用いる方法が好ましく、その例としては、PCR法、ICAN法、LAMP法、NASBA法等が挙げられる。ポリメラーゼを用いる方法により増幅する場合は、本発明プローブの存在下で増幅を行うことが好ましい。用いるプローブおよびポリメラーゼに応じて、増幅の反応条件等を調整することは当業者であれば容易である。これにより、核酸の増幅後にプローブのTm値を解析するだけで多型を評価できるので、反応終了後増幅産物を取り扱う必要がない。よって、増幅産物による汚染の心配がない。また、増幅に必要な機器と同じ機器で検出することが可能なので、容器を移動する必要がなく、自動化も容易である。
【0075】
PCRに用いるプライマー対は、本発明プローブがハイブリダイゼーションできる領域が増幅できるものであれば特に制限されず、通常のPCRにおけるプライマー対の設定方法と同様にして設定することができる。プライマーの長さおよびTm値は、通常には、12mer〜40merで40〜70℃、好ましくは16mer〜30merで55〜60℃である。プライマー対の各プライマーの長さは同一でなくてもよいが、両プライマーのTm値はほぼ同一(又は、Tm値の両プライマーでの差が2℃以内)であることが好ましい。
以下に、本発明の多型検出方法における検出対象配列の増幅に使用できるプライマーセットの一例を示す。なお、これらは例示であって、本発明を制限するものではない。
【0076】
【表4】

【0077】
またPCR法に用いるDNAポリメラーゼとしては、通常用いられるDNAポリメラーゼを特に制限なく用いることができる。例えば、GeneTaq(ニッポンジーン社製)PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)等を挙げることができる。
【0078】
またPCR法は、通常用いられる条件を適宜選択することで行うことができる。
なお、増幅の際、リアルタイムPCRによって増幅をモニタリングし、試料に含まれるDNA(検出対象配列)のコピー数を調べることもできる。すなわち、PCRによるDNA(検出対象配列)の増幅に従ってハイブリッドを形成するプローブの割合が増えるので蛍光強度が変動する。これをモニタリングすることで、試料に含まれる検出対象配列(正常DNAまたは変異DNA)のコピー数を評価することができる。
【0079】
本発明の多型検出方法においては、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドと、試料中の一本鎖核酸とを接触させて、両者をハイブリダイズさせる。試料中の一本鎖核酸は、例えば、上記のようにして得られたPCR増幅産物を解離することで調製することができる。
【0080】
前記PCR増幅産物の解離(解離工程)における加熱温度は、前記増幅産物が解離できる温度であれば特に制限されない。例えば、85〜95℃である。加熱時間も特に制限されない。通常、1秒〜10分であり、好ましくは1秒〜5分である。
【0081】
また、解離した一本鎖DNAと前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリダイズは、例えば、前記解離工程の後、前記解離工程における加熱温度を降下させることによって行うことができる。温度条件としては、例えば、40〜50℃である。
【0082】
ハイブリダイズ工程の反応液における各組成の体積や濃度は、特に制限されない。具体例としては、前記反応液におけるDNAの濃度は、例えば、0.01μM〜1μMであり、好ましくは0.1μM〜0.5μM、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドの濃度は、例えば、前記DNAに対する添加割合を満たす範囲が好ましく、例えば、0.001μM〜10μMであり、好ましくは0.001〜1μMである。
【0083】
そして、得られた前記一本鎖DNAと前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光シグナルの変動を測定する。例えば、QProbeを使用した場合、一本鎖DNAとハイブリダイズした状態では、解離した状態に比べて蛍光強度が減少(または消光)する。したがって、例えば、蛍光が減少(または消光)しているハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0084】
蛍光強度の変動を測定する際の温度範囲は、特に制限されないが、例えば、開始温度が室温〜85℃であり、好ましくは25〜70℃であり、終了温度は、例えば、40〜105℃である。また、温度の上昇速度は、特に制限されないが、例えば、0.1〜20℃/秒であり、好ましくは0.3〜5℃/秒である。
【0085】
次に、前記シグナルの変動を解析してTm値として決定する。具体的には、得られた蛍光強度から各温度における微分値(−d蛍光強度/dt)を算出し、最も低い値を示す温度をTm値として決定できる。また、単位時間当たりの蛍光強度増加量(蛍光強度増加量/t)が最も高い点をTm値として決定することもできる。なお、標識化プローブとして、消光プローブではなく、ハイブリッド形成によりシグナル強度が増加するプローブを使用した場合には、反対に、蛍光強度の減少量を測定すればよい。
【0086】
また、本発明においては、前述のように、ハイブリッドを加熱して、温度上昇に伴う蛍光シグナル変動(好ましくは蛍光強度の増加)を測定するが、この方法に代えて、例えば、ハイブリッド形成時におけるシグナル変動の測定を行ってもよい。すなわち、前記プローブを添加した試料の温度を降下させてハイブリッドを形成する際の前記温度降下に伴う蛍光シグナル変動を測定してもよい。
【0087】
具体例として、相補配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、相補配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)する蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブ(例えば、QProbe)を使用した場合、前記プローブを試料に添加した際には、前記プローブは解離状態にあるため蛍光強度が大きいが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、前記蛍光が減少(または消光)する。したがって、例えば、前記加熱した試料の温度を徐々に降下して、温度下降に伴う蛍光強度の減少を測定すればよい。
他方、ハイブリッド形成によりシグナルが増加する標識化プローブを使用した場合、前記プローブを試料に添加した際には、前記プローブは解離状態にあるため蛍光強度が小さい(または消光)が、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光強度が増加するようになる。したがって、例えば、前記試料の温度を徐々に降下して、温度下降に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0088】
本発明の多型検出方法は、MDR1遺伝子のエクソン21における変異を検出可能な前記蛍光標識オリゴヌクレオチド(第1の蛍光標識オリゴヌクレオチド)の少なくとも1種を用いることを特徴とするが、これに加えて、MDR1遺伝子のエクソン26における変異を検出可能な第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドを併用することが好ましい。エクソン21およびエクソン26の変異の両方を検出することで、例えば、MDR1遺伝子由来のP糖タンパクの発現量をより精度よく予測することができる。
【0089】
前記第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドとしては、配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基の変異を検出可能であれば特に制限されない。前記第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、既述の第1の蛍光標識オリゴヌクレオチドと同様にして構成することができる。例えば、特開2005−287335号公報に記載された蛍光標識オリゴヌクレオチドを本発明においても用いることができる。
尚、配列番号1に示す塩基配列は、MDR1遺伝子のエクソン26の部分配列であって、エクソン26の3435番目の塩基が、配列番号1に示す塩基配列の256番目の塩基に対応するものである。
【0090】
第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドとして具体的には、配列番号1に示す塩基配列において243番目の塩基から始まる14〜50塩基長の塩基配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチド、配列番号1に示す塩基配列において248番目の塩基から始まる9〜50塩基長の塩基配列に相補的な配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチドを挙げることができる。
【0091】
本発明における第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列において248番目の塩基から始まる9〜50塩基長の塩基配列に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチドであることが好ましく、配列番号1に示す塩基配列において248番目の塩基から始まる9〜50塩基長の塩基配列に相補的な塩基配列を有し、5’末端に蛍光色素を有する蛍光標識オリゴヌクレオチドであることがより好ましい。かかる蛍光標識オリゴヌクレオチドであることで、例えば、変異検出感度がより向上する。
【0092】
上記塩基配列を有し、5’末端または3’末端のCが蛍光色素で標識されたプローブの具体例を以下に示す(大文字の塩基は変異点を示し、Pはリン酸基を示す)。ただし、本発明における蛍光標識オリゴヌクレオチドは以下のものに限定されない。
【0093】
【表5】

【0094】
第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドに起因する蛍光シグナルの変化は、既述の第1の蛍光標識オリゴヌクレオチドと同様にして測定することができる。
【0095】
本発明において第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いる場合、第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドに含まれる蛍光色素は、前記第1の蛍光標識オリゴヌクレオチドに含まれる蛍光色素とは発光波長が異なる蛍光色素であることが好ましい。これにより、例えば、第1の蛍光標識オリゴヌクレオチドに起因する蛍光シグナル変化と第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドに起因する蛍光シグナル変化とを同時に測定することができる。
【0096】
さらに本発明の多型検出方法において、前記第2の蛍光標識オリゴヌクレオチドを併用する場合、配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基を含む塩基長50〜1000の領域を、増幅することをさらに含むことが好ましく、前記領域の塩基長は80〜200であることがより好ましい。
これにより、例えば、MDR1遺伝子のエクソン26における多型をより高感度に検出することができる。
【0097】
前記配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基を含む塩基長50〜1000の領域を増幅する方法については特に制限されない。例えば、既述のPCR法を用いることができる。
PCR法に適用するプライマーは、目的とする前記配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基を含む領域を増幅可能であれば特に制限されない。例えば、特開2005−287335号公報等に記載のプライマーを本発明にも適用することができる。
以下に、本発明の多型検出方法における前記配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基を含む領域の増幅に使用できるプライマーセットの一例を示す。
【0098】
【表6】

【0099】
本発明の多型検出方法においては、配列番号2に示す塩基配列における300番目の塩基(変異部位)に相補的な塩基が互いに異なり、前記相補的な塩基がC、TまたはAである、少なくとも2種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いることで、前記変異部位における塩基の種類を識別することができる。
【0100】
例えば、配列番号8に示す塩基配列を有し、3’末端に蛍光色素(例えば、TAMRA)を有するP1の蛍光標識オリゴヌクレオチド(以下、「プローブ1」ともいう)と、配列番号9に示す塩基配列を有し、5’末端に蛍光色素(例えば、BODIPY FL)を有するP2の蛍光標識オリゴヌクレオチド(以下、「プローブ2」ともいう)とを用いて、MDR1遺伝子のエクソン21における変異部位の塩基を識別する方法について、図面を参照しながら説明する。
尚、前記プローブ1は野生型(すなわち、変異部位がG)である塩基配列に相補的であり、前記プローブ2は変異部位がTである塩基配列に相補的である。
【0101】
図2〜図7に、検出対象である種々のDNAを用いた微分融解曲線の一例をそれぞれ示す。それぞれの図面において、横軸は温度、縦軸は蛍光強度の微分値であり、また上図(A)はプローブ2の蛍光色素の測定波長における微分融解曲線を、下図(B)はプローブ1の蛍光色素の測定波長における微分融解曲線をそれぞれ示すものである。
本発明の多型検出方法において、試料の融解曲線のピークの位置と、野生型及びT変異型のTm値との関係を確認することによって、試料中のDNAの変異の種類を特定する方法を具体的に説明する。
すなわち、融解曲線のピークが、野生型のTm値と一致した場合には、試料中のDNAに野生型が含まれていると判断できる。一方、融解曲線のピークがT型変異に対応するTm値と一致した場合には、試料中のDNAにT型変異が含まれていると判断できる。融解曲線のピークが、野生型のTm値及びT型変異に対応するTm値とも一致しない場合には、いずれにも該当しないA型変異のみを含むと判断できる。また、融解曲線のピークが1つであれば、野生型及びT型変異のいずれか一方のみを意味し、融解曲線のピークが2つであれば、野生型及びT型変異の双方を含むヘテロ型であると判断できる。これらの情報を組み合わせた手法を適用することによって、試料中のDNAの変異を判断することができる。
【0102】
例えば、図2は、検出対象のDNAが野生型(すなわち、変異部位がG)の場合の微分融解曲線の一例である。上記手法を適用すれば、図2(B)においては野生型に対応するTm値(図2(B)の破線位置)と蛍光強度変化のピークが一致することから、検出対象のDNAが野生型を含むことが分かる。また図2(A)においては変異部位がTであるTm値(図2(A)の破線位置)よりも、低い温度に単一の蛍光強度変化のピークがあることから、検出対象のDNAが野生型のみを含むことが分かる。
同様に、図3〜図7に示される融解曲線からは、上記手法を適用することによって、図3は、検出対象のDNAの変異がA型変異のみである場合、図4は、検出対象のDNAにはT型変異のみが含まれる場合、図5は、野生型とA型変異が含まれる場合、図6は、野生型とT変異が含まれる場合、図7は、A型変異とT型変異が含まれる場合を、それぞれ示すことがわかる。
【0103】
以上のように、配列番号2に示す塩基配列における300番目の塩基(変異部位)に相補的な塩基が互いに異なり、前記相補的な塩基がC、TまたはAであるような、少なくとも2種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いることで、前記変異部位における塩基の種類を高感度且つ簡便に識別することができる。
【0104】
次に本発明の多型検出方法において、配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基の変異を検出する方法について、図面を参照しながら説明する。
例えば、配列番号7に示す塩基配列を有し、5’末端に蛍光色素(例えば、Pacific Blue)を有する第2の蛍光標識オリゴヌクレオチド(以下、「エクソン26プローブ」ともいう)を用いることで、MDR1遺伝子のエクソン26におけるC3435T変異を検出することができる。
尚、前記エクソン26プローブは、変異部位がT(チミン)である塩基配列に相補的である。
【0105】
図8は、検出対象のDNAが野生型である場合の微分融解曲線の一例である。図8においてはT変異型に対応するTm値(図8の破線位置)よりも低い温度に、蛍光強度変化のピークがあることから、検出対象のDNAが野生型を含むことが分かる。
また図9は、検出対象のDNAがT変異型である場合の微分融解曲線の一例である。図9においてはT変異型に対応するTm値(図9の破線位置)の温度に、蛍光強度変化のピークがあることから、検出対象のDNAがT変異型を含むことが分かる。
さらに図10は、検出対象のDNAが野生型とT変異型のヘテロタイプである場合の微分融解曲線の一例である。図10においてはT変異型に対応するTm値(図10の破線位置)の温度と、それよりも低い温度に、2つの蛍光強度変化のピークがあることから、検出対象のDNAが野生型とT変異型を含むことが分かる。
【0106】
<薬効評価方法>
本発明のMDR1遺伝子の多型検出方法によれば、MDR1遺伝子のエクソン21における変異の有無と種類とを検出することができ、さらにエクソン26における変異有無も合わせて検出することができる。これにより多型の有無や変異配列と正常配列の存在比に基づいて薬剤に対する耐性や薬剤の薬効を評価することができる。そして、本発明の薬効評価方法は、変異の有無や変異配列の存在比に基づいて、薬剤の投与量の増加、他の治療薬への変更等への切り替え等の疾病の治療方針を決定するのに有用である。
【0107】
<多型検出用キット>
本発明の多型検出用キットは、前記第1の蛍光標識オリゴヌクレオチドの少なくとも1種を含む多型検出用プローブを含み、必要に応じてプライマー等をさらに含んで構成される。本発明の多型検出用キットはMDR1遺伝子のエクソン21における変異を検出可能である。
前記多型検出用プローブは、1種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含むものでもよいし、2種以上を含むものであってもよい。本発明においては、配列番号2に示す塩基配列における300番目の塩基に相補的な塩基が互いに異なり、前記相補的な塩基がC、TまたはAである、少なくとも2種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含むことが好ましく、さらに配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基の変異を検出可能な多型検出用プローブの少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0108】
多型検出用プローブとして2種以上の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む場合、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドは混合された状態で含まれていても、別個に含まれていてもよい。
また、2種類以上の本発明のプローブが混合された状態で本発明の多型検出用キットに含まれる場合や、別個の試薬として含まれているが、例えば使用時に同じ反応系で各蛍光標識オリゴヌクレオチドと各検出対象配列とのTm解析を行う場合、2種以上の各プローブは発光波長が互いに異なる蛍光色素で標識化されていることが好ましい。
このように蛍光物質の種類を変えることで、同じ反応系であっても、それぞれのプローブについての検出を同時に行うことも可能になる。
【0109】
本発明検出キットは、プローブの他に、本発明の検出方法における核酸増幅を行うのに必要とされる試薬類、特にDNAポリメラーゼを用いる増幅のためのプライマーをさらに含んでいてもよい。また、プローブ、プライマーおよびその他の試薬類は、別個に収容されていてもよいし、それらの一部が混合物とされていてもよい。
【0110】
前記多型検出用キットは、配列番号2に示す塩基配列において、前記P1またはP2のオリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を鋳型として増幅可能なプライマーをさらに含むことが好ましい。
さらに前記多型検出キットが、配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基の変異を検出可能な多型検出用プローブを含む場合、該プローブが、配列番号1に示す塩基配列において248番目の塩基から始まる9〜50塩基長の塩基配列に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチドであることが好ましく、また、該キットが、配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基を含む塩基長50〜1000の領域を、より好ましくは80〜200の領域を増幅可能なプライマーをさらに含むことが好ましい。
このような多型部位を含む配列(プローブがハイブリダイズする領域)を増幅するためのプライマーセットを含むことで、例えば、より高感度に多型を検出することができる。
【0111】
さらに本発明の多型検出用キットは、前記多型検出用プローブを使用して、検出対象である核酸を含む試料について微分融解曲線を作成し、そのTm値解析を行って、MDR1遺伝子における変異を検出することが記載された取扱い説明書をさらに含むことが好ましい。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
<実施例1>
全自動SNPs検査装置(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)と下記表7に記載した処方の検査用試薬を用いて、PCRおよびTm解析を行った。
PCRは、95℃で60秒処理した後、95℃で1秒および58℃で30秒を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
またTm解析は、PCRの後、95℃で1分、40℃で60秒処理し、続けて温度の上昇速度1℃/3秒で、40℃から75℃まで温度を上昇させ、その間の経時的な蛍光強度の変化を測定した。尚、測定波長は585〜700nmおよび520〜555nmとして、MDR1exon21 probe1とMDR1exon21 probe2に由来する蛍光強度の変化をそれぞれ測定した。

【0114】
【表7】

【0115】
また上記、表7に記載のプライマーおよびプローブの詳細を以下に示した。尚、プローブにおけるPは3’末端がリン酸化されていることを示す。
【0116】
【表8】

【0117】
変異の検出対象試料として、全血から精製したヒトゲノムを1μl(100cp/μl)の量で用いた。尚、用いたヒトゲノムはMDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基が、野生型(G)のものである。得られた微分融解曲線を図2(A)および図2(B)に示す。また、図2(A)はMDR1 exon21 probe2を図2(B)はMDR1 exon21 probe1を用いて得られた微分融解曲線である。
図2(A)および図2(B)から、検出対象試料に含まれるMDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基が野生型であることが分かる。
【0118】
<実施例2>
実施例1において、変異の検出対象試料として、MDR1のエクソン21における2677番目の塩基が、A(アデニン)に変異した塩基配列を有する25μMの人工オリゴヌクレオチド(塩基長50)を1μl用いたこと、PCRを行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、Tm解析を行った。得られた微分融解曲線を図3(A)および図3(B)に示す。また、図3(A)はMDR1 exon21 probe2を図3(B)はMDR1 exon21 probe1を用いて得られた微分融解曲線である。
得られた微分融解曲線は、検出対象試料に含まれるMDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基が所定の変異型であるものに対応するものであった。
【0119】
<実施例3>
変異の検出対象試料として、全血から精製したヒトゲノムを1μl(100cp/μl)の量で用いた。尚、用いたヒトゲノムはMDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基が、T(チミン)に変異したものである。実施例1において、変異の検出対象試料として、MDR1のエクソン21における2677番目の塩基が、T(チミン)に変異した塩基配列を有するものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、Tm解析を行った。得られた微分融解曲線を図4(A)および図4(B)に示す。また、図4(A)はMDR1 exon21 probe2を図4(B)はMDR1 exon21 probe1を用いて得られた微分融解曲線である。
得られた微分融解曲線は、検出対象試料に含まれるMDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基が所定の変異型であるものに対応するものであった。
【0120】
<実施例4>
実施例1において、変異の検出対象試料として、MDR1のエクソン21における2677番目の塩基が、野生型の25μM人工オリゴヌクレオチド(塩基長50)と、A(アデニン)に変異した塩基配列を有する25μM人工オリゴヌクレオチド(塩基長50)との核酸混合物(混合割合1:1)を1μl用いたこと、PCRを行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、Tm解析を行った。得られた微分融解曲線を図5(A)および図5(B)に示す。また、図5(A)はMDR1 exon21 probe2を図5(B)はMDR1 exon21 probe1を用いて得られた微分融解曲線である。
得られた微分融解曲線は、検出対象試料に含まれるMDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基が所定の変異型であるものに対応するものであった。
【0121】
<実施例5>
実施例1において、変異の検出対象試料として、全血から精製したヒトゲノムを1μl(100cp/μl)の量で用いた。尚、用いたヒトゲノムはMDR1遺伝子のエクソン21におけ2677番目の塩基が、ヘテロ型(G(グアニン)とT(チミン))であったこと、以外は実施例1と同様にして、Tm解析を行った。得られた微分融解曲線を図6(A)および図6(B)に示す。また、図6(A)はMDR1 exon21 probe2を図6(B)はMDR1 exon21 probe1を用いて得られた微分融解曲線である。
得られた微分融解曲線は、検出対象試料に含まれるMDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基が所定の変異型であるものに対応するものであった。
【0122】
<実施例6>
実施例1において、変異の検出対象試料として、全血から精製したヒトゲノムを1μl(100cp/μl)の量で用いた。尚、用いたヒトゲノムはMDR1遺伝子のエクソン21におけ2677番目の塩基が、ヘテロ型(A(アデニン)とT(チミン))であったこと以外は実施例1と同様にして、Tm解析を行った。得られた微分融解曲線を図7(A)および図7(B)に示す。また、図7(A)はMDR1 exon21 probe2を図7(B)はMDR1 exon21 probe1を用いて得られた微分融解曲線である。
得られた微分融解曲線は、検出対象試料に含まれるMDR1遺伝子のエクソン21における2677番目の塩基が所定の変異型であるものに対応するものであった。
【0123】
<実施例7>
変異の検出対象試料として、全血から精製したヒトゲノムを1ul(100cp/ul)の量で用いた。尚、用いたヒトゲノムはMDR1遺伝子のエクソン26における3435番目の塩基が、野生型であったこと、測定波長を、445〜480nmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてTm解析を行った。得られた微分融解曲線のうちMDR1exon26 probeに対応する微分融解曲線を図8に示す。
得られた微分融解曲線は、検出対象試料に含まれるMDR1遺伝子のエクソン26における3435番目の塩基が野生型であるものに対応するものであった。
【0124】
<実施例8>
実施例7において、変異の検出対象サンプルとしてMDR1遺伝子のエクソン26における3425番目の塩基が、T(チミン)に変異した塩基配列を有する25μM人工オリゴヌクレオチド(塩基長50)を1μM用いたこと、PCRを行わなかったこと以外は、実施例7と同様にしてTm解析を行った。得られた微分融解曲線のうちMDR1exon26 probeに対応する微分融解曲線を図9に示す。
得られた微分融解曲線は、検出対象試料に含まれるMDR1遺伝子のエクソン26における3435番目の塩基が所定の変異型であるものに対応するものであった。
【0125】
<実施例9>
実施例7において、変異の検出対象試料として、全血から精製したヒトゲノムを1μl(100cp/μl)の量で用いた。尚、用いたヒトゲノムはMDR1遺伝子のエクソン26における3425番目の塩基が、ヘテロ型(C(シトシン)とT(チミン))であったこと、以外は、実施例7と同様にしてTm解析を行った。得られた微分融解曲線のうちMDR1exon26 probeに対応する微分融解曲線を図10に示す。
得られた微分融解曲線は、検出対象試料に含まれるMDR1遺伝子のエクソン26における3435番目の塩基が所定の変異型であるものに対応するものであった。
【0126】
<比較例1>
実施例1において、蛍光標識オリゴヌクレオチドとして、以下に示す塩基配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチド(MDR1exon21 probe3)のみを用いたこと以外は実施例1と同様にして、蛍光強度の変化を測定した。
得られた微分融解曲線においては、蛍光強度変化が小さく、Tm値を評価することができなかった。
【0127】
【表9】

【0128】
以上から、本発明の多型検出用プローブを用いることで、MDR1遺伝子のエクソン21におけるG2677A/T変異を高感度かつ簡便に検出できることがわかる。さらに配列番号1に示す塩基配列における256番目の変異を検出可能な多型検出用プローブを併用することで、MDR1遺伝子のエクソン26におけるC3435T変異も同時に検出可能であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記P1およびP2からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む、MDR1遺伝子の多型検出用プローブ:
(P1)配列番号2に示す塩基配列において、288〜300番目の塩基を含む塩基長13〜68の塩基配列に相補的な配列又は該相補配列に相同な配列を有し、288番目の塩基に相補的な塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、および、
(P2)配列番号2に示す塩基配列において、300〜305番目の塩基を含む塩基長6〜93の塩基配列に相補的な配列又は該相補配列に相同な配列を有し、305番目の塩基に相補的な塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記P1のオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基を3’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に有し、
前記P2のオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基を5’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に有する、請求項1に記載の多型検出用プローブ。
【請求項3】
前記P1のオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基を3’末端に有し、
前記P2のオリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基を5’末端に有する、請求項1または請求項2に記載の多型検出用プローブ。
【請求項4】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、相補配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、相補配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少または増加する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項5】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、相補配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、相補配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少する、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項6】
前記P1のオリゴヌクレオチドの塩基長が13〜56であり、前記P2のオリゴヌクレオチドの塩基長が6〜29である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項7】
前記P1のオリゴヌクレオチドの塩基長が13〜26であり、前記P2のオリゴヌクレオチドの塩基長が6〜23である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項8】
前記P1のオリゴヌクレオチドの塩基長が13〜21であり、前記P2のオリゴヌクレオチドの塩基長が6〜18である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項9】
融解曲線分析用のプローブである、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項10】
配列番号2に示す塩基配列における300番目の塩基に相補的な塩基が互いに異なり、前記相補的な塩基がC、TまたはAである少なくとも2種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを用いるMDR1遺伝子の多型検出方法。
【請求項12】
(I)請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の多型検出用プローブおよび試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドおよび前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッドを得ることと、
(II)前記ハイブリッド形成体を含む試料の温度を変化させることで、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定することと、
(III)前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を評価することと、
(IV)前記Tm値に基づいて、MDR1遺伝子における多型の存在を評価することと、
を含む、請求項11に記載の多型検出方法。
【請求項13】
さらに、前記(I)の前または(I)と同時に核酸を増幅することを含む、請求項11または請求項12に記載の多型検出方法。
【請求項14】
配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基の変異を検出可能な多型検出用プローブと、前記試料中の一本鎖核酸とを接触させることをさらに含む、請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載の多型検出方法。
【請求項15】
前記配列番号1に示す塩基配列における256番目の塩基の変異を検出可能な多型検出用プローブは、配列番号1に示す塩基配列において、248番目の塩基から始まる9〜50塩基長の塩基配列に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチドである、請求項14に記載の多型検出方法。
【請求項16】
請求項11〜請求項15のいずれか1項に記載の多型検出方法により、MDR1遺伝子における多型の検出結果を得ることと、
前記多型の検出結果に基づいて、薬剤に対する耐性または薬剤の薬効を評価することと、
を含む、薬剤の薬効評価方法。
【請求項17】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを含む、多型検出用キット。
【請求項18】
配列番号2に示す塩基配列において、前記P1またはP2のオリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を鋳型として増幅可能なプライマーをさらに含む、請求項17に記載の多型検出用キット。
【請求項19】
配列番号1に示す塩基配列において248番目の塩基から始まる9〜50塩基長の塩基配列に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチドをさらに含む、請求項17または請求項18のいずれか1項に記載の多型検出用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−105644(P2012−105644A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235652(P2011−235652)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】