説明

多孔体並びに該多孔体を用いた触媒担持体、ろ過フィルタ、浄水装置及び船舶バラスト排水処理装置

【課題】発泡金属からなる多孔体の気孔率が大きなまま、表面積を大きくし、多様な用途に利用可能な多孔体を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る多孔体は、三次元網目構造を持つ発泡金属からなる多孔体であって、該発泡金属の骨格の表面に髭状物質が形成されていることを特徴とする。発泡金属としては、Ni、CoまたはFeであることが好ましく、髭状物質としては、光触媒機能を
持つカーボンナノチューブ及び/又はTiO2であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気孔率の大きな発泡金属からなる多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題から、有害物質や細菌・ウイルスなどを分解、殺菌する光触媒材料が注目されている。代表的な光触媒はTiO2であるが、最近になり、カーボンナノチューブにも光触媒機能があることが報告されている(非特許文献1)。また、カーボンナノチューブの壁面にTiO2を担持させた光触媒材料も知られている(特許文献1)。
【0003】
光触媒機能を実際に発揮させるためには、光触媒自体の表面積を増大させることに加えて、光触媒を透過機能の高い多孔体に担時させて使用する必要がある。多孔体の気孔率が小さいとガスまたは液体の透過抵抗が高く、処理量を稼ぐことができない。この点に関し、発泡金属は気孔率が大きい優れた多孔体である。
しかし、通常の発泡金属の細孔径は50μm程度までしか小さくならないために、発泡金属骨格の表面積はそれほど大きくなく、光触媒を担時してもその担持量を多くできず、光触媒機能による分解効率等は大きくならない。一方、光触媒による分解効率を上げるべく、細孔径を小さくした表面積の大きな多孔体を用いると、上記の如く、気孔率の低下に伴う透過抵抗の増大を招くこととなる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−054694号公報
【非特許文献1】権利化試験(独創的シーズ展開事業)平成16年度採択課題の事後評価報告書(平成19年3月 独立行政法人科学技術振興機構)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みて、発泡金属からなる多孔体を気孔率が大きなまま、表面積を大きくし、多様な用途に利用可能な多孔体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、発泡金属の骨格表面に微細な髭状材料をコーティングして、大きな表面積で透過性能が高い多孔体とすることが有効であることを見出した。本発明は以下の構成からなる。
【0007】
(1)本発明に係る多孔体は、三次元網目構造を持つ発泡金属からなる多孔体であって、該発泡金属の骨格の表面に髭状物質が形成されていることを特徴とする。
(2)上記(1)に記載の多孔体において、前記発泡金属がNi、CoまたはFeであるこ
とを特徴とする。
(3)上記(1)又は(2)に記載の多孔体において、前記髭状物質が光触媒機能を持つ材料であることを特徴とする。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一に記載の多孔体において、前記髭状物質がカーボンナノチューブであることを特徴とする。
(5)上記(1)〜(3)のいずれか一に記載の多孔体において、前記髭状物質がTiO2を主成分とすることを特徴とする。
(6)上記(1)〜(3)のいずれか一に記載の多孔体において、前記髭状物質がカーボンナノチューブ及びTiO2を主成分とする材料からなることを特徴とする。
【0008】
(7)本発明に係る触媒担持体は、上記(1)〜(6)のいずれか一に記載の多孔体に触媒を担持することを特徴とする。
(8)本発明に係るろ過フィルタは、上記(1)〜(6)のいずれか一に記載の多孔体を用いたことを特徴とする。
(9)本発明に係る浄水装置は、上記(8)に記載のろ過フィルタを用いたことを特徴とする。
(10)本発明に係る船舶バラスト排水処理装置は、上記(9)に記載の浄水装置を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る多孔体は、発泡金属にカーボンナノチューブを形成することにより、光触媒を担持させた場合の担持量を増大させることができるので、光触媒反応を促進することができる。本発明に係る多孔体をろ過フィルタとして用いた光触媒反応容器及び浄水装置は、船舶バラスト水の処理にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る多孔体は、三次元網目構造を有する発泡金属からなることを特徴とする。発泡金属は気孔率が大きいため、軽量化構造材料、フィルタ等、その応用範囲が多岐にわたる優れた多孔体である。さらに本発明に係る多孔体は、該発泡金属の骨格表面に髭状物質が形成されていることを特徴とする。髭状物質としては、柱状の真直ぐのものでもよいし、所々で折れ曲がった形状をしてもよい。すなわち、細長く、概ね髭状の形状をしたものであればよい。
このような髭状物質を発泡金属の骨格表面に無数に有するため、本発明に係る多孔体は、極めて大きな表面積を有する。このため、従来の多孔体に比べて、大量に様々な触媒を担持することができ、大きな触媒効果を発揮することができる。よって、本発明に係る多孔体は、触媒担体として好ましく用いることが可能である。
【0011】
図1に本発明に係る多孔体の概念構造の一例を示す。
図1では、発泡金属の骨格表面にカーボンナノチューブが形成されている。微細なカーボンナノチューブを形成することにより、極めて高い表面積となっている。
【0012】
発泡金属は種々の方法で製造されるが、例えば以下のようにして製造される。
まず、ポリウレタンフォームと呼ばれる三次元骨格構造を持つポリウレタンが原料とされる。これを炭素粉末が分散されたスラリー状の液体に浸漬させた後、乾燥するとポリウレタンフォーム骨格の表面に導電性の炭素が付着する。これをめっき処理して、炭素の表面にNiやCrなどをコーティングすることで発泡金属が製造できる。
または、ポリアクリロニトリル系の不織布を炭化して導電性を持たせ、これにめっき処理をしてFeの発泡金属を作製する等の方法もある。FeにCrやAlを添加する場合は、Fe製発泡金属をCrやAlを含む高温のガス中で処理して合金化させることもできる。
上記工程で作製できる発泡多孔体の平均細孔径は0.3〜4mm程度である。これ未満の場合は、スラリー付着時に目詰まりが起こりやすくなってしまう。
【0013】
本発明に係る多孔体は、前記髭状物質が光触媒機能を持つ材料であることが好ましい。具体的には、髭状物質としては、カーボンナノチューブ及び/又はTiO2を主成分とするものであることが好ましい。TiO2は光触媒機能を有する物質として有名であるが、近年では、カーボンナノチューブ自体も光触媒機能を有するため、各々単独で用いてもよい。また、カーボンナノチューブ表面にTiO2を担持するような複合材料であってもよい。
【0014】
カーボンナノチューブは一般的な気相法で合成できる。気相法によるカーボンナノチューブの合成では、触媒としてCo、Ni、Feの微粒子を基板上に塗布後、炭化水素系ガス
を用いたCVD法によりカーボンナノチューブが生成する。従って、発泡金属自体をCo
、Ni、Fe等の材質にしておくことで、触媒金属の塗布なしに発泡金属骨格表面にカーボンナノチューブを形成することができる。このため、本発明に係る多孔体は、前記発泡金属が、Ni、Co又はFeのいずれかであるか、又はその合金であることが好ましい。
【0015】
髭状物質は上記の如く細長い形状であるから、非常に表面積が大きな材料である。このため該髭状物質自体が光触媒機能を有する場合には、極めて大きな光触媒機能効果が得られるようになる。したがって、本発明に係る多孔体はろ過フィルタに好ましく使用することができ、該ろ過フィルタは処理量が極めて優れたものとなる。
特に、カーボンナノチューブはそれ自体が光触媒機能も持つので、このような多孔体を濾過フィルタとして用いることで、光触媒機能を持つ濾過フィルタになる。さらにこのような本発明に係るろ過フィルタを公知の浄水装置に組み込むことにより、浄水装置として好ましく用いることができる。
【0016】
また、従来の光触媒であるTiO2等を生成したカーボンナノチューブの表面に析出させてもよい。TiO2はゾルゲル法等で形成することができる。このような光触媒機能を持つ本発明のろ過フィルタは、海水中のプランクトン等の微細生物を死滅させることもできるので、タンカーのバラスト排水を処理する装置にも有望である。本発明に係るろ過フィルタを組み込むバラスト排水処理装置としては、一般的な公知の装置で構わない。
さらに、カーボンナノチューブを形成することにより、大きな表面積を持たせることができるので、各種の化学反応のための触媒担体としても有望である。
【実施例1】
【0017】
(発泡金属)
直径25mm、厚さ4mm、各種平均細孔径と気孔率(表1)を持つ発泡金属を基材として用いた。
【0018】
(カーボンナノチューブ形成)
基材の発泡金属をCVD炉内に設置し、原料ガスとして用いたアセチレンを100sccmの流量で流し、温度800℃、圧力15torrで各種時間(表1)保持して、基材の骨格表面にカーボンナノチューブを形成した。
【0019】
(光触媒の担持)
pH=1.5の硝酸水溶液100ml中に、基材を浸漬した。チタン(IV)イソプロポキシド0.56gを2−プロパノール20mlに溶解し、この溶液10mlを硝酸水溶液100mlに攪拌しながら滴下した。溶液がほぼ透明になるまで攪拌を続け、最終的にTiO2
(酸化チタン)が担持した基材を得た。
TEM観察の結果、TiO2粒子はカーボンナノチューブの側面に担持されていることが分かった。また、微粒子の粒径は平均13nm、結晶構造はアナターゼ型であった。
カーボンナノチューブを形成しない基材も同様に処理した。
【0020】
(評価)
<透過性能と光触媒反応実験−1>
試料を石英製リアクターに設置した。図2のように容器の片方から濃度10ppmのトリ
クロロエチレンを含む水を導入し、別ので出口から排出しながらコンプレッサで圧力0.5MPaで循環させた。試料の片面は、出力1mW、発光波長が365nmの紫外線LE
Dが5個組み込まれたLEDユニットからの光で照射された。
トリクロロエチレンが完全に分解するまでの時間を測定した。
【0021】
結果を表1に示す。
カーボンナノチューブをコーティングすることにより、分解時間が急激に短縮した。カーボンナノチューブを形成し、光触媒を担時しない場合でも光触媒機能が確認できた。発泡金属の細孔径が小さくなるほど、透過流量は若干低下するが、光触媒機能は向上した。これは、光触媒の担持量が増大し表面積が増大するためと考えられる。また、カーボンナノチューブ形成後の気孔率が低くても、透過流量が極端に低くならないのは、カーボンナノチューブのしなる性質により、溶液の通過がそれ程阻害されないためと解される。
【0022】
【表1】

【実施例2】
【0023】
実施例1の試料No.4と装置をそのまま用いた。比較例として、カーボンナノチュー
ブを形成せずにTiO2をコーティングした金属発泡体を用いた。
(評価)
<透過性能と光触媒反応実験−2>
トリクロロエチレン水の代わりに、平均サイズ35μmの動物性プランクトンが100個/cm3の濃度で含む海水を調整し、同様に処理した。
10分後のプランクトン個数を計測した。
【0024】
結果を表2に示す。
カーボンナノチューブを形成した基板を用いると、プランクトンの死滅が促進された。これは、処理中にプランクトンがカーボンナノチューブにより補足され、光触媒との接触時間が長くなったためと考えられる。
【0025】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る多孔体の構造の一例を示す部分断面図である。
【図2】実施例において使用した評価装置の概略を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目構造を持つ発泡金属からなる多孔体であって、該発泡金属の骨格の表面に髭状物質が形成されていることを特徴とする多孔体。
【請求項2】
前記発泡金属がNi、CoまたはFeであることを特徴とする請求項1に記載の多孔体。
【請求項3】
前記髭状物質が光触媒機能を持つ材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔体。
【請求項4】
前記髭状物質がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の多孔体。
【請求項5】
前記髭状物質がTiO2を主成分とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の多孔体。
【請求項6】
前記髭状物質がカーボンナノチューブ及びTiO2を主成分とする材料からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の多孔体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一に記載の多孔体に触媒を担持することを特徴とする触媒担体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一に記載の多孔体を用いたことを特徴とするろ過フィルタ。
【請求項9】
請求項8に記載のろ過フィルタを用いたことを特徴とする浄水装置。
【請求項10】
請求項9に記載の浄水装置を用いたことを特徴とする船舶バラスト排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−138252(P2009−138252A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319065(P2007−319065)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】