説明

多孔体表面に親水性被膜を保持させることができる透水防止被膜形成剤、これを用いた透水防止被膜及び被膜積層体、並びに該被膜または該積層体を備えた部材

【課題】多孔体表面に親水性被膜を保持させつつ、該多孔体内部への水の浸透を防止できる透水防止被膜形成剤、これを用いた透水防止被膜及び被膜積層体、並びに該被膜または該積層体を備えた部材を提供する。
【解決手段】(A)撥水性シリコーンエマルション粒子、(B)反応性シリコーンレジンエマルション粒子、および(C)水、を含む常温硬化性の透水防止被膜形成剤であって、該透水防止被膜形成剤において、(A)成分および(B)成分の合計の量が0.5〜10質量%の範囲であり、(C)成分の量が80質量%以上である前記透水防止被膜形成剤;前記透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜;前記透水防止被膜と、該透水防止被膜上に設けられた光触媒被膜とからなる被膜積層体;基材と、前記透水防止被膜または前記被膜積層体とを備え、該基材の一部または全部が該透水防止被膜または該被膜積層体で被覆されている部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質基材上にも光触媒被膜等の親水性被膜が形成されることを可能とする透水防止被膜形成剤に関するものである。
【0002】
本発明の透水防止被膜形成剤の乾燥硬化物は、撥水性でありながら、光触媒等の無機物をその上に強固に保持することができる。したがって、前記乾燥硬化物からなる被膜を多孔体上に形成させ、さらにその上に光触媒を塗布し固着させることができる。これにより該多孔体内部への汚水の浸透を防止すると同時に該多孔体の表面付着汚染を防ぐこともできる。
【0003】
更に、本発明により得られる透水防止被膜は、従来のものより透明度の点でも優れており、白濁しづらい。よって、本発明の透水防止被膜形成剤を用いることで、着色された煉瓦や着色されたモルタル等の意匠性多孔体に対しても、透水防止処理と光触媒処理を同時に行うことができる。
【0004】
本発明の透水防止被膜形成剤は水を主溶媒とする液体である上、従来使用される金属化合物系の硬化触媒を添加する必要がないために取扱い性および安全性が高い。該透水防止被膜形成剤は、あらゆる多孔体上に光触媒被膜等の親水性被膜を形成させるための下地を与え得る。
【背景技術】
【0005】
主に住宅建材として用いられるガラスや外壁等の基材を対象とした各種防汚性コート剤が上市されて久しい。殊に光触媒に代表されるような親水性のコート剤は、帯電を防止する効果および汚れを降雨により洗い落とす効果が高いことから、前述の各種基材に対する施工例が多くある。
【0006】
このような親水性コート剤の成分は、多くの親水性基を有する化合物であることが多い。そのため、該コート剤をコンクリートやモルタルのような吸水性の高い素材へ直接施工した場合、その親水性によって汚水が基材の奥まで浸透してしまうため、有効な防汚作用が得られなかった。
【0007】
このような多孔体、特にコンクリートやモルタルといった無機基材に親水化処理を施すため、透水防止剤と呼ばれる、本来コンクリートの劣化防止用である薬剤を用いて“水の浸透を防止する層”を該多孔体表面に設け、その上に光触媒等の防汚コートを施工する技術が、一部で用いられ始めている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、上述の“透水防止剤”は本来、水の浸透を防ぐ目的で使用される材料であって、その被膜の表面に何かをコーティングできるように設計されていない。すなわち、多くの透水防止剤はアルキルシリコーン成分を多く含んでいるために、その被膜の表面は撥水性であり、反応性官能基を有しない。よって、該表面上に別の被膜剤を塗布しても、離型作用によって剥離してしまうことが多く、長期にわたる表面汚染の防止は期待できない。
【0009】
透水防止剤自体は、そもそも汚水の浸透を防ぐのが主な目的の材料であるために、特に汚染防止処理はされておらず、透水防止剤の被膜単独では表面の防汚作用はさほど高いものではない(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-339038号公報
【特許文献2】特許第3881318号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
すなわち、多孔体への防汚処理に係る問題とは、
1.多孔体を親水処理すれば、同時に該多孔体への汚水の染み込みを許すことになり、該多孔体が汚れる、および
2.多孔体を予め撥水処理して汚水浸透を防ぐと、更に該多孔体上に防汚コート液を施工できない、
という2点を同時に解決できないことである。斯様な問題を解決できるような下地処理液および施工法はいずれも現在のところ存在せず、解決すべき課題である。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、多孔体表面に親水性被膜を保持させつつ、該多孔体内部への水の浸透を防止できる透水防止被膜形成剤、これを用いた透水防止被膜及び被膜積層体、並びに該被膜または該積層体を備えた部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、撥水性シリコーンエマルション粒子と反応性シリコーンレジンエマルション粒子との混合液を多孔体に塗布し硬化させて得られる被膜が、該多孔体内部への水の浸透防止性に優れ、かつ親水性防汚コーティングを該多孔体の最表面にのみ定着させることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は第一に、
(A)撥水性シリコーンエマルション粒子、
(B)反応性シリコーンレジンエマルション粒子、および
(C)水
を含む常温硬化性の透水防止被膜形成剤であって、
該透水防止被膜形成剤において、(A)成分および(B)成分の合計の量が0.5〜10質量%の範囲であり、(C)成分の量が80質量%以上である前記透水防止被膜形成剤を提供する。
本発明は第二に、前記透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜を提供する。
本発明は第三に、前記透水防止被膜と、該透水防止被膜上に設けられた光触媒被膜とからなる被膜積層体を提供する。
本発明は第四に、基材と、前記透水防止被膜または前記被膜積層体とを備え、該基材の一部または全部が該透水防止被膜または該被膜積層体で被覆されている部材を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の透水防止被膜形成剤によって多孔体を処理したのちに、親水性コート液を塗布すると、多孔体の内部への水の浸透が効果的に防止されるにもかかわらず、多孔体表面のみに水膜を形成させることができる。即ち、防汚性に優れた特異的な表面状態を多孔体について維持することができ、多孔体内部への汚水の浸透を防止しつつも、多孔体表面における付着汚れを防止できる。
本発明の透水防止被膜形成剤を使用すれば、コンクリート、モルタル、煉瓦等の、吸水性の高さ故に防汚処理ができなかった基材上に、防汚性親水性コーティングを施すことができ、これらの基材の美観を維持する手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書において常温とは10〜30℃をいう。
【0017】
[(A)撥水性シリコーンエマルション粒子]
(A)成分の撥水性シリコーンエマルション粒子としては、従来知られているいずれのものも使用することができる。(A)成分のイオン性は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれであってもよい。(A)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
(A)成分の撥水性シリコーンエマルション粒子に好適に使用されうる材料としては、例えば、ジメチルシリコーン(ポリジメチルシロキサン)、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、エポキシ/ポリエーテル変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、アクリル変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、ヒドリド変性シリコーン、ヒドロキシ変性シリコーン、シラノール変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、これらの組み合わせからなる変性シリコーン、更にこれらをゴム変性した変性シリコーンなどが挙げられる。(A)成分としては、中でも特に自己架橋型アニオン性シリコーンエマルションが好適に用いられる。
【0019】
[(B)反応性シリコーンレジンエマルション粒子]
反応性シリコーンレジンエマルションとは、シリコーンレジンをエマルション化したものをいう。シリコーンレジンとは官能基変性シリコーンとアルコキシシランとが任意の割合で縮合した化合物を指す。(B)成分としては、従来知られているいずれのものも使用することができる。(B)成分のイオン性は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれであってもよい。(B)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
(B)成分の反応性シリコーンレジンエマルション粒子に好適に使用されうる材料としては、例えば、MQレジン、アルキルレジン、フェニルレジン、エポキシレジン、アミノレジン、ポリエーテルレジン、エポキシ/ポリエーテルレジン、メタクリルレジン、アクリルレジン、メルカプトレジン、ヒドリドレジン、カルボキシレジン、フッ素レジン、これらの組み合わせからなる変性レジン、更にこれらに対し、ゴム変性成分を加えたレジンなどが挙げられる。(B)成分としては、中でも特にシラノール含有ノニオン性シリコーンレジンエマルション粒子が好適に用いられる。
【0021】
[混合条件]
上記(A)成分と(B)成分との混合比は、本発明の透水防止被膜および被膜積層体の特性が得られる限り、特に制限されない。本発明の透水防止被膜形成剤において、(A)成分および(B)成分の合計の量は、0.5〜10質量%、好ましくは1〜5質量%の範囲であり、(C)成分の量は80質量%以上、好ましくは80〜99.5質量%、より好ましくは90〜99.5質量%、更により好ましくは95〜99質量%である。
【0022】
中でも、撥水性シリコーンエマルション粒子と親水性シリコーンレジンエマルション粒子とを混合することが好ましく、特に、自己架橋型アニオン性シリコーンエマルション粒子とシラノール含有ノニオン性シリコーンレジンエマルション粒子との質量比が10:90〜90:10の範囲の質量比であることが好ましい。自己架橋型アニオン性シリコーンエマルション粒子の濃度が90質量%より高い場合、極性を与えるシラノール含有ノニオン性シリコーンレジンエマルション粒子が十分量露出せず、その上に親水性コート液を施工したときの定着性が悪くなることがある。また、自己架橋型アニオン性シリコーンエマルション粒子の濃度が10質量%より低い場合、極性の高いシラノール含有ノニオン性シリコーンレジンエマルション粒子が多く、被膜がやや親水性となるために透水防止能力が低下することがある。
【0023】
[親水性コート液の塗布]
本発明の透水防止被膜の上に形成される親水性被膜を与える防汚性親水性コート液としては、従来公知のいずれのものも用いることができる。親水性コート液は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。形成された親水性被膜の表面に対する水の接触角は30°以下である。接触角が30°を超えるような親水性被膜は防汚性能が不十分の場合がある。親水性コート液としては、無機質のシリケート系の溶液が好適に使用される。無機物からなる親水性コート液から得られる親水性被膜は、有機物からなる親水性コート液から得られる親水性被膜と比較して、耐久性が高くなりやすい。
【0024】
[光触媒]
前記親水性被膜は光触媒被膜で有ってもよい。
光触媒粒子としては、従来知られているいずれのものも使用することができる。光触媒粒子は1種単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。光触媒粒子としては、例えば酸化チタン系、酸化タングステン系、酸化亜鉛系、または酸化ニオブ系の光触媒粒子等の、n型半導体である金属酸化物の結晶微粒子が使用できる。例えば、アナターゼ型の二酸化チタン(TiO2)、ルチル型の二酸化チタン(TiO2)、三酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、Gaドープ酸化亜鉛(GZO)、酸化ニオブ(Nb25)等を使用し得る。
【0025】
中でも、可視光活性の高いものとしてこれら金属酸化物の結晶内に窒素、硫黄、リン、炭素等をドーピングしたもの、又は表面に銅、鉄、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、炭素等を担持したものが好適に使用し得る。更に詳しくは、白金を担持したルチル型酸化チタン、鉄を担持したルチル型酸化チタン、銅を担持したルチル型酸化チタン、水酸化銅を担持したルチル型酸化チタン、金を担持したアナターゼ型酸化チタン、白金を担持した三酸化タングステン等が挙げられる。更に、該微粒子の一次粒子径が微細なもの、即ち一次粒径が1〜100nmの範囲、更に好ましくは1〜50nmの範囲にあるものが好適に使用される。一次粒径が100nm以下であると塗膜の透明度が低下しにくく外観を損ねにくい。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、動的光散乱法を用いた粒度分布測定装置によって求めた累積分布の50%に相当する体積基準の平均粒子径をいう。更に、光触媒性微粒子を固定するために、シリケートや非晶質チタニア等、無機系のバインダーを含んでいてもよい。
【0026】
[塗膜の形成]
本発明の透水防止被膜形成剤が塗布される基材は、被膜を形成することができる限り、特に制限されない。該基材が多孔体(多孔質基材)である場合、該多孔体は、被膜を形成することができる限り、特に制限されず、例えば、表面に直径0.05〜5mmの空孔または凹凸を有する多孔体が挙げられる。基材の材料としては、無機材料、有機材料いずれも挙げられ、無機材料には例えば、非金属無機材料および金属無機材料が包含される。これらはそれぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
非金属無機材料としては、例えばガラス、セラミック等の多孔質材料が挙げられる。これらは意匠性建築材料、フィルター材等の様々な形に製品化され得る。
また、建築の外装、内装材料として用いられる、コンクリート、軽量発泡コンクリート、煉瓦、モルタル、珪藻土、漆喰、スレート、粘土、シラスバルーン、石膏プラスターボード、木材、天然石材、紙、布のいずれであってもよい。
金属無機材料としては、例えば鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等からなる多孔体が挙げられ、これらはメッキが施されてもよいし、有機塗料が塗布されていてもよい。また、非金属無機材料又は有機材料の表面に施された金属メッキ皮膜であってもよい。
有機材料としては、例えば塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリル、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料;天然、合成若しくは半合成の繊維材料及び繊維製品、その多孔質加工品が挙げられる。これらは、網状、布状、フィルム、シート、その他の成型品、積層体などの所要の形状、構成に製品化されていてよい。
【0027】
本発明の透水防止被膜形成剤を基材に塗布するには、従来公知のいずれの方法も用いることができる。具体的には、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、印毛塗り法、ローラー法、含浸法、ロール法、ワイヤーバー法、ダイコーティング法、グラビア印刷法、インクジェット法等を利用して塗膜を基材上に形成させることができる。
【0028】
本発明の透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜はその表面に直径50nm〜1,000nmの球状の構造体を有することが好ましい。
【0029】
形成される透水防止被膜は、多孔質基材表面から1mm〜200mm程度の深さ、特には、1mm〜50mmの深さ範囲まで浸透していることが好ましい。透水防止被膜の浸透の深さが前記の範囲内であると、透水防止能力が不足しにくいため汚水が侵入しにくく、また、透水防止被膜の白色が顕在化しにくく意匠性が低下しにくい。本発明の透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜は、表面に露出している空孔の直径が0.01〜2mmである多孔体の表面に設けられたとき、該透水防止被膜が設けられた前記表面から1mm以上の深さには水を浸透させないことが好ましい。
【0030】
本発明の透水防止被膜形成剤を塗布して形成される被膜上の水接触角は、その多孔質上にて80°以上であることが好ましい。水接触角が80°以上であると、汚水が浸透しにくい。
【0031】
また、本発明の透水防止被膜形成剤を塗布して形成される透水防止被膜の透明度に関しては、この被膜の厚さが10μmであるときに、該被膜単独について測定した全光線透過率およびヘイズ率がそれぞれ80%以上および10%以下であることが好ましい。全光線透過率が80%以上、かつ、ヘイズ率が10%以下であると、被膜の白色が顕在化しにくく、基材の意匠性が低下しにくい。
【0032】
親水性被膜または光触媒被膜を形成する場合には、前記の如く多孔体上に形成された透水防止層の上に、親水性コート液または光触媒コート液を前記同様の手法によって塗布し、乾燥する。常温静置でも加熱してもよく、加熱する場合は50〜200℃の温度範囲で1〜120分間処理することが好ましく、特には、60〜110℃の温度範囲で5〜60分間処理することが好ましい。
【0033】
本発明の透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜と、該透水防止被膜上に設けられた親水性被膜とからなる被膜積層体は、表面に露出している空孔の直径が0.01〜2mmである多孔体の表面に該透水防止被膜と該表面とが接するように設けられたとき、該被膜積層体が設けられた前記表面から1mm以上の深さには水を浸透させず、水接触角が30°以下であることが好ましい。また、前記被膜積層体は、JIS K 7350-4に規定の、オープンフレームカーボンアーク灯を用いたサンシャインウェザーメータによるブラックパネル温度63±3℃、200時間の曝露試験後も水接触角が30°以下であることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの例により制限されるものではない。
【0035】
[実施例1]
自己架橋型アニオン性シリコーンエマルションとして、PolonMF56(製品名、40質量%、信越化学工業製)を用い、シラノール含有ノニオン性シリコーンレジンエマルションとして、X-52-8148(製品名、47質量%、信越化学工業製)を用いた。
両成分を質量比が表1記載のとおりとなるように(即ち、両成分の質量比が50:50となるように)混合し、総固形分濃度が3.0質量%となるように脱イオン水で希釈して、透水防止被膜形成剤を調製した。得られた透水防止被膜形成剤をシポレックス50(製品名、軽量発泡コンクリート、住友金属鉱山シポレックス製)製の基材の一部の面に50g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜が形成されたテストブロックを得た。
【0036】
[実施例2]
自己架橋型アニオン性シリコーンエマルションとして、KM-2002T(製品名、43質量%、信越化学工業製)を用い、シラノール含有ノニオン性シリコーンレジンエマルションとして、X-52-8148を用いた。
両成分を質量比が表1記載のとおりとなるように混合し、総固形分濃度が3.0質量%となるように脱イオン水で希釈して、透水防止被膜形成剤を調製した。得られた透水防止被膜形成剤をシポレックス50製の基材の一部の面に50g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜が形成されたテストブロックを得た。
【0037】
[実施例3]
実施例1と同様にして作製したテストブロックの透水防止被膜上に、親水性コート剤UG-05(製品名、0.5質量%、信越化学工業製)を25g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜と親水性被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロックを得た。
【0038】
[実施例4]
実施例2と同様にして作製したテストブロックの透水防止被膜上に、親水性コート剤UG-05を25g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜と親水性被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロックを得た。
【0039】
[実施例5]
実施例1と同様にして作製したテストブロックの透水防止被膜上に、光触媒コート剤TPX-85(製品名、0.85質量%、鯤コーポレーション製)を25g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜と光触媒被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロックを得た。
【0040】
[実施例6]
実施例2と同様にして作製したテストブロックの透水防止被膜上に、光触媒コート剤TPX-85を25g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜と光触媒被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロックを得た。
【0041】
[比較例1]
自己架橋型アニオン性シリコーンエマルションKM-2002Tを総固形分濃度が3.0質量%となるように脱イオン水で希釈して、希釈液を調製した。得られた希釈液をシポレックス50製の基材の一部の面に50g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に被膜が形成されたテストブロックを得た。
【0042】
[比較例2]
シラノール含有ノニオン性シリコーンレジンエマルションX-52-8148を総固形分濃度が3.0質量%となるように脱イオン水で希釈して、希釈液を調製した。得られた希釈液をシポレックス50製の基材の一部の面に50g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に被膜が形成されたテストブロックを得た。
【0043】
[比較例3]
市販の透水防止剤FJ-150(製品名、シリコーンエマルション系の透水防止剤、Grandex製)をシポレックス50製の基材の一部の面に50g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜を形成させた。該透水防止被膜上に、親水性コート剤UG-05を25g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜と親水性被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロックを得た。
【0044】
[比較例4]
市販の透水防止剤FJ-150をシポレックス50製の基材の一部の面に50g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜を形成させた。該透水防止被膜上に、光触媒コート剤TPX-85を25g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜と光触媒被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロックを得た。
【0045】
[比較例5]
市販の透水防止剤FJ-150と市販のコロイダルシリカ(製品名:スノーテックス、日産化学製、粒子径8-11nm、SiO2 20質量%、表1では「シリカ」と表記)とを質量比が表1記載のとおりとなるように混合し、得られた混合液をシポレックス50製の基材の一部の面に50g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜を形成させた。該透水防止被膜上に、光触媒コート剤TPX-85を25g/m2程度、スプレーコート法にて塗布し、常温にて24時間乾燥させて、前記基材の一部の面に透水防止被膜と光触媒被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロックを得た。
【0046】
[球状の構造体の有無]
親水性被膜または光触媒被膜を形成する前の透水防止被膜について走査型電子顕微鏡(製品名:S-3400NX、日立ハイテクノロジーズ製)にて表面を観察した。下記の基準で評価した結果を表1に示す。
○:直径50nm〜1,000nmの球状の構造体が観察された
×:直径50nm〜1,000nmの球状の構造体が観察されなかった
【0047】
[汚水浸透防止性の確認]
前記テストブロックの被膜を形成した面上に、メチレンブルー色素(10μmol/L)にて着色した水を滴下・静置し、乾燥後に滴下部分を切り出して着色されている深さを定規にて計測した。下記の基準で評価した結果を表1に示す。
○:前記深さが1mm未満
×:前記深さが1mm以上
【0048】
[透水防止被膜の水接触角の測定]
親水性被膜または光触媒被膜を形成する前の透水防止被膜について水接触角を接触角計CA-A(製品名、協和界面科学製)を用いて常温にて測定した。結果を表1に示す。
【0049】
[全光線透過率およびヘイズ]
親水性被膜または光触媒被膜を形成する前の透水防止被膜について全光線透過率およびヘイズ率をデジタルヘイズメーターNDH−20D(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。厚さ10μmの透水防止被膜を作製し測定に用いた。結果を表1に示す。
【0050】
[防汚作用の維持]
透水防止被膜と親水性被膜または光触媒被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロックについて、前記と同様にして水接触角を測定した。下記の基準で評価した結果を表1に示す。
○:水接触角が30°以下
×:水接触角が30°超
また、透水防止被膜と光触媒被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロック中の光触媒被膜上にメチレンブルーの1.0mmol/L水溶液を塗布し、60℃で乾燥させることで該光触媒被膜表面に充分量のメチレンブルーを吸着させた。その後、このようにしてメチレンブルーを吸着させた光触媒被膜に紫外線(波長:190〜400nm、1mW/cm2)または可視光(波長400〜600nm、1mW/cm2)を照射し、光触媒評価チェッカーPCC-2(商品名、ULVAC理工社製)を用い、メチレンブルー吸着面における青色色素の吸光度(波長664nm)の減少を測定した。下記の基準で評価した結果を表1に示す。
○:測定開始10分後の前記吸光度の減少量×103の値が1以上
×:測定開始10分後の前記吸光度の減少量×103の値が1未満
【0051】
[曝露試験]
透水防止被膜と親水性被膜または光触媒被膜とからなる被膜積層体が形成されたテストブロックに対して、JIS K 7350-4の規定に準じて、オープンフレームカーボンアーク灯を用いたサンシャインウェザーメータによるブラックパネル温度63±3℃、200時間の曝露試験を行った。曝露試験後に前記と同様にして水接触角を測定した。下記の基準で評価した結果を表1に示す。
○:水接触角が30°以下
×:水接触角が30°超
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)撥水性シリコーンエマルション粒子、
(B)反応性シリコーンレジンエマルション粒子、および
(C)水
を含む常温硬化性の透水防止被膜形成剤であって、
該透水防止被膜形成剤において、(A)成分および(B)成分の合計の量が0.5〜10質量%の範囲であり、(C)成分の量が80質量%以上である前記透水防止被膜形成剤。
【請求項2】
(A)成分が自己架橋型アニオン性シリコーンエマルション粒子であり、
(B)成分がシラノール含有ノニオン性シリコーンレジンエマルション粒子である
請求項1に係る透水防止被膜形成剤。
【請求項3】
自己架橋型アニオン性シリコーンエマルション粒子とシラノール含有ノニオン性シリコーンレジンエマルション粒子との質量比が10:90〜90:10の範囲である請求項2に係る透水防止被膜形成剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に係る透水防止被膜形成剤であって、
該透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜はその表面に直径50nm〜1,000nmの球状の構造体を有する前記透水防止被膜形成剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に係る透水防止被膜形成剤であって、
該透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜は、表面に露出している空孔の直径が0.01〜2mmである多孔体の表面に設けられたとき、該透水防止被膜が設けられた前記表面から1mm以上の深さには水を浸透させず、水接触角が80°以上である前記透水防止被膜形成剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に係る透水防止被膜形成剤であって、
該透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜は、厚さが10μmであるとき、全光線透過率が80%以上、かつ、ヘイズ率が10%以下である前記透水防止被膜形成剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に係る透水防止被膜形成剤であって、
該透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜と、該透水防止被膜上に設けられた親水性被膜とからなる被膜積層体は、表面に露出している空孔の直径が0.01〜2mmである多孔体の表面に該透水防止被膜と該表面とが接するように設けられたとき、該被膜積層体が設けられた前記表面から1mm以上の深さには水を浸透させず、水接触角が30°以下である前記透水防止被膜形成剤。
【請求項8】
前記被膜積層体は、JIS K 7350-4に規定の、オープンフレームカーボンアーク灯を用いたサンシャインウェザーメータによるブラックパネル温度63±3℃、200時間の曝露試験後も水接触角が30°以下である請求項7に係る透水防止被膜形成剤。
【請求項9】
親水性被膜が光触媒被膜である請求項7または8に係る透水防止被膜形成剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の透水防止被膜形成剤の硬化物からなる透水防止被膜。
【請求項11】
請求項10に記載の透水防止被膜と、該透水防止被膜上に設けられた光触媒被膜とからなる被膜積層体。
【請求項12】
基材と、請求項10に記載の透水防止被膜または請求項11に記載の被膜積層体とを備え、該基材の一部または全部が該透水防止被膜または該被膜積層体で被覆されている部材。
【請求項13】
前記基材が表面に直径0.05〜5mmの空孔または凹凸を有する多孔体である請求項12に係る部材。
【請求項14】
前記基材がコンクリート系材料、モルタル系材料、または漆喰系材料を含む請求項12または13に係る部材。

【公開番号】特開2013−35996(P2013−35996A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175329(P2011−175329)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】