説明

多孔性を有する3層積層シート及びその製造方法、並びに3層積層シートからなる蓄電素子用セパレータ

【課題】シート強度性及び生産性を向上させる。
【解決手段】 熱可塑性の繊維を主たる構成成分とする不織布を中芯材として、その上層及び下層として微細径セルロース繊維を主たる構成成分とする多孔性繊維層を備えた3層積層シートにおいて、ガーレ法で測定された3層積層シートの透気度が1000sec/100ml以下であり、3層積層シートの目付が2g/m2〜15 g/m2の範囲に在り、3層積層シートの厚さが5μm〜40μmの範囲にある。上層の多孔性繊維層を(P)、下層の多孔性繊維層を(Q)、不織布を(S)とし、P,Q,Sから構成される3層積層シートを(P/S/Q)としたとき、(P)及び(Q)を、あらかじめ準備された(S)と(P/S/Q)の状態に重ね合わせ、重ね合わせた状態で圧着一体化する3層積層シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性を有する合成繊維を主成分として構成された不織布を中芯材として、その上層及び下層に微細径セルロース繊維を構成成分とする多孔性の繊維層を積層、一体化させて得られる3層積層シート及びその製造方法、並びにこの3層積層シートを高通気性耐水バリヤー、蓄電素子用のセパレータに適用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電池、コンデンサー、キャパシターなどの蓄電素子用のセパレータには安全性、コンパクト化、長寿命化等の観点から高度な性能が求められている。
【0003】
特にリチウム2次電池用のセパレータにはハイブリッド自動車、電気自動車、高性能蓄電池等の普及に伴い、セルサイズの大型化、電池の総重量ダウンのための大幅なコンパクト化、大幅なコストダウン、さらには耐熱、安全性の改良に関して緊急な対応が求められている。
【0004】
このリチウム2次電池用のセパレータは、電解質を均一に保持し、正極、負極の両面に密着して電極間を確実に絶縁するという基本機能が求められる。また、他の機能として、電池の単位容量を上げるため40μm以下という薄層化と、高速組み立てに耐える加工性、そして多回充放電に伴う金属デンドライトの発生による物理的損傷に耐える強度、さらには極地の極低温、熱帯砂漠の極高温に耐える耐候性、寸法安定性も求められる。この様な多くの機能を達成するには、単体、単層の構成では難しく、多層化や他種機能材との複合化がされたセパレータが望ましい。
【0005】
従来からこのリチウム2次電池用のセパレータとしてはハイポア(旭化成株式会社の商標)に代表されるようなオレフィン系の多孔膜が使用されてきた。近年では、耐熱性の向上の必要から、耐熱性に優れ、電気化学的に安定性のあるセルロース素材をセパレータ素材として利用する開発研究がおこなわれている。このようなセルロース素材としては、特に超微細径をもつミクロフィブリル化セルロース(MFC)を高圧ホモジナイザーによりさらに微細化を進めたナノセリッシュ(ダイセル商標)、酢酸菌の培養、分離、精製によって得られるバイオセルロース等のセルロースナノファイバーの開発が行われている。
【0006】
上記のような超微細径をもつセルロース繊維から薄層化したセパレータを得ようとすると下記のような2つの大きな問題に直面する。
(1)微細径をもつセルロース繊維は水和性が巨大で、水素結合性が強力のためその水和状態のままシート形成するといわゆるパーチメント化したフィルム状シートとなる。その結果、多孔構造は消滅し、もはやイオンの透過性はほとんどなくなる。
(2)セルロース分子の水酸基を疎水性官能基で置換したり、アルコール類による溶媒置換等により水素結合の形成をブロックして多孔構造を維持したままのシートを得ようとすると、自着性を喪失し必要なシート強度を維持することが出来ない。
【0007】
これらの問題の解決手段としては、たとえば特許文献1、2及び3に提案されているように、水素結合の度合いを化学的にコントロールする試みがある。このような方法により連続的に薄層化シートを製造しようとすると、条件設定が難しくプロセスも複雑になるので、商業化生産に際しては著しく不利である。
【0008】
他の手段としては本発明者らが提案した特許文献4、5、6及び7に示したような、不織布を強度支持体として、多孔構造をもつ超微細径セルロース繊維層と不織布を積層してシートを得る方法である。 特許文献4においては微細セルロース層を成型する支持体として疎水性シートたとえば不織布を使用し、積層した状態で脱溶媒,乾燥を終ったのちに、その支持体不織布を剥離して取り除き、微細セルロースのみからなる薄層を得る方法が記述されている(たとえば実施例―1)が、支持体不織布を適切に選択して微細セルロース繊維層と不織布を積層一体化した状態で利用するほうがより合理的と思われる。特許文献5、6及び7はこのような考え方に基づく微細セルロース繊維層と不織布を積層一体化したシートに関するものである。この方法は条件設定もしやすくプロセスも比較的簡単で商業化しやすい利点があるが、反面セルロース繊維層にも不織布にもある程度以上の厚さと目付が必要となり薄層化、超薄層化が難しい。特に不織布は少なくとも15g/m2を超えないとセルロース繊維層の乾燥収縮によりセルロース繊維層側に大きくカールしてしまう。セルロース繊維層も単層のため10g/m2以上でないとピンホールの発生を防止するのが難しい。したがって積層体の目付も25 g/m2以上の厚いシートになり、厚さも100μm前後になって、リチウム2次電池用のセパレータとしては使用には難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-49797号公報
【特許文献2】特開2008-274461号公報
【特許文献3】特開2010-90486号公報
【特許文献4】特開平10-248872号公報
【特許文献5】特開2007-230139号公報
【特許文献6】特開2010-240513号公報
【特許文献7】国際公開第2010/044169号パンフレット(WO2010/044169号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上説明したように、従来の蓄積素子用セパレータ、特にリチウム2次電池用のセパレータは種々の課題があり、その改善が望まれていた。
【0011】
本発明の典型的な目的は、シート強度性及び生産性に優れた3層積層体シート、及び商業的に連続生産可能な製造方法及びその3層積層体シートからなる蓄積素子用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、極めて高機能の「新規な3層積層シート」を完成させた。そして、繊維間空隙の多い,不織布を芯材にして、その上層と下層に多孔性繊維層を積層、一体化して得られる40μm以下の「新規な3層積層シート」をリチウム2次電池用のセパレータとして使用すると、必要な機能を十分発揮すると同時に耐熱性が改良され、さらには大幅なコンパクト化が達成されることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明に係わる3層積層シートは、熱可塑性の繊維を主たる構成成分とする不織布を中芯材として、その上層及び下層として微細径セルロース繊維を主たる構成成分とする多孔性繊維層を備えた3層積層シートにおいて、
ガーレ法で測定された3層積層シートの透気度が1000sec/100ml以下であり、
3層積層シートの目付が2g/m2〜15 g/m2の範囲に在り、
3層積層シートの厚さが5μm〜40μmの範囲にある3層積層シートである。
【0014】
本発明に係わる蓄電素子用セパレータは、上記本発明に係わる3層積層シートにより形成された蓄電素子用セパレータである。
【0015】
本発明に係わる製造方法は、上記本発明に係わる3層積層シートの製造方法であって、前記上層の多孔性繊維層を層(P)、前記下層の多孔性繊維層を層(Q)、前記不織布を布(S)としたとき、前記層(P)及び層(Q)を、あらかじめ準備された前記布(S)の両面に重ね合わせ、重ね合わせた状態で圧着一体化する3層積層シートの製造方法である。
また本発明に係わる3層積層シートは、熱可塑性の繊維を主たる構成成分とする不織布を中芯材とし、その上層及び下層として、微細径セルロース繊維を主たる構成成分とする第1及び第2の多孔性繊維層を備えた3層積層シートにおいて、
前記第1及び第2の多孔性繊維層の構成繊維が前記不織布の繊維間空隙に入りこんだ領域を、前記不織布の前記第1及び第2の多孔性繊維層との界面から延びた少なくとも一部に有し、該領域において、前記第1及び第2の多孔性繊維層の構成繊維が前記不織布と接合状態になり一体化されている3層積層シートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係わる3層積層体シートによれば、シート強度性及び生産性を向上させることができる。また本発明に係わる製造方法によれば、商業的に連続生産可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係わる3層積層シートの代表的な構造を示す構成図である。
【図2A】比較例として示した2層積層状態の1例を示す模式図である。
【図2B】単に積層、接合した状態を示す3層積層の構成を示す模式図である。
【図2C】上下の多孔性繊維層が不織布層に噛みこんだ3層積層の構成を示す模式図である。
【図2D】上下の多孔性繊維層が相互に近接し薄層化が進行し3層積層の構成を示す模式図である。
【図3】不織布として4g/m2とより薄く目開きの大きい材料を選択して積層・一体化した3層積層シートの例を示す模式図である。
【図4】1例となる中芯不織布の「繊維間目開き」の状態を示すSEM写真である。
【図5A】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の一実施形態のフローを示す図である。
【図5B】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の他の実施形態のフローを示す図である。
【図5C】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の他の実施形態のフローを示す図である。
【図5D】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の他の実施形態のフローを示す図である。
【図6A】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の他の実施形態のフローを示す図である。
【図6B】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の他の実施形態のフローを示す図である。
【図7】加圧度を3 MPa と10 MPa の2水準にしたときの、熱圧着温度と厚さの変化を示す特性図である。
【図8】加圧度を3 MPaと10 MPaの2水準にしたときの、熱圧着温度と透気度の変化を示す特性図である。
【図9】図5Aで示した湿潤状態で積層するプロセスを実現する製造装置を具体的に示す図である。
【図10】図5Bで示した湿潤状態で得られるRP/S(またはS/QR)とあらかじめ用意された乾燥状態で供給されるQR(またはRP)を積層するプロセスを実現する製造装置を具体的に示す図である。
【図11】本発明に係わる3層積層シートを用いた円筒型のリチウム2次電池の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係わる典型的な実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
1. 3層積層体の構成
図1は本発明に係わる実施形態の3層積層シートの代表的な構造を示す図である。図1に示すように、熱可塑性繊維(イ)から構成されている中芯不織布(S)の上、下に、微細径セルロース繊維(ロ)からなる上層多孔性繊維層(P)と下層多孔性繊維層(Q)とが配置されている。このように3層を積層して一体化したシートが構成される。上下の多孔性繊維層(P)、(Q)と中芯不織布(S)とは単に3層に重ねたものではなく、少なくとも図示するように多孔性繊維層(P)、(Q)が中芯不織布(S)に一部噛みこむように存在しており、これが積層・一体化の意味の1例である。この構成では、上層及び下層の多孔性繊維層の構成繊維が中芯不織布の繊維間空隙に入りこんだ領域を、中芯不織布の上層及び下層の多孔性繊維層との界面から延びた一部に有し、該領域において、上層及び下層の多孔性繊維層の構成繊維が中芯不織布と接合状態になり一体化されている。
【0020】
本実施形態の代表的な構造は図1に示したように3層にはなっているものの、構成成分は多孔性繊維層と不織布との2成分である。2成分系であれば2層の積層がまず考えられるが、2層の積層ではなぜ不具合になるのかその点を明らかにする。
【0021】
本実施形態の3層積層シートの積層状態について、図2、図3の模式的構造を用いて、さらに詳しく説明する。
【0022】
図2Aは比較例として示した2層積層状態の1例を示す図である。2層積層状態とした場合には、以下のような不都合を生ずる。
(1)多孔性繊維層は強親水性で、一方の熱可塑性繊維から構成されている不織布は疎水性で、両者は湿度や加熱によって伸縮性能が大きく違うため、バイメタルの原理で必ずどちらかの方向にカールし、また表面に小皺の発生も多くなリ、さらに表面剥離も起こりやすくなる。
(2)2層積層状態では基材不織布が支持体として強度の維持をする必要があるため、不織布の目付も相対的に大きくなり、通常20g/m2前後が必要になる。
(3)多孔性繊維層が1層の存在のみでピンホールの発生を防止するためには繊維層の目付も相対的に大きくする必要があり、必然的に透気抵抗は高くならざるを得ない。通常10g/m2前後が必要になり、透気度も1000sec/100mlを超えることになる。
【0023】
図2Bは3層積層の構成であるが、単に積層、接合した状態を示す模式図である。カールの発生もなくなり、多孔性繊維層が2層構成となるためピンホールの発生を防止する効果も期待できるが、以下のような不都合を生ずる。
(1)一体化が不十分のため層間剥離を起こしやすい。
(2)不織布層の立体的空間がそのまま残るため厚さが大きくなる。
(3)多孔性繊維層/不織布空間層/多孔性繊維層のような層の配置が生じ、リチウム2次電池用のセパレータとして使用すると、電解質溶液が浸透しやすい不織布空間層にかたよりやすく、イオンの移動が不均一になり、部分短絡を起こしやすくなる。したがって、不織布空間層の存在をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0024】
図2Cの3層積層シートは、図1で示した構造とほぼ同じで上下の多孔性繊維層が不織布層に噛みこみ不織布空間層は大幅に減少している。
【0025】
図2Dは、図2Cの3層積層シートの不織布層を構成する熱可塑性繊維の可塑化温度を目安に熱圧着したものであるが、不織布空間層はほとんど消滅し、上下の多孔性繊維層が相互に近接し大幅に薄層化が進行する。熱可塑性繊維としてたとえばPE/PET芯鞘複合繊維のような易溶融性樹脂成分を表層にもつ繊維を採用する。このような繊維を採用すると、その成分の溶融温度以上で熱圧着処理を行うといわゆる「溶結化現象」が起こり薄層化と強度補強がさらに効果的に働くが、一方では通気性を阻害する場合もあるので、条件の選択が重要である。「溶結化現象」については本発明者らが提案した特許文献、特開平8-216316号公報、特開平9-76388号公報を参照されたい。このような熱圧着効果の詳細については後述する。
【0026】
図3は、不織布として4g/m2とより薄く平面的な空隙つまり目開きの大きい材料を選択して積層・一体化した3層積層シートの例を示す。上層の多孔性繊維層と下層の多孔性繊維層が、不織布との接触面において相互に前記不織布の繊維間空隙を貫通して、上層構成繊維と下層構成繊維が混和、接合状態になり一体化した状態を示している。図3の構造では図2A〜2Dで説明したような不織布空間層は全く存在出来なくなる。なお、上層構成繊維と下層構成繊維が不織布にすべて入り込む場合もある。この構成では、上層及び下層の多孔性繊維層の構成繊維が中芯不織布の繊維間空隙に入りこんだ領域を、中芯不織布の厚さ方向の全域にわたって有し、該領域において、上層及び下層の多孔性繊維層の構成繊維が中芯不織布と接合状態になり一体化されている。
【0027】
図2D、図3で説明したような3層積層シートは、ガーレ法で測定された3層積層シートの透気度が1000sec/100ml以下であり、3層積層シートの目付が2g/m2〜15 g/m2の範囲に在り、3層積層シートの厚さが5μm〜40μmの範囲にあることが重要である。3層積層シートの透気度が1000sec/100mlを超えると、気体やイオンの透過が少なくなって製品としての用途が限定され、特に蓄電素子用セパレータとして用いた場合には単位面積当たりのイオンの透過量が少なくなって電池としての効率が下がってくる。3層積層シートの目付が2g/ m2より小さくなると、均一な状態のシートをつくることが難しくなり、破壊しやすく、取り扱いが難しくなる。3層積層シートの目付が15 g/m2を超えると、透気度が1000sec/100ml以下とするのが難しくなり、厚さも40μm以下とするのが難しくなる。3層積層シートの厚さが5μmより小さくなると、均一な状態のシートを作るのが難しく、破壊しやすく取り扱いも難しくなる。3層積層シートの厚さが40μmを超えると、シートを搭載する製品の容積が大きくなり、またシートの生産性が悪くなる。また、図2D、図3で説明したような3層積層シートを得るには、望ましい多孔性繊維層の形成、適性のある不織布の選択、積層の方法の案出が重要である。以下にその詳細を説明する。
【0028】
2. 上層及び下層を構成する多孔性繊維層
(ア)多孔性繊維層とは
上層及び下層を構成する多孔性繊維層は、いずれも微細径セルロース繊維を主たる構成成分としている。セルロースを使用する理由は、以下の通りである。
(1)セルロースは熱溶融せず300°Cを超えても安定で、高い耐熱性と化学的安定性を持っている材料である。
(2)セルロースは純度の高いものが安価にしかも大量に入手可能な材料である。
【0029】
微細径繊維を使用する目的は、繊維層の内部表面積を大きくして、出来るだけ小さな孔をできるだけ多く生成・保有させることにある。その意味では構成繊維の径は可能な限り細いほうが良いことになる。本実施形態で表現する微細径セルロース繊維は、繊維径にある範囲の分布を持つものであり、平均繊維径(平均繊維直径)で5nm以上1μm以下である繊維状のものが好適に用いられる。
【0030】
微細径セルロース繊維を調製する原料としては、β―1,4-グルカン構造多糖類の基本化学構造を持つものであれば、植物由来、動物由来、そして化学的に修飾されたセルロース誘導体等多種類のものが適用可能である。本実施形態で好ましく使用している微細径セルロース繊維は、繊維状のセルロースを機械的に破砕して得られるMFC(ミクロフィブリル化セルロース)と呼称される群である。これにはコットンリンターパルプ、木材パルプ、溶媒紡糸レーヨン(リヨセル)短繊維等を原料にして、ビーター、リファイナー等で予備処理後にスパーグラインダーや高圧ホモジナイザーでさらに微細化を進めたもので、慣用的に300nm〜1μmレベルのものをMFCと表現し、比較的容易に作りやすくコストも相対的に安価である。このMFCについては色々なところで生産や試作が行われているが、代表的なものとしては「セリッシュ」(ダイセル化学工業社製)、「S-MFC」(日本吸収体技術研究所製)が知られる。10nm〜300nmレベルの超微細サイズのMFCはセルロースナノファイバーと表現して、たとえば「ナノセリッシュ」(ダイセル化学工業社製)が知られる。セルロースナノファイバーを製造するにはより高いエネルギーが必要で、相対的にコストも高くなる。MFCとセルロースナノファイバーとは、前述のように繊維径には大きな違いがあるが繊維長にはほとんど差はなく、平均繊維長は略0.05mm〜1mmの範囲にある。
【0031】
セルロースナノファイバーの他の好ましい例としては、微生物を培養して収穫するバイオセルロース(BC)と呼称される群がある。代表的なものは酢酸菌(Acetobactor Xylinum等)を糖蜜等の炭素源に添加、撹拌、培養して、菌細胞外にセルロースナノファイバーを生成させ、分離、精製して得られる。多数の企業、研究施設で試作が行われているが、代表的なものとしては、味の素社が生産するバイオセルロースがよく知られている。性能に優れ本実施形態の目的には適しているが、一方腐敗しやすくて扱いにくく、精製コストも高くなるので、MFCベースのナノファイバーに比較して大幅なコストアップとなる。したがって商業的使用に当たっては、添加剤を多くして使用量を下げるような工夫が求められる。
【0032】
本実施形態に使用されるバイオセルロースやMFC系の微細径セルロース繊維の性質として特筆すべきことは、含水媒体中では水和ゲルとして挙動し、その水和性の強さが大きな特徴である。この「水和性の強さ」を、本願の明細書では繊維1グラム当たりの水和量を「抱水量」として性能比較に使用している。表1にMFCとセルロースナノファイバーの特性比較を示した。
【0033】
【表1】

【0034】
表中明確な違いは「抱水量」の差として現れている。この水和ゲルは含水媒体中で強い非ニュートン粘性を示す。なおMFC系の微細径セルロース繊維の「抱水量」の定義及び粘度特性については、文献:紙パ技協誌53(5)、637(1999)を参照されたい。
【0035】
(イ)多孔性繊維層の構成
多孔性繊維層の構成を決める重要な要素は厚さと透気度である。層の厚さは繊維層の目付と密度で決められる。多孔性繊維層は密度が低く圧着度合いによって厚さが微妙に変化するので注意が肝要である。本実施形態の3層積層シートは上下2層の多孔性繊維層からなる薄層を備えている。このような薄層を不織布の上下に形成するには精密な成形法が採用されるが、以下はコーティング法を採用した例で説明する。ここで1層ごとの厚さと目付で本実施形態の多孔性繊維層に必要な条件を規定すると
・厚さは少なくとも15μm以下にしないと3層積層シートとして必要な薄さを確保するのが難しくなる、好ましくは8μm〜2μmである。2μmより薄くなると均質な層を形成するのが難しい。ここで、本実施形態では多孔性繊維層が中芯不織布に噛みこまれているので、中芯不織布に入りこんだ部分及び入りこんでいない部分を含めて多孔性繊維層の厚さが規定される。
・目付は少なくとも5g/m2以下にしないと所定の透気度を持つ厚さを確保するのが難しく、0.5 g/m2より小さくなるとコーティング時にかすれが生じやすくなり、ピンホールの発生の危険性が大きくなる。好ましくは4g/m2〜1g/m2である。
【0036】
(ウ)多孔性繊維層中への微細径セルロース繊維の配分
上記のような条件に合わせるためには、構成成分の性能に合わせた微細径セルロース繊維の配分が重要になる。本実施形態では、MFCとセルロースナノファイバーとが微細径セルロース繊維を構成する主要成分である。微細径セルロース繊維がMFC100%であっても良いが、この場合は繊維間隔が相対的に広がるので、ピンホールの発生を避けるためには目付は高めに設定する必要がある。そのため(イ)項で規定した厚さと目付の上限界に近づく。
【0037】
微細径セルロース繊維がセルロースナノファイバー100%であっても良いが、この場合は繊維間隔が相対的に狭くなるので、多孔性繊維層が緻密になりすぎ通気抵抗が大きくなる。そこで所定の透気度を確保するためには目付を低めに設定する必要がある。結果として(イ)項で規定した厚さと目付の下限界に近づく。
【0038】
したがって、MFCとセルロースナノファイバーを混合して用いるのが好ましい。
・微細径セルロース繊維中のセルロースナノファイバーの配合量
セルロースナノファイバーの配合量は少なくとも20 wt%以上、好ましくは30 wt%以上であり、さらに好ましくは40 wt%〜70 wt%である。20 wt%より少ないとセルロースナノファイバーの効果を出すのが難しい。70 wt%を超えると組織が密になりすぎる。
・微細径セルロース繊維中のMFCの配合量
MFCの配合量は30 wt%〜80 wt%、好ましくは30 wt%〜60 wt%である。30 wt%より少ないとMFCの効果を出すのが難しい。80 wt%を超えると組織が粗になりすぎる。
・多孔性繊維層中のセルロースナノファイバーとMFCの合計配合量
セルロースナノファイバーとMFCは多孔性繊維層を構成する主成分であり、合計量で少なくとも40 wt%以上配合されていることが望ましい。より好ましくは50 wt%以上である。
【0039】
(エ)多孔性繊維層への他の繊維成分の添加
多孔性繊維層は微細径セルロース繊維を主成分としているが、それ以外の成分の大部分を占めるのは、次項で述べる多孔化促進剤の添加である。さらに量的には制限されるが、この微細径セルロース繊維と混和可能なセルロース以外の繊維を添加することも機能改良手段の1つである。それらの繊維種は混和性、多孔性の維持、厚さへの影響を少なくすることから必然的に細く、短い繊維になる。0.2d〜1.5dの繊度で繊維長が1mm〜6 mm程度の化・合繊繊維で、たとえば製紙用の用途に使用されるPE,PP,PETとそれらの複合繊維、PVA,EVA等の繊維であり、多孔性繊維層の強度強化、水素結合強度の調節等を目的として添加使用される。これらの繊維成分の選択に当たっては、多孔繊維層の耐熱性に影響を与えないような配慮が必要で、添加量も好ましくは10wt%以下にすべきである。
【0040】
(オ)水素結合に基づく自着性のコントロールと多孔化促進剤の添加
水和機能の大きい前記微細径セルロース繊維から構成される多孔性繊維層は、脱水、乾燥に伴う繊維相互の近接と水素結合の形成により強固な自着性を示す反面、表面全体がパーチメント化してセロファン状のフィルムになり多孔性を喪失してしまう。化学的原理により水素結合形成を防ぐには次のような手段が考えられる。
・微細径セルロース繊維を、アルコール類のような有機溶剤含有媒体に分散したスラリーをコート剤としてシート形成し、脱溶媒、乾燥により水素結合形成を防ぎ、多孔性繊維層を形成する。
・微細径セルロース繊維を水系媒体中に分散し、その分散液から抄紙の様な方法でシート形成し、その含水状態で有機溶媒置換したのち脱溶媒、乾燥により水素結合形成を防ぎ、多孔性繊維層を形成する。
・微細径セルロース繊維をそのOH基に反応・配位するような疎水性・油性物が添加されている水系媒体中に分散し、その分散液から抄紙の様な方法でシート形成し、中和、乾燥により水素結合形成を防ぎ、多孔性繊維層を形成する。
【0041】
これらの手段は水素結合形成を防ぐ方法としては効果的であるが、溶媒の回収、添加剤の回収、排水処理、排気処理等が必要になることから、設備投資が大きくなる問題点を抱えている。
【0042】
他の手段は、微細径セルロース繊維相互間に微細な物理的スペースを設けて、繊維相互間の近接と水素結合形成による接合を防ぐ方法で、そのスペーサー効果により多孔性能を維持、促進するところから、そのスペーサー材料を「多孔化促進剤」と称することにする。そのような「多孔化促進剤」とは次のようなものである。
・シリカ、アルミナ、雲母、タルク、ゼオライトの様な電気絶縁性のある無機物微粒子、好ましくはシリカ、アルミナ等の金属酸化物微粒子で、少なくともその平均粒径が5μm以下、好ましくは2μm以下であるような微粉体、微粒子であって、それを微細径セルロース繊維に対して10 wt%〜150 wt%添加、好ましくは30 wt%〜100 wt%添加する。10 wt%より少ないと効果が少なく、150 wt%を超えると多孔性繊維層の形成が不均質になる。微粉体、微粒子は乾燥状態で添加されても、サスペンジョン状態で添加されてもよい。
・ポリエチレン、ポリプロピレン等の疎水性、電気絶縁性の有機微粒子であって、少なくともその平均径が5μm以下、好ましくは2μm以下であるような微粉体、微粒子であって、それを微細径セルロース繊維に対して20 wt%〜100 wt%添加する。20 wt%より少ないと効果が少なく、100 wt%を超えると多孔性繊維層の形成が不均質になる。微細径セルロース繊維を水系媒体中あるいは有機溶剤含有媒体に分散して分散液を作りシート形成する場合には、その分散液に微粉体、微粒子はサスペンジョン、エマルジョンの形で添加される。
【0043】
水素結合の形成ブロックによって多孔性繊維層を形成する場合には、組織が緻密になるためポーラスサイズは相対的に小さくなる。そのため1,000sec/100ml以下の透気度を安定に保つためには、各繊維層の厚さをたとえば10μm以下、目付を3g/m2以下と薄くしなければならなくなり、ピンホールの発生危険も増加する。
【0044】
多孔性繊維層に多孔化促進剤を添加する系では、組織が疎になる方向でポーラスサイズは相対的に大きくなる。そのため1,000sec/100ml以下の透気度を安定に保つための各繊維層の厚さをたとえば10μm〜15μm、目付を最大5g/m2と厚くすることができて生産し易く、ピンホールの発生危険も低下する。
【0045】
さらに望ましい条件は、水素結合の形成ブロックと云う化学的手段と、多孔化促進剤を添加すると云う物理的手段の双方を組み合わせることである。この組み合わせ効果によってより容易に多孔性構造を持つ繊維層を形成できる。本実施形態では、たとえば実施例2及び3に記述されているように、化学的手段として微細径セルロース繊維を分散する媒体に有機溶剤高含有液を選び、物理的手段として多孔化促進剤にシリカ微粒子を添加して、組み合わせ効果を発揮するようにしている。
【0046】
(カ)上層多孔性繊維層と下層多孔性繊維層
上層と下層とは全く同じ繊維構成(材料)と同じ重量(目付)であってもよい。上層と下層とは全く同じ繊維構成をもつが重量(目付)が異なってもよい。さらに上層と下層とはその繊維構成及び重量(目付)の両方とも異なるものであってもよい。
【0047】
3. 中芯材となる不織布の役割とその要求性能
(ア)中芯材となる不織布の役割
・前記不織布は3層積層シートの断面中心部近傍に存在する芯材として、3層積層シート全体の強度の大部分を担う強度維持体として働く。
・前記不織布は上層及び下層の多孔性繊維層のほぼ全面と密着して、或いは接合して多孔性繊維層の支持体となる。
・支持体としての役割をより効果的に発揮するためには、上層及び下層の多孔性繊維層と不織布層とがより強い一体化関係を結ぶことが肝要であり、そのためには圧着により不織布層に繊維層が入り込む状態にするとともに、不織布表面に易熱溶融性を賦与して、不織布構成繊維と繊維層を構成する微細径セルロース繊維相互間を融着一体化することがより望ましい。
・多孔性繊維層が微細径セルロース繊維の分散スラリーのコーティングによって形成される場合には、前記不織布はコーティング基材として利用され、前記不織布の表面に多孔性繊維層が形成される。
【0048】
(イ)中芯材となる不織布の厚さをできるだけ薄くするための工夫
本発明が目的とするような極薄の3層積層シートを得るためには、第1成分である多孔性繊維層とともに第2成分である不織布も厚さをできるだけ薄くすることが望まれる。不織布の厚さは、原材料として使用する時の厚さも大事であるが、さらに重要であるのは、3層積層時に一体化されて薄くなり、さらに熱圧着により極薄になることである。もともと不織布は繊維間の拘束が少ないため、無荷重下では50μm以下でも十分薄いといえるが、荷重下(20g/cm2)では少なくとも40μm以下、好ましくは2μm〜30μmとするのがよい。2μmより小さくなると取り扱いが難しくなる。すなわち不織布の厚さは、原材料としては少なくとも40μm以下、好ましくは2μm〜30μmのものを用いるが、最終的に3層積層シートとなった状態での不織布成分の厚さは、一体化と熱圧着によりそれよりさらに薄くなっていることになる。
・不織布構成繊維として繊度が細い繊維の使用
繊維のデニールはできるだけ小さいことが望ましいが、少なくとも2.0デニール以下、好ましくは1.5デニール以下、さらに好ましくは1.0デニール以下の繊維を使用することが望ましい。生産性やウエブの形成を容易にするため、複合繊維、分割繊維を利用したり、メルトブローン、スプレイ紡糸、エレクトロニックスピン等の特殊成形法を採用することも推奨される。
・目付を可及的に低くする。
前記不織布の目付は少なくとも10 g/m2以下であり、好ましくは8 g/m2〜1 g/m2、さらに好ましくは6 g/m2〜2 g/m2である。1.0 g/m2より小さい目付の不織布は製造可能であっても取り扱いが難しい。
・開口状もしくは「繊維間の目開き」があること
前記中芯となる不織布は、多孔性繊維層の多孔性に影響したり阻害したりしないような(勿論イオンの通過性にも影響しないような)、充分大きな「繊維間の目開き」を有していることが求められる。
・「繊維間の目開き」のさらなる効果と意味
不織布の「繊維間の目開き」は、別の表現をすれば十分な繊維間空隙のある組織であって、上層及び下層の多孔性繊維層が相互にこの「目開き」を通過して結合できる大きさも求められる。また比較的にデニールの大きい繊維、例えば1.5デニール前後の比較的太い繊維から構成されている不織布でも、開口加工を施したり、ネット状あるいはメッシュ状の「繊維間の目開き」のある組織にすると、相対的に目付を下げることができ、上層及び下層の多孔性繊維層と不織布層とがより強い一体化関係を結ぶことにも寄与する。
・「繊維間の目開き率」の表現方法
前記中芯となる不織布もある厚さを持つ立体的構造を持っているが、極めて薄く、上下の繊維の重なりも少ないため平面として近似させ、走査型電子顕微鏡(SEM)の表面写真から次の式により「繊維間目開き率」を算出した。

【0049】
図4に1例となる中芯不織布の「繊維間目開き」の状態をSEM写真で示す。
・本実施形態の中芯となる不織布に必要とされる繊維間目開き率(%)
少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%〜90%である。50%より小さくなると中芯となる不織布としては目が詰まりすぎる。90%を超えると形態が不安定で取扱うのが難しくなる。
【0050】
(ウ)中芯材となる不織布の構成繊維成分
不織布の構成繊維成分は、熱可塑性の繊維を主たる構成成分としている。主たる成分の意味は接着剤、滑剤及び分散剤等の添加成分を除いたもので、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上を占めている成分という意味で使用している。
・中芯材となる不織布は、湿潤時の寸法安定性を求められ、素材の耐水性が求められるので、各種の合成樹脂繊維に代表されるような疎水性の熱可塑性の繊維を使用することが望ましい。
・中芯材となる不織布は、使用時にはたとえバルキーで厚みがあっても、熱圧着により容易に変形、極薄化することが求められ、そのためには熱可塑性の繊維を使用することが求められる。
・さらには繊維の一部に易熱溶融性を賦与することも積層状態の一体化促進に寄与する。そのためには熱可塑性の成分に加えて易熱溶融成分も共存させた複合繊維や分割繊維を使用することが望ましい。易熱溶融成分だけの繊維たとえばPE,PPの単体不織布では、熱溶融処理により不織布組織が崩壊し熱収縮を起こすとともに、全体の骨格も消滅し寸法安定性が保たれなくなる。しかしたとえばPE樹脂:125℃とPET 樹脂:265℃と溶融温度差が140℃あるようなPE/PETの複合繊維からなる不織布をPE樹脂の溶融温度である130℃前後で熱圧着すると、PET繊維の骨格だけは残して表面がフィルム化した強靭で寸法安定性があり、しかも目開きを残した薄層シートが得られる。さらにPET樹脂の溶融温度である260℃前後になると全体が透明フィルム化して目開きは消滅する。表2には、加圧度3MPaの条件下で温度を常温から280℃まで変化させた時の、PE/PETの複合繊維からなる不織布の表面変化と厚さの変化を追跡した結果を示した。
【0051】
【表2】

【0052】
このような性状を持つ不織布を中芯にして上層及び下層の多孔性繊維層と積層して得られる3層積層シートを130℃前後で熱圧着すると、上層と下層の多孔性繊維層が不織布との接触面において相互に前記不織布の繊維間空隙を貫通して、上層構成繊維と下層構成繊維が混和、融着、接合状態になり一体化されている、いわゆる「溶結化」された極薄の3層積層シートが得られるのである。
【0053】
(エ)中芯材となる不織布の具体的な例
・具体的な例としては、中芯材となる不織布がEVA,PE,PP,PET樹脂等をその原料とする単独繊維の連続フィラメント、EVA/PE、PE/PP,PP誘導体/PP,PE/PET,PET誘導体/PET等の、易溶融性樹脂成分を表層にもつ複合繊維の連続フィラメント、から構成されるスパンボンド、メルトブローンあるいはスパンボンドとメルトブローンの複層体であるSM(スパンボンド・メルトブローン)、SMS(スパンボンド・メルトブローン・スパンボンド)、SMMS(スパンボンド・メルトブローン・メルトブローン・スパンボンド)等の、いわゆる「スパンメルト不織布」と総称される不織布のグループが望ましい1例である。
・さらに具体的な他の例としては、中芯材となる不織布が繊度1.7デニール以下、繊維長20mm以下、好ましくは1.0デニール以下、繊維長10mm以下のEVA,PE,PP,PET樹脂等をその原料とする単独繊維、EVA/PE,PE/PP,PP誘導体/PP,PE/PET,PET誘導体/PET等の、易溶融性樹脂成分を表層にもつ複合繊維、を主成分として水分散液を調製し、場合によっては結合剤や粘度調整剤を添加してシートを成形する、いわゆる「湿式不織布」であることが望ましい他の1例である。
【0054】
4. 多孔性繊維層の生成と3層積層構造の形成へのステップ
原理的に表現すれば、中芯となる不織布の上及び下に多孔性繊維層を重ねサンドイッチ状に積層すれば本実施形態の3層積層シートが成形できるはずである。
【0055】
中芯となる不織布は既製品の材料である。ところが「微細径セルロース繊維から構成される多孔性繊維層」において、「多孔性繊維層」それ自身は不安定で、脆弱で、扱いにくいため、「既製の材料」として存在するものではなく、積層構造の形成過程の中で生成され、分離されずにそのまま直接3層積層シートに組み込まれる。あるいは分離されて「多孔性繊維層シート」として使用する場合には、保護シートと組み合わせた合体状態で取り扱われるのも本実施形態の特徴の一つである。また原料となる「微細径セルロース繊維」も、単離された一本一本の繊維として存在するものではなく、含水し、しかも水和した繊維の集合体として得られるものであって、この繊維の集合体は、水単独あるいは有機溶媒を含む含水媒体で希釈して得られる、粘凋な分散液として扱われるのが一般的である。したがって「微細径セルロース繊維」は、本実施形態でも特に注釈をつけない限り、下記のように含水媒体に1wt%以下の濃度で存在する繊維分散液として取り扱うものとする。
【0056】
(ア)「微細径セルロース繊維から構成される多孔性繊維層」の形成の具体的ステップ例
・微細径セルロース繊維としてたとえば「MFC」(日本吸収体技術研究所製)を用意し、濃度0.5 wt%のエタノール/水(60/40)系分散スラリーを調製する。
・基材及び保護シートとしてSMS(13g/m2)を用意し、上記分散液をアプリケーターに充填して開口クリアランスを1.5mmに設定し、SMS不織布上にコーティングを施すと、湿潤状態のSMS/微細径セルロース繊維層の合体シートが得られる。このシートを緊張下で乾燥して保護シート(R1又はR2とする)付の3.5g/m2の多孔性繊維層が形成された。これを、上層多孔性繊維層(Pとする)と保護シート(R1)の結合体なので(R1P)と表記する。この上層多孔性繊維層は下層多孔性繊維層(Qとする)も同じ組成であるので、下層多孔性繊維層(Q)と保護シート(R2)の結合体なので(Q R2)と表記して下層多孔性繊維層として使用することもできる。このように保護シートと合体した多孔性繊維層はR1P、QR2のいずれかの形で3層積層シート形成の要素シートとして利用される。
・保護シート(R1, R2)も3層積層シートの製造に際しては重要な役割を果たす。保護シートとして使用される不織布は、多孔性繊維層と密着するが離れやすい不織布である必要があり、そのため表面が平滑で、疎水性で、しかも薄くて十分な液透過性を有するものが選択される。具体的な例としては、PP,PET樹脂等をその原料とする単独繊維の連続フィラメントから構成されるスパンボンド、メルトブローンあるいはスパンボンドとメルトブローンの複層体等の、いわゆる「スパンメルト不織布」と総称される不織布のグループが望ましい1例である。あるいは柔軟で細かなナイロンメッシュ等も、望ましい他の1例である。
【0057】
(イ)中芯材となる不織布(Sとする)へのコーティングによる中芯不織布/多孔性繊維層の積層シート(P/SあるいはS/Qとする)の形成の具体的ステップ例
・中芯材となる不織布は、たとえば約1.2デニールのPE/PET複合繊維フィラメントから構成されたスパンボンド不織布(ユニチカ製「エルベス」)で、厚さ40μm、目付7g/m2、50〜70メッシュのネット状目開きを持っている。この繊維を構成しているPE成分の軟化温度は約110℃、熱溶融温度は125℃、PET成分の軟化温度は約240℃、熱溶融温度は265℃である。
・「MFC」の濃度0.5wt%のエタノール/水(60/40)系分散スラリーを用意し、分散液をアプリケーターに充填して開口クリアランスを1.5mmに設定し、スパンボンド不織布上にコーティングを施すと、湿潤状態のスパンボンド不織布/微細径セルロース繊維層の合体シートが得られる。このシートを緊張下で乾燥すると中芯材となる不織布と結合した3.5g/m2の多孔性繊維層が形成された。これを中芯不織布/多孔性繊維層の積層シート(P/S)あるいは(S/Q)とする。このような中芯不織布/多孔性繊維層の積層シートはP/S、S/Qのいずれかの形で3層積層シート形成の要素シートとして利用される。
【0058】
(ウ)湿潤状態で積層することを特徴とする3層積層シートの形成法
図5Aに示すように、前記(ア)で得られた、湿潤状態のSMS/微細径セルロース繊維層(Q R2)の繊維層面と、前記(イ)で得られた、湿潤状態のスパンボンド不織布/微細径セルロース繊維層合体シート(P/S)に保護シート(SMS)が設けられた(R1P/S)のスパンボンド不織布面とを重ね合わせ(ステップS11,S12)、湿潤状態で圧着、一体化し(ステップS13)、緊張下で脱溶媒、乾燥し(ステップS14)、最後に上下に設けられた保護シート(SMS)を除去することによって、図3で表現したような厚さが35μm前後のごく薄の3層積層シート(P/S/Q)が得られる(ステップS15)。実際の製造工程では、図5Aのフローシートで示すように保護シート(SMS)を上下に設けることが望ましいが、上下の一方に保護シートを設けてもよい。
【0059】
(エ)湿潤状態の合体シートにあらかじめ作成しておいた多孔性繊維層を積層する3層積層シートの形成法
図5Bに示すように、前記(イ)で得られた、湿潤状態にあるスパンボンド不織布/微細径セルロース繊維層合体シート(P/S)に保護シート(SMS)が設けられた(R1P/S)を用意し(ステップS11)、また前記(ア)で得られた、湿潤状態のSMS/微細径セルロース繊維層(Q R2)を用意する(ステップS12)。湿潤状態のSMS/微細径セルロース繊維層(Q R2)を脱溶媒、乾燥し(ステップS16)、乾燥した下層多孔性繊維層(Q R2)を得る(ステップS17)。湿潤状態にある保護シート(SMS)が設けられたスパンボンド不織布/微細径セルロース繊維層合体シート(RP/S)のスパンボンド不織布面に、乾燥した下層多孔性繊維層(Q R2)の多孔性繊維層面を重ね合わせ、圧着、一体化し(ステップS13)、緊張下で脱溶媒、乾燥し(ステップS14)、最後に保護シート(SMS)を除去することによって、図3で表現したような厚さが35μm前後のごく薄の3層積層シート(P/S/Q)が得られる(ステップS15)。実際の製造工程では図5Bのフローシートで示すように保護シート(SMS)は上下に設けることが望ましいが、上下の一方に保護シートを設けてもよい。
【0060】
図5Cに示すように、湿潤状態にあるSMS/微細径セルロース繊維層(R1P)又は(QR2)(ステップS12)と、乾燥したS/Q、P/Sに保護シート(SMS)が設けられた保護シートが設けられた中芯不織布/多孔性繊維層の積層シート(S/QR2)又は(R1P/S)(ステップS11, S18, S19)とを組み合わせて, 圧着、一体化し(ステップS13)、緊張下で脱溶媒、乾燥し(ステップS14)、最後に保護シート(SMS)を除去することによって、3層積層シート(P/S/Q)が得られる(ステップS15)。
【0061】
(オ)乾燥状態で加熱圧着により一体化することを特徴とする3層積層シートの形成法
図5Dに示すように、保護シートと合体した乾燥状態の多孔性繊維層(R1P)、(QR2)のいずれかと(ステップS12, S16, S17)、保護シートと合体した、乾燥状態の中芯不織布/多孔性繊維層の積層シート(S/QR2)、(R1P/S)のいずれかと(ステップS11, S18, S19)を組み合わせて,熱圧着、一体化し(ステップS13’)、最後に保護シート(SMS)を除去することによって、3層積層シート(P/S/Q)が得られる(ステップS15)。
【0062】
(カ)中芯不織布を最後に挟み込むことにより一体化することを特徴とする3層積層シートの形成法
前記図5A〜図5Dに示す層積層シートの形成法では、いずれも中芯不織布/多孔性繊維層の積層シート(P/S)あるいは(S/Q)の形で要素シートの一つとして形成していたが、図6A及び図6Bに示すように、ステップS20として中芯不織布(S)は後から多孔性繊維層の間に挟み込むこともできる。すなわち、保護シートと合体した(R1P)又は(QR2)を用意し(ステップS21)、脱溶媒、乾燥する(ステップS22)。その後、乾燥した(R1P)又は(QR2)(ステップS23)と、湿潤状態にあるSMS/微細径セルロース繊維層(R1P)又は(QR2)(ステップS12)又は乾燥状態にあるSMS/微細径セルロース繊維層(R1P)又は(QR2)(ステップS17)とを積層一体化する時に、中芯不織布(S)を間に挟み込む方法である。
【0063】
図6Aは、保護シートと合体した(R1P)あるいは(QR2)の一方を乾燥状態に、他方は湿潤状態で積層するフローシートであり、図6Bは両方とも乾燥状態で積層する場合のフローシートである。図6A及び図6Bにおいて図5A〜図5Dと同一工程については同一符号を付する。
【0064】
図5Dで示す乾燥状態の(R1P)、(QR2)のいずれかと、乾燥状態の(S/QR2)、(R1P/S)のいずれか、あるいは図6Bで示す乾燥状態の(R1P)、(QR2)のいずれかと、中芯不織布(S)及び乾燥状態の(QR2)、(R1P)のいずれかとを単に重ね合わせて、保護シートのついた3層積層状態にしても一体化シートにはならない。これを一体化するには、図5D及び図6BのステップS13’のフローシートで示すように熱と圧力を利用した熱圧着が必要である。この熱と圧力が適切に選択されないと、フィルム化して通気性を喪失するか、厚過ぎて使用のできないものになる。この熱圧着プロセスは、図5A〜図5Dのいずれの積層方式を採用しても最終の仕上げ工程として必要であり、下記により詳しく説明する。
【0065】
(キ)一体化するために必要な「溶結温度」と、薄層化するために必要な圧力について
一体化するためには、中芯不織布の上下両表面と上層と下層の多孔性繊維層が接合されなければならない。その結合剤として働くのがこの例に於いては不織布を構成する複合繊維の表面に存在するPE成分である。したがって必要な温度とは、このPE成分を可塑化しさらに溶融させる130℃前後の温度で、それを「溶結温度」と表現する。必要な圧力とはこの「溶結温度」で3層を密着状態に導く圧力である。
・熱圧着時における温度、圧力と薄層化の関係
図7は加圧度を3 MPa と10 MPa の2水準にしたときの、熱圧着温度と厚さの変化を調べたものである。加圧度に応じて3層積層シートは薄くなるが、これは多孔性繊維層が圧縮されるためで、後述するが、透気度と加圧度はトレードオフの関係にあるので注意が肝心である。加圧度については少なくとも30MPa以下、好ましくは20MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa〜10MPaの範囲である。30MPa以上になると適正な透気度レベルの維持が出来なくなるし、0.1MPa以下になると均質なプレスが難しくなる。温度による厚さ変化を観察すると120℃付近から急に薄化が進み260℃を超えるとさらに急に薄化が進んでいることがわかる。これはそれぞれ不織布成分であるPEとPETの溶解温度に相当する。したがって溶結加工を効果的に行うには120〜130℃の範囲で加圧度を低めに設定して行うのが望ましい。しかし透気度とのバランスを考えて加圧度をより高くすることが可能であれば、比較的容易に20μm以下にすることが出来る。
【0066】
260℃を超えてPETの溶解温度以上で加圧度を高くすると、外観がフィルム状に変化し透気度の急上昇をもたらす。
【0067】
表2は、前記したように、使用した中芯布織布単独での熱圧着よる表面状態及び厚さの変化を表したものである。3層積層シートの厚みの変化には、中芯布織布の熱圧着よる変化も影響していることが分かる。
・熱圧着時における温度、圧力と透気度の関係
図8は加圧度を3 MPaと10 MPaの2水準にしたときの、熱圧着温度と透気度の変化を調べたものである。加圧度に応じて3層積層シートの透気度は上昇するが、これは多孔性繊維層が圧縮されるためで、透気度と加圧度はトレードオフの関係にあるので注意が肝心である。温度による透気度変化を観察すると120℃付近から急に透気度の上昇が進み、260℃付近を超えるとさらに急に透気度上昇が進んで行くことがわかる。この温度はそれぞれ不織布成分であるPEとPETの溶解温度に相当する。したがって溶結加工を効果的に行うには、易溶融成分がPEの場合は、130℃を超えない範囲で加圧度を低めに設定して行うのが望ましい。130℃を超えると、本発明の目標である透気度レベル1000sec/100ml以下を維持することが難しくなる。260℃付近を超えるPETの溶解温度に相当する温度で熱圧着されると5000sec/100ml以上まで急上昇するので、イオンの透過がストップする。この原理をいわゆるイオンの「シャットダウン効果」として蓄電素子の安全性の賦与に応用することも可能である。「シャットダウン効果」を安定に発揮させるためには、10000sec/100ml以上の透気度を賦与する必要がある。
【0068】
易溶融成分を持つ複合繊維から構成された中芯不織布について説明したが、PE/PPやPP誘導体/PPのように、易溶融成分とコア成分との軟化及び溶融温度差が小さくなると好適加熱範囲は狭くなるので、条件設定に当たっては注意が必要である。特に単独成分繊維の場合は、溶融温度で処理するとフィルム化が進みすぎたり収縮を起こしたりする危険が大きくなるので、薄層化効果は少なくなるが、溶融温度で処理するのではなく、軟化温度を対象に圧着温度を決めるようにする。たとえばPP単独繊維の場合は140〜150℃、PET単独繊維の場合は240〜250℃の範囲が選択される。
【0069】
5. 3層積層シートの製造方法
本実施形態の40μm以下の超薄で、透気度1000sec/100ml以下の3層積層シートを連続的に製造するプロセスについて図9、図10を用いて説明する。
図9は、図5Aで示した湿潤状態で積層するプロセスを実行する製造装置を示す図で、次のユニット工程を含むように構成されている。
【0070】
101-1,101-2は前記微細径セルロース繊維を分散媒体中に混合、分散した分散スラリーの供給装置で、たとえば0.5wt%濃度のMFCがエタノール/水(60/40)系媒体に分散されたスラリーがこのスラリー供給装置から供給される。
【0071】
102は第1の保護シート(R)を巻き出して第1走行ネットコンベアー100-1へ供給する装置で、保護シート(R)としてはたとえばPP樹脂製のSMS不織布が供給される。
【0072】
103は前記走行ネットコンベアー100-1上で第1の保護シート(R)にプリコート溶剤をプリコートする装置で、プリコート剤としてはたとえばエタノール/水(40/60)の混合溶媒が使用される。
【0073】
104は前記走行ネットコンベアー100-1上でプリコートされた第1の保護シート(R)に前記分散スラリーを所定の厚さにコーティングを施す装置で、ここではロールコーターを例示しているが、スロットコーター、グラビアコーター等適切なコーティング装置を採用すればよい。
【0074】
105-1は前記走行ネットコンベアー100-1上で第1の保護シート(R)上にコーティングされた微細径セルロース繊維マットから所定の量の分散媒体を除去し、含溶媒状態のシート(QR)あるいは(RP)を成形する装置である。ここでは真空を利用したサクシヨンボックスがネットコンベアー下に設置され、真空度に応じて分散媒体が除去される。
【0075】
106は中芯材となる不織布(S)の巻き出しと、第2走行ネットコンベアー100-2への供給装置であり、107は前記走行ネットコンベアー100-2上で不織布(S)にプリコート溶剤をプリコートする装置である。
【0076】
108は前記走行ネットコンベアー100-2上でプリコートされた不織布(S)に前記分散スラリーを所定の厚さにコーティングを施す装置であり、105-2は前記走行ネットコンベアー100-2上で不織布(S)上にコーティングされた微細径セルロース繊維マットから所定の量の分散媒体を除去する装置である。
【0077】
109はその上方から第2の保護シート(R)を微細径セルロース繊維マット上に供給し、繊維マット表面を被覆一体化し、ロール圧着を経て含溶媒状態のシート(RP/S)あるいは(S/QR)を成形する装置である。
【0078】
110は第1走行ネットコンベアー100-1上の含溶媒状態のシート(QR)あるいは(RP)と第2走行ネットコンベアー100-2上の含溶媒状態のシート(RP/S)あるいは(S/QR)とをプレスロール圧着を経て合体、接合してシート(RP/S/QR)を成形する装置である。
【0079】
111はシート(RP/S/QR)を圧着一体化したのちに乾燥・脱溶媒する装置であり、112はシート(RP/S/QR)から2枚の保護シート(R)を除去し、シート(P/S/Q)を得る装置である。
【0080】
このような工程で得られたシート(P/S/Q)は、通常別ラインとして設けられた仕上げ工程で、常温下あるいは加熱下でプレスを施し厚さの微調整、表面仕上げそして欠点チェック等を行って最終製品とするが、詳しい説明は割愛する。
【0081】
図10は前記した図5Bで示した湿潤状態で得られるシートRP/S(またはS/QR)(図5BではR1P/S(またはS/QR2)として示している)とあらかじめ用意された乾燥状態で供給されるQR(またはRP)を積層するプロセスフローシートある。図9における、装置102で、保護シート(R)を巻き出して第1走行ネットコンベアー100-1へ供給する工程から、装置105-1で含溶媒状態のシート(QR)あるいは(RP)を成形する工程を、あらかじめ製造されている乾燥シートQR(またはRP)を供給する装置114置き換え、装置113で、ロール状の乾燥シート(QR)あるいは(RP)を巻き出して、含溶媒状態のシート(RP/S)あるいは(S/QR)とプレスロール圧着を経て合体、接合し、含溶媒状態のシート(RP/S/QR)を成形する。図10のプロセスで用いる装置は装置113,114を除き同じなので同一符号を付して説明を省略する。
【0082】
図10を用いて説明した工程で得られたシート(P/S/Q)は、通常別ラインとして設けられた仕上げ工程で、常温下あるいは加熱下でプレスを施し厚さの微調整、表面仕上げそして欠点チェックを行って最終製品とする。なお図9、図10のいずれにおいても2枚の保護シートを同時に取り除いているが、1)2枚の保護シートをつけたまま巻き取り、そのままプレス加工、ヒートプレス加工等の仕上げ加工を行った後に、保護シートを最後に取り除く場合もある。2)また予備プレス工程で1枚の保護シートを除去し、片側には保護シートをつけた状態でプレス加工を行った後のこりの保護シートを除去し(P/S/Q)の状態で、ヒートプレス加工を行う方法もおこなわれる。
【0083】
図5Cで示した湿潤状態で得られるシートQR(またはRP)を、あらかじめ用意された乾燥状態で供給されるシートRP/S(またはS/QR)と積層するプロセスフローシートは、図9における装置106から装置109を用いた工程をあらかじめ製造されている乾燥シートRP/S(またはS/QR)に置き換えたものであるので、製造プロセスの説明は割愛するが、図5B(図10)、図5C、図5Dで示したプロセスは、図5A(図9)のプロセスのように2つのコーティングステーションがいらないので、設備投資コストは大幅に少なくて済むというメリットもある。
【0084】
本実施形態は3層構造体製品に関する発明であるが、製造の中間工程で得られるシートRP/S(またはS/QR)から保護シートRを除去してシートP/S(またはS/Q)の2層構造体製品を、同じく製造の中間工程で得られるシートQR(またはRP)から保護シートRを除去して、微細セルロース層の単層シートQ (またはP)からなる製品も調製することもできることも付け加えておく。
【0085】
6. 実施例
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0086】
本実施例の中での各物性評価は、以下の方法で測定した。
・繊維径
繊維径は、微細径セルロース繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、写真上の繊維径を20本以上計測して、その撮影倍率を換算した上で平均繊維径を算出した。
・繊維長
繊維長は、繊維長測定機(カヤニー社製「FS-200」)を用いて測定した。測定した繊維長は質量加重平均繊維長である。
・シートの厚さ
JIS L-1085に準拠して、厚さ測定器(尾崎製作所製「FFA-12」)を用いて、シートの任意の個所10点を測定し、その平均値を求めた。
・透気度
JIS P-8117: 2009に準拠して、ガーレ法で空気100mlが透気する時間を測定した。ガーレ法を用いた測定においては、B形のガーレ試験機を用いた。ガーレ試験機法により測定されたデータを用いて下式により、ISO透気度を計算することができる。
P=(135.3)/t P:ISO透気度[μm/(Pa・s)]
t:空気100mlが透過する時間の平均値(s)
【0087】
実施例1
1.)原料となる材料の準備
A)微細径セルロース繊維の用意
下記の性能を有する固形分濃度7wt%の含水状態のMFC(日本吸収体技術研究所製)を用意する。

平均繊維径 : 500 nm
抱水量 : 38 ml/g

B)中芯不織布の用意
約1.2デニールのフィラメントから形成された下記性状のPE/PET複合繊維スパンボンド不織布(ユニチカ社製)を用意する。

目付 : 7 g/m2
厚さ : 40 μm
繊維間目開き率 : 65 %
繊維成分 : 鞘成分PE 溶融温度125℃
芯成分PET 溶融温度265℃
C)保護シートの用意
目付13 g/m2のPP製SMS不織布(Avgol社製)を用意する。
2)多孔性繊維層の形成
図5Aのフローシートに沿った手順で3層積層シートを作製する。
A)微細径セルロース繊維の分散スラリーの調製
・前記MFCを、ホモミキサーを用いてエタノール/水(60/40)の混合溶媒中に分散し、0.5wt%濃度の分散スラリーを調製する。なおこの分散スラリーはアスピレータによる真空脱泡処理をしておく。
B)分散スラリーの保護シートへのコーティング
・ハンドコーターとして、薄層クロマト試験板を製作する時のシリカゲル塗工用アプリケーターを使用する。
・水平ガラス板上に敷いた前記保護シートであるPP製SMS不織布(R)に、エタノール/水(60/40)のプリコート液をアプリケーターを用いてプリコートする。
・続いてアプリケーターの開口クリアランスを1.5mmにセットし、前記0.5wt%濃度微細径セルロース繊維の分散スラリーを充填して所定量のコーティングをする。
・コーティング後の保護シートはそのまましばらく静置して、余剰の溶媒を除き湿潤状態の(QR)を得る。
C)分散スラリーの中芯不織布へのコーティング
・B)の保護シートの場合と同じ手順で、中芯不織布のPE/PET複合繊維スパンボンド不織布(S)に前記微細径セルロース繊維の分散スラリーを所定量のコーティングし、余剰の溶媒を除き湿潤状態の(P/S)を得る。
D)3層積層化とウェットプレス
・B)で作製した保護シート上の微細径セルロース繊維層の上に、C)で作製した微細径セルロース繊維をコーティングした中芯不織布を重ね合わせ、さらにもう1枚、最上層に新たな保護シートであるSMS不織布(R)を重ね合わせ、湿潤状態の(RP/S/QR)を得る。
・重ね合わされた積層シートの両面をアクリルプレートで挟み、約10g/cm程度の荷重をかけてウェットプレスを施す。
E)脱溶媒、乾燥
・乾燥過程での過剰な収縮を抑えるため、積層シートをアクリルプレートにクリップで固定して、60〜80℃の温風で乾燥する。
F)保護シートの除去
・乾燥された積層シートから両面の保護シートを除去し、一体化した3層積層シート(P/S/Q)を取り出す。得られた3層積層シートの厚さは39μmであった。
G)熱プレス処理
・得られた3層積層シートを表面テフロン(登録商標)加工を施したステンレスプレートに挟んで、130℃×3MPa×5分の設定条件で熱プレスを施し、厚さ28μmの蓄電素子用セパレータを得た。
3)得られた蓄電素子用セパレータの性状
本実施例で得られた3層積層シートの性状を表3に記す(実施例2、3で得られた3層積層シートの性状も含む)。
【0088】
【表3】

【0089】
4)リチウム2次電池用セパレータとしてのテスト結果
本発明で得られた3層積層シートをリチウム2次電池用セパレータとしてテストした時の、リチウム2次電池の構成を表4に、セパレータとしての評価結果を表5に記す。
【0090】
【表4】

【0091】
【表5】

【0092】
この3層積層シートについては、専門家による評価によると、20,000Hzの交流インピーダンスは高目に出ているが他の特性は基準値をクリヤーするものであり、リチウム2次電池用セパレータとして機能するものであるとの評価を受けた。
【0093】
実施例2
1).原料となる材料の準備
A)微細径セルロース繊維の用意
実施例1で用意したのと同じMFC(日本吸収体技術研究所製)と、下記性能を有する固形分濃度10wt%の含水状態のバイオセルロース(味の素社製)を用意する。

平均繊維径 : 30 nm
抱水量 : 80 ml/g

B)多孔化促進剤の用意
多孔化促進剤として、平均粒径2μm、固形分濃度20wt%の湿式法微粉末シリカの水分散スラリー(水澤化学社製)を用意する。
C)中芯不織布の用意
繊度0.5デニール、繊維長5mmのPET樹脂の単独繊維からから形成された下記性状のPET繊維湿式不織布(廣瀬製紙社製)を用意する。

目付 : 5 g/m2
厚さ : 17 μm
繊維間目開き率 : 70 %
繊維成分 : PET 溶融温度265℃
D)保護シートの用意
目付13 g/m2のPP製SMS不織布(Avgol社製)を用意する。
2)多孔性繊維層の形成
実施例1と同様に、図5Aのフローシートに沿った手順で3層積層シートを作製する。
A)微細径セルロース繊維の分散スラリーの調製
・前記MFC、バイオセルロース及びシリカを、それぞれの固形分配合が1:1:1(シリカ添加量は微細セルロース繊維に対して50wt%)になるように、ホモミキサーを用いてエタノール/水(80/20)の混合溶媒中に分散し、0.45wt%濃度の分散スラリーを調製する。その後この液にアスピレータによる真空脱泡処理をして塗工用分散スラリーとする。
B)分散スラリーの保護シートへのコーティング
・水平ガラス板上に敷いた前記保護シートであるPP製SMS不織布(R)に、エタノール/水(80/20)のプリコート液をアプリケーターを用いてプリコートする。
・続いてアプリケーターの開口クリアランスを1.5mmにセットし、前記0.45wt%濃度微細径セルロース繊維の分散スラリーを充填して所定量のコーティングをする。
・コーティング後の保護シートはそのまましばらく静置して、余剰の溶媒を除き湿潤状態の(QR)を得る。
C)分散スラリーの中芯不織布へのコーティング
・B)の保護シートの場合と同じ手順で、中芯不織布のPET繊維湿式不織布(S)に前記微細径セルロース繊維の分散スラリーを所定量のコーティングし、余剰の溶媒を除き湿潤状態の(P/S)を得る。
D)3層積層化とウェットプレス
・B)で作製した保護シート上の微細径セルロース繊維層の上に、C)で作製した微細径セルロース繊維をコーティングした中芯不織布を重ね合わせ、さらにもう1枚、最上層に新たな保護シートであるSMS不織布(R)を重ね合わせ、湿潤状態の(RP/S/QR)を得る。
・重ね合わされた積層シートの両面をアクリルプレートで挟み、約10g/cm程度の荷重をかけてウェットプレスを施す。
E)脱溶媒、乾燥
・乾燥過程での過剰な収縮を抑えるため、積層シートをアクリルプレートにクリップで固定して、60〜80℃の温風で乾燥する。
F)保護シートの除去
・乾燥された積層シートから両面の保護シートを除去し、一体化した3層積層シート(P/S/Q)を取り出す。表3に示すように、得られた3層積層シートの厚さは22μm、透気度は65sec/100mlであった。
G)熱プレス処理
・得られた3層積層シートを表面テフロン加工を施したステンレスプレートに挟んで、240℃×3MPa×5分の設定条件で熱プレスを施し、厚さ15μm、透気度115sec/100mlの蓄電素子用セパレータを得た。
【0094】
実施例3
1)原料となる材料の準備
A)微細径セルロース繊維の用意
実施例2で用意したのと同じ、固形分濃度10wt%の含水状態のバイオセルロース(味の素社製)を用意する。
B)多孔化促進剤の用意
多孔化促進剤として、平均粒径2μm、固形分濃度20wt%の湿式法微粉末シリカの水分散スラリー(水澤化学社製)を用意する。
C)中芯不織布の用意
繊度0.5デニール、繊維長5mmのPE/PP複合繊維からから形成された下記性状のPE/PP繊維湿式不織布(廣瀬製紙社製)を用意する。

目付 : 3 g/m2
厚さ : 13 μm
繊維間目開き率 : 83 %
繊維成分 : 鞘成分PE 溶融温度125℃
芯成分PP 溶融温度165℃
D)保護シートの用意
目付13 g/m2のPP製SMS不織布(Avgol社製)を用意する。
2)多孔性繊維層の形成
実施例1と同様に、図5Aのフローシートに沿った手順で3層積層シートを作製する。
A)微細径セルロース繊維の分散スラリーの調製
・バイオセルロース及びシリカを、それぞれの固形分配合が1:1(微細セルロース繊維に対するシリカの添加量は100wt%)になるように、ホモミキサーを用いてイソプロパノール/水(75/25)の混合溶媒中に分散し、0.6wt%濃度の分散スラリーを調製する。その後この液にアスピレータによる真空脱泡処理をして塗工用分散スラリーとする。
B)分散スラリーの保護シートへのコーティング
・水平ガラス板上に敷いた前記保護シートであるPP製SMS不織布(R)に、イソプロパノール/水(75/25)のプリコート液をアプリケーターを用いてプリコートする。
・続いてアプリケーターの開口クリアランスを1.2mmにセットし、前記0.6wt%濃度微細径セルロース繊維の分散スラリーを充填して所定量のコーティングをする。
・コーティング後の保護シートはそのまましばらく静置して、余剰の溶媒を除き湿潤状態の(QR)を得る。
C)分散スラリーの中芯不織布へのコーティング
・B)の保護シートの場合と同じ手順で、中芯不織布のPET繊維湿式不織布(S)に前記微細径セルロース繊維の分散スラリーを所定量のコーティングし、余剰の溶媒を除き湿潤状態の(P/S)を得る。
D)3層積層化とウェットプレス
・B)で作製した保護シート上の微細径セルロース繊維層の上に、C)で作製した微細径セルロース繊維をコーティングした中芯不織布を重ね合わせ、さらにもう1枚、最上層に新たな保護シートであるSMS不織布(R)を重ね合わせ、湿潤状態の(RP/S/QR)を得る。
・重ね合わされた積層シートの両面をアクリルプレートで挟み、約10g/cm程度の荷重をかけてウェットプレスを施す。
E)脱溶媒、乾燥
・乾燥過程での過剰な収縮を抑えるため、積層シートをアクリルプレートにクリップで固定して、60〜80℃の温風で乾燥する。
F)保護シートの除去
・乾燥された積層シートから両面の保護シートを除去し、一体化した3層積層シート(P/S/Q)を取り出す。表3に示すように、得られた3層積層シートの厚さは18μm、透気度は84sec/100mlであった。
G)熱プレス処理
・得られた3層積層シートを表面テフロン加工を施したステンレスプレートに挟んで、1300℃×3MPa×5分の設定条件で熱プレスを施し、厚さ13μm、透気度176sec/100mlの蓄電素子用セパレータを得た。
3)得られた蓄電素子用セパレータの性状
本発明で得られた3層積層シートの性状を表3に記す。
4)リチウム2次電池用セパレータとしてのテスト結果
本発明で得られた3層積層シートをリチウム2次電池用セパレータとしてテストした時の、リチウム電池の構成を表4に、セパレータとしての評価結果を表5に記す。
【0095】
この3層積層シートについては、専門家による評価によると、リチウム2次電池用セパレータとして機能するものであるとの評価を受けた。
【0096】
以下、本発明に係わる3層積層シートをセパレータとして用いた、蓄電素子としてのリチウム2次電池の構成例について説明する。
【0097】
セパレータを有するリチウム2次電池については、形状として円筒型、角型、金属缶の代わりにラミネートフィルムを用いたラミネート型等がある。リチウム2次電池については種々の特許出願がなされており、例えば、特開2011−175810号公報、特開2011−129420号公報がある。
【0098】
以下、図11を用いて、円筒型のリチウム2次電池の一例として、特開2011−129420号公報に記載されたリチウム2次電池について説明する。ここでは、同公報の図1及び段落0114−0117に記載された内容に基づいて説明する。
【0099】
図11に示すリチウム二次電池は、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に巻回電極体20および一対の絶縁板12,13が収納されている。巻回電極体20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回積層体である。
【0100】
電池缶11は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有している。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0101】
電池缶11の開放端部には電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16がガスケット17を介してかしめられており、その電池缶11は密閉されている。安全弁機構15および熱感抵抗素子16は電池蓋14の内側に設けられており、その安全弁機構15は熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度上昇に応じた抵抗増加により、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により形成されている。
【0102】
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。正極21には、アルミニウムなどの導電性材料により形成された正極リード25が接続されていると共に、負極22には、ニッケルなどの導電性材料により形成された負極リード26が接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされ、電池蓋14と電気的に接続されていると共に、負極リード26は、電池缶11に溶接などされ、それと電気的に接続されている。
【0103】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものであり、上述した本実施形態又は本実施例の3層積層シートを用いることができる。
【0104】
上記リチウム2次電池は、ハイブリッド自動車、電気自動車等への自動車用電源、携帯機器や電動工具の電源、蓄電用の電源等の用途に好適に用いることができる。リチウム2次電池を自動車の電源として搭載した例が例えば、特開2011−175749号公報に記載されている。
【0105】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明は、本願の請求の範囲によって規定される、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他の種々の形で実施することができる。そのため、前述した各実施形態は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるべきではない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書や要約書の記載には拘束されない。さらに、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更はすべて本発明の範囲内のものである。請求の範囲では、理解の容易化のために、実施形態で用いたR1,R2,S,P,Q等の符号を用いているが、請求の範囲の示される本発明の範囲を実施形態で示した例に特に限定するものでない。
【0106】
本願は、2011年10月13日に出願された特願2011−225871号を基礎とする優先権を主張するものである。そして、特願2011−225871号に開示された全ての内容は本願の内容に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
P,Q 多孔性繊維層
S 中芯不織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性の繊維を主たる構成成分とする不織布を中芯材として、その上層及び下層として微細径セルロース繊維を主たる構成成分とする多孔性繊維層を備えた3層積層シートにおいて、
ガーレ法で測定された3層積層シートの透気度が1000sec/100ml以下であり、
3層積層シートの目付が2g/m2〜15 g/m2の範囲に在り、
3層積層シートの厚さが5μm〜40μmの範囲にある3層積層シート。
【請求項2】
中芯材となる前記不織布が、繊度2デニール以下の熱可塑性合成繊維を少なくとも50%wt以上含み、
目付が1g/m2〜10 g/m2の範囲に在り、
厚さが2μm〜40μmの範囲にある請求項1に記載された3層積層シート。
【請求項3】
中芯材となる前記不織布が、「繊維間目開き率」が50%以上である請求項2に記載された3層積層シート。
【請求項4】
中芯材となる前記不織布が、EVA, PE, PP, PET, EVA/PE, PE/PP, PP誘導体/PP, PE/PET, PET誘導体/PETのいずれかの連続フィラメントを構成成分とする、スパンメルト不織布である請求項2又は3に記載された3層積層シート。
【請求項5】
中芯材となる前記不織布が、繊度1.7デニール以下、繊維長20mm以下のEVA, PE, PP, PET, EVA/PE, PE/PP, PP誘導体/PP, PE/PET, PET誘導体/PETのいずれかの繊維を構成成分とする、湿式不織布である請求項2又は3に記載された3層積層シート。
【請求項6】
微細径セルロース繊維を主たる構成成分とする前記上層及び下層の多孔性繊維層それぞれが
目付が0.5g/m2〜5 g/m2の範囲に在り、
厚さが2μm〜15μmの範囲にある請求項1〜5のいずれか1項に記載された3層積層シート。
【請求項7】
前記多孔性繊維層が微細径セルロース繊維としてセルロースナノファイバーを少なくとも20wt%以上含有する請求項6に記載された3層積層シート。
【請求項8】
前記多孔性繊維層が微細径セルロース繊維としてセルロースナノファイバーとMFCの2成分を含有し、その合計含有量が少なくとも40wt%以上である請求項7に記載された3層積層シート。
【請求項9】
前記微多孔性繊維層に平均粒径5.0μm以下の電気絶縁性のある無機物微粒子からなる多孔化促進剤を前記微細径セルロース繊維重量に対して10 wt%〜150 wt%添加する請求項6〜8のいずれか1項に記載された3層積層シート。
【請求項10】
前記上層の多孔性繊維層と前記下層の多孔性繊維層が不織布との接触面において、相互に前記不織布の繊維間空隙を貫通して、上層構成繊維と下層構成繊維が混和、接合状態になり一体化されている請求項1〜9のいずれか1項に記載された3層積層シート。
【請求項11】
前記上層の多孔性繊維層と前記下層の多孔性繊維層が易溶融性不織布との接触面において、相互に前記不織布の繊維間空隙を貫通して、上層構成繊維と下層構成繊維が混和、融着、接合状態になり一体化されている請求項10に記載された3層積層シート。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の3層積層シートにより形成された蓄電素子用セパレータ。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載された3層積層シートの製造方法であって、
前記上層の多孔性繊維層を層P、前記下層の多孔性繊維層を層Q、前記不織布を布Sとしたとき、
前記層P及び層Qを、あらかじめ準備された前記布Sの両面に重ね合わせ、
重ね合わせた状態で圧着一体化する3層積層シートの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載された3層積層シートの製造方法であって、
前記層Pと前記層Qのそれぞれの最表面を保護する役割の2枚の疎水性不織布をそれぞれ保護シートR1、R2としたとき、
前記保護シートR1と前記層Pとの合体シートR1P、及び前記層Qと前記保護シートR2との合体シートQR2をそれぞれ成形し、
前記合体シートR1P及び前記合体シートQR2を前記布Sの両面に前記保護シートR1,R2が外側にくるように重ね合わせて圧着一体化し、
圧着一体化されたシートR1P/S/QR2から2枚の保護シートR1,R2を取り除き、3層積層シートP/S/Qを得る3層積層シートの製造方法。
【請求項15】
前記層Qあるいは前記層Pと、前記布Sとで、合体シートS/Qあるいは合体シートP/Sを成形し、
前記層P、前記布S、前記層Qの順の層構成になるように、前記合体シートS/Qに層P、あるいは前記合成シートP/Sに前記層Qを重ね合わせて圧着一体化する、請求項13に記載された3層積層シートの製造方法。
【請求項16】
前記層Pと前記層Qのそれぞれの最表面を保護する役割の2枚の疎水性不織布をそれぞれ保護シートR1, R2としたとき、
前記保護シートR1と前記層Pとの合体シートR1P、あるいは前記層Qと前記保護シートR2との合体シートQR2を成形し、
前記布Sと前記Q及び前記保護シートR2とで合体シートS/QR2を成形するか、あるいは前記布Sと前記層P及び前記保護シートR1とで合体シートR1P/Sを成形し、
前記合成シートR1P、前記布S、前記合成シートQR2の順の層構成になるように、前記合体シートS/QR2に前記合成シートR1P、あるいは前記合体シートR1P/Sに前記合成シートQR2を重ね合わせ圧着一体化し、
圧着一体化されたシートR1P/S/QR2から2枚の保護シートR1, R2を取り除き、3層積層シートP/S/Qを得る請求項15に記載された3層積層シートの製造方法。
【請求項17】
溶媒含有状態の前記層Qあるいは前記層Pと、前記布Sとで、前記合体シートS/QあるいはP/Sの成形が溶媒含有状態で行われ、
前記層P、前記布S、前記層Q順の層構成になるように、前記合体シートS/Qに層P、あるいは前記合体シートP/Sに層Qを重ね合わせ圧着一体化する工程が溶媒含有状態で行われ、圧着状態を経て脱溶媒、乾燥が行われる請求項15に記載された3層積層シートの製造方法。
【請求項18】
前記合体シートR1PあるいはQR2の成形が溶媒含有状態で行われ、
布Sと、層Qあるいは層P及び保護シートR2又は保護シートR1とで、前記合体シートS/QR2あるいはR1P/Sの成形が溶媒含有状態で行われ、
前記合体シートS/QR2あるいはR1P/Sに前記合体シートR1PあるいはQR2を重ね合わせ圧着一体化する工程が溶媒含有状態で行われ、圧着状態を経て脱溶媒、乾燥が行われ、
前記シートR1P/S/QR2から2枚の保護シートR1, R2を取り除き、3層積層シートP/S/Qを得る請求項16に記載された3層積層シートの製造方法。
【請求項19】
次のユニット工程(1)〜(11)を含むように構成されている3層積層シートの製造方法。
(1)第1の保護シートの巻き出しと、第1走行ネットコンベアーへの供給工程
(2)前記第1走行ネットコンベアー上で前記第1の保護シートにプリコート溶剤をプリコートする工程
(3)前記第1走行ネットコンベアー上でプリコートされた前記第1の保護シートに、微細径セルロース繊維を分散媒体中に混合・分散した分散スラリーを所定の厚さにコーティングを施す工程
(4)前記第1走行ネットコンベアー上で前記第1の保護シート上にコーティングされて形成された第1の微細径セルロース繊維マットから所定の量の分散媒体を除去し、含溶媒状態の第1のシートを成形する工程
(5)中芯材となる不織布の巻き出しと、第2走行ネットコンベアーへの供給工程
(6)前記第2走行ネットコンベアー上で前記不織布にプリコート溶剤をプリコートする工程
(7)前記第2走行ネットコンベアー上でプリコートされた前記不織布に前記分散スラリーを所定の厚さにコーティングを施す工程
(8)前記第2走行ネットコンベアー上で前記不織布上にコーティングされて形成された第2の微細径セルロース繊維マットから所定の量の分散媒体を除去し、その上方から第2の保護シートを前記第2の微細径セルロース繊維マット上に供給して繊維マット表面を被覆し、プレスロール圧着を経て含溶媒状態の第2のシートを成形する工程
(9)前記第1走行ネットコンベアー上の含溶媒状態の前記第1のシートと前記第2走行ネットコンベアー上の含溶媒状態の前記第2のシートを、前記第1及び第2の保護シートが外側にくるように合体、接合し第3のシートを成形する工程
(10)前記第3のシートを圧着一体化したのちに脱溶媒、乾燥する工程
(11)脱溶媒、乾燥した前記第3のシートに熱プレスを施し、薄層化と表面仕上げを行うか、又は脱溶媒、乾燥した前記第3のシートから第1及び第2の保護シートを除去し、に熱プレスを施し、薄層化と表面仕上げを行う工程
【請求項20】
次のユニット工程(1)〜(9)を含むように構成されている請求項1〜11のいずれか1項に記載の3層積層シートの製造方法。
(1)第1の保護シートとその上にコーティングされた第1の微細径セルロース繊維マットより成形された含溶媒状態の第1のシートから含有分散媒体を脱溶媒、乾燥して得られる、乾燥状態の第1のシートをロール状に巻き取る工程
(2)中芯材となる不織布の巻き出しと、走行ネットコンベアーへの供給工程
(3)前記走行ネットコンベアー上で前記不織布にプリコート溶剤をプリコートする工程
(4)前記走行ネットコンベアー上でプリコートされた不織布に、微細径セルロース繊維を分散媒体中に混合・分散する分散スラリーを所定の厚さにコーティングを施す工程
(5)前記走行ネットコンベアー上で前記不織布上にコーティングされて形成された第2の微細径セルロース繊維マットから所定の量の分散媒体を除去し、その上方から第2の保護シートを前記第2の微細径セルロース繊維マット上に供給して繊維マット表面を被覆し、プレスロール圧着を経て含溶媒状態の第2のシートを成形する工程
(6)ロール状の乾燥状態にある第1のシートを巻き出して、前記走行ネットコンベアーから送り出された含溶媒状態の第2のシートと前記第1及び第2の保護シートが外側にくるように合体・接合し含溶媒状態の第3のシートを成形する工程
(7)前記第3のシートを圧着一体化したのちに乾燥・脱溶媒する工程
(8)乾燥・脱溶媒された第3のシートから2枚の第1及び第2の保護シートを除去し、第4のシートを得る工程
(9)前記第3のシート又は第4のシートに熱プレスを施し、薄層化と表面仕上げを行う工程
【請求項21】
次のユニット工程(1)〜(7)を含むように構成されている請求項1〜11のいずれか1項に記載の3層積層シートの製造方法。
(1)第1の保護シートとその上にコーティングされた第1の微細径セルロース繊維マットより成形された含溶媒状態の第1のシートから含有分散媒体を脱溶媒、乾燥して得られる、乾燥状態の第1のシートをロール状に巻き取る工程
(2)中芯材となる不織布上にコーティングされた第2の微細径セルロース繊維マットから所定の量の分散媒体を除去し、その上方から第2の保護シートを第2の微細径セルロース繊維マット上に供給して繊維マット表面を被覆し、プレスロール圧着を経て含溶媒状態の第2のシートから含有分散媒体を脱溶媒、乾燥して得られる、乾燥状態の第2のシートをロール状に巻き取る工程
(3)ロール状の乾燥状態にある前記第1のシートを巻き出して第一プレスロールに供給する工程
(4)乾燥状態にある前記第2のシートを巻き出して前記第一プレスロールに供給する工程
(5)乾燥状態にある前記第1のシートと乾燥状態にある第2のシートを前記第一プレスロールにより合体・一体化して第3のシートを成形する工程
(6)前記第3のシートから2枚の第1及び第2の保護シートを除去し、第4のシートを得る工程
(7)前記第3のシート又は前記第4のシートに熱プレスを施し、薄層化と表面仕上げを行う工程
【請求項22】
熱可塑性の繊維を主たる構成成分とする不織布を中芯材と、その上層及び下層として、微細径セルロース繊維を主たる構成成分とする第1及び第2の多孔性繊維層を備えた3層積層シートにおいて、
前記第1及び第2の多孔性繊維層の構成繊維が前記不織布の繊維間空隙に入りこんだ領域を、前記不織布の前記第1及び第2の多孔性繊維層との界面から延びた少なくとも一部に有し、該領域において、前記第1及び第2の多孔性繊維層の構成繊維が前記不織布と接合状態になり一体化されている3層積層シート。
【請求項23】
前記領域は前記不織布の厚さ方向の全域にわたって存在することを特徴とする請求項22に記載の3層積層シート。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−99940(P2013−99940A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−227694(P2012−227694)
【出願日】平成24年10月15日(2012.10.15)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】