説明

多孔性セラミック部材の溶浸法

金属酸化物粒子を含有し且つ分散液を基準として少なくとも30質量%の金属酸化物含有率を有する前記分散液を使用し、その際、前記金属酸化物粒子の粒径分布d50が200nm以下である、多孔性セラミック部材の溶浸法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粒子を含有する高充填分散液によるセラミック部材の溶浸法に関する。
【0002】
多孔性セラミック部材、特に高温用途の部材(屈折性セラミック)の溶浸が公知である。これは、これらの部材の多孔性を低下させて、ゆえにこれらの部材の耐食性、耐酸化性、更には場合により強度を増加させることを意図するものである。
【0003】
先行技術は、炭素含有物質によるセラミック部材の溶浸を記載している。しかしながら、この方法で溶浸されたセラミック部材は、熱安定性及び酸化安定性に関して欠点を有する。
【0004】
多孔性セラミック部材の溶浸は、無機溶融物又は金属塩の溶液を用いて行うこともできる。塩溶融物による溶浸は複雑で且つ高価である。金属塩溶液、例えば、焼成時に屈折性酸化物を形成する溶液を使用する場合、溶媒を最初に蒸発させて、その後、金属塩を酸化物に変換させる。一般に、非常に少量の酸化物のみを、この方法で形成することができる。
【0005】
従って、本発明の課題は、先行技術の欠点を有していない、セラミック部材の溶浸法を提供することである。
【0006】
本発明は、多孔性セラミック部材、特に高温用途の部材、例えば、屈折性部材の溶浸法であって、その際、金属酸化物粒子を含有し且つ分散液を基準として、少なくとも30質量%、好ましくは30〜70質量%、特に好ましくは40〜60質量%の金属酸化物含有率を有する分散液が使用され、ここでレーザー光散乱法によって測定された金属酸化物粒子の粒径分布d50が200nm以下、好ましくは50〜100nmである、前記溶浸法を提供する。
【0007】
本発明の目的のために、多孔性セラミック部材は0.5〜100μmの孔径を有する部材である。
【0008】
このサイズ範囲の粒径分布を測定する好適な方法の1つはレーザー光散乱法である。粒子がアグリゲート状の種として存在する場合、粒径分布はアグリゲートサイズ分布に対応する。
【0009】
50は体積基準の値である。これは粒子の50%が示した値よりも小さいことを意味する。
【0010】
同様に、d95は粒子の95%が示した値よりも小さいことを意味する。
【0011】
溶浸は、特に、粗い粒子の割合が低い時に効率的であることが見出された。従って、金属酸化物粒子が250nm以下、特に好ましくは100〜200nmの粒径分布d95を有する分散液を使用することが好ましい。
【0012】
更に、金属酸化物粒子が少なくとも部分的に、更には殆ど完全に、アグリゲートの形で存在することが溶浸に対して有利な効果があることが見出された。かかる金属酸化物粒子は、例えば、火炎酸化法又は火炎加水分解法によって得られる。
【0013】
その上、本発明は更に、多孔性セラミック部材の溶浸についてこれまでに記載された方法とは対照的に、金属酸化物粒子の粗粒分及び細粒分を有する分散液を使用する方法を提供する。本方法は、
a)それぞれの場合に分散液を基準として、少なくとも30質量%、好ましくは40〜80質量%、特に好ましくは50〜70質量%の金属酸化物含有率を有し、
b)それぞれの場合に1種以上の金属酸化物の細粒分及び粗粒分の粒子からなり、
b1)細粒分は200nm以下、好ましくは50〜100nmの粒径分布d50を有し、且つ
b2)粗粒分は0.3〜5μm、好ましくは0.5〜3μmの粒径分布d50を有し、且つ
b3)細粒分対粗粒分の質量比が10:90〜80:20、好ましくは40:60〜60:40である、
分散液を使用することを特徴とする。
【0014】
この方法では、金属酸化物粒子が250nm以下、特に好ましくは100〜200nmの粒径分布d95を有するように細粒分を選択することも有利である。
【0015】
同様に、粗粒分の場合、粒子が5μmを超えない直径を有することが有利である。粗粒分及び細粒分の金属酸化物は同一であるか又は異なってよい。
【0016】
細粒分及び粗粒分を含有する分散液を使用する場合、粒径分布d50又はd95は好ましくは動的レーザー光散乱法又は透過電子顕微鏡図の計数(画像分析)によって測定できる。
【0017】
金属酸化物粒子は、好ましくは、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、上記の金属酸化物の混合酸化物及び上記の金属酸化物の物理的混合物からなる群から選択される。半金属酸化物としての二酸化ケイ素は、本発明の目的のための金属酸化物と見なされる。これらの金属酸化物のBET表面積は、好ましくは20〜200m/g、特に好ましくは40〜100m/gである。
【0018】
通例、本質的にバインダーのない分散液を、本発明の方法で使用する。
【0019】
他方では、本発明の方法で使用する分散液は、当業者に公知の湿潤剤を含有し得る。
【0020】
本発明の方法で使用する分散液のpHは、広範囲で変えることができる。通例、pHは2〜12の範囲であってよい。金属酸化物の種類及びpHに応じて、異なるゼータ電位が得られる。ゼータ電位は粒子の表面電荷の測定値である。多孔性セラミック部材の表面電荷に応じて、侵入深さを、分散液中の金属酸化物粒子のゼータ電位によって制御することもできる。多孔性セラミック部材が分散液のpHにて負の表面電荷を有する場合、カチオン荷電型金属酸化物粒子は、ほんのわずかの侵入深さをもたらし、即ち、表面に近い領域のみ溶浸される。他方では、負荷電の金属酸化物粒子の場合、より高い侵入深さがこれらの条件下で達成され得る。
【0021】
溶浸は、スティーピング、浸漬、はけ塗り、噴霧及び/又は真空加圧溶浸によって行ってよい。溶浸の後に乾燥工程及び/又は後焼成工程が続いてよい。
【0022】
好ましくは本発明の方法において使用できる分散液は、
a)アグリゲート状の二酸化チタン粒子であって、
a1)20〜100m/g、特に好ましくは50〜90m/gのBET表面積、
a2)分散液を基準として、金属酸化物粒子として35〜45質量%の二酸化チタン含有率
を有する、アグリゲート状の二酸化チタン粒子、
b)5〜7のpH及び
c)20℃及び100s−1の剪断速度にて1000mPas未満、好ましくは2〜200mPasの粘度
を有する分散液である。
【0023】
更に、好ましくは
a)アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子であって、
a1)40〜130m/g、特に好ましくは60〜100m/gのBET表面積、及び
a2)分散液を基準として、金属酸化物粒子として30〜40質量%の含有率
を有する、アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子を含有し且つ
b)3〜5のpH及び
c)20℃及び100s−1の剪断速度にて500mPas未満、好ましくは2〜100mPasの粘度
を有する分散液を使用することもできる。
【0024】
更に、好ましくは
a)アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子であって、
a1)40〜130m/g、好ましくは60〜100m/gのBET表面積、
a2)分散液を基準として、金属酸化物粒子として35〜55質量%の含有率
を有する、アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子を含有し且つ
b)6〜9のpH及び
c)20℃及び100s−1の剪断速度にて500mPas未満、好ましくは2〜250mPasの粘度
を有する分散液を使用することもできる。
【0025】
更に、好ましくは
a)アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子であって、
a1)40〜130m/g、好ましくは60〜100m/gのBET表面積、
a2)分散液を基準として、金属酸化物粒子として55〜65質量%の含有率
を有する、アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子及び
b)それぞれの場合に互いに独立して0.3−3×10−6モル/mの特定の酸化アルミニウム表面積の量で、分散液に溶解した1種以上の少なくとも二塩基ヒドロキシカルボン酸又はその塩及び少なくとも1種のリン酸水素二(アルカリ金属)及び/又はリン酸二水素アルカリ金属の塩を含有し、且つ
c)6〜10のpH及び
d)20℃及び100s−1の剪断速度にて2000mPas未満、好ましくは100〜750mPasの粘度
を有する、分散液を使用することもできる。
【0026】
更に、好ましくは
a)アグリゲート状の二酸化ジルコニウム粒子又は安定化した二酸化ジルコニウム粒子であって、
a1)20〜70m/g、好ましくは30〜50m/gのBET表面積、
a2)分散液を基準として、金属酸化物粒子として45〜55質量%の含有率
を有する、前記二酸化ジルコニウム粒子を含有し且つ
b)8〜11のpH及び
c)20℃及び100s−1の剪断速度にて500mPas未満、好ましくは2〜50mPasの粘度
を有する、分散液を使用することもできる。
【0027】
最終的には、酸化アルミニウム分散液であって、
a)60〜85質量%の酸化アルミニウムの含有率を有し、
b)ここで、細粒分対粗粒分の質量比が10:90〜80:20であり、
c)アグリゲートの形で存在する細粒分の粒径分布d50が60〜100nmであり、BET表面積が40〜130m/g、好ましくは60〜100m/gであり、且つ
d)単離した個々の粒子として存在する粗粒分の粒径分布d50が300〜1000nmである、
前記酸化アルミニウム分散液を使用することが可能である。
【0028】
本発明は更に、本発明の方法によって得られるセラミック部材を提供する。これらとしては、例えば、スライド式プレート、浸漬口、煉瓦、プラグ、フラッシングコーン、シャドウ管、出口ノズル、膜、断熱材及び遮熱材が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子を含有し且つ分散液を基準として少なくとも30質量%の金属酸化物含有率を有する前記分散液を使用し、その際、前記金属酸化物粒子の粒径分布d50が200nm以下であることを特徴とする、多孔性セラミック部材の溶浸法。
【請求項2】
前記粒径分布d95が250nm以下、好ましくは200nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子がアグリゲートの形で少なくとも部分的に存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
a)前記分散液を基準として、少なくとも30質量%の金属酸化物含有率を有し、
b)それぞれの場合に1種以上の金属酸化物の細粒分及び粗粒分の粒子からなり、
b1)細粒分が200nm以下、好ましくは50〜100nmの粒径分布d50を有し、且つ
b2)粗粒分が0.3〜5μm、好ましくは0.5〜3μmの粒径分布d50を有し、且つ
b3)細粒分対粗粒分の質量比が10:90〜80:20である、
前記分散液を使用することを特徴とする、多孔性セラミック部材の溶浸法。
【請求項5】
前記金属酸化物粒子が、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、上記の金属酸化物の混合酸化物及び上記の金属酸化物の物理的混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記分散液がバインダーを含まないことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記分散液が湿潤剤を含有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記分散液のpHが2〜12であることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
溶浸を、スティーピング、浸漬、はけ塗り、噴霧及び/又は真空加圧溶浸によって行うことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記分散液が、
a)アグリゲート状の二酸化チタン粒子であって、
a1)20〜100m/gのBET表面積及び
a2)前記分散液を基準として、金属酸化物粒子として35〜45質量%の二酸化チタン含有率
を有する、アグリゲート状の二酸化チタン粒子、
b)5〜7のpH及び
c)20℃及び100s−1の剪断速度にて1000mPas未満の粘度
を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記分散液が、
a)アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子であって、
a1)40〜130m/gのBET表面積及び
a2)前記分散液を基準として、金属酸化物粒子として30〜40質量%の含有率
を有する、アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子を含有し、且つ
b)3〜5のpH及び
c)20℃及び100s−1の剪断速度にて500mPas未満の粘度
を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記分散液が、
a)アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子であって、
a1)40〜130m/gのBET表面積及び
a2)前記分散液を基準として、金属酸化物粒子として35〜55質量%の含有率
を有する、アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子を含有し、且つ
b)6〜9のpH及び
c)20℃及び100s−1の剪断速度にて500mPas未満の粘度
を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記分散液が、
a)アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子であって、
a1)40〜130m/gのBET表面積、
a2)前記分散液を基準として、金属酸化物粒子として55〜65質量%の含有率
を有する、アグリゲート状の酸化アルミニウム粒子並びに
b)それぞれの場合に互いに独立して0.3−3×10−6モル/mの特定の酸化アルミニウム表面積の量で、前記分散液に溶解した1種以上の少なくとも二塩基ヒドロキシカルボン酸又はその塩及び少なくとも1種のリン酸水素二(アルカリ金属)及び/又はリン酸二水素アルカリ金属の塩を含有し、且つ
c)6〜10のpH及び
d)20℃及び100s−1の剪断速度にて2000mPas未満の粘度
を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記分散液が、
a)アグリゲート状の二酸化ジルコニウム粒子又は安定化された二酸化ジルコニウム粒子であって、
a1)20〜70m/gのBET表面積、
a2)前記分散液を基準として、金属酸化物粒子として45〜55質量%の含有率
を有する、前記二酸化ジルコニウム粒子を含有し、且つ
b)8〜11のpH及び
c)20℃及び100s−1の剪断速度にて500mPas未満の粘度
を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記分散液が、
a)60〜85質量%の酸化アルミニウムの含有率を有し、
b)ここで、細粒分対粗粒分の質量比が10:90〜80:20であり、
c)アグリゲートの形で存在する細粒分の粒径分布d50が60〜100nmであり、BET表面積が40〜130m/g、好ましくは60〜100m/gであり、且つ
d)単離した個々の粒子として存在する粗粒分の粒径分布d50が300〜1000nmである、
酸化アルミニウム分散液であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法によって得られるセラミック部材。

【公表番号】特表2013−507319(P2013−507319A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533551(P2012−533551)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063524
【国際公開番号】WO2011/045137
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】