説明

多孔性フィルムおよび蓄電デバイス

【課題】 多孔性フィルムにコート層を設けることで、シャットダウン性と滑り性を同時に付与した多孔性フィルムを提供すること、および、それにより、リチウムイオン二次電池のセパレータに好適に使用できる多孔性フィルムを提供すること。
【解決手段】 多孔性のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、融点が100〜150℃のコート層を設け、かつ、コート層同士の動摩擦係数を0.1〜0.4とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高透過性と安全性に加えて、工程取扱性として重要な易滑性に優れる多孔性フィルムに関する。詳しくは、多孔性のポリプロピレンフィルム上に設けたコート層により、多孔性フィルムで問題となる易滑性の低下を解消し、なおかつ高温での熱処理により透過性を喪失する、所謂シャットダウン性を有することで、蓄電デバイスのセパレータ用途に好適に用いることができる多孔性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは優れた機械特性、熱特性、電気特性、光学特性により、工業材料用途、包装材料用途、光学材料用途、電機材料用途など多様な用途で使用されている。このポリプロピレンフィルムに空隙を設け、多孔化した多孔性ポリプロピレンフィルムについても、ポリプロピレンフィルムとしての特性に加えて、透過性や低比重などの優れた特性を併せ持つことから、電池や電解コンデンサーのセパレータや各種分離膜、衣料、医療用途における透湿防水膜、フラットパネルディスプレイの反射板や感熱転写記録シートなど多岐に渡る用途で使用されている。
【0003】
ポリプロピレンフィルムを多孔化する手法としては、様々な提案がなされている。多孔化の方法を大別すると湿式法と乾式法に分類することができる。湿式法とは、ポリプロピレンをマトリックス樹脂とし、シート化後に抽出する被抽出物を添加、混合し、被抽出物の良溶媒を用いて添加剤のみを抽出することで、マトリックス樹脂中に空隙を生成せしめる方法であり、種々の提案がなされている(たとえば、特許文献1参照)。一方、乾式法としては、たとえば、溶融押出時に低温押出、高ドラフト比を採用することにより、シート化した延伸前のフィルム中のラメラ構造を制御し、これを一軸延伸することでラメラ界面での開裂を発生させ、空隙を形成する方法(所謂、ラメラ延伸法)が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。また、乾式法として、無機粒子またはマトリックス樹脂であるポリプロピレンなどに非相溶な樹脂を粒子として多量添加し、シートを形成して延伸することにより粒子とポリプロピレン樹脂界面で開裂を発生させ、空隙を形成する方法も提案されている(たとえば、特許文献3参照)。さらには、ポリプロピレンの結晶多形であるα型結晶(α晶)とβ型結晶(β晶)の結晶密度の差と結晶転移を利用してフィルム中に空隙を形成させる、所謂β晶法と呼ばれる方法の提案も数多くなされている(たとえば、特許文献4〜7参照)。
【0004】
以上のような方法で製造した多孔性ポリプロピレンフィルムを電解デバイス、特にリチウムイオン二次電池用のセパレータとして用いようとした場合、リチウムイオン電池への安全性対策として、セパレータには130〜150℃にて、透過性が喪失する、所謂シャットダウン性が要求されるが、ポリプロピレンフィルムは融点が約170℃と高く、シャットダウン性を有していない、また、セパレータとして電極と共に円筒型や角形に捲回される際の取扱性の観点から、適度な滑り性が要求されるが多孔化処理を行ったフィルムは滑りが悪く、電池の欠陥形成の原因となる場合があるなどの課題があった。
【0005】
高い融点のため、シャットダウン性を有しない多孔性フィルムについては、低融点の粒子をフィルム表面に塗布することでシャットダウン性を付与する提案がなされている(たとえば、特許文献8参照)。しかしながら、この提案では100℃という低い温度で処理しただけで、透過性を喪失してしまうことから、通常の問題ない使用状態においても、透過性を喪失してしまい、セパレータとしての実用性を有していなかった。
【0006】
一方、滑り性向上による取扱性の改善についても、同様に多孔性フィルム表面への粒子コートが提案されている(たとえば、特許文献9参照)。しかしながら、この提案の耐熱性微多孔膜はシャットダウン性をポリエチレン多孔膜との複合化により付与しており、複数の微多孔膜の貼り合せに加えて粒子コートを行うことで、シャットダウン機能と易滑性を別々の手法で実現するという冗長的な方法であった。
【特許文献1】特開昭55−131028号公報
【特許文献2】特公昭55−32531号公報
【特許文献3】特開昭57−203520号公報
【特許文献4】特開昭63−199742号公報
【特許文献5】特開平6−100720号公報
【特許文献6】特開平9−255804号公報
【特許文献7】特開2005−171230号公報
【特許文献8】特開平9−219185号公報
【特許文献9】特開2002−151044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、多孔性のポリプロピレンフィルムにコート層を設けることで、シャットダウン性と滑り性を同時に付与した多孔性フィルムを提供することであり、それにより、リチウムイオン二次電池のセパレータに好適に使用できる多孔性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題は、多孔性のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、融点が100〜150℃であるコート層を有し、コート層同士の動摩擦係数が0.1〜0.4である多孔性フィルムによって達成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多孔性フィルムは、リチウムイオン電池用セパレータに好適なシャットダウン性と、加工適性に優れており、セパレータとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の多孔性フィルムを構成する多孔性のポリプロピレンフィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する微細な貫通孔を多数有している。フィルム中に貫通孔を形成する方法としては、湿式法、乾式法どちらでも構わないが、工程を簡略化できることから乾式法が望ましく、中でもフィルムを二軸配向させ、物性均一化や薄膜でありながら高い強度を維持できるという観点からβ晶法を用いることが好ましい。
【0011】
β晶法を用いてフィルムに貫通孔を形成するためには、ポリプロピレン樹脂中にβ晶を多量に形成させることが重要となるが、そのためにはβ晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いることが好ましい。β晶核剤としては公知の顔料系化合物やアミド系化合物などを挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の添加量としては、ポリプロピレン樹脂全体を100質量部とした場合、0.05〜0.5質量部であることが好ましく、0.1〜0.3質量部であればより好ましい。
【0012】
本発明の多孔性のポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂はメルトフローレート(以下、MFRと表記する、測定条件は230℃、2.16kg)が2〜30g/10分の範囲のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であることが好ましい。MFRが上記した好ましい範囲を外れると二軸延伸フィルムを得ることが困難となる場合がある。より好ましくは、MFRが3〜20g/10分である。
【0013】
また、アイソタクチックポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスは90〜99.9%であれば好ましく、アイソタクチックインデックスが90%未満であると、樹脂の結晶性が低く、高い透気性を達成するのが困難な場合がある。アイソタクチックポリプロピレン樹脂は市販されている樹脂を用いることができる。
【0014】
本発明のポリプロピレンフィルムにはホモポリプロピレン樹脂を用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下の範囲で共重合してもよい。なお、ポリプロピレンへのコモノマーの導入形態としては、ランダム共重合でもブロック共重合でもいずれでも構わない。
【0015】
また、上記のポリプロピレン樹脂は0.5〜5質量%の範囲で高溶融張力ポリプロピレンを含有させることが製膜性向上の点で好ましい。高溶融張力ポリプロピレンとは高分子量成分や分岐構造を有する成分をポリプロピレン樹脂中に混合したり、ポリプロピレンに長鎖分岐成分を共重合させたりすることで溶融状態での張力を高めたポリプロピレン樹脂であるが、中でも長鎖分岐成分を共重合させたポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。この高溶融張力ポリプロピレンは市販されており、たとえば、Basell社製ポリプロピレン樹脂PF814、PF633、PF611やBorealis社製ポリプロピレン樹脂WB130HMS、Dow社製ポリプロピレン樹脂D114、D206を用いることができる。
【0016】
本発明のポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂には、延伸時の空隙形成効率が向上し、孔径が拡大することで透気性が向上するため、ポリプロピレン樹脂にエチレン・α−オレフィン共重合体を1〜10質量%添加することが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合したエチレン・オクテン−1共重合体を好ましく用いることができる。このエチレン・オクテン−1共重合体は市販されている樹脂を用いることができる。
【0017】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムはβ晶法により多孔化することが好ましいため、フィルムを構成するポリプロピレン樹脂のβ晶形成能が30〜100%であることが好ましい。β晶形成能が30%未満ではフィルム製造時にβ晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果透過性の低いフィルムしか得られない場合がある。β晶形成能を30〜100%の範囲内にするためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用するのはもちろんのこと、上述のβ晶核剤を添加することが好ましい。β晶形成能としては35〜80%であればより好ましく、40〜70%だと特に好ましい。
【0018】
本発明の多孔性フィルムは、多孔性のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、融点が100〜150℃であるコート層を有しており、これにより、多孔性フィルムにシャットダウン性と易滑性の両方の特性を具備させることができる。コート層の融点が100℃未満であると、リチウムイオン二次電池用セパレータとして用いた際に、使用環境が電池の他の素材には問題のない、100℃程度の低温でフィルムの貫通孔を遮蔽してしまい、シャットダウンしてしまい誤作動が発生してしまう。一方、融点が150℃を超えるとセパレータとした場合にシャットダウンする前に電池内で自己発熱反応が開始してしまうことがある。セパレータとして用いる場合、シャットダウンが130〜150℃で機能することが好ましいので、コート層の融点は120〜150℃であることが好ましく、125〜150℃であればより好ましい。なお、コート層が複数の融点を有する場合には、最も高温の融点が上記範囲内であればよい。
【0019】
多孔性のポリプロピレンフィルム上に形成されるコート層は、融点が100〜150℃の粒子および融点が100〜150℃のバインダーとを含んでいることが好ましい。ポリプロピレンフィルムの表面は一般に接着性が悪いことから、コート層が粒子だけの場合、粒子の脱落が起こり、製造工程を汚染する場合があり、逆にコート層がポリプロピレンフィルムとの接着性に優れるバインダーだけの場合、シャットダウン性は発揮できるものの、滑り性が悪く工程通過性に劣る場合がある。なお、粒子、バインダー共に融点を複数示す場合には、最も高温の融点が上記範囲内であればよい。
【0020】
コート層に用いる粒子としては、融点が100〜150℃の範囲内であれば特に限定されないが、非水電解液二次電池であるリチウムイオン電池に用いる場合、水分の系内への持ち込みを著しく嫌うことから、ポリオレフィン類を好ましく用いることができ、特に高密度ポリエチレン、低分子量ポリエチレンなどからなる粒子を好ましく用いることができる。
【0021】
コート層に用いるバインダーとしては、融点が100〜150℃の範囲内であり、なおかつフィルム表面と粒子を接着し、粒子の脱落が容易に発生しないものであれば特に限定されないが、粒子と同様に、非水電解液二次電池であるリチウムイオン電池に用いる場合、水分の系内への持ち込みを著しく嫌うことから、親水性官能基を多数有することなく、基材であるポリプロピレンとの親和性に優れるプロピレン共重合体を用いることが好ましい。
【0022】
本発明のコート層を構成する粒子とバインダーはその質量組成比が95:5〜60:40であることが好ましい。バインダーの質量組成比が5未満であると、フィルムと粒子の密着が悪く、粒子が容易に脱落してしまう場合がある。一方、バインダーの質量組成比が40を超えると、多孔性フィルムの孔内にバインダーが侵入してしまい、透過性を阻害してしまう場合がある。粒子とバインダー質量組成比は、より好ましくは90:10〜65:35であり、90:10〜70:30であれば特に好ましい。
【0023】
本発明の多孔性フィルムは、コート層同士の動摩擦係数が0.1〜0.4である。動摩擦係数が0.1未満であると、フィルムをロール状に巻き取った際に、滑りすぎて巻きずれが発生してしまう場合や、電池を組み立てる際に滑りすぎて取扱に苦慮する場合などがある。一方、動摩擦係数が0.4を超えるとフィルムを巻き取る際にシワが入り、そのシワが電池の欠陥の原因になる場合がある。コート層同士の動摩擦係数はフィルムの取扱性の点で0.15〜0.35であればより好ましく、0.15〜0.3であれば特に好ましい。また、フィルムの片面のみにコートする場合、コート面と非コート面間の動摩擦係数は0.2〜0.5であることが好ましい。
【0024】
コート層同士の動摩擦係数を0.1〜0.4の範囲内とする方法としては、粒子を含むコート層を、多孔性のポリプロピレンフィルム上に設置し、なおかつ、そのコート層厚みを0.5〜5μmとすることが好ましい。さらに、コーティング後の乾燥を粒子の融点未満の温度で0.5〜3分間の範囲で行うことは、コート層中の粒子が融解してしまうことなくフィルム表面に粒子が残存することで滑剤として機能することになるので好ましい。
【0025】
本発明のコート層を有する多孔性フィルムは電池のセパレータなどに用いるために、透気性を有していることが好ましく、ガーレ透気度が10〜200秒/100mlの範囲内であることが、電池の内部抵抗低減、さらには出力密度向上の観点から好ましい。ガーレ透気度が10秒/100ml未満であるとリチウムイオン二次電池内で負極に析出した金属リチウムが多孔性フィルムを突き抜け短絡してしまい、問題となる場合がある。一方ガーレ透気度が200秒/100mlを超えると透気性が悪いために電池の内部抵抗が高く、高い出力密度を得られない場合がある。
【0026】
本発明の多孔性フィルムはリチウムイオン二次電池のセパレータとして用いた際に、シャットダウン性を有することが好ましいことから、130℃、30秒間の熱処理後のガーレ透気度が120分/100ml以上であることが好ましい。シャットダウン性を有するということは、透気性が喪失されることであり、ガーレ透気度が120分以上ということは実質的に透気性を喪失し、透気度が無限大になっていることを示している。
【0027】
本発明の多孔性フィルムはコート層含めて、全体の厚みが15〜35μmであることが好ましい。全体の厚みが15μm未満ではフィルムの強度不足により、電池内で短絡が発生しやすくなる場合がある。一方、フィルム全体の厚みが35μmを超えると電池内に組み込める電極、電解液の容量がその分少なくなり、結果として電池の容量が小さくなってしまう。フィルム全体の厚みは20〜30μmであればより好ましい。
【0028】
また、多孔性のポリプロピレンフィルムだけの厚みとしては12〜30μmであることが好ましく、15〜25μmであればより好ましい。一方、コート層の厚みとしては、0.5〜5μmであることが好ましい。コート層厚みが0.5μm未満であると、シャットダウン性が機能しない場合がある。また、コート層厚みが5μmを超えるとコート層が透気性を阻害してしまい、電池の出力密度が低下してしまう場合がある。コート層の厚みとしては1〜4μmであればより好ましく、1.5〜3μmであれば特に好ましい。
【0029】
多孔性のポリプロピレンフィルム上にコート層を設けて、本発明の多孔性フィルムとする方法として特に限定されるものではないが、たとえば、多孔性ポリプロピレンフィルムの片面にコロナ放電処理などの表面処理を施し、表面濡れ性を向上させたのちマイヤーバー法やグラビアコート法、ダイコート法などにより、溶媒に分散させた塗剤をフィルム表面に塗布し、その後乾燥させることによりコート層を造膜する方法を採ることができる。ここで、塗剤は所定の組成比となるように粒子とバインダーを計量して混合する。また、溶媒としては安全性、環境への揮発溶媒の飛散防止の観点から水系液体を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の多孔性フィルムには、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して酸化防止剤を0.01〜0.5質量部添加することは好ましいことである。
【0031】
以下に本発明の多孔性フィルムの製造方法を具体的に説明する。なお、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。ポリプロピレン樹脂として、MFR8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂94質量部、同じく市販のMFR2.5g/10分高溶融張力ポリプロピレン樹脂1質量部、さらにメルトインデックス18g/10分の超低密度ポリエチレン樹脂5質量部にN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.2質量部を混合し、二軸押出機を使用して予め所定の割合で混合した原料を準備する。この際、溶融温度は270〜300℃とすることが好ましい。
【0032】
次に、混合原料を単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。この際、キャストドラムは表面温度が105〜130℃であることが、キャストフィルムのβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。この際、特にシートの端部の成形が後の延伸性に影響するので、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態から必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。
【0033】
次に得られた未延伸シートを二軸配向させ、フィルム中に空孔を形成する。二軸配向させる方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、高透気性フィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
【0034】
具体的な延伸条件としては、まず未延伸シートを長手方向に延伸する温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としては90〜120℃、さらに好ましくは95〜110℃の温度を採用することが好ましい。延伸倍率としては3〜6倍、より好ましくは3〜5倍である。フィルムの長手方向への延伸の際には、フィルム幅が減少する所謂ネックダウンと呼ばれる現象が見られるが、高透気性を実現するためにはネックダウン率(延伸後のフィルム幅/延伸前のフィルム幅)が30〜70%であれば好ましい。幅方向への延伸を考えると、40〜65%であればより好ましい。次に、いったん冷却後、ステンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。そして、好ましくは140〜155℃に加熱して幅方向に5〜12倍、より好ましくは6〜10倍延伸を行う。なお、このときの横延伸速度としては100〜1,000%/分で行うことが好ましく、100〜600%/分であればより好ましい。ついで、そのままステンター内で熱固定を行うが、その温度は横延伸温度以上160℃以下が好ましい。さらに、熱固定時にはフィルムの長手方向および/もしくは幅方向に弛緩させながら行ってもよく、特に幅方向の弛緩率を7〜12%とすることが、熱寸法安定性の観点から好ましい。
【0035】
このようにして得られた多孔性ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、所定の組成比で混合した粒子とバインダーが分散した溶液を塗布して本発明の多孔性フィルムを得ることができる。この際、塗剤をフィルム上に塗布する方法としては、ダイレクトグラビアコーター、マイクログラビアコーター、グラビアリバースコーター、リバースコーター、リバースキスコーター、ダイコーター、スロットダイコーター、ロッドコーター、コンマコーターなどの塗布装置を用いてコーティングすることができ、その後好ましくは60〜120℃の温度で塗膜を乾燥固化させることで本発明の多孔性フィルムを得ることができる。
【0036】
本発明の多孔性フィルムは、優れた透気性、機械特性を有するだけでなく、易滑性、シャットダウン性を有していることから、特にリチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池のセパレータとして好ましく用いることができる。
【0037】
本発明の多孔性フィルムは優れた透気性と工程通過性を併せ持ち、なおかつ安全性をも有していることから、蓄電デバイスのセパレータとして好適に使用することができる。ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源装置として使用することができる。本発明の多孔性フィルムをセパレータとして使用した蓄電デバイスは、セパレータの優れた特性から特に出力密度を高めることが可能となり、高い出力が求められる産業機器や自動車の電源装置に好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0039】
(1)β晶形成能
樹脂またはフィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から240℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、30℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0040】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
なお、ファーストランで観察される融解ピークから同様にβ晶の存在比率を算出することで、その試料の状態でのβ晶分率を算出することができる。
【0041】
(2)メルトフローレート(MFR)
ポリプロピレンおよび熱可塑性エラストマーのMFRは、JIS K 7210(1995)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定する。ポリエチレン樹脂は、JIS K 7210(1995)の条件D(190℃、2.16kg)に準拠して測定する。
【0042】
(3)コート層およびコート層を構成する粒子、バインダーの融点
コート層が粒子およびバインダーを含む場合は、粒子およびバインダーを次の方法で個別に測定し、最も高温の融点をコート層の融点とした。
【0043】
粒子またはバインダーが分散した塗剤を適量採取し、熱風オーブンにて70℃で乾燥させ、固形分のみを採取する。固形分5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。窒素雰囲気下で室温から200℃まで20℃/分で昇温したときに観察される融解ピークについて、最も高温側のピーク温度をその粒子またはバインダーの融点とし、中でも、最も高温の融点をコート層の融点とした。
【0044】
また、コート層が混合物でない場合や、粒子、バインダー以外の第3成分を含む場合、さらには、粒子とバインダーを所定の組成比で混合した後であっても、上記方法と同様に塗剤を乾燥させて固形分のみを採取し、示差走査熱量計で測定を行い、最も高温側のピーク温度をコート層の融点とした。なお、コート層を有するフィルムの表面からコート層のみを削り取ることで試料を採取し、同様の条件で測定することででもコート層の融点を決定することができる。
【0045】
(4)動摩擦係数
フィルムのコート層を有する面同士を接触させた際の動摩擦係数を、ASTM D−1894(1995)に従い測定した。動摩擦係数を新東科学(株)製表面性測定機HEIDON−14DRを用いて、サンプル移動速度200mm/分、荷重200g、接触面積63.5mm×63.5mmの条件で測定し、アナライジングレコーダーTYPE:HEIDON3655E−99で記録し評価した。
【0046】
(5)ガーレ透気度
フィルムから1辺の長さ100mmの正方形を切取り試料とした。JIS P 8117(1998)のB形のガーレ試験機を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間の測定を3回行った。透過時間の平均値をそのフィルムのガーレ透気度とした。なお、透気度が悪いサンプルの場合は、25mlの空気の透過時間が30分(1,800秒)を超えた時点で測定を中止し、ガーレ透気度が120分/100ml(7,200秒/100ml)を超えていると判断した。ガーレ透気度が10〜200秒/100mlの範囲内にあると、電池のセパレータとして使用したとき、電池内の内部抵抗が小さくなり、高い出力の電源として使用することができる。
【0047】
(6)熱処理後のガーレ透気度
内辺100mm四方のステンレス製金属枠にフィルムを固定し、130℃、30秒間の熱処理を熱風オーブンの中で行った。熱処理後、金属枠からフィルムを採取し、上記(5)と同様に測定することで、熱処理後のガーレ透気度を求めた。
【0048】
(6)シャットダウン性
内辺100mm四方のステンレス製金属枠にフィルムを固定し、<1>110℃、30秒間、<2>130℃、30秒間の熱処理を熱風オーブンの中で行った。熱処理をした<1><2>のフィルムを金属枠から採取し、上記(5)と同様に測定することで、熱処理後のガーレ透気度を求めた。
【0049】
A級:熱処理前と<1>の透気度の変化が30%未満であり、<2>では透気度が120分以上である。
【0050】
B級:熱処理前と<1>の透気度の変化が30〜50%であり、<2>では透気度が120分以上である。
【0051】
C級:熱処理前と<1>の透気度の変化が50%を超えている。
【0052】
D級:<2>で透気度が120分未満である。
A級およびB級を合格とした。
【0053】
(7)工程通過性
フィルムを幅12.7mmのテープ状にスリットしたスリットフィルムを、テープ走行試験器を用いてステンレス製ガイドピン(表面粗度:Raで100nm)上を走行させた(走行速度25m/分、巻き付け角60°、出側張力90g、走行回数1回)。この時にフィルムにシワが発生するかどうかを目視にて100m観察し、以下の基準で判定した。
【0054】
A級:シワが発生しない。
【0055】
B級:シワが発生する。
A級を合格とした。
【0056】
(8)コート層の密着性
コート層面にセロハンテープ(ニチバン製18mm幅)を貼り,その後勢いよくテープをはがし,テープはく離時の破壊モードでコート層とフィルムの密着性を評価した。
【0057】
A級:多孔フィルム内での材料破壊であった。
【0058】
B級:コート層とフィルムの界面はく離であった。
A級を合格とした。
【0059】
(9)セパレータとしての評価
以下の基準でリチウムイオン二次電池のセパレータとして使用した際の有用性を判断した。
【0060】
S級:透気性に優れ(10〜200秒/100ml)、かつシャットダウン性、工程通過性、コート層の密着性がいずれも合格。
【0061】
A級:透気性に劣る(ガーレ透気度が200秒/100mlを超える)が、シャットダウン性、工程通過性コート層の密着性がいずれも合格。
【0062】
B級:シャットダウン性、工程通過性もしくはコート層の密着性のいずれか1つ以上が不合格。
S級およびA級であればリチウムイオン二次電池セパレータ用途に合格。
【0063】
(実施例1)
多孔性のポリプロピレンフィルムの原料樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFSX80E4(以下、PP−1と表記)を92質量部、高溶融張力ポリプロピレン樹脂であるBasell製ポリプロピレンPF−814(以下、HMS−PPと表記)を1質量部、エチレン−オクテン−1共重合体であるダウ・ケミカル製 Engage8411(メルトインデックス:18g/10分、以下、単にPEと表記)を7質量部に加えて、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、Nu−100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.2質量部、さらに酸化防止剤である千葉・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.15、0.1質量部(以下、単に酸防剤と表記し、特に記載のない限り3:2の質量比で使用)を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0064】
このチップを単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、25μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、100℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6倍に、延伸速度900%/分で延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。このフィルムのガーレ透気度は70秒/100mlであった。
【0065】
ついで、該フィルムの片面(溶融押出時にドラムに接触した面、以下D面と表記)にコロナ放電処理を施した。塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“W100”(融点128℃)を90質量部と同じくケミパール“EP150H”(融点115℃)を10質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部を混合した懸濁液を準備した。塗剤をマイヤーバーにてコーティングし、その後70℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み28μmの多孔性フィルムを得た。
【0066】
(実施例2)
多孔性のポリプロピレンフィルムの原料樹脂として、PP−1を94質量部、HMS−PPを1質量部、PEを5質量部に加えて、β晶核剤を0.2質量部、さらに酸防剤0.25質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0067】
このチップを単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、30μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、100℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6.5倍に、延伸速度1,100%/分で延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、厚み22μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。このフィルムのガーレ透気度は100秒/100mlであった。
【0068】
ついで、該フィルムのD面にコロナ放電処理を施した。塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“W400”(融点110℃)を80質量部と同じくケミパール“EP150H”(融点115℃)を20質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部を混合した懸濁液を準備した。塗剤をマイヤーバーにてコーティングし、その後50℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み25μmの多孔性フィルムを得た。
【0069】
(実施例3)
多孔性のポリプロピレンフィルムの原料樹脂として、PP−1を98質量部、HMS−PPを1質量部、PEを1質量部に加えて、β晶核剤を0.2質量部、さらに酸防剤0.25質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0070】
このチップを単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、30μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、100℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、140℃で6倍に、延伸速度900%/分で延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、厚み20μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。このフィルムのガーレ透気度は150秒/100mlであった。
【0071】
ついで、該フィルムのD面にコロナ放電処理を施した。塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“W400”(融点110℃)を60質量部と同じくケミパール“EP150H”(融点115℃)を40質量部とを混合した懸濁液を準備した。塗剤をマイヤーバーにてコーティングし、その後90℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み24μmの多孔性フィルムを得た。
【0072】
(実施例4)
多孔性のポリプロピレンフィルムの原料樹脂として、PP−1を94質量部、HMS−PPを1質量部、PEを5質量部に加えて、β晶核剤を0.2質量部、さらに酸防剤0.25質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0073】
このチップを単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、30μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、100℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6.5倍に、延伸速度1,100%/分で延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、厚み22μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。このフィルムのガーレ透気度は130秒/100mlであった。
【0074】
ついで、該フィルムのD面にコロナ放電処理を施した。塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“W400”(融点110℃)を50質量部と同じくケミパール“EP150H”(融点115℃)を50質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部を混合した懸濁液を準備した。塗剤をマイヤーバーにてコーティングし、その後50℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み26μmの多孔性フィルムを得た。
【0075】
(実施例5)
多孔性のポリプロピレンフィルムの原料樹脂として、PP−1を92質量部、HMS−PPを1質量部、PEを7質量部に加えて、β晶核剤を0.2質量部、さらに酸防剤0.25質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0076】
このチップを単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、30μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、100℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6倍に、延伸速度1,100%/分で延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、厚み22μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。このフィルムのガーレ透気度は140秒/100mlであった。
【0077】
ついで、該フィルムのD面にコロナ放電処理を施した。塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“W100”(融点128℃)を70質量部と同じくケミパール“EP150H”(融点115℃)を30質量部、イオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部を混合した懸濁液を準備した。塗剤をマイヤーバーにてコーティングし、その後60℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み25μmの多孔性フィルムを得た。
【0078】
(実施例6)
実施例5において、コート層用の塗剤を三井化学(株)製ケミパール“EP150H”(融点115℃)を100質量部、イオン交換水200質量部、エタノール(特級)100質量部を混合した懸濁液に変更する以外は同様にして製膜、コーティングを行い、トータル厚み23ミクロンの多孔性フィルムを得た。
【0079】
(比較例1)
多孔性のポリプロピレンフィルムの原料樹脂として、PP−1を96質量部、HMS−PPを1質量部、PEを3質量部に加えて、β晶核剤を0.2質量部、さらに酸防剤0.25質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0080】
このチップを単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、30μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、100℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6.5倍に、延伸速度1,100%/分で延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、厚み22μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。このフィルムのガーレ透気度は180秒/100mlであった。
【0081】
ついで、該フィルムのD面にコロナ放電処理を施した。塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“M200”(融点75℃)を用いた。塗剤をマイヤーバーにてコーティングし、その後70℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み25μmの多孔性フィルムを得た。
【0082】
(比較例2)
多孔性のポリプロピレンフィルムの原料樹脂として、PP−1を96質量部、HMS−PPを1質量部、PEを3質量部に加えて、β晶核剤を0.2質量部、さらに酸防剤0.25質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0083】
このチップを単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、30μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、100℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6.5倍に、延伸速度1,100%/分で延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、厚み22μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0084】
ついで、該フィルムのD面にコロナ放電処理を施した。塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“S300”(融点65℃)を100質量部をイオン交換水80質量部、エタノール(特級)20質量部で希釈した懸濁液を準備した。塗剤をマイヤーバーにてコーティングし、その後50℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み25μmの多孔性フィルムを得た。
【0085】
(比較例3)
多孔性のポリプロピレンフィルムの原料樹脂として、PP−1を96質量部、HMS−PPを1質量部、PEを3質量部に加えて、β晶核剤を0.2質量部、さらに酸防剤0.25質量部を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてチップ原料とした。
【0086】
このチップを単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、30μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、100℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6.5倍に、延伸速度1,100%/分で延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、厚み24μmの多孔性ポリプロピレンフィルムを得た。
【0087】
ついで、該フィルムのD面にコロナ放電処理を施した。塗剤として、三井化学(株)製ケミパール“W400”(融点110℃)を50質量部と同じくケミパール“EP150H”(融点115℃)を50質量部、イオン交換水500質量部、エタノール(特級)400質量部を混合した懸濁液を準備した。塗剤をマイヤーバーにてコーティングし、その後70℃の熱風オーブン中で1分間乾燥させることで、トータル厚み25μmの多孔性フィルムを得た。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
本発明の要件を満足する実施例ではコート層を設けた後の透気性が良好であり、なおかつそれが110℃の熱履歴では維持させるが、130℃の熱履歴で透気性を喪失する。さらに、工程通過性にも優れることから、セパレータとして高い評価を得ることができた。一方、比較例では、工程通過性が悪かったり、コーティングを行っただけで実質上透気性を喪失していたりしており、セパレータとして好適に使用することができるレベルではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の多孔性フィルムは、優れた透気性、機械特性を有するだけでなく、易滑性、シャットダウン性を有していることから、特にリチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池のセパレータとして好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、融点が100〜150℃であるコート層を有し、コート層同士の動摩擦係数が0.1〜0.4である多孔性フィルム。
【請求項2】
コート層が、融点が100〜150℃の粒子と融点が100〜150℃のバインダーとを含んでいる、請求項1に記載の多孔性フィルム。
【請求項3】
コート層を構成する粒子とバインダーの質量組成比が95:5〜60:40である、請求項2に記載の多孔性フィルム。
【請求項4】
ガーレ透気度が10〜200秒/100mlである、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔性フィルム。
【請求項5】
130℃、30秒間の熱処理後のガーレ透気度が120分/100ml以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の多孔性フィルムを、セパレータとして用いてなる蓄電デバイス。

【公開番号】特開2009−19118(P2009−19118A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182892(P2007−182892)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】