説明

多孔性フィルムおよび蓄電デバイス

【課題】 蓄電デバイス用のセパレータとして使用したとき電池寿命や信頼性に優れた多孔性フィルムを提供すること。
【解決手段】 バブルポイント法による最大孔径をDmax、ハーフドライ法による平均孔径をDaveとしたとき、Dmax/Daveの値が1.05以下である多孔性フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用のセパレータとして使用したとき電池寿命や信頼性に極めて優れる多孔性フィルム、及び該多孔性ポリプロピレンフィルムを蓄電デバイス用セパレータとして用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性フィルムは、電池や電解コンデンサーのセパレータや各種分離膜、衣料、医療用途における透湿防水膜、フラットパネルディスプレイの反射板や感熱転写記録シートなど多岐に亘る用途への展開が検討されている。中でも、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話、デジタルカメラなどのモバイル機器などに広く使用されているリチウムイオン電池用のセパレータとして、多孔性フィルムは好適である。特に近年、電気自動車やハイブリッド車にリチウムイオン電池が使用されるようになり、高出力高容量の電池を長年使用するケースが増えることから、高出力で充放電したときの電池寿命や信頼性に対する要求も厳しいものになってきている。また、電池のサイズが大きくなり使用する面積が増えることから、低コスト化も強く望まれている。
【0003】
一般的にリチウムイオン電池の電池寿命や信頼性を向上させるには、孔の構造を均一化することによって、不均一な電気化学反応を低減させることが重要とされている。孔構造の均一性の指標の1つとして、バブルポイント測定により求められる、最大孔径(Dmax)と平均孔径(Dave)の比が挙げられる。最大孔径とは、多孔性フィルムに液体を充填させ片面から圧(空気)をかけ、圧力を上昇させていったときに、はじめに空気が透過したときの圧力(バブルポイント)から計算される孔径であり、フィルム面内で最も大きな孔の径が測定される。一方、平均孔径とは、測定面積全体で空気が透過している際の圧力から計算される孔径である。つまり、平均孔径に対する最大孔径の比(Dmax/Dave)を1に近づけると言うことは、フィルム面内で孔構造が均一であることを意味し、セパレータとして使用したとき不均一な電気化学反応を低減して電池寿命や信頼性を向上することができる。このような孔径を制御する手法として数多くの検討がされている(例えば特許文献1〜9)。しかし、これらの検討で得られている多孔性フィルムの平均孔径に対する最大孔径の比は、特許文献9に記載の1.08程度が下限であり、高い信頼性と長寿命が求められる自動車用のセパレータとしては、更なる改善が必要であった。
【0004】
一方、生産性に優れ、低コストでの製膜が可能な製法として、乾式法であり、かつ二軸延伸により製膜されるβ晶法が提案されている(たとえば、特許文献10〜12参照)。しかし、特許文献10に記載の通り、該方法による平均孔径に対する最大孔径の比も1.08〜1.10程度であり、更なる改善が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/061599号パンフレット
【特許文献2】特開2010−95629号公報
【特許文献3】特開2009−132904号公報
【特許文献4】特開2009−249477号公報
【特許文献5】国際公開第2008/093572号パンフレット
【特許文献6】特開2005−71978号公報
【特許文献7】特開2003−128829号公報
【特許文献8】特開2009−149710号公報
【特許文献9】特開平2−88649号公報
【特許文献10】国際公開第2002/066233号パンフレット
【特許文献11】特開平6−100720号公報
【特許文献12】特開平9−255804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、蓄電デバイス用のセパレータとして使用したとき電池寿命や信頼性に極めて優れた多孔性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題は、バブルポイント法による最大孔径をDmax、ハーフドライ法による平均孔径をDaveとしたとき、Dmax/Daveの値が1.05以下である多孔性フィルムによって達成可能である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔性フィルムは、孔構造が均一であり、蓄電デバイス用のセパレータとして使用したとき電池寿命や信頼性に極めて優れることから、自動車用などの蓄電デバイス用セパレータとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施態様(実施例1)に係る多孔性フィルムのTD/ZD断面の概略断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多孔性フィルムは、バブルポイント法による最大孔径をDmax、ハーフドライ法による平均孔径をDaveとしたとき、Dmax/Daveの値が1.05以下である。平均孔径に対する最大孔径の比を1.05以下とすることにより、フィルム面内の孔構造が極めて均一になり、セパレータとして使用したとき不均一な電気化学反応を低減できることから、特に高い信頼性と長寿命が求められる自動車用のセパレータとして好適に使用することができる。上記した平均孔径に対する最大孔径の比は1.03以下であることがより好ましく、1.01以下であることがさらに好ましい。平均孔径に対する最大孔径の比の下限は、理論上は1.00であるが、孔径分布が極めて均一な多孔性フィルムを測定すると、希に平均孔径が最大孔径より大きく測定される場合がある。このような観点から、上記した平均孔径に対する最大孔径の比の下限は0.95程度である。なお、上記した平均孔径に対する最大孔径の比は、後述するβ晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)の添加量、キャスト条件、延伸条件を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0011】
本発明の多孔性フィルムは、最大孔径が80nm未満であることが好ましい。最大孔径が80nm以上であると、孔径の大きな孔が存在することから、デンドライトが生成しやすく、電池の寿命が低下する場合がある。最大孔径は60nm未満であることがより好ましく、50nm未満であることがさらに好ましい。最大孔径は小さすぎると、透気性が低下して出力特性が低下したり、充放電を繰り返した際に発生する不純物で孔が詰まり電池寿命を低下する場合があるため15nm以上であることが好ましく、より好ましくは25nm以上、さらに好ましくは45nm以上である。この最大孔径は、後述するβ晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)の添加量、キャスト条件、延伸条件を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0012】
本発明の多孔性フィルムは、透気抵抗が10〜1,000秒/100mlであることが好ましい。透気抵抗が10秒/100ml未満であると、最大孔径が大きくなり、電池の寿命が低下する場合がある。1,000秒/100mlを超えると、透過性が低下し、蓄電デバイス用のセパレータに用いたとき十分な出力特性が得られない場合がある。透気抵抗は、50〜300秒/100mlであることがより好ましく、80〜250秒/100mlであることがさらに好ましい。透気抵抗は、後述するβ晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)の添加量、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸速度を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0013】
本発明の多孔性フィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する孔(以下、貫通孔という)を有している。この貫通孔を有する多孔性フィルムを得る方法としては、上記の特性を満たしていれば、製法や材質は特に限定されず、例えば製法としてはβ晶法やラメラ延伸法など乾式法、抽出法、更にはフィルムを製膜後レーザーなどを利用して物理的に貫通孔を開ける方法などを用いることができ、材質としてはポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレートなど公知のものを採用することができるが、材質は、材料コストを低減できセパレータを低価格で製造できるためポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレンがさらに好ましい。製法としては、β晶法を用いると二軸延伸により生産性良く製膜可能であり好ましい。
【0014】
以下に、β晶法を例にとって、本発明の多孔性フィルムの好ましい形態について説明する。
【0015】
β晶法により本発明の多孔性フィルムを得る場合、第1成分としてβ晶形成能を有するポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。ここで、ポリプロピレン樹脂は多孔性フィルム中における主成分であることが好ましい。「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上であることを意味する。
【0016】
従来、β晶法で得られる多孔性フィルムにおいて、バブルポイント測定における孔径を制御することは非常に困難であった。例えば、国際公開第2002/066233号パンフレットの表1には、バブルポイント法による最大孔径と平均孔径の測定値が記載されているが、厚みや透気度や空孔率を様々に変化させたサンプルを採取しているにもかかわらず、バブルポイント測定(BP法)による最大孔径および平均孔径の測定値は、ほぼ一定の値となっていることからも、制御の困難さが伺える。また、この時の平均孔径に対する最大孔径の比(Dmax/Dave)は1.08〜1.10程度であり、高い信頼性と長寿命が求められる自動車用のセパレータとしては、更なる改善が必要であった。
【0017】
β晶法とは、キャストシートに生成させたβ晶を、縦延伸により製膜方向に配向したフィブリルとし、そのフィブリルを幅方向の延伸(横延伸)で開裂させながら網目を形成させることにより、多孔性ポリプロピレンフィルムを得る方法であるが、横延伸での開裂を均一に行うことは非常に困難であり、平均孔径に対する最大孔径の比が大きくなっていたものと考えられる。本発明では後述する原料と製膜条件を採用することにより、β晶法で得られる多孔性フィルムの孔構造を著しく均一化させるに至った。尚、本願においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向あるいは長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。また、キャストシートとは、溶融した樹脂をキャストドラム上でシート状に成型した、未延伸のシートを示す。
【0018】
β晶法において透気性を良くする方法として、第1成分であるポリプロピレン樹脂(A)と、第2成分として該ポリプロピレン樹脂中に完全相溶せずドメインを形成することにより、フィブリル開裂を促進させるエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)を用いる例が知られている(例えば国際公開第2007/046225号パンフレット)。しかし、該方法を用いると透気性は良化するものの、孔サイズの均一性が不十分であった。
【0019】
本発明においては第3成分として、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のドメインを微細かつ均一に分散させるための分散剤(C)を用い、さらに後述する製膜条件を採用すると、孔構造が均一化可能であるため好ましい。
【0020】
つぎに本発明の多孔性フィルムに用いる原料について説明する。
【0021】
β晶法を用いてフィルムに貫通孔を形成せしめるためには、ポリプロピレン組成物のβ晶形成能が40%以上であることが好ましい。β晶形成能が40%未満ではフィルム製造時にβ晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果、透過性の低いフィルムしか得られない場合がある。一方、β晶形成能が90%を超えるようにするのは、後述するβ晶核剤を多量に添加したり、使用するポリプロピレン樹脂の立体規則性を極めて高くしたりする必要があり、製膜安定性が低下するなど工業的な実用価値が低い。工業的にはβ晶形成能は60〜85%が好ましく、65〜85%が特に好ましい。
【0022】
β晶形成能を40〜90%に制御するためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用したり、β晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いたりすることが好ましい。
【0023】
β晶核剤としては、たとえば、1,2−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、コハク酸マグネシウムなどのカルボン酸のアルカリあるいはアルカリ土類金属塩、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドに代表されるアミド系化合物、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのテトラオキサスピロ化合物、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族スルホン酸化合物、イミドカルボン酸誘導体、フタロシアンニン系顔料、キナクリドン系顔料を好ましく挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の含有量としては、ポリプロピレン組成物全体を基準とした場合に、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であればより好ましい。0.05質量%未満では、β晶の形成が不十分となり、多孔性ポリプロピレンフィルムの透気性が低下する場合がある。0.5質量%を超えると、粗大ボイドを形成し、平均孔径に対する最大孔径の比が大きくなる場合がある。
【0024】
本発明で用いるポリプロピレン樹脂には、メルトフローレート(以下、MFRと表記する)が2〜30g/10分のアイソタクチックポリプロピレン樹脂を用いることが押出成形性及び孔の均一な形成の観点から好ましい。ここで、MFRとはJIS K 7210(1995)で規定されている樹脂の溶融粘度を示す指標であり、ポリオレフィン樹脂の特徴を示す物性値である。本発明においては230℃、2.16kgで測定した値を指す。本発明においてはポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスは90〜99.9%の範囲であることが好ましい。より好ましくは95〜99%である。アイソタクチックインデックスが90%未満の場合、樹脂の結晶性が低くなってしまい、製膜性が低下したり、フィルムの強度が不十分となる場合がある。
【0025】
本発明の多孔性フィルムを形成するポリプロピレン組成物としては、ホモポリプロピレンを用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下の範囲で共重合した樹脂を用いることもできる。
【0026】
本発明の多孔性フィルムを形成するポリプロピレン組成物は、二軸延伸を行って貫通孔を形成する場合、延伸時の空隙形成効率の向上や、孔径が拡大することによる透気性向上の観点から、第2成分としてエチレン・α−オレフィン共重合体(B)を含有することが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合した、融点が60〜90℃の共重合ポリエチレン樹脂(共重合PE樹脂)を好ましく用いることができる。この共重合ポリエチレンは市販されている樹脂、たとえば、ダウ・ケミカル製“Engage(エンゲージ)(登録商標)”(タイプ名:8411、8452、8100など)を挙げることができる。
【0027】
上記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)は本発明のフィルムを構成するポリプロピレン組成物全体を100質量%としたときに、10質量%以下含有することが透気向上の観点から好ましい。フィルムの機械特性の観点からは0.1〜7質量%であればより好ましく、より好ましくは1〜4質量%である。
【0028】
本発明の多孔性フィルムを形成するポリプロピレン組成物は、上記したポリプロピレン樹脂(A)とエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)と、その分散剤(C)とを含有することにより、孔構造が均一化されるため好ましい。
【0029】
本発明で用いる分散剤(C)としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のポリプロピレン樹脂(A)への分散性を高めることができるものであれば良いが、国際公開第2007/046225号パンフレットに記載の通り、ポリプロピレン樹脂とエチレン・α−オレフィン系共重合体の相溶性は良好であり、例えば一般にポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂の相溶化剤として用いられるエチレン・プロピレンランダム共重合体(エチレンプロピレンラバー)は本発明において孔構造均一化のための分散剤として機能しない。本発明の分散剤(C)としては、ポリプロピレンとの相溶性が高いセグメント(例えばポリプロピレンセグメント、エチレンブチレン共重合セグメント)とポリエチレンとの相溶性が高いセグメント(ポリエチレンセグメントなど)を各々有するブロック共重合体が好ましい。このような構造を有する樹脂として、市販されている樹脂、例えばJSR社製オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー(以下、CEBCと表記する)“DYNARON(ダイナロン)(登録商標)”(タイプ名:6100P、6200Pなど)や、ダウ・ケミカル社製オレフィンブロック共重合体“INFUSE OBC(登録商標)”を挙げることができる。分散剤(C)の添加量としてはエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、5〜33質量部であることがより好ましい。また、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のポリプロピレン樹脂(A)への分散性向上の観点および孔形成の均一性向上の観点から、分散剤(C)の融点は、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)の融点より、0〜60℃高いことが好ましく、15〜30℃高いことがより好ましい。
【0030】
本発明の多孔性フィルムを形成するポリプロピレン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましいが、ポリプロピレン組成物100質量部に対して酸化防止剤添加量は2質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0031】
本発明の多孔性フィルムを形成するポリプロピレン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、無機あるいは有機粒子からなる孔形成助剤を含有させてもよい。含有量はポリプロピレン組成物100質量部に対して5質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。5質量部を超えると、セパレータとして使用したとき、脱落した粒子が電池性能を低下させたり、原料コストが高くなり、生産性が低下する場合がある。
【0032】
本発明の多孔性フィルムのフィルム総厚みは特に限定されず、用途により適宜選定されるものであり、2〜300μmであることが好ましいが、セパレータ用途として用いる場合は、10〜30μmであることが好ましい。総厚みが10μm未満では使用時にフィルムが破断する場合があり、30μmを超えると透気性が低下してセパレータとして用いたとき、出力特性が低下したり、蓄電デバイス内に占める多孔性フィルムの体積割合が高くなりすぎてしまい、高いエネルギー密度を得ることができなくなることがある。フィルム総厚みは12〜25μmであればより好ましく、15〜20μmであればなお好ましい。なお、2μm未満では強度が低すぎて製膜が困難な場合があり、300μmを超えると透気性が低下する場合がある。
【0033】
本発明の多孔性フィルムは空孔率が30〜80%であることが好ましい。空孔率が30%未満では、特に高出力電池用のセパレータとして使用したときに電気抵抗が大きくなる場合がある。一方、空孔率が80%を超えると、多孔性フィルムの機械強度が低くなりすぎる場合がある。空孔率は40〜75%であればより好ましく、50〜70%であれば特に好ましい。
【0034】
空孔率は、β晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)の添加量を前記範囲とすることや、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0035】
本発明の多孔性フィルムは、多孔性フィルムの面方向に存在する網目構造が、太さが50nm以下のフィブリルを含むことが好ましく、太さが5〜20nmのフィブリルを含むとより好ましい。図1に本発明の好ましい形態で得られた多孔性フィルムの幅方向と厚み方向を含む平面における断面写真を示す。図1中のaは網目構造を示す。図1中のbは、網目構造を形成するフィブリルを示す。本発明の多孔性フィルムは、多孔性フィルムの面方向に存在する網目構造が、太さが50nm以下のフィブリルを含むことが好ましく、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。フィブリルの太さが50nm以下のフィブリルを含んでなる網目構造が形成されるのは、延伸によるフィブリルの開裂が高度に均一に生じた場合であると考えられる。特に、フィブリルの太さが30nm以下であると、ポリプロピレンの結晶サイズに近いため、ほぼ最小単位で孔を形成することが可能となり、孔構造の均一性が飛躍的に向上するものと考えられる。本発明の目的を達成するためには、上述したような太さが50nm以下のフィブリルで構成される網目部分が、厚み方向で少なくとも1カ所存在することが好ましい。
【0036】
本発明の多孔性フィルムは、本発明の効果を損ねない範囲で、様々な効果を付与する目的で積層構成をとっても構わない。ただし、積層構成をとる場合は、積層する層の平均孔径が本発明の多孔性フィルムの平均孔径より小さいと、本発明の効果を得られないことがある。積層数としては、2層積層でも3層積層でも、また、それ以上の積層数でもいずれでも構わない。積層の方法としては、共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式でも、ラミネートによる多孔性フィルム同士を貼り合わせる方法でもいずれでも構わない。積層構成としては、例えば、低温でのシャットダウン性を付与する目的でポリエチレンを含む層を積層したり、強度や耐熱性を付与する目的で粒子を含む層を積層することができる。積層構成とする場合には、表層を構成する樹脂にはポリエチレン系樹脂、エチレン共重合樹脂を含まないことが好ましい。表層にエチレン成分が存在すると電池用セパレータとして使用したとき耐酸化性が低下する場合がある。
【0037】
以下に本発明の多孔性フィルムの製造方法を具体的に説明する。なお、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0038】
ポリプロピレン樹脂(A)として、MFR8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂99.5質量部、β晶核剤としてN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.3質量部、酸化防止剤0.2質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給して溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(a)を準備する。この際、溶融温度は270〜300℃とすることが好ましい。また同様に、上記のホモポリプロピレン樹脂64.8質量部、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)として市販のMFR18g/10分の超低密度ポリエチレン樹脂エチレン・オクテン−1共重合体を30質量部、分散剤(C)として市販のCEBC5質量部、酸化防止剤0.2質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(b)を準備する。
【0039】
次に、原料(a)89.7質量部、原料(b)10質量部、酸化防止剤0.3質量部をドライブレンドにて混合して単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。次に、途中に設置したフィルターにて、異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸のキャストシートを得る。本発明では、均一な孔構造を得るために、キャストシート中のエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のドメイン形状や分散状態を制御することが重要であり、上述した分散剤(C)を添加することに加え、押出の際、ダイでのせん断速度を100〜1,000sec−1とすることが好ましい。より好ましくは150〜800sec−1であり、さらに好ましくは200〜600sec−1である。ダイでのせん断速度は式(1)で表される。ダイでのせん断速度が100sec−1未満であると、せん断が十分にかからずドメイン形状の制御が困難となる場合がある。また、ダイでのせん断速度が1,000sec−1を超えると、必要以上にドメインにせん断がかかってしまいドメイン形状の制御が困難となる場合がある。
【0040】
せん断速度(sec−1)=6Q/ρWt ・・・(1)
Q:流量(kg/sec)
ρ:比重(kg/cm
W:溝幅(cm)
t:溝間隙(cm)
上記のようにダイのせん断速度を好ましい範囲内とすることでキャストシート中のエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)を主体とするドメイン(オレフィン系共重合体(B)を主体とし、分散剤(C)が混合されてある)を微細かつ均一に分散させることが可能である。
【0041】
ここで、TD/ZD断面の平均ドメイン径は5〜100nmであることが好ましく、より好ましくは10〜90nm、さらに好ましくは、15〜80nmである。ここで、TD/ZD断面とは、フィルムを、厚み方向に平行な直線と幅方向に平行な直線を通る平面で切断したときの断面を示す。ドメイン径が5nm未満の場合、延伸時のフィブリルの開裂を促す効果が小さく、透気性が低下する場合がある。ドメイン径が100nmを超えると孔のサイズが大きくなり突刺強度に劣る場合がある。通常、ダイのせん断のみによりドメイン径を制御しようとすると、せん断のかかりやすい厚み方向の表層付近はドメイン径が小さくなるが、厚み方向の中央付近はドメイン径が大きくなってしまい、均一な孔構造を得るのが困難であったが、本発明においては、上述した分散剤(C)を用い、上記範囲で製膜することにより、孔構造の均一性が高い多孔性フィルムが得られる。
【0042】
ダイのせん断速度が上述した範囲となるようにポリマーの流量、Tダイの溝幅、溝間隙を適宜調整する。ポリマーの流量は押出安定性の観点から40〜500kg/hrの範囲が好ましい。Tダイの溝幅は生産性の観点から200〜1,000mmの範囲が好ましい。Tダイの溝間隙は押出系内の内圧やキャスト精度の観点から0.8〜2mmの範囲が好ましい。また、キャストドラムは、表面温度が105〜130℃であることが、キャストシートのβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。この際、特にシートの端部の成形が、後の延伸性に影響するので、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態から、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。
【0043】
次に、得られたキャストシートを二軸配向させ、フィルム中に空孔を形成する。二軸配向させる方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、透気性と突刺特性のバランスの取れたフィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に、長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましく、孔構造が極めて均一になることから、長手方向に延伸後、幅方向に延伸し、さらに長手方向および幅方向に同時二軸延伸を行うことが最も好ましい。
【0044】
具体的な延伸条件としては、まず、キャストシートを長手方向に延伸する温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としては、90〜140℃であることが好ましい。90℃未満では、フィルムが破断する場合がある。140℃を超えると、孔構造が不均一になったり、透気性が低下する場合がある。孔構造の均一性の観点から、より好ましくは100〜130℃、特に好ましくは115〜125℃である。延伸倍率としては、3〜6倍であることが好ましい。延伸倍率を高くするほど透気性は良化するが、6倍を超えて延伸すると、次の横延伸工程でフィルム破れが起きやすくなったり、孔構造が不均一になってしまう場合がある。孔構造の均一性の観点から、延伸倍率はより好ましくは3〜4.5倍である。
【0045】
次に、得られた縦延伸フィルムの横延伸を行う。このときの横延伸速度としては低速である方が孔構造の均一性の観点から好ましく、60〜5,000%/分で行うことが好ましく、60〜1,500%/分であればより好ましい。横延伸温度は、好ましくは130〜155℃である。130℃未満ではフィルムが破断する場合があり、155℃を超えると孔構造が不均一になったり、透気性が低下する場合がある。延伸温度は、より好ましくは145〜155℃である。幅方向の延伸倍率は4〜12倍であることが好ましい。4倍未満であると、透気性が低下したり、フィブリルの開裂が不十分で孔構造が不均一になる場合がある。12倍を超えるとフィルムが破断したり、フィブリルの開裂が進みすぎて、孔径が大きくなる部分が発生し、孔構造が不均一になる場合がある。孔構造の均一性の観点から、幅方向の延伸倍率は、より好ましくは7〜11倍、更に好ましくは6〜8倍である。面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)としては、好ましくは30〜60倍である。
【0046】
さらに、横延伸後の多孔性フィルムを製膜方向および幅方向に同時二軸延伸を行うと、未開裂のフィブリルが均一に開裂し、孔構造の均一性が向上するため好ましい。この時の延伸温度は前工程の横延伸の温度をTTDとすると、(TTD−5)〜TTD℃であることが好ましい。延伸倍率は横延伸後のフィルム寸法に対して、製膜方向および幅方向にそれぞれ1.1〜1.5倍であることが好ましく、1.15〜1.3倍であるとより好ましい。ついで、そのまま熱固定を行うが、その温度は150℃以上160℃以下が好ましく、熱固定時間は5〜30秒間であることが好ましい。さらに、熱固定時にはフィルムの長手方向および/もしくは幅方向に弛緩させながら行ってもよく、特に幅方向の弛緩率を5〜15%とすることが、熱寸法安定性の観点から好ましい。
【0047】
本発明の多孔性フィルムは、孔構造の均一性に優れることから、包装用品、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シート用途で用いることができるが、特に、蓄電デバイス用のセパレータとして使用したとき電池寿命や信頼性に極めて優れることから、蓄電デバイス用セパレータとして好適に使用することができる。ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。本発明の多孔性フィルムを用いたセパレータを使用した蓄電デバイスは、セパレータの優れた特性から産業機器や自動車の電源装置に好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0049】
(1)最大孔径Dmax、平均孔径Dave
多孔性フィルムから一辺が50mmの正六角形となるように切取り試料とした。バブルポイント法(JIS K 3832(1990))に基づき、Perm−Porometer(Porous Materials,Inc.製CFP−1200A)を用いて測定を行った。また、ハーフドライ法はASTM E1294−89(1999)に基づき測定を行った。ハーフドライ法の濡れ流量曲線を描くための試料に含浸させる液体は3M製フロリナートFC−40(表面張力16dynes/cm)を用いた。液体を含浸させた試料を、PMI社推奨Oリング(サイズ2−130)をはめたチャンバー内へ空気が噛み込まないように設置し、その上に同様のOリングをはめたシリンダーで挟み込んだ後、チャンバーキャップを締めサンプルセットした。測定モードはウェットアップ/ドライアップモードとし、ウェット試験及びドライ試験を同一の試料で測定した。測定パラメータは、バブルフローを10cc/分、バブルタイムを200とした以外はデフォルト値とした。推定バブルポイント圧力は0(大気圧)とした。測定は試料をかえて3回行い、得られた最大孔径、平均孔径の平均値をそのフィルムのDmax、Daveとした。なお、測定の精度を上げるため、試料測定の前にリークテストを実施した。リークテストの条件は、最大圧力160PSI、ステップ160PSI、保持時間10分とし、リークが1%/時以下であることを確認した上で、上記した試料の測定を行うこととした。
【0050】
(2)透気抵抗
多孔性フィルムから100mm×100mmの大きさの正方形を切取り試料とした。JIS P 8117(1998)のB形ガーレー試験器を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間の測定を行った。測定は試料をかえて3回行い、透過時間の平均値をそのフィルムの透気性とした。なお、フィルムに貫通孔が形成されていることは、この透気性の値が有限値であることをもって確認できる。
【0051】
(3)β晶形成能
多孔性フィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から260℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0052】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
なお、ファーストランで観察される融解ピークから同様にβ晶の存在比率を算出することで、その試料の状態でのβ晶分率を算出することができる。
【0053】
(4)フィルム総厚み
接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(10.5mmφ超硬球面測定子、測定荷重0.06N)にて測定した。測定は場所をかえて10回行い、その平均値を多孔性フィルムの総厚みとした。
【0054】
(5)空孔率
多孔性フィルムを30mm×40mmの大きさに切取り試料とした。電子比重計(ミラージュ貿易(株)製SD−120L)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて比重の測定を行った。測定を3回行い、平均値をそのフィルムの比重ρとした。
【0055】
次に、測定したフィルムを280℃、5MPaで熱プレスを行い、その後、25℃の水で急冷して、空孔を完全に消去したシートを作成した。このシートの比重を上記した方法で同様に測定し、平均値を樹脂の比重(d)とした。なお、後述する実施例においては、いずれの場合も樹脂の比重dは0.91であった。フィルムの比重と樹脂の比重から、以下の式により空孔率を算出した。
【0056】
空孔率(%) = 〔( d − ρ ) / d 〕 × 100
(6)網目構造を形成するフィブリルの太さ
クロスセクションポリッシャ(日本電子製SM−9010)を用いてクライオ処理したサンプルの幅方向と厚み方向を含む平面における断面を作製後、観察面に白金コートをして観察試料とした。次に、日立製作所社製電界放射走査電子顕微鏡(S−4800)を用いてフィルム断面を撮影倍率50,000倍で観察した。観察時の加速電圧は1.0kVとした。観察した画像より網目構造を形成するフィブリルの最も細い部分の太さを計測し、多孔性フィルムの面方向に存在する網目構造におけるフィブリルの太さとした。
【0057】
(7)メルトフローレート(MFR)
ポリプロピレン樹脂のMFRは、JIS K 7210(1995)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定する。ポリエチレン樹脂は、JIS K 7210(1995)の条件D(190℃、2.16kg)に準拠して測定する。
【0058】
(8)キャストシート中の異種成分の分散径(ドメイン径)の測定
ミクロトーム法を用い、キャストシートの幅方向−厚み方向に断面(TD/ZD断面)を有する超薄切片を採取した。採取した切片をRuOで染色し、下記条件にて透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて断面を観察した。この時例えば、ポリエチレン系樹脂(mVLDPEを含む)は、ポリプロピレンよりも黒く染まる。
【0059】
・装置 :(株)日立製作所製 透過型電子顕微鏡(TEM)H−7100FA
・加速電圧:100kV
・観察倍率:20,000倍。
【0060】
キャストシートの一方の表面からもう一方の表面までを、厚み方向に連続して観察した像を採取した。得られた像にキャストシートの厚み方向に平行に1μm相当の間隔をあけて2本の直線を引き、2本の直線の間に存在する全ての異種成分の分散径を測定した(単位:nm)。測定した分散径を平均し、得られた平均分散径を当該サンプルの分散径とした。
【0061】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製、FLX80E4、融点165℃、MFR=7.5g/10分)99.5質量部に、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.3質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(あ)を得た。
【0062】
また、ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製 FLX80E4)を65質量部と、エチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を30質量部、分散剤であるCEBC(JSR(株)製、ダイナロン6200P、MFR=2.5g/10分)を5質量部、酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(い)を得た。
【0063】
得られたポリプロピレン組成物(あ)80質量部とポリプロピレン組成物(い)20質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストしてキャストシートを得た。押出の際のダイのせん断速度は200sec−1であった。キャストシート中のドメイン径は50nmであった。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して140℃で幅方向に延伸速度1,200%/分で6倍延伸した。さらに、150℃で長手方向および幅方向に同時二軸延伸を1.2倍行い、そのまま、幅方向に10%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み25μmの多孔性フィルムを得た。本多孔性フィルムの断面SEM画像図1より求められた網目構造を形成するフィブリルの太さは15nmであった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0064】
(実施例2)
ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製 FLX80E4)を68質量部と、エチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を30質量部、分散剤であるCEBC(JSR(株)製、ダイナロン6200P、MFR=2.5g/10分)を2質量部、酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(う)を得た。
【0065】
得られたポリプロピレン組成物(あ)80質量部とポリプロピレン組成物(う)20質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストしてキャストシートを得た。押出の際のダイのせん断速度は200sec−1であった。キャストシート中のドメイン径は80nmであった。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して140℃で幅方向に延伸速度1,200%/分で6倍延伸した。さらに、150℃で長手方向および幅方向に同時二軸延伸を1.2倍行い、そのまま、幅方向に10%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み25μmの多孔性フィルムを得た。本多孔性フィルムの断面SEM画像より求められた網目構造を形成するフィブリルの太さは15nmであった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製 FLX80E4)を69質量部と、エチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を30質量部、分散剤であるCEBC(JSR(株)製、ダイナロン6200P、MFR=2.5g/10分)を1質量部、酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(え)を得た。
【0067】
得られたポリプロピレン組成物(あ)80質量部とポリプロピレン組成物(え)20質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストしてキャストシートを得た。押出の際のダイのせん断速度は200sec−1であった。キャストシート中のドメイン径は90nmであった。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して140℃で幅方向に延伸速度1,200%/分で6倍延伸した。さらに、150℃で長手方向および幅方向に同時二軸延伸を1.2倍行い、そのまま、幅方向に10%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み25μmの多孔性フィルムを得た。本多孔性フィルムの断面SEM画像より求められた網目構造を形成するフィブリルの太さは15nmであった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0068】
(実施例4)
同時二軸延伸の倍率を1.1倍にした以外は実施例1と同様に厚み25μmの多孔性フィルムを得た。本多孔性フィルムの断面SEM画像より求められた網目構造を形成するフィブリルの太さは15nmであった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0069】
(実施例5)
押出の際のダイのせん断速度が140sec−1になるようにダイの溝間隙を変更した以外は実施例1と同様に厚み25μmの多孔性フィルムを得た。キャストシート中のドメイン径は80nmであった。本多孔性フィルムの断面SEM画像より求められた網目構造を形成するフィブリルの太さは15nmであった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
多孔性フィルムとして、国際公開第2002/066233号パンフレットの実施例3に記載の方法で多孔性フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0071】
(比較例2)
ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製 FLX80E4)を70質量部と、エチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を30質量部、酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(お)を得た。
【0072】
得られたポリプロピレン組成物(あ)80質量部とポリプロピレン組成物(お)20質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストしてキャストシートを得た。押出の際のダイのせん断速度は200sec−1であった。キャストシート中のドメイン径は120nmであった。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して140℃で幅方向に延伸速度1,200%/分で6倍延伸した。さらに、150℃で長手方向および幅方向に同時二軸延伸を1.2倍行い、そのまま、幅方向に10%のリラックスを掛けながら155℃で7秒間の熱処理を行い、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み25μmの多孔性フィルムを得た。本多孔性フィルムの断面SEM画像より求められた網目構造を形成するフィブリルの太さは15nmであった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の多孔性フィルムは、蓄電デバイス用のセパレータとして使用したとき電池寿命や信頼性に極めて優れることから、自動車用などの蓄電デバイス用セパレータとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0075】
a・・・網目構造
b・・・網目構造を形成するフィブリル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バブルポイント法による最大孔径をDmax、ハーフドライ法による平均孔径をDaveとしたとき、Dmax/Daveの値が1.05以下である多孔性フィルム。
【請求項2】
最大孔径Dmaxが80nm未満である、請求項1に記載の多孔性フィルム。
【請求項3】
ポリオレフィンを主成分とする、請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項4】
ポリオレフィンがポリプロピレンである請求項3に記載の多孔性フィルム。
【請求項5】
多孔性フィルムのβ晶形成能が40%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔性フィルム。
【請求項6】
多孔性フィルムの面方向に存在する網目構造が、太さが50nm以下のフィブリルを含んでなる、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔性フィルム。
【請求項7】
蓄電デバイス用セパレータに使用される、請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の多孔性フィルムをセパレータとして用いた蓄電デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2013−100487(P2013−100487A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−226610(P2012−226610)
【出願日】平成24年10月12日(2012.10.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】