説明

多孔性フィルム

【課題】伸びが少なく、剛性を有し、巻回して電池内に収容されるセパレータとして好適に用いられる多孔性フィルムを提供する。
【解決手段】ガラス転移温度Tgが10℃〜200℃の非晶質熱可塑性樹脂と、平均粒径が0.1〜50μmの充填剤を含む樹脂組成物からなるフィルムで、該フィルムは延伸により空孔が設けられ、該フィルムの厚みが5μm以上300μm以下、透気度が10[sec/100cc]以上1000[sec/100cc]以下であり、電池缶内で正極と負極の間に介在されて渦巻き状に巻回させるセパレータとして用いられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性フィルムに関し、包装用、衛生用、畜産用、農業用、建築用、医療用、分離膜、光拡散板用、電池用セパレーター等の多岐に利用でき、特に、電池用セパレータとして好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔性フィルムは、蒸れが抑制できるため、オムツ等の衛生用品用途に広く使われている。この種の用途では、尿等は洩らさず湿気のみを通す性能が要求されると共に、腰がなく、柔かく肌触りが良いことが要求されている。
近年、多孔性フィルムは、農業用、畜産用、建材用、光拡散板等に用途が広がり、また、電池用セパレータとしても展開されている。しかし、農業用、畜産用、建材用、光拡散板等に用いた場合には、上記衛生用品として汎用されている柔らかいフィルムでは剛性がないため扱いにくいという問題がある。
【0003】
また、電池用セパレータとしての展開も広がっているが、セパレータとして多孔性フィルムを用いる場合には、種々の性能が要求される。
例えば、リチウムイオン二次電池のセパレータは、正極と負極と直接接触させて介在させるために、内部短絡の防止の点から絶縁性が要求され、かつ、リチウムイオンの通路となる透気性と電解液の拡散・保持機能を付与するために微細孔構造とし、さらに、異常発熱時に孔を溶融・遮断するシャットダウン機能が要求される。
【0004】
特に、リチウム電池の構成材料には多くの可燃性物質が使われているので、誤使用されても発火などの事故が起こることを防止するため、異常高温時にセパレータが溶解して微孔が閉鎖する上記シャットダウン機能が必須要件となる。この安全性の観点から、シャットダウン機能を具備したポリオレフィン系樹脂からなる微多孔膜を有するフィルムがセパレータとして使用されている。
しかし、シャットダウン後も何らかの理由で電池温度の上昇が続いてセパレータの耐熱温度を超えると、セパレータが溶融し、正極と負極との隔離性が著しく低下するため、電池内でショートが発生すると共に、最悪の場合に電池が発火する恐れがある。
【0005】
上記問題を解決するため、種々の多孔性フィルムおよび該多孔性フィルムからなるセパレータが提案されている。
例えば、特開2003−082139号(特許文献1)では、オレフィン系樹脂であるポリエチレン樹脂に充填剤および低分子量化合物を配合した多孔性フィルムおよび該フィルムよりなるセパレータが提案されている。この多孔性フィルムは延伸により多孔が設けられているため、他の多孔膜の製造方法(発泡法、抽出法、焼結法)と比較して安価で透気度の高い多孔性フィルムを得ることができる。
また、特開平10−50287号(特許文献2)ではポリオレフィン系樹脂と無機粉体等から構成された無機多孔膜からなるセパレータが開示されている。該セパレータは耐熱性の優れた無機粉体等を用いて、耐熱性の優れたセパレータとしている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に開示の多孔性フィルムおよび該多孔性フィルムからなるセパレータは、それぞれ透気性および耐熱性に優れているが、いずれもオレフィン樹脂の強度が低いため、該オレフィン樹脂を主成分とするフィルムは強度、剛性が不足し、フィルムの腰が弱い問題がある。よって、円筒形状の電池缶のセパレータとして用い、正極、セパレータおよび負極を重ねて渦巻状に捲回する工程で、セパレータが扱いにくく、安定した状態で高速に電池を作成することが困難であるという問題があると共に、セパレータが伸びて透気度が変化し、設計通りの電池特性が得られにくい問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−082139号公報
【特許文献2】特開平10−50287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、良好な透気性を保持したまま、所要の剛性および強度を備え、腰のあるフィルムとして扱い易いものとし、かつ、負荷をかけた時に伸びが少ないと共に耐熱性にも優れ、特に、電池用セパレータとして好適に用いられる多孔性フィルムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、ガラス転移温度Tgが10℃〜200℃の非晶質熱可塑性樹脂と、平均粒径が0.1〜50μmの充填剤を含む樹脂組成物からなるフィルムで、フィルム延伸により空孔が設けられ、該フィルムの厚みが5μm以上300μm以下、透気度が10[sec/100cc]以上1000[sec/100cc]以下であり、
電池缶内で正極と負極の間に介在されて渦巻き状に巻回させるセパレータとして用いられることを特徴とする多孔性フィルムを提供している。
【0010】
上記発明は、本発明者が数多くの樹脂から種々の配合、製法について鋭意研究し実験を積み重ねた結果、樹脂として本質的に結晶構造を持たず、ガラス転移温度の比較的高い非晶質熱可塑性樹脂を用いると、腰のあるフィルムが得られることを知見してなされたものである。即ち、非晶質樹脂として、ガラス転移温度の低い柔かい樹脂とガラス転移温度の高い硬い樹脂のうち、従来用いられなかったガラス転移温度が高く硬い樹脂を用いることにより、薄いフィルムでありながら剛性および強度を向上させることができる。
さらに、非晶質熱可塑性樹脂に比較的多くの充填剤(好ましくは、無機フィラー)を添加して更に耐熱性を高めたフィルムを作成し、このフィルムを延伸して充填剤との界面剥離で孔を設けることにより、良好な透気性を保持したまま、剛性および強度を向上させるとともに、引張強度が高く伸びの少ない優れた多孔性フィルムとしている。
【0011】
上記非晶質熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgを10℃〜200℃としているのは、本質的に結晶構造をもたず、樹脂として硬いものを用いるためである。10℃より低いと樹脂中の分子運動が活発であるため樹脂として柔かくなり、200℃よりも高い樹脂はフィルム加工が困難なことによる。
上記ガラス転移温度Tgは、好ましくは40℃以上、最も好ましくは100℃以上である。
【0012】
上記非晶質熱可塑性樹脂(A)としては、非晶質ポリオレフィン系樹脂、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリスチレン(PS)等が挙げられ、特に、非結晶ポリオレフィン樹脂が好ましい。
該非晶質ポリオレフィン系樹脂としては、結晶化を抑制すべくポリマー主鎖に立体的に嵩高い官能基を導入した6−メチル−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレンの開環重合体の水素添加物であるゼオネックス(日本ゼオン社の商品群名)、ノルボルネン樹脂系のアートン(JSR社の商品群名)、エチレン−ノルボルネン付加共重合体やエチレン−テトラシクロドデセン付加重合体であるアペル(三井石油化学社の商品群名)、TOPAS(Hoechst社製)等が挙げられる。
【0013】
上記充填剤の平均粒径を0.1〜50μmとしているのは、組成物中に均一に分散させるため、および、所望の空孔の大きさを得るためである。平均粒径が0.5μm未満とすると、充填剤同士の凝集により分散性が低下して延伸むらを引き起こすとともに、熱可塑性樹脂と充填剤との界面の接触面積が増大して、延伸による界面剥離が難しく、多孔化が困難になりやすいからである。一方、平均粒径が50μmを超えると、フィルムを薄くすることが困難となるのに加え、フィルムの機械強度が低下するからである。
充填剤の平均粒径は、好ましくは0.5〜5μm程度である。
【0014】
上記充填剤としては無機化合物及び有機化合物の何れの充填剤も使用でき、1種又は2種以上を組み合わせて使用できるが、有機化合物より無機化合物の方が強度および耐熱性を高めることができる点から好ましい。
上記無機化合物としては炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの塩化物、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカなどの酸化物のほか、タルク、クレー、マイカなどのケイ酸塩等が挙げられる。好ましくは硫酸バリウム、炭酸カルシウム、最も好ましくは硫酸バリウムである。
上記無機充填剤は樹脂中での分散性向上のため、表面処理剤で無機充填剤の表面を被覆して疎水化しておいてもかわまない。この表面処理剤としては、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸またはそれらの金属塩を挙げることができる。
【0015】
充填剤を有機化合物とする場合には、延伸温度において充填剤が溶融しないように、非晶質熱可塑性樹脂の成形温度よりも融点が高い樹脂粒子が好ましく、ゲル分が4〜10%程度の架橋した樹脂粒子がさらに好ましい。
該有機化合物の充填剤としては、超高分子量ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、メラミン、ベンゾグアナミンなどの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられ、特に、架橋させたポリスチレンが好ましい。
【0016】
上記非晶質熱可塑性樹脂と充填剤との配合比は、非結晶熱可塑性樹脂100質量部に対して充填剤を50質量部以上400質量部以下配合するのが好ましい。
上記配合比としているのは、充填剤を50質量部未満とすると、目的とする良好な透気性が発現されにくくなり、外観、風合いも悪くなりやすいからである。一方、400質量部を超えると、フィルム成形の際に樹脂焼けなど工程上の不具合を起こしやすくなり、フィルム強度も大幅に低下するからである。
より好ましくは、非結晶熱可塑性樹脂100質量部に対して充填剤を60質量部以上150質量部以下である。
【0017】
上記非結晶熱可塑性樹脂と充填剤とはフィルムの必須成分であるが、さらに、これらの原料を混合溶融した時に樹脂中への充填剤の分散性を向上させる目的で第三成分である可塑剤を配合することが好ましい。
この可塑剤としては、沸点が140℃以上あるいは/および140℃で1時間加熱した後の重量の減少率が加熱前の重量に対して10%以下の有機化合物を用いることが好ましい。さらに、該可塑剤は融点が25℃以上であることが好ましい。
可塑剤の沸点を140℃以上としているのは、140℃未満ではフィルム化する際に可塑剤が揮発して大きな空隙が発生し、フィルムとして形成できなくなるからである。また、140℃で1時間加熱した後の重量の減少率が加熱前の重量に対して10%以下としているのは、10%を越えると分解物が発生して大きな空隙が発生し、フィルムとして形成出来なくなるからである。
【0018】
上記可塑剤としては、エステル化合物、アミド化合物、側鎖を有する炭化水素重合体、シリコーンオイル、鉱油、ワックス類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでいるものが用いられる。
エステル化合物としては、テトラグリセリントリステアレート グリセリントリステアレート、ステアリルステアリレート、エチレンカーボネート、ジステアリルカーボネート等が挙げられる。
アミド化合物としては、エチレンビステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。
側鎖を有する炭化水素重合体としては、ポリαーオレフィン類で、炭素数4以上の側鎖を有するオリゴマー領域のものが好ましいが、エチレン−プロピレン共重合体、そのマレイン酸誘導体、イソブチレンの重合体、又はブタジエン、イソブチレンのオリゴマー及びその水添物やこれらの誘導体が挙げられる。
シリコーンオイルは公知のもので良く、例えばポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等が挙げられる。
鉱油としては、流動パラフィン、パラフィンワックス等が挙げられる。
具体的には、エステル化合物、アミド化合物脂肪酸、長鎖アルコール、パラフィンワックス、長鎖脂肪酸塩、長鎖アミン塩、長鎖アミン等の中で、融点が25℃以上で且つ140℃で固体もしくは液体であればよい。
【0019】
上記可塑剤を配合する場合、非晶質熱可塑性樹脂100質量部に対し、充填剤を50〜400質量部、可塑剤を1〜30質量部の配合比とするのが好ましい。
可塑剤を1質量部未満とすると、目的とする良好な延伸性が発現されにくくなり、外観、風合いも悪くなりやすいからである。一方、可塑剤が30質量部を超えると、フィルム成形の際に樹脂焼けなど工程上の不具合を起こしやすくなるからである。
より好ましくは、非晶質熱可塑性樹脂100質量部に対し、充填剤は60〜200質量部、可塑剤が1〜20質量部である。
【0020】
さらに、上記非晶質熱可塑性樹脂、充填剤を混合した組成物には、延伸助剤として可塑剤を配合してもよい。さらに、一般に組成物に配合される添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、スリップ剤、着色剤等を、多孔性フィルムの特性を損なわない程度の範囲で配合してもよい。
【0021】
本発明の多孔性フィルムの製造方法では、上記非晶質熱可塑性樹脂はパウダーあるいはペレット状、充填材はパウダー、可塑剤はパウダー、延伸助剤はペレット状として、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型ミキサー等の粉体混合機で混合し、1軸あるいは2軸混練機、ニーダー等で加熱混練し、ペレット化して造粒する
その後、ペレットを非晶質熱可塑性樹脂の融点以上、好ましくは融点+20℃以上で分解温度未満の温度条件下において、押出成形機等を用いて、溶融、製膜することによりフィルムを得ている。具体的には、Tダイ成形、インフレーション成形、カレンダー成形、プレス成形等が挙げられる。なお、ペレット化せずに直接成形機で製膜することもできる。
【0022】
上記ペレットはサイロ、ホッパー、フレコン等の原料を保存する設備、容器に一時的に保存しておいてもよい。
本発明では、通常、上記ペレットの水分率が1000ppm以下、好ましくは700ppm以下にして溶融成形してフィルム化している。ペレットの水分が1000ppmより大きいとゲル、ピンボールが極度に発生して好ましくないためである。一方、溶融混合物はペレット化せずに直接成形工程にもって行くことも可能であるが、この場合も溶融混合物の水分率が1000ppm以下となるように、溶融混練工程から成形工程までの途中で真空脱気もしくは解放脱気を行い、所定の水分率以下にして溶融樹脂のまま、次工程の押出機の供給口に投入し、溶融成形でフィルムとしても良い。
【0023】
製膜された上記フィルムの厚さは0.02〜2mmの範囲としている。このフィルムは、ロール延伸、テンター延伸、同時2軸延伸、圧延等の方法により、室温以上で樹脂の軟化点(JIS K6760による測定値)以下において、少なくとも1軸方向に延伸処理を施し、非晶質熱可塑性系樹脂と充填剤との界面を剥離させて、5〜300μmの厚さの多孔性フィルムを得ている。
【0024】
延伸は1軸でも2軸でも良い。好ましくは、フィルム長手方向の縦方向と、直交する横方法との2軸方向に延伸することが、引裂き性の面から好ましい。
2軸方向に延伸する場合は、最初にフィルムの長手方向(縦方向)、またはそれと直角をなす方向に1軸延伸し、次いで、該方向と直角をなす方向に2軸目の延伸を行う方法、および、フィルムの縦横両方向に同時に2軸延伸する方法を用いる。また、延伸した後には、必要に応じ、開孔径を安定させるために、熱固定処理を行ってもよい。
【0025】
延伸倍率は、延伸時のフィルムの破れ、得られるフィルムの透気度、フィルムの硬さ等に対応させている。なお、倍率が高すぎても低すぎても好ましくなく、かかる観点から、2軸延伸とした場合、本発明では電池用セパレータとして用いるフィルムの縦横方向の延伸倍率は、少なくとも一方向が1.5倍以上、好ましくは縦横方向の各延伸倍率が2倍以上6倍以下、最も好ましくは3倍以上4倍以下である。
【0026】
本発明の多孔質フィルムの厚さ、透気度等は、樹脂、充填剤、可塑剤の量や種類、延伸条件(延伸倍率、延伸温度等)によって自由に調整できる。そのため、該条件等を種々変化させることにより、所望の物性の多孔性フィルムを得ることができる。
【0027】
本発明の多孔性フィルムの厚みは、5μm以上300μm以下としている。これは5μm未満ではフィルムが破れやすくなり、300μmを超えると円筒型電池に収容して捲回し、同じ巻き径にする際、電極の面積が小さくなり、電池としての容量が小さくなり好ましくないためである。
厚みの最大値と最小値が厚みの平均の±25%以内とし、捲回する際、部分的に圧力がかかりセパレータの絶縁性が低下するのを防止している。
本発明の多孔性フィルムからなるセパレータでは、充填剤の含有量を多くしているため、充填剤の含有量が少ない或いは含有していないフィルムからなるセパレータと比較して強度が低下するが、厚みおよび厚みの振れの範囲を制御することで、所要の強度を持たせている。
【0028】
上記電池のセパレータとして用いる本発明の多孔性フィルムの透気度[sec/100cc]は10以上1000以下、好ましくは100〜500[sec/100cc]としている。
上記範囲に設定しているのは、透気度が10[sec/100cc]未満であると正極と負極とが短絡しやすいからであり、1000[sec/100cc]を越えるとイオンの移動が妨げられ、電池性能が低下するためである。
上記透気度(ガーレ値)はJIS P8117に準拠して、気度(秒/100cc)を測定している。
【0029】
セパレータとして用いる本発明の多孔性フィルムは、その引張弾性率を1000MPa以上4000MPa以下、好ましくは、1500MPa以上3000MPa以下としている。
引張弾性率を1000MPa以上4000MPa以下としているのは、1000MPa未満であるとフィルムの腰が弱く、渦巻き状に巻回する際に取り扱いにくいものとなる一方、4000MPaを越えると硬すぎて巻回時にクラックが生じやすいからである。該弾性率はJIS K7161に準拠して測定している。
【0030】
上記多孔性フィルムは、厚みが上記5〜300μm範囲の薄さにも関わらず、引張弾性率が上記範囲1000MPa〜4000MPaで硬さを有している一方、透気度が上記10〜1000[sec/100cc]であるため、従来存在しなかった薄さ、硬さ、透気度を有するセパレータを実現することができる。
【発明の効果】
【0031】
上述した如く、本発明に係わる多孔性フィルムは、透気性が良好で、かつ、剛性が高く伸びが少ないため取り扱いやすいものとなる。また、充填剤を比較的多く配合しているため、耐熱性を備え、特に、池用セパレータとして好適に用いることができる。
また、微細孔構造を持たせるために延伸法を採用しているため、製造コストも安価にできる等の種々の利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】上記多孔性フィルムの断面模式図である。
【図2】延伸による孔が形成される方法を示す説明図である。
【図3】電池内でのセパレータを示す一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施形態を説明する。
図1は多孔性フィルムの断面模式図であり、多孔性フィルム1は三次元網状の空孔1aを備え、該空孔1aは多孔性フィルムの両面1b、1cに連通し、多孔性フィルムの透気度は10〜1000[sec/100cc]の範囲内としている。
多孔性フィルム1aの厚さは5〜300μm、空孔1aの径は0.3μm以下としている。また、該多孔性フィルムの引張弾性率は1000MPa〜4000MPaとしている。
【0034】
上記多孔性フィルム1は非晶質熱可塑性樹脂としてガラス転移温度が10〜200℃(実施形態では130〜150℃)の非晶質ポリオレフィンを用い、充填剤として粒径0.1〜50μmの硫酸バリウムあるいは炭酸カルシウムを用い、さらに可塑剤を配合している。非晶質ポリオレフィン100質量部に対して充填剤は50〜400質量部(実施形態では100〜150質量部)、可塑剤は1〜30質量部(実施形態では5〜10質量部)配合している。
【0035】
上記成分を混合、混練して充填剤を樹脂中に分散させている。この混練物を所要温度で加熱して溶融した後、Tダイで成形してフィルムを成形している。得られたフィルムの厚さは0.02〜2mmとしている。
このフィルムを2軸延伸機で、まず、フィルムの長手方向(縦方向)に延伸倍率4.5倍で延伸し、ついで、長手方向と直交方向(横方向)に延伸倍率4倍で延伸している。
【0036】
上記縦・横方向の2軸延伸で、図2に示すように、樹脂11中に充填剤12が分散されているフィルム10は、樹脂11と充填剤12との界面で剥離が生じ、この剥離した部分を空孔1aとして、多孔性フィルム1を得ている。其の際、多孔性フィルム1の厚さは前記したように5〜300μmとしている。
上記多孔性フィルム1は、連続材からなるフィルム10を連続的に2軸延伸することで、連続材として得られ、コイル状に巻き取っている。
【0037】
得られた多孔性フィルム1を、本実施形態では、所要長さに切断して電池用のセパレータ1’としている。セパレータ1’は図3に示す円筒型のリチウム電池20の内部に、正極板21と負極板22との間に介在させて渦巻き状に巻回して収容している。
【0038】
詳しくは、正極板21は、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)に導電助剤としてリン状黒鉛を重量比90:5で加えて混合し、この混合物と、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合してスラリーにした。この正極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きなものを取り除いた後、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の正極板としている。
【0039】
負極板22は、平均粒径10μmの炭素材料を、フッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液と混合してスラリーにした。この負極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きなものを取り除いた後、厚さ18μmの帯状の銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形し切断し、帯状の負極板としている。
【0040】
これらの正極板21、負極板22の両極をセパレータ1’を介して互いに重なるようにして、渦巻き状に捲回し、巻き止めテープで外側を止めて捲回体としている。この渦巻き状に巻回する際、セパレータ1’は厚さが5〜40μmで、引張弾性率は1000MPa〜4000MPaの引張弾性率としているため、フィルムは巻回作業が容易にできる剛性および強度を備え、所謂、腰のあるフィルムとなるため、巻回作業時に取り扱い易いものとなる。
【0041】
上記正極板、セパレータおよび負極板を一体的に巻き付けた捲回体を有底円筒状の電池ケース内に充填し、正極及び負極のリード体24、25と溶接している。その後、電気ケースの開口周縁にガスケット26を介して正極蓋27を固定し、電池を組み立てている。
【0042】
多孔性フィルム1からなるセパレータは、絶縁性を有するため、両面に直接接触する正極板21と負極板22との短絡を防止し、リチウムイオンは空孔1aを透過する一方、液は透過させないため、電解液の拡散・保液を図ることができる。
【0043】
本発明の多孔性フィルムからなる実施例と、比較例の多孔性フィルムを作成した。
【0044】
(実施例1)
非晶質ポリオレフィン[日本ゼオン社製 ZEONOR 1410R(ガラス転移温度136℃)]100質量部に、可塑剤としてプロピレンカーボネート[和光純薬工業社製 試薬 融点−49℃]6質量部、充填剤として硫酸バリウム[堺化学社製 B−55]100質量部をブレンドしてコンパウンドを行った。上記硫酸バリウムは平均粒径0.66μmであった。
次に、上記溶融したコンパウンドを温度200℃でTダイに充填して成形を行い、原反シート(フィルム)を得た。原反シートの厚みは平均250μmであった。
次に、得られた原反シートを135℃でシートの長手方向(縦方向)に4.5倍、次いで145℃て横方向に4倍の延伸倍率で逐次延伸を行い、厚み平均25μmの多孔性フィルムを得た。
【0045】
(実施例2)
非晶質ポリオレフィン[日本ゼオン社製 ZEONEX R480R (ガラス転移温度138℃)]100質量部に、充填剤として炭酸カルシウム[日東粉化社製 NCC#2310]110質量部、可塑剤としてグリセリントリ(12−ヒドロキシステアレート)[豊国製油社製 HY−CASTOR OIL 融点 87℃]5質量部をブレンドしてコンパウンドを行った。上記炭酸カルシウムは平均粒径0.97μmであった。
次ぎに、上記コンパウンドを温度200℃でTダイ成形を行い原反シート(フィルム)を得た。該シートを135℃でシートの長手方向に4.5倍延伸し、次いで横方向に150℃で4倍延伸を行い、厚み平均200μmの多孔性フィルムを得た。
【0046】
(実施例3)
非晶質ポリオレフィン[三井化学社製 アペルAPL6015(ガラス転移温度145℃)]100質量部、充填剤として硫酸バリウム[堺化学社製 B−55]120質量部、可塑剤としてトリメリット酸トリ2エチルヘキシル[花王社製 トリメックスT一08 融点−45℃、]7質量部をブレンドしてコンパウンドを行った。該コンパウンドを温度200℃でTダイ成形を行い原反シート(フィルム)を得た。
該シートを140℃で縦方向に4.5倍延伸し、次いで横方向に150℃で4倍延伸し、厚み平均 25μmの多孔性フィルムを得た。
【0047】
(実施例4)
ポリスチレン(旭化成(株)製“スタイロン”666、ガラス転移温度105℃)100質量部、可塑剤としてエチレンビスステアリン酸アミド[日本油脂社製 アルフロ−H−50L 融点114℃]8質量部、充填剤として硫酸バリウム[堺化学社製 B−55]120質量部をブレンドしてコンパウンドを行った、該コンパウンドを温度170℃でTダイ成形を行い原反シート(フィルム)を得た。該原反シートを120℃で縦方向に4.5倍、次いで125℃で横方向に4倍の逐次延伸を行い、厚み平均45μmの多孔性フィルムを得た。
【0048】
(比較例1)
線状低密度ポリエチレン[三井化学社製 ウルトゼックス2023FP、密度;0.920g/cm3、メルトフローレート;2.1g/10min]、充填剤として炭酸カルシウム[日東粉化社製 NCC#2310]10質量部、可塑剤としてジメチルシリコーン[GE東芝シリコーン社製 商品名TSF451−100 25℃での動粘度 100mm2/sec]6質量部、をブレンドしてコンパウンドを行った。該コンパウンドを温度200℃でTダイ成形を行い原反シートを得た。得られた原反シートを80℃でシートの縦方向に4.5倍、次いで115℃横方向に4倍の逐次延伸を行い、厚み平均30μmの多孔性フィルムを得た。
【0049】
(比較例2)
ポリプロピレン[出光石油化学社製 F−200S、密度;0.900g/cm3、メルトフローレート;2.0g/10min]、充填剤として硫酸バリウム[堺化学社製 B−55]100質量部、可塑剤としてグリセリントリステアレート[和光純薬工業社製 試薬 融点72℃]8質量部をブレンドしてコンパウンドを行った。該コンパウンドを温度200℃でTダイ成形を行い原反シートを得た。得られた原反シートを110℃でシートの縦方向に4.5倍、次いで145℃横方向に4倍の逐次延伸を行い、厚み平均60μmの多孔性フィルムを得た。
【0050】
上記実施例1〜4、比較例1、2の多孔性フィルムの引張弾性率と透気性とを測定した。その結果を、下記の表1に示す。
透気度(ガーレ値)はJIS P8117に準拠して、通気度(秒/100cc)を測定している。
上記弾性率はJIS K7161に準拠して測定している。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、多孔性フィルムの引張弾性率は実施例1〜4は1500〜2200MPaでいずれも1000MPa以上であり、比較例1、2は200〜800MPaで、1000MPa未満であった。この結果から、実施例1〜4は比較例1、2と比べて引張弾性率が高められ、非常に良好な剛性を示し、腰のあるフィルムとなっていることが確認できた。これにより、実施例の多孔性フィルムをセパレータとして渦巻き状に巻回する作業時に、比較例のセパレータと比べて、巻回作業性が良くなると認められる
一方、実施例1〜4の透気度〔sec/100cc〕は、実施例1が310、実施例2は140、実施例3は230、実施例4は360、比較例1は330、比較例2は400で、いずれも100〜1000〔sec/100cc〕の範囲内であり、実施例1〜4は引張弾性率を高めているにかかわらず、比較例1、2と同様な肉厚で透気性は同等であった。
【0053】
上記測定結果より、本発明の実施例の多孔性フィルムは、透気性が良好で、かつ、フィルムとしての剛性が高く且つ伸びが少なく、電池のセパレータとして好適なものとなることが確認できた。
【符号の説明】
【0054】
1 多孔性フィルム
1a 空孔
1’セパレータ
10 フィルム
11 樹脂
12 充填剤
20 電池
21 正極板
22 負極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度Tgが10℃〜200℃の非晶質熱可塑性樹脂と、平均粒径が0.1〜50μmの充填剤を含む樹脂組成物からなるフィルムで、フィルム延伸により空孔が設けられ、該フィルムの厚みが5μm以上300μm以下、透気度が10[sec/100cc]以上1000[sec/100cc]以下であり、
電池缶内で正極と負極の間に介在されて渦巻き状に巻回させるセパレータとして用いられることを特徴とする多孔性フィルム。
【請求項2】
上記非晶質熱可塑性樹脂100質量部に対して、上記充填剤を50質量部以上400質量部以下含んでいる組成物からなる請求項1に記載の多孔性フィルム。
【請求項3】
上記非晶質熱可塑性樹脂が非晶質ポリオレフィンである請求項1または請求項2に記載の多孔性フィルム。
【請求項4】
上記充填剤が、硫酸バリウム、炭酸カルシウムを含む無機化合物から選択されたものである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の多孔性フィルム。
【請求項5】
上記延伸は縦横方向のいずれか一方向に少なくとも1.5倍以上二軸延伸されている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の多孔性フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の多孔性フィルムを非水電解質電池用セパレータとして収容している電池

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−63808(P2011−63808A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250162(P2010−250162)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【分割の表示】特願2003−402239(P2003−402239)の分割
【原出願日】平成15年12月1日(2003.12.1)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】