説明

多孔性ポリオレフィンフィルム、蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイス

【課題】本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは適度な透気抵抗を有しながら、フィルム幅方向の熱寸法安定性、機械特性に優れた蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイスを提供すること。
【解決手段】ポリプロピレン樹脂を含み、曲路率が1.2〜5.0、透気抵抗が50〜1,000秒/100ml、長手方向の破断強度(f(MD))および幅方向の破断強度(f(TD))の関係が次式を満たす多孔性ポリオレフィンフィルムとする。
{f(MD)/f(TD)}>2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適度な透気抵抗を有しながら、フィルムの熱寸法安定性、機械特性に優れ、蓄電デバイス用セパレータとして好適に用いることができる多孔性ポリオレフィンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは優れた機械特性、熱特性、電気特性、光学特性により、工業材料用途、包装材料用途、光学材料用途、電機材料用途など多様な用途で使用されている。このポリプロピレンフィルムに空隙を設け、多孔化した多孔性ポリプロピレンフィルムについても、ポリプロピレンフィルムとしての特性に加えて、透過性や低比重などの優れた特性を併せ持つことから、電池や電解コンデンサーのセパレータや各種分離膜、衣料、医療用途における透湿防水膜、フラットパネルディスプレイの反射板や感熱転写記録シートなど多岐に渡る用途への展開が検討されている。特に電気絶縁性やイオン透過性に加えて、力学特性にも優れることから、特にリチウムイオン二次電池のセパレータ用途に広く用いられている。リチウムイオン二次電池用セパレータとして備えるべき性質には多くの項目があるが、主に電池の高容量化、高出力化、および安全性に適した膜物性が求められている。
【0003】
従来の技術において、例えば、乾燥−延伸法(CELGARDプロセスとして知られている)の多孔性フィルムが開示され、溶融押出時に低温押出、高ドラフト比を採用することにより、シート化した延伸前のフィルム中のラメラ構造を制御し、これを長手方向に一軸延伸することでラメラ界面での開裂を発生させ、空隙を形成する方法であるが、特異的な直線状貫通孔構造から透気性能に優れる反面、曲路率が小さいためデンドライトの析出や電極活物質の移動による微少短絡が発生しやすいことがあった(特許文献1、2)。
【0004】
また乾式法であり、かつ二軸延伸により製膜される多孔性ポリプロピレンフィルムとしては、ポリプロピレンの結晶多形であるα型結晶(α晶)とβ型結晶(β晶)の結晶密度の差と結晶転移を利用してフィルム中に空隙を形成させる(β晶法と呼ばれる)方法の提案も数多くなされており、中には二軸延伸する延伸温度の制御を行うことで機械特性を改善することが開示されているが、長手方向と直行する幅方向の機械特性が高くなるため幅方向の熱寸法安定性が不足し、蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合に安全性が劣る場合があった(特許文献3)。またβ晶法の逐次二軸延伸フィルムにおいて一軸延伸後のβ晶配向度を制御することで透気性を向上させる提案がされているが、熱寸法安定性が不十分であり、また機械特性バランスの観点から例えば電池組立工程において、走行中のフィルムが幅方向に破断したり、シワが入りやすくなるなど未だ改善余地があった(特許文献4)。その他、β晶法の逐次二軸延伸フィルムの寸法安定性を改善、二次加工において引き裂きを抑制するため製膜条件で長手方向と幅方向の延伸比を制御することが提案されているが、十分な改善効果が得られていないものであった(特許文献5、6)。
【0005】
他方、粒子延伸法ではポリオレフィンに炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの無機物粒子が大量に混合した多孔性フィルムを得ることが提案されているが、該多孔性フィルムは大量の粒子を含有するため、強度が小さくなりやすく、凝集した粒子を基点として製膜時や機械特性試験で破断しやすい傾向を示し、蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合に孔径も大きくなるため曲路率が小さくなりデンドライトの析出や電極活物質の移動による微少短絡が発生しやすい問題があった(特許文献7、8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭55−32531号公報
【特許文献2】特表2009−527633号公報
【特許文献3】特開平7−118429号公報
【特許文献4】特許第4102894号公報
【特許文献5】特開2010−111095号公報
【特許文献6】特開2010−111096号公報
【特許文献7】特開昭60−129240号公報
【特許文献8】特開昭63−210144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち透気性、熱寸法安定性、機械特性に優れた多孔性ポリオレフィンフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題は、次の手段によって達成可能である。
【0009】
ポリプロピレン樹脂を含み、曲路率が1.2〜5.0、透気抵抗が50〜1,000秒/100ml、長手方向の破断強度(f(MD))および幅方向の破断強度(f(TD))の関係が次式を満たす多孔性ポリオレフィンフィルム。
【0010】
{f(MD)/f(TD)}>2
【発明の効果】
【0011】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは透気性、フィルムの熱寸法安定性、機械特性に優れ、例えば蓄電デバイス用のセパレータとして用いた場合に電池性能の安全性に優れる観点から好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を含んでいる。また曲路率が1.2〜5.0、透気抵抗が50〜1,000秒/100ml、長手方向の破断強度(f(MD))および幅方向の破断強度(f(TD))の関係が次式を満たしている。
【0013】
{f(MD)/f(TD)}>2
曲路率が1.2未満の場合は連続する孔構造が実質的に直線状構造であることを意味し、デンドライトの析出や電極活物質の移動による微少短絡が発生じ、電池性能の指標の1つである安全性の低下につながる。また、曲路率が5.0を超えると、透気性が不足し、例えば蓄電デバイス用のセパレータとして用いた場合に電池の出力特性が十分でなく、性能の劣った電池となる傾向がある。曲路率は1.5〜4.5がより好ましく、1.8〜4がさらに好ましい。なお、本発明における曲路率の算出は次の関係式から求めることができる。
【0014】
多孔質体における細孔モデルにおいて、流体の透過速度と空孔率や孔径や流体の粘度との関係は、式(1)で表される。
【0015】
u=(d・ε/100)ΔP/(2ηLτ) ・・・(1)
ここで、u(m/sec)は流体の透過速度、d(m)は孔径、ε(%)は空孔率、ΔP(Pa)は圧力差、η(Pa・sec)は流体の粘度、L(m)は膜厚、τ(無次元)は曲路率である。なお、本式を変形すると、曲路率は式(2)のように表され、上記各パラメータを代入することで求めることができる。
【0016】
τ=d(εΔP/2ηLu)0.5 ・・・(2)
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは実質的に粒子を含まないことが好ましい。粒子を含む場合、粒子基点の空孔が形成されるため孔径が大きくなり、曲路率が小さくなり例えば蓄電デバイス用のセパレータとして用いた場合にデンドライトの析出や電極活物質の移動による微少短絡が発生じ、電池性能の指標の1つである安全性が低下することがある。
【0017】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは透気抵抗が50〜1,000秒/100mlである。透気抵抗が50秒/100ml未満の場合は、フィルムの機械強度が低下してハンドリング性が低下したり、セパレータに用いたとき安全性が低下することがあり、透気抵抗が1,000秒/100mlを超えると、セパレータに用いたとき出力特性が低下する傾向がある。このような観点から本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの透気抵抗は、より好ましくは80〜600秒/100ml、更に好ましくは100〜500秒/100mlである。
【0018】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルムの熱寸法安定性および機械特性に優れ、例えば蓄電デバイス用のセパレータとして用いた場合に電池の安全性を向上させる観点から、長手方向の破断強度(f(MD))および幅方向の破断強度(f(TD))の関係が次式を満たすことが重要である。
【0019】
{f(MD)/f(TD)}>2
上記式を満たさない場合、例えば電池のセパレータとして使用した際の電池組立工程において、走行中のフィルムが幅方向に破断したり、シワが入りやすくなる場合があり、また電池に圧力がかかった場合にセパレータに接する電極活物質等の粒子がフィルムに接触しフィルムが破断する場合がある。上記観点から、{f(MD)/f(TD)}>3.5であることが好ましく、{f(MD)/f(TD)}>5であることがより好ましい。f(MD)/f(TD)の上限は特に限定されないが、例えば15とすることができ、15を超える場合は長手方向に裂けやすくなることが考えられる。
【0020】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの長手方向の破断強度は特に限定されないが100MPa以上であることが好ましい。破断強度が100MPa未満の場合は電池組立工程において、走行中のフィルムが幅方向に破断したり、シワが入りやすくなる場合がある。長手方向の破断強度は好ましくは130MPa以上、より好ましくは160MPa以上である。
【0021】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する孔(以下、貫通孔という)を有している。この貫通孔は、少なくとも一軸方向あるいは二軸延伸によりフィルム中に形成することが好ましい。高い生産性、均一物性、薄膜化を達成する観点からβ晶法により製造することが可能である。
【0022】
β晶法を用いてフィルムに貫通孔を形成するためには、ポリプロピレン樹脂のβ晶形成能が60%以上であることが好ましい。β晶形成能が60%未満ではフィルム製造時にβ晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果、透過性の低いフィルムしか得られない場合がある。一方、β晶形成能の上限は特に限定されるものではないが、99.9%を超えるようにするのは、後述するβ晶核剤を多量に添加したり、使用するポリプロピレン樹脂の立体配向性を極めて高くしたりする必要があり、製膜安定性が低下するなど工業的な実用価値が低い。工業的にはβ晶形成能は65〜99.9%が好ましく、70〜95%が特に好ましい。また、多孔性ポリオレフィンフィルムのβ晶形成能についても、60%以上であることが好ましい。
【0023】
β晶形成能を60%以上に制御するためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用したり、β晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いたりすることが好ましい。β晶核剤としては種々の顔料系化合物やアミド系化合物などを挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の添加量としては、ポリプロピレン樹脂全体を基準とした場合に、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であればより好ましい。0.05質量%未満では、β晶の形成が不十分となり、多孔性ポリオレフィンフィルムの透気性が低下する場合がある。0.5質量%を超えると、粗大ボイドを形成し、蓄電デバイス用セパレータに用いたとき、安全性が低下する場合がある。
【0024】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂は、メルトフローレート(以下、MFRと表記する、測定条件は230℃、2.16kg)が2〜30g/10分の範囲であることが好ましく、さらにアイソタクチックポリプロピレン樹脂であることが好ましい。MFRが2g/10分未満であると、樹脂の溶融粘度が高くなり高精度濾過が困難となり、フィルムの品位が低下する場合がある。MFRが30g/10分を超えると、分子量が低くなりすぎるため、延伸時のフィルム破れが起こりやすくなり、生産性が低下する場合がある。より好ましくは、MFRは3〜20g/10分である。
【0025】
また、アイソタクチックポリプロピレン樹脂を用いる場合、アイソタクチックインデックスは90〜99.9%であることが好ましい。アイソタクチックインデックスが90%未満であると、樹脂の結晶性が低く、高い透気性を達成するのが困難な場合がある。
【0026】
本発明で用いるポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン樹脂を用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下の範囲で共重合した樹脂を用いることもできる。なお、ポリプロピレンへのコモノマー(共重合成分)の導入形態としては、ランダム共重合でもブロック共重合でもいずれでも構わない。
【0027】
また、上記したポリプロピレン樹脂には本発明の効果を阻害しない範囲で高分子量ポリプロピレン、低融点ポリプロピレン、高溶融張力ポリプロピレンなど含有させることが安全性向上や製膜性向上の点で好ましい。ここで高分子量ポリプロピレンとはMFRが0.1〜2g/10分のポリプロピレンであり、低融点ポリプロピレンとは融点153℃より低い融点を持つポリプロピレンであり(例えば、エチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を共重合したポリプロピレンなど)、高溶融張力ポリプロピレンとは高分子量成分や分岐構造を有する成分をポリプロピレン樹脂中に混合したり、ポリプロピレンに長鎖分岐成分を共重合させたりすることで溶融状態での張力を高めたポリプロピレン樹脂である。
【0028】
本発明で用いるポリプロピレン樹脂は、二軸延伸時の空隙形成効率の向上や、孔の均一な開孔、孔径が拡大することによる透気性向上の観点から、ポリプロピレン80〜99質量部とエチレン・α−オレフィン共重合体20〜1質量部の質量比率とした混合物とすることが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合した、融点が60〜90℃の共重合ポリエチレン樹脂(共重合PE樹脂)を好ましく用いることができる。この共重合ポリエチレンは市販されている樹脂、たとえば、ダウ・ケミカル製“Engage(エンゲージ)(登録商標)”(タイプ名:8411、8452、8100など)を挙げることができる。
【0029】
上記共重合ポリエチレン樹脂は本発明のフィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体を100質量%としたときに、1〜10質量%含有することが機械特性を向上させる観点で好ましい。より好ましくは1〜7質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0030】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂中のハイドロタルサイト量が0.01質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以下、更に好ましくは0.001質量%以下である。ハイドロタルサイトはβ晶形成を阻害する場合があり、ハイドロタルサイト量が0.01質量%を超えると、多孔性ポリプロピレンフィルムの透気性が低下する場合がある。
【0031】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂中の灰分量が0.01質量%以下であることが好ましい。灰分量が0.01質量%を超えると、蓄電デバイス用セパレータに用いたとき、耐電圧が低下したり、電池寿命が低下する場合がある。
【0032】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、中和剤、帯電防止剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましいが、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して酸化防止剤添加量は1質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.3質量部以下である。
【0033】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムはセパレータとして用いた際の電池出力特性と安全性の両立の観点から空孔率は35〜80%であることが好ましい。空孔率が35%未満ではセパレータとして使用したときに電気抵抗が大きくなる場合がある。一方、空孔率が80%を超えると、蓄電デバイス用セパレータに用いたとき安全性に劣る場合がある。優れた電池特性と発現する観点からフィルムの空孔率は40〜75%であればより好ましく、40〜70%であれば特に好ましい。
【0034】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは蓄電デバイスセパレータとして用いた場合に安全性に優れる観点から、125℃、1時間処理後の長手方向における熱収縮率が5%以下であることが好ましい。熱収縮率が5%を越える場合、セパレータとして使用した際に、発生した熱によって容易に収縮し短絡を引き起こす場合がある。蓄電デバイス用セパレータとして安全性向上の観点から125℃、1時間処理後の長手方向における熱収縮率は4%以下が好ましく、さらに好ましくは3%以下が好ましく、さらに好ましくは1.5%以下である。本発明においては長手方向への一軸延伸後に熱処理を施すことで結晶構造固定し一軸延伸方向への配向性を向上させることで、長手方向の熱収縮率を好ましい範囲内とすることができる。
【0035】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは125℃、1時間処理後の幅方向における熱収縮率が1.0%以下であることが好ましい。熱収縮率が1.0%を超える場合、セパレータとして使用した際に、発生した熱によって容易に収縮し短絡を引き起こす場合がある。蓄電デバイス用セパレータとして安全性向上の観点から125℃、1時間処理後の幅方向における熱収縮率は0.5%以下が好ましく、さらに好ましくは0.3%以下である。熱収縮率を好ましい範囲とするには後述する延伸、熱処理、弛緩率を適宜調整することで可能である。
【0036】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは孔径が50〜200nmであることが好ましい。50nm未満ではセパレータとして用いた際の特性が不十分となり、200nmを超えると微短絡が起こりやすくなり電池の寿命に対して悪影響を及ぼすなどの問題が起こるおそれがある。50〜150nmであることが電池の寿命の観点からより好ましい
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルム厚みが5〜50μmであることが好ましい。厚みが5μm未満では使用時にフィルムが破断する場合があり、50μmを超えると蓄電デバイス内に占める多孔性ポリオレフィンフィルムの体積割合が高くなりすぎてしまい、高いエネルギー密度を得ることができなくなることがある。フィルム厚みは7〜30μmであればより好ましく、10〜25μmであればなお好ましい。
【0037】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、水銀圧入法により測定した平均細孔直径が0.1〜0.5μmであることが好ましい。より好ましくは0.1〜0.3μm、さらに好ましくは0.1〜0.2μmである。フィルムをセパレータとした場合に平均細孔直径が0.1μm未満ではセパレータとして用いた際の透気性能が不十分となり、他方0.5μmを超えると微短絡が起こりやすくなり電池の寿命に対して悪影響を及ぼすなどの問題が起こるおそれがある。水銀圧入法とは水銀の表面張力が大きいことを利用し、水銀を浸入させるために加えた圧力から空隙の大きさを、浸入した水銀量から空隙の容積を測定する方法である。
【0038】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムにおいて上述した曲路率、透気抵抗、機械強度、さらに好ましくは熱寸法安定性の関係を全て満足させるには、後述する二軸延伸法において長手方向への一軸延伸後に該一軸延伸温度+25℃〜ポリプロピレン組成物の融点+15℃での熱処理を施し、次いで幅方向に延伸、熱固定処理(1)、弛緩処理、熱固定処理(2)を行う方法を適用することで達成することができる。
【0039】
以下に本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法を説明するが、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0040】
まず、ポリプロピレン樹脂として、融点が163℃でMFR1〜10g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂99.45質量部にβ晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.3質量部、さらに酸化防止剤を0.25質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(イ)を作成する。
【0041】
次に、ポリプロピレン組成物(イ)100質量部を単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。未延伸シートを得る際のキャストドラムは表面温度が105〜130℃であることが、未延伸シート中のβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。この際、特にシートの端部の成形が後の延伸性に影響するため、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態に基づき、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。また、複数の押出機を用いて共押出による積層を行ってもよい。
【0042】
次に得られた未延伸シートを二軸延伸してフィルム中に空孔(貫通孔)を形成する。二軸延伸の方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、高透気性フィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。ここで本発明においては多孔性ポリプロピレンフィルムの曲路率、透気抵抗、破断強度の関係を全て満足させる観点から上述したように長手方向へ一軸延伸後に該一軸延伸温度+15℃〜ポリプロピレン組成物の融点での熱処理を施し、次いで幅方向に横延伸および熱固定処理(1)・弛緩処理・熱固定処理(2)を行う方法を好ましく適用できる。具体的には次の通りである。
【0043】
まず未延伸シートを長手方向に延伸可能な温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としてはフィルム特性とその均一性の観点から、110〜140℃、さらに好ましくは120〜135℃、特に好ましくは123〜130℃の温度を採用することが好ましい。本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの機械特性およびの熱寸法安定性向上の観点から、延伸倍率としては4〜10倍、より好ましくは4.5〜8倍である。また、延伸倍率を高くするほど高透気性を発現するが、10倍を超えて延伸すると、次の横延伸工程でフィルム破れが起きやすくなってしまう場合がある。本発明においては一軸延伸後、二軸目である幅方向延伸の前に熱処理を施すことが重要である。熱処理方法は温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。一軸延伸によって形成されたフィブリルを熱処理によって結晶構造固定し一軸延伸方向への配向性を向上することができ、次の横延伸工程において僅かな延伸倍率においても幅方向へのフィブリル開裂が進行し、優れた透気性を発現することができる。加えて長手方向の機械特性も大幅に向上できるうえ、延伸に伴う残留歪みが少なくなるため、長手方向および幅方向の熱寸法安定性が優れたフィルムとなるものである。ここで一軸延伸後に該一軸延伸温度+25℃〜ポリプロピレン組成物の融点+15℃が好ましく、より好ましくは一軸延伸温度+30℃〜ポリプロピレン組成物の融点+10℃、さらに好ましくはより好ましくは一軸延伸温度+35℃〜ポリプロピレン組成物の融点+5℃である。熱処理温度が一軸延伸温度+25℃より低い場合は、実質的に一軸延伸のみの状態となりフィルブリル結晶構造固定および一軸延伸方向への配向性が不足し、実用的な透気性が発現しなかったり、熱寸法安定性が劣る場合がある。他方、熱処理温度がポリプロピレン組成物の融点+15℃より高い場合はフィルムが溶融して、横延伸工程で孔が形成しなかったり、フィルム破れを発生させる場合がある。一軸延伸後の熱処理時間は1〜60秒が好ましく、より好ましくは2〜45秒、さらに好ましくは3〜30秒である。またDSC法やX線回折など公知の方法で観察できる一軸延伸後のフィルムのβ晶分率が実質0%であることが好ましい。ここで実質0%とはDSC法やX線回折でのβ晶分率の検出下限以下を意味する。β晶分率が0%より大きい場合は一軸延伸および熱処理工程中での結晶転位が不十分なため、実用的な透気性が発現しない場合がある。
【0044】
次いで一軸延伸・熱処理の後に横延伸および熱固定処理(1)・弛緩処理・熱固定処理(2)をテンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入処理する。幅方向への横延伸は好ましくは130〜155℃、より好ましくは145〜153℃に加熱して幅方向に1.2倍以上4倍未満、より好ましくは1.5倍以上3.8倍未満、更に好ましくは1.7倍以上3.5倍未満での延伸を行う。なお、このときの横延伸速度としては500〜6,000%/分で行うことが好ましく、1,000〜5,000%/分であればより好ましい。本発明において、延伸倍率が4倍を越える場合はフィルム長手方向の破断強度(f(MD))および幅方向の破断強度(f(TD))の比:f(MD)/f(TD)の値が2以下となりやすく、例えば蓄電デバイスのセパレータとして使用した際の電池組立工程において、走行中のフィルムが幅方向に破断したり、シワが入りやすくなる場合がある。また電池に圧力がかかった場合にセパレータに接する電極活物質等の粒子がフィルムに接触しフィルムが破断する場合がある。
【0045】
次いで、幅方向(横)延伸後に端部把持のままテンター内で熱固定処理および幅方向に弛緩処理を行うが、その温度は横延伸温度以上165℃以下が好ましく、より好ましくは横延伸温度以上163℃以下とすることが好ましい。本発明では機械特性および熱寸法安定性をさらに向上させる観点から熱固定処理(1)、弛緩処理、熱固定処理(2)の各工程を以下温度条件で施すことがさらに好ましい。具体的には幅方向への延伸直後、幅方向に緊張把持した状態で熱固定処理(1)を横延伸温度−10℃以上、横延伸温度+10℃以下で行うことが好ましい。横延伸温度−10℃未満であると、長手および幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。延伸温度+10℃を超えると、フィルムの配向が緩和しすぎ、機械特性が低下したり、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。熱固定処理(1)の温度は、横延伸温度−5℃以上、横延伸温度+5℃以下であればより好ましい。
【0046】
次いでフィルムの長手方向および/もしくは幅方向に熱を掛けながら幅方向に弛緩処理をするが、熱固定処理(1)の温度と横延伸温度のうち、低い方の温度をT℃としたとき、T+5℃以上、T+20℃以下であることが好ましい。弛緩処理の温度がT+5℃未満であると、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。T+20℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。T+5℃以上、T+15℃以下であることがより好ましい。また、ここで幅方向の弛緩率を5〜30%、より好ましくは7〜20%とすることが長手方向の破断強度を高め、さらに長手および幅方向の熱寸法安定性を向上させる観点で好ましい。
【0047】
さらに弛緩処理後のフィルムを幅方向に緊張把持した状態で熱固定処理(2)を弛緩処理温度−5℃以上、弛緩処理温度+5℃以下で行うことが好ましい。熱固定処理(2)の温度が弛緩処理温度−5℃未満であると、弛緩処理後のフィルムの緊張が不十分となり、長手方向および幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。弛緩処理温度+5℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。熱固定処理(2)の温度は、弛緩処理温度以上、弛緩処理温度+5℃以下であることが好ましい。
【0048】
ここで熱固定処理(1)、弛緩処理、熱固定処理(2)の各工程での処理時間は各々2〜30秒間であることが好ましい。各工程において処理時間が各々2秒間未満である場合には熱寸法安定性が発現しにくくなる場合がある。
【0049】
熱固定処理工程後のフィルムは、テンターのクリップで把持した耳部をスリットして除去し、ワインダーでコアに巻き取って製品とする。
【0050】
上述のように製造された本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは適度な透気抵抗を有しながら、フィルムの熱寸法安定性、機械特性に優れ、蓄電デバイス用セパレータとして好適に用いることができる。また、この蓄電デバイス用セパレータを用いて蓄電デバイスを製造することが可能である。
【0051】
ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。本発明のセパレータとして使用した蓄電デバイスは、セパレータの優れた特性から産業機器や自動車の電源装置に好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0053】
(1)曲路率
多孔質体における細孔モデルにおいて、流体の透過速度と空孔率や孔径や流体の粘度との関係は、式(1)で表される。
【0054】
u=(d・ε/100)ΔP/(2ηLτ) ・・・(1)
ここで、u(m/sec)は流体の透過速度、d(m)は孔径、ε(%)は空孔率、ΔP(Pa)は圧力差、η(Pa・sec)は流体の粘度、L(m)は膜厚、τ(無次元)は曲路率である。なお、本式を変形すると、曲路率は式(2)のように表される。
【0055】
τ=d(εΔP/2ηLu)0.5 ・・・(2)
ここで、各パラメータは以下に従って求め、それぞれ式(2)に代入し、曲路率を求めた。
【0056】
<孔径d(m)>
下記(6)項に記載の方法で測定した
<空孔率ε(%)>
フィルムを30mm×40mmの大きさに切取り試料とした。電子比重計(ミラージュ貿易(株)製SD−120L)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて比重の測定を行った。測定を3回行い、平均値をそのフィルムの比重ρとした。
【0057】
次に、測定したフィルムを280℃、5MPaで熱プレスを行い、その後、25℃の水で急冷して、空孔を消去したシートを作成した。このシートの比重を上記した方法で同様に測定し、平均値を樹脂の比重(d)とした。なお、後述する実施例においては、いずれの場合も樹脂の比重dは0.91であった。フィルムの比重と樹脂の比重から、以下の式により空孔率を算出した。
【0058】
空孔率(%) = 〔( d − ρ ) / d 〕 × 100
<流体粘度η(Pa・sec)>
測定装置はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)社製レオメーターAR1000を使用し、測定用ジオメトリーには、直径40mm 角度2°のコーンアンドプレートを使用した。測定は25℃でステップ状にせん断速度を変化させた定常流測定を行った。本実験で用いた流体(ジメチルカーボネート:エチレンカーボネート=7:3(質量比))。測定条件の詳細はせん断速度100s−1で予備せん断(30秒間)後、せん断速度100s−1から0.01s−1まで対数間隔で計16点(1,000s−1、10s−1、0.1s−1、0.01s−1の計4点を含む16点)の測定を行った。結果、流体粘度は0.001Pa・sec(25℃)であった。
【0059】
<圧力差ΔP(Pa)>
0.2MPa(=2×10Pa)にて測定。
【0060】
<膜厚L(m)>
(株)尾崎製作所製ピーコックアプライトダイヤルゲージ(測定子:10mmφ、荷重50g)による測定値を用いた。
【0061】
<透過速度u(m/sec)>
試料を円形に切り出し、アドバンテック東洋(株)社製タンク付きステンレスホルダーKST−47(濾過面積0.181m)に取り付けた。ここにジメチルカーボネート:エチレンカーボネート=7:3(質量比、密度1.115g/cm)を入れ、圧力2×10Paで5g(=0.0045m)透過するのにかかる時間T(sec)を計測し、下記(式)より透過速度u(m/sec)を算出した。
【0062】
u=T×0.045/0.181 ・・・(式)
(2)長手方向の破断強度(f(MD))および幅方向の破断強度(f(TD))
JIS K 7127(1999、試験片タイプ2)に準じて、(株)オリエンテック製フィルム強伸度測定装置(AMF/RTA−100)を用いて、25℃、65%RHにて長手方向および幅方向の破断強度を測定した。具体的には、多孔性ポリプロピレンフィルムを全長(測定方向):15cm、幅:1cmのサイズに切り出し、測定長:50mm、引張り速度300mm/分で伸張して、破断強度(単位:MPa)を測定した。同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られた破断強度の平均値を当該サンプルの破断強度とした。
【0063】
(3)透気抵抗
多孔性ポリプロピレンフィルムから100mm×100mmの大きさの正方形を切取り試料とした。JIS P 8117(1998)のB形ガーレー試験器を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間の測定を行った。測定はフィルム中央部について試料を替えて3回行い、透過時間の平均値をそのフィルムの透気性とした。なお、フィルムに貫通孔が形成されていることは、この透気性の値が有限値であることをもって確認できる。
【0064】
(4)β晶形成能
ポリプロピレン組成物または多孔性ポリプロピレンフィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から260℃まで20℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度20℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0065】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
なお、ファーストランで観察される融解ピークから同様にβ晶の存在比率を算出することで、その試料の状態でのβ晶分率を算出することができる。
【0066】
(5)融点(Tm)
上記β晶形成能の測定方法と同様の方法でポリプロピレン組成物または多孔性ポリプロピレンフィルムを測定し、セカンドランの高温側ピーク温度を融点(Tm)とした。
【0067】
(6)125℃、1時間処理の熱収縮率(長手方向および幅方向)
フィルムの長手方向および幅方向について、幅10mm、長さ200mmを5本切り出し、両端から25mmの位置に印を付けて試長150mm(l)とする。次に、荷重3gを付けて125℃に保温されたオーブン内に吊し、1時間加熱後に取り出して、室温で冷却後、寸法(l)を測定して下記式にて求め、5本の平均値を熱収縮率とした。
【0068】
熱収縮率={(l−l)/l}×100(%)
(7)孔径
POROUS MATERIALS,Inc.製自動細孔径分布測定器“PERM−POROMETER”を用いて多孔層面を上側として測定した。なお、測定条件は以下の通りである。
【0069】
試験液:3M製“フロリナート”FC−40
試験温度:25℃
試験ガス:空気
解析ソフト:Capwin
測定条件:Capillary Flow Porometry−Wet up,Dry downのdefault条件による自動測定
なお、孔径(細孔直径)と試験圧力の間には以下の関係式が成立する。
【0070】
d=Cγ/P×10
[ただし、d:細孔直径(nm)、C:定数、γ:フロリナートの表面張力(16mN/m)、P:圧力(Pa)である。]
ここでは、上記に基づき、装置付属のデータ解析ソフトを用いて、1/2半濡れ曲線から平均孔径を算出した。但し、測定時の圧力上限の問題により、測定限界を37nmとした。同じサンプルについて同様の測定を、場所を変えて5回行い、得られた平均孔径の平均値を当該サンプルにおける貫通孔の孔径とした。
【0071】
(8)水銀圧入法による平均細孔直径
フィルムサンプルを2cm×20cmに切りだし、島津社製電子天秤(AW220)で秤量し、デジタルマイクロメーターで厚みを計測した後、ガラス製の試料容器に封入して以下条件にて、細孔容積Vp(cm/g)、比表面積Sp(cm/g)を測定し、平均細孔直径Dav(μm)を次式より算出した。
【0072】
平均細孔直径Dav=4Vp/Sp
測定装置:マイクロメリティックス社製「オートポアIV9510」
水銀圧入圧力:約0.5Psi〜60000psi=約3kPa〜400MPa
測定細孔直径:約4nm〜400μm
測定モード:昇圧(圧入)過程
測定セル容積:約5cm
水銀接触角:141.3°
水銀表面張力:484dyn/cm
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を99.45質量%、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製 Nu−100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.3質量%、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.15質量%、0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン樹脂原料(あ)とした。
【0073】
得られたポリプロピレン組成物(あ)を単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、20μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5倍延伸を行い、さらに162℃に加熱したセラミックロールを用いてロール熱処理5秒間を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、1,200%/minの速度にて150℃で2.5倍に延伸した。そのまま、幅方向に緊張把持したまま160℃で5秒間の熱固定処理(1)を行い、次いで160℃5秒間、幅方向に10%の弛緩処理を行い、最後に幅方向に緊張把持したまま160℃で5秒間の熱固定処理(2)、合計15秒の熱固定処理を施した。その後、テンタークリップで把持したフィルムの耳部をスリットして除去し、ワインダーで幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。製膜条件、フィルム特性を表1に示す。
【0074】
(実施例2)
一軸延伸後の熱処理条件を表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。フィルム特性を表1に示す。
【0075】
(実施例3、4)
テンターでの横延伸条件を表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。フィルム特性を表1に示す。
【0076】
(実施例5)
一軸延伸の倍率および温度を表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。フィルム特性を表1に示す。
【0077】
(実施例6、7)
熱固定処理(1)、弛緩処理、熱固定処理(2)の温度および弛緩処理率を表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。フィルム特性を表1に示す。
【0078】
(比較例1)
一軸延伸後の熱処理を実施しないとした以外は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。フィルム特性を表1に示す。
【0079】
(比較例2)
実施例1と同様に一軸延伸し、熱処理を施した後、テンターで横延伸を行わず幅方向に緊張把持したまま160℃で5秒間の熱固定処理(1)を行い、次いで160℃5秒間、幅方向に10%の弛緩処理を行い、最後に幅方向に緊張把持したまま160℃で5秒間の熱固定処理(2)、合計15秒の熱固定処理を施した。その後、テンタークリップで把持したフィルムの耳部をスリットして除去し、ワインダーで幅600mm、厚み25μm、実質MD一軸延伸の多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。製膜条件、フィルム特性を表1に示す。条件を表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。フィルム特性を表1に示す。
【0080】
(比較例3)
ポリプロピレン樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を30.45質量%、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製 Nu−100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.3質量%、白石カルシウム社製の軽質無処理炭酸カルシウム平均粒径0.08μmを69質量%、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.15質量%、0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン樹脂原料(い)とした。
【0081】
得られたポリプロピレン組成物(い)を単軸の溶融押出機に供給し、実施例1と同様にして延伸、熱固定処理および弛緩処理を行ったが、テンター出口でフィルムが破れが多発し、フィルム採取ができず、評価ができなかった。
【0082】
(比較例4)
市販のセルガード2500について評価をおこなった。フィルム特性を表1に示す。
【0083】
(比較例5)
一軸延伸後の熱処理条件を140℃とした以外は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。フィルム特性を表1に示す。
【0084】
(比較例6)
一軸延伸後の熱処理を実施せず、その後の横延伸倍率を5.0倍とした以外は実施例1と同様にして幅600mm、厚み25μmの多孔性ポリプロピレンフィルムをコアに500m巻き取った。フィルム特性を表1に示す
【0085】
【表1】

【0086】
本発明の要件を満足する実施例ではセパレータに適した透気抵抗を有しながら、フィルムの熱寸法安定性、機械特性に優れ、蓄電デバイス用セパレータとして好適に用いることができることが可能であると考えられる。一方、比較例では、熱寸法安定性および機械強度が不十分で透気抵抗が高く、曲路率がフィルムおよび曲路率が低すぎるフィルムであり蓄電デバイス用セパレータとして安全性が不十分のものであった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムは適度な透気抵抗を有しながら、フィルムの熱寸法安定性、機械特性に優れ、特に蓄電デバイス用セパレータとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂を含み、曲路率が1.2〜5.0、透気抵抗が50〜1,000秒/100ml、長手方向の破断強度(f(MD))および幅方向の破断強度(f(TD))の関係が次式を満たす多孔性ポリオレフィンフィルム。
{f(MD)/f(TD)}>2
【請求項2】
125℃、1時間処理後のフィルム長手方向における熱収縮率が5%以下である、請求項1に記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項3】
ポリプロピレン樹脂とβ晶核剤とを含む、請求項1または2に記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項4】
透気抵抗が100〜500秒/100mlである、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項5】
孔径が50〜200nmである、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項6】
125℃、1時間処理後のフィルム幅方向における熱収縮率が1.0%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項7】
水銀圧入法により測定した平均細孔直径が0.1〜0.5μmである、請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルムを用いた蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項9】
請求項8に記載の蓄電デバイス用セパレータを用いた蓄電デバイス。

【公開番号】特開2013−32505(P2013−32505A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−142711(P2012−142711)
【出願日】平成24年6月26日(2012.6.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】