説明

多孔性ポリオレフィンフィルムおよび蓄電デバイス

【課題】 セパレータとして用いたとき、安全性、出力特性、長期信頼性に優れた多孔性ポリオレフィンフィルムを提供すること。
【解決手段】 幅方向の120℃1時間の熱収縮率が0〜3.5%であり、イオン性液体の厚み方向浸透時間をT1(秒)としたとき、T1が10〜300秒であり、かつ、直流コロナ放電によるエレクトレット化後のイオン性液体の厚み方向浸透時間をT2(秒)としたとき、T1/T2>1.3である多孔性ポリオレフィンフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータとして用いたとき、安全性、出力特性、長期信頼性に優れた多孔性ポリオレフィンフィルム、及び該多孔性ポリオレフィンフィルムを蓄電デバイス用セパレータとして用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性ポリオレフィンフィルムは、電池や電解コンデンサーのセパレータや各種分離膜、衣料、医療用途における透湿防水膜、フラットパネルディスプレイの反射板や感熱転写記録シートなど多岐に亘る用途への展開が検討されている。中でも、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話、デジタルカメラなどのモバイル機器などに広く使用されているリチウムイオン電池用のセパレータとして、多孔性ポリオレフィンフィルムは好適である。特に近年、電気自動車やハイブリッド車にリチウムイオン電池が使用されるようになり、高いレベルの安全性が要求されると共に、長期信頼性に関わる高出力で充放電したときのサイクル特性に対する要求も厳しいものになってきている。
【0003】
これまでに、多孔フィルムの孔径を制御して、サイクル特性を改善する方法が提案されている(例えば特許文献1)。しかし、この方法では、100℃における熱収縮率が大きく、安全性との両立が困難であった。また、多孔フィルムの表層にコート層を設けることにより、サイクル特性を改善する方法が提案されている(例えば特許文献2、3)。しかし、多孔フィルム製造後にコーティング工程を設ける必要があり、生産性が悪くなる上に、コスト的に不利なものであった。また、無機層を設ける方法では、重量が大きくなり、大面積のセパレータを要する大型電池用途には向かないものであった。特許文献4のように、樹脂の構造を高度に制御してサイクル特性を改善する方法が提案されているが、高価なポリイミド樹脂を用いることから、コスト的に不利なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−106237号公報
【特許文献2】特開2011−108515号公報
【特許文献3】特開2011−65849号公報
【特許文献4】特開2011−60539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、電池用セパレータとして使用したとき、電池の安全性、出力特性、長期信頼性に関わるサイクル特性に優れた多孔性ポリオレフィンフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、幅方向の120℃1時間の熱収縮率が0〜3.5%であり、イオン性液体の厚み方向浸透時間をT1(秒)としたとき、T1が10〜300秒であり、かつ、直流コロナ放電によるエレクトレット化後のイオン性液体の厚み方向浸透時間をT2(秒)としたとき、T1/T2>1.3である多孔性ポリオレフィンフィルムにより解決可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、セパレータとして用いたとき電池の安全性、出力特性、長期信頼性に優れることから、リチウムイオン2次電池などの蓄電デバイス用セパレータとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】扁平な孔が厚み方向に多く存在する多孔性フィルムの概略断面図である。
【図2】孔構造が3次元的に等方であったり、厚み方向に直線的な孔がある多孔性フィルムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、幅方向の120℃1時間の熱収縮率が0〜3.5%である。より好ましくは0〜2%、さらに好ましくは0〜1%である。幅方向の120℃での熱収縮率が3.5%を超えると、電池を使用中に環境温度が上昇したり、微短絡により電池内部の温度が上昇したときなどに、セパレータが収縮し短絡に繋がる場合がある。尚、本願においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向あるいは長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向、横方向あるいはTD方向と称する。
【0010】
熱収縮率は、後述するβ晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)の添加量、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸倍率、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0011】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、イオン性液体の厚み方向浸透時間をT1(秒)としたとき、T1が10〜150秒である。T1が150秒を超えると、電解液の移動速度が遅いため、蓄電デバイス用セパレータとして用いたとき、出力特性が低下する場合がある。T1が10秒未満であると、透過性が良すぎて、デンドライトが成長しやすく長期信頼性が低下する場合がある。出力特性と長期信頼性の両立の観点から、T1は、より好ましくは20〜60秒である。本願において、イオン性液体として1−メチル−1−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルメタンスルホニル)イミドを用い、後述する測定方法により厚み方向の浸透時間を測定した。
【0012】
T1は、後述するβ晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)の添加量、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸倍率、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0013】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、直流コロナ放電によるエレクトレット化後のイオン性液体の厚み方向浸透時間をT2(秒)としたとき、T1/T2>1.3である。T1/T2>1.3とすることにより、多孔性ポリオレフィンフィルムをセパレータとして用いたとき、長期信頼性に優れた蓄電デバイスを得ることができる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。ここで、直流コロナ放電によるエレクトレット化とは、直流高電圧電源に繋がった非接触型針状印加電極とアース電極との間に置かれた多孔性ポリオレフィンフィルムに、所定の電圧を所定の時間印加することにより、多孔性ポリオレフィンフィルムを帯電させる処理のことである。帯電量が多いと直流コロナ放電によるエレクトレット化後のイオン性液体の厚み方向浸透速度が速くなり、T1/T2の値が大きくなる。ここで帯電量が多い多孔性フィルムとは、図1に示すように孔構造(空孔部2)が厚み方向(紙面における縦(上下)方向)に扁平であり、かつ、厚み方向の層数(層として認識される樹脂部1の数)が多いことが考えられる。逆に孔構造が3次元的に等方であったり、厚み方向に直線的な孔がある場合、帯電量は少なくなると考えられる(図2)。ここで、図1のように扁平な孔が厚み方向に多く存在する多孔性フィルムは、デンドライトの成長の障害となる壁が多く存在するため、長期信頼性が良好になるものと考えられる。T1/T2の値は、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.7以上、最も好ましくは2.0以上である。T1/T2の値は、長期信頼性の観点からは大きいほど好ましいが、大きすぎると透気性が低下する場合があるため5.0程度が上限である。
【0014】
T1/T2の値は、後述するβ晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)の添加量、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸倍率、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0015】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、コロナ放電によるエレクトレット化処理により、イオン性液体の浸透速度が向上するため、製膜工程や電池組立工程において、電解液を注入する工程の前にエレクトレット化処理を実施すると、電解液の浸透速度を速め、生産効率を向上できるため好ましい。
【0016】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する孔(以下、貫通孔という)を有している。多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法としては、抽出法や乾式法などを挙げることができるが、抽出に溶媒を使用しないため環境負荷が低減できることや、製造コストが低減できる観点から、乾式法により製造することが好ましい。さらには、長期信頼性に優れたフィルムを得やすいことから、二軸延伸によりフィルム中に形成することが好ましい。具体的な方法としては、β晶法を挙げることができる。
【0017】
β晶法により本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを選るには、第1成分としてポリプロピレン樹脂を含み、さらに、β晶核剤とを含むポリプロピレン組成物からなる層を少なくとも1層有することが好ましい。ここで、ポリプロピレン樹脂はポリプロピレン組成物中における主成分であることが好ましい。「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上であることを意味する。
【0018】
一般に、β晶法で得られる多孔性オレフィンフィルムは、例えば国際公開第2007/046225号パンフレットの図4に示されている断面写真のように、厚み方向に扁平な孔構造を有する。しかし、このような従来得られていた多孔性ポリオレフィンフィルムでは、孔の厚みが大きく、フィルムの厚み方向に存在する孔の数が少ないため、自動車用途など高出力・高容量が求められる蓄電デバイスで使用する場合は更なる改善が必要であった。本発明では後述する原料と製膜条件を採用することにより、β晶法で得られる多孔性ポリオレフィンフィルムの孔構造を制御して長期信頼性を向上し、さらに、熱収縮率と出力特性を向上させるに至った。
【0019】
β晶法において透気性を良くする方法として、第1成分であるポリプロピレン樹脂(A)と、第2成分として該ポリプロピレン樹脂中に完全相溶せずドメインを形成することにより、フィブリル開裂を促進させるエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)を用いる例が知られている(例えば国際公開第2007/046225号パンフレット)。
【0020】
本発明においては第3成分として、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のドメインを微細かつ均一に分散させるための分散剤(C)を用い、さらに後述する製膜条件を採用すると、孔が微細になり、厚み方向の孔の数が増え、サイクル特性が向上し、さらに、出力特性と、低熱収縮による安全性を両立できるため好ましい。
【0021】
つぎに本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムに用いる原料について説明する。
【0022】
β晶法を用いてフィルムに貫通孔を形成せしめるためには、ポリオレフィン組成物のβ晶形成能が40〜90%であることが好ましい。β晶形成能が40%未満ではフィルム製造時にβ晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果、透過性の低いフィルムしか得られない場合がある。一方、β晶形成能が90%を超えるようにするのは、後述するβ晶核剤を多量に添加したり、使用するポリオレフィン樹脂の立体規則性を極めて高くしたりする必要があり、製膜安定性が低下するなど工業的な実用価値が低い。工業的にはβ晶形成能は60〜85%が好ましく、65〜85%が特に好ましい。
【0023】
β晶形成能を40〜90%に制御するためには、アイソタクチックインデックスの高いポリオレフィン樹脂を使用したり、β晶核剤と呼ばれる、ポリオレフィン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いたりすることが好ましい。
【0024】
β晶核剤としては、たとえば、1,2−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、コハク酸マグネシウムなどのカルボン酸のアルカリあるいはアルカリ土類金属塩、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドに代表されるアミド系化合物、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのテトラオキサスピロ化合物、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族スルホン酸化合物、イミドカルボン酸誘導体、フタロシアンニン系顔料、キナクリドン系顔料を好ましく挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の含有量としては、ポリオレフィン組成物全体を基準とした場合に、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であればより好ましい。0.05質量%未満では、β晶の形成が不十分となり、多孔性ポリオレフィンフィルムの透気性が低下する場合がある。0.5質量%を超えると、粗大ボイドを形成し、長期信頼性が低下する場合がある。
【0025】
本発明で用いるポリプロピレン樹脂には、メルトフローレート(以下、MFRと表記する)が2〜30g/10分のアイソタクチックポリプロピレン樹脂を用いることが押出成形性及び孔の均一な形成の観点から好ましい。ここで、MFRとはJIS K 7210(1995)で規定されている樹脂の溶融粘度を示す指標であり、ポリオレフィン樹脂の特徴を示す物性値である。本発明においては230℃、2.16kgで測定した値を指す。本発明においてはポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスは90〜99.9%の範囲であることが好ましい。より好ましくは95〜99%である。アイソタクチックインデックスが90%未満の場合、樹脂の結晶性が低くなってしまい、製膜性が低下したり、フィルムの強度が不十分となる場合がある。
【0026】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリオレフィン組成物としては、ホモポリプロピレンを用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下の範囲で共重合した樹脂を用いることもできる。
【0027】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリオレフィン組成物は、二軸延伸を行って貫通孔を形成する場合、延伸時の空隙形成効率の向上による出力特性の向上の観点から、第2成分としてエチレン・α−オレフィン共重合体(B)を含有することが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合した、融点が60〜90℃の共重合ポリエチレン樹脂(共重合PE樹脂)を好ましく用いることができる。この共重合ポリエチレンは市販されている樹脂、たとえば、ダウ・ケミカル製“Engage(エンゲージ)(登録商標)”(タイプ名:8411、8452、8100など)を挙げることができる。
【0028】
上記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)は本発明のフィルムを構成するポリオレフィン組成物全体を100質量%としたときに、10質量%以下含有することが透気向上の観点から好ましい。フィルムの機械特性の観点からは1〜7質量%であればより好ましく、より好ましくは1〜4質量%である。
【0029】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリオレフィン組成物は、上記したポリプロピレン樹脂(A)とエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)と、その分散剤(C)とを含有することにより、孔が微細になり、厚み方向の孔の数が増え、長期信頼性を向上できるため好ましい。
【0030】
本発明で用いる分散剤(C)としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のポリプロピレン樹脂(A)への分散性を高めることができるものであればよいが、国際公開第2007/046225号パンフレットに記載の通り、ポリプロピレン樹脂とエチレン・α−オレフィン系共重合体の相溶性は良好であり、例えば一般にポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂の相溶化剤として用いられるエチレン・プロピレンランダム共重合体は本発明において孔構造均一化のための分散剤として機能しない。本発明の分散剤(C)としては、ポリプロピレンとの相溶性が高いセグメント(例えばポリプロピレンセグメント、エチレンブチレンセグメント)とポリエチレンとの相溶性が高いセグメント(ポリエチレンセグメントなど)を各々有するブロック共重合体が好ましい。このような構造を有する樹脂として、市販されている樹脂、例えばJSR社製オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー(以下、CEBCと表記する)“DYNARON(ダイナロン)(登録商標)”(タイプ名:6100P、6200Pなど)や、ダウ・ケミカル社製オレフィンブロック共重合体“INFUSE OBC(登録商標)”を挙げることができる。分散剤(C)の添加量としてはエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがより好ましい。また、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のポリプロピレン樹脂(A)への分散性向上の観点および孔形成の均一性向上の観点から、分散剤(C)の融点は、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)の融点より、0〜60℃高いことが好ましく、15〜30℃高いことがより好ましい。
【0031】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリオレフィン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリオレフィン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましいが、ポリオレフィン組成物100質量部に対して酸化防止剤添加量は2質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0032】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリオレフィン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、無機あるいは有機粒子からなる孔形成助剤を含有させてもよい。含有量はポリオレフィン組成物100質量部に対して5質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。5質量部を超えると、セパレータとして使用したとき、脱落した粒子が電池性能を低下させたり、原料コストが高くなり、生産性が低下する場合がある。
【0033】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、幅方向の引張強度が65〜150MPaであることが好ましい。引張強度が65MPa未満であると、製膜中の搬送工程でシワが入りやすくなり、蓄電デバイス用セパレータとして用いる際に、歩留まりが低下する場合がある。安全性や生産性の観点からは、引張強度は高いほど好ましいが、引張強度が高いと出力特性や幅方向の熱収縮率が低下する傾向があり、本発明の効果を得るには150MPaが上限である。安全性と出力特性の両立の観点から、引張強度は70〜140MPaであることがより好ましく、75〜130MPaであることがさらに好ましい。
【0034】
幅方向の引張強度は、前述したβ晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体や分散剤の添加量を前記範囲とすることや、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸倍率、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0035】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルム総厚みが5〜300μmであることが好ましく、蓄電デバイス用セパレータ用途では10〜30μmであることが好ましい。総厚みが10μm未満では使用時にフィルムが破断する場合があり、30μmを超えると透気性が低下してセパレータとして用いたとき、出力特性が低下したり、蓄電デバイス内に占める多孔性フィルムの体積割合が高くなりすぎてしまい、高いエネルギー密度を得ることができなくなる。フィルム総厚みは12〜25μmであればより好ましく、15〜20μmであればなお好ましい。なお、2μm未満では強度が低すぎて製膜が困難な場合があり、300μmを超えると透気性が低下する場合がある。
【0036】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは空孔率が50〜80%であることが好ましい。空孔率が50%未満では、特に高出力電池用のセパレータとして使用したときに出力特性が低下する場合がある。一方、空孔率が80%を超えると、厚み当たりの樹脂量が低くなるため、機械強度が低くなりすぎてしまい、製膜やコーティングにおけるフィルム搬送時に破れたりシワが入る場合がある。優れた出力特性と強度を両立させる観点からフィルムの空孔率は52〜75%であればより好ましく、55〜70%であれば特に好ましい。
【0037】
空孔率は、β晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)の添加量を前記範囲とすることや、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0038】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、透気抵抗が50〜300秒/100mlであることが好ましい。より好ましくは80〜250秒/100ml、更に好ましくは100〜200秒/100mlである。透気抵抗が50秒/100ml未満であると、機械強度が低くなりすぎてしまい、製膜やコーティングにおけるフィルム搬送時にシワが入る場合がある。透気抵抗が300秒/100mlを超えると、特に高出力電池用のセパレータとして用いたとき出力特性が低下する場合がある。
【0039】
透気抵抗は、β晶核剤やエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)の添加量を前記範囲とすることや、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸速度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0040】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、様々な効果を付与する目的で積層構成をとっても構わない。積層数としては、2層積層でも3層積層でも、また、それ以上の積層数でもいずれでも構わない。積層の方法としては、共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式でも、ラミネートによる多孔性フィルム同士を貼り合わせる方法でもいずれでも構わない。積層構成としては、例えば、低温でのシャットダウン性を付与する目的でポリエチレンを含む層を積層したり、強度や耐熱性を付与する目的で粒子を含む層を積層することができる。積層構成とする場合には、表層を構成する樹脂にはポリエチレン系樹脂、エチレン共重合樹脂を含まないことが好ましい。表層にエチレン成分が存在すると電池用セパレータとして使用したとき耐酸化性が低下する場合がある。
【0041】
以下に本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムの製造方法を具体的な一例をもとに説明する。なお、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0042】
ポリプロピレン樹脂(A)として、MFR8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂99.5質量部、β晶核剤としてN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.3質量部、酸化防止剤0.2質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給して溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(a)を準備する。この際、溶融温度は270〜300℃とすることが好ましい。また同様に、上記のホモポリプロピレン樹脂59.8質量部、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)として市販のMFR18g/10分の超低密度ポリエチレン樹脂エチレン・オクテン−1共重合体を30質量部、分散剤(C)として市販のCEBC10質量部、酸化防止剤0.2質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(b)を準備する。
【0043】
次に、原料(a)89.7質量部、原料(b)10質量部、酸化防止剤0.3質量部をドライブレンドにて混合して単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。次に、途中に設置したフィルターにて、異物や変質ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸のキャストシートを得る。本発明では、均一な孔構造を得るために、キャストシート中のエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のドメイン形状や分散状態を制御することが重要であり、上述した分散剤(C)を添加することに加え、押出の際、ダイでのせん断速度を100〜1,000sec−1とすることが好ましい。より好ましくは150〜800sec−1であり、さらに好ましくは200〜600sec−1である。ダイでのせん断速度は式(1)で表される。ダイでのせん断速度が100sec−1未満であると、せん断が十分にかからずドメイン形状の制御が困難となる場合がある。また、ダイでのせん断速度が1,000sec−1を超えると、必要以上にドメインにせん断がかかってしまいドメイン形状の制御が困難となる場合がある。
【0044】
せん断速度(sec−1)=6Q/ρWt ・・・(1)
Q:流量(kg/sec)
ρ:比重(kg/cm
W:溝幅(cm)
t:溝間隙(cm)
上記のようにダイのせん断速度を好ましい範囲内とすることでキャストシート中のエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)を主体とするドメイン(オレフィン系共重合体(B)を主体とし、分散剤(C)が混合されてある)を微細かつ均一に分散させることが可能である。ここで、TD/ZD断面の平均ドメイン径は5〜100nmであることが好ましく、より好ましくは10〜90nm、さらに好ましくは、15〜80nmである。ただし、TD/ZD断面とは、フィルムを、厚み方向に平行な直線と幅方向に平行な直線を通る平面で切断したときの断面をいう。ドメイン径が5nm未満の場合、延伸時のフィブリルの開裂を促す効果が小さく、透気性が低下する場合がある。ドメイン径が100nmを超えると孔のサイズが大きくなりヤング率や破断伸度に劣る場合がある。通常、ダイのせん断のみによりドメイン径を制御しようとすると、せん断のかかりやすい厚み方向の表層付近はドメイン径が小さくなるが、厚み方向の中央付近はドメイン径が大きくなってしまい、均一な孔構造を得るのが困難であったが、本発明においては、上述した分散剤(C)を用い、上記範囲で製膜することにより、孔構造の均一性が高い多孔性ポリプロピレンフィルムが得られ、高い透気性と機械強度を両立可能となる。
【0045】
ダイのせん断速度が上述した範囲となるようにポリマーの流量、Tダイの溝幅、溝間隙を適宜調整する。ポリマーの流量は押出安定性の観点から40〜500kg/hrの範囲が好ましい。Tダイの溝幅は生産性の観点から200〜1,000mmの範囲が好ましい。Tダイの溝間隙は押出系内の内圧やキャスト精度の観点から0.8〜2mmの範囲が好ましい。また、キャストドラムは、表面温度が105〜130℃であることが、キャストシートのβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。この際、特にシートの端部の成形が、後の延伸性に影響するので、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態から、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。
【0046】
次に、得られたキャストシートを二軸配向させ、フィルム中に空孔を形成する。二軸配向させる方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、透気性と突刺特性のバランスの取れたフィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に、長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
【0047】
具体的な延伸条件としては、まず、キャストシートを長手方向に延伸する温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としては、90〜140℃であることが好ましい。90℃未満では、フィルムが破断する場合がある。140℃を超えると、透気性が低下する場合がある。長手方向の延伸温度は、より好ましくは100〜130℃、特に好ましくは115〜125℃である。延伸倍率としては、3〜6倍であることが好ましい。延伸倍率を高くするほど透気性は良化するが、6倍を超えて延伸すると、長期信頼性が低下する場合がある。出力特性と長期信頼性の両立の観点から、延伸倍率はより好ましくは3〜4.5倍である。
【0048】
次に、テンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。横延伸温度は、好ましくは130〜155℃である。130℃未満ではフィルムが破断したり、幅方向の熱収縮率が大きくなってセパレータとして用いたときに短絡が生じやすくなる場合があり、155℃を超えると透気性が低下して出力特性が低下する場合がある。透気性と安全性の両立の観点から、より好ましくは140〜155℃である。幅方向の延伸倍率は4〜12倍であることが好ましい。4倍未満であると、透気性が低下しイオン性液体の厚み方向浸透時間T1が小さくなりすぎて出力特性が低下したり、幅方向の引張強度が低下する場合がある。12倍を超えると、熱収縮率が大きくなってセパレータとして用いたときに短絡が生じやすくなる場合がある。出力特性と安全性の両立の観点から、延伸倍率はより好ましくは5〜10倍、更に好ましくは6〜8倍である。なお、このときの横延伸速度としては、500〜6,000%/分で行うことが好ましく、1,000〜5,000%/分であればより好ましい。面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)としては、好ましくは30〜60倍である。
【0049】
横延伸に続いて、テンター内で熱処理工程を行う。ここで熱処理工程は、横延伸後の幅のまま熱処理を行う熱固定ゾーン(以後、HS1ゾーンと記す)、テンターの幅を狭めてフィルムを弛緩させながら熱処理を行うリラックスゾーン(以後、Rxゾーンと記す)、リラックス後の幅のまま熱処理を行う熱固定ゾーン(以後、HS2ゾーンと記す)の3ゾーンに分かれていることが、透気性と熱収縮率の制御の観点から好ましい。
【0050】
HS1ゾーンの温度は、140〜165℃であることが好ましい。140℃未満であると、熱固定が十分でなく、幅方向の引張強度が低下する場合がある。165℃を超えると、フィルムの配向が緩和しすぎ、続くRxゾーンにおいて弛緩率を高くできず、幅方向の熱収縮率が大きくなったり、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなり、出力特性が低下する場合がある。出力特性と安全性の両立の観点から140〜150℃であればより好ましい。
【0051】
HS1ゾーンでの熱処理時間は、幅方向のヤング率と生産性の両立の観点から0.1秒以上10秒以下であることが好ましく、3秒以上8秒以下であるとより好ましい。
【0052】
本発明におけるRxゾーンでの弛緩率は13〜35%であることが好ましい。弛緩率が13%未満であると幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。35%を超えると透気性が低下して出力特性が低下したり、幅方向の厚み斑や平面性が低下する場合がある。出力特性と安全性の両立の観点から、15〜25%であるとより好ましい。
【0053】
Rxゾーンの温度は、155〜170℃であることが好ましい。Rxゾーンの温度が155℃未満であると、弛緩の為の収縮応力が低くなり、上述した高い弛緩率を達成できなかったり、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。170℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気性が低下する場合がある。出力特性と安全性の観点から、160〜165℃であるとより好ましい。
【0054】
Rxゾーンでの弛緩速度は、100〜1,000%/分であることが好ましい。弛緩速度が100%/分未満であると、製膜速度を遅くしたり、テンター長さを長くする必要があり、生産性に劣る場合がある。1,000%/分を超えると、テンターのレール幅が縮む速度よりフィルムが収縮する速度が遅くなり、テンター内でフィルムがばたついて破れたり、幅方向の物性ムラや平面性の低下を生じる場合がある。弛緩速度は、150〜500%/分であることがより好ましい。
【0055】
HS2ゾーンの温度は、155〜165℃であることが好ましい。155℃未満であると、熱弛緩後のフィルムの緊張が不十分となり、幅方向の物性ムラや平面性の低下を生じたり、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。165℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気性が低下して出力特性が低下する場合がある。出力特性と安全性の両立の観点から、HS2ゾーンの温度は、160〜165℃であることがより好ましい。熱固定工程後のフィルムは、テンターのクリップで把持した耳部をスリットして除去し、ワインダーでコアに巻き取って製品とする。
【0056】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、耐熱安定性に優れることから、包装用品、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シート用途で用いることができるが、特に耐デンドライト性と透過性に優れることから、蓄電デバイス用のセパレータとして好ましく用いることができる。ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。本発明の多孔性ポリプロピレンフィルムを用いたセパレータを使用した蓄電デバイスは、セパレータの優れた特性から産業機器や自動車の電源装置に好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0058】
(1)β晶形成能
多孔性ポリオレフィンフィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から260℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0059】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
(2)融点(Tm)
上記β晶形成能の測定方法と同様の方法で原料のポリプロピレン樹脂を測定し、セカンドランのピーク温度(α晶)を融点(Tm)とした。ただし、融点の測定においてはβ晶核剤を未添加のポリプロピレン原料を用いて測定した。
【0060】
(3)メルトフローレート(MFR)
ポリプロピレン樹脂のMFRは、JIS K 7210(1995)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定した。ポリエチレン樹脂は、JIS K 7210(1995)の条件D(190℃、2.16kg)に準拠して測定した。
【0061】
(4)厚み
接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(10.5mmφ超硬球面測定子、測定荷重0.06N)にて測定した。測定は場所を替えて10回行い、その平均値を多孔性ポリオレフィンフィルムの厚みとした。
【0062】
(5)透気抵抗
多孔性ポリオレフィンフィルムから100mm×100mmの大きさの正方形を切取り試料とした。JIS P 8117(1998)のB形ガーレ試験器を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間の測定を行った。測定は試料を替えて3回行い、透過時間の平均値をそのフィルムの透気抵抗とした。
【0063】
(6)幅方向の引張強度
多孔性ポリオレフィンフィルムを長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。なお、150mmの長さ方向をフィルムの幅方向に合わせた。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、初期チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分としてフィルムの幅方向に引張試験を行った。サンプルが破断した時にフィルムにかかっていた荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×幅(10mm))で除した値を破断強度の指標とした。測定は各サンプル5回ずつ行い、その平均値で評価を行った。
【0064】
(7)幅方向の120℃1時間の熱収縮率
多孔性ポリオレフィンフィルムを幅方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルに100mmの間隔で標線を描き、3gの錘を吊して120℃に加熱した熱風オーブン内に1時間設置し加熱処理を行った。熱処理後、空冷し、標線間距離を測定し、加熱前後の標線間距離の変化から熱収縮率を算出し、幅方向の120℃1時間の熱収縮率とした。測定は3サンプル実施して平均値で評価を行った。
【0065】
(8)空孔率
多孔性ポリオレフィンフィルムを40mm×50mmの大きさに切取り試料とした。電子比重計(ミラージュ貿易(株)製SD−120L)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて比重の測定を行った。測定を3回行い、平均値をそのフィルムの比重ρとした。
【0066】
次に、測定したフィルムを280℃、5MPaで熱プレスを行い、その後、25℃の水で急冷して、空孔を完全に消去したシートを作成した。このシートの比重を上記した方法で同様に測定し、平均値を樹脂の比重(d)とした。なお、実施例1〜4および比較例1〜4において比重dは0.91であり、比較例5において比重dは0.95であった。フィルムの比重と樹脂の比重から、以下の式により空孔率を算出した。
【0067】
空孔率(%) = 〔( d − ρ ) / d 〕 × 100
(9)多孔性ポリオレフィンフィルムの直流コロナ放電によるエレクトレット化処理
アース電極盤上に150mm×150mmの大きさの多孔性ポリオレフィンフィルムを置き、非接触針状印加電極−多孔性ポリオレフィンフィルム間距離50mmとして、直流高電圧(+15kV)を10秒間印加することにより処理を実施した。
【0068】
(10)イオン性液体の厚み方向浸透時間(T1、T2)
25℃、65%RHにて行った。エレクトレット化処理前または処理後の多孔性ポリオレフィンフィルム長手方向50mm、幅方向50mmに切り出し、250Wのメタルハライド光源の15mm上に設置したガラス板の上に乗せる。このガラス板の250mm上には、ニコン社製カメラレンズAiMicro−Nikkor55mmF2.8Sを装着した検出器(エレクトロセンサリデバイス(株)社製CCDラインセンサカメラE7450D)が設置してある。この状態で、メタルハライド光源から照射された光の、フィルム部分の透過光量を検出器で検出した。マイクロピペットを用いてイオン性液体を0.5ml採取し、サンプルの2cm上から滴下した。滴下と同時に時間計測を開始し、透過光量が、滴下前の3倍となった時間(秒)を、イオン性液体の厚み方向浸透時間とした。なお、イオン性液体として1−メチル−1−プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメチルメタンスルホニル)イミド(東京化成工業(株)製)を用い、エレクトレット化処理前の多孔性ポリオレフィンフィルムについて測定した値をT1、エレクトレット化処理後の多孔性ポリオレフィンフィルムについて測定した値をT2とした。
【0069】
(11)耐デンドライト性
宝泉(株)製の厚みが40μmのリチウムコバルト酸化物(LiCoO)正極を直径15.9mmの円形に打ち抜き、また、宝泉(株)製の厚みが50μmの黒鉛負極を直径16.2mmの円形に打ち抜いた。次に、多孔性オレフィンフィルムを直径24mmに打ち抜いた。正極活物質と負極活物質面が対向するように、下から負極、多孔性ポリオレフィンフィルム、正極の順に重ね、蓋付ステンレス金属製小容器(宝泉(株)製、HSセル、ばね圧1kgf)に収納した。容器と蓋とは絶縁され、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内にエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に溶質としてLiPFを濃度1モル/リットルとなるように溶解させた電解液を注入して密閉し、二次電池を作製した。
【0070】
作製した二次電池について、25℃の雰囲気下で、充電を1.5mAの電流値で(4.4V)となるまで定電流充電を行い、(4.4V)の電圧で7日間定電圧充電を行った。
【0071】
○:定電圧充電中に短絡なし
×:定電圧充電中に短絡もしくは試験終了後に短絡していた
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製、FLX80E4、融点165℃、MFR=7.5g/10分)99.45質量部に、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.3質量部、滑剤としてベヘン酸カルシウム0.05質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(あ)を得た。
【0072】
また、ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製 FLX80E4)を65質量部と、エチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を30質量部、エチレン−ブチレン共重合体・結晶性ポリオレフィンブロック共重合体(JSR(株)製、ダイナロン6200P、MFR=2.5g/10分)を5質量部、酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(い)を得た。
【0073】
得られたポリプロピレン組成物(あ)90質量部とポリプロピレン組成物(い)10質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに17.5秒間接するようにキャストしてキャストシートを得た。
【0074】
ついで、125℃に加熱したロールを用いてキャストシートを加熱し、長手方向に4.5倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に7.1倍に延伸した。続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で5秒間熱処理し(HS1ゾーン)、更に160℃で弛緩率18%リラックスを行い(Rxゾーン)、最後に弛緩後のクリップ間距離に保ったまま160℃で5秒間熱処理を行い(HS2ゾーン)、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み23μmの多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。
【0075】
(実施例2)
ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製 FLX80E4)を60質量部と、エチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を30質量部、エチレン−ブチレン共重合体・結晶性ポリオレフィンブロック共重合体(JSR(株)製、ダイナロン6200P、MFR=2.5g/10分)を10質量部、酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(う)を得た。
【0076】
実施例1で、ポリプロピレン組成物(い)の代わりにポリプロピレン組成物(う)を使用した以外は、実施例1と同じ条件で厚み23μmの多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。
【0077】
(実施例3)
実施例1で、幅方向の延伸倍率を8.4倍とし、弛緩率を20%とした以外は、実施例1と同じ条件で厚み23μmの多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。
【0078】
(実施例4)
実施例1で、HS2ゾーンの温度を162℃とした以外は、実施例1と同じ条件で厚み23μmの多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。
【0079】
(比較例1)
実施例3で、弛緩率を10%とした以外は、実施例1と同じ条件で厚み23μmの多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。
【0080】
(比較例2)
ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製 FLX80E4)を70質量部と、エチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を30質量部、酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(え)を得た。
【0081】
実施例1で、ポリプロピレン組成物(い)の代わりにポリプロピレン組成物(え)を使用した以外は、実施例1と同じ条件で厚み23μmの多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。
【0082】
(比較例3)
ポリプロピレン樹脂(住友化学(株)製 FLX80E4)を94質量部、高溶融張力ホモポリプロピレン(Basell社製Pro−faxPF814、MFR:2.5g/10分、アイソタクチックインデックス:97%)を1質量部、エチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を5質量部混合したところに、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.2質量部加えて2軸押出機に供給し、220℃で溶融混練を行い、ストランド状に押出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(お)を得た。
【0083】
ポリプロピレン組成物(お)を単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに17.5秒間接するようにキャストしてキャストシートを得た。
【0084】
ついで、125℃に加熱したロールを用いてキャストシートを加熱し、長手方向に5倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して145℃で幅方向に6倍に延伸した。続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で5秒間熱処理し(HS1ゾーン)、更に160℃で弛緩率10%リラックスを行い(Rxゾーン)、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み23μmの多孔性ポリオレフィンフィルムを得た。
【0085】
(比較例4)
表1に記載の特性を有する、ラメラ一軸延伸法にて製造された市販の微孔性ポリプロピレンフィルム(厚み方向に直線的な孔を有する)を比較例4とした。
【0086】
(比較例5)
表1に記載の特性を有する、湿式法にて製造された市販の微孔製ポリエチレンフィルム(3次元的に等方な孔を有する)を比較例5とした。
【0087】
【表1】

【0088】
本発明の要件を満足する実施例ではT1/T2の値が高く、幅方向の強度に優れ、幅方向の熱収縮特性に優れるため、安全性と長期信頼性を両立することができ、蓄電デバイス用のセパレータとして好適に用いることが可能である。一方、比較例では、T1/T2の値が低く、幅方向の強度と熱収縮特性に劣り、蓄電デバイス用のセパレータとして用いることが困難である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の多孔性オレフィンフィルムは、セパレータとして用いたとき、安全性、長期信頼性に優れるため、蓄電デバイス用のセパレータとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1・・・樹脂部
2・・・空孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向の120℃1時間の熱収縮率が0〜3.5%であり、イオン性液体の厚み方向浸透時間をT1(秒)としたとき、T1が10〜300秒であり、かつ、直流コロナ放電によるエレクトレット化後のイオン性液体の厚み方向浸透時間をT2(秒)としたとき、T1/T2>1.3である多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項2】
幅方向の引張強度が65〜150MPaである、請求項1に記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項3】
ポリプロピレン樹脂を主成分として含む層を少なくとも1層有する、請求項1または2に記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項4】
多孔性ポリオレフィンフィルムのβ晶形成能が40〜90%である、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項5】
乾式法により製造される、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項6】
コロナ放電によりエレクトレット化した、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルムを蓄電デバイス用セパレータとして用いた蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−100458(P2013−100458A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−192800(P2012−192800)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】