説明

多孔性基盤を用いたマイクロニードル・アレイとその製造方法

【課題】水溶性の洩糸性高分子物質を基剤に用い、ワクチン抗原、インスリンなどの高分子薬を先端部に含有するマイクロニードル・アレイを製造するためには、目的物質を含有する基剤濃厚液を型に挿入したままで効率よく溶媒を除去して乾燥・硬化できる基盤が求められている。
【解決手段】多孔性の水不溶性の基盤もしくは多孔性フィルターを基盤として用いることにより、型の中に目的物質を含有する基剤濃厚液を挿入したままで、乾燥・硬化およびメス型からの剥離を行うことが可能となり、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質基盤に水溶性の洩糸性高分子物質の基剤を用いて、基剤の先端に目的物質を有するマイクロニードル・アレイとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮的に投与を行ってもバイオアベイラビリティが極めて低い薬物のバイオアベイラビリティを改善する製剤技術としてマイクロニードルが研究されている。マイクロニードルは、皮膚に刺しても痛みを感じないほどに微細化された針である。マイクロニードルの材質としては、従来の注射針と同じ金属の他、シリカ等が用いられている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
これらのマイクロニードル・アレイは、注射針と同様の中空構造を有し、薬液を注入するタイプである。また、ポリ乳酸などの生分解性高分子製のマイクロニードル・アレイも開発されている。さらに、生体内溶解性を有する物質を基剤とする自己溶解型のマイクロニードルも開発されている。すなわち、基剤に目的物質を保持させておき、皮膚に挿入された後、基剤が溶解することにより、目的物質を皮内に投与することができる。例えば、麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルが開示されている(特許文献1〜3、40〜43)。マイクロニードルを介して薬物を注入する装置、器具、あるいはマイクロニードルの素材、形状、製法などに関する特許も多数公知である(特許文献4、特許文献7乃至50)。
【0004】
本発明者は上記麦芽糖を基剤とするマイクロニードルの欠点を克服したマイクロニードルとして、水溶性の洩糸性高分子を基剤とするマイクロニードルを特許出願した(特許文献5)。当該発明は、遺伝子組み換え蛋白薬、ワクチン、遺伝子DNAなどの高分子薬、水溶性の難・低経皮吸収薬物など皮膚透過性が低いために従来の経皮投与では十分な効果が期待できない薬物の皮膚透過性を高めたものである。
【0005】
ここで、水溶性の難・低経皮吸収薬物とは、経皮吸収時のバイオアベイラビリティが数%あるいは数%以下という値を示す薬物をいう。より具体的には、アミノグリコシド系抗生物質、バンコマイシンなどのペプチド系抗生物質、ビタミンCなどである。
【0006】
さらに本発明者は水溶性の洩糸性高分子物質であるコンドロイチン硫酸、デキストラン、ヒアルロン酸などを基剤とするマイクロニードル・アレイの工業的製造法を発明して特許出願を行った(特許文献6)。さらに多層マイクロニードルを考案した(特許文献51)。
【0007】
また、本発明者は、ワクチン抗原などの高分子、インスリンなどのペプチド・蛋白薬を目的物質とし、コンドロイチン硫酸、デキストラン、ヒアルロン酸、などを基剤に用いて、長さ約500μm、底部直径約300μmのマイクロニードルを例えば1平方センチメートルのチップ上に10行10列で100本構築したマイクロニードル・アレイを製造する方法を発明した(特許文献52)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−238347号公報
【特許文献2】特開2005−154321号公報
【特許文献3】特開2005−152180号公報
【特許文献4】特表2006−500973号広報
【特許文献5】国際公開2006/080508号パンフレット
【特許文献6】特願2007−150574号公報
【特許文献7】特表2006−513811号公報(WO2005/044364号)
【特許文献8】特表2006−502831号公報(WO2004/035105号)
【特許文献9】特表2005−533625号公報(WO2004/009172号)
【特許文献10】特表2005−514179号公報(WO2003/059431号)
【特許文献11】特表2005−503194号公報(WO2002/100474号)
【特許文献12】特表2005−501615号公報(WO2003/020359号)
【特許文献13】特表2004−532698号公報(WO2002/100476号)
【特許文献14】特表2004−507371号公報(WO2002/017985号)
【特許文献15】特表2004−504120号公報(WO2002/007813号)
【特許文献16】特表2002−526273号公報(WO00/16833号)
【特許文献17】特開2008−46507号公報
【特許文献18】特開2008−29710号公報
【特許文献19】特開2008−29559号公報
【特許文献20】特開2008−6178号公報
【特許文献21】特開2007−130030号公報
【特許文献22】特開2006−335754号公報
【特許文献23】特開2005−246595号公報
【特許文献24】特表2007−523771号公報(WO2005/082596号)
【特許文献25】特表2007−511318号公報(WO2005/049107号)
【特許文献26】WO2007/030477号公報
【特許文献27】WO2004/000389号公報
【特許文献28】WO2007/091608号公報
【特許文献29】WO2007/116959号公報
【特許文献30】特開2008−011959号公報
【特許文献31】特開2008−074763号公報
【特許文献32】特開2008−125864号公報
【特許文献33】特開2008−237675号公報
【特許文献34】特開2008−296037号公報
【特許文献35】特開2009−061212号公報
【特許文献36】特開2009−072270号公報
【特許文献37】特開2009−078074号公報
【特許文献38】特表2009−501066号公報(WO2008/010681号)
【特許文献39】特表2009−502261号公報(WO2007/012144号)
【特許文献40】特開2009−254756号公報
【特許文献41】特開2009−273872号公報
【特許文献42】特開2009−201956号公報
【特許文献43】特開2009−273772号公報
【特許文献44】特開2009−233170号公報
【特許文献45】特開2009−241357号公報
【特許文献46】特開2009−241358号公報
【特許文献47】特開2009−254876号公報
【特許文献48】特表2009−507573号公報(WO2007/030477号)
【特許文献49】特表2009−533197号公報(WO2008/004781号)
【特許文献50】特表2009−540984号公報(WO2007/147671号)
【特許文献51】WO2009/066763号
【特許文献52】特開2009−195583号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】D. K. アルミニ(Armini)とC. リュー(Lui),「マイクロファブリケーション・テクノロジー・フォー・ポリカプロラクトン,ア・バイオデグレイダブル・高分子(Microfabrication technology for polycaprolactone, a biodegradable polymer)」,ジャーナル・オブ・マイクロメカニクス・アンド・マイクロエンジニアリング(Journal of Micromechanics and Microengineering),2000年,第10巻,p.80−84
【非特許文献2】M. R. プラウスニッツ(Prausnitz),「マイクロニードルズ・フォー・トランスダーマル・ドラッグ・デリバリー(Microneedles for transdermal drug delivery)」,アドバンスト・ドラッグ・デリバリー・レビューズ(Advanced Drug Delivery Reviews),2004年,第56巻,p.581−587
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
シリコーン樹脂などで作成したメス型の中に目的物質を基剤で粘調性溶液あるいは懸濁液として充填し、その後に、例えば紙製の基盤を用いて乾燥・硬化させることによりマイクロニードル・アレイを調製した。しかし、医薬品製剤としてのマイクロニードル・アレイを開発するためには、滅菌などの過程を経なければならない。従って、より生産性に優れかつ滅菌などの医薬品製造プロセスに適した基盤が求められている。
【0011】
また、このようなマイクロニードル・アレイは微小なニードルが密集した形状をしているので、その製造時にメス型から引き抜く際に、基盤に接着するもののメス型から抜けてこない場合がある。薬として人体に注入する目的物質を先端に有するマイクロニードル・アレイでは、マイクロニードル・アレイ1単位に含有させる薬物量、すなわちニードルの本数が正確に求められる。従って、メス型から引き抜く際に、予め決められた数のニードル数がマイクロニードル・アレイの基盤上に形成されなければ、医薬品製剤として使用することができないという課題があった。
【0012】
また、メス型から引き抜く際には、基盤をメス型から垂直に抜かなければ、マイクロニードルが折れてしまうという課題もあった。
【0013】
本発明の目的は、目的物質を含有するマイクロニードル・アレイを製造する場合に医薬品製剤に適した基盤を提供することにある。特に、メス型から引き抜くときに、マイクロニードルがしっかりと固着して取り出せる基盤と、この基盤を用いたマイクロニードル・アレイおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、水溶性の洩糸性高分子物質を基剤として用い、目的物質を基剤とともにマイクロニードル製造用メス型の中に挿入した後、挿入したままの状態で効率良く乾燥・硬化させ、引き抜くのに適した基盤を用いてマイクロニードル・アレイを作製することに成功し、本発明を完成した。
【0015】
より具体的には、本発明のマイクロニードル・アレイ用基盤は、
少なくとも一面は平坦面を有するマイクロニードル・アレイ用基盤であって、
前記平坦面の反対の面に突起部を有し、
前記平坦面から前記平坦面の反対面に対して多孔性を有する材料からなることを特徴とする。
【0016】
また、前記基盤は水不溶性の高分子繊維様物質および粘着性高分子物質を含む事を特徴とする。
【0017】
また、前記高分子繊維様物質は、結晶セルロース、エチルセルロース、酢酸セルロースおよびその誘導体ならびにキチンとその誘導体の少なくとも1つを含む。
【0018】
また、前記粘着性高分子物質は、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースの少なくとも1つを含む。
【0019】
また、前記多孔性を有する材料は、多孔性高分子樹脂であってもよく、前記多孔性高分子樹脂はポリエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、アクリルニトリル、塩素化ポリエチレン・スチレン、ポリオキシエチレン、ポリプロピレンの少なくとも1種類を含む。また、多孔性を有する材料は、多孔性金属であってもよい。
【0020】
また、本発明のマイクロニードル・アレイは、
上記のいずれかの多孔性を有する基盤と、
前記基盤上に固着された洩糸性高分子材料からなる突起状の基剤部と、
前記突起状の基剤部の先端に配設された目的物質部を有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明のマイクロニードル・アレイの製造方法は、
メス型に目的物質などを注入する工程と、
前記メス型にさらに基剤を注入する工程と、
多孔性を有する基盤を前記メス型に押し付け、乾燥・硬化する工程と、
前記基盤から前記メス型を剥がす工程を有する。
【0022】
また、前記メス型に基剤を注入した後にスキジーにてメス型表面に残った基剤を除去する場合には、基盤を押し付け、乾燥・硬化する工程の前に、前記基盤に糊を塗布する工程をさらに入れても良い。また、糊は基盤の表面のみならず側面に塗布してもよい。
【0023】
また、前記メス型に基盤を押し付け、乾燥・硬化する工程は減圧環境下で行っても良いし、通常は室温乃至低温環境下で行う製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
医薬品製剤としてのマイクロニードル・アレイは医薬品添加物を用いて作成するかあるいは製造過程において滅菌などの処理を受けねばならない。本発明の基盤を用いれば、マイクロニードル・アレイ製造用メス型の中に目的物質を含む粘調性の基剤濃厚液もしくは粘調性の懸濁液を充填した後、基盤をメス型に押し付けたままで乾燥・硬化させ、メス型から基盤を剥離することができる。これによりマイクロニードル・アレイを効率よく製造することが可能となる。
【0025】
また、多孔性の基盤上に、洩糸性を有する高分子物質を基剤としてあるいは糊として用いてマイクロニードル・アレイを作製するので、乾燥・硬化させる際に、洩糸性高分子物質の基剤が多孔性の基盤内に侵入し、アンカー効果によってマイクロニードルが基盤に強固に固着する。その結果、メス型から基盤を剥離する際に、全てのニードルを基盤に固着したままで引き抜くことができる。
【0026】
また、多孔性の基盤の裏面には突起を設けたので、裏面の表面積が増加し、より乾燥・硬化が容易になる。さらに、多孔性の基盤の裏面の突起を治具で把持することで、基盤をメス型から垂直に引き抜くことができる。このことは、メス型から基盤を剥離する際のマイクロニードルの折れを回避することができる。結果、基盤上に設置予定されたマイクロニードルが不足なく形成されたマイクロニードル・アレイが作製されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のマイクロニードル・アレイを製造する工程のうち、メス型に目的物質などを注入する工程を示す図である。
【図2】目的物質などを注入後、基剤液を注入する工程を示す図である。
【図3】メス型に目的物質などにつづいて基剤液を注入した後、基盤を被せて、押しつけながら乾燥・硬化する工程を示す図である。
【図4】基盤内に洩糸性高分子物質の基剤が浸み込む様子を示した模式図である。
【図5】基盤の裏面に形成された突起部のバリエーションを例示する図である。
【図6】突起部を把持しメス型から基盤を垂直に持ち上げる様子を示す模式図である。
【図7】完成したマイクロニードル・アレイを示す図である。
【図8】高分子繊維様物質のみで作成した基盤の片面だけに洩糸性高分子物質の糊を塗布した場合、乾燥がゆきすぎると基盤が反り返る様子を示す図およびその欠点を解消するために基盤の側面にも洩糸性高分子物質の糊を塗布した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に用いるマイクロニードル・アレイ用基盤は水不溶性の多孔性基盤である。従って、マイクロニードル・アレイのメス型に目的物を含有する水溶性の洩糸性高分子物質基剤を注入した後、基盤をメス型に押し付けたままで乾燥・硬化させることができる。
【0029】
また、本発明で用いる多孔性基盤は、水不溶性材料を成形したものであってもよい。また、公知の高分子樹脂あるいは金属で作製した多孔性フィルターを用いることもできる。マイクロニードル・アレイに用いる本発明の多孔性基盤は、洩糸性高分子物質の基剤が乾燥時に基盤内に浸透し硬化することで、アンカー効果によりニードルが基盤に固着してメス型からの確実な剥離を可能にする。従って、本発明の基盤における「多孔性」とは、洩糸性を有する高分子物質が浸透し、乾燥できる程度の多孔性を有する程度で足りる。
【0030】
好ましくは、水不溶性材料(「水不溶性ポリマー」とも呼ぶ)は酢酸セルロース、結晶セルロース、エチルセルロースさらにセルロース誘導体ならびにキチンおよびその誘導体などを用いて作成した錠剤である。また、これらの物質は、高分子繊維様物質ということもできる。
【0031】
また、好ましくは、多孔性高分子樹脂の材質は、ポリエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・塩素化ポリエチレン・スチレン、ポリオキシエチレン、ポリプロピレンである。また、多孔性高分子を用いた本発明の基盤とは、これらの高分子物質を加圧成型し、多孔性を有する程度に固めたものである。
【0032】
基盤の形状は、特に限定されるものではないが、少なくとも一面が平坦面を有する板状であるのが好ましい。メス型に流し込んだマイクロニードルは、平坦面に接着させて引き抜くのが、全てのマイクロニードルに均等に力がかかり、抜け残りなく引き出せるからである。
【0033】
また、本発明の基盤の平坦面の裏側には突起部が形成される。メス型に押し付けた基盤はメス型に対して、垂直方向に引き出す必要がある。斜め方向に引き出すと、メス型の凹部の端にマイクロニードルがぶつかり、ニードル部分が破損するからである。従って、基盤の裏側に引き抜く際に把持することができる突起部を有していれば、容易にメス型から基盤を垂直方向に引き抜くことができる。
【0034】
また、基盤の裏面に突起部を形成すると、裏面の表面積が増加し、メス型に基盤を押し付けた際に、より乾燥・硬化が容易になる。
【0035】
突起部の形状は、特に限定されるものではない。基盤の中央部にのみ形成されていてもよいし、基盤の一端から他端にかけて形成されていてもよい。また、基盤の裏面に凹みを形成することで、突起部を形成してもよい。
【0036】
好ましくは、水溶性の洩糸性高分子物質の基剤は、洩糸性を有する多糖類、タンパク質、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である。なお、これらの高分子物質については、1つだけを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
好ましくは、前記洩糸性の多糖類は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン、デキストラン硫酸、ヒアルロン酸、シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、アガロース、プルラン、及びグリコーゲンおよびそれらの誘導体より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0038】
好ましくは、前記洩糸性のタンパク質は、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、コラーゲン及びゼラチンおよびそれらの誘導体より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0039】
基剤に目的物質を保持させる方法としては特に限定はなく、種々の方法が適用可能である。例えば、目的物質を基剤中に超分子化して含有させることにより、目的物質を基剤に保持させた状態でメス型に挿入し、その後、本発明の基盤を用いて溶媒を吸収・蒸発させて乾燥・硬化することによってマイクロニードル・アレイを作ることができる。その他の例としては、溶解した基剤の中に微粒子化を施した目的物質を加えて懸濁状態とした状態でメス型に注入し、その後に、本発明の基盤を用いて溶媒を吸収・蒸発させて乾燥・硬化することによってマイクロニードル・アレイを取り出すことができる。
【0040】
好ましくは、前記目的物質は、薬物および化粧品に用いられている有効物質である。
【0041】
好ましくは、前記薬物は、ワクチン用抗原、ペプチド、タンパク質、核酸又は多糖類に属するものである。
【0042】
化粧品の分野において目的物質は、皮膚の美白の予防・治療、アンチエージング等を目的とする物質である。
【0043】
マイクロニードル・アレイを構成するマイクロニードルの長さについては特に限定はないが、好ましくは200〜700マイクロメートル程度、より好ましくは300〜600マイクロメートル程度が好適である。
【0044】
基盤の面積については特に限定はないが、好ましくは約25平方センチメートル、より好ましくは約5.0平方センチメートル、さらに好ましくは約2.0〜1.0平方センチメートル程度が好ましい。また、厚さも特に限定はないが、好ましくは5ミリメートル、より好ましくは3〜1ミリメートル程度がよい。
【0045】
次に本発明のマイクロニードル・アレイの作製方法について図面を用いて説明する。本発明のマイクロニードル・アレイは、ニードル形状を有するメス型に目的物質と基剤の混和物からなる濃厚液および粘調性基剤濃厚液を順に注入し、乾燥・硬化後、これらを基盤に転写することで形成される。メス型は、極性溶媒に不溶性の材質が好ましい。本発明のマイクロニードル・アレイは、医薬品に用いられることを想定しており、目的物質や基剤が極性溶媒(特に水)に溶解する場合が多いからである。
【0046】
なお、ニードルの先端に注入する目的物質は基剤を含んでいなくてもよい。また、目的物質に混和する基剤は、目的物質などの次に注入する基剤と同じ種類の基剤でなくてもよい。また、本明細書で目的物質とは、効能を有する物質単独でなく、それらの複合物であってもよいし、基剤となりうる物質との混和物であってもよい。
【0047】
また、メス型は加工が容易な材料が好ましい。マイクロニードル・アレイは、上述したように、数百マイクロメートル程度の大きさであるので、メス型には、このサイズの凹みを加工しなければならないからである。具体的には、シリコーンなどの高分子樹脂、ゴム等が好適に利用できる。メス型には、深さ約500μm、表面の開口直径約300μmの針状の凹みが形成される。高さ約500μm、底面直径約300μmの微小の針状構造物を形成するための型だからである。
【0048】
また、この凹みは例えば1平方センチメートルのチップ上に10行10列で100本程度の密度で構築される。マイクロニードル・アレイは、その1単位が数平方センチメートルほどのシート状で提供される場合が多いので、メス型には、マイクロニードル・アレイの1単位に相当する面積毎に上述の凹みの密集が形成され、凹みが形成されていない領域がその周囲に形成されるようにしてもよい。1つのメス型で多くのマイクロニードル・アレイを作製できるようにするためである。また、凹みが形成されていない領域を設けるのは、マイクロニードル・アレイの1単位に植え付けるニードルの数を決め、含有させる目的物質の分量を正確にするためである。
【0049】
図1には、メス型に目的物質等を注入する工程を示す。メス型11には、マイクロニードル・アレイの1単位13毎に所定の密度の凹み12が形成されている。図1(a)および図1(c)で示すように、メス型11に目的物質などを含む溶液15を乗せ、スキージ16で加圧しながら凹み12に押し込む。図1(b)には目的物質などを含む溶液15を塗布した状態の拡大した断面を示す。図1(d)には、目的物質などを含む溶液15が針状の凹みに押し込まれた状態19の断面を示す。マイクロニードル・アレイの1単位13に注入する目的物質などを含む溶液15の量は、目的物質の粘度やメス型との濡れ性を調節することで、予め調整若しくは測定をしておく。
【0050】
次に洩糸性を有する基剤の粘調液をメス型に塗布する。図2に示すように、メス型には、凹み12の底部に目的物質部19が形成されているので、その上に基剤21を注入する。
【0051】
図3(a)、(b)を参照して、次に基盤25をメス型11に押し付ける。ここで、基盤25の表面には糊26を塗布してもよい。基盤25上に塗布した糊26は、基剤21と同様に洩糸性を有する物質である。特に基剤21と同じ材料を用いるのが好ましい。メス型11の凹みの穴の開口部に見えている基剤と基盤25を確実に接着させるためである。
【0052】
次にメス型11に基盤25を押し付けた状態で全体を乾燥させる(図3(c))。乾燥は、風を当てる、減圧乾燥するといった方法が考えられ、特に限定されるものではない。しかし、目的物質は基本的に熱に不安定な物質、例えば蛋白質や核酸、である場合が多く、室温以上の加熱は行わないのが好ましい。目的物質が変性若しくは分解してしまうからである。従って、全体を乾燥する工程は、室温乃至低温の環境で行うのがよい。なお、ここで室温とは、20℃乃至30℃をいう。また低温とは、4℃から20℃未満までをいう。なお、目的物質が温度に安定な場合には、加温して乾燥を行うと作業効率が良くなる。
【0053】
メス型11に基盤25を押し付けたまま乾燥させると、多孔性の基盤のメス型に接している面から溶媒を吸い上げるとともに反対面から基剤や目的物質の溶媒が蒸発する。つまり、基盤の多孔性はメス型の中のニードルの乾燥・硬化に寄与する。また、図4を参照して、基剤21は洩糸性であるので、基盤25の細孔中に入り込み(28)、基盤25と基剤21を強固に固定する。図4で符号28は、洩糸性のある基剤21が基盤25の細孔中に入り込んでいる状態を表す。つまり、基盤25の多孔性は、洩糸性の基剤21の使用と共に、基盤25とニードル31の接着力向上にも寄与する。このようにすることで、乾燥・硬化後、基盤25をメス型11からはがす際に、目的物質と基剤からなるニードル31を凹みから全部引き抜くことができる。
【0054】
また、基盤の裏面側に形成された突起部24は、裏面の表面積を増大させる。つまり、突起部24は、マイクロニードル・アレイ基盤に、より乾燥・硬化しやすい特性を与える。
【0055】
図5には、基盤25の裏面に形成される突起部24のバリエーションを例示するが、これらに限定されるものではない。図5(a)は裏面中央に円柱状の突起部24aを形成した例である。また、図5(b)は、断面方形状の突起部24bを形成した例である。さらに、図5(c)は、裏面に凹み24cを形成し、両側に突起形状を形成した例である。このように突起部24は凹みを形成することで、凹みの周囲を突起部としてもよい。
【0056】
また、これらの突起部は基盤の裏面側に複数個形成してもよい。複数の突起部は裏面の表面積を増大させ、メス型中のマイクロニードルを乾燥・硬化させやすい基盤といえる。
【0057】
さらに、基盤の裏面側の突起部24は、メス型から基盤を引きはがす際に、基盤を垂直に持ち上げるための把持部としても利用できる。図6には、メス型11からマイクロニードル・アレイを引き抜く際の様子を模式的に表す。製造装置のマニュピュレーター等で突起部24を把持することで、メス型に対して垂直方向に基盤を持ち上げることができる。メス型に対して基盤を斜めに引き上げると、メス型の凹み12の開口部端にマイクロニードル31がぶつかり、ニードル部分が破損する場合もある。垂直方向に引き出すことで、ニードル部分の破損を回避することができる。
【0058】
図7には、メス型から引き抜いたマイクロニードル・アレイ30の全体図(図7(a))と断面の拡大図(図7(b))を示す。マイクロニードル・アレイ30は、所定のニードル31の本数が基盤25上に形成されている。ニードル31は先端に目的物質を含む目的物質部33が配置され、ニードルの基礎となる基剤部32は、洩糸性の高分子材料からなる基剤で形成される。目的物質部33は、目的物質などからなる。目的物質は、すでに説明したように効能を有する物質だけでなく、基剤となりうる物質が混和されていてもよい。基剤部32と基盤25は、乾燥・硬化時に基剤の一部が基盤の細孔に浸み込むことで、アンカー効果が生じ、強固に接着されている。
【0059】
なお、図8(a)、(b)に示すように、基盤25の表面だけに糊35を塗布して、メス型から剥離した場合、過度に乾燥が進むと糊35が収縮し、基盤の周辺部において一部が反り返るという現象が認められる。特に、材料を加圧成型して作製した基盤の場合にはこのような現象が生じやすい。このような場合は、図8(c)、(d)に示すように、基盤の一方面だけでなく、基盤の側面にも糊35を塗布することで、基盤の反り返りを解消することができる。
【0060】
本発明の限定を意図しない以下の実施例によりさらに詳しく説明される。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
単発打錠器の臼に錠剤用酢酸セルロースを入れ、約10kNの打錠圧で直径1.5cmの錠剤基盤を作った。メス型は、1平方センチメートルのブロック毎に深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの百〜数百個の逆円錐状細孔を有する樹脂製のものを用意した。また、モデル抗原である卵白アルブミンと、ヒアルロン酸と、エバンスブルーに脱気した精製水を加えて粘調性濃厚液を作製した。そして、この粘調性濃厚液をメス型の穴の上に塗布した。
【0062】
メス型上の残留物をスキジーにて除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。さらにコンドロイチン硫酸ナトリウムに精製水を加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布し、打錠にて作成した酢酸セルロース製の基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で回転させて乾燥・硬化させた。その後、基盤をメス型から剥がしたところ、全てのニードルは基盤について引き抜くことができ、マイクロニードル・アレイを得ることができた。
【0063】
(実施例2)
単発打錠器に結晶セルロースを入れ、約10kNの打錠圧で直径1.5cmの錠剤基盤を作った。実施例1と同様にしてメス型の穴にモデル抗原である卵白アルブミン、コンドロイチン硫酸Cナトリウムおよびエバンスブルーを精製水に溶かして調製した粘調性濃厚液を塗布した。メス型上の残留物を除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。
【0064】
ヒアルロン酸に精製水を加えて作成した粘調液をメス型の上に塗布し、打錠にて作成した基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で遠心力をかけて回転させて乾燥・硬化させた。その後、基盤をメス型から剥がしたところ、全てのニードルは基盤にくっついて剥がすことができ、マイクロニードル・アレイを得た。
【0065】
(実施例3)
単発打錠器にキチンを入れ、約12kNの打錠圧で直径1.5cmの錠剤基盤を作った。実施例2と同様にしてメス型の穴にモデル抗原である卵白アルブミンを含有する粘調性濃厚液を塗布した。メス型上の残留物を除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。
【0066】
実施例1で用いたコンドロイチン硫酸ナトリウム濃厚液をメス型に塗布し、基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で遠心力をかけて回転させて乾燥・硬化させた。その後、基盤をメス型から剥がしたところ、全てのニードルは基盤にくっついて剥がすことができ、マイクロニードル・アレイを得た。
【0067】
(実施例4)
ポリエチレン製の多孔性の板を裁断することにより縦1.5cm、横1.5cmの正方形のフィルターを作成した。インスリンナトリウム(自家製)、エバンスブルーおよびコンドロイチン硫酸ナトリウムに脱気した精製水を加えてよく溶解及び混和し、粘調性濃厚液とした。
【0068】
実施例1と同様にしてメス型の穴にインスリンを含有する粘調性濃厚液を塗布した。メス型上の残留物をスキジーにて除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。さらに遠心して乾燥・硬化した。コンドロイチン硫酸ナトリウムに精製水を加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布し、ポリエチレン製の多孔性基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で回転させて乾燥・硬化させた。その後、基盤をメス型から剥がしたところ、全てのニードルは基盤にくっついて引き抜くことができ、マイクロニードル・アレイを得ることができた。
【0069】
(実施例5)
ポリメチルメタアクリレート製の多孔性の板を裁断することにより縦1.5cm、横1.5cmの正方形のフィルターを作成した。ヒト成長ホルモン、リサミングリーンおよびコンドロイチン硫酸ナトリウムに脱気した精製水を加えてよく溶解及び混和し、粘調性のある濃厚液を作成した。実施例1と同様にしてメス型の穴に成長ホルモンを含有する粘調性濃厚液を塗布した。メス型上の残留物をスキジーにて除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。
【0070】
さらに遠心して乾燥・硬化した。コンドロイチン硫酸ナトリウムに精製水を加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布し、ポリメチルメタアクリレート製の多孔性基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で遠心力をかけて回転させて乾燥・硬化させた。その後、基盤をメス型から剥がしたところ、全てのニードルは基盤について引き抜くことができ、マイクロニードル・アレイを得ることができた。
【0071】
(実施例6)
ポリ塩化ビニル製の多孔性の板を裁断することにより縦1.5cm、横1.5cmの正方形のフィルターを作成した。デスモプレシンをpH6.5のリン酸緩衝液に溶解した。さらに、エバンスブルー、コンドロイチン硫酸ナトリウムを加えて溶かして粘調性の濃厚液を作成した。実施例1と同様にしてメス型の穴にデスモプレシンを含有する粘調性濃厚液を塗布した。メス型上の残留物をスキジーにて除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。
【0072】
実施例5で用いたのと同様のコンドロイチン硫酸ナトリウムの粘調性濃厚液をメス型上に塗布し、ポリ塩化ビニル製の多孔性基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で遠心力をかけて回転させて乾燥・硬化させた。その後、基盤をメス型から剥がしたところ、全てのニードルは基盤にくっついて引き抜くことができ、マイクロニードル・アレイを得ることができた。
【0073】
(実施例7)
塩素化ポリエチレン・スチレン樹脂製の多孔性の板を裁断することにより縦1.5cm、横1.5cmの正方形のフィルターを作成した。エバンスブルー、高分子デキストランにエリスロポエチン注射液(商品名エスポー、24,000IU/mL、協和キリン社)および脱気した精製水を加えて溶かして粘調性の濃厚液を作成した。実施例1と同様にしてメス型の穴にエリスロポエチンを含有する粘調性濃厚液を塗布した。メス型上の残留物をスキジーにて除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。
【0074】
高分子デキストランにポリエチレングリコール400を0.1%の濃度で含有する脱気精製水を加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布し、塩素化ポリエチレン・スチレン樹脂製の多孔性基盤を被せ、押しつけながら一晩放置して乾燥・硬化した。その後、基盤をメス型から剥がしたところ、全てのニードルは基盤にくっついて引き抜くことができ、マイクロニードル・アレイを得ることができた。
【0075】
(比較例1)
実施例1と同様に、1平方センチメートルのブロック毎に深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの百〜数百個の逆円錐状細孔を有するメス型の穴の上に、モデル抗原である卵白アルブミン、ヒアルロン酸、エバンスブルーに脱気した精製水を加えて作成した粘調性濃厚液を塗布した。メス型上の残留物を除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。
【0076】
コンドロイチン硫酸ナトリウムに精製水を加えて作成した濃厚液をメス型上に塗布し、厚さ3mm、1.5cmx1.5cmの大きさのアクリル板を被せ、クリップで挟んだ状態で丸一日室温にて放置した。あるいはメス型ごと卓上遠心分離器で2時間回転した。しかし、いずれの場合も乾燥・硬化が不十分で、アクリル板をメス型より剥離したが、マイクロニードル・アレイを取り出すことができなかった。
【0077】
(比較例2)
比較例1と同様に実験を行った。ただし、アクリル板の代わりに厚さ0.75mmのポリプロピレン製のシートを用いて、メス型からマイクロニードル・アレイを取り出そうとしたが、比較例1と同様にメス型よりマイクロニードル・アレイを取り出すことができなかった。
【0078】
上記の実施例1乃至7と比較例1および2を比較すると、アクリル板やポリプロピレン製のシートのように多孔性を有しない基盤を用いた場合は、基盤と共にニードルをメス型から引き抜くことができなかった。これは、多孔性基盤を用いることで、メス型内でニードルを乾燥でき、なおかつ洩糸性の基剤が基盤の細孔に浸透し、そのアンカー効果によって基盤とニードルが強固に結着したと考えられた。
【0079】
(実施例8)
単発打錠器の臼にエチルセルロースあるいは酢酸セルロースを入れ、約15kNの打錠圧で直径1.5cmの錠剤基盤を作った。実施例2と同様にメス型の穴の上に、モデル抗原である卵白アルブミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、エバンスブルーを脱気精製水に溶かして調製した粘調性濃厚液を塗布した。
【0080】
メス型上の残留物をスキジーにて除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。コンドロイチン硫酸ナトリウムに精製水を加えて作成した粘調性濃厚液(糊)をメス型上に塗布し、打錠にて作成した錠剤基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で乾燥・硬化させた。その後、基盤をメス型から剥がしたところ、全てのニードルは基盤にくっついて引き抜くことができ、マイクロニードル・アレイを得ることができた。しかし、乾燥が進むにつれて、錠剤基盤の周辺部が反り返った。
【0081】
(実施例9)
そこで基盤の側面にもコンドロイチン硫酸ナトリウム糊を塗った。酢酸セルロース製あるいはエチルセルロース製の錠剤基盤の側面に糊を塗ったサンプルは、過度に乾燥が進んでも錠剤基盤の周辺部がめくれ返ることがなかった。
【0082】
実施例8と9を比較すると、基盤に塗布する糊は、上面だけでなく、側面にも塗布することで、出来上がりのマイクロニードル・アレイの反りを防止できるという効果を奏することが分かった。
【0083】
上記のように基盤の側面にも洩糸性高分子物質の糊を塗布するのは、基盤の反りを回避するのに好適な方法であるといえる。しかし、錠剤の側面にも洩糸性高分子物質基剤の糊を塗ると1行程作業が増える。基盤が反り、表面から剥離するのは、乾燥時の糊の収縮力が基盤の構成材料の結合力より強いからである。そこで、乾燥時に基盤構成材料同士をより強固に結合させるため、水不溶性ポリマーと粘着性ポリマー(「粘着性高分子物質」とも呼ぶ。)を混合して作成した基盤の性質を調べた。ここで粘着性高分子物質とは、医薬品添加物として結合剤のカテゴリーに属するものを含む。
【0084】
具体的には、水不溶性ポリマーである酢酸セルロースおよびエチルセルロースに粘着性ポリマーであるカルボキシビニルポリマー(商品名ハイビスワコー103(「ハイビスワコー」は登録商標:和光純薬)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬)、ポリビニルアルコール(ナカライテスク)、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達)を各種の配合比で混和して打錠し、錠剤状の基盤を作製した。
【0085】
酢酸セルロース(AC)、エチルセルロース(EC)、ハイビスワコー103(HV)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC―NA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、それぞれ、AC、EC、HV、CMC−NA、PVA、HPCと略した。
【0086】
糊には、コンドロイチン硫酸(CDR:ナカライテスク)およびデキストラン(DEX:ナカライテスク、高分子)を用いた。上記の材料で加圧作製した錠剤基盤の一方の面だけに糊を塗布し、樹脂製のメス型を用いてマイクロニードル・アレイを作製した。それぞれのマイクロニードル・アレイを室温、湿度約35%の条件下にて3週間放置した後に観察を行った。結果を表1および2に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
表1は、酢酸セルロース(AC)とハイビスワコー103(HV)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−NA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を組み合わせて作成した基盤についての試験結果を示す。「糊」の欄には、コンドロイチン硫酸(CDR)とデキストラン(DEX)の欄を用意した。表の横方向には、酢酸セルロースと他の材料の混合比を10:1から7:3まで変化させた場合の結果を示した。
【0090】
表中で「○」は反り返りがなく良いマイクロニードル・アレイが得られた事を示し、「×」は反り返りが発生したことを示す。
【0091】
表2は表1の酢酸セルロース(AC)の代わりにエチルセルロース(EC)を用いた場合の結果を示す。
【0092】
全てのサンプルにおいて全てのニードルを錠剤基盤にくっつけて引き抜くことができた。従って、表1、表2のサンプルは、すべて本発明のサンプルである。しかし、基盤周囲の反り返りを改善するために水不溶性ポリマーと粘着性ポリマーを混合しても、一部の組成では周囲が反り返った。具体的には、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−NA)とポリビニルアルコール(PVA)は、酢酸セルロース(AC)と混ぜても、エチルセルロース(EC)と混ぜても、コンドロイチン硫酸(CDR)の乾燥収縮力に打ち勝つことはできなかった。
【0093】
特にエチルセルロース(EC)とカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−NA)の組合せは、デキストリン(DEX)の乾燥収縮力にも打ち勝つことができなかった。すなわち、これらの材料で基盤を作製する場合は、より収縮の少ない糊を選択する、若しくは錠剤基盤がより強固に固体化する方法を採用する必要がある。多孔性高分子樹脂製フィルターや多孔性金属フィルターを基盤として用いる場合は、基盤の周囲が反り返ることはない。
【0094】
しかし、それ以外の組合せでは、ほぼ、粘着性ポリマーの添加の効果が見られた。すなわち、基盤の片面だけに糊を塗布しても、周辺が反り返ることはなく、良好なマイクロニードル・アレイを得ることができた。
【0095】
(実施例10)
1平方センチメートルのブロック毎に深さ約500ミクロン、開口部直径約300ミクロンの百〜数百個の逆円錐状細孔を有する樹脂製基盤の穴の上に、モデル抗原である卵白アルブミン、コンドロイチン硫酸ナトリウムおよびエバンスブルーに脱気精製水を加えて作成した粘調性濃厚液を塗布した。
【0096】
メス型上の残留物をスキジーにて除去した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。コンドロイチン硫酸ナトリウムに精製水を加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布し、多孔性の金属製フィルター(基盤)を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で回転させて乾燥・硬化させた。その後、基盤をメス型から剥がしたところ、全てのニードルは基盤について引き抜くことができ、マイクロニードル・アレイを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
水溶性の洩糸性高分子物質を基剤に用いる場合、ワクチン抗原、インスリンなどの高分子薬を溶解あるいは懸濁した状態で含有する基剤濃厚粘調液にひきつづいて基剤濃厚粘調液(糊)をマイクロニードル・アレイ用のメス型に挿入したままで乾燥・硬化しないことには医薬品製剤用マイクロニードル・アレイを製造することができない。マイクロニードル・アレイ用メス型の中で、目的物質を含む基剤を乾燥・硬化させ、かつマイクロニードル・アレイを基盤に強固に固着させるためには、基盤が溶媒の吸収・蒸発を促進することが重要である。そのためには、溶媒の吸収・透過性に優れ、かつ滅菌性など医薬品製剤としての種々の規格に適した基盤が求められている。
【0098】
本発明によりマイクロニードル・アレイ用メス型の中で目的物質を含有する基剤の粘調性濃厚液を乾燥・硬化でき、医薬品、化粧品などの用途に適したマイクロニードル・アレイを効率よく製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0099】
11 メス型
12 メス型に形成された凹み
13 メス型上のマイクロニードル・アレイの1単位
15 目的物質などを含む溶液
16 スキージ
19 凹みの底に注入された目的物質
21 基剤
24 突起部
25 基盤
26 糊
30 マイクロニードル・アレイ
31 ニードル
32 基剤部
33 目的物質部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面は平坦面を有するマイクロニードル・アレイ用基盤であって、
前記平坦面の反対の面に突起部を有し、
前記平坦面から前記平坦面の反対面に対して多孔性を有する材料からなるマイクロニードル・アレイ用基盤。
【請求項2】
前記基盤は水不溶性の高分子繊維様物質および粘着性高分子物質を含む請求項1に記載されたマイクロニードル・アレイ用基盤。
【請求項3】
前記高分子繊維様物質は、結晶セルロース、エチルセルロース、酢酸セルロースおよびその誘導体ならびにキチンとその誘導体の少なくとも1つを含む請求項2に記載されたマイクロニードル・アレイ用基盤。
【請求項4】
前記粘着性高分子物質は、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースの少なくとも1つを含む請求項2または3の何れか1項に記載されたマイクロニードル・アレイ用基盤。
【請求項5】
前記多孔性を有する材料は、多孔性高分子樹脂または多孔性金属を含む請求項1に記載されたマイクロニードル・アレイ用基盤。
【請求項6】
前記多孔性高分子樹脂はポリエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、アクリルニトリル、塩素化ポリエチレン・スチレン、ポリオキシエチレン、ポリプロピレンの少なくとも1種類を含む請求項5に記載のマイクロニードル・アレイ用基盤。
【請求項7】
平坦面の反対面に突起部が形成された多孔性を有する基盤と、
前記基盤上に固着された洩糸性高分子材料からなる突起状の基剤部と、
前記突起状の基剤部の先端に配設された目的物質部を有するマイクロニードル・アレイ。
【請求項8】
前記基盤は水不溶性の高分子繊維様物質および粘着性高分子物質を含む請求項7に記載されたマイクロニードル・アレイ。
【請求項9】
前記高分子繊維様物質は、結晶セルロース、エチルセルロース、酢酸セルロースおよびその誘導体ならびにキチンとその誘導体の少なくとも1つを含む請求項8に記載されたマイクロニードル・アレイ。
【請求項10】
前記粘着性高分子物質は、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースの少なくとも1つを含む請求項8または9のいずれか1項に記載されたマイクロニードル・アレイ。
【請求項11】
前記多孔性を有する材料は、多孔性高分子樹脂または多孔性金属を含む請求項8に記載されたマイクロニードル・アレイ。
【請求項12】
前記多孔性高分子樹脂はポリエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、アクリルニトリル、塩素化ポリエチレン・スチレン、ポリオキシエチレン、ポリプロピレンの少なくとも1種類を含む請求項11に記載のマイクロニードル・アレイ。
【請求項13】
メス型に目的物質を注入する工程と、
前記メス型にさらに基剤を注入する工程と、
多孔性を有する基盤を前記メス型に押し付け、乾燥・硬化する工程と、
前記メス型から前記基盤を剥がす工程を有するマイクロニードル・アレイの製造方法。
【請求項14】
前記基盤を剥がす工程は、前記メス型に対して、前記基盤を垂直に引き出す工程である請求項13に記載されたマイクロニードル・アレイの製造方法。
【請求項15】
前記メス型に押し付け、乾燥・硬化する工程の前に、
前記基盤に糊を塗布する工程をさらに有する請求項13または14の何れか1項に記載されたマイクロニードル・アレイの製造方法。
【請求項16】
前記基盤に糊を塗布する工程は、前記基盤の側面にも糊を塗布する工程を含む請求項15に記載されたマイクロニードル・アレイの製造方法。
【請求項17】
前記メス型に押し付け、乾燥・硬化する工程は減圧環境下で行う請求項13乃至16の何れか1の請求項に記載されたマイクロニードル・アレイの製造方法。
【請求項18】
前記メス型に押し付け、乾燥・硬化する工程は室温乃至低温環境下で行う請求項13乃至16の何れか1の請求項に記載されたマイクロニードル・アレイの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−12050(P2011−12050A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31317(P2010−31317)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本発明は独立行政法人科学技術振興機構が(株)バイオセレンタックに委託した平成20年度独創的シーズ展開事業 革新的ベンチャー活用開発一般プログラムに係る「2層マイクロニードル製造装置」の成果によるものであり、産業技術力強化法第19条の適用を受けるものである。
【出願人】(502414389)株式会社バイオセレンタック (24)
【Fターム(参考)】