多孔性成形体及びその製造方法
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる、外表面に開口する連通孔を有する多孔性成形体であって、
連通孔を形成するフィブリルの内部に空隙を有し、
かつ、該空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔しており、
該フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に無機イオン吸着体が担持されている上記多孔性成形体。
連通孔を形成するフィブリルの内部に空隙を有し、
かつ、該空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔しており、
該フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に無機イオン吸着体が担持されている上記多孔性成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性成形体及びその製造方法、その用途、それを用いた装置、該装置の操作方法に関する。特に本発明は、河川水、下水処理水、工場排水中に含まれる、リン、ホウ素、ヒ素、フッ素イオンを選択的に吸着除去する吸着体に適した多孔性成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染、富栄養化の問題から、飲料水、工業用水、工業廃水、下水道処理水、環境水中のリン、ホウ素、ヒ素、フッ素イオン等の環境基準が強化され、それらを除去する技術が求められている。
リンは富栄養化の原因物質の一つであり、閉鎖水域で規制が強まっている。また、枯渇が危惧されている元素であり、排水中から回収し、再利用する技術が求められている。
ホウ素は、直物の育成にとって必須の元素であるが、過剰に存在すると植物の成長に悪影響を及ぼすことが知られている。さらに、人体に対しても、飲料水中に含まれると健康への影響、特に生殖機能の低下等の健康障害を起こす可能性が指摘されている。
ヒ素は、非鉄金属精錬工業の排水や、地熱発電所の熱排水、また特定地域の地下水等に
含まれている。ヒ素の毒性については昔から知られているが、生体への蓄積性があり、慢性中毒、体重減少、知覚傷害、肝臓障害、皮膚沈着、皮膚がんなどを発症すると言われている。
フッ素は、金属精錬、ガラス、電子材料工業等からの排水に多く含まれることが多い。フッ素の人体への影響が懸念されており、過剰に摂取すると、斑状歯、骨硬化症、甲状腺障害等の慢性フッ素中毒症を引き起こすことが知られている。
さらに、文明の発達にともない、これらの有害物質の排出量は増加することが懸念され、これらを効率的に除去する技術が求められている。
【0003】
これらの有害物質を除去する従来技術としては、Ti、Zr、又はSnの含水亜鉄酸塩を、適当な結合材を用いて、ポリウレタンやポリアクリル酸系樹脂からなる三次元網目構造体に付着したものが知られている(特許文献1参照)。この公知の吸着材は、結合剤を用いて三次元網目構造体に含水亜鉄酸塩を付着したものであり、結合材が吸着基質である含水亜鉄酸塩の表面に存在する微細な孔を塞ぐため、吸着基質本来のイオン交換能が十分に発揮されず、吸着速度も遅くなるという欠点がある。また、大きな空隙を有するため、単位体積中の吸着基質の担持量が低いという問題点を有する。また、製造方法も複雑である。
また、含水酸化セリウム粉末を高分子材料に担持させた吸着剤が知られている(非特許文献1参照)。この吸着剤は、多孔質ではあるが、表面にはスキン層と呼ばれる薄い膜が存在するため、リンやホウ素等の吸着対象物の吸着体内部への拡散速度が遅くなるという欠点を有する。
また、特許文献2には、セルロースからなる多孔性成形体に、後から、含水酸化ジルコニウムからなる吸着基質を含浸法で担持させた吸着体が開示されている。この吸着体は、後から含浸法で担持を行うため、結合力が弱く、繰り返し使用する間に、吸着基質が流出するという欠点を有する。また、セルロースは、水中で膨潤しやすく、カラムに詰めて通液すると成形体が圧縮され圧損が大きくなる問題点がある。また、セルロースは生物による分解性があり、下水等の雑多な微生物の混在する水処理には、繰り返し使用における耐久性の点で適合しにくいという問題がある。
【特許文献1】特開平9−187646号公報
【特許文献2】特開2002−38038号公報
【非特許文献1】産業と環境、1999年9月、p81−85
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、用水や排水中に含まれる低濃度のリン、ホウ素、フッ素、ヒ素等を、高速に吸着除去でき、耐久性が高く繰り返し使用できる吸着剤に適した多孔性成形体、及びその製造方法、さらにそれを用いた装置、該装置の操作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、有機高分子樹脂を適当な良溶媒に溶解させ、さらに、該良溶媒に可溶で該有機高分子樹脂に親和性のある水溶性高分子を溶解混合させたポリマー溶液に、吸着基質である無機イオン吸着体粉末を縣濁させ、貧溶媒を凝固浴として成形する方法を採ることにより、表面にスキン層がなく、表面開口性に優れる成形体が得られることを見い出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0006】
(1)有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる、外表面に開口する連通孔を有する多孔性成形体であって、
連通孔を形成するフィブリルの内部に空隙を有し、
かつ、該空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔しており、
該フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に無機イオン吸着体が担持されている上記多孔性成形体。
(2)前記連通孔が成形体表面付近に最大孔径層を有する(1)記載の多孔性成形体。
(3)平均粒径が100〜2500μmで、実質的に球状である(1)〜(2)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(4)前記有機高分子樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選ばれる一種以上を含んでなる(1)〜(3)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(5)前記無機イオン吸着体が、下記式(I)及び/又は下記式(II)で表される化合物を含有する(1)〜(4)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
MOn・mH2O (I)
M・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O (II)
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3であり、Mは、Ti、Zr、Sn、S
c、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、
Yb、Lu、Al、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属である。また、式(II)において+は混合物であることを表す。)
(6)前記無機イオン吸着体が、チタン、ジルコニウム、スズの水和酸化物;チタン、ジルコニウム、スズの含水亜鉄酸塩;含水酸化セリウム、含水酸化ランタン及び活性アルミナからなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる(1)〜(5)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(7)前記無機イオン吸着体が、硫酸アルミニウム添着活性アルミナ、及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる(1)〜(4)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(8)前記無機イオン吸着体の粒子径が0.01μm〜100μmである(1)〜(7)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(9)前記無機イオン吸着体の担持量が30〜95%である(1)〜(8)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(10)前記フィブリルが、有機高分子樹脂、及び無機イオン吸着体、及び水溶性高分子を含んでなる(1)〜(9)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(11)前記水溶性高分子が合成高分子である(10)記載の多孔性成形体。
(12)前記水溶性高分子がポリビニルピロリドンである(10)又は(11)に記載の多孔性成形体。
(13)前記水溶性高分子の含有量が0.001〜10%である(10)〜(12)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(14)(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体を充填したカラム。
(15)有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる多孔性成形体の製造方法において、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、無機イオン吸着体、水溶性高分子を混合した後、成形し、貧溶媒中で凝固させることを含む上記方法。
(16)前記有機高分子樹脂の良溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、及びジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選ばれる1種以上である(15)記載の方法。
(17)貧溶媒が、水、又は、有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物である(15)又は(16)に記載の方法。
(18)前記有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物の混合比が0〜40%である(15)〜(17)のいずれか一項に記載の方法。
(19)成型の方法が、回転する容器の側面に設けたノズルから、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、無機イオン吸着体、水溶性高分子を混合したスラリーを飛散させて液滴を形成させることを含む(15)〜(18)のいずれか一項に記載の方法。
(20)液体をカラムに通して液体中のイオンを吸着するイオン吸着装置において、該カラム中に(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体が充填されている上記イオン吸着装置。
(21)pH調整装置を(20)記載のカラムの前段に設置したことを特徴とするイオン吸着装置。
(22)固液分離装置を、(20)又は(21)に記載のイオン吸着装置の前段に設置したことを特徴とするイオン吸着装置。
(23)前記固液分離装置が膜分離装置である、(22)記載のイオン吸着装置。
(24)前記カラムに脱着液を送液する送水手段を具備した(20)〜(23)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(25)晶析槽と、晶析薬剤を添加する添加手段、撹拌手段を具備した晶析装置と、晶析槽で生成した沈殿物を固液分離する固液分離装置を設置した(20)〜(24)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(26)前記固液分離装置が膜分離装置である(25)記載のイオン吸着装置。
(27)晶析反応後の液を固液分離したアルカリを再びカラムに送液する送液手段を具備した(25)又は(26)に記載のイオン吸着装置。
(28)前記カラムにpH調整液を送液する送液手段を具備した(20)〜(27)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(29)前記カラムに充填された多孔性成形体のpHを調整することができる(28)記載のイオン吸着装置であって、pH調整槽、pHコントローラ及び該pHコントローラと連動する薬液注入ポンプ、及びpH調整液送液手段、及びpH調整槽の水をカラムへ通水するラインを具備しており、pH調整液を、カラムとpH調整槽の間で繰り返し循環して、pHを調整する上記イオン吸着装置。
(30)洗浄水をカラムに送液する送液手段を具備している(20)〜(29)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(31)カラムから出てくる処理水のpHを調整するpH調整手段を具備する(20)〜(30)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(32)(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体と液体とを接触させることを含むイオンの処理方法。
(33)イオンがP、B、F及び/又はAsである(32)記載のイオンの処理方法。
(34)溶液のpHを調整して、ついでイオンの吸着処理を行う、(32)又は(33)に記載のイオンの処理方法。
(35)溶液を固液分離処理し、ついでイオンの吸着処理を行う、(32)〜(34)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(36)前記固液分離処理の手段が膜分離方法である(35)記載のイオンの処理方法。
(37)溶液と接触させて水中のイオンを吸着した(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体を、脱着液と接触させて該成形体から吸着イオンを脱離させる(32)〜(36)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(38)前記脱着液がアルカリ性である(37)記載のイオンの処理方法。
(39)前記脱着液が水酸化ナトリウムである(38)記載のイオンの処理方法。
(40)脱着操作において、成形体に吸着したイオンを溶離したアルカリ水溶液に、晶析薬剤を添加して、該イオンを析出させ、次いで該析出物を固液分離する(37)〜(39)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(41)前記固液分離の方法が膜分離法である(40)記載のイオンの処理方法。
(42)前記晶析薬剤が多価金属の水酸化物である(40)又は(41)記載のイオンの処理方法。
(43)前記多価金属の水酸化物が水酸化カルシウムである(40)〜(42)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(44)晶析槽で固液分離したアルカリを再びカラムに送液して脱着に再利用する(40)〜(43)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(45)カラムにpH調整液を送液して、カラムに充填された多孔性成形体のpHを調整する(32)〜(44)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(46)pH調整液を、カラムとpH調整槽の間で繰り返し循環して、pH調整する(45)記載のイオンの処理方法。
(47)pH調整液が酸性水溶液である(45)又は(46)に記載のイオンの処理方法。
(48)前記酸性水溶液が硫酸水溶液である(47)に記載のイオンの処理方法。
(49)吸着工程とは逆向きの通水方向に洗浄水を送液する(32)〜(48)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(50)カラムから出てくる処理水のpHを調整する(32)〜(49)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(51)(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体と、気体とを接触させることを含む気体分離方法。
(52)前記気体が、エチレンガス、硫化水素、アンモニア及び/又はメチルメルカプタンである(51)記載の分離方法。
(53)(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体からなる多孔性吸着体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔性成形体は、外表面の開口性が高いので、吸着対象物質の成形体内部への拡散が速く、処理速度が速い。
また、吸着基質とバインダポリマーを混練した後に成形を行うため、吸着基質はバインダポリマーに強固に担持され、繰り返し使用に際して流出するといったことがなく、耐久性が高い。
さらに、吸着基質が担持されているフィブリルも多孔性のため、フィブリル内部に埋没した吸着基質までも有効に吸着剤として機能することができ、吸着対象物質との接触効率が極めて高い。よって、吸着容量が増えて、装置をコンパクトにできる。
本発明の無機イオン吸着体を担持している有機高分子樹脂は、水中でほとんど膨潤しないので、水処理用途において、耐圧性、耐久性に優れる。さらに、生物による分解性も無いので、下水等の雑多な微生物の混在する水処理用途においても、繰り返し使用における耐久性の点で優れている。
さらに、水溶性高分子が、吸着基質と担持されるフィブリルの間をコーティングして活性点を塞がないため、無機イオン吸着体の吸着活性が高く、イオンの吸着性能に優れる。さらに、水溶性高分子の高分子鎖がフィブリルの表面に存在するため、表面は親水性であり、防汚性に優れる。
したがって、低濃度のリンやホウ素、フッ素及びヒ素等を含む用水や排水を、好適に処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について、特にその好ましい形態を中心に、具体的に説明する。
まず、本発明の成形体の構造について説明する。本発明の成形体は、連通孔を有し多孔質な構造を有する。さらに、外表面にはスキン層が無く、表面の開口性に優れる。さらに、連通孔を形成するフィブリル内部にも空隙を有し、その空隙の少なくとも一部はフィブリル表面で開孔している。
本発明の成形体の外表面開口率は、走査型電子顕微鏡で表面を観察した視野の面積中に占める全ての孔の開口面積の和の割合をいう。本発明では10,000倍で成形体の表面を観察し外表面開口率を実測した。
好ましい表面開口率の範囲は、10〜90%であり、特に15〜80%が好ましい。10%未満では、リンやホウ素等の吸着対象物質の成形体内部への拡散速度が遅くなり、一方90%を超えると成形体の強度が不足し、力学的強度に優れた成形体の実現が困難である。
本発明の成形体の外表面開口径は、走査型電子顕微鏡で表面を観察して求める。孔が円形の場合はその直径、円形以外の場合は、同一面積を有する円の円相当直径を用いる。
好ましい表面開口径の範囲は、0.005μm〜100μmであり、特に0.01μm〜50μmが好ましい。0.005μm未満では、リンやホウ素等の吸着対象物質の成形体内部への拡散速度が遅くなりやすく、一方、100μmを超えると成形体の強度が不足しやすい。
【0009】
本発明の成形体は、連通孔を形成するフィブリル内部にも空隙を有し、かつ、その空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔している。無機イオン吸着体は、このフィブリルの外表面及びフィブリル内部の空隙表面に担持されている。フィブリル自体も多孔質であるため、内部に埋め込まれた吸着基質である無機イオン吸着体も、リンやホウ素と言った吸着対象物質と接触することができ、有効に吸着剤として機能することができる。
本発明の多孔性成形体は、このように吸着基質が担持されている部分も多孔質であるため、吸着基質とバインダを練り込んでつくる従来の方法の欠点であった、吸着基質の微細な吸着サイトがバインダで塞がれるといったことが少なく、吸着基質を有効に利用することができる。
ここで、フィブリルとは有機高分子樹脂からなり、成形体の外表面及び内部に三次元的に連続した網目構造を形成する繊維状の構造体を意味する。
フィブリル内部の空隙及びフィブリル表面の開孔は、走査型電子顕微鏡で成形体の割断面を観察して判定する。図1は、成形体の割断面を5,000倍で観察した電子顕微鏡写真であり、図2は、同じく成形体の割断面を10,000倍で観察した電子顕微鏡写真である。フィブリルの断面には空隙があり、フィブリルの表面は開孔していることが観察される。さらに、無機イオン吸着体粉末は、フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に担持されている様子が観察される。
フィブリルの太さは、0.01μm〜50μmが好ましい。
フィブリル表面の開孔径は、0.001μm〜5μmが好ましい。
【0010】
本発明の成形体の構造が発現するメカニズムを考察する。
一般に、ポリマーとポリマーの良溶媒の混合物を貧溶媒の中に浸漬して、溶媒交換によりポリマーのゲル化を行わせて多孔体を形成する方法を湿式相分離法という。これらの過程で良溶媒の比率が減少し、それにつれてミクロ相分離が生じ、ポリマーの小球が形成し、成長し、絡み合い、フィブリルが形成され、フィブリルの隙間が連通孔となる。
さらに、成形体構造の決定(凝固)は、貧溶媒の内部への拡散により、外表面から内部へと順次進行していく。この方法では、成形体の表面にはスキン層と呼ばれる緻密な層が形成されるのが一般的である。
これに対し、本発明では、後述する水溶性高分子を添加することにより、相分離の過程で、ポリマーの絡み合いの間に水溶性高分子が分散し、介在することで、細孔同志が互いに連通し、フィブリル内部も多孔質となり、さらにフィブリル表面も開孔する。さらに、成形体の外表面においても開孔し、スキン層のない成形体が得られるものと考えられる。
さらに、水溶性高分子は、相分離の過程で一部は貧溶媒側に溶けだしていくが、一部は、有機高分子樹脂の分子鎖と絡みあったまま、フィブリルの中に残る。この残存した水溶性高分子は、無機イオン吸着体である吸着基質とフィブリルの隙間をコーティングして、吸着基質の活性点を塞がない役目をすると考えられる。したがって、本発明の多孔性成形体は、担持した無機イオン吸着体の吸着能力のほぼ全てを使うことができ、効率が高い。
さらに、水溶性高分子は、フィブリルの表面からその分子鎖を一部、あたかもヒゲのように伸ばすため、フィブリルの表面は親水性に保たれ、疎水的吸着などからの防汚効果が期待できる。
【0011】
本発明の多孔性成形体は、連通孔が、成形体表面付近に最大孔径層を有することが好ましい。ここで、最大孔径層とは、成形体の表面から内部に至る連通孔の孔径分布中で最大の部分をいう。ボイドと呼ばれる円形又はだ円形(指状)の大きな空隙がある場合には、ボイドが存在する層を最大孔径層という。
表面付近とは、外表面から中心部へ向かって、成形体の割断径の25%まで内側を意味する。
最大孔径層が成形体表面付近にあることによって、吸着対象物質の内部への拡散を速める効果を有する。よって、リンやホウ素といった吸着対象物質を素早く成形体内部に取り込み、処理水中から除去することができる。
最大孔径及び最大孔径層の位置は、成形体の表面及び割断面を走査型電子顕微鏡で観察して求める。
孔径は、孔が円形の場合はその直径、円形以外の場合は、同一面積を有する円の円相当直径を用いる。
成形体の形態は、粒子状、糸状、シート状、中空糸状、円柱状、中空円柱状等の任意の形態をとることができる。
【0012】
粒子状の成形体の成形方法は特に限定されないが、1流体ノズルや2流体ノズルから、ポリマー溶液を噴霧して凝固浴中で凝固する方法が挙げられる。
特に、粒子状で粒度分布がそろったものが得られる点で、下記の回転ノズル法が特に好ましい。回転ノズル法とは、高速で回転する回転容器の側面に設けたノズルから、遠心力で、ポリマー溶液(有機高分子樹脂と、該有機高分子樹脂の良溶媒と、無機イオン吸着体と、水溶性高分子の混合スラリー)を飛散させて液滴を形成させる方法である。
ノズルの径は、0.1mm〜10mmの範囲が好ましく、0.1mm〜5mmの範囲がより好ましい。0.1mmより小さいと液滴が飛散しにくい傾向があり、10mmを超えると、粒度分布が広くなる傾向がある。
遠心力は、遠心加速度で表され5〜1500Gの範囲が好ましく、10〜1000Gの範囲がより好ましい。より好ましくは、10〜800Gの範囲である。遠心加速度が5G未満では、液滴の形成と飛散が困難になる傾向があり、1000Gを超えると、ポリマー液が糸状になって吐出するので粒度分布が広くなる傾向がある。
糸状及びシート状成形体は、該当する形状の紡口、ダイスからポリマー溶液を押しだし、貧溶媒中で凝固させる方法を採ることができる。また、中空糸状成形体は、環状オリフィスからなる紡口を用いることで同様に成形できる。円柱状及び中空円柱状成形体は、紡口からポリマー原液を押し出す際、切断しながら貧溶媒中で凝固させてもよいし、糸状に凝固させてから後に切断しても構わない。
なかでも、成形体を水処理分野において吸着剤として使用する場合には、カラム等に充填して通水する際の圧力損失、接触面積の有効性の点、取り扱い易さの点から粒子状が好ましく、特に球状粒子(真球状のみならず、楕円球状であってもよい)が好ましい。
【0013】
本発明の球状成形体の平均粒子径は、該粒子を球状とみなして、レーザー光による回折の散乱光強度の角度分布から求めた球相当径のモード径(最頻度粒子径)である。好ましい平均粒子径の範囲は、100〜2500μmであり、特に200〜2000μmが好ましい。平均粒径が100μmより小さければカラムやタンクになどへ充填した際に圧力損失が大きくなりやすく、また、平均粒径が2500μmより大きければ、カラムやタンクに充填したときの表面積が小さくなり、処理効率が低下しやすい。
本発明の成形体の空孔率Pr(%)とは、成形体の含水時の重量W1(g)、乾燥後の重量W0(g)、及び成形体の比重をρとするとき、下式で表される値をいう。
Pr=(W1−W0)/(W1−W0+W0/ρ)×100
含水時の重量は、十分に水に濡れた成形体を、乾いたろ紙上に拡げ、余分な水分をとってから含水時の重量を測定すればよい。乾燥は、水分をとばすために、室温下で真空乾燥を行えばよい。成形体の比重は、比重瓶を用いて簡便に測定することができる。
好ましい空孔率Pr(%)の範囲は、50%〜90%であり、特に60〜85%が好ましい。50%未満ではリンやホウ素等の吸着対象物質と吸着基質である無機イオン吸着体との接触頻度が不十分となりやすい。90%を超えると、成形体の強度が不足しやすい。
【0014】
本発明の成形体の無機イオン吸着体の担持量は、成形体の乾燥時の重量Wd(g)、灰分の重量Wa(g)とするとき下式で表される値をいう。
担持量(%)=Wa/Wd ×100
ここで、灰分は本発明の成形体を800℃で2時間焼成したときの残分をいう。
好ましい担持量の範囲は、30〜95%であり、さらに好ましくは、40〜90%であり、特に65〜90%が好ましい。30%未満だと、リンやホウ素等の吸着対象物質と吸着基質である無機イオン吸着体との接触頻度が不十分となりやすく、95%を超えると、成形体の強度が不足しやすい。
本発明の方法によると、従来技術の添着法とは異なり、吸着基質と有機高分子樹脂を練り込んで成形するため、担持量を多く保ちかつ強度の強い成形体を得ることができる。
【0015】
本発明の成形体の比表面積は、次式で定義される。
比表面積(m2/cm3)=SBET×かさ比重(g/cm3)
ここで、SBETは、成形体の単位重量あたりの比表面積(m2/g)である。
比表面積の測定方法は、成形体を室温で真空乾燥した後、BET法を用いて測定する。
かさ比重の測定方法は、粒子状、円柱状、中空円柱状等の形状が短いものは、湿潤状態の成形体を、メスシリンダー等を用いて、みかけの体積を測定する。その後、室温で真空乾燥して重量を求める。
糸状、中空糸状、シート状の形状が長いものについては、湿潤時の断面積と長さを測定して、両者の積から体積を算出する。その後、室温で真空乾燥して重量を求める。
好ましい比表面積の範囲は、5m2/cm3〜500m2/cm3である。5m2/cm3未満だと、吸着基質の担持量及び吸着性能が不十分となりやすい500m2/cm3を超えると、成形体の強度が不足しやすい。
一般的に、吸着基質である無機イオン吸着体の吸着性能(吸着容量)は、比表面積に比例する場合が多い。単位体積あたりの表面積が小さいと、カラムやタンクに充填したときの吸着容量、吸着性能が小さく、高速処理を達成しにくい。
本発明の成形体は、多孔質でありフィブリルが複雑に絡み合った三次元網目構造をとる。さらに、フィブリル自体も空隙を有するため、表面積が大きいという特徴を有する。これに、更に大きい比表面積をもつ吸着基質(無機イオン吸着体)を担持させるので、単位体積あたりの表面積も大きくなるのが特徴である。
【0016】
次に本発明の多孔性成形体の製造方法について説明する。
本発明の多孔性成形体の製造方法は、有機高分子樹脂とその良溶媒と無機イオン吸着体と水溶性高分子とを混合した後、成形し、貧溶媒中で凝固させることを特徴とする。
本発明で用いる有機高分子樹脂は、特に限定されないが、湿式相分離による多孔化手法が可能なものが好ましい。たとえば、ポリスルホン系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、セルロース系ポリマー、エチレンビニルアルコール共重合体系ポリマー等、多種類が挙げられる。
特に、水中での非膨潤性と耐生分解性、さらに製造の容易さから、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、さらに親水性と耐薬品性を兼ね備えている点で、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)が好ましい。
また、本発明に用いる良溶媒は有機高分子樹脂及び水溶性高分子を共に溶解するものであればいずれでもよい。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)等である。これらの良溶媒は1種又は混合溶媒としてもよい。
有機高分子樹脂の良溶媒中の含有率に特に限定はないが、好ましくは5〜40重量%であり、さらに好ましくは、7〜30重量%である。5重量%未満では、強度のある成形体が得られにくい。40重量%を超えると、空孔率の高い多孔性成形体が得られにくい。
【0017】
本発明に用いる水溶性高分子は有機高分子樹脂と相溶性のあるものであれば特に限定されない。
天然高分子では、グアーガム、ローカストビーンガム、カラーギナン、アラビアゴム、トラガント、ペクチン、デンプン、デキストリン、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン等が挙げられる。
また、半合成高分子では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン等が挙げられる。
さらに、合成高分子では、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、さらに、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリエチレングリコール類が挙げられる。
これらの水溶性高分子の中でも、耐生分解性を有する点で合成高分子が好ましい。
特に、本発明の成形体のように、連通孔を形成するフィブリル内部にも空隙を有する構造を発現する効果が高い点で、水溶性高分子としてポリビニルピロリドンを用いるのが特に好ましい。
【0018】
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、2,000〜2,000,000の範囲が好ましく、2,000〜1,000,000の範囲がより好ましく、2,000〜100,000の範囲がさらに好ましい。重量平均分子量が2,000より小さいと、フィブリル内部に空隙を有する構造を発現させる効果が低くなる傾向があり、2,000,000を超えると、成形する時の粘度が上昇して、成形が難しくなる傾向がある。
本発明の成形体の水溶性高分子の含有量は、成形体の乾燥時の重量をWd(g)、成形体から抽出した水溶性高分子の重量をWs(g)とするとき下式で表わされる値をいう。
含有量(%)=Ws/Wd ×100
水溶性高分子の含有量は、水溶性高分子の種類、分子量に左右されるが、0.001〜10%が好ましく、より好ましくは、0.01〜1%である。0.001%未満では、成形体の表面を開口させるのに効果が必ずしも十分でなく、10%を超えると相対的にポリマー濃度が薄くなり、強度が十分でない場合がある。
ここで、成形体中の水溶性高分子の重量Wsは、次のようにして測定する。まず、乾燥した成形体を乳鉢等で粉砕した後、該粉砕物から水溶性高分子の良溶媒を用いて水溶性高分子を抽出し、次いで該抽出液を蒸発乾固して、抽出した水溶性高分子の重量を求める。さらに、抽出した蒸発乾固物の同定と、フィブリル中に残存して抽出されなかった水溶性高分子の有無の確認は、赤外吸収スペクトル(IR)等で測定できる。さらに、フィブリル中に残存して抽出されなかった水溶性高分子がある場合は、本発明の多孔性成形体を、有機高分子樹脂と水溶性高分子の両方の良溶媒で溶解後、無機イオン吸着体をろ過して除いた液を作成し、次いで、該液体をGPC等を用いて分析して水溶性高分子の含有量を定量することができる。
水溶性高分子の含有量は、水溶性高分子の分子量、有機高分子樹脂とその良溶媒の組み合わせで適宜調整が可能である。例えば、分子量の高い水溶性高分子を使用すると、有機高分子樹脂との分子鎖の絡み合いが強固になり、成型時に貧溶媒側に移行しにくくなり、含有量を高くすることができる。
【0019】
本発明で用いられる無機イオン吸着体とは、イオン吸着現象を示す無機物質をいう。
例えば、天然物ではゼオライトやモンモリロナイト、各種の鉱物性物質があり、合成物系では金属酸化物、不溶性の含水酸化物などがある。前者はアルミノケイ酸塩で単一層格子をもつカオリン鉱物、2層格子構造の白雲母、海緑石、鹿沼土、パイロフィライト、タルク、3次元骨組み構造の長石、ゼオライトなどで代表される。後者は、複合金属水酸化物、金属酸化物、金属の含水酸化物、多価金属の酸性塩、不溶性のヘテロポリ酸塩、不溶性ヘキサシアノ鉄酸塩などが主要なものである。
複合金属水酸化物としては、下記式(III)のハイドロタルサイト系化合物が挙げられる。
M2+(1−X)M3+x(OH-)(2+x-y)(An−)y/n (III)
(式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An-はn価のアニオンを示し、
0.1≦x≦ 0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1又は2である。)
金属酸化物としては、活性アルミナ、FeO,Fe2O3,Fe3O4等の酸化鉄、シリカゲル等が挙げられる。
【0020】
金属の含水酸化物とは、式(I)又は、式(II)で表せる。また、(I)式、(II)式のいかなる組み合わせの混合物でもよい。
MOn・mH2O (I)
M・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O (II)
式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である。
(I)式は、水和酸化物の一般式であり、式(II)は含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物である。式中Mは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb、及びTaからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属である。また、式(II)において+は混合物であることを表す。特に、吸着能力と、酸やアルカリに対する耐溶解性の点で、Ti、Zr、Sn、Ceが好ましい。
さらには、経済性を加味すると(II)式の含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物が好ましい。さらに好ましくは、(II)式の含水亜鉄酸塩の金属MがZrであることが好ましい。
式(I)で表される水和酸化物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
チタンの水和酸化物としては一般式
TiO2・nH2O
(式中、nは0.5〜2.0の数である。)で表されるもの。
ジルコニウムの水和酸化物としては一般式
ZrO2・nH2O
(式中、nは0.5〜2.0の数である。)で表されるもの。
スズの水和物としては、一般式
SnO2・nH2O
(式中、nは0.5〜2.0の数である。)で表されるもの。
セリウムの水和酸化物としては、一般式
CeO2・nH2O
(式中、nは0.5〜2.0の数である。)で表されるもの。
【0021】
式(II)で表される含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
チタンの含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物としては、一般式
Ti・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である)で表されるもの。
ジルコニウムの含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物としては、一般式
Zr・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である)で表されるもの。
スズの含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物としては、一般式
Sn・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である)で表されるもの。
セリウムの含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物としては、一般式
Ce・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である)で表されるもの。
【0022】
(I)式で表される水和酸化物の製造方法は特に限定されないが、例えば、次のような方法により製造される。該金属塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の塩類水溶液中にアルカリ溶液を添加して得られた沈殿物をろ過、洗浄した後乾燥する。乾燥は風乾するかもしくは約150℃以下、好ましくは約90℃以下で約1〜20時間程度乾燥する。
(II)式で表される水和酸化物は、含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物である。該化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば次のような方法により製造される。該金属塩を溶解して調製した金属イオンを含有する溶液に、この溶液中に含まれる金属イオンに対して、約0.2〜11倍モルに相当する第1鉄塩を加えた後、アルカリを加え、液のpHを約6以上、好ましくは約7〜12に保持する。この後、必要ならば溶液の温度を約30〜100℃にした後、たとえば空気、酸素ガス又はオゾンなどの酸化性ガスを吹き込むか、あるいは過酸化水素水などの酸化剤を加え、含水亜鉄酸塩の沈澱を生成させる。生じた沈澱を濾別し、水洗した後乾燥する。乾燥は風乾する、又は約150℃以下、好ましくは約90℃以下で約1〜20時間程度乾燥する。乾燥後の含水率は、約6〜30重量%の範囲内に入ることが好ましい。ここで鉄の水和酸化物とは、たとえばFeO,Fe2O3,Fe3O4などの鉄の酸化物の水和物(一水塩、二水塩、三水塩、四水塩など)をいう。含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物との割合は、含水亜鉄酸塩含量が24〜100重量%、好ましくは50〜99重量%となる量である。
【0023】
前述の製造法において用いられるチタン、ジルコニウム、スズ又はセリウムの金属塩としては、たとえば四塩化 チタン(TiCl4)、硫酸チタン(Ti(SO4)2)、硫酸チタニル(TiO(SO4))、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)、四塩化ジルコニウム(ZrCl4)、硝酸ジルコニウム(Zr(NO3)4)、硫酸ジルコニウム(Zr(SO4)2)、酢酸ジルコニウム(Zr(CH3COO)4)、四塩化スズ(SnCl4)、 硝酸スズ(Sn(NO3)4)、硫酸スズ(Sn(SO4)2)、四塩化セリウム(CeCl4)、硝酸セリウム(Ce(NO3)4)、硫酸セリウム(Ce(SO4)2)などが挙げられる。これらは例えばZr(SO4)2・4H2Oなどのように含水塩であってもよい。これらの金属塩は通常、1リットル中に約0.05〜2.0モルの溶液状で用いられる。第一鉄塩としては、たとえば硫酸第一鉄(FeSO4)、硝酸第一鉄(Fe(NO3)2)、塩化第一鉄(FeCl2)などが挙げられる。これらもFeSO4・7H2Oなどの含水塩であってもよい。
これらの第一鉄塩は通常、固形物で加えられるが、溶液状で加えてもよい。アルカリとしては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、好ましくは約5〜20重量%の水溶液で用いられる。酸化性ガスを吹き込む場合、その時間は、 酸化性ガスの種類などによって異なるが、通常約1〜10時間程度である。酸化剤としては、たとえば過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどが用いられる。
本発明の多孔性成形体に担持させる無機イオン吸着体としては、P、B、F、Asの吸着性能に優れている点から、チタン、ジルコニウム、スズの水和酸化物;チタン、ジルコニウム、スズの含水亜鉄酸塩;含水酸化セリウム;含水酸化ランタン;活性アルミナ;硫酸アルミニウム添着活性アルミナ;及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0024】
本発明の無機イオン吸着体は、可能な限り微粒子であることが好ましく、その粒子径は0.01μm〜100μm、好ましくは、0.01μm〜50μm、さらに好ましくは0.01μm〜30μmの範囲である。
粒子径が0.01μmより小さいと、製造時のスラリー粘度が上昇し、成形しにくい傾向があり、100μmより大きいと、比表面積が小さくなるため、吸着性能が低下する傾向にある。
ここでいう粒子径とは、一次粒子と、一次粒子が凝集した二次粒子の両方又は混合物の粒子径をいう。
本発明の無機イオン吸着体の粒子径は、レーザー光による回折の散乱光強度の角度分布から求めた球相当径のモード径(最頻度粒子径)である。
【0025】
本発明の方法の貧溶媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール等のアルコール類、エーテル類、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類などの有機高分子樹脂を溶解しない液体が用いられるが、水を用いることが好ましい。また、貧溶媒中に有機高分子樹脂の良溶媒を若干添加することにより凝固速度をコントロールすることも可能である。好ましい高分子樹脂の良溶媒と水の混合比は0〜40%であり、0〜30%がより好ましい。混合比が40%を超えると、凝固速度が遅くなるため、液滴等に成形したポリマー溶液が、貧溶媒中への突入する時及び貧溶媒中を移動中に、貧溶媒と成形体の間で摩擦抵抗の影響を受けて、形状が歪になる傾向がある。
貧溶媒の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは−30℃〜90℃、より好ましくは0℃〜90℃、さらに好ましくは0℃〜80℃である。貧溶媒の温度が90℃を超えたり、又は−30℃未満であると、貧溶媒中の成形体の状態が安定しにくい。
【0026】
次に本発明の多孔性成形体を吸着剤として使用したイオン吸着装置について説明する。
好適な実施の形態について、図面に基づいて、溶液中のリン酸イオンの除去について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
11図に沿って説明する。
まず吸着工程について説明する。
化学工場、食品工場、肥料工場や下水処理場から出る排水は、まず、原水供給路1を介して原水貯槽2に一時貯留される。次に流路3及びポンプ4を用いて固液分離装置である、膜分離装置5に送られる。膜分離装置5で濁質成分が除去された原水は、流路6を介してpH調整槽8に貯留される。また、膜分離装置5で、排水中の濁質成分が濃縮された水は、循環路7から原水貯槽2に戻される。pH調整槽8では、pH調整剤添加機構9を用いて、リン酸イオンの吸着に適したpH範囲であるpH2〜7に調整される。
pH調整された原水は、配管10、ポンプ11を介してカラム12に送液される。カラム12では、排水中に含まれるリン酸イオンが、本発明の多孔性成形体と接触して吸着される。溶液中のイオンが吸着除去され、浄化された排水は、流路13を介して、処理水槽14に一時貯留され、pH調整剤添加機構15により、pHを中性に中和処理後、放流される。
本発明のイオン吸着装置は、本発明の多孔性成形体を充填したカラム12とカラムに送液する手段とを具備している。
カラム送液手段に特に制限は無く、ポンプ、水頭差、吸引、散水等が挙げられる。
本発明の水処理装置において、固液分離装置は、特に制限は無いが、凝集沈殿装置、砂ろ過装置、遠心脱水機等が挙げられる。特に、省スペース、清澄なろ過液が得られるという点で、膜分離装置が好ましい。好ましい膜分離技術は、逆浸透膜(RO)、限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)等が挙げられる。膜の形態は、平膜、中空糸、プリーツ、スパイラル、チューブ等、限定されない。
【0027】
次に、逆洗工程について説明する。
カラム12中の多孔性成形体の吸着能力が低下してくると、弁c及び弁hを閉じて、原水の送液を止める。次に、弁g及び弁bを開け、処理水槽14の処理水を流路16、ポンプ17を介して、カラム12の下方から送液して、カラム12内の多孔性成形体を展開して洗浄する。洗浄液は、流路18を介してpH調整槽8に戻す。
逆洗工程は、カラム内の多孔性成形体充填層に蓄積した、濁質成分、汚れ等を洗浄することが目的である。充填層が固着してしまう場合には、逆洗水と同時にエアーを供給して、固着した充填層をほぐすこともできる。
なお、逆洗工程は、必ず吸着工程での送液方向とは逆向きに行う。
【0028】
次に、脱着工程について説明する。
カラム12内の多孔性成形体の吸着能力が低下してくると、吸着したイオンを脱着する操作を行う。多孔性成形体にリン酸イオンが吸着している場合は、脱着液にアルカリ性水溶液を用いる。アルカリ性水溶液は、コスト、性能の点で水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。すなわち、脱着液槽19に貯槽した水酸化ナトリウム水溶液を、流路20、ポンプ21を介して、カラム12に送液して、多孔性成形体と接触して、吸着したリン酸イオンを水酸化ナトリウム水溶液中に溶離して、流路22を介して、晶析槽23に貯留される。
【0029】
続いて、晶析工程について説明する。
脱着工程で、リン酸イオンを溶離した水酸化ナトリウム水溶液は、晶析槽23に貯留される。晶析槽23では、溶離したリン酸イオンをリン酸カルシウムとして沈殿、回収する操作を行う。すなわち、晶析槽23に貯留されたリン酸ナトリウム水溶液に、晶析薬剤槽24に貯留した水酸化カルシウムスラリーを流路25、ポンプ26を介して、晶析槽23に注入し、撹拌機27を用いて撹拌して、リン酸カルシウムの結晶生成させる晶析反応を行う。晶析反応終了後、晶析したリン酸カルシウムを含む白濁した液を、流路28、ポンプ29を介して固液分離装置である膜分離装置30に送液して、固液分離する。固液分離されて濃縮したリン酸カルシウムスラリーは、流路31を介して晶析槽23に循環する。晶析槽23に濃縮されたリン酸カルシウムスラリーは、弁iから排出され、肥料等に再資源化される。リン酸カルシウムが固液分離された清澄なアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)は、流路32を介して、脱着液槽19に貯留され、次回の脱着工程で再利用される。
ここで固液分離装置には、凝集沈殿、遠心脱水機、ベルトプレス脱水機、膜分離装置等が挙げられる。特に、省スペース性と清澄なろ過水が得られる点で、膜分離装置が好ましい。さらに、耐汚染性に優れ、ろ過水量の安定性に優れることから、中空糸状の限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)が好ましい。
【0030】
次に、活性化工程について説明する。
脱着工程が終了したカラム内の多孔性成形体は、アルカリ性であり、このままでは、再び原水中のリン酸イオンを吸着する能力は低い。そこで、酸性水溶液を用いて、カラム内のpHを所定値に戻す操作、すなわち活性化処理を行う。
pH調整槽33の活性化液(希硫酸)を、流路34、ポンプ35を介してカラム12に送液して、カラム内の多孔性成形体と接触して流路36を介してpH調整槽33に循環させる。活性化液は、カラム12で多孔性成形体と接触してアルカリ性となるので、pH調整槽33内に設置したpHコントローラー37と連動したポンプ40を用いて、活性化液貯留槽38に貯留した活性化液(硫酸水)を、流路39を介して、pH調整槽33に送液してpHを酸性にコントロールする。この操作を繰り返して、カラム12内のpHを所定値に調整する。なお、pHコントロールの精度を高めるために、撹拌機41を用いて、活性化液を撹拌してもよい。
なお、図11においてa,d,e,fも弁を表す。
以上の、吸着工程、逆洗工程、脱着工程、晶析工程、活性化工程を順次繰り返すことによって、コンパクトでクローズ化されたリン酸イオン吸着処理装置が構築される。
【0031】
次に本発明の多孔性成形体を吸着剤として使用したイオンの処理方法について説明する。
本発明の多孔性成形体は、液体と接触させて水中のイオンを吸着除去する吸着剤として使用するのに適している。
液体を例示すると、飲料水、灌漑水、工場の工程水、河川水、湖沼水、海水、地下水、さらに、下水、工場廃水等、下水処理場や排水処理施設の活性汚泥、火力発電所の脱硫排煙処理水等が挙げられる。
本発明の多孔性成形体が吸着の対象とするイオンは、陰イオン、陽イオンと特に限定されない。例えば、陰イオンでは、リン(リン酸イオン)、フッ素(フッ化物イオン)、ヒ素(ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン)、ホウ素(ホウ酸イオン)、ヨウ素イオン、塩素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、及び酢酸等の各種有機酸のイオンが挙げられる。また、陽イオンでは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、カドミウム、鉛、クロム、コバルト、ストロンチウム、及びセシウム等が挙げられる。
特に、無機イオン吸着体は、ある特定のイオンに対して特異的な選択性を示す特徴を有することから、下水や産業排水のように雑多なイオンが共存する中から、P、B、F、Asなどのイオンを除去するのに適している。
具体的には、P、B、F、Asイオンの除去には、無機イオン吸着体に、チタン、ジルコニウム、スズの水和酸化物;チタン、ジルコニウム、スズの含水亜鉄酸塩;含水酸化セリウム;含水酸化ランタン;活性アルミナ;硫酸アルミニウム添着活性アルミナ;及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を選択するのが好ましい。
【0032】
本発明の多孔性成形体を吸着剤として水処理用途に用いる場合、カラムや吸着塔に充填して使用する。
カラムや吸着塔に充填して、被処理水を通液して接触させる方が、本発明の多孔性成形体の特徴である接触効率の高さを十分に引き出せる。
カラムとは、筒状の容器であって、下部及び上部の少なくとも一方に、成形体が流出しないように目皿やメッシュのような固液分離手段を備えている。
カラムの材質は、特に限定されるものではないが、ステンレス、FRP(ガラス繊維入り強化プラスチック)、ガラス、各種プラスチックが挙げられる。耐酸性を考慮して、内面をゴムやフッ素樹脂ライニングとすることもできる。
本発明のイオン吸着装置及びイオンの処理方法では、後述する脱着操作と活性化操作を、吸着操作を行う同じ現場ですることが一般的である。しかし、現場に十分なスペースが無い、又は、脱着頻度が少ないような場合には、カラムのみを装置から取り外し、別途、新しいカラムと交換することもできる。取り外したカラムは、別途、脱着、活性の施設の整った工場等で処理を行い、再利用することができる。
本発明の多孔性成形体を吸着剤として水処理用途に用いる場合、その前処理として水中の縣濁物質を固液分離する手段を設けることが好ましい。あらかじめ水中の縣濁物質を除去することで、多孔性成形体の表面の閉塞を防ぐことができ、本発明の多孔性成形体の吸着性能を十分発揮することができる。
好ましい固液分離手段としては、凝集沈殿、沈降分離、砂ろ過、膜分離が挙げられる。特に、設置面積が少なくて、清澄なろ過水が得られる膜分離技術が好ましい。好ましい膜分離技術は、逆浸透膜(RO)、限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)等が挙げられる。膜の形態は、平膜、中空糸、プリーツ、スパイラル、チューブ等、限定されない。
【0033】
本発明の吸着工程では、液体のpHを吸着対象とするイオンと該無機イオン吸着体の組み合わせにより好適pHに調整したのち、吸着対象イオンを吸着することが好ましい。
例えば、液体中のリンを吸着対象とした場合、無機イオン吸着体にジルコニウムの含水亜鉄酸塩を用いた場合のpH調整範囲は、pH1.5〜10の範囲であり、さらに好ましくは、pH2〜7である。
また、液体中のホウ素を吸着対象とした場合、無機イオン交換体に酸化セリウムの含水酸化物、又は、ジルコニウム含水亜鉄酸塩を用いた場合のpH調整範囲は、pH3〜10の範囲であり、さらに好ましくは、pH5〜8である。
また、液体中のフッ素を吸着対象とした場合、無機イオン交換体に酸化セリウムの含水酸化物、又は、ジルコニウム含水亜鉄酸塩を用いた場合のpH調整範囲は、pH1〜7の範囲であり、さらに好ましくは、pH2〜5である。
また、液体中のヒ素を吸着対象とした場合、無機イオン交換体に酸化セリウムの含水酸化物を用いた場合のpH調整範囲は、pH3〜12の範囲であり、さらに好ましくは、pH5〜9である。
本発明の多孔性成形体は、アルカリ水溶液と接触することで、吸着した陰イオンを脱離させ、次いでこの吸着剤を酸性水溶液で処理することにより、再び陰イオンを吸着することができる(再利用)。多孔性成形体を再利用することにより、コストが削減できるばかりでなく、廃棄物が減るという効果がある。特に、本発明の多孔性成形体は、耐久性に優れるため、繰り返し使用に適している。
アルカリ溶液のpHの範囲は、pH10以上であれば陰イオンを脱離させることができるが、好ましくはpH12以上、より好ましくはpH13以上である。アルカリ濃度は、0.1wt%〜30wt%の範囲であり、さらに好ましくは0.5〜20wt%の範囲である。0.1wt%より薄いと脱着効率が低くなり、30wt%より濃いと、アルカリの薬剤コストが増えてしまう傾向にある。アルカリ性水溶液の通液速度は、特に制限はないが、通常SV0.5〜15(hr−1)の範囲が好ましい。SV0.5より低いと、脱着時間が長時間になり非効率になる傾向があり、SV15より大きいと、多孔性成形体とアルカリ水溶液の接触時間が短くなり、脱着効率が低下する傾向がある。
アルカリ性水溶液の種類は、特に制限はないが、通常水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化アンモニウム等の無機アルカリ、及び有機アミン類などが用いられる。なかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは、脱着効率が高く特に好ましい。
【0034】
本発明における脱着アルカリの再利用工程及び脱着イオンの回収工程は、イオンを吸着した本発明の多孔性成形体にアルカリ水溶液を接触させ、アルカリ液中にイオンを溶離させ、溶離液に、対象とするイオンと沈殿を生じる晶析薬剤を添加し、沈殿を除去することにより、アルカリを再利用可能なものとし、また、イオンを沈殿物として回収できる。
晶析薬剤としては、金属の水酸化物が挙げられる。金属の水酸化物は、金属塩がリン、ホウ素、フッ素、ヒ素といった陰イオンと結合して沈殿物を生成する。また水酸化物が脱着液のアルカリ源となるため、再生液を回収、リサイクルすることによりクローズな系とすることができる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが挙げられる。
難溶性沈殿物すなわち溶解度の低い沈殿が得られる点で、多価金属の水酸化物が好ましく、具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが特に好ましい。特に、コストの点で水酸化カルシウムが好ましい。
例えば、溶離液中にフッ素がフッ化ナトリウムとして存在する場合に、次の反応式にしたがって高濃度のアルカリを回収することができる。
2NaF+Ca(OH)2→2NaOH+CaF2↓
同様に、リン酸ナトリウムとして存在する場合は、下記反応式にしたがって、アルカリを回収できる。さらに、晶析したリン酸カルシウムは、肥料等に再資源化が可能である。
6Na3PO4+10Ca(OH)2→18NaOH+Ca10(OH)2(PO4)6↓
【0035】
金属の水酸化物の添加量は、特に制限は無いが対象とするイオンに対して1〜4倍当量である。添加量が等モル以下では、沈殿除去効率が低くなるし、4倍当量を超えると、除去効率はほとんど変わらないので経済的に不利になる傾向がある。
沈殿除去する場合のpHは6以上であることが好ましく、さらにアルカリ水溶液を回収して、再利用することを考慮するとpH12以上、好ましくはpH13以上に保持するのが好ましい。沈殿処理時のpHが6より低いと、沈殿物の溶解度が大きくなり、沈殿効率が低下する。
沈殿除去する場合に、金属の水酸化物の他に、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等の無機系凝集剤や、高分子凝集剤を併用することもできる。
【0036】
本発明の、溶離液中の沈殿物の固液分離方法は、膜分離方法が好ましい。
膜分離法は、設置面積が少なくて、清澄なろ過水を得ることができるため、本発明のようなクローズシステムに適している。
膜分離法としては、特に限定されないが、限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)、透析膜等が挙げられる。膜の形態も、平膜、中空糸、プリーツ、チューブ状等、限定されない。好ましい膜分離法としては、ろ過スピードとろ過精度の点で、限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)等が好ましい。
脱着工程が終了したカラム内の多孔性成形体は、アルカリ性であり、このままでは、再び原水中のイオンを吸着する能力は低い。そこで、酸性水溶液を用いて、カラム内のpHを所定値に戻す操作、すなわち活性化処理を行う。
酸性水溶液は、特に限定されないが、硫酸、塩酸等の水溶液が用いられる。濃度は、0.001〜10wt%程度であればよい。0.001wt%より薄いと、活性化終了までに大量の水ボリュームが必要になり、10wt%より濃いと、酸性水溶液の取り扱い上の危険性等の点で問題が生じるおそれがある。
通液速度は、特に制限はないが、通常SV0.5〜30(hr−1)の範囲が好ましい。SV0.5より低いと、活性化時間が長時間になり非効率になる傾向があり、SV30より大きいと、多孔性成形体と酸性水溶液の接触時間が短くなり、活性化効率が低下する傾向がある。
活性化方法においてさらに好ましい方法は、カラムとpH調整槽の間で活性液を循環させて行うことである。
【0037】
この構成をとることにより、脱着操作でアルカリ側にシフトしたカラム中の多孔性成形体のpHを、無機イオン吸着体の耐酸性を考慮して、ゆるやかに所定のpHに戻すことができる。
例えば、酸化鉄はpH3以下では酸による溶解が著しいことが知られている。このような酸化鉄を多孔性成形体に担持した場合、従来の活性化方法は、先の鉄の溶解という問題があるため、pH3以上という薄い酸で処理するしか方法がなかった。しかし、この方法では、大量の水ボリュームが必要となるため、経済的に許されるものではなかった。
このような従来技術に対して、本発明の活性化方法は、カラムとpH調整槽を設けて、活性化液を循環するため、酸によって溶解するpH範囲を避けて活性化でき、さらに、活性化に用いる水のボリュームを少なくすることができ、装置をコンパクトにできる。
この時の通液速度は、通常SV1〜200(hr−1)の範囲で選ばれる。さらに好ましくは、SV10〜100の範囲である。SV1より低いと、活性化時間が長時間になり非効率になる傾向があり、SV200より大きいと、大きなポンプ動力が必要であり非効率になる傾向がある。
この一連の脱着、活性化操作はカラムに吸着剤を充填したまま行うことができる。すなわち、吸着剤を充填したカラムに、吸着操作が終了後、アルカリ性水溶液、酸性水溶液を順番にカラムに通水することにより容易に再生を行うことができる。この場合、通液方向は、上向流、下向流のいずれでもよい。
本発明の多孔性成形体は、耐薬品性、強度に優れているため、この再生処理を数十回から数百回以上繰り返してもイオンの吸着性能はほとんど低下しない。
【0038】
次に本発明の多孔性成形体の水処理用途以外の用途について説明する。
本発明の多孔性成形体は、成形体表面の開口性が高く、成形体内部には連通孔が三次元網目状に発達しており、さらに連通孔を形成するフィブリルも多孔性であることから、接触効率が高いことが特徴である。
その接触効率が高いことを活かせる用途として、吸着剤、脱臭剤、抗菌剤、吸湿剤、食品の鮮度保持剤、酵素固定担体、クロマトグラフィーの担体等が挙げられる。
例えば、無機イオン吸着体にゼオライトを用いた場合は、脱臭効果が期待できる。
さらに、本発明の多孔性成形体の無機イオン吸着体がゼオライトであり、さらに、該ゼオライトに銀を担持した場合には、抗菌性を示す。
また、パラジウムや白金を担持した場合には、エチレンを吸着することから鮮度保持剤として使用できる。
また、銀又は銅を担持させた場合は、硫化水素やアンモニア、メチルメルカプタンといった悪臭ガスを吸着、分解できることから脱臭効果がある。
いずれの場合でも、本発明の多孔性成形体の接触効率の高さを活かした従来技術にない効果が期待できる。
【0039】
次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限
定されるものではない。
実施例において成形体の種々の物性を、以下の方法で測定した。
・ 走査型電子顕微鏡による成形体の観察
走査型電子顕微鏡(SEM)による成形体の観察は、日立製作所製のS−800型走査型電子顕微鏡で行った。
・ 成形体の割断
成形体を室温で真空乾燥し、乾燥した成形体をイソプロピルアルコール(IPA)に加えて、成形体中にIPAを含浸させた。次いで、IPAと共に成形体を直径5mmのゼラチンカプセルに封入し、液体窒素中で凍結した。凍結した成形体をカプセルごと彫刻刀で割断した。割断されている成形体を選別して顕微鏡試料とした。
・ 表面の開口率
走査型電子顕微鏡を用いて撮影した成形体の表面の画像を、画像解析ソフト(三谷商事(株)製ウインルーフ(商品名))を用いて求めた。
さらに詳しく説明すると、得られたSEM像を濃淡画像として認識し、色が濃い部分を開口部、色が薄い部分をフィブリルとして、しきい値を手動で調整し、開口部分とフィブリル部分に分割して、その面積比を求めた。
・ 表面の開口径
走査型電子顕微鏡を用いて撮影した成形体の表面の画像から実測して求めた。孔が円形の場合はその直径、円形以外の場合は、同一面積を有する円の円相当直径を用いた。
・ 粒径
成形体及び無機イオン吸着体の粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製のLA−910(商品名))で測定した。但し、粒径が1,000μm以上の場合には、SEM像を用いて、成形体の最長直径と最短直径を測定し、その平均値を粒径とした。
・ 空孔率
十分に水に濡れた成形体を乾いたろ紙上に拡げ、余分な水分をとった後に重量を測定し、成形体の含水時の重量(W1)とした。次に、成形体を室温下で真空乾燥に24時間付して乾燥した成形体を得た。乾燥した成形体の重量を測定し、成形体の乾燥時の重量(W0)とした。
【0040】
次に、比重瓶(ゲーリュサック型、容量10ml)を用意し、この比重瓶に純水(25℃)を満たしたときの重量を測定し、満水時の重量(Ww)とした。次に、この比重瓶に、純水に湿潤した状態の成形体を入れ、さらに標線まで純水を満たして重量を測定し、(Wwm)とした。次に、この成形体を比重瓶から取り出し、室温下で24時間、真空乾燥に付して、乾燥した成形体を得た。乾燥した成形体の重量を測定して(M)とした。下記の計算式に従って、成形体の比重(ρ)、及び、空孔率(Pr)を求めた。
ρ=M/(Ww+M−Wwm)
Pr=(W1−W0)/(W1−W0+W0/ρ)×100
式中、Prは空孔率(%)であり、W1は成形体の含水時の重量(g)、W0は成形体の乾燥後の重量(g)、及び、ρは成形体の比重(g/cm3)、Mは成形体の乾燥後の重量(g)、Wwは比重瓶の満水時の重量(g)、Wwmは比重瓶に含水した成形体と純水を入れたときの重量(g)である。
・ 担持量
成形体を室温下で真空乾燥に24時間付して乾燥した成形体を得た。乾燥した成形体の重量を測定し、成形体の乾燥時の重量Wd(g)とした。次に、乾燥した成形体を、電気炉を用いて800℃で2時間焼成して灰分の重量を測定し、灰分の重量Wa(g)とした。下記式より、担持量を求めた。
担持量(%)=Wa/Wd ×100
式中、Waは、成形体の灰分の重量(g)であり、Wdは成形体の乾燥時の重量(g)である。
・ 比表面積(m2/cm3)
成形体を室温で真空乾燥した後、ベックマン・コールター(株)社製コールターSA3100(商品名)を用い、BET法で多孔性成形体の比表面積SBET(m2/g)を求めた。
【0041】
次に、湿潤状態の成形体を、メスシリンダー等を用いてみかけの体積V(cm3)を測定した。その後、室温で真空乾燥して重量W(g)を求める。
本発明の成形体の比表面積は、次式から求めた。
比表面積(m2/cm3)=SBET×かさ比重(g/cm3)
かさ比重(g/cm3)=W/V
式中、SBETは成形体の比表面積(m2/g)であり、Wは成形体の乾燥重量(g)、Vはそのみかけの体積(cm3)である。
・リン濃度測定
HACH社製りん酸測定装置フォスファックス・コンパクト(商品名)を用いて、リン濃度を測定した。
・ホウ素濃度測定
ICP発光法(サーモエレクトロン(株)社製(米国)、IRIS−INTREPID−II)により測定した。
・ヒ素濃度測定
ICP発光法(サーモエレクトロン(株)社製(米国)、IRIS−INTREPID−II)により測定した。
・フッ素濃度測定
イオンクロマト(日立製作所(株)社製)を用いて測定した。
・濁度
SS濃度計(東亜DKK社製、SSD−10)により測定した。
・カルシウムイオン濃度
HACH社製DR890(カルマガイト比色法)を用いて、カルシウムイオン濃度を測定した。
【0042】
まず、無機イオン吸着体粉末の製造例を示す。
(製造例1) ジルコニウム含水亜鉄酸塩粉末の製造
硫酸ジルコニウムの0.15モル水溶液を1リットル調製した。この溶液中にはジルコニウムとして13.7gの金属イオンが含まれていた。この水溶液中に硫酸第一鉄結晶(FeSO4・7H2O)84.0gを添加し、撹拌しながら溶解した。この量は鉄イオンとして0.3モルに相当する。つぎにこの水溶液に15重量%の水酸化ナトリウム溶液を撹拌しながら液のpHが10になるまで滴下すると青緑色の沈澱が生じた。次に、この水溶液を60℃に加温しながら10リットル/時の流量で空気を吹き込んだ。空気吹き込みを続けると水溶液のpHが低下するので、この場合は、15重量%の水酸化ナトリウム溶液を滴下してpHを9.5〜10に保持した。pHの低下が認められなくなるまで空気の吹き込みを続けると黒色のジルコニウムの含水亜鉄酸塩沈澱が生成した。次に、この黒色沈澱物を吸引濾別し、脱イオン水で濾液が中性となるまで洗浄した後、70℃以下で乾燥した。これをボールミルで7時間粉砕し、平均粒径2.5μmのジルコニウムの含水亜鉄酸塩粉末を得た。
(製造例2) 含水酸化セリウム粉末の製造
硫酸セリウム0.2モル及び硫酸アンモニウム0.5モルを蒸留水2リットルに撹拌しながら溶解した。次いで、アンモニア水を添加して溶液のpHを9に調製して沈殿物を得た。一晩熟成後、ろ過して、脱イオン水で濾液が中性となるまで洗浄した後、60℃で乾燥した。これをボールミルで7時間粉砕し、平均粒径2.0μmの含水酸化セリウム粉末を得た。
【0043】
(実施例1)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH、日本合成化学工業(株)、ソアノールE3803(商品名))10g、ポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder(商品名))10g、ジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学(株))80gを、セパラフラスコ中にて、60℃に加温して溶解し、均一なポリマー溶液を得た。
このポリマー溶液100gに対し、製造例1で作った無機イオン吸着体粉末92gを加え、よく混合してスラリーを得た。
得られた複合高分子スラリーを40℃に加温し、側面に直径5mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成し、60℃の水からなる凝固浴槽中に吐出させ、複合高分子スラリーを凝固させた。さらに、洗浄、分級を行い、平均粒径623μmの球状成形体を得た。
物性を表1に示す。
更に得られた成形体の表面及び割断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。結果を図3〜6に示す。
図3及び図6より、得られた成形体には、表面付近の同心円状に最大孔径層(ボイド層)が観察された。
また、図5からフィブリル内部の空隙、及びフィブリル表面の開孔が確認され、さらに、そのフィブリル外表面及びフィブリル内部の空隙表面には無機イオン吸着体粉末が担持されている様子が観察された。
【0044】
(試験例1)
実施例1で調製した成形体について、水溶性高分子であるポリビニルピロリドン(PVP)の含有量を次のようにして測定した。
まず、実施例1で調製した成形体を、真空乾燥して重量Wd(g)を求めた。次に、乾燥した成形体を乳鉢を用いて粉砕した。次いで、該粉砕物をクロロホルムを用いてソックスレー抽出してポリビニルピロリドンを抽出した。次に、得られた抽出液を蒸発乾固して、ポリビニルピロリドンの重量Ws(g)を測定した。下記式より、水溶性高分子の含有量を求めた。
含有量(%)=Ws/Wd ×100
水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)の含有量は0.1%であった。
なお、蒸発乾固物の赤外吸収スペクトル(IR)から、蒸発乾固物はポリビニルピロリドンであることが確認された。
【0045】
(実施例2)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH、日本合成化学工業(株)、ソアノールE3803)10g、ポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder)10g、ジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学(株))80gを、セパラフラスコ中にて、60℃に加温して溶解し、均一なポリマー溶液を得た。
このポリマー溶液100gに対し、製造例2で作った無機イオン吸着体粉末の含水酸化セリウム粉末125gを加え、よく混合してスラリーを得た。
得られた複合高分子スラリーを40℃に加温し、側面に直径5mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(17.5G)によりノズルから液滴を形成し、60℃の水からなる凝固浴槽中に吐出させ、複合高分子スラリーを凝固させた。さらに、洗浄、分級を行い、平均粒径531μmの球状成形体を得た。物性を表1に示す。
更に得られた成形体の表面及び割断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。結果を図1〜2及び7〜10に示す。
図7及び図10より、得られた成形体には、表面付近に最大孔径層(ボイド層)が観察された。
また、図9からフィブリル内部の空隙、及びフィブリル表面の開孔が確認され、さらに、そのフィブリル外表面及びフィブリル内部の空隙表面には無機イオン吸着体粉末が担持されている様子が観察された。
【0046】
(実施例3) リン吸着試験
リン酸三ナトリウム(Na3PO4・12H2O)を蒸留水に溶解し、リン濃度9mg−P/リットルの液を作り、硫酸でpHを7に調整した液をモデル液、すなわち吸着原液とした。
実施例1及び実施例2で調製した成形体8mlを、カラム(内径10mm)に充填して、さきの吸着原液を240ml/hr(SV30)の速度で通水した。カラムからの流出液(処理液)を30分毎にサンプリングして、該処理水中のリン酸イオン濃度(リン濃度)を測定して、0.5mg−P/リットル(ppm)超過時までの通水量(吸着量)を求めた。結果を表1に示す。
上記の吸着操作後、7wt%の水酸化ナトリウム水溶液に2時間浸漬し、吸着したリン酸を脱着させた後、蒸留水で洗浄した。次に、0.1wt%の硫酸水溶液に5時間浸漬して再生を行った。次に再び蒸留水で洗浄した。
以上の吸着、脱着及び再生操作を50回繰り返し、1回目と50回目の吸着量とその変化率を調べた。
なお、吸着量変化率は下式で表す。
吸着量変化率=(50回目の吸着量)/(1回目の吸着量)×100
結果を表1に示す。吸着容量は1回目と50回目ではほとんど同じであり、本吸着剤の耐久性の高さが確認された。
【0047】
(比較例1)
実施例1において、水溶性高分子であるポリビニルピロリドンを使用しないこと以外は全て同じ方法で成形体を得た。
物性を表1に示す。この成形体にはスキン層があり、表面の開口率は2%であり、表面の開口径0.01〜0.5μmと表面開口性に乏しいものであった。また、この成形体には、フィブリル内部の空隙及びフィブリル表面の開孔は観察されなかった。
実施例3と同様にしてリンの吸着試験を行った。結果を表1に示す。SV30でのリンの吸着量は低い値であった。
【0048】
(比較例2)
特許文献2(特開2002−38038号公報)の実施例3に記載の方法と同様にして、含浸法で調製した含水酸化ジルコニウム含有セルロース繊維を得た。
実施例3と同様の吸着原液、脱着液、再生液を用いてビーカー中で吸着、脱着、再生操作を50回繰り返して、吸着量変化率を求めたところ、50%と低く、含浸法で調製したものは耐久性が低いことがわかった。
【0049】
(実施例4)ホウ酸吸着試験
ホウ酸(H3BO3)を蒸留水に溶解し、ホウ酸水溶液(ホウ素として22mg−B/リットル)を作り、硫酸及び水酸化ナトリウムを用いてpHを3、5、7に調整した。この水溶液1リットルに対して、実施例1及び2の多孔性成形体2mlを加えて、しんとう機で撹拌した。撹拌開始2時間後に、該水溶液をサンプリングして、ホウ酸濃度を測定して吸着量を求めた。結果を表2に示す。
ホウ酸イオンは、中性領域で吸着量が多いことがわかった。
【0050】
(実施例5)フッ素吸着試験
フッ化ナトリウム(NaF)を蒸留水に溶解し、フッ化物イオン水溶液(フッ素として38mg−F/リットル)を作り、硫酸及び水酸化ナトリウムを用いてpHを3、5、7に調整した。
実施例4と同様に、この水溶液1リットルに対して、実施例1及び2の多孔性成形体2ml加えて、しんとう機で撹拌した。撹拌開始2時間後に、該水溶液をサンプリングして、フッ化物イオン濃度を測定して吸着量を求めた。結果を表2に示す。
フッ化物イオンは、酸性領域で吸着量が多いことがわかった。よって、前処理として酸性側にpH調整するのが有効になる。
【0051】
(実施例6)ヒ素吸着試験
亜ヒ酸(As2O3)を蒸留水に溶解し、亜ヒ酸イオン水溶液(ヒ素として150mg−As/リットル)を作り、硫酸及び水酸化ナトリウムを用いてpHを3、5、7に調整した。
実施例4と同様に、この水溶液1リットルに対して、実施例1及び2の多孔性成形体2ml加えて、しんとう機で撹拌した。撹拌開始2時間後に、該水溶液をサンプリングして、亜ヒ酸イオン濃度を測定して吸着量を求めた。結果を表2に示す。
亜ヒ酸イオンは、酸性領域では吸着量の差が現れなかった。
【0052】
(実施例7)
河川からサンプリングした水を精密ろ過膜(旭化成ケミカルズ(株)製、精密ろ過膜、公称孔径0.1μm)でろ過した。ろ過前の原水とろ過後の処理水について濁度を測定した。さらにろ過水に、リン酸三ナトリウム(Na3PO4・12H2O)を溶解して、リン濃度1mg−P/リットル の液を作り、硫酸でpHを7に調整した液をモデル液とした。
実施例1で調製した成形体8mlを、カラム(内径10mm)に充填して、さきの吸着原液を80ml/hr(SV10)の速度で通水した。カラムからの流出液(処理液)を30分毎にサンプリングして、該処理水中のリン酸イオン濃度(リン濃度)を測定して、0.1mg−P/リットル(ppm)超過時までの通水時間を求めた。
結果、処理水のリン濃度が0.1mg−P/リットルを越えるまで、20日を要した。この間、ろ過前の濁度は最高16、最低0.8、平均2.4で推移した。ろ過後の処理水の濁度は0.1以下であった。
膜ろ過により、濁質成分を除くことによって安定してリン除去性能が得られた。
【0053】
(比較例3)
精密ろ過膜によるろ過がないこと以外は、実施例7と同じ方法で吸着試験を行った。
結果、処理水のリン濃度は、通水開始後10日頃から0.1mg−P/リットルを越える点が観測され、安定した処理水は得られなかった。これは、膜処理が無いために、河川水の濁質成分が、多孔性成形体の表面及び粒子間を変則的に閉塞したためと考えられる。
【0054】
(実施例8)
本発明の水処理装置の実施例を図11に示す。
図11において、まず吸着工程について説明する。
食品工場の排水処理設備において、活性汚泥、沈降処理を行った処理水を、原水供給路1を介して原水貯槽2に一時貯留される。
原水の水質は、濁度は最高20、最低3、平均5.1で推移した。リン酸イオン濃度150mg−P/リットルでほぼ安定して推移した。
次に流路3及びポンプ4を用いて膜分離装置5(旭化成ケミカルズ(株)社製、精密ろ過膜、公称孔径0.1μm)でろ過して、pH調整槽8に貯留した。
膜ろ過後の水質は、濁度<0.1と濁質が除去され、リン酸イオン濃度に変化はなかった。
pH調整槽8では、pH調整剤添加機構9を用いて、硫酸を添加してpH3に調整した。
pH調整された原水は、配管10、ポンプ11を介してカラム12に送液した。カラム12には、実施例1の多孔性成形体を2L充填して、20リットル/hr(SV10)で通水した。
リン酸イオンが吸着され浄化された排水は、流路13を介して、処理水槽14に一時貯留され、pH調整剤添加機構15により、水酸化ナトリウムを用いて中和後に放流した。
処理水のリン酸イオン濃度は0.1mg−P/リットル以下であった。
次に、逆洗工程について説明する。
処理水のリン酸イオン濃度が、0.5mg−P/リットルを超えた時点で、弁c及び弁hを閉じて、原水の送液を止めた。次に、弁g及び弁bを開け、処理水槽14の処理水を流路16、ポンプ17を介して、カラム12の下方から、60リットル/hr(SV30)で送液して、カラム12内の多孔性成形体を展開して洗浄した。洗浄液は、流路18を介してpH調整槽8に戻した。
【0055】
次に、脱着工程について説明する。
脱着液槽19に貯槽した5wt%の水酸化ナトリウム水溶液を、流路20、ポンプ21を介して、2リットル/hr(SV1)で6時間、カラム12に送液して、多孔性成形体と接触して、吸着したリン酸イオンを水酸化ナトリウム水溶液中に溶離して、流路22を介して、晶析槽23に貯留した。
この時の、晶析槽23中のリン酸イオン濃度は、570mg−P/リットルであった。
続いて、晶析工程について説明する。
晶析槽23に貯留されたリン酸ナトリウム水溶液に、晶析薬剤槽24に貯留した水酸化カルシウムスラリーを水酸化カルシウム換算で3g/リットル、流路25、ポンプ26を介して、晶析槽23に注入し、撹拌機27を用いて20時間撹拌して、リン酸カルシウムの結晶生成させる晶析反応を行った。晶析反応終了後、晶析したリン酸カルシウムを含む白濁した液を、流路28、ポンプ29を介して膜分離装置30(旭化成ケミカルズ(株)社製、限外ろ過膜、公称分画分子量6,000)に送液して、固液分離した。固液分離後の水酸化ナトリウム水溶液は、リン酸イオン濃度10mg−P/リットル、カルシウムイオン濃度1mg−Ca/リットルであった。
固液分離されて濃縮したリン酸カルシウムスラリーは、流路31を介して晶析槽23に循環する。晶析槽23に濃縮されたリン酸カルシウムスラリーは、弁iから排出した。
次に、活性化工程について説明する。
pH調整槽33に硫酸でpH3に調整した活性化溶液を10リットル用意した。流路34、ポンプ35を介してカラム12に120リットル/hr(SV60)で送液して、カラム内の多孔性成形体と接触して流路36を介してpH調整槽33に循環させた。活性化液は、カラム12で多孔性成形体と接触してアルカリ性となるので、pH調整槽33内に設置したpHコントローラー37と連動したポンプ40を用いて、活性化液貯留槽38に貯留した50wt%の硫酸水溶液を、流路39を介して、pH貯留槽33に送液してpH3〜5の範囲でコントロールした。この操作を9時間繰り返して、カラム12内のpHを5に安定化した。pHコントロールの精度を高めるために、撹拌機41を用いて、活性化液を撹拌した。
以上の、吸着工程、逆洗工程、脱着工程、晶析工程、活性化工程を順次30回繰り返しても、吸着量に変化はみられなかった。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の成形体は、スキン層が無く、表面の開口性に優れるため、成形体内部への対象
物質の拡散が速い。よって、液体及び気体の処理に用いる吸着剤及びろ過剤、脱臭剤、抗菌剤、吸湿剤、食品の鮮度保持剤、各種のクロマトグラフィ用担体、触媒等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例2の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率5,000倍)。
【図2】実施例2の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図3】実施例1の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率150倍)。
【図4】実施例1の成形体の表面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図5】実施例1の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図6】実施例1の成形体の割断面表面付近を示す電子顕微鏡写真(倍率1,000倍)。
【図7】実施例2の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率130倍)。
【図8】実施例2の成形体の表面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図9】実施例2の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図10】実施例2の成形体の割断面表面付近を示す電子顕微鏡写真(倍率1,000倍)。
【図11】本発明の実施例8を示す水処理装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性成形体及びその製造方法、その用途、それを用いた装置、該装置の操作方法に関する。特に本発明は、河川水、下水処理水、工場排水中に含まれる、リン、ホウ素、ヒ素、フッ素イオンを選択的に吸着除去する吸着体に適した多孔性成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染、富栄養化の問題から、飲料水、工業用水、工業廃水、下水道処理水、環境水中のリン、ホウ素、ヒ素、フッ素イオン等の環境基準が強化され、それらを除去する技術が求められている。
リンは富栄養化の原因物質の一つであり、閉鎖水域で規制が強まっている。また、枯渇が危惧されている元素であり、排水中から回収し、再利用する技術が求められている。
ホウ素は、直物の育成にとって必須の元素であるが、過剰に存在すると植物の成長に悪影響を及ぼすことが知られている。さらに、人体に対しても、飲料水中に含まれると健康への影響、特に生殖機能の低下等の健康障害を起こす可能性が指摘されている。
ヒ素は、非鉄金属精錬工業の排水や、地熱発電所の熱排水、また特定地域の地下水等に
含まれている。ヒ素の毒性については昔から知られているが、生体への蓄積性があり、慢性中毒、体重減少、知覚傷害、肝臓障害、皮膚沈着、皮膚がんなどを発症すると言われている。
フッ素は、金属精錬、ガラス、電子材料工業等からの排水に多く含まれることが多い。フッ素の人体への影響が懸念されており、過剰に摂取すると、斑状歯、骨硬化症、甲状腺障害等の慢性フッ素中毒症を引き起こすことが知られている。
さらに、文明の発達にともない、これらの有害物質の排出量は増加することが懸念され、これらを効率的に除去する技術が求められている。
【0003】
これらの有害物質を除去する従来技術としては、Ti、Zr、又はSnの含水亜鉄酸塩を、適当な結合材を用いて、ポリウレタンやポリアクリル酸系樹脂からなる三次元網目構造体に付着したものが知られている(特許文献1参照)。この公知の吸着材は、結合剤を用いて三次元網目構造体に含水亜鉄酸塩を付着したものであり、結合材が吸着基質である含水亜鉄酸塩の表面に存在する微細な孔を塞ぐため、吸着基質本来のイオン交換能が十分に発揮されず、吸着速度も遅くなるという欠点がある。また、大きな空隙を有するため、単位体積中の吸着基質の担持量が低いという問題点を有する。また、製造方法も複雑である。
また、含水酸化セリウム粉末を高分子材料に担持させた吸着剤が知られている(非特許文献1参照)。この吸着剤は、多孔質ではあるが、表面にはスキン層と呼ばれる薄い膜が存在するため、リンやホウ素等の吸着対象物の吸着体内部への拡散速度が遅くなるという欠点を有する。
また、特許文献2には、セルロースからなる多孔性成形体に、後から、含水酸化ジルコニウムからなる吸着基質を含浸法で担持させた吸着体が開示されている。この吸着体は、後から含浸法で担持を行うため、結合力が弱く、繰り返し使用する間に、吸着基質が流出するという欠点を有する。また、セルロースは、水中で膨潤しやすく、カラムに詰めて通液すると成形体が圧縮され圧損が大きくなる問題点がある。また、セルロースは生物による分解性があり、下水等の雑多な微生物の混在する水処理には、繰り返し使用における耐久性の点で適合しにくいという問題がある。
【特許文献1】特開平9−187646号公報
【特許文献2】特開2002−38038号公報
【非特許文献1】産業と環境、1999年9月、p81−85
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、用水や排水中に含まれる低濃度のリン、ホウ素、フッ素、ヒ素等を、高速に吸着除去でき、耐久性が高く繰り返し使用できる吸着剤に適した多孔性成形体、及びその製造方法、さらにそれを用いた装置、該装置の操作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、有機高分子樹脂を適当な良溶媒に溶解させ、さらに、該良溶媒に可溶で該有機高分子樹脂に親和性のある水溶性高分子を溶解混合させたポリマー溶液に、吸着基質である無機イオン吸着体粉末を縣濁させ、貧溶媒を凝固浴として成形する方法を採ることにより、表面にスキン層がなく、表面開口性に優れる成形体が得られることを見い出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0006】
(1)有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる、外表面に開口する連通孔を有する多孔性成形体であって、
連通孔を形成するフィブリルの内部に空隙を有し、
かつ、該空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔しており、
該フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に無機イオン吸着体が担持されている上記多孔性成形体。
(2)前記連通孔が成形体表面付近に最大孔径層を有する(1)記載の多孔性成形体。
(3)平均粒径が100〜2500μmで、実質的に球状である(1)〜(2)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(4)前記有機高分子樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選ばれる一種以上を含んでなる(1)〜(3)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(5)前記無機イオン吸着体が、下記式(I)及び/又は下記式(II)で表される化合物を含有する(1)〜(4)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
MOn・mH2O (I)
M・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O (II)
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3であり、Mは、Ti、Zr、Sn、S
c、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、
Yb、Lu、Al、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属である。また、式(II)において+は混合物であることを表す。)
(6)前記無機イオン吸着体が、チタン、ジルコニウム、スズの水和酸化物;チタン、ジルコニウム、スズの含水亜鉄酸塩;含水酸化セリウム、含水酸化ランタン及び活性アルミナからなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる(1)〜(5)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(7)前記無機イオン吸着体が、硫酸アルミニウム添着活性アルミナ、及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる(1)〜(4)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(8)前記無機イオン吸着体の粒子径が0.01μm〜100μmである(1)〜(7)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(9)前記無機イオン吸着体の担持量が30〜95%である(1)〜(8)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(10)前記フィブリルが、有機高分子樹脂、及び無機イオン吸着体、及び水溶性高分子を含んでなる(1)〜(9)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(11)前記水溶性高分子が合成高分子である(10)記載の多孔性成形体。
(12)前記水溶性高分子がポリビニルピロリドンである(10)又は(11)に記載の多孔性成形体。
(13)前記水溶性高分子の含有量が0.001〜10%である(10)〜(12)のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
(14)(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体を充填したカラム。
(15)有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる多孔性成形体の製造方法において、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、無機イオン吸着体、水溶性高分子を混合した後、成形し、貧溶媒中で凝固させることを含む上記方法。
(16)前記有機高分子樹脂の良溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、及びジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選ばれる1種以上である(15)記載の方法。
(17)貧溶媒が、水、又は、有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物である(15)又は(16)に記載の方法。
(18)前記有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物の混合比が0〜40%である(15)〜(17)のいずれか一項に記載の方法。
(19)成型の方法が、回転する容器の側面に設けたノズルから、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、無機イオン吸着体、水溶性高分子を混合したスラリーを飛散させて液滴を形成させることを含む(15)〜(18)のいずれか一項に記載の方法。
(20)液体をカラムに通して液体中のイオンを吸着するイオン吸着装置において、該カラム中に(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体が充填されている上記イオン吸着装置。
(21)pH調整装置を(20)記載のカラムの前段に設置したことを特徴とするイオン吸着装置。
(22)固液分離装置を、(20)又は(21)に記載のイオン吸着装置の前段に設置したことを特徴とするイオン吸着装置。
(23)前記固液分離装置が膜分離装置である、(22)記載のイオン吸着装置。
(24)前記カラムに脱着液を送液する送水手段を具備した(20)〜(23)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(25)晶析槽と、晶析薬剤を添加する添加手段、撹拌手段を具備した晶析装置と、晶析槽で生成した沈殿物を固液分離する固液分離装置を設置した(20)〜(24)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(26)前記固液分離装置が膜分離装置である(25)記載のイオン吸着装置。
(27)晶析反応後の液を固液分離したアルカリを再びカラムに送液する送液手段を具備した(25)又は(26)に記載のイオン吸着装置。
(28)前記カラムにpH調整液を送液する送液手段を具備した(20)〜(27)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(29)前記カラムに充填された多孔性成形体のpHを調整することができる(28)記載のイオン吸着装置であって、pH調整槽、pHコントローラ及び該pHコントローラと連動する薬液注入ポンプ、及びpH調整液送液手段、及びpH調整槽の水をカラムへ通水するラインを具備しており、pH調整液を、カラムとpH調整槽の間で繰り返し循環して、pHを調整する上記イオン吸着装置。
(30)洗浄水をカラムに送液する送液手段を具備している(20)〜(29)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(31)カラムから出てくる処理水のpHを調整するpH調整手段を具備する(20)〜(30)のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
(32)(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体と液体とを接触させることを含むイオンの処理方法。
(33)イオンがP、B、F及び/又はAsである(32)記載のイオンの処理方法。
(34)溶液のpHを調整して、ついでイオンの吸着処理を行う、(32)又は(33)に記載のイオンの処理方法。
(35)溶液を固液分離処理し、ついでイオンの吸着処理を行う、(32)〜(34)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(36)前記固液分離処理の手段が膜分離方法である(35)記載のイオンの処理方法。
(37)溶液と接触させて水中のイオンを吸着した(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体を、脱着液と接触させて該成形体から吸着イオンを脱離させる(32)〜(36)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(38)前記脱着液がアルカリ性である(37)記載のイオンの処理方法。
(39)前記脱着液が水酸化ナトリウムである(38)記載のイオンの処理方法。
(40)脱着操作において、成形体に吸着したイオンを溶離したアルカリ水溶液に、晶析薬剤を添加して、該イオンを析出させ、次いで該析出物を固液分離する(37)〜(39)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(41)前記固液分離の方法が膜分離法である(40)記載のイオンの処理方法。
(42)前記晶析薬剤が多価金属の水酸化物である(40)又は(41)記載のイオンの処理方法。
(43)前記多価金属の水酸化物が水酸化カルシウムである(40)〜(42)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(44)晶析槽で固液分離したアルカリを再びカラムに送液して脱着に再利用する(40)〜(43)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(45)カラムにpH調整液を送液して、カラムに充填された多孔性成形体のpHを調整する(32)〜(44)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(46)pH調整液を、カラムとpH調整槽の間で繰り返し循環して、pH調整する(45)記載のイオンの処理方法。
(47)pH調整液が酸性水溶液である(45)又は(46)に記載のイオンの処理方法。
(48)前記酸性水溶液が硫酸水溶液である(47)に記載のイオンの処理方法。
(49)吸着工程とは逆向きの通水方向に洗浄水を送液する(32)〜(48)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(50)カラムから出てくる処理水のpHを調整する(32)〜(49)のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
(51)(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体と、気体とを接触させることを含む気体分離方法。
(52)前記気体が、エチレンガス、硫化水素、アンモニア及び/又はメチルメルカプタンである(51)記載の分離方法。
(53)(1)〜(13)のいずれか一項に記載の多孔性成形体からなる多孔性吸着体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔性成形体は、外表面の開口性が高いので、吸着対象物質の成形体内部への拡散が速く、処理速度が速い。
また、吸着基質とバインダポリマーを混練した後に成形を行うため、吸着基質はバインダポリマーに強固に担持され、繰り返し使用に際して流出するといったことがなく、耐久性が高い。
さらに、吸着基質が担持されているフィブリルも多孔性のため、フィブリル内部に埋没した吸着基質までも有効に吸着剤として機能することができ、吸着対象物質との接触効率が極めて高い。よって、吸着容量が増えて、装置をコンパクトにできる。
本発明の無機イオン吸着体を担持している有機高分子樹脂は、水中でほとんど膨潤しないので、水処理用途において、耐圧性、耐久性に優れる。さらに、生物による分解性も無いので、下水等の雑多な微生物の混在する水処理用途においても、繰り返し使用における耐久性の点で優れている。
さらに、水溶性高分子が、吸着基質と担持されるフィブリルの間をコーティングして活性点を塞がないため、無機イオン吸着体の吸着活性が高く、イオンの吸着性能に優れる。さらに、水溶性高分子の高分子鎖がフィブリルの表面に存在するため、表面は親水性であり、防汚性に優れる。
したがって、低濃度のリンやホウ素、フッ素及びヒ素等を含む用水や排水を、好適に処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について、特にその好ましい形態を中心に、具体的に説明する。
まず、本発明の成形体の構造について説明する。本発明の成形体は、連通孔を有し多孔質な構造を有する。さらに、外表面にはスキン層が無く、表面の開口性に優れる。さらに、連通孔を形成するフィブリル内部にも空隙を有し、その空隙の少なくとも一部はフィブリル表面で開孔している。
本発明の成形体の外表面開口率は、走査型電子顕微鏡で表面を観察した視野の面積中に占める全ての孔の開口面積の和の割合をいう。本発明では10,000倍で成形体の表面を観察し外表面開口率を実測した。
好ましい表面開口率の範囲は、10〜90%であり、特に15〜80%が好ましい。10%未満では、リンやホウ素等の吸着対象物質の成形体内部への拡散速度が遅くなり、一方90%を超えると成形体の強度が不足し、力学的強度に優れた成形体の実現が困難である。
本発明の成形体の外表面開口径は、走査型電子顕微鏡で表面を観察して求める。孔が円形の場合はその直径、円形以外の場合は、同一面積を有する円の円相当直径を用いる。
好ましい表面開口径の範囲は、0.005μm〜100μmであり、特に0.01μm〜50μmが好ましい。0.005μm未満では、リンやホウ素等の吸着対象物質の成形体内部への拡散速度が遅くなりやすく、一方、100μmを超えると成形体の強度が不足しやすい。
【0009】
本発明の成形体は、連通孔を形成するフィブリル内部にも空隙を有し、かつ、その空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔している。無機イオン吸着体は、このフィブリルの外表面及びフィブリル内部の空隙表面に担持されている。フィブリル自体も多孔質であるため、内部に埋め込まれた吸着基質である無機イオン吸着体も、リンやホウ素と言った吸着対象物質と接触することができ、有効に吸着剤として機能することができる。
本発明の多孔性成形体は、このように吸着基質が担持されている部分も多孔質であるため、吸着基質とバインダを練り込んでつくる従来の方法の欠点であった、吸着基質の微細な吸着サイトがバインダで塞がれるといったことが少なく、吸着基質を有効に利用することができる。
ここで、フィブリルとは有機高分子樹脂からなり、成形体の外表面及び内部に三次元的に連続した網目構造を形成する繊維状の構造体を意味する。
フィブリル内部の空隙及びフィブリル表面の開孔は、走査型電子顕微鏡で成形体の割断面を観察して判定する。図1は、成形体の割断面を5,000倍で観察した電子顕微鏡写真であり、図2は、同じく成形体の割断面を10,000倍で観察した電子顕微鏡写真である。フィブリルの断面には空隙があり、フィブリルの表面は開孔していることが観察される。さらに、無機イオン吸着体粉末は、フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に担持されている様子が観察される。
フィブリルの太さは、0.01μm〜50μmが好ましい。
フィブリル表面の開孔径は、0.001μm〜5μmが好ましい。
【0010】
本発明の成形体の構造が発現するメカニズムを考察する。
一般に、ポリマーとポリマーの良溶媒の混合物を貧溶媒の中に浸漬して、溶媒交換によりポリマーのゲル化を行わせて多孔体を形成する方法を湿式相分離法という。これらの過程で良溶媒の比率が減少し、それにつれてミクロ相分離が生じ、ポリマーの小球が形成し、成長し、絡み合い、フィブリルが形成され、フィブリルの隙間が連通孔となる。
さらに、成形体構造の決定(凝固)は、貧溶媒の内部への拡散により、外表面から内部へと順次進行していく。この方法では、成形体の表面にはスキン層と呼ばれる緻密な層が形成されるのが一般的である。
これに対し、本発明では、後述する水溶性高分子を添加することにより、相分離の過程で、ポリマーの絡み合いの間に水溶性高分子が分散し、介在することで、細孔同志が互いに連通し、フィブリル内部も多孔質となり、さらにフィブリル表面も開孔する。さらに、成形体の外表面においても開孔し、スキン層のない成形体が得られるものと考えられる。
さらに、水溶性高分子は、相分離の過程で一部は貧溶媒側に溶けだしていくが、一部は、有機高分子樹脂の分子鎖と絡みあったまま、フィブリルの中に残る。この残存した水溶性高分子は、無機イオン吸着体である吸着基質とフィブリルの隙間をコーティングして、吸着基質の活性点を塞がない役目をすると考えられる。したがって、本発明の多孔性成形体は、担持した無機イオン吸着体の吸着能力のほぼ全てを使うことができ、効率が高い。
さらに、水溶性高分子は、フィブリルの表面からその分子鎖を一部、あたかもヒゲのように伸ばすため、フィブリルの表面は親水性に保たれ、疎水的吸着などからの防汚効果が期待できる。
【0011】
本発明の多孔性成形体は、連通孔が、成形体表面付近に最大孔径層を有することが好ましい。ここで、最大孔径層とは、成形体の表面から内部に至る連通孔の孔径分布中で最大の部分をいう。ボイドと呼ばれる円形又はだ円形(指状)の大きな空隙がある場合には、ボイドが存在する層を最大孔径層という。
表面付近とは、外表面から中心部へ向かって、成形体の割断径の25%まで内側を意味する。
最大孔径層が成形体表面付近にあることによって、吸着対象物質の内部への拡散を速める効果を有する。よって、リンやホウ素といった吸着対象物質を素早く成形体内部に取り込み、処理水中から除去することができる。
最大孔径及び最大孔径層の位置は、成形体の表面及び割断面を走査型電子顕微鏡で観察して求める。
孔径は、孔が円形の場合はその直径、円形以外の場合は、同一面積を有する円の円相当直径を用いる。
成形体の形態は、粒子状、糸状、シート状、中空糸状、円柱状、中空円柱状等の任意の形態をとることができる。
【0012】
粒子状の成形体の成形方法は特に限定されないが、1流体ノズルや2流体ノズルから、ポリマー溶液を噴霧して凝固浴中で凝固する方法が挙げられる。
特に、粒子状で粒度分布がそろったものが得られる点で、下記の回転ノズル法が特に好ましい。回転ノズル法とは、高速で回転する回転容器の側面に設けたノズルから、遠心力で、ポリマー溶液(有機高分子樹脂と、該有機高分子樹脂の良溶媒と、無機イオン吸着体と、水溶性高分子の混合スラリー)を飛散させて液滴を形成させる方法である。
ノズルの径は、0.1mm〜10mmの範囲が好ましく、0.1mm〜5mmの範囲がより好ましい。0.1mmより小さいと液滴が飛散しにくい傾向があり、10mmを超えると、粒度分布が広くなる傾向がある。
遠心力は、遠心加速度で表され5〜1500Gの範囲が好ましく、10〜1000Gの範囲がより好ましい。より好ましくは、10〜800Gの範囲である。遠心加速度が5G未満では、液滴の形成と飛散が困難になる傾向があり、1000Gを超えると、ポリマー液が糸状になって吐出するので粒度分布が広くなる傾向がある。
糸状及びシート状成形体は、該当する形状の紡口、ダイスからポリマー溶液を押しだし、貧溶媒中で凝固させる方法を採ることができる。また、中空糸状成形体は、環状オリフィスからなる紡口を用いることで同様に成形できる。円柱状及び中空円柱状成形体は、紡口からポリマー原液を押し出す際、切断しながら貧溶媒中で凝固させてもよいし、糸状に凝固させてから後に切断しても構わない。
なかでも、成形体を水処理分野において吸着剤として使用する場合には、カラム等に充填して通水する際の圧力損失、接触面積の有効性の点、取り扱い易さの点から粒子状が好ましく、特に球状粒子(真球状のみならず、楕円球状であってもよい)が好ましい。
【0013】
本発明の球状成形体の平均粒子径は、該粒子を球状とみなして、レーザー光による回折の散乱光強度の角度分布から求めた球相当径のモード径(最頻度粒子径)である。好ましい平均粒子径の範囲は、100〜2500μmであり、特に200〜2000μmが好ましい。平均粒径が100μmより小さければカラムやタンクになどへ充填した際に圧力損失が大きくなりやすく、また、平均粒径が2500μmより大きければ、カラムやタンクに充填したときの表面積が小さくなり、処理効率が低下しやすい。
本発明の成形体の空孔率Pr(%)とは、成形体の含水時の重量W1(g)、乾燥後の重量W0(g)、及び成形体の比重をρとするとき、下式で表される値をいう。
Pr=(W1−W0)/(W1−W0+W0/ρ)×100
含水時の重量は、十分に水に濡れた成形体を、乾いたろ紙上に拡げ、余分な水分をとってから含水時の重量を測定すればよい。乾燥は、水分をとばすために、室温下で真空乾燥を行えばよい。成形体の比重は、比重瓶を用いて簡便に測定することができる。
好ましい空孔率Pr(%)の範囲は、50%〜90%であり、特に60〜85%が好ましい。50%未満ではリンやホウ素等の吸着対象物質と吸着基質である無機イオン吸着体との接触頻度が不十分となりやすい。90%を超えると、成形体の強度が不足しやすい。
【0014】
本発明の成形体の無機イオン吸着体の担持量は、成形体の乾燥時の重量Wd(g)、灰分の重量Wa(g)とするとき下式で表される値をいう。
担持量(%)=Wa/Wd ×100
ここで、灰分は本発明の成形体を800℃で2時間焼成したときの残分をいう。
好ましい担持量の範囲は、30〜95%であり、さらに好ましくは、40〜90%であり、特に65〜90%が好ましい。30%未満だと、リンやホウ素等の吸着対象物質と吸着基質である無機イオン吸着体との接触頻度が不十分となりやすく、95%を超えると、成形体の強度が不足しやすい。
本発明の方法によると、従来技術の添着法とは異なり、吸着基質と有機高分子樹脂を練り込んで成形するため、担持量を多く保ちかつ強度の強い成形体を得ることができる。
【0015】
本発明の成形体の比表面積は、次式で定義される。
比表面積(m2/cm3)=SBET×かさ比重(g/cm3)
ここで、SBETは、成形体の単位重量あたりの比表面積(m2/g)である。
比表面積の測定方法は、成形体を室温で真空乾燥した後、BET法を用いて測定する。
かさ比重の測定方法は、粒子状、円柱状、中空円柱状等の形状が短いものは、湿潤状態の成形体を、メスシリンダー等を用いて、みかけの体積を測定する。その後、室温で真空乾燥して重量を求める。
糸状、中空糸状、シート状の形状が長いものについては、湿潤時の断面積と長さを測定して、両者の積から体積を算出する。その後、室温で真空乾燥して重量を求める。
好ましい比表面積の範囲は、5m2/cm3〜500m2/cm3である。5m2/cm3未満だと、吸着基質の担持量及び吸着性能が不十分となりやすい500m2/cm3を超えると、成形体の強度が不足しやすい。
一般的に、吸着基質である無機イオン吸着体の吸着性能(吸着容量)は、比表面積に比例する場合が多い。単位体積あたりの表面積が小さいと、カラムやタンクに充填したときの吸着容量、吸着性能が小さく、高速処理を達成しにくい。
本発明の成形体は、多孔質でありフィブリルが複雑に絡み合った三次元網目構造をとる。さらに、フィブリル自体も空隙を有するため、表面積が大きいという特徴を有する。これに、更に大きい比表面積をもつ吸着基質(無機イオン吸着体)を担持させるので、単位体積あたりの表面積も大きくなるのが特徴である。
【0016】
次に本発明の多孔性成形体の製造方法について説明する。
本発明の多孔性成形体の製造方法は、有機高分子樹脂とその良溶媒と無機イオン吸着体と水溶性高分子とを混合した後、成形し、貧溶媒中で凝固させることを特徴とする。
本発明で用いる有機高分子樹脂は、特に限定されないが、湿式相分離による多孔化手法が可能なものが好ましい。たとえば、ポリスルホン系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、セルロース系ポリマー、エチレンビニルアルコール共重合体系ポリマー等、多種類が挙げられる。
特に、水中での非膨潤性と耐生分解性、さらに製造の容易さから、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、さらに親水性と耐薬品性を兼ね備えている点で、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)が好ましい。
また、本発明に用いる良溶媒は有機高分子樹脂及び水溶性高分子を共に溶解するものであればいずれでもよい。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)等である。これらの良溶媒は1種又は混合溶媒としてもよい。
有機高分子樹脂の良溶媒中の含有率に特に限定はないが、好ましくは5〜40重量%であり、さらに好ましくは、7〜30重量%である。5重量%未満では、強度のある成形体が得られにくい。40重量%を超えると、空孔率の高い多孔性成形体が得られにくい。
【0017】
本発明に用いる水溶性高分子は有機高分子樹脂と相溶性のあるものであれば特に限定されない。
天然高分子では、グアーガム、ローカストビーンガム、カラーギナン、アラビアゴム、トラガント、ペクチン、デンプン、デキストリン、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン等が挙げられる。
また、半合成高分子では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン等が挙げられる。
さらに、合成高分子では、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、さらに、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリエチレングリコール類が挙げられる。
これらの水溶性高分子の中でも、耐生分解性を有する点で合成高分子が好ましい。
特に、本発明の成形体のように、連通孔を形成するフィブリル内部にも空隙を有する構造を発現する効果が高い点で、水溶性高分子としてポリビニルピロリドンを用いるのが特に好ましい。
【0018】
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、2,000〜2,000,000の範囲が好ましく、2,000〜1,000,000の範囲がより好ましく、2,000〜100,000の範囲がさらに好ましい。重量平均分子量が2,000より小さいと、フィブリル内部に空隙を有する構造を発現させる効果が低くなる傾向があり、2,000,000を超えると、成形する時の粘度が上昇して、成形が難しくなる傾向がある。
本発明の成形体の水溶性高分子の含有量は、成形体の乾燥時の重量をWd(g)、成形体から抽出した水溶性高分子の重量をWs(g)とするとき下式で表わされる値をいう。
含有量(%)=Ws/Wd ×100
水溶性高分子の含有量は、水溶性高分子の種類、分子量に左右されるが、0.001〜10%が好ましく、より好ましくは、0.01〜1%である。0.001%未満では、成形体の表面を開口させるのに効果が必ずしも十分でなく、10%を超えると相対的にポリマー濃度が薄くなり、強度が十分でない場合がある。
ここで、成形体中の水溶性高分子の重量Wsは、次のようにして測定する。まず、乾燥した成形体を乳鉢等で粉砕した後、該粉砕物から水溶性高分子の良溶媒を用いて水溶性高分子を抽出し、次いで該抽出液を蒸発乾固して、抽出した水溶性高分子の重量を求める。さらに、抽出した蒸発乾固物の同定と、フィブリル中に残存して抽出されなかった水溶性高分子の有無の確認は、赤外吸収スペクトル(IR)等で測定できる。さらに、フィブリル中に残存して抽出されなかった水溶性高分子がある場合は、本発明の多孔性成形体を、有機高分子樹脂と水溶性高分子の両方の良溶媒で溶解後、無機イオン吸着体をろ過して除いた液を作成し、次いで、該液体をGPC等を用いて分析して水溶性高分子の含有量を定量することができる。
水溶性高分子の含有量は、水溶性高分子の分子量、有機高分子樹脂とその良溶媒の組み合わせで適宜調整が可能である。例えば、分子量の高い水溶性高分子を使用すると、有機高分子樹脂との分子鎖の絡み合いが強固になり、成型時に貧溶媒側に移行しにくくなり、含有量を高くすることができる。
【0019】
本発明で用いられる無機イオン吸着体とは、イオン吸着現象を示す無機物質をいう。
例えば、天然物ではゼオライトやモンモリロナイト、各種の鉱物性物質があり、合成物系では金属酸化物、不溶性の含水酸化物などがある。前者はアルミノケイ酸塩で単一層格子をもつカオリン鉱物、2層格子構造の白雲母、海緑石、鹿沼土、パイロフィライト、タルク、3次元骨組み構造の長石、ゼオライトなどで代表される。後者は、複合金属水酸化物、金属酸化物、金属の含水酸化物、多価金属の酸性塩、不溶性のヘテロポリ酸塩、不溶性ヘキサシアノ鉄酸塩などが主要なものである。
複合金属水酸化物としては、下記式(III)のハイドロタルサイト系化合物が挙げられる。
M2+(1−X)M3+x(OH-)(2+x-y)(An−)y/n (III)
(式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An-はn価のアニオンを示し、
0.1≦x≦ 0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1又は2である。)
金属酸化物としては、活性アルミナ、FeO,Fe2O3,Fe3O4等の酸化鉄、シリカゲル等が挙げられる。
【0020】
金属の含水酸化物とは、式(I)又は、式(II)で表せる。また、(I)式、(II)式のいかなる組み合わせの混合物でもよい。
MOn・mH2O (I)
M・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O (II)
式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である。
(I)式は、水和酸化物の一般式であり、式(II)は含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物である。式中Mは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb、及びTaからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属である。また、式(II)において+は混合物であることを表す。特に、吸着能力と、酸やアルカリに対する耐溶解性の点で、Ti、Zr、Sn、Ceが好ましい。
さらには、経済性を加味すると(II)式の含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物が好ましい。さらに好ましくは、(II)式の含水亜鉄酸塩の金属MがZrであることが好ましい。
式(I)で表される水和酸化物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
チタンの水和酸化物としては一般式
TiO2・nH2O
(式中、nは0.5〜2.0の数である。)で表されるもの。
ジルコニウムの水和酸化物としては一般式
ZrO2・nH2O
(式中、nは0.5〜2.0の数である。)で表されるもの。
スズの水和物としては、一般式
SnO2・nH2O
(式中、nは0.5〜2.0の数である。)で表されるもの。
セリウムの水和酸化物としては、一般式
CeO2・nH2O
(式中、nは0.5〜2.0の数である。)で表されるもの。
【0021】
式(II)で表される含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
チタンの含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物としては、一般式
Ti・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である)で表されるもの。
ジルコニウムの含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物としては、一般式
Zr・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である)で表されるもの。
スズの含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物としては、一般式
Sn・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である)で表されるもの。
セリウムの含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物としては、一般式
Ce・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3の数である)で表されるもの。
【0022】
(I)式で表される水和酸化物の製造方法は特に限定されないが、例えば、次のような方法により製造される。該金属塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の塩類水溶液中にアルカリ溶液を添加して得られた沈殿物をろ過、洗浄した後乾燥する。乾燥は風乾するかもしくは約150℃以下、好ましくは約90℃以下で約1〜20時間程度乾燥する。
(II)式で表される水和酸化物は、含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物の混合物である。該化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば次のような方法により製造される。該金属塩を溶解して調製した金属イオンを含有する溶液に、この溶液中に含まれる金属イオンに対して、約0.2〜11倍モルに相当する第1鉄塩を加えた後、アルカリを加え、液のpHを約6以上、好ましくは約7〜12に保持する。この後、必要ならば溶液の温度を約30〜100℃にした後、たとえば空気、酸素ガス又はオゾンなどの酸化性ガスを吹き込むか、あるいは過酸化水素水などの酸化剤を加え、含水亜鉄酸塩の沈澱を生成させる。生じた沈澱を濾別し、水洗した後乾燥する。乾燥は風乾する、又は約150℃以下、好ましくは約90℃以下で約1〜20時間程度乾燥する。乾燥後の含水率は、約6〜30重量%の範囲内に入ることが好ましい。ここで鉄の水和酸化物とは、たとえばFeO,Fe2O3,Fe3O4などの鉄の酸化物の水和物(一水塩、二水塩、三水塩、四水塩など)をいう。含水亜鉄酸塩と鉄の水和酸化物との割合は、含水亜鉄酸塩含量が24〜100重量%、好ましくは50〜99重量%となる量である。
【0023】
前述の製造法において用いられるチタン、ジルコニウム、スズ又はセリウムの金属塩としては、たとえば四塩化 チタン(TiCl4)、硫酸チタン(Ti(SO4)2)、硫酸チタニル(TiO(SO4))、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)、四塩化ジルコニウム(ZrCl4)、硝酸ジルコニウム(Zr(NO3)4)、硫酸ジルコニウム(Zr(SO4)2)、酢酸ジルコニウム(Zr(CH3COO)4)、四塩化スズ(SnCl4)、 硝酸スズ(Sn(NO3)4)、硫酸スズ(Sn(SO4)2)、四塩化セリウム(CeCl4)、硝酸セリウム(Ce(NO3)4)、硫酸セリウム(Ce(SO4)2)などが挙げられる。これらは例えばZr(SO4)2・4H2Oなどのように含水塩であってもよい。これらの金属塩は通常、1リットル中に約0.05〜2.0モルの溶液状で用いられる。第一鉄塩としては、たとえば硫酸第一鉄(FeSO4)、硝酸第一鉄(Fe(NO3)2)、塩化第一鉄(FeCl2)などが挙げられる。これらもFeSO4・7H2Oなどの含水塩であってもよい。
これらの第一鉄塩は通常、固形物で加えられるが、溶液状で加えてもよい。アルカリとしては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは、好ましくは約5〜20重量%の水溶液で用いられる。酸化性ガスを吹き込む場合、その時間は、 酸化性ガスの種類などによって異なるが、通常約1〜10時間程度である。酸化剤としては、たとえば過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどが用いられる。
本発明の多孔性成形体に担持させる無機イオン吸着体としては、P、B、F、Asの吸着性能に優れている点から、チタン、ジルコニウム、スズの水和酸化物;チタン、ジルコニウム、スズの含水亜鉄酸塩;含水酸化セリウム;含水酸化ランタン;活性アルミナ;硫酸アルミニウム添着活性アルミナ;及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0024】
本発明の無機イオン吸着体は、可能な限り微粒子であることが好ましく、その粒子径は0.01μm〜100μm、好ましくは、0.01μm〜50μm、さらに好ましくは0.01μm〜30μmの範囲である。
粒子径が0.01μmより小さいと、製造時のスラリー粘度が上昇し、成形しにくい傾向があり、100μmより大きいと、比表面積が小さくなるため、吸着性能が低下する傾向にある。
ここでいう粒子径とは、一次粒子と、一次粒子が凝集した二次粒子の両方又は混合物の粒子径をいう。
本発明の無機イオン吸着体の粒子径は、レーザー光による回折の散乱光強度の角度分布から求めた球相当径のモード径(最頻度粒子径)である。
【0025】
本発明の方法の貧溶媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール等のアルコール類、エーテル類、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類などの有機高分子樹脂を溶解しない液体が用いられるが、水を用いることが好ましい。また、貧溶媒中に有機高分子樹脂の良溶媒を若干添加することにより凝固速度をコントロールすることも可能である。好ましい高分子樹脂の良溶媒と水の混合比は0〜40%であり、0〜30%がより好ましい。混合比が40%を超えると、凝固速度が遅くなるため、液滴等に成形したポリマー溶液が、貧溶媒中への突入する時及び貧溶媒中を移動中に、貧溶媒と成形体の間で摩擦抵抗の影響を受けて、形状が歪になる傾向がある。
貧溶媒の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは−30℃〜90℃、より好ましくは0℃〜90℃、さらに好ましくは0℃〜80℃である。貧溶媒の温度が90℃を超えたり、又は−30℃未満であると、貧溶媒中の成形体の状態が安定しにくい。
【0026】
次に本発明の多孔性成形体を吸着剤として使用したイオン吸着装置について説明する。
好適な実施の形態について、図面に基づいて、溶液中のリン酸イオンの除去について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
11図に沿って説明する。
まず吸着工程について説明する。
化学工場、食品工場、肥料工場や下水処理場から出る排水は、まず、原水供給路1を介して原水貯槽2に一時貯留される。次に流路3及びポンプ4を用いて固液分離装置である、膜分離装置5に送られる。膜分離装置5で濁質成分が除去された原水は、流路6を介してpH調整槽8に貯留される。また、膜分離装置5で、排水中の濁質成分が濃縮された水は、循環路7から原水貯槽2に戻される。pH調整槽8では、pH調整剤添加機構9を用いて、リン酸イオンの吸着に適したpH範囲であるpH2〜7に調整される。
pH調整された原水は、配管10、ポンプ11を介してカラム12に送液される。カラム12では、排水中に含まれるリン酸イオンが、本発明の多孔性成形体と接触して吸着される。溶液中のイオンが吸着除去され、浄化された排水は、流路13を介して、処理水槽14に一時貯留され、pH調整剤添加機構15により、pHを中性に中和処理後、放流される。
本発明のイオン吸着装置は、本発明の多孔性成形体を充填したカラム12とカラムに送液する手段とを具備している。
カラム送液手段に特に制限は無く、ポンプ、水頭差、吸引、散水等が挙げられる。
本発明の水処理装置において、固液分離装置は、特に制限は無いが、凝集沈殿装置、砂ろ過装置、遠心脱水機等が挙げられる。特に、省スペース、清澄なろ過液が得られるという点で、膜分離装置が好ましい。好ましい膜分離技術は、逆浸透膜(RO)、限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)等が挙げられる。膜の形態は、平膜、中空糸、プリーツ、スパイラル、チューブ等、限定されない。
【0027】
次に、逆洗工程について説明する。
カラム12中の多孔性成形体の吸着能力が低下してくると、弁c及び弁hを閉じて、原水の送液を止める。次に、弁g及び弁bを開け、処理水槽14の処理水を流路16、ポンプ17を介して、カラム12の下方から送液して、カラム12内の多孔性成形体を展開して洗浄する。洗浄液は、流路18を介してpH調整槽8に戻す。
逆洗工程は、カラム内の多孔性成形体充填層に蓄積した、濁質成分、汚れ等を洗浄することが目的である。充填層が固着してしまう場合には、逆洗水と同時にエアーを供給して、固着した充填層をほぐすこともできる。
なお、逆洗工程は、必ず吸着工程での送液方向とは逆向きに行う。
【0028】
次に、脱着工程について説明する。
カラム12内の多孔性成形体の吸着能力が低下してくると、吸着したイオンを脱着する操作を行う。多孔性成形体にリン酸イオンが吸着している場合は、脱着液にアルカリ性水溶液を用いる。アルカリ性水溶液は、コスト、性能の点で水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。すなわち、脱着液槽19に貯槽した水酸化ナトリウム水溶液を、流路20、ポンプ21を介して、カラム12に送液して、多孔性成形体と接触して、吸着したリン酸イオンを水酸化ナトリウム水溶液中に溶離して、流路22を介して、晶析槽23に貯留される。
【0029】
続いて、晶析工程について説明する。
脱着工程で、リン酸イオンを溶離した水酸化ナトリウム水溶液は、晶析槽23に貯留される。晶析槽23では、溶離したリン酸イオンをリン酸カルシウムとして沈殿、回収する操作を行う。すなわち、晶析槽23に貯留されたリン酸ナトリウム水溶液に、晶析薬剤槽24に貯留した水酸化カルシウムスラリーを流路25、ポンプ26を介して、晶析槽23に注入し、撹拌機27を用いて撹拌して、リン酸カルシウムの結晶生成させる晶析反応を行う。晶析反応終了後、晶析したリン酸カルシウムを含む白濁した液を、流路28、ポンプ29を介して固液分離装置である膜分離装置30に送液して、固液分離する。固液分離されて濃縮したリン酸カルシウムスラリーは、流路31を介して晶析槽23に循環する。晶析槽23に濃縮されたリン酸カルシウムスラリーは、弁iから排出され、肥料等に再資源化される。リン酸カルシウムが固液分離された清澄なアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)は、流路32を介して、脱着液槽19に貯留され、次回の脱着工程で再利用される。
ここで固液分離装置には、凝集沈殿、遠心脱水機、ベルトプレス脱水機、膜分離装置等が挙げられる。特に、省スペース性と清澄なろ過水が得られる点で、膜分離装置が好ましい。さらに、耐汚染性に優れ、ろ過水量の安定性に優れることから、中空糸状の限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)が好ましい。
【0030】
次に、活性化工程について説明する。
脱着工程が終了したカラム内の多孔性成形体は、アルカリ性であり、このままでは、再び原水中のリン酸イオンを吸着する能力は低い。そこで、酸性水溶液を用いて、カラム内のpHを所定値に戻す操作、すなわち活性化処理を行う。
pH調整槽33の活性化液(希硫酸)を、流路34、ポンプ35を介してカラム12に送液して、カラム内の多孔性成形体と接触して流路36を介してpH調整槽33に循環させる。活性化液は、カラム12で多孔性成形体と接触してアルカリ性となるので、pH調整槽33内に設置したpHコントローラー37と連動したポンプ40を用いて、活性化液貯留槽38に貯留した活性化液(硫酸水)を、流路39を介して、pH調整槽33に送液してpHを酸性にコントロールする。この操作を繰り返して、カラム12内のpHを所定値に調整する。なお、pHコントロールの精度を高めるために、撹拌機41を用いて、活性化液を撹拌してもよい。
なお、図11においてa,d,e,fも弁を表す。
以上の、吸着工程、逆洗工程、脱着工程、晶析工程、活性化工程を順次繰り返すことによって、コンパクトでクローズ化されたリン酸イオン吸着処理装置が構築される。
【0031】
次に本発明の多孔性成形体を吸着剤として使用したイオンの処理方法について説明する。
本発明の多孔性成形体は、液体と接触させて水中のイオンを吸着除去する吸着剤として使用するのに適している。
液体を例示すると、飲料水、灌漑水、工場の工程水、河川水、湖沼水、海水、地下水、さらに、下水、工場廃水等、下水処理場や排水処理施設の活性汚泥、火力発電所の脱硫排煙処理水等が挙げられる。
本発明の多孔性成形体が吸着の対象とするイオンは、陰イオン、陽イオンと特に限定されない。例えば、陰イオンでは、リン(リン酸イオン)、フッ素(フッ化物イオン)、ヒ素(ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン)、ホウ素(ホウ酸イオン)、ヨウ素イオン、塩素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、及び酢酸等の各種有機酸のイオンが挙げられる。また、陽イオンでは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、カドミウム、鉛、クロム、コバルト、ストロンチウム、及びセシウム等が挙げられる。
特に、無機イオン吸着体は、ある特定のイオンに対して特異的な選択性を示す特徴を有することから、下水や産業排水のように雑多なイオンが共存する中から、P、B、F、Asなどのイオンを除去するのに適している。
具体的には、P、B、F、Asイオンの除去には、無機イオン吸着体に、チタン、ジルコニウム、スズの水和酸化物;チタン、ジルコニウム、スズの含水亜鉄酸塩;含水酸化セリウム;含水酸化ランタン;活性アルミナ;硫酸アルミニウム添着活性アルミナ;及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を選択するのが好ましい。
【0032】
本発明の多孔性成形体を吸着剤として水処理用途に用いる場合、カラムや吸着塔に充填して使用する。
カラムや吸着塔に充填して、被処理水を通液して接触させる方が、本発明の多孔性成形体の特徴である接触効率の高さを十分に引き出せる。
カラムとは、筒状の容器であって、下部及び上部の少なくとも一方に、成形体が流出しないように目皿やメッシュのような固液分離手段を備えている。
カラムの材質は、特に限定されるものではないが、ステンレス、FRP(ガラス繊維入り強化プラスチック)、ガラス、各種プラスチックが挙げられる。耐酸性を考慮して、内面をゴムやフッ素樹脂ライニングとすることもできる。
本発明のイオン吸着装置及びイオンの処理方法では、後述する脱着操作と活性化操作を、吸着操作を行う同じ現場ですることが一般的である。しかし、現場に十分なスペースが無い、又は、脱着頻度が少ないような場合には、カラムのみを装置から取り外し、別途、新しいカラムと交換することもできる。取り外したカラムは、別途、脱着、活性の施設の整った工場等で処理を行い、再利用することができる。
本発明の多孔性成形体を吸着剤として水処理用途に用いる場合、その前処理として水中の縣濁物質を固液分離する手段を設けることが好ましい。あらかじめ水中の縣濁物質を除去することで、多孔性成形体の表面の閉塞を防ぐことができ、本発明の多孔性成形体の吸着性能を十分発揮することができる。
好ましい固液分離手段としては、凝集沈殿、沈降分離、砂ろ過、膜分離が挙げられる。特に、設置面積が少なくて、清澄なろ過水が得られる膜分離技術が好ましい。好ましい膜分離技術は、逆浸透膜(RO)、限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)等が挙げられる。膜の形態は、平膜、中空糸、プリーツ、スパイラル、チューブ等、限定されない。
【0033】
本発明の吸着工程では、液体のpHを吸着対象とするイオンと該無機イオン吸着体の組み合わせにより好適pHに調整したのち、吸着対象イオンを吸着することが好ましい。
例えば、液体中のリンを吸着対象とした場合、無機イオン吸着体にジルコニウムの含水亜鉄酸塩を用いた場合のpH調整範囲は、pH1.5〜10の範囲であり、さらに好ましくは、pH2〜7である。
また、液体中のホウ素を吸着対象とした場合、無機イオン交換体に酸化セリウムの含水酸化物、又は、ジルコニウム含水亜鉄酸塩を用いた場合のpH調整範囲は、pH3〜10の範囲であり、さらに好ましくは、pH5〜8である。
また、液体中のフッ素を吸着対象とした場合、無機イオン交換体に酸化セリウムの含水酸化物、又は、ジルコニウム含水亜鉄酸塩を用いた場合のpH調整範囲は、pH1〜7の範囲であり、さらに好ましくは、pH2〜5である。
また、液体中のヒ素を吸着対象とした場合、無機イオン交換体に酸化セリウムの含水酸化物を用いた場合のpH調整範囲は、pH3〜12の範囲であり、さらに好ましくは、pH5〜9である。
本発明の多孔性成形体は、アルカリ水溶液と接触することで、吸着した陰イオンを脱離させ、次いでこの吸着剤を酸性水溶液で処理することにより、再び陰イオンを吸着することができる(再利用)。多孔性成形体を再利用することにより、コストが削減できるばかりでなく、廃棄物が減るという効果がある。特に、本発明の多孔性成形体は、耐久性に優れるため、繰り返し使用に適している。
アルカリ溶液のpHの範囲は、pH10以上であれば陰イオンを脱離させることができるが、好ましくはpH12以上、より好ましくはpH13以上である。アルカリ濃度は、0.1wt%〜30wt%の範囲であり、さらに好ましくは0.5〜20wt%の範囲である。0.1wt%より薄いと脱着効率が低くなり、30wt%より濃いと、アルカリの薬剤コストが増えてしまう傾向にある。アルカリ性水溶液の通液速度は、特に制限はないが、通常SV0.5〜15(hr−1)の範囲が好ましい。SV0.5より低いと、脱着時間が長時間になり非効率になる傾向があり、SV15より大きいと、多孔性成形体とアルカリ水溶液の接触時間が短くなり、脱着効率が低下する傾向がある。
アルカリ性水溶液の種類は、特に制限はないが、通常水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化アンモニウム等の無機アルカリ、及び有機アミン類などが用いられる。なかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは、脱着効率が高く特に好ましい。
【0034】
本発明における脱着アルカリの再利用工程及び脱着イオンの回収工程は、イオンを吸着した本発明の多孔性成形体にアルカリ水溶液を接触させ、アルカリ液中にイオンを溶離させ、溶離液に、対象とするイオンと沈殿を生じる晶析薬剤を添加し、沈殿を除去することにより、アルカリを再利用可能なものとし、また、イオンを沈殿物として回収できる。
晶析薬剤としては、金属の水酸化物が挙げられる。金属の水酸化物は、金属塩がリン、ホウ素、フッ素、ヒ素といった陰イオンと結合して沈殿物を生成する。また水酸化物が脱着液のアルカリ源となるため、再生液を回収、リサイクルすることによりクローズな系とすることができる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが挙げられる。
難溶性沈殿物すなわち溶解度の低い沈殿が得られる点で、多価金属の水酸化物が好ましく、具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが特に好ましい。特に、コストの点で水酸化カルシウムが好ましい。
例えば、溶離液中にフッ素がフッ化ナトリウムとして存在する場合に、次の反応式にしたがって高濃度のアルカリを回収することができる。
2NaF+Ca(OH)2→2NaOH+CaF2↓
同様に、リン酸ナトリウムとして存在する場合は、下記反応式にしたがって、アルカリを回収できる。さらに、晶析したリン酸カルシウムは、肥料等に再資源化が可能である。
6Na3PO4+10Ca(OH)2→18NaOH+Ca10(OH)2(PO4)6↓
【0035】
金属の水酸化物の添加量は、特に制限は無いが対象とするイオンに対して1〜4倍当量である。添加量が等モル以下では、沈殿除去効率が低くなるし、4倍当量を超えると、除去効率はほとんど変わらないので経済的に不利になる傾向がある。
沈殿除去する場合のpHは6以上であることが好ましく、さらにアルカリ水溶液を回収して、再利用することを考慮するとpH12以上、好ましくはpH13以上に保持するのが好ましい。沈殿処理時のpHが6より低いと、沈殿物の溶解度が大きくなり、沈殿効率が低下する。
沈殿除去する場合に、金属の水酸化物の他に、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等の無機系凝集剤や、高分子凝集剤を併用することもできる。
【0036】
本発明の、溶離液中の沈殿物の固液分離方法は、膜分離方法が好ましい。
膜分離法は、設置面積が少なくて、清澄なろ過水を得ることができるため、本発明のようなクローズシステムに適している。
膜分離法としては、特に限定されないが、限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)、透析膜等が挙げられる。膜の形態も、平膜、中空糸、プリーツ、チューブ状等、限定されない。好ましい膜分離法としては、ろ過スピードとろ過精度の点で、限外ろ過膜(UF)、精密ろ過膜(MF)等が好ましい。
脱着工程が終了したカラム内の多孔性成形体は、アルカリ性であり、このままでは、再び原水中のイオンを吸着する能力は低い。そこで、酸性水溶液を用いて、カラム内のpHを所定値に戻す操作、すなわち活性化処理を行う。
酸性水溶液は、特に限定されないが、硫酸、塩酸等の水溶液が用いられる。濃度は、0.001〜10wt%程度であればよい。0.001wt%より薄いと、活性化終了までに大量の水ボリュームが必要になり、10wt%より濃いと、酸性水溶液の取り扱い上の危険性等の点で問題が生じるおそれがある。
通液速度は、特に制限はないが、通常SV0.5〜30(hr−1)の範囲が好ましい。SV0.5より低いと、活性化時間が長時間になり非効率になる傾向があり、SV30より大きいと、多孔性成形体と酸性水溶液の接触時間が短くなり、活性化効率が低下する傾向がある。
活性化方法においてさらに好ましい方法は、カラムとpH調整槽の間で活性液を循環させて行うことである。
【0037】
この構成をとることにより、脱着操作でアルカリ側にシフトしたカラム中の多孔性成形体のpHを、無機イオン吸着体の耐酸性を考慮して、ゆるやかに所定のpHに戻すことができる。
例えば、酸化鉄はpH3以下では酸による溶解が著しいことが知られている。このような酸化鉄を多孔性成形体に担持した場合、従来の活性化方法は、先の鉄の溶解という問題があるため、pH3以上という薄い酸で処理するしか方法がなかった。しかし、この方法では、大量の水ボリュームが必要となるため、経済的に許されるものではなかった。
このような従来技術に対して、本発明の活性化方法は、カラムとpH調整槽を設けて、活性化液を循環するため、酸によって溶解するpH範囲を避けて活性化でき、さらに、活性化に用いる水のボリュームを少なくすることができ、装置をコンパクトにできる。
この時の通液速度は、通常SV1〜200(hr−1)の範囲で選ばれる。さらに好ましくは、SV10〜100の範囲である。SV1より低いと、活性化時間が長時間になり非効率になる傾向があり、SV200より大きいと、大きなポンプ動力が必要であり非効率になる傾向がある。
この一連の脱着、活性化操作はカラムに吸着剤を充填したまま行うことができる。すなわち、吸着剤を充填したカラムに、吸着操作が終了後、アルカリ性水溶液、酸性水溶液を順番にカラムに通水することにより容易に再生を行うことができる。この場合、通液方向は、上向流、下向流のいずれでもよい。
本発明の多孔性成形体は、耐薬品性、強度に優れているため、この再生処理を数十回から数百回以上繰り返してもイオンの吸着性能はほとんど低下しない。
【0038】
次に本発明の多孔性成形体の水処理用途以外の用途について説明する。
本発明の多孔性成形体は、成形体表面の開口性が高く、成形体内部には連通孔が三次元網目状に発達しており、さらに連通孔を形成するフィブリルも多孔性であることから、接触効率が高いことが特徴である。
その接触効率が高いことを活かせる用途として、吸着剤、脱臭剤、抗菌剤、吸湿剤、食品の鮮度保持剤、酵素固定担体、クロマトグラフィーの担体等が挙げられる。
例えば、無機イオン吸着体にゼオライトを用いた場合は、脱臭効果が期待できる。
さらに、本発明の多孔性成形体の無機イオン吸着体がゼオライトであり、さらに、該ゼオライトに銀を担持した場合には、抗菌性を示す。
また、パラジウムや白金を担持した場合には、エチレンを吸着することから鮮度保持剤として使用できる。
また、銀又は銅を担持させた場合は、硫化水素やアンモニア、メチルメルカプタンといった悪臭ガスを吸着、分解できることから脱臭効果がある。
いずれの場合でも、本発明の多孔性成形体の接触効率の高さを活かした従来技術にない効果が期待できる。
【0039】
次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限
定されるものではない。
実施例において成形体の種々の物性を、以下の方法で測定した。
・ 走査型電子顕微鏡による成形体の観察
走査型電子顕微鏡(SEM)による成形体の観察は、日立製作所製のS−800型走査型電子顕微鏡で行った。
・ 成形体の割断
成形体を室温で真空乾燥し、乾燥した成形体をイソプロピルアルコール(IPA)に加えて、成形体中にIPAを含浸させた。次いで、IPAと共に成形体を直径5mmのゼラチンカプセルに封入し、液体窒素中で凍結した。凍結した成形体をカプセルごと彫刻刀で割断した。割断されている成形体を選別して顕微鏡試料とした。
・ 表面の開口率
走査型電子顕微鏡を用いて撮影した成形体の表面の画像を、画像解析ソフト(三谷商事(株)製ウインルーフ(商品名))を用いて求めた。
さらに詳しく説明すると、得られたSEM像を濃淡画像として認識し、色が濃い部分を開口部、色が薄い部分をフィブリルとして、しきい値を手動で調整し、開口部分とフィブリル部分に分割して、その面積比を求めた。
・ 表面の開口径
走査型電子顕微鏡を用いて撮影した成形体の表面の画像から実測して求めた。孔が円形の場合はその直径、円形以外の場合は、同一面積を有する円の円相当直径を用いた。
・ 粒径
成形体及び無機イオン吸着体の粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製のLA−910(商品名))で測定した。但し、粒径が1,000μm以上の場合には、SEM像を用いて、成形体の最長直径と最短直径を測定し、その平均値を粒径とした。
・ 空孔率
十分に水に濡れた成形体を乾いたろ紙上に拡げ、余分な水分をとった後に重量を測定し、成形体の含水時の重量(W1)とした。次に、成形体を室温下で真空乾燥に24時間付して乾燥した成形体を得た。乾燥した成形体の重量を測定し、成形体の乾燥時の重量(W0)とした。
【0040】
次に、比重瓶(ゲーリュサック型、容量10ml)を用意し、この比重瓶に純水(25℃)を満たしたときの重量を測定し、満水時の重量(Ww)とした。次に、この比重瓶に、純水に湿潤した状態の成形体を入れ、さらに標線まで純水を満たして重量を測定し、(Wwm)とした。次に、この成形体を比重瓶から取り出し、室温下で24時間、真空乾燥に付して、乾燥した成形体を得た。乾燥した成形体の重量を測定して(M)とした。下記の計算式に従って、成形体の比重(ρ)、及び、空孔率(Pr)を求めた。
ρ=M/(Ww+M−Wwm)
Pr=(W1−W0)/(W1−W0+W0/ρ)×100
式中、Prは空孔率(%)であり、W1は成形体の含水時の重量(g)、W0は成形体の乾燥後の重量(g)、及び、ρは成形体の比重(g/cm3)、Mは成形体の乾燥後の重量(g)、Wwは比重瓶の満水時の重量(g)、Wwmは比重瓶に含水した成形体と純水を入れたときの重量(g)である。
・ 担持量
成形体を室温下で真空乾燥に24時間付して乾燥した成形体を得た。乾燥した成形体の重量を測定し、成形体の乾燥時の重量Wd(g)とした。次に、乾燥した成形体を、電気炉を用いて800℃で2時間焼成して灰分の重量を測定し、灰分の重量Wa(g)とした。下記式より、担持量を求めた。
担持量(%)=Wa/Wd ×100
式中、Waは、成形体の灰分の重量(g)であり、Wdは成形体の乾燥時の重量(g)である。
・ 比表面積(m2/cm3)
成形体を室温で真空乾燥した後、ベックマン・コールター(株)社製コールターSA3100(商品名)を用い、BET法で多孔性成形体の比表面積SBET(m2/g)を求めた。
【0041】
次に、湿潤状態の成形体を、メスシリンダー等を用いてみかけの体積V(cm3)を測定した。その後、室温で真空乾燥して重量W(g)を求める。
本発明の成形体の比表面積は、次式から求めた。
比表面積(m2/cm3)=SBET×かさ比重(g/cm3)
かさ比重(g/cm3)=W/V
式中、SBETは成形体の比表面積(m2/g)であり、Wは成形体の乾燥重量(g)、Vはそのみかけの体積(cm3)である。
・リン濃度測定
HACH社製りん酸測定装置フォスファックス・コンパクト(商品名)を用いて、リン濃度を測定した。
・ホウ素濃度測定
ICP発光法(サーモエレクトロン(株)社製(米国)、IRIS−INTREPID−II)により測定した。
・ヒ素濃度測定
ICP発光法(サーモエレクトロン(株)社製(米国)、IRIS−INTREPID−II)により測定した。
・フッ素濃度測定
イオンクロマト(日立製作所(株)社製)を用いて測定した。
・濁度
SS濃度計(東亜DKK社製、SSD−10)により測定した。
・カルシウムイオン濃度
HACH社製DR890(カルマガイト比色法)を用いて、カルシウムイオン濃度を測定した。
【0042】
まず、無機イオン吸着体粉末の製造例を示す。
(製造例1) ジルコニウム含水亜鉄酸塩粉末の製造
硫酸ジルコニウムの0.15モル水溶液を1リットル調製した。この溶液中にはジルコニウムとして13.7gの金属イオンが含まれていた。この水溶液中に硫酸第一鉄結晶(FeSO4・7H2O)84.0gを添加し、撹拌しながら溶解した。この量は鉄イオンとして0.3モルに相当する。つぎにこの水溶液に15重量%の水酸化ナトリウム溶液を撹拌しながら液のpHが10になるまで滴下すると青緑色の沈澱が生じた。次に、この水溶液を60℃に加温しながら10リットル/時の流量で空気を吹き込んだ。空気吹き込みを続けると水溶液のpHが低下するので、この場合は、15重量%の水酸化ナトリウム溶液を滴下してpHを9.5〜10に保持した。pHの低下が認められなくなるまで空気の吹き込みを続けると黒色のジルコニウムの含水亜鉄酸塩沈澱が生成した。次に、この黒色沈澱物を吸引濾別し、脱イオン水で濾液が中性となるまで洗浄した後、70℃以下で乾燥した。これをボールミルで7時間粉砕し、平均粒径2.5μmのジルコニウムの含水亜鉄酸塩粉末を得た。
(製造例2) 含水酸化セリウム粉末の製造
硫酸セリウム0.2モル及び硫酸アンモニウム0.5モルを蒸留水2リットルに撹拌しながら溶解した。次いで、アンモニア水を添加して溶液のpHを9に調製して沈殿物を得た。一晩熟成後、ろ過して、脱イオン水で濾液が中性となるまで洗浄した後、60℃で乾燥した。これをボールミルで7時間粉砕し、平均粒径2.0μmの含水酸化セリウム粉末を得た。
【0043】
(実施例1)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH、日本合成化学工業(株)、ソアノールE3803(商品名))10g、ポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder(商品名))10g、ジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学(株))80gを、セパラフラスコ中にて、60℃に加温して溶解し、均一なポリマー溶液を得た。
このポリマー溶液100gに対し、製造例1で作った無機イオン吸着体粉末92gを加え、よく混合してスラリーを得た。
得られた複合高分子スラリーを40℃に加温し、側面に直径5mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成し、60℃の水からなる凝固浴槽中に吐出させ、複合高分子スラリーを凝固させた。さらに、洗浄、分級を行い、平均粒径623μmの球状成形体を得た。
物性を表1に示す。
更に得られた成形体の表面及び割断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。結果を図3〜6に示す。
図3及び図6より、得られた成形体には、表面付近の同心円状に最大孔径層(ボイド層)が観察された。
また、図5からフィブリル内部の空隙、及びフィブリル表面の開孔が確認され、さらに、そのフィブリル外表面及びフィブリル内部の空隙表面には無機イオン吸着体粉末が担持されている様子が観察された。
【0044】
(試験例1)
実施例1で調製した成形体について、水溶性高分子であるポリビニルピロリドン(PVP)の含有量を次のようにして測定した。
まず、実施例1で調製した成形体を、真空乾燥して重量Wd(g)を求めた。次に、乾燥した成形体を乳鉢を用いて粉砕した。次いで、該粉砕物をクロロホルムを用いてソックスレー抽出してポリビニルピロリドンを抽出した。次に、得られた抽出液を蒸発乾固して、ポリビニルピロリドンの重量Ws(g)を測定した。下記式より、水溶性高分子の含有量を求めた。
含有量(%)=Ws/Wd ×100
水溶性高分子(ポリビニルピロリドン)の含有量は0.1%であった。
なお、蒸発乾固物の赤外吸収スペクトル(IR)から、蒸発乾固物はポリビニルピロリドンであることが確認された。
【0045】
(実施例2)
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH、日本合成化学工業(株)、ソアノールE3803)10g、ポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder)10g、ジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学(株))80gを、セパラフラスコ中にて、60℃に加温して溶解し、均一なポリマー溶液を得た。
このポリマー溶液100gに対し、製造例2で作った無機イオン吸着体粉末の含水酸化セリウム粉末125gを加え、よく混合してスラリーを得た。
得られた複合高分子スラリーを40℃に加温し、側面に直径5mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(17.5G)によりノズルから液滴を形成し、60℃の水からなる凝固浴槽中に吐出させ、複合高分子スラリーを凝固させた。さらに、洗浄、分級を行い、平均粒径531μmの球状成形体を得た。物性を表1に示す。
更に得られた成形体の表面及び割断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。結果を図1〜2及び7〜10に示す。
図7及び図10より、得られた成形体には、表面付近に最大孔径層(ボイド層)が観察された。
また、図9からフィブリル内部の空隙、及びフィブリル表面の開孔が確認され、さらに、そのフィブリル外表面及びフィブリル内部の空隙表面には無機イオン吸着体粉末が担持されている様子が観察された。
【0046】
(実施例3) リン吸着試験
リン酸三ナトリウム(Na3PO4・12H2O)を蒸留水に溶解し、リン濃度9mg−P/リットルの液を作り、硫酸でpHを7に調整した液をモデル液、すなわち吸着原液とした。
実施例1及び実施例2で調製した成形体8mlを、カラム(内径10mm)に充填して、さきの吸着原液を240ml/hr(SV30)の速度で通水した。カラムからの流出液(処理液)を30分毎にサンプリングして、該処理水中のリン酸イオン濃度(リン濃度)を測定して、0.5mg−P/リットル(ppm)超過時までの通水量(吸着量)を求めた。結果を表1に示す。
上記の吸着操作後、7wt%の水酸化ナトリウム水溶液に2時間浸漬し、吸着したリン酸を脱着させた後、蒸留水で洗浄した。次に、0.1wt%の硫酸水溶液に5時間浸漬して再生を行った。次に再び蒸留水で洗浄した。
以上の吸着、脱着及び再生操作を50回繰り返し、1回目と50回目の吸着量とその変化率を調べた。
なお、吸着量変化率は下式で表す。
吸着量変化率=(50回目の吸着量)/(1回目の吸着量)×100
結果を表1に示す。吸着容量は1回目と50回目ではほとんど同じであり、本吸着剤の耐久性の高さが確認された。
【0047】
(比較例1)
実施例1において、水溶性高分子であるポリビニルピロリドンを使用しないこと以外は全て同じ方法で成形体を得た。
物性を表1に示す。この成形体にはスキン層があり、表面の開口率は2%であり、表面の開口径0.01〜0.5μmと表面開口性に乏しいものであった。また、この成形体には、フィブリル内部の空隙及びフィブリル表面の開孔は観察されなかった。
実施例3と同様にしてリンの吸着試験を行った。結果を表1に示す。SV30でのリンの吸着量は低い値であった。
【0048】
(比較例2)
特許文献2(特開2002−38038号公報)の実施例3に記載の方法と同様にして、含浸法で調製した含水酸化ジルコニウム含有セルロース繊維を得た。
実施例3と同様の吸着原液、脱着液、再生液を用いてビーカー中で吸着、脱着、再生操作を50回繰り返して、吸着量変化率を求めたところ、50%と低く、含浸法で調製したものは耐久性が低いことがわかった。
【0049】
(実施例4)ホウ酸吸着試験
ホウ酸(H3BO3)を蒸留水に溶解し、ホウ酸水溶液(ホウ素として22mg−B/リットル)を作り、硫酸及び水酸化ナトリウムを用いてpHを3、5、7に調整した。この水溶液1リットルに対して、実施例1及び2の多孔性成形体2mlを加えて、しんとう機で撹拌した。撹拌開始2時間後に、該水溶液をサンプリングして、ホウ酸濃度を測定して吸着量を求めた。結果を表2に示す。
ホウ酸イオンは、中性領域で吸着量が多いことがわかった。
【0050】
(実施例5)フッ素吸着試験
フッ化ナトリウム(NaF)を蒸留水に溶解し、フッ化物イオン水溶液(フッ素として38mg−F/リットル)を作り、硫酸及び水酸化ナトリウムを用いてpHを3、5、7に調整した。
実施例4と同様に、この水溶液1リットルに対して、実施例1及び2の多孔性成形体2ml加えて、しんとう機で撹拌した。撹拌開始2時間後に、該水溶液をサンプリングして、フッ化物イオン濃度を測定して吸着量を求めた。結果を表2に示す。
フッ化物イオンは、酸性領域で吸着量が多いことがわかった。よって、前処理として酸性側にpH調整するのが有効になる。
【0051】
(実施例6)ヒ素吸着試験
亜ヒ酸(As2O3)を蒸留水に溶解し、亜ヒ酸イオン水溶液(ヒ素として150mg−As/リットル)を作り、硫酸及び水酸化ナトリウムを用いてpHを3、5、7に調整した。
実施例4と同様に、この水溶液1リットルに対して、実施例1及び2の多孔性成形体2ml加えて、しんとう機で撹拌した。撹拌開始2時間後に、該水溶液をサンプリングして、亜ヒ酸イオン濃度を測定して吸着量を求めた。結果を表2に示す。
亜ヒ酸イオンは、酸性領域では吸着量の差が現れなかった。
【0052】
(実施例7)
河川からサンプリングした水を精密ろ過膜(旭化成ケミカルズ(株)製、精密ろ過膜、公称孔径0.1μm)でろ過した。ろ過前の原水とろ過後の処理水について濁度を測定した。さらにろ過水に、リン酸三ナトリウム(Na3PO4・12H2O)を溶解して、リン濃度1mg−P/リットル の液を作り、硫酸でpHを7に調整した液をモデル液とした。
実施例1で調製した成形体8mlを、カラム(内径10mm)に充填して、さきの吸着原液を80ml/hr(SV10)の速度で通水した。カラムからの流出液(処理液)を30分毎にサンプリングして、該処理水中のリン酸イオン濃度(リン濃度)を測定して、0.1mg−P/リットル(ppm)超過時までの通水時間を求めた。
結果、処理水のリン濃度が0.1mg−P/リットルを越えるまで、20日を要した。この間、ろ過前の濁度は最高16、最低0.8、平均2.4で推移した。ろ過後の処理水の濁度は0.1以下であった。
膜ろ過により、濁質成分を除くことによって安定してリン除去性能が得られた。
【0053】
(比較例3)
精密ろ過膜によるろ過がないこと以外は、実施例7と同じ方法で吸着試験を行った。
結果、処理水のリン濃度は、通水開始後10日頃から0.1mg−P/リットルを越える点が観測され、安定した処理水は得られなかった。これは、膜処理が無いために、河川水の濁質成分が、多孔性成形体の表面及び粒子間を変則的に閉塞したためと考えられる。
【0054】
(実施例8)
本発明の水処理装置の実施例を図11に示す。
図11において、まず吸着工程について説明する。
食品工場の排水処理設備において、活性汚泥、沈降処理を行った処理水を、原水供給路1を介して原水貯槽2に一時貯留される。
原水の水質は、濁度は最高20、最低3、平均5.1で推移した。リン酸イオン濃度150mg−P/リットルでほぼ安定して推移した。
次に流路3及びポンプ4を用いて膜分離装置5(旭化成ケミカルズ(株)社製、精密ろ過膜、公称孔径0.1μm)でろ過して、pH調整槽8に貯留した。
膜ろ過後の水質は、濁度<0.1と濁質が除去され、リン酸イオン濃度に変化はなかった。
pH調整槽8では、pH調整剤添加機構9を用いて、硫酸を添加してpH3に調整した。
pH調整された原水は、配管10、ポンプ11を介してカラム12に送液した。カラム12には、実施例1の多孔性成形体を2L充填して、20リットル/hr(SV10)で通水した。
リン酸イオンが吸着され浄化された排水は、流路13を介して、処理水槽14に一時貯留され、pH調整剤添加機構15により、水酸化ナトリウムを用いて中和後に放流した。
処理水のリン酸イオン濃度は0.1mg−P/リットル以下であった。
次に、逆洗工程について説明する。
処理水のリン酸イオン濃度が、0.5mg−P/リットルを超えた時点で、弁c及び弁hを閉じて、原水の送液を止めた。次に、弁g及び弁bを開け、処理水槽14の処理水を流路16、ポンプ17を介して、カラム12の下方から、60リットル/hr(SV30)で送液して、カラム12内の多孔性成形体を展開して洗浄した。洗浄液は、流路18を介してpH調整槽8に戻した。
【0055】
次に、脱着工程について説明する。
脱着液槽19に貯槽した5wt%の水酸化ナトリウム水溶液を、流路20、ポンプ21を介して、2リットル/hr(SV1)で6時間、カラム12に送液して、多孔性成形体と接触して、吸着したリン酸イオンを水酸化ナトリウム水溶液中に溶離して、流路22を介して、晶析槽23に貯留した。
この時の、晶析槽23中のリン酸イオン濃度は、570mg−P/リットルであった。
続いて、晶析工程について説明する。
晶析槽23に貯留されたリン酸ナトリウム水溶液に、晶析薬剤槽24に貯留した水酸化カルシウムスラリーを水酸化カルシウム換算で3g/リットル、流路25、ポンプ26を介して、晶析槽23に注入し、撹拌機27を用いて20時間撹拌して、リン酸カルシウムの結晶生成させる晶析反応を行った。晶析反応終了後、晶析したリン酸カルシウムを含む白濁した液を、流路28、ポンプ29を介して膜分離装置30(旭化成ケミカルズ(株)社製、限外ろ過膜、公称分画分子量6,000)に送液して、固液分離した。固液分離後の水酸化ナトリウム水溶液は、リン酸イオン濃度10mg−P/リットル、カルシウムイオン濃度1mg−Ca/リットルであった。
固液分離されて濃縮したリン酸カルシウムスラリーは、流路31を介して晶析槽23に循環する。晶析槽23に濃縮されたリン酸カルシウムスラリーは、弁iから排出した。
次に、活性化工程について説明する。
pH調整槽33に硫酸でpH3に調整した活性化溶液を10リットル用意した。流路34、ポンプ35を介してカラム12に120リットル/hr(SV60)で送液して、カラム内の多孔性成形体と接触して流路36を介してpH調整槽33に循環させた。活性化液は、カラム12で多孔性成形体と接触してアルカリ性となるので、pH調整槽33内に設置したpHコントローラー37と連動したポンプ40を用いて、活性化液貯留槽38に貯留した50wt%の硫酸水溶液を、流路39を介して、pH貯留槽33に送液してpH3〜5の範囲でコントロールした。この操作を9時間繰り返して、カラム12内のpHを5に安定化した。pHコントロールの精度を高めるために、撹拌機41を用いて、活性化液を撹拌した。
以上の、吸着工程、逆洗工程、脱着工程、晶析工程、活性化工程を順次30回繰り返しても、吸着量に変化はみられなかった。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の成形体は、スキン層が無く、表面の開口性に優れるため、成形体内部への対象
物質の拡散が速い。よって、液体及び気体の処理に用いる吸着剤及びろ過剤、脱臭剤、抗菌剤、吸湿剤、食品の鮮度保持剤、各種のクロマトグラフィ用担体、触媒等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例2の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率5,000倍)。
【図2】実施例2の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図3】実施例1の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率150倍)。
【図4】実施例1の成形体の表面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図5】実施例1の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図6】実施例1の成形体の割断面表面付近を示す電子顕微鏡写真(倍率1,000倍)。
【図7】実施例2の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率130倍)。
【図8】実施例2の成形体の表面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図9】実施例2の成形体の割断面を示す電子顕微鏡写真(倍率10,000倍)。
【図10】実施例2の成形体の割断面表面付近を示す電子顕微鏡写真(倍率1,000倍)。
【図11】本発明の実施例8を示す水処理装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる、外表面に開口する連通孔を有する多孔性成形体であって、
連通孔を形成するフィブリルの内部に空隙を有し、
かつ、該空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔しており、
該フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に無機イオン吸着体が担持されている上記多孔性成形体。
【請求項2】
前記連通孔が成形体表面付近に最大孔径層を有する請求項1記載の多孔性成形体。
【請求項3】
平均粒径が100〜2500μmで、実質的に球状である請求項1〜2のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項4】
前記有機高分子樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選ばれる一種以上を含んでなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項5】
前記無機イオン吸着体が、下記式(I)及び/又は下記式(II)で表される化合物を含有する請求項1〜4いずれか一項に記載の多孔性成形体。
MOn・mH2O (I)
M・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O (II)
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3であり、Mは、Ti、Zr、Sn、S
c、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、
Yb、Lu、Al、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属である。また、式(II)において+は混合物であることを表す。)
【請求項6】
前記無機イオン吸着体が、チタン、ジルコニウム、スズの水和酸化物;チタン、ジルコニウム、スズの含水亜鉄酸塩;含水酸化セリウム、含水酸化ランタン及び活性アルミナからなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項7】
前記無機イオン吸着体が、硫酸アルミニウム添着活性アルミナ、及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項8】
前記無機イオン吸着体の粒子径が0.01μm〜100μmである請求項1〜7のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項9】
前記無機イオン吸着体の担持量が30〜95%である請求項1〜8のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項10】
前記フィブリルが、有機高分子樹脂、及び無機イオン吸着体、及び水溶性高分子を含んでなる請求項1〜9のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項11】
前記水溶性高分子が合成高分子である請求項10記載の多孔性成形体。
【請求項12】
前記水溶性高分子がポリビニルピロリドンである請求項10又は11に記載の多孔性成形体。
【請求項13】
前記水溶性高分子の含有量が0.001〜10%である請求項10〜12のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体を充填したカラム。
【請求項15】
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる多孔性成形体の製造方法において、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、無機イオン吸着体、水溶性高分子を混合した後、成形し、貧溶媒中で凝固させることを含む上記方法。
【請求項16】
前記有機高分子樹脂の良溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、及びジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選ばれる1種以上である請求項15記載の方法。
【請求項17】
貧溶媒が、水、又は、有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物である請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物の混合比が0〜40%である請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
成型の方法が、回転する容器の側面に設けたノズルから、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、無機イオン吸着体、水溶性高分子を混合したスラリーを飛散させて液滴を形成させることを含む請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
液体をカラムに通して液体中のイオンを吸着するイオン吸着装置において、該カラム中に請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体が充填されている上記イオン吸着装置。
【請求項21】
pH調整装置を請求項20記載のカラムの前段に設置したことを特徴とするイオン吸着装置。
【請求項22】
固液分離装置を、請求項20又は21に記載のイオン吸着装置の前段に設置したことを特徴とするイオン吸着装置。
【請求項23】
前記固液分離装置が膜分離装置である、請求項22記載のイオン吸着装置。
【請求項24】
前記カラムに脱着液を送液する送水手段を具備した請求項20〜23のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項25】
晶析槽と、晶析薬剤を添加する添加手段、撹拌手段を具備した晶析装置と、晶析槽で生成した沈殿物を固液分離する固液分離装置を設置した請求項20〜24のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項26】
前記固液分離装置が膜分離装置である請求項25記載のイオン吸着装置。
【請求項27】
晶析反応後の液を固液分離したアルカリを再びカラムに送液する送液手段を具備した請求項25又は26に記載のイオン吸着装置。
【請求項28】
前記カラムにpH調整液を送液する送液手段を具備した請求項20〜27のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項29】
前記カラムに充填された多孔性成形体のpHを調整することができる請求項28記載のイオン吸着装置であって、pH調整槽、pHコントローラ及び該pHコントローラと連動する薬液注入ポンプ、及びpH調整液送液手段、及びpH調整槽の水をカラムへ通水するラインを具備しており、pH調整液を、カラムとpH調整槽の間で繰り返し循環して、pHを調整する上記イオン吸着装置。
【請求項30】
洗浄水をカラムに送液する送液手段を具備している請求項20〜29のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項31】
カラムから出てくる処理水のpHを調整するpH調整手段を具備する請求項20〜30のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項32】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体と液体とを接触させることを含むイオンの処理方法。
【請求項33】
イオンがP、B、F及び/又はAsである請求項32記載のイオンの処理方法。
【請求項34】
溶液のpHを調整して、ついでイオンの吸着処理を行う、請求項32又は33に記載のイオンの処理方法。
【請求項35】
溶液を固液分離処理し、ついでイオンの吸着処理を行う、請求項32〜34のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項36】
前記固液分離処理の手段が膜分離方法である請求項35記載のイオンの処理方法。
【請求項37】
溶液と接触させて水中のイオンを吸着した請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体を、脱着液と接触させて該成形体から吸着イオンを脱離させる請求項32〜36のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項38】
前記脱着液がアルカリ性である請求項37記載のイオンの処理方法。
【請求項39】
前記脱着液が水酸化ナトリウムである請求項38記載のイオンの処理方法。
【請求項40】
脱着操作において、成形体に吸着したイオンを溶離したアルカリ水溶液に、晶析薬剤を添加して、該イオンを析出させ、次いで該析出物を固液分離する請求項37〜39のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項41】
前記固液分離の方法が膜分離法である請求項40記載のイオンの処理方法。
【請求項42】
前記晶析薬剤が多価金属の水酸化物である請求項40又は41記載のイオンの処理方法。
【請求項43】
前記多価金属の水酸化物が水酸化カルシウムである請求項40〜42のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項44】
晶析槽で固液分離したアルカリを再びカラムに送液して脱着に再利用する請求項40〜43のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項45】
カラムにpH調整液を送液して、カラムに充填された多孔性成形体のpHを調整する請求項32〜44のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項46】
pH調整液を、カラムとpH調整槽の間で繰り返し循環して、pH調整する請求項45記載のイオンの処理方法。
【請求項47】
pH調整液が酸性水溶液である請求項45又は46に記載のイオンの処理方法。
【請求項48】
前記酸性水溶液が硫酸水溶液である請求項47に記載のイオンの処理方法。
【請求項49】
吸着工程とは逆向きの通水方向に洗浄水を送液する請求項32〜48のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項50】
カラムから出てくる処理水のpHを調整する請求項32〜49のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項51】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体と、気体とを接触させることを含む気体分離方法。
【請求項52】
前記気体が、エチレンガス、硫化水素、アンモニア及び/又はメチルメルカプタンである請求項51記載の分離方法。
【請求項53】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体からなる多孔性吸着体。
【請求項1】
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる、外表面に開口する連通孔を有する多孔性成形体であって、
連通孔を形成するフィブリルの内部に空隙を有し、
かつ、該空隙の少なくとも一部はフィブリルの表面で開孔しており、
該フィブリルの外表面及び内部の空隙表面に無機イオン吸着体が担持されている上記多孔性成形体。
【請求項2】
前記連通孔が成形体表面付近に最大孔径層を有する請求項1記載の多孔性成形体。
【請求項3】
平均粒径が100〜2500μmで、実質的に球状である請求項1〜2のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項4】
前記有機高分子樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選ばれる一種以上を含んでなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項5】
前記無機イオン吸着体が、下記式(I)及び/又は下記式(II)で表される化合物を含有する請求項1〜4いずれか一項に記載の多孔性成形体。
MOn・mH2O (I)
M・Fe2O4・mH2O+xFe3O4・nH2O (II)
(式中、nは1〜4、mは0.5〜6、xは0〜3であり、Mは、Ti、Zr、Sn、S
c、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、
Yb、Lu、Al、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属である。また、式(II)において+は混合物であることを表す。)
【請求項6】
前記無機イオン吸着体が、チタン、ジルコニウム、スズの水和酸化物;チタン、ジルコニウム、スズの含水亜鉄酸塩;含水酸化セリウム、含水酸化ランタン及び活性アルミナからなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項7】
前記無機イオン吸着体が、硫酸アルミニウム添着活性アルミナ、及び硫酸アルミニウム添着活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項8】
前記無機イオン吸着体の粒子径が0.01μm〜100μmである請求項1〜7のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項9】
前記無機イオン吸着体の担持量が30〜95%である請求項1〜8のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項10】
前記フィブリルが、有機高分子樹脂、及び無機イオン吸着体、及び水溶性高分子を含んでなる請求項1〜9のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項11】
前記水溶性高分子が合成高分子である請求項10記載の多孔性成形体。
【請求項12】
前記水溶性高分子がポリビニルピロリドンである請求項10又は11に記載の多孔性成形体。
【請求項13】
前記水溶性高分子の含有量が0.001〜10%である請求項10〜12のいずれか一項に記載の多孔性成形体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体を充填したカラム。
【請求項15】
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含んでなる多孔性成形体の製造方法において、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、無機イオン吸着体、水溶性高分子を混合した後、成形し、貧溶媒中で凝固させることを含む上記方法。
【請求項16】
前記有機高分子樹脂の良溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、及びジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選ばれる1種以上である請求項15記載の方法。
【請求項17】
貧溶媒が、水、又は、有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物である請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物の混合比が0〜40%である請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
成型の方法が、回転する容器の側面に設けたノズルから、有機高分子樹脂、該有機高分子樹脂の良溶媒、無機イオン吸着体、水溶性高分子を混合したスラリーを飛散させて液滴を形成させることを含む請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
液体をカラムに通して液体中のイオンを吸着するイオン吸着装置において、該カラム中に請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体が充填されている上記イオン吸着装置。
【請求項21】
pH調整装置を請求項20記載のカラムの前段に設置したことを特徴とするイオン吸着装置。
【請求項22】
固液分離装置を、請求項20又は21に記載のイオン吸着装置の前段に設置したことを特徴とするイオン吸着装置。
【請求項23】
前記固液分離装置が膜分離装置である、請求項22記載のイオン吸着装置。
【請求項24】
前記カラムに脱着液を送液する送水手段を具備した請求項20〜23のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項25】
晶析槽と、晶析薬剤を添加する添加手段、撹拌手段を具備した晶析装置と、晶析槽で生成した沈殿物を固液分離する固液分離装置を設置した請求項20〜24のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項26】
前記固液分離装置が膜分離装置である請求項25記載のイオン吸着装置。
【請求項27】
晶析反応後の液を固液分離したアルカリを再びカラムに送液する送液手段を具備した請求項25又は26に記載のイオン吸着装置。
【請求項28】
前記カラムにpH調整液を送液する送液手段を具備した請求項20〜27のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項29】
前記カラムに充填された多孔性成形体のpHを調整することができる請求項28記載のイオン吸着装置であって、pH調整槽、pHコントローラ及び該pHコントローラと連動する薬液注入ポンプ、及びpH調整液送液手段、及びpH調整槽の水をカラムへ通水するラインを具備しており、pH調整液を、カラムとpH調整槽の間で繰り返し循環して、pHを調整する上記イオン吸着装置。
【請求項30】
洗浄水をカラムに送液する送液手段を具備している請求項20〜29のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項31】
カラムから出てくる処理水のpHを調整するpH調整手段を具備する請求項20〜30のいずれか一項に記載のイオン吸着装置。
【請求項32】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体と液体とを接触させることを含むイオンの処理方法。
【請求項33】
イオンがP、B、F及び/又はAsである請求項32記載のイオンの処理方法。
【請求項34】
溶液のpHを調整して、ついでイオンの吸着処理を行う、請求項32又は33に記載のイオンの処理方法。
【請求項35】
溶液を固液分離処理し、ついでイオンの吸着処理を行う、請求項32〜34のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項36】
前記固液分離処理の手段が膜分離方法である請求項35記載のイオンの処理方法。
【請求項37】
溶液と接触させて水中のイオンを吸着した請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体を、脱着液と接触させて該成形体から吸着イオンを脱離させる請求項32〜36のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項38】
前記脱着液がアルカリ性である請求項37記載のイオンの処理方法。
【請求項39】
前記脱着液が水酸化ナトリウムである請求項38記載のイオンの処理方法。
【請求項40】
脱着操作において、成形体に吸着したイオンを溶離したアルカリ水溶液に、晶析薬剤を添加して、該イオンを析出させ、次いで該析出物を固液分離する請求項37〜39のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項41】
前記固液分離の方法が膜分離法である請求項40記載のイオンの処理方法。
【請求項42】
前記晶析薬剤が多価金属の水酸化物である請求項40又は41記載のイオンの処理方法。
【請求項43】
前記多価金属の水酸化物が水酸化カルシウムである請求項40〜42のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項44】
晶析槽で固液分離したアルカリを再びカラムに送液して脱着に再利用する請求項40〜43のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項45】
カラムにpH調整液を送液して、カラムに充填された多孔性成形体のpHを調整する請求項32〜44のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項46】
pH調整液を、カラムとpH調整槽の間で繰り返し循環して、pH調整する請求項45記載のイオンの処理方法。
【請求項47】
pH調整液が酸性水溶液である請求項45又は46に記載のイオンの処理方法。
【請求項48】
前記酸性水溶液が硫酸水溶液である請求項47に記載のイオンの処理方法。
【請求項49】
吸着工程とは逆向きの通水方向に洗浄水を送液する請求項32〜48のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項50】
カラムから出てくる処理水のpHを調整する請求項32〜49のいずれか一項に記載のイオンの処理方法。
【請求項51】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体と、気体とを接触させることを含む気体分離方法。
【請求項52】
前記気体が、エチレンガス、硫化水素、アンモニア及び/又はメチルメルカプタンである請求項51記載の分離方法。
【請求項53】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の多孔性成形体からなる多孔性吸着体。
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【国際公開番号】WO2005/056175
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516232(P2005−516232)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018659
【国際出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/018659
【国際出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】
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