説明

多孔性材料における細胞の増殖状態の評価方法およびそのための装置

【課題】培養によって、多孔性材料内に細胞がどの程度増殖しているかを非破壊的に評価し得る方法およびそのための装置を提供する事。
【解決手段】多孔性材料A内に超音波を伝播させ、その超音波の伝播特性と、該材料における細胞の増殖状態とを対応させることによって該増殖状態を判定する。また、当該装置は、当該方法を実施するためのものであって、送信探触子1と、受信探触子2と、演算部3とを少なくとも有する。培養によって細胞を含んだ多孔性材料である培養骨Aの外面に、両探触子1、2を設置し、該培養骨A中を伝播する超音波の伝播特性を演算部3に含まれる測定部31が測定し、得られた伝播特性に基いて、演算部3に含まれる判定部32が、該培養骨A内に細胞がどの程度増殖しているかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養によって多孔性材料に細胞がどの程度増殖しているかを評価する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、骨欠損に対する修復には、骨移植が行われている。骨移植に用いられる材料は、自家骨、同種骨のほか、様々な材料によって作製される人工骨がある。
自家骨は、手術箇所以外に侵襲する必要があり、採取量にも限界があり、同種骨ではドナー確保の問題、免疫反応による拒絶などの短所がある。人工骨は、そのような問題はなく、主として特殊樹脂、金属、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウムが原料となるが、生体親和性が低いものが多く、組織と直接結合することなく異物として残存するという問題点があった。
一方、β-リン酸カルシウムは、他の原料に比べ生体親和性が高く、自己組織に置換するが、これには年月を要するという問題点がある。
【0003】
上記のような骨移植による修復方法に対し、これからの医療として再生医学が注目されている。再生医学の成功の鍵となるのが幹細胞である。幹細胞とは、自己複製機能と、分化した細胞を作る能力とを併せ持った細胞であり、種々の臓器に幹細胞が存在することが知られている。
【0004】
実際に、白血病患者や再生不良性貧血患者にほどこされる骨髄移植では、ドナー由来の造血幹細胞が患者に移植され、それによって、患者は、その後一生にわたって該造血幹細胞から血液細胞の供給を受けることができる。
胚性幹細胞やクローン動物を用いた再生医療が近年注目を集めているが、骨髄移植は、体性幹細胞を用いた医療として、すでに20年以上にわたる実績を積んでいる。
【0005】
一方、骨髄由来間葉系幹細胞(Bone Marrow Mesenchymal Stem Cells)を培養し利用する方法として、多孔性材料を用い、その多数の孔内に培養によって幹細胞を増殖させ、培養が完了した該多孔性材料をそのまま生体へ移植するという方法が知られている(例えば、特許文献1)。
以下、培養によって細胞を含んだ状態とされた多孔性材料を、その増殖状態の完全、不完全に関係なく、「培養骨」とも呼んで説明する。
培養骨を、骨欠損部位等に移植することで欠損部位が再生する。この方法は、次世代の治療法として期待されている。
ここで、培養骨に細胞がどの程度増殖しているか(例えば、どの程度の細胞数に達しているか)を評価する事は、移植の際の指標として最も重要である。
従来の細胞の増殖状態の評価方法としては、次の方法が挙げられる。
(a)培養人工骨にトリプシン処理を施した後、直接的に細胞数の計数を行なう方法
(b)細胞数計測試薬(例えば、MTT、CCK)によって評価する方法(例えば、特許文献2)
しかしながら、上記のような従来の細胞数の評価方法は、いずれも破壊的計測であるため、計測した後に、対象の幹細胞を体内へ移植することは困難であり、実際に臨床の場においては応用できないものであった。
【特許文献1】特開2003−320009号公報
【特許文献2】特開2005−46058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記問題を解決し、培養によって、多孔性材料に細胞がどの程度増殖しているかを非破壊的に評価し得る方法およびそのための装置を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)多孔性材料を用いた細胞培養において、該多孔性材料における細胞の増殖状態を判定するための方法であって、
多孔性材料に超音波を伝播させ、その超音波の伝播特性と、該多孔性材料における細胞の増殖状態とを対応させることによって、該増殖状態を判定することを特徴とする、多孔性材料における細胞の増殖状態の判定方法。
(2)前記細胞が、生体より分離した細胞である、上記(1)記載の判定方法。
(3)前記生体から分離した細胞が、骨髄由来細胞である、上記(2)記載の判定方法。
(4)前記骨髄由来細胞が、間葉系幹細胞である、上記(3)記載の判定方法。
(5)前記多孔性材料が、生体適合性のある骨補填材である、上記(1)記載の判定方法。
(6)前記骨補填材が、β-リン酸三カルシウムである、上記(5)記載の判定方法。
(7)超音波送信探触子と超音波受信探触子とで多孔性材料を挟み込んで、該多孔性材料に超音波を伝播させるものである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の判定方法。
(8)前記超音波の伝播特性が、超音波の伝播速度、受信した超音波の振幅、および、受信した超音波のピーク周波数から選択される1以上の特性である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の判定方法。
(9)多孔性材料に超音波を伝播させるための超音波送信探触子および超音波受信探触子と、
多孔性材料を伝播する超音波の伝播特性を測定し、該伝播特性に基いて該多孔性材料に細胞がどの程度増殖しているかを判定する演算部とを、
有することを特徴とする、多孔性材料における細胞の増殖状態の判定装置。
(10)超音波送信探触子と超音波受信探触子とで多孔性材料を挟み込むことができるように、これら両探触子が、ノギスの2つのジョーの先端部分にそれぞれに取り付けられており、両探触子間の距離を、該ノギスのジョーを移動させることによって自在に変位させることができ、かつ、両探触子間の距離を該ノギスによって直読し得る構成となっている、上記(9)記載の判定装置。
(11)前記ノギスがデジタルノギスであって、
該ノギスの表示部から出力される両探触子間の距離データが、演算部に入力され、伝播特性の測定または増殖の判定に利用され得るように、該ノギスの表示部と演算部とが接続されている、上記(10)記載の判定装置。
(12)超音波送信探触子および超音波受信探触子のいずれか一方が、圧力センサーを介してノギスのジョーの先端部分に取り付けられており、ノギスによる挟み込み力が該圧力センサーの出力として表示される構成となっている、上記(10)または(11)記載の判定装置。
(13)超音波送信探触子および超音波受信探触子のいずれか一方が、ノギスのジョーの開閉方向に摺動可能に保持されており、
その探触子の背面部には、支点を有する天秤状のレバーの一端部がリンク結合されており、該レバーの支点はノギスに支持され、該レバーの他端部はノギスに取り付けられた圧力センサーに接続され、これによって、前記探触子に挟み込み力が加わると、レバーを介して圧力センサーに加圧力が伝わる構成となっている、
、上記(12)記載の判定装置。
(14)前記超音波の伝播特性が、超音波の伝播速度、受信した超音波の振幅、および、受信した超音波のピーク周波数から選択される1以上の特性である、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の判定装置。
【発明の効果】
【0008】
細胞の約半分以上は水であるために、水中を伝播する超音波の速度と、細胞中を伝播する超音波の速度との差異は、存在はするが顕著ではない。
しかしながら、そのように超音波伝搬特性(以下、単に「伝播特性」ともいう)が近似するのは、水だけや、細胞の塊だけといった、単一素材からなる対象物に超音波を伝播させて比較した場合である。
これに対して、本発明者等は、たとえ水と細胞の伝搬特性が互いに近似していても、多孔性材料のように、多数の孔穴が材料中に高密度に分散した多孔性構造の場合には、その孔穴が水で充填された場合と、培養細胞で充填された場合とで、全体としての伝播特性に顕著な差異が生じることを見出した。
【0009】
本発明でいう「多孔性材料における細胞の増殖」とは、多孔性材料の内部および表面における細胞の増殖であって、主として、多孔性材料の内部での増殖、多孔性材料の孔の開口付記での細胞の増殖(細胞が外界に露出している状態)を意味するが、多孔性材料の外面上に細胞が増殖した状態をも含んでいる。
一般的に弾性率の高い媒体中を透過する時に、音速は早くなる傾向を持つ。多孔性材料に細胞が充填された場合は、巨視的に見た場合、該材料に培養液だけが充填された場合よりも弾性率が高いと見なせるので、音速が早くなると推察される。
また、超音波の振幅に関しては、培養骨のような内部に空乏層を含むような均質でない媒体を透過する超音波は、散乱及び減衰現象によって、受信される波形の振幅が小さくなる傾向を持つ。ここで、多孔性材料に細胞が充填された場合、該材料に培養液だけが充填された場合よりも均質度合いが平衡状態に近づくと考えられ、振幅値の減衰量が小さくなると推察される。
また、媒質中を伝播する超音波のうち、高周波成分は、低周波成分に比較して減衰しやすい。その傾向は、不均質な度合いであればより顕著に現れる。従って、材料に培養液のみが充填されている場合のピーク周波数は低いが、骨髄幹細胞が充填されているような平衡状態ではピーク周波数は高くなると推察される。
従って、細胞培養のプロセスを経て内部に細胞が増殖している多孔性材料に超音波を伝播させることで、その材料にどの程度の細胞が増殖しているのかを非破壊的に判定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の判定方法を説明しながら、本発明の判定装置についても説明する。該説明においては、超音波伝播特性や超音波送信探触子などの「超音波」を冠した文言については、適宜、「超音波」を省略する。
図1は、当該判定方法の概要を説明するための模式図であって、同図は当該装置の構成の概要をも示している。同図に示すように、当該判定方法は、培養骨Aに超音波を伝播させてその伝播特性を測定し、該伝播特性と細胞の増殖状態とを対応させることによって、その増殖状態を判定するものである。同図に示す培養骨Aのうち、A1が未だ細胞によって充填されていない孔穴であり、ハッチングを施したA2が細胞によって充填された孔穴である。
また、当該装置は、送信探触子1と、受信探触子2と、演算部3とを少なくとも有する構成とされている。両探触子1、2を培養骨Aの外面に設置し、該培養骨A中を伝播する超音波の伝播特性を演算部3に含まれる測定部31が測定し、得られた伝播特性に基いて、演算部3に含まれる判定部32が、該培養骨A内に細胞がどの程度増殖しているかを判定する。この装置構成によって、当該方法が実施される。
【0011】
多孔性材料は、上記背景技術の説明で述べたとおり、生体適合性を持ち、骨修復のために生体に移植し得るように形成された公知の多孔性骨補填材である。
多孔性材料を構成する材料に限定はないが、一般に、アパタイトやβ−リン酸三カルシウム(β−TCP)などのリン酸カルシウム系セラミックス、コラーゲン、ポリ乳酸等を使用することができる。また、リン酸カルシウム系セラミックスとコラーゲンを組合せたものや、リン酸カルシウム系セラミックスとポリ乳酸を組合せたものであってもよい。β−リン酸三カルシウム、コラーゲン、ポリ乳酸は、生分解性で、生体に吸収される特徴を有し、アパタイトは、その強度が強いという特徴を有する。培養骨を移植する部位等に応じて、適切な種類の多孔性材料を適宜選んで使用することができる。
多孔性材料の形状や寸法に限定はなく、立方体、円柱、顆粒などがあるが、培養骨を移植する部位等に応じて、適切な形状の多孔性材料を適宜選んで使用することができる。多孔性材料は、適正な培養温度の培養液中に浸漬され、細胞の増殖状態が十分となった時点で、移植に用いられる。
【0012】
多孔性材料の材料や孔穴の分散の度合いが異なっていても、細胞が増殖していないサンプルと増殖しているサンプルとが事前にあれば、それらの超音波伝播特性をモデルとし、それに基いて増殖状態を判定することが可能になる。
サンプルに関する伝播特性の取得では、例えば、先にそのサンプルの伝播特性を測定し、次いでそのサンプルの増殖状態を、従来法に基いて破壊的に検査し、伝播特性と細胞の増殖状態とを対応付ければよい。
【0013】
培養すべき細胞は、特に限定はされないが、生体より分離した細胞が好ましく、骨に移植をするという医療方法を鑑みれば、幹細胞、特に骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞、臍帯血由来幹細胞、抹消血由来幹細胞などが好ましく、これらの他にも、前骨芽細胞、成熟骨芽細胞、間質細胞などが好ましいものとして挙げられる。
【0014】
送信探触子と受信探触子とを培養骨の表面にどのように配置するかは限定されないが、図1に示すように、両探触子1、2を対向させ、それらによって培養骨Aを挟み込んで超音波を伝播させる態様とすれば、装置構成や判定のための演算が単純であり、判定精度も高く好ましい結果が得られる。また、培養骨の一方の面に両方の探触子を配置し、該培養骨の反対側の面で反射させて測定する態様、配置面に沿って伝播させて測定する態様などであってもよい。
【0015】
伝播させるべき超音波は、波数が少ないパルス波が理想的である。
印加する電圧は、計測対象物(培養骨)が許容できる範囲内において高い程S/N比がよくなると予想される。周波数については、計測対象物の計測方向の厚さが小さい場合はそれを分離できる範囲内で高い周波数が望ましい。しかし、高い周波数では、媒質中での減衰量が大きくなるので、検出可能な範囲を見極める事が重要である。一般的に、人体骨および擬似骨を透過させる場合には、1〜2MHz帯が好ましい範囲である。
【0016】
送信探触子、受信探触子それ自体は、上記の超音波を送信し受信し得る公知の変換素子であればよく、公知の探触子、それに付帯する駆動回路を用いてよい。
本発明のために好ましく利用し得る探触子としては、近年、超音波計測の分野で注目されている、圧電対と高分子を複合化した複合圧電体(コンポジット)を利用した探触子が望ましい。この素子の特徴は、音響インピーダンスが低い事、電気的特性を変更しやすい事、圧電組成・樹脂の種類が豊富である事が挙げられる。
【0017】
送信探触子、受信探触子を培養人工骨の表面に設置する際の設置の態様は、超音波を伝播させ得るものであれば特に限定はされないが、細胞にダメージを与えないよう、培養液を十分に含有した状態のままで、培養骨の表面に適当な押付け圧力をもって、各探触子を培養骨の表面に接触させるのが好ましい設置の態様である。この場合、培養骨の孔穴は、培養液および/または細胞によって充填された状態となっている。また、この場合、培養骨の気泡はできる限り、除去しておく事が望ましい。気泡は超音波の伝播を阻害するだけでなく、培養骨内に細胞を導入する際にも阻害する要因となる。
培養液としては、α-Modified Minimum Essential Medium 、Modified Minimum Essential Medium 、Dulbecco's Modified Eagle's Medium などが挙げられるが、これらの超音波伝播特性の差異は微小であり無視してよい。
【0018】
判定に用いる超音波伝播特性としては、伝播速度(培養骨の大きさが均一ならば伝播時間であってもよい)、培養骨を通過し受信された超音波の振幅、受信された超音波のピーク周波数、波形の歪み度合いなどが挙げられる。
判定に用いる伝播特性は、必ずしも一種類だけを用いる必要はなく、前記の特性のなかから複数のものを選び出してそれぞれについての判定結果から、総合判定を行なってもよい。
【0019】
伝播速度は、送信探触子と受信探触子との間の距離(伝播距離)と、送信から受信までの時間とによって算出を行なう。
本発明では、培養骨における伝播速度を、常に同じ条件下で測定し得るように、次のような測定基準を設けることを提案する。
先ず、培養液中において、送信探触子と受信探触子とを互いに接触させて伝播距離を0mmとしたときの伝播波形を観察する(図2(a))。図2(a)のグラフ図に示すように、送信命令信号を出した時刻を0として、波形の立ち下がりまでに要した時間So(約0.000012秒)を、探触子間距離0mmとして定義する。即ち、これは、探触子および駆動装置系に存在するタイムラグを調べる操作である。
次に、培養液中において、伝播距離を10mmとした状態で超音波を伝播させ、そのときの波形を観察する(図2(a))。図2(b)のグラフ図に示すように、送信命令信号を出した時刻を0として、波形の立ち下りまでに要した時間をSx(図の例では約0.00018秒)とする。
最後に、図2(b)のグラフ図に示すように、前記2つの時間差(Sx−So)を伝播時間Tpとして定義する。図2の例では、伝播時間Tp=0.000018−0.000012=0.000006〔秒〕である。
伝播時間には、温度補正を加えてもよい。
上記のように求められた伝播時間と、伝播距離(探触子間距離)とによって、対象物体(培養液)での音速V1が求められる。図2の例では、10×10÷0.000006≒1666〔m/s〕である。
【0020】
超音波が対象物中を伝播した後の該超音波の振幅は一定でないために、例えば、振幅を受信波形の最大振幅値と最小振幅値との差(最大振幅)であると定義しておくことが好ましい。
例えば、培養液中において、探触子間距離を10mmとした状態での伝播波形を観察した場合(図3(a))、振幅は約9.20(V)である。また、培養液中において、厚さ10mmの培養骨を両探触子で挟み込んで超音波を伝播させたときの伝播波形を観察した場合(図3(b))、振幅は約0.01(V)である。
【0021】
受信された超音波の時間区間のデータに対し、周波数変換を行って得られるエネルギー分布図(横軸が周波数、縦軸がスペクトラム)において、最も高いスペクトラムを示す周波数の値を、ピーク周波数とする。この場合、直流成分は無視する。
【0022】
送信探触子と受信探触子とによって培養骨を挟み込む場合、どの培養骨の試料に対しても挟み込み力を常に一定とすることが好ましい。これは、挟み込み力の大小によって、探触子や培養骨に生じる機械的特性(材料力学的な性質など)の差や、探触子と培養骨との接触状態の差によって、超音波の伝播状態も変化するからである。
よって、本発明では、図4に示すように、圧力センサー4を介して挟み込み力fを加え、該圧力センサー4の出力を参照しながら、その挟み込み力fを所定の範囲内に制御することを提案する。これによって、どの試料に対しても常に同様の挟み込み力fを作用させることができ、判定精度をより高めることが可能となる。
【0023】
図5(a)の態様では、送信探触子1と受信探触子2とが、互いに対向した状態でそれぞれスライドユニットの構成部材U1、U2に搭載されている。これらの部材U1、U2は、ベースU3上に配置され、少なくとも一方が自在に平行移動可能な構成となっており、測定に便利な超音波プローブヘッドが構成されている。これによって、両探触子を平行に保ちながら、両探触子間の距離Lを自在にかつ容易に変えることができ、培養骨への着脱もワンタッチとなる。図5(a)の例では、部材U1がベースU3に固定され、U2が可動となっている。
このようなプローブヘッドに、さらに、図4に示した圧力センサー4を介在させてもよい。
【0024】
図5(b)の態様は、図5(a)の当該装置のプローブヘッドの構成をさらに便利にしたものである。演算部の図示は省略している。同図に示すプローブヘッドでは、送信探触子1と受信探触子2とが互いに対向するように、ノギスMのジョーM1、M2のそれぞれの先端部分に取り付けられている。該ノギスMの可変側のジョーM2をスライド変位させることによって、両探触子1、2間の距離を容易に変えることができ、しかも、そのときの両探触子1、2間の距離Lを、該ノギスによって直読することが可能となっている。
該ノギスは、バーニア目盛りを利用した従来の方式のものであってもよいが、エンコーダーを内蔵したデジタルノギスは、表示部(エンコーダを数値に変換し表示する回路部)にジョーの位置が数値として表示され、便利である。
また、該表示部から出力される距離データが演算部に入力されるよう両者を接続すれば、該ノギスで培養骨を挟み込むだけで、伝播特性(特に伝播速度)や増殖の判定における演算を自動的に最後まで行なわせることが可能となる。
【0025】
また、プローブヘッドの構成をノギス型とする場合、送信探触子および受信探触子のいずれか一方を、図4、図6に示すように、圧力センサーを介してジョーの先端部分に取り付けておけば、該圧力センサーの出力を参照して、ノギスによる挟み込み力を適当な範囲に加減することができる。
図6は、圧力センサーをジョーに取り付けるための好ましい構成の一例を示している。同図の例では、送信探触子1(受信探触子2でもよい)が、固定側(可動側でもよい)のジョーM1に、該ジョーの開閉方向に摺動可能に保持されている(送信探触子1の摺動方向は太い両矢印で示している)。
送信探触子1の背面部には、支点P2で支持された天秤状(テコ状)のレバーQの一端部P1がリンク結合されており、該支点P2はノギスMに固定され、該レバーQの他端部P3はノギスMに取り付けられた圧力センサー4に接続(リンク結合でも、単純な接触などでもよい)されている。これによって、図5に示すように、送信探触子1に挟み込み力(培養骨からの反力)f1が加わると、レバーQを介して圧力センサー4に加圧力f2が伝わる構成となっている。
【0026】
演算部は、送信探触子と受信探触子以外の制御回路部分であって、両探触子を駆動し、超音波特性を計測・演算し、判定結果を演算し、該結果を表示したり出力したりするよう構成された部分である。演算部は、1つの装置として構成される必要はなく、複数の独立した装置を接続したものであってよい。
超音波特性を計測・演算し、判定結果を演算する部分にはコンピュータを用いてもよいが、アナログ信号をやり取りし、判定結果もアナログ信号で示す構成であってもよい。
【0027】
増殖状態は、培養骨中の細胞数、細胞による充填度などの形式で表示すればよい。
演算部における細胞の増殖状態の判定方法は、得られた伝播特性をそれに対応した増殖状態へと変換し得るものであればよい。例えば、予めの実験によって、伝播特性と増殖状態とを対応させたデータベースを作成しておき、実際の判定時に計測された伝播特性に対応する増殖状態を、該データベース中から探し出して、詳細な判定結果としてもよいし、伝播特性の測定結果を、増殖状態の度合いを示す表示へと電気的に直接変換して示してもよい。また、伝播特性の測定結果に適当なしきい値を設けて、利用可能な増殖状態であることを示すランプを1つ点灯させるだけの簡単な表示でもよい。
【実施例】
【0028】
本実施例では、超音波の伝播特性として振幅を用い、判定を行った。
培養液として、4種類の培養濃度(1×106 、1.5×106 、2×106 、1×107 )を用いてそれぞれに細胞を培養した培養骨のサンプル(培養サンプル;培養濃度によって4種類存在する)と、細胞培養を行っていない多孔性材料のサンプル(無培養サンプル)と合わせて5種類のサンプルに対して、伝播特性の測定と判定を行った。
無培養サンプルの個体数は1個、培養サンプルは、各種類毎に3個を作成した。
【0029】
〔多孔性材料と細胞の導入法〕
多孔性材料として、一辺10mmの立方体のβ-TCP(ベータ‐リン酸三カルシウム;オリンパスバイオマテリアル株式会社製、オスフェリン(登録商標))を用いた。
該材料の分子式は、Ca3(PO4)2 、分子量は310.18、気孔率は約75%,気孔径は100〜400μmである。
細胞導入法としては、SOAK法(即ち、ラットの骨髄幹細胞をある一定の濃度に調整した培養液中に、多孔性材料を浸漬する方法)を用い、その浸漬時間を24時間として、ラット骨髄幹細胞を該多孔性材料内に導入した。
超音波計測において誤差の要因となる、多孔性材料内に含まれる気泡を取り除く為に、細胞注入前に培養液に浸した該多孔性材料に対し、2分間の減圧による脱気処理を施した。
【0030】
〔判定装置〕
図6に示す判定装置を実際に製作し、当該判定方法の実施に用いた。
デジタルノギスをベースとして改造を施し、送信探触子および受信探触子(NSI、中心周波数1MHz)をジョーの先端部分に同一軸上に対向して配置した。
評価対象物である培養骨は、探触子間に配置され、探触子をスライドさせる事により固定される。この際、培養骨に加えられる挟み込み力(=探触子に作用する反力)は、探触子に連結された圧電素子4によって測定され、一定圧力での測定を可能とした。
本実施例では、挟み込み力を3.4〜3.6Nとした。
【0031】
送信探触子および受信探触子は、演算部によって制御される超音波送受信器(NSI、NSI−2000)に接続され、超音波の送信と受信とを行っている。印加電圧は200Vである。
超音波送受信器より出力される波形信号(伝播し受信した超音波の波形)は、オシロスコープに入力され表示される。サンプリング周波数は200MHzで行った。
【0032】
計測は一つの培養骨に対して、X軸、Y軸、Z軸方向の3方向(即ち、立方体の3組の対向面)について測定を行い、それぞれの振幅値の合計を用いた。
実験は各サンプルとも、3回の計測の平均値を用いた。培養サンプルの振幅値は、無培養サンプルの振幅値を用いて補正を行った。
振幅値の測定の後に、エオジノフィルカウンター盤を用いて培養サンプルの細胞教を実測し、本発明による判定精度を評価した。
【0033】
比較例
従来法として、エオジノフィルカウンター盤を用いた。
培養骨をPBS(−)で洗浄後、トリプシンにて細胞を剥離し、材料を破砕し、上清を対象として、エオジノフィルカウンター盤で細胞数を計測した。
【0034】
(評価)
本実施例によって得られた培養骨に関する振幅結果と、その細胞数をエオジノフィルカウンター盤で計測した結果との比較を図7に示す。
同図のグラフにおいて、横軸の数値は培養濃度を示し、数値の後ろのアルファベットは各サンプルの3個の個体を示している。縦軸のうち左側の軸は本発明による振幅値を示し、右側の軸はエオジノフィルカウンター盤での実測の細胞数を示している。グラフは、本実施例によって測定された振幅値を破線で示し、エオジノフィルカウンター盤での計測による細胞数を実線で示している。
同図のグラフから明らかなとおり、非常に高い相関性が得られている。
また、図8に、両者の相関性について回帰分析を行った結果を示す。相関係数Rは、0.959と極めて高い値を示した。分散分析を行った所、有意水準1%で有意な差(P=1.07×10−7)を示した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によって、培養骨における細胞の培養状態を非破壊にて判定できるようになった。
また、当該装置は滅菌処理可能であるため、判定した培養骨そのものを生体に移植することが可能である。また、培養を行いながらリアルタイムで測定し判定を行えることにより、細胞の導入数が飽和した状態で移植が可能である。
本発明は、再生医学において有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による判定方法の概要を説明するための模式図である。同図は、当該装置の構成の概要をも示している。
【図2】本発明による判定方法において、培養骨における伝播速度を規定するための伝播波形を示す図である。
【図3】本発明による判定方法において、培養骨における超音波伝播の振幅を規定するための伝播波形を示す図である。
【図4】本発明による判定方法において、培養骨に圧力センサーを介して挟み込み力fを加えている状態を示した図である。
【図5】本発明による判定装置のプローブヘッド部分の好ましい態様を例示した図である。
【図6】本発明による判定装置のプローブヘッド部分の好ましい態様の具体例を示した図である。
【図7】本実施例によって得られた培養骨に関する振幅結果と、その細胞数をエオジノフィルカウンター盤で計測した結果との比較をを示すグラフ図である。
【図8】本実施例による振幅結果と、エオジノフィルカウンター盤での計測による細胞数の確認結果との相関性について、回帰分析を行った結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0037】
A 培養骨(細胞を含んだ多孔性材料)
A1 細胞が充填されていない孔穴
A2 細胞が充填された孔穴
1 送信探触子
2 受信探触子
3 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性材料を用いた細胞培養において、該多孔性材料における細胞の増殖状態を判定するための方法であって、
多孔性材料に超音波を伝播させ、その超音波の伝播特性と、該多孔性材料における細胞の増殖状態とを対応させることによって、該増殖状態を判定することを特徴とする、多孔性材料における細胞の増殖状態の判定方法。
【請求項2】
前記細胞が、生体より分離した細胞である、請求項1記載の判定方法。
【請求項3】
前記生体から分離した細胞が、骨髄由来細胞である、請求項2記載の判定方法。
【請求項4】
前記骨髄由来細胞が、間葉系幹細胞である、請求項3記載の判定方法。
【請求項5】
前記多孔性材料が、生体適合性のある骨補填材である、請求項1記載の判定方法。
【請求項6】
前記骨補填材が、β-リン酸三カルシウムである、請求項5記載の判定方法。
【請求項7】
超音波送信探触子と超音波受信探触子とで多孔性材料を挟み込んで、該多孔性材料に超音波を伝播させるものである、請求項1〜6のいずれかに記載の判定方法。
【請求項8】
前記超音波の伝播特性が、超音波の伝播速度、受信した超音波の振幅、および、受信した超音波のピーク周波数から選択される1以上の特性である、請求項1〜7のいずれかに記載の判定方法。
【請求項9】
多孔性材料に超音波を伝播させるための超音波送信探触子および超音波受信探触子と、
多孔性材料を伝播する超音波の伝播特性を測定し、該伝播特性に基いて該多孔性材料に細胞がどの程度増殖しているかを判定する演算部とを、
有することを特徴とする、多孔性材料における細胞の増殖状態の判定装置。
【請求項10】
超音波送信探触子と超音波受信探触子とで多孔性材料を挟み込むことができるように、これら両探触子が、ノギスの2つのジョーの先端部分にそれぞれに取り付けられており、両探触子間の距離を、該ノギスのジョーを移動させることによって自在に変位させることができ、かつ、両探触子間の距離を該ノギスによって直読し得る構成となっている、請求項9記載の判定装置。
【請求項11】
前記ノギスがデジタルノギスであって、
該ノギスの表示部から出力される両探触子間の距離データが、演算部に入力され、伝播特性の測定または増殖の判定に利用され得るように、該ノギスの表示部と演算部とが接続されている、請求項10記載の判定装置。
【請求項12】
超音波送信探触子および超音波受信探触子のいずれか一方が、圧力センサーを介してノギスのジョーの先端部分に取り付けられており、ノギスによる挟み込み力が該圧力センサーの出力として表示される構成となっている、請求項10または11記載の判定装置。
【請求項13】
超音波送信探触子および超音波受信探触子のいずれか一方が、ノギスのジョーの開閉方向に摺動可能に保持されており、
その探触子の背面部には、支点を有する天秤状のレバーの一端部がリンク結合されており、該レバーの支点はノギスに支持され、該レバーの他端部はノギスに取り付けられた圧力センサーに接続され、これによって、前記探触子に挟み込み力が加わると、レバーを介して圧力センサーに加圧力が伝わる構成となっている、
、請求項12に記載の判定装置。
【請求項14】
前記超音波の伝播特性が、超音波の伝播速度、受信した超音波の振幅、および、受信した超音波のピーク周波数から選択される1以上の特性である、請求項9〜13のいずれかに記載の判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−325510(P2007−325510A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157396(P2006−157396)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】