多孔性金属錯体及びその製造方法、ガス吸着方法並びにガス分離方法
【課題】3価の金属イオンを含む多孔性金属錯体であって、水素、メタン、二酸化炭素等のガスに対して十分なガス吸蔵能を有する多孔性金属錯体及びその製造方法、並びに当該多孔性金属錯体を用いたガス貯蔵方法及びガス分離方法を提供すること。
【解決手段】3価の金属イオンと下記式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有することを特徴とする多孔性金属錯体。
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【解決手段】3価の金属イオンと下記式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有することを特徴とする多孔性金属錯体。
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔性金属錯体及びその製造方法、ガス吸着方法並びにガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい多孔質材料として多孔性金属錯体が注目されている(例えば、下記非特許文献1を参照。)。多孔性金属錯体は金属錯体分子が集積することによって細孔構造が形成された構造体であり、集積型金属錯体とも呼ばれている(例えば、下記特許文献1を参照。)。多孔性金属錯体によれば、ゼオライトや活性炭などの多孔質材料と比較して、より均一なミクロ孔を設計、制御できると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−247884号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Angew.Chem.2004,43,2334−2375.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、まず、多孔性金属錯体の金属イオンとしてアルミニウムイオンを用いた多孔性金属錯体について検討した。その結果、このような多孔性金属錯体は、高い比表面積と細孔容積を有するため、優れたガス吸蔵能を有していることが判明した。しかし、水素ガスとの親和性については改善の余地が残されていた。
【0006】
そこで本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、十分なガス吸蔵能を有し、かつ、水素との親和性が改善された多孔性金属錯体及びその製造方法、並びに、当該多孔性金属錯体を用いたガス貯蔵方法及び分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、3価の金属イオンと下記式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有することを特徴とする多孔性金属錯体を提供する。
【化1】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【0008】
本発明の多孔性金属錯体においては、多孔性金属錯体1グラム当たりの細孔容積が0.1cm3以上であり、温度303K、水素圧力10MPaの雰囲気下での水素吸蔵量が0.1重量%以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、3価の金属イオンと、下記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムと、有機溶媒及び水の共溶媒と、を含有する反応液を調製する第1の工程と、上記反応液を100℃以上に加熱し、3価の金属イオンと上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る第2の工程と、を備えることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法を提供する。
【化2】
[式(2)中、nは0〜4の整数を示す。]
【0010】
また、本発明は、上記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムとを、有機溶媒及び水の共溶媒中で攪拌する第3の工程と、第3の工程後の溶液に、3価の金属イオン溶液を滴下しながら加え、沈殿物を生じさせる第4の工程と、第4の工程で生じた沈殿物を濾取する第5の工程と、第5の工程で濾取した沈殿物を有機溶媒及び水の共溶媒に加えて100℃以上に加熱し、上記3価の金属イオンと上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る第6の工程と、を備えることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、3価の金属イオンと、上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を用いて、ガスを貯蔵することを特徴とするガス貯蔵方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、3価の金属イオンと、上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体のガス吸着能の差を利用して、ガスを分離することを特徴とするガス分離方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3価の金属イオンを含む多孔性金属錯体であって、水素、メタン、二酸化炭素等のガスに対して十分なガス吸蔵能を有する多孔性金属錯体及びその製造方法、並びに当該多孔性金属錯体を用いたガス貯蔵方法及びガス分離方法を提供することができる。特に、本発明の多孔性金属錯体は、常温(例えば303K)での水素吸蔵能に優れるものであり、水素吸蔵材料として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】MSINDO計算による[Al(C27H14O7Li)]の結晶構造を示す図である。
【図2】実施例1で得られた多孔性金属錯体のXRDチャート及び[Al(C27H14O7Li)]の結晶構造から予想されるXRDのシミュレーション結果を示す図である。
【図3】実施例1で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである。
【図4】加熱乾燥した実施例1で得られた多孔性金属錯体のXRDである。
【図5】実施例1で得られた多孔性金属錯体の固体7Li−NMRチャートである。
【図6】実施例1で得られた多孔性金属錯体の77Kにおける窒素吸着等温線である。
【図7】実施例1で得られた多孔性金属錯体について測定された、303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図8】実施例1で得られた多孔性金属錯体の195Kにおける二酸化炭素及び窒素の吸着等温線である。
【図9】実施例2で得られた多孔性金属錯体のXRDチャートである。
【図10】実施例2で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである。
【図11】実施例2で得られた多孔性金属錯体の77Kにおける窒素吸着等温線である。
【図12】実施例2で得られた多孔性金属錯体について測定された、303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図13】実施例2で得られた多孔性金属錯体の195Kにおける二酸化炭素及び窒素の吸着等温線である。
【図14】比較例1で得られた多孔性金属錯体の77Kにおける窒素吸着等温線である。
【図15】比較例1で得られた多孔性金属錯体について測定された、303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図16】比較例2で得られた多孔性金属錯体について測定された、303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る多孔性金属錯体は、3価の金属イオンと上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体(以下、「本実施形態にかかる金属錯体」ともいう。)を含み、該金属錯体の複数が集積することによって形成された細孔構造を有する。
【0017】
上記一般式(1)中、nは0〜4の整数を示す。水素吸蔵材料として用いる観点からは、nは0〜2の整数であることが好ましい。一方、水素以外のガス貯蔵材として用いる観点からは、nは2以上の整数であることが好ましい。また、合成のコストおよび簡便性の観点からは、nは0〜1であることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る多孔性金属錯体は、3価の金属イオンと、上記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムと、有機溶媒と水の共溶媒を含有する反応液を調製する工程と、上記反応液を100℃以上に加熱し、3価の金属イオンと上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る工程を経て製造することができる。この製造方法を、便宜的に「第1の製造方法」という。
【0019】
本実施形態に用いられる3価の金属イオンとしては、製造の簡便さから、鉄、テルビウムなどの遷移金属が好ましい。一方、水素吸蔵材料として用いる観点からはアルミニウムなどの典型金属が好ましい。
【0020】
3価の金属イオンの原料としては、市販されている金属塩の多くを適用することができるが、例えば硝酸塩が好適である。反応液中のアルミニウムイオンの濃度は、好ましくは10〜100mmol/Lである。
【0021】
一方、上記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸は、市販品を用いてもよいが、以下のようにして合成することができる。
【0022】
例えば、一般式(2)で表され且つnが0である芳香族トリカルボン酸の合成方法としては以下の方法が挙げられる。
先ず、窒素ガス雰囲気下にて、2,4,6−トリブロモフェノール、4−(メトキシカルボニル)−フェニルボロン酸、炭酸ナトリウム、パラジウムジクロロビストリフェニルホスフィン、水、N,N−ジメチルホルムアミドを混合し、その混合物を50〜100℃で5〜15時間攪拌する。撹拌後、混合物に水を加え、濃塩酸を加えて溶液を酸性とし、晶析させる。これを濾取し、メタノールで洗浄し、カラムクロマトグラフィーで精製し、更にメタノールで再結晶することにより、2,4,6−トリス(4−メトキシカルボニル)フェノールを得る。次いで、2,4,6−トリス(4−メトキシカルボニル)フェノール、水酸化カリウム、水、メタノールを混合し、その混合物を5〜15時間還流する。反応終了後、反応液に濃塩酸を加えて酸性とし、析出した白色沈殿を濾取し、水とメタノールで洗って乾燥させることにより、一般式(2)で表され且つnが0である芳香族トリカルボン酸が得られる。
【0023】
反応液中の一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸の濃度は、好ましくは10〜100mol/Lである。
【0024】
3価の金属イオンは芳香族トリカルボン酸に対して0.75〜4当量加えることが好ましく、より好ましいのは1〜2当量である。
【0025】
反応液中の水酸化リチウムは、一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸に対して1当量以上加えることが望ましい。好ましくは2〜6当量である。
【0026】
また、有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノールなどを用いることができるが、アルミニウムイオンなどの典型金属イオンを用いる場合にはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドを、テルビウムなどの遷移金属イオンを用いる場合はシクロヘキサノールを用いる方が好ましい。
【0027】
また、上記第2の工程における反応温度は、上記の通り100℃以上であることが好ましく、120℃〜150℃であることがより好ましい。反応温度が100℃未満であると、目的の多孔性金属錯体が生成しにくい傾向にある。また、反応温度が150℃を超えると、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の溶媒が分解しやすくなる。
【0028】
上記の第2の工程において、反応液の加熱は空気雰囲気中で行うことができるが、反応容器としてはオートクレーブ等の密閉型反応容器を用いることが好ましい。
【0029】
生成した本実施形態に係る多孔性金属錯体は、反応液から濾取し、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の溶媒で洗浄することができる。
【0030】
また、本実施形態に係る多孔性金属錯体は、上記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と水酸化リチウムを水/有機溶媒中で攪拌して上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸の溶液を調製する工程と、その溶液に金属イオン溶液を滴下しながら加える工程と、それによって生じた沈殿物を濾取する工程と、その沈殿物を水/有機溶媒中で加熱する工程を経て製造することもできる。この製造方法を、便宜的に「第2の製造方法」という。
【0031】
上記第2の製造方法に用いる有機溶媒としては、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノールを用いることができるが、中でもN,N−ジメチルホルムアミドが最も好ましい。
【0032】
本実施形態に係る細孔容積の制御方法は、上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有することを特徴とする多孔性金属錯体において、上記式(1)中のnの値を変化させることによって行う。すなわち、上記式(1)中のnの値を大きくするほど、大きい細孔容積を有する多孔性金属錯体を製造することができる。
【0033】
本実施形態に係る多孔性金属錯体にガスを吸蔵させるためには、細孔内に存在する溶媒分子などを除くため、前処理をすることが良い。通常は錯体が分解しない程度の温度(例えば25℃〜250℃以下)で乾燥を行えばよいが、その温度はより低温(例えば25℃〜120℃以下)であることが好ましい。この操作は、超臨界CO2による洗浄によっても代えることができ、より効果的である。また、上記本実施形態に係る多孔性金属錯体は、水素、メタン、二酸化炭素等のガスに対して優れたガス吸蔵能を示す。したがって、本実施形態によれば、水素、メタン、二酸化炭素等のガスの貯蔵方法が有効に実現可能となる。
【0034】
また、本実施形態に係る多孔性金属錯体は配位子にヒドロキシル基を有するため、メタンや二酸化炭素など、分子内で分極しているガスに対して優れた吸着能を示す。また、水素と親和性の高いリチウムを含有しているため、水素分子に対して優れた吸着能を示す。この吸着能の差を利用し、混合ガスからのガス分離が可能となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
[実施例1:アルミニウムイオンと下式(3)で表される芳香族トリカルボン酸からなる多孔性金属錯体]
【化3】
【0037】
(下式(4)で表される芳香族トリカルボン酸の合成)
下記工程1−1〜1−2により、式(4)で表される化合物を合成した。
【化4】
【0038】
[工程1−1:2,4,6−トリス−(4−メトキシカルボキシフェニル)フェノールの合成]
反応容器にゴードー(株)製のN,N−ジメチルホルムアミド(1000mL)、水(670mL)を入れ、アルゴンガスをバブリングし、溶存酸素を除去した。30分後、バブリングを停止し、アルゴン雰囲気下東京化成工業(株)製の2,4,6−トリブロモフェノール(167.00g)、シグマ−アルドリッチ社製の4−(メトキシカルボニル)−フェニルボロン酸(299.82g)、ナカライテスク社製の炭酸ナトリウム(256.84g)、エヌ・イーケムキャット社製のパラジウムジクロロビストリフェニルホスフィンを添加し、60℃で加熱攪拌した。12時間後、TLCで反応追跡したところ、原料の消失を確認した。室温まで放冷後、反応液に純水(7L)を添加し、更に濃塩酸でpH2(Univ.)に調整した。晶析した結晶を濾取し、更にメタノール(1.5L)で30分間分散洗浄し、濾取乾燥し、319.74gの粗生成物を得た。これをシリカゲルカラム(φ:110mm、重量:2200g、展開溶媒:クロロホルム)で精製後、濃縮残渣にメタノールを加え、ろ過、乾燥し、白色固体の目的物を187.42g得た。(収率:74.8%)
【0039】
得られた2,4,6−トリス−(4−メトキシカルボキシフェニル)フェノールの1H−NMRの結果を以下に示す。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ=8.17(d,J=8.2Hz,4H,Ar),8.09(d,J=8.2Hz,2H,Ar),7.69(d,J=8.2Hz,4H,Ar),7.68(d,J=8.2Hz,2H,Ar),7.59(s,2H,Ar),5.50(s,1H,OH),3.95(s,6H,COOCH3),3.93(s,3H,COOCH3)
【0040】
[工程1−2:2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノールの合成]
反応容器に2,4,6−トリス(4−メトキシカルボニル)フェノール(187.00g)、関東化学(株)製の水酸化カリウム(76.08g)、純水(1870mL)を入れ、加熱還流下攪拌した。2時間後、TLCで反応追跡したところ、原料の消失を確認した。室温まで放冷後、不溶物をろ去した。得られた母液に氷冷下濃塩酸を滴下し、pH2(Univ.)に調整した。晶析した結晶を遠心分離(回転速度:3100rpm、時間:5分、温度:4℃)にかけ、母液を除去後、純水で5回洗浄した。得られた湿結晶を60℃で18時間通風乾燥した後、乳鉢で粉砕した。この粉末結晶を更にイソプロピルエーテルで分散洗浄、乾燥し、微褐色粉末の目的物を151.83g得た。(収率:88.8%)
【0041】
得られた2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノールの1H−NMR、13C−NMR、MSの結果を以下に示す。
1H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ=12.93(bs,2H,COOH),8.95(bs,1H,COOH),8.02(d,J=8.2Hz,4H,Ar),7.98(d,J=8.4Hz,2H,Ar),7.88(d,J=8.4Hz,2H,Ar),7.77(d,J=8.2Hz,4H,Ar),7.65(s,2H,Ar)
13C−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ=167.26(COOH),167.19(COOH),151.15(Ar),143.69(Ar),142.81(Ar),131.60(Ar),130.83(Ar),129.90(Ar),129.72(Ar),129.43(Ar),129.26(Ar),129.09(Ar),128.91(Ar),126.74(Ar)
MS:m/z=454.18(M+)
【0042】
(多孔性金属錯体の合成)
キシダ化学(株)製の硝酸アルミニウム9水和物(1.72g、4.6mmol)と2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノール(1.04g,2.3mmol)とをスクリュー管に加え、関東化学(株)製のN,N−ジメチルホルムアミド/純水(1/1,25mL)混合溶媒をそれぞれに加えて超音波洗浄器に数分浸け、均一な溶液とした。次に、2つの溶液を三愛科学(株)製のテフロン(登録商標)製るつぼに加え、和光純薬工業(株)製の水酸化リチウム(221mg,9.2mmol)を加えた。このるつぼを三愛科学(株)製のオートクレーブに装着し、120℃で10時間水熱合成を行い、1晩静置した。翌日ろ過し、N,N−ジメチルホルムアミド/純水(1/1)で洗って、30分真空乾燥することで、白色の生成物が得られた。(収量:2.21g)
【0043】
(多孔性金属錯体の構造)
J.Am.Chem.Soc.2005,127,12788−12789.に報告されている[Tb(C27H15O6)]のCifファイルを用い、コンピューター上でテルビウムをアルミニウムに置き換え、MSINDO計算を実施し、[Al(C27H15O6)]の構造を予測した。次に、OLi基を導入し、再度MSINDO計算し、[Al(C27H15O7Li)]の構造を予測した。図1に構造を示すが、アルミニウムと上記式(3)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって生成する金属錯体がc軸方向に集積した1次元チャネル構造であることが分かる。
【0044】
(多孔性金属錯体の同定)
実施例1の多孔性金属錯体についてX線回折(XRD)及び熱重量分析(TG)を行った。得られたXRDチャートを図2に、TGチャートを図3に、それぞれ示す。また、図2にはMSINDO計算の結果を用いて算出した[Al(C27H15O7Li)]のXRDパターンを併せて示す。図2に示したように、実施例1の多孔性金属錯体と[Al(C27H15O7Li)]とは回折パターンがほぼ一致していた。このことから、実施例1の多孔性金属錯体は、[Al(C27H15O7Li)]であることが示唆された。また、TGにおける重量減少より、実施例1の多孔性金属錯体の組成は[Al(C27H15O7Li)]・3.5DMFであることが示唆された。なお、[Al(C27H15O6)]・3.5DMFにおける3.5DMFについては、加熱しながら真空乾燥することによって容易に除去することができる。例えば、120℃で加熱しながら8時間真空乾燥することで、溶媒を除くことが出来る。このようにして加熱乾燥した後のXRDを図4に示すが、図2と全く同じであり、細孔に取り込まれている溶媒を除去しても、骨格を維持していることが分かる。
【0045】
また、実施例1の多孔性金属錯体について固体7Li−NMRを測定したところ、δ6.46にブロードのピークが観測された。固体7Li−NMRのチャートを図5に示す。これは、Liの運動性がある程度制限されていることを示唆している。例えば、水酸化リチウム単体の場合、NMRピークは非常にシャープである。従って、生成物中に水酸化リチウムは存在しておらず、配位子のヒドロキシル基にLiが導入されていることが分かる。
【0046】
また、実施例1の多孔性金属錯体について、温度77Kにおける窒素吸着量及び比表面積、細孔容積の測定を行った。測定には日本ベル(株)製BELSORP−maxを用い、多孔性金属錯体の入ったサンプル管部分を液体窒素に浸した状態で測定を行った。得られた吸着等温線を図6に示す。また、実施例1の多孔性金属錯体1グラム当たりのBET法により計算した比表面積は1103m2/g、t−プロット法により計算した細孔容積は0.384cm3であった。
【0047】
また、実施例1の多孔性金属錯体について、303Kにおける水素吸蔵量を測定した。水素吸蔵量は(株)レスカ製水素吸蔵量測定装置を用い、多孔性金属錯体の入ったサンプル管部分を303Kの水槽に浸した状態で測定を行った。水素吸蔵量と平衡圧の関係を示したグラフを図7に示す。実施例1の多孔性金属錯体の場合、303K、水素圧力10MPaでの水素吸蔵量は0.41重量%であった。
【0048】
また、実施例1の多孔性金属錯体について、温度195K、吸着ガス圧力0.1MPaにおける窒素および二酸化炭素の吸着量を測定したところ、窒素吸着量が3.23重量%、二酸化炭素吸着量が45.3重量%であり、二酸化炭素を選択的に吸着した。測定には、日本ベル(株)製BELSORP−maxを用い、多孔性金属錯体の入ったサンプル管部分をドライアイス−エタノール冷媒に浸した状態で測定を行った。このことから、195Kにおいては、窒素と二酸化炭素の混合ガスから、実施例1の多孔性金属錯体を用いて窒素と二酸化炭素を分離できることが示唆される。得られた吸着等温線を図8に示す。
【0049】
[実施例2:テルビウムイオンと上記式(3)で表される芳香族トリカルボン酸からなる多孔性金属錯体]
【0050】
(多孔性金属錯体の合成)
三津和化学(株)製の硝酸テルビウム6水和物(507.6mg、1.25mmol)と2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノール(567.0mg、1.25mmol)と純水(12.5mL)とをスクリュー管に加え、2Mの水酸化リチウム水溶液(1mL)を加え、2分攪拌し、加熱して液体としたシクロヘキサノール(12.5)mLを加えて、更に10分攪拌した。その後、テフロンパッキンを装着した上で蓋を閉め、耐圧硝子工業(株)製のオートクレーブにスクリュー管を入れ、100℃で48時間水熱合成を行った。翌日ろ過し、水(10mL)で2回洗い、エタノール(10mL)で2回、アセトン(10mL)で2回洗い、真空乾燥することで、淡黄色の生成物が得られた。(収量:784.1mg)
【0051】
(多孔性金属錯体の同定)
このようにして得られた実施例2の多孔性金属錯体について、実施例1と同様にして、X線回折(XRD)及び熱重量分析(TG)を行った。得られたXRDチャートを図9に、TGチャートを図10に、それぞれ示す。図8と図2を比較すると、実施例2の多孔性金属錯体と[Tb(C27H15O7Li)]とは回折パターンがほぼ一致していた。このことから、実施例2の多孔性金属錯体は、[Tb(C27H15O7Li)]と同じ構造であること、すなわち、アルミニウムをテルビウムで置き換えた構造であることが示唆された。また、TGにおける重量減少より、実施例1の多孔性金属錯体の組成は[Tb(C27H15O7Li)]・1.5C6H11Oであることが示唆された。実施例2の錯体においても、実施例1と同様の方法を用いて、細孔内に含まれるシクロヘキサノールC6H11Oを容易に除くことが出来る。
【0052】
(ガス吸着特性)
また、実施例2の多孔性金属錯体について、温度77Kにおける窒素吸着量及び細孔容積の測定を行った。これらの測定には日本ベル(株)製BELSORP−maxを用い、多孔性金属錯体の入ったサンプル管部分を液体窒素に浸した状態で測定を行った。得られた吸着等温線を図11に示す。実施例2の多孔性金属錯体のBET法により計算した比表面積は543m2、t−プロット法により計算した細孔容積は0.215cm3であった。
【0053】
また、実施例2の多孔性金属錯体について、実施例1と同様の方法を用いて、303Kにおける水素吸蔵量を測定した。水素吸蔵量と平衡圧の関係を示したグラフを図12に示す。実施例1の多孔性金属錯体の場合、303K、水素圧力10MPaでの水素吸蔵量は0.11重量%であった。
【0054】
また、実施例2の多孔性金属錯体について、実施例1と同様の方法を用いて、温度195K、二酸化炭素圧力0.1MPaにおける窒素と二酸化炭素吸着量を測定したところ、それぞれ2.2重量%、37.8重量%であった。得られた吸着等温線を図13に示す。このことから、実施例1と同様に、窒素と二酸化炭素の混合ガスから、実施例2の多孔性金属錯体を用いて窒素と二酸化炭素を分離できることが示唆される。
【0055】
[比較例1:アルミニウムイオンと下記式(5)で表される多孔性金属錯体の合成]
【化5】
【0056】
(上記式(5)で表される芳香族カルボン酸の合成)
シグマアルドリッチ製の4−ブロモアセトフェノン0.8kg、硫酸40mlおよび二硫酸カリウム1.2kgからなる混合物を180℃にて18時間攪拌した。撹拌後、混合物にエタノール3.0Lを加えて7時間加熱還流させ、還流後室温まで自然冷却させたところ、沈殿物が生じたのでこれを濾取した。濾取した沈殿物に水3.0Lを加えて1時間加熱還流させた後、反応液を室温まで自然冷却し、エタノール0.5Lで洗浄し、1,3,5−トリス(p−ブロモフェニル)ベンゼン0.58kgを得た。
【0057】
アルゴンガス雰囲気下、1,3,5−トリス(p−ブロモフェニル)ベンゼン0.58kgおよびテトラヒドロフラン7.2Lからなる溶液を−65℃まで冷却した。−65℃〜−60℃で、和光純薬工業製の1.6mol/Lブチルリチウムn−ヘキサン溶液2.1Lを滴下した。−65℃で1時間反応させた後、−65℃〜−60℃でCO2ガスを1時間バブリングさせた。この反応混合物に1N−塩酸2.5Lを滴下し、析出した沈殿物を濾取して上記式(5)で表される芳香族カルボン酸の粗生成物0.40gを得た。粗生成物をテトラヒドロフラン、次いでヘキサンで洗浄し、減圧下で乾燥させ、上記式(5)で表される芳香族カルボン酸0.29gを得た。
【0058】
(多孔性金属錯体の合成と同定)
上記の操作を複数回繰り返した後、得られた上記式(5)で表される芳香族カルボン酸1.0gを、キシダ化学(株)製の硝酸アルミニウム9水和物0.86gおよび東京化成工業(株)製のN,N−ジエチルホルムアミド(50mL)と共に、三愛科学(株)製のカーボン樹脂でコーティングしたポリテトラフルオロエチレン製のるつぼに入れ、るつぼをステンレスジャケットで密封した。ステンレスジャケットを150℃に温度調整したオイルバスに24時間浸した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体1.4gを得た。同定は実施例1、2と同様に行った。
【0059】
(ガス吸着特性)
また、比較例1の多孔性金属錯体について、実施例1、2と同様にして温度77Kにおける窒素吸着量及び細孔容積の測定を行った。を行った。得られた吸着等温線を図14に示す。比較例1の多孔性金属錯体のBET法により計算した比表面積は1800m2、t−プロット法により計算した細孔容積は0.672cm3であった。実施例1の多孔性金属錯体よりも比表面積、細孔容積が大きいのは、配位子にリチウムアルコキシド基がないため、その分空間を稼げたからである。
【0060】
また、比較例1の多孔性金属錯体について、実施例1、2と同様の方法で、温度303Kにおける水素吸蔵量を測定した。平衡圧力と水素吸蔵量との関係を図15に示す。温度303K、水素圧力10MPaでの水素吸蔵量は0.60重量%であった。実施例1の多孔性金属錯体よりも水素を多く吸蔵できたのは、細孔容積が大きいからである。
【0061】
細孔が持つ「水素との親和性」を数値で比較するために、実施例1、比較例1の多孔性金属錯体の吸着密度を計算した。吸着密度は水素吸蔵量を細孔容積で割った値であり、細孔1cm3当たりの水素吸蔵量を表し、この値が大きいほど水素との親和性が高い。実施例1、比較例1の吸着密度はそれぞれ10.7kg/m3、8.9kg/m3であり、実施例1の方が、水素との親和性が高いことが分かる。
【0062】
[比較例2:テルビウムイオンと上記式(5)で表される多孔性金属錯体の合成]
【0063】
(多孔性金属錯体の合成と同定)
三津和化学(株)製の硝酸テルビウム6水和物(565.8mg、1.25mmol)と2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノール(546.7mg、1.25mmol)と純水(12.5)mLとをスクリュー管に加え、2Mの水酸化ナトリウム水溶液を1.0mL加え、2分攪拌し、加熱して液体としたシクロヘキサノール12.5mLを加えて、更に10攪拌した。その後、テフロンパッキンを装着した上で蓋を閉め、耐圧硝子工業(株)製のオートクレーブにスクリュー管を入れ、100℃で48時間水熱合成を行った。翌日ろ過し、水(10mLx2、5mLx1)で洗い、エタノール(10mL)で2回、アセトン(10mL)で2回洗い、真空乾燥することで、白色の生成物が得られた。(収量:491.8mg)
【0064】
比較例2の多孔性金属錯体について、実施例1、2と同様の方法で、温度303Kにおける水素吸蔵量を測定した。平衡圧力と水素吸蔵量との関係を図16に示す。温度303K、水素圧力10MPaでの水素吸蔵量は0.11重量%であった。
【0065】
(吸着密度)
実施例2、比較例2の多孔性金属錯体の吸着密度を計算したところ、それぞれ5.1kg/m3、3.1kg/m3であり、実施例2の方が、水素との親和性が高いことが分かった。尚、比較例2の細孔容積の値はJ.Am.Chem.Soc.2005,127,12788−12789.で報告されている吸着等温線から計算した。
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔性金属錯体及びその製造方法、ガス吸着方法並びにガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい多孔質材料として多孔性金属錯体が注目されている(例えば、下記非特許文献1を参照。)。多孔性金属錯体は金属錯体分子が集積することによって細孔構造が形成された構造体であり、集積型金属錯体とも呼ばれている(例えば、下記特許文献1を参照。)。多孔性金属錯体によれば、ゼオライトや活性炭などの多孔質材料と比較して、より均一なミクロ孔を設計、制御できると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−247884号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Angew.Chem.2004,43,2334−2375.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、まず、多孔性金属錯体の金属イオンとしてアルミニウムイオンを用いた多孔性金属錯体について検討した。その結果、このような多孔性金属錯体は、高い比表面積と細孔容積を有するため、優れたガス吸蔵能を有していることが判明した。しかし、水素ガスとの親和性については改善の余地が残されていた。
【0006】
そこで本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、十分なガス吸蔵能を有し、かつ、水素との親和性が改善された多孔性金属錯体及びその製造方法、並びに、当該多孔性金属錯体を用いたガス貯蔵方法及び分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、3価の金属イオンと下記式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有することを特徴とする多孔性金属錯体を提供する。
【化1】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【0008】
本発明の多孔性金属錯体においては、多孔性金属錯体1グラム当たりの細孔容積が0.1cm3以上であり、温度303K、水素圧力10MPaの雰囲気下での水素吸蔵量が0.1重量%以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、3価の金属イオンと、下記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムと、有機溶媒及び水の共溶媒と、を含有する反応液を調製する第1の工程と、上記反応液を100℃以上に加熱し、3価の金属イオンと上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る第2の工程と、を備えることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法を提供する。
【化2】
[式(2)中、nは0〜4の整数を示す。]
【0010】
また、本発明は、上記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムとを、有機溶媒及び水の共溶媒中で攪拌する第3の工程と、第3の工程後の溶液に、3価の金属イオン溶液を滴下しながら加え、沈殿物を生じさせる第4の工程と、第4の工程で生じた沈殿物を濾取する第5の工程と、第5の工程で濾取した沈殿物を有機溶媒及び水の共溶媒に加えて100℃以上に加熱し、上記3価の金属イオンと上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る第6の工程と、を備えることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、3価の金属イオンと、上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を用いて、ガスを貯蔵することを特徴とするガス貯蔵方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、3価の金属イオンと、上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体のガス吸着能の差を利用して、ガスを分離することを特徴とするガス分離方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3価の金属イオンを含む多孔性金属錯体であって、水素、メタン、二酸化炭素等のガスに対して十分なガス吸蔵能を有する多孔性金属錯体及びその製造方法、並びに当該多孔性金属錯体を用いたガス貯蔵方法及びガス分離方法を提供することができる。特に、本発明の多孔性金属錯体は、常温(例えば303K)での水素吸蔵能に優れるものであり、水素吸蔵材料として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】MSINDO計算による[Al(C27H14O7Li)]の結晶構造を示す図である。
【図2】実施例1で得られた多孔性金属錯体のXRDチャート及び[Al(C27H14O7Li)]の結晶構造から予想されるXRDのシミュレーション結果を示す図である。
【図3】実施例1で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである。
【図4】加熱乾燥した実施例1で得られた多孔性金属錯体のXRDである。
【図5】実施例1で得られた多孔性金属錯体の固体7Li−NMRチャートである。
【図6】実施例1で得られた多孔性金属錯体の77Kにおける窒素吸着等温線である。
【図7】実施例1で得られた多孔性金属錯体について測定された、303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図8】実施例1で得られた多孔性金属錯体の195Kにおける二酸化炭素及び窒素の吸着等温線である。
【図9】実施例2で得られた多孔性金属錯体のXRDチャートである。
【図10】実施例2で得られた多孔性金属錯体のTGチャートである。
【図11】実施例2で得られた多孔性金属錯体の77Kにおける窒素吸着等温線である。
【図12】実施例2で得られた多孔性金属錯体について測定された、303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図13】実施例2で得られた多孔性金属錯体の195Kにおける二酸化炭素及び窒素の吸着等温線である。
【図14】比較例1で得られた多孔性金属錯体の77Kにおける窒素吸着等温線である。
【図15】比較例1で得られた多孔性金属錯体について測定された、303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図16】比較例2で得られた多孔性金属錯体について測定された、303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る多孔性金属錯体は、3価の金属イオンと上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体(以下、「本実施形態にかかる金属錯体」ともいう。)を含み、該金属錯体の複数が集積することによって形成された細孔構造を有する。
【0017】
上記一般式(1)中、nは0〜4の整数を示す。水素吸蔵材料として用いる観点からは、nは0〜2の整数であることが好ましい。一方、水素以外のガス貯蔵材として用いる観点からは、nは2以上の整数であることが好ましい。また、合成のコストおよび簡便性の観点からは、nは0〜1であることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る多孔性金属錯体は、3価の金属イオンと、上記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムと、有機溶媒と水の共溶媒を含有する反応液を調製する工程と、上記反応液を100℃以上に加熱し、3価の金属イオンと上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る工程を経て製造することができる。この製造方法を、便宜的に「第1の製造方法」という。
【0019】
本実施形態に用いられる3価の金属イオンとしては、製造の簡便さから、鉄、テルビウムなどの遷移金属が好ましい。一方、水素吸蔵材料として用いる観点からはアルミニウムなどの典型金属が好ましい。
【0020】
3価の金属イオンの原料としては、市販されている金属塩の多くを適用することができるが、例えば硝酸塩が好適である。反応液中のアルミニウムイオンの濃度は、好ましくは10〜100mmol/Lである。
【0021】
一方、上記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸は、市販品を用いてもよいが、以下のようにして合成することができる。
【0022】
例えば、一般式(2)で表され且つnが0である芳香族トリカルボン酸の合成方法としては以下の方法が挙げられる。
先ず、窒素ガス雰囲気下にて、2,4,6−トリブロモフェノール、4−(メトキシカルボニル)−フェニルボロン酸、炭酸ナトリウム、パラジウムジクロロビストリフェニルホスフィン、水、N,N−ジメチルホルムアミドを混合し、その混合物を50〜100℃で5〜15時間攪拌する。撹拌後、混合物に水を加え、濃塩酸を加えて溶液を酸性とし、晶析させる。これを濾取し、メタノールで洗浄し、カラムクロマトグラフィーで精製し、更にメタノールで再結晶することにより、2,4,6−トリス(4−メトキシカルボニル)フェノールを得る。次いで、2,4,6−トリス(4−メトキシカルボニル)フェノール、水酸化カリウム、水、メタノールを混合し、その混合物を5〜15時間還流する。反応終了後、反応液に濃塩酸を加えて酸性とし、析出した白色沈殿を濾取し、水とメタノールで洗って乾燥させることにより、一般式(2)で表され且つnが0である芳香族トリカルボン酸が得られる。
【0023】
反応液中の一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸の濃度は、好ましくは10〜100mol/Lである。
【0024】
3価の金属イオンは芳香族トリカルボン酸に対して0.75〜4当量加えることが好ましく、より好ましいのは1〜2当量である。
【0025】
反応液中の水酸化リチウムは、一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸に対して1当量以上加えることが望ましい。好ましくは2〜6当量である。
【0026】
また、有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノールなどを用いることができるが、アルミニウムイオンなどの典型金属イオンを用いる場合にはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドを、テルビウムなどの遷移金属イオンを用いる場合はシクロヘキサノールを用いる方が好ましい。
【0027】
また、上記第2の工程における反応温度は、上記の通り100℃以上であることが好ましく、120℃〜150℃であることがより好ましい。反応温度が100℃未満であると、目的の多孔性金属錯体が生成しにくい傾向にある。また、反応温度が150℃を超えると、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の溶媒が分解しやすくなる。
【0028】
上記の第2の工程において、反応液の加熱は空気雰囲気中で行うことができるが、反応容器としてはオートクレーブ等の密閉型反応容器を用いることが好ましい。
【0029】
生成した本実施形態に係る多孔性金属錯体は、反応液から濾取し、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の溶媒で洗浄することができる。
【0030】
また、本実施形態に係る多孔性金属錯体は、上記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と水酸化リチウムを水/有機溶媒中で攪拌して上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸の溶液を調製する工程と、その溶液に金属イオン溶液を滴下しながら加える工程と、それによって生じた沈殿物を濾取する工程と、その沈殿物を水/有機溶媒中で加熱する工程を経て製造することもできる。この製造方法を、便宜的に「第2の製造方法」という。
【0031】
上記第2の製造方法に用いる有機溶媒としては、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノールを用いることができるが、中でもN,N−ジメチルホルムアミドが最も好ましい。
【0032】
本実施形態に係る細孔容積の制御方法は、上記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有することを特徴とする多孔性金属錯体において、上記式(1)中のnの値を変化させることによって行う。すなわち、上記式(1)中のnの値を大きくするほど、大きい細孔容積を有する多孔性金属錯体を製造することができる。
【0033】
本実施形態に係る多孔性金属錯体にガスを吸蔵させるためには、細孔内に存在する溶媒分子などを除くため、前処理をすることが良い。通常は錯体が分解しない程度の温度(例えば25℃〜250℃以下)で乾燥を行えばよいが、その温度はより低温(例えば25℃〜120℃以下)であることが好ましい。この操作は、超臨界CO2による洗浄によっても代えることができ、より効果的である。また、上記本実施形態に係る多孔性金属錯体は、水素、メタン、二酸化炭素等のガスに対して優れたガス吸蔵能を示す。したがって、本実施形態によれば、水素、メタン、二酸化炭素等のガスの貯蔵方法が有効に実現可能となる。
【0034】
また、本実施形態に係る多孔性金属錯体は配位子にヒドロキシル基を有するため、メタンや二酸化炭素など、分子内で分極しているガスに対して優れた吸着能を示す。また、水素と親和性の高いリチウムを含有しているため、水素分子に対して優れた吸着能を示す。この吸着能の差を利用し、混合ガスからのガス分離が可能となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
[実施例1:アルミニウムイオンと下式(3)で表される芳香族トリカルボン酸からなる多孔性金属錯体]
【化3】
【0037】
(下式(4)で表される芳香族トリカルボン酸の合成)
下記工程1−1〜1−2により、式(4)で表される化合物を合成した。
【化4】
【0038】
[工程1−1:2,4,6−トリス−(4−メトキシカルボキシフェニル)フェノールの合成]
反応容器にゴードー(株)製のN,N−ジメチルホルムアミド(1000mL)、水(670mL)を入れ、アルゴンガスをバブリングし、溶存酸素を除去した。30分後、バブリングを停止し、アルゴン雰囲気下東京化成工業(株)製の2,4,6−トリブロモフェノール(167.00g)、シグマ−アルドリッチ社製の4−(メトキシカルボニル)−フェニルボロン酸(299.82g)、ナカライテスク社製の炭酸ナトリウム(256.84g)、エヌ・イーケムキャット社製のパラジウムジクロロビストリフェニルホスフィンを添加し、60℃で加熱攪拌した。12時間後、TLCで反応追跡したところ、原料の消失を確認した。室温まで放冷後、反応液に純水(7L)を添加し、更に濃塩酸でpH2(Univ.)に調整した。晶析した結晶を濾取し、更にメタノール(1.5L)で30分間分散洗浄し、濾取乾燥し、319.74gの粗生成物を得た。これをシリカゲルカラム(φ:110mm、重量:2200g、展開溶媒:クロロホルム)で精製後、濃縮残渣にメタノールを加え、ろ過、乾燥し、白色固体の目的物を187.42g得た。(収率:74.8%)
【0039】
得られた2,4,6−トリス−(4−メトキシカルボキシフェニル)フェノールの1H−NMRの結果を以下に示す。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ=8.17(d,J=8.2Hz,4H,Ar),8.09(d,J=8.2Hz,2H,Ar),7.69(d,J=8.2Hz,4H,Ar),7.68(d,J=8.2Hz,2H,Ar),7.59(s,2H,Ar),5.50(s,1H,OH),3.95(s,6H,COOCH3),3.93(s,3H,COOCH3)
【0040】
[工程1−2:2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノールの合成]
反応容器に2,4,6−トリス(4−メトキシカルボニル)フェノール(187.00g)、関東化学(株)製の水酸化カリウム(76.08g)、純水(1870mL)を入れ、加熱還流下攪拌した。2時間後、TLCで反応追跡したところ、原料の消失を確認した。室温まで放冷後、不溶物をろ去した。得られた母液に氷冷下濃塩酸を滴下し、pH2(Univ.)に調整した。晶析した結晶を遠心分離(回転速度:3100rpm、時間:5分、温度:4℃)にかけ、母液を除去後、純水で5回洗浄した。得られた湿結晶を60℃で18時間通風乾燥した後、乳鉢で粉砕した。この粉末結晶を更にイソプロピルエーテルで分散洗浄、乾燥し、微褐色粉末の目的物を151.83g得た。(収率:88.8%)
【0041】
得られた2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノールの1H−NMR、13C−NMR、MSの結果を以下に示す。
1H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ=12.93(bs,2H,COOH),8.95(bs,1H,COOH),8.02(d,J=8.2Hz,4H,Ar),7.98(d,J=8.4Hz,2H,Ar),7.88(d,J=8.4Hz,2H,Ar),7.77(d,J=8.2Hz,4H,Ar),7.65(s,2H,Ar)
13C−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ=167.26(COOH),167.19(COOH),151.15(Ar),143.69(Ar),142.81(Ar),131.60(Ar),130.83(Ar),129.90(Ar),129.72(Ar),129.43(Ar),129.26(Ar),129.09(Ar),128.91(Ar),126.74(Ar)
MS:m/z=454.18(M+)
【0042】
(多孔性金属錯体の合成)
キシダ化学(株)製の硝酸アルミニウム9水和物(1.72g、4.6mmol)と2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノール(1.04g,2.3mmol)とをスクリュー管に加え、関東化学(株)製のN,N−ジメチルホルムアミド/純水(1/1,25mL)混合溶媒をそれぞれに加えて超音波洗浄器に数分浸け、均一な溶液とした。次に、2つの溶液を三愛科学(株)製のテフロン(登録商標)製るつぼに加え、和光純薬工業(株)製の水酸化リチウム(221mg,9.2mmol)を加えた。このるつぼを三愛科学(株)製のオートクレーブに装着し、120℃で10時間水熱合成を行い、1晩静置した。翌日ろ過し、N,N−ジメチルホルムアミド/純水(1/1)で洗って、30分真空乾燥することで、白色の生成物が得られた。(収量:2.21g)
【0043】
(多孔性金属錯体の構造)
J.Am.Chem.Soc.2005,127,12788−12789.に報告されている[Tb(C27H15O6)]のCifファイルを用い、コンピューター上でテルビウムをアルミニウムに置き換え、MSINDO計算を実施し、[Al(C27H15O6)]の構造を予測した。次に、OLi基を導入し、再度MSINDO計算し、[Al(C27H15O7Li)]の構造を予測した。図1に構造を示すが、アルミニウムと上記式(3)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって生成する金属錯体がc軸方向に集積した1次元チャネル構造であることが分かる。
【0044】
(多孔性金属錯体の同定)
実施例1の多孔性金属錯体についてX線回折(XRD)及び熱重量分析(TG)を行った。得られたXRDチャートを図2に、TGチャートを図3に、それぞれ示す。また、図2にはMSINDO計算の結果を用いて算出した[Al(C27H15O7Li)]のXRDパターンを併せて示す。図2に示したように、実施例1の多孔性金属錯体と[Al(C27H15O7Li)]とは回折パターンがほぼ一致していた。このことから、実施例1の多孔性金属錯体は、[Al(C27H15O7Li)]であることが示唆された。また、TGにおける重量減少より、実施例1の多孔性金属錯体の組成は[Al(C27H15O7Li)]・3.5DMFであることが示唆された。なお、[Al(C27H15O6)]・3.5DMFにおける3.5DMFについては、加熱しながら真空乾燥することによって容易に除去することができる。例えば、120℃で加熱しながら8時間真空乾燥することで、溶媒を除くことが出来る。このようにして加熱乾燥した後のXRDを図4に示すが、図2と全く同じであり、細孔に取り込まれている溶媒を除去しても、骨格を維持していることが分かる。
【0045】
また、実施例1の多孔性金属錯体について固体7Li−NMRを測定したところ、δ6.46にブロードのピークが観測された。固体7Li−NMRのチャートを図5に示す。これは、Liの運動性がある程度制限されていることを示唆している。例えば、水酸化リチウム単体の場合、NMRピークは非常にシャープである。従って、生成物中に水酸化リチウムは存在しておらず、配位子のヒドロキシル基にLiが導入されていることが分かる。
【0046】
また、実施例1の多孔性金属錯体について、温度77Kにおける窒素吸着量及び比表面積、細孔容積の測定を行った。測定には日本ベル(株)製BELSORP−maxを用い、多孔性金属錯体の入ったサンプル管部分を液体窒素に浸した状態で測定を行った。得られた吸着等温線を図6に示す。また、実施例1の多孔性金属錯体1グラム当たりのBET法により計算した比表面積は1103m2/g、t−プロット法により計算した細孔容積は0.384cm3であった。
【0047】
また、実施例1の多孔性金属錯体について、303Kにおける水素吸蔵量を測定した。水素吸蔵量は(株)レスカ製水素吸蔵量測定装置を用い、多孔性金属錯体の入ったサンプル管部分を303Kの水槽に浸した状態で測定を行った。水素吸蔵量と平衡圧の関係を示したグラフを図7に示す。実施例1の多孔性金属錯体の場合、303K、水素圧力10MPaでの水素吸蔵量は0.41重量%であった。
【0048】
また、実施例1の多孔性金属錯体について、温度195K、吸着ガス圧力0.1MPaにおける窒素および二酸化炭素の吸着量を測定したところ、窒素吸着量が3.23重量%、二酸化炭素吸着量が45.3重量%であり、二酸化炭素を選択的に吸着した。測定には、日本ベル(株)製BELSORP−maxを用い、多孔性金属錯体の入ったサンプル管部分をドライアイス−エタノール冷媒に浸した状態で測定を行った。このことから、195Kにおいては、窒素と二酸化炭素の混合ガスから、実施例1の多孔性金属錯体を用いて窒素と二酸化炭素を分離できることが示唆される。得られた吸着等温線を図8に示す。
【0049】
[実施例2:テルビウムイオンと上記式(3)で表される芳香族トリカルボン酸からなる多孔性金属錯体]
【0050】
(多孔性金属錯体の合成)
三津和化学(株)製の硝酸テルビウム6水和物(507.6mg、1.25mmol)と2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノール(567.0mg、1.25mmol)と純水(12.5mL)とをスクリュー管に加え、2Mの水酸化リチウム水溶液(1mL)を加え、2分攪拌し、加熱して液体としたシクロヘキサノール(12.5)mLを加えて、更に10分攪拌した。その後、テフロンパッキンを装着した上で蓋を閉め、耐圧硝子工業(株)製のオートクレーブにスクリュー管を入れ、100℃で48時間水熱合成を行った。翌日ろ過し、水(10mL)で2回洗い、エタノール(10mL)で2回、アセトン(10mL)で2回洗い、真空乾燥することで、淡黄色の生成物が得られた。(収量:784.1mg)
【0051】
(多孔性金属錯体の同定)
このようにして得られた実施例2の多孔性金属錯体について、実施例1と同様にして、X線回折(XRD)及び熱重量分析(TG)を行った。得られたXRDチャートを図9に、TGチャートを図10に、それぞれ示す。図8と図2を比較すると、実施例2の多孔性金属錯体と[Tb(C27H15O7Li)]とは回折パターンがほぼ一致していた。このことから、実施例2の多孔性金属錯体は、[Tb(C27H15O7Li)]と同じ構造であること、すなわち、アルミニウムをテルビウムで置き換えた構造であることが示唆された。また、TGにおける重量減少より、実施例1の多孔性金属錯体の組成は[Tb(C27H15O7Li)]・1.5C6H11Oであることが示唆された。実施例2の錯体においても、実施例1と同様の方法を用いて、細孔内に含まれるシクロヘキサノールC6H11Oを容易に除くことが出来る。
【0052】
(ガス吸着特性)
また、実施例2の多孔性金属錯体について、温度77Kにおける窒素吸着量及び細孔容積の測定を行った。これらの測定には日本ベル(株)製BELSORP−maxを用い、多孔性金属錯体の入ったサンプル管部分を液体窒素に浸した状態で測定を行った。得られた吸着等温線を図11に示す。実施例2の多孔性金属錯体のBET法により計算した比表面積は543m2、t−プロット法により計算した細孔容積は0.215cm3であった。
【0053】
また、実施例2の多孔性金属錯体について、実施例1と同様の方法を用いて、303Kにおける水素吸蔵量を測定した。水素吸蔵量と平衡圧の関係を示したグラフを図12に示す。実施例1の多孔性金属錯体の場合、303K、水素圧力10MPaでの水素吸蔵量は0.11重量%であった。
【0054】
また、実施例2の多孔性金属錯体について、実施例1と同様の方法を用いて、温度195K、二酸化炭素圧力0.1MPaにおける窒素と二酸化炭素吸着量を測定したところ、それぞれ2.2重量%、37.8重量%であった。得られた吸着等温線を図13に示す。このことから、実施例1と同様に、窒素と二酸化炭素の混合ガスから、実施例2の多孔性金属錯体を用いて窒素と二酸化炭素を分離できることが示唆される。
【0055】
[比較例1:アルミニウムイオンと下記式(5)で表される多孔性金属錯体の合成]
【化5】
【0056】
(上記式(5)で表される芳香族カルボン酸の合成)
シグマアルドリッチ製の4−ブロモアセトフェノン0.8kg、硫酸40mlおよび二硫酸カリウム1.2kgからなる混合物を180℃にて18時間攪拌した。撹拌後、混合物にエタノール3.0Lを加えて7時間加熱還流させ、還流後室温まで自然冷却させたところ、沈殿物が生じたのでこれを濾取した。濾取した沈殿物に水3.0Lを加えて1時間加熱還流させた後、反応液を室温まで自然冷却し、エタノール0.5Lで洗浄し、1,3,5−トリス(p−ブロモフェニル)ベンゼン0.58kgを得た。
【0057】
アルゴンガス雰囲気下、1,3,5−トリス(p−ブロモフェニル)ベンゼン0.58kgおよびテトラヒドロフラン7.2Lからなる溶液を−65℃まで冷却した。−65℃〜−60℃で、和光純薬工業製の1.6mol/Lブチルリチウムn−ヘキサン溶液2.1Lを滴下した。−65℃で1時間反応させた後、−65℃〜−60℃でCO2ガスを1時間バブリングさせた。この反応混合物に1N−塩酸2.5Lを滴下し、析出した沈殿物を濾取して上記式(5)で表される芳香族カルボン酸の粗生成物0.40gを得た。粗生成物をテトラヒドロフラン、次いでヘキサンで洗浄し、減圧下で乾燥させ、上記式(5)で表される芳香族カルボン酸0.29gを得た。
【0058】
(多孔性金属錯体の合成と同定)
上記の操作を複数回繰り返した後、得られた上記式(5)で表される芳香族カルボン酸1.0gを、キシダ化学(株)製の硝酸アルミニウム9水和物0.86gおよび東京化成工業(株)製のN,N−ジエチルホルムアミド(50mL)と共に、三愛科学(株)製のカーボン樹脂でコーティングしたポリテトラフルオロエチレン製のるつぼに入れ、るつぼをステンレスジャケットで密封した。ステンレスジャケットを150℃に温度調整したオイルバスに24時間浸した後、室温まで冷却させ、反応液中に生じた白色沈殿を濾取することにより、多孔性金属錯体1.4gを得た。同定は実施例1、2と同様に行った。
【0059】
(ガス吸着特性)
また、比較例1の多孔性金属錯体について、実施例1、2と同様にして温度77Kにおける窒素吸着量及び細孔容積の測定を行った。を行った。得られた吸着等温線を図14に示す。比較例1の多孔性金属錯体のBET法により計算した比表面積は1800m2、t−プロット法により計算した細孔容積は0.672cm3であった。実施例1の多孔性金属錯体よりも比表面積、細孔容積が大きいのは、配位子にリチウムアルコキシド基がないため、その分空間を稼げたからである。
【0060】
また、比較例1の多孔性金属錯体について、実施例1、2と同様の方法で、温度303Kにおける水素吸蔵量を測定した。平衡圧力と水素吸蔵量との関係を図15に示す。温度303K、水素圧力10MPaでの水素吸蔵量は0.60重量%であった。実施例1の多孔性金属錯体よりも水素を多く吸蔵できたのは、細孔容積が大きいからである。
【0061】
細孔が持つ「水素との親和性」を数値で比較するために、実施例1、比較例1の多孔性金属錯体の吸着密度を計算した。吸着密度は水素吸蔵量を細孔容積で割った値であり、細孔1cm3当たりの水素吸蔵量を表し、この値が大きいほど水素との親和性が高い。実施例1、比較例1の吸着密度はそれぞれ10.7kg/m3、8.9kg/m3であり、実施例1の方が、水素との親和性が高いことが分かる。
【0062】
[比較例2:テルビウムイオンと上記式(5)で表される多孔性金属錯体の合成]
【0063】
(多孔性金属錯体の合成と同定)
三津和化学(株)製の硝酸テルビウム6水和物(565.8mg、1.25mmol)と2,4,6−トリス−(4−カルボキシフェニル)フェノール(546.7mg、1.25mmol)と純水(12.5)mLとをスクリュー管に加え、2Mの水酸化ナトリウム水溶液を1.0mL加え、2分攪拌し、加熱して液体としたシクロヘキサノール12.5mLを加えて、更に10攪拌した。その後、テフロンパッキンを装着した上で蓋を閉め、耐圧硝子工業(株)製のオートクレーブにスクリュー管を入れ、100℃で48時間水熱合成を行った。翌日ろ過し、水(10mLx2、5mLx1)で洗い、エタノール(10mL)で2回、アセトン(10mL)で2回洗い、真空乾燥することで、白色の生成物が得られた。(収量:491.8mg)
【0064】
比較例2の多孔性金属錯体について、実施例1、2と同様の方法で、温度303Kにおける水素吸蔵量を測定した。平衡圧力と水素吸蔵量との関係を図16に示す。温度303K、水素圧力10MPaでの水素吸蔵量は0.11重量%であった。
【0065】
(吸着密度)
実施例2、比較例2の多孔性金属錯体の吸着密度を計算したところ、それぞれ5.1kg/m3、3.1kg/m3であり、実施例2の方が、水素との親和性が高いことが分かった。尚、比較例2の細孔容積の値はJ.Am.Chem.Soc.2005,127,12788−12789.で報告されている吸着等温線から計算した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価の金属イオンと下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有することを特徴とする多孔性金属錯体。
【化1】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【請求項2】
多孔性金属錯体1グラム当たりの細孔容積が0.1cm3以上であり、温度303K、水素圧力10MPaの雰囲気下での水素吸蔵量が0.1重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔性金属錯体。
【請求項3】
3価の金属イオンと、下記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムと、有機溶媒及び水の共溶媒と、を含有する反応液を調製する第1の工程と、
前記反応液を100℃以上に加熱し、3価の金属イオンと下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る第2の工程と、
を備えることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法。
【化2】
[式(2)中、nは0〜4の整数を示す。]
【化3】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【請求項4】
下記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムとを、有機溶媒及び水の共溶媒中で攪拌する第3の工程と、
前記第3の工程後の溶液に、3価の金属イオン溶液を滴下しながら加え、沈殿物を生じさせる第4の工程と、
前記第4の工程で生じた前記沈殿物を濾取する第5の工程と、
前記第5の工程で濾取した前記沈殿物を有機溶媒及び水の共溶媒に加えて100℃以上に加熱し、前記3価の金属イオンと下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る第6の工程と、
を備えることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法。
【化4】
[式(2)中、nは0〜4の整数を示す。]
【化5】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【請求項5】
3価の金属イオンと、下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を用いて、ガスを貯蔵することを特徴とするガス貯蔵方法。
【化6】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【請求項6】
3価の金属イオンと、下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を用いて、ガスを分離することを特徴とするガス分離方法。
【化7】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【請求項1】
3価の金属イオンと下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有することを特徴とする多孔性金属錯体。
【化1】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【請求項2】
多孔性金属錯体1グラム当たりの細孔容積が0.1cm3以上であり、温度303K、水素圧力10MPaの雰囲気下での水素吸蔵量が0.1重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔性金属錯体。
【請求項3】
3価の金属イオンと、下記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムと、有機溶媒及び水の共溶媒と、を含有する反応液を調製する第1の工程と、
前記反応液を100℃以上に加熱し、3価の金属イオンと下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る第2の工程と、
を備えることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法。
【化2】
[式(2)中、nは0〜4の整数を示す。]
【化3】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【請求項4】
下記一般式(2)で表される芳香族トリカルボン酸と、水酸化リチウムとを、有機溶媒及び水の共溶媒中で攪拌する第3の工程と、
前記第3の工程後の溶液に、3価の金属イオン溶液を滴下しながら加え、沈殿物を生じさせる第4の工程と、
前記第4の工程で生じた前記沈殿物を濾取する第5の工程と、
前記第5の工程で濾取した前記沈殿物を有機溶媒及び水の共溶媒に加えて100℃以上に加熱し、前記3価の金属イオンと下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を得る第6の工程と、
を備えることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法。
【化4】
[式(2)中、nは0〜4の整数を示す。]
【化5】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【請求項5】
3価の金属イオンと、下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を用いて、ガスを貯蔵することを特徴とするガス貯蔵方法。
【化6】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【請求項6】
3価の金属イオンと、下記一般式(1)で表される芳香族トリカルボン酸との配位結合によって構成される金属錯体を含み、該金属錯体の複数が集積して形成された細孔構造を有する多孔性金属錯体を用いて、ガスを分離することを特徴とするガス分離方法。
【化7】
[式(1)中、nは0〜4の整数を示す。]
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【公開番号】特開2012−6854(P2012−6854A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142926(P2010−142926)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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