説明

多孔膜を利用した給水管のオンデマンド型赤錆防止・除去装置

【課題】マンション等の集合住宅、オフィスビル、病院、および学校など多数の人間が共通した給水管を通して生活水を得ている建物において、給水管を長期に使用した場合赤錆が発生する。赤錆の発生を防止し、赤錆を除去する方法を簡便に給水管自体を改変することなく水の改質を安全に行う装置を提供する。
【解決手段】給水管1の外部より特定された還元性の薬剤を特定された孔特性をもつ再生セルロース性多孔膜によって作製された孔拡散モジュールを用いて注入する。薬剤の注入において安定的な濃度調整を容易に行うため、水道水への薬剤注入部に弁を設けた装置を使用し、薬剤を孔拡散により水道水中へ注入する。弁の開閉により薬剤は水道水が流動している時のみ注入することにより水道水中の遊離塩素濃度が0.1ppm以上0.3ppm以下に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は集合住宅、オフィスビル、病院、ホテル、会社事務所、研究所、等のように水道水を集中受入れ後、水道水の個々の消費現場へ輸送する管(給水管と略称)の赤錆の防止、および赤錆の除去装置に関する。より詳しくは、給水管内に外部より無微生物下で薬剤を投入することにより水質を制御し、その結果給水管内の赤錆を除去しかつ赤錆の発生を防止する技術に関する。

【0002】
飲料水として利用される水は通常水道水として供給される水が大部分である。その他井戸水やあるいは除菌処理を加えたわき水も利用される。飲料水として供給される水源と飲料水として消費される場所との間には空間的あるいは時間的距離が存在する場合には両地点を連結する管(この管は本発明では給水管に分類)には微生物の発生、増殖を防止するために水源において塩素を溶解させている。この塩素濃度(遊離塩素濃度として測定される)は0.1ppm以上であれば上記目的を達することは可能であるが、より安全性を高めるために塩素濃度は約1ppmに高められていることが多い。この高濃度塩素により給水管内部の酸化作用が進み、給水管内の赤錆が発生する。

【0003】
微生物汚染を特に問題としない給水の場合には水中の遊離塩素濃度は低くてもかまわないが、この濃度を零にするとカビが発生する。塩素濃度を0.1ppmにおさえても水の性状(例:PHが6以下、溶解酸素濃度が高いなど)によっては給水管内に錆が発生する。特に異種金属の接触部分での錆の発生が知られている。

【背景技術】
【0004】
給水管に生じた赤錆は赤水となって消費者の元に到達し、また給水管の腐食として水漏れの原因ともなる。そのため従来より赤錆対策として(1)水を赤錆を生じさせない状態にする(2)給水管を錆びない処理を加える(3)生じた赤錆を機械的に除去する(4)配管更生(ライニング)あるいは配管更新などが提案され実施されている。(4)の配管更新はコストも高く、また15〜20年後に再び更新しなくてはならない、配管更生では砂等で配管内を研磨した後にエポキシ樹脂で管内をコーティングする方法である。この方法では曲管部の施工がむつかしく、配管の一部に穴を開ける恐れもあり、また使用した樹脂の安全性に問題があり、10年後に再び配管更生が必要である。

【0005】
(1)の水の状態を変化させる方法としてポリリン酸ナトリウム等の防錆剤を添加
する方法と磁力を利用する方法とがある。ただし前者の場合薬剤注入のためのバイパスをもうけ液中での防錆剤の適正な濃度に維持する必要がある。防錆剤を飲料水として日常的に体内に取り入れることに対しては蓄積の可能性があり安全面での問題点を残す。後者の方法では防錆の機構が明確でなく、水の性状を変化させるのに必要な磁力の大きさとその磁力を与えるエネルギーの不明確さ、および水の性状が化学分析的には変化している実証がほとんどない。

【0006】
給水回路の一部に濾過を中心とした浄化システムを設け、水のPHを上昇させ酸化還元電位を低下させることにより赤錆化を防止する方法が提案されている(特許文献1)しかしこの方法は給水回路が複雑化し、サニタリー性が失なわれ、濾液側で微生物汚染の可能性も生じ、さらに維持管理費用が新たに発生する。

【0007】
マンション等の集合住宅における給水管で供給される水は種々の用途に用いられるが飲料水として特に安全性が要求される。そのため給水管へ薬剤を投入する方法については投入の際に感染性物質や毒性物質が混入しない対策をとる必要性がある。そのためには薬剤自体および投入のための回路をあらかじめ滅菌し、かつ水による回路からの溶出物および薬剤の不純物の安全性確認が前提である。有機性の薬剤では加熱滅菌処理により分解あるいは変成が起り、薬剤としての作用効果が失われたり、毒性物質への変成される可能性を持つ。そのために有機性の薬剤を水道水中に注入する場合には加熱滅菌に代る感染性物質混入防止手段を導入しなければならない。

【0008】
【特許文献1】特開平10−317433
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では給水管の赤錆防止および赤錆除去が日常的に実現できる技術を提供することを目的としている。それを実現するためには赤錆発生のメカニズムを解明する必要がある。本発明者らの基礎研究の成果によると給水管内で赤錆が発生する原因は以下の5種の過程を経ていることが明らかとなり本発明に至った。

【0010】
給水管内では(1)水道水中に含まれる遊離塩素の存在により(2)塩素イオンの存在下で水が酸性状態になることにより鉄のイオン化、あるいは異種金属との接触(ねじ部、水量計との接続部など)による電極反応によってイオン化し、(3)遊離塩素と水との反応で塩酸と次亜塩素酸を生じ次亜塩素酸が示す酸化反応によって鉄イオンは3価の鉄イオンとなり、(4)3価の鉄イオンの生成により鉄イオンの溶解度が低下し、水酸化第2鉄のコロイド粒子が発生し、(5)溶解酸素および遊離塩素の存在により酸化反応が進行し、赤錆が生じる。

【0011】
赤錆発生機構に述べた原因をなくすれば赤錆は発生しなくなりやがて赤錆も溶解し消滅する。すなわち(イ)遊離塩素の濃度を下げる、(ロ)水のPHをアルカリ側にする、(ハ)溶存酸素を無くす、(ニ)水質を還元状態にするなどが考えられる。問題は(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を満足する薬剤の選定とその薬剤をいかなる方法で給水管内に微生物(ウイルス、細菌、カビなど)の混入の可能性をなくして注入するかにある。

【0012】
無機性の薬剤であれば飲料水として体内に取り込まれ臓器等に蓄積される恐れがあり、体内での種々の酵素での分解作用を防害する恐れもある。有機性の薬剤では水への溶解性、生分解性を持ち、また加熱滅菌が可能な薬剤で上記(イ)〜(ニ)の性質を持つ薬剤の選択は困難である。加熱滅菌性がない場合には薬注の前の段階でウイルス除去膜で濾過をすることによって加熱滅菌性の要求を解決できる。しかしウイルス除去膜を用いた濾過では目詰りが起り膜の取り替えおよび一定速度で薬剤を輸注するのに保障管理上のわずらわしさが生じる。

【0013】
本発明の最大の特徴は平均孔径が5nm以上80nm以下で空孔率40%以上90%以下で膜厚が20μm以上で200μm以下の再生セルロース製多孔性多層構造膜(膜と略称)を用いる点にある。平均孔径が5nm以上になると膜中での物質輸送の機構として孔拡散が可能になる。膜素材として再生セルロースを採用することにより膜表面および膜内部の孔への気体成分(高圧下の水道水中に溶解している酸素や窒素、炭酸ガスなど)による閉塞を防止できる。多孔性多層構造膜を用いることで薬剤タンクより微生物が膜を通過する確率を大幅に低下できる。

【0014】
本発明の第2の特徴は上述の膜を透過した薬剤が、希釈された薬剤の水溶液の状態で貯留し、該水溶液が本発明装置内に設けられた薬剤通路を通り、本管流路を流れる水道水に注入する部分に弁を用いた点にある。給水管は常時水道水が流れているケースは少なく、水道水の消費の都度、不定期・不規則に給水・停止が繰り返される。このため、注入する薬剤の濃度を安定させるには停止状態での薬剤の水道水への注入を休止し、給水時のみ注入される必要がある。薬剤注入に弁を用いることで、給水時には弁蓋が流水の運動エネルギーにより支持ピンを中心に円弧状に押し上げられ、薬剤通路から本管流路に薬剤が流入する。停止時では、弁蓋の自重により薬剤通路を塞ぎ貯留された薬剤水溶液の流入は停止する。弁蓋の素材としては水道水によって溶解や膨潤しない高分子材料で、比重は約1.5g/cm3とすることが望ましい。例えばポリ塩化ビニル板などである。

【0015】
本発明の第3の特徴は薬剤として還元性の食品添加物を選定した点にある。食品添加物で、水溶性で水への溶解度が60g/100ml(水)以下であることが望ましい。給水管内の水が飲料用になることを考慮して安全性の観点より、体内への蓄積の恐れの少ない有機性の食品添加物が好ましい。還元作用の他にPHを酸性側にする作用の小さな物質が好ましい。具体的にはアスコルビン酸、クエン酸、およびそれらのナトリウム塩やカリウム塩、カテキン類などである。

【0016】
本発明の第4の特徴は、薬剤の給水管への注入は膜を用いた孔拡散機構である点にある。孔拡散機構とは濃度勾配を物質輸送の駆動力とする拡散において物質は膜中の孔内部の水を通して輸送される。孔拡散では物質のブラウン運動が輸送の原動力である。物質が孔中を通過する際の駆動力が濃度勾配のみで膜間差圧を利用しないため目詰まりが起こらない。そのため膜は長期にわたり使用可能である。

【0017】
給水管中の水は飲料水として利用されることを考慮すると給水管の赤錆除去・赤錆防止の作用を目的に設定した薬剤の濃度は必要最低限度内にとどめることが望ましい。赤錆発生の原因と現実の水中での酸化性物質の濃度を考慮して処理対象の水中での薬剤濃度が10ppm以下になることが好ましい。この濃度達成の方法として、薬剤通路に調整バルブを設け、機械的に薬剤流路の断面積を調整することで薬剤の水への注入量を容易に調整できる。

【発明の効果】
【0018】
本発明装置により(1)マンション等の集合住宅における給水管に赤錆が発生することが防止される。(2)給水管に既に存在する赤錆を徐々に除去できる。(3)装置の維持管理が容易である。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明装置の給水管への典型的な接続例
【図2】本発明装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明装置は給水管より分岐したバイパス経路に取り付ける。(図1.)。給水管に取り付けた給水管バルブ(図1.3)とバイパス経路に取り付けたバイパスバルブ(図1.4)によりバイパス経路に分岐される水量を調整する。バイパス経路には2L/min以上の水が流れるように調整する。

【0021】
本発明装置は、薬剤タンク(6)、薬剤流路側タンク(7)、多層構造膜(8)で構成される上部と、本管ケーシング(17)、本管入口(15)、本管出口(16)で構成される下部、上部と下部を連結する薬剤流路ブロック(9および10)、薬剤流路の断面積を調整するための薬剤調整バルブ(13)で構成される連結部、それと薬剤流路ブロックの先端で円弧状に開閉する開閉弁(14)、開閉の支持点となる支持ピン(20)で構成される弁機構部を持つ。

【0022】
薬剤としてアスコルビン酸ナトリウムが給水管の赤錆対策として最も望ましい。薬剤の投入量は一戸当り一ヶ月当り通常1g〜10gであり、水道水中の遊離塩素濃度が高い場合には投入量を増やす。

【実施例1】
【0023】
セルロース誘導体(アセテート)のアセトン溶液より公知の方法で流延し、ミクロ相分離を起こさせることによりセルロース誘導体膜を作製した。この膜を0.10規定のNaOH水溶液に浸漬して再生セルロース膜とした。得られた膜の平均孔径は20nmであり、空孔率は81%、膜厚は70μmであった。この膜を薬剤タンク(図2の6)と薬剤流路側タンク(7)の間にOリングを介し挟み込み密着固定した。アスコルビン酸ナトリウムと蒸留水の2成分のみで構成された50重量%の溶液を作成し、滅菌処理されたシリンジを使い薬剤タンク内部(19)に充填した。薬剤タンク(6)には1/4インチのエア抜き口(22)と薬剤充填口(21)を設けており、薬剤充填時はエア抜き口(22)を開き、薬剤充填口(21)より充填した。エア抜き口(22)と薬剤充填口(21)はボールバルブにより開閉できるようにした。

【0024】
本管ケーシング(17)内に本管入口(15)より本管出口(16)に水の流れ速度を3L/分で上記のモジュールに通した。本管ケーシング(17)の上部には1/4インチのエア抜き口(24)を設けている。流れの初期には薬剤流路側タンク(7)のエア抜き口(23)および本管ケーシング(17)のエア抜き口(24)を開き、水が充分モジュール内を占めるようエア抜き処置を施した。空気が十分無くなったのを確認しエア抜き口を閉じた。水の流れ速度が一定となって1時間後に本管出口(16)でのアスコルビン酸ナトリウムの濃度を測定し、約2ppmであった。給水管中の赤錆防止および除去に効果のある濃度である。

【産業上の利用可能性】
【0025】
集合住宅、オフィスビル、病院、学校などの給水管における赤錆発生を防止し、既に赤錆が付着している給水管の赤錆を除去できる。そのため給水管の更新や洗浄処理が不要となる。また本方法は水の性質を安全にかつ容易に改変することが可能となり産業用の機械等に供給する水の性質を目的ごとに設計することが可能である。

【符号の説明】
【0026】
1:給水管
2:バイパス経路
3:給水管バルブ
4:バイパスバルブ
5:本発明装置
6:薬剤タンク
7:薬剤流路側タンク
8:多層構造膜
9:薬剤流路ブロック1
10:薬剤流路ブロック2
11:薬剤流路
12:薬剤流路内の薬剤の流れ
13:薬剤調整バルブ(薬剤流路内の断面積を調整する)
14:開閉弁
15:本管入口
16:本管出口
17:本管ケーシング
18:本管ケーシング内の水の流れ
19:薬剤
20:支持ピン
21:薬剤充填口
22:エア抜き口(薬剤タンク)
23:エア抜き口(薬剤流路側タンク)
24:エア抜き口(本管ケーシング)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水管の外部より還元性食品添加物(薬剤と略称)を該管内の水(水道水と略称)に注入するのに際し、下記に示す多孔膜内部の孔を通して薬剤を注入する。薬剤の注入は濃度勾配のみを駆動力とした孔拡散機構での膜透過であり、膜を透過した薬剤が薬剤水溶液の状態で貯留し、水道水に注入する部分に弁を有し、該弁は給水管内を水道水が流れた時のみ薬剤水溶液が水道水に注入できるように弁が開くことを特徴とする給水管の赤錆防止および赤錆除去装置。多孔膜:再生セルロース製で層状構造を持ち、層の厚さは0.2μm〜0.3μm、平均孔径が5nm以上で80nm以下、空孔率は40%以上90%以下、膜厚は20μm以上200μm以下

【請求項2】
請求項1において薬剤としてアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウムおよびカテキンより少なくとも1種選択されることを特徴とする装置。

【請求項3】
請求項2において処理対象の水道水中での月間での薬剤濃度が10ppm以下になるように注入する薬剤の量を調整するための薬剤調整バルブを設けたことを特徴とする装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−1969(P2013−1969A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135226(P2011−135226)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(307002932)株式会社セパシグマ (23)
【出願人】(310010069)双葉石油株式会社 (5)
【Fターム(参考)】