説明

多孔質ガラスの製造方法および光学部材の製造方法

【課題】 低温での加熱処理により相分離処理を行い、孔径、空孔率の制御が可能な多孔質ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】 SiOの濃度が50wt%以上70wt%以下、Bの濃度が15wt%以上40wt%以下、LiOの濃度が1.0wt%以上8.0wt%以下、NaOの濃度が2.0wt%以上8.0wt%以下、KOの濃度が0.3wt%以上5.0wt%以下であり、LiOとNaOとKOの濃度の合計が3.5wt%以上15wt%以下であり、KOの濃度がLiOとNaOとKOの濃度の合計に対して0.10以上0.30以下の比率である母体ガラスを、300℃以上500℃以下の温度、3時間以上50時間以下で加熱して相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、相分離ガラスをエッチングして多孔質ガラスを形成する工程と、を有することを特徴とする多孔質ガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラスの製造方法および光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスの相分離現象を利用して製造される多孔質ガラスは、均一に制御された独特の多孔構造を有し、孔径を一定の範囲内で変化させることができる。このような優れた特徴を生かし、吸着剤、マイクロキャリア担体、分離膜、光学材料等の工業的利用が期待されている。
【0003】
従来知られている相分離を起こす組成の領域は、酸化ケイ素が約30から80wt%かつ酸化ホウ素が約22から59wt%、かつ酸化ナトリウムが約7から15wt%の組成である。一般的に母体ガラスを500から700℃で熱処理させることにより相分離を起こさせ、その後酸エッチングを行うことで、多孔質化させる(たとえば非特許文献1)。
【0004】
相分離性の母体ガラスの組成に関して、多孔質ガラスの強度の向上、化学的耐久性の向上を目的として、SiO−B−NaOガラスに、Al、ZrOを添加した相分離母体ガラスを用いて、多孔質ガラスを作製する例がいくつか報告されている。しかしながら、相分離熱処理には500℃以上の熱処理が必要になる。また、エッチング時に非シリカ成分相に含まれる少量シリカからなるゲル状シリカの沈殿を防止するために、アルカリ成分を調整しLiを加えた例も報告されている(特許文献1)。しかしながら、Liの添加により相分離が過度に進むことにより、熱処理による孔径の制御が困難となる。
【0005】
また光学材料として多孔質ガラスを用いる際は、孔径、空孔率が重要なパラメータとなる。孔径を小さくすることで、内部の光の散乱を抑制することにつながる。また、空孔率に関しては高くすることで見かけの屈折率が低減し低反射部材として機能する。したがって孔径を制御でき、かつ空孔率を高くすることで光学材料の設計の自由度が広がる。そのため、孔径、空孔率の制御ができる材料が求められている。しかしながら、空孔率を高くするためには、高温での熱処理を必要とする。したがって、低温による熱処理で高空孔率の多孔質ガラスを作製することができる相分離性の母体ガラス組成が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−164648号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「新しいガラスとその物性」第2章、47から50頁、泉谷徹郎監修 経営システム研究所、1987年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来技術の相分離現象を利用した多孔質ガラスの製造方法においては、相分離に必要な高温の加熱処理が行われている。そのため、製造工程の負荷、コストの面から相分離の加熱処理を低温化することが求められている。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、低温の加熱処理により相分離処理を行い、孔径、空孔率の制御が可能な多孔質ガラスの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多孔質ガラスの製造方法は、SiOの濃度が50wt%以上70wt%以下、Bの濃度が15wt%以上40wt%以下、LiOの濃度が1.0wt%以上8.0wt%以下、NaOの濃度が2.0wt%以上8.0wt%以下、KOの濃度が0.3wt%以上5.0wt%以下であり、前記LiOと前記NaOと前記KOの濃度の合計が3.5wt%以上15wt%以下であり、前記KOの濃度が前記LiOと前記NaOと前記KOの濃度の合計に対して0.10以上0.30以下の比率である母体ガラスを、300℃以上500℃以下の温度、3時間以上50時間以下で加熱して相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、前記相分離ガラスをエッチングして多孔質ガラスを形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温の加熱処理により相分離処理を行い、孔径、空孔率の制御が可能な多孔質ガラスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で作製した多孔質ガラスの走査電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で作製した多孔質ガラスの走査電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例2で作製した多孔質ガラスの走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明の相分離性の母体ガラスは、特定の組成からなるアルカリホウケイ酸塩ガラスである。特に、本発明の相分離性の母体ガラスは、相分離の熱処理工程を低温化させることができる組成からなり、酸化ケイ素(SiO)−ホウ酸(B)−酸化ナトリウム(NaO)系の相分離性の母体ガラスに酸化リチウム(LiO)、酸化カリウム(KO)を導入した組成からなる。
【0015】
より具体的には、本発明に係る相分離性の母体ガラスは、SiO 50wt%以上70wt%以下、B 15wt%以上40wt%以下、LiO 1.0wt%以上8.0wt%以下、NaO 2.0wt%以上8.0wt%以下、KO 0.3wt%以上5.0wt%以下を含有する組成からなる。
【0016】
また、上記組成のアルカリ成分(LiO、NaO、KO)の関係が、LiOとNaOとKOの濃度の合計(以下ではLiO+NaO+KOで表す)が3.5wt%以上15wt%以下である。
【0017】
また、KOの濃度がLiOとNaOとKOの濃度の合計に対して(以下ではKO/(LiO+NaO+KO)で表す)が0.10以上0.30以下の比率である。すなわち、第3アルカリ酸化物であるKOが全アルカリ酸化物の10%以上30%以下の割合を占めている。本発明において、アルカリとは、Li、Na、Kを表す。なお、KのかわりにRb、Csを用いてもよい。
【0018】
相分離性とは、加熱処理によって相分離が生じる特性のことをいう。本発明で多孔質構造を形成する「相分離」について、ガラス体に酸化ケイ素、酸化ホウ素、アルカリ金属を有する酸化物を含むホウケイ酸塩ガラスを用いた場合を例に説明する。「相分離」とは、ガラス内部でアルカリ金属を有する酸化物と酸化ホウ素を相分離前の組成より多く含有する相(非酸化ケイ素リッチ相)と、アルカリ金属を有する酸化物と酸化ホウ素を相分離前の組成より少なく含有する相(酸化ケイ素リッチ相)に、数nmから数十μmスケールの構造で分離することを意味する。そして、相分離させたガラスをエッチング処理して、非酸化ケイ素リッチ相を除去することでガラス体に多孔質構造を形成する。
【0019】
相分離には、スピノーダル型とバイノーダル型がある。スピノーダル型の相分離により得られる多孔質ガラスの細孔は表面から内部にまで連結した貫通孔である。より具体的には、スピノーダル型の相分離由来の構造は、3次元的に孔が絡み合うような「アリの巣」状の構造であり、酸化ケイ素による骨格が「巣」で、貫通孔が「巣穴」にあたる。一方、バイノーダル型の相分離により得られる多孔質ガラスは、球形に近い閉曲面で囲まれた孔である独立孔が不連続に酸化ケイ素による骨格の中に存在している構造である。スピノーダル型の相分離由来の孔とバイノーダル型の相分離由来の孔は、電子顕微鏡による形態観察結果より判断され区別されうる。また、ガラス体の組成や相分離時の温度を制御することで、スピノーダル型の相分離かバイノーダル型の相分離が決まる。
【0020】
本発明の相分離性の母体ガラスは、SiO 50wt%以上70wt%以下、B 20wt%以上35wt%以下、LiO 1.5wt%以上5.0wt%以下、NaO 2.0wt%以上6.0wt%以下、KO 0.8wt%以上4.0wt%以下を含有する組成からなることがより望ましい。
【0021】
また、上記組成のアルカリ成分の好ましい関係が、LiO+NaO+KOが4.3wt%以上15wt%以下であることがより望ましい。
【0022】
さらに、本発明の相分離母体ガラスの好ましい組成は、SiO 55wt%以上70wt%以下、B 25wt%以上35wt%以下、LiO 1.5wt%以上3.0wt%以下、NaO 2.5wt%以上5.5wt%以下、KO 0.8wt%以上3.0wt%以下である。
【0023】
また、上記組成のアルカリ成分の好ましい関係が、LiO+NaO+KOが4.8wt%以上11wt%以下であることがさらに望ましい。
【0024】
ただし、本発明の相分離母体ガラスは、SiO LiO、NaO、KO以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、原料に含まれる不純物成分や製造工程で含有される不純物成分等が挙げられる。その他の成分としては、例えばAl等が挙げられる。その他の成分の含有量は、SiO LiO、NaO、KOの各成分の全体に対して、3.0wt%以下、特に2.0wt%以下が好ましい。
【0025】
LiOは相分離の加熱温度を低温化させるために必要であり、上述したように下限は1.0wt%以上、好ましくは1.5wt%以上がよい。また、LiOの含有量が多いと相分離の制御が困難となるため、上限は8.0wt%以下、好ましくは5.0wt%以下、最適には3.0wt%以下がよい。
【0026】
第3のアルカリ酸化物であるKO(KOのほかに、あるいは代わりに、酸化ルビジウム(RbO)、酸化セシウム(CsO)をもちいてもよい)の含有量は、孔径、空孔率の制御のため、下限は0.3wt%以上、好ましくは0.8wt%以上がよい。また、5.0wt%より大きい導入量では500℃以下の熱処理で相分離させることが困難となるため、上限は5.0wt%以下、好ましくは4.0wt%以下、最適には3.0wt%以下がよい。
【0027】
NaOの量は、アルカリ酸化物量、つまりLiO+NaO+KOが3.5wt%以上15.0wt%以下になるように、好ましくは4.3wt%以上15.0wt%の範囲に収まるように、最適には4.8wt%以上11.0wt%以下になるように2.0wt%以上8.0wt%以下の範囲内で定めればよい。
【0028】
本発明の相分離性の母体ガラスの製造方法は、原料の各成分の種類が異なる以外は、一般的なガラスの製造方法により行うことができる。一般的な相分離性の母体ガラスの材質としては、例えば、酸化ケイ素系母体ガラスとして酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物、酸化ケイ素−ホウ酸−アルカリ金属炭酸塩などのアルカリホウケイ酸塩ガラスを用いることが好ましい。
【0029】
本発明において相分離性の母体ガラスの製造方法は、前記組成範囲で均一に混合された原料を1350℃以上1450℃以下の範囲で加熱溶融させる。その後、板状に形成し相分離性の母体ガラスを作製する。溶融後の段階で過度な相分離が進行することなく、失透といった現象が起きない。第3のアルカリ酸化物(酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウム)が全アルカリ酸化物の10%未満の量であると相分離が過度に進行し、後の熱処理工程によって相分離を制御することが困難となる。
【0030】
上記の組成となるように原料を調製するほかは、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、各成分を含む原料を加熱溶融し、必要に応じて所望の形態に成形することにより製造することができる。加熱溶融する場合の加熱温度は、原料組成等により適宜設定すれば良いが、通常は1350℃以上1450℃以下、特に1380℃以上1430℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0031】
例えば、上記原料として酸化ケイ素、ホウ酸及び炭酸ナトリウムを均一に混合し、1350℃以上1450℃以下に加熱溶融すれば良い。
【0032】
また、多孔質ガラスを所定の形状にする場合は、相分離性の母体ガラスを合成した後、概ね1000℃以上1200℃以下の温度下で管状、板状、球状等の各種の形状に成形すれば良い。例えば、上記原料を溶融して相分離母体ガラスを合成した後、溶融温度から温度を降下させて1000℃以上1200℃以下に維持した状態で成形する方法を好適に採用することができる。
【0033】
次に、本発明に係る多孔質ガラスの製造方法について説明する。
【0034】
本発明に係る多孔質ガラスの製造方法は、上記の相分離性の母体ガラスを加熱処理して酸化ケイ素リッチ相と非酸化ケイ素リッチ相に相分離させる工程、非酸化ケイ素リッチ相を酸処理により除去する工程を有する。
【0035】
(相分離工程)まず、上記の相分離性の母体ガラスを加熱処理により相分離して酸化ケイ素リッチ相と非酸化ケイ素リッチ相に相分離させ、相分離ガラスを形成する工程を行う。
【0036】
上記組成の母体ガラスを用いることにより、加熱温度は500℃以下、具体的には300℃以上500℃以下の低温でも相分離を行うことが可能となる。このように、低温の加熱処理で相分離を行うことができるため、工業的には製造工程の負荷、コストの面で優位となる。
【0037】
また、基材の上に多孔質ガラス層を形成する構成においては、基材の耐熱温度が低くてもよく、基材の選択材料が増え、用途の幅を大きくなることが期待される。
【0038】
また、光学部材として多孔質ガラスを使用する場合、高温の加熱処理によるひずみが発生し、光学特性の面内ムラを生じる可能性があるが、低温の加熱処理によってその可能性を低減させることができる。
なお、加熱時間は3時間以上50時間以下であり、低温でも比較的短時間であるため、工業的には製造工程の負荷、コストの面で優位である。
【0039】
LiOを母体ガラスに導入することで、相分離領域が広がり、相分離が比較的低温にて進行させることができる。しかし、LiOのみの導入では相分離の制御が困難となるため第3のアルカリ酸化物(KO、RbO、CsO)を母体ガラスに導入することで、相分離の制御を可能とする。ただし、第3のアルカリ酸化物(KO、RbO、CsO)が全アルカリ酸化物の30%を超えると500℃以下で相分離の発現が起こらなくなる。また、第3のアルカリ酸化物(KO、RbO、CsO)には空孔率を上げる効果もある。半径の大きなカリウム、ルビジウム、セシウム元素を加えることで多孔質を作製するときに除去される体積を増やすことができる。さらに、アルカリ成分を複数含むことで混合アルカリ効果が得られ、軟化点を低下して加工が容易になる利点もある。
【0040】
(酸処理工程)
次に、相分離ガラスの非酸化ケイ素リッチ相をエッチング処理して除去し、多孔質ガラスを形成する工程を行う。具体的には、相分離工程より得られた相分離ガラスを酸溶液と接触させることにより酸可溶成分(非酸化ケイ素リッチ相)を溶出除去する。酸溶液としては、例えば塩酸、硝酸等の無機酸等を用いることができる。酸溶液は通常は水を溶媒とした水溶液の形態で好適に使用することができる。酸溶液の濃度は、通常は0.1mol/L以上2mol/L以下の範囲内で適宜設定すれば良い。この酸処理工程では、その溶液の温度を室温以上100℃以下の範囲とし、処理時間は1時間以上50時間以下とすれば良い。
【0041】
(水洗浄処理)
次に、水洗浄処理を行う。水洗浄処理を経て酸化ケイ素からなる骨格を持つ多孔質ガラスが得られる。水洗浄処理における洗浄水の温度は、一般的には室温以上100℃以下の範囲内とすれば良い。水洗浄処理の時間は、対象となるガラスの組成、大きさ等に応じて適宜定めることができるが、通常は1時間以上50時間以下とすれば良い。
【0042】
多孔質ガラスの平均孔径は、特に限定的でないが、1nm以上1μm以下、特に2nm以上0.5μm以下、さらには10nm以上100nm以下であることが好ましい。多孔質ガラスの空孔率は、通常は20%以上80%以下、特に30%以上70%以下であることが好ましい。
【0043】
多孔質ガラスの形状は、特に制限されず、例えば管状、板状等の膜状成形体が挙げられる。これらの形状は、多孔質ガラスの用途等に応じて適宜選択することができる。また、多孔質ガラスは基材の上に層として形成されていてもよい。また基材の表面は平坦な面に限らずレンズなどの曲面であってもよい。
【0044】
多孔質ガラスは、多孔質構造を均一に制御でき、孔径を一定の範囲内で変化させることが可能なため、吸着剤、マイクロキャリア担体、分離膜、光学部材などの用途が期待される。
【0045】
本発明の光学部材は、上記の多孔質ガラスの製造方法により得られた多孔質ガラスを有する。本発明の光学部材は、多孔質構造を幅広く制御可能なため撮像、観察、投射および走査光学系の光学レンズやディスプレイ装置に用いる偏光板などの用途に使用される。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。各実施例および比較例の多孔質ガラスの評価は下記の方法で行った。
【0047】
(1)表面観察
走査電子顕微鏡(FE−SEMS−4800、日立製作所製)を用いて多孔質ガラスの表面観察(加速電圧;5kV)を行った。
【0048】
[実施例1]
ガラス原料として、二酸化ケイ素、ホウ酸、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸カリウムを用い、それらをSiO:B:NaO:LiO:KO=64.2:28.5:4.2:2.3:0.8(wt%)組成比で均一に混合し、1400℃で加熱溶融した。その後、板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状の相分離母体ガラスを得た。この状態で相分離は発現していないで、失透といった現象もみられない。
【0049】
上記板状の相分離母体ガラスを300℃、400℃、500℃でそれぞれ50時間加熱処理を行った。その後1mol/L(1規定)の硝酸溶液にいれ、80℃で24時間保持した。その後80℃の水で24時間洗浄し、多孔質ガラス1A,1B,1Cを得た。
【0050】
得られた多孔質ガラス1Bの表面を電子顕微鏡観察した。図1に走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。熱処理温度が400℃において相分離が発現していることが分かる。すなわち400℃の温度で相分離の発現の制御が可能であることが分かる。同様に300℃、500℃で50時間熱処理した多孔質ガラス1A,1Cも相分離が発現していることを確認した。すなわち300℃以上500℃以下の温度で相分離の発現の制御が可能であることが分かった。
【0051】
[実施例2]
ガラス原料として、二酸化ケイ素、ホウ酸、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸カリウムを用い、それらをSiO:B:NaO:LiO:KO=63.9:28.3:3.2:2.3:2.3(wt%)組成比で均一に混合し、1400℃で加熱溶融した。その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状の相分離母体ガラスを得た。実施例1と同様相分離は発現していないで、失透といった現象もみられない。
【0052】
以下の処理は実施例1と同様に行い、多孔質ガラス2A,2B,2Cを得た。
【0053】
得られたガラス表面を電子顕微鏡観察した。400℃、50時間熱処理した多孔質ガラス2Bの表面の写真を図2に示す。400℃の熱処理にて相分離の発現を確認した。また、同様に300℃、500℃で50時間熱処理した多孔質ガラス2A,2Cも相分離が発現していることを確認した。すなわち300℃以上500℃以下の温度で相分離の発現の制御が可能であることが分かった。
【0054】
[実施例3]
ガラス原料として、二酸化ケイ素、ホウ酸、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸カリウムを用い、それらをSiO:B:NaO:LiO:KO=64.1:28.4:3.7:2.3:1.5(wt%)組成比で均一に混合し、1400℃で加熱溶融した。その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状の相分離母体ガラスを得た。
【0055】
以下の処理は実施例1と同様に行い、多孔質ガラス3A,3B,3Cを得た。得られたガラス表面を電子顕微鏡観察した結果、300℃、400℃、500℃で熱処理した多孔質ガラス3A,3B,3Cすべてにおいて相分離の発現を確認した。
【0056】
[実施例4]
ガラス原料として、二酸化ケイ素、ホウ酸、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸カリウムを用い、それらをSiO:B:NaO:LiO:KO=63.3:28.1:4.8:1.5:2.3(wt%)組成比で均一に混合し、1400℃で加熱溶融した。その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状の相分離母体ガラスを得た。
【0057】
以下の処理は実施例1と同様に行い、多孔質ガラス4A,4B,4Cを得た。得られたガラス表面を電子顕微鏡観察した結果、300℃、400℃、500℃で熱処理した多孔質ガラス4A,4B,4Cすべてにおいて相分離の発現を確認した。
【0058】
[比較例1]
ガラス原料として、二酸化ケイ素、ホウ酸、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸カリウムを用い、それらをSiO:B:NaO:LiO:KO=64.3:28.5:4.4:2.3:0.5(wt%)組成比で均一に混合し、1400℃で加熱溶融した。その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状の相分離母体ガラスを得た。
【0059】
この状態で相分離が進行しており、熱処理での相分離制御が困難であった。KOの量が少ない場合、相分離母体ガラスの作製時に冷却段階で相分離が進行し、熱処理にて相分離を制御することができない。そのため孔径、空孔率の制御が困難となる。
【0060】
[比較例2]
ガラス原料として、二酸化ケイ素、ホウ酸、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸カリウムを用い、それらをSiO:B:NaO:LiO:KO=63.8:28.3:3.0:2.3:2.6(wt%)組成比で均一に混合し、1400℃で加熱溶融した。その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状の相分離母体ガラスを得た。相分離の発現はなく、また透明膜として作製できた。
【0061】
上記板状の相分離母体ガラスを400℃で50時間加熱処理を行った。その後1mol/L(1規定)の硝酸溶液にいれ80℃で24時間保持した。その後80℃の水で24時間洗浄し、多孔質ガラスを得る工程を行った。
【0062】
得られたガラス表面を電子顕微鏡観察した結果を図3に示す、相分離が起こっていないため、酸化ケイ素骨格が形成されず、多孔質ガラスとして形成できていないことが分かる。
【0063】
[比較例3]
ガラス原料として、二酸化ケイ素、ホウ酸、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムを用い、それらをSiO:B:NaO:LiO=64.4:28.6:4.7:2.3(wt%)組成比で均一に混合し、1400℃で加熱溶融した。その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状相分離母体ガラスを得た。
【0064】
比較例1と同様、熱処理前に相分離が進行しており、相分離の制御ができなくなる。また、孔径が200nm以上と大きく、微細な多孔質の形成は困難となる。
【0065】
[比較例4]
ガラス原料として、二酸化ケイ素、ホウ酸、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを用い、それらをSiO:B:NaO:KO=61.4:27.2:4.5:6.9(wt%)組成比で均一に混合し、1400℃で加熱溶融した。その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状の相分離母体ガラスを得た。
【0066】
400℃、50時間の熱処理では相分離が見られない。また、600℃、50時間の条件でも相分離は見られない。
【0067】
[比較例5]
ガラス原料として、二酸化ケイ素、ホウ酸、炭酸ナトリウムを用い、それらをSiO:B:NaO=62.9:27.9:9.2(wt%)組成比で均一に混合し、1400℃で加熱溶融した。その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状相分離母体ガラスを得た。
【0068】
400℃、50時間の熱処理では相分離は確認できなかった。また、560℃、50時間の熱処理では、スピノーダル構造の多孔質ガラスが形成できている。
【0069】
以上の各実施例および比較例の結果をまとめて表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
(注1)KO割合は、KO/(LiO+NaO+KO)を表す。
(注2)相分離のaは、熱処理温度で処理した結果、相分離が確認できたものを表す。−は相分離が確認できなかったものを表す。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の相分離母体ガラスは、低温熱処理にて相分離の制御が可能であるため低コストで多孔質ガラスの作製が可能である。空孔率の制御ができることで光学部材用に幅広く応用が可能である。また、精密、電子、食品工業分野において極めて有用な材料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOの濃度が50wt%以上70wt%以下、Bの濃度が15wt%以上40wt%以下、LiOの濃度が1.0wt%以上8.0wt%以下、NaOの濃度が2.0wt%以上8.0wt%以下、KOの濃度が0.3wt%以上5.0wt%以下であり、前記LiOと前記NaOと前記KOの濃度の合計が3.5wt%以上15wt%以下であり、前記KOの濃度が前記LiOと前記NaOと前記KOの濃度の合計に対して0.10以上0.30以下の比率である母体ガラスを、300℃以上500℃以下の温度、3時間以上50時間以下で加熱して相分離させて相分離ガラスを形成する工程と、
前記相分離ガラスをエッチング処理して多孔質ガラスを形成する工程と、を有することを特徴とする多孔質ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記母体ガラスは、SiOの濃度が50wt%以上70wt%以下、Bの濃度が20wt%以上35wt%以下、LiOの濃度が1.5wt%以上5.0wt%以下、NaOの濃度が2.0wt%以上6.0wt%以下、KOの濃度が0.8wt%以上4.0wt%以下であり、前記LiOと前記NaOと前記KOの濃度の合計が4.3wt%以上15wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記母体ガラスは、SiOの濃度が55wt%以上70wt%以下、Bの濃度が25wt%以上35wt%以下、LiOの濃度が1.5wt%以上3.0wt%以下、NaOの濃度が2.5wt%以上5.5wt%以下、KOの濃度が0.8wt%以上3.0wt%以下であり、前記LiOと前記NaOと前記KOの濃度の合計が4.8wt%以上11wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質ガラスの製造方法。
【請求項4】
多孔質ガラスを有する光学部材の製造方法であって、
前記多孔質ガラスを形成する工程は、請求項1に記載の多孔質ガラスの製造方法により形成されることを特徴とする光学部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−193101(P2012−193101A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14366(P2012−14366)
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】