説明

多孔質シリカ相を形成可能な塗布液およびその製造方法、多孔質シリカ相の形成方法および固相抽出方法

【課題】イオン性界面活性剤または高分子量非イオン性界面活性剤のような特定の鋳型を使用する必要がなく、特別の装置も必要ない多孔質シリカ相を形成可能な塗布液及びその製造方法と多孔質シリカ薄膜が形成される基材が平板なものに限定されることがない多孔質シリカ相の形成方法等を提供する。
【解決手段】多孔質シリカ相を形成可能な塗布液は、TEOSとTEOSの重合のための触媒である酢酸とTEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類とシリカ相に細孔を形成するための添加物である所定の低分子量ジオール類と塗布液調製用の水とを備えている。所定の低分子量ジオール類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールとすることが好適である。多孔質シリカ相の形成方法は、上記塗布液中にガラス基板または試験管等の基材を浸漬させることにより、所定の基材に多孔質シリカ相を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シリカ相を形成可能な塗布液およびその製造方法、多孔質シリカ相の形成方法および固相抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質シリカは、吸着剤、触媒、触媒坦体、半導体材料等の利用に期待されている。中でも、陽イオン性界面活性剤や高分子量非イオン性界面活性剤を含む溶液からアルコキシシラン類を重合させて作成したものは、これら界面活性剤が鋳型となってメソ細孔(孔径2−50nmの細孔)を形成することから大きな注目を集めている(非特許文献1参照)。このようなメソポーラスシリカは大きな比表面積を持ち、比較的大きな分子も侵入可能で、平衡到達速度も迅速と考えられるため、吸着剤等として高い性能を発揮する。
【0003】
多孔質シリカ薄膜は基材上に形成されてセンサー、電気絶縁膜、コーティング膜等に利用されている。これら薄膜の形成法としては、上記と同様の組成の溶液を用いたディップコート法またはスピンコート法が一般的であるが、これらの形成法は特別の装置を必要としている。キャスティング法や浸漬法(非特許文献2参照)は特別の装置を必要とはしないが、キャスティング法では多孔質シリカ薄膜が形成される基材が平板なものに限定される。従って、浸漬法は特別の装置が必要でなく、種々の形状の基材に薄膜形成が可能であるという点で優れている。
【0004】
シリカ相はアルコキシシランの一つであるテトラエトキシシラン(以下TEOSと略記する。)を酸触媒下で重合することにより形成する。塗布液にはさらにアルコール類および有機化合物である添加物を含む必要がある。添加物は主に形成される細孔の鋳型となる界面活性剤であり、アルキルトリメチルアンモニウム塩のような陽イオン性界面活性剤(特許文献1参照)、ポリオキシエチレンエーテル(特許文献2参照)、ポリアルキレングリコール(特許文献3参照)、非イオン性トリブロックコポリマー(特許文献4、5参照)がある。鋳型無しでも特定の有機溶媒の存在下で多孔質シリカ相を形成することができる(特許文献6参照)。しかし、上記の形成法はほとんどの場合、スピンコート法やディップコート法によるもので特別の装置を必要としている。
【0005】
【非特許文献1】C. T. Kresge,M. E. Leonowicz, W. J. Roth, J. C. Vartuli, J. S. Beck, Ordered mesoporousmolecular sieves synthesized by a liquid-crystal template mechanism, Nature,1992,359,710-713.
【非特許文献2】H. Yang, A. Kuperman,N. Coombs, S. Mamiche-Afara, G. A. Ozin, Synthesis of oriented films ofmesoporous silica on mica, Nature,1996,379,703-705.
【特許文献1】特開平11―246665号公報
【特許文献2】特表2003−520745号公報
【特許文献3】特開2004―266068号公報
【特許文献4】特開2007―277066号公報
【特許文献5】特開2005―116830号公報
【特許文献6】特開2007―246795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の多孔質シリカ相の形成法は、イオン性界面活性剤または高分子量非イオン性界面活性剤のような特定の鋳型を使用する必要があるという問題があった。
鋳型無しで形成する形成法も存在するが、鋳型を使用する場合を含めて、ディップコート法またはスピンコート法を用いているため、従来の多孔質シリカ相の形成法は特別の装置を必要とするという問題があった。キャスティング法は特別の装置を必要とはしないが、多孔質シリカ薄膜が形成される基材が平板なものに限定されるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、イオン性界面活性剤または高分子量非イオン性界面活性剤のような特定の鋳型を使用する必要がなく、特別の装置も必要ない多孔質シリカ相を形成可能な塗布液およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、イオン性界面活性剤または高分子量非イオン性界面活性剤のような特定の鋳型を使用する必要がなく、特別の装置も必要なく、多孔質シリカ薄膜が形成される基材が平板なものに限定されることがない多孔質シリカ相の形成方法を提供することにある。
【0009】
本発明の第3の目的は、イオン性界面活性剤または高分子量非イオン性界面活性剤のような特定の鋳型を使用する必要がなく、特別の装置も必要なく、多孔質シリカ薄膜が形成される基材が平板なものに限定されることがない多孔質シリカ相の形成方法により形成された多孔質シリカ相を固相抽出剤として用いる固相抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液は、多孔質シリカ相を形成可能な塗布液であって、テトラエトキシシラン(TEOS)と、該TEOSの重合のための触媒である酢酸と、該TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類と、シリカ相に細孔を形成するための添加物である所定の低分子量ジオール類と、塗布液調製用の水とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、この発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液において、前記所定の低分子量ジオール類は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールとすることができる。
【0012】
ここで、この発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液において、前記所定のアルコール類はi−プロパノールとすることができる。
【0013】
この発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法は、容器に、テトラエトキシシラン(TEOS)と、該TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類とがとられ、超音波照射で混合される第1混合工程と、前記第1混合工程の前後に又は並行して、前記第1混合工程とは別の容器に、塗布液調製用の水と、前記所定のアルコール類と、前記TEOSの重合のための触媒である酢酸と、シリカ相に細孔を形成するための添加物である所定の低分子量ジオール類とがとられ、超音波照射で混合される第2混合工程と、前記第1混合工程で混合された溶液と前記第2混合工程で混合された溶液とが合わされた後、超音波照射が行われる工程とを備えたことを特徴とする。
【0014】
ここで、この発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法において、前記第2混合工程で用いられる所定の低分子量ジオール類は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールとすることができる。
【0015】
ここで、この発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法において、前記第1及び第2混合工程で用いられる所定のアルコール類はi−プロパノールとすることができる。
【0016】
この発明の多孔質シリカ相の形成方法は、本発明のいずれかの多孔質シリカ相を形成可能な塗布液中に所定の基材を浸漬させることにより、該所定の基材に多孔質シリカ相を形成させることを特徴とする。
【0017】
ここで、この発明の多孔質シリカ相の形成方法において、前記所定の基材はガラス基板又は試験管とすることができる。
【0018】
この発明の固相抽出方法は、本発明のいずれかの多孔質シリカ相の形成方法により多孔質シリカ相が形成された所定の基材をアルキルトリメトキシラン類あるいはアルキルトリエトキシラン類のトルエン溶液中でアルキル化し、水溶液等に浸して含有成分をアルキル相に抽出する固相抽出剤として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液は、TEOSと、TEOSの重合のための触媒である酢酸と、TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類と、シリカ相に細孔を形成するための添加物である所定の低分子量ジオール類と、塗布液調製用の水とを備えている。上記所定の低分子量ジオール類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールとすることが好適である。上記所定のアルコール類としては、i−プロパノールとすることが好適である。本発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法は、所定の低分子量ジオール類としてジエチレングリコールを用いた場合、以下の通りである。(1)ポリプロピレンビーカーに、58mmolの水、13mmolのi−プロパノール、89mmolの酢酸、11mmolのジエチレングリコールをとり、30秒間の超音波照射で混合する(第1混合工程)。(2)第1混合工程の前後にまたは並行して、別のポリプロピレンビーカーに54mmolのTEOS、13mmolのi−プロパノールをとり、30秒間の超音波照射で混合する(第2混合工程)。(3)第1混合工程で混合された溶液と第2混合工程で混合された溶液とを合わせて、30秒間の超音波照射を行い塗布液とする。以上により、本発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液およびその製造方法によれば、イオン性界面活性剤または高分子量非イオン性界面活性剤のような特定の鋳型を使用する必要がなく、特別の装置も必要ない多孔質シリカ相を形成可能な塗布液およびその製造方法を提供することができるという効果がある。
【0020】
本発明の多孔質シリカ相の形成方法は、本発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液中に所定の基材を浸漬させることにより、所定の基材に多孔質シリカ相を形成させるという方法である。上記所定の基材としては、ガラス基板または試験管であることが好適である。以上より、本発明の多孔質シリカ相の形成方法によれば、本発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液中にガラス基板または試験管等を浸漬させることにより、多孔質シリカ薄膜が形成される基材が平板なものに限定されることがない多孔質シリカ相の形成方法を提供することができるという効果がある。
【0021】
本発明の固相抽出方法は、本発明の多孔質シリカ相の形成方法により多孔質シリカ相が形成された所定の基材をアルキルトリメトキシラン類あるいはアルキルトリエトキシラン類のトルエン溶液中でアルキル化し、水溶液等に浸して含有成分をアルキル相に抽出する固相抽出剤として用いる。本発明の固相抽出方法によれば、本発明の多孔質シリカ相の形成方法により形成された多孔質シリカ相を固相抽出剤として用いる固相抽出方法を提供することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、本発明の概要等について説明し、次に、各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
概要.
本発明では、垂直に浸潰した基材上に多孔質シリカ相の形成が可能な塗布液を提供する。生成したシリカ相の多孔性は小角X線回折法、電界放射型走査電子顕微鏡(以下、「FE−SEM」と略記する。)による観察、およびオクタデシル基で修飾したシリカ相による水試料からのピレンの固相抽出における抽出パーセント(以下「%E」と略記する。)によって評価した。
【0024】
我々は、特別の装置が必要なく、様々な形状の基材にシリカ相の形成が可能な浸漬法について鋭意検討した。一例として、試験管先端へのシリカ相の形成を行った。まず、添加物がなくてもシリカ相を形成することができたが、形成されたものは白濁しておりピレンの%Eも低いものだった。次に、アルキルトリメチルアンモニウム塩、非イオン性トリブロックコポリマーをそれぞれ添加したが、同様の結果であった。
【0025】
一方、ポリアルキレングリコールの場合、高分子量のものを用いて形成したシリカ相は密着性の悪いもので固相抽出操作中に剥離したが、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールとの場合には、適切な条件で透明性の高い多孔質のシリカ相を得ることができた。1,4−ブタンジオールについても同様の結果を得ることができた。
【0026】
以上により、試験管の先端に多孔質シリカ相を有する固相抽出剤を作成することができた。これは小試料溶液から簡便に固相抽出操作を行うことに適している。さらに、センサーヘの応用も可能である。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施例1では、多孔質シリカ相を形成可能な塗布液とその製造方法について説明する。本発明の実施例1における多孔質シリカ相を形成可能な塗布液は、TEOSと、TEOSの重合のための触媒である酢酸と、TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類と、シリカ相に細孔を形成するための添加物である所定の低分子量ジオール類と、塗布液調製用の水とを備えている。上記所定の低分子量ジオール類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールとすることが好適である。但し、低分子量ジオール類(分子量200以下のもの)であれば、これらに限定されるものではない。上記所定のアルコール類としては、i−プロパノールとすることが好適である。但し、TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類であれば、i−プロパノールに限定されるものではない。
【0028】
本発明の実施例1における多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法は、一つ目の容器に、TEOSと、TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類とがとられ、超音波照射で混合される第1混合工程と、第1混合工程の前後にまたは並行して、第1混合工程とは別の容器に、塗布液調製用の水と、上記と同じ所定のアルコール類と、上記TEOSの重合のための触媒である酢酸と、シリカ相に細孔を形成するための添加物である所定の低分子量ジオール類とがとられ、超音波照射で混合される第2混合工程と、第1混合工程で混合された溶液と第2混合工程で混合された溶液とが合わされた後、超音波照射が行われる工程とを備えている。第2混合工程で用いられる所定の低分子量ジオール類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールであることが好適である。但し、低分子量ジオール類であれば、これらに限定されるものではない。第1および第2混合工程で用いられる所定のアルコール類としては、i−プロパノールであることが好適である。但し、TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類であれば、i−プロパノールに限定されるものではない。
【0029】
上記多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の調製について、以下、所定の低分子量ジオール類としてジエチレングリコールを用いた場合について説明する。
(1)ポリプロピレンビーカーに、58mmolの水(塗布液調製用の水)、13mmolのi−プロパノール、89mmolの酢酸、11mmolのジエチレングリコールをとり、30秒間の超音波照射で混合する(第1混合工程)。
(2)第1混合工程の前後にまたは並行して、別のポリプロピレンビーカーに54mmolのTEOS、13mmolのi−プロパノールをとり、30秒間の超音波照射で混合する(第2混合工程)。
(3)第1混合工程で混合された溶液と第2混合工程で混合された溶液とを合わせて、30秒間の超音波照射を行い塗布液とする。
【0030】
以上より、本発明の実施例1によれば、多孔質シリカ相を形成可能な塗布液は、TEOSと、TEOSの重合のための触媒である酢酸と、TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類と、シリカ相に細孔を形成するための添加物である所定の低分子量ジオール類と、塗布液調製用の水とを備えている。上記所定の低分子量ジオール類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールとすることが好適である。上記所定のアルコール類としては、i−プロパノールとすることが好適である。本発明の実施例1における多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法は、所定の低分子量ジオール類としてジエチレングリコールを用いた場合、以下の通りである。(1)ポリプロピレンビーカーに、58mmolの水、13mmolのi−プロパノール、89mmolの酢酸、11mmolのジエチレングリコールをとり、30秒間の超音波照射で混合する(第1混合工程)。(2)第1混合工程の前後にまたは並行して、別のポリプロピレンビーカーに54mmolのTEOS、13mmolのi−プロパノールをとり、30秒間の超音波照射で混合する(第2混合工程)。(3)第1混合工程で混合された溶液と第2混合工程で混合された溶液とを合わせて、30秒間の超音波照射を行い塗布液とする。以上により、イオン性界面活性剤または高分子量非イオン性界面活性剤のような特定の鋳型を使用する必要がなく、特別の装置も必要ない多孔質シリカ相を形成可能な塗布液およびその製造方法を提供することができる。
【実施例2】
【0031】
本発明の実施例2では、実施例1で説明した多孔質シリカ相を形成可能な塗布液を用いて多孔質シリカ相を形成する多孔質シリカ相の形成方法について説明する。
【0032】
本発明の実施例2における多孔質シリカ相の形成方法は、実施例1で説明した本発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液中に所定の基材を浸漬させることにより、所定の基材に多孔質シリカ相を形成させるという方法である。上記所定の基材としては、ガラス基板または試験管であることが好適である。
【0033】
以下、ガラス基板および試験管先端へのシリカ相の形成方法について説明する。実施例1で得られた塗布液をプラスチック容器に入れ、ガラス基板または試験管先端を浸してデシケーター中で放置した。約28分後からゲル化が始まり溶液が白濁する。白濁が始まってからさらに5−120分間浸漬を続ける。浸漬終了後、10−3Mアンモニア水中で残存するエトキシ基を加水分解した後、80℃および120℃で乾燥、さらに500℃で焼成した。時間経過と共に塗布液のゲル化か始まり溶液が白濁するが、溶液内の粒子が基材表面に付着することはない。ピレンの%Eに及ぼす放置時間の効果が重要であり、放置時間が短すぎても長すぎても%Eは低下する。これは、放置時間が短いときにはシリカ相の成長が十分でないためであり、一方、放置時間が長いときには一度形成した細孔を新たに形成するシリカ相がふさぐ傾向があるためと考えられる。
【0034】
次に、ガラス基板にまたは試験管先端に形成した多孔質シリカ相の測定結果について説明する。上述の概要で述べたように、形成したシリカ相の多孔性は小角X線回折法、FE−SEMにより観察した。図1は、ガラス基板または試験管先端に形成した多孔質シリカ相の小角X線回折を示すグラフである。図1で、横軸はブラッグ(Bragg)の式における散乱角である2θ(゜)、縦軸はX線強度(Intensity(Counts))である。図1に示されるように、散乱角2θが2−10゜の領域では回折ピークを観察することはできなかった。しかし、0.19゜付近にピークの形跡10を観察した。図2は、形成したシリカ相のFE−SEM画像を示す。図2に示されるように、FE−SEMでは幅10−20nmのチャネルを観察することができた。小角X線回折測定の結果から、このシリカ相には高い規則性のある構造は存在しないと思われた。しかし、FE−SEMでは幅10−20nmのチャネルが形成されていることが観察できた。これは、添加物を入れていないシリカ相には観察されなかった。
【0035】
以上より、本発明の実施例2によれば、実施例1で説明した本発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液中に所定の基材を浸漬させることにより、所定の基材に多孔質シリカ相を形成させるという方法である。上記所定の基材としては、ガラス基板または試験管であることが好適である。形成したシリカ相の多孔性は小角X線回折法、FE−SEMにより観察した。小角X線回折法では、散乱角2θが0.19゜付近にピークの形跡10を観察した。FE−SEMでは幅10−20nmのチャネルを観察することができた。以上より、実施例1で説明した本発明の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液中にガラス基板または試験管等を浸漬させることにより、多孔質シリカ薄膜が形成される基材が平板なものに限定されることがない多孔質シリカ相の形成方法を提供することができる。
【実施例3】
【0036】
本発明の実施例3では、実施例2で説明した多孔質シリカ相の形成方法により多孔質シリカ相が形成されたガラス基板または試験管等を固相抽出剤として用いる固相抽出方法について説明する。
【0037】
本発明の実施例3における固相抽出方法は、実施例2で説明した本発明の多孔質シリカ相の形成方法により多孔質シリカ相が形成された所定の基材をアルキルトリメトキシラン類あるいはアルキルトリエトキシラン類のトルエン溶液中でアルキル化し、水溶液等に浸して含有成分をアルキル相に抽出する固相抽出剤として用いるという方法である。より詳しくは、シリカ相を形成したガラス基板または試験管等をオクタデシルトリメトキシシランのトルエン溶液中でオクタデシルシリル化した。このガラス基板または試験管を、撹拌下のピレン水溶液に10分間浸してピレンをオクタデシル相に抽出した。次に、1.5mlのメタノールに浸して超音波照射下でピレンを溶離し、メタノール中のピレンを定量することにより%Eを求めた。
【0038】
シリカ相の比表面積が多くなるほどピレンの%Eは高くなるため、ピレンの固相抽出はシリカ相の多孔性の指標となる。図3は、実施例2で説明したガラス基板および試験管先端へのシリカ相の形成における浸漬時間の影響を示す。図3で、上段は浸漬時間(分)、下段は%Eである。実施例3では試験管を使用したが、図3に示されるように浸漬時間が20分以下では%Eが小さく、浸漬時間が30−40分でおよそ20%の抽出率を得ることができた。浸漬時間が50分となると%Eが低下した。
【0039】
以上より、本発明の実施例3によれば、実施例2で説明した本発明の多孔質シリカ相の形成方法により多孔質シリカ相が形成された所定の基材をオクタデシルトチメトキシランのトルエン溶液中でオクタデシル化し、ピレン水溶液に浸してピレンをオクタデシル相に抽出するピレンの固相抽出剤として用いる。より詳しくは、シリカ相を形成したガラス基板または試験管等をオクタデシルトリメトキシシランのトルエン溶液中でオクタデシルシリル化した。このガラス基板または試験管を、撹拌下のピレン水溶液に10分間浸してピレンをオクタデシル相に抽出した。次に、1.5mlのメタノールに浸して超音波照射下でピレンを溶離し、メタノール中のピレンを定量することにより%Eを求めた。この結果、実施例2で説明した多孔質シリカ相の形成方法により形成された多孔質シリカ相をピレンの固相抽出剤として用いるピレンの固相抽出方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の活用例として、センサー表面のコーティング、電気絶縁膜等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ガラス基板または試験管先端に形成した多孔質シリカ相の小角X線回折を示すグラフである。
【図2】形成したシリカ相のFE−SEM画像を示す図である。
【図3】実施例2で説明したガラス基板および試験管先端へのシリカ相の形成における浸漬時間の影響を示す表である。
【符号の説明】
【0042】
10 ピークの形跡。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質シリカ相を形成可能な塗布液であって、テトラエトキシシラン(TEOS)と、該TEOSの重合のための触媒である酢酸と、該TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類と、シリカ相に細孔を形成するための添加物である所定の低分子量ジオール類と、塗布液調製用の水とを備えたことを特徴とする多孔質シリカ相を形成可能な塗布液。
【請求項2】
請求項1記載の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液において、前記所定の低分子量ジオール類は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールであることを特徴とする多孔質シリカ相を形成可能な塗布液。
【請求項3】
請求項1又は2記載の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液において、前記所定のアルコール類はi−プロパノールであることを特徴とする多孔質シリカ相を形成可能な塗布液。
【請求項4】
多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法であって、
容器に、テトラエトキシシラン(TEOS)と、該TEOSの溶解性を高めるための所定のアルコール類とがとられ、超音波照射で混合される第1混合工程と、
前記第1混合工程の前後に又は並行して、前記第1混合工程とは別の容器に、塗布液調製用の水と、前記所定のアルコール類と、前記TEOSの重合のための触媒である酢酸と、シリカ相に細孔を形成するための添加物である所定の低分子量ジオール類とがとられ、超音波照射で混合される第2混合工程と、
前記第1混合工程で混合された溶液と前記第2混合工程で混合された溶液とが合わされた後、超音波照射が行われる工程とを備えたことを特徴とする多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法において、前記第2混合工程で用いられる所定の低分子量ジオール類は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールであることを特徴とする多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法において、前記第1及び第2混合工程で用いられる所定のアルコール類はi−プロパノールであることを特徴とする多孔質シリカ相を形成可能な塗布液の製造方法。
【請求項7】
多孔質シリカ相の形成方法であって、請求項1乃至3のいずれかに記載の多孔質シリカ相を形成可能な塗布液中に所定の基材を浸漬させることにより、該所定の基材に多孔質シリカ相を形成させることを特徴とする多孔質シリカ相の形成方法。
【請求項8】
請求項7記載の多孔質シリカ相の形成方法において、前記所定の基材はガラス基板又は試験管であることを特徴とする多孔質シリカ相の形成方法。
【請求項9】
固相抽出方法であって、請求項7又は8記載の多孔質シリカ相の形成方法により多孔質シリカ相が形成された所定の基材をアルキルトリメトキシラン類又はアルキルトリエトキシラン類のトルエン溶液中でアルキル化し、水溶液に浸してアルキル相に含有成分を抽出する固相抽出剤として用いることを特徴とする固相抽出方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−209282(P2009−209282A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54769(P2008−54769)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月5日 社団法人日本分析化学会発行の「日本分析化学会第56年会・講演要旨集」に発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】