説明

多孔質シートおよびその製造方法

【課題】樹脂繊維間の孔径の均一化を図ることができ、かつ繊維を規則的に配列することができるとともに、燃料電池用電極の電極層に適用した場合、触媒にガスを十分に効率良く到達させることができる多孔質シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂溶液10の放出では、負の電荷に帯電させた方向制御電極103Aの基材13の表面13Aに対する面内位置を変化させる。たとえば負の電荷に帯電させる方向制御電極103Aを、多数の方向制御電極103Aのなかから選択して順次切り替えていく。この場合、それ以外の方向制御電極103Aを正の電荷に帯電させる。このように基材13の裏面13Bの所定領域に対して走査すると、負の電荷に帯電させた方向制御電極103Aによる走査線に沿うようにして、たとえば多数の樹脂繊維12が表面13A上に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂繊維からなる多孔質シートおよびその製造方法に係り、特に樹脂繊維の配向制御技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非常に細い繊維からなる多孔質シートを製造する方法として、たとえば電気紡糸法(エレクトロスピニング法)がある。たとえば図4に示すように、電気紡糸法で製造される多孔質シート1は、一般的に繊維2同士がランダムに絡まった不織布状をなす樹脂繊維シートである。なお、符号3は基材を示している。
【0003】
このような多孔質シートは、各種用途に使用されている。たとえば特許文献1では、燃料電池の電解質膜両面の触媒層(電極層)に、不織布状の電解質樹脂繊維シート(多孔質シート)を適用し、当該樹脂繊維シートに触媒を付着させている。特許文献1では、触媒層中の電解質を繊維状とすることにより、繊維長方向におけるプロトン伝導性を向上させ、電池性能を向上させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−220416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、触媒層に繊維樹脂シートを適用すると、当該樹脂繊維シートは多孔質であるため、触媒層中への水素や酸素などのガスの到達を容易にし、触媒層中の触媒が前記ガスと反応しやすくなり電池性能が向上すると考えられる。しかしながら、特許文献1の多孔質シートは、不織布状であるため、樹脂繊維同士がランダムに絡まった構造を有し、触媒層中のガス拡散経路が長くなる。また、樹脂繊維間の孔(空隙)の径が不均一となり、ガスを効率良く触媒層中の触媒に到達させることは十分にはできなかった。
【0006】
したがって、本発明は、樹脂繊維間の孔径の均一化を図ることができ、かつ繊維を規則的に配列することができるとともに、燃料電池用電極の電極層に適用した場合、触媒にガスを十分に効率良く到達させることができる多孔質シートおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多孔質シートの製造方法は、基材の一面に向けて樹脂の溶液を放出するノズルと、基材の一面とは反対側の他面側に設けられた一または二以上の方向制御コレクタとを用い、樹脂の溶液を正または負の電荷に帯電させ、方向制御コレクタの少なくとも一個を樹脂の溶液とは異なる電荷に帯電させ、帯電させた樹脂の溶液をノズルから基材の一面に向けて放出することにより、樹脂の繊維からなる多孔質シートを基材の一面に形成し、帯電させた樹脂の溶液の放出では、樹脂の溶液とは異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタの基材の一面に対する面内位置を変化させることにより、樹脂の溶液の移動方向を制御することを特徴とする。
【0008】
本発明の多孔質シートの製造方法では、正または負の電荷に帯電させた樹脂の溶液の放出時、樹脂の溶液とは異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタの基材の一面に対する面内位置を変化させることにより、樹脂の溶液の移動方向を制御する。これにより、基材の一面上での樹脂の繊維の到達位置を制御することができるから、樹脂の繊維の配向を制御することができる。したがって、樹脂の繊維を規則的に配列させることができるから、樹脂の繊維同士の間の孔径の均一化を図ることができるとともに、ガス拡散経路を短くすることができる。その結果、たとえば燃料電池用電極の電極層に適用した場合、触媒にガスを十分に効率良く到達させることができる。
【0009】
本発明の多孔質シートの製造方法は種々の構成を用いることができる。たとえば樹脂の溶液とは異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタの面内位置の変化手法として種々の手法を用いることができる。
【0010】
たとえば異なる電荷に帯電させる方向制御コレクタを2以上の方向制御コレクタのなかから選択して順次切り替えることにより、異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタの面内位置を変化させる態様を用いることができる。この場合、異なる電荷に帯電させる方向制御コレクタ切り替え速度を、基材の一面への樹脂の繊維の到達速度以上に設定することが好適である。この態様では、樹脂の繊維を、基材の一面上の所定箇所で堆積させずに、スムーズに直線状に配列することができる。また、たとえば異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタを移動させることにより、異なる電荷にに帯電させた方向制御コレクタの面内位置を変化させる態様を用いることができる。
【0011】
本発明の多孔質シートは、本発明の多孔質シートの製造方法により製造され、樹脂の繊維が所定方向に配向された繊維層を備えたことを特徴とする。本発明の多孔質シートは、本発明の多孔質シートの製造方法と同様な効果を得ることができる。
【0012】
本発明の多孔質シートは、種々の構成を用いることができる。たとえば本発明の多孔質シートは、燃料電池用電極に適用される態様を用いることができる。具体的には、燃料電池用電極の電極層や、電極層と拡散層との間の保水層に適用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多孔質シートあるいはその製造方法によれば、樹脂の繊維間の孔径の均一化を図ることができ、かつ繊維を規則的に配列することができるとともに、たとえば燃料電池用電極の電極層に適用した場合、触媒にガスを十分に効率良く到達させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る一実施形態の多孔質シートの製造方法で使用する装置の一例を表し、(A)は装置の概略構成を表す斜視図、(B)は樹脂溶液とは異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタの経時的切り替え状態を表す部分拡大図である。
【図2】本発明に係る一実施形態の多孔質シートの製造方法で使用する装置の方向制御コレクタの他例を表し、樹脂溶液とは異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタの空間的移動の状態を表す部分拡大図である。
【図3】本発明に係る一実施形態の多孔質シートの一部の概略構成を表し、基材上に形成された状態の斜視図である。
【図4】従来の多孔質シートの一部の概略構成を表し、基材上に形成された状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る一実施形態の多孔質シートの製造方法で使用する装置100の一例を表し、(A)は装置100の概略構成を表す斜視図、(B)は負の電荷に帯電させた方向制御電極103A(方向制御コレクタ)の経時的切り替え状態を表す部分拡大図である。装置100は、エレクトロスピニング法(Electrospinning method)を用いて樹脂繊維12(繊維)からなる多孔質シートを製造する装置である。
【0016】
装置100は、たとえばノズル101、固定部102、および、コレクタ部103を備えている。ノズル101は、樹脂溶液10を放出するノズル先端部101Aを有している。ノズル先端部101Aは、たとえば正電位に設定され、ノズル先端部101Aから放出される樹脂溶液10は、たとえば正の電荷に帯電している。樹脂溶液10の樹脂は、エレクトロスピニング法を行うことが可能な電解質樹脂や非電解質樹脂であればよい。
【0017】
固定部102は、基材13を固定する。固定部102は、たとえば所定間隔おいて配置された1対の固定部材102A,102Bを有する。基材13は、たとえばポリエチレンテレフタラート (PET)等からなる絶縁フィルムである。基材13は、表面13Aがノズル101に対向するようにして固定部材102A,102Bに固定される。この場合、基材13の表面13A(一面)は、たとえば図1(A)に示すようにノズル先端部101Aの延在方向に対して垂直となるように配置されている。
【0018】
コレクタ部103は、基材13の裏面13B(他面)側に配置されている。コレクタ部103は、裏面13Bに当接していてもよいし、所定間隔をおいて配置されていてもよい。コレクタ部103は、X方向およびY方向に配列されて格子状をなす多数の方向制御電極103Aを有する。方向制御電極103A同士の境界部は絶縁部103Bにより絶縁されている。方向制御電極103Aの1辺の大きさは、たとえば5mm以下であり、方向制御電極103A同士の間隔は、たとえば15mm以下に設定されている。
【0019】
コレクタ部103は、たとえばプラズマディスプレイパネル(PDP)等で用いられているような駆動回路を使用することにより、各方向制御電極103Aの帯電状態を制御することができる。たとえばノズル先端部101Aを正電位に設定し、少なくとも1個の方向制御電極103Aはアースする、あるいは、負電位に設定し、それ以外の方向制御電極103Aは正電位に設定する。ノズル先端部101Aと、負の電荷に帯電させる方向制御電極103Aとの電位差は、たとえば3kV〜50kV程度に設定される。
【0020】
駆動回路による制御では、負の電荷に帯電させる方向制御電極103Aを、多数の方向制御電極103Aのなかから選択して順次切り替えていく。たとえば負の電荷に帯電させる1個の方向制御電極103Aを、その方向制御電極103Aに隣接する方向制御電極103Aに順次切り替えていく。この場合、それ以外の電極103Aを正の電荷に帯電させる。このように負の電荷に帯電させた方向制御電極103Aの基材13の表面13Aに対する面内位置を変化させる。
【0021】
装置100では、ノズル先端部101Aと方向制御電極103Aとの間には高電場が形成され、たとえば正の電荷に帯電させた樹脂溶液10には、負の電荷に帯電させた方向制御電極103Aから電気的引力が働く。この場合、ノズル先端部101Aの先端では、樹脂溶液10は、表面が正の電荷に帯電した円錐状のテイラーコーン(Taylor cone)の形態をなす。たとえばテイラーコーンにおいて電荷の反発力が表面張力を超えたとき、そこから樹脂溶液10が連続的に放出される。放出された樹脂溶液10では、基材13の表面13Aに到達するまでの間に樹脂溶液10の溶媒が蒸発し、基材13の表面13A上に樹脂繊維12が紡糸される。
【0022】
ここで本実施形態では、負の電荷に帯電させた方向制御電極103Aの基材13の表面13Aに対する面内位置を変化させることにより、樹脂溶液10の移動方向を制御しているから、基材13の表面13A上での樹脂繊維12の到達位置を制御することができる。
【0023】
具体的には、樹脂溶液10の放出において、駆動回路による制御によって、たとえば図1(B)の矢印で示すように、負の電荷に帯電させる1個の方向制御電極103Aを、X方向の正方向、Y方向の正方向、X方向の負方向、Y方向の正方向、X方向の正方向、、、、へと向けて所定の速度で変更していく。この場合、それ以外の方向制御電極103Aを正の電荷に帯電させる。このように基材13の裏面13Bの所定領域に対して走査すると、負の電荷に帯電させた方向制御電極103Aによる走査線に沿うようにして、たとえば多数の樹脂繊維12が表面13A上に形成される。
【0024】
負の電荷に帯電させる方向制御電極103Aの走査方向や各種条件を適宜設定することにより、所定方向に配向した繊維層を一層有する多孔質シートを形成することができるのはもちろんのこと、配向方向が互いに交差した複数の繊維層が積層された多孔質シートを形成することができる。たとえば図3に示す多孔質シート11では、配向方向がX方向である樹脂繊維12Bからなる繊維層と配向方向がY方向である樹脂繊維12Aからなる繊維層とが交互に積層されている。樹脂繊維は、たとえば繊維径が30〜5000nm(好適には200nm)であるナノファイバであり、繊維間距離lは、たとえば0.5〜20μmである。また、図3に示すように繊維層を積層する場合、樹脂繊維12A,12Bの配向方向の交差角度は、たとえば30〜90°の範囲内に設定することが好適である。この態様では、燃料電池用電極の電極層に適用した場合、触媒にガスをさらに効率良く到達させることができる。
【0025】
以上のように本実施形態では、樹脂溶液10の移動方向を制御することにより、基材13の表面13A上での樹脂繊維12の到達位置を制御することができるから、樹脂繊維12の配向を制御することができる。したがって、樹脂繊維12を規則的に配列させることができるから、樹脂繊維12同士の間の孔径を均一化を図ることができるとともに、ガス拡散経路を短くすることができる。その結果、たとえば燃料電池用電極の触媒層に適用した場合、たとえば触媒に燃料ガスを十分に効率良く到達させることができる。
【0026】
特に、負の電荷に帯電させる方向制御電極103Aの切り替え速度を、基材13の表面13Aへの樹脂繊維12の到達速度以上に設定することにより、樹脂繊維12を、表面13A上の所定箇所で堆積させずに、スムーズに直線状に配列することができる。
【0027】
以上のように上記実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。たとえば帯電させた方向制御電極103Aの基材13の表面13Aに対する面内位置の変化手法として、コレクタ部103を多数の方向制御電極103Aから構成し、負の電荷に帯電させた方向制御電極103Aを順次変更する手法の代わりに、たとえばコレクタ部をたとえば1個の方向制御電極から構成し、その方向制御電極を負の電荷に帯電させて移動させる手法を用いてもよい。具体的には、たとえば駆動機構等を用いて図2に示す方向制御電極113Aを、基材13の裏面13B側で図の矢印の向きに移動させることにより、上記実施形態と同様な多孔質シートを製造することができる。
【0028】
また、上記実施形態では、負の電荷に帯電させる方向制御電極103Aとして1個の方向制御電極を用いてドット状の電極で走査するようにしたが、これに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、負の電荷に帯電させる方向制御電極103Aとして、X方向あるいはY方向にライン状に並ぶ複数の方向制御電極103Aを用いて走査するようにしてもよい。また、図2に示す他例では、図に示す形態の代わりに、方向制御電極113Aの形状を、X方向あるいはY方向に延在するライン状にしたものを用いて移動するようにしてもよい。
【0029】
さらに、互いに異なる樹脂溶液を有するノズル101を複数本設け、各ノズル101について樹脂溶液の放出およびその方向制御を行うことにより、互いに異なる樹脂繊維からなる複数の繊維層を積層してもよい。基材13の表面13Aの各領域に対応してノズル101を複数本設け、基材13の領域毎に、ノズル101に対応する方向制御電極で樹脂溶液の移動方向の制御を行ってもよい。
【符号の説明】
【0030】
10…樹脂溶液、11…多孔質シート、12,12A,12B…樹脂繊維(繊維)、13…基材、13A…表面(一面)、13B…裏面(他面)、101…ノズル、101A…ノズル先端部、102…固定部、102A,102B…固定部材、103…コレクタ部、103A,113A…方向制御電極(方向制御コレクタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一面に向けて樹脂の溶液を放出するノズルと、前記基材の一面とは反対側の他面側に設けられた一または二以上の方向制御コレクタとを用い、
前記樹脂の溶液を正または負の電荷に帯電させ、前記方向制御コレクタの少なくとも一個を前記樹脂の溶液とは異なる電荷に帯電させ、前記帯電させた樹脂の溶液を前記ノズルから前記基材の一面に向けて放出することにより、前記樹脂の繊維からなる多孔質シートを前記基材の一面に形成し、
前記帯電させた前記樹脂の溶液の放出では、前記樹脂の溶液とは異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタの前記基材の一面に対する面内位置を変化させることにより、前記樹脂の溶液の移動方向を制御することを特徴とする多孔質シートの製造方法。
【請求項2】
前記異なる電荷に帯電させる方向制御コレクタを前記2以上の方向制御コレクタのなかから選択して順次切り替えることにより、前記異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタの前記面内位置を変化させることを特徴とする請求項1に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項3】
前記異なる電荷に帯電させる方向制御コレクタの切り替え速度を、前記基材の一面への前記樹脂の繊維の到達速度以上に設定することを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項4】
前記異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタを移動させることにより、前記異なる電荷に帯電させた方向制御コレクタの前記面内位置を変化させることを特徴とする請求項1に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質シートの製造方法により製造され、前記樹脂の繊維が所定方向に配向された繊維層を備えたことを特徴とする多孔質シート。
【請求項6】
燃料電池用電極に適用されることを特徴とする請求項5に記載の多孔質シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87389(P2013−87389A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229217(P2011−229217)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】