説明

多孔質シート付基材の製造方法および製造装置

【課題】電極による樹脂繊維の配列効果を効果的に得ることができる多孔質シート付基材の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】樹脂繊維11Aからなる多孔質シート11を電極ドラム102の電極102A上に直接形成した後に、多孔質シート11を基材12に転写する。これにより、基材12への多孔質シート11の形成を容易に行うことができる。また、多孔質シート11の形成時には、図1に示すように電極ドラム102とノズル101との間に基材12を介在させる必要がない。電極ドラム102を複数の電極102Aから構成した場合、樹脂繊維11Aが紡糸される部分同士の間(すなわち、電極102A同士の間)で電位が一様になることを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シート付基材の製造方法および製造装置に係り、特に、基材への多孔質シートの形成技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非常に細い繊維からなる多孔質シートを製造する方法として、たとえば電気紡糸法(エレクトロスピニング法)がある。たとえば図5に示すように、電気紡糸法で製造される多孔質シート1は、一般的に繊維2同士がランダムに絡まった不織布状をなす樹脂繊維シートである。なお、符号3は基材を示している。
【0003】
このような多孔質シートは、各種用途に使用されている。たとえば特許文献1では、燃料電池の電解質膜両面の触媒層(電極層)に、不織布状の電解質樹脂繊維シート(多孔質シート)を適用し、当該樹脂繊維シートに触媒を付着させている。特許文献1では、触媒層中の電解質を繊維状とすることにより、繊維長方向におけるプロトン伝導性を向上させ、電池性能を向上させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−220416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒層に繊維樹脂シートを適用すると、当該樹脂繊維シートは多孔質であるため、触媒層中への水素や酸素などのガスの到達を容易にし、触媒層中の触媒が前記ガスと反応しやすくなり電池性能が向上すると考えられる。しかしながら、特許文献1の多孔質シートは、不織布状であるため、樹脂繊維同士がランダムに絡まった構造を有し、触媒層中のガス拡散経路が長くなる。また、樹脂繊維間の孔(空隙)の径が不均一となり、ガスを効率良く触媒層中の触媒に到達させることは十分にはできなかった。
【0006】
そこで、樹脂繊維の配向を制御することにより、孔径が均一で、かつ繊維が規則的に配列すされた樹脂繊維シートを形成することが考えられる。
【0007】
具体的には、たとえば図6に示すようにコレクタ電極部として2個の電極113を設け、アースした電極113上に基材112を配置する。この場合、たとえば正の電荷帯電させた樹脂溶液をノズル(図示略)から基材112の表面に向けて放出する。すると、樹脂繊維が、基材112の表面において電極113間を延在するようにして紡糸される。これにより、配向制御された樹脂繊維からなる多孔質シートが得られると考えられる。
【0008】
しかしながら、上記配向制御手法では、基材112の裏面から表面へ向かうに従い、電極113同士の電位が重なり合うため、樹脂繊維が紡糸される基材112の表面における電極113同士の間では、電位が略一様になる。このように基板112の表面において電位が一様になるため、電極113による樹脂繊維の配列効果が得られず、樹脂繊維がランダムになる虞がある。
【0009】
したがって、本発明は、電極による樹脂繊維の配列効果を効果的に得ることができる多孔質シート付基材の製造方法および製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多孔質シート付基材の製造方法は、樹脂の溶液を放出するノズルと、コレクタ電極部とを用い、樹脂の溶液を正または負の電荷に帯電させ、樹脂の溶液とは異なる電荷にコレクタ電極部を帯電させ、帯電させた樹脂の溶液をノズルからコレクタ電極部に向けて放出することにより、樹脂の繊維からなる多孔質シートをコレクタ電極部上に形成し、コレクタ電極部上の多孔質シートを基材に転写することを特徴とする。
【0011】
本発明の多孔質シート付基材の製造方法では、樹脂の繊維からなる多孔質シートをコレクタ電極部に直接形成した後に多孔質シートを基材に転写するから、基材への多孔質シートの形成を容易に行うことができる。
【0012】
また、多孔質シートの形成時には、コレクタ電極部とノズルとの間に基材を介在させず、樹脂の繊維からなる多孔質シートをコレクタ電極部に直接形成しているから、たとえばコレクタ電極部を複数の電極から構成した場合、樹脂繊維が紡糸される部分同士の間(すなわち、コレクタ電極部の電極同士の間)で電位が一様になることを抑制することができる。これにより、電極による樹脂の繊維の配列効果を得ることができる。このように樹脂の繊維の配向を制御することができるから、樹脂の繊維を規則的に配列させることができる。したがって、樹脂の繊維同士の間の孔径の均一化を図ることができるとともに、ガス拡散経路を短くすることができるから、たとえば燃料電池用電極の電極層に適用した場合、触媒にガスを十分に効率良く到達させることができる。
【0013】
本発明の多孔質シート付基材の製造方法は、種々の構成を用いることができる。たとえば多孔質シートの基材への転写では、押圧治具を用いて、樹脂の溶液の放出方向とは反対側から基材に向かって多孔質シートを押圧する態様を用いることができる。この態様では、押圧治具を用いるだけという簡単な構成で多孔質シートの基材への転写を行うことができる。
【0014】
本発明の多孔質シート付基材の製造装置は、樹脂の溶液を放出するノズルと、円形状に並んで配置される複数の電極を有する電極ドラムと、電極ドラムの電極上に形成された多孔質シートを、電極ドラムの外周側に配置された基材に転写する押圧治具とを備え、押圧治具は、電極同士の間で径方向に伸縮可能に設けられた押圧部材を有し、樹脂の溶液を正または負の電荷に帯電させ、樹脂の溶液とは異なる電荷に電極ドラムの電極を帯電させ、帯電させた樹脂の溶液をノズルから電極に向けて放出することにより、電極間に延在する樹脂の繊維からなる多孔質シートを形成し、押圧治具の押圧部材を用いて、多孔質シートの形成後に配置された基材に向かって多孔質シートを押圧することにより、基材への多孔質シートの転写を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明の多孔質シート付基材の製造装置は、本発明の多孔質シート付基材の製造方法を適用することができる製造装置であるから、本発明の多孔質シート付基材の製造方法と同様な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多孔質シート付基材の製造方法あるいは製造装置によれば、基材への多孔質シートの形成を容易に行うことができる。また、電極間に多孔質シートを形成する場合、樹脂の繊維同士の間の孔径の均一化を図ることができるとともに、ガス拡散経路を短くすることができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る一実施形態の多孔質シート付基材の製造方法で使用する装置の一例の概略構成を表し、多孔質シートの形成時の装置図である。
【図2】本発明に係る一実施形態の多孔質シート付基材の製造方法で使用する装置の一例の概略構成を表し、基材への多孔質シートの転写時の装置図である。
【図3】図1に示す装置の電極ドラムの概略構成を表す斜視図である。
【図4】図3に示す電極ドラム上に多孔質シートが形成された状態を表す斜視図である。
【図5】従来の多孔質シートの一部の概略構成を表し、基材上に形成された状態の斜視図である。
【図6】コレクタ電極部が基材の裏面に配置された比較例のコレクタ電極部をアースした状態を表す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る一実施形態の多孔質シート付基材の製造方法で使用する装置100の一例の概略構成を表し、多孔質シート11の形成時の図である。図2は、基材12への多孔質シート11の転写時の装置100の図である。図2では、ノズル101の図示を省略している。装置100は、エレクトロスピニング法(Electrospinning method)を用いて樹脂繊維11A(繊維)からなる多孔質シート11を電極102A上に形成し、多孔質シート11を基材12に転写する装置である。
【0019】
装置100は、たとえば図1に示すように多孔質シートの形成時に使用されて樹脂溶液10を放出するノズル101を有している。ノズル101は、たとえば正の電位に設定され、ノズル101から放出される樹脂溶液10は、たとえば正の電荷に帯電している。樹脂溶液10の樹脂は、エレクトロスピニング法を行うことが可能な電解質樹脂や非電解質樹脂であればよい。
【0020】
ノズル101に対向して電極ドラム102(コレクタ電極部)が配置されている。電極ドラム102は、たとえば軸線中心回りに回転可能に設けられている。ノズル101は、たとえば図1に示す例では電極ドラム102の右下に配置されているが、これに限定されるものではなく、電極ドラム102の外周側に配置されていればよい。電極ドラム102は、互いに間隔をおいて配置されるとともに直線状に延在する複数の電極102Aを有し、たとえば図3に示すように略円筒形状をなしている。電極102A同士の間には、たとえば図1,2に示すように内外部に連通する空間が形成されている。なお、図3では、右半分の電極102Aのみ図示している。
【0021】
具体的には、複数の電極102Aは、円形状をなすように並んで配置されている。電極102Aは、たとえばワイヤから構成される。電極102A同士の間隔は、たとえば15mm以下に設定する。電極102Aの幅は、たとえば100μm以下(好適には10μm以下)に設定する。
【0022】
電極ドラム102の電極102Aは、アースする、あるいは、負の電位に設定する。この場合、電位設定は、複数の電極102Aに対して選択的に行ってもよい。ノズル101Aと電極102Aとの電位差は、たとえば5kV〜30kV程度に設定される。
【0023】
電極102Aの両縁部には、電極102Aを支持する円形状の支持部102Bが設けられている。支持部102Bの周縁部には、たとえば電極102Aに接続される配線が設けられ、その配線は、たとえば絶縁体で被覆されている。
【0024】
電極ドラム102の内部には、押圧治具103が配置されている。押圧治具103は、たとえば電極ドラム102の軸線中心に配置されるシャフト103Aを有し、シャフト103Aの周面には、径方向に伸縮可能に突出する複数の押圧部材103Bが設けられている。シャフト103Aの両端部は、たとえば支持部102Bに支持されている。シャフト103Aおよび押圧部材103Bは、たとえば電極102Aと同様、軸線方向に直線状に延在している。電極ドラム102の外部には、多孔質シート11の形成後、基材12が配置される。基材12は、たとえばポリエチレンテレフタラート (PET)等からなる絶縁フィルムである。
【0025】
装置100では、ノズル101と電極ドラム102の電極102Aとの間には高電場が形成され、たとえば正の電荷に帯電させた樹脂溶液10には、負の電荷に帯電させた電極102Aから電気的力が働く。この場合、ノズル101の先端では、樹脂溶液10は、表面が正の電荷に帯電した円錐状のテイラーコーン(Taylor cone)の形態をなす。たとえばテイラーコーンにおいて電荷の反発力が表面張力を超えたとき、そこから樹脂溶液10が連続的に放出される。放出された樹脂溶液10では、負の電荷に帯電させた電極102Aの表面に到達するまでの間に樹脂溶液10の溶媒が蒸発し、図1に示すように電極102Aの表面上に樹脂繊維11Aが紡糸される。
【0026】
この場合、電極102Aは軸線方向に延在しているから、樹脂繊維11Aは、たとえば図4に示すように軸線方向に交差するとともに隣接する電極102A間を延在するようにして紡糸され、多孔質シート11が形成される。この場合、樹脂繊維11Aは、電極102Aの延在方向に略直交する(すなわち、円周方向に沿う)ようにして配列される。
【0027】
樹脂溶液10の放出時、たとえば電極ドラム102の電極102Aを軸線中心回りに適宜回動させることができる。この態様では、多孔質シート11は、電極102Aが並んでいる方向に沿って形成され、その断面が円形状をなすように延在することができる。なお、図4では、右半分の電極102Aおよび樹脂繊維11Aのみ図示している。
【0028】
このような多孔質シート11の形成後、図2に示すように電極ドラム102の外周側に基材12を配置することにより、多孔質シート11の表面に基材12を対向させる。次いで、押圧治具103を用い、電極102A上の多孔質シート11を基材12に転写する。具体的には、複数(たとえば図2では2個)の押圧部材103Bをシャフト103Aから径方向外側に突出させ、押圧部材103Bによって、電極102A同士の間の多孔質シート11の裏面を基材12側に押圧する。これにより、多孔質シート11が基材12に転写される。この場合、基材12の移動および電極ドラム102の軸線中心回りの回転を適宜行うことにより、基材12の表面への多孔質シート11の転写をスムーズに行うことができる。
【0029】
ここで本実施形態では、多孔質シート11を、電極102A上に直接形成した後に基材12に転写するから、多孔質シートの形成時には、電極ドラム102とノズル101との間に基材12を介在させる必要がない。これにより、電極ドラム102を複数の電極102Aから構成した場合、樹脂繊維11Aが紡糸される部分同士の間(すなわち、電極102A同士の間)で電位が一様になることを抑制することができる。これにより、電極102Aによる樹脂繊維11Aの配列効果を得ることができ、樹脂繊維11Aの配向を制御することができる。
【0030】
この場合、各種条件を適宜設定することにより、所定方向に配向した繊維層を一層有する多孔質シート11を形成することができる。樹脂繊維11Aは、たとえば繊維径が30〜5000nm(好適には200nm以下)であるナノファイバであり、繊維間距離は、たとえば0.5〜20μmである。
【0031】
繊維層を積層する場合、一方の多孔質シート11に、他方の多孔質シート11を転写することにより繊維層の積層構造を得ることができる。この場合、隣接する繊維層同士の樹脂繊維の配向方向の交差角度は、たとえば30〜90°の範囲内に設定することが好適である。この態様では、たとえば燃料電池用電極の電極層に適用した場合、触媒にガスをさらに効率良く到達させることができる。
【0032】
以上のように本実施形態では、樹脂繊維11Aからなる多孔質シート11を電極ドラム102の電極102A上に直接形成した後に多孔質シート11を基材12に転写することにより、基材12への多孔質シート11の形成を容易に行うことができる。また、電極ドラム102を複数の電極102Aから構成した場合、樹脂繊維11Aを規則的に配列させることができるから、樹脂繊維11A同士の間の孔径の均一化を図ることができるとともに、ガス拡散経路を短くすることができる。その結果、たとえば燃料電池用電極の電極層に適用した場合、触媒にガスを十分に効率良く到達させることができる。
【0033】
以上のように上記実施形態を用いて本発明を説明したが、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば押圧治具103の押圧部材103Bの個数は、任意に設定することができる。この場合、押圧治具103のシャフト103Aを支持部102Bに対して回転可能に構成し、押圧部材103Bが押圧する部分を変更してもよい。多孔質シートを押圧するための押圧手段としては、押圧治具103に限定されるものではなく、多孔質シートを基材に向かって押圧することができる治具であればよい。さらに、本発明のコレクタ電極部として、複数の電極102Aを有する電極ドラム102を用いたが、これに限定されるものではなく、複数の電極を所定間隔をおいて配置した形態であればよい。たとえば複数の電極を平面状をなすように配置してもよい。また、樹脂繊維が紡糸される電極の個数は、任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0034】
10…樹脂溶液、11…多孔質シート、11A…樹脂繊維(繊維)、12…基材、101…ノズル、102…電極ドラム(コレクタ電極部)、102A…電極、103…押圧治具、103A…シャフト、103B…押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の溶液を放出するノズルと、コレクタ電極部とを用い、
前記樹脂の溶液を正または負の電荷に帯電させ、前記樹脂の溶液とは異なる電荷に前記コレクタ電極部を帯電させ、前記帯電させた樹脂の溶液を前記ノズルから前記コレクタ電極部に向けて放出することにより、前記樹脂の繊維からなる多孔質シートをコレクタ電極部上に形成し、
前記コレクタ電極部上の多孔質シートを基材に転写することを特徴とする多孔質シート付基材の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質シートの前記基材への転写では、押圧治具を用いて、前記樹脂の溶液の放出方向とは反対側から前記基材に向かって前記多孔質シートを押圧することを特徴とする請求項1に記載の多孔質シート付基材の製造方法。
【請求項3】
樹脂の溶液を放出するノズルと、
円形状に並んで配置される複数の電極を有する電極ドラムと、
前記電極ドラムの電極上に形成された多孔質シートを、前記電極ドラムの外周側に配置された基材に転写する押圧治具とを備え、
前記押圧治具は、前記電極同士の間で径方向に伸縮可能に設けられた押圧部材を有し、
前記樹脂の溶液を正または負の電荷に帯電させ、前記樹脂の溶液とは異なる電荷に前記電極ドラムの前記電極を帯電させ、前記帯電させた樹脂の溶液を前記ノズルから前記電極に向けて放出することにより、前記電極間に延在する前記樹脂の繊維からなる前記多孔質シートを形成し、
前記押圧治具の前記押圧部材を用いて、前記多孔質シートの形成後に配置された前記基材に向かって前記多孔質シートを押圧することにより、前記基材への前記多孔質シートの転写を行うことを特徴とする多孔質シート付基材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−91877(P2013−91877A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235158(P2011−235158)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】