説明

多孔質セラミック、光触媒担持体及び浄化装置

【課題】
バインダを用いることなく光触媒を担持することができる多孔質セラミック及び光触媒作用が高い光触媒担持体、及びそれを用いた浄化装置を提供する。
【解決手段】本発明の多孔質セラミックは、気孔径が1μm以下の気孔を有するのであり、かかる多孔質セラミックは、例えば、粘土、長石及び陶石を含有する坏土に発泡剤を加えて焼結したものである。また、本発明の光触媒担持体は、前記多孔質セラミックに、光触媒を担持させてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を担持する機能に優れた多孔質セラミック、光触媒作用により、防汚、防臭、抗菌等の機能を奏する光触媒担持体、並びに、浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二酸化チタン等の光触媒は、光が当たると光触媒作用により、その表面に触れた有機物を分解し、防汚、防臭、抗菌作用等の機能を奏することが知られており、このような光触媒の防汚、防臭、抗菌等の機能を利用した環境浄化方法、環境浄化装置が注目されている。
ところで、光触媒は通常粉末状であるので、環境浄化装置に組み込むためには、何らかの方法で光触媒を基材上に固定化する必要がある。固定方法としては、以下の(1)〜(3)の方法が知られている。
【0003】
(1)粉末状の光触媒を有機バインダと混合して基材上に塗布し、その後、常温下又は加熱して固定させる(特許文献1参照)。
(2)粉末状の光触媒を無機バインダと混合して基材上に塗布し、その後、常温下又は加熱して固定させる(特許文献2参照)。
(3)光触媒と溶媒とを混合して成るコーティング剤を基材上に塗布した後、高温で加熱し、基材上に酸化物光触媒を固定化する(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−060132号公報
【特許文献2】特開2001−38218号公報
【特許文献3】特開2001−259435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記(1)、(2)の方法では、光触媒粉末がバインダに埋もれた状態となり、バインダが光触媒表面の大部分を覆ってしまうため、光触媒の表面のうち、露出している部分の面積が減少し、その結果として、光触媒作用が低下してしまうという問題があった。更に、上記(1)の方法では、光触媒作用により有機バインダが分解されてしまうため、徐々に被膜強度が低下し、光触媒の粉末が次第に脱落してしまうという耐久性上の問題もあった。
【0006】
また、上記(3)の方法では、高温で加熱するため、光触媒の焼結が起こってしまい、光触媒の表面積が減少し、光触媒作用が低下してしまうという問題があった。更に、上記(3)の方法では、高温で焼成することで、光触媒の結晶型が低活性の結晶型に相転移し、光触媒作用が低下してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は上記の問題点を解決すべく、バインダやコーティング剤を用いることなく光触媒を担持でき、また担持した際に脱落が生じ難い多孔質セラミック、及び光触媒を担持し、高い光触媒作用を発揮する光触媒担持体、並びに該光触媒担持体を用いた浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者の鋭意研究の結果、光触媒を担持させる多孔質セラミックの気孔の気孔径等の設定条件により、光触媒を容易に担持させることができる一方、光触媒の脱落を生じ難くさせ、高い光触媒作用を機能させることができることを見出し、上記の課題を解決するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、表面に開口する気孔径1μm以下の気孔を有することを特徴とする多孔質セラミックを提供する。表面に開口する気孔径10μm以下の気孔の細孔径分布において、気孔径0.01〜1μmの範囲に分布ピークを有することが好ましい。表面に開口する気孔径10μm以下の気孔の分布率が10%以上であることが好ましい。表面に開口する気孔径10μm以下の気孔の分布率において、1μm以下の気孔の分布率と4〜10μmの気孔の分布率が、いずれも1μmより大きく4μm未満の気孔の分布率より大きく、かつ、1μm以下の気孔の分布率が4〜10μmの気孔の分布率の2倍以上であることが好ましい。前記多孔質セラミックが、粘土、長石及び陶石を含有する坏土に発泡剤を加えて焼結したものであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、前記多孔質セラミックに光触媒が担持されている光触媒担持体を提供する。表面に開口する気孔径1μm以下の気孔の少なくとも一部に非晶質の前記光触媒が担持され、気孔径4〜10μmの気孔の少なくとも一部に多結晶の前記光触媒が担持されていることが好ましい。表面に開口する気孔径10μm以下の少なくとも一部の気孔内では、前記光触媒が前記気孔の内壁に固着されずに又は一部だけが固着されて担持されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記光触媒担持体が用いられている浄化装置を提供する。前記光触媒担持体が、流入口から流出口までの間で、流体の少なくとも一部の流路を形成する部材として配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔質セラミックは、気孔径が1μm以下の気孔を有することにより、主にその気孔内に光触媒を保持するため、バインダを用いずに触媒、例えば光触媒を固定化することができる。また、本発明の光触媒担持体は、光触媒を担持させる際にバインダ又はコーティング剤を用いる必要がないことから、光触媒がバインダ又はコーティング剤で覆われることがないので、その光触媒効果を十分に発揮することができる。また、光触媒を担持した際、主に光触媒が気孔内に保持されているため、光触媒が脱落し難く、例えば、光触媒担持体が汚れた場合には、光触媒をあまり脱落させることなく洗浄することが可能であり、再生利用できるものである。従って、この光触媒担持体を空気などの各種流体を浄化する浄化装置に用いれば、高い浄化能力を機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の多孔質セラミック及び比較例のセラミックの細孔径分布の測定結果を表す図である。
【図2】実施例4の表面に形成された気孔と担持された二酸化チタンの粒子を示した電子顕微鏡写真であり、(a)は気孔径1μm以下の気孔の断面を示し、(b)は気孔径4〜10μmの範囲の気孔の断面の電子顕微鏡写真を示している。
【図3】光触媒担持体を用いた浄化装置(空気浄化装置)の構造の一例を示した図であり、(a)は縦断面図、(b)は正面図である。
【図4】光触媒担持体を用いた浄化装置(空気浄化装置)の構造の他の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態の説明を行なうが、本発明の趣旨に反しない限り、本発明はこれらの実施の形態に限定されない。
【0015】
本発明の多孔質セラミックを構成するセラミックの坏土の材料は、例えば、陶磁器の材料と同じである粘土、長石及び陶石であって、これに発泡剤を加えて得られる素地を焼成して、多孔質セラミックを得ることができる。前記坏土の主成分は、Al、SiO、KO・NaOであり、Alが70〜75質量%、SiOが15〜17質量%、KO・NaOが10〜15質量%を坏土中に含有することが好ましい。この配合の割合の範囲内であれば、耐火性が高く、焼成時には収縮が小さく、割れやキレが生じ難いものとなる。
【0016】
本発明の多孔質セラミックを焼成する際の焼成温度及び時間は、通常の陶磁器の製造に充分であればよいので、その限りにおいて制限はないが、一般には、1000〜1300℃程度でよい。
【0017】
前記セラミックの坏土に発泡剤を加えて混合して焼成すると、焼結によりCOが生成し排出される。このCOにより、独立気孔或いは連通気孔が生じる。なお、ここでいう気孔はCOの生成により形成されるセラミックの表面に開口し、光触媒の粒子が侵入可能な空隙であればよく、くぼみ状のものを含む。
本発明の多孔質セラミックは、図1に示したように、気孔径(セラミックの表面に開口する気孔の開口直径)1μm以下の気孔を有することにより、バインダを用いることなく、光触媒を担持することができ、高い光触媒効果を引き出すことができる。また、洗浄しても光触媒が脱落し難い。好ましい多孔質セラミックは、図1に示したように、気孔径10μm以下の細孔径分布において0.01〜1μmの範囲に分布ピークを有するものである。
気孔径10μmを大きく越える場合、光触媒が脱落しやすくなるため、気孔径10μm以下の気孔の分布率が10%以上であることが好ましい。より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。また、光触媒の粒子は、気孔の内壁に付着したり、気孔の内壁に引っかかったりして担持される。特に、後述の実施例で製造された多孔質セラミックの電子顕微鏡写真では、非晶質の光触媒は主に気孔の内壁に付着して固定されていた。一方、多結晶の光触媒は気孔の内壁の開口周縁部に引っかかるような状態、すなわち、内壁に貼り付いて動くことができない状態ではなく、内壁に一部のみが付着した半浮動状態、あるいは、内壁に付着されずに流体と接触した際に浮遊して動くことができる浮動状態で担持されていた。非晶質の光触媒は多結晶のものよりも粒子が細かいことから、1μm以下の気孔では、主として非晶質の光触媒の粒子が内壁に付着した状態で担持されやすく、4〜10μmの気孔では、非晶質の光触媒の内壁への付着に加え、多結晶の粒子が半浮動又は浮動状態で担持されやすい。従って、1μm以下の気孔と4〜10μmの気孔の分布率が高いことにより光触媒の粒子を効率的に担持できる。但し、光触媒を脱落し難くするためには、1μm以下の気孔の分布率と4〜10μmの気孔の分布率は、いずれも、1μmより大きく4μm未満の気孔の分布率より大きく、かつ、1μm以下の気孔の分布率が4〜10μmの気孔の分布率の2倍以上、さらには4倍以上であることが好ましい。
なお、分布率は、細孔径分布測定器(Poremaster60、東芝株式会社製)を用いて測定した水銀圧入法により得られたデータから算出した。
【0018】
また、前記セラミックの坏土に加える発泡剤としては、例えば、カーボン(C)、炭化珪素(SiC)、炭酸カルシウム(CaCO)などがある。陶磁器の材料とともに使用される発泡剤であればいずれも使用できる。中でも、炭化ケイ素(SiC)は、本発明の多孔質セラミックを製造する場合、気孔径1μm以下の気孔が形成されやすいだけでなく、多孔質セラミックの焼結性が向上するため好ましい。
【0019】
前記発泡剤が組成物中で占める割合は、材料の全質量に対して0.1質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下がさらに好ましい。1.0質量%より多くなると、多孔質セラミックの焼結強度が低下する傾向にある。
【0020】
多孔質セラミックの調製から焼成までの工程は、公知の方法に従えばよい。一例として、原料調合→トロンミル粉砕→スプレードライヤーで顆粒粉にする→押圧成形→焼成→完成、という工程になる。また、原料調合→トロンミル粉砕してスラリー化→発泡体に含浸→乾燥→焼成→完成という工程も可能である。この場合、発泡体としては軟質ポリウレタン発泡体を適宜の大きさに裁断し、これに原料をスラリー化させたものを含浸させた後に、乾燥させて焼成することにより多孔質セラミックを製造することができる。また、発泡体を用いた場合、原材料の焼成から生じる気孔のみでなく、発泡体自体の孔の形状を保ったままの多孔質セラミックを形成することができ、気体用又は液体用フィルタとして用いることができる。
【0021】
また、本発明の多孔質セラミックは、例えば二酸化チタンのような光触媒と組み合わせることにより、光触媒効果を十分に発揮させることができる光触媒担持体とすることができる。なお、本発明における光触媒としては、光触媒機能を有するものであれば、特に限定されないが、二酸化チタン、酸化亜鉛があげられる。中でも、光触媒機能に優れている点で、二酸化チタンが好ましい。ここで、二酸化チタンとは、光触媒機能を有するものであって、一般的には、アナターゼ型のものをいう。
【0022】
本発明の多孔質セラミックに担持させる光触媒の粒子径は、一次粒子の平均粒子径が5〜200nmのものを用いることが好ましい。かかる平均粒子径が好ましい理由は定かではないが、これらの光触媒の細粒は、表面エネルギーが高く凝集し易いため、様々な大きさや形状の二次粒子を形成することにより、本発明の多孔質セラミックの気孔に入り込むと、上記したように、内壁のいずれかの部位に引っかかることなどの作用により、気孔内に保持されるものと推測される。
【0023】
担持させる光触媒の形態としては粉体、溶媒に粉体を加えた分散液、さらに粘性を加えたゾルのいずれでも用いることができるが、本発明の多孔質セラミックに担持させるための効率性、作業性等の理由から、粉体ではなく、ゾル又は分散液を使用することが好ましい。ここで、本発明に用いる光触媒ゾル及び光触媒分散液は、光触媒粒子を水又は有機溶媒中に0.01〜80質量%程度、好ましくは0.1〜50質量%程度で分散したものである。
【0024】
光触媒を本発明の多孔質セラミックに担持させる方法としては、多孔質セラミックに光触媒の分散液をスプレー塗布したり、或いは、光触媒の分散液又はゾルを多孔質セラミックに含浸させ、その後、乾燥させたりすることによって担持させることができる。例えば、二酸化チタンを担持させる場合は、二酸化チタンの分散液又はゾルの濃度は、1〜25質量%であることが好ましく、さらに5〜15質量%であることがより好ましい。1質量%より低くなると、担持できる二酸化チタンの量が少なくなり光触媒効果が十分に発揮できない場合があり、25質量%より高くなると、多孔質セラミック表面に二酸化チタンが過剰に付着し、水洗すると多孔質セラミック表面の二酸化チタンが脱落してしまう場合がある。また、二酸化チタンの分散液又はゾルを多孔質セラミックに含浸させた後の乾燥温度としては、分散液又はゾルに用いた水又は有機溶媒の蒸発に適した乾燥温度であればよく、一般には、50〜300℃である。
【0025】
本発明の光触媒担持体は、空気清浄、脱臭、水浄化等、様々な環境浄化用の装置に用いることが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(多孔質セラミックの製造)
(実施例1)
粘土、長石及び陶石を下記の表1に示す割合(質量%)で調合し、これに対して、発泡剤(主成分SiC、イビデン株式会社製)0.25質量%を加えたものを原料として、これを適宜量の水と混合して、トロンミル粉砕し、スプレードライヤーで顆粒粉にして、押圧成形(圧力250kg/cm)により、縦50mm×横100mm×厚さ5mmの平板の形状にし、焼成(温度1260℃、時間90分)することにより、多孔質セラミックを得た。得られた多孔質セラミックは、ほとんど収縮せず、割れやキレもなく成形状態は、良好であった。
【0028】
(実施例2)
粘土、長石及び陶石を下記の表1に示す割合(質量%)で調合したものに、これに対して発泡剤(主成分SiC、イビデン株式会社製)0.25質量%を加えたものと水とを2:1の割合で混合してトロンミル粉砕によりスラリーにし、縦220mm×横220mm×厚さ5mmの大きさのウレタンスポンジ(質量5g)に含浸させた。含浸後のウレタンスポンジとスラリーの質量の合計を125gに調整して、乾燥後、焼成(温度1280℃、時間90分)することにより、多孔質セラミックを得た。得られた多孔質セラミックは、ほとんど収縮せず、割れやキレもなく成形状態は、良好であった。
【0029】
(比較例1)
粘土、長石及び陶石を下記の表1に示す割合(質量%)で調合したものを適宜量の水と混合して、トロンミル粉砕し、スプレードライヤーで顆粒粉にして、押圧成形(圧力250kg/cm)により、縦50mm×横100mm×厚さ5mmの平板の形状にし、焼成(温度1260℃、時間90分)することにより、セラミックを得た。得られたセラミックには、収縮変形が見られた。
【0030】
(比較例2)
粘土、長石及び陶石を下記の表1に示す割合(質量%)で調合したものと水とを2:1の割合で混合してトロンミル粉砕によりスラリーにし、縦220mm×横220mm×厚さ5mmの大きさのウレタンスポンジ(質量5g)に含浸させた。含浸後のウレタンスポンジとスラリーの質量の合計を125gに調整して、乾燥後、焼成(温度1280℃、時間90分)することにより、セラミックを得た。得られたセラミックは、ほとんど収縮せず、割れやキレもなく成形状態は、良好であった。
【0031】
(比較例3)
BaOとCaOからなるガラス、粘土及び長石を下記の表1に示す割合(質量%)で調合したものと、これに対して発泡剤(主成分SiC、イビデン株式会社製)0.25質量%を加えたものと水とを2:1の割合で混合してトロンミル粉砕によりスラリーにし、縦220mm×横220mm×厚さ5mmの大きさのウレタンスポンジ(質量5g)に含浸させた。含浸後のウレタンスポンジとスラリーの質量の合計を125gに調整して、乾燥後、焼成(温度1050℃、時間90分)することにより、セラミックを得た。得られたセラミックは、ほとんど収縮せず、割れやキレもなく成形状態は、良好であった。
【0032】
【表1】

【0033】
(細孔径分布の測定)
実施例1及び2の多孔質セラミック及び比較例1乃至3のセラミックの表面の細孔径分布を細孔径分布測定器(Poremaster60、東芝株式会社製)を用いて、水銀圧入法により測定した。その結果を図1に示した。
【0034】
図1より、実施例1及び2の多孔質セラミックは、気孔径10μm以下の細孔径分布において0.01〜1μmの範囲に分布ピークを有し、気孔径1μm以下の気孔を有することが確認された。一方、比較例1乃至3のセラミックには、気孔径10μm以下の細孔径分布において0.01〜1μmの範囲に分布ピークがなく、気孔径1μm以下の気孔がほとんど存在しないことが確認された。
また、実施例1の多孔質セラミック及び比較例3のセラミックについて、気孔の分布率を測定したところ、実施例1では、気孔径1μm以下の気孔の分布率が16.56%、気孔径1μmより大きく4.0μm未満の気孔の分布率が1.06%、気孔径4.0μm以上10μm以下の気孔の分布率が3.75%であり、気孔径10μm以下の気孔の分布率は、21.37%であった。また、1μm以下の気孔の分布率と4〜10μmの気孔の分布率は、いずれも、1μmより大きく4μm未満の気孔の分布率より大きく、かつ、気孔径1μm以下の気孔の分布率は、気孔径4.0μm以上10μm以下の気孔の分布率の約4.4倍であった。
比較例3では、気孔径1μm以下の気孔の分布率が0.37%、気孔径1μmより大きく4.0μm未満の気孔の分布率が0.05%、気孔径4.0μm以上10μm以下の気孔の分布率が0.03%であり、気孔径10μm以下の気孔の分布率は、0.45%に過ぎなかった。また、4〜10μmの気孔の分布率は、1μmより大きく4μm未満の気孔の分布率を下回っていた。
【0035】
(光触媒担持体の製造)
(実施例4)
実施例1で得た多孔質セラミックを、二酸化チタン(商品名「ST−01」(一次粒子の平均粒子径7nm)、石原産業株式会社製):水=1:10の割合で混合して製した分散液中に、30秒間含浸させ、105℃にて120分間乾燥することにより、光触媒担持体を得た。二酸化チタンの付着量は0.06g(目付量12g/m)であった。
図2は、実施例4の表面に形成された気孔と担持された二酸化チタンの粒子を示した電子顕微鏡写真であり、(a)は気孔径1μm以下の気孔の断面を示し、(b)は気孔径4〜10μmの範囲の気孔の断面の電子顕微鏡写真を示している。(a)では、気孔の内壁に非晶質の二酸化チタンが付着している。(b)では、気孔の内壁に非晶質の二酸化チタンが付着していると共に、多結晶の二酸化チタンの粒子が内壁に対して隙間を有し、一部のみが内壁に付着した半浮動状態で担持されている。
【0036】
(実施例5)
実施例1で得た多孔質セラミックを、二酸化チタン(商品名「ST−01」(一次粒子の平均粒子径7nm):水=1:8の割合で混合して製した分散液中に、1分間含浸させ、105℃にて120分間乾燥させ、光触媒担持体を得た。二酸化チタンの付着量は0.18g(目付量36g/m)であった。
【0037】
(実施例6)
実施例2で得た多孔質セラミックを、縦50mm×横100mm×厚さ5mmの大きさにカットした後、二酸化チタン(商品名「ST−01」(一次粒子の平均粒子径7nm)、石原産業株式会社製):水=1:8の割合で混合して製した分散液中に、1分間含浸させ、105℃にて120分間乾燥させ、光触媒担持体を得た。二酸化チタンの付着量0.25g(目付量50g/m)であった。
【0038】
(比較例4)
比較例1で得たセラミックを、二酸化チタン(商品名「ST−01」(一次粒子の平均粒子径7nm)、石原産業株式会社製):水=1:8の割合で混合して製した分散液中に、1分間含浸させ、105℃にて120分間乾燥させ、触媒担持体を得た。しかし、二酸化チタンは、ほとんど付着しなかった。
【0039】
(比較例5)
比較例2で得たセラミックを、縦50mm×横100mm×厚さ5mmの大きさにカットした後、二酸化チタン(商品名「ST−01」(一次粒子の平均粒子径7nm)、石原産業株式会社製):水=1:8の割合で混合して製した分散液中に、1分間含浸させ、105℃にて120分間乾燥させ、光触媒担持体を得た。二酸化チタンの付着量は0.48g(目付量96g/m)であった。
【0040】
(比較例6)
比較例3で得たセラミックを、縦50mm×横100mm×厚さ5mmの大きさにカットした後、二酸化チタン(商品名「ST−01」(一次粒子の平均粒子径7nm)、石原産業株式会社製):水=1:8の割合で混合して製した分散液中に、1分間含浸させ、105℃にて120分間乾燥させた。二酸化チタンの付着量0.61g(目付量122g/m)であった。
【0041】
(光触媒によるアセトアルデヒド除去性能の測定)
実施例4乃至6及び比較例4乃至6の光触媒を担持させた触媒担持体の洗浄前の各試料について、連続ガス流通式装置を用いて紫外線光を照射した試料に有臭の有機物であるアセトアルデヒドを含む気体を接触させる試験方法(JIS R 1701−2)にて、アセトアルデヒド除去性能を測定した。それらの結果を、表2に示した。次に、洗浄前の試料でアセトアルデヒド除去性能が50%以上の実施例4乃至6について、試料の洗浄を行い、洗浄前の各試料と同じ試験方法(JIS R 1701−2)にて、アセトアルデヒド除去性能を測定した。それらの結果を表2に示した。なお、触媒担持体の洗浄は、蒸留水中で2時間、超音波洗浄器(TSK−200、東芝株式会社製)で洗浄する方法によった。
【0042】
【表2】

【0043】
かかる測定試験の結果により、洗浄前の試料において、実施例4乃至6の試料は、アセトアルデヒドの除去性能が50%以上であり、即ち、臭気の除去性能が高いことが確認された。
一方、比較例4の試料は、二酸化チタンがほとんど付着しなかったため、アセトアルデヒドの除去性能がほとんどなく、比較例5及び6の試料は、アセトアルデヒドの除去性能が50%未満であり、臭気の除去性能が低いことが確認された。
よって、気孔径1μm以下の気孔を有する実施例1及び2の多孔質セラミックは、気孔径1μm以下の気孔を有しない比較例1乃至3のセラミックと比較して、二酸化チタンを担持させることにより、高い光触媒作用を発揮する光触媒担持体を提供できることが確認された。これは、二酸化チタンが、多孔質セラミックの気孔径1μm以下の気孔に好適に保持されていることによると考えられる。また、気孔径4〜10μmの気孔においては、非晶質の光触媒が付着しているだけでなく、多結晶の光触媒が浮動状態又は半浮動状態で保持されている。従って、流体との接触により当該光触媒が動きやすく、光触媒作用が効率的に行われる。気孔径4〜10μmの気孔を所定以上の分布率で含む実施例1の多孔質セラミックは、この作用によっても高い光触媒作用を果たしていると考えられる。
【0044】
また、洗浄後の試料において、実施例4乃至6の試料は、洗浄したにもかかわらず、アセトアルデヒドの除去性能が50%以上を維持しており、臭気の除去性能が高いことが確認された。
よって、実施例1及び2の多孔質セラミックは、気孔径1μm以下の気孔を有することにより、好ましくは気孔径4〜10μmの気孔を所定以上の分布率で含むことにより、バインダを用いることなく二酸化チタンを担持することができ、また、洗浄しても二酸化チタンがほとんど脱落しないものと考えられる。
【0045】
したがって、実施例1又は2のような、気孔径1μm以下の気孔を有する多孔質セラミックによれば、好ましくは気孔径1μm以下の気孔に加えて、気孔径4〜10μmの気孔を所定以上の分布率で有する多孔質セラミックによれば、二酸化チタンのような光触媒を、かかる気孔内に好適に保持し、光触媒作用が高い光触媒担持体を製造することができ、また、かかる光触媒は、洗浄によっても光触媒作用がほとんど低下しないため、例えば、表面が汚れた場合であっても、洗浄することにより再生利用できるものである。
【0046】
(光触媒による窒素酸化物の除去性能の測定)
実施例4乃至6の光触媒を担持させた触媒担持体の洗浄前の各試料について、連続ガス流通式装置を用いて紫外線光を照射した試料に窒素酸化物を含む気体を接触させる試験方法(JIS R 1701−1:2010)にて、窒素酸化物の除去性能を測定した。25℃、50%RHに調整した空気に約1.0ppmになるように窒素酸化物を混合し、遮光した反応容器内に流量3.0l/minで約30分供給した。その後ガスを導入したままで10W/mに調整したBLB光(FL15BL、東芝ライテック(株)製)を5時間照射した。その後ガスを導入した状態で再度反応容器を遮光した。窒素酸化物の除去量は、BLB光照射前後でのNO、NO濃度から下記の式に従って計算した。
窒素酸化物の除去量(μmol)=[NO除去量−NOX吸着量]−[NO生成量−NOX脱着量]
窒素酸化物の除去性能測定結果を、表3に示した。次に、窒素酸化物の除去性能が2.0μmol以上を示した実施例4乃至6の試料について、試料を精製水に1時間浸漬させた後に試料から溶出した窒素酸化物の量を求める溶出試験(JIS R 1701−1:2010)を行い、水洗による実施例4乃至6の試料の再生効率を測定した。再生効率は下記の式に従って計算した。
水洗による再生効率(%)=試料からの窒素酸化物溶出量(μmol)/窒素酸化物の除去量(μmol)×100
水洗による再生効率の測定結果を表3に示した。
【0047】
【表3】

【0048】
実施例4乃至6の試料は、窒素酸化物を2.0μmol以上除去し、再生効率も高いことが確認された。
【0049】
(抗菌性試験)
さらに、実施例4乃至6の試料について、抗菌性を確認した。前処理として50×50mmの大きさにした実施例4乃至6の試料に1mW/cmのBLB光(FL20S、TOSHIBA社製)を24時間照射したのち、以下の通り抗菌性の評価を行った。試験菌として大腸菌(NBRC3972)及び黄色ブドウ球菌(NBRC12732)を用いた。これに前記試験菌の懸濁液を、試験片1枚あたり0.15ml、植菌数1.4〜1.6×10となるように滴下し、抗菌性試験片とした。この試験片に、JIS R 1702に記載のフィルム密着法に準じ、40×40mmの大きさの密着フィルム(ポリプロピレン、コクヨ(株)製)をかぶせ、保湿可能なシャーレ内に設置し、保湿ガラスを載せて試験に用いた。前記試験片をシャーレごとBLB光照射下に設置し、0.25mW/cmになるようBLB光を8時間照射した。8時間照射後、生残菌数を混釈平板培養法により計測した。抗菌性は、抗菌活性値(R)及び光照射による効果(ΔR)を下記の式に従って計算した。
抗菌活性値(R)=log(B−C
光照射による効果(ΔR)=log(B−C)−log(B−C
:BLB光照射を行った(明条件)ブランク試験片
:BLB光照射を行った(明条件)実施例4乃至6それぞれの試験片
:BLB光照射を行なかった(暗条件)ブランク試験片
:BLB光照射を行なかった(暗条件)実施例4乃至6それぞれの試験片
その結果、実施例4乃至6の試料は、大腸菌及び黄色ブドウ球菌ともにR及びΔRは2.0以上を示し、良好な抗菌効果を示すことが確認された。
【0050】
(浄化装置の製作)
本発明の光触媒担持体は浄化装置に用いることができる。この場合、浄化対象である流体に光触媒の作用ができるだけ長い時間作用するように、光触媒担持体が、浄化装置の流入口から流出口に向かって流れる流体の少なくとも一部の流路を形成する部材として用いられることが好ましい。図3及び図4は空気浄化装置の流路を形成する部材として光触媒担持体を用いた構造例である。
まず、3の空気浄化装置100は、略箱状の外側ケーシング110と、外側ケーシング110内に配設され、左右、前後及び上下を取り囲む内壁を備えている。内壁を構成する下壁面121の下部には、前壁面122寄りに空気の流入口121aが形成された空気流入路121bが設けられており、空気流入路121b内にはファン130が配設されている。一方、上壁面123における前壁面122寄りには、流出口123aが開口されている。
【0051】
光触媒担持体10a〜10eは、略方形に形成され、内壁内に前後方向に略平行に所定間隔をおいて複数配設される。このとき、図3(a)に示したように、各光触媒担持体10a〜10eのうち、最も後壁面124寄りのもの(符号10a)は、特に制限なく後壁面124の大きさに比較的近いものを用いているが、最も後壁面124寄りのもの(符号10a)を除いたもの(符号10b〜10e)は、上壁面123又は下壁面121に当接しない大きさで形成されている。具体的には、最も後壁面124寄りの光触媒担持体10aの手前に配置される光触媒担持体10bは、下壁面121に近接し、上壁面123との間に空間を有し、その手前に配置される光触媒担持体10cは、上壁面123に近接し、下壁面121との間に空間を有し、さらに手前に配置される光触媒担持体10dは、下壁面121に近接し、上壁面123との間に空間を有し、最も手前に配置される光触媒担持体10eは、上壁面123に近接し、下壁面121との間に空間を有するように互い違いに配置される。そして、空気流入路121bは、最も後壁面124寄りの光触媒担持体10aとその手前の光触媒担持体10bとの間の第1空気流路11aに連通し、流出口123aが最も手前の光触媒担持体10eと前壁面122との間の第5空気流路11eに連通している。
【0052】
また、第1〜第5空気流路11a〜11eのそれぞれには、紫外線を発生するブラックライト蛍光灯12a〜12eが配置される。
【0053】
ファン130を駆動させると、流入口121aから空気流入路121bに空気が取り入れられ、空気流入路121bから第1空気流路11a内に案内される。この空気は、光触媒担持体10b〜10eが互い違いに配置されていることから、隣接する第2空気流路11bへの移動は、第1空気流路11a内を下壁面121側から上壁面123側に流れ、光触媒担持体10bと上壁面123との空間を経た後となる。さらに、第2空気流路11b内では、上壁面123側から下壁面121側に流れ、光触媒担持体10cと下壁面121との空間を経て第3空気流路11c内に移動する。同様に、第3空気流路11c内では、下壁面121側から上壁面123側に流れ、光触媒担持体10dと上壁面123との空間を経て第4空気流路11dに移動し、第4空気流路11d内では、上壁面123側から下壁面121側に流れ、光触媒担持体10eと下壁面121との空間を経て第5空気流路11eに移動する。そして、第5空気流路11e内では、下壁面121側から上壁面123側に流れた後に流出口123aに至り、該流出口123aから外部に流出する。
【0054】
すなわち、流入口121aから取り込まれる空気は、流出口123aに至るまでの間、各空気流路11a〜11eにおいて、上下方向に流れた後、上壁面123又は下壁面121との空間を経て隣接する空気流路11a〜11eに移動する構成であり、当該空気流路11a〜11eを形成している各光触媒担持体10a〜10eの面方向に沿って流れるため、光触媒作用を受ける時間が長くなる。その結果、空気中の臭気物質、塵、カビ、細菌類等の分解、除去効率が高くなる。
【0055】
図4に示した空気清浄装置200は、四方を取り囲む側壁部210が光触媒担持体から構成され、空気の流路を形成している。この例では、図の上部に流入口220が設けられ、下部に流出口221が設けられており、ファン250の駆動により、空気は、流入口220から吸い込まれ、流出口221から流出する。側壁部210に取り囲まれた内部には、平面視で互い違いとなるように邪魔板231が配置され、一方側と他方側において、それぞれ側壁部210との間に空間231aが形成されている。なお、符号240はブラックライト蛍光灯である。
【0056】
流入口220から流入する空気は、最初の邪魔板231に当接する方向に進みつつ、当該邪魔板231に隣接する一方側の空間231a寄りに流れ、次いで、次の邪魔板231方向に進みつつ、当該次の邪魔板231に隣接する他方側の空間231a寄りに流れていく。空気はこれを繰り返しながら、流出口221に向かっていくが、各邪魔板231に取り囲まれた室に侵入すると、光触媒担持体から構成される各側壁部210の面方向にほぼ沿うように進むと共に、対流も生じるため、光触媒作用を受ける時間が長くなる。
【0057】
なお、図3及び図4に示した空気浄化装置100,200はあくまで一例であり、光触媒担持体を初めとする各種構成部材の配置、形状等の構成は適宜にアレンジ可能である。例えば、図4において、側壁部210ではなく、邪魔板231を光触媒担持体から構成することもできるし、側壁部210と邪魔板231の両方を光触媒担持体から構成することもできる。また、邪魔板231のいずれかの端縁と側壁部210との間で空間231aを設けているが、邪魔板231の各端縁をいずれも側壁部210に当接するように配置し、邪魔板231の端縁寄り、あるいは適宜位置に空気の通過孔を形成するようにしてもよい。また、空気浄化装置100,200は、そのまま棚、床などに載置して使用することもできるが、壁部、天井部などに埋設して使用することもできる。また、本発明の光触媒担持体を用いて、空気浄化装置に限らず、他のガスや液体を浄化する装置を製作することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
100 空気浄化装置
10a〜10e 光触媒担持体
11a〜11e 空気流路
121a 流入口
123a 流出口
200 空気浄化装置
210 側壁部
220 流入口
221 流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開口する気孔径1μm以下の気孔を有することを特徴とする多孔質セラミック。
【請求項2】
表面に開口する気孔径10μm以下の気孔の細孔径分布において、気孔径0.01〜1μmの範囲に分布ピークを有する請求項1記載の多孔質セラミック。
【請求項3】
表面に開口する気孔径10μm以下の気孔の分布率が10%以上である請求項1又は2記載の多孔質セラミック。
【請求項4】
表面に開口する気孔径10μm以下の気孔の分布率において、1μm以下の気孔の分布率と4〜10μmの気孔の分布率が、いずれも1μmより大きく4μm未満の気孔の分布率より大きく、かつ、1μm以下の気孔の分布率が4〜10μmの気孔の分布率の2倍以上である請求項3記載の多孔質セラミック。
【請求項5】
粘土、長石及び陶石を含有する坏土に発泡剤を加えて焼結したものである請求項1〜4のいずれか1に記載の多孔質セラミック。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の多孔質セラミックに光触媒が担持されている光触媒担持体。
【請求項7】
表面に開口する気孔径1μm以下の気孔の少なくとも一部に非晶質の前記光触媒が担持され、気孔径4〜10μmの気孔の少なくとも一部に多結晶の前記光触媒が担持されている請求項6記載の光触媒担持体。
【請求項8】
表面に開口する気孔径10μm以下の少なくとも一部の気孔内では、前記光触媒が前記気孔の内壁に固着されずに又は一部だけが固着されて担持されている請求項7記載の光触媒担持体。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1に記載の光触媒担持体が用いられている浄化装置。
【請求項10】
前記光触媒担持体が、流入口から流出口までの間で、流体の少なくとも一部の流路を形成する部材として配置されている請求項9記載の浄化装置。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−102000(P2012−102000A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152382(P2011−152382)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(590001670)株式会社カネキ製陶所 (3)
【Fターム(参考)】