説明

多孔質セラミックス中空糸膜製膜用紡糸原液の調製方法

【課題】紡糸原液の粘度上昇を抑え、ひいては中空糸膜表面の凹凸発生を抑えた多孔質セラミックス中空糸膜の製造を可能とする紡糸原液の調製方法を提供する。
【解決手段】セラミックス粉末、膜形成性高分子物質をそれぞれ別々に水溶性の非プロトン性極性溶媒に分散または溶解し、得られたセラミックス粉末分散液と膜形成性高分子物質溶解液とを紡糸前に混合して紡糸原液を調製する。この調製方法により調製された紡糸原液は、粘度が低く、原料粉末が凝集することなく良好な分散状態を示している。そして、このような紡糸原液を用いて製膜を行うことにより、製造された中空糸膜表面への凹凸の発生を抑えることができ、欠陥のみられる中空糸膜の発生率を大幅に低減させることができるといったすぐれた効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス中空糸膜製膜用紡糸原液の調製方法に関する。さらに詳しくは、中空糸膜表面の凹凸発生を抑えた多孔質セラミックス中空糸膜の製膜を可能とする紡糸原液の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス膜には、有機膜ではみられないすぐれた耐熱性、耐圧性、耐薬品性などがあり、しかも高い分離能を有しているため、有機膜に変わっての使用が増えてきている。特に、多孔質セラミックス中空糸膜は、単体であっても化学的耐久性が高いことから、水処理膜として用いられており、また多孔質セラミックス中空糸膜を支持体として用い、膜表面にシリカ層などの機能性分離膜を形成させることによりガス分離膜としての利用も図られている(特許文献1参照)。
【0003】
多孔質セラミックス中空糸膜の製造は、セラミックス粒子等の粉末をポリスルホン等の膜形成性高分子物質の有機溶媒中に分散させ、このセラミックス粉末を高濃度に充填させた紡糸原液を用いて乾湿式紡糸することにより、セラミックス粒子とポリマーとの複合中空糸膜を製膜し、所定温度で焼成することにより行われている(特許文献2〜3参照)。
【0004】
ここで、紡糸原液は有機溶媒に分散剤と原料セラミックス粒子等を混合して分散処理を行い、その分散液に膜形成性高分子物質を徐々に溶解させることにより調製されている。しかるに、かかる紡糸原液の調製方法では、紡糸原液粘度が上昇する傾向にあり、その結果製造された中空糸表面に凹凸が発生してしまうといった問題がみられる。中空糸膜表面に発生した凹凸は、中空糸膜の強度低下の原因となり、またセラミックス中空糸膜はその表面上に多層にわたり製膜する基材しても用いられるものであるため、膜表面に凹凸が発生するといった欠陥は許容されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−45563号公報
【特許文献2】特開2003−112019号公報
【特許文献3】特公平5−66343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、紡糸原液の粘度上昇を抑え、ひいては中空糸膜表面の凹凸発生を抑えた多孔質セラミックス中空糸膜の製造を可能とする紡糸原液の調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、セラミックス粉末、膜形成性高分子物質をそれぞれ別々に水溶性の非プロトン性極性溶媒に分散または溶解し、得られたセラミックス粉末分散液と膜形成性高分子物質溶解液とを紡糸前に混合して紡糸原液を調製することによって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る調製方法により調製された紡糸原液は、粘度が低く、原料粉末が凝集することなく良好な分散状態を示している。そして、このような紡糸原液を用いて製膜を行うことにより、製造された中空糸膜表面への凹凸の発生を抑えることができ、欠陥のみられる中空糸膜の発生率を大幅に低減させることができるといったすぐれた効果を奏する。凹凸の発生は、セラミックス粉末-膜形成性高分子物質複合膜の段階においても、確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】膜表面に凹凸のみられるアルミナ複合中空糸膜断面のSEM写真である
【図2】膜表面に凹凸のみられない中空糸膜表面を2000倍に拡大した写真である
【図3】膜表面に凹凸のみられる中空糸膜表面を2000倍に拡大した写真である
【発明を実施するための形態】
【0010】
原料粉末となるセラミックス粉末としては、一般にその粒径が約0.05〜5μm、好ましくは約0.2〜1μm程度に粉砕されたAl2O3、Y2O3、MgO、SiO2、Si3N4、ZrO2等のセラミックス粉末が用いられる。これらのセラミックス粉末は、好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ソルビタンパルミチン酸エステルなどの分散剤を用いて、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、トリエチルホスフェート、モルホリン、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等の水溶性の非プロトン性極性溶媒に、約70〜75重量%をしめるような割合で分散される。分散は、例えば超音波ホモジナイザーなどを用いて30〜80分間程度処理を行うことにより行われ、セラミックス粉末分散液が調製される。
【0011】
膜形成性高分子物質としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等が用いられる。これらの膜形成性高分子物質は、セラミックス粉末分散液とは別に、セラミックス粉末の分散媒体として用いられた水溶性の非プロトン性極性溶媒に、約35〜40重量%を占めるような割合で溶解され、膜形成性高分子物質溶解液が調製される。
【0012】
次に、セラミックス粉末分散液に、膜形成性高分子物質溶解液を加えて撹拌を行い、形成される紡糸原液中セラミックス粉末が約30〜80重量%、好ましくは約45〜15重量%を占めるような割合で分散され、また膜形成性高分子物質が約3〜20重量%、好ましくは約4〜15重量%を占めるような割合で溶解された、粘度(25℃)が約10〜25 Pa・秒の紡糸原液が調製される。この際、撹拌は例えばスリーワンモータ等を用いて、約30〜38℃、約180〜250 rpmで約15〜20時間程度行われる。
【0013】
紡糸原液の乾湿式紡糸は、好ましくは水または有機溶媒水溶液(水性有機溶媒)を芯液として用いた一般的な方法で行われ、乾湿式紡糸された多孔質セラミックス中空糸膜は、凝固浴である水または水性有機溶媒中から引き上げた後、多量の水道水中に浸漬するなどして、中空糸膜内に残存する紡糸原液溶剤を完全に置換し、その後室温程度の空気中で乾燥し、複合中空糸膜を形成させる。凹凸の発生状況は、この段階においても確認することができる。
【0014】
乾燥された複合中空糸膜の焼成は、加熱炉中でこの種の焼成に一般的に用いられている方法、すなわち約500〜700℃で約0.5〜1時間加熱して膜形成性高分子物質を分離(脱脂)させた後、約1000〜2500℃で約0.5〜3時間程度焼成することにより行われる。形成された多孔質セラミックス中空糸膜は、一般に約2.5〜3.0mm程度の外径、約2.0〜2.3mm程度の内径を有する。
【実施例】
【0015】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0016】
実施例
アルミナ粒子(平均粒子径0.1μm)粉末650gを、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.9gを分散剤として、N,N-ジメチルホルムアミド230g中に分散させ、超音波ホモジナイザー(BRANSON製)を用いて1時間分散処理を行い、アルミナ分散液を得た。
【0017】
このアルミナ分散液とは別に、ポリスルホン(SOLVAY製品)83gをN,N-ジメチルホルムアミド130g中に混合し、35℃の水浴中、200rpmで約8時間撹拌してポリスルホン溶液を得た。
【0018】
アルミナ分散液に、アルミナ分散液 4に対して重量比で1に相当するポリスルホン溶解液を加え、スリーワンモータを用いて、35℃、200rpmで18時間撹拌することにより、アルミナ濃度60重量%、ポリスルホン濃度7.5重量%の紡糸原液を調製した。このとき、紡糸原液の粘度(25℃、VISCOMETER TVB-10により測定)は20Pa・秒であった。
【0019】
この紡糸原液を、ドープ吐出部の外径4.2mm、内径2.0mm、芯液吐出部径1.5mmの二重環状ノズルを用い、純水を芯液として乾湿式紡糸し、平均外径3.6mm、平均内径2.8mmのアルミナ複合中空糸膜を製膜した。このアルミナ複合中空糸膜を、水浴中に2時間以上浸漬し、中空糸膜内のN,N-ジメチルホルムアミドを完全に水と置換した。
【0020】
得られた複合中空糸膜を500mmの長さに切断し、焼成前に欠陥箇所の検査を行った。検査は、触手により図1にみられるような100μm以上の径を有するアルミナ粉末の凝集箇所を、湿潤状態の中空糸膜表面について凹凸を判別することにより行い、凹凸が一箇所でも存在するものは、欠陥品として取り除いた。ここで、欠陥品と判断された複合中空糸膜は、200本中、50本であった。
【0021】
欠陥なしと判断された複合中空糸膜150本については、その内部にアルミナ製管状支持体を挿入した状態で、室温で約1時間乾燥させた。その後、焼成炉の内部に、緻密なアルミナ製丸棒を互いに接触するように複数本平らに並べ、隣接する丸棒間に乾燥させた支持体挿入複合中空糸膜をそれぞれ丸棒2本の外周面に隣接するように載せ、昇温速度3℃/分で1375℃迄昇温させ、この温度で30分間保持して焼成を行った。焼成後室温まで温度を下げ、外径2.8mm、内径2.1mm、長さ400mmの多孔質セラミックス中空糸膜(気孔率50%、平均細孔径0.15μm)を得た。図3に示される如く膜表面に凹凸のみられたものは5本のみであり、残り145本については、図2に示される如く、多孔質セラミックス中空糸膜表面には凹凸がみられなかった。
【0022】
比較例
実施例において、N,N-ジメチルホルムアミド量を360gに変更してアルミナ分散液が調製され、ポリスルホン溶液の調製を行うことなく、このアルミナ分散液にポリスルホンペレット83gを徐々に添加し、スリーワンモータを用いて、35℃、200rpmで一晩撹拌されたものが紡糸原液として用いられた。
【0023】
得られた紡糸原液の粘度は50Pa・秒であり、この紡糸原液から製膜された多孔質セラミックス中空糸膜の焼成前における欠陥品は、200本中100本であった。また、焼成後の中空糸膜(気孔率48%、平均細孔径0.15μm)では、100本のうち75本で図3に示される如き、多孔質セラミックス中空糸膜表面の凹凸が確認された。これは、アルミナ粉末の分散不足に起因すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末、膜形成性高分子物質をそれぞれ別々に水溶性の非プロトン性極性溶媒に分散または溶解し、得られたセラミックス粉末分散液と膜形成性高分子物質溶解液とを紡糸前に混合して紡糸原液を調製することを特徴とする多孔質セラミックス中空糸膜製膜用紡糸原液の調製方法。
【請求項2】
70〜75重量%のセラミックス粉末分散液および35〜40重量%の膜形成性高分子物質溶解液が用いられる請求項1記載の多孔質セラミックス中空糸膜製膜用紡糸原液の調製方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法により調整された紡糸原液。
【請求項4】
請求項3記載の紡糸原液を用いて乾湿式紡糸され、製膜された多孔質セラミックス中空糸膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−57260(P2012−57260A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198437(P2010−198437)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】