多孔質フィルム及びその製造方法
【課題】多孔質フィルムの強度を向上し、傷や破損を防止する。
【解決手段】多孔質フィルム3は、補強用シート状部材としてのウェブ12と、このウェブ12の上面に形成された多孔質層としてのハニカム構造層8とからなる。ハニカム構造層8は、ウェブ12上に高分子溶液をキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、キャスト膜の中に液滴を形成する結露工程と、キャスト膜中の液滴を蒸発させることによって空隙を形成する溶媒蒸発工程とから形成される。ウェブ12によって全面が補強されたハニカム構造層8は、積層しても傷が付いたり、破損したりすることがない。
【解決手段】多孔質フィルム3は、補強用シート状部材としてのウェブ12と、このウェブ12の上面に形成された多孔質層としてのハニカム構造層8とからなる。ハニカム構造層8は、ウェブ12上に高分子溶液をキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、キャスト膜の中に液滴を形成する結露工程と、キャスト膜中の液滴を蒸発させることによって空隙を形成する溶媒蒸発工程とから形成される。ウェブ12によって全面が補強されたハニカム構造層8は、積層しても傷が付いたり、破損したりすることがない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料や電子材料の分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、それらの分野に用いられるフィルムにも微細な構造の形成(微細パターニング)が強く求められている。なお、このようなフィルムにおける微細な構造を、以下の説明において微細パターン構造と称する。また、再生医療分野の研究においては、表面に微細な構造を有する膜が、細胞培養する足場となる基材として有効である(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
フィルムの微細パターニングとしては、マスクを用いた蒸着法、光化学反応ならびに重合反応を用いた光リソグラフィー技術、レーザーアブレーション技術など種々の方法が実用化されている。
【0004】
また、特殊な構造を有するポリマーの希薄溶液を高湿度下でキャストすることで、ミクロンスケールのハニカム構造を有するフィルムが得られることが知られている(例えば、特許文献2参照)。このようなハニカム構造を有するフィルムに機能性微粒子を含有させたものは光学及び電子材料として用いられている。例えば、フィルム中に発光材料体を含有させることで、このフィルムは表示デバイスとして用いられる(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、光学材料である偏光板にも微細パターニングが形成されているフィルムが用いられている。このようなフィルムとしては、例えば、モスアイ構造を有する反射防止機能を発現するフィルムがある。このフィルムは、サブミクロン〜数十ミクロンサイズの規則正しい微細パターニングが形成されている。その形成方法の中でも主流であるのは、光リソグラフィーを中心としたマイクロ加工技術を用いた版を作成し、その版の構造をフィルムに転写する方法である(例えば、特許文献4参照。)。
【0006】
前記特許文献4に記載の方法はトップダウン方式と呼ばれ、この方法では上記のように、微細構造を決定する版を作製する。版の作製は、複雑でいくつもの工程を必要とし、コスト上昇を招くこととなる。また、大きな面積の版を製造することが困難であるという問題もある。そこで、微細な構造を自己会合的に形成することで、規則正しい微細構造を有する自己組織化を応用して、微細構造が形成される自己組織化構造体(ハニカム状多孔質フィルム)を作成するボトムアップ方式が提案されている。
【特許文献1】特開2001−157574号公報
【特許文献2】特開2002−335949号公報
【特許文献3】特開2003−128832号公報
【特許文献4】特開2003−302532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多孔質フィルムでは、その製造後、連続シート状の長尺状フィルムであればロール状に巻き取って集積したり、短冊シート状のものであれば重ね合わせて積層したりして保管しているのが一般的である。ところが、上述したようなハニカム状多孔質フィルムのように強度が低いフィルムの場合、ロール状に巻かれたときの巻き締まり力や、積層されたときに上層のフィルムなどから受ける重力によってフィルム表面が圧迫され、フィルムの構造体が破壊されてしまうケースがあった。この対策として重ね合わされるフィルム間にスペーサーを設ける方法を取ることがあるが、スペーサーを製造するコストが掛かる上に、スペーサーを挿入する作業に手間が掛かり、生産性の低下や製造コスト増加の原因となる。
【0008】
また、多孔質フィルムは、非常に薄く形成されており、強度的に取り扱いが難しいことから作業性低下の原因にもなる。さらにまた、多孔質フィルムは、非導電性材料で構成されていることが多いことから、静電気が発生しやすく、近接する物質に吸着し、汚れたり、破損してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、製造後、積層したり、巻き取ってロール状にしたりなどして集積する際に十分な強度を有しており、傷が付いたり、破損したりすることを防止することが可能な多孔質フィルムを低コストに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフィルムの多孔質フィルムは、補強用シート状部材と、この補強用シート状部材上に形成され、微細パターン構造を有する多孔質層とからなることを特徴とする。なお、前記補強用シート状部材には、他の部分よりも厚肉に形成された厚肉部を有することや、その一部を凹凸に加工した凹凸部を形成していることが好ましい。また、前記凹凸部は、前記補強用シート状部材を網目状のローレット加工をすることによって形成されていることが好ましい。
【0011】
さらにまた、前記補強用シート状部材には、前記多孔質層が形成されている面から、前記多孔質層の厚みよりも突出する厚肉部が形成されていることが好ましく、前記厚肉部は、前記多孔質層の両縁部分に合わせて形成されていることがさらに好ましい。
【0012】
また、前記補強用シート状部材は、前記多孔質層が製品として製造されるときの製品サイズの範囲、又は製品として使用される使用範囲よりも外側に形成されることや、その一部が開口されていること、あるいは、その一部を切り離すためのミシン目又は切り込み線が形成されていることが好ましい。
【0013】
さらにまた、前記多孔質層は、気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を前記補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成し、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とし、その液滴を蒸発させることによって空隙を形成したものであることが好ましい。
【0014】
前記補強用シート状部材と、前記多孔質層とは、互いに貼着されていること、あるいは、前記補強用シート状部材は前記多孔質層から剥離可能な仮支持体であることが好ましい。また、前記補強用シート状部材状部材又は前記多孔質フィルムのうち、少なくとも一方は、導電性を有することが好ましい。
【0015】
また、請求項14記載の多孔質フィルムの製造方法では、気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とする液滴形成工程と、その液滴を蒸発させることによって空隙を有する多孔質層を形成する溶媒蒸発工程とを行って前記補強用シート状部材及び前記多孔質層からなる多孔質フィルムの製造方法において、前記溶媒蒸発工程を行った後、前記補強用シート状部材の一部を切り取る工程を行うことを特徴とする。また、請求項15記載の多孔質フィルムの製造方法では、前記キャスト工程の前に前記補強用シート状部材の一部を切り離すためのミシン目又は切り込み線を予め形成することを特徴とする。なお、前記補強用シート状部材状部材又は前記多孔質フィルムのうち、少なくとも一方は、導電性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、補強用シート状部材と、この補強用シート状部材上に形成され、微細パターン構造を有する多孔質層とからなる多孔質フィルムを製造しているので、多孔質フィルムの製造後、積層したり、巻き取ってロール状にしたりなどして集積する際に十分な強度を有しており、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るフィルムの製造工程図を図1に示す。後述する高分子溶液をキャスト工程10により補強用シート状部材上にキャスト(流延)し、キャスト膜を形成するキャスト工程1。そのキャスト工程1後に、結露乾燥工程(液滴形成工程)(溶媒蒸発工程)2により、結露させて水の液滴つまり水滴を形成させ、この水滴をキャスト膜中に含有させる。なお、結露乾燥工程11については、後で詳細に説明する。高分子溶液の溶媒及び水滴を蒸発させてハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)3を得る。機能性付与工程4では、ハニカム構造フィルム3に機能性物質を含有させるなどの機能性付与を行い、機能性フィルム5を得る。なお、キャスト膜から機能性フィルム5を得る間に、キャスト膜やハニカム構造フィルム3に光を照射する照射工程6があってもよい。その場合には、照射光として紫外線や電子線を用いることができる。
【0018】
ハニカム構造フィルム3は高分子化合物を主たる成分として含む。高分子化合物としては、特に限定されず、用途等に応じて決定することができるが、非水溶性溶媒つまり疎水性溶媒に溶解するものが好ましく、例えば、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、アガロース、ポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレート、ポリスルホンなどが好ましい。特に、生分解性を必要とする場合や、あるいは、コストや入手の容易さなどの理由からポリ−ε−カプロラクトンが好ましい。なお、疎水性とは親油性を意味することが一般的であるため、疎水性溶媒に溶解する高分子化合物を、以下の説明では親油性高分子化合物と称する。
【0019】
前記親油性高分子化合物としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態としてもよい。なお、これらの高分子化合物のうち、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
親油性高分子化合物だけでもハニカム構造フィルム3を形成することができるが、親油性高分子化合物に両親媒性の物質を添加することが好ましい。両親媒性物質とは、親水性をもつとともに親油性をももつ物質を意味する。このような両親媒性物質の中でも高分子化合物が好ましく、例としては、例えば両親媒性ポリアクリルアミド等がある。なお、親油性高分子化合物と両親媒性高分子化合物との混合比率は、特に限定されないが、好ましくは重量比で5:1〜20:1である。
【0021】
両親媒性高分子化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、親油性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つもの、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。親油性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。親油性側鎖は、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0022】
前記親油性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶媒の疎水性の強さなどに応じて異なり、一概には規定できないが、ユニット比(親油性側鎖/親水性側鎖)は3/1〜1/3が好ましい。また、コポリマーの場合には、親油性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶媒への溶解性に影響しない範囲で親油性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0023】
前記親油性高分子化合物及び前記両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
【0024】
親油性高分子化合物及び両親媒性高分子化合物は、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)高分子化合物であってもよい。また、親油性高分子化合物、両親媒性高分子化合物とともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施してもよい。
【0025】
親油性高分子化合物、両親媒性高分子化合物と併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。親油性高分子化合物、両親媒性高分子化合物が分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)化合物である場合には、その重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0026】
上記の中でもエチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。したがって、例えば、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗布液を調製し、その塗布液を透明な支持体上に塗布した後、電離放射線又は熱による重合反応により硬化すると、反射防止フィルムを製造することができる。
【0027】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
【0028】
前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
【0029】
前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0030】
前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0031】
なお、前記光ラジカル重合開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。光重合開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。前記光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
【0032】
前記熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【0033】
高分子化合物を溶解させて高分子溶液を調製するための溶媒としては、クロロホルム, ジクロロメタン,四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。しかしながら、高分子化合物を溶解させることができる溶媒であれば特に限定されるものではない。また、キャストするときの溶液のポリマー濃度は、キャスト膜を形成できる濃度であれば良く、具体的には、0.1重量%以上30重量%以下の範囲であることが好ましい。0.1重量%未満であると、フィルムの生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、30重量%を超える濃度であると、結露乾燥工程11において水滴の成長が十分に行われないうちに乾燥してしまうため、好ましい孔サイズをもつようなハニカム構造フィルムをつくることが困難になることがある。
【0034】
図2はハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)3を製造するフィルム製造設備10の概略図、図3は、キャスト膜からハニカム構造フィルム2ができるまでの過程をモデル的に図示した説明図、図4は、ハニカム構造フィルム2の概略図である。図2に示すように、本実施形態のフイルム製造設備10では、送出機11から補強用シート状部材としてのウェブ12を送り出すとともに、高分子溶液供給装置13からスライドコータ14へ高分子溶液15を連続的に送液し、スライドコータ14から押し出した高分子溶液15をウェブ12上に塗布し、キャスト膜20を形成する。
【0035】
キャスト膜20が形成されているウェブ12の搬送方向は、水平方向に対して±10°以内とすることが好ましい。ハニカム構造フィルム3の孔間のピッチや孔サイズをより小さくするために、ウェブ12は、高分子溶液15の有機溶媒を吸収しやすい性質の素材から形成されていることがより好ましい。それら素材は、有機溶媒を吸収するものであれば特に限定されるものではない。例えば、高分子溶液15の主溶媒に酢酸メチルを用いている際には、フィルムの素材にセルロースアシレートを用いることが好ましい。
【0036】
なお、本実施形態においては、ウェブ12としては、導電性を有する材料、例えば、銀、炭素、銅、ニッケル等からなるフィラーを含有する樹脂からウェブ12を形成することが好ましい。
【0037】
高分子溶液供給装置13では、高分子溶液15がタンク21に入れられている。タンク21には攪拌翼を有する攪拌機22が備えられ、攪拌翼が回転することにより高分子溶液15は均一に混合される。高分子溶液15は、ポンプ24によりスライドコータ14に送られる。
【0038】
ここで、高分子溶液15は、スライドコータ14に送られる前に予めろ過される。これにより、製造されるフィルムへの異物混入を防ぐことができる。ろ過は第1ろ過装置26と第2ろ過装置27とで実施される。このように複数のろ過装置を設けることができるときには、上流側の一方である第1ろ過装置26には、ハニカム構造フィルムの孔の径よりも大きな絶対ろ過精度(絶対ろ過孔径)をもつフィルタが備えられ、下流側の他方である第2ろ過装置27には、ハニカム構造フィルムの空隙よりも小さな絶対ろ過精度をもつフィルタが備えられることが好ましい。
【0039】
第1ろ過装置26を用いることにより、ゲル状の異物を長期間除去することができる。そして、第2ろ過装置27を用いることにより、ゲル状異物の中でも小さなものや、凝集粉体、不純物等を除去することができる。ろ過孔径が小さいものほどより小さな異物を除去することができるが、そのようなフィルタのみの使用であるとフィルタの寿命は短い。そこで、ろ過孔径が大きな方で一度ろ過してから、ろ過孔径が小さな方でろ過することにより、ろ過孔径の小さなフィルタの寿命を長くすることができる。そして、以上のように、フィルタの絶対孔径を、ハニカム構造フィルムの孔の大きさを基準として選定することにより、ハニカム構造フィルムにおける規則的構造の形成を阻害する異物が除去され、均一な孔が規則的に配列したハニカム構造フィルムを得ることができるという効果がある。なお、高分子化合物と混合する前の溶媒について、第1,第2ろ過装置26,27と同様なろ過装置でろ過してもよい。
【0040】
ウェブ12は、バックアップローラ31に巻き掛けられながらスライドコータ14へ搬送される。スライドコータ14には、減圧チャンバ33が設けられており、この減圧チャンバ33の減圧度を調整することによってスライドコータ14によるウェブ12への塗布が均一となるように高精度に制御することができ、且つ高速でキャスト膜20を形成することができ、生産性の高い塗布工程を行うことができる。また、支持体であるウェブ12の表面に凹凸がある場合でも、ウェブ12がバックアップローラ31に巻き掛けられている際に平滑化されるので、均一な塗布性に優れている。更に、ウェブ12に非接触で塗布を行うので、ウェブ12の表面を傷つけることなく、均一塗布が可能である。なお、本実施形態では、キャスト膜20が形成されたとき、ウェブ12とキャスト膜20とが貼着される。
【0041】
ウェブ12上にキャスト膜20が形成されると、このキャスト膜20に対して結露乾燥工程(液滴形成工程)(溶媒蒸発工程)が行われる。このキャスト工程の後の結露乾燥工程については、図2と図3とを合わせて説明する。図3(a)に示すようにウェブ12上に形成されたキャスト膜20は、その表面温度(以下、膜面温度と称する)TL(℃)が0℃以上とされることが好ましい。膜面温度TLが0℃未満であると、キャスト膜20の中の水滴が凝固してしまい、そのため所望のサイズの孔が所望の様態でフィルム中に形成されないことがある。
【0042】
結露乾燥工程が行われる流延室40の内部は、水滴をキャスト膜20の上に生じさせてこの水滴を成長させるための結露ゾーン41と、キャスト膜20に空隙を複数形成するために溶媒と水滴とを蒸発させるための乾燥ゾーン42とに区画されている。これらの各ゾーン41,42を経ることにより、キャスト膜20は自己組織化して所定の様態の空隙を有するハニカム構造層(多孔質層)8となる。結露ゾーン41には送風吸引機44が備えられ、この送風吸引機44は、風45をウェブ12上のキャスト膜20に送るとともに、風45を吸引する。送風吸引機44には、風の温度、湿度、風量と吸引力とを独立制御するための送風コントローラ(図示せず)が備えられており、送風条件を制御することにより水滴の生成及び成長が制御される。なお、水滴の成長とは、水滴が大きくなること、水滴の大きさの均一化が進むこと、水滴の大きさの変化に関わらず数が増えて細密に形成されることを意味する。送風吸引機44は、風を送る給気系で、風の温度と露点とを制御するとともに、塵埃度、つまり風の清浄度を保つためのフィルタを備える送風口とこれを排気する吸引口とを備える。送風口と吸引口とは、具体的には、図2に示すように送風口201a,202a,203aと吸引口201b,202b,203bとを有する。送風口201aからの風は吸引口201bから、送風口202aからの風は吸引口202bから、送風口203aからの風は吸引口203bからそれぞれ吸排気される。これにより、結露条件をキャスト膜の走行方向に沿って調整することができるので、水滴の成長の制御が容易となる。
【0043】
送風吸引機44は、送風口と吸引口とをそれぞれ複数有する一体型の送風機であってもよいし、図2に示すように,送風口と吸引口とを備える複数の送風吸引ユニット201〜203が、キャスト膜20の走行方向に沿って配されたものであってもよい。なお、送風コントローラは、各送風吸引ユニット201〜203を独立して制御する。これにより、水滴の発生及び成長状態に応じて送風吸引条件を制御することができる。また、送風口と吸引口とがそれぞれキャスト膜の幅方向に複数分割されて、送風条件と吸引条件とを幅方向に並んだ各区画毎に独立制御できるような送風吸引ユニットを用いてもよい。これにより、キャスト膜の幅方向でも結露条件を制御することができる。なお、図2には3つの送風吸引ユニット201〜203が一体とされた送風吸引機44を示しているが、送風吸引ユニット数を含めた送風機の様態はこれに限定されるものではない。
【0044】
乾燥ゾーン42には、乾燥機46が設けられている。乾燥機46はキャスト膜20に乾燥風47を送るとともに乾燥風47を吸引する。乾燥機46も、送風吸引機44と同様に、送風吸引機44は、風を送る給気系で、風の温度と露点とを制御するとともに、塵埃度、つまり風の清浄度を保つためのフィルタを備える送風口とこれを排気する吸引口とを備える。つまり、送風口と吸引口とは具体的には、送風口206a,207a,208a,209aと吸引口206b,207b,208b,209bとを有する。これにより、キャスト膜20の乾燥条件を調整することが容易となる。
【0045】
キャスト膜20が乾燥ゾーン42に入ると、水滴の成長は止まる。そして、有機溶媒を蒸発させてから水滴を蒸発させる。したがって、有機溶媒としては、同温同圧下において水滴よりも蒸発速度が速いものが好ましい。有機溶媒と水滴との蒸発速度が同じであっても、高分子化合物との親和性に関して有機溶媒よりも水滴52の方が強い場合や、水滴52よりも弱い分子間力の有機溶媒を用いると、両者の蒸発を上記の順にすることと同様の効果が得られる。これにより、有機溶媒の蒸発に伴い水滴がキャスト膜20の内部に入り込むことがより容易になる。なお、水滴の蒸発は、有機溶媒が完全に蒸発してから開始されることが好ましいが、必ずしもこの様態でなくてもよく、キャスト膜20に含まれている有機溶媒のうち概ね0.1〜30%が蒸発したところで水滴が蒸発し始めてもよい。
【0046】
なお、図2では、4つの送風吸引ユニット206〜209から構成されている乾燥機46を示しているが、送風吸引ユニット数はこれに限定されない。乾燥機46には、送風コントローラ(図示せず)が備えられ、この送風コントローラにより、乾燥風の温度、湿度、風量と吸引力とが独立して制御されるとともに、これらの各条件が送風吸引ユニット106〜109毎に独立制御される。乾燥機46についても、送風吸引機44と同様に、複数の送風吸引ユニットが組み合わされたものに代えて、送風口と吸引口とをそれぞれ複数有する一体型のものとされてもよい。また、送風口と吸引口とがそれぞれキャスト膜の幅方向に複数分割されて、送風条件と吸引条件とを幅方向に並んだ区画毎に独立制御できるような送風吸引ユニットを用いてもよい。これにより、キャスト膜の幅方向でも溶媒の蒸発条件と水滴の蒸発条件とを制御することができる。
【0047】
送風吸引機44からの風45の露点TD1(℃)と、結露ゾーン41を通過するキャスト膜20の表面温度TL(℃)とは、0℃≦(TD1−TL)の条件を満たすように、少なくともいずれか一方が制御される。これにより、キャスト膜20の近傍を流れる風45の中の水蒸気を良好に水滴として発生させるとともに成長させることができる。より好ましくは0℃≦(TD1−TL)≦80℃であり、さらに好ましくは0℃≦(TD1−TL)≦30℃であり、最も好ましくは0℃≦(TD1−TL)≦10℃である。0℃未満であると結露がおきにくくなることがある。また、(TD1−TL)が80℃を超えるような条件とされると、結露する速度、つまり水滴発生速度が大きくなりすぎて、水滴の上にさらに水滴ができてしまい、ハニカム構造フィルム3の孔のサイズが不均一、つまり構造が不均一となってしまうことがある。また、風45の温度は特に限定されるものではないが、5℃以上100℃以下の範囲であることが好ましい。100℃を超えると、水滴がキャスト膜20内に入り込む前に、水蒸気として蒸発してしまうおそれがある。
【0048】
結露ゾーン41に入る直前の膜面温度TLと、結露ゾーン41の直前の搬送路近傍の露点と、結露ゾーン41の直後の搬送路近傍の露点との各ばらつきは、いずれも±3℃以内であることが好ましい。
【0049】
図3(a)に示すように結露ゾーン41で風45中の水分(モデル的に図示している)51は、キャスト膜20上で結露して水滴52となる。そして、図3(b)に示すように水分51は結露を進め、生じた水滴52を核として水滴52を成長させる。有機溶媒は実際にはキャスト直後から蒸発し始めており、ウェブ12の温度と雰囲気温度によりその蒸発速度を制御する。この制御をするとともに、キャスト膜20の表面温度TLを所定の温度にして結露ゾーンに入れる。図3(c)に示すように乾燥ゾーン42で乾燥風47がキャスト膜20に送風されると、有機溶媒53がキャスト膜20より揮発する。この際、水滴52の蒸発もおこるが、有機溶媒53は上述のように水滴52よりも速く蒸発する。そのため、複数の水滴52は、有機溶媒53の蒸発に伴い表面張力により略均一の形態となるとともに、キャスト膜20の内部に入り込む。なお、水滴52は、成長しながら内部に入り込むこともある。
【0050】
さらに、キャスト膜20の乾燥が進行すると図3(d)に示すようにキャスト膜20の水滴52から水分が水蒸気54として蒸発する。キャスト膜20から水滴52が蒸発すると、水滴52が占めていたエリアが孔55となり、ハニカム構造層(多孔質層)8(図4参照)が得られる。ここで、ハニカム構造とは、小さな空隙が多数フィルム内部に形成されている構造を意味する。図4の(A)は本発明により得られるハニカム構造フィルム3の平面図の一部分、(B)は(A)のb−b線に沿う断面図で、(C)は(A)のc−c線に沿う断面図である。また、(D)は、別のハニカム構造フィルム9の断面図であるが、これの平面図は(A)と同様であるので略す。孔55は、図4(A)に示すようにハチの巣状にハニカム構造フィルム3を構成するハニカム構造層8の内部に形成される。そして、孔55は、図4(B)及び(C)に示すように、ハニカム構造層8の両面を突き抜けるように形成される場合もあるし、(D)に示すように片面側に窪みとして形成される場合もある。そして、この孔55の配列は、水滴の疎密の度合いや大きさ、形成する液滴の種類、乾燥速度等によって異なるものとなる。本発明により製造されるハニカム構造フィルム3の形態は特に限定されるものではないが、本発明は、例えば、隣接する孔55の中心間距離L2が0.05μm以上100μm以下であるようなハニカム構造フィルムを製造する場合に特に効果がある。
【0051】
前記自己組織化によるハニカム構造フィルム3におけるハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定サイズの孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や6方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。
【0052】
ハニカム構造フィルム3の厚みは、孔径D1〜200μmが好ましく、高分子溶液のポリマー濃度を高めることにより、支持体側には孔が形成されない厚肉部分を形成することもできる。この場合には、前記厚肉部分の厚みは1〜500μmの範囲が好ましい。
【0053】
本発明において、風45は、キャスト膜20に対して、ばらつきが±20°以内となるような角度で一方向から供給されることが好ましく、キャスト膜20に平行である追い風(並流)とされることが最も好ましい。風45を向流として送風すると、風45とキャスト膜20との相対速度を低い条件とする場合に風45の速度制御が難しく、キャスト膜20の露出面が乱れて平滑性を失うために、水滴52の成長が阻害されることがある。また、風45の送風速度は、キャスト膜20の移動速度、つまりウェブ12の走行速度との相対速度が0.1m/s以上20m/s以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5m/s以上15m/s以下の範囲であり、最も好ましくは1m/s以上10m/s以下の範囲である。前記相対速度が0.1m/s未満であると、水滴52が細密に配列して形成されないうちに、キャスト膜20が乾燥ゾーン42に搬送されるおそれがある。一方、前記相対速度が20m/sを超えると、キャスト膜20の露出面が乱れたり、結露が充分に進行しなかったりするおそれがある。
【0054】
前記相対速度のばらつきは、前記相対速度の平均値に対して±20%以内であることが好ましい。この条件と風の条件とにより水滴52の様態を均一にする効果がより高まる。この相対速度の調整は、風45の速度とキャスト膜20の搬送速度との少なくともいずれか一方を調整することで実施することができる。
【0055】
本発明において、キャスト膜20が結露ゾーン41を通過する時間は0.1秒以上100秒以下とすることが好ましい。これにより、空隙が細密充填されるに十分な水滴52を十分に多数、均一に生じさせることができる。0.1秒未満であると水滴52が充分成長しないまま形成されるため所望の孔を形成することが困難となる、あるいは、細密な孔をフィルム中に細密に形成されないことがある。また、100秒を超えると、水滴52のサイズが大きくなり過ぎハニカム構造のフィルムを得られないおそれがある。このようにキャスト膜20が結露ゾーン41を通過する時間を制御することにより、孔の大きさ等の様態を制御することができる。ハニカム構造フィルム3を連続ではなくバッチ式で製造する場合、あるいは長尺状ではなくシート状や小さな短冊状等に製造する場合には、上記の結露ゾーン41を通過する時間に代えて、結露させる環境下にキャスト膜を置く時間を制御すると同様な効果が得られる。
【0056】
乾燥ゾーン42でキャスト膜20を乾燥する乾燥風47の送風速度も0.1m/s以上20m/s以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5m/s以上15m/s以下の範囲であり、最も好ましくは1m/s以上10m/s以下の範囲とすることである。0.1m/s未満であると、水滴52の蒸発が充分に進行しないおそれがあり、生産性がおちる場合がある。一方、20m/sを超えると水滴52の蒸発が急激に生じて、形成される孔55の形態が乱れるおそれがある。
【0057】
乾燥風47の露点TD2(℃)と膜面温度TL(℃)とは、(TL−TD2)℃≧1℃の条件を満たすように、少なくとも何れか一方を制御することが好ましい。これにより、水滴52の成長を止めて、水滴52を水蒸気54として蒸発させることが可能となる。(TL−TD2)が1℃未満であるときには、水滴52の成長を止めることが確実にはできず、孔55のサイズの精度が低下することがある。また、乾燥ゾーン42では、80℃≧(TL−TD2)であることがより好ましい。(TL−TD2)が80℃を越えると、有機溶媒や水滴52の蒸発が急激になってしまい、規則的に並んでいた水滴52の配列や形状、サイズが乱れて均一なハニカム構造は発現されなくなる。
【0058】
乾燥ゾーン42に入る直前の膜面温度TLと、乾燥ゾーン42の直前の搬送路近傍の露点と、乾燥ゾーン42の直後の搬送路近傍の露点との各ばらつきは、いずれも±3℃以内であることが好ましい。
【0059】
キャスト膜20の乾燥は、2Dノズル(2次元ノズル)を備える乾燥機46で行う方法や、これに代えてまたは加えて、減圧乾燥法により行うことが可能である。減圧乾燥を行うことで、有機溶媒53と水滴52との蒸発速度をそれぞれ調整することが可能となる。これにより、有機溶媒53の蒸発と水滴52の蒸発とをより良好にし、水滴52をより良好にキャスト膜20の内部に形成することができるので、前記水滴が存在する位置に、大きさ、形状が制御された孔55を形成することができる。なお、前記2Dノズルとは、風を出す給気ノズル部材と、キャスト膜20近傍の空気を吸い込む排気用ノズル部材とをもつものである。この2Dノズルとしては、キャスト面全幅に渡り、均一に給気と排気とを行えるものが好ましい。風の露点とキャスト膜の表面温度TLとの差を80℃以内とすることにより、有機溶媒及び/または水分の急激な揮発を抑制でき、所望の形態のハニカム構造フィルム3を得ることができる。
【0060】
また、膜面から3mm〜20mm程度離れた位置に、表面が冷却されその表面に溝を有する凝縮器を設けて、凝縮器の表面で水蒸気や揮発有機溶媒を凝縮させ、膜面近傍の水分及び溶媒ガスの濃度が高くならないように制御することによりキャスト膜の乾燥を図る方法を適用することができる。以上のような乾燥方法のうち少なくともいずれかひとつの乾燥方法を適用することで、キャスト膜20の膜面への動的な影響を少なくして乾燥させることができるため、より平滑な膜面を得ることができる。
【0061】
また、送風吸引機44、乾燥機46の送風吸引ユニットの数を変更したり、送風吸引機44、乾燥機46の内部を複数のエリアに区画したりすることにより、ユニット毎あるいはエリア毎に異なる露点条件を設定したり、異なる乾燥条件を設定したりすることができる。これら条件を選択することで、孔55の寸法制御性の向上や孔均一性の向上を図ることができる。なお、送風吸引ユニットや前記エリアの数は特に限定されるものではないが、フィルムの品質と設備のコストの点から最適な組み合わせを決定する。
【0062】
また、キャスト膜20に不純物が混入すると、ハニカム構造の形成が阻害される。そのため、送風口201a,202a,203a,206a,207a,208a,209aの塵埃度をクラス1000以下とすることが好ましい。そこで、送風吸引機44,乾燥機46の各ユニットには、給気系における埃等を除去するためのフィルタ(図示せず)が備えられ、ハウジング38内の空調を行うことが好ましい。これにより、ハニカム構造層(多孔質層)8中に不純物が混入するおそれが減少し、良好なハニカム構造フィルム3を得ることができる。
【0063】
ここで、キャスト膜20の粘度をN1、水滴52の粘度をN2とする。結露ゾーン41にて液滴が形成され始めた後、乾燥ゾーン42で孔の様態が好適に形成される見込みがつくまでは、N1<N2とすることが好ましい。これにより、水滴52がキャスト膜20の中に入り込んで、空隙がより均一に形成されたハニカム構造フィルム3を得ることができる。上記の粘度条件を満たすためにもっとも簡易的な方法は、高分子溶液15を予め小さめの粘度に処方しておくことである。なお、キャスト膜20の粘度を低くなるように高分子溶液15を処方しても、はじめはN1<N2を満たすことができるが、その後、孔が好適に形成されないうちに、結露ゾーン41での冷却や乾燥ゾーン42での乾燥によりN1がN2より大きくなってしまうことがある。その場合には、一旦温度を上げる等によりN1を小さくして、一時的にでもN2より小さくするとよい。なお、このような粘度調整は、一度のみならず複数回実施してもよい。
【0064】
乾燥が進行したハニカム構造フィルム3は、巻取機32により巻き取られる。なお、ハニカム構造フィルム3の搬送速度は、特に限定されるものではないが、0.1m/min以上60m/min以下の範囲であることが好ましい。0.1m/min未満であると生産性に劣りコストの点から好ましくない。また、60m/minを超えると、ハニカム構造フィルムを搬送する際に、過大な張力が付与されて裂ける、あるいはハニカム構造が乱れる等の問題が発生することがある。以上の方法により、ハニカム構造フィルム3を連続して製造することができる。
【0065】
このようにして形成されたハニカム構造フィルム3の一例を図5及び図6に示す。このハニカム構造フィルム3では、ハニカム構造層(多孔質層)8及びウェブ(補強用シート状部材)12はほぼ同じ面積で形成されている。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の全面が補強され、図6に示すようにハニカム構造フィルム3を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、ウェブ12によって支持されているため、高い強度を有することができ、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。また、ウェブ12として、導電性を有する材料を使用していることから、静電気の発生を防ぐことができる。よって、近接する物質に吸着することがないため、ハニカム構造フィルム3の汚れや破損をさらに防ぐことができる。
【0066】
なお、上記実施形態では、連続的に高分子溶液12を流延することにより、長尺のハニカム構造フィルム3を製造することを例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、高分子溶液を間欠的・断続的に流延して、シート状のハニカム構造フィルムを次々に製造する場合も含まれる。図7は、他の実施形態である。フィルム製造設備の要部概略図である。なお、図2と同じ作用の装置、部材については図2と同じ符号を付す。フィルム製造設備310は、シート状のハニカム構造フィルムを製造する設備であり、高分子溶液を支持体302に流延する流延ゾーン304と、結露ゾーン41と、乾燥ゾーン42とを有する。流延ゾーン304内では、支持体302が搬送されながら流延ダイ25から高分子溶液が流延され、キャスト膜211が形成される。そして、キャスト膜211が形成された支持体302は、結露ゾーン41に送られる。その後、水滴が形成されたキャスト膜311は、支持体302により乾燥ゾーンに搬送される。このように、各ゾーンでの各処理を支持体302単位で実施し、間欠的に支持体302を搬送することにより、シート状のハニカム構造フィルムを製造することができる。
【0067】
なお、幅方向の長さが流延ダイ25よりも短い流延ダイを、支持体302の幅方向に複数ならべて、幅が小さなキャスト膜を形成することもできる。さらに、流延ゾーン304における支持体302の搬送を、より短い時間間隔で間欠的にすることにより、より小さなキャスト膜を支持体上に複数形成することもできる。また、流延ダイの高分子溶液12の流出口を幅方向で複数に仕切り、高分子溶液12を断続的に流延することにより、短冊状のハニカム構造フィルムを次々と製造することもできる。
【0068】
ハニカム構造フィルムとしては、上記の形態に限るものではなく、以下の例に示すような形態としてもよい。図8及び図9に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)61は、ハニカム構造層(多孔質層)8と、このハニカム構造層8の両側縁部分に合わせて設けられたウェブ(補強用シート状部材)62a,62bとからなる。なお、ウェブ(補強用シート状部材)62a,62bをこのように形成する場合、上記実施形態と同様にハニカム構造層(多孔質層)とウェブ(補強用シート状部材)とをほぼ同じ面積で形成した後、ウェブの両側縁を除く部分を切り取って形成するようにすればよい。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の側縁部分が補強され、図9に示すようにハニカム構造フィルム3を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、ハニカム構造フィルム61の側縁同士が重なって積層されるから、ハニカム構造層(多孔質層)8に掛かる力が少ないので、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【0069】
また、図10及び図11に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)66は、ハニカム構造層(多孔質層)8と、ウェブ(補強用シート状部材)67とからなる。ウェブ(補強用シート状部材)67は、厚肉部67a,67bが形成されている。厚肉部67a,67bは、ハニカム構造層8の両側縁部分に合わせて形成されており、他の部分よりも厚肉で、且つハニカム構造層8が形成される面とは反対側の面に突出するように形成されている。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の側縁部分が補強され、図11に示すようにハニカム構造フィルム66を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、ハニカム構造層(多孔質層)8に掛かる力が少ないので、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【0070】
さらにまた、図12及び図13に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)71は、ハニカム構造層(多孔質層)8と、ウェブ(補強用シート状部材)72とからなる。なお、図11は、ハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)71を底面側(ウェブ(補強用シート状部材)72側)から見た図である。ウェブ(補強用シート状部材)72は、凹凸部72a,72bが形成されている。凹凸部72a,72bは、ハニカム構造層8の両側縁部分に合わせて配されており、多数の凹凸がそれぞれ形成されている。この凹凸部72a,72bとしては、例えば網目状のローレット(切り込み)を入れたローラを押し付けるローレット加工を行うことによって形成する。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の全面が補強され、さらに、図13に示すようにハニカム構造フィルム3を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、凹凸部72a,72b同士が重なり合って、ハニカム構造層(多孔質層)8に掛かる力が少ないから、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【0071】
また、図14及び図15に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)76は、ハニカム構造層(多孔質層)8と、ウェブ(補強用シート状部材)77とからなる。ウェブ(補強用シート状部材)77は、厚肉部77a,77bが形成されている。厚肉部77a,77bは、ウェブ(補強用シート状部材)77の両側縁部分に配されており、他の部分よりも厚肉で、且つハニカム構造層8が形成される面から突出するように形成されている。そして、ハニカム構造層8は、厚肉部77a,77bの間に位置するように形成される。なお、厚肉部77a,77bの高さAは、ハニカム構造層8の厚みBよりも突出するように形成されている(図15参照)。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の側縁部分が補強され、図15に示すようにハニカム構造フィルム76を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、厚肉部77a,77b同士が重ね合わさっているから、ハニカム構造層(多孔質層)8に掛かる力が少ないので、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【0072】
なお、上記実施形態では、ハニカム構造層(多孔質層)を補強する補強用シート状部材をハニカム構造層(多孔質層)に貼着する構成を例示しているが、本発明はこれに限るものではなく、キャスト膜を形成するときからハニカム構造層が形成されるまでの仮支持体を補強用シート状部材として使用し、次の工程が行われるとき、あるいは、製品として使用されるときは、仮支持体(補強用シート状部材)をハニカム構造層(多孔質層)から剥離して使用するようにしてもよい。この場合、例えば上記で例示した図5〜図14の形態のような補強用シート状部材を全て仮支持体として、ハニカム構造層8から剥離可能とする。また、この場合、仮支持体の表面には、ハニカム構造層(多孔質層)が容易に剥離できるように剥離層を形成しておくことが好ましい。このような剥離層としては、少なくとも離型剤を含み、更に必要に応じて他の成分を含有して形成される。なお、離型剤としては、例えば、エマルジョン型、溶剤型又は無溶剤型のシリコーン樹脂、フッ素樹脂、アミノアルキル樹脂、ポリエステル樹脂、ワックス、等を使用することができ、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。またこれらの離型剤に限らず、各種添加剤などを使用してもよい。
【0073】
なお、このように仮支持体(補強用シート状部材)を剥離した後は、ハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)の強度が低下してしまう。そこで図16及び図17に示すハニカム構造フィルム81では、仮支持体(補強用シート状部材)82が剥離される場合も考慮して、仮支持体82とは別の補強用シート状部材83a,83bを設けている。なお、仮支持体82は剥離しやすいように、ハニカム構造層(多孔質層)8及び補強用シート状部材83a,83bとの接触面に剥離層を形成している。そして、補強用シート状部材83a,83bは、仮支持体82の両側縁部分に合わせて設けられており、この補強用シート状部材83a,83bの間に挟まれた空間にハニカム構造層8が配されるように仮支持体82上にキャスト膜を形成する。これによって、ハニカム構造層8の全面と、特に両側縁部分が補強されるので、図17に示すように積層されたとき、あるいは巻き取られたとき、ハニカム構造層8には、力が掛からないので、破損したり傷が付くことを防止することができる。さらに仮支持体82を剥離した後も補強用シート状部材83a,83bがハニカム構造層8の両側縁部分に貼着されているので、ハニカム構造フィルムの強度を保つことができる。
【0074】
なお、ハニカム構造層から剥離される仮支持体の形態としては、これらのものに限らず、例えば、図18及び図19に示すような形態でもよい。この図18及び図19に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)86は、ハニカム構造層8と、仮支持体(補強用シート状部材)87とからなる。仮支持体(補強用シート状部材)87は、厚肉部87a,87bが形成されている。厚肉部87a,87bは、仮支持体(補強用シート状部材)87の両側縁部分に配されており、他の部分よりも厚肉で、ハニカム構造層8が形成される面から突出するように形成されている。そしてハニカム構造層8は、仮支持体(補強用シート状部材)87の全面を覆うように形成されている。これにより、ハニカム構造層8には、階段状の段差部8a,8bが形成される。このような形態とすることで、ハニカム構造層8の全面、特に両側縁部分が補強されるので、図19に示すように積層されたとき、あるいは巻き取られたとき、ハニカム構造層8が破損したり、傷が付くことを防止することができる。
【0075】
また、仮支持体と、その上面に設けた補強用シート状部材と、ハニカム構造層(多孔質層)とからなる構成では、上記のものに限らず、図20及び図21に示すような形態のものでもよい。この図20及び図21に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)91は、仮支持体(補強用シート状部材)92、仮支持体92とは別の補強用シート状部材93a,93b、及びハニカム構造層8とからなる。なお、仮支持体92及び補強用シート状部材93a,93bの形状、配置としては、上記例の仮支持体82及び補強用シート状部材83a,83bの形状、配置とほぼ同様であるが、この例では、補強用シート状部材93a,93bの間に挟まれた部分とともに、補強用シート状部材93a,93bの上面にもハニカム構造層8が形成されている。よって、ハニカム構造層8には、階段状の段差部8a,8bが形成される。このような形態とすることで、ハニカム構造層8の全面、特に両側縁部分が補強されるので、図21に示すように積層されたとき、あるいは巻き取られたとき、ハニカム構造層8が破損したり、傷が付くことを防止することができる。
【0076】
また、上記例では、補強用シート状部材を設ける位置は、製品サイズとなったときの領域、あるいは、ハニカム構造層(多孔質層)の使用領域などとは関係なく設けられているが、図22で示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)96では、ハニカム構造層8が製品サイズとなったときの領域あるいはハニカム構造層(多孔質層)8の使用領域(2点鎖線で示す範囲)97よりも外側の位置にウェブ(補強用シート状部材)98a,98bが設けられている。なお、図22では、ハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)96を底面側(ウェブ(補強用シート状部材)98a,98b側)から見た状態を示している。このような形態とすることによって、上記実施形態と同様の効果が得られるとともに、製品となったときに、ウェブ(補強用シート状部材)98a,98bの影響を受けず、ハニカム構造層8が本来持つ性能を保つことができる。
【0077】
あるいは、図23に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)101では、ハニカム構造層(多孔質層)8が製品サイズとなったときの領域あるいはハニカム構造層8の使用領域(2点鎖線で示す範囲)102よりも外側で、且つ4辺を囲む矩形枠状にウェブ(補強用シート状部材)103が設けられている。なお、このような矩形枠状に形成する場合、例えば、キャスト工程及び結露乾燥工程によってハニカム構造層8が形成された後、使用領域102とほぼ同じ、あるいは1回り大きい開口103aをウェブ(補強用シート状部材)103から切り取って形成するようにしてもよい。
【0078】
あるいは、1枚のハニカム構造フィルムから製品サイズのものを多数個取りする場合には、例えば、図24に示すような形態とする。この図24に示すハニカム構造フィルム106では、ハニカム構造層8に、例えば横4列×縦2列(計8個)の製品サイズの領域107a〜107hを設けることが可能となっており、この領域107a〜107hの外側で、これらの領域をそれぞれ囲む格子状にウェブ(補強用シート状部材)108を形成する。なお、一枚のハニカム構造フィルムから製品サイズのものを多数個取りするときの、個数及び配置はこれらのものに限るものではなく、適宜変更してもよい。
【0079】
なお、上述したような、ハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)の製品サイズ又は使用領域に合わせて補強用シート状部材を形成する場合、開口を切り取って形成するのではなく、例えば、図25に示すハニカム構造フィルム111では、製品サイズ又は使用領域に合わせて切り取ることが可能なミシン目113a〜113hをウェブ(補強用シート状部材)112に予め形成しておく。このような形態とすることによって、キャスト工程及び結露乾燥工程でハニカム構造層(多孔質層)8が形成された後、ミシン目113a〜113hに沿って切り取ることで製品サイズ又は使用領域に合わせた開口を有することができる。なお、一枚のハニカム構造フィルムから製品サイズのものを多数個取りするときの、個数及び配置はこれらのものに限るものではなく、適宜変更してもよい。
【0080】
また、図26に示すハニカム構造フィルム116では、使用領域に合わせた開口118a〜118hと、製品サイズに合わせたミシン目119とを補強用シート状部材117に予め形成しておく、これによって、上記例と同様の効果を得ることができるとともに、各製品サイズに切り離して使用することもできる。あるいは、図27に示すハニカム構造フィルム121のように、使用領域に合わせて切り取ることができるミシン目123a〜123hと製品サイズに合わせたミシン目124とを補強用シート状部材122に形成するようにしてもよい。なお、一枚のハニカム構造フィルムから製品サイズのものを多数個取りするときの、個数及び配置はこれらのものに限るものではなく、適宜変更してもよい。
【0081】
なお、上記実施形態においては、ウェブ(補強用シート状部材)12を、導電性を有する材料から形成しているが、本発明はこれに限らず、ハニカム構造層(多孔質層)8を同様に導電性を有する材料で形成するようにしてもよいし、ウェブ(補強用シート状部材)12とハニカム構造層(多孔質層)8の両方を導電性を有する材料で形成するようにしてもよい。
【0082】
なお、ウェブ(補強用シート状部材)上に高分子溶液をキャスト(塗布)してキャスト膜を形成するキャスト工程の形態としては、上記で例示したスライドコータによるものに限らず、多層式のスライドコータを用いてもよい。これによって、複数の高分子溶液の流れを重ねてウェブ上にキャスト(塗布)することにより、ハニカム構造層の厚み方向における形態,物性などを変更することが可能となる。また、スライドコータに限らず、周知のエクストリュージョンコータによってキャスト工程を行ってもよい。
【0083】
また、前記説明のように本発明においてキャスト法は、特に限定されるものではない。例えば、スライド法,エクストリュージョン法,バー法及びグラビア法などが挙げられる。
【0084】
前記各方法で得られるハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)は、機能性付与工程13(図1参照)によりさらに他の機能性が付与されて機能性フィルム14(図1参照)となる。例えば、サイズが小さく、ハニカム構造フィルムとの屈折率差が大きな微粒子を、上記各ハニカム構造フィルムに付与して機能性フィルムを得ることができる。このような機能性フィルムは、フォトニック結晶の作製用に、あるいはレーザ,光導波路などに用いることができる。また、微粒子として光励起、導電などにより発光するものを用いることもできる。この場合の微粒子としては、有機顔料,有機染料及び発光性希土類化合物が挙げられる。このような微粒子を付与した機能性フィルム14は、薄型ディスプレイなどの発光材料として用いることができる。なお、機能性付与工程は、ハニカム構造フィルムが得られた後に実施されることに代えて、または加えて、ハニカム構造フィルムを製造する過程で実施されてもよい。例えば、微粒子をハニカム構造フィルム中に含有させる場合には、高分子溶液中に予め微粒子を添加しておくことができる。
【0085】
微粒子としては、光照射、磁場などにより磁性を有して保持できるものを用いることもできる。このような微粒子の付与により、記録・メモリ材料に適用できる機能性フィルムを得ることができる。また、微粒子として着色ボールやマイクロカプセルを用いることもできる。このような微粒子を付与した機能性フィルムは、ペーパライクディスプレイなどに用いることができる。
【0086】
微粒子として、タンパク質、糖、DNAなどの生体材料と選択的に結合したり、化学反応するものを用いることもできる。このような微粒子を付与した機能性フィルムは、バイオチップに用いることができる。さらに、細胞培養用の基材としてハニカム構造フィルムを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る多孔質フィルムの製造方法を説明する工程図である。
【図2】本発明に係る多孔質フィルムの製造方法に用いられるフィルム製造設備の概略図である。
【図3】本発明に係る多孔質フィルムが形成される状態の説明図である。
【図4】(A)は本発明に係る多孔質フィルムの平面図、(B)は(A)のb−b線に沿う断面図、(C)は(A)のc−c線に沿う断面図であり、(D)は別の実施様態であるフィルムの平面図である。
【図5】本発明に係る多孔質フィルムの斜視図である。
【図6】本発明に係る多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図7】別の実施形態としてのフィルム製造設備の概略図である。
【図8】本発明に係る第2の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図9】本発明に係る第2の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図10】本発明に係る第3の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図11】本発明に係る第3の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図12】本発明に係る第4の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図13】本発明に係る第4の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図14】本発明に係る第5の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図15】本発明に係る第5の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図16】本発明に係る第6の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図17】本発明に係る第6の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図18】本発明に係る第7の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図19】本発明に係る第7の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図20】本発明に係る第8の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図21】本発明に係る第8の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図22】本発明に係る第9の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図23】本発明に係る第10の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図24】本発明に係る第11の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図25】本発明に係る第12の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図26】本発明に係る第13の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図27】本発明に係る第14の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【符号の説明】
【0088】
1 キャスト工程
2 結露乾燥工程
3,61,66,71,76,81,86,91,96,101,106,111,116,121 ハニカム構造フィルム
41 結露ゾーン
42 乾燥ゾーン
12,62a,62b,67,72,77,83a,83b,93a,93b,98a,98b,103,108,112,116,122 ウェブ(補強用シート状部材)
82,87,92,仮支持体(補強用シート状部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料や電子材料の分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、それらの分野に用いられるフィルムにも微細な構造の形成(微細パターニング)が強く求められている。なお、このようなフィルムにおける微細な構造を、以下の説明において微細パターン構造と称する。また、再生医療分野の研究においては、表面に微細な構造を有する膜が、細胞培養する足場となる基材として有効である(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
フィルムの微細パターニングとしては、マスクを用いた蒸着法、光化学反応ならびに重合反応を用いた光リソグラフィー技術、レーザーアブレーション技術など種々の方法が実用化されている。
【0004】
また、特殊な構造を有するポリマーの希薄溶液を高湿度下でキャストすることで、ミクロンスケールのハニカム構造を有するフィルムが得られることが知られている(例えば、特許文献2参照)。このようなハニカム構造を有するフィルムに機能性微粒子を含有させたものは光学及び電子材料として用いられている。例えば、フィルム中に発光材料体を含有させることで、このフィルムは表示デバイスとして用いられる(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、光学材料である偏光板にも微細パターニングが形成されているフィルムが用いられている。このようなフィルムとしては、例えば、モスアイ構造を有する反射防止機能を発現するフィルムがある。このフィルムは、サブミクロン〜数十ミクロンサイズの規則正しい微細パターニングが形成されている。その形成方法の中でも主流であるのは、光リソグラフィーを中心としたマイクロ加工技術を用いた版を作成し、その版の構造をフィルムに転写する方法である(例えば、特許文献4参照。)。
【0006】
前記特許文献4に記載の方法はトップダウン方式と呼ばれ、この方法では上記のように、微細構造を決定する版を作製する。版の作製は、複雑でいくつもの工程を必要とし、コスト上昇を招くこととなる。また、大きな面積の版を製造することが困難であるという問題もある。そこで、微細な構造を自己会合的に形成することで、規則正しい微細構造を有する自己組織化を応用して、微細構造が形成される自己組織化構造体(ハニカム状多孔質フィルム)を作成するボトムアップ方式が提案されている。
【特許文献1】特開2001−157574号公報
【特許文献2】特開2002−335949号公報
【特許文献3】特開2003−128832号公報
【特許文献4】特開2003−302532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多孔質フィルムでは、その製造後、連続シート状の長尺状フィルムであればロール状に巻き取って集積したり、短冊シート状のものであれば重ね合わせて積層したりして保管しているのが一般的である。ところが、上述したようなハニカム状多孔質フィルムのように強度が低いフィルムの場合、ロール状に巻かれたときの巻き締まり力や、積層されたときに上層のフィルムなどから受ける重力によってフィルム表面が圧迫され、フィルムの構造体が破壊されてしまうケースがあった。この対策として重ね合わされるフィルム間にスペーサーを設ける方法を取ることがあるが、スペーサーを製造するコストが掛かる上に、スペーサーを挿入する作業に手間が掛かり、生産性の低下や製造コスト増加の原因となる。
【0008】
また、多孔質フィルムは、非常に薄く形成されており、強度的に取り扱いが難しいことから作業性低下の原因にもなる。さらにまた、多孔質フィルムは、非導電性材料で構成されていることが多いことから、静電気が発生しやすく、近接する物質に吸着し、汚れたり、破損してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、製造後、積層したり、巻き取ってロール状にしたりなどして集積する際に十分な強度を有しており、傷が付いたり、破損したりすることを防止することが可能な多孔質フィルムを低コストに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフィルムの多孔質フィルムは、補強用シート状部材と、この補強用シート状部材上に形成され、微細パターン構造を有する多孔質層とからなることを特徴とする。なお、前記補強用シート状部材には、他の部分よりも厚肉に形成された厚肉部を有することや、その一部を凹凸に加工した凹凸部を形成していることが好ましい。また、前記凹凸部は、前記補強用シート状部材を網目状のローレット加工をすることによって形成されていることが好ましい。
【0011】
さらにまた、前記補強用シート状部材には、前記多孔質層が形成されている面から、前記多孔質層の厚みよりも突出する厚肉部が形成されていることが好ましく、前記厚肉部は、前記多孔質層の両縁部分に合わせて形成されていることがさらに好ましい。
【0012】
また、前記補強用シート状部材は、前記多孔質層が製品として製造されるときの製品サイズの範囲、又は製品として使用される使用範囲よりも外側に形成されることや、その一部が開口されていること、あるいは、その一部を切り離すためのミシン目又は切り込み線が形成されていることが好ましい。
【0013】
さらにまた、前記多孔質層は、気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を前記補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成し、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とし、その液滴を蒸発させることによって空隙を形成したものであることが好ましい。
【0014】
前記補強用シート状部材と、前記多孔質層とは、互いに貼着されていること、あるいは、前記補強用シート状部材は前記多孔質層から剥離可能な仮支持体であることが好ましい。また、前記補強用シート状部材状部材又は前記多孔質フィルムのうち、少なくとも一方は、導電性を有することが好ましい。
【0015】
また、請求項14記載の多孔質フィルムの製造方法では、気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とする液滴形成工程と、その液滴を蒸発させることによって空隙を有する多孔質層を形成する溶媒蒸発工程とを行って前記補強用シート状部材及び前記多孔質層からなる多孔質フィルムの製造方法において、前記溶媒蒸発工程を行った後、前記補強用シート状部材の一部を切り取る工程を行うことを特徴とする。また、請求項15記載の多孔質フィルムの製造方法では、前記キャスト工程の前に前記補強用シート状部材の一部を切り離すためのミシン目又は切り込み線を予め形成することを特徴とする。なお、前記補強用シート状部材状部材又は前記多孔質フィルムのうち、少なくとも一方は、導電性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、補強用シート状部材と、この補強用シート状部材上に形成され、微細パターン構造を有する多孔質層とからなる多孔質フィルムを製造しているので、多孔質フィルムの製造後、積層したり、巻き取ってロール状にしたりなどして集積する際に十分な強度を有しており、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るフィルムの製造工程図を図1に示す。後述する高分子溶液をキャスト工程10により補強用シート状部材上にキャスト(流延)し、キャスト膜を形成するキャスト工程1。そのキャスト工程1後に、結露乾燥工程(液滴形成工程)(溶媒蒸発工程)2により、結露させて水の液滴つまり水滴を形成させ、この水滴をキャスト膜中に含有させる。なお、結露乾燥工程11については、後で詳細に説明する。高分子溶液の溶媒及び水滴を蒸発させてハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)3を得る。機能性付与工程4では、ハニカム構造フィルム3に機能性物質を含有させるなどの機能性付与を行い、機能性フィルム5を得る。なお、キャスト膜から機能性フィルム5を得る間に、キャスト膜やハニカム構造フィルム3に光を照射する照射工程6があってもよい。その場合には、照射光として紫外線や電子線を用いることができる。
【0018】
ハニカム構造フィルム3は高分子化合物を主たる成分として含む。高分子化合物としては、特に限定されず、用途等に応じて決定することができるが、非水溶性溶媒つまり疎水性溶媒に溶解するものが好ましく、例えば、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、アガロース、ポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレート、ポリスルホンなどが好ましい。特に、生分解性を必要とする場合や、あるいは、コストや入手の容易さなどの理由からポリ−ε−カプロラクトンが好ましい。なお、疎水性とは親油性を意味することが一般的であるため、疎水性溶媒に溶解する高分子化合物を、以下の説明では親油性高分子化合物と称する。
【0019】
前記親油性高分子化合物としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態としてもよい。なお、これらの高分子化合物のうち、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
親油性高分子化合物だけでもハニカム構造フィルム3を形成することができるが、親油性高分子化合物に両親媒性の物質を添加することが好ましい。両親媒性物質とは、親水性をもつとともに親油性をももつ物質を意味する。このような両親媒性物質の中でも高分子化合物が好ましく、例としては、例えば両親媒性ポリアクリルアミド等がある。なお、親油性高分子化合物と両親媒性高分子化合物との混合比率は、特に限定されないが、好ましくは重量比で5:1〜20:1である。
【0021】
両親媒性高分子化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、親油性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つもの、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。親油性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。親油性側鎖は、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0022】
前記親油性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶媒の疎水性の強さなどに応じて異なり、一概には規定できないが、ユニット比(親油性側鎖/親水性側鎖)は3/1〜1/3が好ましい。また、コポリマーの場合には、親油性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶媒への溶解性に影響しない範囲で親油性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0023】
前記親油性高分子化合物及び前記両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
【0024】
親油性高分子化合物及び両親媒性高分子化合物は、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)高分子化合物であってもよい。また、親油性高分子化合物、両親媒性高分子化合物とともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施してもよい。
【0025】
親油性高分子化合物、両親媒性高分子化合物と併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。親油性高分子化合物、両親媒性高分子化合物が分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)化合物である場合には、その重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0026】
上記の中でもエチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。したがって、例えば、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗布液を調製し、その塗布液を透明な支持体上に塗布した後、電離放射線又は熱による重合反応により硬化すると、反射防止フィルムを製造することができる。
【0027】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
【0028】
前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
【0029】
前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0030】
前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0031】
なお、前記光ラジカル重合開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。光重合開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。前記光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
【0032】
前記熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【0033】
高分子化合物を溶解させて高分子溶液を調製するための溶媒としては、クロロホルム, ジクロロメタン,四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。しかしながら、高分子化合物を溶解させることができる溶媒であれば特に限定されるものではない。また、キャストするときの溶液のポリマー濃度は、キャスト膜を形成できる濃度であれば良く、具体的には、0.1重量%以上30重量%以下の範囲であることが好ましい。0.1重量%未満であると、フィルムの生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、30重量%を超える濃度であると、結露乾燥工程11において水滴の成長が十分に行われないうちに乾燥してしまうため、好ましい孔サイズをもつようなハニカム構造フィルムをつくることが困難になることがある。
【0034】
図2はハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)3を製造するフィルム製造設備10の概略図、図3は、キャスト膜からハニカム構造フィルム2ができるまでの過程をモデル的に図示した説明図、図4は、ハニカム構造フィルム2の概略図である。図2に示すように、本実施形態のフイルム製造設備10では、送出機11から補強用シート状部材としてのウェブ12を送り出すとともに、高分子溶液供給装置13からスライドコータ14へ高分子溶液15を連続的に送液し、スライドコータ14から押し出した高分子溶液15をウェブ12上に塗布し、キャスト膜20を形成する。
【0035】
キャスト膜20が形成されているウェブ12の搬送方向は、水平方向に対して±10°以内とすることが好ましい。ハニカム構造フィルム3の孔間のピッチや孔サイズをより小さくするために、ウェブ12は、高分子溶液15の有機溶媒を吸収しやすい性質の素材から形成されていることがより好ましい。それら素材は、有機溶媒を吸収するものであれば特に限定されるものではない。例えば、高分子溶液15の主溶媒に酢酸メチルを用いている際には、フィルムの素材にセルロースアシレートを用いることが好ましい。
【0036】
なお、本実施形態においては、ウェブ12としては、導電性を有する材料、例えば、銀、炭素、銅、ニッケル等からなるフィラーを含有する樹脂からウェブ12を形成することが好ましい。
【0037】
高分子溶液供給装置13では、高分子溶液15がタンク21に入れられている。タンク21には攪拌翼を有する攪拌機22が備えられ、攪拌翼が回転することにより高分子溶液15は均一に混合される。高分子溶液15は、ポンプ24によりスライドコータ14に送られる。
【0038】
ここで、高分子溶液15は、スライドコータ14に送られる前に予めろ過される。これにより、製造されるフィルムへの異物混入を防ぐことができる。ろ過は第1ろ過装置26と第2ろ過装置27とで実施される。このように複数のろ過装置を設けることができるときには、上流側の一方である第1ろ過装置26には、ハニカム構造フィルムの孔の径よりも大きな絶対ろ過精度(絶対ろ過孔径)をもつフィルタが備えられ、下流側の他方である第2ろ過装置27には、ハニカム構造フィルムの空隙よりも小さな絶対ろ過精度をもつフィルタが備えられることが好ましい。
【0039】
第1ろ過装置26を用いることにより、ゲル状の異物を長期間除去することができる。そして、第2ろ過装置27を用いることにより、ゲル状異物の中でも小さなものや、凝集粉体、不純物等を除去することができる。ろ過孔径が小さいものほどより小さな異物を除去することができるが、そのようなフィルタのみの使用であるとフィルタの寿命は短い。そこで、ろ過孔径が大きな方で一度ろ過してから、ろ過孔径が小さな方でろ過することにより、ろ過孔径の小さなフィルタの寿命を長くすることができる。そして、以上のように、フィルタの絶対孔径を、ハニカム構造フィルムの孔の大きさを基準として選定することにより、ハニカム構造フィルムにおける規則的構造の形成を阻害する異物が除去され、均一な孔が規則的に配列したハニカム構造フィルムを得ることができるという効果がある。なお、高分子化合物と混合する前の溶媒について、第1,第2ろ過装置26,27と同様なろ過装置でろ過してもよい。
【0040】
ウェブ12は、バックアップローラ31に巻き掛けられながらスライドコータ14へ搬送される。スライドコータ14には、減圧チャンバ33が設けられており、この減圧チャンバ33の減圧度を調整することによってスライドコータ14によるウェブ12への塗布が均一となるように高精度に制御することができ、且つ高速でキャスト膜20を形成することができ、生産性の高い塗布工程を行うことができる。また、支持体であるウェブ12の表面に凹凸がある場合でも、ウェブ12がバックアップローラ31に巻き掛けられている際に平滑化されるので、均一な塗布性に優れている。更に、ウェブ12に非接触で塗布を行うので、ウェブ12の表面を傷つけることなく、均一塗布が可能である。なお、本実施形態では、キャスト膜20が形成されたとき、ウェブ12とキャスト膜20とが貼着される。
【0041】
ウェブ12上にキャスト膜20が形成されると、このキャスト膜20に対して結露乾燥工程(液滴形成工程)(溶媒蒸発工程)が行われる。このキャスト工程の後の結露乾燥工程については、図2と図3とを合わせて説明する。図3(a)に示すようにウェブ12上に形成されたキャスト膜20は、その表面温度(以下、膜面温度と称する)TL(℃)が0℃以上とされることが好ましい。膜面温度TLが0℃未満であると、キャスト膜20の中の水滴が凝固してしまい、そのため所望のサイズの孔が所望の様態でフィルム中に形成されないことがある。
【0042】
結露乾燥工程が行われる流延室40の内部は、水滴をキャスト膜20の上に生じさせてこの水滴を成長させるための結露ゾーン41と、キャスト膜20に空隙を複数形成するために溶媒と水滴とを蒸発させるための乾燥ゾーン42とに区画されている。これらの各ゾーン41,42を経ることにより、キャスト膜20は自己組織化して所定の様態の空隙を有するハニカム構造層(多孔質層)8となる。結露ゾーン41には送風吸引機44が備えられ、この送風吸引機44は、風45をウェブ12上のキャスト膜20に送るとともに、風45を吸引する。送風吸引機44には、風の温度、湿度、風量と吸引力とを独立制御するための送風コントローラ(図示せず)が備えられており、送風条件を制御することにより水滴の生成及び成長が制御される。なお、水滴の成長とは、水滴が大きくなること、水滴の大きさの均一化が進むこと、水滴の大きさの変化に関わらず数が増えて細密に形成されることを意味する。送風吸引機44は、風を送る給気系で、風の温度と露点とを制御するとともに、塵埃度、つまり風の清浄度を保つためのフィルタを備える送風口とこれを排気する吸引口とを備える。送風口と吸引口とは、具体的には、図2に示すように送風口201a,202a,203aと吸引口201b,202b,203bとを有する。送風口201aからの風は吸引口201bから、送風口202aからの風は吸引口202bから、送風口203aからの風は吸引口203bからそれぞれ吸排気される。これにより、結露条件をキャスト膜の走行方向に沿って調整することができるので、水滴の成長の制御が容易となる。
【0043】
送風吸引機44は、送風口と吸引口とをそれぞれ複数有する一体型の送風機であってもよいし、図2に示すように,送風口と吸引口とを備える複数の送風吸引ユニット201〜203が、キャスト膜20の走行方向に沿って配されたものであってもよい。なお、送風コントローラは、各送風吸引ユニット201〜203を独立して制御する。これにより、水滴の発生及び成長状態に応じて送風吸引条件を制御することができる。また、送風口と吸引口とがそれぞれキャスト膜の幅方向に複数分割されて、送風条件と吸引条件とを幅方向に並んだ各区画毎に独立制御できるような送風吸引ユニットを用いてもよい。これにより、キャスト膜の幅方向でも結露条件を制御することができる。なお、図2には3つの送風吸引ユニット201〜203が一体とされた送風吸引機44を示しているが、送風吸引ユニット数を含めた送風機の様態はこれに限定されるものではない。
【0044】
乾燥ゾーン42には、乾燥機46が設けられている。乾燥機46はキャスト膜20に乾燥風47を送るとともに乾燥風47を吸引する。乾燥機46も、送風吸引機44と同様に、送風吸引機44は、風を送る給気系で、風の温度と露点とを制御するとともに、塵埃度、つまり風の清浄度を保つためのフィルタを備える送風口とこれを排気する吸引口とを備える。つまり、送風口と吸引口とは具体的には、送風口206a,207a,208a,209aと吸引口206b,207b,208b,209bとを有する。これにより、キャスト膜20の乾燥条件を調整することが容易となる。
【0045】
キャスト膜20が乾燥ゾーン42に入ると、水滴の成長は止まる。そして、有機溶媒を蒸発させてから水滴を蒸発させる。したがって、有機溶媒としては、同温同圧下において水滴よりも蒸発速度が速いものが好ましい。有機溶媒と水滴との蒸発速度が同じであっても、高分子化合物との親和性に関して有機溶媒よりも水滴52の方が強い場合や、水滴52よりも弱い分子間力の有機溶媒を用いると、両者の蒸発を上記の順にすることと同様の効果が得られる。これにより、有機溶媒の蒸発に伴い水滴がキャスト膜20の内部に入り込むことがより容易になる。なお、水滴の蒸発は、有機溶媒が完全に蒸発してから開始されることが好ましいが、必ずしもこの様態でなくてもよく、キャスト膜20に含まれている有機溶媒のうち概ね0.1〜30%が蒸発したところで水滴が蒸発し始めてもよい。
【0046】
なお、図2では、4つの送風吸引ユニット206〜209から構成されている乾燥機46を示しているが、送風吸引ユニット数はこれに限定されない。乾燥機46には、送風コントローラ(図示せず)が備えられ、この送風コントローラにより、乾燥風の温度、湿度、風量と吸引力とが独立して制御されるとともに、これらの各条件が送風吸引ユニット106〜109毎に独立制御される。乾燥機46についても、送風吸引機44と同様に、複数の送風吸引ユニットが組み合わされたものに代えて、送風口と吸引口とをそれぞれ複数有する一体型のものとされてもよい。また、送風口と吸引口とがそれぞれキャスト膜の幅方向に複数分割されて、送風条件と吸引条件とを幅方向に並んだ区画毎に独立制御できるような送風吸引ユニットを用いてもよい。これにより、キャスト膜の幅方向でも溶媒の蒸発条件と水滴の蒸発条件とを制御することができる。
【0047】
送風吸引機44からの風45の露点TD1(℃)と、結露ゾーン41を通過するキャスト膜20の表面温度TL(℃)とは、0℃≦(TD1−TL)の条件を満たすように、少なくともいずれか一方が制御される。これにより、キャスト膜20の近傍を流れる風45の中の水蒸気を良好に水滴として発生させるとともに成長させることができる。より好ましくは0℃≦(TD1−TL)≦80℃であり、さらに好ましくは0℃≦(TD1−TL)≦30℃であり、最も好ましくは0℃≦(TD1−TL)≦10℃である。0℃未満であると結露がおきにくくなることがある。また、(TD1−TL)が80℃を超えるような条件とされると、結露する速度、つまり水滴発生速度が大きくなりすぎて、水滴の上にさらに水滴ができてしまい、ハニカム構造フィルム3の孔のサイズが不均一、つまり構造が不均一となってしまうことがある。また、風45の温度は特に限定されるものではないが、5℃以上100℃以下の範囲であることが好ましい。100℃を超えると、水滴がキャスト膜20内に入り込む前に、水蒸気として蒸発してしまうおそれがある。
【0048】
結露ゾーン41に入る直前の膜面温度TLと、結露ゾーン41の直前の搬送路近傍の露点と、結露ゾーン41の直後の搬送路近傍の露点との各ばらつきは、いずれも±3℃以内であることが好ましい。
【0049】
図3(a)に示すように結露ゾーン41で風45中の水分(モデル的に図示している)51は、キャスト膜20上で結露して水滴52となる。そして、図3(b)に示すように水分51は結露を進め、生じた水滴52を核として水滴52を成長させる。有機溶媒は実際にはキャスト直後から蒸発し始めており、ウェブ12の温度と雰囲気温度によりその蒸発速度を制御する。この制御をするとともに、キャスト膜20の表面温度TLを所定の温度にして結露ゾーンに入れる。図3(c)に示すように乾燥ゾーン42で乾燥風47がキャスト膜20に送風されると、有機溶媒53がキャスト膜20より揮発する。この際、水滴52の蒸発もおこるが、有機溶媒53は上述のように水滴52よりも速く蒸発する。そのため、複数の水滴52は、有機溶媒53の蒸発に伴い表面張力により略均一の形態となるとともに、キャスト膜20の内部に入り込む。なお、水滴52は、成長しながら内部に入り込むこともある。
【0050】
さらに、キャスト膜20の乾燥が進行すると図3(d)に示すようにキャスト膜20の水滴52から水分が水蒸気54として蒸発する。キャスト膜20から水滴52が蒸発すると、水滴52が占めていたエリアが孔55となり、ハニカム構造層(多孔質層)8(図4参照)が得られる。ここで、ハニカム構造とは、小さな空隙が多数フィルム内部に形成されている構造を意味する。図4の(A)は本発明により得られるハニカム構造フィルム3の平面図の一部分、(B)は(A)のb−b線に沿う断面図で、(C)は(A)のc−c線に沿う断面図である。また、(D)は、別のハニカム構造フィルム9の断面図であるが、これの平面図は(A)と同様であるので略す。孔55は、図4(A)に示すようにハチの巣状にハニカム構造フィルム3を構成するハニカム構造層8の内部に形成される。そして、孔55は、図4(B)及び(C)に示すように、ハニカム構造層8の両面を突き抜けるように形成される場合もあるし、(D)に示すように片面側に窪みとして形成される場合もある。そして、この孔55の配列は、水滴の疎密の度合いや大きさ、形成する液滴の種類、乾燥速度等によって異なるものとなる。本発明により製造されるハニカム構造フィルム3の形態は特に限定されるものではないが、本発明は、例えば、隣接する孔55の中心間距離L2が0.05μm以上100μm以下であるようなハニカム構造フィルムを製造する場合に特に効果がある。
【0051】
前記自己組織化によるハニカム構造フィルム3におけるハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定サイズの孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や6方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。
【0052】
ハニカム構造フィルム3の厚みは、孔径D1〜200μmが好ましく、高分子溶液のポリマー濃度を高めることにより、支持体側には孔が形成されない厚肉部分を形成することもできる。この場合には、前記厚肉部分の厚みは1〜500μmの範囲が好ましい。
【0053】
本発明において、風45は、キャスト膜20に対して、ばらつきが±20°以内となるような角度で一方向から供給されることが好ましく、キャスト膜20に平行である追い風(並流)とされることが最も好ましい。風45を向流として送風すると、風45とキャスト膜20との相対速度を低い条件とする場合に風45の速度制御が難しく、キャスト膜20の露出面が乱れて平滑性を失うために、水滴52の成長が阻害されることがある。また、風45の送風速度は、キャスト膜20の移動速度、つまりウェブ12の走行速度との相対速度が0.1m/s以上20m/s以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5m/s以上15m/s以下の範囲であり、最も好ましくは1m/s以上10m/s以下の範囲である。前記相対速度が0.1m/s未満であると、水滴52が細密に配列して形成されないうちに、キャスト膜20が乾燥ゾーン42に搬送されるおそれがある。一方、前記相対速度が20m/sを超えると、キャスト膜20の露出面が乱れたり、結露が充分に進行しなかったりするおそれがある。
【0054】
前記相対速度のばらつきは、前記相対速度の平均値に対して±20%以内であることが好ましい。この条件と風の条件とにより水滴52の様態を均一にする効果がより高まる。この相対速度の調整は、風45の速度とキャスト膜20の搬送速度との少なくともいずれか一方を調整することで実施することができる。
【0055】
本発明において、キャスト膜20が結露ゾーン41を通過する時間は0.1秒以上100秒以下とすることが好ましい。これにより、空隙が細密充填されるに十分な水滴52を十分に多数、均一に生じさせることができる。0.1秒未満であると水滴52が充分成長しないまま形成されるため所望の孔を形成することが困難となる、あるいは、細密な孔をフィルム中に細密に形成されないことがある。また、100秒を超えると、水滴52のサイズが大きくなり過ぎハニカム構造のフィルムを得られないおそれがある。このようにキャスト膜20が結露ゾーン41を通過する時間を制御することにより、孔の大きさ等の様態を制御することができる。ハニカム構造フィルム3を連続ではなくバッチ式で製造する場合、あるいは長尺状ではなくシート状や小さな短冊状等に製造する場合には、上記の結露ゾーン41を通過する時間に代えて、結露させる環境下にキャスト膜を置く時間を制御すると同様な効果が得られる。
【0056】
乾燥ゾーン42でキャスト膜20を乾燥する乾燥風47の送風速度も0.1m/s以上20m/s以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5m/s以上15m/s以下の範囲であり、最も好ましくは1m/s以上10m/s以下の範囲とすることである。0.1m/s未満であると、水滴52の蒸発が充分に進行しないおそれがあり、生産性がおちる場合がある。一方、20m/sを超えると水滴52の蒸発が急激に生じて、形成される孔55の形態が乱れるおそれがある。
【0057】
乾燥風47の露点TD2(℃)と膜面温度TL(℃)とは、(TL−TD2)℃≧1℃の条件を満たすように、少なくとも何れか一方を制御することが好ましい。これにより、水滴52の成長を止めて、水滴52を水蒸気54として蒸発させることが可能となる。(TL−TD2)が1℃未満であるときには、水滴52の成長を止めることが確実にはできず、孔55のサイズの精度が低下することがある。また、乾燥ゾーン42では、80℃≧(TL−TD2)であることがより好ましい。(TL−TD2)が80℃を越えると、有機溶媒や水滴52の蒸発が急激になってしまい、規則的に並んでいた水滴52の配列や形状、サイズが乱れて均一なハニカム構造は発現されなくなる。
【0058】
乾燥ゾーン42に入る直前の膜面温度TLと、乾燥ゾーン42の直前の搬送路近傍の露点と、乾燥ゾーン42の直後の搬送路近傍の露点との各ばらつきは、いずれも±3℃以内であることが好ましい。
【0059】
キャスト膜20の乾燥は、2Dノズル(2次元ノズル)を備える乾燥機46で行う方法や、これに代えてまたは加えて、減圧乾燥法により行うことが可能である。減圧乾燥を行うことで、有機溶媒53と水滴52との蒸発速度をそれぞれ調整することが可能となる。これにより、有機溶媒53の蒸発と水滴52の蒸発とをより良好にし、水滴52をより良好にキャスト膜20の内部に形成することができるので、前記水滴が存在する位置に、大きさ、形状が制御された孔55を形成することができる。なお、前記2Dノズルとは、風を出す給気ノズル部材と、キャスト膜20近傍の空気を吸い込む排気用ノズル部材とをもつものである。この2Dノズルとしては、キャスト面全幅に渡り、均一に給気と排気とを行えるものが好ましい。風の露点とキャスト膜の表面温度TLとの差を80℃以内とすることにより、有機溶媒及び/または水分の急激な揮発を抑制でき、所望の形態のハニカム構造フィルム3を得ることができる。
【0060】
また、膜面から3mm〜20mm程度離れた位置に、表面が冷却されその表面に溝を有する凝縮器を設けて、凝縮器の表面で水蒸気や揮発有機溶媒を凝縮させ、膜面近傍の水分及び溶媒ガスの濃度が高くならないように制御することによりキャスト膜の乾燥を図る方法を適用することができる。以上のような乾燥方法のうち少なくともいずれかひとつの乾燥方法を適用することで、キャスト膜20の膜面への動的な影響を少なくして乾燥させることができるため、より平滑な膜面を得ることができる。
【0061】
また、送風吸引機44、乾燥機46の送風吸引ユニットの数を変更したり、送風吸引機44、乾燥機46の内部を複数のエリアに区画したりすることにより、ユニット毎あるいはエリア毎に異なる露点条件を設定したり、異なる乾燥条件を設定したりすることができる。これら条件を選択することで、孔55の寸法制御性の向上や孔均一性の向上を図ることができる。なお、送風吸引ユニットや前記エリアの数は特に限定されるものではないが、フィルムの品質と設備のコストの点から最適な組み合わせを決定する。
【0062】
また、キャスト膜20に不純物が混入すると、ハニカム構造の形成が阻害される。そのため、送風口201a,202a,203a,206a,207a,208a,209aの塵埃度をクラス1000以下とすることが好ましい。そこで、送風吸引機44,乾燥機46の各ユニットには、給気系における埃等を除去するためのフィルタ(図示せず)が備えられ、ハウジング38内の空調を行うことが好ましい。これにより、ハニカム構造層(多孔質層)8中に不純物が混入するおそれが減少し、良好なハニカム構造フィルム3を得ることができる。
【0063】
ここで、キャスト膜20の粘度をN1、水滴52の粘度をN2とする。結露ゾーン41にて液滴が形成され始めた後、乾燥ゾーン42で孔の様態が好適に形成される見込みがつくまでは、N1<N2とすることが好ましい。これにより、水滴52がキャスト膜20の中に入り込んで、空隙がより均一に形成されたハニカム構造フィルム3を得ることができる。上記の粘度条件を満たすためにもっとも簡易的な方法は、高分子溶液15を予め小さめの粘度に処方しておくことである。なお、キャスト膜20の粘度を低くなるように高分子溶液15を処方しても、はじめはN1<N2を満たすことができるが、その後、孔が好適に形成されないうちに、結露ゾーン41での冷却や乾燥ゾーン42での乾燥によりN1がN2より大きくなってしまうことがある。その場合には、一旦温度を上げる等によりN1を小さくして、一時的にでもN2より小さくするとよい。なお、このような粘度調整は、一度のみならず複数回実施してもよい。
【0064】
乾燥が進行したハニカム構造フィルム3は、巻取機32により巻き取られる。なお、ハニカム構造フィルム3の搬送速度は、特に限定されるものではないが、0.1m/min以上60m/min以下の範囲であることが好ましい。0.1m/min未満であると生産性に劣りコストの点から好ましくない。また、60m/minを超えると、ハニカム構造フィルムを搬送する際に、過大な張力が付与されて裂ける、あるいはハニカム構造が乱れる等の問題が発生することがある。以上の方法により、ハニカム構造フィルム3を連続して製造することができる。
【0065】
このようにして形成されたハニカム構造フィルム3の一例を図5及び図6に示す。このハニカム構造フィルム3では、ハニカム構造層(多孔質層)8及びウェブ(補強用シート状部材)12はほぼ同じ面積で形成されている。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の全面が補強され、図6に示すようにハニカム構造フィルム3を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、ウェブ12によって支持されているため、高い強度を有することができ、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。また、ウェブ12として、導電性を有する材料を使用していることから、静電気の発生を防ぐことができる。よって、近接する物質に吸着することがないため、ハニカム構造フィルム3の汚れや破損をさらに防ぐことができる。
【0066】
なお、上記実施形態では、連続的に高分子溶液12を流延することにより、長尺のハニカム構造フィルム3を製造することを例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、高分子溶液を間欠的・断続的に流延して、シート状のハニカム構造フィルムを次々に製造する場合も含まれる。図7は、他の実施形態である。フィルム製造設備の要部概略図である。なお、図2と同じ作用の装置、部材については図2と同じ符号を付す。フィルム製造設備310は、シート状のハニカム構造フィルムを製造する設備であり、高分子溶液を支持体302に流延する流延ゾーン304と、結露ゾーン41と、乾燥ゾーン42とを有する。流延ゾーン304内では、支持体302が搬送されながら流延ダイ25から高分子溶液が流延され、キャスト膜211が形成される。そして、キャスト膜211が形成された支持体302は、結露ゾーン41に送られる。その後、水滴が形成されたキャスト膜311は、支持体302により乾燥ゾーンに搬送される。このように、各ゾーンでの各処理を支持体302単位で実施し、間欠的に支持体302を搬送することにより、シート状のハニカム構造フィルムを製造することができる。
【0067】
なお、幅方向の長さが流延ダイ25よりも短い流延ダイを、支持体302の幅方向に複数ならべて、幅が小さなキャスト膜を形成することもできる。さらに、流延ゾーン304における支持体302の搬送を、より短い時間間隔で間欠的にすることにより、より小さなキャスト膜を支持体上に複数形成することもできる。また、流延ダイの高分子溶液12の流出口を幅方向で複数に仕切り、高分子溶液12を断続的に流延することにより、短冊状のハニカム構造フィルムを次々と製造することもできる。
【0068】
ハニカム構造フィルムとしては、上記の形態に限るものではなく、以下の例に示すような形態としてもよい。図8及び図9に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)61は、ハニカム構造層(多孔質層)8と、このハニカム構造層8の両側縁部分に合わせて設けられたウェブ(補強用シート状部材)62a,62bとからなる。なお、ウェブ(補強用シート状部材)62a,62bをこのように形成する場合、上記実施形態と同様にハニカム構造層(多孔質層)とウェブ(補強用シート状部材)とをほぼ同じ面積で形成した後、ウェブの両側縁を除く部分を切り取って形成するようにすればよい。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の側縁部分が補強され、図9に示すようにハニカム構造フィルム3を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、ハニカム構造フィルム61の側縁同士が重なって積層されるから、ハニカム構造層(多孔質層)8に掛かる力が少ないので、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【0069】
また、図10及び図11に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)66は、ハニカム構造層(多孔質層)8と、ウェブ(補強用シート状部材)67とからなる。ウェブ(補強用シート状部材)67は、厚肉部67a,67bが形成されている。厚肉部67a,67bは、ハニカム構造層8の両側縁部分に合わせて形成されており、他の部分よりも厚肉で、且つハニカム構造層8が形成される面とは反対側の面に突出するように形成されている。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の側縁部分が補強され、図11に示すようにハニカム構造フィルム66を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、ハニカム構造層(多孔質層)8に掛かる力が少ないので、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【0070】
さらにまた、図12及び図13に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)71は、ハニカム構造層(多孔質層)8と、ウェブ(補強用シート状部材)72とからなる。なお、図11は、ハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)71を底面側(ウェブ(補強用シート状部材)72側)から見た図である。ウェブ(補強用シート状部材)72は、凹凸部72a,72bが形成されている。凹凸部72a,72bは、ハニカム構造層8の両側縁部分に合わせて配されており、多数の凹凸がそれぞれ形成されている。この凹凸部72a,72bとしては、例えば網目状のローレット(切り込み)を入れたローラを押し付けるローレット加工を行うことによって形成する。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の全面が補強され、さらに、図13に示すようにハニカム構造フィルム3を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、凹凸部72a,72b同士が重なり合って、ハニカム構造層(多孔質層)8に掛かる力が少ないから、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【0071】
また、図14及び図15に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)76は、ハニカム構造層(多孔質層)8と、ウェブ(補強用シート状部材)77とからなる。ウェブ(補強用シート状部材)77は、厚肉部77a,77bが形成されている。厚肉部77a,77bは、ウェブ(補強用シート状部材)77の両側縁部分に配されており、他の部分よりも厚肉で、且つハニカム構造層8が形成される面から突出するように形成されている。そして、ハニカム構造層8は、厚肉部77a,77bの間に位置するように形成される。なお、厚肉部77a,77bの高さAは、ハニカム構造層8の厚みBよりも突出するように形成されている(図15参照)。これによって、ハニカム構造層(多孔質層)8の側縁部分が補強され、図15に示すようにハニカム構造フィルム76を積層した場合、あるいは巻取機で巻き取られた場合でも、厚肉部77a,77b同士が重ね合わさっているから、ハニカム構造層(多孔質層)8に掛かる力が少ないので、傷が付いたり、破損したりすることを防止することができる。
【0072】
なお、上記実施形態では、ハニカム構造層(多孔質層)を補強する補強用シート状部材をハニカム構造層(多孔質層)に貼着する構成を例示しているが、本発明はこれに限るものではなく、キャスト膜を形成するときからハニカム構造層が形成されるまでの仮支持体を補強用シート状部材として使用し、次の工程が行われるとき、あるいは、製品として使用されるときは、仮支持体(補強用シート状部材)をハニカム構造層(多孔質層)から剥離して使用するようにしてもよい。この場合、例えば上記で例示した図5〜図14の形態のような補強用シート状部材を全て仮支持体として、ハニカム構造層8から剥離可能とする。また、この場合、仮支持体の表面には、ハニカム構造層(多孔質層)が容易に剥離できるように剥離層を形成しておくことが好ましい。このような剥離層としては、少なくとも離型剤を含み、更に必要に応じて他の成分を含有して形成される。なお、離型剤としては、例えば、エマルジョン型、溶剤型又は無溶剤型のシリコーン樹脂、フッ素樹脂、アミノアルキル樹脂、ポリエステル樹脂、ワックス、等を使用することができ、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。またこれらの離型剤に限らず、各種添加剤などを使用してもよい。
【0073】
なお、このように仮支持体(補強用シート状部材)を剥離した後は、ハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)の強度が低下してしまう。そこで図16及び図17に示すハニカム構造フィルム81では、仮支持体(補強用シート状部材)82が剥離される場合も考慮して、仮支持体82とは別の補強用シート状部材83a,83bを設けている。なお、仮支持体82は剥離しやすいように、ハニカム構造層(多孔質層)8及び補強用シート状部材83a,83bとの接触面に剥離層を形成している。そして、補強用シート状部材83a,83bは、仮支持体82の両側縁部分に合わせて設けられており、この補強用シート状部材83a,83bの間に挟まれた空間にハニカム構造層8が配されるように仮支持体82上にキャスト膜を形成する。これによって、ハニカム構造層8の全面と、特に両側縁部分が補強されるので、図17に示すように積層されたとき、あるいは巻き取られたとき、ハニカム構造層8には、力が掛からないので、破損したり傷が付くことを防止することができる。さらに仮支持体82を剥離した後も補強用シート状部材83a,83bがハニカム構造層8の両側縁部分に貼着されているので、ハニカム構造フィルムの強度を保つことができる。
【0074】
なお、ハニカム構造層から剥離される仮支持体の形態としては、これらのものに限らず、例えば、図18及び図19に示すような形態でもよい。この図18及び図19に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)86は、ハニカム構造層8と、仮支持体(補強用シート状部材)87とからなる。仮支持体(補強用シート状部材)87は、厚肉部87a,87bが形成されている。厚肉部87a,87bは、仮支持体(補強用シート状部材)87の両側縁部分に配されており、他の部分よりも厚肉で、ハニカム構造層8が形成される面から突出するように形成されている。そしてハニカム構造層8は、仮支持体(補強用シート状部材)87の全面を覆うように形成されている。これにより、ハニカム構造層8には、階段状の段差部8a,8bが形成される。このような形態とすることで、ハニカム構造層8の全面、特に両側縁部分が補強されるので、図19に示すように積層されたとき、あるいは巻き取られたとき、ハニカム構造層8が破損したり、傷が付くことを防止することができる。
【0075】
また、仮支持体と、その上面に設けた補強用シート状部材と、ハニカム構造層(多孔質層)とからなる構成では、上記のものに限らず、図20及び図21に示すような形態のものでもよい。この図20及び図21に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)91は、仮支持体(補強用シート状部材)92、仮支持体92とは別の補強用シート状部材93a,93b、及びハニカム構造層8とからなる。なお、仮支持体92及び補強用シート状部材93a,93bの形状、配置としては、上記例の仮支持体82及び補強用シート状部材83a,83bの形状、配置とほぼ同様であるが、この例では、補強用シート状部材93a,93bの間に挟まれた部分とともに、補強用シート状部材93a,93bの上面にもハニカム構造層8が形成されている。よって、ハニカム構造層8には、階段状の段差部8a,8bが形成される。このような形態とすることで、ハニカム構造層8の全面、特に両側縁部分が補強されるので、図21に示すように積層されたとき、あるいは巻き取られたとき、ハニカム構造層8が破損したり、傷が付くことを防止することができる。
【0076】
また、上記例では、補強用シート状部材を設ける位置は、製品サイズとなったときの領域、あるいは、ハニカム構造層(多孔質層)の使用領域などとは関係なく設けられているが、図22で示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)96では、ハニカム構造層8が製品サイズとなったときの領域あるいはハニカム構造層(多孔質層)8の使用領域(2点鎖線で示す範囲)97よりも外側の位置にウェブ(補強用シート状部材)98a,98bが設けられている。なお、図22では、ハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)96を底面側(ウェブ(補強用シート状部材)98a,98b側)から見た状態を示している。このような形態とすることによって、上記実施形態と同様の効果が得られるとともに、製品となったときに、ウェブ(補強用シート状部材)98a,98bの影響を受けず、ハニカム構造層8が本来持つ性能を保つことができる。
【0077】
あるいは、図23に示すハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)101では、ハニカム構造層(多孔質層)8が製品サイズとなったときの領域あるいはハニカム構造層8の使用領域(2点鎖線で示す範囲)102よりも外側で、且つ4辺を囲む矩形枠状にウェブ(補強用シート状部材)103が設けられている。なお、このような矩形枠状に形成する場合、例えば、キャスト工程及び結露乾燥工程によってハニカム構造層8が形成された後、使用領域102とほぼ同じ、あるいは1回り大きい開口103aをウェブ(補強用シート状部材)103から切り取って形成するようにしてもよい。
【0078】
あるいは、1枚のハニカム構造フィルムから製品サイズのものを多数個取りする場合には、例えば、図24に示すような形態とする。この図24に示すハニカム構造フィルム106では、ハニカム構造層8に、例えば横4列×縦2列(計8個)の製品サイズの領域107a〜107hを設けることが可能となっており、この領域107a〜107hの外側で、これらの領域をそれぞれ囲む格子状にウェブ(補強用シート状部材)108を形成する。なお、一枚のハニカム構造フィルムから製品サイズのものを多数個取りするときの、個数及び配置はこれらのものに限るものではなく、適宜変更してもよい。
【0079】
なお、上述したような、ハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)の製品サイズ又は使用領域に合わせて補強用シート状部材を形成する場合、開口を切り取って形成するのではなく、例えば、図25に示すハニカム構造フィルム111では、製品サイズ又は使用領域に合わせて切り取ることが可能なミシン目113a〜113hをウェブ(補強用シート状部材)112に予め形成しておく。このような形態とすることによって、キャスト工程及び結露乾燥工程でハニカム構造層(多孔質層)8が形成された後、ミシン目113a〜113hに沿って切り取ることで製品サイズ又は使用領域に合わせた開口を有することができる。なお、一枚のハニカム構造フィルムから製品サイズのものを多数個取りするときの、個数及び配置はこれらのものに限るものではなく、適宜変更してもよい。
【0080】
また、図26に示すハニカム構造フィルム116では、使用領域に合わせた開口118a〜118hと、製品サイズに合わせたミシン目119とを補強用シート状部材117に予め形成しておく、これによって、上記例と同様の効果を得ることができるとともに、各製品サイズに切り離して使用することもできる。あるいは、図27に示すハニカム構造フィルム121のように、使用領域に合わせて切り取ることができるミシン目123a〜123hと製品サイズに合わせたミシン目124とを補強用シート状部材122に形成するようにしてもよい。なお、一枚のハニカム構造フィルムから製品サイズのものを多数個取りするときの、個数及び配置はこれらのものに限るものではなく、適宜変更してもよい。
【0081】
なお、上記実施形態においては、ウェブ(補強用シート状部材)12を、導電性を有する材料から形成しているが、本発明はこれに限らず、ハニカム構造層(多孔質層)8を同様に導電性を有する材料で形成するようにしてもよいし、ウェブ(補強用シート状部材)12とハニカム構造層(多孔質層)8の両方を導電性を有する材料で形成するようにしてもよい。
【0082】
なお、ウェブ(補強用シート状部材)上に高分子溶液をキャスト(塗布)してキャスト膜を形成するキャスト工程の形態としては、上記で例示したスライドコータによるものに限らず、多層式のスライドコータを用いてもよい。これによって、複数の高分子溶液の流れを重ねてウェブ上にキャスト(塗布)することにより、ハニカム構造層の厚み方向における形態,物性などを変更することが可能となる。また、スライドコータに限らず、周知のエクストリュージョンコータによってキャスト工程を行ってもよい。
【0083】
また、前記説明のように本発明においてキャスト法は、特に限定されるものではない。例えば、スライド法,エクストリュージョン法,バー法及びグラビア法などが挙げられる。
【0084】
前記各方法で得られるハニカム構造フィルム(多孔質フィルム)は、機能性付与工程13(図1参照)によりさらに他の機能性が付与されて機能性フィルム14(図1参照)となる。例えば、サイズが小さく、ハニカム構造フィルムとの屈折率差が大きな微粒子を、上記各ハニカム構造フィルムに付与して機能性フィルムを得ることができる。このような機能性フィルムは、フォトニック結晶の作製用に、あるいはレーザ,光導波路などに用いることができる。また、微粒子として光励起、導電などにより発光するものを用いることもできる。この場合の微粒子としては、有機顔料,有機染料及び発光性希土類化合物が挙げられる。このような微粒子を付与した機能性フィルム14は、薄型ディスプレイなどの発光材料として用いることができる。なお、機能性付与工程は、ハニカム構造フィルムが得られた後に実施されることに代えて、または加えて、ハニカム構造フィルムを製造する過程で実施されてもよい。例えば、微粒子をハニカム構造フィルム中に含有させる場合には、高分子溶液中に予め微粒子を添加しておくことができる。
【0085】
微粒子としては、光照射、磁場などにより磁性を有して保持できるものを用いることもできる。このような微粒子の付与により、記録・メモリ材料に適用できる機能性フィルムを得ることができる。また、微粒子として着色ボールやマイクロカプセルを用いることもできる。このような微粒子を付与した機能性フィルムは、ペーパライクディスプレイなどに用いることができる。
【0086】
微粒子として、タンパク質、糖、DNAなどの生体材料と選択的に結合したり、化学反応するものを用いることもできる。このような微粒子を付与した機能性フィルムは、バイオチップに用いることができる。さらに、細胞培養用の基材としてハニカム構造フィルムを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る多孔質フィルムの製造方法を説明する工程図である。
【図2】本発明に係る多孔質フィルムの製造方法に用いられるフィルム製造設備の概略図である。
【図3】本発明に係る多孔質フィルムが形成される状態の説明図である。
【図4】(A)は本発明に係る多孔質フィルムの平面図、(B)は(A)のb−b線に沿う断面図、(C)は(A)のc−c線に沿う断面図であり、(D)は別の実施様態であるフィルムの平面図である。
【図5】本発明に係る多孔質フィルムの斜視図である。
【図6】本発明に係る多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図7】別の実施形態としてのフィルム製造設備の概略図である。
【図8】本発明に係る第2の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図9】本発明に係る第2の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図10】本発明に係る第3の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図11】本発明に係る第3の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図12】本発明に係る第4の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図13】本発明に係る第4の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図14】本発明に係る第5の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図15】本発明に係る第5の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図16】本発明に係る第6の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図17】本発明に係る第6の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図18】本発明に係る第7の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図19】本発明に係る第7の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図20】本発明に係る第8の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図21】本発明に係る第8の実施形態の多孔質フィルムを積層状態としたときの断面図である。
【図22】本発明に係る第9の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図23】本発明に係る第10の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図24】本発明に係る第11の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図25】本発明に係る第12の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図26】本発明に係る第13の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【図27】本発明に係る第14の実施形態の多孔質フィルムの斜視図である。
【符号の説明】
【0088】
1 キャスト工程
2 結露乾燥工程
3,61,66,71,76,81,86,91,96,101,106,111,116,121 ハニカム構造フィルム
41 結露ゾーン
42 乾燥ゾーン
12,62a,62b,67,72,77,83a,83b,93a,93b,98a,98b,103,108,112,116,122 ウェブ(補強用シート状部材)
82,87,92,仮支持体(補強用シート状部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強用シート状部材と、この補強用シート状部材上に形成され、微細パターン構造を有する多孔質層とからなることを特徴とする多孔質フィルム。
【請求項2】
前記補強用シート状部材には、他の部分よりも厚肉に形成された厚肉部を有することを特徴とする請求項1記載の多孔質フィルム。
【請求項3】
前記補強用シート状部材には、その一部を凹凸に加工した凹凸部を形成していることを特徴とする請求項1又は2記載の多孔質フィルム。
【請求項4】
前記凹凸部は、前記補強用シート状部材を網目状のローレット加工をすることによって形成されていることを特徴とする請求項3記載の多孔質フィルム。
【請求項5】
前記補強用シート状部材には、前記多孔質層が形成されている面から、前記多孔質層の厚みよりも突出する厚肉部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項6】
前記厚肉部は、前記多孔質層の両縁部分に合わせて形成されていることを特徴とする請求項5記載の多孔質フィルム。
【請求項7】
前記補強用シート状部材は、前記多孔質層が製品として製造されるときの製品サイズの範囲、又は製品として使用される使用範囲よりも外側に形成されることを特徴とする請求項1ないし6いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項8】
前記補強用シート状部材は、その一部が開口されていることを特徴とする請求項1ないし7いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項9】
前記補強用シート状部材は、その一部を切り離すためのミシン目又は切り込み線が形成されていることを特徴とする請求項1ないし8いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項10】
前記多孔質層は、気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を前記補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成し、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とし、その液滴を蒸発させることによって空隙を形成したものであることを特徴とする1ないし9いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項11】
前記補強用シート状部材と、前記多孔質層とは、互いに貼着されていることを特徴とする請求項記載1ないし10いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項12】
前記補強用シート状部材は前記多孔質層から剥離可能な仮支持体であることを特徴とする請求項1ないし10いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項13】
前記補強用シート状部材状部材又は前記多孔質フィルムのうち、少なくとも一方は、導電性を有することを特徴とする請求項1ないし12いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項14】
気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とする液滴形成工程と、その液滴を蒸発させることによって空隙を有する多孔質層を形成する溶媒蒸発工程とを行って前記補強用シート状部材及び前記多孔質層からなる多孔質フィルムの製造方法において、
前記溶媒蒸発工程を行った後、前記補強用シート状部材の一部を切り取る工程を行うことを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。
【請求項15】
気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とする液滴形成工程と、その液滴を蒸発させることによって空隙を有する多孔質層を形成する溶媒蒸発工程とを行って前記補強用シート状部材及び前記多孔質層からなる多孔質フィルムの製造方法において、
前記キャスト工程の前に前記補強用シート状部材の一部を切り離すためのミシン目又は切り込み線を予め形成することを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記補強用シート状部材状部材又は前記多孔質フィルムのうち、少なくとも一方は、導電性を有することを特徴とする請求項14又は15記載の多孔質フィルムの製造方法。
【請求項1】
補強用シート状部材と、この補強用シート状部材上に形成され、微細パターン構造を有する多孔質層とからなることを特徴とする多孔質フィルム。
【請求項2】
前記補強用シート状部材には、他の部分よりも厚肉に形成された厚肉部を有することを特徴とする請求項1記載の多孔質フィルム。
【請求項3】
前記補強用シート状部材には、その一部を凹凸に加工した凹凸部を形成していることを特徴とする請求項1又は2記載の多孔質フィルム。
【請求項4】
前記凹凸部は、前記補強用シート状部材を網目状のローレット加工をすることによって形成されていることを特徴とする請求項3記載の多孔質フィルム。
【請求項5】
前記補強用シート状部材には、前記多孔質層が形成されている面から、前記多孔質層の厚みよりも突出する厚肉部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項6】
前記厚肉部は、前記多孔質層の両縁部分に合わせて形成されていることを特徴とする請求項5記載の多孔質フィルム。
【請求項7】
前記補強用シート状部材は、前記多孔質層が製品として製造されるときの製品サイズの範囲、又は製品として使用される使用範囲よりも外側に形成されることを特徴とする請求項1ないし6いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項8】
前記補強用シート状部材は、その一部が開口されていることを特徴とする請求項1ないし7いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項9】
前記補強用シート状部材は、その一部を切り離すためのミシン目又は切り込み線が形成されていることを特徴とする請求項1ないし8いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項10】
前記多孔質層は、気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を前記補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成し、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とし、その液滴を蒸発させることによって空隙を形成したものであることを特徴とする1ないし9いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項11】
前記補強用シート状部材と、前記多孔質層とは、互いに貼着されていることを特徴とする請求項記載1ないし10いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項12】
前記補強用シート状部材は前記多孔質層から剥離可能な仮支持体であることを特徴とする請求項1ないし10いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項13】
前記補強用シート状部材状部材又は前記多孔質フィルムのうち、少なくとも一方は、導電性を有することを特徴とする請求項1ないし12いずれか記載の多孔質フィルム。
【請求項14】
気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とする液滴形成工程と、その液滴を蒸発させることによって空隙を有する多孔質層を形成する溶媒蒸発工程とを行って前記補強用シート状部材及び前記多孔質層からなる多孔質フィルムの製造方法において、
前記溶媒蒸発工程を行った後、前記補強用シート状部材の一部を切り取る工程を行うことを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。
【請求項15】
気化可能な溶媒に、前記溶媒に可溶な固体が溶解された溶液を補強用シート状部材上にキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、このキャスト膜の中に液滴を形成した状態とする液滴形成工程と、その液滴を蒸発させることによって空隙を有する多孔質層を形成する溶媒蒸発工程とを行って前記補強用シート状部材及び前記多孔質層からなる多孔質フィルムの製造方法において、
前記キャスト工程の前に前記補強用シート状部材の一部を切り離すためのミシン目又は切り込み線を予め形成することを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記補強用シート状部材状部材又は前記多孔質フィルムのうち、少なくとも一方は、導電性を有することを特徴とする請求項14又は15記載の多孔質フィルムの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2007−260986(P2007−260986A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86568(P2006−86568)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]