説明

多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物

【課題】 高い寸法安定性と十分な機械強度を有し、かつ微細なパターニングが可能な優れた感光性を付与することが可能な多孔質ポリイミド樹脂膜を得ることができる樹脂組成物、及びこれらの樹脂組成物を用いて得られる多孔質ポリイミド、当該多孔質ポリイミドからなる保護膜を有するプリント配線板を提供する。
【解決手段】 ポリイミド前駆体溶液及び下記(a)〜(e)の要件を充足する空孔形成剤を含有する樹脂組成物を用いることで、所望の多孔質ポリイミドを得ることができる。
(a)重量平均分子量1000〜200万
(b)前記ポリイミド前駆体溶液に難溶乃至は不溶
(c)窒素雰囲気下で加熱したときの質量減少率が50%となるときの温度(以下、「熱分解温度」という)が350℃以下
(d)アスペクト比1.0〜2.0、
(e)平均粒径100nm〜10μm

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な空孔を有する多孔質ポリイミドの製造に好適な樹脂組成物及び当該樹脂組成物を用いた感光性樹脂組成物、並びにこれらの樹脂組成物の硬化体である多孔質ポリイミド、並びに当該多孔質ポリイミドを保護膜として用いたフレキシブルプリント配線板、回路付きサスペンジョン基板等のプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、耐熱性、絶縁性、機械的強度、耐溶剤性、寸法安定性等の優れた特性を有していることから、電子部品用基材の絶縁膜や半導体素子の層間絶縁膜として広く用いられている。近年、電子部品の高機能化、高集積化に伴い、デバイスの信号転送速度の高速化が要求されるようになり、これに伴って配線周辺部材にも高速化対応が求められている。プリント配線板がこのような高速化の要求に応えるためには、絶縁膜として用いられるポリイミド樹脂膜の低誘電率化、低誘電正接化が必要となる。
【0003】
ポリイミド樹脂膜を低誘電率化する方法としては、膜の多孔質化が考えられる。多孔質のポリイミド樹脂膜を得る方法としては、硬化前のポリイミド前駆体(ポリアミック酸)に発泡剤を添加して、硬化時に発泡剤を揮発させることにより発泡体(多孔質体)を得る方法がある。しかし、発泡剤を用いる方法は、微細かつ均一なセル径の空孔を形成するのが困難であること、さらに発泡剤の残渣が残存しているポリイミド樹脂膜は、電子、電気機器や電子部品など、低汚染性が要求される用途には不適である。
【0004】
発泡剤を用いない方法として、ポリイミド前駆体中に有機ポリマーを分散させ、この有機ポリマーを含んでなる前駆体から、その有機ポリマーを分解、除去して多孔質ポリイミドを形成する方法が知られている。
【0005】
例えば、特開2000−44719号公報(特許文献1)には、ポリイミド前駆体と親水性ポリマーとを混合した溶液を調製し、この混合液を乾燥後、窒素雰囲気下で焼成することにより、前記親水性ポリマーを分解除去して、多孔質ポリイミドを製造する方法が提案されている。ここで、親水性ポリマーとしては、ポリイミド前駆体に溶解可能であり、ポリイミド前駆体溶液を乾燥した後は、ポリイミド前駆体との相分離が可能で、且つ除去可能なものを用いるとされている。具体的には、上記親水性ポリマーとして、分子量7500及び20000のポリエチレングリコールが例示されている。
【0006】
また、特開2002−146085号公報(特許文献2)では、溶媒抽出により除去する分散性化合物として、ポリイミド前駆体としての相互作用パラメータが一定範囲内となる化合物を用いることが提案されている。このような分散性化合物としては、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの片末端若しくは両末端メチル封鎖物、または(メタ)アクリレート封鎖物などが挙げられており、具体的には、分子量420のポリエチレングリコールモノメタクリレート、分子量600のポリエチレングリコールジアクリレートを用いた例が示されている。この分散性化合物は、ポリイミド前駆体溶液に上記分散性化合物を添加してなる樹脂組成物溶液を乾燥することにより形成されたポリイミド前駆体膜、すなわち分解性化合物が分散した状態のポリイミド前駆体膜を超臨界二酸化炭素を用いて抽出除去することで多孔質の前駆体膜を得、さらに加熱によりイミド化を行うことで、ポリイミド多孔質膜を得ている。超臨界液体による抽出操作は工程が煩雑になる。
【0007】
また、特開2001−323099号(特許文献3)には、多孔質ポリイミドが得られる感光性樹脂組成物として、ポリイミド前駆体、ポリイミド前駆体に相溶しない有機オリゴマー、感光剤を含有する組成物が開示されている。有機オリゴマーは、ポリイミド前駆体に対して海島構造を形成し、溶剤により抽出除去あるいは加熱硬化の過程で熱分解又は揮散することにより、ポリイミドに空孔を形成している。具体的には、分子量400〜1000のポリエチレングリコールモノメチルエーテルオリゴマーを用いた感光性樹脂組成物を、露光、現像後に、二酸化炭素を用いて抽出除去、あるいは真空下で380℃で加熱硬化する際に揮散させることにより、ポリイミド多孔質膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−44719号公報
【特許文献2】特開2002−146085号公報
【特許文献3】特開2001−323099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
超臨界液体を用いる抽出操作や真空下での加熱揮散は、多段階のプロセスを要するなど、プロセスが複雑なため、工業的生産には不適である。従って、複雑なプロセスを経ることなく製造でき、且つポリイミド樹脂の優れた特性を保持しつつ、より低誘電率を達成できる多孔質ポリイミドが求められている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高い寸法安定性と十分な機械強度を有し、かつ微細なパターニングが可能な優れた感光性を付与することが可能な多孔質ポリイミド樹脂膜を得ることができる樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた感光性樹脂組成物、及びこれらの樹脂組成物を用いて得られる多孔質ポリイミド、当該多孔質ポリイミドからなる保護膜を有するプリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物は、ポリイミド前駆体溶液、及び下記(a)〜(e)の要件を充足する空孔形成剤を含有する。
(a)重量平均分子量1000〜200万
(b)前記ポリイミド前駆体溶液に難溶乃至は不溶
(c)窒素雰囲気下で加熱したときの質量減少率が50%となるときの温度(以下、「熱分解温度」という)が350℃以下
(d)アスペクト比1.0〜2.0、
(e)平均粒径100nm〜10μm
【0012】
前記空孔形成剤は、(メタ)アクリレート系ポリマーの架橋物であることが好ましく、また前記ポリイミド樹脂前駆体溶液の溶媒は、非プロトン性極性溶媒であることが好ましい。
【0013】
前記ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮重合物であって、前記ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の少なくともいずれか一方がビフェニル骨格含有モノマーであり、前記ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の合計量に対して、ビフェニル骨格含有モノマーの含有率は50モル%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の感光性樹脂組成物は、上記本発明の樹脂組成物;光重合性モノマー;及び光重合開始剤を含有する。
【0015】
本発明の多孔質ポリイミドは、上記本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物又は感光性樹脂組成物の熱硬化体であって、平均空孔径0.001〜10μmの気泡が形成されているものである。また、本発明は、本発明の感光性樹脂組成物で形成される多孔質ポリイミドからなる保護膜を有するプリント配線板も提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリイミド形成用樹脂組成物は、微細な気泡を有する多孔質ポリイミドで、しかも高空孔率であっても優れた機械的強度、低熱線膨張係数を充足できる多孔質ポリイミドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例2のポリイミド膜のSEM写真(1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物〕
本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物は、ポリイミド前駆体溶液;及び下記(a)〜(e)の要件を充足する空孔形成剤を含有する。
(a)重量平均分子量1000〜200万
(b)前記ポリイミド前駆体溶液に難溶乃至は不溶
(c)窒素雰囲気下で昇温したときの質量減少率が50%となるときの温度(以下、「熱分解温度」という)が350℃以下
(d)アスペクト比1.0〜2.0、
(e)平均粒径100nm〜10μm
【0019】
<ポリイミド前駆体溶液>
本発明で用いられるポリイミド前駆体は、加熱硬化によりポリイミドを生成するもの(具体的にはポリアミック酸)で、特に限定しないが、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との縮合重合物が好ましく用いられ、より好ましくは、前記ジアミン又は前記テトラカルボン酸二無水物の少なくともいずれか一方が、ビフェニル骨格を有する2種類以上のモノマーを含有し、さらに好ましくは、前記ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の合計量に対して、ビフェニル骨格含有モノマーの含有率が50モル%以上である。
【0020】
ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の合計量に対して、ビフェニル骨格含有モノマーの含有率が50モル%以上のポリイミド樹脂は、空孔率0超〜80%程度の多孔質膜においても、優れた機械的強度、耐熱性、耐溶剤性を充足し、且つ低熱線膨張係数(CTE)を充足することができる。
【0021】
テトラカルボン酸二無水物としては、炭素数が2〜27の脂肪族基、炭素数4〜10の環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基に結合したテトラカルボン酸の二無水物を用いることができ、好ましくは、ビフェニル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物が用いられる。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボンキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物等が例示される。これらのテトラカルボン酸二無水物は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記ジアミン化合物としては、芳香族、脂肪族、又は架橋員により連結された芳香族基にアミノ基が結合した化合物であればよいが、好ましくは芳香族ジアミン、より好ましくはビフェニル骨格を有する芳香族ジアミンが用いられる。
【0023】
上記芳香族ジアミンとしては、2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(Bis−A−AF)パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシ4,4’−ジアミノビフェニル、4、4’−ジヒドロキシ3,3’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組合せて用いてもよい。
【0024】
以上のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、実質的に等モル比となるような割合で混合し、溶媒中で縮合重合させることにより、ポリイミド前駆体を得ることができる。
【0025】
縮合重合に用いる反応溶媒としては、N,N−ジメチルアセとアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
反応条件は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類により適宜選択されるが、通常、0〜100℃で2〜48時間反応させると、ポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
【0026】
本発明で用いるポリイミド前駆体は、以上のようにして合成される樹脂であって、通常、1,000〜300,000、好ましくは10,000〜100,000である。ポリイミド前駆体の分子量は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物のモル比を等量から若干量ずらしたり、ピロメリット酸無水物等の末端封止剤を添加したり、少量の水を添加したりすることによって適宜調整することができる。
【0027】
ポリイミド前駆体溶液における樹脂固形分の含有率は特に限定しないが、通常5〜80質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
【0028】
<空孔形成剤>
本発明で用いられる空孔形成剤は、下記(a)〜(e)の要件を充足する有機ポリマー微粒子である。
(a)重量平均分子量1000〜200万
(b)前記ポリイミド前駆体溶液の溶媒に難溶乃至は不溶
(c)窒素雰囲気下で昇温したときの質量減少率が50%となるときの温度(以下、「熱分解温度」という)が350℃以下
(d)アスペクト比1.0〜2.0、
(e)平均粒径100nm〜10μm
【0029】
はじめに、本発明の空孔形成剤を構成する有機ポリマーについて説明する。
上記有機ポリマーの重量平均分子量1000〜200万、好ましくは10000〜150万、より好ましくは10万〜100万である。200万より大きいと、ポリイミド前駆体溶液中での分散性が低下し、得られる多孔質ポリイミドの空孔が大きくなりすぎる。一方、1000より小さいと、望ましい空孔サイズの多孔質ポイミドが得られにくくなる。空孔形成剤を構成する有機ポリマーの重量平均分子量はポリイミド樹脂中に形成される目的の空孔の大きさに関係するので、上記範囲から、所望の空孔サイズに応じて、適宜選択すればよい。低誘電率化を達成するためには、空孔率が高いだけでなく、個々の空孔サイズも微小であることが好ましい。従って、ポリイミド前駆体に対して、ナノまたはミクロオーダーで相分離できる空孔形成剤が好ましい。
【0030】
上記範囲の重量平均分子量を有する有機ポリマーは、通常、疎水性ポリマーの固体である。従って、ポリイミド前駆体溶液の溶媒が水系溶媒の場合には、空孔形成剤は、水系溶媒に不溶乃至難溶である。ポリイミド前駆体溶液の溶媒が有機溶媒の場合には、その有機溶媒に不溶乃至難溶の有機ポリマーである。さらに、ポリイミド前駆体との相溶性が低い有機ポリマーであることが好ましい。
【0031】
本発明で用いる空孔形成剤の熱分解温度は、350℃以下である。ここで、熱分解温度とは、窒素雰囲気下で室温から10℃/minで昇温し、質量減少率が50%となるときの温度をいう。例えば、エスアイアイ・ナノテクノジー株式会社製のTG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置)を用いて熱重量を測定することにより測定できる。熱分解温度が350℃を超えると、後の熱処理過程での熱分解が困難となり、その結果、ポリイミド樹脂中に十分な空孔を形成することが困難となる。
【0032】
空孔形成剤を構成する有機ポリマーは、以上のような要件を充足するものであればよく、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の片方または両方の末端、あるいは一部をアルキル化または(メタ)アクリレート化またはエポキシ化した化合物;ウレタンオリゴマーおよびポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ε―カプロラクトン(メタ)アクリレート、ポリアルキルメタクリレート;及びこれらの架橋物;ポリスチレン、架橋ポリスチレン等が挙げられる。これらの有機ポリマーは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうち、(メタ)アクリレート系ポリマーの架橋物が好ましく、より好ましくは架橋ポリアクリル(メタ)アクリレートである。
【0033】
本発明で用いる空孔形成剤は、以上のような有機ポリマーで構成される微粒子であって、アスペクト比1.0〜2.0、平均粒径100nm〜10μmの微粒子である。
【0034】
ここで、アスペクト比とは、粒子の外側輪郭線上の2点を、その間の距離が最小になるように選んだときの長さ(最小径)と、その間の距離が最大となるように選んだときの長さ(最大径)の比をいう。アスペクト比は、好ましくは1〜1.5であり、より好ましくは1〜1.2である。球状(アスペクト比1)に近いほど、形成される空孔が球に近くなり、空孔が圧壊されにくい。その結果、所期の空孔率を保持しやすく、空孔率の調節も容易となる。
【0035】
本発明にいう空孔形成剤の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い含有割合を示す粒径をいう。かかる平均粒径が100nm〜10μmであり、好ましくは500nm〜5μmである。
【0036】
以上のような要件を充足する空孔形成剤は、前記ポリイミド前駆体溶液中の樹脂固形分100質量部あたり、10〜100質量部の割合で含有されることが好ましく、さらに好ましくは20〜80質量部である。空孔形成剤の含有率は、得られる多孔質ポリイミドの空孔率に関係する。従って、ポリイミド前駆体樹脂固形分100質量部あたりの空孔形成剤の配合量が10重量部より少ないと、3.0以下の低誘電率を達成することが困難となり、また100重量部より多いと、十分な機械物性または溶剤耐性を有する多孔質ポリイミドを得ることが困難となる。
【0037】
以上のような組成を有する多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物は、乾燥することにより、ポリイミド前駆体中に、空孔形成剤が分散したポリイミド前駆体を得ることができる。空孔形成剤は、ポリイミド前駆体溶液に難溶乃至不溶であることから、微粒子状で分散している。このため、乾燥により得られる前駆体皮膜においても、微粒子状態を保持したままで分散している。従って、加熱処理すると、ポリイミド前駆体がイミド化するとともに、空孔形成剤が熱分解、揮散等により焼失することにより、ポリイミド樹脂を多孔質化する。
本発明の樹脂組成物により得られるポリイミド多孔質体は、前駆体皮膜における空孔形成剤の焼失に起因する多孔質化であることから、空孔形成剤に起因する独立気泡が分散した多孔質体である。
【0038】
〔感光性樹脂組成物〕
本発明の感光性樹脂組成物は、上記本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物、光重合性モノマー、光重合開始剤を含有するものである。
【0039】
上記光重合性モノマーは、X線、電子線、紫外線等を照射(露光)することで架橋する光反応性官能基を持つモノマーであり、不飽和二重結合等の光反応性官能基とアミノ基とを含有することが好ましい。アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、N−シクロヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタクリロイルモルホリン、アクリロイルピペリジン、メタクリロイルピペリジン、クロトンアミド、N−メチルクロトンアミド、N−イソプロピルクロトンアミド、N−ブチルクロトンアミド、酢酸アリルアミド、プロピオン酸アリルアミドなどが光重合性モノマーとして挙げられるが、これらに限定されない。光重合性モノマーはポリイミド前駆体樹脂のカルボキシル基に対して1〜1.5当量の範囲で配合することが好ましい。また、光反応性官能基とグリシジル基を有する化合物、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等を上記光重合成モノマーと併用することにより、現像性に優れた感光性樹脂組成物が得られる。
【0040】
光重合性開始剤は、i線(波長365nm)吸収タイプとしてはα−アミノケトン型のもの、g線(波長436nm)吸収タイプとしてはチタノセン化合物等のメタロセン系のものがそれぞれ好ましく用いられる。いずれの開始剤も、ポリイミド前駆体溶液中の樹脂固形分100質量部あたり0.1〜10質量部配合することによって良好な現像性が得られる。
【0041】
本発明の感光性樹脂組成物には、必要に応じて、種々の添加剤を含有していても良い。例えば、現像時の視認性向上のための染料、顔料として、フェノールフタレイン、フェノールレッド、ニールレッド、ピロガロールレッド、ピロガロールバイレット、ディスパースレッド1、ディスパースレッド13、ディスパースレッド19、ディスパースオレンジ1、ディスパースオレンジ3、ディスパースオレンジ13、ディスパースオレンジ25、ディスパースブルー3、ディスパースブルー14、エオシンB、ロダミンB、キナリザリン、5−(4−ジメチルアミノベンジリデン)ロダニン、アウリントリカルボキシアシド、アルミノン、アリザリン、パラローザニリン、エモジン、チオニン、メチレンバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントレッド等が例示される。また非露光部の溶解促進を向上するための添加剤として、ベンゼンスルホンアミド、N−メチルベンゼンスルホンアミド、N−エチルベンゼンスルホンアミド、N,N−ジメチルベンゼンスルホンアミド、N−n−ブチルベンゼンスルホンアミド、N−t−ブチルベンゼンスルホンアミド、N,N−ジ−n−ブチルベンゼンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアニリド、N,N−ジフェニルベンゼンスルホンアミド、N−p−トリルベンゼンスルホンアミド、N−o−トリルベンゼンスルホンアミド、N−m−トリルベンゼンスルホンアミド、N,N−ジ−p−トリルベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド、N−メチル−p−トルエンスルホンアミド、N−エチル−p−トルエンスルホンアミド、N,N−ジメチル−p−トルエンスルホンアミド、N−n−ブチル−p−トルエンスルホンアミド、N−t−ブチル−p−トルエンスルホンアミド、N,N−ジ−n−ブチル−p−トルエンスルホンアミド、N−フェニル−p−トルエンスルホンアミド、N,N−ジフェニル−p−トルエンスルホンアミド、N−p−トリル−p−トルエンスルホンアミド、N−m−トリル−p−トルエンスルホンアミド、N,N−ジ−p−トリル−p−トルエンスルホンアミド、N,N−ジ−m−トリル−p−トルエンスルホンアミド、o−トルエンスルホンアミド、N−メチル−o−トルエンスルホンアミド、N−エチル−o−トルエンスルホンアミド、N,N−ジメチル−o−トルエンスルホンアミド、N−n−ブチル−o−トルエンスルホンアミド、N−t−ブチル−o−トルエンスルホンアミド、N,N−ジ−n−ブチル−o−トルエンスルホンアミド、N−フェニル−o−トルエンスルホンアミド、N,N−ジフェニル−o−トルエンスルホンアミド、N−p−トリル−o−トルエンスルホンアミド、N−m−トリル−o−トルエンスルホンアミド、N,N−ジ−p−トリル−o−トルエンスルホンアミド、N,N−ジ−m−トリル−o−トルエンスルホンアミド、ナフタレンスルホンアミド、N−メチルナフタレンスルホンアミド、N−エチルナフタレンスルホンアミド、N,N−ジメチルナフタレンスルホンアミド、N−n−ブチルナフタレンスルホンアミド、N−t−ブチルナフタレンスルホンアミド、N,N−ジ−n−ブチルナフタレンスルホンアミド、N−フェニルナフタレンスルホンアミド、N,N−ジフェニルナフタレンスルホンアミド、N−p−トリルナフタレンスルホンアミド、N−o−トリルナフタレンスルホンアミド、N−m−トリルナフタレンスルホンアミド、N,N−ジ−p−トリルナフタレンスルホンアミド、N,N−ジ−m−トリルナフタレンスルホンアミド、2,3−ジメチルベンゼンスルホンアミド、N−メチル−2,3−ジメチルベンゼンスルホンアミド、N−n−ブチル−2,3−ジメチルベンゼンスルホンアミド、p−エチルベンゼンスルホンアミド、N−メチル−p−エチルベンゼンスルホンアミド、N−エチルベンゼンスルホンアミド、N,N−ジメチルベンゼンスルホンアミド、N−n−ブチル−p−エチルベンゼンスルホンアミド等が例示できる。
また必要に応じて、消泡剤、レベリング剤等の各種界面活性剤を添加することができる。界面活性剤を添加することにより、塗工時のムラ・気泡等が改善し、また現像性を向上させることもできる。
【0042】
本発明の感光性樹脂組成物は、以上のような成分を混合することにより調製できる。このような感光性樹脂組成物は、高い現像性が容易に得られやすい等の理由から、特にネガ型感光性樹脂組成組成物として好適に用いることができる。
【0043】
本発明の感光性樹脂組成物を、基材上に塗布した後、乾燥して前駆体膜を形成し、マスクを通して露光、現像液を用いて現像した後、熱処理して加熱硬化すると、前駆体膜中に分散していた空孔形成剤が焼失、揮散して、多孔質化された低誘電率のポリイミド樹脂膜を形成することができる。
【0044】
基材上への塗布は、スクリーン印刷やスピンコート、ドクターナイフ塗工等、一般的な方法を用いることができる。またその後の工程についても、従来の物を使用する場合と同様に行うことができる。
【0045】
〔多孔質ポリイミド〕
本発明の多孔質ポリイミドは、上記本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物、又はこれを用いた上記感光性樹脂組成物の硬化体である。
【0046】
硬化体は、上記本発明の樹脂組成物を、基材に塗布した後、50〜150℃で溶剤を乾燥させて、ポリイミド前駆体膜を形成し、このポリイミド前駆体膜を、空孔形成剤が十分焼失できる温度で熱処理することにより得る。
【0047】
熱処理は、200〜500℃で1〜24時間加熱することにより行う。空孔形成剤の焼失(多孔化)のための熱処理条件は、使用する空孔形成剤の熱分解温度によるが、通常、200〜400℃で2〜5時間の加熱で済む。
イミド化に必要な熱処理条件は、ポリイミド前駆体の組成(構成モノマーの種類)にもよるが、通常、250〜500℃で、1〜5時間程度の加熱を要する。
【0048】
空孔形成剤の焼失(多孔質化)のための熱処理と、イミド化のための熱処理を一段階で行ってもよいし、まず一部イミド化のために熱処理を行った後、空孔形成剤の焼失のための熱処理を行うというように複数段階に分けて行ってもよい。
昇温ステップを多段階に分けて行う方が、空孔径の制御が容易になるので好ましい。イミド化のための熱処理と多孔質化のための熱処理を分けることにより、より空孔形成剤の均一分散状態が保持されたポリイミド硬化体が得られるので、焼成により得られる多孔質体の空孔分散状態が均一で、微細な空孔が均等分布した多孔質体を得やすい。
【0049】
感光性樹脂組成物を用いる場合には、多孔質化及びイミド化のための熱処理を、露光・現像後に行う。露光後、現像工程終了までの間で、一部イミド化、多孔質化のための熱処理を行った後、さらに、現像後に熱処理を施すといったように、複数回にわけて、熱処理を行ってもよい。
【0050】
以上のようにして得られる多孔質ポリイミドは、平均空孔径が、通常、0.001μm〜10μmであり、好ましくは0.01μm〜5μm、さらに好ましくは0.1μm〜3μmである。平均空孔が0.001μmより小さいと孔の閉塞が起こりやすく十分な低誘電率化の効果が得られにくく、また10μmより大きいとポリイミド樹脂としての優れた機械的強度、耐熱性または耐溶剤性が得られにくくなる。
以上のようなサイズの気泡を多数構成することで、ポリイミド多孔質膜の低誘電率化を達成できる。気泡はそれぞれ独立していることが好ましい。気泡が連続した多孔質体では、得られるポリイミド膜の両面が連通してしまうこともあり、耐溶剤性、絶縁性低下の原因となるからである。この点、本発明では空孔形成剤が微分散できることから、これらの気泡がほぼ独立した多孔質体が得られやすい。
【0051】
多孔質体の空孔率は、ポリイミド前駆体に含まれる空孔形成剤の含有率により制御できる。所望の低誘電率化の達成のためには、5〜50%とすることが好ましく、より好ましくは、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性、低熱線膨張係数の観点から、10〜30%である。
【0052】
以上のような多孔質膜は、1GHzで3.0以下という低誘電率化を達成可能であり、しかもポリイミド樹脂の優れた特性、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性も保持できる。
さらに、線熱膨張係数(CTE)を30ppm/K以下とすることができる。樹脂の線熱膨張係数を上記範囲内で調整することにより、金属やシリコンからなる基材及び導体層との熱膨張係数の差を小さくすることが可能となり、ポリイミド層と金属層との間に残留応力が蓄積することにより生じるクラックや層間剥離などの問題を解決できる。
【0053】
また、本発明の感光性樹脂組成物を用いた場合、得られるポリイミド多孔質膜は、上記特性に加えて、さらに現像解像度に優れていて、残膜も少ない。
【0054】
〔プリント配線板〕
本発明のプリント配線板は、基板上に、本発明のポリイミド多孔質膜が形成されたものである。具体的には、基材の少なくとも片面に、銅等の金属からなる導体配線が施されたプリント基板の導体配線上に、本発明のポリイミド多孔質体からなる保護膜を備えたフレキシブルプリント配線板、ステンレス等の金属箔基材上にポリイミド等の絶縁層を有し、その上に銅等の金属からなる導体配線(回路)を有し、その導体配線上にポリイミド多孔質膜を保護膜として有する回路付きサスペンション基板などが例示できる。回路付きサスペンション基板は、ハードディスク用ドライブに使用されるサスペンション用基板として用いられる。
【実施例】
【0055】
本発明を実施するための形態を実施例により説明する。下記実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0056】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、特にイオン結合タイプのネガ型感光性樹脂組成物について記載するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0057】
〔ポリイミド樹脂膜の評価方法〕
(1)空孔径
膜サンプルの切断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、平均空孔径を算出した。
【0058】
(2)空孔率
膜サンプルの厚み及び重量を測定し、次の式から空孔率を算出した。式中のSは膜サンプルの面積、Tは膜厚、Wは測定したフィルムの重量、Dはポリイミドの密度を表す。ポリイミドの密度は空孔のないポリイミドフィルムから算出した。
空孔率(%)= 100−100×(W/D)/(S×T)
【0059】
(3)線熱膨張係数(ppm/K)
熱機械分析装置(TMA)により測定した。0℃から150℃までの平均値とする。線熱膨張係数が小さいほど、寸法安定性に優れることを意味し、好ましい。
(4)誘電率
インピーダンスアナライザの容量法により、測定周波数1GHzで測定した。
【0060】
(5)現像解像度/残膜率
種々のライン−スペース間距離(L/S)を有するパターンを現像により形成し、形成されたポリイミド樹脂膜のパターンをSEMで観察した結果、クリアなパターンが形成できる下限のライン−スペース間距離を解像度(L/S))として評価した。より小さい距離でクリアなパターンを形成できるほど、現像解像度に優れていることを意味する。
また、露光部分の残膜率を求めた。露光感度の点から、残膜率(%)は高いほどよい。
【0061】
〔空孔形成剤の物性〕
(1)熱分解温度
エスアイアイ・ナノテクノジー株式会社製のTG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置)を用いて、窒素雰囲気下で室温から10℃/minで昇温し、熱重量を測定した。質量減少率が50%となるときの温度を熱分解温度とした。
【0062】
(2)平均粒径
レーザー回折式粒度分布測定装置(SHIMADZU製)で測定した粒度分布において、最も高い含有割合を示す粒度を平均粒径とした。
(3)アスペクト比
粒子の外側輪郭線上の2点を、その間の長さが最小になるように選んだときの長さ(最小径)と、同じくその長さが最大となるように選んだときの長さ(最大径)の比を測定した。
【0063】
〔ポリイミド前駆体の合成〕
(1)ポリイミド前駆体A
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)35.5g(120mmol)、p−フェニレンジアミン(PPD)19.4g(180mmol)をN−メチルピロリドン700gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)44.2g(150mmol)とピロメリット酸二無水物(PMDA)32.7g(150mmol)を加えて窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。その後60℃で8時間撹拌し反応を終えた。得られたポリイミド前駆体(A)溶液中の樹脂固形分は16.5質量%であった。
【0064】
(2)ポリイミド前駆体B
2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)35.5g(120mmol)、p−フェニレンジアミン(PPD)19.4g(180mmol)をN−メチルピロリドン700gに溶解させた後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)44.2g(150mmol)とピロメリット酸二無水物(PMDA)32.7g(150mmol)を加えて窒素雰囲気下、室温で1時間撹拌した。その後60℃で8時間撹拌し反応を終えた。得られたポリイミド前駆体(B)溶液中の樹脂固形分は16.5質量%であった。
【0065】
〔ポリイミド樹脂多孔質膜の製造〕
実施例1
上記で合成したポリイミド前駆体(A)溶液の樹脂固形分100質量部に、空孔形成剤として、平均粒径1μm、アスペクト比1.0の架橋ポリメチルメタクリレート(架橋PMMA1)(積水化成品工業株式会社製テクポリマーMBX−2H、重量平均分子量750,000、熱分解温度300℃)を45重量部を添加した。さらに、光重合性モノマーであるメタクリル酸ジメチルアミノエチルをポリイミド前駆体(A)中のフリーのカルボキシル基に対して1.2当量、重合開始剤として2−ベンジル2−(ジメチルアミノ)−1−[4−(4−モルフォリニル)フェニル]−1−ブタノンとビス(シクロペンタジエニル)−ビス[2,6−ジフルオロ−3−(ピリ−1−イル)フェニル]チタンを、それぞれ、ポリイミド前駆体(A)溶液の樹脂固形分量に対して2質量%となる量(2質量部ずつ)を添加して、感光性樹脂組成物を調製した。
【0066】
調製した感光性樹脂組成物を、厚み40μmの銅箔上に、スピンコート法によって塗布した後、90℃で30分間加熱乾燥して厚み20μmの感光性ポリイミド前駆体の被膜を形成した。形成されたポリイミド前駆体膜上に、ネガ型のテストパターンを介し露光量1000mJ/cmで紫外光を照射した後、続いて有機溶剤系現像液(N−メチル−2ピロリドン及びメタノールの混合溶媒)を用いて30℃で現像処理を行い、蒸留水で十分洗浄した後、窒素気流で強制風乾燥した。その後、窒素雰囲気下で120℃で1時間、250℃で2時間、370℃で5時間の熱処理を行うことにより、前記ポリイミド前駆体膜を熱硬化し、イミド化した。得られたポリイミド膜の現像解像度、残膜率を測定評価した。
【0067】
さらに、得られたポリイミド樹脂膜を銅箔とともに、30mm×30mmサイズに切りだして、膜サンプルとした。この膜サンプルについて、上記測定評価方法に基づいて、平均空孔径、空孔率、誘電率、線熱膨張係数を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
実施例2−5
ポリイミド前駆体(A又はB)溶液の樹脂固形分100質量部に対して、空孔形成剤の種類及び量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、感光性樹脂組成物を調製した。
調製した感光性樹脂組成物を、実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂膜を形成し、平均空孔径、空孔率、誘電率、線熱膨張係数、現像解像度、残膜率を測定評価した。結果を表1に示す。また、実施例2のSEM写真を図1に示す。
【0069】
尚、使用した架橋PMMA2、3は以下の特性を有する架橋ポリメチルメタクリレート微粒子である。
架橋PMMA2:積水化成品工業株式会社製テクポリマーMBX−5(平均粒径5μm、アスペクト比1.0、重量平均分子量750,000、熱分解温度300℃)
架橋PMMA3:積水化成品工業株式会社製テクポリマーMBX−12(平均粒径12μm、アスペクト比1.0、重量平均分子量750,000、熱分解温度300℃)
【0070】
比較例1
空孔形成剤を配合しなかった以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂膜を形成し、平均空孔径、空孔率、誘電率、線熱膨張係数、現像解像度、残膜率、測定評価した。結果を表1に示す。
【0071】
比較例2−4
比較例2では、空孔形成剤として架橋されていない直鎖状PMMA(重量平均分子量50万、熱分解温度300℃)の粉末を用いた。また、比較例3では、ポリエチレン粒子(重量平均分子量3000、熱分解温度400℃)の粉末を用いた。さらに比較例4では、ポリエチレングリコール(重量平均分子量1万、熱分解温度350℃)の粉末を用いた。それ以外は実施例1と同様にしてポリイミド樹脂膜を形成し、平均空孔径、空孔率、誘電率、線熱膨張係数、現像解像度、残膜率を測定評価した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
比較例1では、空孔形成剤を配合していないので、得られたポリイミド樹脂膜は多孔質膜ではなかった。
比較例3は、空孔形成剤としてポリエチレンの粉末を用いた場合である。微細な空孔がわずかに認められたが、十分な多孔化が達成されておらず、現像解像度は良好で、残膜率が低かった。空孔形成剤の熱分解温度が高いために、イミド化過程で十分に焼失できなかったためと考えられる。
【0074】
比較例2は、未架橋PMMAを用いた場合である。得られたポリイミド樹脂膜は、多孔質膜ではあったが、微細な空孔を多数有する独立気泡タイプではなく、空孔が潰れたようになっていた。未架橋PMMAが、ポリイミド前駆体溶液中に溶解または鎖状に広がり、かかる状態で形成された前駆体皮膜においては、球状でないので、焼成時に潰れたためとと思われる。
【0075】
これに対して、実施例で得られたポリイミド樹脂膜は、SEMで観察した結果、いずれも図1に示すような独立気泡タイプの多孔質膜であり、低誘電率で解像度に優れたものであった。また、実施例1〜5から、空孔形成剤の粒子径を調節することにより空孔径を調節することができ、空孔形成剤の粒子径及び配合量を調節することで、空孔率を調節できることがわかる。空孔形成剤として球状の架橋PMMAを用いた場合、空孔形成剤の略球状形態を保持した状態で分散している前駆体皮膜が形成され、さらにイミド化過程で空孔形成剤が焼失できたためと考えられる。
【0076】
一方、比較例4は、実施例に匹敵する高空孔率の多孔質ポリイミドが得られたが、平均空孔径が実施例と比べて大きかった。ポリエチレングリコールはポリイミド前駆体との親和性が高いため、架橋PMMAを用いた場合と比べて、微分散できなかったためと考えられる。また、現像性(現像解像度、残膜率)も、実施例と比べて劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物は、微細な独立気泡タイプの多孔質体の提供が可能である。しかも空孔形成剤が、均等分散した状態の皮膜を得ることができるので、空孔形成剤の平均粒径、配合量を調節することにより、空孔率、気泡サイズの調節が容易なポリイミド多孔質膜を得ることができる。従って、ポリイミド樹脂の優れた機械的強度、耐熱性、耐溶剤性に加えて、さらに低誘電率、低線熱膨張係数を達成したポリイミド多孔質膜を提供できるので、フレキシブルプリント配線板、回路付きサスペンジョン基板等の回路基板の保護膜として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド前駆体溶液、及び下記(a)〜(e)の要件を充足する空孔形成剤
(a)重量平均分子量1000〜200万
(b)前記ポリイミド前駆体溶液に難溶乃至は不溶
(c)窒素雰囲気下で加熱したときの質量減少率が50%となるときの温度(以下、「熱分解温度」という)が350℃以下
(d)アスペクト比1.0〜2.0、
(e)平均粒径100nm〜10μm
を含有する多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物。
【請求項2】
前記空孔形成剤は、(メタ)アクリレート系ポリマーの架橋物である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリイミド樹脂前駆体溶液の溶媒は、非プロトン性極性溶媒である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮重合物であって、
前記ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の少なくともいずれか一方がビフェニル骨格含有モノマーであり、前記ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の合計量に対して、ビフェニル骨格含有モノマーの含有率が50モル%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物、光重合性モノマー、及び光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物の熱硬化体であって、平均空孔径0.001〜10μmの気泡が形成されている多孔質ポリイミド。
【請求項7】
請求項6の多孔質ポリイミドからなる保護膜を有するプリント配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−132390(P2011−132390A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293956(P2009−293956)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】