説明

多孔質体を用いた餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質とその製造方法

【課題】 水中に設置して餌生物を増殖させるとともに、効果的に稚魚を保護・育成するための、多孔質体を用いた餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供する。
【解決手段】 本発明に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質1は、粗骨材がセメントにより結合されてなる、板状で多孔質の第一ブロック21および第二ブロック22を備え、第一ブロック21と第二ブロック22とが、板厚方向に所定の隙間dを空けて、連結部材3により結合されている。第一ブロック21および第二ブロック22は、好適にはスラグからなる粗骨材および適量のセメントを型枠内に投入し、セメントを固化させることにより、隣接する粗骨材同士が気孔を介在させつつ結合して、成型される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に設置して餌生物を増殖させるとともに稚魚を保護および育成するための、多孔質体を用いた餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の護岸工事に使用されている張りブロックや、従来の漁場造成事業で使用されている魚類の蝟集促進のための水産資源増殖基質は、石材、コンクリート、鋼材など、表面が平滑なものがほとんどであり、表面の生物化学的特性により環境に配慮されていない場合が多く、生物生息環境は好適ではなかった。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているような、貝殻を利用した多孔質ブロックを魚礁に用いる技術が知られている。このような多孔質ブロックを魚礁に使用する場合、多孔質であるという物理特性に関して注目しているものの、気孔径が微小で目詰まりを生じやすいため生物着生機能に乏しく、その持続性を含めて環境悪化に繋がることが懸念されている。
【0004】
また、特許文献2に記載されているような、ポーラスコンクリートブロックを藻場に用いる技術についても知られているが、藻が着床するものの稚魚が大型生物から身を隠すのに適する程のスペースがブロックに存在せず、稚魚の保護・育成の点で問題があった。
【0005】
従来の技術では、稚魚を種苗生産し、海域に放流した後は、天然の大型生物による捕食圧が強いために、放流後の歩留まりは僅かに1%以下であった。この歩留まり向上のため、餌生物増殖のみならず、稚魚を保護・育成するための技術開発が急務となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−41525号公報
【特許文献2】特開2006−101849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、水中に設置して餌生物を増殖させるとともに、効果的に稚魚を保護・育成するための、多孔質体を用いた餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、粗骨材がセメントにより結合されてなる、板状で多孔質の第一ブロックおよび第二ブロックを備え、前記第一ブロックと前記第二ブロックとが、板厚方向に所定の隙間を空けて連結されていることを特徴とする餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質である。
である。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、簡易な構成で生物生育環境に優れた餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記粗骨材がスラグからなることを特徴とする請求項1に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質である。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、基礎生産力および水質浄化能力を有する微生物が大量に生息可能な、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記隙間が10〜50mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質である。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、稚魚を捕食する大型生物の侵入が妨げられる、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記第一ブロックおよび前記第二ブロックの空隙率が20〜40%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質である。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、長期間水中に設置しても目詰まりすることなく、持続的に生物が生息可能な、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記粗骨材の粒径が20〜40mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質である。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、第一ブロックおよび第二ブロックの内部に、稚魚が大型生物から身を隠すことが可能な、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記第一ブロックおよび前記第二ブロックが板厚方向に貫通する同軸の貫通孔を有し、前記貫通孔を通るボルトと、ナットとにより締結されて、前記第一ブロックと前記第二ブロックとが連結されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質である。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、少数の部品点数で容易に組み立てることが可能な、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、前記第一ブロックおよび前記第二ブロックに、前記貫通孔が設けられた筒状部材が埋設されていることを特徴とする請求項6に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質である。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、粗骨材と一緒に筒状部材をセメントにより結合するだけで、板厚方向に貫通する貫通孔を第一ブロックおよび第二ブロックを構成することができ製造が容易な、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【0022】
請求項8に記載の発明は、前記第一ブロックと前記第二ブロックとの間にスペーサーが介在することを特徴とする請求項6または7に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質である。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、第一ブロックと第二ブロックとの間にスペーサーを設けることにより、所定の隙間を容易に確保することが可能な、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、前記セメントにヒドロキシアパタイトが添加されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質である。
【0025】
請求項9に記載の発明によれば、水に含まれる金属イオンを吸着・不溶化して水を浄化し、水産資源の育成環境を向上する、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、粗骨材をセメントにより結合して、板状で板厚方向の貫通孔を有する多孔質の第一ブロックおよび第二ブロックを成型するブロック成型工程と、前記貫通孔にボルトを通し、前記第一ブロックと前記第二ブロックとの間に所定の隙間を空けてナットで締結する連結工程とを備えることを特徴とする餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法である。
【0027】
請求項10に記載の発明によれば、第一ブロックおよび第二ブロックを成型した後、ボルトとナットとで締結することによって、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を製造することができる。
【0028】
請求項11に記載の発明は、前記ブロック成型工程が、上方に開口を有する型枠の内部に、粗骨材、セメントおよび水を投入する工程と、セメントが固化した後脱型する工程と、前記貫通孔を穿孔する工程とを有することを特徴とする請求項10に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法である。
【0029】
請求項11に記載の発明によれば、粗骨材をセメントにより結合して第一ブロックおよび第二ブロックを成型した後穿孔して貫通孔を設け、第一ブロックと第二ブロックとを、ボルトとナットとで締結することによって、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を製造することができる。
【0030】
請求項12に記載の発明は、前記ブロック成型工程が、上方に開口を有する型枠の内部に、粗骨材、セメントおよび水を投入する工程と、セメントが固化した後脱型する工程とを有し、前記型枠は前記開口に対向する底面板を有し、前記底面板には前記開口まで延びる突起が設けられており、前記第一ブロックおよび前記第二ブロックに、前記突起の位置に対応して前記貫通孔が形成されることを特徴とする請求項10に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法である。
【0031】
請求項12に記載の発明によれば、型枠から脱型する際に第一ブロックおよび第二ブロックに貫通孔が設けられ、第一ブロックと第二ブロックとを、ボルトとナットとで締結することによって、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を製造することができる。
【0032】
請求項13に記載の発明は、前記ブロック成型工程が、上方に開口を有する型枠の内部に、粗骨材、セメントおよび水を投入するとともに貫通孔を有する筒状部材を所定の位置に配置する工程と、セメントが固化した後脱型する工程とを有し、前記型枠は前記開口に対向する底面板を有し、前記筒状部材は前記底面板から前記開口まで延びることを特徴とする請求項10に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法である。
【0033】
請求項13に記載の発明によれば、ブロック成型工程において粗骨材とともに筒状部材を型枠に内部に配置してセメントで結合することにより、第一ブロックおよび第二ブロックに貫通孔が設けられ、第一ブロックと第二ブロックとを、ボルトとナットとで締結することによって、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を製造することができる。
【0034】
請求項14に記載の発明は、前記セメントにヒドロキシアパタイトが添加されていることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法である。
【0035】
請求項14に記載の発明によれば、水に含まれる金属イオンを吸着・不溶化して水を浄化し、水産資源の育成環境を向上する餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を製造することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、簡易な構成で生物生育環境に優れた餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の一例を示す平面図および正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の他の例を示す正面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質における板状で多孔質のブロックの製造方法のうち、第一の製造方法の過程を説明するための正面断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質における板状で多孔質のブロックの製造方法のうち、第二の製造方法を説明するための斜視図および断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質における板状で多孔質のブロックの製造方法のうち、第三の製造方法を説明するための斜視図および断面図である。
【図7】本発明の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の実施例を魚礁構造物に設置した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
つぎに、本発明の実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施の形態であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0039】
(餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の実施形態)
本発明の実施形態に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を、図1〜3に示す。図1は本実施形態に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の一例を示す斜視図であり、図2は平面図および正面図である。図3は、本実施形態に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の他の例を示す正面図である。
【0040】
1は餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質であり、第一ブロック21および第二ブロック22と、これらを連結する連結部材3,・・・,3とを主要な構成要素とする。
【0041】
第一ブロック21および第二ブロック22はそれぞれ、粗骨材がセメントにより結合されてなる、板状の多孔質体である。なお図1に示す第一ブロック21および第二ブロック22はその平面形状が矩形で構成されているが、その他の多角形や円形に構成することももちろん可能である。
【0042】
連続する気孔を有するその表面形状は、小型の生物が基質内部に入り込み易く、有用魚類の餌となる選好性餌料生物の着生割合が高くなる。
【0043】
気孔の径は粗骨材の粒径を適宜選択することによって変えることができ、粒径20〜40mmの粗骨材が好適に用いられる。稚魚が身を隠すことができるとともに稚魚を捕食する大型生物が侵入できない程度の気孔径を実現することができるからである。
【0044】
第一ブロック21と第二ブロック22との間には隙間dが設けられており、この隙間dは、保護・育成対象の魚種およびそれを捕食する大型魚の大きさに応じて任意に設定できるが、10〜50mmが好適である。また、例えばタケノコメバルやキジハタ等の、種苗生産された岩礁性の魚類を保護・育成対象とする場合、放流後に稚魚が入ることができ、かつ生育後に出やすくなるよう、隙間dは30mmに設定するのがとりわけ好適である。
【0045】
第一ブロック21および第二ブロック22を構成する粗骨材として、石材、砂利等を適用することができるが、中でもスラグが好適に用いられる。スラグ自身が多孔質構造であるため、スラグに基礎生産力・水質浄化能力を有するプランクトンなどの微生物が大量に生息可能となり、また、シリカが溶出することにより海藻の生育に好適な環境が生まれるからである。なお第一ブロック21および第二ブロック22の製造方法および構成については後述する。
【0046】
第一ブロック21および第二部ブロック22は、4つの連結部材3により結合されている。連結部材3は、ボルト31、ナット32a,32b,32c,32dおよびワッシャ33,・・・,33から構成されている。ボルト31はヘッドを有さず、全長にわたってねじが設けられた植込みボルトである。
【0047】
なお、ワッシャ33の径を適宜選択することにより、ナット32が後述の貫通孔21c,22cに陥没しないよう構成される。また、ナットとワッシャとの組み合わせに代えて座付きナットを使用することも可能である。
【0048】
第一ブロック21には、板厚方向に貫通する貫通孔21cが連結部材3の数と同数設けられており、また第二ブロック22には、貫通孔21cと同軸に、板厚方向に貫通する貫通孔22cが連結部材3の数と同数設けられている。そして同軸に配置された貫通孔21c,22cには、ボルト31が貫通しており、ボルト31、ナット32およびワッシャ33によって第一ブロック21および第二ブロック22が連結されている。このとき、ナット32a,32bは第一ブロック21を挟み込むよう締められており、ナット32c,32dは第二ブロック22を挟み込むよう締められており、そして第一ブロック21の板面21bと第二ブロック22の板面22aとは隙間dだけ離間している。すなわち、ナット32a,32bによりボルト31と第一ブロック21との相対的な位置関係が決まり、ナット32c,32dによりボルト31と第二ブロック22との相対的な位置関係が決まるため、第一ブロック21と第二ブロック22とを所定の位置関係を維持しつつ連結することができるのである。なお、ワッシャ33は、ナット32の緩み止めの効果を発揮するほか、ナット32を締め込む際に、粗骨材に局部的な荷重を与えてブロックを破壊するのを防止する効果も有する。
【0049】
なお、本実施形態では、ボルト31として、両端にねじが形成されナットで締結されるような植込みボルトが用いられているが、ボルトの全長にわたってねじが形成されている全ねじを用いることももちろん可能である。また、一端側にボルトヘッドが設けられた、規格品の六角ボルトやキャップボルトに、ねじを追加工して全ねじとしたボルトを用いることも可能である。また、スプリングワッシャなどの緩み止めも適用可能である。さらに、本実施形態では第一ブロック21と第二ブロック22とが、4つの連結部材3で連結される構成となっているが、連結部材3の数および位置は任意に設定することができる。
【0050】
また、第一ブロック21と第二ブロック22との位置関係をナット32を用いて規定することに代えて、図3に示すように、第一ブロック21の板面21bと第二ブロック22の板面22aとの間の隙間にスペーサーを介在させることも可能である。スペーサーの形状は任意に選択できるが、図3に示すような、貫通孔34aを有する短筒状スペーサー34にボルト31を貫通させて設けるのが好適である。すなわち、この餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を組み立てる方法は、第一ブロック21の貫通孔21c、短筒状スペーサ34の貫通孔34a、および第二ブロック22の貫通孔22cを同軸に並べてボルト31を通し、ボルト31の両端にナット32を締めて締結する。これによって、第一ブロック21と第二ブロック22との間の隙間が、自ずと短筒状スペーサー34の長さに規定されつつ、第一ブロック21と第二ブロック22とが結合される。短筒状スペーサー34が第一ブロック21または第二ブロック22の内部に嵌り込んだり、粗骨材に局部的な荷重を与えるのを防止するため、短筒状スペーサー34の両端と、第一ブロック21の板面21bおよび第二ブロック22の板面22aとの間に、適宜ワッシャを介在させることもできる。
【0051】
なお、短筒状スペーサー34を用いると、図2において第一ブロック21と第二部ブロック22との間に位置していたナット32b,32cを使用する必要がないため、ボルト31のねじ部は両端のみに存在していれば足りる。すなわちこの場合、一つの連結部材3につき二つのナット32を要することになる。
【0052】
また、植込みボルトに代えて規格品の六角ボルトやキャップをボルト用いる場合は、全ねじとする必要がないため、規格品に追加工を施す必要はない。この場合一つの連結部材3につき一つのナットを要することになる。
【0053】
また図1〜3に示すように、ボルト31の端部31aが、板面21a,22bから所定の長さ突出するよう構成することができる。このように構成することによって、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を、例えば海底の平坦部に設置した場合、第二ブロック22の板面22bと海底との間にも隙間が生じ、稚魚が大型魚から身を隠すスペースが生まれるため、稚魚の保護・育成能力が一層向上する。この突出長さも、第一ブロック21と第二ブロック22との間の隙間と同様に、保護・育成対象の魚種およびそれを捕食する大型魚の大きさに応じて任意に設定することができ、第一ブロック21と第二ブロック22との間の隙間dと同じ長さとするのが好適である。
【0054】
なお、図1〜3に示した本実施形態では、二つの板状で多孔質のブロックが上下に連結されているが、三つ以上の板状で多孔質のブロックを、所定の隙間を空けつつ上下に連結して構成することも可能である。その際、二つの多孔質ブロックを用いて構成する場合と同様に、ブロック間の隙間をナットで規定することも可能であり、スぺーサーを介在させて規定することも可能である。
【0055】
(多孔質ブロックの第一の製造方法)
次に、第一ブロック21および第二ブロック22のような、板状で多孔質のブロックの製造方法を説明する。まず第一の製造方法について図4に基づき説明する。図4は第一の製造方法の過程を説明するための正面断面図である。
【0056】
まず、上方に開口4aを有する型枠4を用意する。型枠4は、開口4aに対向する底面板41と、底面板41につながる側面板42とを備える。ここで底面板41と側面板42とが着脱可能に連結して型枠4を構成すると、後の脱型を容易に行うことができる。また、側面板42はさらに細かい要素に分割することも可能である。
【0057】
次に、型枠4内に粗骨材Cを投入する。このとき粗骨材Cが互いに隣接しつつ、開口4aに到達する程度まで投入する(図4(a)参照)。なお、粗骨材Cとしてスラグが好適に使用されるのは、前述した通りである。
【0058】
その後、型枠4内に適量のセメントと水との混合物Mを投入する(図4(b)参照)。このとき、混合物Mの量が多いと、底部に溜まり、目詰まりしてしまう。そのため、隣接する粗骨材C同士が気孔を介在させつつ結合するのに必要十分な、少量の混合物Mを投入する。
【0059】
そして、型枠4を振動させながら開口4aから圧力および蒸気を付与し、セメントを固化させる。すると、隣接する粗骨材C同士が気孔を介在させつつ結合され、板状で多孔質のブロックが成型される。
【0060】
セメントが固化して板状で多孔質のブロックが成型された後、型枠4を脱型する(図4(c)参照)。なおこのとき、底面板41と側面板42とが、着脱可能な組み立て構造によって型枠4が構成されていれば、側面板42と底面板41とを切り離しながら脱型することができるため好適である。
【0061】
脱型した後、板状で多孔質のブロックに、板厚方向に貫通する貫通孔を設ける。貫通孔はドリル等で穿孔することによって設けることができる。こうして餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を構成する、板状で多孔質のブロックが形成される。
【0062】
(多孔質ブロックの第二の製造方法)
次に、板状で多孔質のブロックの製造方法のうち第二の製造方法について、図5に基づき説明する。図5のうち、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA−A断面を示す断面図である。
【0063】
第二の製造方法も第一の製造方法と同様に、上方に開口4aを有する型枠4を用いるが、型枠4の底面板41から円柱状の突起43,・・・,43が突出し、開口4aに到達するまで延びている。この突起43の位置は、板状で多孔質のブロックに形成される貫通孔の位置に対応してる。
【0064】
第一の製造方法と同様に、型枠4内に、開口4aに達する程度まで粗骨材Cを投入した後、適量のセメントと水との混合物Mを投入し、型枠4を振動させながら開口4aから圧力および蒸気を付与することによってセメントを固化させ、隣接する粗骨材C同士を気孔を介在させつつ結合させて、板状で多孔質のブロックを成型する。このとき、突起43の位置には粗骨材Cが存在しないため、型枠4を脱型すると、板状で多孔質のブロックには貫通孔が出現する。
【0065】
なお、図5に示す突起43は、底面板41から一定の円形断面で開口4aまで延びる円柱状の突起に形成されているが、これに代えて、開口4aに近づくにつれて徐々に細くなるよう、すなわち切頭円錐形に形成することも可能である。このように構成すると、型枠4を脱型する際、スムーズに脱型することが可能となる。また、このように構成すると、貫通孔の形状も切頭円錐形となり、板状で多孔質のブロックの、一方の板面における孔径が他方の板面における孔径より大きくなる。しかし、複数の板状で多孔質のブロックを、図1〜3のように連結部材3で連結させる際には、ワッシャ33の径を貫通孔の孔径より十分大きくすることにより、ナット32およびワッシャ33を貫通孔内に陥没させることなく、板状で多孔質のブロックとボルトとを確実に結合することが可能とある。
【0066】
(多孔質ブロックの第三の製造方法)
次に、板状で多孔質のブロックの製造方法のうち第三の製造方法について、図6に基づき説明する。図6のうち、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のB−B断面を示す断面図である。
【0067】
第三の製造方法も第一の製造方法と同様に、上方に開口4aを有する型枠4を用意する。そして、まず型枠4の底面板41の所定の位置に、貫通孔35aを有する筒状部材35を立てて配置した後、型枠4内に、開口4aに達する程度まで粗骨材Cを投入する。その後、隣接する粗骨材C同士が、および粗骨材Cと筒状部材35とが、結合するのに必要十分な量のセメントと水との混合物Mを型枠4内に投入する。そして、型枠4を振動させながら開口4aから圧力および蒸気を付与することによってセメントを固化させる。セメントが固化した後、型枠4を脱型する。すると、隣接する粗骨材C同士が気孔を介在させつつ結合するとともに、粗骨材Cと筒状部材35とが結合した、板状で多孔質のブロックが成型される。このとき板状で多孔質のブロックには筒状部材35が埋設されることになり、すなわち、この筒状部材35の貫通孔35aが、図2に示した第一ブロック21(又は第二ブロック22)の板厚方向に貫通する貫通孔21c(又は貫通孔22c)を構成することになる。なお、筒状部材の材料は任意であるが、鉄鋼などボルトと同じ材料が好適に用いられる。
【0068】
板状で多孔質のブロックをボルトを用いて上下に連結するためには、ブロックごとに貫通孔は平面視で同軸に存在せねばならない。そこで、板状で多孔質のブロックにおいて筒状部材35を平面視で所定の位置に位置決めできるよう、貫通孔35aに嵌る位置決め用突起(図示省略)を底面板41に設けておくと、円筒状部材35を所定の位置に設けることが容易となり、好適である。
【0069】
なお、第一から第三の製造方法のいずれにおいても、セメントに、又は混合物Mに、ヒドロキシアパタイト(HPA)を添加して、板状で多孔質のブロックを製造することができる。こうして製造された板状で多孔質のブロックは、粗骨材の表面にHPAが付着することになり、水中に設置されたとき、HPAが水中の金属イオンを吸着し、不溶化する。したがって、環境汚染物質が吸着されて水質が向上し、水産資源の育成環境が良好となる、餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質を提供することが可能となる。
【0070】
また、第一から第三の製造方法のいずれにおいても、粗骨材に、又は混合物Mに、貝殻を粉砕した貝殻粉を混入して、板状で多孔質のブロックを製造することもできる。これによって、廃棄物の有効利用を図ることが可能となる。ただし、気孔径が小さくなって目詰まりが生じないよう、貝殻粉の混入量は適量に抑える必要がある。
【0071】
(実施例)
次に本発明に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の実施例について、従来の基質、すなわち石材、鋼材、コンクリートからなる多孔質体を使用した比較例と、海中で同じ条件にて使用し、能力を比較した。
【0072】
本発明に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の実施例は図1および2に示す形態であり、粗骨材に粒径が20〜40mmのスラグを使用した。スラグに吸水させてから、すなわちスラグ自身の空隙を除いてから計測した空隙率は、30%であった。この空隙率を実現したことにより、本実施例に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質は軽量で運搬が容易であり、なおかつ、構造物への設置に十分な強度を確保していた。
【0073】
なお、第一ブロック21および第二ブロック22の寸法は、平面形状を一辺300mmの正方形とし、厚さを60mmとした。第一ブロック21と第二ブロック22との間の隙間dは30mmとした。
【0074】
この実施例および比較例を海中に設置し比較を行った。
【0075】
(増殖機能)
実施例に着生した選好性餌料生物としては、テッポウエビ、フトウデネジレカニダマシ等の節足動物門、甲殻綱の生物が顕著に確認された。実施例に着生した選好性餌料生物の単位体積当たりの湿重量は、石材の約7倍、鋼材の約30倍、コンクリート平板基質の約60倍以上であった。
【0076】
また実施例における選好性餌料生物の着生量は、20ヶ月経過後も着生量が増加傾向にあることが判った。この結果より、20ヶ月経過後においても基質の生物着生効果が損なわれていないことが検証された。
【0077】
(目詰まり)
海中設置前に30%の空隙率を有していた実施例について、海中設置後も継続的に空隙率の変化を測定したところ、海中設置後13ヶ月を経過した時点でも、約29%の空隙率を確保していることが確認された。同じ場所に設置された従来のポーラスコンクリート等の多孔質体が数ヶ月で目詰まりを起こし、生物の生息が不可能な状態であったことに対して高い優位性を有することが確認された。
【0078】
(海藻の着生)
実施例について、多孔質体部分に着生していた海藻(ガラモ)の単位面積当たりの着生量を、既存のコンクリート製藻場構造物および投石礁と比較すると、実施例の単位面積当たりの着生量は、既存のコンクリート製藻場構造物の約4倍、投石礁の約10倍であった。このことより、本発明に係る本発明に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質は、海藻類の胞子固着効果が優れていると同時に、海藻の着生を促進させる窒素の固定量が高く、浄化機能に優れる気質であることが判った。
【0079】
(稚魚の歩留まり)
通常の岩礁帯に稚魚を放流した場合、放流後1週間程度で稚魚が捕食され、または死亡して、歩留まりは10%以下に留まっていた。これに対し、図7に示す魚礁構造物5に実施例に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質1を装着したユニットを海中に設置して放流した場合は、放流後1週間経過後でも30%以上の稚魚がユニット内に確認され、捕食生物から身を守るための保護・育成機能に優れていることが検証された。また、放流後13ヶ月経過後においても、ユニット内に約10%の放流魚が生息していることが確認された。すなわち、従来技術に比べ10倍以上の歩留まり効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質は、従来技術に対して、餌料生物着生機能、海藻着生機能、目詰まり抑制、稚魚の歩留まり等において高い優位性を有し、現在の魚礁、藻礁設置事業に代表される水産基盤整備分野および海域のみならず、湖沼やため池における環境浄化分野への適用が可能であり、今後の水産生物資源生産力向上として有用なものとなる。
【符号の説明】
【0081】
1 餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質
21 第一ブロック
22 第二ブロック
3 連結部材
31 ボルト
32 ナット
33 ワッシャ
34 短筒状スペーサー(スペーサー)
35 筒状部材
4 型枠
41 底面板
42 側面板
43 突起
5 魚礁構造物
C 粗骨材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗骨材がセメントにより結合されてなる、板状で多孔質の第一ブロックおよび第二ブロックを備え、
前記第一ブロックと前記第二ブロックとが、板厚方向に所定の隙間を空けて連結されている
ことを特徴とする餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質。
【請求項2】
前記粗骨材がスラグからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質。
【請求項3】
前記隙間が10〜50mmである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質。
【請求項4】
前記第一ブロックおよび前記第二ブロックの空隙率が20〜40%である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質。
【請求項5】
前記粗骨材の粒径が20〜40mmである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質。
【請求項6】
前記第一ブロックおよび前記第二ブロックが板厚方向に貫通する同軸の貫通孔を有し、前記貫通孔を通るボルトと、ナットとにより締結されて、前記第一ブロックと前記第二ブロックとが連結されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質。
【請求項7】
前記第一ブロックおよび前記第二ブロックに、前記貫通孔が設けられた筒状部材が埋設されている
ことを特徴とする請求項6に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質。
【請求項8】
前記第一ブロックと前記第二ブロックとの間にスペーサーが介在する
ことを特徴とする請求項6または7に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質。
【請求項9】
前記セメントにヒドロキシアパタイトが添加されている
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質。
【請求項10】
粗骨材をセメントにより結合して、板状で板厚方向の貫通孔を有する多孔質の第一ブロックおよび第二ブロックを成型するブロック成型工程と、
前記貫通孔にボルトを通し、前記第一ブロックと前記第二ブロックとの間に所定の隙間を空けてナットで締結する連結工程とを備える
ことを特徴とする餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法。
【請求項11】
前記ブロック成型工程が、上方に開口を有する型枠の内部に、粗骨材、セメントおよび水を投入する工程と、セメントが固化した後脱型する工程と、前記貫通孔を穿孔する工程とを有する
ことを特徴とする請求項10に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法。
【請求項12】
前記ブロック成型工程が、上方に開口を有する型枠の内部に、粗骨材、セメントおよび水を投入する工程と、セメントが固化した後脱型する工程とを有し、
前記型枠は前記開口に対向する底面板を有し、
前記底面板には前記開口まで延びる突起が設けられており、
前記第一ブロックおよび前記第二ブロックに、前記突起の位置に対応して前記貫通孔が形成される
ことを特徴とする請求項10に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法。
【請求項13】
前記ブロック成型工程が、上方に開口を有する型枠の内部に、粗骨材、セメントおよび水を投入するとともに貫通孔を有する筒状部材を所定の位置に配置する工程と、セメントが固化した後脱型する工程とを有し、
前記型枠は前記開口に対向する底面板を有し、
前記筒状部材は前記底面板から前記開口まで延びる
ことを特徴とする請求項10に記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法。
【請求項14】
前記セメントにヒドロキシアパタイトが添加されている
ことを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の餌生物増殖及び稚魚保護・育成基質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−193837(P2011−193837A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66118(P2010−66118)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000230836)日本興業株式会社 (37)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】