説明

多孔質光触媒素子

【課題】従来に比べて触媒効率を向上する共に、資源の無駄を極力少なくした流体処理用の多孔質光触媒素子を提供する。
【解決手段】多孔質光触媒素子は、金属多孔質体の外表面および外表面の孔面に、内部の孔面より光触媒を厚く被覆した。また前記多孔質光触媒素子1においては、金属多孔質体4を板状に形成し、前記板の片側の外表面2および外表面2の孔面のみ光触媒を厚く被覆するのが好ましく、前記板の反対側の外表面3および外表面3の孔面は疎水処理をするのがさらに好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン等の光触媒が被覆された多孔質光触媒素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン等に代表される光触媒は、紫外光等の光を照射することで強い酸化作用を生じて、種々の物質を分解する機能を有している。そのため、前記機能を利用して、様々な分野において、例えば臭い、汚れ、有害成分等の除去や、あるいは除菌等に利用されつつある。そのような光触媒の用途の一つとして、空気等の気体の清浄化(脱臭、有害成分除去、除菌等)や水質の浄化(有害成分除去、水垢除去、除菌等)などの、流体に対する処理をするための多孔質光触媒素子が挙げられる。
【0003】
前記流体処理用の多孔質光触媒素子においては、流体と、光触媒との接触面積をできるだけ大きくして、光触媒による分解反応の反応サイトをできるだけ多くすることで、前記光触媒による臭気成分等の分解の効率(以下「触媒効率」とする。)を向上することが求められる。そのため、例えば特許文献1に記載されているように、金属、セラミック等からなり、流体が孔内を流通可能な連続多孔質構造を有する多孔質体を基材として用いて、前記多孔質体の外表面、ならびに内部の孔面を、いずれも光触媒によって被覆した複合構造を有する多孔質光触媒素子とするのが一般的である。
【特許文献1】特開2003−181475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが発明者の検討によると、前記従来の多孔質光触媒素子は、光が届きにくいために光触媒が十分に機能しえない多孔質体の孔の内奥部まで、前記光触媒によってほぼ均一に被覆されている。そのためレアメタルであるチタンを含む酸化チタン等を光触媒として用いた場合に、貴重な資源の無駄が多くなることが明らかである。また、多孔質体の孔径や気孔率を調整し、その調整した多孔質体を光触媒で均一に被覆しても触媒効率を向上する効果には限界がある。
【0005】
本発明の目的は、従来に比べてさらに触媒効率が向上される共に、資源の無駄を極力少なくした流体処理用の多孔質光触媒素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多孔質光触媒素子は、外表面および内部に多数の孔を有する金属多孔質体からなり、前記外表面および外表面の孔面は、内部の孔面と比べて相対的に厚い光触媒で被覆されていることを特徴とするものである。本発明によれば、前記金属多孔質体のうち光が届きやすい外表面および外表面の孔面に、光触媒を集中的に、より厚く被覆しているため、光触媒の全体としての触媒効率を、従来に比べてさらに向上することができる。また、使用する光触媒の総量を少なくして、資源の無駄を極力少なくすることもできる。
【0007】
前記本発明の多孔質光触媒素子においては、金属多孔質体が、背中合わせの対をなす外表面を有する板状に形成され、前記板の片側の外表面および外表面の孔面が、板の他の領域の孔面、および板の反対側の外表面と比べて相対的に厚い光触媒で被覆されているのが好ましい。この場合は、前記片側の外表面および外表面の孔面に光触媒を集中的に、より厚く被覆して光の照射面として、触媒効率をさらに向上することができる。また、金属多孔質体を板状とすることで多孔質光触媒素子を薄型化して、前記多孔質光触媒素子を設置する場所の省スペース化を図ることもできる。
【0008】
また、前記板状の金属多孔質体の反対側の外表面および外表面の孔面は、疎水処理されているのが好ましい。この場合には、酸化チタン等の光触媒の表面が、周知のように極めて高い親水性を有するため、金属多孔質体の板の片側を親水性、反対側を疎水性として、金属多孔質体の孔内に流入した、特に水蒸気を含む気体を、より集中的に、片側の、光触媒を厚く被覆した領域に供給して、触媒効率をさらに向上することができる。
【0009】
金属多孔質体は、孔内における気体や水の流通をできるだけスムースにし、かつ孔内に被覆される光触媒と、気体や水等の流体との接触面積をできるだけ大きくとって、触媒効率をさらに向上することを考慮すると、孔の平均孔径が10μm以上、1000μm以下、および/または気孔率が90〜98%であるのが好ましい。また、光触媒を集中的に厚く被覆する金属多孔質体の外側の領域での、前記光触媒の被覆厚みは、前記外側の領域での、孔内における気体や水の流通をできるだけスムースにし、かつ光触媒の触媒効率を良好なレベルに維持することを考慮すると0.1μm以上、10μm以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来に比べてさらに触媒効率を向上する共に、資源の無駄を極力少なくした多孔質光触媒素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の多孔質光触媒素子は、外表面および内部に多数の孔を有する金属多孔質体からなり、前記外表面および外表面の孔面は、内部の孔面と比べて相対的に厚い光触媒で被覆されていることを特徴とするものである。本発明によれば、金属多孔質体のうち光が届きやすい外表面および外表面の孔面に、光触媒を集中的に、より厚く被覆しているため、光触媒の全体としての触媒効率を、従来に比べてさらに向上することができる。また資源の無駄を極力少なくすることもできる。
【0012】
前記本発明の多孔質光触媒素子1の好適な例としては、例えば図1に示すように、背中合わせの対をなす外表面2、3を有する板状に形成された金属多孔質体4を備え、前記金属多孔質体4のうち、光の照射面とされる前記板の片側の外表面2および外表面2の孔面が、板の他の領域の孔面、および板の反対側の外表面3と比べて相対的に厚い光触媒で被覆された構造を有しているものが挙げられる。かかる構成によれば、前記片側の外表面2および外表面2の孔面に集中的に、より厚く光触媒を被覆して光の照射面として、触媒効率をさらに向上することができる。また、金属多孔質体4を板状とすることで多孔質光触媒素子1を薄型化して、前記多孔質光触媒素子1を設置する場所の省スペース化を図ることもできる。
【0013】
多孔質光触媒素子1のもとになる金属多孔質体4としては、種々の金属または合金からなる種々の多孔質体が、いずれも使用可能である。中でも、特にウレタン樹脂の発泡体等の、連続気孔構造を有する樹脂発泡体の表面を導電処理し、次いで電気めっきして、金属多孔質体のもとになるニッケル(Ni)等のめっき被膜を形成した後、必要に応じて熱処理して樹脂発泡体を除去する等して製造される金属多孔質体〔例えば住友電気工業(株)製のセルメット(登録商標)〕が好適に使用される。
【0014】
前記金属多孔質体は、そのもとになる基材樹脂の発泡率やめっき被膜の厚み等を調整することで、例えば金属粉末や金属繊維を焼結する等して形成される通常の金属多孔質体では得られない、著しく大きな通孔を有するものとすることが可能である。当該金属多孔質体における、孔の大きさは特に限定されないが、その平均孔径は10μm以上、1000μm以下、特に200μm以上、700μm以下であるのが好ましい。
【0015】
平均孔径がこの範囲未満では、孔面を被覆する光触媒の厚みにもよるが、孔が小さすぎて、前記孔内において気体や水をできるだけスムースに流通させる効果が不十分となって、光触媒による触媒効率が低下するおそれがある。また平均孔径が前記範囲を超える場合には孔が大きすぎて、相対的に金属多孔質体自体の総量が不足するため、前記金属多孔質体の外表面および内部の孔面の表面積が小さくなる傾向がある。そのため、前記外表面および孔面を被覆する光触媒と、流体との接触面積が低下して、光触媒による触媒効率が低下するおそれがある。また、金属多孔質体の強度が低下するおそれもある。
【0016】
また気孔率は90%以上、98%以下、特に93%以上、96%以下であるのが好ましい。気孔率がこの範囲未満では、やはり孔面を被覆する光触媒の厚みにもよるが、孔が小さすぎて、前記孔内において気体や水をできるだけスムースに流通させる効果が不十分となって、光触媒による触媒効率が低下するおそれがある。
【0017】
また気孔率が前記範囲を超える場合には孔が大きすぎて、相対的に金属多孔質体自体の総量が不足するため、前記金属多孔質体の外表面および内部の孔面の表面積が小さくなる傾向がある。そのため、前記外表面および孔面を被覆する光触媒と、流体との接触面積が低下して、光触媒による触媒効率が低下するおそれがある。また、金属多孔質体の強度が低下するおそれもある。なお金属多孔質体の平均孔径は、顕微鏡観察によって求める。また気孔率は、金属多孔質体の単位体積あたりの重量を測定し、その金属の密度との比較によって求める。
【0018】
金属多孔質体と共に多孔質光触媒素子を構成する光触媒としては、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化バナジウム、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン、酸化第二鉄、チタン酸ストロンチウム等の、光触媒として機能しうる金属酸化物が挙げられる。中でも、特に光触媒としての機能に優れた二酸化チタン(TiO)、窒素ドープ型二酸化チタン(TiO2−x)、または酸素欠乏型二酸化チタン(TiO2−x)等の酸化チタン類が好ましい。
【0019】
前記酸化チタン等の金属酸化物からなる光触媒によって、金属多孔質体の外表面および外表面の孔面を、他の部分に比べて集中的に厚く被覆するためには、被覆方法として電着ゾルゲル法を採用するのが好ましい。電着ゾルゲル法では、光触媒のもとになる金属のアルコキシドを出発原料とするゾル溶液を希釈して電解液を調製し、前記電解液に、金属多孔質体と、対極としての白金板等とを浸漬して、金属多孔質体を陰極、白金板を陽極として電解処理を行なう。
【0020】
そうすると電解液中のゾルが電気泳動によって金属多孔質体の外表面および孔面に付着(電着)して電着膜が形成される。この際、ゾルはまず金属多孔質体の外表面から付着を始め、次いで外表面の孔面から順に内部の孔面に付着してゆくという過程を経る。そのため、電解処理時に両極間に印加する電圧の電圧値や処理の時間等を調整することで、電着膜の厚みを、金属多孔質体の外表面および外表面の孔面において厚く、内部の孔面ほど薄くすることができる。
【0021】
この後、金属多孔質体を電解液から引き上げて乾燥させ、さらに熱処理によりゾルを熱分解反応させて金属酸化物からなる光触媒を生成させると、前記光触媒を、前記電着膜の厚みの分布に応じて、金属多孔質体の外表面および外表面の孔面において厚く、内部の孔面ほど薄く被覆することができる。図1の例のように金属多孔質体4が板状であって、その片側の外表面2および外表面2の孔面のみ、前記電着ゾルゲル法によって光触媒を厚く被覆するためには、前記板体の反対側の外表面3をマスキングした状態で、電解液に浸漬して処理を行なえばよい。
【0022】
金属多孔質体の外表面および外表面の孔面を、光触媒によって集中的に厚く被覆するための他の方法としては、例えば浸漬法や塗布法を採用することもできる。このうち浸漬法では、例えば金属多孔質体の外表面および外表面の孔面のみを、金属アルコキシドを出発原料とするゾル溶液に部分的に浸漬することで、前記領域のみに、選択的にゾルを付着させたのち乾燥させ、さらに熱処理によりゾルを熱分解反応させて金属酸化物からなる光触媒を生成させる。そうすると、ゾルを選択的に付着させた、金属多孔質体の外表面および外表面の孔面のみを、光触媒によって選択的に被覆することができる。
【0023】
また塗布法では、例えばゾル溶液を必要に応じて希釈して調製した塗布液を、スプレー法、ロールコート法その他の塗布方法によって、金属多孔質体の所定の外表面に塗布する。そうすると塗布液は、前記外表面から孔内に浸透して、金属多孔質体の外表面および外表面の孔面にゾルの塗膜が形成される。このあと乾燥させ、さらに熱処理によりゾルを熱分解反応させて金属酸化物からなる光触媒を生成させると、前記塗膜の分布に応じて金属多孔質体の外表面および外表面の孔面のみを、光触媒によって選択的に被覆することができる。
【0024】
前記いずれかの方法によって被覆される光触媒の、金属多孔質体の外表面および外表面の孔面での厚みは0.1μm以上、10μm以下、特に1μm以上、5μm以下であるのが好ましい。光触媒の被覆厚みがこの範囲未満では、前記領域における光触媒の総量が不足して、前記光触媒による触媒効率が低下するおそれがある。また前記範囲を超える場合には、金属多孔質体の穴の大きさにもよるが、前記孔内において気体や水をできるだけスムースに流通させる効果が不十分となって、光触媒による触媒効率が低下するおそれがある。
【0025】
金属多孔質体のうち、光触媒を集中的に厚く被覆する領域の厚みは、前記金属多孔質体の平均孔径以下、特に金属多孔質体の外表面から0.2mm以下であるのが好ましい。領域の厚みが前記範囲を超える場合には、外表面の孔面だけでなく、光が届きにくいために光触媒が十分に機能しえない内部の孔面まで光触媒が厚く被覆されていることになり、触媒効率が低下すると共に、資源の無駄を生じることになる。
【0026】
光触媒を厚く被覆する領域の厚みを前記範囲内に調整するためには、例えば先に説明した電着ゾルゲル法では、電解処理時に両極間に印加する電圧の電圧値や処理の時間等を調整すればよい。また浸漬法では、金属多孔質体をゾル溶液に浸漬する浸漬量が、すなわち光触媒を厚く被覆する領域の厚みに相当するため、前記浸漬量を調整すればよい。さらに塗布法では、塗布液の粘度や塗布量等を調整して、孔内への塗布液の浸透量を調製すればよい。
【0027】
図1の例の多孔質光触媒素子1においては、板の反対側の外表面3および外表面3の孔面を疎水処理するのが好ましい。これにより、金属多孔質体4の板の外表面2側を親水性、外表面3側を疎水性として、金属多孔質体4の孔内に流入した、特に水蒸気を含む気体を、より集中的に、外表面2側の、光触媒を厚く被覆した領域に供給して、触媒効率をさらに向上することができる。疎水処理をするためには、金属多孔質体4の、前記外表面3および外表面3の孔面を、例えばフッ素樹脂、シリコーン樹脂等で被覆すればよい。この際、孔内での流体の流通を阻害しないために、孔自体は塞がないようにするのが望ましい。
【0028】
本発明の多孔質光触媒素子は、例えば前記多孔質光触媒素子のうち光触媒が厚く被覆された外表面に光を照射する発光素子と一体化した光触媒ユニットとして用いるのが好ましい。前記構成によれば、例えば多孔質光触媒素子と発光素子とを、前記多孔質光触媒素子の、光触媒が厚く被覆された外表面に、発光素子から効率よく光を照射するために前記両者の配置等を最適化した状態で、スペーサ等を介して固定したり、ケーシング中に収容したりして一体化した1つの部材(光触媒ユニット)として供給することができる。そのため、前記光触媒ユニットを1つの部材として取り扱って、任意の機器に組み込んで使用することにより、様々な機器に、気体や水等に対する良好な処理機能を、簡単に組み込むことが可能となる。
【0029】
例えば多孔質光触媒素子1が、先に説明した片側の外表面2および外表面2の孔面のみ光触媒を厚く被覆した板状の金属多孔質体4からなるものである場合、前記多孔質光触媒素子1と組み合わせて光触媒ユニットを構成する発光素子としては、前記外表面2の全面に、ほぼ均等に光を照射できる面状のものが好ましい。かかる面状の発光素子としては、複数の発光ダイオードを面状に配列した発光ダイオードアレイや、あるいはエレクトロルミネッセンス素子等が挙げられる。また線状若しくは点状の光源と、前記光源からの光を面方向に導く導光材とを組み合わせたものを、面状の発光素子として用いることもできる。
【0030】
前記面状の発光素子5および図1の例の多孔質光触媒素子1を、例えば図2に示すように、多孔質光触媒素子1の、光照射面としての外表面2と、発光素子5の発光面6とが互いに平行になるように配置することによって、光触媒ユニット7が構成される。前記光触媒ユニット7によれば、発光素子5の発光面6からの光を、多孔質光触媒素子1の外表面2のほぼ全面に均等に照射できるため、前記外表面2および外表面2の孔内に厚く被覆した光触媒による触媒効率を、より一層向上することができる。
【0031】
なお、多孔質光触媒素子1が、板の外表面2側だけでなく、反対側の外表面3および外表面3の孔面にも光触媒を厚く被覆したものである場合には、例えば図3に示すように、面状の発光素子5を、外表面2側だけでなく外表面3側にも、その発光面6と外表面3とが互いに平行になるように配置することによって、光触媒ユニット7が構成される。前記光触媒ユニット7によれば、前記2つの発光素子5によって板の両側から、光照射面としての両外表面2、3のほぼ全面に光を照射できるため、外表面2および外表面2の孔内、ならびに外表面3および外表面3の孔内厚く被覆した光触媒による触媒効率を、より一層向上することができる。
【0032】
また、例えば図4に示すように多孔質光触媒素子1を筒状に形成すると共に、発光素子5を、前記多孔質光触媒素子1の外周面を囲み、かつその内面が発光面6とされた筒状に形成し、両者を同軸に配置して光触媒ユニット7を構成することもできる。かかる光触媒ユニット7においては、例えば発光素子5の発光面6から多孔質光触媒素子1の筒の全周に亘って光を照射しながら、前記多孔質光触媒素子1の筒内を図中に実線の矢印で示すように流体を流すことによって、前記流体中の臭気成分等を、効率よく分解することができる。
【0033】
すなわち、多孔質光触媒素子1の筒の径や流体の流量等を調整することによって流体の乱流を発生させて、前記流体を、金属多孔質体4の孔内を通して、多孔質光触媒素子1の光触媒面である筒の外面に供給して、前記光触媒面で、光触媒の作用によって臭気成分等を分解させることができる。また、筒の片側の開口を閉じることで、筒内に供給した流体を、金属多孔質体4の孔内を通して筒外へ強制的に供給するようにして、前記分解の効率を向上することもできる。この光触媒ユニットは、例えば以下で説明する炊飯器の、水蒸気の排出口等に配置して使用することができる。
【0034】
前記光触媒ユニットは、空気等の気体の清浄化(脱臭、有害成分除去、除菌等)や水質の浄化(有害成分除去、水垢除去、除菌等)などの、流体に対する処理を要する種々の用途に用いることができる。その一例としては、例えば前記光触媒ユニットを炊飯器に組み込んで、炊飯時、あるいは保温時のご飯から発生する臭気を除去する脱臭装置として用いることが挙げられる。
【0035】
ご飯を炊き上げる際に発生する臭気は、例えば水蒸気と共に、炊飯器の通気孔を通して外部に拡散したり、炊飯器の蓋を開いた際に外部に放散したりするが、人によってはこの特有の臭気により不快感を生じるおそれがある。また炊飯器中で長時間保温する程、臭気が強くなってご飯がおいしくなくなるという問題もある。かかるご飯の臭気は、二硫化メチル等の硫化物やアセトアルデヒド等を主成分とし、これらの成分は少量であればご飯の旨味を増進する働きをするが、多量に発生すると不快感を与え、ご飯の味を低下させることが、研究によって明らかとなっている。
【0036】
これに対し、前記光触媒ユニットを炊飯器の任意の位置に組み込み、炊飯時や保温時に任意のタイミングで発光素子を発光させて光触媒を励起させるようにすると、臭気成分を光触媒の触媒作用によって適度に分解して除去することができる。そのためご飯をおいしく炊き上げること、炊き上げる際の臭気によって不快感を生じるのを防止すること、保温時に臭気が強くなるのを防止して、ご飯の味を常に良好に維持することが可能となる。なお光触媒ユニットに代えて、本発明の多孔質光触媒素子を、別に用意した発光素子と共に炊飯器に組み込んでも、同様に機能させることができる。
【0037】
本発明は、以上で説明した実施の形態には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことができる。
【実施例】
【0038】
〈実施例1〉
(金属多孔質体)
金属多孔質体としては、ニッケルからなり、孔の平均孔径が400μm、気孔率が93%であるNiセルメット〔住友電気工業(株)製〕を縦10mm×横10mm×厚み1mmの板状に切り出したものを用意した。
【0039】
(電解液の調製)
金属アルコキシドとしてのチタンテトライソプロポキシド〔Ti[OCH(CH)]〕、イソプロピルアルコール〔(CH)CHOH〕、および水を、質量比で17:3:80の割合で混合した。次いで、前記混合液100gに硝酸〔HNO〕3gを加えてかく拌することで、前記チタンテトライソプロポキシドを加水分解および重縮合反応させてゾル溶液を調製した後、前記ゾル溶液を水によって質量比で10倍に希釈して電着ゾルゲル法用の電解液を調製した。
【0040】
(多孔質光触媒素子の製造)
先に用意したNiセルメットの板の片側の外表面を露出させ、反対側の外表面をマスキングした状態で、対極としての白金板と共に前記電解液に浸漬し、Niセルメットを陰極、白金板を陽極として、両極間に印加する電圧を30Vに維持しながら定電圧電解法によって電解処理をした。
【0041】
次いでNiセルメットを電解液から引き上げて室温で乾燥させた後、1時間あたり100℃の割合で400℃まで昇温し、次いで400℃で1時間加熱し、室温まで冷却して多孔質光触媒素子を製造した。
【0042】
〈実施例2〉
Niセルメットの、マスキングをしていた反対側を、電界処理後にフッ素樹脂によって疎水処理したこと以外は実施例1と同様にして多孔質光触媒素子を製造した。
【0043】
〈実施例3〉
Niセルメットの反対側をマスキングしなかったこと以外は実施例1と同様にして電界処理をし、乾燥させ、実施例1と同条件で加熱したのち冷却して多孔質光触媒素子を製造した。
【0044】
〈実施例4〉
Niセルメットの反対側を、電界処理後にフッ素樹脂によって疎水処理したこと以外は実施例3と同様にして多孔質光触媒素子を製造した。
【0045】
〈比較例1〉
実施例1で用意したのと同じNiセルメットの全体を、実施例1で調製した希釈前のゾル溶液に浸漬したのち引き上げ、乾燥させ、実施例1と同条件で加熱したのち冷却して多孔質光触媒素子を製造した。
【0046】
〈比較例2〉
縦1cm×横1cmの、多孔質でない金属板であって、その片面を露出させ反対面をマスキングしたものを基材として用いたこと以外は比較例1と同様にして、前記板の片面に光触媒が被覆された多孔質光触媒素子を製造した。
【0047】
〈比較例3〉
縦1cm×横1cmの、多孔質でない金属板であって、その片面を露出させ反対面をマスキングしたものを基材として用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記板の片面に光触媒が被覆された多孔質光触媒素子を製造した。
【0048】
〈光触媒の被覆厚み測定〉
実施例1〜4、比較例1で製造した製造した多孔質光触媒素子における、光触媒としての酸化チタンの被覆厚みの、Niセルメットの厚み方向の分布を、その断面の電子顕微鏡による観察によって求めた。
【0049】
結果を図5に示す。なお図5において横軸は、Niセルメットの片側の外表面を0mmとしたときの、前記Niセルメット内における厚み方向の位置(mm)を示し、使用したNiセルメットの厚みが1mmであるので、横軸の1mmの位置はNiセルメットの反対側の外表面に相当する。図5より、金属多孔質体に、電着ゾルゲル法によってゾルを付着させたのち乾燥、焼成して光触媒を形成することで、前記光触媒を、金属多孔質体の片側若しくは両側の外表面および外表面の孔面に集中的に厚く被覆できることが確認された。
【0050】
〈光触媒の総量〉
光触媒を被覆する前後のNiセルメット(実施例1〜4、比較例1)、および金属板(比較例2、3)の重量を測定して、重量の増加分を光触媒の総量(mg)とした。
【0051】
〈脱臭試験〉
実施例1〜4、比較例1の多孔質光触媒素子は、それぞれ多孔質光触媒素子を厚く被覆し、かつ疎水処理等をしていない片側の外表面を光照射面とし、比較例2、3の多孔質光触媒素子は光触媒を被覆した片面を光照射面とした。そして図6に示すように、前記多孔質光触媒素子1を、一方の壁面に面状の発光素子5としての発光ダイオードアレイ(9個の紫外線発光ダイオードを3×3の正方形状に配列したもの)が設けられたケーシング8内に、その光照射面2を前記発光素子5と対向させて、互いに平行となるようにセットして光触媒ユニット7を構成した。
【0052】
次に、前記光触媒ユニット7を、10ppmの硫化水素を含む空気を収容したガスパック9、およびポンプ10と接続してガスの循環系を構成し、発光素子5を発光させて紫外光を多孔質光触媒素子1の光照射面2に照射しながらポンプ10を作動させて、ガスパック9内の空気を毎分1リットルの割合で前記循環系を循環させた際の、循環開始時点(0分後)、30分経過後、および60分経過後の硫化水素の濃度(ppm)を測定した。結果を、各実施例、比較例における光触媒の総量(mg)と併せて表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の実施例1〜4と比較例2、3の結果より、基材として金属多孔質体を用いることで、基材に担持させる光触媒の総量を大幅に増加しながら、なおかつ触媒効率を向上できること、実施例1〜4と比較例1の結果より、光触媒を、金属多孔質体の外表面および外表面の孔面に、集中的により厚く被覆することで光触媒の総量を少なくして、しかも触媒効率をさらに向上できることが判った。
【0055】
また実施例1、2と実施例3、4の結果より、光触媒を、金属多孔質体の板の片側の外表面および外表面の孔面のみに厚く被覆することで、光触媒の総量をさらに少なくできること、反対側の外表面および外表面の孔面を疎水処理することで、触媒効率をより一層向上できることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の多孔質光触媒素子の、実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の例の多孔質光触媒素子を面状の発光素子と組み合わせて構成される光触媒ユニットの一例を示す側面図である。
【図3】光触媒ユニットの他の例を示す側面図である。
【図4】光触媒ユニットのさらに他の例を示す斜視図である。
【図5】本願の実施例1〜4、比較例1で製造した多孔質光触媒素子における、光触媒の被覆厚みの、Niセルメットの厚み方向の分布を示すグラフである。
【図6】本願の実施例1〜4、比較例1で製造した多孔質光触媒素子の脱臭試験を実施するために構成した評価装置の概略を説明する図である。
【符号の説明】
【0057】
1 多孔質光触媒素子
2 外表面(光照射面)
3 外表面
4 金属多孔質体
5 発光素子
6 発光面
7 光触媒ユニット
8 ケーシング
9 ガスパック
10 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面および内部に多数の孔を有する金属多孔質体からなり、前記外表面および外表面の孔面は、内部の孔面と比べて相対的に厚い光触媒で被覆されていることを特徴とする多孔質光触媒素子。
【請求項2】
金属多孔質体は、背中合わせの対をなす外表面を有する板状に形成され、前記板の片側の外表面および外表面の孔面が、板の他の領域の孔面、および板の反対側の外表面と比べて相対的に厚い光触媒で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の多孔質光触媒素子。
【請求項3】
板の反対側の外表面および外表面の孔面が疎水処理されていることを特徴とする請求項2に記載の多孔質光触媒素子。
【請求項4】
金属多孔質体の孔は、平均孔径が10μm以上、1000μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の多孔質光触媒素子。
【請求項5】
金属多孔質体は、気孔率が90%以上、98%以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の多孔質光触媒素子。
【請求項6】
金属多孔質体の外表面および外表面の孔面における光触媒の厚みが0.1μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の多孔質光触媒素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−12395(P2010−12395A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173612(P2008−173612)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】