説明

多孔質成形体、ヒートシンク

【課題】高い空孔率を有するヒートシンクなどの多孔質成形体を得る。
【解決手段】表面と内部に空孔12を有し、表面積が大きいヒートシンク11であって、複数本の銅線31…が、焼結による結節部32…で立体的に結合されて金属線31…間に上記の空孔12が形成されたヒートシンク11である。表面積が広いことによる放熱と、内部を空気が流通して熱が奪われることによる放熱が良好で、きわめて良好な放熱性能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば放熱のためのヒートシンクや断熱材、緩衝体などに使用されるような多孔質成形体に関し、より詳しくは、空孔率がきわめて高い多孔質成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質構造のヒートシンクとしては、たとえば下記特許文献1、2に開示されたものがある。これらのヒートシンクは粉末冶金で製造されている。つまり、金属粉末にバインダを加えて混合し、所望の形状に成形した成形体を焼結して得られる。焼結によって金属粉体同士が結合して、これらの間に空孔ができる。このため、空孔の大きさは金属粉末の大きさが大きいほど大きくなる。
【0003】
しかし、粉末冶金では、金属粉末の充填割合に自ずと制限があるので、空孔率は20〜40%くらいにしか上げられない。
【0004】
また、特許文献1に記載のヒートシンクでは、多孔質であり内部に多くの空孔を有しているので、多孔質の内部を空気が流れることで、熱伝達を受けた空気を空気中に放出する旨が記載され、特許文献2では表面大きな空孔が複数形成されていることで表面積が拡大し、放熱性の向上が図れる旨が記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1、2のヒートシンクに形成される空孔は、基本的に独立構造のもので、このような独立発泡状の空孔が多数形成された多孔質体である。
【0006】
このため、空孔内を空気が通過する率は高くなく、ヒートシンクの冷却効率はある程度以上にはならない。
【0007】
ヒートシンクとしては、さらに下記特許文献3に開示されているものがあるが、これは、1本の金属繊維からなる織物を圧縮して製造される。圧縮して製造されるので、空孔は連続発泡状にはなるものの、空孔率は高くない。このため、それまでと比べて格段に良好な冷却効率を得られるものではない。
【特許文献1】特開平5‐343572号公報
【特許文献2】特許第2799688号公報
【特許文献3】特許第3914905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、ヒートシンクにおいては「すかすか」といえるほどに空孔率が高いものはなかった。また、ヒートシンク以外のその他の物品においても、金属材料からなるものであって空孔率が高いものはなかった。
【0009】
そこで、この発明は、金属製でありながらも高い空孔率を得られるようにすることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段は、空孔を有する多孔質成形体であって、複数本の金属線が、焼結による結節部で立体的に結合されて金属線間に上記の空孔が形成された多孔質成形体である。
【0011】
別の手段は、空孔を有するヒートシンクであって、複数本の金属線が、焼結による結節部で立体的に結合されて金属線間に上記の空孔が形成されたヒートシンクである。
【0012】
このような多孔質成形体やヒートシンクでは、複数本の金属線同士が立体的、すなわち内側に空孔を有する状態で三次元立体網状に結節部で結合している。このため、連続発泡状の広大な空孔を有する。
【0013】
また、上記の結節部は焼結により形成されているので、高密度、高強度、高弾性率をする。このため、金属線同士の位置関係を十分に確保でき、成形体としての形態が保持される。
【0014】
さらに別の手段は、複数本の金属線を添加物と混合したのちに成形を行い、成形によって得た成形体を焼結する多孔質成形体またはヒートシンクの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明によれば、複数本の金属線が相互に立体的に結合した状態であるので、金属線間はすべて空孔になり、高い空孔率を得ることができる。
しかも、この空孔は、独立構造ではなく連続した構造であるので、表面積が大きいばかりでなく、空気の流通性も良好である。
【0016】
また、金属線同士を結合している結節部は、焼結により形成されるので強度が高く、全体の構造が「すかすか」な状態であっても十分に形態を保持できる。このため、ヒートシンクなどの製品として使用することも、緩衝材や断熱材などの他の製品の素材として使用することもできる。
【0017】
さらに、多孔質成形体をヒートシンクとして使用する場合には、窒化アルミからなる絶縁体を介して電子部品を取り付けるようにされているところ、ヒートシンクを構成する多孔質成形体が複数本の金属線からなるので、多孔質成形体の熱膨張による歪を吸収することができる。このため、熱膨張係数に差があっても、ヒートシンクと絶縁体との接合が不測に外れることはなく、特別な措置をせずとも済み、接合が簡単に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、ヒートシンク11として使用される多孔質成形体の斜視図である。このヒートシンク11は、取り付けた電子部品から発せられる熱を放散して温度を下げるものであって、図2に示したようにLED(発光ダイオード)21などの電子部品を窒化アルミニウムなどからなる絶縁体22を介して、一部の取り付け面11aに取り付ける。
【0019】
ヒートシンク11は、全体として直方体形状に形成され、構造は三次元立体網状である。つまり、表面積が大きく、内部に連続発泡状の大きな空孔12を有する。
【0020】
このような構造は、複数本の銅線31…により形成される。すなわち、これら複数本の銅線31…同士が、焼結による結節部32…で立体的に結合されている(図1参照)。
【0021】
図3は、ヒートシンク11の製造工程における一工程を示す説明図である。製造は混合原料35を成形型41に入れたのちプレス成形し、得られた成形体(図示せず)を脱脂ののち焼成して行う。
【0022】
混合原料35は、ヒートシンク11を構成する主体となる複数本の銅線31…と、樹脂粒、ロウなどからなるバインダ36が均一に分散するように混合したものである。銅線31…の径や長さなどは、ヒートシンク11の大きさや形状等に応じて適宜設定される。図示例のような直方体形状で小型のヒートシンク11の場合には、たとえば径が0.1〜0.3mm程度であるとき、長さは5〜6mm程度に設定するとよい。銅線31とバインダ36の割合は、バインダ36の樹脂粒の大きさや所望する空気流通量などの条件によっても異なるが、図示例のような直方体形状で小型のヒートシンク11の場合には、バインダ36が50%程度以上であるのが好ましい。
【0023】
混合によって複数本の銅線31…は、無秩序な方向性を有することになる。この状態で成形型41に投入されてプレス成形されると、銅線31…はバインダ36とともに圧縮され、折り曲がったり湾曲したりして変形する。変形して、銅線31…の様々な部位において他の銅線31…が接触する。このような状態がバインダ36によって固定され、成形体となる。
【0024】
この成形体を脱脂して、その後、焼結する。焼結は、銅線31…同士の接触点で結合が起こる程度の焼結をする。すなわち、完全な焼結をしないように時間を制御する。このような焼結により、銅線31…同士の接触部分に焼結による結節部32…が形成される。この結節部32…は焼結により形成されるので、高密度、高強度、高弾性率を有する。
【0025】
このようにして構成されたヒートシンク11は、いずれの部分においても空孔率が高く、空気の流通性に良不良をもたらすような方向性を有しない。また、空孔12は連続発泡状のものである。このため、表面積が広いことによる放熱性と、内部全体をあらゆる方向に自由に流通する空気が熱を奪うことによる放熱性が良好で、高い放熱性能を得られる。
【0026】
放熱性能が高いので、図示例のような直方体の形状であっても十分な放熱効果が得られる。また、放熱性能が高いことから、小型化も軽量化も図れる。
【0027】
そのうえヒートシンク11は、複数本の銅線31…からなるので、ヒートシンクの熱膨張による歪を吸収することができる。このため、絶縁体22を形成する窒化アルミとの間に大きな熱膨張係数の差があっても、ヒートシンク11と絶縁体22との接合が不測に外れることはなく、特別な措置をせずとも済み、接合が簡単に行える。
【0028】
また、銅線31…同士を結合している結節部32…は、焼結により形成されるので上述のごとく強度が高く、空孔率が高くても十分に形態を保持できる。
【0029】
さらに、プレス成形と焼結によって製造するので量産ができ、コストの低減も図れる。
【0030】
図4は他の例に係るヒートシンク11の例を示す斜視図である。このヒートシンク11は周知の形状である。すなわち、取り付け面11aを有する方形板状の本体部11bの下面に、複数枚のフィン11c…が形成されている。
【0031】
このような形状のヒートシンク11の場合も、上述と同様に、表面積が広いことによる放熱性と、内部全体をあらゆる方向に自由に流通する空気が熱を奪うことによる放熱性が良好で、高い放熱性能を得られる。
【0032】
図5は、上記のヒートシンク11と同様の構成の多孔質成形体51を用いた製品の一例を示す一部破断斜視図である。この製品61は、車両のボディ等に使用される緩衝材61である。すなわちこの緩衝材61は、所望の形状に形成された多孔質成形体51の表面を合成樹脂製の被覆材62で被覆した構造を有する。
【0033】
このような緩衝材61は、銅線ではなく複数本の鉄線33…が三次元立体網状に結合した構造であって、上述のように結節部32…が強度を有し、十分に形態が保持されるので、通常時は一定の形態を有する一方で、強い衝撃を受けたときには、各鉄線33…が変形するとともに、各結節部32…において変形等が生じ、圧縮される。このため、緩衝材61としての機能を果たす。
【0034】
また、図示はしないが、同様の構造に構成して、断熱材として使用することもできる。すなわち、所望の形状に形成された多孔質成形体を布帛、合成樹脂などの適宜の素材からなる被覆材で被覆する。多孔質成形体が内部に多くの空気を含んで、この状態を外側の被覆材が保持するので、高い断熱性を得られる。
【0035】
この発明の構成と、上記の一形態の構成との対応において、
この発明の多孔質体は、上記のヒートシンク11、多孔質成形体51に対応し、
以下同様に、
金属線は、銅線31…、鉄線33…に対応するも、
この発明は上述の構成のみに限定されるものではなく、その他の形態を採用することができる。
【0036】
たとえば、金属線には目的に応じて銅線や鉄線以外の、たとえばアルミニウム線などを用いることもできる。
【0037】
また、ヒートシンクには送風のためのファンを取り付けることもできる。ヒートシンクにおいて空気の流通性の良否に方向性がないので、自由な設計により小型化等も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ヒートシンクの斜視図。
【図2】ヒートシンクの使用状態の側面図。
【図3】ヒートシンクの製造工程の一工程を説明する説明図。
【図4】他の例に係るヒートシンクの斜視図。
【図5】他の例に係る多孔質成形体を用いた製品の一部破断斜視図。
【符号の説明】
【0039】
11…ヒートシンク
12…空孔
31…銅線
32…結節部
33…鉄線
35…混合原料
36…バインダ
51…多孔質成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔を有する多孔質成形体であって、
複数本の金属線が、焼結による結節部で立体的に結合されて金属線間に上記の空孔が形成された
多孔質成形体。
【請求項2】
空孔を有するヒートシンクであって、
複数本の金属線が、焼結による結節部で立体的に結合されて金属線間に上記の空孔が形成された
ヒートシンク。
【請求項3】
複数本の金属線を添加物と混合したのちに成形を行い、成形によって得た成形体を焼結する
多孔質成形体またはヒートシンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−194043(P2009−194043A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31215(P2008−31215)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(591046858)アロイ工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】