説明

多孔質支持体への細胞接種

【課題】細胞などの組織の動物への移植は、細胞の生存率を減少させる血栓症などの重大な合併症を併発する。組織工学が、三次元支持体を提供することによってこの問題を解決する。そこで、多孔質支持体、特に疎水性の多孔質支持体に、高い接種効率で、かつ細胞生存能をほとんどまたは全く喪失せずに、細胞を接種するための、簡易で再現性のある方法の開発が求められている。
【解決手段】本発明は、一般に、支持体に細胞を接種する方法に関する。特に、本方法は、多孔質疎水性支持体に細胞を接種する方法に関する。本方法は、遠心力を用いて、生存能を損失させることなく、支持体への細胞接種を均一に誘導する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、支持体への細胞接種法に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
例えば幹細胞、インビトロ(試験管内)で培養された細胞、または、単離された初代細胞(primary cell)などの組織の動物への移植は、典型的には、レシピエントの血流内か、または、直接に組織内かの、いずれかへの細胞材料の直接導入に関する。しかし、これらの手順は、細胞の生存率を減少させる血栓症などの重大な合併症を併発する。
【0003】
組織工学は、細胞付着の基質として作用する三次元支持体を提供することによってこの問題を解決することができる。適切に設計された支持体に接種された細胞は、インビボ(生体内)の微小環境(microenvironment)を再生し、それによって細胞‐細胞相互作用と分化機能の発現を促進することができることが、これまでに実証されている。この複雑な構造を構築するために、細胞接種プロセスの効率は、組織工学による構成体の総合的性能にとって重要といえる。
【0004】
本発明以前には、支持体上の細胞接種は、細胞のこの支持体への受動拡散に依存した、この支持体上への細胞の単純な沈着を含んだ。これらの手法は、それほど成功しなかった(ヴァカンティ他(Vacanti et al.)、「マトリックスとして生体吸収性人工ポリマーを使用した選択的細胞移植("Selective cell transplantation using bioabsorbable artificial polymers as matrices")」、ジャーナル・オブ・ペディアトリック・サージェリー(J. Pediatr. Surg.)第23巻(1号第2部)(23(1 Pt 2))、p.3〜9、1988年)。細胞接種の効率を高めるために、数件の他の手法が開発されている。例えば、ポリグリコール酸支持体上への軟骨細胞の接種には、スピナーフラスコが使用されている(ブニャク−ノヴァコヴィチ他(Vunjak-Novakovic et al.)、「軟骨組織再生のためのポリマー支持体の動的細胞接種("Dynamic cell seeding of polymer supports for cartilage tissue engineering")」、バイオテクノロジー・プログレス(Biotechnol. Prog.)、第14巻2号(14(2))、p.193〜202、1998年)。この手順は、細胞浮遊液中での針による支持体の浮遊、および、50rpmでの電磁攪拌棒による攪拌を含んだ。このプロセスは、完了までに長時間を要し、数時間から1日に及んだ。
【0005】
別の細胞接種法は、接種される細胞へのストレスを最少にし、接種効率を高める遠心分離の使用である。ある細胞接種法が、ヤングら(Yang et al.)(ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(J. Biomed. Mater. Res.)、第55巻3号(55(3))、p.379〜86、2001年)によって開発され、遠心分離細胞固定法(centrifugational cell immobilization)(CCI)と呼ばれた。肝細胞は、親水性多孔質ポリ(ビニルホルマール)キューブ(hydrophilic porous poly(vinyl formal) cubes)上に接種された。このキューブ、および、肝細胞は、ともに遠沈管内の培地中に浮遊され、遠心分離段階と再浮遊段階を交互に受けた。この手順は、40%の接種効率を生じ、大量の肝細胞(2〜8x107個)を必要とした。ダールら(Dar et al.)(バイオテクノロジー・アンド・バイオエンジニアリング(Biotechnol. Bioeng.)、第80巻3号(80(3))、p.305〜12、2002年)は、遠心分離による細胞接種にさらに制御を強めた手法を用いた。心筋細胞は、親水性アルギン酸塩支持体上に、この支持体を96ウェルプレートのウェルに入れ、そこに細胞浮遊液10μLをピペット注入して接種された。次に、このプレートは、プレートホルダー型ローター上に置かれ、4℃、1000 x gで6分間遠心分離された。アルギン酸塩支持体で、80〜90%の接種効率が報告され、支持体1個当りにさらに高い接種密度が使用されると、効率は60%に減少した。上記の遠心分離法は、ある程度の成果を挙げたが、制約がある。このプロセスの重大な問題は、支持体の多孔度である。遠心力が、支持体を通して細胞浮遊液を圧迫し、細胞材料が、この支持体の細孔内で絡んだ。多孔度が高すぎると、細胞材料は、支持体から遠心分離チャンバーの底部までを全て通過し、接種効率の低下を招く。他方、この問題を調整するために支持体の多孔度を下げると、接種された細胞材料の生存に負の効果を示す可能性がある。酸素および栄養素の拡散を可能にするには、高多孔度が不可欠である。
【0006】
疎水性支持体への細胞接種は、通常、親水性支持体への細胞接種よりも複雑である。細胞は、通常、水を主成分とする培養培地溶液に浮遊される。疎水性支持体は、細胞浮遊液を通さず、細胞がこの支持体に浸潤するのを防ぐ。この障壁を克服するために、駆動力が必要とされる。この駆動力は、その発生源とは無関係に、細胞をこの細胞に有害な応力成分に曝露する。よって、多孔質支持体、特に疎水性の多孔質支持体に、高い接種効率で、かつ細胞生存能をほとんどまたは全く喪失せずに、細胞を接種するための、簡易で再現性のある方法の開発が求められている。
【0007】
〔発明の概要〕
本発明は、支持体へのいずれのタイプの細胞も接種する方法を提供する。本発明のプロセスは、細胞の生存能または機能に影響を与える可能性のあるいずれの力にも接種された細胞を曝露しないように設計されることができる。本方法は、これらの細胞に有害な力を加えず、この支持体への細胞接種を均一に誘導し、高い接種効率を達成し、重大な細胞生存能の喪失を引き起こさないことができる。本発明の方法は、より効率的に汚染の問題を軽減することもできる。支持体への細胞接種を促進する力の使用は、これらの細胞の追加処理を含み、これが、順に、汚染の可能性を高める。
【0008】
本発明は、生体適合性支持体に細胞を接種するためのキットも提供する。
【0009】
〔発明の詳細な説明〕
用語「支持体(support)」は、本明細書で使用される場合、三次元構造体であって、この構造体の表面または内部で細胞を支持することができる三次元構造体を指す。
【0010】
用語「多孔質(porous)」は、本明細書で使用される場合、複数の前記支持体内開口部を指し、この支持体内で相互連結する間隙となる場合、または、そのような間隙とならない場合があり、この支持体内での栄養素および細胞の均一な分布を可能にする。
【0011】
用語「生体適合性(biocompatible)」は、哺乳動物体内に滞留し、それによって、その哺乳動物に有毒または望ましくない作用を誘発しない、前記支持体の能力を指す。
【0012】
「生分解性(biodegradable)」または「吸収性(absorbable)」は、哺乳動物体内の対象部位に用具が送達された後、この用具が自然な生物学的プロセスによって徐々に分解または吸収されることができることを意味する。
【0013】
用語「マトリックス(matrix)」は、本明細書で使用される場合、支持体の固体構成物を含む材料を指す。
【0014】
用語「疎水性支持体(hydrophobic support)」は、本明細書で使用される場合、水と接触すると、容易には吸湿しないポリマーからなる支持体を指す。例えば、10°よりも高い水との接触角を有する支持体、さらに具体的には、45°よりも高い水との接触角を有する支持体が、疎水性であると見なされる。
【0015】
用語「親水性支持体(hydrophilic support)」は、本明細書で使用される場合、水と接触すると、容易に吸湿するポリマーからなる支持体を指す。例えば、45°よりも低い水との接触角を有する支持体、さらに具体的には、10°よりも低い水との接触角を有する支持体が、親水性であると見なされる。
【0016】
本発明の接種法は、どのような細胞型にも応用されることができる。用語「細胞(cells)」は、本明細書で使用される場合、単離細胞、細胞系(インビトロで遺伝子操作された細胞を含む)、初代組織外植体(primary tissue explant)およびその調製物を含めた、生組織のいずれかの調製物を指す。
【0017】
用語「培地(media)」は、本明細書で使用される場合、本発明の支持体の水和に使用される液体を指す。培地は、細胞に無毒であり、この支持体への細胞材料の導入に使用される液体と相溶性を示す。
【0018】
用語「培養培地(culture media)」は、本明細書で使用される場合、本発明の支持体への細胞の導入に使用される液体を指す。この培養培地は、インビトロでの細胞増殖に使用されるものである場合もあるし、または、そのように使用されるものでない場合もある。この培養培地は、細胞に無毒であり、本発明の支持体の水和に使用される液体と相溶性を示す。
【0019】
支持体への細胞接種
本発明のプロセスは、特に、細胞の生存能または機能に影響を与える可能性のあるいずれの力にも接種細胞を曝露しないように、設計されることができる。一般に、支持体は、液体と接触され、この液体は、支持体の内孔に、これらの内孔が完全に、または、ほぼ完全に、液体で満たされるまで、流入する。本発明のある態様では、前記液体は、培地である。この支持体が満たされる程度は、支持体の型、ならびに、この支持体に運搬される細胞の量および型によって異なる。次に、力が加えられ、所望の量の液体を除去し、その後の細胞材料の導入に十分な容積、すなわち空隙を、この支持体に生じる。
【0020】
例えば、次に、前記支持体は、遠心分離チャンバー内のフィルター上に置かれ、遠心分離され、この支持体内に導入されている前記液体の全部ではなく、一部を除去することができる。その後、この支持体は、このフィルターから取り出され、細胞培養プレートに入れられる。次に、細胞を加えられた所定の量の液体が使用され、予想容積、または、遠心分離によって作られた部分的空隙を再度満たす。本発明のある態様では、この液体は、培養培地である。この支持体は、完全に乾燥してはいないため、いくらの細胞も損失させることなく、または、外力にいくらも曝露させることなく、この支持体は、細胞をこの支持体に与え得る液体を容易に受け入れる。
【0021】
遠心分離は、液体を除去するために力を加える一つの方法であるが、他のタイプの力が使用され、同じ効果を得ることができる。例えば、圧縮力の適用または真空の適用が使用され、所望の液体量を除去することもできる点は、容易に想像できる。間隙を相互連結した支持体については、所望の量の液体の除去に、シリンジの使用も可能である。この支持体は、例えば、米国特許出願第20040062753A1号、および、米国特許第4,557,264号に開示されているものであることができる。
【0022】
前記支持体に導入されていた液体の除去に使用される力の量は、所望の量の液体の除去を可能にするように制御することができる。遠心分離機の場合、この遠心分離機の時間と回転速度は、通常の実験を通して変動され、前記の除去を達成することができる。圧縮力または真空が利用される場合、この除去は、やはり、通常の実験を通して得られることができる。ある実施形態では、除去される液体量は、その後にこの支持体に導入される予定の細胞材料の容量に等しいか、または、この容量を超えることが必要である。
【0023】
本発明の方法を用いることによって、多孔質支持体への細胞接種は、高い接種効率で達成され、細胞生存能の大きな損失がない。接種効率は、10%以上、好ましくは20%以上、好ましくは30%以上、好ましくは40%以上、好ましくは50%以上、好ましくは60%以上、好ましくは70%以上、好ましくは80%以上、好ましくは90%以上であれば、高いと見なされる。70%以上の生存能の損失は、重大であると見なされる。好ましくは、この生存能の損失は、10%未満、さらに好ましくは5%未満である。
【0024】
本発明のある態様では、支持体は、培養培地中に、この支持体が液体に完全に浸潤され、細孔内に空隙が残らなくなるまで、静置される。浸された支持体は、次に、濾過チャンバー上に置かれ、この濾過チャンバーは、プレート、容器または用具に収まり、このプレート、容器または用具は、順に、遠心分離チャンバー中のローター上に収まる。その後、遠心力が使用され、支持体中の培養培地の一部を除去し、空隙を作り出し、および/または、この支持体の細孔または間隙内で、この支持体のマトリックスを柔軟に、かつ、可逆的に陥没させる。細胞は、最初に、遠心分離によってこの支持体から排除された培養培地の容量以下の所与の容量の培地中にこの細胞を浮遊させることによってこの支持体内に導入される。次に、この支持体は、この細胞浮遊液と接触する。この実施形態では、この支持体は、無菌状態であることができ、前記手順は、無菌条件下で実施することができる。本発明の支持体は、当業者に周知の方法によって滅菌されることができる。
【0025】
細胞は、力の適用によって前記支持体から除去された容量よりも少ない、または、この容量と等しい容量の液体で戻される必要がある。添加される細胞負荷液(cell loaded liquid)の液体量が除去される液体量よりも多い場合、過剰の細胞負荷液体をうまく導入させることができず、接種効率の低下をきたす可能性がある。この支持体を乾燥させずにこの支持体からこの液体を部分的に除去するには、正確な力の適用が望ましい。別の実施形態では、本明細書に開示される方法がまた使用され、すでに細胞が組み入れられた支持体に細胞を接種する。
【0026】
別の態様では、本発明は、支持体に細胞を接種するためのキットも提供する。このキットは、支持体、培地、および、培地中の細胞を含有する。
【0027】
支持体
本発明の用具用の支持体を形成する適切な材料の選択が、いくつかの要因に依存することを、当業者は理解することになる。適切な材料の選択に関連性のより強い要因は、生体吸収(または生分解性)速度;インビボでの機械的性能;細胞の付着、増殖、遊走、および、分化に関する材料への細胞応答;ならびに、生体適合性、を含む。材料のインビトロおよびインビボでの挙動をある程度決定する他の関連要因は、ポリマー材料の場合、化学組成、成分の空間的分布、分子量、結晶度、および、モノマー含量、を含む。これらの材料の表面特性を最適化し、所望の親水性を達成することもできる。本発明の用具に使用されるポリマーの構築に使用される方法は、米国特許出願第20040062753A1号およびエシコン・インコーポレイテッド(Ethicon, Inc.)に与えられた1985年12月10日発行の米国特許第4,557,264号に開示されている。
【0028】
本発明の支持体は、好ましくは、相互連結細孔または空隙を含み、これが、この支持体への細胞の組み入れ、ならびに、栄養素の運搬、および/または、この支持体内での細胞の増殖を促進する。この相互連結細孔は、好ましくは約50μm〜約1000μm、好ましくは50μm〜400μmの範囲のサイズであり、好ましくは、この支持体の総容積のほぼ70%〜ほぼ95%を構成する。この支持体における細孔のサイズの範囲は、この支持体の調製の間のプロセス段階を変更することによって操作することができる。
【0029】
本発明での使用に適した支持体は、図1に示すような、高度に繊維性の支持体、もしくは、不織支持体、または、図2に示すような、典型的には不織構成物およびフォーム構成物からなる複合支持体であることができる。好ましい実施形態では、本発明の支持体は、この支持体を形成する材料に組み入れられた少なくとも1種類の医薬品を有する。
【0030】
複合支持体によれば、多孔質マトリックスに封入された繊維は、糸(threads)、ヤーン、ネット、レース、フェルト、および、不織マットから選択される形態に構成されることができる。好ましくは、これらの繊維は、不織繊維マットの形態である。既知の湿式加工技術または乾式加工技術が使用され、本発明の複合支持体の繊維性不織マットを調製できる(ラドコ・クルチュマ著(Radko Krcma)、「不織テキスタイル("Non-woven textiles")」、テキスタイル・トレード・プレス(Textile Trade Press)、マンチェスター、英国(Manchester, UK)、1967年)。
【0031】
本発明のある態様では、前記支持体は、バイクリル(vicryl)(登録商標)(エシコン・インコーポレイテッド(Ethicon, Inc.)、ニュージャージー州サマービル(Somerville, NJ)所在)の商品名で販売されているPGA/PLAの90/10コポリマー製の不織支持体である。不織バイクリル(登録商標)系支持体は、多孔度範囲が70〜95%の高度の繊維性である。好ましくは、この不織バイクリル(登録商標)系支持体は、90%の多孔度を有する。
【0032】
代替態様では、本発明の方法において使用される支持体は、パナクリル(panacryl)(登録商標)(エシコン・インコーポレイテッド(Ethicon, Inc.)、ニュージャージー州サマービル(Somerville, NJ)所在)の商品名で販売されているPLA/PGAの95/5コポリマー製の不織支持体である。不織パナクリル(登録商標)系支持体は、多孔度範囲が70〜95%の高度の繊維性である。好ましくは、この不織パナクリル(登録商標)系支持体は、90%の多孔度を有する。
【0033】
本発明の別の態様では、前記支持体は、PDS II(登録商標)(エシコン・インコーポレイテッド(Ethicon, Inc.)、ニュージャージー州サマービル(Somerville, NJ)所在)の商品名で販売されているポリジオキサノンの100%ホモポリマー製の不織支持体である。不織PDS II (登録商標)系支持体は、多孔度範囲が70〜95%の高度の繊維性である。好ましくは、この不織PDS II(登録商標)系支持体は、90%の多孔度を有する。
【0034】
当業者は、不織支持体が様々な比率のPDS II(登録商標)、パナクリル(登録商標)およびバイクリル(登録商標)繊維を混合して調製されることもできることを理解することになる。
【0035】
代替の態様では、本発明は、不織構成物、および、この不織構成物繊維の周囲の多孔質フォーム構成物からなる複合支持体を用いる。好ましいフォーム構成物は、65/35PGA/PCL、60/40PLA/PCL、または、それらのブレンド品から調製される。本発明で使用される複合支持体は、70〜95%の多孔度範囲を有する必要がある。好ましくは、この複合支持体は、90%の多孔度を有する。
【0036】
別法として、前記支持体は、65/35PGA/PCLコポリマー、60/40PLA/PCLコポリマー、または、それらのブレンド品から調製される高度多孔質フォーム支持体である。本発明で使用されるフォーム支持体は、70〜95%の多孔度範囲を有する必要がある。好ましくは、このフォーム支持体は、90%の多孔度を有する。
【0037】
細胞
本発明での投与に有用な細胞は、自己細胞、同種細胞、または、異種細胞を含む。本発明が糖尿病の治療を予定する場合、この細胞は、幹細胞、膵臓前駆/プロジェニター細胞(pancreatic precursor/progenitor cells)、遺伝子操作されたインスリン産生細胞、初代膵島または部分的に増殖したもしくは完全に分化した膵島、または、インスリン産生細胞であることができる。
【0038】
前記治療法は、例えば、肝不全治療用肝細胞、慢性疼痛用クロム親和細胞、血友病用凝固因子を産生する細胞、および、パーキンソン病またはアルツハイマー病などの神経変性疾患に対する神経成長因子を産生する細胞、ならびに、線維芽細胞、筋線維芽細胞、心臓血管細胞、神経細胞および神経前駆細胞を含む、他種の細胞療法に使用されることもできる。
【0039】
各種用途に治療上有効になりうる他の細胞は、プロジェニター細胞、前駆細胞、幹細胞、骨髄細胞、臍帯血細胞、血管芽細胞、内皮細胞、骨芽細胞、平滑筋細胞、腎臓細胞、羊膜細胞および分娩後胎盤細胞を含むが、それらに制約されない。本発明のさらなる実施形態では、前記細胞は、遺伝子操作を受けて、治療用タンパク質を産生するか、または、レシピエントの免疫応答を下方調節することができる。
【0040】
以下の実施例は、本発明の原理および実施を例証するもので、本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0041】
〔実施例1〕
バイクリル(登録商標)不織支持体への細胞接種
厚さほぼ2mmの不織生分解性シートが、バイクリル(登録商標)(90/10 PGA/PLA)繊維から調製された。次に、直径8mmの生検パンチを使って、このシートに穴を開け、支持体とされた。その後、支持体は、エチレンオキサイド滅菌法によって滅菌された。次に、無菌支持体は、無菌50mL(50cc)ファルコン(Falcon)試験管中の無菌DMEMに浸された。これらの支持体が、いったん完全に浸されると、これらの支持体は、50mL三角フラスコ(ファルコンBD(Falcon BD))にはめ込まれたネット穴(net well)中に入れられた。次に、この穴は、滅菌組織培養プレートカバーで覆われた。次に、前記試験管が遠心分離チャンバー(アレグラ6R(Allegra 6R))に移された。
【0042】
数種類の遠心分離速度(300、400、500、600、800、1000、1500RPM)が5分間適用され、最適な遠心分離パラメーターを決定した。速度400〜600RPMで5分間の回転は、前記支持体内の培地のほぼ75%を除去するのに十分な力を提供した。この段階は、この支持体を完全に乾燥させることなく、この支持体内の適切な空間を再度作り出した。この支持体の速度1000RPM以上での5分間の回転は、この支持体が著しく疎水性となり、細胞組み入れができないほどの乾燥をきたす。
【0043】
次に、遠心分離後、支持体は、滅菌6ウェル組織培養プレート(ファルコンBD)の個々のウェルにそれぞれ移された。培地60μL中に100万個の間葉系幹細胞が浮遊され、各支持体にピペット注入された。これらの細胞は、即座にこの支持体を浸透し、遠心分離によって生じた空間を満たした。高容量が使用される場合(ほぼ100μL)、過剰の培地がこの支持体からプレート表面に流出し、かなりの割合の細胞を運び出した。
【0044】
細胞組み入れ後、支持体は、加湿チャンバー内に入れられ、次に、これは、37℃のインキュベーターに3時間静置され、この支持体の繊維への細胞付着を可能にした。その後、支持体は、それぞれ培地10mLを含有する新しいウェルに移された。各ウェルの表面に残った細胞は、次のようにカウントされた。最初に、3mLの培地が各ウェルに添加され、上下に粉砕された後、新たに付着した細胞を収集した。次に、各ウェルからの培地が収集され、1200rpmで5分間遠心分離された。次に、培地が除去され、各細胞ペレットが再浮遊され、血球計を使って、細胞数が測定された。その後、接種細胞総数と各ウェルの表面に残った細胞数に基づいて、接種効率が決定された。5個の支持体の接種効率は、ほぼ95%であった。100μLの容量が使用され、前記細胞ペレットが再浮遊されると、接種効率は60%まで低下した。
【0045】
〔実施例2〕
細胞の生存能および分布の検証
間葉系幹細胞(Cambrex)が、上記の実施例で述べられたように不織バイクリル(登録商標)に接種された。次に、この支持体は、10%FBS含有DMEMに入れられ、37℃、5%CO2下で2日間インキュベートされた。その後、この支持体は、PBSで慎重に洗浄され、過剰の培地が除去され、LIVE/DEAD生存率キット(live-dead viability kit)(モレキュラー・プローブ製品)の溶液中に10分間浸された。その後、共焦点顕微鏡によって三次元画像が得られ、この支持体内で10μmの断面を示した。生細胞は、緑色に見え、死細胞は赤色に見えた(図3)。
【0046】
本明細書で引用された刊行物は、参照することによって全体を本明細書に組み入れられている。以上、本発明の各種態様が、実施例および好ましい実施形態を参照することによって説明されたが、本発明の範囲は、前記の説明によってではなく、特許法の原則にしたがって正しく説明されている以下の特許請求の範囲によって規定されることを、理解されたい。
【0047】
〔実施の態様〕
(1) 複数の細胞を支持体に接種する方法において、
a. 液体を前記支持体に導入する段階と、
b. 前記支持体から前記液体を部分的に除去する段階と、
c. 前記支持体を複数の細胞と接触させる段階と、
を含む、細胞接種法。
(2) 実施態様1に記載の方法において、
前記液体は、培地である、方法。
(3) 実施態様1に記載の方法において、
前記複数の細胞は、浮遊液である、方法。
(4) 実施態様3に記載の方法において、
前記浮遊液は、培地を含有する、方法。
(5) 実施態様1に記載の方法において、
前記支持体は、多孔質である、方法。
(6) 実施態様5に記載の方法において、
前記多孔質の細孔は、約50μm〜約1000μmである、方法。
(7) 実施態様1に記載の方法において、
前記支持体は、疎水性である、方法。
(8) 実施態様1に記載の方法において、
前記液体は、力の適用によって前記支持体から除去される、方法。
(9) 実施態様8に記載の方法において、
前記力は、遠心力である、方法。
(10) 実施態様1に記載の方法において、
除去される前記液体は、所与の容量を有し、
前記複数の細胞は、除去される前記液体の容量よりも少ないか、または、除去される前記液体の容量と等しい、
方法。
(11) 実施態様3に記載の方法において、
除去される前記液体は、所与の容量を有し、
前記複数の細胞は、除去される前記液体の容量よりも少ないか、または、除去される前記液体の容量と等しい、
方法。
(12) 実施態様1に記載の方法において、
前記複数の細胞は、幹細胞、膵臓前駆/プロジェニター細胞、遺伝子操作されたインスリン産生細胞、初代膵島、肝細胞、クロム親和細胞、神経前駆細胞、プロジェニター細胞、前駆細胞、幹細胞、骨髄細胞、臍帯血細胞、血管芽細胞、内皮細胞、骨芽細胞、平滑筋細胞、腎臓細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、心臓血管細胞、神経細胞、神経前駆細胞、羊膜細胞、および、分娩後胎盤細胞、からなる群から選択される、
方法。
(13) 支持体上に複数の細胞を接種するためのキットにおいて、
支持体と、
培地と、
培地中の細胞と、
を含む、キット。
(14) 実施態様13に記載のキットにおいて、
前記支持体は、疎水性である、キット。
(15) 実施態様13に記載のキットにおいて、
前記支持体のマトリックスは、繊維から形成されており、
前記繊維は、
バイクリル(VICRYL)、PDS II、パナクリル(PANACRYL)、または、それらのいずれかのブレンド品からなる群から選択される材料、
を含む、
キット。
(16) 実施態様15に記載のキットにおいて、
前記繊維は、フォーム構成物に組み入れられている、キット。
(17) 実施態様13に記載のキットにおいて、
前記支持体は、多孔質である、キット。
(18) 実施態様17に記載のキットにおいて、
前記多孔質の細孔は、約50μm〜約1000μmである、キット。
(19) 実施態様13に記載のキットにおいて、
前記複数の細胞は、幹細胞、膵臓前駆/プロジェニター細胞、遺伝子操作されたインスリン産生細胞、初代膵島、肝細胞、クロム親和細胞、神経前駆細胞、プロジェニター細胞、前駆細胞、幹細胞、骨髄細胞、臍帯血細胞、血管芽細胞、内皮細胞、骨芽細胞、平滑筋細胞、腎臓細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、心臓血管細胞、神経細胞、神経前駆細胞、羊膜細胞、および、分娩後胎盤細胞、からなる群から選択される、
キット。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の不織支持体の電子顕微鏡写真である。この支持体のマトリックスは、バイクリル(vicryl)(登録商標)製の繊維からなる。
【図2】本発明の複合支持体の電子顕微鏡写真である。この支持体のマトリックスは、バイクリル(vicryl)(登録商標)製の繊維からなる。フォーム構成物が、繊維構成物に組み入れられている。
【図3】不織支持体内に接種された間葉系幹細胞の共焦点顕微鏡像である。細胞は、生体染色色素で染色され、生細胞は緑色に染まり、死細胞は赤色に染まっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細胞を支持体に接種する方法において、
a. 液体を前記支持体に導入する段階と、
b. 前記支持体から前記液体を部分的に除去する段階と、
c. 前記支持体を複数の細胞と接触させる段階と、
を含む、細胞接種法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記液体は、培地である、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記複数の細胞は、浮遊液である、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記浮遊液は、培地を含有する、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記支持体は、多孔質である、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、
前記多孔質の細孔は、約50μm〜約1000μmである、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
前記支持体は、疎水性である、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、
前記液体は、力の適用によって前記支持体から除去される、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、
前記力は、遠心力である、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、
除去される前記液体は、所与の容量を有し、
前記複数の細胞は、除去される前記液体の容量よりも少ないか、または、除去される前記液体の容量と等しい、
方法。
【請求項11】
請求項3に記載の方法において、
除去される前記液体は、所与の容量を有し、
前記複数の細胞は、除去される前記液体の容量よりも少ないか、または、除去される前記液体の容量と等しい、
方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、
前記複数の細胞は、幹細胞、膵臓前駆/プロジェニター細胞、遺伝子操作されたインスリン産生細胞、初代膵島、肝細胞、クロム親和細胞、神経前駆細胞、プロジェニター細胞、前駆細胞、幹細胞、骨髄細胞、臍帯血細胞、血管芽細胞、内皮細胞、骨芽細胞、平滑筋細胞、腎臓細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、心臓血管細胞、神経細胞、神経前駆細胞、羊膜細胞、および、分娩後胎盤細胞、からなる群から選択される、
方法。
【請求項13】
支持体上に複数の細胞を接種するためのキットにおいて、
支持体と、
培地と、
培地中の細胞と、
を含む、キット。
【請求項14】
請求項13に記載のキットにおいて、
前記支持体は、疎水性である、キット。
【請求項15】
請求項13に記載のキットにおいて、
前記支持体のマトリックスは、繊維から形成されており、
前記繊維は、
バイクリル、PDS II、パナクリル、または、それらのいずれかのブレンド品からなる群から選択される材料、
を含む、
キット。
【請求項16】
請求項15に記載のキットにおいて、
前記繊維は、フォーム構成物に組み入れられている、キット。
【請求項17】
請求項13に記載のキットにおいて、
前記支持体は、多孔質である、キット。
【請求項18】
請求項17に記載のキットにおいて、
前記多孔質の細孔は、約50μm〜約1000μmである、キット。
【請求項19】
請求項13に記載のキットにおいて、
前記複数の細胞は、幹細胞、膵臓前駆/プロジェニター細胞、遺伝子操作されたインスリン産生細胞、初代膵島、肝細胞、クロム親和細胞、神経前駆細胞、プロジェニター細胞、前駆細胞、幹細胞、骨髄細胞、臍帯血細胞、血管芽細胞、内皮細胞、骨芽細胞、平滑筋細胞、腎臓細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、心臓血管細胞、神経細胞、神経前駆細胞、羊膜細胞、および、分娩後胎盤細胞、からなる群から選択される、
キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−181459(P2007−181459A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−338897(P2006−338897)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(596159500)ライフスキャン・インコーポレイテッド (100)
【氏名又は名称原語表記】Lifescan,Inc.
【住所又は居所原語表記】1000 Gibraltar Drive,Milpitas,California 95035,United States of America
【Fターム(参考)】